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2026-11-06.

・1年半くらい積んでいた『第七魔王子ジルバギアスの魔王傾国記�Y』を今頃になって読み切った焼津です、こんばんは。ローマ数字なのでちょっとわかりにくいが6巻です。

 『第七魔王子ジルバギアスの魔王傾国記』は「カクヨム」で連載されている異世界ファンタジーで、ジャンルとしては「転生物」です。と言っても現代日本からゲーム風の異世界へ、みたいなパターンではなく現地人の魂が別の肉体に宿って復活するタイプ。「魔王」ゴルドギアスを倒すべく危険な強襲任務に就いた「勇者」アレクサンドルは任務に失敗、強大な魔王相手に手も足も出ず殺された。彼の死から2年後、魔王の第七子「ジルバギアス」が誕生する。なんとその肉体にはアレクの魂が宿っていた(作中の理屈としては、魔王には相手の魂を捕らえて自己強化する「捕食」の権能があるのだが、アレクの魂が強固すぎて咀嚼できず無意識に我が子へ移してしまった、みたいなところ)……って感じで、アレクくんは「これ幸い」とばかりに魔王国を内側から破壊していく計画を立てていく事になる。既存の作品で喩えると『コードギアス』からロボ要素を抜いて異世界ファンタジーにしたようなシリーズだが、アレクくんは元々脳筋だったのであまり策略家とは言えず、「バカの『コードギアス』」スレスレなムードで計画が進行していきます。ちなみに魔王および魔王子(この場合「魔の王子」ではなく「魔王の子」という意味なので男も女も両方含まれる)の名前は貴金属や宝石が由来です。「ゴルドギアス→ゴールド」「アイオギアス→アイオライト」「ルビーフィア→ルビー」「ダイアギアス→ダイヤモンド」「エメルギアス→エメラルド」「スピネズィア→スピネル」「トパーズィア→トパーズ」「ジルバギアス→シルバー」、妃もネフラディア(ネフライト)やプラティフィア(プラチナ)。「〜ギアス」が男子で「〜ィア」が女子と覚えておくと見分けが付きやすい。この法則知らないとトパーズィアあたりは男の子と勘違いしそうになる。

 また、魔王族の風習として「母方の族名」を名乗るというものがあり、例えばジルバギアスのフルネームは「ジルバギアス=レイジュ」、母親のプラティフィアは「レイジュ族」の出身という事がわかります。魔王子は全員腹違いで、それぞれ後見する一族が異なる。なので兄弟同士で表面上は仲良くしていても、いずれは玉座をかけて争い合う宿命にあります。そこらへんを利用して何とか魔族を滅ぼせないか……とジルバギアス(中身アレク)は奸計を巡らせるワケだ。この世界において魔族は非常に強大な存在で、「本気出すと人間なんてすぐに絶滅してしまう」という理由からわざと侵攻のペースを緩めているなどといった舐めプ行為も重ねており、付け入る隙は充分にある。獅子身中の虫が紛れ込んでいるとも知らず魔族の繁栄を信じて疑わない連中に一服でも二服でも何服でも埋伏の毒を盛ってやろうとスパイみたいな活動にせっせと勤しむのがこの『第七魔王子ジルバギアスの魔王傾国記』なのですが、ダークっぽい雰囲気が漂っている割に筆致は明るく軽やかでややコメディ調、パロネタは多いし、王様の名前が「オッシマイヤー13世」だったり「ニバーン砦」「サンバーン砦」「シーバーン砦」とダジャレみたいなネーミングがちょこちょこある。しかしここぞという場面では容赦ない展開にしてくる。なんだかブラックジョークじみた作品に仕上がっています。

 個人的には結構好きなシリーズなんですが、如何せん展開が遅いし脇道も多いんですよね……当然、話の流れ的に主人公が他の魔王子たちを討っていくストーリーになるんですが、最初に魔王子の脱落者が出るの何巻だと思います? ぶっちゃけネタバレですけど、この6巻でやっと最初の死亡者が出ます。6冊、ページ数にして2560ページでやっと1/7終了です。仮にこのペースがずっと続くなら42巻、1万8000弱ものページ数をかけて自分以外の第一〜第六魔王子を討伐し、念願の魔王を討ち滅ぼす勘定になります。禁書目録やリゼロの巻数はそれ以上だから「不可能」とまでは言えない巻数だが、そこまで刊行ペースが早くないから少なく見積もっても20年はかかる。ちょっと気が遠くなりますね。

 これまでの内容を振り返ると、1巻は世界観およびキャラ設定の説明に終始する内容で、最後に勇者時代に自分たちを支援してくれた「聖女」のハイエルフ「リリアナ」と思わぬ形で「再会」する。2巻は勇者時代に自分を運んでくれたホワイトドラゴンの長「ファラヴギ」と再会、状況的に正体を明かすワケにもいかずファラヴギを殺す事になるが、代わりにその娘「レイラ」を保護する。このレイラがメインヒロインに近いポジションの子です。3巻は母親の故郷である「レイジュ族の里」へ行き、「実戦訓練」としてかつての自分と同じ「勇者」を手に掛けるハメとなる。4巻は魔族の奇祭「氷獄男裸祭り」に参加するなどといった日常エピソード(?)を挟みつつ、いよいよジルバギアスの初陣として人間の王国へ出征する事が決まる。5巻でようやく戦争編、武勲を立てるために心ならずも「かつて守りたかった存在」である人間たちに刃を向ける。6巻はなんやかんやの末にやっと魔王子の一人をブチ殺す――といった塩梅で、ファンタジーとしてはともかく戦記物として読むと展開の遅さに焦れるんですよね……そのうえここ1年半は新刊が出ておらず、「商業版は打ち切り」という疑惑が漂い始めているし……メチャクチャ面白いだけに残念。

