2006年10月分


・本
 『ネコサス:シックス[完全版]』/塩野干支郎次(ワニブックス)
 『テロリストのパラソル』/藤原伊織(講談社)
 『ボーン・コレクター(上・下)』/ジェフリー・ディーヴァー(文藝春秋)
 『超・超・大魔法峠』/大和田秀樹(角川書店)
 『コフィン・ダンサー(上・下)』/ジェフリー・ディーヴァー(文藝春秋)
 『悪魔の涙』/ジェフリー・ディーヴァー(文藝春秋)
 『狼と香辛料3』/支倉凍砂(メディアワークス)
 『静寂の叫び(上・下)』/ジェフリー・ディーヴァー(早川書房)
 『ZOOKEEPER(1)』/青木幸子(講談社)
 『エンプティー・チェア』/ジェフリー・ディーヴァー(文藝春秋)
 『石の猿』/ジェフリー・ディーヴァー(文藝春秋)
 『魔術師』/ジェフリー・ディーヴァー(文藝春秋)
 『獣たちの庭園』/ジェフリー・ディーヴァー(文藝春秋)
 『シグルイ(7)』/漫画:山口貴由、原作:南條範夫(秋田書店)
 『黒と青』/イアン・ランキン(早川書房)
 『アンリミテッド・ウィングス(1〜2)』/漫画:松田未来、監修:藤森篤(角川書店)
 『蹲る骨』/イアン・ランキン(早川書房)
 『滝』/イアン・ランキン(早川書房)

・ゲーム
 『サバト鍋』(ニトロプラス)

・特集
 「血塗れ竜と食人姫」、完結
 オススメ修羅場SS三撰
 「臓器たんといっしょ!」


2006-10-31.

「で、おまえが抜け出したおかげで俺の血流が滞って朝っぱらからローテンションに陥ってるわけだな?」
「はい」
 心臓たんと名乗った少女は緋鯉ならぬ桃鯉が泳ぎ回るピンク色の着物に細い指を滑らせ、裾の皺を伸ばしている。
「なあ、それって、ひょっとしてヤバくね? このままだと俺死なね?」
「ええ、ヤバいですね。死んでしまいますね」
 表情一つ変えずに首肯した。平然として、微塵の屈託もなかった。
「他人事みたいに言ってんじゃねーよ……おいおい、俺が死んだらおまえも困るんじゃないか? 心臓なんだし」
「いえ別にそうでもないですよ?」
 肯定が来ると思ったのに、返ってきたのはやけに薄情な答え。
「は?」
「もともと心臓って独立して動く器官なんです」
 なんてことをのたまい出した。
「ほら、ホラー映画とかスプラッター映画なんかで生きたまま心臓を抉り出すシーンがあるじゃないですか? あれ、体外に出てからもドックンドックン収縮を繰り返してますよね?」
「ああ、確かに……」
「体内にいるうちはあの収縮で以って血液ポンプたる役割を果たすわけですけれど、だからって互助的なパーツの一つってことにはなりません。体がなくたって心臓は自分で動いていられます。器官としては一個で完結してるんです」
 ポカンと口を開け広げる俺に向かって、滔々と捲し立てた。
「ですから、あなたはわたしがいないと困りますけど……わたしはあなたがいなくても生きていけるのですよ?」
「いや待て、なんで俺がおまえのヒモみたいな扱いになってるんだ? それも女に愛想を尽かされてもうすぐ離縁される奴っぽく」
「実際、愛想が尽きたからです」
 はあ、と片頬に手を当てて溜息。憂愁の色合いを帯びた目でじっと見詰めてくる。
「はっきり言ってあなた、不健康すぎます。運動しないし、酒タバコは飲み放題吸い放題だし、なんでもかんでも料理にお塩やお醤油掛けまくるし、油っこいものや甘いものが好きでバクバク食べてコレステロールが多すぎになるし、くだらないことで腹を立ててストレス溜め込むし……!」
 穏やかだった口調がだんだん荒れて声高になってきた。終いにはバンバンッと畳を平手で叩き始める。
 なあ、自分で言っときながら、こいつも結構ストレス溜め込んでんじゃねぇのか? それが俺の責任なのかどうか、ちょっと判断つかないが。
「もう、その歳でわたしに負担かけすぎです! 今から既に動脈硬化が心配ですよ、わたしは! いくらなんでも我慢しかねますってば!」
 柳眉をほんのり逆立て、ぷんすかぷんとドピンク頭から湯気を噴き出す勢いで説教した。右手の人差し指がピンと立っていて、語気を強めるたびにそれを振る。いわゆる「ダメだぞ!」のポーズ。
「あなたが生活習慣を改善すると誓って、それで計画を立てて実行して、きちーんと健康体に戻るまではわたし、帰りませんからね!」
 なんてこった、臓器に「不健康だから」という理由で謀叛を起こされるなんて……きっと俺は後々日本史に登場して「平成の世において、己が心臓に叛逆されし暗君」と紹介されるに違いあるめえ。
「分かった、誓う、誓うから。さすがに俺も自堕落な生活を送るためだけに命まで懸けたくねぇ。生活習慣を改善する」
 片手を上げて宣誓。こんなカッコ、小中高生の頃すらしたことなかった。まるっきりダメ生徒だったし。
「……けどさ、今の状態だと、健康になる前に死ぬんじゃないか?」
 何せ心臓が空っぽのままだぜ。洒落になんねーよ。せめて和解案を呑んで一時的にでも戻ってもらわないと。
 ……ってあれ?
 いつの間にか、心臓たんが俯いていた。顔はよく見えないが、頬を赤らめてもじもじと左手と右手の指を絡めている。
「あ、はい、かしこまりました……あなたの宣誓を信じることにします。で、でもですね、一旦体内へ戻ってしまうと、また出てくるのが難しいので、その……体外に留まったままで機能を回復して差し上げることに、しますね?」
「なに? そんなことできんの?」
 ならさっさとやってくれ。気のせいか、体が重くて億劫になってきてるぞ。足とか冷たいし、全身に血液が行き渡ってないんじゃねーか?
 焦れる俺だったが心臓たんは依然もじもじを繰り返し、一向に行動しようとしない。
 が、やがて決心したのか、ガバッと顔を上げた。
 真っ赤っかだった。すべすべの肌と合わさってまるでよく磨かれた林檎のようだ。
「あ、あの……その……わ、わたしとえっち……い、いえ、肌を重ねれば……ほんのいっときだけ、あなたの機能が回復するんです……っ!」
 爆弾発言だった。エロ・テロルだった。
 おい、誰か機動隊のEOD(爆発物処理班)連れてこい!
「それなんてエロゲ?」
「言われると思った……! あなたの趣味からして言われると思ってました……! でも仕方ないんです! 他に方法なんてないんですよう! あまりツッコまないでください!」
「でもそれって要するにツッコめ、ってことだよな? 口に出して言いにくいところに。口に出して言いにくいものを」
「シモネタはいいですってば! と、とにかく……こうなった以上はDo or Dieなんです!」
「ヤらなければ“死ぬ”と。
 君は!」
「だからいいんですってばシモネタはぁ!!」

 そんなこんなのドタバタをひとしきり繰り広げて、落ち着いたところで心臓たんが震える手を一生懸命使って着物の帯をしゅるりと解き、「じゃあ、お願いします……あの、わたし、初めてですから……どうか……うっ……優しくして、ください……」とテンプレ台詞を口ずさんだ直後。

「エロいのダメーッ!」

 ばばーん、と寸止めお色気コミックよろしく部屋へ乱入してきた奴が!
「ちょっと! 心臓たん! あたしたちを差し置いてなぁに勝手にエロい真似仕出かしてんだこの……欲情魔が! 焦ったじゃないか!」
「まったくだよ、うん」
「あ、あなたたちは……!?」
 黒くてサラサラしたセミロングのおかっぱ髪を下げた、よく似た双子の姉妹。服装は黒のワンピース。傍らにはなんつーかこう、魔女っ子アニメに出てくる「使い魔」みたいな白猫と黒猫が「みゃー」「みょー」と鳴きつつふよふよ浮いている。造型はなんだか手抜きのヌイグルミみたいだが。
「誰だてめぇら」
 まだ心臓機能が停止した死体さながらの据え置き状態につきテンション低い俺。
「よくぞ訊いてくれた!」
 と、双子の一方が片手を腰に当ててビシィッと人差し指を突きつけた。もう片方が「付き合いだから……」と言わんばかりにおざなりな仕草で左右反対のポーズを取る。
「答えよう! あたしたちは夜のうちにこっそり大脱走した腎臓姉妹だ! 見ての通り双子! あたしが右腎たんで!」
「あたしが左腎たんだよ、うん」
「ちなみに浮いてるこいつらは右&左の副腎たん! だけどいっぺんに四つも名前出すとややこしいから今は覚えなくて宜しい!」
「宜しいんだよ、うん」
 ひどくやる気にムラがある双子姉妹だった。
「腎臓だぁ?」
 手鏡で背中のあたりを確認する。おお、確かに縫合した痕跡が二つも残っている。一つは縫い目が綺麗でもう一つは縫えてなかった。
「なんかこぼれてきてる……」
 何がこぼれてるのか、考えるのはよそう。
「ふふん! ごはん漁るだけ漁ったら眠くなっちゃってさっきまで冷蔵庫の前で熟睡してたあたしたちだけど! 双子が力を合わせれば魅力は二倍! 背中を合わせれば死角なし! ゆえに最強!」
「割と無敵臭いよ、うん」
「侮るなかれ!」
「略すと『アナルなかれ』」
 一文字省いただけじゃん。
「さあ心臓たん! ヒロイン面してるあんたに今日こそ目にもの見せてくれよう!」
「……ねえ右腎たん、そろそろ居間に行ってテレビ見てきていいかな?」
「い、いきなり何よ左腎たん!?」
 姉だか妹だか知らないが、相棒(バディ)がコンビ解消しようとする動きを見せ、右腎たんがもろに狼狽えていた。
 左腎たんはマイペース気味に嘯く。
「とく○ネのオープニングトークが始まる時間なんだよ」
「あんな毒舌キャラぶっといて昔はテレビ通販の商品を誉め殺していたキャスターがメインを務める番組なんて見に行かなくて宜しい!」
「宜しいのか。ふうん」
 周りの存在を斟酌せず、漫才芸人の如くコント時空を築き上げていくふたりを眺めて。
 俺は率直な感想を漏らした。

「うわー……うぜー」

・書かないと宣言しつつなぜか書いてる焼津です、こんばんは。ネタ不足が憎い。あと後半ノリノリだった自分も憎い。

・イアン・ランキンの『滝』読了。

 昼間の飲酒は格別である。パブの中では時間が止まり、外界も存在しなくなる。パブにいる限り、死を忘れ、年を忘れる。黄昏の店内から日光の降り注ぐ外へよろめき出て、忙しげに午後の道路を行き交う人々を見たとき、まばゆい真実に気づく。よく考えれば、何百年も人間は同じことをしてきたのではないか。意識の底に空いた穴を酒で埋めてきたのだ。

 依然としてリーバスがつらつらとダメ人間的な思考を垂れ流しているシリーズの第12弾。原題 "The Falls" 。作中に「フォールズ」という地名が出てくるところから来てますが、かのホームズとモリアーティ教授の決闘地「ラインバッハの滝」を連想させるせいか「これがリーバス刑事シリーズのターニング・ポイントになるのでは」と推測する向きもあったみたいです。そこまで劇的な転換はありませんけれど、リーバスの心境が変容を迎える部分がいくつかあり、加えてやっぱりボリュームがたっぷりでなかなか読み終わらずしっかり楽しめる一冊になっています。

 銀行家の娘フィリッパが失踪した――姿を消さねばならない事情もなく、自発的なものというより、何かの事件に巻き込まれた可能性が高いと警察は睨む。直前に痴話喧嘩を繰り広げていた恋人のデイヴィッドへ容疑が集中するなか、フィリッパのパソコンを調べていたシボーンは、「クイズマスター」と名乗る人物が彼女にメールを送っていたという事実を掴んだ。失踪後なおも暗号文めいたメールを送ってくるクイズマスターとコンタクトを取ろうと策を凝らすシボーン。一方、リーバスはフィリッパの実家があるフォールズへ赴き、そこで発見されたという小さな棺――中に釘打ちされた人形が入っていた――を調査する。やがて彼は数年おきに各地で発生している失踪・変死事件が「小さな棺」を共通項にして結ばれていることに気づき、そこから連続殺人鬼の影を炙り出していくが……。

 アーサーズ・シートという丘で実際に発見された棺をモチーフにして書かれた長編。死体盗掘者(レザレクショニスト)や死体解剖者にまつわる伝承も物語に絡んできて、進めば進むほど失踪したフィリッパの安否に対する不安が募る。が、ランキン作品は非常にスローペースで悠長な語り口が特徴であり、100ページ経っても200ページ経っても事件に大した進展が見られない。300ページぐらいでようやく本格始動してくる有り様。作風に慣れてないと痺れを切らすこと請け合いです。

 そんなわけで、リーバス刑事シリーズをまだ一冊も読んでいないという方にはオススメしにくい作品。先にいくつか読んでから着手する方が良さげです。シリーズの肝である「警察内部に働く隠微な力関係」といった要素が今回はとても濃厚に描写されており、事件捜査の裏で刑事たちそれぞれの秘めた思惑が陰湿にぶつかり合って息苦しいほどの軋轢を生み出す様子は読み応え大。チームが一丸になって難解な事件を解き明かす、みたいな熱血刑事ドラマとはまた違った興趣が、寒々として煤けた印象のある街エジンバラに馴染む。死体を盗掘して解剖者に売り捌いていた男が絞首刑に遭うや今度は自分が切り捌かれる番になるなど、スコットランドのブラックな歴史が話に影を落として不穏さを漂わせるあたりも良い。反面、インターネットを介してクイズをするっつーネタの位置づけがちょっと中途半端というか、活かし切れていなくて浮いてしまっている感はありました。

 ストーリーに関してはちぃとダラダラしすぎな印象が拭えなかったですけれど、リーバス刑事シリーズを読んでいく過程でこれを外すことはできないな、と思わされる一冊でもあった。酒に溺れ、退職の時期が迫りながらも刑事を辞めた後のビジョンを持てないでいるリーバスが、虚しさに溺れることなく現実と対峙していこうとする、なけなしの強さに心打たれることしきり。リーバスたんはちょっと、いやかなりダメな子ではあるものの、ひどくいとおしげに感じられる刑事だ。

・拍手レス。

 ウケました。男子たるもの、臓器に萌えて一人前ですね。打倒ドクロちゃんを目指して連作化希望!
 ええ、なにせ脳内彼女ならぬ体内彼女ですからね。

 臓器の話読んだら手塚治虫の七色インコの話思い出した。
 確か臓器じゃなくて目、鼻、手、足、胸といったパーツが愛想つかして去っていくとか
 うろ覚えですいません。1,2,10巻のどれかだったと思いますがこれは自信ありません。

 下半身が上半身に叛逆するのはドラえもんだったかな。

 >魔女が心臓を隠す話。映画ドラえもんでは、魔王が心臓を隠してましたよね、確か。
 んー。すみません、該当する記憶がないです……

 主人公は右側にも心臓のある特異体質で、後から出てきた「右心臓」と修羅場る展開きぼんぬ
 なるほど、「これぞまさしくトゥーハート」というわけですね?


