2003年8月分


2003-08-31.

・ヴェドが終わったので新しいのに着手。Groover『グリーングリーン』。ソフト自体は新しくないんですが。一昨年くらいですっけ、発売したの。

 山ん中の男子校に60人もの女子が編入生としてやってきた! というストーリーの青春学園モノ。序盤はひたすら野郎ばっかりにも関わらず、どんどん馴染めて行くのが不思議でした。中高生時代の日常的な「くだらなさ」を楽しく装飾して前面に押し出しており、コメディとしてはネタよりも雰囲気の構築を重視したタイプ。今のところ地味にハマってます。ただ、いくらか強引な展開があることと、ときたま奇抜さを狙ってハズしてしまう場面がありヒいてしまうこと、この2点が不安要素か。それにしてもボイスはアドリブが凄いですな。語尾など、テキストと一致しないところが結構多い。声優による台本の超訳ですか?

・マーカス・セジウィックの『ザ・ダークホース』読了。

「やつらはやってくる。やつらはやってくる」

 黒砂の浜に打ち上げられた小箱が、ストーン村に破滅をもたらした。「漆黒の馬」と囁かれる噂。獰猛な騎馬民族が穏やかな農耕民族を狩り、略奪し、奴隷に加えているという。シグルドは「漆黒の馬」の大群がストーン村を襲う夢を見て不安を覚える。一方、オオカミに育てられていたところを拾われた少女──ネズミと呼ばれる彼女は、シグルドにとって妹のようなものだった。「兄さんになってやる」と約束し、ふたりは特別な絆で繋がれた。しかし、やがて「漆黒の馬」が村へ押し寄せる日が来る。運命は緩やかにふたりを引き裂いていく……

 短めのサスペンス・ファンタジー。三人称視点の奇数章と、シグルドの視点による一人称回想形式の偶数章から成る。全体は300ページ満たず、肩に力を入れなくても読み通せるくらいの分量となっています。タイトルといい装丁といい、内容のイメージがどことなく掴みにくい一冊ですけど、文章は読み易いのでさっくりと作品世界に入っていけます。どちらかというと前半は退屈で、盛り上がるのは後半になってから。目が覚めるほどのインパクトはなかったものの、割合面白く読めました。

・月末ということで、とりあえず今月紹介した本をまとめてみました。以下の15個。

 『死なないで』/井上剛
 『フリージア(1〜2)』/松本次郎
 『魔羅節』/岩井志麻子
 『イリアの空、UFOの夏 その4』/秋山瑞人
 『銀盤カレイドスコープ(vol.1〜vol.2)』/海原零
 『Dクラッカーズ6 追憶−refrain−』/あざの耕平
 『ピアニッシシモ』/梨屋アリエ
 『月に繭 地には果実(上・中・下)』/福井晴敏
 『女たちのジハード』/篠田節子
 『ハーツ』/久綱さざれ
 『Astral』/今田隆文
 『幽霊刑事』/有栖川有栖
 『転生』/貫井徳郎
 『1985年の奇跡』/五十嵐貴久
 『ザ・ダークホース』/マーカス・セジウィック

 ついでにプレーしたゲームも。いま感想をまとめているヴェドを除いて4つ。ほとんど体験版ですが。

 『Kissing!!』体験版(Groover)
 『私立アキハバラ学園』体験版(frontwing)
 『お姉ちゃんの3乗(きゅーぶ)』(marron)
 『めぐり、ひとひら。』体験版(キャラメルBOX)


2003-08-30.

「まとりのSAT」終了。第3話にて完結です。やたら長引かせたせいで反省点の多い作品になってしまいましたが、なんとか終わりにまで漕ぎ着けることができてホッとひと安心。

・『吸血殲鬼ヴェドゴニア』もコンプリート。虚淵節を堪能しました。期待が大きすぎたせいか、ちょっと物足りなさを覚える部分もあったけれど、総合的には納得の行く出来となっています。んー、戦闘シーンをゲーム形式ではなくノベル形式にして、更に後半をもう少し粘ってくれれば一層盛り上がっただろうになぁ。RPGみたくコマンドを選択して戦う方式ではなく、「間違えれば即死」みたいな選択肢を配していればノベルでも充分イケたのでは。やはり当方が感じる物足りなさの最大の原因はバッドエンドらしいバッドエンドがないことですか。

(ネタバレ) BEスキーの当方としては
・「そして誰もいなくなった」な全滅エンド
・「俺こそが夜魔の森の王! この世界はみぃんな俺の物だ! 逆らう者は殺す! 逆らわなくても殺す! 命ある者はすべて殺す! どいつもこいつの血杯に変えてやる! ありがたく蹂躙されろ!」な「もう一人の惣太」エンド
・「また2000年、時を重ねた。大切なモノを失い、大切な想いを抱えながら、私はまだ悠久を歩み続ける」なリァノーンのみ生存エンド
・「お前が憎い……だが、それ以上にモーラを奪った吸血鬼のクソどもが許せない!」なフリッツが惣太とコンビを組むエンド
・「いい素体だ、彼は実にいい素体ですよ」な諸井博士エンド
・「ほうら、儂がお前のお父さんじゃよ」な偽りの団欒エンド
・「フリッツ、モーラ、ソウタ──彼らは夜の世界を統べる支配者となった」な新三銃士エンド
・「弥沙子、俺はどうあってもギターとお前だけは捨てられない」なウピエル逃避行エンド
 この8つは最低限欲しかったところだな、と。
(ネタバレ)

 ま、ともあれこれで「吸血大殲」が読めます。楽しみだ。

・五十嵐貴久の『1985年の奇跡』読了。

 青春野球小説。タイトル通り今から18年前を舞台としているのですが、当時の流行をネタとして盛り込みながらもノスタルジック臭を適度に抑え、軽快な筆致で描いています。コメディとしてはヌルめですが、文章がなかなかにシャープでキレが良く、かなり笑わされました。

 主人公の通う小金井公園高校はうんざりするほど校則が厳しい学校だった。「一流の進学校を目指す」と宣言する校長は生徒を成績によってクラス分けし、下位クラスの生徒の粗を見つけるたび言いがかりに近いレベルで糾弾して謹慎や退学といった処罰を下す。上位クラスはしょっちゅう目こぼしするのに、だ。噂以上のひどい有り様に呆れながらも、主人公は部活動に精を出した。彼の所属する野球部は死ぬほど弱く、試合は好きでも練習は嫌いで、女の子や「夕やけニャンニャン」のためならバットもボールも投げ捨てるほど、どうしようもない連中が集まっていた。そこへ、名門私立に行ったはずの中学時代の友人・沢渡が転校してきて、弱小野球部に「奇跡」をもたらすのだが──

 「努力することが何よりも嫌いな連中があれやこれやで奮起する」といった王道的なストーリー。リーダビリティが優れていて、ほとんど一気に読み通しました。「野球」よりも「青春」にウェイトが置かれており、少年たちのバカバカしくも無上に楽しい日々を満喫したことによって気分が少し昂揚。舞台設定は過去でもノリはどちらかというと現代的で、ネタは古くとも「懐かしさ」に逃げ込むような真似はしていない。あくまで「青春らしい青春」を描いているため、共時性のない読者でも面白く読めるはずです。たぶん。

 デビュー作である『リカ』は出会い系サイトを材に取ったサスペンス、第2作の『交渉人』は緊迫感溢れるネゴシエイターもの、第3作の『安政五年の大脱走』は時代物でまんま『大脱走』をやる破天荒小説と、一作ごとに著しく傾向が変わって作風がのらりくらりとした作家ではありますが、読み易い文章と「引き」の巧いストーリーから生まれるリーダビリティの高さは常に秀逸で、読めば読むほど惹かれていきます。

 この『1985年の奇跡』は「笑い」を求める向きにはうってつけ。「笑い」以外の点で読み応えのあるものを、という方には過去作品の中で『交渉人』をおすすめしておきます。サスペンスの吸引力がまことに絶妙で、これも最初から最後までほとんどノンストップで読み通してしまいました。ネゴシエイターが、立て篭もり犯にストレスを与えすぎないよう気を配りながら警察側に有利な交渉を進めていったりなど、間にご飯を食べる暇さえ惜しくなるくらいの白熱した展開が目白押しです。


2003-08-29.

・チキンラーメンは固いうちに食べ始める焼津です、こんばんは。だいたいお湯をかけて10秒、麺がふやふやになる前に一気に片をつけます。あまり急ぐと噎せるので焦らず、しかし速やかに食べ尽くす。コツとしては半分だけお湯をかけて引っくり返し、更に残りのお湯をかけること。これでちょうどよいくらいの硬度に。

 え、たまごポケット? もちろん眼中にありません。

 そういえば、わさびチキンラーメンってまだありますか? 当方はあれが地味に好きだったんですが、最近見かけない気が。

遠藤正二朗の「絞殺者Q」と「人間島」を公開

 実のところ、当方はこの人のことをよく知りません。『4m』というゲームは雑誌の記事で見た覚えがありますけど、プレーしたことはなく、他のゲームに関しては初めて知るものばかり。とりあえず読んでみたこの2作が割と面白かったので紹介してみました。

 「絞殺者Q」は短編ですが、「人間島」は長編。薄めの新書1冊分に相当します。具体的に書くと密室本クラス。個人的に気に入ったのは「人間島」の方。孤島を舞台にした閉鎖系サスペンスですが、分量もあって読み応えはそこそこ。

「ファミリーコンピュータ」用ゲームソフトの著作権者を探していますACCS

 「レベルX」というテレビゲームの展覧会を開催するため、連絡先不明のメーカーを探してるのだそうな。テクノスジャパンやヒューマンなど、見知った名前もチラホラ。

 テクノスといえばくにおくん。当方は大運動会とドッジボールをかなりやった覚えが。特にドッジ、これは友達とアホみたいにやりましたね。ラインギリギリで飛ぶと同時に低空ショットを決めるのが当方の得意技でした。というか、バカのひとつ覚えで打ちまくっただけですが。

 ヒューマンはやはりファイプロですか。これもアホにしか見えないほどやりましたな。スーファミの方で、試合に飽きてくると審判にぶつかりに行く遊び方をしていました。確かファミマガのウルテク(裏技)コーナーに「これこれこうするとバトルロイヤルができる」というウソテク(嘘の裏技)があったんですが、どうみても画面写真がコラージュとバレバレでした。それでも確かめずにいわれなかったのはゲームバカの宿命。

 スト2で「こうすると四天王が使えるぜ」という噂がいくつもあって、胡散臭いと思いつついちいち付き合った記憶があります。バルログの爪を剥がさずに倒すとか、サガットにわざと負けてコンティニュー画面で特殊コマンドを入れるとか。

 あれですね、「隠しキャラは使えて当り前」って常識がまだ確立し切ってなかった頃だったから余計に必死だったと思うんです、ハイ。

・「まとりのSAT」第3話書き終わりました。次回更新時にアップします。


2003-08-28.

