「MF文庫Jの長期シリーズをまとめてみた」(2014年2月11日の記事)


 前回の記事(「君はスーパーダッシュ文庫を知っているか?」)が冗長だったので、今回は手短に。

 MF文庫Jは2002年7月に創刊した文庫系ライトノベルのレーベルです。略称「MF」。版元はメディアファクトリーだったが、なんやかんやあって合併されて再編されて現在はKADOKAWA。メディファクの名前もブランドカンパニーとして残されているから「版元はメディアファクトリー」と言い切ってもそれはそれで大きく間違ってはいない、はず。総刊行点数は今年(2014年)1月時点で1112冊(イコノクラスト!の新装版1巻と2巻は除外、また通常版と特装版がある場合はまとめて1冊とした)。月平均8冊、刊行数がひと際多かった昨年(2013年、164冊)はなんとひと月あたり13冊以上だ。編集長曰く「自社の映像やゲーム作品のノベライズのために創刊しました」とのことで、オリジナルに力を注ぐ予定はなかったらしいが、今や電撃文庫に次ぐ業界二番手のポジションをキープしています。

 最大の特徴は何と言っても「緑一色の背表紙」。役満かよ、ってくらいの緑・緑・緑。昔は裏表紙(あらすじが書いてあるところ)まで緑色だったが、2010年にデザインが変更され、裏表紙は白くなりました。次に目に付く特徴は「価格が税抜580円で固定」。創刊からそろそろ12年、さおだけ屋の如く価格を変えずにやっています。買う側にとっては「いちいち確認しなくていいし計算も楽」というのがメリットだけど、価格を一定にするため原稿の枚数を制限せねばならず、ページ数の柔軟な増減がやりにくいというデメリットもあります。それから「発売延期が多い」。新刊が出ると聞いて本屋へ行ったのに置いてない、調べてみると延期だった――という経験はMF読者にとって通過儀礼の一つである。噂によるとMFのスケジュールは滅茶苦茶タイトらしく、某イラストレーターが「発注から納品までの期間が短すぎてまともに仕上げられない」とボヤいたこともあった。公式サイトの「News&Topics」でここ3ヶ月間(2013年12月〜2014年2月)のニュースを眺めただけでも発売延期のお詫びが6件、計12冊が延期されている(うち2冊は画集、1冊は漫画)。記憶にあるかぎりで一番すごかったのは2011年5月ですね、未だに出ていない『かのこん16』含めて確か6冊くらい延期したはず。あの頃は震災の影響という可能性もあるので例外かもしれないけど、「恒常的に延期するレーベル」ってイメージがMFに染み付いていることは揺るぎのない事実です。

 前置きが終わったところでさっさと本題に移りますが、結論から述べると10冊以上に及ぶ(「以上」だから10冊で終わったものも含む)長期シリーズは24個あります。ひと口にシリーズと言っても番外編があったりスピンオフがあったり続編があったりでややこしい。本編は本編、スピンオフはスピンオフでキッチリ分けようかとも思ったが、そもそもそれなりに長期化しているシリーズでないとスピンオフなんてやらないので、わざわざ分けるまでもないかな……とごっちゃにして表記した。シリーズの状態は「完結済」「継続中」「休止中」「未完」の四種に分類。「完結済」は公式的に本編の完結が宣言されたものを指す。番外編やスピンオフ、新章に相当するシリーズが続いていても一旦完結を告知したシリーズはすべて「完結済」とする。「継続中」「休止中」はまだ本編の最終巻が出ていないシリーズで、ここ1年間(2013年2月〜2014年1月)に新刊を出している、または今年の2月や3月に新刊を出す予定のものは「継続中」、どちらの条件も満たしていないものは「休止中」とした。「未完」は……途中で作者が死去したシリーズです。誰かが引き継いで終わらせる可能性も皆無ではありませんが、「休止中」とは見做しにくいので「未完」としました。

 以下、24シリーズすべてを列挙する。

・01.『陰からマモル!(1〜12)』『もっと!陰からマモル!(1〜2)』(2003年7月〜2010年4月/完結済、ただし続編は休止中
・02.『風水学園(1〜8)』『風水学園えくすとら(風の巻・水の巻)』(2003年8月〜2006年3月/完結済
・03.『あそびにいくヨ!(1〜18)』『キャットテイル・アウトプット!(1〜4)』(2003年10月〜/継続中
・04.『銃姫(1〜11)』(2004年4月〜2009年12月/完結済
・05.『ゼロの使い魔(1〜20)』『タバサの冒険(1〜3)』『烈風の騎士姫(1〜2)』(2004年6月〜2011年2月/未完)
・06.『イコノクラスト!(1〜10)』(2004年9月〜2008年11月/完結済
・07.『パラケルススの娘(1〜10)』(2005年5月〜2010年08月/完結済
・08.『かのこん(1〜15)』(2005年10月〜2010年12月/休止中
・09.『ぷいぷい!(1〜11)』『ぷりぷり!!(1〜3)』(2006年5月〜2010年2月/完結済
・10.『きゅーきゅーキュート!(1〜14)』『きゅーきゅーキュート!SS(1〜3)』(2006年7月〜2011年8月/完結済
・11.『けんぷファー(1〜12)』『けんぷファー(8 1/2・9 1/2・10 1/2)』(2006年11月〜2010年3月/完結済
・12.『えむえむっ!(1〜10)』『えむえむっ!(8.5・9.5)』(2007年2月〜2010年9月/未完)
・13.『聖剣の刀鍛冶(1〜16)』(2007年11月〜2013年8月/完結済
・14.『かぐや魔王式!(1〜10)』(2008年12月〜2011年5月/完結済
・15.『緋弾のアリア(1〜16)』『緋弾のアリア リローデッド』(2008年8月〜/継続中
・16.『僕は友達が少ない(1〜9)』『僕は友達が少ない CONNECT』(2009年8月〜/継続中
・17.『まよチキ!(1〜12)』(2009年11月〜2012年7月/完結済
・18.『機巧少女は傷つかない(1〜12)』(2009年11月〜/継続中
・19.『星刻の竜騎士(1〜14)』(2010年6月〜/継続中
・20.『おれと一乃のゲーム同好会活動日誌(1〜10)』(2010年7月〜/継続中
・21.『この中に1人、妹がいる!(1〜10)』『この中に1人、妹がいる!(5.5)』(2010年8月〜2013年3月/完結済
・22.『つきツキ!(1〜12)』(2010年11月〜/継続中
・23.『精霊使いの剣舞(1〜12)』(2010年12月〜/継続中
・24.『お兄ちゃんだけど愛さえあれば関係ないよねっ(1〜10)』(2010年12月〜/継続中