2006-10-29.

・これからDMCとか暴本とか未来日記とか読んで『遥かに仰ぎ、麗しの』の体験版やる予定な焼津です、こんばんは。

・イアン・ランキンの『蹲る骨』読了。

 リーバスだって若いころには無茶をした。ある女の子に捨てられたとき、その子の両親に電話して、彼女が妊娠していると告げたものだ。あきれたことに、セックスすらしていなかったのに。

 リーバス頭おかしいよリーバス。少年時代のどんなヤンチャ話を聞かせてくれるかと思ったら「わたしのおなかにはあの人の子供がいるんだから……!」の逆パターンかよ。「彼女のおなかにはぼくの子供がいるんだからな……!」って、虚偽だろうと仮に真実だろうと捨てゼリフとして締まらないにもほどがあるよ。そういった具合で爆笑せずにいられなかった本書はリーバス刑事シリーズの第11弾。原題は "Set in Darkness" 。相変わらず分厚くて500ページくらいあります。普通ポケミスの本っていったら200〜300ページが相場なのに。

 十七世紀後半に建てられ、その世紀末に増築された「クイーンズベリ・ハウス」の増築部分を取り壊し、新議会にまつわる建造物をつくるという計画――二年後の秋に完成予定で、現在は工事の真っ最中であるクイーンズベリ・ハウスへ、リーバスたちPPLC(議会関連保安委員会)の一行は見学に訪れた。楽しくもなんともない、できれば誰かに押し付けたいような義務的なツアー。かつて病院として使われていた建物を見て回ったリーバスたちは、地下室で思いも寄らぬものを発見する。塞がれた壁の向こうに埋められた死体。ミイラ化してはいたが、ローリング・ストーンズのTシャツを着ていたりと、どう見ても百年前やら二百年前やらの代物には思えなかった。更に現場の近くで議員に選出される可能性が濃厚だった有力立候補者が殺され、リーバスは二つの間に何らかの関連が存在するのだろうと睨む。一方、シボーンは四十万ポンド(約一億円)もの預金を口座に残したまま墜落死した奇妙な浮浪者の身元を割り出そうとしていて……。

 二十年ほど前のミイラ化した死体、殺害された議会選挙の有力立候補者、そして大金を抱えて謎の死を遂げた浮浪者。一見関係なさそうな三つの事件が絡み合い、徐々に一つの構図を描き出していくまでの過程を重厚な筆致で綴る警察小説。8作目から11作目と、かなり間を飛ばして読んだせいでシリーズの状況変化にいろいろと戸惑わされたが、独断専行の捜査で上司に嫌われるリーバスの性格は相変わらずなんで、割と安心して読めました。今回はリンフォード警部という、出世を約束されたキャリア組の坊やが登場。こいつがまた嫌な性格をしています。退職間際でアル中すれすれのリーバスを軽んじ、事あるごとに当てこすりを言い放つ。けど結構マヌケなところがあるので憎み切れないというか、皮肉屋中年のリーバスとの応酬が読んでいて楽しくさえある。やはり刑事モノは二人一組での掛け合いがなくっちゃ面白くない。

 舞台となるエジンバラの情景や登場人物の機微をねちねちと執拗な文体で描写して気温や体臭まで伝達してこようとする作風も、これが3作目ということもあってだいぶ慣れてかったるさを覚えなくなってきたというか、むしろハマってきました。刑事という職業柄過去を探り回る性質が切っても切り離せず、「過去に生きる」という感覚がどうにも抜けないリーバスの、時折ついつい追憶に耽ってしまう心理が雰囲気とマッチしてより深い没入を促してくれる。ゆっくり時間を掛けて進行するくせに結末がややあっさりしているのは拍子抜けだったけれど、安定した面白さが享受できる良作に仕上がっています。リーバス刑事のダメっぽい部分も含めて魅力を覚えるようになって参りましたよ。

・拍手レス。

 心臓たんかなりつぼったのでぜひ続きを(*´Д`)人
 ただ、難点は主人公が弱りかねない気が

 「あ、あの……肌を重ねれば一時的に機能を回復させることができますが……っ!」と頬を染めてエロゲー展開すれば無問題。

 臓器たんといっしょ!続きカモン!
 書きませんってばw

 この主人公、次から次へと内臓たん達に抜け出されていくんですか?
 抜け出されてはドッキング、を繰り返しオーガニック・ハーレム形成。

 お、お暇な時か拍手にでも続きをっ<臓器 狙いすぎがいっそすがすがしいです
 これ、書いてて臓物が頭をよぎりまくるのが難点なんですよね……

 心臓たんご馳走様です。次回期待しています!!!!11
 ハツってことで「ハッちゃん」とかにすりゃよかったかな。

 当然流れとしてはラブコメな展開になるのでしょうけど、、、全部相手が自分の臓器ってどんな変態さん?
 自分の臓器くらい労わって愛さなきゃ。まさしく内助の功ですし。

 やってくれたな焼津さん……お願いですから続編書いて下さい、切実に!! by九重
 ホントに反応が多くてビックリだなぁ、このネタ。

 心臓たんのたおやかぶりと、主人公のテンションの差に吹いたww
 二人の温度差というか、性格・反応がすごい対照的で(・∀・)イイ!!ですね!

 心臓たんは黒化でもしないとヒロイン勢に埋もれて目立たなくなりそう。他の臓器とイチャイチャするたび鼓動を停止させたりとか。

 続・臓器たん!→www5b.biglobe.ne.jp/~starlog/zoumotsu.txt
 これはまた労作を。そういえば魔女が自分の心臓を取り出してどこかに隠すって話を何かで読んだような。


2006-10-27.

 朝起きたら、心臓がなかった。
 ……えっとね、もっと具体的に言うとですね?
 こう、胸の筋肉とか胸郭がザベル=ザロックさんのようにガバーッと開いてて。
 首を攣るほど曲げてみても、肺や脊椎が見えるばかりで。
 本来ならドックンドックン二十四時間休まず不随意で動いてるはずの器官が、どこにもない。
 代わりに、なぜか傍らに見知らぬ女の子の姿があって。
 端然と正座の姿勢を取り、三つ指をついて深々と土下座……じゃなくてお辞儀をしているところだった。
 こっちが布団に寝転がっているので、ちょうど顔を覗き込まれる形になる。
 柔らかく整った顔立ちは純和風ながら、ぱっちりと大きな目のド真ん中(デッドセンター)に位置する瞳と、ふんわりウェーブを描いて輪郭を取り巻くセミロングの髪は――まるでアニメ配色のごとき桃色。
 ブロンドとか光の加減とかそういったものではない。
 染めてるとは思えないほど自然な、けれど……紛れもないドピンクだ。
「誰じゃ!?」
 脱獄した心臓のことでショック状態だった俺は勢い良く上体を起こすこともできず、寝たままの格好で桃瞳桃髪の謎少女を誰何する。
「はじめまして――」
 と、言ってる途中でクスッと笑いを噛み殺した。
「ごめんなさい、間違えました……正確には、この姿でははじめまして、ですね」
 三つ指と正座を解き、俺の胸に覆いかぶさってくる。
 淡紅の唇に手を添えているのは、空っぽの胸腔に息を吹き込まないようにとの配慮か?
「今朝方、ここ――」
 かつて俺の熱く滾るハートがあったポイントを指差す。
「――から出てまいりました、心臓と申します。故あって貴方と同じヒトの姿を取ることになりました。ふつつかな臓器ですが、どうぞ今後ともよろしくお願いします」
「はあ?」
 まったくもって意味不明。
「と。自己紹介はこの程度にしまして」
 身を引き戻し、ガサゴソと足元にある何かを探った。
「まずは――縫ってしまいませんとね?」
 言うなり彼女が手にしたのは、針と糸――今や家庭科の時間くらいしか女の子が手にしている場面を目撃する機会のない、いわゆる裁縫道具だった。
「えっ、ちょっ、きみ待っ――」
 制止しようにも、身動きするのが怖くて。
 朝っぱらから無麻酔の縫合手術を敢行され、俺は「アッー!」と泣き叫ぶハメになった。

 チクチクチクチクとすっげぇ痛い人体針仕事がどうにか終了し、涙目を拭いながら訊いた。
「んで。会うなり俺をブラックジャックみたいにしてくれた君はどこのどなた様ですかね?」
「ですから貴方の心臓ですってば……さっき言いましたでしょうに」
 頬を手で押さえ、はあ、と溜息。
 いや待て。なぜお前の方が溜息ついてんの? おかしくね?
 普通逆だろ、俺の方だろ。泣くぞコラ。
「もう、この程度の肉縫いで泣かないでくださいよ。あのですね、昔はですね、怪我した腕を放っておいて化膿するどころか腐ってしまい、刀でギコギコとノコギリみたいにして壊疽した部分を切り落とさなくちゃいけなかった……という方々もおられたらしいですけれど、泣き叫ぶどころか平然としていて、あまつさえ切り落とすのも自分でやった方さえいるそうですよ?」
「知るか!」
 叫ぶ。未だに消えない痛みが殊更に怒りを煽った。
 ――だというのに。
 頭にカッと血が昇ったり、鼓動が激しくなったりはしない。
 何せ心臓がないんだから。
「まあ、そうですね……『心臓』だけでは名前としての識別性が低いですから……」
 ぱああっ、とスマイルをシャイニング。
「――私のことはどうか、『心臓たん』とお呼びください!」

・妙に反響のあった「臓器たんといっしょ!」ネタを戯れに書いてみた焼津です、こんばんは。もちろん続きは書きません。

・漫画:松田未来、監修:藤森篤の『アンリミテッド・ウィングス(1〜2)』読んだー。

 疲れ気味で小説を読む体力がなく、代わりに手に取ってみたマンガ。全2巻で完結済。レシプロ機によるエア・レースものです。地上10m、時速800kmという気の狂ったような低高度&高速度で繰り広げられるドッグファイトは正にアンリミテッド。巻数が少ないせいか展開は駆け足で、ちょっと強引さや性急さを感じるところもあったし、「余命幾ばくもない美少女オーナー」など設定もややあざとかったけれど、スピード感溢れるレース描写と熱血色満載のセリフ群に呑まれてほとんど気にならなかったです。疲れてるときはこういう単純明快で迸るような熱さを持ったストーリーがグッと来る。一気に読み終えたとき、少し胸がドキドキしてましたよ。

「手前ェ俺がパイロットを辞めた時になんて言った!?」
「命を賭けるべき仕事を捨てる事を恥じろ……って言っただろうが!」
「この仕事は あんたが簡単に捨てられる程度のもんだったのかよ!」
「頼むぜ……俺はこのまま終われない……」

(そこまで攻めるのか? これが……この速さが“ストレガ”の本気かよ!!)
(抜けるもんなら抜いてみなよ テツヤ!)

 知ってるか イーグル・ドライバー
 リノの女神は残酷なのさ 速い者だけをひたすら愛で 遅い者には……
 決して微笑まない!!

 いい意味で暑苦しい。尺の関係でメカ関連の薀蓄やらレース関係の情報やらといった部分が切り詰められてコンパクトになっているのも却って読みやすかったです。作中に出てくる人物は結構実在の方々が混じっているそうで、もっと詳しく知りたい気分がムラムラと。エア・レースの歴史を紐解くノリの新作とか出してほしいなぁ。


2006-10-25.

・漫画:山口貴由、原作:南條範夫の『シグルイ(7)』を読んだ焼津です、こんばんは。

 「ぬるいぞ! しかとえぐれ!」って狂喜していた連中が海亀の産卵に感動されてもなあ……。

 とかそんなふうに回想が重なってストーリー自体はさほど進まず。藤木と伊良子の「因縁」が具体的にどのあたりで生じたかなど、外堀を埋めるが如き内容となっています。派手な殺陣はあまりない。いえ、まったくないわけでもありませんが。

 一回ザッと粗く読んでから再び頭に戻ってゆっくり読み返し、物語の背景を頭に染み渡らせていくのが美味しい頂き方かと。1巻の時点で梁まで跳躍して「脚力がある」ことを示した清玄に対し、今巻は源之助がチャイルド片手スイングを見せ付けることで「膂力がある」ことを示した。足と腕。真剣勝負でそれぞれが肉体の中で特に優れている箇所を互いに奪う形となることが、緩やかに匂わされています。8巻ではそろそろ御前試合まで話が及ぶでしょうか?

