2003年9月分


・本
 『忌まわしい匣』/牧野修(集英社)
 『狼は天使の匂い』/デイヴィッド・グーディス(早川書房)
 『水の時計』/初野晴(角川書店)
 『いぬかみっ!』/有沢まみず(メディアワークス)
 『ファウスト vol.1』(講談社)──01
 『ファウスト vol.1』(講談社)──02
 『林真紅郎と五つの謎』/乾くるみ(光文社)
 『くらのかみ』/小野不由美(講談社)
 『イリーガル・エイリアン』/ロバート・J・ソウヤー(早川書房)
 『哀しみの亡命機』/夏見正隆(徳間書店)
 『School Rumble(2)』/小林尽(講談社)
 『午前三時のルースター』/垣根涼介(文藝春秋)
 『第六大陸2』/小川一水(早川書房)
 『地獄の佳き日』/富樫倫太郎(光文社)
 『目を擦る女』/小林泰三(早川書房)
 『護くんに女神の祝福を!』/岩田洋季(メディアワークス)

・ゲーム
 『グリーングリーン』(Groover)
 『しすたぁエンジェル』(TerraLunar)
 『腐り姫』(Liar-soft)
 『パティシエなにゃんこ』(ぱじゃまソフト)


2003-09-30.

『Ricotte』、一周目終了。

 リコッテを制止する際における手の位置が大十字九郎(参考資料)並みにやばい件について駅員を小一時間ほど問い詰めたいんですが。

 とりあえずエンディングに到達しました。掛かった時間は累計で12時間くらい。感想は一言で書けば「面白かった」に尽きます。単純明快にストーリーを追うのが楽しかった。正直に申すところ、前半の展開はひどくダルくて不安や不満といったマイナス感情もいろいろ覚えましたが、後半で一気にアクセルが踏み込まれたことにより、そんなの、全部吹き飛んでしました。

 大筋で言えばベタ。特にヒネリもなく、それこそ「『ハウス名作劇場』でこんな話見たことないっけ?」と既視感に駆られる筋立てなのですが、雰囲気の盛り上げ方が巧くてズイッと惹き込まれます。舞台がアルペンブルに移るや、前半の退屈ながらも平和な日々とは対照的な急展開を迎え、クリックする手が休まることはなく。「一旦休憩しようか」という気持ちを置き去りするほど面白さが加速していく。前半の「まったり」があってこそ、後半のピリピリした話がより一層白熱するのであって、そういう意味で言えば前半の退屈さは報われました。

 で、いま2周目をプレーしてるところなんですが……「ひょっとしたら」とは思ったものの、本当にやるとは信じていなかった試みが明らかになり、ちょっぴり驚きました。ネタバレっぽいので伏せて書きます。

(はじめ) 冒頭で流れるセピア色の「父親との思い出」、実はここでいくつか選択肢が出てくるのですけど、選び方によって主人公の性格が変化する仕様となっているんです。ちょっとした性格診断みたいな感じです。「Allegro」と「Largo」の2種類があり、Allegroだとポジティヴな性格でリコッテを振り回し、Largoだとネガティヴな性格でリコッテに振り回される。いくらか使い回しのテキストもありますが、どうやら大部分はそれぞれ別内容となっているみたい。当方が最初にやったのはLargoの方なんですが、根暗でうじうじしていて自虐的で周囲に流され易い典型的なヘタレ主人公の造型をしており、話にしてもリコッテと結ばれるまで6時間くらいかかる。正にラルゴな展開。対してAllegroは明るく前向き且つそこそこの自信家であり、リコッテとは会った次の日にもうエッチしている。本当にアレグロ。甲斐性ゼロの情けない男と才能溢れる自立した男、両方同じ「バノン」という名前のキャラなのですが、ここまで来ると別人に近いかも。割と意地悪なところや鈍感なところ、いまひとつ間が抜けているところなどは一緒で、そう劇的には違わないんですが。歩んできた道が若干異なるだけで、冒頭に出てくる少年期のバノンにとってはふたつとも「未来に在るかもしれない自分の姿」には変わりないんです。視点をリコッテの出てくる「現在」に置けば、実質的に主人公がふたりいるような状況になってしまい、不快感や白けた気分を覚えかねない。だけど、始点をあくまで冒頭の「父親との思い出」とし、そこに視点を据えれば「この少年はどのように成長するか」、「未来」をプレーヤーが選べるのだ、と受け取ることが可能となります。

 このへんだいぶ微妙なところですね。積極的なバノンと消極的なバノン、パラレルな存在であるこのふたつを「根は同じもの」として受け容れられるか、「こんなの別人だ」と拒否してしまうかで『Ricotte』が楽しめるかどうか分かれてくると思います。フィクションにおけるキャラクターの拠り所は性格設定であって、境遇や状況が激しく変化しようとも性格さえ変わらなければ基本的に「同じキャラ」として見なされるが、逆に境遇や状況がそのままでも性格が変わってしまうと「別人っぽい」と見られがち。『水月』のファンディスク『みずかべ』のアフターストーリーは、主人公・瀬能透矢を取り巻く環境や人間関係は前作と変わりないものの、記憶を失ってないことから性格の相違が生じて、一部のプレーヤーに対して「しっくりこない」感触を与えてしまった。こんな例があるように、「パラレルで性格設定が異なる主人公」の立場は複雑。

 「リコッテが可愛ければ主人公なんてどうでもいい」という方にはまったくの無問題ですが、主人公に感情移入したい方にとってはかなりデリケートな問題になってくると思います。少年期を始点とした豪快なパラレル性に「どんとこい。骨の髄まで楽しんでやろう」ってな具合に泰然と構えてられるなら、当方は安心してオススメするとします。また、「何も隅から隅まで読むこたぁない」って信条をお持ちなら禁断の片面プレー(片方のルートだけまじめにやって、もう片方はスキップしまくり)なんて手段も。

 とにかく受け手が「2タイプの主人公」という事実をどう消化するか、これが『Ricotte』の評価の明暗を分ける要素となりそうです。当方は頑張って心の内部を整理する手立てを算段中。(おわり)

 いまのところ大枠としては『Ricotte』に肯定的な気持ちです。前半の「抑圧」が多少行き過ぎているとはいえ、後半の「解放」がキチンとしっかり機能しているために、物語を読む快感は充分に味わえる。あと1周目を終えてからだと、キャラに馴染んだ分だけ2周目の日常シーンで退屈を感じないといった思わぬ効果もあります。つまり、最初の数時間に耐えて馴染むことができれば後はずっと心地良いフィーバー状態になってしまう、と。これはさすがに予想外でした。もはや一片だに苦痛を覚えることなく楽しんでいます。

 あー、それとシナリオの分量が長いからか、誤字脱字をチラホラ見かけます。これは御愛敬ということで。濁点の打ち損ない・打ち間違いの多さからしてやっぱかな入力なのかな、千籐タソ。


2003-09-29.

テキストコーナー『パティシエなにゃんこ』の感想文をアップ。日記で書いたことをそのままコピペしただけ。

 パテにゃん──期待以上の「何か」はなかったものの、キチンと余す所なく期待を満たし叶えてくれた一本でした。なんというか、エロゲーやギャルゲーの原点に立ち戻ったようなところがあるような気が。ヒネくれたところがなく、ベタ……というか直球な面白さ。まだギャルゲーを始めて間もない頃の新鮮な楽しい気分がフラッシュバックすること頻り。こういう、昔の感覚を取り戻すような内容のゲームも悪くない。むしろ良い。

『Ricotte』、粛々とプレー中。

 年上の女性ばっかりに囲まれて弟キャラ的位置付けにされていた主人公が、リコッテという擬似妹を得ることで「お兄ちゃん」属性をバリバリに発揮させる展開が実に微笑ましい。嘘の兄妹関係ゆえ、傍目からは極度のシスコンとブラコンに映るあたりも最高。ちっちゃい子がリコッテしかおらず、「もっと ょ ぅ ι゙ ょ を寄越せ!」と獣じみた獰猛さで暴れていた当方のロリスキー精神もだいぶ宥められ、落ち着いてきました。リコッテひとりに焦点を当てるため他の年下キャラを用意しない、という方針ははじめ激しく不安でしたけど、だんだん納得して来れています。

 千籐ファンの割に昨日の日記ではあまり誉めていませんでしたが、今日はプレーの途中で「カチッ」とスイッチが切り換わったように突然面白くなっちゃいました。散発的に仕込まれていたお色気ネタがある日を境に物凄い勢いで炸裂。艶笑ムードが漂う中でリコッテが特大のヤキモチを焼き、修羅場スキーな当方の魂が随喜の涙をじくじくこぼしましたよ。用意周到に罠を張り巡らせ、殺さんばかりの勢いで襲い掛かるリコッテに燃え。「殺すつもりだったのか」という問いに「違うもん」「人をぶったことないから加減なんてわからないんだもん」とほざく憎らしさに萌え。もしこのまま死なせていたら……なんて想像すると当方の胸キュンはやむことなし、です。

 「深夜の凶行! 痴情のもつれか? 殺人犯はアルペンブルの歌姫!!」とトップの見出しに刷るタブロイド紙。裁判に出廷し、「犯行は計画性が高く極めて残忍。また殺意がなかったにしても被害者の生死を考慮しなかった点において未必の故意が感じられる」と有罪を言い渡されるリコッテ。なぜかレクター博士ばりの拘束服を着せられ、地下深くの牢獄に収監される。しかしそのまま朽ち果てさせるのは惜しいからと、楽団長が「君の歌声が必要なんだ」と囁き、コンサートの時だけ強面の警吏たちに引き連れられ地上に出てくる。「アルペンブル監獄の囚姫」「歌う受刑者」として名を馳せる彼女の髪には、贖罪と鎮魂を希う二輪の花飾りが常に挿されている……。

 いえ、そんな当方の歪んだ嗜好はともかくとして、結構面白くなってきましたよ、『Ricotte』。ある夜に結ばれて以降、穏やかでかったるかった生活が恋人同士のイチャつきに変貌する様にゃ頬が弛む一方。ヌルめのバカップル加減がステキです。昨日はあれだけ文句を言っていた立ち絵も、今ではむしろどこが悪いのか分からないくらい慣れてきました。シャウルスもウザすぎず、かと言って存在感が希薄でもなく、主人公を喰ってしまわない程度で目立っており、各キャラとの距離感がちょうどいいくらい。うん、爆発的な「萌え」や「笑い」はないにしても、地味な面白さがゆっくりじんわりと染み込んでくる。序盤のダルさについては誉めにくいけど、総合的には結構いいかもしれない、このソフト。まだクリアしてないから分からないけど、だいぶ下降していた期待がふたたび盛り上がってきた感触を得ました。

GA Graphicで灰村キヨタカの壁紙公開。

 実は密かに好きな絵師。『Hotel ergriffen』で初めて知り衝撃を受けたクチです。「エロゲーでこの絵柄か!」と。以前HPで公開されていた「彼岸。」というCGをノーパソの壁紙に使っていた時期があり、実家に帰った折に父親に見られ「……凄い壁紙だな」と言われた記憶があります。場に流れる空気が不味かった。死と頽廃の色合いが濃い絵も魅力的な一方で、光線の印象的な明るい絵も素晴らしく、当方としてはメロメロ。


2003-09-28.

・「ハイゲート」を「ハードゲイ」と読んでしまった当方の明日はどっちだ。

『Ricotte』

 「設定ファイルが読み込めません」とかいう表示が出てインストールできないエラーが発生。直感的にエクスプローラでdataフォルダ開いてinst.exeを起動させたら何事もなかったようにインストールが開始されました。10分くらいで終了。さっさとプレーの火蓋を切って落とす。

 冒頭は父親との思い出をセピア色で綴る。なんかエロゲーというより「ハウス名作劇場」とかのノリですが、当方はこういうのも好きです、はい。掴みとしてはかなり好感触。「いざや」とばかりに本編への期待が高まりました。

(本編開始……5分経過)

 _| ̄|○

 ああ、すみません、立ち絵に少し目眩みがしました。『うそモテ』のときと違って心構えができてないどころか逆に期待さえしていたゆえ、不意打ち気味に喰らってしまった。ちょっと待ってください……(30秒静止)……はい、落ち着きました。どちらかというと適応力の高いクチなのでもう気になりません。続行するとします。

 んー、まだ途中なんですが、感想としては「非常にまったりした話」といったところです。テキストは終始淡々としていて、激しく「萌え」や「笑い」の路線に突き進んでいくこともなく、「ほどほど」の範囲でのんべんだらりと進行していきます。「あんまり本筋と関係ない日常シーンをダラダラ読まされるのは嫌い」って人には辛いかもしれず。ライターが千籐氏とはいえ、『うそモテ』みたいに鮮烈なネタをかましてくることもなく、ひたすら「お約束」を踏襲する序盤。まったりが好きな当方とはいえ、夜中に高速道路を走り続けているような眠気が湧くこともしばしば。

 コンセプトの大意としては「メインヒロインであるリコッテに萌えるソフト」で間違いないのですが、こう、印象的な言動で手っ取り早く「萌え」を現出させる流行りのタイプではなく、地味な積み重ねで魅力を練成していく旧来の遣り方を通しています。素直だけど意地っ張りなところもある少女とほのぼの暮らしていく──そんな「お約束」という塗料でコーティングされた日常はなんともホッとするような王道的安息をもたらしてくれるけれど、あまりにも「予想通り」ってな展開が繰り返されるせいで徐々に集中力が途切れてくる。欲を言えばもう少し目の覚める要素がほしかったかな。

 とりあえずリコッテはイイ感じ。前述の通り手っ取り早い「萌え」要素はないけれど、意地を張るときの強情な口調、余裕ぶるときの得意げな口調など、声は聞いているうちにじわじわと利いてきます。元気かつヤキモチ焼きの少女はやはりイイ。立ち絵は少し「_| ̄|○」となりましたが、イベントCGは文句なく可愛い。まあ、立ち絵も立ち絵で慣れてきましたけど。角度によってはイベントCGに負けず劣らずといったモノもありますし。

 というか。

 ねこくちハァハァ。

 リコッテ以外ロリっ気のないところや、男衆が微妙に出張ってくるあたりなどもだいぶ馴染めて、「こういうムードも悪くない」と思えるようになってきました。でもストーリーに関してはまだ進展らしい進展がないので分かりません。千籐テイストが炸裂する未来を夢見て明日も続けるとします。


2003-09-27.