 リストを眺めて「あれ? 『神様家族』『インフィニット・ストラトス』がないような……」と首を傾げた方もおられるかもしれません。この2つ、MFを代表するシリーズでアニメ化までされましたが、両方とも10巻には達していません。『神様家族』は本編が8巻まで、続編の『神様家族Z』を加えても9巻までです。ISは作者と出版社の間でトラブルがありまして、7巻まで出したところで喧嘩別れ。シリーズは「オーバーラップ文庫」に移籍し、MF文庫Jのライブラリーにあった既刊のデータも抹消されました。移籍先でも新作はまだ8巻しか出していませんから、どのみち対象からは外れるんですが……さておき、こうして一覧にすると2010年あたりがラインナップの入れ替え時期だとわかりますね。

 01.『陰からマモル!』はMFの中でもっとも早くアニメ化した作品です。とはいえ『神様家族』や『ゼロの使い魔』も同じ年(2006年)にアニメを放送しているから、ほとんど差はない。陰マモが冬、神様家族が春、ゼロ魔が夏、という順。作者である阿智太郎は電撃ゲーム小説新人賞(電撃小説大賞の旧名)出身。電撃でも同時期に忍者モノを書いていた。忍者漫画の原作も担当しており、相当な忍者好きらしい。陰マモは先祖代々ヒロインの家系だけを守り抜いてきた専任忍者の末裔、「陰守マモル」が主人公を務める内容で、小難しい要素は一切ない。気を楽にして寛いで読めるコメディに仕上がっています。12巻で一度「フィナーレ」を迎えたが、2009年7月に続編『もっと!陰からマモル!』をスタートさせた。2010年4月発売の2巻が現時点での最新刊であり、どうも打ち切りっぽい。作者の阿智は現在電撃の方で『きわめて忍極』というまたしても忍者モノの新シリーズを展開しています。MFの仕事は2012年1月の『ツノありっ!4』が最後となっている。

 02.『風水学園』はタイトル通り「風水」をメインに据えた一種の魔術学園モノ、らしい。和風伝奇っぽいムードだが読んだことはない。メディアミックスが地味(一冊だけ漫画版が出ている)なせいもあって長期シリーズにしては知名度がいまひとつだが、MF初期の読者なら存在は認識していたはず。本編8冊と番外編2冊で計10冊。それと『風水少女』はタイトルからして設定が共通している関連作か何かだろうか? ハッキリしないので外しておいたが、こちらは3冊目まで。作者の夏緑はファンタジア出身、『ぼくらの推理ノート』などの漫画原作も手掛けている。

 03.『あそびにいくヨ!』は宇宙人のヒロインを巡ってドタバタする話。アニメ化されるまでかなり時間が掛かった(2010年放送開始、原作は14巻まで出ていた)せいでレーベル中期の作品みたいに思われがちだが、実はゼロ魔よりも早い。レーベルを初期から支えてきた代表作であり、MFで10年以上続いているシリーズは今のところコレだけ。作者である神野オキナはファミ通文庫出身、ただしそれ以前も別名義で活動していました。アニメ終了後なかなか新刊が出ず休止状態に陥ったが、15巻からイラストレーターを変更して再開。最新刊である18巻は2013年12月発売。『キャットテイル・アウトプット!』という『あそびにいくヨ!』1巻の約2年後を舞台にしたスピンオフも現在4冊目、だんだん話がクロスしてきているそうなので、これからあそいくを読むつもりの方は併せて購入した方がいいかも。

 04.『銃姫』は「本格ファンタジー」と銘打って当時のMFが気合を入れて展開していたシリーズ。「世の中に影響を与えるような、人間ドラマが描けている作品を発表したい」が編集長の弁で、MFが本当に進みたかった路線はこういう方面じゃないのか……などと邪推してしまう。最初からオリジナル重視だったわけじゃないし、最初からラブコメ重視やバトル重視だったわけでもないのだ。作者は高殿円、少年向けレーベルと少女向けレーベル、そして一般文芸と、あらゆるフィールドで活躍している作家。『トッカン』の原作書いた人、と言ったら割かし通じるかも。完結して4年が経ったけど、2つ目のコミカライズである『銃姫 -Phantom Pain-』は依然連載中。今年で開始から10年になるし、「『銃姫』新章スタート! アニメ化も決定!」みたいな大きな動きがあるかも。ないかも。