・イアン・ランキンの『黒と青』読了。

「おれは計算ずくで危険を冒していたんだ、ジャック」
「新しい計算機を買えよ」

 今やイギリスを代表する警察小説となりつつあるらしいジョン・リーバス刑事シリーズ第8弾。原題 "Black and Blue" 。由来はローリング・ストーンズのアルバムとのことですが、北海油田がストーリーの焦点となってくるので、石油の「黒」と海の「青」をイメージしたタイトルかなぁ、と勝手に思っていたり。現在リーバス刑事シリーズは15作目まで邦訳されていて、本書はちょうど真ん中に当たるわけですが、実はこれがランキンの長編作品としては初めて邦訳されたもの。最近になってようやく初期作の翻訳が始まったけれど、まだシリーズの3作目から6作目までが日本語では読めない状況です。

 “バイブル・ジョン”――1960年代にスコットランドを震撼させた連続絞殺魔。結局逮捕されぬまま、誰とも知れぬ「彼」が起こした事件は迷宮入りしたが、20年以上も経って同じ手口による強姦殺人事件が立て続けに発生した。目撃者の証言によれば犯人は20代の青年。もしそれが本当なら前回の事件のときには生まれているかいないかの年頃で、“バイブル・ジョン”とは別人……つまり模倣犯であると見做せる。マスコミが付けたあだ名は“ジョニー・バイブル”。果たして“バイブル・ジョン”と“ジョニー・バイブル”には何か繋がりがあるのか? 椅子に縛られたまま墜落死した男の事件を捜査する傍らで絞殺魔の謎を密かに追うリーバス警部。だが彼は「スペーヴン事件」と呼ばれる、殺人容疑で投獄された男が無罪を訴えて獄中死した冤罪疑惑事件と深く関っていた。バツイチで男やもめ、日々酒に溺れ、マスコミに周辺を嗅ぎ回られ、上司や同僚と衝突しては孤立化していく毎日。一匹狼の矜持とともに不屈を貫いて真相へ辿り着かんとするが……。

 ロック・ミュージックを好み、五十を過ぎてなお反骨精神が盛んな皮肉屋の中年刑事を主人公にした警察小説。複数の事件捜査が同時進行する、いわゆる「モジュール型」のストーリーです。現代に甦った絞殺魔の事件、背後にギャングの影が見え隠れする事件、そして主人公本人が疑惑の対象である事件。「すべての事件はある人物の陰謀だった!」とか、そこまで劇的な展開にはなりませんが、話が進んでいくにつれ事件同士の関係が少しずつさらけ出される構成となっております。状況設定を説明して盤面を整えるまでが前半部に当たり、そのため序盤は展開がややかったるい。主人公のリーバスも飲んだくれでやさぐれているし、最初のうちはあまり好感が持てなかった。北海の油田施設があらゆる事件の焦点である、と判明してきてからは一気に面白くなります。特に、とある事情からジャック・モートンというリーバスの昔のパートーナーがそばに付くようになってからは、打てば響く軽快な遣り取りが続いて楽しく読めた。やはり警察小説は一匹狼よりもコンビの方がテンポは良くなるかと。それに後半は、アメリカの警察小説みたいなド派手な銃撃戦こそなかったものの、五十歳越したリーバスが「年寄りの冷や水」と揶揄されそうな活躍ぶりを存分に見せてくれた。喝采を上げることしきり。

 そして、本作品における絶妙なスパイスとなっているのが“バイブル・ジョン”。あとがきによれば実在の事件らしいんですが……なんとこの絞殺魔、割合早い段階で視点人物として登場してきます。自分の起こした事件から25年くらい経って改心したのかどうか、それは不明ですが、“ジョニー・バイブル”という模倣犯がヤンチャして世間を賑わせていることを知り、「こりゃあ、ひとつヤキでも入れてやんなくちゃな」とばかりに犯人捜しを開始する。モンホンの絞殺魔による模倣犯追跡。まるで『ハサミ男』みたいな興趣が盛り込まれているわけで、もちろん読んでるこちらとしてもワクワクしないわけには参りません。リーバスと“バイブル・ジョン”、先に“ジョニー・バイブル”を見つけ出すのはどっちだ。

 皮肉屋と言っても決してニヒルな造型ではなく、大泣きしながら深夜の公園で友人と殴り合いを繰り広げる、人間臭いというかまだ青臭いところの残っているリーバス警部が個性的で好感度大。猪突猛進で自分勝手、規則を破ることを屁とも思わぬふてぶてしさ――しかし、断酒を決行しようと必死で煩悶しているあたりの描写を読むと、なかなか憎めない。全体の構成も細部の描写も巧みで、いかにもシリーズ中期らしい脂の乗り切った風情があります。つい先月に文庫版で上巻下巻が刊行されましたから、そちらの方が当方の読んだポケミス版よりもお求めやすし。今後はまだ翻訳の進んでない初期作を後回しにして、だいたい出揃っている中期作や最近作をターゲットに据えて読み漁ろうと思います。

・拍手レス。

 「臓器たんといっしょ!」の本編開始はいつですか?
 本編て。みなさん本当にゾウモツ好きですね……

 オススメ修羅場小説紹介ありがとうございます!これから存分に修羅場の海に溺れてまいります・・・
 あなたの行く先に嫉妬と修羅場の愉悦がありますように。


2006-10-23.

・今宵は真夜中に特別更新と洒落込む焼津です、こんばんは。待ちに待ったものが来ましたよ。

「血塗れ竜と食人姫」、完結。

 修羅場SSの話題を取り上げすぎてサイトがそれ一色に染まってしまうことを懸念し、なるべく言及を控えておりましたが……「嫉妬・三角関係・修羅場系総合SSスレ」のチェック自体はこまめに行ってました。この「血塗れ竜と食人姫」、傑作が勢揃いした修羅場SSの中でも特に好きな作品の一つで、今まで紹介したいとうずうずしながらも話が終了するまでじっと我慢の子を貫いていた次第。ストーリーは、囚人同士を殺し合わせる闘技場の絶対王者として君臨する「血塗れ竜」が、ライバル「食人姫」と出会う、ってなもの。一種の異世界バトルファンタジー。繰り広げられる血と肉と骨と恋と嫉妬と策謀の饗宴が、非常に読みやすいこなれた文体で綴られています。本編が約300KB、外伝が約80KB――SSとしては破格のボリュームながら、リーダビリティの高さでサラリと一気に目を通せる。

 「修羅場」というのは昨年の『School Days』によって「ヤンデレ」ともどもごく一部でブレイクした属性であり、SSスレの盛況さとは裏腹にまだまだマイナーで、恐らく今後も「ツンデレ」みたいに派手なブレイクをかますってことはないだろうと思います。けれど、いや、それゆえに、と言いますか……スレ住人の欲望は希釈されることがなくてドロドロと濃く、またそれを叶えようとするSSも特濃の出来。血塗れ竜も、「SSとしては破格のボリューム」というだけではなく、ちょっと瞠目するくらいのクオリティがあります。それでいてニッチな内容となれば、特殊嗜好持ちにとってはガード不能。既にタイトルからして万人にオススメとは行きませんが、乱れた恋愛模様、兇悪さを滲ませるヒロイン、うっかりすると板垣恵介の絵が脳裏に浮かんでくる勢いと緊迫感に溢れた戦闘描写、それでいて変に明るいエロス、どれを取っても「業の深い方々」には是非とも強烈にプッシュしておきたい要素ばかり。

 最終回はいきなりタイトルを変更するという試みに打って出たため、はじめは面食らいましたが、事情を飲み込むとすんなり馴染んできます。ネタバレしたくないので多くは語れませんが……ハッピーかアンハッピーかはさておき、納得の行く結末を迎えてくれました。読むにつれ万感の思いが胸をよぎる。リアルタイムで楽しんできた分、夏から秋にかけてワンシーズンに及んだ連載期間の諸々が脳裏に甦ります。新キャラが登場するたびワクワクしたこと、戦闘の行方にハラハラと手に汗握ったこと、外伝が本編と並行する形で投稿されて二重に面白くなったこと。ひたすら楽しかった。開幕から閉幕までの一部始終に立ち会えたことを素直に喜びたい。しかし、この完結を心待ちにしていたとはいえ、いざ終わってしまうと胸に一抹の寂寥感が……お気に入りのSSが完結しちゃうとなんとも複雑な気分に陥ります喃。作者さんの次回作があるならば、是非とも期待したい。

・さて、ついでだから修羅場SSの既投稿作品で個人的なオススメを紹介いたしたく。

 「血塗れ竜と食人姫」は↑で挙げたから省略するとして、あと3つほど。とはいえここのSSは良作だらけ、オススメを絞り込むのにはとても難儀します。たとえ「最高傑作はどれか」と訊かれたって答えられそうにありません。仮にスレ住人たちで談義を重ねたとしても、共通見解のトップを定めることなんて無理でしょう。頂点と底辺が決まったピラミッドではなく、それぞれの花が気ままに咲く野原なんですから。つった具合で、斯様にあれもこれもと捨てがたく、ついつい何作も選んでしまいそうになりますが……それだとキリがなくなるので、あくまで3つだけ。修羅場SSにはファンタジーや特殊設定の作品も豊富にあって多種多様だけど、以下の3つはすべて飛び道具なしの現代モノです。

 「優柔」(及び「優柔 previous」
 「妹(わたし)は実兄(あなた)を愛してる」
 「山本くんとお姉さん」(及び「山本くんとお姉さん2 〜教えてくれたモノ〜」「山本くんとお姉さん2.5 〜ちぃちゃんのアルバム〜」

 「優柔」はしっとりと淡白な告白小説調の文体で、読んでいて癖になります。話は単に優柔不断で別れた元カノと憧れている先輩の間で揺れ動く主人公のヘタレ青春軌道を描いていたもの……と思いきや、途中からガッと豹変。未だに「クズ野郎」関連の話題になったらこいつの名前が昇ってくる、それぐらいに度し難い最低最悪ぶりを見せつけます。うわー、あんたホンマに外道や、きっと真っ当な死に方しないよ? でも、だからこそ先が怖くてワクワクするぜー、といった寸法で楽しませてくれる。加えてヒロインの椿ちゃんが微ヤンデレで、「じゃあ、もう帰るから。学校で会っても話しかけてこないでね」と誤解の余地がないほどズバリとフラれたにも関らず、「きっとゆう君は、弾みで言ってしまったんだと思う。本当は別れる気なんて無いのに別れようって」と都合の良すぎる解釈で猶もまとわりついてくる執念深さに(*´Д`)ハァハァ。彼女の精神構造ってばマジ素敵。「椿ちゃん語録」がつくりたくなる。

あ、そうそう。私ね、ゆう君に1つだけ嘘ついてた。
浮気の1回や2回は許すって言ったけど、あれ嘘。そんなの許せるわけないじゃない。
例えばね、私が他の男に犯されてるところ、想像してみてよ。ね、正気じゃいられなくなるでしょ?
誰だか知らないけど、ゆう君の優しさに付け込んでゆう君をたぶらかして・・・

あ・・・今、私が抱いてる感情って・・・「殺意」って言うのかな?

 とか、この手の思考や言動がバンバン飛び出してきますよ。最高。「捨てないで、捨てないで」と可哀相なくらい健気さをアピールしておいて、腹の中では黒々とした感情を持て余す。そんな彼女と比べると泥棒猫役の先輩はややキャラが地味だけど、先輩も先輩で結構可愛らしい。しっかりしてそうでさっぱり弱いトコとか。「優柔 previous」は前日談、主人公と椿ちゃんが付き合っていた頃の話です。三人称文体で、本編とは少しテイストが異なりますね。こっちを先に読むというのもそれはそれでアリ。ただし途中で止まっていますから注意。あと、イラストもあるので読む前に眺めておくとイメージ形成の手助けになるかも。椿ちゃんの方、絵柄で分かる人は分かるかもしれませんが、描かれたのは「月道」の毒めぐさん。「月道」には数年間日参してるので修羅場スレに椿ちゃんラフ画が投下されたとき、見覚えありまくりなタッチにビックリしたものでした。現在サイトの方でも修羅場SS関連の話題がチラホラ出てますね。

 「妹(わたし)は実兄(あなた)を愛してる」は「わたあな」とか「妹兄」と略されることもある作品。『処女(おとめ)はお姉さま(ボク)に恋してる』を連想させるタイトルなれど内容的には関係なし。これは以前にも紹介しましたね。二部構成で第一部が実の兄妹がくっつくまで、第二部がくっついてからを記す。修羅場モノであると同時に近親相姦モノでもあります。文体はやたらとシャープかつソリッドで贅肉がなく、刃のように研ぎ澄まされており、惚れる人は強烈に惚れること請け合い。当方も熱烈に焦がれました。キャラクターも、「依存姫」と呼びたくなる実妹・楓の止め処ない依存ぶりがキモ可愛くて、心臓を鷲掴まれ。

「兄さんは朝起きたら顔を洗って髭を剃りますよね」
「ああ」
「夜寝る前にはお風呂に入ってトイレに行きますよね」
「ああ」
「それと同じように、わたしとセックスしてくれればいいんです」

 すげえ口振り。引用はしませんが、キモさ全開の長ゼリフも一つや二つあったり。キモウトここに極まれりですよ。対抗馬の樹里がクール系で、隙を見てトンビの如く掻っ攫っていく鮮やかさにも喝采しました。唯一惜しまれるのはオチが完璧にコメディとなっちゃったことで、うーん、せめて別エンドがあれば……それと卑語まみれの番外編とか、更なる続編とかも書かれるって話でしたが、そっちの方はどうなっているのやら。またいずれどこかで目にすることができればいいなぁ、とひとしきり願っています。で、このわたあなにもイラストがございますから照覧あれ。

 「山本くんとお姉さん」は作者の談によれば「流血に拘らない『シュラバティック家族性活「修羅場サザエさん」』」。これも前に紹介しましたけど、そのことは気にしない方向で。全五部構成の壮大なスケールが予定されており、無印の「山本くんとお姉さん」が第一部、「山本くんとお姉さん2 〜教えてくれたモノ〜」が第二部、「山本くんとお姉さん2.5 〜ちぃちゃんのアルバム〜」は第二部と第三部の幕間劇であり番外編に当たる。つまりシリーズとしてはまだ完結していません。しかしながら第二部の出来栄えが素晴らしく、コメディと修羅場の融合が高水準で達成されている様子は必見。

左手小指第二間接を切なげに甘噛みしながら、携帯をぽち、ぽち、ぽち、と。

――秋くんがイケナイんだからね? 秋くんがお姉ちゃんをさみしがらせるからだよ……。

『2006/05/20 15:49 From 亜由美 To 秋人 ――秋くん、そろそろ帰ってくる?――』
メール、送信。

――出しちゃった……。言っちゃった……。
――秋くんが、こんなはしたないお姉ちゃんにしたんだから……。
――秋くんはちゃんと責任取らないと……だめなんだよ……?