・7月に読んだ『ベル・カント』でささやかに歌姫属性が構築された当方としては今日(日記の日付から見れば昨日に当たるけど)はそれなりに期待で胸が膨らむ日でした。つまり『Ricotte』の発売日。ところで「ベル・カント」は「美しい歌声」という意味のイタリア語だそうです。さっき初めて知りました。

・で、『Ricotte』は無事購入。目当てはもちろん千籐氏のシナリオです。別に野々原御大を無視しているわけではありませんが……土日に時間をつくってプレーします。

 ところで漏れ聞いた話ですが、リコッテの本名は「シェヴリッタ」だそうな。

 発音し難!

 とりあえず覚え易いよう、「シェルブリット」と脳内変換してみる。

 

 

「奴こそがシェルブリットのリコッテ! アルペンブルの反逆姫だ!」

「この楽譜か……オッケー、刻んだ!」

「俺はこう思うんです。音楽は速さだと!(中略)1分12秒……また演奏を縮めてしまった」

「衝撃のォ、ファースト・ムーヴメント(第一楽章)!」

「あなたは弾くこと以外は全くの無能ですね」

「アカペラというのも悪かない、悪かないよなァ」

「意地があんだろ、ピアニストには!」

「私弾くから! バノくんの分まで弾くから!」

「足りねェ……もっとォ、もっとだ! もっと拍手をよこせ!」

「いざという時にも音をセーブしようとする。中途半端にアンコールを夢みる。それが不評を招くのだ!」

「何を我慢している……お前は今、弾いていい!」

「なんと聴き応えのないメロディか、このクズが」

「これが! これだけが、俺の自慢の小節(こぶし)だッ!」

「曲を、曲を聴いていたんです。とても激しく、荒々しく、雄々しい曲を。私たちは聴き続けてていたんです。ただ、ひたすらに……」

 

 

 物凄くダメっぽい連想が駆け巡っていきました。

『パティシエなにゃんこ』、ミオをクリア。

 ねこスティックふぃんがーに噎せるほど笑った。たぶんあそこがパテにゃんで一番ダークな箇所だろう。

 で、これにてパテにゃんはコンプ。思ったよりも時間がかかった。1日に1〜2時間くらいで続けて、2週間要りました。累計すればザッと25時間。フルボイスだからというのもあるけれど、これだけかかったのは『デモンベイン』『てのひらを、たいように』以来です。

 ストーリーを追うよりも、日常シーンのまったりムードを味わうのがひたすら楽しかった。いえ、シナリオも悪くはないんですが、太鼓判を押せるほどスゴいわけでもなく。期待しないで読んでいく程度がちょうど良いかと。「萌え」と「和み」、それとちょっぴりの「感動」。過不足ない程度にまとまっています。毎日ちまちまプレーするには最適。傑作や名作ではなくあくまで良作の域を目指し、無駄なく目標を為し遂げた──そんな一本です。パッケージを見て何か「くる」ものを感じ、それでいて過度な期待を寄せることなく興味が持続するってな人にはオススメ。他にもいろいろ言いたいことはありますが、強いて書けば一言で集約できます。

「非攻略だけど、やっぱり茉理が好き」


2003-09-26.

・咄嗟にエスカレーターの上り・下りを判別できなかったのは疲れている証拠だろうか。うっかり逆走してしまいそうになって向かいから来る人と目が合った瞬間の気まずさを数値化すると72マズー。

・テレ東でやっていた『プラトーン』を視聴。見るのは初めてです。当方、なぜか戦争映画は見ていて眠気を誘われるタチであり、『地獄の黙示録』も『シン・レッド・ライン』も途中で寝てしまった経験があります。『フルメタルジャケット』は前半を存分に楽しむことができた代わり、後半は結構ヤバかった。まったく眠気が湧くことなく楽しめたのは『山猫は眠らない』と『プライベートライアン』くらい。で、『プラトーン』に関してはそれほどひどい睡魔にも襲われず、最後まで見通せました。合間合間に小休止を取れたのが良かったみたいです。ようやく「膝を地につけ顔を仰け反らせ両手を天に突き上げる」、例の有名なポーズの使用場面が分かってスッキリ。

パテにゃんはもう少しかかりそう。『Ricotte』は土日あたりに開始するような予感がする。「期待していた作品が面白いかどうか」という博打めいたハラハラ感もひとつの娯楽なので、評判に関する情報は一切シャットダウンして望みます。


2003-09-25.

・「トリビアの泉」をぼんやり眺めていたら「穂波」という名前を発見。男性の名前でしたが。

パテにゃんはあんまり進んでませんが何か? いやホント『Ricotte』までに間に合うかな……。

・暇をしているわけでもないのに書くネタがない。むしろ、大して暇がないからこそネタもないのか。


2003-09-24.

・テレビつけたら「ピンポン」やってた。既に終わりかけだったので話がよくわからず。それにしても窪塚洋介は最近よく目にするような気が……独特のクセがあって面白いような、その分バラエティに欠けるような。

『パティシエなにゃんこ』、みちるクリア。

 大筋はお約束だけど、過程に微妙な意外性を仕込んでくるあたりが楽しかったです、はい。あとは残すところミオひとりのみ。金曜には待望の『Ricotte』『天使のいない12月』が発売されますからちょうどいい具合にコンプできそうです。ちなみに『Ricotte』優先ゆえ、『天使のいない12月』はしばらく様子見するかもしれません。

・休日ではあったものの、あまり本を読む気が湧かず、読了本はなし。当方の読書ライフはかなりムラがあります。


2003-09-23.

・日曜と秋分に挟まれた月曜のやる気は中途半端。

『パティシエなにゃんこ』、みちる狙いで攻略中。

 ぶっちゃけヒロインの中では一番地味というか目立ってないんですが、魅力がないかというとそうでもない。ルックスは良いし冷淡そうに見えて押しに弱い性格も美味しい。冬華ルートでの朝食イベントなど、年上キャラの割に隙間を埋めるような形で可愛らしさを見せ付けてくるあたりが最高。茉理やミオ、冬華みたいな前衛の萌えヒロインではなく、かなでや亜里咲と同じ後衛の和みヒロインで、この両陣営の色分けがあってこそパテにゃんの絶妙なまたーりムードが醸されるのではないかと。

 最初は主人公との仲が悪く、次第に打ち解けてくるのですが、まあその過程の描き込みはちょっと浅いかな。プレーしていていまひとつ実感が湧かないうちに和解してしまい、少し置いてけ堀な気分。けど日常コメディでの遣り取りは楽しいのでキニシナイ。時に貧乏籤を引きつつも、時に美味しいところを掻っ攫っていくあたり、地味そうでいてなかなか強かだ。茉理との酔っ払いイベントは普段の地味さがイイ味付けになって一層盛り上がる。

 それにつけても茉理。あれはいい妹だ。調子良く要領良く気紛れで悪戯好きのくせしてたまに凹んで庇護欲を掻き立てるところなど、もはや妹としての完成形だ。実妹。やはりこれはイイ。ソフ倫規定の関係で義妹としかエチーできないことにより、エロゲーじゃ「実妹は保護されているッ!」とアナウンサーが絶叫するほど霞んだ存在となっていますが、どうあれ義妹と実妹の間には越えられない厚い壁が立ちはだかっている。「真の妹とは辿り着けぬモノ」。茉理と戯れているときにふと意識に浮かぶ「攻略不可」「エチーできない」という事実。それが当方を滾らせる。売り切れと聞くと途端に欲しくなる新作エロゲー、借りられている方がエロそうに見えるAVなど、気持ち的には「不可能に挑戦したくなる」という野心と同列の「ないと知ると欲しくなる」心理が欲望に火をつけるのです。茉理は言わば猛烈な山火事であり、当方の燃え上がる欲望を消火する手段は皆無。消火できない──攻略できないからこそ、萌え心が燃えっ放しとなる寸法であります。ええ、ですから「非攻略」は決して悪いことではありません。非攻略ゆえのもどかしい熱情と劣情は収める術がないだけに却って楽しい。永遠に遠足前夜が味わえるようなものです。

・小林泰三の『目を擦る女』読了。

 オリジナル短編集。7編を収録。表題作は玄関まで出てきて応対しながら「自分は眠っている」と言い張る女の奇妙な物語。他に「超限探偵Σ」や「脳喰い」など、タイトルを見ただけで雰囲気が掴めてしまう話もあります。

 しかし、圧巻なのは「空からの風が止む時」以降の4編。

 上空から無尽蔵に風が吹いてくる世界に重力衰退の危機が襲い来る「空からの風が止む時」は独特の設定が面白く、非常にイメージを刺激された。昨日の日記に書いた通りSFは苦手な当方なのでよく知らないんですが、解説によるとこれは「正統派ハードSF」とのことです。今までは「ハードSF」とか言われるといかにも難しそうな印象が湧いてきて及び腰になってましたが、こういうのがハードSFというなら他のも読んでみたいかも……と思いました。

 続く「刻印」はエーリアンとのファースト・コンタクトもの。とにかくこれはインパクトで勝負の一編ですから、あまり詳しい説明はできません。オチの持っていき方など、とにかくスゴイ。あとの「未公開実験」と「予め決定されている明日」も、説明は省略しますがイマジネーションの素晴らしさを堪能するには充分な出来です。少しずつSFが好きになってきた気がします。

・岩田洋季の『護くんに女神の祝福を!』も読了。

 一種の魔法学園モノ。ビアトリスという謎の微粒子を使って奇跡を起こしまくる。で、主人公は割と平凡な少年なんだけど、世界でもトップレベルのビアトリス使いで容姿端麗かつ大金持ちの令嬢で酷薄な破壊魔でもある上級生の女子に一方的に惚れられるわけです。ラブコメとしてはかなり直球。中高生時代に抱いていた妄想をそのまま引き写されたような内容にヒくかノメるかで面白さがまったく変わってきます。「理由もクソもなく気の強い少女にベタ惚れされる」シチュエーションに身体のどこかが反応する人ならきっと楽しめるはず。当方はニヤニヤと頬を緩めっ放しでした。


2003-09-22.

・雨なのでほとんど外出しなかった焼津です、こんばんは。天気の悪い日はめっきり篭もりたくなります。

『パティシエなにゃんこ』、かなでシナリオをクリア。

 ロード・オブ・ジ・幼馴染みといった観のある王道的なシナリオでした。一部のシリアス展開に納得の行かないものを感じるものの、ほのぼのした日常は楽しい。時間をかけて地味に魅力が染み渡ってくるキャラですな。狙い澄ましたかのようなボケっぷりと、時折見せる「猖獗」としか言いようのない暴れ具合が割とスゴイ。あそこまで本気な目をして「学校に火をつければ……!」と叫ぶヒロインは初めて見た。

 クリアしたけれどCGは1枚抜けています。取りこぼしかな? でもこのゲーム、かなり選択肢が少ないから拾い損ねるイベントがあったとは思えないが……他のルートで拾えるのかもしれないし、とりあえずは先を進めよう。

・富樫倫太郎の『地獄の佳き日』読了。

 著者のデビュー作『修羅の跫』を全面改稿して改題。でもあとがきによると『地獄の佳き日』が元々のタイトルで、『修羅の跫』は出版社が勝手に付けたものらしいです。口ぶりからして愛着はないみたい。

 ジャンルは時代伝奇小説。今から900年前の平安京を舞台に、邪悪な阿修羅の遣いである金毛九尾の狐「玉藻の前」を巡って法皇、上皇、陰陽師、武士、僧兵、盗賊など、様々な立場の人物が入り乱れる。かなり手を入れたことで構成・文章ともにだいぶ変わったとのことですが、改行が多くてテンポが良く、読み易かったことは確か。700ページくらいありますが、夢枕獏並みのスピード感であっという間に読めてしまいます。

 物語は数多くのいろんな視点で紡がれていき、やがてひとつのクライマックスへと辿り着く……と典型的なスペクタクル劇で、終始淡々とあっさりテイストが続くせいか若干ラストのインパクトが弱いものの、ストーリーの吸引力はなかなかで長さを感じることなく最後まで読み通すことができた。この話がかの大長編“陰陽寮”シリーズや『雄呂血』へと繋がっていくようなので、そちらを読むのも楽しみにしている。


2003-09-21.