 これまでも400ページ前後と結構分厚かったシリーズだが、6巻はなんと540ページ。薄めのライトノベル2冊分はあるボリュームです。カクヨム版でいうと「209.気遣いと憐憫」から「300.さらば魔王国」あたりまでを収録している。結構書き直しているので完全に一致するワケじゃないですが……うまくコトが運んで「自分の責任ではない」という形で魔王子の一人を返り討ちにする事が出来たジルバギアス(アレク)だったが、「それでも『魔王位継承戦』が開催される前に兄弟同士で争い合ったのはマズい」という理由から「両成敗」として魔王国を追放される。1年間、人間たちの住まう「同盟圏」で生き延びる事ができれば、魔王国に戻ってきても構わない。しかし魔族の、それも魔王子なんて埒外な存在が人間に紛れて生活するなんて不可能だろう……彼が「人間からの転生体」でなければ。というワケで大手を振って人里に戻る事が出来たアレクくんの冒険が始まる新章「同盟圏追放編」はまだ書籍化されておらず、カクヨム版の「301.国境突破」以降を直接読むしかありません。私はもう「7巻が発売される可能性は低い」と諦め、カクヨムで続きを読む事にしました。新キャラの「エドガー」が妙に勘の鋭いヤツで、「結構重要キャラなのか?」と思い始めたところで名字が「ワコナン」と明かされる。エドガー・ワコナン……コナンくんかよ! 真実はいつも一つ! ちなみに最新話は「593.器にあらず」で今年の7月に公開。ここ4ヶ月近く更新が止まっている状態です。果たしてアレクが魔王国を滅ぼす日は訪れるのだろうか……。

・「ゴジラ-0.0」初日興収が実写映画で日本歴代1位。「シリーズ初の興収100億円突破も狙える」(AV Watch)

 ゴジラの新作『ゴジラ-0.0』が初日だけで9.1億円も稼いで歴代実写邦画1位の座に輝いた(ちなみにアニメを含む場合は鬼滅の無限城編第一章がトップで16.4億円)……このニュースを聞いて感慨深くなるゴジラファンも多いのではないか。初代『ゴジラ』の公開日は1954年11月3日、既に72年もの歴史があるものの、ワンパターンな展開によって飽きられ人気が低迷した時期もありました。東宝は遂に看板シリーズを終わらせる決断を下し、2004年、50周年の節目で最終作と銘打った28作目『ゴジラ FINAL WARS』を公開。しかしさして話題にならず、20億円もの製作費に対し僅か12.6億円の興行収入と、「最後のゴジラ」にしてはいささか寂しい数字となった。

 転機となったのは、やはり「レジェゴジ」こと2014年に公開されたレジェンダリー製のハリウッド映画『GODZILLA ゴジラ』だろう。ハリウッドのゴジラ映画は1998年に公開されたローランド・エメリッヒ監督版の『GODZILLA』、通称「エメゴジ」があったが、ゴジラのデザインが大きく変更されているせいもあってゴジラファンの間における評判はすこぶる悪かった。『ゴジラ FINAL WARS』にもこのエメゴジを元にした「ZILLA」という個体が登場し、鎧袖一触されて「やっぱりマグロ食ってるようなのはダメだな」とdisられている。ハリウッド映画としては2本目に当たる『GODZILLA ゴジラ』は後に「モンスター・バース」と呼ばれるシリーズの第1弾として登場し、日本国内だけでも32億円、全世界では5.2億ドルとなかなかの数字になった。「未だゴジラ人気は健在である」事を示し、プロジェクトの再始動に弾みをつけた。映画業界ではヒット作の「完結編」という宣伝文句を信じてはいけない、という暗黙の了解があります。『ゴジラ FINAL WARS』を最終作と謳ったにも関わらず、東宝はしれっとゴジラ映画の企画を再開させ始めました。

 2016年公開の庵野秀明監督による『シン・ゴジラ』は82.5億円と、ゴジラ映画としては破格の興行記録を打ち立てた。レジェゴジ→シンゴジの流れでゴジラがブランドとして復活したのが大きく、2023年公開の『ゴジラ-1.0』は国内76.5億円、全世界1億ドルを突破した。今回のマイナスゼロはマイナスワンの続編であり、前作を見ていないと話がわかりにくい……という事情があるにも関わらず「実写邦画における初日興収歴代1位」の記録を打ち立てたワケです。人気が低迷してファイナルウォーズという「一旦の幕切れ」を目撃したファンからすれば、今の状況は「まるで夢のよう」とウットリしてしまうだろう。まぁ、間に何とも形容しがたい珍作アニゴジ3部作(GODZILLA 怪獣惑星 / GODZILLA 決戦機動増殖都市 / GODZILLA 星を喰う者)、ショートアニメである『ただいま!ちびゴジラ』および『ちびゴジラの逆襲』、芥川賞作家が脚本を手掛けた『ゴジラS.P』とかがありましたが……。

 しかし、まだ100億突破が確実になったワケではなく、あくまで「興収100億円突破も狙える」という段階です。初日が祝日だった影響もあってかなり初動寄りになると考えられますし、今後の推移を注視していきたい。ちなみに私も初日に観に行きましたが、午後の回で9割くらいは埋まっていました。感想としては「映画としてのまとまりは前作の方が良かったけど、『怪獣映画』としては今作の方が上。相変わらず山崎貴監督お得意の濃厚なメロドラマ的演出は鼻に付くが、前作で慣れたせいもあってか今回はそこまで気にならなかった(というかもう気にしない事にした)」ってなところ。映画館で観るべき作品なので迷ってるなら行った方がいいです。可能ならIMAXで。

・水上悟志「スピリットサークル」TVアニメ化、4月に逝去した佐藤竜雄の最後の監督作(コミックナタリー)

 スピサーがアニメ化!? しかもサトタツ監督の遺作!? “幻想(ユメ)”じゃねえよな……!?