キャラメルBOX「めぐり、ひとひら。」体験版を公開中

 既に廉価版が出ている『BLUE』にてデビューしたキャラメルBOXの第2弾となるソフト。原画は引き続きのり太。現代を舞台にした伝奇ストーリーで、主人公は「視えないものが視える」タチの画家となっている。やけに既視感のある設定だと思ったけれど、「『十六夜れんか』と似てる」と聞いて納得した。あっちは現代ものじゃなかったが、両作とも田舎が舞台なんでどことなく似た雰囲気が出てしまったんだろう。

 生まれつき幽霊が視えてしまう麻生智は視えてしまったものをそのまま描き、「奇妙な絵を描く売れない画家」として一部においてのみ知られる存在となっていた。都会はあまりにも「それ」が多すぎるため、好んで田舎を描く彼は、冬に四季ヶ紫町という町を訪れた。雪が降り積もる中、「ゆかり神社」なる大きくも寂れた社に足を踏み入れたところ、神と死者と怪に満ちた慌しい暮らしを送ることになって……。

 若干読み飛ばし気味で4時間半くらいかかりました。「長い」とは聞いていたものの、本当に長い。音声はカットされているのだから、本編ともなればどれだけ時間がかかるのやら。確実に一周10時間は超えそうな気配。果たして体力が持つのかどうか。

 序盤から早々に非日常的な展開を見せるおかげで「後半に入って突然ファンタジーになってしまう」と違和感を誘うようなこともなく、ノリは安定しています。自称神さまの由を含め、メインとおぼしきヒロインは5人。全員が出揃い、更に日常へ溶け込むまで体験版は終わらない。タイトル画面には「ちょっとだけ」と書いてありますけど、本当にこれが「ちょっと」なのか。

 ライターの度量衡を調べたくなる気持ちが湧くのはさておき、肝心の内容が面白いかというと、微妙です。確かに長いことは長いけれど、あくまで場面ごとの分量が適切に保たれているかと言えばそうでもなく。少し冗長な感じはします。キャラ間の遣り取りもほのぼのして楽しいものの、コメディとしてのキレはやや鈍く、「意表衝きまくりの面白さを味わう」のではなく「想像範囲内の公園で遊ぶ」ような楽しみ方が似合います。とはいえ、「シメサバ」はなんとも深宇宙的テイストでツボにハマりました。

 体験版でプレーできるのは「常ならぬ人々とほのぼの」という部分がほとんどで、たまにシリアスな展開もありますけど、主人公が向かって行くべき大きな目標はあるのかどうかよく分かりません。後半はかなりシリアスな展開にもつれ込むだろうと予測されますが、そこにおいて伝奇要素がどれほどの重要性を持つかも読み切れず。単に「安易な奇跡」をもたらすためのツールとなるのか、物語に「ヒネリ」を加えるためのトリックとなるのか。

 キャラは押し並べて良い感じです。横暴な自称神様の由、義妹で苦労屋のこま、歴としたお嬢様のこりす、女中霊の千草、名字が凄い(咒吠君──「じゅはいぎ」と読む)鏡架と実に個性的な面子。個性的ゆえうまく溶け合わない観もあるが、とりあえず出番の多いこまとこりすは程好く魅力的デス。

 で、当方はやはりこりすに尽きますか。フルネームだと燕子花こりす。要はお嬢様キャラなんですが、立ち絵の表情変化、というよりも手の動きがやばいくらいに蠱惑的。立ち絵の変化に惑わされるのは『秋桜の空に』鞠音以来だな。あの何とも言えない腰の動きが「あと1枚だけCGが埋まらない」と荒み気味だった当方の心を癒してくれました。動きと言えば『Kissing!!』も大したものだったが、あそこまで行くとさすがに落ち着かない。

 ステータスはパーペキなのに境遇がいまひとつなあたりも良い。少女マンガでライバルキャラとして登場してイイトコまで行くものの結局素朴な少女である主人公に負けてしまう不遇お嬢様のような、一歩間違えるとストーカーになりかねない恋愛バタリアンのような、失恋後は「もう恋なんてしない」と言いつつ身を焦がす大恋愛をしてしまうような、深く傷つき易いけれど回復能力は高いってな位置付けがまことに美味しい。怯むことなく堂々と修羅場を演出してくる体験版クライマックスに当方の息も荒くなる勢い。

 システムに関しては、主人公の行動ではなく「次の文章」そのものを選択するという方式にちょっと違和感があったかな。こっちの方が「選べばこうなる」と分かって楽だけど、一人称を基本にしているんだから、あくまで「主人公にどういう行動を取らせるか」あるいは「主人公がどういう認識をしたか」に絞った方が自然だったかと。

 まあ、これは瑣末なことで、当方が一番難を感じたのはメッセージウィンドウ。キャラの立ち絵が左に来ると右へ、右に来ると左へ移動するんですが、同時にふたりのキャラの立ち絵が表示されている場合はイニシアチブの推移に合わせてメッセージウィンドウが右へ左へと忙しなく動いてしまう。これがプレーしていて気持ち悪かった。「この行まで読んだ」と栞代わりに視線を固定していてもウィンドウの移動によって文章が水平方向にズレてしまい、目を動かしてそのズレをいちいち修正するのが辛くて、ちょっと酔いました。ニトロのゲームみたくキャラによってウィンドウの表示位置が変わるだけならまだしも、文章が切り替わらないままウィンドウだけが動くというのは想像以上に目への負担が大きかったです。

 長々と書きましたが、身も蓋もない結論を述べると「こりすたん(*´Д`)ハァハァ」。しかしそれ意外の部分についてはいくらか不満と懸念が残る。ボイスが付いてないせいもあって未だ判断に迷いますね……とりあえずは様子見の方向で。


2003-08-27.

・8/23の日記で触れていたヘルシングカレンダー、真夜中に突然壁から剥がれ落ちました。「ばさっ!」という音に驚いて振り返れば、少佐がゴミ箱に突っ込んでいたのものだから二重に驚くハメに。これは虫の知らせという奴か、などと思いつつ撤去。背後霊がいなくなったような守護霊を喪ったような複雑な気分。

マリみて+……

 ちょっと本気で笑えました。不思議と違和感がないあたり、余計に笑える。ちなみに元ネタはこれですね。


2003-08-26.

・「斬魔大聖」が「さんま大聖」だったらデモンベインの前歯が突き出していそうだな。

・辞書を引いていたら偶然「敷藁(しきわら)」という言葉を発見。もちろん今週金曜発売の『屍姫と羊と嗤う月』を連想しましたが何か?

 積ゲー消化に力を注ぐつもりなので、評判がどうであれ少なくとも今月の間は見送ります。テラルナの『家飛』も同様。あっちはあっちで掴み所がなくて判断に迷いますね。『マリー・メリー・メイ』やってないだけに尚更。

 結局、この8月は何もゲームを買わなかった月となりそうです。

 それにしても、しきわらの体験版をやった直後はあんなに気になっていた続きが今はだいぶどうでもよくなってるあたり、当方は実に飽きっぽい人間だと思います。

貫井徳郎『転生』読了。

 去年の末頃に三省堂あたりの書店員のプッシュでブレイクした『慟哭』により、一躍売れっ子作家になった著者の第8長編。それまでは「いい作品書くけどあまり売れてない」といった感じでしたので、10年近く経ってデビュー作が再評価されたのは素直に驚きでした。社会派と本格、サスペンスと謎解きなど、あらゆる面をソツなくこなせるところがむしろ「器用貧乏」という印象を与え、不遇の観はありましたから、現在の評価は然るべきものだとは思いますけど……一気に有名になってしまったのはやはり寂しいところかな、と。東野圭吾が『秘密』でブレイクしたときと同じような気分になりました。彼も器用貧乏な作家でしたし、なんか重なるところがあるように思えます。

 話の内容は、一言で要約すると「心臓移植もの」。20歳そこそこで瀕死の重態となった主人公が心臓の移植手術を受けます。手術は無事成功し、主人公は周りがびっくりするほどの早さで回復していくのですが、苦手だった甘いものが好きになっていたり、聞いたこともない曲に既知感を抱いたり、無意識に髪を掻きあげるような仕草をしたり、絵を描く能力が上達していたりと、いろいろ奇妙な事柄に気づきます。極めつけは夢の中に出てくる「恵梨子」という女性。知らないはずなのに、とても親近感が湧く。どうしても気になった主人公は、「ドナーと接触してはならない」という決まりを破って臓器提供者のことを調べ出す。

 心臓の移植をきっかけに、まるで生まれ変わったような気分を味わう主人公が「幻の女性」を探す、ちょっとジャンル分けしにくい1冊。心臓移植は角膜移植や腎臓移植と違って必ず脳死者の身体から摘出手術が行われるため、必然的に主人公は脳死問題と向かい合うことになります。脳死とはいえ、まだ動いている心臓を取り出し、移植するということ。その是非、ひいては「自分が助かる必要性」について煩悶する。この手の問題は答えらしい答えがないというのが原則なので、主人公は始終悩み通しです。だからと言って「暗い」とか「重い」とかいうわけでもなく、割とポジティヴな姿勢で向かって行くため気が滅入りません。文章も平易でサクサク読めます。長さを感じさせる要素はゼロ。「先の展開が物凄く気になる」ってほどの麻薬的な面白さは欠くものの、疲れず最後まで読み通すには充分なくらいのリーダビリティがあります。

 「心は脳に在る」だとか、「いや、脳にさえ心は無い」だとかいった話を耳にしても、やはり「心は胸の奥に在る」って感覚はどうにも拭えない。「胸が痛む」や「胸が高鳴る」、「心臓が破裂しそう」など、情動に伴う変化がもっとも顕著で分かり易いのって心臓ですしね。心臓が脳とは別の意味で命を象徴している以上、この感覚は早々簡単にはなくならないものかと。

 読んでいて連想したのは東野圭吾の『変身』。あっちは脳移植でしたが、移植後に主人公が変化していく過程を綴ったという点では似ています。構成がいまひとつな点など、物語としてはちょっと弱いところもありますが、読んで面白かったのは確かでした。


2003-08-25.

・たとえギャラクシーエンジェルの話題だと分かっていても、「カンフーファイター」と言われるとどうしてもこっちの方を連想してしまう焼津です、こんばんは。

 それにしても清水良英はどこに消えたんですか? 当方が富士見の中で切に新作を望んでいる作家は彼が一番か二番くらいですのに。こんなに面白い(いろんな意味で)作品書く人をキッチリ育てないなんて、富士見書房の編集部は何をしているのかと。秋口ぎぐるとの合作「ショットガン刑事 VS カンフーファイター」が文庫で出ないかな……無理か。

夏の読書感想文秒殺コンクール2003

 確かに秒殺できるものならしたかったなぁ。当方は本好きですが、小中高の国語授業はあまり好きじゃありませんでした。先生の話を聞いている時間より、勝手に教科書の先を読んでる時間の方が多かったと思います。テストの方も「なんでこんな野暮なこと訊くかなぁ」と思うことがしばしば。模試の問題文自体は面白かったりするのですが。

 加えて、当方は本に関して強要されるのも結構イヤでした。「課題図書を読んで期限までに感想文を提出してください」とか言われるとホールデン級にめげました。「ライ麦畑で遊ぶ子供たちを崖から落ちないよう監視しろ」と命令された方がまだマシという気分でした。本というのはあくまで自分の意志で読み出すから面白いのであって、他人に強要されて読むマイナス・ムードの中では1/3程度しか面白さを発揮できないと思います。

 中学はよく覚えてませんが、確か高校のときは課題図書がなくて自由に選べる方式だった。それでも感想文を要求されると、読んでる最中に「あ、このへん書いておかないと」とか余計なことを考えてしまうのでやっぱりイヤでしたね。当方が選んだのは講談社ノベルスとか早川書房のポケミスとかそんなんでした。生まれてこの方、読書感想文で誉められた覚えはありません。

 けれど、クラスで県の賞でイイとこまで行った人とか、下級生で賞を取った人とかのを読むと、読書感想文単独でも割と面白くてビックリしました。なんというか、ただ本の面白さを伝えようとするのはダメで、読んで自分がどう思ったかを書くだけでもなくて、興趣をそそる「切り口」が大切なんだな、と実感しました。素直に「真似できない」と痛感。面白い本を紹介するための踏み台みたいな文章ではなく、それ自体が創作物に近い感想文というのは今でも手に負いかねます。

