2009年1月分


・本
 『小学星のプリンセス☆』/餅月望(集英社)
 『Landreaall(1〜13)』/おがきちか(一迅社)
 『こえでおしごと!(1)』/紺野あずれ(ワニブックス)
 『アンダードッグ(1)』/原作:橋本以蔵、漫画:壬生ロビン(集英社)
 『ファンタジウム(1)』/杉本亜未(講談社)
 『しなこいっ(1)』/原作:黒崎遊夜、作画:神崎かるな(JIVE)
 『紐と十字架』/イアン・ランキン(早川書房)
 『シアワセ少女』/たけのこ星人(コアマガジン)
 『JIN―仁―(1〜13)』/村上もとか(集英社)

・ゲーム
 『暁の護衛〜プリンシパルたちの休日〜』(しゃんぐりら)
 『俺たちに翼はない〜Prelude〜』(Navel)


2009-01-31.

・夢か幻か、6年半かけて待望した王雀孫シナリオの完全新作『俺たちに翼はない』が昨日発売され、現在当方の手元にも届いています。その慶事を素直に寿ぎたい焼津です、こんばんは。

 それにしても29日のカウントダウン、おれつば本編ではなくプレリュードの方を薦める林田美咲につくづく惚れ直した。あれで自分のドラマCDまでプッシュしたら完璧でしたけど、ネタがくどくなることを危惧したのか、さすがにそこまでは踏み込みませんでしたね。残念。

Navelの『俺たちに翼はない』、プレー開始。

 ひたすら万感の想いが湧きやまぬソフトですが、いちいち書いてるとまた長くなってしまうので「言葉にできない」ということにして割愛。さっさとインストゥールを済ませました。いや小さいウは要りませんが。本体の箱を開けた途端に込み上げてくる感情――「チラシ多すぎうぜぇ!」の一念。山盛りに盛ってくれやがるぜ。すべて見ないで脇に流す。インストールする間は取扱説明書と初回特典のゲストイラスト集を眺めた。取説、見覚えのない野郎がぞろぞろと三人も顔を並べていて「なんだお前ら!?」と誰何……しそうになった直前、こいつらが一章から三章の主人公ズだということに気づく。鷹志、お前こんなイケメンだったのか……てっきりもっとこう……ブサメンとまで行かずとも地味メンかと……違う意味で言葉にできない想いが込み上げてくる。ゲストイラスト集はまあフツー。超フトゥー。パラパラめくってコメント読んでいるうちにインスト終了したので早速取り掛かりました。

 「START」を押した直後に始まるのは、例のグレタガルド云々という見慣れた(もはや見飽きた感さえある)Flashの朗読ver。一行ごとに朗読者が変わる。割り当てから四章の主人公(非公開で、未だ謎に包まれている)を推測できる気もしましたが、あまり深く考えないでおいた。朗読が終わるとフルアニメのOPムービーが流れる。女生徒Aがまるでヒロインのような扱いだ……ともあれ、雪を蹴立てて走るシーンが好きです。ムービーも終わるといよいよ本編へ。一章の主人公によるモノローグを挟み、「羽田鷹志編」が幕を上げます。

 で、羽田鷹志編。学園を主な舞台として展開するパートです。「睡魔の化身みたいな春の陽射し」とか、比較的どうでもいいテキストにファラオの芳香を嗅ぎ取ってびくんっと過剰な反応を示したりしつつ読み進めた。体験版が公開された頃に話題を呼びましたが、どうも主人公の鷹志くん、「今の自分は仮初の存在、本当は異世界に住まう勇者」と主張する強力な邪気眼ホルダーみたいなのです。転生戦士なのです。転生って。自分自身に対してそんな単語を適用する奴は久っぶりに見たわ。周りには隠しているけれど、バレたら「イタい子」扱いされることは必至でしょう。前世がどうのこうのとか、個人的には嫌い……ってほどじゃないけどあまり好めない題材だから、マジでその路線貫くならキツいなぁ、と顔をしかめました。しかし、異世界に「召喚」されて活躍する鷹志(向こうの世界では「聖騎士ホーク」と呼ばれている)を見ているうちに、「ああこりゃ完全にネタだな」と悟って割り切り、サクサクと進めました。気色悪いくらい、「聖騎士ホーク=鷹志」が褒め称えられる世界。どんどんいい加減になっていく細部の設定。キャラ名表示欄は悪ふざけのオンパレード。「四大天王」なのになんで5人目がしれっと出てくんだよ! みたいな。半端に出来が良くて半端に出来が悪い、まことアンバランスな代物に仕上がっています。妄想というより夢に近い。現実世界では友達がいなかったり、妹との関係がぎこちなかったり、「付き合っている」ということになっているヒロイン渡来明日香ともろくに言葉を交わさずに日々を過ごしていたり、「お前ホントにエロゲーの主人公か?」と問い詰めたくなるほど無味乾燥な環境に置かれているため、傍から見れば「妄想に逃げている」としか映りません。しかしグレタガルドを「鷹志の単なる妄想」で片付ける気はないらしく、いろいろと含みを残したまま羽田鷹志編は終わる。

 おれつばは全四章構成で、それも丸ごと頭から尻尾まで順にこなしていくわけではなく、まず一章の前半、次いで二章の前半、それから三章の前半……と進行していって、それぞれの章でチョイスした選択肢によって「○章の後半」が来る変則オムニバス方式となっています。正直「なんだか面倒臭そう」と思います。一章の内容を棚上げして二章に移られても、なかなかテンション切り替えらんないですし。つか、選択肢が悪かったのか、進展らしい進展が何一つないまま羽田鷹志編フィニッシュしちゃったんですよね。いきなり幕間劇に入るもんだから「え? これで終了?」と素でビックリした。後半はもっと長いといいなぁ。あと、先にPreludeやってるとニヤニヤできる箇所がいくつかあるなぁ。少し優越感。

 よく分かんないうちに閉幕したんで、一章に関して述べられる感想はまだそんなに多くないけれど、「キャラクター同士の距離感」が明確に描かれているあたりはすごく良かった。親交の遠近を、説明として垂れ流さず自然な形で紡いでくれる。「仲良さそう」「あんまり仲良くなさそう」の違いをこちら側で嗅ぎ取れるため、押し付けられることなくすんなりと受け入れることができます。伊達に遅筆じゃないな、王雀孫。主人公も「痛々しい邪気眼少年」という役割のくせして変に好感が湧く。ケータイに残務処理――つまり「向こうの世界」へ不帰の旅立ちを果たす前にこちらの世界で片付けておきたいこと――のリストを打ち込むシーンがひときわ愛しい。だってどう考えたってささやかとしか言いようのない願いばっかりなんですよ。「渡来さんと遊びに行く」とか「妹と毎日会話する」とか「クラスに友達をつくる」とか、もうつくづくささやかで泣けてくる。心底卑怯だわ、王雀孫。かてて加えて主人公にもちゃんと性欲があるってことを、18禁ゲームらしくしっかり明示してくれるんだからたまらない。堂々と「今日は帰ってオナニーする」宣言を放つ羽田クンに惚れた。エロゲーらしいファンタジーとエロゲーらしからぬ生臭さを適度にかき混ぜる手つき――良い意味でイヤラシイです。さて、二章以降もサクサクやっつけて早くホーク様のご帰還に備えねば。邁進邁進。

 そういえば、瑠華の自作詩にあった妙な呪文(「デパ・デパ・ソラナ レキ・レキ・ハル」」「デパ・ロヒ・ソラナ ハル・ハル・ハル」という奴)、「トランキライザーの朝」というくらいだから精神安定剤の類だろう、と当たりをつけて検索してみた。「デパ→デパス」「ソラナ→ソラナックス」「レキ→レキソタン」「ハル→ハルシオン」「ロヒ→ロヒプノール」か? まさかネーブルガールズの「メンタルヘルスのお薬って、覚えたてのひとほど訳知り顔でむやみに語りたがる」がこんなところに繋がっていたとは……。

TVアニメ版『Phantom』のリズィ姐さん

 男前度が減ってちょっとガッカリだ……クロウディアもだいぶ変わってますね。美人にはなったけど、ファム・ファタールな雰囲気がなくなった感じ。

propellerの新作『きっと、澄みわたる朝色よりも、』、紹介ページを公開

 朱 門 色 全 開 。「四君子」だの「330タイム」だの、現時点ではよく分からない用語が鏤められていて混乱すること請け合いです。いつ空と違って今回は個性の強さを隠す気まったくないな、お朱門ちゃん。グラフィックはキレイだし、ヒロインズのキャラも紹介欄に付されたセリフだけで輪郭が掴めるほど確立されています。なかなか期待できそう。あとはお朱門ちゃんに場面転換をスムーズにこなす能力が備われば言うことなし。いつ空はシーンとシーンの繋がりがやや不自然というか、むしろ繋がないでブツ切りのまま並べていくから戸惑ったんですよね。マンガで喩えれば「コマ割りに癖のある作家」と申しましょうか……ともあれ続報を待つとします。

・はくすれす。

 比較的最近のやつで言うと『黒の契約者』的な騙し方が素敵だと思います。…本当は沙耶の唄と言いたいところだけど、アレはもう騙す品じゃなくなってるんで…
 黒繋がり&上で挙げたお朱門ちゃん繋がりで『黒と黒と黒の祭壇』を連想。あれはイイ意味で壮絶な騙しゲーでした。

 これが出来ていればそもそも積読タワーは乱立しない
 http://gigazine.net/index.php?/news/comments/20090130_stop_accumulating_books/

 こんな10個も並べなくても、「収集欲を抑える、所有欲を低下させる、知識欲だけ満たす」くらいで充分のような。ちなみに当方は「買う行為」と「読む行為」を切り離して捉えている(「買いたい本」と「読みたい本」が必ずしも一致しないことを自覚した上で消費行動に走っている)タイプの、つまり完全に開き直った書痴なんで、積読を減らす小細工など一切通用しませぬ。言わば手遅れ。


2009-01-28.