 05.『ゼロの使い魔』はMF自体の知名度を一気に押し上げた、言わずもがなの有名シリーズ。「ピンク髪のハー○イオニー」に心を惹かれて読み出した人も多いだろう。異世界召喚ネタのファンタジーで、普通の高校生が「伝説の力」を駆使して大活躍する、非常にストレートな娯楽長編である。ラブコメやお色気の要素もふんだんに盛り込まれている一方、戦争要素もあって意外と血腥い。4期に渡ってアニメ化される人気ぶりで、ストーリーもあと2冊くらいで完結するところまで進んでいましたが、末期癌を患っていた作者が2013年に亡くなったため未完となりました。返す返すも残念である。作者のヤマグチノボルは『カナリア』や『グリーングリーン』など数多くのエロゲーのシナリオ執筆にも携わっており、個人的には「ライトノベル作家」としてよりも「エロゲーライター」としての印象が強かった。一番好きなソフトは藤崎竜太と組んだ『ゆきうた』だが、最初にやった『グリーングリーン』に対する思い入れも相応に深い。話を戻してゼロ魔、外伝として『タバサの冒険』が3冊、若かりし頃のルイズ母を描く『烈風の騎士姫』が2冊あり、全体としては25冊。未完ながら現時点でMF最長のシリーズである。ライター仲間の桑島同様、もともとは『グリーングリーン』のノベライズを出すためにMFへやってきたクチであり、彼らが神様家族やゼロ魔を立ち上げていなければMFはオリジナル重視路線に進まず、予定通りノベライズの比率を高めにしていたかもしれません。そういう意味でも両シリーズはMFにとって大きな転換点だったと言える。

 06.『イコノクラスト!』は「ラノベ界の傭兵」とも「榊ファクトリー」とも呼ばれる榊一郎の手掛けたシリーズ。普通の高校生だった主人公が異世界に召喚される――という点ではゼロ魔と一緒だが、同時期のシリーズであるにも関わらずゼロ魔と比較する読者はほとんどいなかったように記憶しています。「異世界召喚」そのものが昔からよくあるシチュエーションだから、というのと、雰囲気が違いすぎるせいで「比較しよう」という気持ちが湧きあがらなかったのだろうか。とにかく『イコノクラスト!』は暗い。主人公が救世主に選ばれて戦うのだけれど、「俺TUEEE!」的な爽快感はなく、読めば読むほど気が沈む――との評。1巻の冒頭から陰々滅々とした雰囲気が漂っており、よくこれが10巻も続いたな、と素直に感心します。3巻からイラストレーターが変更になったため、それに合わせて1巻と2巻の新装版も発売されましたが、さすがにカウントしないでおいた。

 07.『パラケルススの娘』は本格ファンタジーの書き手として高い評価を得ている五代ゆうの過去最長となったシリーズ。この人の作品は毎回毎回骨太すぎて読むのが疲れる、という声もある。「ライト」ノベルとは言いにくいかもしれない。多少取っ付きにくいけど、ハマればドップリです。岸田メルの美麗イラストを完備しつつも、あまり目立たずひっそりと終わった。1巻と10巻じゃだいぶ絵柄が違うな。7巻と8巻の間で20ヶ月もの休止期間があり、てっきり打ち切られたかと思っていたが、知らないうちに再開していて気付いた頃にはとっくに完結していた。五代ゆうは現在“グイン・サーガ”の続編執筆プロジェクトに参加しています。

 08.『かのこん』はMF新人賞出身者である西野かつみのデビューシリーズ。自前の新人が手掛けた長期シリーズはこれが初であり、新人賞を獲った作品がシリーズ化されて10巻を超えたのはこれ以外だと『まよチキ!』と『つきツキ!』の二つしかない(そこに『変態王子と笑わない猫。』が加わる可能性はある)。タイトルは応募時の『彼女はこん、とかわいく咳をして』を略したもので、正確な年齢がわからないほど長命な妖狐がヒロインの伝奇ラブコメです。『ぱにぽに』『まぶらほ』『みなみけ』あたりの影響か、当時はひらがな四文字タイトルが流行っていたんですよね。発売直後から「中身がない」「エロばっかり」「ライトノベルというよりライトポルノ」と散々叩かれまくったが売上は好調で、2008年にアニメ化されて地上波進出。キャラデザがスレンダー系からムチムチ系に変更されたせいで原作ファンからは不評だったものの、過激なお色気表現も相俟ってかヒットを飛ばした。そろそろクライマックスも近づいてきた、という15巻で刊行が止まり、未だに完結していない。16巻の発売が告知されていた時期もあったが、何度も延期を重ねていつしか有耶無耶に。公式サイトでは「2011年12月22日発売 」という表記のまま更新が止まっているが、果たして書店に並ぶ日は来るのだろうか。

 09.『ぷいぷい!』は『風水学園』の夏緑によるシリーズで「ランプの魔神」がヒロインを務める。イラストレーターは『ゆるゆり』の「なもり」、コミカライズもなもり自身が行っており、貴重な「百合ではないなもり」を拝むことができる。漫画版が3冊で終わったのは『ゆるゆり』で忙しくなったせいか? それとも他の理由? 余談だがなもりの商業デビューは『リセットな彼女』というファミ通文庫から出ていたライトノベルのイラストで、『ぷいぷい!』はその後。本編は11巻で完結したが、4ヶ月後には早くも「二学期編」にあたる『ぷりぷり!!』がスタート。しかし翌年の3冊目が最終巻となった。