 『スピリットサークル』は2012年から2016年にかけて連載された漫画で、全6巻。そう、10年も前に完結している作品なのです。巻数が短いように感じられるかもしれませんが別に打ち切りではなく、過不足なくキッチリまとまっています。それだけにファンからも評価が高く、「水上作品を読むならさみだれかスピサーから」とよく言われるほど。内容がぎっしり詰まってるので1クールだとちょい厳しいが、全13話とかならイケるか……? と思いきや、調べてると「1クール以上2クール未満」で全18話らしい。1.5クールとはまた変則的な。しかし、こういう従来の尺観念に囚われないアニメが出てくるのは素直に喜ばしい事だと思う。よその作品だけど今放送中の重騎士とか、尺に合わせるための露骨な水増しがヒドすぎて作品の持ち味を殺してるまであるからな……PVを観た感じ、少なくとも「さみだれアニメの再来」は避けられそうでホッとした。ホント、水上作品のアニメ化で『惑星のさみだれ』だけは特異点的にムゴい出来なんだよな……それはともかくスピサー、来月に新装版も出るので紙で読みたい人は予約をオススメします。上下合わせて1200ページ弱のゴン太本とはいえ合計4400円(税込)と、結構お値段が張りますが……ぶっちゃけ通常版を全巻買う方が安い。何せ10年前なので当時は本体価格が570円くらいだったんですよね。今や700円や800円超えるのは普通です。私ももう漫画は電子書籍主体で、セールの時にまとめて買う派になってしまった……ただスピサーは新装版を買おうと思っています。

・潮谷騒の『山上のフェイク』読んだ。

「山岳救助隊員は山のエキスパートです。山の恐ろしさを知り、地形図や天候を読み解き、ひとたび遭難事例が発生した際は、最短ルート・最速で現場に馳せ参じるよう訓練されています。それは大変すばらしいことですが、正しい振る舞いが身に付いているプロフェッショナルは、ときとして、ふらりと山域に迷い込むような初心者がやらかす失敗を理解できないものなのですよ。そういう意味で、あなたはあの事故のおかげで、失敗に恵まれたとも言えます。熟練者の目から見ると、どうしてこんなくだらないことを、なんであんな判断を、と呆れかえってしまうような心理に共感できるのであれば、遭難者の捜索に際して大きなアドバンテージになり得ます。山岳救助隊員は、他者の失敗に寄り添う職務であることを心がけていただきたいのです」

 山の上、嵐に閉ざされたコテージで「何か」が起こった。その「何か」とはいったい……? メフィスト賞作家「潮谷験(しおたに・けん)」の新作長編(9月に『ふしぎな凶器博物館』が出ているが、これは短編集)。一種の「クローズド・サークル」を扱ったミステリだが、時系列を操作した叙述で読者の予想を振り回す変則的なサスペンスに仕上がっています。記憶力に自信がない人は「ここ伏線かな?」と思った箇所をメモしていった方が宜しいかもしれません。

 ある大学の文芸研究会が同窓会を開催した。研究会のメンバーは8名、しかしそのうちの一人「沼田椎月」は卒業直後に失踪しており、今も行方がわかっていない。「妹が行方不明になっている」状況で同窓会の開催を告げた「沼田俊和」。彼はいったい何を考えているのか、と訝りながらも研究会メンバーは久しぶりに集まって「皐月山」のコテージへ向かった。7名中、「星ヶ丘敦」は乗っていた新幹線が静岡のあたりで車両不具合によって止まってしまい集合場所に辿り着けず、残る6名が皐月山を登った。それが7月20日の事だ。

 7月22日、「友人と山登りに出かけた娘が帰ってこない」と年配の女性から滋賀県の山岳救助隊へ通報があった。救助隊は皐月山のコテージに電話をかけるが、応答はない。同窓会に出席したのは、コテージの持ち主である沼田俊和を除くと「射場由美子」「赤屋敷克彦」「内裏千里」「荘角信玄」「新地殊也」の5人。全員の携帯番号とメールアドレスは判明しており、連絡を取ろうと試みるが、いずれも無反応だった。下山しているのであれば誰か一人くらいは連絡が取れるはずなのに……彼らはまだ電波が届かない山奥に留まっているのか? 「下界」ではここのところ大雨が続いているが、山上の天気はもっとひどいのかもしれない。何らかの事故や災害によって山を下りられなくなっているのでは、と危惧した救助隊は総勢10名で皐月山のコテージを目指す。到着した救助隊を待ち受けていたのは、明らかな「事件」の痕跡だった。コテージでいったい何が起こったのか? 現場には手掛かりとなる文書が残されていたが……。

 という感じで、「嵐の山荘」で発生した事件を「関係者の手記」によって紐解いていく変型クローズド・サークル・ミステリです。もちろん手記の書き手が「信頼できる語り手」とは限らないし、手記自体が捏造でないとも言い切れない。そんな、ギシギシと鳴る不安定な足場を渡っていくような心地で読み進める小説です。合間合間に黒白が反転した「罪人の独白」という章が挟まり、何者かの悪意が介在している事を仄めかすが、ミステリに慣れている人ほど「これ、何か罠を仕掛けているんじゃないか?」と勘繰ってしまうでしょう。「罠」が本当に仕掛けられているかどうか、そこに言及すると興趣を削いでしまうため、あえて触れない事にします。

 以下、致命的なネタバレは避けていますが、作品の本筋に踏み込んだ内容なのでこれから読もうと考えている方はご注意を。

 コテージで発見された手記には救助隊が駆けつけるまでの空白期間、7月20日や7月21日の出来事が綴られている。文芸研究会のメンバーを集めた沼田は、「同窓会はただの口実だ」といった旨を告げる。彼はこの山で妹・椎月の白骨遺体を発見した事、それを警察に通報しておらず他の家族にも伝えていない事を明かした。椎月は失踪する直前に銀行から500万円の現金を引き出しており、その金はまだ見つかっていない。研究会の中に、椎月を殺して金を奪ったメンバーがいるのではないか? もし心当たりのある奴がいるなら名乗り出て欲しい、消えた500万円も不問にしてやる……沼田の言葉に応える者はおらず、疑心暗鬼の中で過ごした翌朝――7月21日に、沼田は物言わぬ骸となって発見された。胸元にナイフが突き立てられており、見るからに「他殺体」といった風情。メンバーの中に殺人者が紛れ込んでいる……! 警察に通報しようにも電話は不通、外は滝のような豪雨。下山を諦めた彼らは、羊の群れに紛れた人狼を突き止めようとディスカッションを交わす。沼田は「妹の仇」が誰なのか、ある程度当たりを付けている素振りだった。だから犯人は暴露を恐れ、先制して沼田を殺した――こういう状況だと推測されるが、果たして沼田は「犯人が口封じに来る可能性」をまったく考慮していなかったのか? 普通なら警戒して然るべきだろうに……ひょっとすると沼田も「妹の仇の殺害」を目論んでいたのではないか? 駆け引きに敗れた結果として、沼田が死んだ――メンバーはそう考え、推理を重ねた末、遂には殺人者を突き止める。