・そろそろフラゲが始まる時期なので関連スレから退避した焼津です、こんばんは。

 この緊張感……久しいぜ……。

意外性は求めるけど、良い騙し方をして欲しい?「独り言以外の何か」経由)

 エンターテインメントはただ「相手をもてなす」だけでは退屈で、スパイスとして「相手をおちょくる」要素を適度に効かせることも大切です。シリアスと見せかけてギャグ、掠り傷と見せかけて深手、みたいな。それによって緩急および刺激が生まれ、送り手と受け手の間には「やってやったぜ!」「やりやがったな!」と不思議な連帯感まで出来上がる。しかしこれは上手にキャッチボールが行えた場合であって、捕手の反応を考えずに強引かつ無茶な投球をすればボールはあらぬところへ飛び去り、「やっちゃったZE☆」「いや『やっちゃったZE☆』じゃねぇよ!」と険悪な空気を醸成するに至ります。取り残された受け手がキャッチャーミットを叩きつけてマジギレする姿――ありありと目に浮かびます。イタズラも許される範囲には限度がある。受け手をからかいすぎるサプライズは禁物、とまで行かなくても取扱注意ですね。当方、執念深いタチゆえ醜悪祭等々の「やってくれた喃!」は未だ忘れえず、鮮明に記憶に留めております。

【ネタバレ】小説をつまらなそうに紹介する(アルファルファモザイク)

 『笑う山崎』

 インテリヤクザが6歳の幼女を引き取って「母親は美人だし、あと10年すれば……」と笑みをこぼす話。

Navelの『俺たちに翼はない 〜Prelude〜』、「ある日の京」と「ある日の美咲」をプレー。

 「ある日の明日香」と全クリおまけシナリオ「ある日の狩男」を合わせてある日四部作。狩男はまだやってない(というより狩男ってのがどんなキャラかも知らない)けれど、最初の3編をやってみた感じ、「ある日」ってのはすべて同一の日みたいですね。それぞれシナリオもいくつかの箇所でリンクしている。異なる視点で重ね塗りするように同一時間上の物語を繰り返す、という手法は割とツボなので楽しめました。描かれているのは本編のちょうど1年前あたりで、「なんでそんなに巻き戻るのだろう?」と不思議がっていたら幕間のブルブル劇場にて「半年とかだと季節がズレて服装や背景を使い回せなくなるから」という理由が明かされた。なるほど実に納得が行く。

 学園のプリンセスと持て囃されながらどこか周囲に馴染めず微かな温度差を感じている渡来明日香、躁鬱のうねりが激しくテンションが安定しないことで苦しんでいる山科京、他人の話を聞かない癖がある片想い暴走少女の林田美咲。あまりにも個性的な面子が揃っていて、一回やったらすぐに名前を覚えてしまう。「掴み」としては充分な力を発揮しています。特に明日香、今にも「なんだか、この世界は生きづらいな――」と嘯きそうな風情が醸されていて、けれどそれを巧妙に隠蔽している雰囲気が伝わってきて面白い。さすがメイン級のヒロインだけあってキャラが立ってます。というか、読んでるうちに「この子が本編の主人公なんだ」と錯覚しそうになるくらい存在感強かった。ショートとはいえ彼女視点のシナリオが読めただけでもPreludeを買った甲斐があります。本編にも明日香ビューが欲しいくらいだ。

 京はいわゆる「メンヘラ」であり、鋭角ついたアップダウン表現と自己嫌悪&自己憐憫が織り成す倦怠感スパイラルが痛々しい。なのにサクサクと読めてしまう不思議。ウザイっちゃウザイけど、なんとなく見放せないところがある。「前頭葉くもりのち虹色ブリリアントSKY!」は究極の迷言です。でもこのシナリオは京よりもむしろ、途中で出てきたクラスメートの少年の方が印象深かった。役どころはよく分からないけれど、彼の出番が今から楽しみです。関係ないけど「メンヘラ」の響きって「ヘーメラー」を彷彿とさせるよね。

 美咲はPreludeオリジナルキャラと申しますか、本編では「女生徒A」扱いされている不遇っ子。年単位で黙々と片想いに耽る粘着っ子でもあります。コロコロと気分が変わり、首尾一貫などというものとは無縁。前言撤回すること夥しい。ある意味京よりもアップダウンが激しいけれど、「林田だからな」「ああ、林田だもんな」と周りから生暖かい視線と声援を受けているあたりは人徳か? 「女生徒A」にしておくには惜しい面白キャラです。しかし実際にこの子と付き合うことになったら相当疲れそうだな……思考の飛躍が著しい。テッド・チャンの「理解」を読む気分に近いものがあります。可能性は低いものの、発売後のFDか何かで補完されるかも。ただ、FDというと出そうで結局出なかった『それ散る』のFD(確か、誰かがサイトで「それ散るFD用に壁紙描いた」と漏らしたはず)を思い出して悲しくなりますな。

 そんなこんなで、誘惑に負けてPreludeに手をつけてしまった以上、今後どんなおれつば商法が押し寄せてきても怖くない。本編の出来が筆舌に尽くしがたい代物でなければ、という前提を立てたうえでの話になりますが……何はともあれ、発売まであと2日。待つべし、待つべし(『竹光侍』)。

・拍手レス。

 拍手コメントを受けて日記のログに延々と「ノーパン」でページ検索している焼津さんの姿を想像して少し泣いた
 そう、こつこつと涙ぐましい努力を……払うわけありません。普通にフォルダごと検索したわー。

 Navelへの嫌味も篭めてネチネチと解説致したく存じます<ホントにねちねちしているよ!ここまでねちっこい文章はじめてみたよ!感動だよ!
 本編が発売する前に膿を出しておきたかったので……若干まだ出し切ってない気はする(40分弱のドラマCDを2200円で5枚も売りつけるとか)のですが。

 いつも楽しく拝読しております。ところで「馳文体」って何でしょうか?
 馳星周の文体、という意味です。「小賢しい。なにもかもが小賢しい」みたく特徴的な書き方が多い作家なんですよ。


2009-01-25.

・刻々と『俺たちに翼はない』の発売が迫る中、深夜のハイテンションに任せて『俺たちに翼はない 〜Prelude〜』『俺たちに翼はないドラマシリーズ』全5章をまとめて購入した焼津です、こんばんは。

 ごらんの通り、背水の陣で臨んでしまいました。既に予約している本編も含めれば2万円を軽く越える出費となり、もしこれでスワスチカなど開いたら目も当てられません。魂の躯体が爆裂四散すること請け合いです。プレリュードやドラマCDはせめて本編が発売してから……と考えていたけれど、“高揚の真夜中”(MOE=ミッドナイト・オブ・エレベーション)には勝てなかった。奴はいつだって軽率極まりない決断に誘導する。おれは火に飛び込む蛾のようだ。投げられた賽は吉と出るか凶と出るか、一天地六のサスペンス。願わくばファラオよ、我を憐れみたまえ。

 この書き出し自体が注文した直後の深夜(数日前)に綴っているため理性が蕩けた風情になっていることをあらかじめご了承ください。

・そしていくつかの夜が明け冷静な立ち位置に戻ったところで手元に届いた『俺たちに翼はない 〜Prelude〜』をプレー。

 この『俺たちに翼はない 〜Prelude〜』とは何かを、まぁうちのサイト覗きに来る方なら大体知っているでしょうが、Navelへの嫌味も篭めてネチネチと解説致したく存じます。まず『俺たちに翼はない』。これは、『それは舞い散る桜のように』というエロゲーで多くのファンを獲得したシナリオライター「王雀孫」が、ン年の沈黙を経てふたたびメインライターに抜擢されたエロゲーです。『それは舞い散る桜のように』にはもう一人「あごバリア」という王の先輩に当たるライターも参加していて、こちらは王ファンからの評判があまり芳しくないけれど、彼がNavelやLimeでコンスタントにシナリオを手掛けてソフト出し続けてくれたからこそ『おれつば』なんていう4年越しの大作を開発できたわけで、考え方によっては「あごバリアなくして王雀孫なし」とも言えます。が、おれつばとあごバリアは直接的には無関係なのでそこらへんの経緯はオミット。ざっくり見ていく分には「『俺たちに翼はない』=『それ散る』の王雀孫が深い眠りから目覚める一作」とだけ捉えれば充分かと思われる。

 さて、『おれつば』の情報が一番最初に雑誌へ掲載されたのが2005年の春。気の早いファンたちは「今年こそ王の新作を拝める」と興奮し、比較的現実を見れるファンたちは「発売日未定っつってるし、早くたって来年だろう。再来年かもしれない」と嗜めました。しかしやんぬるかな、正解は「今年? 来年? 再来年? ありえないよ、うん、ありえない。絶対にもっともっと掛かる」と悲観主義に傾いたファンたちなのでした。2005年と2006年は虚しく過ぎ去り、2007年も同じ轍を辿るシックザール(運命)なのかと誰もが失望に膝を屈しかけた頃。一つの吉報が舞い込む。

「『俺たちに翼はない』の発売日が決定!」

 遂に、である。ニュースが駆け巡ったのは暮れも迫る11月であり、さすがに年内発売を夢見てハシャぐスウィーティーなファンはシカトされましたが、「年初、いや雪解けの季節には……!」と双眸に希望を滾らせる期待獣(ファン)たちは勇んで告知された日付を視界に収め脳裏に刻んだ。2008年6月28日。7ヵ月後であった。“あと231日”――表示される壮絶極まりなきカウントダウンに見る者すべての気が遠くなったそうな。だが忘れもしないその日付は、『それは舞い散る桜のように』の誕生日。発売からキッカリ6年後を指すグランドゼロだったのです。これですんなり発売されれば美談として後世まで語り継がれたでしょうが、期待を裏切り想像を裏切らないNavelはいとも容易く道を誤り、ものの見事に美談を「美談(笑)」へと変えてしまった。なんとなれば、いざ2008年6月28日に店頭に並んだのは『俺たちに翼はない 〜Prelude〜』という、好意的に書けば「一足早く送り出された前奏曲」、率直に申せば「有料体験版」だったんですから。記念すべき『それ散る』の発売日に『おれつば』が降り立つ――美しすぎる夢想であり、所詮はただの蜃気楼でした。

 当方はだいたいこのあたりで急激に熱が冷め、「『Prelude』なんてしゃらくせぇもん絶対に買うかよ!」と臍を曲げた次第です。だって、「物語の世界観を知っていただくことを目的」とかヌカしながら6825円(税込)もするんですよコレ。イラスト集が付くからったってあんまりな値段設定ですよマジで。小賢しいなさすがNavelなにもかもがこざかしい。怒りのあまりブロント語と馳文体が入り混じってくる始末。それでそっぽ向いて長らく放置していたけれど、2008年が終わり、おれつば本編の発売が近づくにつれ、俄かに「Preludeにしか収録されない、本編開始前のオリジナルエピソード」という部分が気になってソワソワし始めたのです。『俺たちに翼はない 〜Prelude〜』は本編の体験版とは別に、ヒロイン視点を主とする書き下ろしエピソード4本+ネーブルガールズによる幕間劇「ブルブル劇場」がインしてる。オマケというにはやや長く、しかし番外編と称してバラ売りするには短い、そんなサイズと聞き及んでいます。評判通りなら財布からン千円も紙幣を抜き出して購うには、割高感が大きすぎる。体験版だって、プレつばに収録されている千歳鷲介編と成田隼人編どころか未収録の羽田鷹志編まで公式でダウンロードできるようになっている。迷った。躊躇った。怖じ惑った。しかし今月末に発売される本編が凄い出来だったりすれば、今はダブつきがちな『Prelude』もワーッと売れに売れて見る見るうちに品薄となるかもしれない、早めに押さえた方が得策……などとセコい勘定をして結局買いました。実にさもしい子です。

 で、発売までもう少し暇があるし、体験版はともかく「ある日の○○」シリーズくらいはやっとこうと先ほどインストールを済ませて軽くプレーしてみました。どうもプロテクトがあるみたいでインストールした直後にDVD抜いたら「ディスク入れろよゴルァ」とお怒りのメッセージを表示なされましたけど、認証は初回起動時のみのようで、2回目以降はディスクレス起動が可能になりました。前座たる「ブルブル劇場」を見た後、まずプレーしたのは「ある日の明日香」。1章ヒロインの過去エピソードです。軽い気持ちで始めたのに、冒頭ほんの数分でグッと胸を掴まれ、息が止まるような気分を味わい、「ああ、やっぱり……王のテキストに餓えていたんだ、己は」と痛感してさめざめと泣きました。泣いたのは嘘ですが数年ぶりに味わう「王雀孫のゲーム」って感覚にしんみりとしたことは確かです。時間にして30分程度ながら、何てことない日常に織り込まれた濃やかな表現、鮮やかな切り込みに酩酊していきました。えっ、やだ、なんかもうこれだけで元が取れた心持ちになってる……と改めて自分の儲体質に恐れおののきました。ジャクソニウム依存症の人にとってはこの量でも禁断症状を抑えるに充分。それなりにクセは強いし、しつこいと言えば路上勧誘並みにベッタリとしつこい文章なんですけれども、ハマってしまえばアバタもエクボにございます。しゃんぐりらのFDとかと比べて「良心的」という言葉からは程遠いコンテンツであるにせよ、もうとやかく言うのはやめにする。これを認めるのは正しくない気がするけれど、「正しいことだけを見ていたらやさしさは死ぬ」とどこかの百合っ娘も言っています。当方のやさしさなどクソの役にも立ちませんが、ともあれ本日より以降は不自然なほど満面に莞爾とした笑みを浮かべて『俺たちに翼はない』本編の発売日を待つ所存。

