アニメ版『Dies irae』の2話以降、新規の人向けにダラダラ解説(2017年10月16日〜11月15日の記事)


第1話「黄昏の少女」第2話「獣の爪牙」第3話「悪夢の終わりは始まり」第4話「蜘蛛」第5話「再会」


(2話目/第1話「黄昏の少女」/2017年10月16日)

 「新規向けの解説にしてはあまりに文章量が多かったのでは?」と前回の記事について反省し、2話目以降に関してはもうちょっと抑え気味の調子で書くことにしました。貴重な新規層を逃したくない、完全に切ってしまった人はともかく「うーん、このまま観続けようかどうしようか」と迷っている人をあわよくば引き込みたい、という焦りがついつい表出してしまった。あと先に予防線を張っておきますが、割と不確かな記憶に頼って書いている部分が多いので、各種解説は鵜呑みせずあくまで補助輪というか参考程度のものとして受け取ってください。

 さて、2話目(第1話)は学園が主な舞台となります。「アニメ版ではもっとも学園モノらしい回だった」ってことになるかも。冒頭、屋上で夕日に見守られながら殴り合う2人の少年。その姿を観て「青春だなぁ」と思った視聴者もいるかもしれませんが、これ結構ガチな暴力沙汰で両者ともあちこち骨折しており、「まるでダンプカーと喧嘩でもしたかのような、生きているのが不思議なくらいの怪我を負って」病院送りになります。経緯としては司狼(金髪の方)が喧嘩を吹っ掛けてきた――って形ですが、先に手を出したのは蓮の方だったかな? 司狼が蓮の逆鱗に触れる発言をしたため、殺し合い寸前のセメントに発展しました。司狼が喧嘩を吹っ掛けてきた理由は「既知感を打破するため」、彼もまたメルクリウスやラインハルト同様「先の見えない既知感」に悩まされている適性者であり、自分が絶対にやらないだろうと思っていた「親友である蓮の逆鱗を撫で回してぶちギレ金剛にする」という選択肢を採って既知感のない新しいルートに進もうとサイコロを振ってみたわけだ。が、ドロドロのステゴロが終わって出た目はやっぱり「デジャ・ヴが止まらねえ」「前にも経験してたわ、この展開」。

 既知感を厭い未知を求めて疾走する司狼に対し、「時間が止まればいいと思っていた」「変化なんかなくていいし、何度繰り返したって構わない」「この平凡な毎日を、いつまでも続けていたい」と既知感まみれのループじみた日常を全肯定する主人公・藤井蓮。この段階では単純に「メルクリウスやラインハルトとは反対の立場」と認識しても構いません。ただ、彼は「永劫回帰」の理についてまだ何も知らない状態であり、主義や信念に基づいて「永劫破壊」を阻止しようとしているわけではなく、多大な犠牲を伴う彼らの所業に許容しかねるものを感じるってだけです。テーマの掘り下げはアニメだとかなり後半になるかも。Diesの「永劫回帰」はニーチェの定義する永劫回帰とはまた別なものなんですが、テーマ的な部分に関してはニーチェ哲学も深く絡んでいるそうだ(←ニーチェ哲学をまったく知らないのであやふやな発言をしている人)。

 前回のアクションシーンがひどかったせいもあって、今回の作画はだいぶ良く見えますね。クロスカウンターで決着する図には笑ってしまったものの、「これくらいやってくれるなら充分だよ」って気持ちになる。ひょっとすると本来こっちを1話目にするつもりで制作を進めていて、あとから第0話をねじ込んだのでは? と勘繰りたくなるレベル。喧嘩の後にすぐ退院の手続きをする場面に移るから時間の経過が分かりにくいけれど、なにげに2ヶ月近くも入院していました。本当なら2ヶ月でも治り切らないくらいヒドい重傷で、異常な回復力に医師たちも驚いた……って件はバッサリとカット。退院シーンに映っているのは蓮だけで、司狼は途中で「脱走した」との説明が入る。手術から3日も経たないうちに抜け出し、そのまま夜の街に消えていった。脱走した際に本城恵梨依という院長の娘と出会っている(蓮と司狼が入院していたのは「本城総合病院」)が、そういえばアニメ公式サイトのキャラ紹介やキービジュアルには恵梨依載ってないな……オミットされたのか? いや、PV確認したら恵梨依の名前ちゃんと載っていたから、出番自体はあるはず。

 外に出れば、吐いた息が白くなるほどの寒さ。季節はすっかり冬、クリスマスシーズンを迎えています。「結局時間はしっかり流れるわけか……」という蓮の呟きは彼の抱える「時間が止まればいい」という願いから湧き上がってきている。黒円卓云々といった事情を知らなくても、自分の日常が遠からず崩れ去ることに蓮は薄々勘付いています。だからこそ平和な日々が続いてほしい、「時間が止まれば……」という想いは日増しに切実になっていく。漂い出したアンニュイなムードをブチ壊すかのように響き渡る少女の声、ヒロインの一人である「綾瀬香純」の登場です。元の声優が引退してしまったため、キャストが「福原綾香」に変わりました。デレマスの「渋谷凛」をやっている人で、愛称は「ふーりん」ですが、元の声優も愛称が「ふーりん」だったのですごく混乱しましたね。「ふーりんがふーりんになった!」って。演技も声質もキャラには合っているが、やはり元のイメージを持っている原作ファンからすると違和感が……でもこれはこれで可愛いし、「アニメはアニメ」と割り切ることにします。

 毎日お見舞いに行ってあげたにも関わらずつれない態度を取る蓮に業を煮やし、半ば強引に博物館の刀剣展へ連れていく香純。蓮が香純を避けるような素振り見せるのは、司狼との喧嘩が香純絡みだったせいもあるからだろうか。「蓮の逆鱗」は香純とも密接に関わっています。しかし、10年前は「デートに刀剣博物館へ誘うヒロインって」と思ったが、『刀剣乱舞』等のおかげもあって今は逆にタイムリーになってるな。香純は剣道部所属なので長物に対して興味津々ですが、蓮は過去の出来事(返り血を浴びる幼司狼のフラッシバック)から刃物が苦手になっている。そんな蓮を露骨に誘導してギロチンのところへ連れていくフード男はもしかしなくてもメルクリウス。正義の柱(ボワ・ド・ジュスティス)、フランス革命の頃に使われたギロチンです。なんでそんなものが日本の地方都市に運び込まれているのか? という理由は『Verfaulen segen』(本編の11年前の出来事を語る番外編)で説明されている。

 ギロチンからスゥーっと出てくる幽霊みたいな少女、これがヒロインの「マリィ」であり、「黄昏の少女」です。本名は「マルグリット・ブルイユ」だが、マルグリット呼びをするのってメルクリウスくらいだな。金髪巨乳といういかにも人気が出そうな造型でありながら、最初は意外とそんなに人気が高くなかった。2007年版発売時のショップ特典描き下ろしテレカで一枚もイラストの発注がなかったほどだ。2009年以降はいろいろと活躍の機会が増えて、人気もぐんぐん上がっていきました。首に走る傷痕は斬首痕、ギロチンで首を刎ねられた名残。彼女もラインハルトと同じく「生まれつきただ特別だった」存在で、普段は「黄昏が永遠に続く浜辺」という特異点に引き篭もっている。この特異点はラインハルトが向かった特異点とは別のものです。

 場面は切り換わって蓮の自宅。思いっ切り開いている壁の穴に噴き出した原作ファンは私だけじゃなかろう。蓋をしていないから司狼側だな。司狼・蓮・香純の部屋は3つ連続していて、真ん中に位置している蓮の部屋は両サイドから穴を開けられていつでも行き来できるようにされてしまった。「大家さんには、ナイショだよ!」と勝手に破壊しているので、バレたらケジメ案件ですね。

 眠ったはずの蓮はいつの間にか黄昏の浜辺に立っている。マリィのホームである特異点です。マリィは既に死者であり、本来ならその魂は「永劫回帰」の理に呑まれるはずだが、生まれつき特別な彼女は特異点に留まり続けている。ポテンシャルだけで言えばラインハルトすら凌駕する存在ながら、生きていた時点で既に正気ではなかったため、世界をどうこうしようとする意志はない。「ギロチンのうた」はフランス革命の頃に民衆たちが断頭台に向かって囃し立てた歌がモデルになっているそうだけど、メロディとBGMが付いたことで何か愉快な雰囲気になっちゃってるな。CF高額支援者が一丸になって歌ったらしいあの「血が欲しいソング」、初見は笑っただろうが、原作ファンも元とのギャップからつい「ふふっ」となってしまった。さすが今季のネタ枠をかけて『DYNAMIC CHORD』と競い合っているアニメだぜ……できれば『血界戦線 & BEYOND』あたりとアクション枠をかけて張り合って欲しかったが。マリィが呼びかける「カリオストロ」はメルクリウスがフランス革命の頃に使っていた偽名です。彼女は蓮とメルクリウスを同一視している、それはつまり……?