・今田隆文の『Astral』

 著者にとっては初のオリジナル小説に当たる模様。単発読切作品として掲載された第1話が好評を博し、シリーズ化。そして遂には単行本になった、と。経緯としてはドクロちゃんと同じようなものだろうか。

 交通事故で生死の境を彷徨ったあげく、幽霊が霊視(み)えるようになった少年が主人公。小学生の頃に亡くなった幼馴染みの少女や、同じ美術部の部員だった少女など、様々な少女霊と出会ってはあれこれと手を貸します。本当に少女ばっかです。男キャラはほとんどいない。

 幽霊といっても念動力を使ったりといった便利なことはできず、無力感に苛まれているところを主人公が手助けしてイイ感じに……というのが基本パターン。第1話の「おくる河」が個人的にイマイチでしたが、後はなかなか良い塩梅です。派手なトリックや感動は仕込まれていませんが、心地良く読めて心地良く閉じられる1冊でした。どちらかというとイラストの方に惹かれての購入だったけど、これなら続編も期待したい。

・なんだかんだ言ってもゴースト・ストーリーは廃れないもんですね。「ベタだな」と思いつつも読んじゃいますし。当方おすすめのゴースト・ストーリーは有栖川有栖の『幽霊刑事』

 個人的にアリアリはアタリハズレの大きい作家ですが、これは面白かったです。刑事だった主人公は殺されて幽霊になったものの、なぜ自分が殺されたのか分からない。そこでイタコの孫という霊媒刑事の手を借りつつ、捜査を始めるが……と、あらすじだけ聞くとオイシイというよりキワモノめいていて微妙でしたけど、いざ読んでみると「主人公が幽霊」という設定がちゃんとストーリーに活きていて、ミステリとしての出来も良く、期待以上に楽しめた。

 幽霊で誰にも見えない(霊媒刑事除く)主人公は大っぴらに尾行も潜入も盗聴もできて一見最強のようですが、カラダはひとつなので対象をひとつに絞らなければならない。「今の時間は誰を追えばいいだろう?」と考えるあたりなど、推理モノのゲームをしているみたいでワクワクしました。また情報を「見聞きするだけ」で録音・録画したり証拠物件を押さえたりすることはできず、なんとも歯痒い。あくまで機動力の高い偵察ユニットでしかなく、事件をどうにかするためには霊媒刑事の協力が不可欠となる。

 一方で結婚直前だった恋人も出てきて、ゴースト・ストーリーとしての切なさも味わえるという寸法。霊媒刑事に仲介してもらって自分の存在を必死に伝えようとする件が特に印象的だった。あそこの一言はとにかく痛い。

 文庫化したのは最近なので入手も容易だと思われます。機会があればどうぞ。


2003-08-24.

・久綱さざれの『ハーツ』読了。

 もっともマイナーな新人賞のひとつであるムー伝奇ノベル大賞で、第1回最優秀賞を取った著者の受賞後第一作。副タイトルは「死に抜けゲーム」。

 気づけば赤い世界に閉じ込められていた7人の男女。「これは夢だ」と思うが、やけに長く、いつまで経っても目覚めのときが来ない。「トランプで勝たないと出られない」──誰かに説明されたわけでもないのに、そんな強迫観念が植え付けられている。そしてトランプのジョーカーには「ハーツせんよう」と書かれていた。仕方なく、7人のうち4人がトランプでハーツというゲームを始める。やがて勝敗が決し、こんな言葉が表示された。「敗者には死を、勝者には夢の続きを」。最悪のゲームはなおも続いていく……。

 突然降りかかった「死のゲーム」に翻弄される人々を描いたサスペンス・ホラー。ややネタバレ気味となるがもう少し序盤の展開を書くと、ハーツが終了した直後に主人公たちの目は覚める。5年間眠りっぱなしだったキャラまで起きてくるほどで、「なんだ、大して悪いことなかったな」と拍子抜けしそうになったところ、ハーツに参加した1人が死亡したと判明。その後ふたたび眠り込むと、またもや「赤い夢」が……といった具合になる。

 つまり、
 一、主人公たちは寝るたびに『赤い夢』を見る
 二、『赤い夢』はハーツをプレーするまで終わらない
 三、ハーツで負けた人間は死ぬ
 この3つがルールとなる。主人公たちは目が覚めてる間に現実世界で情報を収集して、この狂ったゲームを終わらせようと奮闘する。どちらかと言うと、ハーツをプレーするフェーズよりも情報を集めて回るフェーズに重きを置いており、ノリはカイジというより『リング』に近い。ビデオをトランプのカードと置き換えれば分かり易い。「ハーツせんよう」と書かれたジョーカーを目にした人間は「赤い夢」を見るようになってしまうわけだ。

 率直に言って文章はそれほど巧くない。セリフで「……」を多用しすぎるきらいがあり、真相究明の際もやたら説明的だったり迂遠だったりする。また、物語としても若干強引というかしっくり来ない部分が多く、『リング』における貞子みたいなインパクトをこの作品に期待するとやや肩透かしになる。ある種の鮮烈さはあるが……。キャラクターも「人物」というより「役割」としての性格が強く、「役割」そのものに思い入れできない限り魅力を覚えるのは難しいだろう。

 あまり誉めていないし、たぶん一般ウケもしないだろうとは睨んでいるが、あくまでサスペンス性の高いB級ゲーム小説として見ればなかなかイケる内容で、実のところ当方は結構気に入っています。「なぜこの夢は『赤い』のか」など、細かな要素の絵解きにゾッとすることもあり、「さあ『リング』を超えてみせろ!」とか過度の期待を抱かなければそれなりに楽しめます。もう少しストーリーに説得的迫真性があって、キャラの魅力も水準以上だったら、小さなヒットは夢じゃなかったかもしれない。とはいえ、役者のイモ加減が必要以上にいかがわしい空気を漂わせて変に盛り上がってしまうへっぽこホラー映画のような、この生温い低級感も捨てがたい。スナック菓子を食み砕くがごとき気負いのない態度で臨むにはちょうど良い一作です。

・あー、そういえば、タイトルの割によく売れたという『リアル鬼ごっこ』も一種のデス・ゲームものみたいですね。読んだことないんですが。最近だとやはり『バトルロワイアル』がこの手の代表作でしょうか。貴志祐介の『クリムゾンの迷宮』なんかはサバイバル要素が濃くて面白い。ライトノベルだと高畑京一郎の『クリス・クロス』が思い浮かぶが、あれはデス・ゲームというより単にゲーム小説か。パソゲーではTYPE-MOON『Fate/stay night』に期待といったところ。

 個人的な欲望を吐き出すと、秋山瑞人、乙一、恩田陸、新堂冬樹、西尾維新あたりにこの手の小説を書いてほしいなぁ。秋山には熱い男と萌える少女と胃が荒れる展開を、乙一にはナイフを持った少年たちの涼しげな殺し合いを、恩田には老若男女を取り合わせそれぞれの思惑とそれぞれの信念がぶつかって合流したり弾き飛ばしたりといった形而上スペクタクルを、新堂にはひたすら下品でひたすら汚くひたすら暗いのに笑いとセンチメンタリズムが詰まったノリを、西尾にはノン・シリーズでキャラにも読者にも容赦しない徹底的な殺尽を、それぞれ期待する。マンガ家だったら日本橋ヨヲコと八房龍之助。前者には青臭い爽快感、後者には奇妙な味が期待できそうだ。

・ヴェドゴニアは現在2周目が終了。デモンベインを先にやってたせいか、1周目はボリューム的に物足りなさを覚えた。1周目のルートは来栖香織だったのですが、率直に言って後半の展開が性急すぎていまひとつでした。香織は魅力的なだけに少し残念。2周目は白柳弥沙子で、こっちは面白かったのでヴェドゴニア自体の評価は上方修正しました。ボリュームは同じくらい(いや、少し多い?)だけど、こちらの方は物足りなさを感じなかった。最終話で話が一気に決着してしまうところは一緒でも、こっちの方はそれらしい伏線をちゃんと張ってあったから受け入れられたし。香織ルートでは片を付けていなかったところもキッチリ消化しているあたり、特に好印象だった。どうも周を重ねるごとにストーリーの厚みが増す仕様となっているみたい。

 それにしてもギーラッハはカッコ良かった。リァノーンとの出会いでの会話や、「騎士道は根にして茎」など、一言一言が印象的。役回りはちょっとカッコ悪かったが、それもまたイイ。ただ、こいつが目立っているせいで弥沙子ルートであるにも関わらず、弥沙子の存在感がかなり希薄になってたけど……。

 デモンベインが見せた凄まじいまでの終盤の粘り強さもさることながら、序盤から中盤にかけてはゆっくりめに話が進み、終盤は速攻で畳み掛けるヴェドゴニアも素晴らしい──と思えるようになりました。虚淵テキストは一見地味ですけど、じっくり読むと贅肉を削ぎ落とすことによって生まれる研ぎ澄ましされた鋭さがあり、ラストの短さが適量であるように感じられる。渋いな。ミステリで喩えると横山秀夫並みの燻し銀。けれども、野郎たちのオーラが強すぎてヒロインらの存在が霞むみがちなのは難点。とりあえず残りも早めにプレーするとします。


2003-08-23.

・不意にヘルシングカレンダーを壁に掛けたずっと放置していたことに気づく。しかも2月でめくり忘れたまま。少佐が左手をクイッと挑発的に折り上げつつ、微笑んでこちらを睨み下ろしています。「ハーケンクロイツが見てる」状態です。

「眼鏡が曲がっていてよ」
 少佐の太くころころした指がハインケルの眼鏡に触れ、そっと位置を修正します。

 なぜ咄嗟にハインケルが思い浮かんだのだろう。

・篠田節子の『女たちのジハード』読了。

 第117回直木賞受賞作。なんとなく読み出し、序盤がイマイチで不安を覚えたんですが……いやぁ、面白かった。3人のOLをメインヒロインにして綴る連作長編で、物語としては少し取りとめがないものの、人生そのものを読むような行き当たりばったりの面白さがあって、ほとんど一気読みしました。かなりのリーダビリティ。3章目の「シャトレーヌ(城主)」からグッと熱くなります。テーマがどうこう言う以前に、ただ単純に面白かった。

 気に入った登場人物は純子。脇役ですが、存在感はなかなか。メインヒロインでは康子かな。穏やかでいてエネルギッシュなあたりとか。リサもキャラクターとしては面白いし、話の方も盛り上がってるんですけど。タイトルと装丁がいまひとつ心を惹かないため長らく敬遠していましたが、ただの食わず嫌いでしたね。篠田節子の著書を読むのはこれが初めてで、今まではあまり注目していなかったけど、今後はちゃんとチェックを入れることにしよう。

犬江氏より残暑見舞をいただく。ひょんな驚きに興奮して体温が上がり涼しさが台無しになりましたが、ともあれこちらにアップしました。このまま「いただきもの」コーナーをつくろうかとも思いましたが、うちのページの性格(他所様とは超没交渉)を考えるだに恐ろしく寂しいコーナーになりそうなので思案中。いや、全体的に寂しいページだから際立ちはしないか。というわけで即決でつくりました。勢い任せの運営ですね。


2003-08-22.