 10.『きゅーきゅーキュート!』の作者は野島けんじ、スニーカー出身だがそちらでは芽が出ずMFに流れてきた。『君が望む永遠』のノベライズを終えた後にオリジナルシリーズを開始しており、パターンとしては桑島やヤマグチに近いか。タイトルの「きゅー」はヒロインの口癖から来ているらしい。よく知らないので調べてみたら、主人公の能力は「相手の能力を無効化する」タイプのモノなんだとか。禁書とかエム×ゼロとかRIGHT×LIGHTとか、そういうキャンセラー系というか打ち消し系というかアンチ能力系の主人公が集中した時期があったな……その頃の作品か。タイトルからして普通のドタバタラブコメかと思っていたけど、結構厨二っぽい要素があるんだな、興味が湧いてきた。爆速というほどではないけど刊行ペースが非常に安定しており、一番掛かったときでも5ヶ月しか間が空いていない(9巻と10巻の間)。アニメ化ブーストの恩恵を蒙ることなく番外編含めて17冊も刊行したのはこの時代スゴイと思う。

 11.『けんぷファー』はちょっと見辛いけど本編12冊番外編3冊の計15冊です。番外編の巻数を小数点表記すると「8.5」「9.5」「10.5」になる。平凡な男子高校生がある朝起きたら美少女に、というTSモノのバトルファンタジー。アニメ化されており、近々Blu-ray BOXも発売される。作者は『まぶらほ』の築地俊彦、今年で文庫デビュー15周年となるが、単著に限っても80冊くらい出している。2、3年後には100冊超えそう。まぶらほ・けんぷファー・ポリフォニカのぶるう・戦嬢・『ハヤテのごとく!』ノベライズと5シリーズが並行していた2008年は特に凄まじく、12冊も新刊が出て「月刊・築地俊彦」状態だった。

 12.『えむえむっ!』はドMの主人公がドSのヒロインに暴力を振るわれて悦ぶ、「いいのか、コレ……いろんな意味で」と当時の読者を戸惑わせた学園コメディ。3巻の帯が「アニメ化(したい)」で苦笑したが、2010年には本当にアニメ化された。『ナナとカオル』みたいなSM青春ストーリーではなく、「変な体質に悩まされる主人公」の系譜に連なるシリーズである。この血脈は『緋弾のアリア』『まよチキ!』、他レーベルだが『モテモテな僕は世界まで救っちゃうんだぜ(泣)』などの後続に受け継がれている。番外編含めて12冊刊行され、累計で100万部を超えるヒット作になりましたが、2011年4月に作者である松野秋鳴が死去。未完となりました。

 13.『聖剣の刀鍛冶』は異世界ファンタジー。「刀鍛冶」と書いて「ブラックスミス」と読む。作者は主人公が生身で戦車を倒したりする“上等。”シリーズの三島勇雄。ヒロインのセシリーは15巻まで表紙イラスト皆勤状態だったものの、ラストを飾る16巻はリサに譲った。開始から2年と経たないうちにアニメ化されて驚いたが、結局2期目は来なかったな……本編は15巻で完結、16巻は番外編でシリーズのエピローグに当たります。山田孝太郎の手によるコミカライズはクオリティが高いのでオススメ。漫画版の連載はまだ続いていますが、そろそろフィナーレ?

 14.『かぐや魔王式!』は「まおうしき」ではなく「まおしき」と読む。ヒロインの名前が輝夜真央(かぐや・まお)で、あだ名が「魔王」。人からチヤホヤされるためなら努力を惜しまない仮面優等生の主人公と「大衆はコブタだ!」と叫ぶ魔王ヒロインによるライトノベル版『男組』、ではなく「新世界の王を目指す」誇大妄想気味なヒロインに引っ張られて主人公たちがSOS団的な活動を繰り広げたり、生徒会からの接触を受けたりする学園コメディ。1巻の頃は散々「ハルヒっぽい」と言われたが、順調に巻を重ねていった。1巻の一ヶ月前に発売された『ぴにおん!』という新人のデビュー作も「ハルヒっぽい」と指摘されまくった経緯があるので、「またハルヒかよ」みたいな感じだったと記憶している。検索するとアニメ化の噂もあったみたいだが、実現しなかった。作者の月見草平は兼業ながら余暇の大半を小説執筆に当てるほど創作活動が大好きな人で、デビュー以降ずっと休みなくせっせと新刊を出し続けている。MFだけでも31冊の著作があり、MF最多記録である夏緑の32冊を追い抜くのも間近。

 15.『緋弾のアリア』はアニメで防弾跳び箱や制服パラシュートなど珍妙なガジェットの数々が評判になったアクション・ラブコメ。武偵という「武力を行使する探偵」を養成する学園に通う主人公たちが様々な事件に対処する。大枠としてはミステリやサスペンスで、ヒロインも「H」の血統に連なる者だが、二つ名が「双剣双銃(カドラ)のアリア」だったりと推理よりもアクションの様相が濃い。大元のHも怪しげな武術を使いますし、その点からすると間違いではないかも。アニメの2期はまだ来ないのだろうか……ちなみに電撃でやってる『やがて魔剱のアリスベル』はアリアと同じ世界が舞台。