 蓮がギロチンに首を刎ねられる悪夢を見た翌朝、諏訪原市で首を斬り落とされる猟奇事件が発生。被害者が「会社員の生野健児(24)」というのはDiesカルトクイズが開催されたらほぼ確実に出題されるだろうから、覚えておくといいですよ。昼休みに着信が入り、「くるぞ……くるぞ……」と古参勢が一斉にざわつき出す。「携帯のメール」が「スマホのライン的なモノ」になってるあたり時代の変化を感じる(てことは、作中の年代はもう2006年じゃない?)が、それにしても唐突な甘粕大尉の万歳スタンプは噴くからやめろ。『相州戦神館學園』という別シリーズに登場するキャラです。発信者は「氷室玲愛」、蓮たちの先輩に当たる女子です。

 特徴?

 可愛い。これに尽きる。

 えっ、他の特徴?

 アップが超可愛い。

 

 

 これを観た瞬間に0話のことは水に流しましたね、ボカァ……玲愛先輩はローテンションな不思議ちゃんでたまに毒舌な感じですが、胸が小さいことを気にしていて(そこから「Bカップ先輩」という愛称が来ている)、なぜか熊本県に対する執着心が深く(そこから「熊本先輩」という愛称も来ている)、Diesヒロイン勢の中でもっとも結婚願望が強い(結婚式の様子まで触れられたのは玲愛先輩だけ)。『喧嘩商売』の煉獄並みに切れ目なく暴力的な魅力が襲い掛かってくることもあり、一度ハマると抜け出せない蟻地獄みたいな先輩です。本編での扱いがずっと不遇だった、って事情も関係しており、玲愛のファンはガチ度の高い人が多い印象ある。古参のガチ玲愛ファンを見分ける方法はすごく簡単、「先輩すみません」「俺は、また間に合わなかった」という文章を読ませるだけでいい。激烈にイヤな思い出が甦ってきて、顔の表情が即座に変わります。私の表情も今変わりました。先輩との会話に出てくる「シスター・リザ」は0話に登場した巨乳さんと同一人物。玲愛にとって母親みたいな存在ですが、実際は曾……いえ、何でもないです。先輩とリザが死体の第一発見者だというのはすっかり忘れていたが、先輩の「首ばっさり。血がどばー」って言い回しは覚えていた。

 放課後、香純と連れ立って帰宅している途中で見知らぬ少女と一緒にいる玲愛先輩を発見。見知らぬ少女(櫻井螢)は特にセリフもなく蓮の横を通り過ぎていく。「ライオンハート」という香水を付けているのでその匂いが漂ってきた、みたいな描写が原作であったような。ここを境にして視点が切り換わり、物語は黒円卓サイドに移る。

 螢の「……来た」という発言の後、0話の城の廊下みたいに彼女の肌が赤黒い髑髏で埋め尽くされる。彼女もこれまで相当な数を殺してきて魂をその身に奪ってますからね……橋の上で待っている金髪神父のところに普通に歩いてくるヴィルヘルムとルサルカ、ふたりも髑髏がいっぱいだぁ。ここに至るまで黒円卓団員の戦力についてまったく説明していないことに気づいたので「こいつらどんくらい強いの?」という点に軽く触れておきますと、攻撃面は「歩く大量破壊兵器、その気になれば一つの街を地図から消してしまうことなど容易い」、耐久面は「非戦闘員のシュピーネやリザなら原爆ブチ込めばギリギリ斃せるかな? ベイやマレウスだとたぶん無理、大隊長クラスは『今のは水爆級の威力だった』みたいな描写が平然と出てくるので原爆直撃程度では痛痒だにしない」と、スケールが大きすぎて実感しにくいレベル。じゃあラスボスの強さはどこまで行くんだと問われますと、普通に宇宙規模ですね。たまにFateのサーヴァントと比べる人もいますが、比較対象にするなら『聖闘士星矢』の聖闘士とかを持ち出した方がイメージしやすいかも。軽率に音速を突破したり「光速」の概念が歪みそうになったりするノリは割と似てる。黒円卓の団員は十二宮に対応していますし(メルクリウスは例外)。

 「ベイ中尉」は前回解説した通りヴィルヘルムのことで、「串刺し公(カズィクル・ベイ)」の略。「マレウス准尉」はルサルカのこと。「魔女の鉄槌(マレウス・マレフィカルム)」という彼女の魔名から来ている呼び名だが、「魔女狩りに遭って殺されそうになった」過去を持つルサルカは内心この呼び名を嫌っています。魔名はメルクリウスがそれぞれの団員に贈ったコードネームで、「各々の魂の本質に合わせて付けた」としているが、皮肉を込めたものも多く、喜んで使っている奴はあまりいない。そんなことをするからお前は嫌われるんだぞ、メルクリウス。

 「シャンバラ」は儀式を執り行う地、諏訪原市のことを指す言葉。60年くらい掛かってやっと儀式の手筈が整ったので海外を飛び回っていたベイやマレウスが呼び出され、こうしてわざわざ日本の地方都市くんだりまでやってきたわけです。公式サイトにはベイ(ヴィルヘルム)が召集されるときの様子を綴ったアナザーストーリーもある。ヴィルヘルムと会話している相手(シュピーネ)は恐らくアニメの5話目(第4話)くらいで登場すると思いますので、それまで“この男は駄目だ――”という内心のセリフをちゃんと覚えていれば、「原作ファンのシュピーネに対する印象」は概ね伝わるでしょう。「レオンハルト?」「ヴァリュキュリアの抜け番ね」って遣り取りも新規には全然優しくないが、レオンハルト=櫻井螢、ヴァリュキュリア=ベアトリスで、黒円卓五位だったベアトリスが11年前の事件で死亡し、後釜として螢が五位に収まった、ってことを確認する会話です。あ、黒円卓の「○位」は序列じゃなくて星座やルーンとの対応で決まるものだから「五位は六位より強い」ってわけじゃありません。それだと平団員で非戦闘員で諜報・輜重担当のシュピーネ(十位)が大隊長のシュライバー(十二位)よりも強いことになっちまうよ。ルサルカが螢のことを覚えていたのにヴィルヘルムが「レオンハルト?」と聞き返すくらい関心がなかったのは、彼が根っからの人種差別主義者だからでもある。「相変わらず東洋人はワケ分かんねえなぁ。気合で勝てりゃあ、てめえら戦争に負けてねえよ」ってセリフはなかなか忘れられない。神父たちが殺せ殺せと呪文のように呟いている言葉は十字軍遠征に関係したものだったと思う。「十字軍」ってかっこいいイメージがあるけど、殺戮の規模は実際凄まじいものがありますからね。

 はい、てなわけで総合的に見て2話目は1話目よりもだいぶ良くなっている、と判断します。1話目のあの調子がずっと続くのは原作ファンでもキツい、と感じていたが、これなら余裕で最後まで付いていけそう。ちなみに今回やった部分は原作だと第1章に当たります。次回は2章を消化して、次々回で3章まで行くのかな? だとするとアクションシーンが連続することになるわけだが、果たして大丈夫なのか……。


(3話目/第2話「獣の爪牙」/2017年10月25日)

 タイトルの「獣」はラインハルト、「爪牙」はその配下を指します。爪牙には「特別に強い、頼りになる配下」といったニュアンスが含まれているため、「十把一絡げではない強者」って意味合いで使われることもある。そういう意味ではこの時点のルサルカやヴィルヘルムはまだ爪牙の域に達していない……のかもしれない。爪牙の定義はあまり明確ではなく、最近だとDiesファンのことを単に「爪牙」と呼ぶこともあるので、だんだんニュアンスが軽くなってきている気がする。

 冒頭、学園の屋上でベンチに寝そべりスマホでネットニュースを眺める蓮の姿が映る。「寒そう」って感想が真っ先に出てくるが、病院送りになるほどの喧嘩を繰り広げた彼はクラスメイトから腫れ物扱いされていて、教室だと居心地が悪くてのんびりしていられないんです。自分自分が落ち着かないというより、周りに気を遣わせてしまうのが申し訳ない、みたいな。特に理由もなく屋上に来ているわけじゃありません。

 スマホには諏訪原の通り魔で7人目の犠牲者が出た、というニュースが表示されている。「大事件じゃねぇか」って思うかもしれませんが、Diesはかなりモブに対して厳しい話なのでこれくらいは序の口、今後は「犠牲者が3桁」とかも珍しくなくなる。「なんで住民はそんな街に留まっているんだ」とツッコミたくなる気持ちはわかります。儀式のため街全体に「人口を一定にする」術式が掛かっていて、住民の数が減らないようになっている……と設定上の説明は為されていますが、このへん原作でもあまり掘り下げられなかった部分である。