・棚から目的の本を取ろうとして、なぜかその隣の本を取ってしまう怪現象がやみません。まるでザ・ワールドを喰らってるような気分。そういえば高校生のときに友人が「時を止めて細かい作業をしているDIOを想像するとマヌケだな」と言っているのを聞いてハッとしました。ポルナレフが階段を上ろうとした瞬間に余裕のポーズを組んでいたDIOが時を止め、わざわざ階段を下りて(たぶん飛び下りるんでしょう)ポルナレフのところへ行き、一歩だけ下がらせてから元の位置に戻ってポーズを組み直す……以下繰り返し。確かに、考えるだにマヌケです。しかしジョジョ3部、終盤でロードローラーを持ってきたDIOはどうやってあれほどの跳躍力(ロードローラー込み)を発揮することができたのだろう。

・ここのところ小説版『R.O.D』をまとめ読みしています。既に最新刊の8巻へ到達。毎回冒頭が面白く、微笑みを浮かべて読む当方は傍目から見てアレですが。ところで7巻に「小学生の頃に『ファイアスターター』と『コインロッカー・ベイビーズ』の上巻だけ買って、両方とも深夜に読了して午前10時まで続き読みたさに悶絶した」ことがキッカケでシリーズ作品はまとめ買いするようになったとあるのですが、「上下2分冊」や「3部作」みたいに1冊の完結性が薄い複数巻本をまとめ買いするのと、1冊1冊が完結している読切型のシリーズをまとめ買いするのって少し違うような気がしないでもない。当方がこの『R.O.D』をまとめ読みしているみたいに、「シリーズを一気にガッと読み通して作品世界に浸りたい」という欲求も確かにあるんですが。

・『ちゃっく!ついてる!!』というゲームの存在を今日初めて知った。「ひろってください」のダンボールに入っていた幼い少女、その背中にはチャックが! 「ソノコヲ ヨロシク オネガイシマス」と言い残して去る黒服の背にもチャックが! ってなストーリーらしいです。しかし、LiLiMの紹介Luridの紹介でヒロインの髪が色違いになってるように見えるのは気のせいですか? クリスマス(天気予報)とブチャラティ(汗舐め)をこよなく愛する当方としては何気に心が騒ぐけれど、ヴェドゴニアがまだ終わらず姉しょも積んだままなので素直に回避するとします。

・水鉄砲で遊ぶ子供たちを見て「あれでガン=カタをやったらどうなるだろう」と想像してしまった当方はかなりダメっぽいです。

 隙を見せたのは、罠だった。
 武志は、徹がトリガーを引く寸前にその腕を跳ね上げ、懐に飛び込んだ。
 これだけ近接して射線を逸らせば、反撃は完全に封じられる。
 算数と理科の宿題に苦しみ、統計学と物理学の遙か前方で躓いている武志にも理解可能な、単純極まりない理屈だった。
 頬がふてぶてしい笑みに歪んだ。
「徹、これでお前もオシマイだ!」
 銃口を脇腹に押し付けて叫び、指に力をかけ──
「オシマイなのはお前だよ、武志」
 ──ようとして、己の致命的な失策に気づいた。
 弾いた徹の腕がやけに軽かったのは錯覚か?
 いや、あれは武志の力を利用し、より素早く上方へ向けるのが目的だったのではないか?
「しまっ……!」
 反射的に空を見上げ、視界いっぱい広がる青の中にキラキラと煌くものを認めた。
 顔へカルキ臭い水が降りかかる。角度良くストレートに鼻孔へ突っ込んできて、たまらず噎せ返った。
「お前はアクション映画の見過ぎなんだよ。本物の鉄砲なら、銃弾を上に撃っても当たることはまずない。だがな、水鉄砲くらいだと簡単に重力が作用してしまうってわけだ。『天に向かって唾を吐く』って諺知ってるか? あれと同じで、天に撃った水はすぐに降りかかってくる。もっとも、降りかかるのは撃った本人にとは限らないんだがよぉ」
 せせら笑った徹は、空のマガジンを抜き、半ズボンに差し込んでいる水の詰まった新しい奴と交換する。
 目をつむって咳をする武志に向け、容赦なく水流を連射した。
「ち、ちくしょぉぉぉ!」
 武志の全身が敗残の涼気に濡れていく。
 ジワジワジワジワジワァァァ……
 ふたりを囲う木々で、蝉どもが焦げるような鳴き声を響かせた。

・さて、ヴェドゴニアでも進めよっと。


2003-08-21.

「浅羽、零崎を始めよう」

・イリヤアフターSS「零崎哀識の超人計画」、もとい「アサバの鋏、裁断の春」改め「正しいハサミの使い方」を公開。『イリヤの空、UFOの夏』の4巻を読了した人はどうぞ。タイトルが3つも挙げられてるのは書いてる途中で話の内容がころころ変わったからです。つまり、「1.伊里野が零崎一賊に拾われる」→「2.浅羽が正体不明のエイリアンと戦う」→「3.現行版」と。文体模写は苦手なので、当方にやりやすいノリでやりました。狙いが思い切り逸れてしまった感じもするけど気にしない。

 個人的にイリヤの結末は4巻のあれで満足しています。ハッピーエンドかどうかは意見の分かれるところですし、ハッピーとかアンハッピーを脇に置いても、「最悪じゃないけど最善じゃない」、「次善」止まりの終わり方という観は否めない。それでもなおあの結末が愛らしく、否定する気にはなれません。でも物足りないので当方なりにちょっと書き足してみたわけです、はい。

 「まとりのSAT」も忘れているわけじゃありません。今月中には終わらせる予定です。


2003-08-20.

・昼、「山茶花」は「さざんか」か「さんざか」かを巡って茶飲み話から激論へと発展。「字から言って『さんざか』に決まってるだろ」「いや、『さんざか』なんて聞いたことないよ。『さざんか』以外ありえない」と言い合った末、調べてみたところ。

 さざんか【山茶花】(「さんざか」の変化)

 普通にドローでした。

・ヴェドゴニアは順調に続けてます。それにしても武器の名前がいい。ショットガンを指して「挽肉屋(ミンチ・メーカー)」だとか。吸血鬼に家族を惨殺されたガンスミスと肉屋が「ヴァンパイア許すまじ!」と憤怒に燃え、いかにすれば吸血鬼を効率的かつ無惨に挽肉へ追いやれるか日夜研究と検討に暮れ、肉屋は完成間近のところでわざとスラッグ弾の前に身を投げ出してジエメイの如き生贄となり、ガンスミスはギリョウみたいな鬼気迫る形相でミンチ・メーカーを製作し、腕が銃に溶け込んだかと思えば遂には一体化していった……という光景がありありと浮かんできます。完成した品はやがてハンターの手に渡り、あっという間に伝説の魔器へと祭り上げられ、夜の住人どもは「ミンチ・メーカー」の名を聞くたびガクブルするのがデフォとなる。「ひぃぃぃ、ミンチ・メーカーがぁぁぁ!」 悲鳴の後に残されるのは銀に食い荒らされた骸のみ。「肉は肉に、骨は骨に」と唱え、ハンターは異形の心臓へトドメを刺す……ともあれ、いっそのことタイトルを『吸血殲鬼 挽肉屋』と読みかえたいくらい胸キュンです。

・「リアリティを追求しました」と宣言し、宇宙での艦隊戦に一切のエフェクト音を付けないまま延々と上映し続けるSF映画はイヤだなぁ。数人を切った時点で刀が刃こぼれして後は鋸引くようにゴリゴリ敵を倒し続けるチャンバラ劇や、テロリストが人質を撃つ直前に狙撃したにも関わらず死後の痙攣で結局人質を撃たれてしまうアクション映画並みに。


2003-08-19.

・暇がなくなってきましたが、なんとか時間をつくってヴェドゴニアのプレーに力を注いでいます、はい。

・というわけでヴェドゴニア2日目。第8話まで行きました。普通の少年がダークサイドに片足突っ込んでどんどん後戻りできなくなっていく過程を抑制の利いた筆致とシャープなCGで綴っており、なかなかに楽しい。派手に燃える場面はそれほど多くないけれど、ところどころに静かな起伏があって、痒い部分をちょいどいい強さで掻いてくれるような心地良さが味わえる。毎日画面にかじりついて再放送の30分アニメを堪能していた少年期のワクワクがそのまま甦ってきます。

 グロ描写はそれほど濃くないものの、全編に流れる容赦ないムードが「話をいくらでもひどい方向に持っていけるぞ」と囁き、1話終わったら次の1話が単純に気になってしまう。OPやEDがあって、やたらアニメを意識した構成になっている割に次回予告がないものだから余計に先が気になって中断できない。EDが終わって次の話に移り、OPの前に十数秒程度だけ挟まれる各話の冒頭が好きです。さりげなく不安を煽って興味を惹きつつOPへ突入するものですから、ついムーヴィーを飛ばしたくなる。そこを我慢してOPをちゃんと見てから本編へ入る──このときのささやかな満足感がなんともいい。章題をOPの後に表示する形式になっているのもグッド。たかがタイトルとはいえ、やはりOPの前に表示されると締まりがない。毎回二文字の題が話を象徴しているのだから尚更だ。

 「もう一人の自分」みたいな使い古された小道具さえ、この懐かしい雰囲気によって魅惑的なガジェットに見えてしまうのだから不思議。あと、当方はバイクスキーではないので、バイクが出てくると知っても「ふーん」としか思わなかったんですが……いや、虚淵のバイク描写はなかなかカッコ良かったデス。バイクや車を「獣」と見做して描くのはさほど珍しくないかもしれないけど、端的に決まっていて痺れました。

 主人公が望まずして力を手に入れ、敵と戦いながらどんどん深みに嵌まっていくストーリーはなんとなく、というかもろに『仮面ライダーVJEDOGONIA』というタイトルが思い浮かんでくるほどのノリですが、ともあれ相変わらず今後の展開が楽しみ。

・「米がなければパンを食べればいいじゃない」とばかりにパン食に切り替えているこの頃。フランスパンや明太子フランスパン、ガーリックフィセルをガジガジやってます。柔らかいパンも好きですが固いパンを唾液で湿らせながら食べるのも好きです。特に揚げパンは固くてナンボだと思ってまして、ふにゃふにゃ柔らかい揚げパンはよぅ食べれません。加えてきなこも反則指定。当方はあくまでざらめ派です。


2003-08-18.