 16.『僕は友達が少ない』は実験精神旺盛すぎて人気に結びつかない(「ヒロインが常に全裸」と謳った『ねくろま。』、蓋を開けてみればヒロインが骸骨だった……「白い恋人」じゃねーか)平坂読が作者だけに、「僕は売上が少ない」と自虐ジョークを飛ばすハメにならないだろうか……と旧来のファンは不安がったが、あにはからんや予想を覆しあれよあれよという間に大ブレイク。映画の公式サイトによると「シリーズ累計622万部突破」、売上面ではMF最強のシリーズだ。参考までに書いておくとゼロ魔の累計部数が450万部ほどである。ちなみに「僕は売り上げが少ない」の自虐ジョークは後年渡航(『やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。』の作者)が実際に使った。今は「なかなか続きが出ない」という印象のシリーズになっていますが、7巻あたりまではだいたい4ヶ月に1冊くらいと比較的良好なペースを保っていました。そこからだんだん間が空くように……10巻はいつになることやら。アンソロジーの『ゆにばーす』も2冊あるが単著ではないので外した。

 17.『まよチキ!』は男装執事がヒロインのシリーズで、アニメ化するのが非常に早かった。『聖剣の刀鍛冶』同様、シリーズ起動から放送開始まで2年と経っていない。第5回MF文庫Jライトノベル新人賞の「最優秀賞」受賞作だが、実はMFが最優秀賞を与えたのは『まよチキ!』が初めて。それまではずっと空位でした。私は「最優秀賞」というランクがあること自体、『まよチキ!』でようやく知った……てっきり「優秀賞」が上限だと思ってました。大賞がなかなか出ないことで有名だったファンタジア長編小説大賞(第20回から「ファンタジア大賞」と改名)でも第4回の時点で『はじまりの骨の物語』に与えているから、MFはよっぽど出し渋っていたんだな。『まよチキ!』以降は毎年大賞が出るようになるので、新人賞的にはターニングポイントかもしれません。

 18.『機巧少女は傷つかない』は『まよチキ!』と同月スタートの学園バトルアクション。1巻発売に合わせてPVを公開したり、翌月か翌々月くらいにイメージソングのCDをリリースしたりなど、気合の入った広報展開を見せていたがアニメ化決まるのは結構遅かったな。確か10巻くらいでやっと発表が来たんだっけ? ヒロインの名前が「夜々(やや)」で、『Clover Point』の「小鳥遊夜々」を思い出すなぁ……なんて遠い目をしていたら書き出しが「夜々かわいいよ夜々。夜々かわいいよ。世界一かわいいよ」で噴いた。小鳥遊夜々の魅力にイカレたクロポのプレーヤーたちが「よるよるかわいいよよるよる」とゾンビの呻き声みたいに延々と繰り返していた懐かしい記憶が甦ってしまって。作者は“グリモアリス”シリーズの海冬レイジ。今はなき富士見ミステリー文庫の出身ですが、よくぞ『バクト!』(志名坂高次の漫画ではない)からここまで上り詰めることができたものだ。BD・DVDの特典として本編より分厚い328ページの「0巻」があるのだが、特典小説の類は扱いに困るので計上しなかった。

 19.『星刻の竜騎士』の作者・瑞智士記は海冬レイジと同じく富士見ミステリー文庫の出身で、旧ペンネーム「木ノ歌詠」。なかなか芽が出ず改名以降3つくらいのレーベルを転々としていたが、星刻が当たってMFに落ち着いた。一言で述べれば「竜と触手のファンタジー」である。ノルマなの? それとも趣味なの? というくらい頻繁に触手が出てきてあられもない姿をしたヒロインたちに巻きつく。知らない人にイラストを見せたらエロゲーと勘違いするだろう。公式のピンナップで確認できるが、本当にエロゲーみたいなグロい触手である。あと最新刊の表紙が黄金聖闘士に見えて仕方ない。

 20.『おれと一乃のゲーム同好会活動日誌』はタイトルが長すぎるせいか正式名称で呼ばれることが少ない。だいたい「一乃」か「一乃さん」と縮められる。なぜさん付けなのかは説明し出すと長くなるので割愛するが、公式ブログも「ほぼ同時に一乃さん三作品がお目見え!」といった具合にさん付けで表記している事実を留意しておくといい。基本的に主人公と一乃さんとその他がダラダラとくっちゃべるだけの駄弁り系ラノベであり、会話劇に馴染めないと辛いかも。馴染んだら馴染んだで抜け出せなくなる不思議な魅力もある。無意識のうちに一乃にさん付けしていたらそれはハマった証拠であろう。人気はあるが、内容的に難しいのかアニメ化されていない。

 21.『この中に1人、妹がいる!』はヒロインたちの中に「生き別れの妹」が混ざっている、その子を避けて彼女を作らねばならない――というサスペンスじみた設定の学園ラブコメ。しかし頭のおかしいサービスシーンが矢継ぎ早に乱打され、すぐに妹が誰かとかどうでもよくなってくる。たとえばメイン格のヒロインである鶴眞心乃枝、設定上は「真面目な性格のクラス委員長」だがアニメ視聴者からは「淫乱シュークリーム」呼ばわり。他も概ね色情狂であり、さすが『魔女ルミカの赤い糸』で世に出た田口一、エロチックラブコメ旗手の面目躍如たるシリーズだった。