 夜寝るたびにマリィとギロチンの夢を見て、朝起きると人が死んでいる……殺されている、という現象に相関関係があるのかどうか分からないながらも不気味さを覚える蓮。彼のところに「パンツ見えるぞ」なアングルで近づいてくる香純と玲愛先輩、ここはいかにも「エロゲー原作」って感じだ。途中からバトル描写と伝奇要素が濃くなりすぎてサービスシーンを挟む余地がなくなっていくので、貴重なシーンではあるが嬉しいかと言われるとそんなに……しかしこのパンモロぶり、『俺たちに翼はない』のアニメ版を思い出すな。

 そしてOPへ。主題歌「Kadenz(カデンツァ)」を歌うのは原作ファンにとってはお馴染みの「榊原ゆい」。この人はエロゲーとそれ以外の仕事で裏名義と表名義を使い分けない珍しいタイプの声優です。芸歴が長く出演作も多いのだが、個人的に印象に残っている役は『よつのは』の「猫宮のの」。07年版とクンフトの主題歌「Einsatz(アインザッツ)」、ファーブラの主題歌「Gregorio(グレゴリオ)」、アマアメの主題歌「Jubilus(ユリウス)」も榊原ゆいが歌っており、これで通算4つ目の主題歌となる。主題歌以外だとED曲の「Uber den Himmel(ユーバー・デン・ヒンメル)」や「Sanctus(サンクトゥス)」も歌ってます。ちなみにドラマCDの主題歌「Shade And Darkness」は石橋優子。OP映像については……「カイン出た!」「髑髏が完全にロボ」「リザかっこいい!」「アンナの謎ダンス」くらいしかコメントが思いつかない。とにかく躍動感がなくてあんまりワクワクしないな、というのが率直な感想。今期のアニメでOPとEDが好きなのは『少女終末旅行』です。特にED、「すげーな、原作のタッチを完全再現してる」と感心していたらまさかの原作者本人の手によるものだったという。

 いかん、脱線した。話をDiesに戻そう。スカートの中を覗かれた挙句パシャっとやられて怒る香純とあまり動じていないふうの蓮。原作だと迷わず顔面を蹴りに来る香純と華麗に躱す蓮の呼吸ピッタリな応酬が面白かったけど、アニメの描写だと普通に「蹴られた」ってふうに受け取られるだろうな。蓮の顔に漫符的な痣や腫れがないので、アニメ版でもちゃんと躱しているはずなんだが。時刻はもう夕暮れ時、帰宅途中のふたりは背の高い金髪神父と遭遇する。ちょうど今『コードギアス 反逆のルルーシュT 興道』が公開されているので神父の声を聞いて「オレンジだ……」ってなった人も少なくないでしょう。もちろん声優はジェレミア卿と同じ「成田剣」です。キャラ名は「ヴァレリア・トリファ」、0話の頃はヴァレリアン・トリファでしたが、いろいろ事情があって名前も容姿も変わっています。玲愛先輩の洗礼名「テレジア」(神の贈り物、という意味)の名付け親であり、父親代わりとして彼女を育てた人物です。「見た目が三十前後なのに、先輩の名付け親……?」と蓮が訝る件はカットされてしまったか。娘のように育てた少女への執着が気持ち悪く、まだ設定がいろいろ明かされていない段階ということもあってコメディ調で流されているが、実際のところトリファが玲愛に向ける感情は簡単には説明し切れない。トリファが気になる人は素直に原作やった方がいいでしょう。あの神父、実装されている4つのルートすべてでそれぞれ異なる掘り下げ方がされているという超重要人物だったりする。

 晩御飯を御馳走になった蓮はリザと会話しながら教会の外に出ようと歩いている。これはバラしてもいい気がするからバラしてしまうが、教会には隠し通路があって黒円卓メンバーが集まる秘密の空間に繋がっています。そのため黒円卓の団員は教会から出入りすることが多い。教会の中を探検しようとする蓮を神父がやんわりと制止する場面も原作にあったが、Fateだったら探検の途中に殺されるバッドエンドが仕込まれていて即座にタイガー道場行きだったろうな。さておき、12月25日、ちょうどクリスマスの日が玲愛先輩の誕生日です。そのことをリザに言及されてもあまり嬉しくなさそうにしているのは、前にも書きましたけど、黒円卓が儀式を執り行うのも「ちょうどクリスマスの日」だからである。玲愛先輩は今度の誕生日が平穏無事に迎えられるものではないことを知っているわけだ。唐突な「結婚しよ」はギャグと見せかけた本心の発露でしょうね……玲愛先輩は普段感情を押し殺しまくっているせいで「何を考えているのかよくわからない子」と見られていますけど、結婚願望はメチャクチャ強いですから。彼女にとって最大の罵倒文句は「結婚詐欺師」。

 教会の前で別れる寸前、神父が蓮や香純の親について探りを入れてくる。その際に「死んだ人間ともう一度会いたいとは思わないのか」という質問を飛ばしてきますが、蓮は迷わずこれを否定。「死んだらそれで終わり」と。原作ではもっと極端な意見として「なくしても戻ってくるということは、つまり価値がないって事だろう」とまで言い切っています。掛け替えのないものだからこそ大切なのであって、「なくしても戻ってくる」ものは無価値。彼は「死者の復活を願わない」主人公なのです。詳細は省きますが、神父も、その弟子に当たるレオン(櫻井螢)も、過去に喪った愛しい人たちへの執着を捨て切れず「死者の復活を願っている」「そのためならあらゆるものを犠牲にしても構わない」人々である。思想的に相容れないことを確認し、螢は平静を装いながらも蓮に対して悪感情を覚え始める。この時点では感情をセーブできているせいでまだ「クールな黒髪少女」のイメージが保たれているな……螢は進めば進むほど地が表れて印象も変わっていくヒロインなんですが、アニメじゃ尺がなさすぎて「急にキャラが変わった」ってふうにならないか心配だ。

 神父と少女の会話に割り込むかのようにフラフラと歩いてくる奇抜な格好をした少年は遊佐司狼、2話目で蓮と殴り合っていた金髪野郎で、もう退学済です。失踪期間中にアレコレあって不良グループのヘッドみたいな地位に就いていますが、ゲーム本編だとかなり後になって再登場するからここでいきなり出てきたことに原作ファンの大半は驚いただろう。番外編のエピソードでいろいろ暗躍していたことが判明しているので「未知」というほどではないが、「ひょっとしてアニメは後半からまったく新しいシナリオを紡いでくれるのでは?」と期待が高まった。ただ、テンションが上がるのは原作ファンだけで、新規の人は「あの顔のあたりが暗い金髪、誰? 神父がオモチャとか何とかワケ分からんこと言ってたけど、何の説明もなし?」と困惑したことでしょう。補足説明しますと、黒円卓の副首領メルクリウスは「ワケ有って自分は儀式に参加することができない、だから自分の代理として『ツァラトゥストラ』というオモチャを用意する、そいつと存分に遊びながら儀式を執り行ってほしい」みたいなことを言い置いて現在姿を晦ましている状態です。で、神父たちは「たぶん藤井蓮がツァラトゥストラだろう」と当たりを付けている。遊佐司狼はツァラトゥストラじゃないけど「メルクリウスに何かされた」という点ではツァラトゥストラと同じ、つまり「副首領閣下のオモチャ」なんだろう――と予想したわけだ。続く「可哀想に」という同情めいた言葉から察するに、己や螢もまた「副首領閣下のオモチャ」なのだという自覚があるのかもしれない。要するになんもかんもメルクリウスが悪い。

 Bパート、悪夢に魘される蓮。彼が目を覚ますとなぜか公園にいて、目の前には女性のバラバラ死体が……「ほう、カドゥケウスの発動シーンはアニメだとこうなるか」みたいな興味深さは感じたが、あまりに淡々とし過ぎていて原作にあったサイコスリラー的な怖さは完全に消え失せている。このシーンはいろいろと解説したいのだが、それをやるとどうしても次回のネタバレが大量に含まれてしまうだろうし、自重します。凄惨な有様にゲーゲーと吐いている蓮のところにやってくる魔人がふたり、ヴィルヘルムとルサルカ。ヴィルヘルムの声に反応して、蓮はバッタみたいに跳ねながら後退する。うん、ここは「およそ人間とは思えないほどの跳躍力を発揮させることで、蓮が普通ではない存在になりつつあることを表現する」シーンなんですが、ピョンピョンした動きに緊張感が削がれること夥しい。ヴィルヘルムとの遭遇戦は最初の見せ場なのに、うーん、アニメ版はなんか観ていて楽しくないというか……ぶっちゃけ辛い。バトルの段取りもメッチャ端折られており、蓮が覚悟を決めてヴィルヘルムを殺す気で攻撃するあたりもうまく表現されているとは言えない。「はぁ〜、口直しに『ゆゆゆ』観直そ」って気分になる。