・福井晴敏の『月に繭 地には果実』を読了。文庫で全3巻、1000ページを超えるなかなかの分量ですが、終始面白くてダレることがありませんでした。地球と月を舞台にした物語は進むにつれスケールが膨れ上がっていき、状況もどんどん凄いことになっていく。福井恒例のアレまで出てきて、ちょっとやりすぎなくらいのテンションです。

 この人の文章は「福井節」と言ってもよいほどクセがあり、そのへんプロローグを見ただけでも丸分かりなんですが、読み手によっては「ノリが青臭い」「表現が生硬」「気取り方が恥ずかしい」と鼻に付くかもしれません。でも個人的には味があって好きです。

・行方知れずになっていた『ヴェドゴニア』は無事発見できました。うきうきしながら包装を解き、いざトールケースを開けるたら中にテレカが入っていました。知らなかったので少しびっくり。まあ、ともあれインストールしてパッパと開始しました。

 で、現在2話目まで終了。抑制の利いた虚淵テキストと、独特の味わいがあって男女ともに魅力ある中央東口のCGがとても良い。まだ序盤なので地味という観は付きまとうものの、気分はじわじわと昂揚してきている。戦闘がちょっと煩雑そうではあるが、今後が楽しみ。

 ところで当方がニトロプラスの存在を知ったのってこのソフトがキッカケなんです。発売前、あれは確かP天だったと思うのですが、エロゲー雑誌をパラパラ読んでいたらやけにゴシックな広告が目についたんです。赤い景色を背にして立つ小さな喪服っぽい少女と手が血に汚れたゴテゴテなクリーチャー。「灰は灰に、塵は塵に」なんて言葉も躍っている。画面写真は一切なし。「エロさ」が微塵もない広告で、「これは本当にエロゲーなのか」と目を疑ったものでした。あれほど広告で度肝を抜かれた例は、他に『聖域〜嘆きのウサギ〜』くらいしか思いつかない。すぐさまチェックを入れて、ここのメーカーが『Phantom』というゲームを出していることを知り、ネットではなかなか好評の様子だったため、割と迅速に購入の決意が固まりました。そのくせ2年半も積んでいたんですけどね……楽しみにしすぎて逆に崩す機会が見つけにくくなってました。

 デモ・ムーヴィーやシステムなど、そこかしこに漂うダサさとチープさがむしろ魅力的なスメルを放っているように感じられマス。何もかも完備してムーヴィーにまで金かけまくって「死角なし!」と隙のないつくりをしているゲームより、一方向しか特化していなくて隙だらけ、ってなゲームの方がなんか落ち着くという心情。完成度の高いゲームって、面白いことは面白いけど、やってて妙な緊張感を強いられるんですよね……息が詰まりそうな感じと言いますか。マリオとかの水中ステージに熱中していると呼吸が苦しくなってくる感じと言いますか。一個か二個くらいグレード落ちていた方が却って肩の力が抜けて快適にプレーできる。ちょっと隙があるくらいが「遊び」としてちょうどいいと思います。まあ、要は当方が根っからのヌルゲーマー気質というだけのことなんですけど。

・特に脈絡もなく「狂気太郎」さんへのリンクを追加しました。ここは数年前、メフィスト賞について調べているときに見つけたサイトです。『殺人鬼探偵』という連作集が応募作だったようです。試しに見てみたら、推理も何もなく殺戮に走る内容にショックを受けました。一話目を読んだ後、次の二話目を読み出すまでに少し間が必要だったほど。一度慣れると面白いところなんですが、慣れないうちはキツイので初めての人はそれなりに心の準備を済ませてからどうぞ。当方は「ボーダー」が一番好きです。灰崎抗というPNで作家活動もされていまして、現在『想師』『殺戮の地平』『想師U 悪魔の闇鍋』の3冊が学研から発売中。『想師』のみハードカバーであと2冊は新書。「真実は無数に存在する」を合言葉に、見たい「真実」を選んで力を振るう『想師』は当方的にオススメの伝奇バイオレンスです。


2003-08-17.

・矢襖! 『英雄』が見たくてしょうがありません。というか必ず見に行きます、なんとしても。

・おねきゅーはコンプしました。3周したら後はサックリと終わりましたんで、どうも三姉以外のルートはオマケシナリオの扱いとなっているみたいです。『秋桜の空に』で「終盤の展開ほとんど一緒やん」と方々からツッコまれたのが利いているのか、今回はルートごとに展開が結構変わります。テレビCMが季節によってバージョン変更するくらいにはバリエーションがあります。けど、それが効を奏しているかと言えばいまひとつ……。最後の最後に辿るルートにしても、終わった後の達成感が薄くて、「ああ、コンプしたんだなぁ」という感慨が湧いてこない。???が○○したままとか、意味ありげなアイツが結局ストーリーに絡んで来なかったりとか、投げっ放しになってる部分も多い。そこは残念。

 詰まるところ竹井10日のテキスト、というか下ネタ特盛ギャグが『お姉ちゃんの3乗』最大の魅力ですね。とにかく勢い。勢いがありすぎて本筋さえ破壊しかねないほどの猪突猛進ぶり。具体的に書き出してみてもあまり面白くないので例は出しませんが、普通に見ればムチャクチャとしか形容しようのないネタをガンガンぶっ放しても作品が崩壊せずにギリギリ一定ラインで保たれているのは一種の奇跡かと。しつこすぎて辟易してしまうところもあるけれど、ここまでムチャをやられてもなんとか受け容れられる「雰囲気」と言いますか、「場」を構築する力は凄い。盛り上がっている席上だとくだらないジョークでもつい笑ってしまうような、そういう「場の空気」に触発される昂揚感をさりげなく引き出している。ネタそのものも異次元から引っ張ってきたとしか思えないステキな代物が多いけど、やはりノリの良さから来る楽しさが一番の収穫でした。「姉」に関しては「甘やかし」の緩急がうまく付いてなかったせいでさほど印象的ではなかったものの、竹井の妙味を堪能することができたので当方としては満足。

・深夜3:20にテレ東で『食神』をやるみたいです。馳星周のPN元ネタである周星馳が監督・出演。料理コメディですが力の限り暴走しており、見れば変な笑いが止まらないこと請け合い。


2003-08-16.

・暑くなったと思ったら肌寒いくらいになっている気候。この「熱しやすく冷めやすい」ぶりは当方の貧弱性根並み。と考えれば少しは親近感も湧きます。いや、むしろ湧くのは同族嫌悪か。

・おねきゅーは順調に進んでいます。2周目終了。「姉」という要素については、率直に言って過剰すぎるきらいがあり、いまひとつ楽しめなかったものの、賑やかさ、騒がしさ、そして何より辟易するほどのシモさが当方の弱腰を粉砕します。なんというか、選択肢が出てくる場面で単純に心が躍るゲームというのも久しぶりです。選択肢がシナリオ分岐のためのツールとしてではなく、それ単独で遊ぶことのできる玩具として配置されている気配が濃厚。

 ただ、「時空の歪み」とか「分裂」、「三人の姉」といった設定が細かく規定されておらず非常に大雑把なせいで終盤の展開が恣意的に見えてしまい、シナリオの説得力が乏しく感じられます。そこは残念だったかな、と。プレーしていて楽しいことは確かなので当方的にはアタリなんですが、なんか、こう……『秋桜の空に』にハマったときに比べて中毒性が薄い。あれに関してはコンプし終わってからも余韻が抜け切らず、一週間もしないうちに再プレーを始めてしまったほど、実に異常なくらいハマった。でもおねきゅーは、「ひと通り回ったらそれでいいかな」という程度しかのめり込めない。まあ、「ひと通り回る」が「全種類の選択肢を試す」って意味ですから、普通のゲームよりかはハマっているわけですけど。

・直感的に「暮れなずむ」と「クリムゾン」が微妙に似ている気がした。「クリムゾン空」、「デス暮れなずむ」、「暮れなずむキング」。……あんまし似てない。思った以上にダメっぽい直感だった。


2003-08-15.

・シモい、シモ過ぎる。

 というわけで『お姉ちゃんの3乗』略しておねきゅー1周しました。声が付いていない分サクサク進んでよし。シリアス展開は弱かったけど、とにかく竹井10日が繰り出す怒涛のコメディに溺れ笑った。下ネタ含有量があまりにも高くて、ヒくこともしばしばだったけど。「下井10日」と心の中で呼んでおく。こうもあっさり排泄ネタをバンバンかましてくるとは……。

 下ネタの他にも選択肢が面白かったです。その後の展開に影響しない無駄選択が山ほどあり、その無駄っぷりがおかしく極上に腹筋キラー。選択シーンになるたびセーブしてすべてのパターンを確かめずにはいられない。また、いくらかアヴァンギャルドな試みが為されており、大筋の展開は予想できても小ネタは完全に予測不可能の域へ達している。勢いと思いつきだけで構成されたギャグがステキ。逸脱三昧の日々が楽しめます。

 しかし、肝心のあのシーンについては……前作の『秋桜の空に』も剃毛とか母乳とか凄かったけれど、今回はますます斜め上を行っているような。正直、リアクションに困った。「俺たちが竹井を試すのではなく……俺たちが竹井に試されているッ!」。当方はこんな試され方をするために生まれてきたわけではない。

 とまあ、いささか付いていけないところもありますが、ともあれ、荒波の如き「笑い」を堪能できたのでヨシとしておきます。滑ることもコケることも厭わず、ただ暴走機関車となって果つることなく脱線し続ける比類なき竹井テイストの前において、当方は全面降伏するより他術なし。

 これぞ竹井。鋼鉄の翼、無敵の車輪、腹筋キラー。


2003-08-14.

・『ヴェドゴニア』が行方知れずになっていたので代わりに『お姉ちゃんの3乗』をプレー開始。……前作『秋桜の空に』と比べ、下ネタの度合いが尋常じゃなくアップしています。エロいのではなく、シモい。清々しいくらいにコンシューマーへの移植が不可能ですね、これ。お姉さん的存在だった従姉が「時空の歪み」やら何やらで3人に分裂してしまうという実にアレな設定の姉ゲーというか甘やかしゲーですが、むしろメインよりも外野の連中の方に魅力があるような。被害者オーラを常時発散させているドリ子がとても良い。最初はどうでも良さげな気分で見ていた変テコ三段活用がじわじわ効いてくる。甘やかされるのは二の次にしてこいつを弄り回したい。

・ラ板の西尾スレから面白いものを発見。「川蝉の戯言」、ここの「文庫」→「月姫等の二次創作文章」の順に入っていくと「月姫」と「痕」と「零崎双識の人間試験」のクロスオーバーSS「零×七」があります。割と読み応えがあって楽しめました。

・梨屋アリエの『ピアニッシシモ』読了。「いちばん弱い音が、いちばん強く心に響く」という帯文に釣られました。吉野松葉という女子中学生が主人公。昔慕っていた独居老人の時子さんが、引っ越しの際にグランドピアノを人に譲り渡した。旋律の記憶に衝き動かされ、松葉は譲り受ける先の家を尋ねる。そして、南雲紗絵という同い年の少女と出会い……ってなガール・ミーツ・ガールの青春小説。明るく爽やかにヘイト系のノリ。悪人はいないが善人もいない。基底は憎悪ではなく嫌悪。檻を破って殻に篭ったり、殻を破って瓶に閉じ込めたり。短いけど割と面白く読めた。


2003-08-13.

・忙しくなくなると同時にいろんな方面への「やる気」が払底するのはどういった仕様なのか。今のところ本読む気力を保つくらいがせいぜいです。

竹箒日記によると『Fate/stay night』のシナリオは完成したらしく、あとは分岐などの細々した部分だけとか。9月は無理っぽいものの秋にはなんとか、という話もありますので、ボンヤリと期待しておくとします。イリヤの夏が終わってイリヤの秋が始まるかどうか。

・福井晴敏の『川の深さは』を読……もうとして『月に繭 地には果実』が未読だったことに気づき、急遽変更。『ターンAガンダム』の小説版で、新書刊行されたときはそのまま『ターンAガンダム』(「ターンA」は例の倒立したA)だったんですが、一般の読者を引き込む狙いもあってか、文庫化に際して改題されました。アニメの方は見てませんが、同時進行企画だったとのコトなので支障はないはずです、多分。上中下の上巻を読み終わり、現在中巻の半分あたり。実のところあまり期待していなかったけど、読み出してみればこれがなかなか面白かった。単純に善悪の対立構図を取らずに「それぞれがそれぞれの立場」を持っている仕組みは、ストーリーにヒネリを加えつつ盛り上げてくれる。スカッとするようなアクションはまだないものの、この先の展開が楽しみ。ガンダムはあまり詳しくないだけに長らく積んで敬遠していましたが、なんのことはない、ただの食わず嫌いだったみたいです。


2003-08-12.