 そう、この本、全体の半分くらいで「殺人者の名前」が記述されるんですよ。「えっ、もう!?」とビックリするぐらいの早さです。もちろんそれで話が終わりというワケじゃなく、そこからストーリーが二転三転する。クローズド・サークルなので警察はまだしばらくやってこれない、じゃあ不都合な関係者を抹殺すれば「死人に口なし」で逃げ延びる事ができるかもしれない……「罪人の独白」で描かれる殺人者の悪あがき。残りのメンバーは全滅してしまったのか、それとも誰かが生き残ったのか。居るかどうかもハッキリしない「生存者」を捜すため、救助隊による現場検証は続く。

 被害者の死体が発見され、加害者の名前も判明している。だが、コテージには「被害者の死体」しか残されておらず、それ以外の関係者が今どうなっているのかわからない……「異常」と言うほどではないが、「一風変わった」と言える程度にはツイストの利いたシチュエーションです。クローズド・サークル物のみならずサバイバル物が好きな人であればワクワクしながらページをめくれるでしょう。7月とはいえ、激しい雨が降っている山中でろくな防寒装備もないままうろついていれば低体温症で死亡しかねない。実質的なタイムリミットが生じている中で捜索が進行していきます。

 通常のクーロズド・サークル物は全ての事件が終わった後でようやく警察と連絡がつき、救助隊が到着してエピローグ……というのがお約束の展開になっていますが、本書は「まだ事件が進行している最中」に救助隊が現場へ辿り着いて右往左往する、という形式になっています。そういう意味では本格ミステリというよりサスペンスめいた読み口だ。「要救助者の行方を推理する」などの要素もあるため、ミステリとしての読み応えも充分に用意されている。ただ、感覚的には「謎解き3割、山岳救助7割」といった印象なので、山岳救助の部分に関心が持てない人からすると少しダルい小説かもしれません。「謎解き要素のある山岳ミステリ」くらいの感覚で挑んだ方が宜しいかな、と。

 まとめ。本格ミステリとして読むと「計画が場当たり的すぎてちょっとな……」と引っ掛かってしまうところはあります。「途中で犯行がバレたせいもあって計画を練り込む余裕がなく、即興で誤魔化さないといけなくなった」という事情があるとはいえ、真相を解明する最終章(「余談」)は「推理の鮮やかさ」よりも「苦し紛れの犯行」って部分が目立ってしまった。高度の柔軟性を維持しつつ臨機応変に対処しようとして失敗した感じというか。サスペンスや山岳要素をメインで読むなら問題ない範囲だと思います。

・拍手レス。

 よねぽのここ十年の業績みたら、山田風太郎賞(2021年) 直木三十五賞(2022年) 本格ミステリ大賞小説部門(2022年) 吉川英治文庫賞(2025年)という、でぇベテランで日本を代表する大衆ミステリ小説家になったのが分かりますからね。むしろ、古典部をまだ続ける気があったことに驚き。小市民シリーズだけ続けると思っていた

 仕事が途切れないからどうしても優先順位は低くなってしまうみたいですが、えるたそを蔵から出す意志はあったんだ……ってなりました。よねぽも年齢的にそろそろ50歳近いので学園物とかだんだん厳しくなっている印象はありますが、頑張って欲しい。


2026-11-01.

・遂に「古典部」シリーズの新作(と言っても短編だけど)が出るというニュースに血が沸き立った焼津です、こんばんは。

 過去のエピソードとかではなく、「「いまさら翼といわれても」の後の物語。シリーズの時計の針が進みます。」と明言されてやり、ネットでは「やっと千反田えるが蔵から出てくる!」と大騒ぎです。現時点で「古典部」シリーズ最新のエピソードとなっている「いまさら翼といわれても」はある事情から蔵の中に入ったえるちゃんと外にいる奉太郎が会話するシーンで終わっている。この短編を収録した単行本『いまさら翼といわれても』は2016年11月30日の刊行で、もう10年近くの月日が流れており、「えるちゃん、10年間も蔵に入ったまま」とファンがよくネタにしていたものでした。

 なぜこんなに間が空いてしまったのか? 理由の一つは「単純に作者が忙しいから」でしょう。スニーカー文庫からデビューした米澤穂信も今や直木賞作家であり、それどころか直木賞の選考委員にさえなっている。多作家ではないとはいえ、こなす仕事量は膨大です。なかなか「古典部」にリソースを回す余裕がないと考えられる。そもそも『いまさら翼といわれても』自体、6年半ぶりくらいの新刊でしたし。「古典部」はいわゆる「日常の謎」というジャンルに属するシリーズで、ぶっちゃけこのジャンルってどうしても話が地味になりがちだからなかなか新作を出しづらいんですよ。サザエさん時空で年月経過がないパターンならまだしも、「主人公たちの成長」を軸にしている場合は特に進めば進むほど「どう展開させるか」が難しくなっていく。「日常の謎」の代表格である北村薫の「円紫さんと私」シリーズも、もう10年以上新刊が出ていません。

 「古典部」シリーズは時間経過とともにキャラクターたちの関係が少しずつ変化していく趣向で、たぶん『いまさら翼といわれても』がちょうどシリーズの折り返しあたりに位置してるんじゃないかと思うんですよ。恐らくあと6冊くらい書けば奉太郎たちが卒業を迎えて完結する、と私は見ています。もう『氷菓』から四半世紀近く経っており、ここから今のよねぽが6冊出すとなるともう四半世紀は掛かりそうなんですが……「2051年、遂に古典部シリーズ完結!」というニュースを幻視してしまうが、果たしてその頃まで私は生きているのだろうか?