 ルサルカも渾身の「ばぁ」がタイミング的に外れていてイマイチ効果を発揮していないのが残念。ヴィルヘルムとルサルカは蓮がメルクリウスの寄越した代替(ツァラトゥストラ)ではないかと疑っているが、まだ確証を得ておらず、探るような言葉遣いになっている。しかし蓮の反応が完全に「何の事情も知らない一般人」のそれで、しかも副首領閣下が寄越したとは思えないほど脆くて弱いことに拍子抜けして「とっとと殺そう」って雑な結論に行き着いてしまう。彼らは殺した人間の魂を吸収することができますが、それで細かい記憶を探ったりすることはできないので、「最悪頭だけは残せ」とルサルカが忠告しています。ルサルカは黒円卓に入る前から魔道を歩んできた「古株」であり、単純な強さではヴィルヘルムや後に出てくるトバルカインに負けるが、細かい操作を必要とする魔術は得意で「小細工担当」といった趣がある。ちなみにヴィルヘルムやルサルカが日本語ペラペラなのは、昔殺して魂を取り込んだ人間の中に日本語ネイティブの人がいるからです。

 ボロきれを纏ったメルクリウスの幻(?)がいきなり「私に未知を見せてくれ」とか言い出すので面食らった視聴者もいるはず。行方を晦ませているメルクリウスは「力が安定せずいつ殺されてしまってもおかしくない初期状態の蓮」をうっかり死なせないよう、ちょくちょく干渉してくるのです。力が安定してきた、と判断すると引っ込んで成り行き任せの観客気取りになる。オペラの演出と鑑賞をいっぺんにやろうとするんだから忙しい奴ですよ、あいつは。あんまり干渉しすぎると「いつもと同じ展開」、つまり既知に堕してしまうのでなるべく干渉しないようにしつつ、でも死んでしまっては元も子もないので多少は援護しないと……と奴なりに難しい匙加減に挑んでいるわけだが、ゲームの序盤ではことあるごとに顔を突っ込んでくるため昔のExcelやWordにいたイルカ並みにうざい。アニメもバトルの最中にいきなりマリィへ告白するシーンが挿入されて、なかなかにうざったい。蓮が主人公らしく覚醒しようとしたところで螢の横槍が入り、バトルは中断。もし螢が止めてなかったらヴィルヘルムは死んでいたかもな。最後にルサルカは蓮の負った傷に応急処置を施しているが、アニメの描写だとわかりにくいかも。

 翌日、精神的な疲労もあって体調が優れない蓮は遅めに家を出る。帰宅する玲愛先輩とすれ違い、「気を付けて」という忠告を受けた後に階段で制服姿のルサルカと螢に出遭う。原作だとこの階段のシーンは「それまで完全に分断されていた『学園パート』と『黒円卓パート』が合流し、蓮の聖域(日常)が粉々に砕け散る」ことを象徴する印象的な一枚絵になっていました。あのときに込み上げてきた絶望感と、「物語が動き出す」ワクワク感は10年経った今も色褪せていない。体験版第1弾のラストシーンもここでしたね。「これからどうなってしまうんだ!?」と古参はみんなドキドキしたものじゃ……。

 アクションシーンの残念っぷりもさることながら、原作で印象的だったシーンがことごとく「間が死んでいる」せいで本来の効果を発揮できずにいるのがもどかしい回でした。次回、前半屈指の名場面となる箇所が待ち受けているけれど、この出来だと不安を通り越して「いっそ観たくない」まである。もう次回の解説は欠番にして飛ばしていいですか? あそこ思い入れが強いところなので今回みたいなのが来たら辛いなんてレベルじゃないですよ……「怒りの日」(と庭)で心がボロボロになって、何度も待つのをやめたくなったけど、3章を繰り返しプレーすることでどうにかギリギリDies完成版への期待を失わずに済むことができたんですよ……。


(4話目/第3話「悪夢の終わりは始まり」/2017年11月2日)

 原作の章題が「End of Nightmare」であり、それを踏まえたタイトルとなっている。なんというか、率直に言って辛い回だった……初見の人にとっては何が何やら意味不明で辛かったでしょうし、原作ファンにとっても「ゲームでは前半最高の盛り上がりを見せる場面なのに、アニメじゃこのザマかよ」と違う意味で辛くなる。もう解説は断念して不貞寝しようかとも思いましたが、「ストーリーを理解したい」と願う新規の方がこのページに迷い込んでくる僅かな可能性に賭けて続けるとします。

 第2話から一週間が経過しています。悪夢と殺人に因果関係がある――「眠った俺が人を殺す」と確信を抱いた蓮は、もっとも単純な対処法として「眠らない」ことを選択。すると本当にピタッと殺人事件が発生しなくなったため、ますます眠るわけにはいかなくなる。ひたすら眠気に抗いながら学園へ通い、教室に入り込んできた怪しい連中にも警戒せねばならない、そんな張り詰めた状況が一週間に渡って続いてきたわけです。アバンやAパートの蓮が妙にやつれた顔をしているのは著しい不眠のためなんですが、新規視聴者にはこの「一週間ずっと完徹していたせいで精神状態がボロボロになっている」こと自体まず伝わっていないのでは……? と心配になった。原作をプレーしていたとき気になっていた「幽鬼みたいな顔」の蓮が実際に確認できて、ファンとしては興味深かったけど……。

 冒頭はルサルカとの会話シーン。またしても屋上であり「こいつ、いっつも屋上に来てんな」とツッコまれてもしょうがないレベルだが、「日本語ペラペラで人当たりがいいドイツ人留学生」を演じているルサルカは非常に目立つし、うっかり香純が通りかかって彼女を巻き込んでしまうようなことは避けたい、という思惑もある。本当は蓮、同じ日本人である螢の方がまだ与しやすいと判断して先に彼女へ声を掛けていたのですが、「先約がある」と断られて仕方なくルサルカと話し込むことになっている。原作では事情をまったく知らない蓮に対してルサルカの口からあれこれと様々なことが伝えられる、要は解説パートに当たるところです。「おまえらは何者だ?/ツァラトゥストラってなんだ?/もう一人の男は何処にいる?/なんでこの街に来た?/俺をどうするつもりだ?」が原作にあった質問ですが、アニメでは大幅に割愛されているせいもあり、いまひとつ踏み込みの浅い内容になっています。だからこちらである程度バラしてしまおう。

 黒円卓の連中は「ある儀式」を行うために日本の地方都市くんだりまでやってきました。この地方都市、「諏訪原市」はその儀式を行うために作られた街であり、「スワハラ」という名前も儀式に因んで命名された……ということになっていたが、「まるでダジャレみたいだ」と不評だったせいで現在はそのへんが有耶無耶になっています。儀式の目的は、特異点に向かったラインハルトの城を現世に呼び戻すための「復路」を作る、ということ。第0話のラストで描かれたベルリンの大虐殺は「往路」を作るための儀式であり、その対としてふたたび殺戮劇(グラン・ギニョル)を引き起こそうとしているのです。具体的な手順としては、街にいくつか存在している霊的に重要なスポット「スワスチカ」で大量の魂を捧げることにより実績を解除していく、という感じになるんですが……いっぺんにいくつも解除すると儀式の一部として組み込まれている術者への負担が大きくなってしまうため、多少間隔を空けながらゆっくり一つずつ解除していく必要があります。実績解除のことを作中では「スワスチカを開く」と呼んでおり、スワスチカが開くと団員たちの身に刻まれた聖痕も開いて出血と激痛が発生するため「あ、誰かスワスチカを開けやがったな」とすぐに伝わる=気づかれないようこっそりとスワスチカを開くことはできない。スワスチカを開いた数だけ首領の覚えがめでたくなるため、黒円卓の連中は可能な限り自分の手でスワスチカを開こうと躍起になっています。黒円卓メンバーがあまり固まらずにバラバラで動き回ることが多いのはこうした「早い者勝ちなんだけど、急ぎ過ぎたら儀式が破綻してしまう」っていう面倒臭い特殊な事情が絡んでいるからです。神父は団員たちが勝手な行動に走り過ぎて儀式が破綻しないよう適宜調整を掛けているものの、「手柄の奪い合い」が必然となる仕組みのため完全に従わせることまではできず、どうしても成り行き任せになってしまう局面が多い。

 長々と説明してみましたが、「全然意味がわからなかった」という人向けにもっと簡単に言いますと、「主人公と敵対しているグループはメンバー全員が協力関係にあるのではなく、むしろ競争関係にある」ってことです。だから味方を出し抜こうと企んでいる奴もいて、「相互監視じみた駆け引き」が裏で密かに行われている。

 OPが明けると教室で黄昏ている香純の姿が映る。彼女はこの一週間ずっと様子がおかしい蓮のことを心配してちょくちょく構おうとしていたのですが、蓮は「香純を変なことに巻き込みたくない」と思うあまり避けるような素振りを続けてきた。そのせいで二人の関係はギクシャクしている。香純といる方が心が休まるからと久々に一緒に帰ることにした蓮、「ひ弱な俺を守ってくれ」云々といった軽口も香純に心配を掛けまいとして言っているのだが、アニメだと唐突すぎて「何言ってんだこの野郎は」感が強い。ちなみに原作だとルサルカが「一緒に帰りたいとか思ってるんだけど、駄目?」と誘って蓮がすげなく断る、といった遣り取りが直前にあります。声を掛け辛そうにしていた香純に螢が呼びかけて蓮と一緒に帰るよう仕向ける、ってシーンもあった。螢は学園でのシーンが大幅にカットされて存在感が極めて薄くなっているな……。