・脳内で「こつえー」と「みさくらなんこつ」がクリーミィに混ざり合ってる焼津です、こんばんは。「こつ」しか合ってないのですが、未だに混同してしまいます。こういうのって一度間違えて覚えたら癖がついちゃって、何度訂正されても直らないんですよね……。「はいてない」がこつえーで、「ふたなり」がみさくらなんこつだとは分かっている、頭では分かっているつもり。でもこつえーの絵を見て「なんこつ」と口走ったりその逆をやったりする癖がどうにも抜けない。エスカレーターとエレベーターみたいな感じ。ちなみに幼少期の当方は両方をまとめて「エスカレベーター」と呼んでいました。類例はあるだろうかと検索してみたらこのようなエッセイが。「永遠」の件で爆笑。

・“メフィスト”の最新号、巻末の座談会だけ立ち読み。んー、ここ数号、座談会見て「これ読みたいな」と思う作品が出なくなってきてます。ほぼリアルタイムでメフィスト賞を知り、森から小路まで残らず追っかけてきた当方ですが、どうも最近飽きが来たみたいです。新人は西尾くらいしか期待していませんし、今までの作家で現在も期待しているのは新堂、古処、舞城の3人くらい。第26回受賞作の『死都日本』はクライシス物としては凄く面白かったけど、作者の石黒に対して今後も期待できるかと言えば微妙。今のメフィスト賞は「つまらない」とまで行かないにしても、地味で華やかさに欠ける。骨の髄まで楽しめるようなエンターテインメント作品が出てこない。新人賞としては電撃ゲーム小説大賞並みに好きなところだから、どうにかこのイマイチ感を早いうちに払拭してほしいな。

・凍った鶏肉を薄くスライスして唐辛子なんかも入れつつ油で炒めてみました。味付けは塩コショウのみ。チップス状になってなかなか美味しかったです。ごはんも進むこと進むこと。消費期限を○日過ぎている事実なんて少しも気にかけず食べ切りました。……凍らせた肉ってどれくらいは大丈夫なんでしょうかね?


2003-08-11.

・秋山瑞人の読みが「あきやま・みずひと」だと初めて知った人がここにいます。てっきり「みずと」だと思っていた……。どうにも当方は確認を怠りがちで読み間違い・書き間違いが多いです。時雨沢も「しぐれさわ」と読んでいましたし。

・話には聞いていたものの今まで手に取る機会のなかった飲料。ヴァニラコーク。500mlのやつを勢いで買ってみました。現在、手近なつまみに合わせつつ飲んでいるのですが……なんか、普通に「溶けたバニラアイスがコーラと渾然一体になったフロート」っていう味わい。舌や喉を流れていくまろやかさが、むしろ侘しく感じられる夏の夜。

・「新刊、三日読まざれば積みとなるべし」の言葉通り、ライトノベルにかまけているうち、あれだけ楽しみにしていた『陰摩羅鬼の瑕』を読み出す機会を逸してしまいました。あの厚さにチャレンジするための気力が足りません。かなり目減りしています。なんとか夏の間に挑みたいものだけど……。


2003-08-10.

・台風接近の日は心が浮き立つという人もいるみたいですが、雨も強風も嫌いな当方としては普通に憂鬱です。折られないように折られないようにと気をつけていたにも関わらずあっさり傘の骨を歪まされ、ガックリとめげるハメとなったこと数知れず。「あのベギョバギョって感触が、今でも手に残っているんだよ……」

・あざの耕平の『Dクラッカーズ6 追憶−refrain−』を読了。

 登場人物が「カプセル」と呼ばれるドラッグみたいなものをキメてハイになって壮絶なバトルを繰り広げるアクション・ストーリーです。概要だけ書くとなんとなくヤバめに聞こえるのは仕様。このDクラ、富士見ミステリー文庫……一部では「地雷原」と囁かれるほどアレなレーベルにおける稼ぎ頭のシリーズで、数少ない「増刷されている作品」。ちなみに1〜3巻は初刷verと増刷verでカバー絵が異なります。カバー絵を手がかりにして買っていると間違えて「二度買い」とかしかねませんのでご注意を。

 このDクラは本編1〜6までと、短編集2つ、計8冊が既刊となっています。もうそろそろ完結も近い気配です。当方がこのシリーズに興味を持ったのは、作者が『神仙酒コンチェルト』の字野耕平だったからでした。禁酒法時代のアメリカを舞台にしたストーリーで、なかなか軽快に面白かった。最近の『バッカーノ!』を読んだときもこれを思い出すほどでして。ところで、作者名はあまりにも「宇野耕平」と間違われるため「あざの」と平仮名に直した様子。実は当方も宇野耕平だと思っていました。田島昭宇は田島昭字と間違えていたくせに。で、Dクラの1巻は富士見ミステリー文庫の創刊ラインナップの1冊として出版されていますんで、あざのもDクラも富士ミスの最古参ということになります。創刊時に本を出した作家は8人いるのですが、未だに富士ミスで活躍しているのはあざの耕平と南房秀久くらいです。

 Dクラッカーズはシリーズの魅力を詳しく伝えようとすれば、少なくとも1巻はネタバレしないといけないので薦め方が難しい。燃えるバトルや熱い展開があり、キャラクターの魅力も多方面的に構成されていて、ストーリーも凝っているから、とにかく読んでいて面白い──と、やや曖昧な書き方になってしまうんですが、とにかく当方がこのシリーズに惚れ込んでいることは確かです。巻を重ねるにつれ設定が少しややこしくなりますけど、毎巻がシリーズ全体のストーリーを進展させる一方でその巻単独の話をキッチリ盛り上げる、ある意味ではごく当り前のスタイルを、しっかり丁寧に実行しているところが素晴らしい。当初は5冊で完結を予定していたらしく、実際に5巻はそのまま終わっても差し支えない内容だったんですが、予定が変わってもうちょっと続くことになりました。その事実が判明したとき、当方は嬉しくなる一方で不安を覚えました。無理に長引かせようとしてダメになっちゃわないかな、と。少年マンガやライトノベルには、人気が出たせいで終わるべき時に終われずダラダラ続いてしまい、ダメになっちゃった作品がアレコレあります。Dクラもその二の舞になるんじゃないか、と危惧してしまった次第です。

 けれど、いざ6巻を読み出してみるとそれは杞憂でした。主要キャラでありながらいまひとつ影の薄かった「あいつ」にスポット・ライトを当て、過去と現在を行き来しつつストーリーに更なる深みと更なる面白さを付け加えています。この6巻はクライマックスへの助走、いわゆる「つなぎ」に近い性格をしていますが、それでもシリーズ最高潮の盛り上がりを見せるのだから大したもの。下手な後日談、無理矢理なセカンド・ステージにならなくてひと安心しました。

 というわけでDクラッカーズをイチ推し。今年か来年くらいには完結しそうなので、それまで待ってみるのもひとつの手ではあります。けれど、とりあえず注目しておいて損はありません。もうだいぶ知名度が上がってきたとはいえまだまだレーベル齟齬による被害が抜け切らない、「もっと知られて良いはずのシリーズ」ですから。「ミステリー」を脇に置いて、富士見ファンタジア文庫や電撃文庫を読もうとするときのような気軽さで手を伸ばして欲しいです。個人的にこのシリーズの真価が発揮されるのは3巻以降だと思っていますので、1巻がイマイチだと感じられても、できれば3巻まで目を通してみることを推奨。


2003-08-09.

・「砕けて湿ったカールが歯の隙間に挟まりまくる感触と、カルピスを飲んだ後に喉の奥で唾が絡まる感覚のどっちがイヤ?」 カルピス派の焼津です、こんばんは。ちなみに当方はカレー味のカールが好きでしたが、最近はもうないんですかね。

frontwingの新作『私立アキハバラ学園』体験版をプレー。

 まんまタイトル通りの話。「オタクのオタクによるオタクのための」学園を舞台にしてあれやこれやと。シナリオライターは『神様家族』(そういえば9月に2巻出るみたいです)の桑島由一と『つっぱれ有栖川』(イラストとの相性が良かった)のヤマグチノボル。で、アキガク。主人公があまりオタっぽくなくて、普通に存在感が希薄なあたりはいまひとつだけど、野郎キャラたちを交えた日常のバカ遣り取りは楽しい。美形男子の「ネコミミ」、二言目にはジャパニメーションとほざくアメリカ人「ジェット」、そして終始顔が手抜きの「ヒメ」。この3人に主人公が加わってワイワイガヤガヤと。『ひらたい』で薄々気づいていたことだけど、当方は1対1のコミュニケーションをベースとした日常シーンより、混乱しない程度に多人数でやかましくするノリの方が好みのようです。ネコミミが時折見せる三次元への憎悪と、ジェットのテキトーなイカレっぷり、ヒメの不自然極まる喋りが混ざり合って不協和音一歩手前の「噛み合うんだか噛み合わないんだか」といったもどかしさを生むあたりが良い。誉めてない気もするが、良い。

 ともあれ体験版というせいもあってか、どのくらい「オタク」という要素が話の中に活きて来るかは読み切れませんでした。全体が「細かいことを気にしたら負け」というザッパなテイストなので、こだわりのある人よりもこだわりのない人の方が肌に合うかもしれず。「おいおい、毒入りだぞ」の言葉に「タナトス!」とだけ答えるなど、細かいところでいろいろと突き抜けています。

 どうでもいいが学園長はBGMを含めて怖い。アクションものなら「あっちが本体だったのか!」とかいう展開にもつれ込みそう。それと神凪文の声優は『ひらたい』の永久やってたまきいづみかな? 聴き分け能力の低い当方ですが、割とクセのある喋りなのでピンと来ました。この人『朱』のファウ役もやってましたね。あのゲームで一番色気を感じたのは彼女が「ウェズさん」と名前呼ぶトコだったり。声といえばメイド隊のジャネット。エセ外人ふうの喋りなんですが、なんか妙に良い。痒くヌルくハマる。

・海原零の『銀盤カレイドスコープ』、vol.1とvol.2を読了。

 集英社スーパーダッシュ文庫という、「不毛の地」扱いされているレーベルから出てきた新人のデビュー作。ここの新人賞は上限が700枚と、電撃や富士見の2倍あるため受賞作品が分冊されるのは別段おかしくないのですが、「前編・後編」としないで「vol.○」という形式にしているのは続刊を予定しているからかな?

 内容はフィギュア・スケートを題材に選んだスポ根ものです。あとがきで作者が触れている通りビジュアル面のウェイトが高いスポーツですから「マンガならともかく、ライトノベルで?」との危惧を抱きましたが、試しに読み出してみたところ、これがなかなか面白くて2冊立て続けにとも読了してしまいました。コテコテに熱い。ヒロインが「美人だが、驕慢で思い込み激しく沸点低い」と、普通に性格が悪いので鼻に付く人もいると思いますけど。当方も、素で自画自賛するノリは最初ちょっとヒきましたが、次第に「コレはコレで面白い」と慣れてきました。あくまで実力主義の主人公が周りと軋轢を起こしながら前へ前へと突き進んでいく展開はオイシイですし、またプライドの高さからそう簡単には他人へ弱味を晒すわけもないから、あえて超常的なパートナーを持ってきたところもヨロシイかと。フィギュアシーンも「絵」と「雰囲気」を上手に喚起して盛り上げている。サッと読めてサッと楽しめる、模範的なライトノベルですね。ピートやライバルキャラなど、もう少し掘り下げてほしい点もいくつかありましたが、それは「次巻以降をお楽しみに」ってところでしょうか? キレイに終わってるのでこの2冊で完結というのもイイ気がしますけど。

 とりあえず新作には期待しています、はい。


2003-08-08.