・地震にビビった焼津です、こんばんは。揺れはあまり強くなかったものの、結構長く続いたため心中穏やかではなかった。

『Ricotte』とっくにマスターアップしている

 正直、『アリステイル』から間がないのと、いまいち広報が奮っていないのから、7割方は延期じゃないかと不安でした。残り3割の希望が叶えられたようです。ありがたい。

『パティシエなにゃんこ』、かなでを攻略中。

 マップ選択形式で個別イベントの量が多いだけに、二周目以降も結構時間がかかります。一周するだけなら割とお手軽だけど、コンプするとなるとなかなか時間を食う。ボイスリピートがない、マップ表示時にセーブできない、スキップが遅いなど、システム面での不満はいくらかあるけれど話そのものはべりぃぐっど。もろに「お約束」のノリだが失点を抑えて地味に得点を稼いでくる。初見は地味に映ったかなでも徐々に魅力を感じてきた。やはり幼馴染みは良い。やはり記憶の遡行にはこう、「現在を生きる」という流れとは違った楽しさがある。「思い出は逃げ込むための場所じゃない」とはいえ、幼き日の記憶にはどこかサンクチュアリみたいな心地良く秘密めいたムードがある。物語の好きな人間にノスタルジィが嫌いな人はいないんじゃなかろうか。

・小川一水の『第六大陸2』読了。

 「竜だ」泰が満ち足りた口調でつぶやく。「飛べ。速く、高く」白く長い推進煙を曳いたイブロケットが、素晴らしい勢いで大気圏を駆け昇ってくる。

 「民間企業が月へ行き、あるものを建設する」、その一部始終を綴った全2冊のSF長編。上は口絵の下に引用された文章です。読み終わった後、あるいは読んでいる途中に口絵とこの文章を何度か見返したくなり、ページを繰る手を止めては見開きのカラーページに戻ったものです。

 月を舞台にしたSFは既にたくさんありますし、概要を聞いただけでは「今更かよ」と思うだけで斬新さに欠けるきらいはあります。当方自身、6月に出た1巻はタイトルとあらすじの地味さから一旦手に取った本を元の平台に置き直しかけました。購入を決意したのはほんの気紛れです。小川一水の作品はまだ読んだことがなかったので、これを機会に手をつけてみるのもイイんじゃないか、と軽い気持ちで購入しました。

 前巻を読んだのは2ヶ月前。7月15日付の日記にチラッと感想を書いています。「素直に次巻を期待」と書いた通り、普通にワクワクしながらこの2巻を読み始め……最初の数ページ読んだだけで惹き込まれてましたね。2冊合わせると700ページ近くありますが、両巻ともまるで退屈さを感じさせないリーダビリティで、どんどんと読めてしまいました。ページをめくりながら「続きを知りたい」って念が自然に湧き上がってきて、心地良い読書を楽しむことができた。

 地の文が脳内で田口トモロヲのナレーションとして再生されてしまうほど濃厚に「プロジェクトX」的なテイストを有しており、「月へ行き、施設を建設する」技術的な過程については当方、科学素養の乏しさから雰囲気でなんとなく分かった気分になるのが精一杯でしたが、この「なんとなく分かった気分」が微妙にくすぐったい感じで乙です。また、人間模様もひとつの軸として展開されるため、SF興味以外の部分でも楽しめる仕様となっている。

 当方みたいにSFへ苦手意識を抱いている人って結構多い気がします。化学も物理もちんぷんかんぷんで、なぜそれがそうならそうなるのか、さっぱり飲み込めず、「どこが分からないんだい?」と訊かれても「全部です」「むしろどこが分かるのか訊きたいくらいです」と返答したくなった苦い経験が地盤にあって、知識が足らず理解が追いつかない理論を展開されることに苦痛を覚えてしまう……そんなところから、ついSFを敬遠したくなる。SF界自体、閉鎖的な印象があって、ノコノコ入って行けば袋叩きに遭いかねない(大袈裟な言い方ですが)といった怯えもあります。たとえ「SF敬遠は卑屈すぎます 自分に自信がない証拠 SOWは怖くなーい」と諭されても抵抗感は拭えないです。学生時代に「SFはあまり読んでないけど、『火星人ゴーホーム』は好き」と言って「えー」という顔をされたこともちっこいトラウマになってます。

 しかし、秋山瑞人や飛浩隆など、いざ読み出してみれば当方の苦手意識などモノともしないエネルギッシュな面白味に満ちた作品を書く作家もいて、最近は少しずつですけれどSFへの興味が伸長しつつあります。この『第六大陸』も、SFだなんだといったことを意識しなくても充分楽しめる内容になっていますし、「SFはあんまり興味が湧かない」という人にもオススメしたい。シンプルなタイトルや目次の構成はやや取っ付き難さを与えますが、肩の力を抜いて楽に読んでいけば問題なし。「プロジェクトX」のテンションが好きな人ならハマることは請け合いです。

・あ、そういえばデモベのVFBが出たらしいです。例の野郎四人組ポスターに後ろ髪引かれる思いですが、VFBにはあまり興味ないのでスルー。絵とかじっくり見る趣味が皆無なんですよ、当方。気紛れに画集とか手をつけてもパラパラやってるうちに飽きが来てしまうのです。あくまで主食はテキスト。


2003-09-20.

・「しゃらくさい」と「写楽斎」は何か関係があるのだろうか。気になっても調べようとは思わない怠惰な焼津です、こんばんは。

・第10回電撃ゲーム小説大賞、受賞作が決定。

 速報のメルマガが来てました。

 大賞:『塩の街』有川 浩
 金賞:『我が家のお稲荷さま。』柴村 仁
 銀賞:『先輩とぼく』沖田 雅
 選考委員奨励賞:『逃がし屋〜愚者達の結界〜』水瀬葉月
 選考委員奨励賞:『おじいちゃんの宝箱』雨宮 諒

 以上。『アンデッドボーイの憂鬱』吉原雄孝だけ漏れましたね。まぁ、これまでの経緯(第6回から第9回まで、最終候補まで行って受賞を逃した作家はみんなデビューしている)から言ってもたぶん刊行されるんでしょうけど。にしても、3年連続で大賞が出るというのは初めてですな。

 ただ、率直に申せばどれもいまひとつパッとしない題名だなぁ、と。こう、目を引くような華がないと言いますか。『我が家のお稲荷さま。』は刊行までもう半年はかかるというのに専用スレが立っているという有り様ですが、話の材料がない分、ネタスレ状態。実は当方、「変態仮面」を読んだことがないのでスレの流れがあんまり分からない。代わりにずっと以前、「谷仮面」と混同して友人と食い違った会話を交わした記憶が甦ってきます。

『パティシエなにゃんこ』、冬華エンド&亜里咲エンド確認。

 ほのぼのコメディが基調で、多少のシリアス展開はあれど最初から最後まで徹頭徹尾雰囲気の良いゲームでした。「主人公が夜は猫になってしまう」という設定が、無駄ってほどじゃないけど、そんなに重要な使われ方をしていなくて「なぜパティシエとにゃんこを融合させたのだろう?」と首を傾げてしまうが、とりあえずこの疑問は自称「猫魔法使い」ミオのシナリオをクリアするまで保留しておく。

 それで冬華。ライバル店の支配人令嬢で典型的なお嬢様キャラ。ツインテールでツッコミ重視型だが、割と押しが弱くて付け込まれるときはひたすら付け込まれるタイプ。猫化した主人公を抱き上げて歌うシーンの一枚絵が好きです。主人公の幼馴染み・かなでと口論するイベントはだいぶ笑えた。見た目は修羅場っぽいのに言い合っている内容がアレではな……。

 ストーリーは王道的でお約束の展開。「父親との和解」を以って目的達成とするため、特にアクロバティックな要素はなく。手堅くまとまっている。地味と言えば地味だが。

 亜里咲エンドは冬華シナリオの途中から派生する。クリスマスの前に終わってしまう、Hなし(妄想シーンはあり)と、扱いは限りなくオマケに近い。それなりに量はあるけど、やっぱり中途半端。ただ、「はじめてつくったケーキ」の真相については予想通りでちょっと笑った。

 地味だからこそ引き立つ、根っからのサブヒロインってな感じですからこの扱いに不満はないです。……まぁ、本音を漏らせばHくらいは欲しかった、と。

 それにしてもパテにゃんやってると甘い物が食べたくなる……普段はデザート買わないけど、思わず購入してしまったり。クリーム(゚Д゚)ウマー。スポンジ(゚д゚)マズー。


2003-09-19.

・「キス・オブ・ザ・ドラゴン」視聴。

 ビデオで一回見てますが、やはりジェット・リーのカンフーアクションは見逃し難く。再度堪能させていただきました。パリの警察に乗り込んでフランス国旗振り回したり、道場で乱取りを繰り広げたりと、実にやりたい放題で当方も満悦。空中戦がないのはちょっと残念ですけど、ラストのパツキン兄弟との対戦は見た目にも派手で楽しかった。

 そして黒幕のリチャードも最高。部下殺しまくり。クソ刑事もここまで来ると魅力的ですね。最終ボスのくせしてあっさり敗北し、悲惨な死を遂げるのも良い。当方、「ケチな悪役はセコい死に方してナンボ」と思っておりますので、あのショボい死に様はgood。胸がスッとするってのもありますけど、やっぱ悪党はダメっぽく死んでこそ魅力が増すというものです。

犬江氏がまきいづみに沈みました。(9/16付の日記)

 ……グッ(ホアキン並みのうすら笑顔でサムズアップ)。

 部外者ながら、あたかも仕掛けた罠に獲物が掛かったマタギのような達成感を覚えている当方。マタギといえば大藪春彦作品の主人公は少年期に熊を撃ち殺す連中ばっかりだった気がしますが、それはともかく順当に神凪文ジャネット(両方ともCV.まきいづみ)に心を盗まれたようで。

 氏のプレー方法と言いますか攻略順法則は当方とも似ています。割とスタンダードな型なのかもしれません。実生活の食事でも「一番食べ易いもの→重要度の低いものから順に→最後に一番好きなものを取っておく」といった方式です。ただ当方の場合は意志決定までが遅い場合も多く、八方美人と化して初回は共通バッドエンド、というパターンもよくあります。BEスキーの当方とはいえ、いきなりバッドってのは凹みますから、極力キャラが出揃った時点で「誰に突っ込むか」を決めるようには努力しています。でも気になるジュースが2本あったら自販機のボタンを同時押しでもしない限りなかなか決められない優柔不断な当方ゆえ結構無駄な努力だったり。

・垣根涼介の『午前三時のルースター』読了。

 第17回サントリーミステリー大賞の大賞・読者賞ダブル受賞作。そこそこ評判はいいし、少なくともつまらなくはないだろう、と軽い気持ちで読み始めましたが……ハマった。サンミスではあまりアタリを引いたことがなかったから、正直ちょっと侮る気持ちもあったみたいで、ストレートに「面白い」と思える出来に面食らってしまいました。

 少年の父親は3年前、サイゴンで消えた──入学祝いとしてベトナムへ行きたい旨を祖父に伝えた中西慎一郎。宝石商である祖父は悩んだ末、旅行代理店に勤める長瀬に付きっ切りのツアー・ガイドを依頼した。仕事でベトナムに赴き失踪した慎一郎の父は既に死んだものとされていたが、16歳の少年は「父が生きている」と確信するに足る根拠を握っていた。かくして父親探しのため、サイゴンまで飛んだ一行は、現地の調査で怪しげな集団に付きまとわれ、やがて穏やかならぬ状況に陥る……。

 簡潔明瞭。一言で印象を述べるとしたらこれに尽きる。くだくだしいところがなく、始めから終わりまで一気に読める。「リーダビリティが良い」とは当方がよく使う言葉であるが、「文章が読み易く、テンポも良い」といった意味と「先が気になってどんどん読んでしまう」といった意味のふたつあって、テキトーに混ぜながら使用しているが、本書に関しては前者での意味合いが強い。