自分に浸って、長い睫毛を伏せる姉だ。

 原文ママ。「わたあな」の楓がキモウトならばこっちのお姉ちゃんはキモアネ。ジャンルがコメディとはいえ、そのキモさは到達者級のハイレベルにつき向かうところ敵なし。キモ姉の魅力もさることながら文章のノリが良く、小ネタも面白いのでついつい何度も読み返してしまう作品です。対キモ姉兵器と化した従妹の梓、可愛らしいけど腹黒なクラスメイトの藤原さんも抜かりなくちゃっかりちょっかいを掛けてくる。まことによござんす。また主人公の鈍感さ・空間読めなさ・勘違いっぷりは「お前それギャグで言ってるのか?」と疑う域に突入しているアレさ加減で、うまく火に油を注いでいます。楽しすぎますね。もちろん、第三部の開始を熱望する所存。「冬支度が始まる頃」とのことだから、もうそろそろだろうか。番外編の「山本くんとお姉さん2.5 〜ちぃちゃんのアルバム〜」が停止状態なので、そっちを再開してからになるでしょうが……本当に再開されるのかな? ちょっぴり湧いてくる不安を掻き消したい心境です。

 現在連載中のSSで言えば「疾走」がイイ感じ。始まって早々いきなりフラれた至理(いたり)先輩が、それでも主人公のことを諦め切れずに物の見事なヤンデレと化していく過程がスピード感のある筆致で刻まれています。イッツ・スリリング。最近は投稿ペースが遅くなってきているのが心配だけど、これもできれば完結まで読んで行きたい作品です。

 ちなみに。さすがに当方も全SSを完全網羅しているわけじゃありませぬ。なにぶん量が多いのでいくつか読むの後回しにしてるのが……特に最近投下されている分は「完結待ち」ってことでほとんど見送ってたり。かなり人気があるっぽい「とらとらシスター」も実は未読です(つい先日に完結したとのことだから、いずれ機を見て読み通すつもり)。偉そうにオススメなんぞ書いてしまいましたが、なのでせいぜい参考程度と受け取ってくださいませ。


2006-10-21.

・いつの間にか花田一三六の『野を馳せる風のごとく』が復刊していて、『八の弓、死鳥の矢』や『大陸の嵐』も続けて復刊予定と知って喜んでいる最中の焼津です、こんばんは。『野を馳せる風のごとく』と『八の弓、死鳥の矢』は既に持っているから『大陸の嵐』だけ買おう……と思ったけれど八の弓〜にはなんだか書き下ろし短編が付くみたいだし、「売れ行き次第で単行本未収録の短編集も出るそうで」「趣味の店・空想堂」より)とのことで、こりゃ重複覚悟で全冊買うっきゃないかな。

・ジェフリー・ディーヴァーの『獣たちの庭園』読了。

 1936年のベルリンを舞台にした歴史冒険小説。原題が "Garden of Beasts" なのでほぼ直訳。ベルリンのティーアガルテンという公園から来ている。下手すれば間抜けにも「動物園」って訳しかねない紙一重な危うさを持ったタイトルだ。それはともかくノンシリーズ作品だから他のディーヴァー作品とは繋がりがありません。独立した一冊となってます。

 ナチスの高官を暗殺せよ――海軍の罠に嵌まって捕らえられたニューヨークの殺し屋ポール・シューマンは、電気椅子へ送られる代わりに極秘指令を受ける羽目となった。1936年、身分を記者と偽ってアメリカの選手団に紛れ、オリンピックが開催されるベルリンへの潜入を果たしたポールは、現地の工作員と接触して具体的な暗殺計画を練ろうとする。一方、ポールの標的とされたラインハルト・エルンストは、総統ヒトラーにも黙って密かに「ヴァルタム研究」と呼称される軍事プロジェクトを水面下で進めていたが……。

 アメリカからやってきた殺し屋と、謎の研究を推進させるナチの高官。架空のキャラクターをメインに据えて物語を展開していきますが、ヒトラー、ゲーリング、ゲッベルス、ヒムラーといった実在の人物も登場し、虚実綯い交ぜの様相を見せます。暗殺計画を実行に移すまでが非常に長く、ポールがベルリンのクリポ(クリミナル・ポリツァイ=刑事警察)のヴィリ・コール警視に目をつけられて追い回されたりと、なかなか本筋に入っていきません。僅かな痕跡をもとに執念深く追ってくるコール警視のキャラクター造型はいかにもディーヴァーらしいけれど、話そのものは「これ本当にディーヴァー作品?」と首を傾げたくなるほど起伏に乏しい。今回はサスペンスじゃなくて歴史冒険小説だから、重厚さを出すためにあえてストーリーを平坦にしたのではないか、とまで邪推したくなる。ともあれ、クライマックスに差し掛かるまでは結構かったるかったです。「新境地」と言えば聞こえがいいかもしれませんが、ファン心理としては「らしくない」の一語。

 さて、ナチス政権化のドイツを舞台にしたミステリと言えばフィリップ・カーの『偽りの街』が連想されますが……あの頃のドイツって雰囲気が不穏すぎて単なる外国というよりも一種の異世界みたいな匂いを放っており、それが本作でも同様にとても興味をそそる要素となっております。ナチス、鉤十字、SA、SS、ゲシュタポ、ヒトラー・ユーゲント……口にするだけで怪しげな響きを漂わせる単語の群れが、「信頼、それこそが何よりも今のベルリンにおいて得がたいもの」という希望のか細さ、翻って強い疑心暗鬼の念を生々しく増幅させる役を充分に担っている。にしてもドイツ語って、字や音がコチャコチャと物々しくてややこしい印象が強いですね。何度見ても目に慣れなくて、「えーと、オ・ル・ド・ヌ・ン・グ・ス……」と一語一語確認しなきゃ後で「オルドルングス」とか間違えそうになったりしました。

 しかし、異邦人にして暗殺者という苦境の立場に置かれたポールがなお冷静に任務を遂行しようと示す理知的でタフな言動に深々と陰影が刻まれて暗い彩りが添えられるのも、こうした背景があってこそ。殺しをやり遂げるために余分な感情を削ぎ落としていく過程を「氷にふれる」と表現し、無感覚に徹しようとしながらどこか非情になりきねない殺し屋。掻き立てられる郷愁と恋慕。彼の不安定さと、歪みを抱え込んだ第三帝国とが対比される形となったラストには息を呑んだ。

 長大さの割には骨太感が薄くちょっと残念な印象もあるにせよ、フィクションというケーキナイフで歴史に切り込みを入れてその断面を晒そうとする試みにはロマンを覚えましたし、作者のチャレンジ精神は買いたいところ。後半で一気に読ませてくれるので、前半さえ凌げばどうとでもなる一冊。その前半にしても少々かったるいだけでさしてややこしくありませんから、時代設定に関心を惹かれた方にはオススメしたい。個人的に気に入ったのはコール一家のところ。この家族にもっとスポットを当ててもらいたかったです。

・拍手レス。

 「臓器たんといっしょ!」で膀胱たんはどんなキャラなんでぃすか?
 ☆画野朗とトノイケダイスケがコンビを組むこと確実な子。

 「瀬をはやみ」 あのしょーもない宣伝のためにあんな長々とした漫画を描いたのか……阿呆過ぎて最高です。
 そのしょーもなさに痺れる呆れるゥ。

 「イニュージョニスト」が「イイ乳女ニスト」と変換され、一瞬で打ち消す俺がいる
 つまるところ地球の乳力に魂を縛られるとはこのようなもの……それはともかく直しておきました。


2006-10-19.

・『水滸伝』の象徴である108という数字を逆に書くと801になる事実に今更気づいた焼津です、こんばんは。

瀬をはやみ

 あまりにも強引な展開に笑った。

・ジェフリー・ディーヴァーの『魔術師』読了。

 リンカーン・ライム・シリーズ第5弾。タイトルは「イリュージョニスト」と読ませる。原題 "The Vanished Man" 、「消された男」という意味です。なんというか、今回は原点復帰といった気配が濃厚に漂っておりますよ。前作や前々作みたいにアメリカ南部へ行ってみたり中国の蛇頭が絡んできたりと話の目先を変えてみるのではなく、シリーズ出発点である『ボーン・コレクター』にまで立ち返って「科学捜査官と狡猾な犯罪者との対決」をガチで描き切っております。ただまあ、本作でライムの敵として登場する“魔術師”は犯罪者というより、「怪人」ですな。江戸川乱歩の中期以降の作品において跳梁跋扈する人外スレスレの連中、正にそのノリ。というか乱歩にも『魔術師』って奴があったっけ。そっちはまだ読んでないので比較できませんけれど、知っている範囲で言えばやはりかの怪人二十面相を連想せずにはいられない造型で、読んでいてワクワクさせられることしきり。

 さあ、我が敬愛なる紳士淑女の皆さま、これからとびっきりのイリュージョンをお見せしましょう――“魔術師”は内心で虚空に向かって嘯く。彼以外の誰にも存在を察知することの出来ない「紳士淑女の皆さま」こそが、彼にとっての最大の観客なのだ。彼は幽霊の出る噂が絶えない寂れた音楽学校で女生徒を縛り上げて絞殺した。死にゆく様子を傍らに屈み込んで観察していたところ、パトロール中だった巡査二名が現場に駆けつけ、銃口を向けてきた。「そこのあなた、動かないで!」 従う道理はなく、閃光でふたりの目を眩ませた後、密室に逃げ込んで――そのまま消え失せた。なおも続けられる犯行。現場に残された証拠やその手口から「犯人はマジックを訓練を受けた経験があるに違いない」と睨んだリンカーン・ライムたちは、捜査の顧問として民間のマジシャンを抜擢する。カーラというステージ・ネームを持ったイリュージョニスト見習いの女性。「マジック」と「イリュージョン」の違いを始めとして、奇術に関する知識を提供することで捜査をサポートするカーラだったが、“魔術師”の凶行を止めることはできなかった。直前まで警官たちの手が伸びても、するりと掻い潜って逃げ延びてしまう。変幻自在にして神出鬼没、繰り返される残酷な殺人ショー。科学捜査がもたらす叡智は稀代のシリアル・キラーが仕組んだ数々の罠を食い破り、その正体までも突き止めんとするが……。

 メッチャ面白かった。感想をその一言で終わらせてもいいくらいです。とにかく一瞬でも油断すればその隙をついて逃げ出しちゃうし、追いかけても巧みな早変わりと変装術で別人に化けて人ごみに紛れちゃって「いったいどいつが“魔術師”なんだ……?」状態に陥るし、よしんば逮捕したところで、掛けられた手錠もあっさり外して脱出する。スペックがバリ高。手に負えませんよ、こいつ。施錠された部屋にもピッキングで侵入してくるし、逃走モードから狩猟モードに切り替わったらそれはそれで危険極まりない。ルパンや二十面相がサイコなシリアル・キラーと化したらここまで厄介な存在になるという実証みたいなキャラクター。犯罪界のミスター・アンチェインといった塩梅です。

 「騙す」「欺く」が手段というよりもはや行動原理の根幹をなしているような怪人さんなんで、「おいおい、それはやりすぎだろ」みたいな裏の読み合いすらも不自然に映らず、ひたすらにライムと“魔術師”の頭脳戦に集中できるお膳立てが整っているのもグッド。「探偵がこう推理すると思ったので偽の証拠を置いて真相をミス・リーディングした」「ということを犯人が目論むことは分かり切っていたので、わざと偽の証拠に引っ掛かったふりをして真の真相をこっそり探った」「と深読みするのは間違いないから『真の真相』なんていうデタラメをつくって真の『真の真相』から目を逸らさせた」「と犯人が罠を張ることを予測して……」みたいな遣り取りが無限に可能ってことは『デスノート』あたりを読めばなんとなく悟れますけれど……この手の疑心暗鬼が織り成す無限退行的推理合戦の欠点は、やればやるほどアホっぽくなってくることです。しかし、本作は別にそれで構わない。“魔術師”はイリュージョニストであり、タネを見破るために虎視眈々と目を凝らす意地悪な観客を、二重三重、十重二十重の策謀で以って翻弄することを至上の目的としている。“魔術師”による連続殺人事件を、単なる表面上の見立てとしてではなく本質的な部分から心底「イリュージョン」として読み換えるコンセプトこそが、本作に仕掛けられた最大のトリックなんです。とか言うとなんか偉そうなことを書きたかっただけの感想に見えちゃいますけれど、これは掛け値なしに本当。「ドンデン返しのディーヴァー」と言われる作者ゆえに可能な離れ技でしょう。

 くどいほど連打される「意外な真相」。それをただ「くどい」として終わらせるのではなく、読者の心理をギュッと掴んで常にドキドキハラハラさせる幻惑に満ちたストーリーにまで昇華してくれた逸品。まこと、御美事にございます。好みは分かれるところでしょうが、これをライムシリーズの最高傑作として推す人がいても不思議じゃない。少なくとも“魔術師”のキャラクターはこれまでで一、二を争うほど強烈な存在感がありました。「怪人 対 名探偵」ってシチュエーションが好きで、怪人が手強ければ手強いほどたまらない、っつー人間には垂涎の的。ちなみに『悪魔の涙』のキンケイドが声だけチョイ役で出演しましたが、これはキンケイドものの続編を書く気がありますよというサインなのか。


2006-10-17.