 放課後の剣道場、人間離れした膂力で打ち込み用の練習機器を破壊する香純――蓮もこの時点で「香純がおかしい」ことには気づいている(気づかないはずがない)ものの、現実を直視したくないあまり深く考え込まない。睡眠不足で思考能力が低下しているせいもあるだろう。それにしても、覗きのカミングアウトから突如デートに雪崩れ込んでいく展開に新規の人は付いていけたのだろうか? 香純が蓮にチョーカーをプレゼントしたあたりで蓮の眠気は遂に限界に達し、睡魔に捕まってしまう。香純の両眼が妖しく輝き、「カドゥケウス」が発動。カドゥケウスとは「絡み合う双頭の蛇」という意匠であり、蓮と香純は博物館でギロチンを見たときにメルクリウスの仕掛けたこの術式に囚われてしまった。黄昏の浜辺でマリィに向かってメルクリウスが「至高の首飾りを用意した」と語っているシーンは、メルクリウスがかつて使っていた偽名「カリオストロ」に因む「マリー・アントワネットの首飾り事件」を意識した発言である。マリー・アントワネットがギロチンに首を刎ねられて落命したように、マリィもまたギロチンに首を断たれて亡くなった少女。首を斬られて死んだ子に「首飾りを用意した」とか言い出すメルクリウスのセンスはどうかと思うが、ともあれ結論を述べますと「首飾り」とは藤井蓮のことを指しています。マリィに宛がうために用意した、渾身の首飾り――って、主人公を平然と物扱いしている時点で「あ、こいつ絶対に味方じゃないな」と悟らせてくれるメルクリウスはある意味とても親切だ。

 で、カドゥケウスとはすなわち「双頭の蛇」を模した術式であり、必要に応じて首から上が切り替わる――本体である蓮が眠りに落ちて意識を失った瞬間、「殺し役」としての香純が覚醒する仕組みとなっている。「蓮のために何か役に立つことをしてあげたい」と願っている香純のピュアな想いに付け込んで、本来蓮が行うべき殺戮劇(グラン・ギニョル)を代行させられているのだ。殺し役として活動している間の記憶は表層意識には残らないが、深層意識には刻まれているため、原作のルートによっては「思い……出した!」りする。香純はカドゥケウスを介して博物館のギロチンと繋がっており、ギロチンの「切断」を権能として振るう代わり、殺した人間の魂を博物館にあるスワスチカへ捧げています。本来、スワスチカは一般人をちょっと殺し回った程度では開きません。しかし11年前にここでベアトリスが「ある人物」と戦って死亡していることもあり、博物館のスワスチカは既に開きかけていた。香純は「最後のひと押し」を担当した形になります。

 スワスチカは「生け贄を捧げる祭壇」であると同時に「戦場跡の再現」であり、単なる虐殺よりも「闘争による死」が望ましいとされている。ゆえにメルクリウスは黒円卓の団員と戦う相手として「ツァラトゥストラ」なる存在を用意した。最初は藤井蓮がツァラトゥストラではないかと睨んでいたヴィルヘルムとルサルカはそのあまりの弱さに疑念を抱き、一週間も出られなかった反動で派手に暴れ回る殺し役の香純を「あっちが本物のツァラトゥストラだろ!」と追いかけ始める。逃げながら人々を殺戮する香純と追いかけながら死と破壊を振り撒くヴィルヘルムたちのドッタンバッタン大騒ぎで橋はあんな惨状を示していたのだが、アニメではこのへんまるっと省略されてしまったな。あのシーン結構好きなんで、正直、このアニメのクオリティで描かれなかったことに安堵してしまっている……ひょっとして、名シーンをカットされた方がファンは喜ぶ……?

 必死になって香純を捜し回る蓮へ声を掛けたのはアニメ版だと存在感が薄い螢。欄干の上に突っ立って雨に打たれている姿はシュールだ……電柱の上に佇むアイや街灯に立つシエル先輩を意識したカットか? それにしては高さが半端だけど……原作ファンでも一瞬「何この女?」と思ってしまった。というかDiesアニメ、概ね「何この男?」と「何この女?」で成り立ってやがる。彼女からカドゥケウスについての解説が入るわけだが、ところどころ原作とは違うな。初期はまだ設定が固まり切っていなかったのか、原作の螢の説明を鵜呑みにすると辻褄の合わない部分がちょいちょい出てくるんですよね。「殺し役」という非常に分かりやすい用語もアニメでは使用されていません。対義語、つまり蓮を指す言葉が「喰らい役」で、現環境だと誤認識になっちゃうから使うに使えないんだろう。

 クライマックスは静かに錯乱している香純との対峙。殺し役たる彼女からその権能を取り上げ、光射す日常の世界へ帰さねばならない。司狼と喧嘩した理由も知らず、何ヶ月もずっと蚊帳の外に置かれ、耐えがたい疎外感を覚え続けてきた香純にちょっとやそっとの説得は通じない。痛みを堪え、怒りを呑み、言葉を尽くし、覚悟を決めて歩み寄り、固く抱擁する。演出も相俟って原作では屈指の名場面となっているところなんですが、うん、アニメだとひどいな。「あたし、こんなになっちゃったよ」はもっと胸を抉られるセリフだったんだが……そもそもこの場面に至るまでの流れも悪く、もうここに書きたくないほど気分が冷え切ってしまった。私がアニメに期待を寄せる真面目なファンだったら「怒りが、今臨界を突破した」なテンションになっていたかもしれない。このあたりまでがちょうど体験版の範囲ですので、時間がある人は解説記事の類を読むよりも直接体験版をプレーした方がいいと思います。「Dies 体験版」で検索すれば2、3番目くらいに出てくるはず。18禁なので未成年の人は注意されたし。

 と、解説放棄してしまうくらい、今回はアレだった……いきなり視点が宇宙に飛んでメルクリウスが出てくるあたりとか、原作知らない人はポカーンだろうけど、原作知ってる人だってあれにはポカーンとしましたよ! 「えっ? ここどう解説すればいいの? ○○のことをバラしてしまうのはいくら何でも……」と躊躇して結局スルーせざるを得なかった。強いて言うなら、あいつの「私に未知を見せてくれ」ってセリフは周回ゲーをやってる最中に懇願する「レアアイテムドロップしてくれ」くらいのノリである。ダメだろうなって諦念と、今度こそって期待が入り混じっている。

 次回は「蜘蛛」ということで、終わりの方にチラッと登場したみんなのアイドル、シュピーネさんがいよいよメインを張ります。わあ、楽しみだなあ。シュピーネさんは見た目がアレだけど黒円卓の連中からは割と好かれています。今回ヴィルヘルムたちが香純を追うのをやめて大人しく引き下がったのも裏でシュピーネさんが手を回したからです。すげーじゃんシュピーネ、フィクサーシュピーネじゃん。アニメだと香純を追跡するシーン自体がなくなっているから、この解説あんまり意味ないんだけども……。

 てか、思い切りヨハンの名前を出していたけど、あのへんアニメでやるのか? 確かにヨハン関連を省略すると神父やシュピーネの行動が意味不明になってしまうからやっておいた方がいいことはいいんだろうが、現時点で新規の人は既に付いていけてないみたいなので不安だな……。


(5話目/第4話「蜘蛛」/2017年11月8日)

 はい、というわけで「シュピーネさん」こと「ロート・シュピーネ」の出番はこの回で終了です。お疲れさまでした。

 「えっ? ファンからさん付けされるくらい人気あるキャラなんでしょ? クソ雑魚みたいに瞬殺されたんだけど?」と戸惑う新規の方向けに解説しますと、「見た目は完全に噛ませのクソ雑魚だけど、黒円卓の魔人集団にクソ雑魚がいるわけないよな」「ああ、ベイ相手に『この男は駄目だ――』ってやたら上から目線だったし、実は強キャラなんだろうな」といった事前予想をすべて裏切って「ホンマにクソ雑魚やんけ!」とオチがついたため、当初はネタキャラ的な意味で人気が出ました。団員のほとんどが創造位階に達している中、形成位階止まりであるシュピーネを揶揄する「形成(笑)」って愛称(蔑称?)もあったっけ。

 彼の退場シーンは共通ルートにおける出来事なので、個別ルートが刷新されたリメイク版や完全版においても扱いがほとんど変わらず、その不動ぶりが却って畏敬の念を呼び覚ますところもあった。また、これはあまり詳しく説明できないが、諜報担当ということもあって双首領(ラインハルトとメルクリウス)の企み――彼らが為し遂げんとする「黄金錬成」の真実にかなり近いところまで迫っていたことが後々判明し、「短慮で自爆したとはいえ、そこまで焦らざるをえないほど真相に肉薄していた」シュピーネを普通に見直すプレーヤーも出てきた。他の団員、たとえばルサルカは常に余裕ぶって笑っていますが、あれはシュピーネに比べて掴んでいる情報が少ないせいで「まだあわてるような時間じゃない」と勘違いしているだけです。そんなこんなで特にこれといった契機もなく自然発生的に「シュピーネさん」と敬称で呼ぶ流れができて、「ネタキャラ的な意味での人気」と「単なるキャラ人気」が混在するようになっていった。もっとも凡人に近い思考回路を持つ存在ゆえ、「快楽目的で殺人を繰り返す」点を除けば親しみの持てるキャラではある。