 まずプロローグ。当方はここを読んだ時点で既にハマっていた。書き出しというのは読者が興味を感じて本を買ってくれるか、はたまた興味を失って元の位置に戻されるかといった命運を司る部分であり、作家が「おいらの力の見せ所よ」とばかり腕によりをかけて努力する箇所なのだが、既にほとんど類型化されているため、いきなり殺人シーンから始まろうが謎めいた会合が開かれようが幼少時のセピア色な思い出が垂れ流されようが、「ありがちだな」で切って捨てられる。パラパラ読んだだけで「よし、レジに行こう」と決心させられる冒頭なんてのはなかなかない。だるい情景描写や変に思わせぶりな文章が勝手に進行し、物語が開幕してもエンジンが温まるまで30ページや50ページ、ときには100ページも要する事態だって少なくない。冷え切ったまま閉幕することさえあるのだから、温まるだけでも御の字というものだ。

 本書のプロローグは文庫で3ページ。普通か、ちょっと短いくらい。それでも当方的には意外な切り口で書き出されていて、「おっ?」と姿勢を直さずにはいられなかった。最初の僅か二文。それに対して物凄い勢いで注意が惹き付けられた。どうってことない、と言われれば確かにどうってことない。本筋とも深い繋がりがあるでもなく、うっかりこれを読み飛ばしたところで支障を来しもしない。けれど、手前のエピグラムとこの3ページだけでも本筋に匹敵するだけの存在感を放っている。良いプロローグは読者の気持ちを作者の望むようにコントロールする。完全に当方は作者の制御下に置かれて本筋に入った。

 話の内容はチラッとあらすじに書いた通り、少年の父親探しである。主人公は広告代理店勤務の長瀬で、「おれ」という一人称。主人公が少年を気に入り、父親探しを全面的に協力するわけだが、主人公そのものに冒険の必然性はない。何かトラウマを抱えているでもなく、因縁浅からぬ宿敵がいるでもなく、ただ旅慣れたサラリーマンというだけの立場。それなりに活躍するが、限りなく傍観者。タフで優しく、感情はあまり表に出さない。ハードボイルドに近いテイストで綴られており、心地良く「情」がセーブされた視点で物語を楽しむことができる。

 キャラクターは誰もが魅力的だ。個性が立っているという点でもそうだが、個性だけで言っているのではない。当方が特に感銘したのは関係のつくり方。キャラの魅力は個性そのものじゃなくて、他のキャラ、そして世界との関係の中からこそ生まれてくるものだ、ってのが当方の感覚です。たとえばそれぞれ別個に魅力的なキャラクターがいたとしても、このふたりが出会い、関係を構築するに際して下手を打ってしまえば、両者の魅力は諸共崩れ去ってしまう。具体的な例を挙げればクロスオーバーもの。別作品、別シリーズに出てくるキャラたちが出会って関係し合うまでを巧く書けないと、あっさり両素材の味を殺してしまいかねない。しっくりくる「絡み」があってこそ、キャラの魅力は相乗される。ギャルゲーで主人公とヒロインが仲良くなって最終的にくっつくのは予定調和というより大前提で当り前の事項ですけど、「仲良くなる」発端や過程がマズいと「くっつく」結果に至っても感動や嬉しさは覚えない。ヒロインの魅力は主人公や他のキャラたちと関わっていく中で蓄積されていき、物語の転換で一気にターボをかけて加速し、終結に至って解放される……というふうに段階を踏んで「感動や嬉しさ」がドバッと湧いてくる寸法です。ドバッと。

 そういう意味で言えば本書は各キャラの関係構築が実に良い。出会って仲良くするまでの流れは簡単だが、スルリと受け容れられる。自然に関係し合っていくおかげで、まったりと全員に愛着を感じることがます。イージーというよりはシンプルといった印象。ストーリーの起伏はさして豊かではなく、父親探しから派生する面倒事が比較的小さなスケールに抑えられたまま進んでいくので、エンターテインメントとして見ればいささか地味に映る。特に、サスペンスフルな展開を期待していたなら肩透かしを喰うこと請け合い。しかし、ラストの「対面」を通じて到達する結末は納得の行くものだし、読後感もイイ。タイトルの意味が最後の最後で明かされるのもキレイだ。

 予想外なほど肌に合って、期待以上に楽しめた。必要なものが必要なだけ揃った爽やかな良作。無駄は極力排されており、やはり行き着く感想は「簡潔明瞭」の四字です。ただ、雰囲気に馴染めないと「イージーで盛り上がりの薄い展開」となってしまう可能性も否めない。そこを推してもオススメするに充分な作品だと思います。と言うわけでイチオシ。妙なくらい気に入ってます。


2003-09-18.

・甘辛いものが苦手な焼津です、こんばんは。どうしてタレとかソースにはああも明瞭な甘みが混ざっているのやら。

『School Rumble』2巻購入、即読了。

 ショート・コメディ集。クロマティ学園と違ってネタよりもキャラを重視したタイプです。前巻は発売日に1冊しか置いてなかった近所の書店、今日寄ったら新刊の中で一番高く積まれていたのでビックリ。「お前に何が起こった」。

 画力やネタだけ取り出してみればさしてレベルが高いとも言えず、人によって表紙買いの正否が分かれるところですが、テーマ性だの作品のカラーだのといったことにこだわらず、「肩肘張らないまったりムード」にくつろぎを覚えられる人なら割と大丈夫そうな内容です。脇キャラが結構出張ってきますので、好きになったら作品世界ごとハマるという性格の読者なら二度美味しい。繰り返し読むことで、初回は目に入らなかった脇キャラが「あ、こんなところに」って具合に配置されていることを気づいたり。

 当方、地味に好きです。

・夏見正隆の『哀しみの亡命機』読了。

 “僕はイーグル”シリーズの最新刊。4冊目ですね。今までは新書で400ページ超えるのが当り前なくらいぶ厚いシリーズでしたけど、今回はそれほどでもありません。航空自衛隊に所属するイーグルのパイロットを主人公にした航空ロマン小説。かなり極端な形で日本政府を戯画化していますが、批判としての書かれているというよりも、主人公たちにとっての障害要素として描かれている部分が大きく、とにかく自衛隊が何かしようとするたび手厳しい制限が施され、雁字搦めになって動けなくなるという展開が執拗なほど繰り返される。鬼頭莫宏のさっぱりした絵柄とは対照的などろどろのストーリーに、毎回ひどくストレスが溜まる仕様となっています。

 苛々するけど面白い……面白いけど苛々する。「抑圧と解放」の図式における「抑圧」ばかりが濃密に描き込まれており、ストレスの耐性がハリウッド映画級しかなければ途中で本を壁に叩きつけかねない。兵装した国籍不明機(アンノン)が旅客機を狙っている状況でも撃墜命令が出ず、主人公はアンノンをロック・オンしたまま為す術もなく待機せざるを得なかったりだとか、勧善懲悪の痛快活劇を期待する人には楽しめないシチュエーションのオンパレード。当方もそれほど我慢強い人間ではありませんが、このシリーズはストレスが溜まる内容に反し、リーダビリティはすこぶる高くて一度読み出したら先が気になってなかなか中断できないって面もあり、苛々すると分かっていながら読まずにはいられません。

 鬱耐性がゼロどころかマイナス割ってるなんて人にゃ間違っても薦められません。面白ければ鬱だってなんだってOKってな読書欲旺盛の方にのみオススメ。キャラクターにも一部ディフォルメが利いているため、「人間が書けている」といった類のリアリティを求める向きには合わないけれど、細かい航空描写が醸し出す空中戦の迫力は『戦闘妖精・雪風』にも劣らない。押井守監督お墨付きというだけに、アニメ映画化する日も遠くない……かどうかは知りませんが。


2003-09-17.

・「無臭」と断った製品に限って匂いが気になる焼津です、こんばんは。

・今日は割と書くことがありません。パテにゃんはほとんど進んでいないし、最近読んだ本も特にこれといってオススメはなく。強いて挙げるならば牧野修の『黒娘』。ロリータ服を着込んだ小柄な縦巻きロール少女が立ち小便するところから始まるちょっと素敵なスプラッタ連作で、スレッジハンマーの代わりに折り畳み式の戦斧を振り回します。『忌まわしい匣』に続いてこれを読み、なんとなく牧野修という作家の特徴が分かってきた気がしたりしなかったり。挿絵が古屋兎丸なんてチョイスからも分かる通り、普通に「萌え」や「燃え」を期待するとアレですけど、「変な感じ」を味わうための1冊としてはそれなりにグッド。

・それにしても『Ricotte』はホントに下旬に発売されるんだろうかなぁ。出なかったらアリステイルを見送った当方の立場が微妙にありません。


2003-09-16.

・「二丁拳銃」と変換しようとして「二兆拳銃」と誤変換。あまりのスケールに脱帽しました。世界中の拳銃を掻き集めても不可能っぽいです。

・久しぶりに書店のマンガコーナーへ寄ってビックリ。金田一蓮十郎の新刊が3冊も出ている。『ハレグゥ』の1巻が出たことは知ってたが、『アストロベリー』『チキンパーティー』の1巻まで出ていたなんて……というか後者の方は初めて見るタイトルなんですが。マンガ方面に関する情報は疎いものですから、それなりに好きなマンガ家のことでも押さえるべきネタを漏らしまくり。

 それにしても最近ますます新刊の情報をチェックするのがキツくなってきました。ひとりの作家でも「○冊同時刊行」とか「○ヶ月連続刊行」とかいった企画めいた発刊ぶりを見せ、ちょっと目を離している隙に3冊ぐらい新刊が積まれていることはザラです。今年は『カオス レギオン 聖戦魔軍篇』で当方がファンになった冲方丁は半年間に新刊を8冊、ちょっと注目している新人・谷川流はデビューした6月から10月まで平均月1冊ペース、半年間沈黙していた新人・成田良悟は8月から10月まで連続で3冊、新シリーズを開始した川上稔は半年間で4冊──厚さから言えば通常の6、7冊に匹敵するであろう分量──と、ライトノベルにおいてはその向きが特に目立っています。

 分けても新人勢。今年は電撃、富士見の両レーベルともやぶれかぶれとしか言いようがないほど新人を投入していて、電撃:13人(谷川流はスニーカーの方で賞を取っているので外す)、富士見:10人と、合計すればサッカーの試合すら開ける人数が世に出ています。その内、「だいたい3、4ヶ月に1冊」のペースを守っていて年内に3冊目を「刊行している」or「予定している」のが8人。上半期にデビューした16人中、一発屋状態でいるのは4人だけ。とにかく新人の名前を何度も目にする状況です。去年は確か両レーベル合わせて17人くらい出たはずで、更に他のレーベルも数に含めると、この2年間でデビューしたライトノベル作家は少年向けレーベルだけで50人を超えてしまいます。さすがに把握し切れない。積読、それ以上にスルーが増え、青田買いが趣味だった当方も他人の報告など、口コミに頼る部分が大きくなってきました。

 でも実のところ、口コミで人気のある作家や作品にだけ注意を払っていれば良い、とは思っていない。何せ、当方が今年デビューした新人の中で一番気に入っている作家は坂入慎一なんです。評判はまちまちで、特に2chあたりだとあまり良くない。ですけど、読んでて一番肌に合うと言いますか、単純に「読むこと」がゾクゾクするほど面白かったのは数ある中で『シャープ・エッジ』が最たるものだった。去年にうえお久光の『悪魔のミカタ』や西尾維新の『クビシメロマンチスト』を読んだときに覚えた「自分の好みにピッタリとフィットする」感覚と同じ、静かな愉悦と興奮が味わえた。説明不足なところまで「ちょうどいい」と思ってしまっている、正に「あばたもえくぼ」状態ゆえ冷静な形で推薦するのは難しいんですが、とりあえずニトロファンの方にはオススメしたいですね。ストーリーやテーマとかいった部分はかなりオマケに近く、余計なものが削ぎ落とされて醸されるシンプルな「対決」の雰囲気が心地良い。

 次点は貴子潤一郎の『12月のベロニカ』。物語をちょうど1冊に収め切る、絶妙のバランス感覚。少し構成に粗い印象も受けたが、完成度はかなり高い。あと、ファミ通文庫の坂本和也も。割と知名度の低い新人。なんか『ダ・ヴィンチ』に出たことがあるみたいですが。デビュー作の『リアルライフ』は変な話で、技術的には決してレベルが高いとは言えないから、好みに合わないと物凄くつまらない。ただこの奇妙な脱力感がツボに入るとひたすら面白い。日常も非日常も同じくらい淡々としている世界で、「闘うために闘う」ストーリー。思考よりも感覚で楽しむタイプです。それにしてもこの2人、受賞第一作が出るのはいつなんだか……そもそも出るって決まってるのかな?