・『アイプラ』2027年3月1日をもってサービス終了。『学マス』開発元・QualiArtsによるアイドルマネジメントRPG、約6年の歴史に幕(ファミ通.com)

 遂にアイプラこと『IDOLY PRIDE』がサ終か……ゲームの方はやってないけど、2021年に放送されたアニメ版は観ました。と言ってもリアルタイムではあまりのキャラの多さに1話で挫折し、放送が終わった後に全話まとめて視聴、って形だったんですが。もう随分と経つからネタバレで語りますが、このアイプラは「長瀬麻奈」というアイドルが人気絶頂の中で交通事故に遭って急逝してしまうんです。マネージャーをやっていた主人公「牧野航平」は当然ショックを受けて塞ぎ込むが、そんな彼のところに麻奈の幽霊がやってくる。幽霊とはいえ麻奈の前で情けない格好はできないからと再起する航平、そんな彼が新たに担当するアイドルの中には麻奈の妹である「長瀬琴乃」、そして麻奈の心臓を移植された「川咲さくら」がいて……という感じで、他に8人くらい新人アイドルが出てきますけど、アニメは基本的に「琴乃とさくら」の二人を軸に進行していきます。琴乃をメインボーカルに据えた「月のテンペスト」、さくらをメインボーカルに据えた「サニーピース」、ふたつの5人ユニットが競い合う形式ながら、序盤はともかく終盤はそこまで険悪な雰囲気ではない。クライマックでは航平と「麻奈の幽霊」との別れが描かれており、この時にBGMとして流れる「song for you」が涙腺直撃クラスで……お姉ちゃんとして妹である琴乃の事は大好きだけど、それでも「song for you」は自分の曲なんだから「私が一番上手く歌える」という譲れない矜持を麻奈が抱いているところもまたグッと来るんですよね。長瀬麻奈verの公式PVは是非とも見て欲しい。

 要はアイマスと「あの花」をミックスしたようなアニメなんですが、同年に「たんもし」(『探偵はもう、死んでいる。』)という「亡くなった名探偵の心臓を移植された女子高生がその志を引き継ごうとするアニメ」が放送されたため、「心臓アニメ」という概念が爆誕。同じく2021年に「セレプロ」(『SELECTION PROJECT』)という「事故で亡くなった人気アイドルの心臓を移植された子と、亡くなった人気アイドルの妹が、同じアイドルオーディションに参加するアニメ」も放送され、アイプラとのあまりにもあまり過ぎる被りようが話題を喚びました。ついでに翌年の2022年には「先天的な心疾患に対処するため人工心臓を移植されたヒロイン」が登場する『リコリス・リコイル』が放送され、「また心臓アニメか!」「今期の心臓枠」と揶揄されたり。

 「TRINITYAiLE」や「LizNoir」といった他ユニットが活躍する2期ないしスピンオフアニメもやって欲しかったが、まぁさすがに実現しませんでしたね。残念。アニメが放送された2021年、長瀬麻奈役の「神田沙也加」が急逝するという一件もあったせいでいろいろと忘れがたくなってしまった。「他に適役がいない」という理由でキャスト変更せず、最後まで「長瀬麻奈(CV.神田沙也加)」を貫いた事は今後も語り継いでいきたい。

・箕輪尊文の『弾丸とヒマワリ』読んだ。

 第72回江戸川乱歩賞受賞作。応募時のタイトルは『天使の負託―エンジェル・バレット―』だったが、受賞後に改題された。英題は「THE BULLET AND SUNFLOWERS」とそのまんま。作者の「箕輪尊文(みのわ・たかふみ)」は1993年生まれの会社員で、乱歩賞には第63回から応募を開始し、この10年何度も応募を重ねてやっと受賞に至ったと云う。第65回に『歌舞伎町 ON THE RUN』、第67回に『夜が明けたら』で最終候補に残っていますね。

 本書は「自衛隊」がストーリーに絡んでくるミステリです。と言っても『UNKNOWN』や『未完成』みたいに駐屯地で事件が発生するタイプではなく、退官した自衛官たちが事件に巻き込まれていく……というタイプ。「本庄恵梨香」と「野島武」、元自衛官であるこのふたりの視点を主にして進行していきます(たまに事件を捜査する刑事など、事件関係者の視点に切り替わる箇所もある)。

 陸自の第八次PKO(Peacekeeping Operations=平和維持活動)部隊として派遣された、アフリカはサハラ北部に位置する「東キアノス共和国」――長く続いた内戦が数年前にようやく終結し、この国は平和と治安を取り戻した……そう聞いていた。しかし、あの時、少女が手にしていたAK47の銃口がこちらに向けられ――「防衛」のために放たれた銃弾が、幼い少女の命を奪った。たとえ正当防衛であろうと「自衛官が年端もいかない子供を撃ち殺した」などという事実、世論が許さないだろう。上層部はこの一件を揉み消す事にした。「なかった事」になっても、現場にいた者たちの心の傷は癒えない。これ以上の勤務は無理だと、本庄恵梨香と野島武は退官の道を選んだ。広場恐怖症を発症した本庄は定職に就かずピザ店でのバイトを続け、不眠症を患っている野島は違法(ないし脱法)ドラッグに溺れながらクスリのP(プッシャー=密売人)を副業として営んでいた。別々の道を歩み、連絡も途絶えていたふたりだったが、ある殺人事件をキッカケにふたたび道が繋がり始める……。

 こんな具合です。本庄パートでは「福田紬」という女子高生が何者かによって射殺され、遺体の手に国連メダル(PKO活動に従事した自衛官に贈られるモノ)が握り締められていた……という事件の謎を追い、野島パートでは「エンジェル」なる違法薬物とおぼしきカプセルの噂に翻弄される。クスリの正式名称は不明だが、噂では「エンジェル・バレット」――天使の弾丸と呼ばれている。ダウナー系のドラッグで、何でも「天国みたいに気持ちいい」んだとか。噂だけで、実物を見た者はいない。なぜなら、「エンジェル・バレットを手に入れた」と自慢していた奴はみんな死んでいるからだった……女子高生射殺事件と謎の薬物エンジェル・バレット、両者はいったいどこで結びつくのか?