 冒頭は屋上での香純と玲愛の会話……ホントにこのアニメ、屋上のシーンが多い。一人で飯を食っている玲愛先輩の姿に「この人友達いないの?」と思ったかもれませんが、玲愛先輩の場合は「友達がいない」というよりは「友達を極力作らないようにしている」感じですかね。理由は人間強度が下がるから、ではないけれど。場面が切り換わると「くっ、鎮まれ……!」的邪気眼ムーブ真っ最中な蓮が映る。そこに現れたのは櫻井螢――アニメ版では「意味もなく欄干の上に立つ女」という変人イメージが根付きつつあるヒロインです。やっと出番らしい出番が回ってきて螢ファンも安堵したであろう。睡眠不足が解消された割に情緒不安点気味な蓮、その理由は彼がまだ活動位階に留まっているから。位階については後述しますが、最初の段階に当たる「活動」の時期は極めて不安定であり、精神が耐え切れず暴走して自滅してしまう危険性が高い。なので「形成位階(第二段階)止まり」の術者はいても「活動位階止まり」の術者は存在しない。

 OP明けたら聖槍十三騎士団の象徴とも言える漆黒の大円卓がお目見え。ちゃんと13人分の椅子が用意されているものの、半分も埋まっていない……なにげにフルメンバー勢揃いのカットってあまりないんですよね、こいつら。アニメでは過去のシーンとはいえ全員が席に就いている絵が出てきて嬉しくなった。ちなみに団員たちが円卓の椅子に座っている姿は公式グッズのタペストリーにもなっています。大円卓のある空間は諏訪原市の地下に位置しており、椅子と同じく通路も13個あるそうですが、教会以外の出入り口ってあったっけ?

 遠目に見るとゼーレのアレっぽくも見える椅子に腰かけている団員は6名。トリファ、シュピーネ、ヴィルヘルム、ルサルカ、この4名は特徴がハッキリしているのですぐに分かる。が、残りの2名は判別し辛い。席順から察するにシュピーネ(十の席)の隣にいるのがリザ(十一の席)、ヴィルヘルム(四の席)の隣にいるのは螢(五の席)だろう。二人ともロングヘアーだから暗い場面のカットだと見分けるのが難しい。議題は蓮の処遇。彼らが行おうとしている儀式では「闘争による死」が至上とされている。ヨチヨチ歩きを始めたばかりの蓮を力任せに捻り潰すことなど造作もないが、あえて彼の力を引き出し「互角の戦い」が演じられるよう仕向ける……という、非常にまどろっこしい方針が採択されます。ぶっちゃけ、「闘争による死」が叶えられるのであれば黒円卓のメンバー同士で殺し合うのも全然OKって状況が背後にあるため、もし蓮が「戦争の相手」として不足しているという結論が出てしまったら黒円卓はそのまま内ゲバに突入して行かざるをえなくなります。いざとなれば内輪での殺し合いも辞さない覚悟だが、なるべく最後の手段として取っておきたい、って気持ちから「敵である蓮をあえて育てる」という迂遠なやり方が選ばれました。粗暴なヴィルヘルムがここで暴発しないのはきっとシュピーネがうまく抑えているからだろう。

 螢の口からやっと黒円卓について説明らしい説明が入ります。アニメでは濁しているが、要するに「ナチスの残党」です。戯れに「ラストバタリオン」を気取ったりしているがヒトラーのことは心底どうでもいいと考えており、総統に関する話題が出たことはほとんどない。SS(親衛隊)じみた軍服を纏いながらもナチスの思想はまったく引きずっておらず、ただ利己的な願いを叶えるために邪悪かつ超常的なオカルト手段に縋っているろくでなしども、それが黒円卓である。戦争を模した儀式(オペラ)で一定以上の手柄を立てた団員は、その願いを叶えてやる……という約束が履行されることを信じて、螢もまた胡散臭い連中に唯々諾々と従っている。彼女の「願い」についてはじきに説明が入るだろうからここでは書きません。

 ラインハルトとともに何人かの団員が姿を消した、とありますが、あのカットに映っているのはラインハルト、カール・クラフト(メルクリウス)、シュライバー、ゲッツ・フォン・ベルリッヒンゲン(長いので「マキナ」という通称で呼ばれることが多い)、エレオノーレ、イザーク。この5名が黒円卓の幹部であり、残りの8名は俗に「現地組」と呼ばれています。現地組のトップがトリファ神父、最高指揮権を持ち「聖餐杯猊下」と恭しく呼ばれているものの、過去に一度「黒円卓やべぇよ、付いてけねぇよ」と勝手にバックレようとしたことがあったせいであまり人望はない。人望だけに関して言えばシュピーネの方が上だろう。

 黒円卓の魔人たちが駆使する極道魔道兵器、「聖遺物」。呼び名のせいでつい神々しい何かをイメージしてしまうが、これはメルクリウスが便宜上付けた名称でしかないため、実態は螢の言う通り「聖なるモノ」というより「呪われたモノ」に近い。永劫破壊(エイヴィヒカイト)は「大量の魂」を消費する魔術であり、媒体としては「人の死に関わった器物」がうってつけ。メルクリウスは何を考えて呪具に「聖遺物」なんて名称を与えたのか? については、そのうち分かるかもしれません。ちなみに聖遺物との契約は「魂の融合」なので、聖遺物を破壊されると術者の魂も砕け散って絶命しますが、逆に術者の方が死んでも聖遺物はそのまま残ることもあります。前にも書いたが「術者の魂を喰い殺して代替わりさせる聖遺物」も存在しており、こちらはまさに装備したら外れない呪われたアイテムといった風情である。

 そして、ようやく位階の説明も入りました。エイヴィヒカイトはクリスチャン・カバラをベースにメルクリウスが組み上げたオリジナルの魔術体系であり、習熟度に合わせて活動(アッシャー)・形成(イェツラー)・創造(ブリアー)・???、四つの位階(ディグリー)に分けています。平たく言えばレベル概念です。

 レベル1に当たる「活動位階」は聖遺物と契約して(魂を融合させて)権能の一部が使えるようになった状態。武器としてのギロチンを出現させる前の蓮もギロチンの「切断」という権能を振るうことができる。形成や創造の位階に達した連中のほとんども普段は「活動」の状態で日常生活を送っています。位階は「どこまで展開できるか」の上限であって、創造位階の術者すべてが常に創造を展開し続けている、というわけではない。「器物と魂を融合させる」うえに「他人の魂を取り込む」異常な状況から精神に負荷が掛かり、この時期に暴走・自滅する恐れが高いことは先述した通り。次に進めてようやく「適性がある」と言えるようになります。

 レベル2に相当する「形成位階」は契約した聖遺物を形あるモノとして具現化する、言うなれば「得物を出す」ことができるようになった状態。活動が「人間離れ」だとすれば形成は「超人の域」、このへんになると水の上を走ることができるようになったり、無呼吸でも生存できるようになったりと、生命の限界を突破し始める。第4話で覚醒した蓮はこの形成位階に達し、ギロチンを任意で出し入れすることが可能になりました。「形成!」は戦闘モードに入るときの掛け声みたいなもので、仮面ライダーの「変身!」とほぼ同義。抜き身の刀を提げるようなもんだから日常生活で使うモードではないが、中には事情があって普段から聖遺物を剥き出しにしている特殊タイプの団員もいます。また取り込んだ魂が強固であれば独立した人格として「形成」することも可能。

 「創造位階」は奥義とか必殺技を会得した状態。簡単に言うと「世界の法則を自分にとって都合の良い形に書き換える」。覇道型と求道型の二種類があり、覇道型は自分を中心にして新たな宇宙を作り出し、求道型は己自身を極小の特異点に変える。ゲームで喩えると敵全体にデバフを撒くのが覇道型、自バフ盛り盛りトランザムするのが求道型です。強力ではあるがエネルギーの消費も激しく、時間制限を考慮すると「ここぞ」って場面しか使えない重要な切り札だ。形成からこの創造位階へ上がろうとする際には、大きな壁が立ちはだかる。この壁をあえて名づけるなら「正気の壁」ですかね……世界の法則を意図的に捻じ曲げようとするわけですから「そんなの無理に決まってるだろ、常識的に考えて」と囁きかける理性を木っ端微塵に吹き飛ばせるくらい頭がおかしくないとダメである。「自分は相手よりも速く動ける」ってルールを設定する際、「よしんば相手のスピードが光速だったとしたら?」と訊かれて「もちろん光速を超える」と真顔で言い返せる奴じゃなきゃ創造位階には達せない。リザやシュピーネは何十人、何百人もの犠牲を積み上げることができるくらい非道ではあったものの、こういう頭のおかしさが足りないせいで形成位階止まりである。