『パティシエなにゃんこ』

 男キャラの激しくやる気ない立ち絵に滅入りつつプレー中。ちょっと重めのシリアス展開もあって、終始またーりするゲームではないと判明しましたが、主人公の態度が毅然としている点が好印象。鬱にならずプレーする意欲がちゃんと湧いてくる。よくあるヘタレ主人公は問題が持ち上がったとき、ただ押し黙って悲観し流されるままか、直情的に動こうとして周りから諭されるかの二つに一つの態度を取りますけど、このパテにゃんの主人公はキチンと受け答えしつつ、むしろ周りの行動を抑制するくらいの態度を見せるので変に苛々が溜まったりしない。直情的な部分がないでもないが、それでも好ましい部類に属する主人公だと思います。

 成長物語は成長の余地がなければ成立しない分、主人公が初期条件では厨とかDQNとかいった性格で、そこから徐々に良くなっていく……といったこともありますが、ことエロゲーに関しては『君が望む永遠』の孝之みたいにいつまでも同じ過ちを繰り返す「成長しない物語」も案外多く、ヘタレな主人公が一瞬だけ成長したように見えてすぐ元に戻り、以降ずっとヘタレなままって展開も珍しくない。確かに主人公が愚かさを発揮しなければ綴れないテーマもあるでしょうし、「愚者の領分」を描くことで面白みを増す話もあるでしょうからヘタレ主人公を丸きり否定する気はありませんが、それでも「主人公がヘタレ」という設定はプレーしている最中やプレーし終わった後にスッキリしない気分を残しがちです。ヘタレばかりじゃお腹は膨れない。

 だから、ちゃんと事態に干渉していく主人公はいいなぁ、と。そんな感じです。

・ところでリンク貼って気がついたのですけど、ひょっとして「君望」って略称の読みは「きみぼう」? 今までずっと「きみのぞ」と読んでたんですが……ちょっぴりショック。まあ、気にせず「きみのぞ」で通します。今更替えようにも違和感が強くて無理ですし。


2003-09-15.

・真夜中になった途端ラーメン屋へ行きたくなるのって一体どんな症候群なんでしょう。近くにある松屋や吉野家ではなく、以前一回通りがかっただけの店が不意に思い浮かんで足を運びたくなる。翌朝起きる頃にはすっかりどうでも良くなって、昼食はテキトーに済ませることになってるんでしょうが。そして帰ってきて真夜中になった途端、ふたたびラーメン屋が脳裏に甦る悪循環。

『パティシエなにゃんこ』プレー開始。

 アクシデントで胸を揉むことから始まるボーイ・ミーツ・ガール。「タッチ&ゴー」という比喩に半笑い。イイ感じにベタです。始める前は自分の好みに合うかどうかちょいと不安がありましたが、しっくり肌に馴染むテキストに気分を安らげつつ楽しくプレーしています。正直言ってひよこ館、あんなに始終ドタバタしていていたらとてもお客さんも寛げないと思うんですが、まあそこは軽く流すとして。現在は冬華狙いで攻略中。やっと茉理が出てきたところです。ミオの「まちゅり」という呼び方に必要以上の熱を込めてハァハァ吐息を荒げたり荒げなかったりしていますが、ともあれすべてのヒロインに魅力を感じている時点で当方は勝ち組かと。隙が多いお嬢様キャラの冬華を弄りながらコツコツやっていきます。

・そういえば『ホームアローン3』をやっていましたが、男の子の方ではなく悪役側の方に思い入れしたくなる当方は天邪鬼ですか。「お約束を破って作戦を成功させて欲しい」と思いつつ、「そんな期待を手ひどく裏切るような情けない負けっぷりを晒してほしい」とも考えている二律背反。


2003-09-14.

・矍鑠とした老女がデパートの中でふとっちょの殺し屋と渡り合う夢を見ました、こんばんは。台車を利用して移動しながら罠を張り巡らし、相手の体力を奪い尽くした後で花火売り場からかっぱらったロケット花火の先端にボールペンを括り付けた、言わば「ボールペン・ロケット」をしこたま打ち込んで決着。エレベーターが開き、中から出てきた女性客たちは色とりどりのボールペンを身体中に刺さらせた男を目にして眉間を顰める。「何こいつ、ダサッ!」。瀕死で転がる様をイケてないファッションと結論づけて閉幕。どういうオチだ。

『腐り姫』コンプ。感想はこちら。ツボに入りそうで入らなかった、当方的に惜しい作品。しかしライアーへ寄せる期待は高まりました。

・さて、次は何を崩そうか。シリアスとサスペンスは『腐り姫』で充分味わったから、次はまたーりと味わえるものにしたいな……ということで『パティシエなにゃんこ』、通称パテにゃん。「やたら元気な実妹が出てきてにぎやか」と評判の一作。でもマジで実妹だったら攻略できません。いろんな人が困ります。いろんな人っていうか、妹を愛好する一部のプレーヤーたちが。妹スキーにとって「実妹」の刻印は決して手の届かない高嶺の花。攻略できないくらいならいっそエロシーンの寸前で「実は義理だった」という強引な血縁切断を行われる方がマシって声もあります。

 ですが敢えて言いますけど、実妹キャラってのは攻略できないからこそイイんです。非攻略キャラとギリギリのラインまで戯れるスリルはなんともたまらないものがある。最初からリミッターを外されている義妹とはワケが違います。義妹と「ドキッ!」な接近があっても「ああ、お約束だね」で流されてしまいますが、これが実妹なら「どこまで行く、どこまで行ける?」と手に汗握って眺めることは必至。エロゲーにおいて実妹は禁忌があるから燃えるのではなく、ソフ倫規定があるから燃えるのです。「見えそうで見えない」シチュエーションと同じく「喰えそうで喰えない」状況は、トイレに行くのを我慢するときに味わう「もどかしい快感」に似た独特の愉悦が内包されています。くっつけそうなのにくっつけない、その絶望的な寸止め感が非攻略キャラへの傾倒を深めていく。「このサブヒロインを攻略したい」「こいつとのエンディングがないのはおかしい」「FDで追加シナリオ希望」といった声の裏には「でも攻略できないからこそ花ってところもあるよなぁ」という醒めた見解が潜んでいます。だって、「FDで追加シナリオ決定」とかいう報を聞いたとき、一応「キタ━━(゚∀゚)━━!!」とか騒いでみる一方でなんとなく残念な気がしません? 「好きは好きだけど、敢えて一線を越えないもどかしい関係のキャラとして微妙なムードを楽しみたい」なんていう心の中の小さな呟きが、「めんどくせぇ、四の五の言わずに喰っちまおうぜ!」と叫ぶ堪え性のない欲望に押し潰されてしまうんですから。

 ま、それはそれとしてパテにゃん、またーり和むにはちょうどいい内容でしょう。のんびりプレーするとします。


2003-09-13.

・海苔だけパリパリ食べていると不安なまでの虚しさを抱いてしまう焼津です、こんばんは。口の中が辛くなってきたところで牛乳を流し込むと思い切り既視感(既味感?)を覚える罠。「海苔+牛乳」か何かの記憶と結び付いているのは間違いありませんが、特に掘り起こす気はしないので放置を決め込む。

 すると不意に代替案とばかりに「煮昆布+牛乳」の記憶が湧き上がってきました。たぶん小学生の頃だったと思いますが、なんとなくその組み合わせを試してみたところ、「……!」と悶絶。化学反応級の不味さに戦慄を禁じえませんでした。

「ジンガイマキョウ」が10万HIT達成

 犬江さん、おめでとうございます。なんだかあっという間でしたね。

『腐り姫』

 エンディングに到達。……ひょっとしてこのゲーム、ほとんど一本道なんだろうか? どうもストーリーの性質からしてそんな気がします。

 第三殻のラストから第四殻にかけて、物語は一気に急展開。ガラリと雰囲気が変わります。あまりの飛躍っぷりに唖然呆然。そう言えば、「終盤はSF方面に走る」とのような話を聞いた覚えがうっすら頭の片隅に残ってます。まるっきり忘れていました。明かされた真相自体はつまらなくはなく、そこそこ面白いのですけど、突然と言えばあまりに突然なこの変貌に対してどうようなリアクションを取れば良いのやら判断がつきかねる。まだ整理し切っていないので確たることは書けませんが、このラスト、ちょっと当方の好みには合わないかもしれません。方向がズレていきそうな、スケールが巨大化しそうな予感はありましたが、さすがに豪快すぎる。

 芳野、蔵女、樹里の3人に魅力を感じたことは確かですし、あのラストを経た後もそれは特に変わりない。それまでの展開との乖離は激しいですけれど、何もかもぶち壊しというわけではない。ただ、第一殻で唐突に出逢った「赤い雪」の「妄想的な美しさ」が、第四殻では「幻想的な美しさ」にすり替えられている点に不満があります。蔵女の不安定な存在感から発散される危うさ、恐ろしさが、第四殻の説明とともに安定し、別印象の「何か」として再構築されてしまったことも個人的には残念。「赤い婚礼」に見られる二律背反的なムードとか、「名前のないモノに名前を与え、形のないモノに形を与える」展開は良かったですが、「心のないモノに心を与える」ところまで踏み込むのは行き過ぎって気が。

 とりあえず、コンプリートするまでは結論を保留しておきます。諦めるのはまだ早い、はず。


2003-09-12.

・ここ最近プレー日記ばかりになってますが、特に脈絡もなく積みゲーを崩す気力が湧いてきているのでしばらくこの調子でいきます。当方、「本を読みたい時期」と「映像を見たい時期」と「ゲームをプレーしたい時期」と3つの時期がありまして、今はちょうどゲームのに差し掛かっているわけです。ちなみに、気分屋ゆえあっさり切り替わります。明日になったら「やはり積読をガンガン崩そうかと」なんてほざいている可能性とてなきにしもあらず。

『腐り姫』。字面は悪いけど、「くさりひめ」という響きは好きです。「腐る」という発想や表現もなかなか面白い。

 それで現在は第三殻に突入。芳野さんのエンドに思わずホロリ。初めて見たときから胸キュン気味でしたけど、彼女にまつわるシナリオを読むや余計に惹き寄せられていきました。あのラストが心に食い込んでしまい、すぐには次周を開始できなくなった始末。「お気に入りのキャラ」に急浮上してまいりました。もちろん、蔵女や樹里あたりも良いのですが。当方、人外ロリスキー&凶妹スキーのようであります。

 日常シーンでのコメディ的な遣り取りが控え目で、キャラクターもあまり極端な造型をしておらず、物語も勝手を掴めぬまま進行していくため「地味」「ダルい」といった印象はあります。決まった4日間を毎回微妙に異なるパラレルな形で体験する仕組みは面白く、「背景+立ち絵」ではなく「風景+点在する人物」を基本とした画面構成もノベルゲームとしては珍しく新鮮ですが、盛り上がる場面が少なくて退屈、もどかしいといった気持ちは否めません。淡々と適度に抑えられた文章のおかげで読むことに「飽き」はこないし、中断するつもりはサラサラありませんけれど、プレーを重ねれば重ねるほど期待していた方向とは違う角度にズレていくのを感じてしまいます。問題は、ズレていくことそのものではなく、ズレて辿り着いた先が果たして当方の好みに合うかどうかであり、そのへん何ともかんとも。

 「赤い雪」が何なのかなど、おぼろげに物語の謎は分かってきたのですが、主人公が8月11日〜14日の4日間及びとうかんもりといったストーリーの中心地に閉ざされているせいで、話のスケールがどれほどなのか却って分かりにくい。せいぜい村全体を巻き込むくらいと思ってましたが、ひょっとするとそれどころの話ではないような……あと、ループ現象を共有する仲間がいない孤立無縁な状態で、このまま「真相を看破し、黒幕と対決」という流れになっても敵に対して切る札が存在しないっぽい。まだまだ先が読めませんね。おとなしく続けます。


2003-09-11.

・「盲点」ってどんなのだろう、と思ってオンにしたら……あんなのですか。とりあえず最初は切っておくとします。

『腐り姫』はとりあえず1周目終了。たった1時間半ほどでタイトルに戻ってしまったが、ループ構造なのだろうか、このゲーム。2周目もちょっと進めたが、話の流れはだいぶ変わっている。ループ形式のゲームでプレーしたことがあるのは『歌月十夜』くらいで、『プリズマティカリゼーション』『パンドラの夢』も未プレーゆえはっきりとは断言しかねますが、よくある「リプレイもの」とは少し趣が異なる様子。

 小説で言うとケン・グリムウッドの『リプレイ』、西澤保彦の『七回死んだ男』などの例がありますけど、大抵は自分の行動以外みんな同じでほとんど変化がなく、情報がデジャ・ヴュとして主人公にだけ累積されるという形なのに、この『腐り姫』は情報が正しく累積されないまま主人公以外の行動も変わっていくみたいですね。まだ落とし所がさっぱり読めませんが、まったり続けるとします。

・本はあまり読み進めていないので、既読から適当に1冊オススメを紹介。ロバート・J・ソウヤーの『イリーガル・エイリアン』。レーベルがハヤカワ文庫SFなだけにジャンルもSFですが、ちょっとミステリも混ざっています。

 人類がトソク族という宇宙から飛来したエイリアンとのファースト・コンタクトに成功し、両者の交流は和やかに、友好に行われていった。だが、トソク族の宿泊施設で切り刻まれた人間の惨殺体が発見され、トソク族の中で唯一アリバイが成立しなかったハスクに逮捕令状が発行された。かくして人類がファースト・コンタクトの相手であるエイリアンを逮捕し、裁判に掛けるという珍事が実現。ファースト・コンタクトに立ち会ったフランクは腕利きの弁護士を雇い、ハスクへ掛けられた嫌疑を晴らそうとするが……。

 宇宙人を裁判に掛け、「異議あり! 誘導訊問です!」とか「クソ、人間寄りの陪審員たちがネックだ……」とかやってしまう、奇抜と言えば実に奇抜な一作。発想は物凄くバカバカしいんですが、書きぶりは至って大マジメ、文庫にして500ページの分量を圧倒的なリーダビリティで読ませます。裁判シーンが多く、派手な場面はあまりなかった気がしますけど、『逆転裁判』を楽しめる人なら夢中になれること請け合いです。「被告人はエイリアン」という設定もただ奇を衒ったものではなく、ちゃんとトソク族や彼らの星も話に絡んでくるため、ミステリ的興味とSF的興味の両方が満たされる美味しい仕上がりとなっている。あらすじのバカっぽさにヒいてしまった人でも、リーガル・サスペンスに関心があるならオススメ。バカっぽさに惹かれ、リーガル・サスペンスにもワクワクする人に関しては言わずもがな。

 ソウヤーの作品はこれ以外も評判が良いのですが、当方はこれ1冊しか読んでいないので他は紹介できません。そもそもハヤカワのSFってあまり読んでいませんね……流行り(?)のJコレクションも読んだのは3、4冊のみ。“マルドゥック・スクランブル”3部作も積んでますし。ハイペリオンとかエンダーなんかのシリーズも読んでみたいですが、こっちはそもそもろくに揃っていない。SF的なセンスがないと言いますか、科学やSFについてそれほどロマンを感じなかったせいもあって、中高生の頃から結構敬遠しています。時代物と同じで、手はなかなか伸びないものの、一度読み出してしまえば「面白い」と思えるジャンルなんですが。


2003-09-10.