・「厚ゥゥゥゥゥいッ 説明不要!! 5年ぶり!!! 京極の新刊!!! 『陰摩羅鬼の瑕』だ!!!」

 というわけで新刊を購入。京極夏彦の『陰摩羅鬼の瑕』、それに秋山瑞人の『イリヤの空、UFOの夏 その4』と福井晴敏の『川の深さは』の3冊。他にも気になる本はありましたが、差し当たって読むのはこの3つということで後回し。

 で、『陰摩羅鬼の瑕』はやっぱり厚かったです。奥付見ればページ数がいくらか分かりますけど、知らない方が楽しめるはずだからと敢えて確認せず。裏表紙の見返しには次の予定作品が出ていますが……今度は何年待たされるんだろう。『暗黒館の殺人』や『彩紋家事件』、『生首に聞いてみろ』、『螢』など、個人的に待ちまくってるラインナップと激しい遅延レースを繰り広げそうな悪寒。

・それにしても暗黒館は11年、彩紋家は4年、生首は9年、螢は3年(どれもシリーズの最新長編を起点)……ゲーム業界と違ってミステリ業界の時の流れは異様なくらい遅いですね。ゲームで計る1年とミステリで計る1年は全然別の長さって気がします。とはいえ最近出てきた西尾維新は化け物じみたスピード。デビュー1年半で6冊、オマケにWeb連載や雑誌掲載まで。森博嗣や西澤保彦の3ヶ月ペースに驚いていた頃が懐かしくなるほど。でも西尾はミステリというよりライトノベル方面かな。あっちはあっちで「デビューから1年間で7冊」のうえお久光、そのうえおに挑戦すると豪語して8月〜10月にシリーズ3冊を連続刊行する成田良悟とかいった凄い新人もいますが。

・秋山瑞人の『イリアの空、UFOの夏 その4』読了。シリーズ完結編。夕食前に手を付け、空腹さえ無視して読み耽りました。現在、かなり打ちのめされています。やはり、このシリーズが面白いのは、たったひとつの「普通じゃない夏」をあくまで普通の視点で描き切ったところにあるんだろうな、とか。それくらいしか書くことが思い浮かびません。浅羽直之という「普通の少年」に、すべての感情が引き寄せられ、そのまま引きずられていく。これほどの深度まで読書に没頭したのは久しぶり。いずれこのシリーズを1巻から4巻まで一気に読み直すつもりでいます。


2003-08-07.

・松本次郎の『フリージア』を読む。1巻と2巻。「敵討ち」が合法化した日本を描くなんとも言えないノリのマンガ。設定を見て「“ジャッジメント・ワールド”がマンガ化したのか」と思い込んでしまったりもしたけど、中身は全然別物でした。「敵討ち」をする側は代行者を雇ってOK、される側は護衛を雇ってOK。銃の使用も可で、万一流れ弾が通行人に当たっても「事故」扱い。される側はする側を「返り討ち」にすれば無罪になる。大枠は同じでも、少し視点をズラしただけで変わるもんだなぁ、と思ったり。

 主人公がイマジナリィな女性を相手に延々と、傍から見れば独り言にしか映らない会話をしたり、殺人犯と被害者の遺族が血みどろになって殺し合ったり、「敵討ち」執行の巻き添えを食らう形で関係者及び無関係者が死んでしまったりといった、割に惨憺たる内容を淡々と描いている。頭のネジが締まっていない主人公のおかげで胡乱な雰囲気は一層アップ。スプーン一本で戦場に放り込まれて云々といったエピソードが気になった。なにせ先割れスプーン。いくらでも凶器として使いようがあるだけに、詳細なシーンが見たくて見たくて。

・さて、今日あたりから『陰摩羅鬼の瑕』が発売されそうなムードです。『ダ・ヴィンチ』でカバー絵がどんなのかも確認済みゆえ店頭での同定も迅速に可能。塗仏から5年とあり、妖怪小説の長編としては実に久々。当方が京極夏彦を読み出したのは確か、『塗仏の宴 宴の始末』が出る少し前の夏だったと思います。以来チマチマとゆっくり崩していき、塗仏が読み終わったのは2001年の夏。だから個人的には2年ぶりとなります。間に『百鬼夜行−雨』とかも読んでますけど。ちなみにシリーズでは『魍魎の匣』が一番好きです。前半は退屈なものの後半の畳み掛けにゃゾクゾクしました。ついでに肝もイイ具合に冷えました。まあ、ともあれ、弁当箱みたいなぶ厚いヤツを期待しています。読むとき指が痛いんですけどね……。にしても結局『彩紋家事件』より先に陰摩羅鬼が出てしまうとは。ちょっと予想が外れました。

・岩井志麻子の『魔羅節』読了。戦前の岡山を舞台にしたホラー短編集。オチが曖昧で余韻を残す話が多く、作品そのものインパクトは弱いけど部分部分で結構キます。一番気に入ったのは「淫売監獄」ですが、一番怖いと思ったのは「片輪車」。当方、怪談では「見ちゃいけない」と言われていたものを見てしまう話より、見た後で「ああ……あれを見てしまったのかい」と説明される話の方にビビる傾向あり。


2003-08-06.

「そういや、デモベに出てくるネスとストーンの警官コンビって『アンタッチャブル』が元ネタなんだよな」
「何をいまさら……既にみんな知ってるって」
「そうか。『じゃあアルはカポネか』と言いたいところだけどこれも既に通過済みだろうから置くとして、俺は例の四人組をあえてアル、エセルドレーダ、ルルイエ、エンネアで固めたいと思うんだ」
「はあ? 魔導書……じゃないよな、一個違うのが混ざってるし」
「『(胸が)アンタッチャブル』」
「………」
「………」

・空気が悪くなるネタで書き出してみるテスト。

・デモベSSで始まったサイトとは思えないくらいデモベから遠ざかっている昨今ですが、久々にSSとか書いてます。バカ系の。息抜きにはちょうどいいです。


2003-08-05.

・おかげさまで20000HIT達成。ありがとうございます。今後も当サイトは頑張ったり頑張らなかったりします。

・それにしても最近は暑くなってきましたね……「暑さ寒さ」でいえば「暑さ」の方がより苦手な当方としては割合辛い時期に差し掛かってきました。クーラーのない空間では人間性を保てるかどうか非常に危うい状況です。

・ところで「腕を魔法とか超科学で強化した! 1トンの鉄塊だって持ち上げられるぜ!」みたいな展開に対し、「重量の負担は肩や腰にもかかるんじゃ?」とツッコむのはなしですか? 身体全部を強化ということにすれば話は円滑に進むのに、それでもあくまで「一部分だけを強化」にこだわるのが漢の道ですか? 当方も部分強化系には胸がドキドキなんですが。

「まとりのSAT」、ようやく二話目を公開。一発ネタのつもりがずるずる長引いています。次回で終了させるつもり。その後で何に取り掛かるかは現在検討中。今更あの有名作のSSを書いてみるか、それとも原点に戻ってデモンベインのSSをやってみるか……。


2003-08-04.

・井上剛の『死なないで』読了。

 死なないで、お母さん。病気なんかで死なないでよ。
 あなたは、あたしが殺すんだから。

 人差し指を向けて念じるだけで生命を死に至らしめることのできる能力。路子は伯母の死をキッカケにそんなチカラを手に入れた。誰にも望まれることなく生き、やがて生きることに意味が見出せなくなった彼女の選んだ道とは……。

 突如倒れたまま意識不明となった母、同じ病院で治る見込みのない病気に苦しむ少女。特殊な能力を持った主人公は「その気になればいつだって殺せる」という切り札を手に彼女たちを見舞い、交流し、医師との衝突や摩擦を経ながら思考を深めていく。

 「殺す者」、それも殺したところで社会から罪せられることのない主人公が「命」の感触を弄び、持て余す様を綴った一編。 今すぐ胸にかき抱いて、思いっきり優しく殺してやりたいと思った。 など、「命」に対して不遜とさえ言える態度で向かい合う彼女の姿に揺さぶられつつ、破滅とも救済とも予想のつかない展開を読み進めた。

 「残酷な優しさ」とも「優しい残酷さ」ともつかない無色透明な殺意が視線と興味を最後のページまで引っ張っていってくれた。インパクトは顔面を殴りつけるようにではなく、静かに沁み込むようにボディへ効いてくる。面白いというより単に目が離せなかった。あまり語る言葉が浮かんでこない。

 なんにしろ、読んで良かった。

Grooverの新作『Kissing!! 〜Under the mistletoe〜』体験版をプレー。

 クリスマス・シーズンにおける嬉し恥ずかしのイチャイチャをコメディチックに描いたゲーム。トナカイの着ぐるみをした中居だの、表情の変わる人形を常に持ち歩くマゾ臣だの、脇キャラがなかなか濃い。立ち絵は目パチと口パクがあるうえやたらとポーズが変わり、楽しいというよりプレーしていてちょっと落ち着かなかった。特に首の動きは激しく、ひとたびスキップでもすればガクガクグリングリンと実に忙しい。文章読まずにこれを見ているだけで面白かったりもする。序盤、それといくつかのイベントを切り出しただけという構成なので大まかなストーリーしか分からないが、コメディとしてはネタよりもノリで笑わせるタイプかな、これ。

 派手さはないものの堅実に魅力を発している幼馴染みもよいが、当方的にヒットしたのは双子下級生。一卵性の双子(たぶん)なんだからそっくりなのは当り前だが、服装を含め描き分けどころか色違いにすらなっていない。左右反転しただけ。立ち位置はときたま変わる。一方はポジティヴ、一方はネガティヴ……なんていった分かり易い性格の違いもない。識別の手掛かりとなるのは身体の向きと泣きボクロのみ。この見分けの付きにくさが妙に心地良い。ネコ科の猛獣を思わせる細い瞳もグッド。主人公を巡って双方が火花を散らす様など、修羅場スキーにはもうたまらない。

 だが……一番気になるのは結局マゾ臣の人形か。なんで表情やポーズが変わるんだろう。やっぱ生きてるんだろうか、あれ。血吸い人形で、マゾ臣を吸いまくって終盤では ょ ぅ ι゙ ょ くらいのサイズに成長するとか。「サンタクロースの服はね、返り血で赤いのよ」と嘯いて問答無用の血風残酷ショーへもつれこんだり。血紅に染まった唇を交わす性耽祭。「吸わせなさい──あなたの○○を」

・そして気づけば2万ヒットも間近。特に見所のないページですけど、それでも見に来てくれる人がいるんだなぁ、と実感しつつ今後も頑張ったり頑張らなかったりします。

・ところで昨日の日記、「CRUSH☆RUSH」を「RUSH☆CRUSH」と素で間違えてました。てっきりラッシュ(突進)してクラッシュ(激突)!だとばかり。


2003-08-03.

RUNEの新作ゲームソフト『Ricotte〜アルペンブルの歌姫〜』、シナリオライターは千籐まさと。

 ハニョーン。

 え?

 ……本当に?

 原画は野々原幹で、佐藤裕美の歌が4つも付いて、feelサウンドなうえ、背景を手掛けるのは草薙だって?