 最終位階「???」は到達した者がいないので不明……ということになっていますが、ここまでの説明で察しがつく人もいるだろう。詳述は避けるが、一つだけ言うなら「この位階に昇ると、それ以前の位階に戻ることは不可能になる」。位階の他に「武装形態」という分類もあるが、こちらはストーリーを追う上で特に把握する必要のない知識だから興味のある人だけ読めばOK。

 空き缶相手に力の制御を訓練するシーンで首のあたりにブゥーンブゥーンとカラータイマーみたいな赤い光が浮かぶのは斬首痕、マリィ(ギロチン)と契約した証です。見咎められぬよう、普段はドーランを塗って隠している。マリィは触れた相手の首を刎ねてしまうので普通なら契約することなど不可能だが、何せ蓮はメルクリウスが直々に用意した「首飾り」、断頭耐性があります。なんで耐性があるのか、という理由も設定されていますが、長くなるので説明は割愛。このへん原作だと螢がスパルタ方式で特訓するシーンもあったが、尺の都合で削られています。いきなり拳銃取り出して手の甲を撃ち抜くシーン、「あ、この女も頭おかしい」と明瞭に伝えてくれる感じで好きだったんだけどなぁ。残念。

 「螢と付き合っている」というあからさまな嘘を信じてショックを受ける香純に、モブのフリをしてぶつかり首に極細の不可視ワイヤーを仕込む男。彼こそは西新宿のせんべい屋、ではなく黒円卓の諜報担当、紅蜘蛛(ロート・シュピーネ)です。「花柄のスマホ使ってるとか、シュピーネさん可愛い趣味してるな」と一瞬勘違いしかけたが、あれはぶつかった瞬間に香純のスマホを掠め取っただけですな。人間離れした力を持ってる割にいちいちやることがセコいというか、つくづく「なんでこんなショボい奴が世界を滅ぼす魔人集団に混ざっているのか?」と不思議になりますね……実はシュピーネさん、メルクリウスの意向とは無関係に入団したイレギュラーなメンバーなんです。もともとは収容所とかで働いていたナチスのマッドサイエンティストだったんですが、トリファからスカウトされて黒円卓に移籍。トリファ神父は首領たちのお気に入りだから「あいつが推薦するならまあいいだろう」とメンバー入りを特別に許可されました。この経緯が何を意味するかと申しますと、「ラインハルトやメルクリウスに心酔して入団したわけではないので黒円卓への忠誠心は薄い」ってことです。

 Bパート、夢の中(特異点)でマリィとの逢瀬、目覚めたところで玲愛およびリザとの会話、徘徊している神父との会話を経てシュピーネ戦へ。仕方ないこととはいえ、メッチャ話を飛ばしまくっています。原作だと螢との特訓中スピーカー越しにシュピーネの声を聞くシーンがあったり、街中ですれ違った瞬間に声を掛けられるシーンがあったりして、「顔は知らないけどシュピーネという何だか気持ち悪い団員がいる」ことを蓮は知っているんです。アニメはそのへんの細部をバッサリ削ぎ落としてしまったせいで「まったく知らない相手から掛かってきた電話の内容を超速理解する」形になってしまっている。シュピーネの「巣」にショックを受けて「こいつは何だ? どういうことだ? 俺は確かに常識的な世界から脱却しようと誓ったが、ここまでなのか、こっち側は」と覚悟が足りなかったことを痛感する場面も、当たり前の如く跡形もなく霧散している。「あまりにもダイジェストすぎて盛り上がらない」というのが原作ファンとしての感想。

 シュピーネの聖遺物は糸に見えますが、実際は縄。ワルシャワ・ゲットーで数多の人間を縊り殺した縄をベースにしつつ犠牲者たちの体毛も織り込まれていて、肉眼では捉えるのも難しいくらい細くなる。効果が派手なせいでギロチンと同じく「切断」が主な用途と錯誤しそうになりますが、「拘束と絞殺」が本来の用途。たとえ切断不可能な相手でも動きを止めてしまえば無力化できる。全盛期のシュピーネは「聖餐杯猊下といえども脱出できぬ逸品」と嘯いていましたが、アニメの描写を観ると神父(聖餐杯)がわざわざ聖遺物出して斬ってるくらいだからあながち嘘でもなかったのかな。神父の特徴は「ほとんどの攻撃を無効化するバリア」を常時展開していることであり、あの聖遺物を出す瞬間だけバリアを解除して無防備にならないといけないから、無意味に軽々しく聖遺物を展開するようなことはないはずです。

 香純を惨殺されたと思い込んで激昂した蓮が自分の両手両足をもぎ取って這いずり進む芋虫戦法はアニメオリジナル。原作ファンが一番ビックリした箇所はここです。まさか蓮が地虫十兵衛になるとは……前回の遣り取りにあった「香純は胸にホクロがある」という情報が「殺されたのは香純じゃない」ことの伏線になっていたので、当然気づく流れだと思っていたんですが……シュピーネ戦は原作からの変更点が多く、そういう意味では興味深かったものの、単純に面白いかどうかと問われると「あんまり」というのが本音。ビルを切り裂く糸、ハッタリ描写としては好きなんだけど、あの場面でシュピーネさんがアレをやる意味が特にないのは何ともかんとも。「蓮の怒りが有頂天」であっさり形成位階に到達するのも原作ファン的に残念な箇所。マリィという少女を武器として使うことの後ろめたさから目を背けず、覚悟を固めて向かい合っていく重要なスタートラインがなくなって、「愛しい人(モン・シェリ)……」や「時よ止まれ――おまえは美しい」などの印象的なセリフも丸ごとオミットされましたからね。代わりに体中からギロチンが生えるシュールな絵を見せられますが、あれは理性を失っているとき特有の武装で、理性があるときは右手だけギロチンになります。蓮の通常武装はいまいちアニメ映えしない、という事情も関係してああいう演出になったのかも。

 蓮を適度に覚醒させつつマウントを取って屈服させ、「さっき殺したのは綾瀬香純さんじゃありません! ドッキリ大成功!」で仲間に引き込もうと画策したシュピーネさんでしたが、蓮の感覚からすると「そこらへん歩いている女性を攫ってきて惨殺するような奴と手を組むなんてありえない」ので、たとえ理性が残っていて「さっきのは香純じゃない」と気づいても結果は変わりません。切羽詰まったシュピーネは咄嗟に共犯者である神父に頼ろうとしますが、ところがどっこい神父はシュピーネを見殺しにする気満々であった。「保険」と称して本物の香純に繋げたワイヤーを起動させて殺害する意思を示したのは、「綾瀬香純が死ぬと神父の造反計画は水泡に帰す」からです。シュピーネが幹部に対して忠誠心を抱いていないように、神父もラインハルトやメルクリウスに対しては忠誠心どころか叛意を抱いている。香純を殺されたら元も子もなくなる神父は脅しに屈する、と考えたのか、それとも死なばもろともな心境だったのか。どちらにせよシュピーネの期待は神父が繰り出した聖遺物とともに脆くも断ち切られ、驚愕しているところに蓮のギロチンを叩き込まれて散華。第二のスワスチカを開く礎となりました。早めに儀式を頓挫させようとしているシュピーネに対し、神父は己の計画を遂行するためもうちょっとスワスチカを開く必要があった――この齟齬が両者を分かつ結果となったわけです。

 残りのスワスチカは6つ。スワスチカが開くごとにラインハルトたちは特異点から現世に近づくので、だいたい2、3個開けば不完全体ながら降臨できるようになる。ラストのアレは「そろそろ諏訪原市に遊びに行こうぜ」みたいな話し合いをしていたところなんじゃないでしょうか。

 シュピーネさん、とっくの昔に倫理観を喪失しているせいで蓮へのアプローチを完璧に間違ってしまったけど、もうちょっとマシな接触をしていれば「シュピーネルート」へ突入できたのではないか……という想いと、「いや、序盤で呆気なく散ってこそシュピーネさん」という想いが綯い交ぜになる。ファンのみならずクリエイターからも愛されているキャラであり、ゲームの原画を手掛けたGユウスケによるハロウィンシュピーネコミカライズ担当の港川一臣によるエンドカードシュピーネなど、瞬殺されたクソ雑魚とは思えないほど厚遇されている。人間性で語れば「カスも同然」の一言でオシマイだが、キャラとして見るかぎり非常に美味しい野郎、それが「紅蜘蛛」ロート・シュピーネです。彼のことをもっと詳しく知りたい人は、原作やるよりも公式ノベライズの『Dies irae 〜Wolfsrude〜』を読んだ方がいいかも。私は途中までしか読み進めていないが、シュピーネさんの出番が結構多いらしい。