・ここ最近マンガをあまり読んでないことに気づく。以前は月10冊以上は買って読んでいたのに、ここのところは月5冊前後でしかも積みがち。「マンガならパッとすぐ読める」と思ってるせいで強いて崩そうという気が起らない。そして、立ち読みもしなくなった。学生時代は特に呆れるほどマンガ浸りの人間でしたから、ちょっと今の自分に驚いています。

『しすたぁエンジェル』は真実ルートをクリアした勢いでもう一度最初からやり直し、流菜のトゥルーエンドを確認。シリアス展開に関しては真実ルートのクライマックスが一番楽しめた。僅かに溢れる黒魔術の雰囲気、ハァハァ。流菜は他のルート以上に「積み残し」が多く、腑に落ちませんでしたが、あまり細かいところまで突付く気がしないのでよしとします。

 とりあえず「テキスト」のコーナーに紹介兼感想文を上げておきました。本当は日記だけで済ませるつもりでしたが長くなってしまったので。ほとんど勢いだけで書いたからか、本人にも分かりにくい箇所がいくつかあります。でも、まあ、「勢い」そのものを読むような感じで目を通してください、はい。

 で、結局のところ『しすたぁエンジェル』で当方が気に入ったのは、流菜とバンデラス。流菜は嬉し恥ずかしの妹っぷりを見せ付けるキャラとして非常にクリーン。バンデラスはいろんな意味でカッコ良かったです。ホント、無駄なくらいカッコ良かった。

・次に着手するソフトは何にしようか……グリグリ、しすエンとコメディ系が続いたので、ダークなサスペンスとかがやりたいなぁ。

 というわけで『腐り姫』に決定。ライアーにしては珍しい「ど」が付くくらいのシリアスものとあって、いろんな意味で期待大です。現在インストールが終わってちょこっとプレーしてみただけですが、なかなか良さげ。雰囲気を壊さない、それどころか徹底的に雰囲気を盛り上げるつくりになっていて、弥が上にもワクワクさせられます。雰囲気に浸り、雰囲気に酔い、雰囲気に溺れる。そんな予感がします。


2003-09-09.

・一度ならず二度までもリンクミス。『林真紅郎と五つの謎』。紹介文を書いてからリンク先を探すという方式を取っているせいで、紹介文を書いた後に「よし」と満足して気が抜け、うっかりリンクを張るの忘れてしまうみたいです。

『しすたぁエンジェル』は2周目終了。メムエンド。うーん、流菜エンドはまだ真のバージョンを見てないから保留としておくものの、このポンコツメイドロボのルートはシリアスの混ぜ方が少し中途半端に思われます。いまいち危機感がなく、そのぶん起伏を欠いて盛り上がらないような。コメディ一辺倒で話を書くのは難しいですけど、感動方面に欲を出さずもっと明るいノリで通してほしかった、というのが本音です。とりあえず今は真実狙いでやってます。こっちもこっちでシリアスな展開がありそうだけど……。

・小野不由美の『くらのかみ』読了。

 当方、小野に関しては初期作の『バースデイ・イブは眠れない』と『呪われた十七歳』しか読んだことがなく、“十二国記”シリーズや『屍鬼』のイメージはあまり染み付いておりません。で、本書は大人と子供の両方をターゲットにした児童文学的推理シリーズ“ミステリーランド”の第一期刊行作。同時発売作品は島田荘司の『透明人間の納屋』、殊能将之の『子どもの王様』と2冊ある。

 「四人ゲーム」──『螺旋回廊』で言うところの「ローシュタインの回廊」──をやった子供たちが気づけば4人から5人に増えていて、しかも誰ひとりとして知らない子供はいないという、座敷童子の伝承を変形させたようなシチュエーションで物語を始め、誰が「座敷童子」なのか分からないまま進行していく。大人たちは毒の入ったお吸い物を飲んで中ったが、被害に遭ったのは本家の跡継ぎばかりだった……。掴みとしては最高に面白いし、設定を活かし切れば大した傑作になると思った。けれど……ちょっと物足りなかったかな。小奇麗にまとまっていて良く出来た作品ではあるけれど、いまひとつ中途半端といった感想が正直なところ。小野ならばこの素材をもっと巧く調理できたはずではないか、といった憾みはある。分量のことも考えると仕方ないかもしれない。面白いが、ほんのり不満が残った。


2003-09-08.

・休日は思い切り寝て過ごす焼津です、こんばんは。眠りすぎると却って疲れる事実を承知している人の何割がダメ生活経験者なんでしょうか。ちなみに当方の最高連続睡眠時間は14時間です。

・昨日は書くの忘れてましたが、西尾維新の「新本格魔法少女りすか」を読んで羽生生純のオミットさんを思い出したのは当方だけ? いえ、やたら「省略」という字句が目立ちましたので。

『しすたぁエンジェル』、流菜エンド……か? くっつくことはくっついたものの、いろんなものが投げっぱなしのままいきなりシリアスに入って、あれよあれよという間にエンディングを迎えてしまったので、いまいち終わった気がしない。ノーマルエンドでも見たような感じがしました。で、少し前からやり直すと、誰ともくっつかない正真正銘のノーマルエンドに。扱いとしてはこれが実質バッドエンドなのかな?

 激しく未消化気分を抱えたまま2周目に突入。現在第4話後半ですが、真実狙いでやっていたつもりなのにどうもメムルートに入ってしまった模様。「ドジなメイドロボ」というより「ムダに元気なメイドロボ」といったノリで、面白くある一方多少の苛つきも湧く。可愛さ余って憎さ十倍といったところです。百倍ってほど悪くもない。

 要所要所に仕込まれた小ネタや、中盤の騒がしいドタバタがひどく楽しいものの、流菜ルート(?)での性急なシリアス展開からして、ストーリー全体に対してはいささか不安を感じてしまう。CGの達成率から見て、「真のルート」とでも呼ぶべき道筋がありそうなんですが……さてはて。

・乾くるみの『林真紅郎と五つの謎』読了。

 発刊ペースが遅く、メフィスト賞作家の中ではおとなしい部類に属する乾。とはいえ、それなりに固定ファンも付いているみたいで、そう簡単に忘れ去られることもないみたいです。

 本作は、妻に先立たれひとりやもめとなっている主人公・林真紅郎が様々な事件と遭遇しては謎を解く連作短編集です。事件の中に転がる雑多な要素を組み合わせひとつに繋げる「シンクロ」という推理法を使っていますが、これは別段珍しくない。スタイルは至ってオーソドックスで、変わっているのは毎回のシチュエーション。事件ないし解決が微妙に一般的な推理モノの「お約束」とはズレているため、ちょっと独特の雰囲気があります。ユーモラスといえばユーモラス。しかし文章は普通に読み易く、内容も難解ではありませんから、マニア受け狙いというわけでもない。肩の力を抜いて読むとちょうどいい1冊ですね。さりげなく内輪ネタが混ざっているのには笑いました。


2003-09-07.

・「ファウスト」、まだ読んでます。個人的に目玉だった舞城王太郎の「ドリルホール・イン・マイ・ブレイン」、佐藤友哉の「赤色のモスコミュール」、西尾維新の「新本格魔法少女りすか」は読み終わりました。

 ドリルホール〜は完全な読切中編。相変わらず勢いまみれの舞城節が味わえます。勢いまみれの勢い任せとはいえ、かなり計算されているようで、実はなかなか読み易い。これもいつも通り。内容については現実が妄想に蝕まれるどころか妄想化した現実をより強い妄想で塗り潰す、力業めいた展開が連続するため、本筋らしい本筋は探しても見つからない仕様となっています。全編にギッシリと詰まった不完全な妄想に翻弄されつつ楽しみました。

 赤色〜は分量的に短編くらい。作者自身がかなり投影されているであろう19歳の「僕」の一人称で、友達のミナミ君と一緒に特別なモノ、上位者、ビカビカ輝く存在になりたいと奮闘した13歳の頃を追想する。内容が『タンデムローターの方法論』(同人誌)に収録された「灰色のダイエットコカコーラ(短縮版)」と一部かぶるところがあるものの、読んでいなくてもあまり支障はない。ただ、「僕」の祖父、覇王云々については灰色〜や「新現実」(雑誌)に掲載された「世界の終わり」「世界の終わりの終わり」を読んでいないとよく分からない。一見さんを追い出すほど閉鎖的には仕上がってないが、やはり充分な楽しみを得るには「ユヤタン」と愛称される作者の過去作品に目を通していないと難しい面もあり。

 それなりに鬱屈した青春を経験した身としてはいろいろシンパシィを覚える箇所もあり、普通に読んでも面白いことは面白いが、ただ単に小説として見ればまだまだ粗く、垢抜けなくて、突き抜けるモノがない。時々もたつく感じというか、痒いところに手が届かないもどかしさが濃厚に漂ってくる。言葉にすることで近づくモノよりも、言葉にしたことで遠ざかるモノの方が大きく、また多い。この未達成感こそユヤタンの本領と見る向きもあるが、当方はまだまだ彼の成長と洗練を期待しています。

 りすかはタイトル通り魔法少女モノで副題は「やさしい魔法はつかえない。」。新書二段組で70ページ足らずだからスケールとしては短編か。たぶんシリーズ化するでしょう、きっと間違いなく。

 主人公の少年がたまたま目撃した事件(ないし事故)はいささか常軌を逸しており、彼はそこに「魔法」の匂いを見出す。かくして魔法少女のりすかに話を持ち込むが……。

 「ホームにいた、およそ関係など持たぬと思われる4人がほぼ同時に線路へ飛び込み轢死した」事件を幾分非日常的で超自然的な要素を交えつつ書いたミステリ。限りなくライトノベルに近く、謎解きは装飾程度と受け取ってよいのかも。字が詰まっている割にとても読み易く、ほんの少し書き殴ったくさい「粗さ」が見えるが、一旦勢いに乗ってしまえば後は楽しく読める。主人公が自身に対して特別意識を持っているあたりなど佐藤友哉の作品とも重なる部分はあるけれど、巧みに現実感を薄く引き伸ばして苦みやえぐみを殺し、無臭の世界観をつくり出すことに成功している。匂いがないから鼻に付くことがなく、一歩離れて檻の中の動物を眺めるような感覚で味わうことが可能となっています。うん、実のところあまり期待していなかったが、結構面白かった。

 あとはインタビューや対談、一部のコラムに目を通したくらいですが、「佐藤友哉の人生・相談」や「斎藤環×滝本竜彦×佐藤友哉」の対談を読んで「ユヤタン(;´Д`)ハァハァ」とやってる佐藤友哉スレの住人の気持ちがほんのりと分かったような気になりました。

滝本:(まじまじと佐藤を見つめて)……よく生きてこれましたね。
佐藤:(照れて微苦笑)

 全部は読み切っていませんが、めぼしいモノは読んだと思いますので「ファウスト」全体への感想。舞城と西尾の読切が面白く、笠井と奈須&武内の対談も興味深かった。後はまあまあ。結論としては「予想範囲内の面白さ」。新書サイズと携行し易い版型で、分量も500ページオーバーとそこそこある。期待以上の何かはなかったが、まあ、満足といったところです。定価が税込で980円──別段、高いとも安いとも思わなかったけど、強いて言えば安い方かな。で、第2号は来年の2月か……。次号以降を買うかどうかは内容次第。今のところ、気分としては五分五分です。