・あー、嫉妬深くて執念深いヒロインがリンカーム・ライムばりの鑑識捜査で泥棒猫の足取りや身元を割り出して追い詰める本格修羅場小説が出ないかなー。もちろん泥棒猫も泥棒猫で狡知極まりなく、罠を張り巡らせてヒロインと虚々実々の駆け引きを繰り広げるの。と程度の低い欲望を剥き出しにしてみる焼津です、こんばんは。

脳内彼女

 遂にこんなブランド名が……。

 ちなみに当方の嫁はいま江利子ほのかののの三股状態ですが何か。

・ジェフリー・ディーヴァーの『石の猿』読了。

 リンカーン・ライム・シリーズ第4弾。タイトルは作中に石鹸石でつくられた猿の置物が出てくることから来ているけれど、この猿、何なのかと思えば孫悟空。というわけで今回は「中国」がテーマとなっております。敵は蛇頭。保護対象は不法移民。果たしてライムは大西洋を渡ってやってきた凶悪犯を首尾良く捕まえることができるのか。

 鬼(グイ)――中国語で幽霊(ゴースト)を意味する異名を持った冷酷非情な蛇頭クワン・アン。彼は中国からロシア経由でアメリカ・ニューヨークへ向かう密航船に乗り込んでいた。折りしも嵐。予定通りに進んでいた航海は、到着間際で沿岸警備隊の監視船に補足されたことで窮地に追い詰められる。しかしゴーストはためらうことなく、乗っていた船を爆破。数多くの密航者を船ごと沈め、更には救命ボートで逃げ出そうとした者たちまで次々と射殺していった。素早く現場に移民帰化局やFBI、郡警の面々が到着したことで殺戮劇は一旦休止となったが、なおも彼は諦めることなく銃を片手に駆け回り、密航者たちを狩る。生存者は残り十名ほどになった。これ以上、ゴーストの好きにさせるわけにはいかない。合同捜査本部と化した自宅で鑑識と陣頭指揮を行うリンカーン・ライムは、チャイナタウンのどこかに逃げ込んだ密航者たち、同じくふっつりと姿を消したゴースト、その両方を見つけ出そうと苦心するが……。

 守るべき人間たちがどこにいるかも分からず、捕まえるべき男の所在も不明。ニューヨークという「自分の庭」が範囲であるにも関らず難航する捜査に、ライムは焦りを募らせる。するとそこに思わぬ協力者が……といった感じで進行していきます。ライムたちニューヨーカーの視点、逃げ回る一方で標的を追い求めるゴーストの視点、息を潜めてゴーストも官憲もやり過ごそうとする密航者たちの視点、大きく分けて三つの陣営の視点から紡がれる物語はいつも通りにサスペンスいっぱい。派手な銃撃戦やバイオレンス、そして毎度恒例の「サックス、そこまでやるか!」的体当たりド根性鑑識もあり。この調子で行けばいずれ周回軌道上の宇宙ステーションで無重力鑑識とかするんじゃないだろうか。とにかく過剰なほど見所たっぷり。ホント、ボンコレ以降の作品が映画化されていないのが不思議でしょうがありません。

 密航してきた中国人たちがメインということで話にもいろいろと中国の文化や思想といったオリエンタル要素が絡んできます。そのへんの調理がちょいと薄味な匙加減で物足りなかったりしましたが、チャイニーズのメンタリティをさっぱり理解しないライムが徐々に感化されていく過程は面白く、また印象深かった。ただし今回の悪役を務める「ゴースト」は、これまでのライムシリーズひいてはディーヴァー作品に登場してきた様々な敵に比べるとややショボい気がする。力の根底としてあるものが関係(グワンシー)――つまりコネクションであって、本人の悪知恵や戦闘能力はそれほどでもない。一種の群像劇と受け取って事態の混迷ぶりを楽しむ分にはともかく、「科学捜査官 VS. 犯罪者」って対決構図を堪能する分には今回チト不完全燃焼でした。

 とはいえやっぱりクライマックスでは「おお!」と膝を打つ展開が待ち受けているし、シリーズの勢いはそんなに衰えていないと思います。ライムが自分の障害に対する意識を変容させていく転換点でもあり、立て続けに読んできた身としては感慨を覚える。まだまだライムシリーズの既刊作品は残っておりますので、明日以降も依然として読み続けていく所存。


2006-10-15.

・ノーパソという表記が出てくると文脈次第で「ノーパンの隠語ではないか」と疑って掛かる心の貧しい焼津です、こんばんは。「ノーパソ抱えて電車に乗る」を「ノーパンで電車に乗る」とか。これが流行りのエロゲー脳ですか。

・青木幸子の『ZOOKEEPER(1)』読んだー。

 新聞に載っていた書評が気になり、即日で買ってみたマンガ。「ZOO」というだけあって動物園が舞台。主人公の飼育員・楠野香也は温度を揺らめくオーラなようなものとして視認する能力を持っていて、普段は赤外線遮断(サーモシールド)の眼鏡を魔眼殺しとして掛けているけれど、ここぞというときに外して「眼」の力を活かし、動物園勤務に励む。この手の地味系異能モノって今の流行りなのかしら。『もやしもん』とか。こーゆーインフレ化とは無縁な、「ささやか能力者物語」が好きな人間としてはありがたい風潮だ。体温変化で相手の感情を読む場面もあり、『パラサイトムーン』の心弥を思い出した。

 「人間の都合で動物を飼い、それを見世物にする」――題材が「動物園」である以上そうした「生命とは何か」みたいなテーマを盛り込む流れには逆らえず、動物薀蓄や飼育薀蓄とも重なって結構ネーム量が多い。地味系とはいえ異能モノだからもっと娯楽要素の強い話になるかと思ったのに、そうでもなかった。最初に来るチンパンジーのエピソードの時点ではまだ慣れないせいもあって少し退屈したものの、次のコアラのエピソードあたりから徐々に面白さが見えてきた。噛めば噛むほど、なスメルっぽい作品ですね。

 園長の熊田がちょっと曲者で、ときたま悪役めいた顔をすることもあり、まだ現時点では主人公の味方ですけど今後の展開次第によっては立ち塞がる壁となりかねないムード。とはいえ一つ一つの動物にフォーカスしていく、基本的に読切型のストーリー(三ヶ月ごとに飼育担当がローテするって設定はそのためか?)みたいだから「本筋」が出来てくるのかどうか、それ自体がよく分からない。しばらくは1巻のノリが続くことになりそう。

 同じ地味系異能モノでも遊び心が豊富な(むしろ豊富すぎる)『もやしもん』に比べて真面目というか、ちょい華に欠ける内容ではありますが、読んだ後でじわじわ利いてくる緩めの魅力あり。続きが読みたい。

・ジェフリー・ディーヴァーの『エンプティー・チェア』読了。

 まだまだ続けますよディーヴァー月間。リンカーン・ライム・シリーズ第3弾。前作までは文庫化済みですが、こっから先はハードカバーです。本来の予定では文庫化するまで待つつもりでしたけれど、いつまで経っても文庫落ちする気配を見せないので、とうとう痺れを切らしてしまった次第。11月に文庫化するって情報が入りましたけど、遅かった……さて、それはともかくとして、今回の舞台はアメリカ南部ノースカロライナ州。果たして湿気と灼熱で茹だってしょうがない『ボトムズ』的な田舎町でリンカーン・ライムとアメリア・サックスは科学捜査のメスを満足に振るうことができるのやら。

 ノースカロライナ州、パケノーク郡――聞き慣れない奇妙な響きを持つ地名。そこでは一つの事件が進行していた。少年がシャベルによって殴殺され、現場に居合わせた少女が連れ去られて行方不明となっていた。犯人と目されたのはギャレット・ハンロン、十六歳。日頃から頻繁に問題行動を起こすことで町民に嫌われており、過去幾人もの人間を陰湿な手段で死に追いやった疑惑のある少年だった。評判の名医による手術を受けるため遥々ニューヨークからノースカロライナに訪れたリンカーン・ライムは、「コフィン・ダンサー」事件で知り合った刑事ローランド・ベルのいとこに依頼され、ギャレットの足取りを掴む捜査に加わることとなる。攫われた少女が今も生存している見込みは薄い。しかしギャレットは数時間前にも別の女性を誘拐している。このままでは被害者が増える一方になりかねない。かくしてライムは「手術を受けるまでの間だけ」という条件で協力することを決意したが……。

 さすがにニューヨークの話ばかりを書いていたらマンネリ化してしまう、と危惧したのか心機一転して南部のジメジメとした空気を吸いながらの科学捜査行となっております。終始ドキドキハラハラとサスペンスフル極まりない展開の連続って点ではこれまでと一緒です。ただし、最新の設備や優れた技術者といった機材・人材の恵まれた環境下にあった前二作に対し、今回は機材も人員も寄せ集め。スタートラインに立った瞬間は非常に心許ない。言わば「訳有りで転校した天才球児が成り行きから落ちこぼれの野球部に所属してしまった」状態。ほとんどのメンバーが初対面の人間ばかりで、気難しい性格のライムに好感を抱いておらず、早くも難航しそうな雰囲気がぷんぷんと漂い出す。それでもなんとかライム流の冴えた観察眼と推理を発揮することで「すっげー、やるじゃんこいつ」と見直し始めた周囲をまとめ上げて引っ張っていき、徐々に連帯感を高めていく展開は正にスポ根さながらで「ベタだけど、なかなか熱い」って思わせてくれる。

 もちろん、「さくっと犯人の少年を捕まえましたー、被害者の女性たちも無事発見しましたー、めでたしめでたし」と単純に推移しないのがディーヴァー作品というもの。一筋縄ではいきません。「昆虫少年」と呼ばれるギャレットは簡単に捕まったりしないし、よしんば追い詰めたところで「終わり」には程遠い。むしろ、「これで事件解決だろ」と気を緩ませたところからが本番。実に面白い展開が待ち構えてますが、ネタバレなので伏せるとします。なんというか、ディーヴァーは「○○ VS. ××」みたいな対決構図を引くセンスに関しては卓越していますね。読んでいて一向に飽きなかった。

 最後の最後で迎える結末は「正直ちょっとどうかなー?」と首を傾げたものの、シリーズ人気に胡坐をかいて安易にマンネリめいたものを仕上げているわけじゃなく、新たな試みを打ち出そうとする意欲が濃厚に嗅ぎ取れる点では賞賛したい。良くも悪くも作品ごとに評価が割れると言いますか、個人差が出やすいシリーズではないかと。ライムとサックスの関係も本格的に進展してきて、いろんな意味で続きが楽しみです。ちなみに今回出たキャラでは一撃棒を振り回すチョイと天然気味なあの子が気に入りましたよ。

・拍手レス。

 デリケートで傷つきやすい「胃たん」は萌えると思う
 しかしアルコールは胃で吸収されるため、恐らく酒乱。

 「臓物たんといっしょ!」>あなたのその才能とセンスに嫉妬すらおぼえますた。
 いやこんなアホネタで嫉妬されても。

 「臓器たんといっしょ!」これは流行る
 アニメ化したら内容が健康番組になりそう。


2006-10-13.