 よっしゃー、いいタイミングでエンジンがあったまってきてくれましたわー。

漫画キャラの容姿今昔

 『天上天下』の新刊読んだら主人公を同定できなかった。ネタじゃなく、完全に素で「こいつ誰?」ってなりましたよ。絵柄どころか時にはキャラデザすら変わるのが長期連載マンガの宿命なれど、はじめの巻を読み返したりすると何だか複雑な気分が湧いてくるものです。『無限の住人』も初期はケレン味の強い表現が多くて、画力の向上とともに演出面は落ち着いてきた感じですね。こういうの、昔は「アハハ、別人じゃーん」と屈託なく笑えたけど、今は様々な想いが噴出してきてなかなか言葉にならない。善し悪しを云々する以前に生々しい時間の流れを叩きつけられ、フッと胸の詰まるような意識の空白に陥ります。6年半前に『痕 リニューアル』を見た際も、深く込み上げてくるものがありました。そういや今度またLeafが『痕』のリメイク版つくるとかつくらないとか。さすがに胸が詰まるというより単に呆れてきました。間としては「『痕』→リニューアル」よりも「リニューアル→リメイク」の方が長いけど……どうも今回は高橋も水無月もノータッチ臭い。そやし感慨が浅いわぁ。

・拍手レス。

 鏡さんのを読んだ事無いのでどうこうはいえませんが、作り手の理屈ですよね。満足しても3時間だと不満になりません?
 無駄がない面白さなら何時間でもやりたい、というのが本音。しかし無駄を除去するとなると時間も手間も掛かるのは道理であり、ジレンマです。

 「彩シナリオでノーパソ〜」がノーパンに見えた俺は変態ですかそうですか。
 その地点は2年以上前に当方が通過済みだッ!(2006年10月の15日付参照)


2009-01-22.

・某「ずぶぅ」に興味津々な焼津です、こんばんは。最初は「そんなに騒ぐほどでも……」と思ってましたが、くだんのびんぼっちゃまパワードスーツに噴き出すあまり鼻腔を損傷せり。スワスチカと呼ぶに値するかどうかは別として、コットンソフトの『アンバークォーツ』、只者ならぬ風格で明日の発売日を堂々と迎える様子です。

・とっくにコンプしていた『暁の護衛〜プリンシパルたちの休日〜』の感想文を今更アップロード。

 エロゲーの感想を書くのは実に久しぶり。プリ休はFDとして申し分ない出来というか、コストパフォーマンスの高さが半端じゃなかったです。正直、本編よりも面白い部分があるくらい。トモセシュンサクの新規CGはそれほど多くない(差分抜きで40枚前後)にせよ、衣笠彰梧の新規シナリオが大量(本編の60%程度)であり、相も変わらぬ軽妙な掛け合いや切れ味鋭いネタの数々を好きなだけ拝めます。誤字や誤用、文章の混乱も相変わらずでしたが。たとえば「主席で優等生の尊になら妙案……じゃない、良案が浮かぶかも知れないと思ってな」というセリフ。わざわざ言い直すところからして「妙案」を「妙ちきりんな案」と捉えている節が……いや、もしかしたら「妙ちんが思いつくレベルでしかない案」の略で「たえあん」と読むのか? それならイヤってくらい納得しちゃうわ。

大量シナリオに物申す〜削ってこそプロなり〜「独り言以外の何か」経由)

 芥川賞最年少受賞で有名な綿矢りさもインタビューで「書くことよりも削ることの方が重要」と語っているくらいで、文筆業において「推敲」は重要なファクターとなっています。量産タイプの作家には「ここらへんもっと煮詰めた方がいいんじゃないかなぁ」って思う人が少なくない。ただ、「削る」というのはつまり取捨選択の作業であり、場合によっては想像以上に時間が掛かることもある。「無節操に溜め込んだエロ関係ファイルを掃除しろ」と言われて「簡単だぜ!」と見栄を切れるかどうかを考えてみればお分かりいただけると思います。あれ系整理すんの、すごく疲れるんですよね……。

 ただ、本なら外観をサッと見ただけでブ厚さが分かるからいちいち喧伝する必要もない(個人的には「原稿用紙○○枚!」みたいなの好きですけど)が、ゲームの場合はパッケージをいくら眺めてもシナリオの分量を実感できないので、一つの目安――総プレー時間を見積もる目盛りとして「シナリオ○MB」っていう指標を出してもらえるのはありがたい。さすがに露骨な水増しは勘弁してほしいものの、総量を謳うことくらいのことはいいんじゃないかって気がします。「大容量を喧伝」→「ろくに推敲してないんじゃないか」と勘繰る気持ちは分かりますし、エロゲーもそろそろ重厚長大路線からクオリティ重視のミドルサイズに切り替えて欲しいという個人的な願いもありますが。体験版やると「先が長くてワクワクする」ゲームより「先の長さにウンザリする」ゲームが結構存在する罠。単に歳食ってエロゲーに適応できなくなってきただけかもしれませんね。

・村上もとかの『JIN―仁―(1〜13)』読んだー。

 現代の脳外科医が幕末の江戸にタイムスリップするという異色の設定で送る医療ロマン・コミックです。「なぜタイムスリップしたのか?」という謎は最新刊たる13巻まで進んでも依然として判明せず、マンガの興味は「現代の医者が限られた医療器具を手に、終わりの近い江戸時代で何を為し得るか?」って部分に集約されています。とはいえ伏線もあちこち敷かれているし、タイムスリップの謎はいずれ紐解かれることでしょう。

 文久2年、西暦にして1862年――明治維新を6年後に控えた江戸の町へ、南方仁は飛ばされた。東京の大学附属病院で脳外科医局長を務めていた仁は、タイムスリップに遭う直前「脳に胎児状の腫瘍を抱えていた男」と奇妙な遣り取りを交わしていた。それが、気づけば侍の格好をした男たちが斬り合う世界に立たされていたのだ。訳も分からぬまま、とりあえず目の前に転がる怪我人の治療に従事する仁。やがて彼はこの国の「医療のかたち」を大きく変えていくことになるのだが……。

 抗生物質どころか「細菌」および「消毒」の概念すらない時代にペニシリンを生み出そうとするなど、かなり大胆な発想で突き進むメディカル・タイムスリップ譚になっています。パッと見では華やかさのない、割と地味な絵柄だけど、細部まで丁寧に描き込まれており、ビジュアル面の不満は読んでいてまったく感じなかった。勝海舟や坂本龍馬といった幕末の有名人が続々と姿を現すところも大きな読みどころとなっていますが、いくつものエピソードを跨ぎながらじっくりとペニシリン開発を推し進めていく、骨太・肉厚で腰の据わった物語展開が何より逞しくて引き込まれる。人情要素をまぶしつつもクサくならない程度に収めるバランス感覚も良い塩梅。「隠れた傑作」と呼ばれるのも頷ける出来でした。

 描写の大半は外科手術ながら、中には脚気対策のために玄米を使用して作った餡ドーナッツを「安道名津」と称して売り出す(他にも富醂(プリン)や佐舞麗(サブレ)が作られたが、発売はしていない)ユーモラスなエピソードもあったりして面白かったです。ぐぐったら「民明書房な香り」と指摘している人もいて噴いた。

・拍手レス。

 子供のころに王ドロボウを読んでいました。面白いのに中途で終わって再開しないのって多いですよね。理不尽な打ち切りとかも。
 王ドロボウはちょうど第1話がボンボンに載った頃から読んでいるので愛着が深い。再開しない物語はそれを愛する人々の胸の中で続いている、と思うしかないです。

 焼津さんにかかるとエロ漫画と文学書がまったく同じフィールドにあるように思えてくるから困る(村上春樹的な意味で)
 フィールドに引いてあるのは国境じゃない。お互いが越えてくるためにあるセンターラインだろ。それはな、世界中の変態(つわもの)どもをつなぐのさ。

 学校迷宮案内はエビちゃんの可愛さが異常。あの話が後のデートにつながるのか・・(数巻前の)
 エビちゃんの可愛さは軽くヒロイン(歩鳥? 誰それ?)を忘却させる威力あり。

 いたいけな彼女は良かったですね、ハナシは変わりますが早川のジャック・キャンベル「彷徨える艦隊〜旗艦ドーントレス」がなかなか面白かったのでオススメしておきます
 いたいけは確かC†Cと同時期の発売でしたね。『彷徨える艦隊』は今度本屋でチェックしておきます。


2009-01-19.

・溜まっていた石黒正数のコミックスをまとめて崩し終えた焼津です、こんばんは。って、前回とほとんど同じ書き出しだなこりゃ……万年進歩のないサイトだから別にいいか。

 初期短編集の『PRESENT FOR ME』は初期ということもあってか正直いまひとつでしたけれど、『探偵奇譚』あたりは今現在のノリに近くて楽しめた。歩鳥や紺といった「それ町」のキャラも出てきますし。ただ、まだ企画が固まってない頃だったみたいで本編と設定が違い、パラレルな雰囲気。他の短編も適度に捻くれ適度に砕けていて味わいがあります。石黒正数が持つあの何とも形容しがたいテイストの本質は「捻くれ」と「砕け」による絶妙な脱力加減と見た。そしてやっぱり面白いのが「それ町」こと『それでも町は廻っている』であります。今回崩したのは4巻5巻ですが、相変わらず脂乗りまくりで絶好調。コマからコマへの流れが実に滑らかで、こう、自然にするっと視線を拿捕されてしまいます。かてて加えて個々の画もイイ。「メイド探偵大活躍」(4巻収録)において歩鳥が見せた「ケガするぞ(はあと)」の顔、すごく可愛くてすごくムカつく。比類なき可愛ムカです。5巻は紺先輩プッシュが目立った代わりにタッツンの影が薄くなってきていますね……ともあれ、ラストを飾る第42話「学校迷宮案内」は50ページ近いボリュームに謎解き要素も添加されて読み応え充分。第36話の「卒業式」を踏まえた内容になっている点も心憎いです。