 22.『つきツキ!』は長文タイトル風に言うと「朝起きたら金髪巨乳が奴隷宣言」なラブコメ。始まってからずっと3ヶ月に1冊のペース(「だいたい」ではなく本当にきっちり3ヶ月に1冊であり、密かに戦慄を覚えるレベル)で黙々と新刊を重ねていたが、ここ半年くらい音沙汰がない。13巻は当初2013年11月発売予定だったのが12月に延期となり、気がつけば刊行予定リストから消えていた。たかだか半年程度、常識で考えれば「まだあわてるような時間じゃない」けれど、これまでが機械のように精密で遅滞のない刊行ペースだっただけにファンは心配しています。

 23.『精霊使いの剣舞』は「乙女しか精霊と契約できず、従って精霊の力を行使できるのも乙女だけ」という世界で、なぜか男のくせに精霊使いの素質を持った主人公が女だらけの精霊学院へ入って赤毛(イラストだとピンク髪に見える)ヒロインに「あんたがあたしの契約精霊になりなさいっ!」と命令される、一言で表現すると「ISの使い魔」な異世界ファンタジー。『やってきたよ、ドルイドさん!』『白銀の城姫』を書いた志瑞祐の新作がコレかよ、よっぽどもう後がないんだな……とファンは涙で袖を濡らした。これもこれで嫌いじゃないんだけど……アニメがブレイクしてドルイドさんや城姫が再評価されて続きが出たら嬉しいな。

 24.『お兄ちゃんだけど愛さえあれば関係ないよねっ』は未だにタイトルを『お兄ちゃんのことなんかぜんぜん好きじゃないんだからねっ』と混同しそうになる。強烈なブラコン変態妹ラブコメ。アニメでは構成が変更になってぎんぎんの正体がいきなりバラされた。略称「おにあい」、作者の鈴木大輔は『ご愁傷さま二ノ宮くん』でデビューした人。おにあいや二ノ宮くんが合わなかった人は他の作品を読む気になれないだろうが、『空とタマ』みたいなちょっと毛色の変わった単発作品も書いているので騙されたと思って読んでみては如何だろう。

 

 以上24個。うち完結済が12個(続編が止まっている陰マモを外す場合は11個)、休止中は『かのこん』1個だけ(陰マモを足す場合は2個)。未完が2個(ゼロ魔とえむえむっ)で、継続中が9個。つまり現在のMF文庫Jは10巻以上に渡って稼動している長期シリーズを

『あそびにいくヨ!』
『緋弾のアリア』
『僕は友達が少ない』
『機巧少女は傷つかない』
『星刻の竜騎士』
『おれと一乃のゲーム同好会活動日誌』
『つきツキ!』
『精霊使いの剣舞』
『お兄ちゃんだけど愛さえあれば関係ないよねっ』

 の9つ擁しているということになります。年別で見るとやはり2010年が突出していますね、6つも長期シリーズが生まれている。ここに変猫が加われば7つになります(後述しますが、変猫はちょっと刊行が遅れていてまだ10巻に達していません)。個々のシリーズについてもっと詳しいことを知りたい方は公式の特設ページ群を御参考に。

 しかしこうして振り返ってみると、長期シリーズの既刊全部を足しても約300冊。1100冊あるラインナップの中で、1/3にも満たない。関連作含めて一番冊数が多いゼロ魔でも25冊なんだから、ほんの2.3パーセントである。売上的にはレーベルを支える柱かもしれませんが、発売される新刊全部をチェックしているようなMFマニアからすると長期シリーズってそこまで圧倒的な存在ではないんだな……と感じて不思議な気持ちに陥った。今回紹介したシリーズ群はあくまでMF文庫Jの一部でしかないので、MFに対する興味が湧いた方は私よりもっと詳しい人たちにいろいろ尋ねてみましょう。とっておきのオススメを教えてくれるかもしれませんよ。長期縛りをなくした私のオススメは冲方丁の『ストーム・ブリング・ワールド(全2巻)』です、今だとMF文庫ダ・ヴィンチ版が入手しやすいかも。ダ・ヴィンチ版は田中芳樹が解説を書いています。これも最初は3巻が出るって話だったんですが、結局出なかった……。

 

 参考として「今後10巻以上行くかもしれないシリーズ」も挙げておく。「行くかも」では曖昧すぎるので、とりあえず「2013年2月〜2014年1月の間に新刊を出している、または2014年の2月か3月に新刊を出す予定」の、つまり休止していないシリーズで、完結や終了を謳っておらず既刊が5冊以上あるもの……というのを目安にしました。MFの刊行点数は年々増加しているが、デビューする新人も年々増えていっているので、毎月枠の奪い合いみたいな状況になっています。ここ3年間(2011年〜2013年)で終了を迎えたシリーズも多々あり、毎月10冊以上の新刊が出る状況でも著しく巻数が伸びそうなシリーズというのは案外多くありません。数えたらちょうど10個でした。当然ながらすべて「継続中」

(長期化しそうなシリーズ十撰)

・01.『疾走れ、撃て!(1〜8)』(2008年6月〜)
・02.『変態王子と笑わない猫。(1〜7)』(2010年10月〜)
・03.『しゅらばら!(1〜9)』(2011年4月〜)
・04.『魔弾の王と戦姫(1〜8)』(2011年4月〜)
・05.『魔法戦争(1〜7)』(2011年11月〜)
・06.『ノーゲーム・ノーライフ(1〜5)』(2012年4月〜)
・07.『剣神の継承者(1〜7)』(2012年5月〜)
・08.『小悪魔ティーリと救世主!?(1〜5)』(2012年7月〜)
・09.『落ちてきた龍王と滅びゆく魔女の国(1〜5)』(2012年7月〜)
・10.『蒼柩のラピスラズリ(1〜6)』(2012年9月〜)