 安定感のある文章で、率直に言って「メチャクチャ面白い」ってワケじゃないが読みやすく、サクサクと話が進んでいく。タイトルの「ヒマワリ」は平和の象徴として日本から運ばれてきたヒマワリがPKO派遣先である東キアノス共和国に植えられていた、というエピソードから来ています(それとは別のエピソードも関係してくるが、説明は割愛します)。東キアノス共和国(言うまでもなく架空の国名です)は南部と北部に分かれ、北部は「元副大統領を首魁とする反政府勢力が実質的に支配する」地域となっている。自衛隊が派遣されたのは南部の首都「キアノ」。ある日、「豪雨の影響で崩壊した道路を早急に復旧させて欲しい」という依頼が国連司令部から寄せられ、現地へ向かった本庄や野島たちはそこで前述の「子ども兵射殺事案」に直面する。この一件がトラウマとなって、本庄や野島の心を苛み続ける。

 女子高生射殺事件とエンジェル・バレットの接点が見え始めてからが本番ですが、姉が自殺したショックから自暴自棄になって「エンジェル」を欲している少女「南川杏子」の面倒を野島が診るサブエピソードなども面白い。クライマックスは畳み掛けるような展開で一気に読ませます。が、終盤、ピンチに陥るシーンで「迷彩服を着てピエロマスクを被った謎の人物」というデスゲームの司会者みたいなのがいきなり出てくるのはズッコケたというか、そこはフルフェイスマスクとボイスチェンジャーで良かったんじゃないですか!? 本文中にも「迷彩ピエロ」と出てくるので違和感がスゴかったです。そこを除くと「事件の真相」そのものは程好く凝っていてミステリの満足度はまずまずだった。一方で明確に「ここは弱いな」と感じてしまう部分もあり、満場一致での受賞とならなかったのも頷けたというか、選評で黒川博行から「リアリティー皆無」「文章の巧さに比して登場人物のキャラクターに魅力がない」と指摘されているのも「ククク…ひどい言われようだな まぁ事実だからしょうがないけど」って感じでした。受賞後にだいぶ加筆修正したっぽいので、応募時はもっとアレだったようですが……。

 まとめ。自衛隊と防衛省が揉み消した「子ども兵射殺事案」、女子高生射殺事件、そしてエンジェル・バレットと、バラバラの要素に少しずつ繋がりが見えてくる構成自体は面白かった。反面、この三要素のうち「エンジェル・バレット」部分は掘り下げが浅くて肩透かしだな、という印象。あと、加筆で「キャラクターの魅力の弱さ」は補ったみたいだが、それでもやっぱりこの本を「キャラの魅力」で売るのはかなり無理があるな……渋い題材だけに講談社側もどういう方針で推すか決めるのに苦心したらしく、公式サイトに漫画まで載せています。今や乱歩賞もイラストや漫画を載せてライト文芸とかキャラ文芸みたいなノリで売ろうとする時代なんだなぁ……と少し遠い目をしてしまいました。去年の『殺し屋の営業術』がそういう方針でヒットしているから、というのもあるんでしょうし、遡れば『ぼくらの時代』があるんだから今更ですが。というか『ぼくらの時代』、作中の時代は概ね1970年代の後半あたりなので、もう半世紀近く前の話になっちゃうのか……私が読んだのは90年代後半で、その時点でもう「そこそこ古いな」という印象だったが、今や「古い」なんてレベルじゃねぇな。

 さておき『弾丸とヒマワリ』、内容的にシリーズ化は難しいだろうし続編は出ないと思うが、差し当たって作者の受賞後第一作には期待しています。


2026-10-29.

・村上龍の訃報に驚いた焼津です、こんばんは。

 「村上と言えば春樹か龍」と言われるぐらい有名な作家で、沢山の著作があるから正直「これはちょっと……」な作品もチラホラあったけど印象的な作品を多く手掛けている。具体的に書くと『コインロッカー・ベイビーズ』、『愛と幻想のファシズム』、『五分後の世界』、『半島を出よ』など。半自伝的な『69 sixty nine』も結構好き。個人的に『歌うクジラ』以降はあまり興味が持てなくなり、近作は『オールド・テロリスト』くらいしか買ってない。遺作になった『ユーチューバー』もスルーしてしまった。

 昔はブックオフとかの100円コーナーに行くと「む」のところにこの人の本がいっぱいあって、暇を持て余した金のない読書好きがテキトーに見繕っては読んでいたものです。私も修学旅行のバッグに『フィジーの小人』を突っ込んで、空いた時間にパラパラ読んでたな……以前はあんなに投げ売りされていたのに、今や「追悼ブースト」と言わんばかりに各地で古本価格が上がっている模様。実家に行けばボロボロの状態とはいえ大量の龍作品が置かれたままになってるから、今度寄った時に何かテキトーなのを持って帰るかな。デビュー作の『限りなく透明に近いブルー』はあまり面白くないので、初めて龍作品に触れるのであれば『海の向こうで戦争が始まる』や『イビサ』あたりをオススメしたい。

・小説『魔王2099』が完結へ。第1巻発売から2099日の節目に発表(電撃オンライン)

 アニメにもなった『魔王2099』が遂に完結だ。この機会にちょっと振り返ってみましょう。

 まず、『魔王2099』とはどんな話なのか? 出だし(プロローグ)は至ってありふれたものです。大陸暦1599年、「不死」の頂点たる魔王は「定命」の代表たる勇者によって討ち果たされる。これによって「不死戦争」は終結。しかし不死の頂点である魔王が滅びるハズもなく、500年の時をかけてようやく復活する。ただ、500年の間に世界はすっかり変わってしまって……ジャンルが「異世界ファンタジー」から「サイバーパンクSF」になっていたのだった! という魔王ミーツ科学文明な一風変わったシリーズです。魔王は神々が「定命の者たちからの信仰」によってその存在を成り立たせるように、「人々から寄せられる畏怖の念や服従心」によって存在を強化する。「じゃあ、配信者になって『畏れ』を集める、かぁ……!」と決意、「こんばんモータル〜、どうもー定命の者共、生の苦しみ味わってる? 魔王ベルトール=ベルベット・ベールシュバルト、即ち余である」と今日も元気に画面の向こうの「臣下」に挨拶するのだった。