 こんな飛ぶ鳥追い落とす勢いで蒼穹に飛行機雲(ヴェイパートレイル)靡かせる「それ町」とも肩を並べられるほど活きの良い作品は『ネムルバカ』くらいでしょう。タイトルのせいでちょっとバカにしていた部分がなきにしもあらずでしたが、いざ読み出したら「ごめんなさい、題名だけ見てバカにしていてごめんなさい」と土下座りながらハマった。バカかわいいよバカ。バカな先輩とバカな後輩、女ふたりが仲良くバカやって平和に暮らす様を抜け目なくコミカルに活写した堂々巡り青春コメディです。終わりがないのが終わり、それがゴールド日常レクイエム。バカ先輩が突然失踪する1話目からして既に巧い。2話目はバイト先の店員が心底ウゼェ野郎でムカつくのを通り越してむしろ笑った。言動のみならず目元・口元・髪の生え際に至るまで、あらゆる点においてウザい! 彼の芸術的なUZAさをここでお見せできないのが残念でなりません。巧くて、笑えて、ラスト数ページにホロリと来る――まさしく絵に描いた傑作なり。『PRESENT FOR ME』を「正直いまひとつ」と言っちゃったけど、あれでも『アガペ』を基準にすれば充分読むに耐えると申しますか、近著を読むにつけ「よく『アガペ』からここまで来れたものだな……」としみじみしてしまいます。最初に「それ町」を読んだから良かったものの、『アガペ』の方を先に読んでいたら「石黒正数のマンガは二度と読むまい」と心に誓っていたかもしれない。少なくともしばらくは敬遠態勢を解かなかったでしょう。きっと物事は順序が大切だと、そういうことなのだと思います。てなわけで石黒本を読んだことがない方はまず「それ町」か『ネルムバカ』に手ぇ伸ばすルートをオススメ。慣れないうちからいきなり『アガペ』に挑みかかるチャレンジャー精神などは蛮勇であり、この際捨てるが吉です。

 にしても石黒正数、やっぱミステリが好きみたいで、「赤かぶ検事の真似(コテコテの名古屋弁)」なんていう読者に通じるのかどうか微妙な線のネタを飛ばすあたりに笑ってしまう。和久峻三は中学時代に熱中して読み耽った記憶があります。思えばあれがリーガル・サスペンスにハマる切欠だったかもしれない。個人的には“赤かぶ検事”柊茂よりも“法廷荒らし”猪狩文助のシリーズが好きでした。関係ありませんけど、最近読んだ警察小説の中に愛知県警を指して「ミャーミャー県警」と呼ぶシーンがあってつい脱力した次第。名古屋の人が読んだら怒るんじゃないかアレ。あと、バッ○マンのパクリみたいなデザインをした「なげなわマン」(『PRESENT FOR ME』所収)、「それ町」や『ネムルバカ』でも作中フィクションの扱いで出てきましたね。よっぽど気に入っているのかな?

唐辺葉介の『犬憑きさん』、第4話「傀儡子・前」を公開

 例によって抜かりなく忘れておりました。てか、遂に単行本化するんですね、『犬憑きさん』。上巻が3月27日に発売。その次に下巻が出るのかな、それとも中巻? ディスプレイ上で読むのは若干辛いから、今後は単行本待ちに切り替える方針。

伏線回収がすばらしかった作品(VIPPERな俺)

 伊坂幸太郎もだけど道尾秀介も伏線の回収っぷりが卓越してるよなぁ。ミスディレクション(読者の注意を巧妙に逸らす手法)の手際も心憎いばかりだし。伏線っていうのは一種のロングパスで、ちゃんと覚えておいてもらわなきゃパスミスになってしまうものだけど、中には相当深く読み込んでないと回収されたことすら分からない伏線もあって、そういうところを探すのがファンの醍醐味だったりしますね。

・たけのこ星人の『シアワセ少女』読んだー。

 それにしてもエロマンガの単行本ってつくづく分厚いっスねぇ。昔は値段を見て「高い」と唸ったものですが、そりゃ大判サイズで236ページもあったら1000円したっておかしくないわ。本書はたけのこ星人のファーストコミックであり、「雨降って」「お幸せに」「君の気持ちと僕の想いとあなたの思い出と」「幸せ日和」「手と手つないで」と5つのエピソードが収録されています。「君の気持ちと〜」が前後編、「手と手〜」が全4話なのでボリュームは9本分ですね。ヒロインが好きな男以外とSEXする、いわゆるNTR(寝取られ)というジャンルに属する話が多く、描かれている濡れ場のほとんどは強制的であれ自発的であれ「愛のないSEX」となっています。作者本人は特段「寝取られ」を意識せず、描きたいテーマに沿って描いているだけみたい模様。「可愛い絵柄でダークな内容、しかもダークなのにどこかあっけらかんとしている」という特異な作風ゆえ、予備知識なく読み出せばショックを受けるかもしれません。帯に付された「ゆるカノ」は恐らく「股の緩い彼女」および「頭の緩い彼女」を指しているのでしょう。

 肉感的で勢いのあるエロを濃密に描いており、「ヌキ目的の成年コミック」に要求されるハードルは易々と越えています。無論好みにもよるでしょうけれど、表紙に釣られて買った人ならば「高い実用性」を見出せるはず。が、注目すべきはやっぱりシチュエーションの異様さ。謎の薬を飲んで譫妄状態に陥ったヒロインが犯される、比較的シンプルな筋立ての「幸せ日和」や軽い気持ちで彼氏以外の男たちと乱交し始めたヒロインがすぐに後悔するハメとなる「雨降って」はまだ辛うじて「よくある陵辱モノ」の範囲に収まるけれど、「手と手つないで」や「お幸せに」は他の作家じゃまずお目に掛かれない「たけのこ星人ならではの妄念」で溢れ返っています。「手と手つないで」は主人公の幼馴染みであり『シアワセ少女』中もっとも頭の緩いヒロイン詩子が、外面イケメン内心鬼畜の先輩に弄ばれ、散々他の男子生徒たちとまぐわった挙句「私 ゆーくん(主人公の名前)のことが好きなんだ」とヌカす、大事なパーツのネジが外れまくった展開となっており、読んだ人すべてが「気づくの遅ぇーよ!」と一斉にツッコむこと確実。

「私ね…ゆーくんに言いたいことがあるの」
「ううん ゆーくんだから聞いてほしい…」
「ゆーくんに報告してない事…言わないといけない事が沢山あるの」
「私はゆーくんの友達の九郎くんとエッチしました」
「中だしだっていっぱいされちゃって赤ちゃんが出来てるかもしれない」
「エッチな動画も沢山撮られちゃったしインターネットに流したんだって」

 最終話の告白もさりげにえげつなく、もし純愛系を標榜するエロゲーでこんなクライマックス見せられたらどれだけのプレーヤーが「ウボァ!」状態になることか知れたものではありません。一応主人公とちゅっちゅしてハッピーエンドを迎えますけど、なんかこう、「遅かりし詩之助」っつームードが拭い去れない……あとタイトルで『いけいけな彼女』『いたいけな彼女』というエロゲーを連想(挿入歌に「つないだ左手と右手」って歌詞がある)し、少し懐かしくなった。

 「お幸せに」は収録作品中もっとも新しく雑誌に掲載された一編。これは「寝取られ」というより「寝取り」で、主人公が片想い相手の少女(他に好きな男がいる)をレイプし続ける。「レイプする」のではなく「し続ける」のがミソ。何度も何度も体を重ねているにも関わらず、ずーっと独り善がりなことばかり考えてヒロインの心情を慮ろうともしない主人公の卑劣さ・愚かさ・身勝手さが非常に綿密に描き出されていて震えます。本書の中で一番胸に刺さりましたね、これは。「手と手つないで」と違ってヒロインの内面描写がまったく行われず、ほとんど感情を窺うことができないままラストを迎えるあたりも徹底しています。ひたすら肌寒いほどに心が断絶している。つまり、本質的には「寝取り」にすらなっていない。主人公はただヒロインを輪姦する不良どものおこぼれに与っているだけで、助け出す勇気も自力のみで陵辱する気概も持たぬまま「僕は違う! こいつらとは違うんだ!」と心の中で絶叫して腰を振る。主人公のセリフは大部分が頭蓋に反響するモノローグであり、真情の篭もった言葉をちゃんと周りにも聞こえる形で口に出すことは一度としてないのです。最後の最後で皮肉にも、というか間抜けにもヒロインのシアワセを祈りながら、それすら発音することができない情けなさ。あるいは「発音する立場ではない」と自覚している潔さ。普通の陵辱モノだったら「名もなき生徒A」で済まされる無個性な少年の自我をたっぷりと空虚に見せつける作者の冷厳さに全面降伏致しました。「『寝取られ』なんてオイラにゃチョロイもんぜよ」と粋がって読み始めた当方も、こればかりは敗北を認めるしかなかった。気分はまるでボコボコにされた死刑囚。

 新しい価値観に目覚めるかもしれないし、まったく受け付けないかもしれない。ある種の倒錯から来る興奮を肝とする、毒薬にも劇薬にも麻薬にもなれるコミックです。「気持ちいい事が気持ち悪い」など、基本的に「心は嫌がっていても体は感じてしまう」ことよりも「体が快楽を覚えていても心は満たされない」ことに対して執着がある様子。ふと「満たされぬ者だけが煌きを見る」の言葉を思い出したりしました。

・拍手レス。

 アーサと円卓トゥエルブについてWikipediaみてたら書籍で読みたくなったのですが、おすすめのアーサー物語てありますか?分厚さ、巻数は気にしないけど内容が登場人物が主観か、こう…著者の解説本みたいじゃないやつがいいのですが にゃ
 アーサー王モノは読んだことないなぁ……サトクリフの『落日の剣』が評判イイとは聞いてますが。ファンタジー要素を取り払ったストイックな内容らしい。

 怒矮夫(ドワーフ)風雲録、書店で見かけて迷わず購入
 一瞬分厚さに惹かれましたが「それでも『怒矮夫』はないだろ」と手を引っ込めて現在様子見中。


2009-01-16.

・溜まっていた『KING OF BANDIT JING』の既刊を崩し終えた焼津です、こんばんは。

 精巧かつ独特な世界観を遊び心たっぷりの言語感覚で描き切るあたりは旧作の『王ドロボウJING』と一緒。けど、バトル描写が淡白というか、ノリが少年マンガからハリウッドのアクション映画に変わって「燃える」要素は薄くなりましたね。反面、街の作り込みがより綿密になったおかげで、じっくりと読み込む楽しさは増している。「文法の戦争」で荒廃し再興した都市メリイ・ウィドウを舞台とした6巻は川上稔の都市シリーズっぽい雰囲気があってワクワクした。「その惨めな最後の戦闘では 全ての動詞が弾丸となり 全ての名詞が火薬となった 歯切れの良い間投詞だけが 鋭い破裂音となってそこら中に響いた」って昔語りといい、奏神器(インビジブル)だの言語兵器/交響兵器/歌う兵器だのといった用語といい、読んでいて目をくすぐられる心地になります。「神器」と見て「リズム」を連想する人ならニヤニヤすること間違いなし。でも完成度の点で申せば7巻(黒天鵞絨の底)が至高か。シリーズ休止に陥ってからもう3年半ぐらい経つけれど、そろそろ再開しないかな……。

いただきものコーナーに「ジンガイマキョウ」の犬江さんよりいただいた年賀CGを格納

 ファイル自体は10日くらい前にアップロしていたけど、TOPページで告知するの忘れてました……どうもすいま尊。犬江さんと言えば冬コミの新刊がぽつぽつと各所のblog等で紹介され始めていますね。専用の記事まであったりしますが、むしろ別の記事に載ったこの画像に仰天。すごく……タワーです……隣にある野々原幹やフクダータの新刊よりも高い(しかも2つとも上げ底している)し、専用記事には「今、売れています」のプレートが付いていて、本文でも「入荷当時と比べて結構少なくなりつつある感じ」と言及されている。■神メインという試みで苦戦するのでは、と気を揉んだりしましたが、杞憂もイイところでした。ちなみに当方は既に入手して読み終わってますが、嬲られる姫神さんよりもクライマックスに颯爽と見開きで登場した上条さんの方が強く印象に残っている不思議。あと「秋沙あ!」が「Aye, Sir!」を連想させて仕方なかったです。