TerraLunar『しすたぁエンジェル』、プレー開始。

 ブランド第4作の『家飛!』が先週発売されたばかりにも関わらず、テラルナのデビュー作を今頃崩し始める当方のスローペースぶりはノロマの亀と張り合えるほど。「ゼノン的に動いている亀は人間様でも追いつけねェけどよォ、眠ってる兎は亀でも追い越せるんだぜェ!」。わけわからん。自分で言い出したことに収拾がつきません。

 交通事故で記憶をなくした主人公の身辺を「妹」と名乗る少女があれこれ世話するのですが、主人公ってば昔のことをちっとも思い出せないくせして「俺の血は何者だ」とかいったアイデンティティやら「わたしは何を始めたんだ? どこにいるんだろう?」みたいなレゾンデートルやらに悩まされることなく、まるで気にすることなくヒロインたちと日常を過ごします。どう見ても不自然な脳天気さですが、このゲームはスラップスティック・コメディ。終始ドタバタと騒がしく、イベントの度に怒鳴ったり怒鳴られたりと実に体力と気力の消耗が激しい遣り取りを繰り返し、「こりゃどうでも良くなるってのもむべなるかな」と半ば強引に納得させられます。ギャンギャンした騒がしさが心地良くて、本当にストーリーとか感心が磨り減っていくんですよねぇ……愉しいからまあいいや、といった具合に。

 流菜狙いで粛々と攻略中。現在第4話までですが、アイキャッチも入ったことだし、そろそろ第5話へ移りそうなムード。細かい演出が丁寧に凝らされており、話がダレそうになったところへ適度に刺激が入ることで、見事に興味が持続します。次回予告や「これまでのあらすじ」など、ノリ良くサムすぎずイタすぎないテンションで繰り広げられる小ネタに当方の心も割とハイになったり。

 雰囲気からしてシリアス方面への転換はありそうですが、果たしてうまくいくのかどうか。いろいろ、何処に当てはめればいいのか分からないパズルのピースも転がってますけど、最後にはピタッと全部が収まるべきところに収まってほしいな。期待して続けます。

『今宵も召しませ☆Alicetale』(☆はハートマークの代用)は「一回ごとの尺が短い」「シーン数に対してCGの枚数が少ない」と言われながらも結構好評の様子。赤丸の絵に全身が反応してしまう当方は迷いながらも結局「回避」を選択しました。物語(シナリオ・テキスト)が主食でエロや萌えは副食という意識が抜けないため、ヌキゲーにはあと一歩のところで食指が動かないんです。その手のゲームは最初興奮してもじきにダレて投げちゃうってことが多くて。

 ですが……赤丸絵ならば「飽き」の二文字はないと確信できる以上、迷いはなんとも断ち切りがたく。当方、枯れる自信は存分にありまする。

 まあ、まだ積ゲーも残ってることですし、下旬に出るかもしれない『Ricotte』のために費用は取っておくとします。


2003-09-06.

「ファウスト」購入。

 当方の行った書店では文芸誌のコーナーにひっそりと置かれていました。新書サイズだったので目立っていると言えば目立っていましたが、微妙に存在感がありませんでした。うっかり当方も隣に置かれていた「現代農業」に目を奪われる始末。土肥の特集やってました。

 とりあえずパラパラと気になるコーナーを流し読み。やはり一番の関心事は笠井潔とTYPE-MOONの奈須&武内の対談。この3人が一堂に会して喋り合っているかと思うと、とても不思議な気分がするのは当方だけでしょうか? 矢吹駆シリーズにハマったのと、『月姫』にハマったのはだいぶ時期が違うせいで、当方の内部では両者の間にうっすらと層ができていてくっきり隔てられている感じがしますので。まあ、笠井潔が『AIR』とかをプレーしたと知ったときも充分奇妙な感じはしましたけど。

 大部分は今までのインタビューと同じでしたが、とりあえずトピックとして抜き出すに値する事項は「来春に『空の境界』が講談社ノベルス化」「講談社文庫から武内イラストの『ヴァンパイヤー戦争』が復刊」の2点ですか。『空の境界』のあの装丁を目にした人の多くが「もし奈須きのこが講談社ノベルスからデビューしたなら……」と妄想したであろうことが本気で実現するようです。個人的にはいっそ『魔法使いの夜』を出して欲しかったのですが。それから『ヴァンパイヤー戦争』、実は当方、持っているけど1巻すら読んだことがありません。この機会に買い直そうかどうか思案中。

 あとは舞城王太郎の「ドリルホール・イン・マイ・ブレイン」が読み終わったくらい。他の分の感想なり何なりは明日以降に。

『グリーングリーン』コンプリート。

 一週間かけてようやっと終わらせました。若干起伏に乏しいきらいはありますが、そんなにダレることがなく楽しめたので当方的にはGoodです。

 緑が映えるパッケージから「明るく爽やかな学園もの」という第一印象を与えつつ、いざやり出してみれば野郎臭が異様に濃い──そんな、いきなりの逆襲。まったく冗談抜きに濃い。濃いというか、序盤はひたすら野郎ばっか。「やめようか……」とプレー意欲が激しく減退していくのを感じながらも進めていったところ、5分くらいで慣れた。ダメっぷりが却って肌に心地良くなってきた。それでもエロゲーなのに男オンリィの画面には気が滅入り、陰鬱としてきたところに「女子編入生たちがキタ━━(゚∀゚)━━!!」の報せ。もうね、作中のキャラたちと一緒になって喜んでしまう始末。「女なんていて当り前なんだよ、そこらの観葉植物と一緒だよ」なんていうハナから男女共学の学園モノに比べ、このあたりの喜びは一段違いますね。

 メインヒロインは5人で、マップ移動形式。1日にだいたい1〜3箇所程度移動でき、重要なイベントをこなせばフラグが成立。以降は選択肢に注意しつつターゲットを中心にして進めていけば問題なくシナリオをクリアできます。攻略はかなり簡単です。

 突然共学になって女子にどういう態度を取っていいのか分からず、ぎこちないムードの中で進行していくストーリー、とこのへんを期待していましたが、残念ながら全体のノリはフツーの共学モノと変わらず。女子と男子が対立するなどといった展開もあるものの、肝心のヒロインたちとは双葉を除けばフツーにコミュニケーションが取れていて、「女の子されていない少年たち」特有(?)のドキドキ感はあまり醸されていない気がします。そこに目をつむれば、後はアホらしくも青臭い青春恋愛物語として楽しめますね。一部の展開が強引だったり奇抜過ぎたりすることや、爽やかで騒がしいノリとは裏腹に「明るさ」よりも「切なさ」を前面に押し出したエンディングなど、第一印象から来る期待とはちょっと「ズレ」を感じさせるところが多かったけれど、サブキャラがなおざりにされておらず話の盛り上げにちゃんと加わっている点が嬉しく、最終的にはなかなかの満足度でもってこのゲームを「面白い」と認めることができました。

 ワイワイガヤガヤって雰囲気が好きな当方としては複数のキャラが絡んでのイベントが多いあたり特にお気に入り。初見では印象の悪かった天神も結構好きになったし、バッチグーともなれば言わずもがな。一番星はもうちょっと見せ場があっても良かったかな……総長はあのくらいでちょうどいい。アドリブが超訳の域に達している轟も出番は適量。

 と、プレーした後でヒロインよりも野郎キャラについて触れたくなるほど脇が目立っていました。ただ、脇キャラが主人公のライバルとしてはまったく機能していないところなど、良くも悪くも位置付けはヌルい。いっそ川辺で夕日を背負いつつ殴り合いを繰り広げる展開なんかも欲しかったが……キャラに合う奴がいないか。

 ヒロインに関しては双葉と早苗が良かったですかな。気の強い子とガンガンやり合ってるうちになんか仲良くなってしまう流れは好きです。早苗は声や仕草、そして何よりも目つきがイイ。ヤバいくらいに。シナリオはどのヒロインのモノも押し並べて可から良の範囲に収まるもので、残念ながら個人的に「優」と太鼓判を押せるモノはなかった。あまり好みではなかった若葉をそれなりに気に入ってしまわせるなど、「萌え」というかキャラの魅力を盛り立てる点では充分水準を超えた代物ではありますが。

 当方の感覚で言えば良作。あと一歩のところで琴線に触れるモノがなく、ハマり切るには至りませんでした。とりあえずプレーして良かったことは良かったです、ハイ。シナリオライターのヤマグチノボルと桑島由一のコンビによる作品はあと『カナリヤ』を持っており、これもいつか崩すつもりでいます。アキ学こと『私立アキハバラ学園』は未購入。今後買うかどうかと言えば……んー、相変わらず脇キャラがなんとも言えぬ魅力を発散させているのですけれど、微妙。

・有沢まみずの『いぬかみっ!』、1巻2巻を読了。

 犬神使いの少年を主人公にした連作形式のスラップスティック・ラブコメ。傍若無人で嫉妬深い犬神のようこに振り回されつつ、物の怪の調伏などといった仕事をこなしていく。

 同作者のシリーズ「インフィニティ・ゼロ」は1巻までなら楽しめたものの、2巻以降は厳しくなっていき、3巻を読んで完結編となる4巻を買うべきかどうか迷ったものです。この『いぬかみっ!』もなんとなく買っては積んでいましたが、今月に3巻が出るとのことで「そろそろ惰性買いはやめようかなぁ」と思い、試しとばかりに手をつけてみた次第。

 1話目から好きになり、出だしは好調。2話、3話と順調に進んで4話目で爆笑。明らかに作者自身のPNを元にしたであろう「栄沢汚水」がクリスマスのカップルにマヌーな怨念を振り撒くストーリーには、松沢夏樹の『突撃!パッパラ隊』を連想してしまうほど。一気に1巻を読み終わり、我慢できず立て続けに2巻へ。こっちは新キャラメインで、あろうことかヒロインのようこがだいぶ影薄くなってるのですが、軽快で面白いことに変わりはなく、存分に楽しみました。

 「迸らんばかりの文章センス」とか「実に練り込まれたハイレベルなネタ」とか謳うようなタイプの先鋭的コメディではなく、ベタさ加減とお約束への恭順あるいは逸脱をヌルく味わうのに適切なノリです。「軽さ」と「明るさ」に胸躍る割と良さげなシリーズでした。迷わず3巻を買います。


2003-09-05.

・冗談で買ったレトルトカレー「LEE」の30倍を未だ開封する勇気持たぬヘタレな管理人、焼津です。当方は10倍くらいが限界です。

・いよいよ「ファウスト」も創刊。今月は注目している新刊が他にあまりないので、通常比1.5倍くらいには期待しています。雑誌を積極的に購読するタイプではないゆえ、今後も買い続けるかどうかは不透明ですが、とりあえずこの創刊号だけはチャレンジしてみます。

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 このインタビューでは「奈須きのこ」というすばらしい才能がメジャーの小説界にデビューするという記念碑的な瞬間を笠井さんが完璧にとらえてくださっています。

 という件も詳細が気になります。まさか辰巳装丁の奈須ノベルスが……。

・あまりネタがないので、苦し紛れにオススメ紹介。初野晴の『水の時計』

 横溝正史ミステリ大賞(以前は単に横溝正史賞)を受賞した連作形式の長編。王子の銅像がツバメに頼んで、自分の体に埋め込まれた宝石を町の人々に配ってもらう、オスカー・ワイルドの童話「幸福の王子」を臓器移植に見立て、心臓も脳も生きているがベッドから立ち上がることはできなくなった少女が自分の臓器をバイク乗りの少年に託して必要な人のもとへ送り届けてもらう、「与える自由と貰う自由」を描いた一作。

 連作形式の割に有機的な関連性があまりない点や、「真相」のパンチがいまひとつ弱い点など、必ずしも完成度は高くない。しかし、生硬とも言える瑞々しい文章が織り成す作品世界の透明感が素晴らしく、是非とも新作に期待したかったが……1年以上経った今でも受賞第一作の予定は聞こえてきません。このまま消えてしまうのは惜しい。乙一や本多孝好とも一部通ずるところのある低温・透明の小説世界であり、そのノリが好きな当方としてはなんとしても次の作品が読みたく思われます。

 ただ、期待していた新人が長い沈黙を破って新作を出してみれば、「………」。といった経験が何度かあるせいで素直に期待できない面もあり。無論その逆も何例かありますので注目をやめることもできず。


2003-09-04.