 アニメにもなったんで見た人は結構いると思いますが、世間的に「大ヒットした」とは言い難い状況なので知名度はそこまで高くないと思います。アクションシーンはかなり頑張っていたが、魔王様の「真の姿」がクソダサくてガッカリした記憶がある。アニメ化した範囲は原作の2巻までで、3〜5巻、そして発売が決定した6巻(最終巻)はアニメ化されておりません。恐らく今後もする事はないでしょう。

 とにかく『魔王2099』は「順風満帆」とは言いにくい軌跡を辿ってきた作品です。概略を書いていきますと、「第33回ファンタジア大賞」に応募(ちなみに応募時のタイトルは『剣と魔王のサイバーパンク』)し、見事「大賞」の座を射止め、2021年1月に刊行スタート。ちなみにこれの前の第32回で「大賞」を獲っているのが『スパイ教室』です。2021年4月には2巻が刊行され、このペースなら年に2〜4冊程度で安定するのではないか……と期待されましたが、どうもセールスが芳しくなかったらしく一旦打ち切りになります。作者の「紫大悟」は翌年、『断頭台の花嫁 世界を滅ぼすふつつかな竜姫ですが。』という新作を出して仕切り直している。が、どういう経緯なのか詳しい事はわからないが、2023年に突然アニメ化が決定。同年、2年ぶりとなる新刊(3巻)も発売されます。その翌年の2024年10月、秋クールにアニメの放送を開始。これに合わせて10月に4巻、11月に5巻と2ヶ月連続刊行された。ここから『魔王2099』の快進撃が始まる……と良かったのですが、アニメ化パワーを以ってしてもセールスはあまり伸びなかったらしく、6巻の刊行予定がハッキリしないまま2年近くの月日が流れました。「またしても打ち切りなのか……」とファンが暗い顔をしていたところに↑の情報が舞い込んだワケで、情緒がおかしくなった次第です。続きが出るのは嬉しい!→でも最終巻か……→い、いや、それでも出ないよりはいいだろう、うん……→えっ、電子専売で紙書籍ナシ!? アニメ化までしたシリーズの最終巻なのに!? ともうグッチャグチャ。恐らく全部の伏線を回収して畳むのは無理だろうから、最低限「これだけは」という部分だけ決着させるつもりでしょう。となると焦点はやはり「六魔侯」か。

 魔王にはかつて「六魔侯」と呼ばれる6名の配下が付き従っていていたのですが、500年後に復活した時点でそばにいたのは「煌灼侯」マキナのみ。「血術侯」マルキュスは時代遅れの魔王を見限り、叛旗を翻して1巻のボスキャラとなります。で、残りの4名はどうなったのか? を調べるのが2巻以降の主なストーリーとなるワケです。若干ネタバレになりますが、「天忌候」メイは体を乗っ取られ、半ば洗脳されたような状態で「敵」として登場。「黒竜候」シルヴァルドは生存していて割とすんなり仲間になります。「業剣候」ゼノールは本編開始前(統合暦2055年なので44年前)マルキュスによって「不死炉」にくべられ、魂を「薪」にされて死亡。このへんの詳しい描写は5巻にあります。

 以上のように5/6に関しては消息が判明しているのですが、残る「青雷侯」ラルシーンだけ不明のままでした。原作におけるこれまでの記述をまとめると、「魔王が勇者に討たれた後、ラルシーンが六魔侯のまとめ役になって魔王復活まで揃って息を潜める事にする」「しかし本編開始の80年前に現想融合(ファンタジオン)で世界が崩壊」「マルキュスも関わっていた『不死狩り』から逃れるため六魔侯は散り散りになる」「マキナをはじめ六魔侯の面々はラルシーンのその後についてまったく知らない」「ポジションとしては魔王の政を補佐する宰相、実質的には不死の王国のナンバー2だった」「性別は男、『錫杖を持った青みがかった黒髪の人間』と描写され、ですます調の丁寧語で喋る」……5巻までやってこれぐらいの情報しかありません。あまりにも生きている痕跡がなさ過ぎて作中でも「死んだんじゃないの〜?」みたいな扱いを受けています。恐らく、最終巻はこれまでずっと謎に包まれていた「ラルシーンの行方」について掘り下げる内容だと思われますが……もし最終巻でも全然出て来なかったら伝説になっちゃうな。

・『東京レイヴンズ』最終巻 来年1月 発売決定

 遂に「東レ」こと『東京レイヴンズ』が完結の時を迎える……休止していた期間が長いシリーズだけにしみじみしてしまった。2010年に刊行開始したシリーズで、2013年から2014年にかけてアニメ版が放送、当初は刊行ペースも速かったがアニメ終わったあたりからだんだん鈍ってきて、2018年に16巻を出した後、長い沈黙のシーズンへ入る。17巻が出たのは2025年で、約7年ぶりでした。来年出る18巻でやっとフィニッシュ。本編とは別に短編集が4冊、あと円盤特典として書き下ろされた番外編が2冊(『東京レイヴンズ lost-girl with cat』と『東京レイヴンズ two-dogs were left』)あるから全24冊、いや完結後にもう1冊くらい短編集が出そうな気もするから全25冊になるかな? 「霊災」が多発するパラレルな日本で陰陽師を育てる教育機関「陰陽塾」に通う主人公たちが激しいバトルを繰り広げる、ある意味で『呪術廻戦』を先取りしたような和風伝奇アクションです。個人的には毛利志生子の「カナリア・ファイル」シリーズを連想するノリ(あっちは陰陽師じゃなくて呪禁師だけど)。

 ちなみに、夢枕獏の「陰陽師」シリーズは現在も続いており、今年の1月に単行本最新刊『氷隠梅ノ巻』も出ている。蘆屋道満を主人公にしたスピンオフ『黒い陰陽師』に至っては8月に出たばかりだ。こっちはもう作者の寿命が尽きるまではずっと終わらないだろうな……。

・天野雪人の『ガララリア戦記』読んだ。

 副題「姫将軍に見初められた傭兵が、戦場で英雄になるまで」。架空の大陸「ガララリア」を舞台にした戦記ファンタジーの1冊目。元はカクヨム連載作品で、カクヨムの方では既に完結しています。全5章で1章の内容が書籍版の1巻に相当するから、加筆量にもよるけど全5巻程度で終わるんじゃないでしょうか。7月に出たばかりなのにもうKindle Unlimitedの対象になっており、プライム感謝祭で新しいKindleデバイス買って「Kindle Unlimited3ヶ月無料」の特典を利用し久々にアンリミ会員になった事もあり、前々から気になっていたコレを早速借りて読んでみました。