高遠るいの新刊が来月発売されるらしい

 え? なにこの組み合わせ。一応解説しておくと、原作は『チーム・バチスタの栄光』のシリーズ3作目です。まだ読んでませんが、聞くところによると前作『ナイチンゲールの沈黙』と対を成す内容になっているらしい。1作目の『チーム・バチスタの栄光』は別の人がコミカライズしてますけど、2作目の『ナイチンゲールの沈黙』はまだだったはず。なぜいきなり3作目を、それも高遠るいが? 高遠るいは「しとね」名義でTYPE-MOON系アンソロジーを中心に活躍した時代もある漫画家であり、作風を端的に表すと「明らかに板垣イズム」。『バキ』を意識したとおぼしき絵が頻繁に出てくる萌えグロB級アクション無頼派です。この組み合わせはもう驚くというよりただただ腑に落ちない心境。誤植ではないのか、と眉に唾を付けつつ続報待ち。

警察庁キャリア、成田でキレる…化粧水持ち込み制止され

 馳星周の『ブルー・ローズ』に「クズじゃないキャリアがいるのか?」やら「キャリアは間違いなく人でなしばかりですがね」やら、終始キャリアをくそみそに貶したセリフが書かれてあって「おいおい小説だからってそこまで言っていいのか馳……」と軽く気を揉んだりしましたが、この記事を読むとそんなに間違った記述じゃないように思えてくる罠。

「わたしは警視監だぞ」
 平板な声で遠藤はいう。
「わたしは民間人です」
 わざと朗らかな笑みを浮かべて応じ、わたしは踵を返した。

 特にこの遣り取りを彷彿とした。

短編がうまい作家(アルファルファモザイク)

 「長編の1/5程度のサイズに収まる短編」を執筆する場合、労力も1/5で済む――わけがない、とはよく言われることです。長距離走と短距離走のように、「長さの違い」を超えてもはや別ジャンルに等しい。スレにあった「ミヤベは短編の方がうまくない?」というレスは実に同感。宮部みゆきというと長編ばかりが代表作に挙がるため、それらを読んで「ああ、ミヤベってこういう作家なのか」と思われることに少し歯痒いものがある。『返事はいらない』『本所深川ふしぎ草紙』あたりももっと読まれてほしいです。それと、スレにも挙がってますが津原泰水と牧野修。このふたりはホラー系の中でとりわけ印象深い。『綺譚集』『忌まわしい匣』はそれぞれオススメ。ホラーは最近だと恒川光太郎、曽根圭介らへんが伸びてきている感じ。海外ミステリではジャック・リッチー、デイヴィッド・アリグザンダー、ジェイムズ・パウエルが素直に「うまい」と思う作家です。

 ライトノベルは……掲載枠が少ないせいもあっていまひとつ活発じゃないものの、古橋秀之や貴子潤一郎などといった業師もチラホラ。技量で言えば秋山瑞人も充分「うまい」んですけれど、予定されていた短編集を何年経っても刊行できない有様からして挙げるのためらわれるぜ。

・イアン・ランキンの『紐と十字架』読了。

 今のところ海外の刑事小説でもっとも愛好している“ジョン・リーバス”シリーズ、その記念すべき第1弾です。本国での刊行は1987年ですが、邦訳は遅れに遅れて2005年。“ジョン・リーバス”シリーズは初期作がほとんど翻訳されておらず、現時点で3作目から6作目までの4冊が未訳のままとなっている。初期作の評判がそんなに良くない、というのも理由の一つらしいんですが、やはりシリーズファンとしては評判を別にして読んでみたいものです。さて、本書の原題の "Knots & Crosses" 。ほぼ直訳ですが、厳密に訳せば「結び目と十字架」。主人公であるリーバス部長刑事(この頃はまだ警部じゃなかったのか……と驚かされる)のもとに結び目のある紐や十字架が封入された差出人不明の封筒が届く、というところから来ているタイトルですが、「Noughts & Crosses」――つまり9つのマス(囲←こんなの)にNought(○)やCross(×)を書き入れて先に三目並べた方が勝ちという、誰もが暇潰しで誰かとやったことのある遊びの名前をもじった題名でもあるのです。

 エジンバラで連続する少女誘拐事件――犯人は攫った少女に暴行を加えるでもなく、ただ絞殺し、死体を遺棄して回るだけだった。性犯罪目的ではない無差別殺人に対し有効な方策を採ることができず、後手後手に回る警察。部長刑事のリーバスは、自分のもとへ届けられる謎の封筒が事件と関わっていることなど、少しも考えていなかった。被害に遭う少女が4名に達した頃、「おい、この封筒、事件と前後して送られてきてないか?」と、遂にリーバスの同僚が疑いを向ける。「紐と十字架」の意味するものとは? やがて事件は思いも寄らぬ展開を見せ……。

 何にビックリしたかと言えば、やはりスタイルの違い、この一言に尽きますね。20年くらい続いているシリーズですから最新作と初期作で違いが出るのは当然ですけれど、読んでいて別のシリーズかと思う場面が何度もありました。訳者のおかげもあって、文章はそんなに違和感がない。如何にもランキンらしい言い回しが頻出する。が、「刑事小説であり警察小説であり捜査小説」と三位一体のスタイルを確立している最近のリーバスものに比べ、この作品は「とりあえず、ミステリっぽい構成をした小説」という域に留まっている。率直に書けば、リーバスが事件を捜査しない。いや、ちゃんと刑事の仕事はこなしているんですが、「何としても事件を解決に導いてやろう」というような熱意は感じられないし、そもそも捜査パートがほとんど端折られています。『黒と青』以降のリーバス・シリーズは捜査パートと私生活パートの割合が半々程度(調べたわけじゃなく、あくまで印象として)なのに、『紐と十字架』はリーバスの私生活や秘められた過去といった部分に紙幅の大半を費している。後に繋がる伏線もないし、何だか単発モノみたいだなぁ……と狐につままれた気分で読み進めて行ったら案の定、当初の予定ではシリーズ化するつもりがなかったそうです。幾多もの事件が複雑に絡み合う、みたいなこともなく、単独の事件が一直線に進行して結末を迎えるのですから随分とシンプル。ジョン・リーバス最大のトラウマが明かされる点ではファン必見の内容ながら、刑事小説・警察小説・捜査小説として読むと「なるほど、邦訳が遅れたわけだ」と納得せざるをえない仕上がりでした。

 シリーズものは1冊目から順に読む方が良い、ってな思考は常道であり当方も基本的にそういった主義を保持していますが、ことリーバス・シリーズに限っては初期作を飛ばして『黒と青』や『血の流れるままに』あたりの代表作を先に読んだ方がイイかな、と主義を曲げてみます。ある程度シリーズに馴染んできてから手をつければ本書も興味深く読めるはず。ランキン節は健在だし、決して悪い出来じゃないんだけれど……ぶっちゃけ、ここから読み始めていたらハマらなかったかもしれません。ちなみに、ベッドで本を読んでいるうちについ眠り込んでしまった、という描写を目にして「ああ、この頃はまだベッドでちゃんと寝れたんだな」としみじみ。椅子に座ったまま侘しく眠りに耽る姿を見ずに済んでちょっとホッとしました。

・拍手レス。

 >ヌード剣道 そしたら安永航一郎と対決ですね。剣道とフェンシング、いずれが優れているか白黒付けようではないか
 この勝負……背後を取った方が勝つ!

(追記) もうそろそろ寝ようかな、というタイミングでlightに動きが。WEBラジオコーナーに冬コミの公開録音がアップロードされました。『Dies Irae』完全版の開発状況に触れており、例の告知よりも前の情報ながら詳しい状況が伝わってきます。曰く、「ほとんどのスタッフは『タペストリー』の開発に携わっているが、正田崇だけが08年の春からずーっと一人でシナリオの書き直し&加筆作業に専念している」。引っくり返したミカン箱を机代わりに、他のスタッフたちから無視されながら会社の片隅で黙々とシナリオを綴る正田のイメージが浮かんだぜ……というか、ちゃんと「正田崇」って名言されていて目が潤む。すべてを疑って掛かることに疲れてきたので、もうそろそろ信じたいかな。


2009-01-13.

・京極夏彦の『どすこい(安)』を読んでいたら「これが面白いんだったらプラナリアだって直木賞が獲れるぞ!」という文章があって噴き出した焼津です、こんばんは。『プラナリア』が直木賞を受賞したのは2001年で、上記の文章が出てくる「すべてがデブになる」はそれ以前(97年頃)に発表された短編ですから偶然の一致なんでしょうけれど、ツボに入ってしまったのだから笑うしかない。ちなみに『どすこい』自体は全体が500ページ超と、「露悪的なパロネタ詰め合わせ本」にしてはちょい長すぎてダレてしまうところが難ながら、京極夏彦のイメージを完膚なく打ち砕く良い意味でくだらない小説集でした。現在、同路線の『南極(人)』もチマチマと崩しています。更にボリュームがありそうな雰囲気で、読了には時間が掛かりそうだ。

・原作:黒崎遊夜、作画:神崎かるなの『しなこいっ(1)』読んだー。

 “COMIC RUSH”というあまりよく知らない(せいぜい『学園革命伝ミツルギ』『ラーメンの鳥パコちゃん』を読んだくらい)漫画誌に掲載されている作品。タイトルは「竹刀短し恋せよ乙女」を四文字に省略したものとのこと。現時点でラブコメ要素は全くありませんが、ヒロインが「自分より強い男じゃないと好きになれない」みたいな発言をかましているところからして今後はLOVE寄せ展開が来るのかも。

 短剣道――全長が通常の半分程度しかない竹刀を、抜群のフットワークで使いこなすことから「跳ね馬サクラ」の異名を持つ遠山桜。彼女が通う道場に、一人の「道場破り」が訪れる。サングラスにファー付きの外套と、剣士らしからぬ格好をした男。しかしながら、彼こそがかつて「龍神」と恐れられた女剣士・榊辰子の息子――榊龍之介に他ならなかった。示現流の剣術を備えた若き龍は、道場破りに勤しむ傍ら「ある少女」の行方を追っていたが……。

 ヒロインが中日ドラゴンズ好きだったり尾張云々といった話題が出たりなど、さりげなく舞台が名古屋であることをアピールしている剣道活劇コミック。とはいえコテコテの名古屋弁が飛び出したりはせず、たまに舞台設定を忘れそうになることもあります。いずれ「龍神」と「ドラゴンズ」の関連が明らかになるのかもしれませんが、定かではない。主人公の母親が斃される冒頭で「はっはーん、要するに仇討ちモノか」と決め込んで読み進めたが、しばらくしてどうも単純な仇討ちストーリーではないような気がしてきました。あくまで「気がする」だけで、実は本当に仇討ち譚なのかもしれませんが……あっちこっちと結構頻繁に視点が切り替わるし、そもそもまだ具体的な説明が挟まれておらず、1巻に目を通しただけではサッパリ全容が掴めませぬ。裏表紙に描かれた粗筋を参考にすると、まず主人公の母親である「龍神」榊辰子と、「雷神」と呼ばれる女剣士・鳴神寅が「雲耀(うんよう)」という名を秘剣をそれぞれ独自に編み出して対決し、榊辰子の「雲耀」が敗れて鳴神寅の「雲耀」が勝った――という地点が物語のスタートになる模様。ちなみに雲耀は「稲妻の閃光と同じ速さ」の意味で、実際に薩摩示現流の極意とされているらしく、作中では「目視することが不可能な太刀」って扱いにされています。主人公が追い求めるのは母の仇である鳴神寅……ではなく、その娘・鳴神虎春。ふたりの間にどんな因縁があるのか、いまいち不明なまま「2巻へつづく」となります。ストーリーだけ取り出せば、まだ何とも言えない感じですね。