 このうち変猫はアニメが放送済で、魔法戦争はアニメ放送中、魔弾とノゲノラはアニメ化が決定していますが放送はまだ。と2/3が映像化絡みのメディアミックス展開を織り込んでいます。

 01.『疾走れ、撃て!』はあそいくの神野オキナによる、ミリタリー要素の入ったアクション&ラブコメ。「ダイダラ」と呼ばれる巨大怪獣の脅威に晒されている世界で学兵たる主人公たちが戦う、路線としてはガンパレとかマブラヴの系統に属する作品みたいだ。『シックス・ボルト』をもう少し明るくした感じ? メインシリーズではないせいか刊行ペースが遅めだけど、地道に続いています。

 02.『変態王子と笑わない猫。』はカントク絵の可愛さにやられてしまった人も多いのではないだろうか。本心ダダ漏れで「変態王子」の汚名を被っている主人公と鉄壁の無表情になってしまったヒロインがドタバタする青春ラブコメ。「レーベル史上、初動売り上げNo.1!」と謳われるくらい好調なシリーズだったが、アニメ化が決まったあたりでガクンとペースダウン。5巻から6巻まで1年も間が空いてしまった。ライトノベルにしてはゆっくりとした刊行ペースで年2冊よりも多く出したことはないが、とりあえず8巻は2014年3月発売予定となっています。

 03.『しゅらばら!』は始まって早々に主人公が三股かける修羅場ラブコメ。すわ伊藤誠の再来か、と逸るのは早計である。実は3人の少女すべてと「偽装カップル」を演じるというニセコイ三重奏なのだ。今月(2014年2月)に10巻が出る予定なので、延期しないかぎり「長期化しそう」から「長期化した」リストに移ること確実。「修羅場、決着――!!」「完全無欠クライマックス」と謳っているから、もう完結っぽいですけど。

 04.『魔弾の王と戦姫』は1巻の発売直後からすごい売れ行きで、一週間と経たないうちに重版が決まり一ヶ月と経たないうちに3刷目が決まった。長らく「売れない作家」を続けてきた川口士は報告を聞いて「………(5秒ほど間)、どういうことですか?」と疑心暗鬼になったそうな。数千数万の軍勢がぶつかり合う戦記モノの要素と、超常の力を有したヒロインたちが天変地異にも匹敵する武威を翳すヒロイックファンタジー要素を混ぜ合わせた一品で、露骨すぎるサービスシーンを除けば割と昔懐かしいノリである。辺境の貴族として戦争に駆り出され、虜囚の身に落ちた主人公ティグルがどん底から「魔弾の王」に成り上がるまでを描く大河ストーリー……になるのではないかと想像しているが、まだ折り返しにも達していない雰囲気であり、先は長そう。発売延期が多かったり、「イラストレーターの体調不良」を理由に本文中の挿絵がゼロになった巻があって編集部がブログが「お詫び」を掲載する事態に発展したり、少しく不安はあるが期待している。

 05.『魔法戦争』は現在アニメがちょっとアレなことになっている「現代・本格魔法アクション」。アニメ化が決まった時点で「え? これが?」な声はあったし、既読者にとっては想定済の状況かもしれない。作者は『タザリア王国物語』のスズキヒサシ。「最初の構想ではピュアな魔法少女ものになる予定だった」そうだが、作者が彼ならこうなるわな。3月に8巻が出る予定。

 06.『ノーゲーム・ノーライフ』は本文も挿絵も両方榎宮祐が手掛けているシリーズ。榎宮祐は『いつか天魔の黒ウサギ』のイラストなどもやってるが、元々は漫画家。『グリードパケット∞』が健康上の理由で休載となり、手術を終えた後も「体への負担が思いの外大きく、体調が安定せず、漫画連載のような、負荷の大きい仕事が出来ずにいます」とコメントしている。「再開する意志はあります」とも語っており、グリパケファンはじっくりと待つフェーズに移ることを余儀なくされた。『ノーゲーム・ノーライフ』のコミカライズを担当する「柊ましろ」は榎宮の「リアル嫁」であり、榎宮自身もコミカライズ作業を手伝っているみたいなので、復帰の日は徐々に近づいている……はず。

 07.『剣神の継承者』は「ソーディ」という異世界人に支配されてしまった東京が舞台となるアクションファンタジー。服従を拒み、ソーディに歯向かう者たちが徒党を組んで抵抗活動を行っていた……という設定だが、主人公がレジスタンス側ではなくむしろ抵抗者たちを狩り回る治安維持部隊に所属しているところが珍しいか。細部を無視して大掴みに言ってしまえば「枢木スザクが主人公の『コードギアス』」? 作者の鏡遊はエロゲーライターでもあり、『ef』や『明日の君と逢うために』などの企画・シナリオに参加している。8巻は3月発売予定。

 08.『小悪魔ティーリと救世主!?』は衣笠彰梧とトモセシュンサク、『暁の護衛』や『レミニセンス』のコンビによるライトノベル。悪魔と天使が転がりこんでくる同居ラブコメ。3冊ぐらいで終わるのかな、と思いつつ見守っているうちに巻数が伸びてきた。ドラマCDも発売中だし、これはアニメ化を狙ってるんだろうな。テキストの上手さで称賛されるタイプではないけれど、掛け合いのテンポが良いから細かいことを気にしない人にはオススメ。