・臓物を擬人化した「臓器たんといっしょ!」みたいなタイトルの腐れネタを妄想。甲斐甲斐しくて頑張り屋でピンク髪の心臓たん、艶やかな黒髪を持った双子の腎臓たん姉妹、いつもは取り澄ましているがアルコールが入るとアセトアルデヒド級の毒舌を撒き散らして乱れる肝臓たん、地味ながら癒し系の雰囲気を放つ膵臓たん、存在や必要性が薄くて「どーせ、どーせわたしは要らない子ですよぅ……」と部屋の片隅でいじけている脾臓たんetc。考えているうちにだんだん気持ち悪くなってきたので途中でネタを廃棄した焼津です、こんばんは。隠しキャラは三焦姉妹とか。類似企画として骨やら筋肉やら人体ネタでいくつも出せることは出せるけれど、やっぱり臓物がいっちゃんインパクトあると思います。

・支倉凍砂の『狼と香辛料3』作中において記述ミスが発覚。確かにあの箇所は記憶にないことを書かれていて「あれ?」とは思いましたが、盛り上がっているシーンだったので大して気にせずスルーしてしまいました。重版が掛かるという話なので、本屋に二版が出てたら該当箇所をチェックしてみようかな。

・ジェフリー・ディーヴァーの『静寂の叫び(上・下)』読了。

 割かし初期のノンシリーズ作品。原題は "A Maiden's Grave" 、直訳すれば「乙女の墓」。ヒロインが「アメイジング・グレイス」を「ア・メイデンズ・グレイヴ」と聞き違えたエピソードから来ています。初期作とはいえ氏を代表するレベルの長編サスペンスであり、これが素地となって翌年の『ボーン・コレクター』のブレイクへ繋がった……というのもあながち穿った意見ではないはず。

 三人の脱獄囚がスクールバスをジャックし、パトカーの追跡を振り切って廃工場に逃げ込んだ――カンザス州クロウ・リッジで発生した籠城事件の概要はそんなところだった。人質は十名。うち二名が教師で、残りの八名は十代かあるいは十にも満たぬ少女たちばかり。犯人の中にはレイプの累犯者も混ざっており、時間の経過とともに状況が悪化していくだろうことは目に見えていた。FBIの危機管理チームで交渉役を担当するアーサー・ポターは現地で包囲陣の指揮を取り、なるべく被害を最小限に留めて事件を収束させようと努めていた。交渉役は決して焦ってはならない。無駄に高圧的なのはいけないが、かと言って下手に出るばかりでも相手を付け上がらせることになる。冷静に、毅然とした態度で臨むポター。彼はあくまで事件の収束、すなわち「なるべく穏便な形で迎える籠城犯たちの死ないし逮捕」が目的であり、犠牲者数は「出さないもの」ではなく「抑えるもの」に過ぎなかった。やがて交渉に応じた犯人たちは人質の中から一人の少女を解放したが、ポターは嫌な予感を覚える……。

 今は使われなくなって久しい食肉加工施設。ただでさえ不気味な設備に溢れている場所がだんだん暗くなって一層不気味さを増していくなかで籠城犯との交渉を続け、どうにかして互いの間に信頼関係を築き、口説き落としていこうとする一部始終を綴ったノンストップ・サスペンス。アメリカは占拠事件や籠城事件が起こった際、人質の生命を絶対に守り抜こうとするのではなく「許容できる死傷者数」を見積もって作戦を立てるとかいう話を子供の頃に聞かされたのか未だに強く印象に残っておりますが、本作は正にそれを地で行くノリ。極端な話、犯人たちを取り逃してまたどこかで凶悪犯罪を起こされるくらいなら、いっそ人質全員を犠牲にして確実に仕留める方がいい――といった態度で交渉に臨む主人公の姿は「人命第一」を暗黙の了解とする日本のネゴシエーティングものに慣れていると酷薄すぎるというか、ちょっとカルチャーショックです。しかし、頻繁に殺害や強姦の実行をほのめかす籠城犯を相手に理性を保って話し合いを続けるにはそうしたリスク・マネージメントを冷徹に行う思考様式がなければやってられない面があることを息詰まる描写でもって痛切に感じさせてくれる。当方が一番感情移入したキャラはストーリーの途中で「この仕事からおろさせてください」と嘆願する刑事。並程度の神経しか持ち合わせていない人間なら思わず音を上げたくなる現場です。

 と、人質交渉がこの作品の目玉なわけですが、読みどころはそればかりじゃありません。普通、籠城犯と言えば切羽詰っていてヤケクソで何を仕出かすか分からない危険な犯罪者ってイメージです。些細なことで動揺し、ネゴシエーターの言葉に耳を貸さなくなってしまう展開などで読者をハラハラさせるのが通例。しかし、なぜか本作の籠城犯、とりわけ主犯格に当たるルー・ハンディは非常に落ち着き払っていて、少しも追い詰められた風情がない。完全に包囲されていて逃げ場のない立地であるにもかかわらず余裕綽々。そもそも、なぜ人質を取って廃工場に立て篭もったのかもよく分からない。脱獄して官憲に追われる身ならば、ジャックしたスクールバスに乗ってもう少しマシなところを目指せばいいのに……そう考えて首を捻ってしまうような得体の知れなさが常時漂っており、二重三重に不安定なムードを作り出しています。冷静さを欠いた凶悪犯も怖いけれど、冷静すぎて何を考えてるのかよく分からない凶悪犯はもっと怖い。

 文庫本で2冊に分けるほどの分量を有しながらも、気づけばあっという間に読み終わってしまった一作。ネゴシエーティング(交渉)ものが好きだから、多少胃が痛くなりつつもたっぷり堪能することができました。邦題が「静寂の叫び」と、一見矛盾してるようなタイトルになっているのは、ある設定に絡んでのことですが……それについては伏せておきます。興味を持たれた方はできるだけあらすじ紹介に目を通さず読み始めてくださいませ。ある意味でそれが本作最大の読みどころです。


2006-10-11.

・「ちょっと外の空気吸ってきます」と言うつもりが咄嗟に「ちょっと娑婆の空気吸ってきます」と口走ってしまった焼津です、こんばんは。セーフ? ギリセーフ?

・支倉凍砂の『狼と香辛料3』読了。

 行商人ロレンスと狼神少女ホロの旅を描くファンタジー第3弾。書店で最後の一冊を辛くもゲットしました。「ヒロインの可愛さが異常」ということで話題になっているシリーズですが、当方はむしろロレンスとホロ揃っての掛け合いというかじゃれ合いという睦み合いというか、「あーもうさっきからずっとイチャイチャイチャイチャと! いくらなんでも仲良くしすぎなんだよお前らは!」とムズ痒くなるような会話をひっきりなしに交わしてくれやがるのがホントたまらんです。とにかくこちらの相好を崩してやまぬ。

「むう。ぬしが動揺せぬと、わっちがぬしの気を引いておるみたいじゃないかや」
「それは恐悦至極だな。恐悦しすぎてあとが怖い」

 老獪なホロと生意気で口の減らないロレンス。たまにどっちがヒロインなのか判別に迷うこともあるにせよ、こいつらはライトノベル史上に名を残すこと間違いなしのバカップルでしょう。抱き合ったりキスしたりというのはあまりないんで、プラトニック・バカップル。

 さて、話の方は言えば、前回の苦い失敗を糧に自省しちょっぴり成長した気配がないでもないロレンス君が、見た目は少女だけど正体は大狼の化身なホロと一緒に北寄りの町クメルスンへやってくる。折りしもこの町では大市と祭のおかげで地元住民のみならず観光客や行商人を交えて賑わう頃合。大勝負をかますのは懲り懲りだからと手堅い取引を早々に済ませ、祭をホロとともに過ごすことや、旅の目的地であるヨイツの場所を特定することに心を傾けていたロレンス。しかし、新進気鋭の魚商人アマーティがあろうことかホロに惚れてしまい、「彼女の借金の肩代わりを条件に求婚する」という内容の契約書をロレンスに突きつけてきた。なにトンチキなことヌカシやがるんだこのガキは、と思いつつ、払えるはずのない金額を見てあっさり契約書にサインしてしまったのが運の尽き、アマーティには何やら特別な金策があるようだった……。

 という具合。要約すれば「勘違い坊やの横恋慕が原因で揺れ動くプラトニック・バカップルの関係」であり、なんか今回はほとんどラブコメに近かった。シリーズ3作目ということもあって既にふたりの絆は固まってきていますが、だからと言ってその絆に胡坐をかいてワンサイド・ゲームに入っても面白いわけはなく、この手のお約束として急にロレンスとホロの心がすれ違い、実にもどかしくハラハラさせる展開を迎えます。ヒロインの可愛さのせいでたまに忘れそうになる本シリーズの特色、「主人公が行商人であることを活かして組み込まれた経済要素」も健在ながら、やっぱり今回はラブロマ臭が濃厚。ただ面白いことには変わりはありません。「ロレンスにとってのホロ」を真正面から見詰め直す内容であり、読み応えがしっかりの熱いストーリーに仕上がっています。しかし、これ以上絆を深めてどーすんだよお前らは、と今後が少し空恐ろしくもある。次巻からはもはや明らかに昔日のプラバカップルではなさそうだぜ……。

 いやホント、このシリーズの勢いは衰えることを知らない。ますます好きになって参りました。

 珍しいところでは旅の研ぎ師などもいて、地面に剣を目印代わりに突き立てた横で、研ぎ台の上に頬杖をついて暇そうに欠伸などしていた。

 とか、別段本編との関係がない部分の描写でもありありと情景が浮かび上がってくるし、主人公やヒロインのみならず作品の雰囲気全体がえれー速度で好みのツボに直撃してきます。4巻は来年以降になりますが、是非とも心待ちにしていたい。


2006-10-09.

・最近悪夢を見ない焼津です、こんばんは。精神が安定してるのか逆に不安定なのかよく分からないけれど、目覚めが良くて結構結構。

・ジェフリー・ディーヴァーの『悪魔の涙』読了。

 これはリンカーン・ライム・シリーズではないです。文書検査士パーカー・キンケイドが主人公。シリーズ化しているのかどうかは不明。少なくとも邦訳では続編とか出ておりません。事件の舞台となるのはアメリカの首都たるワシントンDC。同じ東部とはいえ、ライムの住むニューヨークから数百キロは離れています。なので、ライムは声だけゲスト出演。ワンシーンだけチラッと出番が。

 大晦日で賑わう朝のワシントン――地下鉄駅のエスカレーターで乱射事件が発生し、六十名もの死傷者を出す結果となった。その直後、ワシントン市長ジェラルド・ケネディのもとに一通の脅迫状が届けられる。「解き放たれた<ディガー>は止められない。やつは殺しをくりかえす――四時と、8時と真夜中に。あんたが金を出さないかぎり」 無差別的な殺戮によって市民全員を人質とする未曾有の凶悪犯罪。身代金の要求額は二千万ドル。ケネディは苦渋の末、二千万ドルの支払いを決断した。しかし、身代金の引き渡し場所に犯人は現れなかった。やがてFBIは恐るべき事実を知る。脅迫状を出した身元未詳の男は、信号を無視したトラックに轢かれてとうに死亡していた。「おれを殺したら、やつは殺しをつづける」……脅迫状にあった一節は、どんなに不慮の事故であろうと、黒幕が死んでしまったときは殺戮の実行犯<ディガー>を停止させられなくなることをも意味している。もはやネゴシエーションを諦め、<ディガー>の正体と居場所を突き止めて凶行を未然に防ぐしか術はない。そう判断した捜査官たちは、かつてFBIに在籍していた文書検査士――疑問文書の筆跡や文法、果ては紙の材質やインクまで検査して、書き手の由来を解き明かす職業――のパーカー・キンケイドに脅迫状の実物を見せ、突破口を得ようとするが……。

 疑問文書解析のプロ、パーカー・キンケイドが活躍する本作はたった一通の脅迫状という乏しい手掛かりを起点に殺戮犯を追い詰めていくタイムリミット型のスリラーで、『ボーン・コレクター』と趣向が似ていますが、面子がガラッと変わったおかげで新鮮な話として楽しめる。「脅迫状出した男が突然トラックに撥ねられて即死」と、意外っていうかツッコミどころありまくりな状況からほぼノンストップで一気に展開していきます。さすがディーヴァー、冒頭から飛ばしてくれる。黒幕に当たる人物が開始早々に死ぬのは船戸与一作品で思い当たる奴が一冊ありますけど、読んでるこちらとしては思わず笑ってしまう。「いきなり死ぬのかよ!」みたいな。もちろん作中人物たちは笑うわけにもいかず、リモコン失って暴走する鉄人28号を止めに行くような悲壮な心境で立ち向かうハメに陥ります。

 さて主人公のキンケイドは文書検査士。筆跡鑑定のみならず文章の書き方や内容まで含めて検査します。絵の場合はだいたいパッと見た感じで「ああ、○○の画風だな」とものの数秒もあればだいたい描き手の判別が付きますが、文章となればそうは行きませんね。ある程度まとまった分量をじっくりと読み、言い回しの特徴や文節の長さ、句読点の付け方、「」の最後に。を入れるかどうかなどの癖といったこまごました要素を吟味してもなお、「ああ、○○の作風だな」とまではなかなか断言し切れない。ゆえに「覆面作家当てクイズ」みたいな企画が成立するわけです。「覆面画家当てクイズ」は成立しにくいというか、やってもたぶんつまらないでしょう。

 ほんの些細な癖から犯罪が立件されたケースもある、とかいったエピソードを挟みながら進んでいきますが、はっきり言ってパーカーのやってることは文書検査よりも鑑識捜査に近かったような……結局ライムみたいに犯人のアジトや次の犯行現場を割り出す推理がメインとなりますし。「覆面作家当てクイズ」っぽい内容をどことなく期待していたせいか、そのへんは少しばかり肩透かしでした。ただし、サスペンスに関しては無問題。後半の盛り上がりはライムシリーズと比べても遜色がなく、最後まで手に汗握って読み続けることになります。訳が違うせいかちょっと引っ掛かりを覚えて読みづらい箇所もありましたが、勢いに乗ればガーッと休まずページを繰っていくこと間違いなしかと。

 やりすぎなくらいにドンデン返しを連発する、目まぐるしいことこの上ないスリラー。いまひとつ文書検査士云々といった設定が活きていない気がしますけれど、もともと英語で書かれた本を日本語に直したせいで「文章を読み解く」ってあたりの細かいニュアンスが伝わりにくくなってるのだろうか。だとすれば残念。一方、家ではシングルファーザーとして息子と娘のふたりを立派に育てようと健気に頑張るキンケイドの姿をはじめとしてキャラクター描写には魅力があり、名前がケネディのくせしてケネディ一家とは無関係な市長にまで見せ場があるのには驚きました。レギュラー陣も気に入ったことだし、仮に次回作があるとしたら作風をガラッと変えて、「疑問文書」そのものに焦点を当てて歴史の謎を紐解くようなストーリーを期待したいところ。

・拍手レス。

 はるはろ、2/23になりましたね。あとちょっとで春や。
 はるはろ…遠くなりもうした…

 予測できたこととはいえ、やっぱりトホホーな気分が抜けませぬ。

 大和田先生の良さは「たのしい甲子園」に凝縮されてたなぁ・・・
 何か今のは違う気がしてしまう、サイン本を持つ一人の男。

 たの甲の全速パワフリャーなノリも面白いですが、最近の微妙なユルさも結構好み。

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・かれこれ二週間以上も「うたわれるものらじお」が聴けずにいて鬱憤蓄積中。救済の日はまだか……。


2006-10-07.