・帰宅したらここ半年間消しっぱなしで使った覚えの全然ないライトが暗闇の中で明々と点灯していました。ミステリアス。ドア開けたときはマジでビビりましたよ。本気で心臓をバクバクさせながらサスペンス映画のヒロインみたく恐る恐る室内を探索して回りましたが、怪しい人影も何もなく、ただライトが点いているというだけのようでした。

 思い当たる原因はないんですが、強いて求めるならば6時頃に頻発していた雷かなぁ……。

・デイヴィッド・グーディスの『狼は天使の匂い』読了。

 原題は「13日の金曜日」を意味する『Black Friday』。フランスで映画化の際にセバスチャン・ジャプリゾが脚本を書き、タイトルは『ウサギは野を駆ける』に変更。その映画が英語版では『And Hope to Die』の題名で上映され、更に英語版が日本に輸出され『狼は天使の匂い』と改題された……という経緯で随分タイトルが変わってしまった1冊。まあ、いまさら原題を直訳されても無駄な勘違いが誘発されそうなのですけど。内容は単一視点によるハードボイルドで、ややノワール臭あり。

 主人公のハートが「寒い」という理由でコートを奪い、逃げ出すところから物語は始まる。やがて彼は瀕死の重傷を負った男とばったり遭遇し、「財布を盗っていってくれ」と奇妙なことを頼まれる。頼まれた通り、じきに死体となった男の懐を探り、財布を抜き取った。しかし男を追っていたとおぼしき連中から逃げ切ることはできず、財布の中の金を隠してから投降した。連中はどうも小規模の犯罪者集団みたいで、捕まる際に抵抗して連中のひとりに大怪我を喰わせたハートの立場は危うかった。ブラック・フライデイ、「13日の金曜日」に遂行予定の犯罪計画に加担するか否か。ハートの命運が試される。

 冒頭での状況説明は少なく、訳有りっぽいけど抱えている事情の分からない主人公が、偶然巻き込まれる形で犯罪者集団の巣に入ってしまい、それから先どうなるかはハッキリとしない。ちょっとしたきっかけが死を招きかねないサスペンスフルな緊迫感。感情的な描写が少ない、いかにも抑制の利いたハードボイルドといったノリですが、人間の「黒さ」をサラリと書く切ないまでの素っ気なさは当方の思う「ノワール」な雰囲気もあります。最近は下火になってきたロマン・ノワールのブームですが、結局ファンや作家や批評家や出版社や書店の間に「コレで決まり!」と共通する明確な定義が構築されないままになってしまった気が。ほとんど「あなたのノワールと思うものがノワールです」と言われんばかりの事態。

 ポケミス(新書二段組)で170ページと、分量自体はそれほど多くなく、全体のストーリーもまとめてしまえば実に呆気ない。主人公の事情とか、犯罪者集団の中にいる女とのロマンスとか付帯的な要素もありますけど、基本線としてはあくまでストイックな筋立てです。諧謔はないし、終始淡々としていて、痛快感や爽快感を覚える展開もゼロ。「燃え」ではなく「冷え」により盛り上がる話です。個人的には気に入りましたが、人に薦めるのは少し難しそう。


2003-09-03.

・いかん、昨日の日記で『忌まわしい匣』のリンク張るのをすっかり忘れていた。すみません。

・マウスが壊れました。うんともすんとも言わない。結構前から動作が怪しく、騙し騙しに使ってましたが、さすがに限界が来た模様。買い換えるとします。今のところ仕方なくキーボードだけでやってますが、キーボードが壊れたときに比べればそんなに不便でもない。

犬江氏の「ジンガイマキョウ」にてデモンベインSS「ネクストジェネレーション・異界錬金」開始

 まだ「序章1」のみ。7月24日付の日記にある予告ネタを端とする本格的な長編SS企画です。まだ始まったばかりとあり、どれほどの分量にまで膨れ上がるが分かりませんが、とりあえず掴みは良いかと。本編中はサブキャラであまり出番のなかったコリンやジョージが重要な役どころとなるようですので、当方としては今後の展開を期待するばかり。それに何より書き手が犬江氏ともなれば、当然の如く「萌え」と「燃え」のハイブリッドなアルが出てくるに違いありません。たとえ邪神が出てこなくてもアルだけは出てきます。たとえ逆十字の面子が活躍しなくてもアルだけは大暴れです。何がともあれアルと九郎の絡みはあるはず。弁護士に相談する必要もないくらい余裕で確実の事項です。一介の人外ロリスキーとしてヴァニアコークでも飲みながら悠然と期待して待ちます。「ゆっくり、ゆっくりと、啜るように飲み進めて、この2リットルボトルが尽きる頃……きっと物語は動き出す」。その前に炭酸が抜けます。

『グリーングリーン』は若葉エンドと早苗エンドを確認。

 若葉は常時サボテンを抱えているところや、「他者に奉仕することこそ我が望み」といった性格など、初見ではあまり良い印象を持たなかった。しかし、シナリオをやってみるとなかなか。ネタが読め易い点から「先が気になる」との思いがあまり湧いてこないものの、予想と期待を裏切らない展開にはある種の安心感があります。でも、徹頭徹尾のハッピーエンドにしないあたりはやはり意外。

 それで早苗。ちんまりした体格とさりげに素っ気ない口ぶりが妙に心を惹きつける。怯えた顔やそっぽを向いた顔が可愛く見えるあたりなどからして、うっかりハマったりなんかしたら確実にダメな嗜好に溺れそう。あっちのシーンで主人公が「たまにエッチな目をする」と発言していましたが、あれには激しく同意。天神にタンポポを貰うシーンのイベントCG、ちょっとおかしいくらいにエロい。目つきがヤバすぎる。ブルマで誘うとか誘わないとかそんなことが問題なのではない。単純に目が危険。「そんな目で当方を見ないでください」と懇願したくなるほどの征服的眼光です、あれは。シナリオのラストには多くのプレーヤーが轟沈したようですが、当方は普通にしんみり。最近はさすがに涙腺が固くなってきたせいか、物語に泣くことはほとんどなくなってきましたね。

 と言いつつ実は「おもひで女」(『忌まわしい匣』所収)が泣きたくなるほど怖かったのですけど。別の意味での涙腺はまだまだ緩いようだ。


2003-09-02.

『カラフルBOX』って10月に延びていたのか……。

・牧野修の『忌まわしい匣』読了。

 短編集。ホラーやSFなど、バラエティに富んだ13編+αを収録している。作者はホラー・SF方面で有名な人らしいが、実のところ当方はこの忌匣が牧野初体験。そこはかとなくソソるタイトル、それに大森望の派手派手しい帯文によってハードカバー発刊当時から気にかけてはいました。

 で、一編一編を貪るように丹念に読み耽りました。素晴らしく面白い。一編が一冊分の満足度、と書くとさすがに大袈裟ですが、短編集でこれだけ壮絶に楽しめたのは久々です。「忌まわしい匣」という、表題と同じタイトルの断章によって大まかに第一部と第二部に分かれており、特に盛り上がるのが第二部。世界設定が濃密でなかなかインパクトの強い作品ばかりズラリと取り揃えられています。

 異次元間を渡り歩きながら様々な人類の罪を量り、相応しい罰を与える処刑機械。七枚のギラつく刃を振り回して大暴れ、いや中暴れくらいの活躍を見せる「罪と罰の機械」

 月の光を浴びる車椅子の少女。彼女は地球の抱える妄想を解き放つべく生み出された「扉」。向こうに溢れる力を呼び出せば、地球は確実に発狂する。そして、地球の狂気は全宇宙に振り撒かれ、あらゆるものを変質させてしまう。宇宙崩壊の危機を食い止めるため、「施錠者」は「鍵」を連れて「扉」の居場所を探した──三者の奇妙な対立を描く「蜜月の法」

 世界を滅ぼす悪しきモノ、尾野禍津霊を倒すために三人の戦士たちは転生したが、尾野禍津霊の復活するタイミングは最悪で、ひとりが寿命を迎え、残るふたりがとっくに老いさらばえた頃ようやく……という具合だった。なんで十代の活力溢れる時期に戦いの機会が巡って来なかったのか。恨みながらも、世界を救うため老人が無謀な突撃を試みる「翁戦記」

 このあたり。処刑機械、地球の抱える妄想、年老いた転生戦士と、すこぶる魅惑的なラインナップにつき当方も少し興奮。

 しかし、個人的に一番気に入ったのは「おもひで女」。幼少時の記憶に不気味な「あの女」の姿がある。けれど、しばらくして思い出すと記憶の光景に「あの女」の姿などなかったことに気づく。「あの女」はいったい何か、って話です。物語がどうとか、オチがどうとかいうより、「おもひで女」という発想自体が怖い。対処法なし、逃げ場なし。想像しただけで寒気がする。

 とにかく高密度で読み応えのある一冊です。忌まわしさが次第に愛しくなっていくような、いかがわしい奇妙な味わいが愉しい。とても面白かった。満足。


2003-09-01.

・「フロントウィング」を「フロストウィング」と間違えがちな焼津です、こんばんは。どうもフロスト警部が混ざってしまったみたいです。

・グリグリこと『グリーングリーン』を一周しました。朽木双葉エンド。野郎キャラとひたすらバカ言ったりやったりする日常は面白いのですが、シリアス方面への入り方はやや強引に感じられました。「気の強い少女とイチャイチャ」という展開が割と好きな当方としては気風良く制服を着崩し、暴力も暴言も見下した視線も完備した双葉には大いに期待を寄せていたけれど……思ったより、こう、イチャイチャする展開がなくて、「恋愛的衝突→和解」でストーリーの尺が尽きてしまっているんですよね。「夏休み前までの体験編入」とあらかじめ期限を切っているから、あんまり早くに和解して以降の展開をずっとイチャイチャに充ててしまっては締まりがないかもしれない。だから「和解」を別れる寸前に持ってきたのだろうけど、それでなんだか。早めに和解してイチャイチャと甘い日々を過ごし、最後にもうひと波乱……って構成にして欲しかったです。

 たらたらと不満を書き綴ってしまいましたが、それでも面白かったことは確か。コメディ一辺倒ではないにしろ、またーりと心地良い空気が醸成されているから楽しくプレーできます。野郎キャラで一番存在感があるのはバッチグーという水平方向に試練を受けた眼鏡のアレ。ギャグキャラとしての性格が強いので激しく壊れ顔になることも多いけど、素の表情をしている普段の方がむしろ面白い。

 どうでもいいくらいに関係ない話。「ほし・みる・ロマンティック」連呼のシーンにて物凄い勢いで朝松健の『一休暗夜行』を連想。室町の魔王、三代・足利義満が臨終の際に「ほしみるを探せ。天下が逆しまになる」と言い遺し、四代・義持公が一休宗純を捜索の旅に遣る時代伝奇小説です。「ほしみるとは何か?」って話なんですが、無論グリグリとは何の関連もありません。

・月が変わったので今月の予定をザッと列挙。

・本はあんまり予定なし。今月創刊の『ファウスト』第1号と電撃の新刊『バッカーノ!1931 特急編』と『9S』、地味に好きな甲斐透の『金色の明日2』、あとはマンガの『School Rumble』2巻くらいしか確定の駒はありません。三雲岳斗の『聖遺の天使』、恩田陸の『まひるの月を追いかけて』、ファンタジア長編小説大賞の4冊など、他に気になるのもあるにはありますが、積読と積ゲーの消化を考えて購入の枠から外しています。

 とりあえず確定駒の中で特に期待しているのが『ファウスト』と『9S』、この2冊。

 『ファウスト』は太田克史という『メフィスト』巻末座談会のJ、つまり舞城王太郎や佐藤友哉、西尾維新といったメフィスト賞作家を担当している編集者がつくる新書サイズの雑誌で、その3人の作家を柱に発刊という運びになっています。全員が書き下ろしの新作を発表。雑誌を買う習慣のない当方ですが、この面子なら行ってみてもよいかな、と。『動物化する世界の中で』にてチラッと触れられていた、笠井潔とTYPE-MOONの奈須&武内との対談も掲載されるなど、脱格三銃士の他にも興味深いコンテンツがいろいろ。ちなみに当方は「脱格」という言葉があまり好きじゃない(と言うよりしっくり来ない)んですが、こう書くと割と通じ易くて便利なのでつい使ってしまいます。あと、「ハイエンド」や「セカイ系」に関しては完全にワケワカメ。

 『9S』の作者・葉山透は新人──ではありません。去年の末と今月の頭にかけて短期間に『金の瞳の女神』『アルテナの少女』『ネフィムの魔海』という“ルーク&レイリア”シリーズを刊行しています。賞を取り損ね、「最終候補者」の位置付けでデビューしましたが、シリーズの評判は割と良い感じ。でも売れていません。なので「このまま消えた作家になってしまうのか」と不安だったところにこの報せ。胸を撫で下ろすついでに期待も抱いてしまうのは必然。あまり華のある作風ではなく、どっちかと言うと地味めなものの、当方はこの人のいつも話をバランス良くまとめる書きっぷりに軽く惚れています。

・ゲームは『今宵も召しませ☆Alicetale』『カラフルBOX』『Kissing!!』『月は東に日は西に』『めぐり、ひとひら。』『天ツ澪』など、注目しているソフトは多いけど、「確定」のランプが灯っているのは『天使のいない12月』『Ricotte〜アルペンブルの歌姫〜』の2本だけ。「東京リーフへの安心感」+「黒系統の地味頭髪」から期待を寄せる前者、完全にライター買いの後者。残りの注目しているソフトは発売後の評判をじっくり吟味して態度を決めるとします。


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