 よって1巻の見所は剣道描写、これに尽きます。中には明らかに人間離れした機動があって、伝奇色が幾ばくか混入されている面は否定できないものの、衝撃波を飛ばしたり、鎌鼬を発生させて切り刻んだり、炎や雷を発生させたり……などといった格ゲーじみた奥義は使わず、なんとかギリギリの範囲で納得できる「術理」によって戦っています。1巻のバトルシーンは、ヒロイン遠山桜が噛ませ犬の男子生徒を打ち破る前半、主人公の龍之介が「道場破り」する後半、そしてヒロインと主人公が激突する終盤――ヒロインと主人公の対決は「あとちょっと」というところで決着がつかないまま次巻へ持ち越しとなりますが、都合3つも入っていれば充分でしょう。最初にやられる男子生徒、噛ませ犬の割には案外と粘りますし。単行本1冊を丸々使い切らせた末堂(『グラップラー刃牙』)ほどじゃないにせよ、3話目でやっと倒される。合間合間に他のエピソードを盛り込んだせいでもあるけれど、2話使って敗北した師匠とほとんど変わらない扱いと言えましょう。読む前は「ラブコメやエロいサービスショットが眼目でアクションシーンはおまけ」っていうタイプのマンガかと思っていましたが、むしろ逆で、とにかく剣道描写が大半を占めている。迫力溢れる作画の影響もあり、なかなか燃えます。悪役?の虎春すら真剣を用いない「伝奇剣道」、下手すれば『風魔の小次郎』で描かれた「聖剣戦争」のデッドコピーとなりかねないところを、術理重視路線の採択でうまく凌いでいる。負けず嫌いで凶暴なヒロインも可愛かったし、予想以上の収穫でした。

 いきなりデッカい活字で「あれが雷の化身…“鳴神寅”の秘太刀 魔剣“雲耀”かッ!!!!」と大書する暑苦しいノリもあって、最初は「こりゃ馴染めないかもな」と溜息をついたりもしましたが、気づけば難なく馴染んでおり申した。慣れてしまえばハッタリの利かせ方も心地良くなってくる。あとがきを見るに雑誌読者からの人気がいまひとつみたいで少し心配になります(作者サイトでも「一巻が売れないと打ち切られる「しなこいっ」をなんとか延命させようキャンペーン!」なんてメチャクチャ切実な企画やってる)。ニトロのハナチラも評判振るわなかったし、剣術系フィクションは案外と厳しいジャンルなのかも。ともあれ、2巻以降も楽しみにしたい。あと、チョコチョコと挿入されるギャグについてですが……笑っていいのかどうか判断に困るネタがあって「こんなとき、どんな顔したらいいかわからないの」と言いたくなる。一番困惑したのは師匠のアレですね。傷だらけの裸身を見せ付けるシーンで、なぜか花柄のブラジャーを着用している。しかもケンシロウやパズーの親方みたいに上半身を膨らませて弾き飛ばし、筋力アピール。主人公が全然ツッコまないし、え? ここ笑いどころじゃないの? と首を傾げてしまった。ひょっとしてこの世界、「力を抑えるためにブラ着用」とか言い出すような変態がゴロゴロしてんのか。それなら今後どんどんレベルアップして、終いにはヌード剣道やらかすんじゃないか。「傲然とそそり立つ 陰茎“衝天の構え”ッ!!!」とか。イヤ過ぎるぞ、それは……。

・拍手レス。

 本当に一周して桜の時期に帰ってきてしまいました。
 桜が咲く時期に間に合うのか、桜が散る時期になってしまうのか、それとも……。

 Dies irae最初の修正版に期待ですね。…『最初の』?
 待機させてもらおうぜぇ、まだ始まったばかりじゃねぇか。


2009-01-10.

・「マイコプラズマ肺炎」という言葉を聞き、脳裏に「口からプラズマ球を放つ代償として肺を患う舞妓さん」の姿が浮かんでしまいましたが、「舞妓プラズマ」で検索してみるとご同類の方々が沢山いて少し心強かった焼津です、こんばんは。

「社内中の人たちが協力して立ち向かいました……ファンの皆さん、ありがとう。『さくらさくら』は延期です。今年もなんとか延期です」

 1月30日→3月27日。間の2月を見事すっ飛ばしてくれました。予想通りすぎてもう言葉もない。

light、「『Dies Irae』その後の開発状況」を公表

 前回の告知から早一年、遂に公式が重い口を開きました。ルート自体が存在しなかった螢と玲愛はもちろんのこと、香純とマリィのルートも修正される模様です。「メインライター」というのを正田崇と受け取っていいのかどうか若干悩みますが、幾千もの魂が散華したあのクリスマスワスチカを経てようやく進展らしい進展を目にすることができたことは素直に寿ぎたい。長かった……ような、短かったような。不思議な心地。いきなりテンションを楽観ムードに切り替えることは不可能ながら、希望を見失わずにのんびり膝を抱えるような気持ちで待とうと思います。なんだか少し、2006年や2007年の頃に戻ったみたいな懐かしさ。

 既視感(デジャヴ)は“生きていた”と。君は!

もし萌えアニメのキャラの性別が逆転したら(働くモノニュース : 人生VIP職人ブログwww)

 『ギャラクシーエンジェル』……は本当に性別が逆転した回があったっけ。「おっぱいリロード」で有名な『グレネーダー』はガチムチ兄貴の「大胸筋リロード」になってしまうのかしら。『とらドラ!』は凶相の家事大好き少女・竜子に惚れること間違いなし。あと萌えアニメじゃないけど、『クロサギ』は『アカサギ』になるかもしれんな。

・最近読んだマンガの感想をザラッと。

 紺野あずれの『こえでおしごと!(1)』

 ヒロインはごく普通の女子高生、しかし姉がエロゲーメーカーで働く関係からエロゲー声優の道のりを歩み始めることになって……というコメディ系お仕事マンガ。作者はもともとエロマンガ家として活躍しているのでH方面の描写は抜かりありません。こりゃもう、どんなに人気が出たってアニメ化できないでしょうね。声優業のイロハは押さえていますが、業界の内幕だとかドロドロした部分には踏み込まず、またヒロインの声優デビューソフトがあっさり完成して発売されるなど、トントン拍子の展開で進むため「お仕事モノ」としては少々物足りないが、恥ずかしがりながらも懸命に声を出して演技するヒロインの姿――それはもう可愛くて可愛くて、実に最高。帯に踊る「そんなことわたし言えないもんッ!」というセリフが全編を象徴しています。画力がちょっと……な部分はあるものの、それを上回る勢いで「羞恥力」が発揮されており、読めば興奮すること請け合い。この人、勘所を掴むのがとにかく巧いんですよね。ある種のフェティシズムにも通じる強靭な拘泥心をヒシヒシと感じます。『思春期クレイジーズ』ではアナルSEXに興味がない当方もガッツリと「お尻の世界」に引き込まれた(個人的に好きなのは「常磐木さんの猛攻」だけど)。設定は無茶にせよ、話作り自体は割合マジメでなかなか読ませます。この調子で行けば、ウブなヒロインもいずれ某「あなたって、本当に最低の屑だわ!」並の卑語を口から迸らせるようになるのでしょうか。そもそも、一般誌でそんなこと可能なんでしょうか。気になるところです。

 原作:橋本以蔵、漫画:壬生ロビンの『アンダードッグ(1)』

 平たく書いてしまえば「総勢200名で殺し合う大規模バトルロイヤル」ってノリのダークサスペンス。「空気男」と揶揄されるほど存在感がなく、趣味が盗撮で、性格もセコい(面と向かって文句を言うことができず、陰険な方法で仕返しする)、けれど身を挺して妹を庇うだけの兄貴パワーは有した青年が主人公を務めている。これだけなら「規模が大きいだけで、よくあるデスゲームものじゃない?」と思うやもしれません。当方も最初はそう決め付けていました。が、「直接的な殺害手段は禁止」というルールが本作の特徴となり、独特の面白みを生み出しています。追い詰めて自殺させたり、事故に遭うよう誘導したりなど、「間接的な方法で期間内に相手を死へ追い込む」ことがバトルの勝利条件。他者に暗殺を依頼したり、事故に見せかけて殺すこともNG。やってOKなこととそうじゃないことの線引きが若干曖昧ながら、ジワジワと真綿で首を絞められるような緩慢極まりない恐怖感はグッドだ。今のところ主人公の妹に死亡フラグが立ちまくってるけど、次巻で生き残れるかしら、彼女……陥れられる、嵌められる、そういった系統のスリラーが嫌いでなければオススメしたい一品です。

 杉本亜未の『ファンタジウム(1)』

 マジシャンの孫で、小さい頃は自分もマジシャンになろうと思っていたけれど、親に反対されて結局普通の会社員として働いている主人公が、中学2年生にして「祖父の弟子」とも言うべき少年と出会って……というマジシャンズ・ストーリー。当然、少年は手品やイリュージョンに関して天賦の才を持ち合わせているのだが、「ある障害」のせいでなかなか道を歩み出せずにいる。優れた才能を有する少年を見つけ、周囲を瞠目させながらあっさりと成功に導いていく――みたいな、ありふれたサクセス・ストーリーと違ってすんなりとは進まない。不登校状態で中学校にも通っておらず、主人公は彼をどうやって、そしてどこへ導いていくかを巡って頭を悩ませながら、それでも彼の持つ可能性を信じ続けるわけです。絵柄も装丁もひどく地味なので最初はあまり惹かれなかったものの、僅か1巻で魅了されるだけのパワーが篭もっており、素直に続きが読みたくなった。主要人物のほとんどは男で占められ、「ヒロイン」と称するに足る女性キャラクターは今のところ存在しませんが、個人的には少年(長見良)の母親が気に入っている。旦那に包丁突きつけたまま主人公へ愛想を振るう姿に惚れた。

・拍手レス。

 Landreaallいいですよねー。もっと評価されてもいい作品だと思います。
 然り然り。掲載元のゼロサム自体があまり認知されてないせいかしら……。

 面白くてムカつくドラマCDというのも中々珍しいですね >Dies
 しかし、その出来が良いだけに、本当に完全版が出るならば…と期待してしまう。

 追試で満点を取られたような気分。試験は赤点だったけど、この子は頑張れば出来る子なのよ……と愚かな親心にも似た期待を催してしまいます。

 さくささくらまた延期みたいですね。延期されればされるほど意地でプレイしたくなる不思議
 やめればいいのに「あと少しで競り落とせるんだ!」とオークションに熱中するかの如く。

 おっ、焼津さんが「Dies irae」のドラマCDの話をするもんだからlightが「Dies irae」のその後の追加情報だしてますよw(違 さて売ってしまった諸兄ら(自分)はどうしよう?
 耳を澄ませば聞こえてくるはず。「さあ、これこそが序幕の終幕。我が社へ愛しのマネーを捧げさせる完全版――金蔓として思う存分に貢げ信者」の囁きが。


2009-01-07.