・某所で目にした「宇宙意識に目覚めた義経」というフレーズが脳に焼き付いて離れない焼津です、こんばんは。『星の王女』とかいう女性向けゲームの新作の副タイトルらしいんですが、「宇宙意識」と来て「義経」って。かの「義経ドッカーン」すらも上回りそうな予感がヒシヒシと押し寄せてきますな……。

ライアーソフトの『Forest』、ダウンロード販売開始

 恐ろしいほどにエロっ気が少なく、恐ろしいほどに内容が伝わりにくくて、恐ろしいほどに好みが分かれる。そのくせ一旦馴染むと骨の髄まで浸透してくるあの猛毒じみたマイナーエロゲーがDL販売開始ということで、とりあえず宣伝的にリンクしてみる。久しぶりにデモムービーを掘り起こして視聴してみたけど、当時の記憶がぶわぁっと甦ってきてゾクゾク鳥肌が立ちましたわ。怪作というより妖作。鵺めいた御伽噺をご所望の方には是非ともオススメしたいところ。

・大和田秀樹の『超・超・大魔法峠』読んだー。『大魔法峠』『超・大魔法峠』に続く魔法少女・田中ぷにえシリーズ第3弾。愚直なまでにストレートでテキトーなタイトルもそろそろ限界ではないだろうか。次も普通に『超・超・超・大魔法峠』とかやりそうな気もしますけど。

 内容はこれまで通り。ヒロインが魔法代わりに関節技を決めまくったりマテリアルな兵器を運用したりと、一向に変わりなく無茶苦茶。やりたい放題やってます。園児が独身の保母に向かって「そろそろ基礎化粧品から変えるでしゅ!!!」「売れ残ったクリスマスケーキはハエもとまらないでしゅよ!!!」と言い放ったりする、力任せでいてキレとコクのあるこのギャグセンスはもう、大好きだ。堀江メールとか、時事ネタも仕込まれていて賞味期限が心配ではありますがそれでもかなり笑った。

 あと可愛い女の子を描くのもどんどん巧くなってきています。このままヌルいラブコメに移行しても人気が出そう。黒スト園児のノリコはかなり美味しいキャラなので再登場を希望したい。「勝利者は誰だぁい?」が異様に可愛らしい。

・ジェフリー・ディーヴァーの『コフィン・ダンサー(上・下)』読了。

 「味方に回ったレクター博士」ことリンカーン・ライムのシリーズ第2弾。今回も文庫だと上下巻に分冊されるほど読み応えたっぷり。タイトルは和訳すると「棺の前で踊る男」。何かと申せば、とある職業的殺人者(いわゆる殺し屋)、それも幾度となく犯行を重ねておきながら尻尾を掴ませない凄腕野郎に警察側が付けたコードネームです。ライムとも因縁がある相手であり、「宿命の対決」といったムードを孕んでストーリーが進行していく。

 コフィン・ダンサーは受けた依頼を必ずやり遂げる。リコール要請は一切受け付けない。無関係な一般市民だろうと警察関係者だろうと、効率良く標的を仕留めるためならば何人でも何十人でも巻き込むことを厭わぬ、冷酷非情でいて執念深い神出鬼没の悪魔だった。標的に選ばれた男女の生命を守り抜こうと努力を払う一方で、ライムはなんとしてもダンサーを返り討ちにしようと頭を振り絞った。彼は四肢麻痺の己の代わりに手足となって働く愛弟子アメリア・サックス巡査に告げる。「殺られる前に殺れ」と。証拠の保全を何よりも最重要視するはずのライムが、なぜこうまで手荒な指示を出すのか? 訝っていた彼女はやがて殺し屋の矛先を向けられたとき、その言葉に篭められた意味を知るが……。

 前作『ボーン・コレクター』の事件から一年半。大して関係の進展していないライムとサックスが再登場し、殺しを生業とするプロのヒットマンに立ち向かう。ボンコレみたいに今回もサイコ・キラーを相手取ると思い込んでいた分、「敵が殺し屋」というのはちょっと意外でした。まあライムによれば「プロの殺し屋は例外なく社会病質者なのだ」ってことですし、サイコ・キラーの範疇と言えばそうなのかもしれない。

 ダンサーの標的となった男女を大陪審が行われる日まで死守する、という点ではボンコレ同様タイムリミット・サスペンスとしての様相を示しておりますものの、銃撃戦や爆弾ボカーンなアクションが前作以上にてんこ盛りで、かなり派手派手しいボディガード系のストーリーになっています。ただその分、「鑑識」というライム・シリーズの特徴的要素がやや希薄に感じられるところはありました。サックスもまだ成長途中とはいえだいぶ立派な科学捜査官に変わってきましたし、鑑識行為によって犯人を追い詰めることが黄門様の出す印籠みたいな「お約束」に早くも近付きつつあって微かなマンネリ臭を漂わせる。

 けど、上巻の終わりあたりで「ひょんなことから出会った殺し屋と浮浪者の奇妙な友情(ほのかに香る同性愛フレーバー付き)」っつー予想外の展開が差し挟まれ、下巻はぐいぐいと引き込まれた。なんとなく高村薫チックと思ったのは当方の偏見でしょうか? ともあれクライマックスが迫るにつれ話はどんどんヒートアップしていきますし、下巻の面白さは半端じゃなかったです。ラッシュに次ぐラッシュで一気に畳み掛ける第五部「死の舞踊」は正に圧巻。前半だけならば『ボーン・コレクター』の方に軍配を上げたいところだけど、後半を含めるとなるとこっちもこっちで捨てがたい。全体的には『コフィン・ダンサー』の方が好みかも。もちろんあくまで個人的にですが。

 平易で読みやすく、文章面では少し「軽い」って気もしますが、変な癖がありませんから馴染みやすい。こういう「1作目が大ヒットしたシリーズもの」は2作目ですぐに内容の衰える傾向があるからちょっと心配もありましたけれど、すっかり杞憂に終わってひと安心。これでますますライム・シリーズ、ひいてはジェフリー・ディーヴァーへの惚れ具合が高まってきた次第です。よし、まだまだ読み続けちゃいますよ、最新作に至るまで。

・“氷と炎の歌”第三部、『剣嵐の大地』の第一巻が来月やっと出るみたいですよ。「3ヵ月連続刊行」ってことだから12月に第二巻、来年1月に第三巻で了といった具合になるのか。原作を読んだ人によれば第三部の内容はそれまでの話を軽く上回る出来だとかで、第一部や第二部に圧倒されて魂を持っていかれた当方としては嬉ションしかねない朗報。『マルドゥック・ヴェロシティ』の三冊連続刊行も本決まりのようだし、エロゲーの注目作も多いし、来月は大変だなぁ。


2006-10-04.

・あ……ありのまま昨日起こったことを話すぜ!

 「XANADUから『ひめしょ!』のお返しCDが届いた」

 な、なにを言って(ry。

 というわけで1月16日締切、2月末発送予定「だった」ディスクが今更になって到着しましたよ。『腐り姫読本』の注文から発送まで8ヶ月掛かった焦らしプレイにも匹敵しうるロングパスぶりに当方の脳裏で走馬灯がメリーゴーランド。とにかく「届いただけでも御の字」といったところでしたが、内容はと言えば……ポチの「マグロの女」フルバージョンが収録されていて爆笑。ただ波の音が大きくてちょっと聞き取りにくかったのが難。

 他にも設定ラフや用語集、ライナーノーツ、そして何より録り下ろしのドラマCD。ああ、間違いなくこれは『ひめしょ!』のノリだ……ドタバタがあり、ギャグがあり、シモネタがあり、センスオブワンダーがあり、陵辱もある。ともあれ、一人一人の喋りや掛け合いが懐かしくも面白い。本編とは何ら関係のない番外的なオマケドラマながら、改めて自分が『ひめしょ!』を好きっつーことを再確認させられた次第。特にナコトさんとポチが。ある意味「散々待たせといてコレかよ!」な話ではあったけど、そういう部分も含めて楽しかった。ブランド凍結ってことで続編とかの出る見込みがメッサクサ薄いのは残念至極。

ニトロプラスの『サバト鍋』、プレー中。

 中断していた「竜†恋」を再開……って短っ! ストレイト・クーガーばりの直進によって速攻で終わりました。いくら声なしとはいえ全体で2時間もないとは。話そのものは面白かったというかすげぇツボでしたけど、正直物足りなさが残ります。とほー。中身は凝縮されているから、通しでクリアしてればさほど気にならなかったかも……下手に中断したのが祟りました。

 遥かなる神話の時代から夢(ロマン)の体現者としてやってきたドラゴンがなぜか可愛い女の子(ただし爬虫類系の瞳)になって罵倒癖のあるヒネクレ少年とボーイ・ミーツ・ガール。日常を引っ掻き回し、ドタバタと「恋っぽいこと」を満喫した先に待ち受けるふたりの運命は……という筋立てで、そのままアニメにしても不自然じゃない。『フリクリ』みたいになるかな。とにかく分かりやすくてノリが良く、勢いもあります。ガーッと奔流の如く言葉とイメージが押し寄せ、単純にプレーしていて楽しい。人外巨乳のヒロインはヒトの話を聞かず常にマイペースでヤりたいことをヤりまくる。その我道精神横溢ぶりはいっそ見ていて清々しいほどでした。一人称が「己(オレ)」というのもキャラに合っていて不自然じゃない。主人公は頻繁に、それこそ何かの語尾みたく「死ね」と言い放つツッコミ体質ながら、どこか皮肉屋になりきれない甘さを残留させているところが微笑ましいっスね。いわゆる男ツンデレという奴? ちょっぴりDクラの景ちゃんを思い出したり。そして脇役ながら強烈な存在感を発散する主人公の母親、無茶苦茶な言動と無駄に豊かな表情変化はデモベの西博士(ドクターウェスト)を無理矢理ちびママに変換したような恐ろしさがある。母子相姦願望ダダ漏れで、口を開くたびに息子を精神的にレイプする、マザーファッカーならぬファッキンマザー。見た目がロリな割に、プレーしていて一度たりとも幼女臭を漂わせることがなかったのは逆に凄いと思いました。

 ストーリーが「竜殺しの英雄譚」の見立てになっていて、少しメタっぽくなっているものの、変に小難しくしないでちっきり真っ当に決着を付けてくれたおかげで非常に気持ちの良い話に落ち着いている。冗長さが一切なくてあっという間に吸い込まれて夢中になれました。ボイスが全然付いてないけれど、途中までそれに気づかなかったほどだから個人的に不満はなし。テーマ曲「とある竜の恋の歌」は最高すぎて耳にこびりつきますな。

 しかし、やっぱりどうにも「まだまだ続きが読みたかった」という本音は隠せそうにない。うーん、ザスニか何かに「竜†恋」の短編が載ったという話は聞いたけど、それ以上「竜†恋」関連での動きが今後あるとも考えにくいし、期待を懸けるとしたら鋼屋ジンの次なる新作の方かなぁ。

 『サバト鍋』最後の一つ、「ニトロウォーズ」も戯れにプレーしてみましたが……無敵モードがなけりゃクリアできないヌルシューターの当方には攻略なんて無理です。キーボードでやること自体がつらい。仕方ないから封印しておきます。ということで、『サバト鍋』は一応これにて終了とさせていただきます。「竜†恋」は短いながら濃縮された熱があって美味、「戒厳聖都」は操作性最悪ながら後半の盛り上がりがよし。二つだけでも充分に値段分は楽しめたと思います。にしてもこの組み合わせ、鋼屋が好きでハナチラも好きという当方にはまさしくうってつけでした。

・ジェフリー・ディーヴァーの『ボーン・コレクター(上・下)』読了。

「動機に興味はない」ライムは答えた。「私が興味を抱くのは、証拠だ」

 著者の代表シリーズ「リンカーン・ライム・シリーズ」の第1弾。先月に最新作である第6弾『12番目のカード』が出たことだし、そろそろ既刊も崩し頃だろうと思って着手しました。好きな作家にジェフリー・ディーヴァーを上げておきながら、実のところ読んだことのある本は『青い虚空』『シャロウ・グレイブズ』だけという体たらく。なまじ評判がいいと安心してしまって読む順番を後回しにしちゃう、それが当方の性格って奴です。

 手当たり次第に一般市民を拉致し、おぞましい手法によって殺害を試みる犯罪者「ボーン・コレクター」――特徴の一つは、被害者をすぐには殺さないこと。深く掘った穴の中へ垂直に放り込んで生き埋めにするなど、緩慢で苦悶に満ちた死を被害者に強制する。もう一つは、現場にわざと証拠を残し、次の犯行を予告すること。第一の性質を兼ね合わせれば、証拠が発見されてから「次の犯行」によって被害者が死に至るまで、少しばかりの余裕が生じることになる。タイムリミットはほんの数時間。短時間で次々と誘拐事件を起こし、警察へ難解なクイズを仕掛け、被害者の命を賞品とする異様な精神。挑むのは、鋭敏な頭脳と豊富な知識を保有しながら不慮の事故によって四肢麻痺の苦境に陥り、ベッドの上に縛り付けられているも同然の身となった元鑑識官リンカーム・ライム。彼は美貌の女性巡査アメリア・サックスを引き込んで、己の手足代わりに鑑識を行わせようとするが……。