 元は小さな王国に過ぎなかったが、ガララリア大陸を統一せんとして方々の国を蹂躙する侵略者と化した「ガゼルダ帝国」。今まさにそのガゼルダに滅ぼされんとしている小国「ハウ王国」に雇われた傭兵「鉄狼団」の面々は、敗色濃厚な戦場でとっととトンズラする準備をしていた。報酬は前払いで受け取っている、本隊が崩れ伏兵である自分たちに撤退命令も出せないような壊滅状態に陥っている以上、もう付き合う義理はない。だが、団長のラースは遣る瀬無い想いを抱え、独り前線に残って無意味と知りつつも鬱憤を晴らすべくひと暴れしていた。彼は「紋章持ち」という超常的なパワーを持った戦士のひとりだったのだ。しかし、侵略者たるガゼルダにも、当然のように紋章持ちはいる。3つあるランクの最上に位置する「神」の紋章を持った「エデルナ・エル・ガゼルダ」――「エル」は皇位継承権を持つ皇族だけが名乗る事を許された名であり、5人いる皇帝の子の中で「第二王女」に当たる存在。ラースの紋章は最下位の「獣」(ちなみに真ん中のランクは「竜」)であり、戦いは「エデルナの勝利」に終わった。しかしエデルナは「獣」にしては異例の強さを有するラースに興味を抱き、己の臣下にならないかと誘いかける。ガゼルダ帝国の第二王女と鉄狼団。この出会いが、やがてガララリアの歴史を大きく変えていく事になるのだが……。

 という感じで、まぁ非常にコッテコテな戦記ファンタジー小説。『魔弾の王と戦姫』とか、最近の作品だと『捕虜英雄』を思い出しちゃうよね。こっちの方は別に捕虜になったとかではなくて、王女からじきじきにスカウトされて「悪くない話だ」と納得し軍門に下る流れなんですけども。「戦いはエデルナの勝利に終わった」というのも力を示すための模擬戦みたいなものだし。

 ハッキリ言って読み始めの段階ではあまりにもコテコテ過ぎて面白いポイントを見出せず、「ハズレ引いちゃったかな?」という不安もちょっとよぎりました。プロローグとエピローグ、あと巻末の番外編を除くと本編は6章構成になっており、1章目が勧誘(エデルナとラースの模擬戦含む)、2章目が鉄狼団とエデルナが抱える部隊の模擬戦、3章目で「次の戦争」に向けて動き出して、4〜6章が策謀渦巻く「ルルベ大森林攻略戦」……といった具合であり、ぶっちゃけ前半はほぼ溜め回です。つまらないというほどではないが、大きく盛り上がる事もない。後半、「ルルベ大森林攻略戦」が始まってからが本番。鉄狼団の面々はいったい何を目的として戦っているのか? エデルナ第二王女が胸の裡に秘める想いとは? そして帝国の「敵」に当たる様々な国々の英傑たち……戦記要素が大いに盛り上がってきてワクワクします。

 ガゼルダ帝国は小さい国をどんどん侵略して併呑していっているワケですが、中にはなかなか攻略できず手こずっている大国も当然ながらあります。その一つが北の宗教国家「フーレイ法王国」。「神」を3人も抱えている(ちなみに帝国も姫将軍エデルナを含め神の紋章持ちが3名存在する)うえ高い国力を有しており、侵攻開始から随分と経っているにも関わらず陥落する気配がない。法王含む20人の権力者、言わば「二十人委員会」めいた連中が合議制で動かしている国だが、「何名かの要人が暗殺された」という噂も囁かれており、どこか不穏な空気が漂っている。そして帝国に抗うもう一つの強力な国が大陸東部の「獣王国」。この国には「神」が存在しないが、「特殊紋章」と称される「神の紋章に匹敵するパワーが宿った、文字通り特殊な紋章」を持った英傑が2名いる。「獣王」と「幻獣」。特殊紋章持ちを擁するだけではなく、「獣の紋章を持った兵士たちが他国に比べて多い」という特徴もあります。銃火器の発達によって戦争は帝国有利に進んでいるものの、そうした事情からなかなか攻め切れずにいる。更にガララリア大陸から離れた東の島国「東国」(そのまんまやん……)には「風神」と「雷神」、ふたりの「神」がいて……ってな具合に勢力図が明らかになっていき、「くぅ〜、これこれ、こういう戦記ファンタジーが読みたかったんだよね!」ってとても満足しました。たった1人で戦況を覆しうる「神」、ファンタジー戦記ならではのケレン味ですよね。

 まとめ。「リアリティがある」とか「重厚」とか「格調高い」とか、そういう路線ではなくて「ポップコーンやポテチを片手にコーラ流し込みながら鑑賞する」タイプの娯楽方面に振り切ったファンタジーです。「鉄狼団」という名称でオルフェンズの「鉄華団」をちょっと思い出したりしたが、オルフェンズにはこういう「クレバーに立ち回りながら彼らなりの目標達成を目指す傭兵団」みたいなのを求めていたんだよなぁ……と少ししみじみしてしまった。興趣を削がないよう、説明を省いた部分も多くあまり内容が伝わっていない気もするが、「アンリミで1巻を読み終わった直後に2巻を購入した」という事実から私がこのシリーズにどれだけ魅了されたかを察してください。2巻は獣王国との戦いにエデルナ軍が参戦、このままだと滅ぼされてしまうと危惧した獣王国は長年確執のある東国に頼み込み、極東の島国から2人の「神」がやってくる――というストーリー。程好くライトで程好くシリアス、テンポ良くサクサク進んでいくので面白いです。早く3巻以降も読みたいぜ。1巻には次巻予告があったけど2巻には3巻の刊行告知がなかったから、まだ決定してないのかな? 書籍版で読み始めたから最後まで書籍版で読み通したいが、状況によっては3章以降をカクヨムの方で読む事になるかもな……。



管理人:焼津