・半年くらい放置していた『Dies Irae』のドラマCD『Die Morgendammerung』を今更聴き終えた焼津です、こんばんは。

 『Dies Irae』にはいろいろとアンビバレンツな感情が渦巻いてますが、それでもこのドラマCD面白かったなぁ、畜生。『Dies Irae』のドラマCDとしては『Wehrwolf』に続く2枚目ですが、サウンドドラマは他にも「ボーナストラック〜1945〜」「Anfang」が存在しており、都合4つ目になります。本編第1章の裏側を語る『Wehrwolf』、ベルリン陥落間際の1945年、つまり本編プロローグ付近に触れた「ボーナストラック〜1945〜」、ラインハルトとメルクリウスの出会いを描いた「Anfang」と来て、『Die Morgendammerung』は「聖槍十三騎士団の大半が初めて一斉に集った黒円卓黎明の日」が主眼。要するに「Anfang」の続きみたいなものですね。言うなれば『Dies/Zero』って感じ。黒円卓初期メンバーの9名が揃う豪華な内容の割に収録時間は1時間ちょっととやや短く、アンナ(ルサルカ)らへんは少し影が薄くなっていた。ベイやんは相変わらずノリノリ。リザは影薄い通り越して空気だったけどイラスト可愛すぎて勃起した。あくまで容姿で言えばこの頃のリザが『Dies Irae』最萌かもしんね、個人的に。

 ドラマそのものに耳を澄ませば、聞きどころはやはり冒頭か。ベイやんとシュライバーは本編から察してあまり仲良くなさそうだったけど、本当に殺伐とした遭遇で「こりゃ仲良くなるわけないわ」と納得。「教会の十字架に串刺してやる」という恫喝は本編の末路を思うに皮肉で笑えない。シュライバーと言えばザミエル(エレオノーレ)との遣り取り(「誰が、誰を殺すって?」「私が、お前をだ」)がパラロスにあった一節を彷彿とさせてつい遠い目してしまった。面白くて聴き惚れてしまったことは確かながら、先代レオンハルト(ベアトリス)の魅力を出し切らないまま終わることもあって惜しかったかな。黒円卓には残り3名がいる(ゾーネンキントは実質空位)わけだし、彼らの黎明も見たい(聴きたい?)ものです。エンジェル・オブ・デスなシュピーネとか、鉄人ゲッツ・フォン・ベルリッヒンゲンとか。リビングデッドのトバルカインに至っては生前のエピソードがごっそり抜けていて、もはや黎明もクソもない。魂を喰う聖遺物「ロンギヌス・レプリカ」にまつわる因縁も本編じゃサラッと流されていた。つくづく、『Dies Irae』は欠けている箇所が多い。楽しみつつも痛感致しました。

センスを感じるタイトル(VIPPERな俺)

 ここ最近では『俺の妹がこんなに可愛いわけがない』が最強。あれ以外のタイトルだったらまず買わなかったでしょう。インパクトで言えば『腑抜けども、悲しみの愛を見せろ』も捨てがたい。『七回死んだ男』は題名が嘘をついていないうえに話としても面白かったのでオススメ。他、うまいなぁ、と思うタイトルが『テースト・オブ・苦虫』。読んだ後に見返して「なるほど」と頷けるのが『照柿』『犬はどこだ』。文章系だと『奴らは渇いている』『愛は血を流して横たわる』『神菜、頭をよくしてあげよう』の3つが好き。「○○の××」みたいなパターンでは『百年の孤独』『ガダラの豚』が個人的二強です。『長距離走者の孤独』も気に入っていたけど、中身読んだら想像していたのと全然違って拍子抜けしました。あと "The Beast Must Die" を『野獣死すべし』と訳したのは確か江戸川乱歩だっけ。大藪春彦が早稲田大学の同人誌に発表した「野獣死すべし」に目をつけて“宝石”に転載したのも乱歩だし、何やら奇妙な縁を感じますね。

ラノベの挿絵ってなんであんなに手抜きなの?「平和の温故知新@はてな」経由)

 大概のレーベルは挿絵の〆切がキツいと聞きますね。『神様家族』の何巻だったか忘れたけど、公園のシーンでブランコの柱と鎖しか描いてないようなイラストがあったな……ライトノベルも数をこなすと「挿絵=刺身のツマ」という感覚が身に付いてきて、モノクロどころか線画に等しいクオリティの絵も容易く受け入れられるようになりますけど、困るのが「本文の描写と一致していない挿絵」。脱いでいるはずの服を着ていたり、説明されている形状とは明らかに異なる武器を持っていたり、そもそも「美少女」と絶賛されているヒロインがどう見ても可愛くな(ry。挿絵は「ここぞという見せ場」のみならず、「文章だと分かりにくい箇所」を視覚的に補い、イメージをより強く喚起させる――という役割も果たすべきなのに、メカが描けなくて細部を誤魔化している絵師や、せっかくのクリーチャーを間抜けに描いて迫力ダウンなんつー事態を招くイラストレーターが結構多いよなぁ。昨今ライトノベルの裾野が広がりすぎて過剰生産に陥り、もうイラストレーターが足りてないってのが理由の一つみたいです。売れっ子は仕事詰まりまくって「質より量」らしいし。中には、「小説部分は完成しているのに絵が仕上がらないせいで発売できない」っつー作品もあるとかないとか。そのうち、予定されていた挿絵がまったく入っていない本が発売されて騒ぎになるかもしれませんね。似たような事例は既にあったりしますが……そういえば「イラストのないライトノベル作家」として地味に話題を喚んだ御影瑛路の新作が今月出る(というか早売りされている地区ではもう出た)けど、今回は普通に絵が付くようだ。過去の試みはなかったことにされてる御影?

・おがきちかの『Landreaall(1〜13)』読んだー。

 タイトルは「ランドリオール」と読む。作者の造語らしく、詳しい意味は不明ですが「land」で「real」で「all」とか、そういうニュアンスでしょう。たぶん。中世ヨーロッパ風の異世界を舞台にした「剣と魔法」系ファンタジーで、騎士が出てくる一方ニンジャもいたりと、結構チャンポンな設定。1巻から3巻までは故郷で行った竜退治の顛末を綴りますが、4巻から一転して学園(アカデミー)編が始まる。竜退治編もそれなりに面白いんですけれど、やっぱり本番は学園に入った以降のストーリー。メキメキと面白くなっていきますよ。特に、最新刊の13巻は緊迫感溢れる展開の連続でひたすら盛り上がりました。

 正直に申して1巻を読み出したときは絵柄がシンプルすぎるっつーか、ちっと物足りないなー、と不満を覚えたものです。「稚拙」とまでは行かないものの、ずっとこの調子が続くんだったら厳しい……と思わざるをえなかった。その頃に比べ、最新刊あたりの上達ぶりは目を瞠る巧さがあります。もはや微塵も物足りなさを感じない。進行のテンポは宜しいし、要所を押さえた語り口でグングン引き込まれていきます。設定がチャンポンとはいえ細かいところにまで凝っており、そのままRPGにしても大丈夫なほどの強度を誇っていて、読めば読んだ分だけハマります。本筋がヒートアップするのはもちろんのこと、ふんだんに用意されたサブエピソードが本筋と絡み合って妙なる音色を奏で始めるのだからたまらない。後々になって発動する伏線も多く、作者自身が愛と熱を篭めて物語を鍛造しているのだと実感させてくれます。

 ただ、飄々として掴みどころがない性格のくせしてやけにスペックが高い(最強ではないが)主人公とか、天真爛漫で自由闊達というかいささか野放図なブラコン妹とか、気配を殺してそばに寄り添っている護衛ニンジャだとか、配置が少しあざといかな。「中二臭い」「邪気眼めいている」と敬遠される方もおられるやもしれませんが、少なくとも殺したり殺されたり――みたいな殺伐とした要素は希薄であり、「死ぬのが怖くない奴は最後まで生き残れない」って調子で「生き足掻くこと」に重点を置いてますから、自己犠牲精神やら何やらに閉口することもないでしょう。悲劇に酔うことがない、ってか、そもそも「悲劇には終わらせまい」という方向で力強く描いているわけで、「己が身の不幸に安住する」タイプのキャラが嫌いな人もバッチリ浸れるはずです。

 オススメされて情報を漁った当初は半信半疑でしたけど、まとめて崩せばキッチリと没入できる魅力がギュウギュウに詰まっておりました。確かにこれはもっと注目されていいファンタジーコミックですね。暑苦しくはないにせよ、扉を開けばそこに明瞭な「熱さ」が待ち構えている。とりあえず、最新刊(13巻)の表紙を眺めてピピッと脳天に来るものがあったら迷わず全巻買いすべし。毎度巻末に収録されている外伝的なショートエピソード群「Tail piece」は痒いところに手が届く内容で実に素晴らしいし、まさしく至れり尽くせりの豪華仕様だわ。

 ちなみに。なんだかんだで一番好きな登場人物は妹のイオン。2巻の「お兄ちゃんです――」は爆笑しました。脇キャラはソニアが気に入っている。百合のケでもあるのか、イオンに篭絡されかかっているルームメイトのお嬢様。睫毛長ぇ。そして当方の記憶が確かなら、目を開けたシーンは一度もない。バルゴのソニアと呼ぶべきかしら。

・拍手レス。

 新年一つ目の拍手がこれというのも我ながら度し難いですが、ロリの本領はその旺盛な好奇心と知識欲にこそある、と強く主張したい次第であります。
 ロリコンの持つエネルギーはマジでパねぇと覚ゆ。どうでもいいですけど、「エネルギー」ってドイツ語なんですね。

 焼津さんが面白いというので禁書を呼んでみましたが、文章がくどすぎてダウンしてしまいました……。
 あ、えーと、4巻は面白かったですよ?土御門とアクセラレータは好きですよ?

 禁書目録はクドいというか、あのダラダラ感が好きです。土御門と一方通行は下手すると上条さん以上に主人公属性があるよなぁ……。


2009-01-04.

・あけおめにて候。こんばんは、丑年ということで『よんでますよ、アザゼルさん。』の危うく牛になりかけたヒロインを想起している焼津です。

 今年の初夢は「『秦の始皇帝は未来から齎されたガンダムによって中華統一のみならず世界制服を果たした』という設定を背景に、オーバーテクノロジーで量産されたMSやMAが大陸中を闊歩しては頻繁にワールドウォー引き起こす群雄割拠のトンデモ古代」が舞台で、東で項羽ガンダムと劉邦専用ザクが争う一方、西ではハンニバルビクザム率いるカルタゴ軍が同盟を組んだローマ軍(ギャンやキュベレイ、ガズアル、ガズエルとおぼしき機体を視認)とともに反中華革命に挑む。タイトルは『機動戦士ガンダムBC』が妥当? これだけでも充分バカバカしいのですが、実はこの世界、未来からの介入で既に何度も「やり直し」が行われているという無駄に壮大な真相が隠されているのです。未来から「リプレイ古代」に派遣されたエージェントが主人公で、彼の容姿がロラン並みの可愛さだったところに当方の嗜好が透けて見えます。またロランっぽい主人公を要所要所で邪魔する謎のライバルキャラ(見た目は男ながら性別は女、素直になれない性格だが最終的には主人公とくっつく)が現れますが、そいつがどうしても『とある魔術の禁書目録』の登場人物にしか見えなかったあたり、如何にもイイ加減な夢でした。それも一方通行とかじゃなく、よりによって垣根帝督ですよ。深層意識ではあんな野郎にムラムラしていたというのだろうか……。