 次回のタイトルが「再会」ということは、司狼再登場かしら。原作通りにやるとしたら日常回ですが、どうなることか。


(6話目/第5話「再会」/2017年11月14日)

 やっぱり日常回でした。原作の5章「Holiday」および6章「King of Hollow」前半の内容を取り込んでいます。ずーっと気の休まらない殺伐とした展開が続いてきたこともあり、「やっとここで寛げる」と多くの原作ファンが安堵したオアシスのようなエピソードです。朝起きたら金髪巨乳の全裸少女が同衾! というベッタベタなラブコメじみた導入がイイ具合にギャップを生んでいて、今やってもこのへんは楽しくなる。原作では香純も同衾していたが、アニメだとマリィだけになっています。

 今回は見たまんまの内容なのであんまり解説するポイントがないですね。金髪巨乳の全裸少女ことマリィが突然ベッドに出現したのは彼女の魂を「形成」したからです。力の制御ができない不安定な「活動」の時期を抜け、「形成」の位階に達したことで人間形態のマリィも表に出てこられるようになった。

 マリィの過去もようやく語られましたが、端折り過ぎて訳分かんねぇな。アバンでギロチンに首を刎ねられた僧侶はマリィの両親が若い頃に世話になった父親代わりの恩人であり、革命思想に被れた二人が恩義を忘却して愚行に走ったせいでマリィは不条理にも「呪われた罰当たり児」として生まれてきた、というのが大筋です。このへんはポール・フェバールの「罰あたりっ子」という作品が元ネタなので、興味のある方は図書館あたりで『フランス怪奇小説集』を探してみるといいかも。「血、血、血」ソングもコレから来ている。ちなみにゲーム版第1章のタイトル「L'enfant de la punition」は「罰あたりっ子」の原題です。

 ギロチンの加護(というか呪い)により、肉親以外は触れるだけで首ちょんぱしてしまうマリィ、生前少なくとも100人分は刎ねています。まさに歩くギロチン。なんでそんなに犠牲者が出るまで放っておいたんだ、とツッコまれそうだが、たぶん首を飛ばされた奴の大半は「マリィに乱暴を働こうとした下衆野郎ども」だったからでしょうね……陽炎(『バジリスク』)の母親に命懸けで種付けした甲賀忍者みたいな覚悟はなく、単に「触れたら死ぬ」という噂を知らなかったか、知っていても嘘だと断じて襲い掛かったのだろう。

 何も掴めず、ゆえに何も喪失することがない。最初から欠けているせいで、癒すこともできない。完全なる空虚、「永遠の迷い児」たる彼女は1793年、マリー・アントワネットが断頭台の露と消えた年にフランスのブルターニュで生まれ、十数年後に「魔女」として処刑された。食事を摂ったり睡眠を取ったりする姿が目撃されていないという、『むこうぶち』の傀みたいな状態だったからそう思われてもしょうがないところはある。あっちと違ってクビを切るたびに「御無礼」と言ったりするわけじゃありませんが……処刑の直前、気が狂れていて「血、血、血」ソングしか歌わない彼女に一瞬だけ理性が芽生えて「生涯初めての、そして最後になると思われた人としての彼女の言葉」を漏らすシーンがあったのだが、アニメではカットされた。好きなセリフなので残念がる気持ちが半分、「このアニメであのセリフが使われなくて良かった」ってホッとする気持ちが半分。世界の法則から外れていて、「死してもその場に留まり続け、永劫に回帰しない至高の魂」。マルグリット(マリィ)が佇む特異点、時が止まったような「永遠に黄昏が続く浜辺」は彼女が処刑された場面を世界から切り取った、一幅の絵画なのだ。波が寄せて返す程度の動きはあるから、絵画というよりはGIFアニメか。

 休日なので蓮、香純、マリィの3人は連れ立って街へお出かけ。原作でもレアな私服マリィが闊達に動き回っている姿を観るのは感慨深い。香純の動作をトレースしてちょこまか動く真似っこマリィがすごく可愛いです。タワーに登ったりパフェを食べたり、という原作のイベントもしっかり再現されていて普通に嬉しかった。「もう食べられないよ〜」とベタなことを言う香純を置いて外に出る蓮。彼はもう学園に通わないと決意しています。シュピーネを倒して開戦の火蓋を切った今、螢やルサルカをクラスメイトとして扱う気などサラサラない。可能なら今夜中にでも二人を倒すつもりでいる。そのためにマリィを「使う」ことも辞さない。マリィの意思を確認する件も例によってかなり端折られていますが、原作では殺人の道具として使用されることに何の屈託もないマリィに「俺が香純を殺せって言ったら、殺すのか?」と訊ねて「レンがそう言うなら、わたしは別に」とあっさり返されるなど、この時点で二人の間に横たわる溝はまだまだ深い。最後にエリーこと本城恵梨依が登場して「顔貸してくんない?」って呼び出すところでAパート終了。エリーは蓮たちが入院していた「本城総合病院」の院長の娘で、役割的にはスーパーハッカーです。

 Bパート、神父の独り言……ではなく「城」に坐すラインハルトとの会話です。神父が「今なんつった?」とばかりに聞き返すところのラインハルトのセリフは「一度だけ、私が出よう」。メルクリウスの用意した駒(蓮)が、弱くはないけど思ったほど強くもない……という煮え切らない状態だったので、ここは一つハッキリさせてやろう、と出陣の意向を固めたのです。まだスワスチカが2つしか開いていないから数十分の一程度しか力を発揮できないが、出ようと思えば出られるくらい彼らの「城」は現世に近づいている。

 場面が切り換わり、蓮とマリィはエリーに連れられて司狼が根城にしている治安の宜しくないナイトクラブ「ボトムレスピット」へ足を踏み入れる。2話目で蓮と殴り合っていた金髪の少年、遊佐司狼と2ヶ月ぶりの再会を果たします。途中でチラッと出てくる場面があったとはいえ、アニメの視聴者にとっては「誰だったっけ、こいつ」ってなるくらい印象が薄いかもしれない。病院から抜き出し不良グループの頭目になった後、手下を動かして蓮や香純が捕まらないように隠蔽工作を施したり警察の捜査妨害を行ったりなど、裏でいろいろ暗躍していました。エリーの「祖父の代から連中とは因縁がある」ってのはノベライズで加わった新設定、まだ読み終わってないからこのへんのことは私もよく知らない。蓮が後頭部に銃を突きつけられても一切動じなかったのは「それに対処できる力があるから」だろうが、螢とのスパルタじみた特訓で銃に対する耐性ができたからでもあるだろうな。

 公園でのマリィと蓮の会話はオリジナル。司狼と喧嘩した理由、また蓮が司狼のことをどう思っているかが語られる。端的に述べて司狼は破壊者。蓮の行く手に壁が現れて進めなくなったとき、その壁を破壊する。壊すとまずい壁であっても躊躇いなく。アパートの壁に開けられた穴はその隠喩……なのかどうかは知らない。司狼と一緒にいるといずれ破滅しそうな予感がしてくる、と語る蓮に恐怖の兆しはなく、到底司狼のことを忌避しているとは思えません。ユウジョウ! な二人の話に聞き入った末、「形成」を解いたマリィは消滅。そこに黒円卓のふたり、螢とヴィルヘルムがやってきます。聖餐杯(神父のこと)がお呼びだ、付いてくる気はあるか? と形式上の確認をする螢に対し、アホ臭い、ボコって連れて行きゃいいだろ、と暴力万歳なノリでヴィルヘルムは襲い掛かってくる。形成位階に達したことでヴィルヘルムに殴られても骨バキバキにならなくなった蓮は戦闘モードに移行……しようとする寸前で通りすがりのイケメンがバイクで乗り付け、次回につづく! 螢とヴィルヘルムの遣り取りで「場所が悪い」と言っているのは、まだ開いていないスワスチカで戦わないと万一死人が出たときに無駄死にになってしまうからです。前にも書いたが、スワスチカは「団員の死」によっても解放される。たとえ彼らが討ち死にしても儀式が進行するよう、「戦うときは必ず未開放のスワスチカで戦え」というのが黒円卓の鉄則となっています。黒円卓にとっては「蓮と戦って勝つこと」よりも「スワスチカを開くこと」の方が大事。

 マリィの過去描写がアレだったけど、そこを除けば今回は比較的マシな内容だったかなー、ってのが個人的な感想です。前回や前々回がひどかったもんな……動くマリィは可愛かったし、これで女神のファンが増えるだろう、と確信しました。次回は「黄金の獣」、ラインハルトの出陣回だ。ラインハルトの登場パターンは2つあるけど、アニメは○○○ルートっぽいので「歓喜、哀絶、そして昂揚」「卿も怒りの日の奏者なら、楽器の鳴かせ方は心得ることだ」の方かな? ちなみにもう1個は小便チビる方。アクションに関してはあまり期待できないが、原作通りなら「すげぇ……あいつら、落ちながら戦ってる」なシーンもあるはずなのでとりあえず楽しみにしておこう。


(第0話)   (第6話以降)


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