 ハニョーンハニョーンハニョーン。

 一瞬目が眩みました。悪魔に憑かれて甘美な幻想を見ているのかと疑うことしばし、席を立ってコーヒー淹れ直してからディスプレイの前に戻りました。

 ゆっくり目を閉じる。
「千籐氏の名はあるか」
「まだ、そこに」
 恐る恐る目を開ける。
「あった」

 何度目を擦ろうと「シナリオ」の横にある名前は正真正銘の千籐氏。「せんとうまさと」と読みまで付いています。間違っても「千藤まきと」などとかいった紛らわしい別人さんではない。大丈夫です、当方は担がれていません。ワショーイされていません。「はっ!?」と汗びっしょりの上半身を跳ね起こす夢オチではありません。願いを叶えた代償として過激な要求を突きつけてくる妖精の陰謀なんかではありません。存分に踊れます。焼けた鉄靴を履くが如く死ぬまで踊り続けられます。

 発売予定は2003年9月下旬。架空を街を舞台に、タイトル通り歌姫なヒロインが出てくるストーリーのようだけど、詳しいことはまだ分からず。電撃オンラインの記事によると原画の野々原幹が企画を担当して大枠をつくったとあり、千籐氏の関与度はどのくらいかも不明。けれど「シナリオ」の項目に唯ひとりだけ記されている点からしてそう低くはないかと。たぶん。割と願望交じりの見方ですが。

 時代物に興味が無いので『戦国if』はスルーしましたが、「歌姫」というのなら行く気はあります。少し前に『ベル・カント』で浸ったクチですからな。「行くな!」と袖を掴まれても振り払って突っ込む気満々です。「ムチャシヤガッテ……」と敬礼AAを張られるような状況でも微笑んで特攻しますよ? いえ、現時点では特に不安要素ないんですが。

 しかし、RUNEのソフトは『Fifth』しかやってないので最近はどんなもんだかよく分からなかったり。『戦国if』も千籐氏繋がりで注目すれど結局手を伸ばさず終い。あ、『今宵も召しませ☆Alicetale』を出すのここだったっけ。原画が赤丸ということでチェック印入れてました。あっちはエロ、こっちは物語と。えー、とりあえず状況が許せば発売日はフルスピードでハードにRUSH☆CRUSH!する所存であります、はい。

 ちなみに千籐氏とは『うそ×モテ〜うそんこモテモテーション〜』というコメディ系エロゲーのシナリオを書いた方です。当方がこのゲームにどれだけ惚れ込んでいるかはうそモテの感想文のみならず「SSまで書いてしまった」という事実からも察せられるかと思われます。またRUNEの『戦国if』というソフトでも一部のシナリオを手掛けていますが、こっちはノーチェックゆえよく分かりませぬ。

・ところで冒頭の「ハニョーン」は『想師U 悪魔の闇鍋』のネタだったり……とわざわざ解説してみる。「見る」ことで世界を変える異能を扱った大雑把バイオレンスです。都合の良い角度から世界を「見る」ことにより、近代兵器をも凌駕した破壊力を発揮することができる。そんな感じでバタバタ人が死んだり街が壊れたりします。シリーズ第1弾にあたる『想師』の前半は伝奇バイオレンスのケが強かったものの、後半は「伝奇」を越えた「大雑把」の魅力が炸裂していました。Uとなる今回はより一層スケール・アップし、「大雑把」の魅力も増して破竹の勢いデス。


2003-08-02.

・長らく勘違いしていたことがあります。

 “少年ジャンプ”に連載中の「武装錬金」というマンガ、方々でタイトルは目にしてはいたんですが、なにせチェックしている漫画雑誌は“少年チャンピオン”と“バンチ”のみ(前者は最初バキ目的だったけど、今は酢めし疑獄とTWO突風が目当て。後者は蒼天)という当方ゆえ、つい昨日まで作者が和月伸宏ということさえ知りませんでした。『るろうに剣心』は従妹の影響で読み出し最後まで付き合ったものの、短命だった次作の西部劇モノは1巻を読んだ切りですっかり記憶から洗われていました。

 で、このマンガ、昨日までずっと「武装金融」だと思っていたんです。いや戯画ネタではなく本当に。「金」を見てアルケミーではなくファイナンスを連想し、以来ずっと訂正される機会がなかなかなかったという有り様。勝手に池上遼一と武論尊のコンビあたりを連想しつつ、「少年マンガにもかかわらず相当に濃いい内容が繰り広げられているんだろうなぁ」と勘違いに拍車をかけていました。

 不況の波によって父親は職を失い、家庭は一気に崩壊していった。主人公である高校生の少年は母に付いていったが、母の稼ぎだけでは生活費と学費を捻出するのは難しかった。そこで彼はさる闇金融の会社へと潜り込む。狭く薄暗いながらもなかなか小奇麗な事務所で、パッと見では案外まともそうだ……と思ったのも束の間、緊急事態が発生した。5000万を貸し付けていた某中小企業の社長が海外へ高飛びしようとしていたのだ。事務員たちは地下への隠し扉を開き、複雑なロック・システムを解除して不吉に黒光りするアーマード・スーツを取り出す。僅か3秒で着込むや、エレベーターで屋上まで一気に上昇し、既に待機していたヘリに乗り込んで空港へ急行。飛行機に乗り込もうとしていた社長へ向けてまっすぐ降下し、ぶつかる直前に逆噴射……地面に転がった社長を悠々と確保する。すると、そこに空港の警備員たちが駆けつけ、警告もなしにショットガンを乱射。しかしアーマード・スーツの強靭な装甲はスラッグ弾を楽々と跳ね返す。肩に添え付けたガトリング・ガンで警備員たちを薙ぎ払い、ひと足でヘリに戻ってニカッ、と余裕の笑み。借金踏み倒そうとした債務者を事務所に拉致って無理矢理5000万吐かせたところで決めゼリフ。「キリトリ完了!」。少年は無数の銃弾が飛び交い噎せるほどの硝煙が漂う金融戦場で「金貸し」のノウハウを覚えていく……。

 こんな感じ。ライバル会社が「ボトムズ」級のずんぐりした巨大ロボで事務所ビルを襲撃してきたり、謎の肉感的パツキン美女が近寄ってきたり、いかにも狡猾そうな狐面をした弁護士が片手で六法全書掴んで顔色ひとつ変えずヤクザを殴りつけたり、むやみやたらにゴツいガタイをした上司の社長が極太の葉巻を「ぶちっ」と噛みちぎってガス・バーナーで火を点けたり、コンクリ流し込まれて東京湾に沈められた兄貴分助けに水中アーマーで海底潜ったりと、マジでそういうノリのマンガをイメージしていました。というか未だに本物がどういうストーリーなのか知りません。

・ところで話は変わりますが最近パソコンの調子がおかしかったんです。なぜか明朝体を始めとした一部のフォントが使えなかったり、ウィンドウの隅の「最小化」「最大化」「閉じる」を表す記号が「0」「1」「γ」になったり、チェックボックスやラジオボタンがバグってたり。文章自体は普通に読み書きできるので大きな支障はなかったものの、当方は明朝体大好きっ子ゆえ実に苦痛でした。何が原因なのかもよく分からず、対処しかねて途方に暮れた次第。パソコン歴は短くないくせしてズブの素人同然という惨状。周りも似たり寄ったりで、相談しても「よくわかんねーな。でもまーいーじゃん、たいして害ないし」とあっさり流される惨状の三乗。確かに害はないけど、ゴシック体じゃ物足りないんだよう。

 んで四苦八苦の末にマイクロソフトのサポートページで調べてみたところ、どうやら「TrueType フォント キャッシュ」とかいうのが壊れていたみたいです。safe modeで起動したのち再起動したらあっさり直りました。ふたたび明朝体を拝めて感動。やはりこの玄妙な「跳ね」「止め」「払い」が良き哉良き哉。すみません、二回言ってしまいました。

・佐藤友哉の「鏡姉妹の飛ぶ教室」、第2回。

 新鮮な感覚は危険。

「私を甘やかして良いのはお兄ちゃんだけ」

 ちょっとずつ面白くなってきた。


2003-08-01.

 否応もなく8月です。尋常に8月です。それはともかく今月の大雑把な予定。

 本は京極夏彦の『陰摩羅鬼の瑕』、福井晴敏の『川の深さは』、うえお久光の『悪魔のミカタ10』、上遠野浩平の『ビートのディシプリン2』、秋山瑞人の『イリヤの空、UFOの夏 その4』、不知火京介の『マッチメイク』、赤井三尋の『二十年目の恩讐』、深堀骨の『アマチャ・ズルチャ』あたりかな。

 陰摩羅鬼〜は実に5年ぶりとなる妖怪シリーズの長編。綾辻の暗黒館より早くに出るかどうか予想されたりもしたけど、あっさり遅滞から抜け出した様子です。ちなみに暗黒館は優に10年かかってまだ目途が立たない模様。

 『川の深さは』は文庫落ち。『Twelve Y.O.』の前に乱歩賞へ応募されて最終候補にまで残った作品。大沢在昌(だったかな?)がやけに推していました。落選作なのに受賞作の『Twelve Y.O.』よりも評価が高い罠。

 悪魔、ビート、イリヤは電撃文庫の新刊。悪魔はここのところ積みばっかであんまし読んでません。下手すると読んでる巻より読んでない巻の方が多くなりそう。ビートはブギーポップの番外編だが、どうも評判は微妙なよう。個人的には割と好きです、はい。イリヤはいよいよ完結。前巻から1年近く待たされただけに期待は大きいです。

 『マッチメイク』と『二十年目の恩讐』は乱歩賞受賞作。同時受賞は『果つる底なき』と『Twelve Y.O.』の回以来ですっけ? それはそうと電撃ゲーム小説大賞の通過者の中にも不知火京介という名前があったとかで、同一人物なのか同姓同名の別人なのか気になるところ。

 『アマチャ・ズルチャ』は深堀骨の長編。ハヤカワSFシリーズ・Jコレクションの1冊でもある。副題は「柴刈天神前風土記」。この深堀骨という人はあまりよく知らないのだが、たまたま読んだSFマガジン(2002年5月号)に掲載されていた「隠密行動」が個人的にすごく面白かったので、密かに注目していた。

 ゲームは以下の4本が気になってます。rufの『セイレムの魔女たち』、BaseSonの『屍姫と羊と嗤う月』、TerraLunarの『家飛』、Leafの『天使のいない12月』。

 『セイレムの魔女たち』は最初の体験版で「そこそこ面白そう」と思い、例のショッキングなデモで「やってみたい」とそそられた。『螺旋回廊』に魅入られてこっちの世界に入ってきた当方はダーク・サスペンスが好物デス。ただ、このゲームについては『奴隷市場』とワンセットで語られることが多く、時系列的にも『奴隷市場』の方が先とのことなんで、セイレム〜はしばらく置くとしてまず『奴隷市場』を都合しようかな、とも考えています。

 『屍姫と羊と嗤う月』は体験版がトンデモないところで終わっていたため、先が気になってしょうがありませぬ。話の尺がどれくらいか、また伝奇要素がどの程度の濃さで絡んでくるのか読み切れず、迷うところはありますけど、5本の中では一番突っ込んでいく確率が高いです。

 『家飛』はサイトでWEB小説がいくつか公開されているくらいで、情報量は微妙。主人公を容赦なくいぢくり回す恐怖の幼馴染みなど、当方の嗜好を巧妙に突ついてくる要素はいくつかあれど、肝心の「家が飛ぶ」という部分がどうもピンと来なくて態度を決めかねています。

 『天使のいない12月』は東京組の作品ということで「鉄板」と見る向きが多く、なんだかんだでリーフ作品を買い続けている当方としても気に掛かる一本。髪の色が一律黒系統なのも心を惹かれる。いえ、カラフルな色付き髪とて別に嫌いじゃないんですが、個人的に黒とか茶とか地味なんばっかの方が却ってグッとくる嗜好なので。『果てしなく青い、この空の下で…』はほとんど絵買いをしない当方ですらパケを見て衝動的にレジへ駆け込んでしまいました。話を戻して天使〜、ダウナー系青春ストーリーっぽいところが期待因子でもあり不安因子でもあります。それにしてもタイトルを見て『皇帝のいない八月』を思い出す人は案外多いみたいですね。

 SSは今ひいこらしながら書いている「まとりのSAT」が終わったら、もう一つ何かに着手する予定。たぶんクロスオーバーものです。まだ構想の段階ですが、長くなりそうなので今月中にどうにかなるかは不明といったところ。


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