 シリアル・キラーと警察の対決、という一見ありふれている構図をもとに緊張感溢れる展開をノントストップで繰り広げるサスペンス小説。話が始まってから終わるまでの期間は丸三日間――足掛け四日に過ぎませんが、それを文庫で約700ページも描き込んでいるんですから、いかに濃密な内容となっているか容易に窺い知ることができるでしょう。話題になっただけあって面白かった。予想していたよりもずっと。この手のシリアル・キラーものは大抵犯人の生い立ちや精神状態といった部分に注目が集まり、過去の凄絶なトラウマを暴いたりプロファイリング捜査によって追い詰めたりと、いわゆるサイコ・スリラーっぽい話の流れになりがちです。実際、本作でも犯人のプロファイリングは行われてますし。けれど、上述の引用部通り、リンカーン・ライムは犯人の動機に大して興味を示さない。あくまで犯人が現場にどんな証拠――それが故意にしろ偶然にしろ――を残したか、それだけに関心を絞って捜査する。些細な証拠を丹念に分析して吟味する描写は随所に見られますが、長い割にくどさがなく、読んでいて没頭してしまう。証拠重視と言っても科学捜査一辺倒の薀蓄まみれになっているわけじゃありません。塵や繊維の一つから犯人の服装や住居を割り出そうと頭を絞る執念深さに心を打たれることしきり。

 ヒロインのアメリア・サックスは海外の小説や映画によく出てくる「気の強い女性」の血筋を引いており、最初はライムに対して好感を覚えず、命令に反抗するシーンもありました。体が首から上と横隔膜、左手の薬指しか動かせないライムの代理人として行う現場での鑑識活動にしても、「こんなことがやりたいわけじゃないのに……」とイヤイヤ従事。でも話が進んで両者の関係が良好になっていくにつれ、だんだん鑑識を厭わなくなり、それどころかむしろ気を利かせて指示される前に行動したり、ほんの僅かな要素が犯人に繋がっていくことを実感するようになったりします。サックスが「鑑識」という行為に加速度的に魅入られていく過程が読者の側にも追体験でき、読んでいて非常に心地良くワクワクしました。ハラハラするばかりじゃなくてちゃんと楽しいところもあるんだから心憎い。

 サイコ・スリラーを骨子としながらも、犯罪心理学ではなく「鑑識」というミステリで微妙に軽視される傾向にあった視点から犯人の輪郭を浮かび上がらせていく遣り方に痺れました。サスペンスに関しても素晴らしい。ただ単に死体がごろごろ転がるわけじゃなく、常に「救出できるかできないか、ギリギリのライン」に被害者が置かれている特殊な状況設定も相俟って熱中し、あっという間に読み終えてしまった。良い意味で長さを感じさせません。「ジェットコースター」の異名は伊達じゃないですディーヴァー。綿密なプロットと詳細を極めるディテールが絡み合って鮮やかな読後感を紡ぎ出す一作でした。事件のみならずキャラクターの魅力においても抜かりなかった。役どころは噛ませ犬に近かったデルレイさんも、なかなか美味しい人なので是非とも次回以降で再登場してほしいなぁ。

 よし、この調子でどんどんライム・シリーズを読んでいくことにしよう。今月はジェフリー・ディーヴァー月間だ。

・拍手レス。

 Gは新聞丸めて叩きなさい。もしくはそのスリッパで潰しなさい。バルサンよかよっぽど早いです。
 「臓物をぶち撒けろ!」的処分法は肌に合わないのでガス殺派です。

 Mio CidはVAスレでの(6月頃?)暴露話を読んで回避にしました。
 それまでは気長に待つ所存だったのですが……。
 しかし、暴露した「中の人」最近2chで見かけませんな。
 あ、前節訂正です。×暴露した→○暴露をした
 心障気味で、他人とは思えないところもあって、応援していたのですが。
 さて、どうなりましたやら。
 閑話休題。狼と香辛料を読んでいると――
 アレを読んで将来起業する奴の何割が失敗に終わるかとワクワクしません?
 一話目からして嘘くさい為替。二話目はもろ密輸。はてさて。

 うーん、そのへんの事情は詳しく知りませぬ……『狼と香辛料』は読んだ人の大半が起業云々よりも「いかにして獣神少女と出逢ってわっちょいわっちょいするか」のメソッドに関心を抱くへ500ガバス。

 冬の巨人の発売予定、徳間書店のサイトには載ってませんね……(哀)
 本当に冬まで待たせる気なのだろうか……。


2006-10-02.

時代屋、『Mio Cid 〜錬金術の剣〜』の発売時期と発売メディアの変更を告知

 というかまだつくってたのか、あれ……更新履歴を見るとサイトの開設が「2003年3月9日」ですよ。具体的な例を持ち出せば「人類を無礼(なめ)るな!」というユーザーを舐め切ったオルタの発表があった日からほんの一週間ほど後のことですよ。いかに途方もない制作期間か容易に知れようものです。うーん、本当に来年出るのかなぁ。そういやぼとむれすのアレもまだ発売されてないみたいっスね。どこまで延ばせば気が済むのやら。

・塩野干支郎次の『ネコサス:シックス[完全版]』読んだー。再刊モノらしいけれど、『ユーベルブラッド』で塩野干支郎次(何べん書いても「塩野干支次郎」と間違えそうになる)を初めて知った当方みたいなヌルいファンにとって先月は新刊が一挙に三冊出たようなものであり、すこぶる嬉しかったです。

 22世紀の未来からやってきたネコ耳アンドロイド、という一種のドラパロ。おちゃらけたノリのドタバタコメディで、既刊の『ブラッケンブラッド』にちょっと近い。デビュー作だけあってまだこなれてない感じがあちこちに見受けられました。背景がすっごく白いし……ただ、絵柄はあんまり変わってませんね。

「この“高次元撃震共鳴式特異点矯正装置” 略して“バールのようなもの”で特異点を消滅させるまでなのですッ!!!」

 とか、若干おとなしめながらギャグセンスの迸り具合も『ブラッケンブラッド』と比べて遜色ない。読み終わってみると一応メインヒロインなはずのミミコがちっともヒロインらしい扱いをされていないことに気づいてビックリ。他にも幼なじみの鈴音がメチャ中途半端な位置づけだったり。話としては「結局何がしたかったんだか……」だけど、ドタバタギャグとしては充分に楽しめた。

 あと、お色気要素が意外に少ない。胸揉んだりしないし、パンチラも(たぶん)なかったし。でも宇宙人のスーツは股間の部分がエロかったです。最終回でクビラのスーツがさりげなく破れてて上乳が見えてるのもたまらない。こういう「さりげなくエロ」もなかなか滾るものがありますな。どうでもいいけどデザイン的にはメキラが一番好きです。

 『ユーベルブラッド(4)』『エクストラ・イグジステンス』も読みましたが……EEの方、むっさい男がクリーチャー相手に銃を乱射しながら雄叫びを上げるシーンがありまして。以下の通りに。

「うおおおおおっ!!」

「ヨランタのおっぱいも見ないまま死ねるかぁああぁぁ!!!」

 これには過去かつてないほどに共感を覚え、しきりに「うんうん」と頷いた次第。塩野干支郎次ってば本当に小ネタの使い方がバッチリですな。惚れてきましたよ。

ニトロプラスの『サバト鍋』、プレー中。

 「竜†恋」を中断して「戒厳聖都」に取り掛かった。累計7時間くらいを要してコンプリート。

 RPG風のマップ移動形式ゲームです。敵とエンカウントして戦闘になったり、経験値を稼いでレベルアップしたり、獲得した武器や防具を装備したり、特定のフラグを立てることでストーリーが進行していったりする。はい、見た目上は確かにRPGなんですが、RPGとして面白いのかどうかというと……難しいところ。まずマップ移動からして面倒臭い。一歩一歩「北」だの「東」だのを選択して進むのはダンジョン探索みたいなノリだけど、非常にとろとろと超低速でしか移動できないため、やってるうちにだんだん苛々してきます。ステージのクリア条件が分からなくてマップの隅々まで駆けずり回り、途中で無駄足だと気づいてえっちらおっちら引き返すときの虚しさと言ったら。通路もくねくねと嫌らしく曲がりくねってますし。おまけにステージクリアを果たしてもオートで出口に向かってくれるわけじゃなく、いちいち自力で脱出しなくちゃならない。他にも、装備を変えたり道具を使ったりとステータスをいじる際もあれこれクリックしなけれずならず、とても煩雑。はっきり書いてしまえば操作性は最悪です。

 レベルアップは常に経験値が100溜まるごと。しかしレベルが上がれば上がるほど敵から得られる経験値は下がっていき、相対的な強さから敵がクソ雑魚に転落すると経験値も0になる……というシステムは、獲得する経験値の量で彼我の差を明確に計れる点では面白かった。ただ、レベルがたった1つ違うだけで段違いの強さになってしまうあたりはゲームバランスとしてどうなのかなぁ、と疑問だったり。逆に言えばステージごとに「ここはレベル○以上ないとほぼ攻略不可能」って状態で、レベル上げがほとんど強制的になっています。正にファミコン・スーファミ時代の感覚。

 そして戦闘。こちらと敵それぞれ互いに三つの攻撃手段があり、便宜上A・B・Cと呼ぶならば、A>B>C>A――とジャンケンをやるみたいな要領になってます。相手が何を出してくるか、モンスターによってある程度傾向は決まってますが、基本的にランダム。なので無傷のままストレート勝ちすることもあれば、一矢だに報いることができずストレート負けすることも。こう書くとプレーしていてハラハラできる戦闘システムって気がしますが、よく考えてください。ジャンケンばっかり何時間もやっていたら飽きてくる……という単純な事実を。途中からは傾向を読むだけの作業になってきます。下手打つと即死しかねないのでこまめなセーブ&ロードも必須。レベルアップに応じて必殺技も習得できますが、これもいざ使うとなると操作に手間が掛かって面倒臭い。通常技だけで充分やってけるし、そうした方が却って楽でした。

 というわけでゲーム部分については不満タラタラでしたけど、シナリオに関してはさほど文句なし。東京がゾンビの徘徊する死都に変貌した、というB級映画じみた背景でなおも『刃鳴散らす』の続演をやろうとする試みはグッド。適度にオマケっぽい感じとシリアスなムードが混ざり合っていて楽しかった。最終決戦もしっかり盛り上がったし。なにげに分岐があり、選択次第でラストの展開がちょっとだけ変わってきますが、両ルートとも好み。クライマックスでは安藤直次並みに「ホォオ」と感嘆致しました。これで前回同様に剣術薀蓄が満載だったら言うことなしだったんですが……ともあれ赤音と伊烏、そして戒厳にとって相応しい、血の熱く滾る決着だったかと。個人的には畢竟さん(*´Д`)ハァハァ。

 本当、もう少しばかり操作性が良ければ……なんて愚痴を垂れてもしょうがないので、「竜†恋」の方をちゃっちゃか再開するとしますね。

・藤原伊織の『テロリストのパラソル』読了。

 江戸川乱歩賞と直木賞をダブル受賞して話題になった長編。略称「テロパラ」。本棚の整理をしていたときに見つけ、パラパラとページをめくってみた。アル中の主人公が公園で昼日中に酒をかっくらって、寄ってきた六歳くらいの女の子と和やかに会話して別れた直後、その公園で死傷者五十名にも上る爆破事件が発生……という冒頭の「掴み」が強烈。おかげで本棚の整理を中断して夢中になって読み耽りました。

 マクロに見れば全共闘時代を通じて現代テロリズムの一端を照射する、ミクロに見れば過去の事情から警察に追われる身となっているアル中主人公が事件の真相を探ることで宿命へ身を投じていくストーリー。和製ハードボイルドとしては文章良し、セリフ回し良し、キャラの造型良しと三拍子揃った佳品です。半ばあたりの展開がちょっと地味で物足りなかったけれど、日本語のリズムで綴られたハードボイルドがここまで気持ちよく読めるものなのかと目から鱗が出る思い。

 ちりばめた謎と伏線を回収する構成も見事。ただ、横溝作品で言うと、金田一耕助が県外に出て調査してきたことを最終幕で明かす――とかいうパターンと同じ形になっているせいか、クライマックにいまひとつノりきれなんだ。それまでが惹き込まれただけに残念。

 ちなみに気に入った登場人物は、やはり冒頭の女の子かな。

・今月の予定。

(本)

 『冬の巨人』/古橋秀之(徳間書店)
 『狼と香辛料3』/支倉凍砂(メディアワークス)
 『ラギッドガール』/飛浩隆(早川書房)
 『シグルイ(7)』/山口貴由(秋田書店)
 『きつねのはなし』/森見登美彦(新潮社)

 今月は矢作俊彦の『ららら科學の子』が文庫化されますね。「50歳の少年」を主人公に、ハードボイルドの筆致で描く「長すぎた青春」の小説。言わばテロリストの出てこないテロパラ。オススメです。『冬の巨人』、これまで何度延期されたのか記憶が曖昧になってきたけど、今度こそは……! これで出なかったらさすがにファンは怒っていいと思います。何かに対して。『狼と香辛料』は今年デビューした新人の作品ながら、一部での注目度が凄いことになっているシリーズ。行商人を主人公にして商業要素を織り込みつつ、人外のヒロインを交えてファンタジー要素も取り込む抜かりなさ。電撃の新刊は『とある魔術の禁書目録11』、『バッカーノ!1934 獄中編』、『空ノ鐘の響く惑星で12』にも期待しています。ラギガは“廃園の天使”シリーズ第2弾にして短編集。本当は『空の園丁』が第2弾に来るはずだったけれど、順調に遅延している模様。5編を収録とのことですが、うち3編はたぶん既読の作品なので、当方の場合可食部は恐らく半分以下。迷うところではあるものの、“廃園の天使”は大好きなのでやむをえません。シグルイは多くを語るまでもない。今月のコミックは他にネウロ、クロサギ、パンプキンシザーズ、ニードレス、DMCあたりが楽しみ。『きつねのはなし』はかなり久々に刊行される森見登美彦の新作。この人の文章センスはとても心を揺さぶられる。主に笑う方向へ。あとは西尾維新の零崎一賊モノとか深見真のヤングガン・カルナバルなんかもあって、そこそこの出費になりそうな気配。

(ゲーム)

 なし

 ふふ、『はるはろ!』が逃げ申したからな……おかげで11月に注目作がたむろしています。来月は忙しそうだ。


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