・さておき、始まりました2009年。まず最初の注目は『俺たちに翼はない』。当初の発売予定(2008年6月30日)から半年以上も延期し、堪忍袋の緒が切れそうになったシーズンもありましたが、それも過ぎてしまえば思い出。一番最初の情報公開からほぼ4年、待ち続けた歳月をどうか黒歴史には変えないでとただただ祈るばかり。おれつば以降の注目ソフトは『村正(仮)』(リンク先の真ん中あたり)、『真剣で私に恋しなさい!』『魔法使いの夜』の3本。『暁の護衛〜罪深き終末論〜』に関しては、昨年末のFDでひとまず腹が膨れたから来年まで待たされてもいいかな、という心境です。あと『ドグラQ』や『霊長流離オクルトゥム』や『陰と影』や『はるはろ』や『煉獄のノア』や『末期、少女病』への切なる願いも繋ぐとします。

 小説は『ラビドリータ』をいい加減刊行してもらいたいのと、“アイスウィンド・サーガ”3部作の完結編『冥界の門』を一刻も早く復刊してもらいたいのと、横山秀夫の『64(ロクヨン)』はいったいどうなってんの?って問い質したいのと、“龍盤七朝”はホントにシリーズとして機能させる気あるの?って秋山瑞人と古橋秀之に問い詰めたいのと……差し当たってそんなところかしら。

ドナルド・ウエストレーク氏死去 米小説家

 新年早々なんてこった……どちらかと言えば当方よりも母の方が好きな作家でしたけど、「ライバルを殺せば職に就ける」という切ない狂気に取り憑かれたリストラ男の姿を描く『斧』は衝撃の書でありました。この人は他にも様々な筆名を持っていて、中でも“悪党パーカー”シリーズの「リチャード・スターク」が有名でしたね。

 合掌。

男にとってどんな男性キャラクターが魅力的なのか(アルファルファモザイク)

 リア厨時代は完璧超人系のキャラが好きでしたけど、歳食ったせいなのか最近は「やるときはやるけど基本的にダメ男」タイプに魅力を覚えるようになった。具体例を挙げるとガユス・レヴィナ・ソレルとかジョン・リーバス刑事とかジャック・フロスト警部とか。川上稔作品で言えば野犬(ヴィルトフント)さん、悲愴(トラーギシュ)の人も好きだけど。あとタオローさんも人間としては結構ダメな野郎なので適合。主人公以外だったら「単純明快に強そうな敵」がイイですね。言動が若干ゲス臭かったりすると尚更グッド。この路線で挙げるなら断然ヴィルヘルム・エーレンブルグ。そして如月修史や宮小路瑞穂や和久津智や渡良瀬準や守流津健一や木下秀吉は「男性キャラクター」と分類して構わないのだろうか?

・餅月望の『小学星のプリンセス☆』読んだー。

 ひと口にロリコンと申しても様々な好みがあるわけでして、各人が重きを置く要素は大きく分けて3つ存在します。即ち、見た目・実年齢・精神年齢。「見た目」重視派はとりあえず外見が幼い少女の容態を取っていさえすれば満足するというタイプで、実際の年齢が8歳だろうが20歳だろうが45歳だろうが100歳だろうが2000歳だろうが一向に構わず、内面が幼かろうと老成していようと痛痒だにしない。極端な話、ガワを幼女の形で繕っているキャラクターなら、正体が無生物でも名状しがたきものでも何でもいいのです。つまり「年上ロリ」や「人外ロリ」を嗜好する者は概ねここに属します。次に、「実年齢」重視派。見た目だけでは満足できない本物志向の拘りを持つ面々ながら、端的に述べれば「5歳」や「9歳」といった表記だけで興奮してしまう因果な人々です。実年齢が伴わない「偽ロリ」に対する態度は至って冷淡で、良くてスルー、悪ければ憎しみのマグマが噴火する。この手のタイプはたぶん「禁断のロリータ陵辱」みたいな怪しいAVをドキドキしながら借りて、いざ自宅で再生したら「単なる童顔じゃねぇか!」「いや童顔ですらねぇ!」とショックを受けた過去に起因するのではないかと思いますが、定かではありません。最後が「精神年齢」派。見た目や実年齢が幼くても言動が大人びていたりババ臭かったりするキャラは受け付けない、ロリイデアの求道者です。観察力の低い作家には「幼女がこんな喋り方するわけないだろ」「幼女の挙動を熟知してから書け」「幼女の思考様式が分かっていない」と厳しく駄目出し。「本物との差を決定的に分ける一線って、いったい何なんですか」と訊かれれば、「人格だよ」と躊躇いもなく返答する。それは『G戦場ヘヴンズドア』ですが。ただ、人格がロリであっても歳が20代後半で見た目がお色気ムンムンの女教師ってなキャラは例外というか論外とし、大抵の場合は「精神年齢>見た目」「精神年齢>実年齢」といった形でちゃっかり優先順位を築いてる。イデアの求道者と雖も「実は他の要素も重視している」のが実態であり、童女還りした老人女性にまで「ロリの真髄」を見出す兵はほんのひと握りであります。で、当方の嗜好がどれに属するかは内緒。とはいえ、このサイトに足繁く通われる方にはバレバレかもしれません。

 長々と前口上を垂れ流して参りましたが、本書『小学星のプリンセス☆』は分類するなら明らかに「見た目」重視派のロリコンライトノベルです。「三大ロリ小説」と謳われた『紅』『円環少女』『SHI-NO』は見た目と実年齢を兼ね揃えた女子小学生がヒロインを務めていますが、『小学星のプリンセス☆』のヒロイン・ルリスは「小学星人」であって小学生ではなく、実年齢も17歳となっております。「5年ぶりに再会したルリスは、当時と同じ姿のままだった――」っつー『きみを守るためにぼくは夢をみる』の逆シチュエーションで送られる本書、高瀬彼方と葛西伸哉の雑談によって生じた「住人の成長が10歳前後で止まる惑星」=「小学星」なるネタを丸々一冊分にまで膨らませた「瓢箪から駒」めいた代物であり、ほとんど一発ネタであるにも関わらず既に続編も出ております。なにげに好評だったんだろうか……。

 ストーリーを簡潔にまとめてしまえば「久々に会った女の子がロリっぽい外見のままですごく戸惑ったし、なんだか犯罪臭くて気まずい感じもしたけれど、やっぱり好きなのでくっついちゃいます、テヘ☆」ってな具合で、もっと要約するなら「ロリコン上等!」の一言に尽きます。慌しく落ち着きのない一人称とともに主人公が見せ付ける犯罪者スレスレの挙動不審ぶりや、最後の最後まで行動を起こさずウジウジと悩み続ける消極性で以って読者をイラつかせますが、全体としては収まるところに収まっていて悪くない読後感です。ロリ関連の描写も、『円環少女』の長谷敏司の元生徒というだけあって抜かりない執拗さ。絶賛したくなるほどの出来ではないんですが、主人公があっちこっちのロリにフラフラせずルリス一筋だったことには好感が持てるので、とりあえず2巻も買ってみようかな。そんなふうに思う内容でした。

 にしても作者名の「餅月望」って、上から読んでも下から読んでも「もちづき」なんですね。最初、餅月あんこと何か関係があるのでは……と勘繰ってしまいました。

・新年早々に購入予定を公開。

(本)

 『四方世界の王1』/定金伸治(講談社)
 『海王(上・下)』/宮本昌孝(徳間書店)
 『新ゲノム(3)』/古賀亮一(コアマガジン)
 『棺担ぎのクロ。(3)』/きゆづきさとこ(芳文社)
 『放課後プレイ』/黒咲練導(アスキー・メディアワークス)

 『ジハード』が完結してからもうだいぶ経ったのでそろそろ知名度が落ちてきているであろう定金伸治の『四方世界の王1』は大河ノベル。12ヶ月連続で刊行される予定となっています。記紀神話をベースにしたファンタジー『Kishin−姫神−』(全5巻)が好きなこともあり、定金の安定した筆力に期待を寄せたいところですが……それにしても『制覇するフィロソフィア』はどうなったんだと小一時間問い詰めたい心境。『海王(上・下)』は『海王伝』というタイトルで連載していた小説を改題したもの。「剣豪将軍・足利義輝の遺児ハイワンの冒険」……そう、まさかの『剣豪将軍義輝』続編です。上下併せて4620円と、『風魔』に引き続きドエラい値段設定ながら、こりゃ買わんわけにはいくまい。『新ゲノム(3)』は待ってましたの古賀最新刊。「古賀のテイストは他のどんなマンガでも代用できない」と申しても過言ではなく、パクマンが見せつける「変態という名の雄姿」を拝める日の訪れが今から待ち遠しい。コアマガジンから出版されるくせにエロ要素はほぼゼロ(お色気やシモネタならある)ですが、そんなことは全然問題じゃありません。『棺担ぎのクロ。(3)』はもう一つの代表作『GA』のアニメ化が決まったきゆづきさとこの新刊。個人的にはクロの方がアニメ化するんじゃないかと睨んでいましたが……マンガとしてはどちらも甲乙つけがたい出来でありますし、そりゃ好みにも寄りますが、決して「クロ<GA」ではありませんのでこちらもオススメしておきた……え? 延期した!? なんてこったい。『放課後プレイ』は、どこだったか忘れたけれどCGサイトで話題に取り上げられ、それをキッカケに注目した一作。内容はよく知りませんが、ヒロインの御姿に魂的なガイガーカウンターの針が振り切れん勢いで反応していますのでとりあえず買ってみんとす。ナンバリングされていないけど、売り上げ好調なら続刊も出るはず。

(ゲーム)

 『俺たちに翼はない』(Navel)

 マスターアップしたからには延期することもないでしょうけれど、そうなると今度は中身がどうなっているか心配に。でも王雀孫のテキストが好きなんだから待つしかない。

・拍手レス。

 焼津さん貫禄の作品リンクラッシュ。2008年もこれにてお仕舞いってわけですね。…まぁ、言うほど「変」な年でもなかったが、なんというか、少しばかり「居心地の良さ」が減りすぎた一年だったと思います。それでは、よいお年を。
 確かに「変」はあんまりピンと来ない。でもプラスよりマイナスの出来事をついつい思い出してしまう年でした。そして、あけましておめでとうございます。

 あけましておめでとうございます。米澤は2月に秋季限定がリリースされるようで楽しみ。あとホライゾンはEDGEでなくてGENESISですよ〜、と細かいですが一応報告しておきます
 あけましておめでとうございます。米澤の栗金飩は分冊みたいで微妙にガッカリ。でも楽しみ。ホライゾンの方は直しておきました。そうだった、EDGEは銀英伝(※勝手に抱いているイメージ)だった。

 そういえば、林トモアキ氏のミスマルカは既に読まれてるようですが、マスラヲは買われてないのでしょうか?
 機会があれば「お・り・が・み」ともどもまとめ買いしたいところです。

 あけましておめでとうございますm(_)m今年も書評とSSをワクテカしつつ待ちたく候w
 あけましておめでとうございます。SSは……もう書き方とか忘れてきましたな……。

 ここでとあるーを知ってインデックスさんにはまった一人です。ありがとうございました。冬もぶらっと見て回りましたが、とーま相手が多かったていうかしかなかったというか…と思って見直すと男キャラは恐ろしい確率で排他されてますね右手はフラグクラッシャか。女の子は俺のもの!!あけおめです。
 とーま以外だとカップリングが難しいと申しますか、カップリングできてもネタが限定されちゃいますからねー。個人的には木原数多のスーパーアーツを解明する「木原の拳」みたいなネタ読みたい。もう一度いう、おれは天才だ!! あけおめです。


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