 09.『落ちてきた龍王(ナーガ)と滅びゆく魔女の国』は歴史上のさる人物が異世界に飛ばされて、記憶喪失になりながら「滅びゆく魔女」たちを率いて国盗りに打って出る戦記ファンタジー。主人公の正体は2巻で明かされるが、1巻の時点でバレバレである。魔女たちは「服を着ると魔法の効果が薄れるから」というエクスキューズに基づいて異様なほど露出度の高い格好をしており、もしこれがアニメ化されたら謎の白い光が射し込んできたりBPO審議入りしたりすること間違いなしである。ぶっちゃけ裸よりエロい。作者は『火魅子伝』『白兎騎士団』の舞阪洸であり、文筆業のキャリアは積んでいるもののシリーズが長くなってくるとだんだん勢いが続かなくなる面もある。『火魅子伝』は続編まで書かれたが、結局シリーズ全体としては未完になってしまった。『落ちてきた〜』もどこまでテンションを保てるか、そして完走し切れるのか不安なところだが、現状はうまく盛り上がっています。

 10.『蒼柩のラピスラズリ』は『まよチキ!』コンビによる学園バトルアクション。4巻の表紙がポールダンスにしか見えない。個人的にはあまり注目していなかったシリーズで、今回調べて6巻まで出ていることを知り驚いた。ついこないだ始まったばかりだった気がするのに、光陰矢の如し。菊池政治のイラストはこういうバトル系の方がハマりそうな予感がしますね。

 

 それとまだ4冊しか出ていないのでハッキリした予測は立てられないが、『学戦都市アスタリスク』『盟約のリヴァイアサン』『魔技科の剣士と召喚魔王』あたりも刊行ペースが良好で伸びるかもしれない。『学戦都市アスタリスク』は『IS』のokiuraがイラストを手掛けている。『盟約のリヴァイアサン』は『カンピオーネ!』の丈月城が作者。『魔技科の剣士と召喚魔王』は『ごくぺん』の人の新作。しかし、ごくぺんみたいなキワモノっぽいラブコメを書いていた三原が売れ筋の内容をギュウギュウに詰め込んだうえ召喚魔王(ヴァシレウス)なんて無茶なルビを振ったシリーズに取り組んでいるだなんて……志瑞祐が売れ線ダブルピースで『精霊使いの剣舞』を書き出したと知ったときのような心地になります。でも4冊目が分厚かったし、期待されているシリーズなんだろうな(MFは固定価格だからページ数が増えても値段を上げられず紙代が嵩むことになる、なので期待されているシリーズでないとなかなか増ページしてもらえない)。ほか、『アブソリュート・デュオ』『フレースヴェルグ・イクシード』はちょっと判断に迷うところかな……アブデュオはちょくちょく延期してるのが不安、フレイクはそろそろまとめに掛かっている気配を感じます。

 上記したリストは「そろそろアニメ化が来そう」な作品群も含んでいる。MFでアニメ化していない長期シリーズは

『風水学園』
『銃姫』
『イコノクラスト!』
『パラケルススの娘』
『ぷいぷい!』
『きゅーきゅーキュート!』
『かぐや魔王式!』
『おれと一乃のゲーム同好会活動日誌』
『つきツキ!』

 の9つ。ほとんどが既に完結済のシリーズであり、2003年から2008年にかけて開始したものが多い。ISとはがないが現れた2009年以降の非アニメ化ロングシリーズは『おれと一乃〜』と『つきツキ!』しかなく、現状「長期化した(しそうな)MF作品は漏れなくアニメ化される」という段階に達しつつあります。次のアニメ化作品が気になる方は『おれと一乃のゲーム同好会活動日誌』『つきツキ!』『しゅらばら!』(この3つは終わりが見えてきたので何事もなく完結しそうな気もするが)『剣神の継承者』『小悪魔ティーリと救世主!?』『落ちてきた龍王と滅びゆく魔女の国』『蒼柩のラピスラズリ』『学戦都市アスタリスク』『盟約のリヴァイアサン』『魔技科の剣士と召喚魔王』あたりをチェックしておけば宜しいでしょう。今年始まったばかりだけど『Re:ゼロから始める異世界生活』という元WEB小説も3ヶ月連続で書籍化するなど力の入れた展開を行っており、これもひょっとすると……な雰囲気。

 オマケで「あともうちょっとで10巻に達するところだったシリーズ」も並べておこう。目安としては7巻以上のもの。『神様家族』(2003)が全8巻(Z含めると全9巻)、『インフィニット・ストラトス』(2009)が移籍前は7冊。『神様のおきにいり』(2006)と『もふもふっ 珠枝さま!』(2008)を同一シリーズと見做すなら全7巻。『オトコを見せてよ倉田くん!』(2009)も全7巻。『詠う少女の創楽譜』(2011)はあとがきの口振りからして7巻で終了。“上等”シリーズ(2005)と『もて?モテ!』(2008)、『剣の女王と烙印の仔』(2009)、『101番目の百物語』(2010)、『この部室は帰宅しない部が占拠しました。』(2011)の5つは全8巻です。全9巻のシリーズは『神様家族』を除くと、今のところないですね。

 

 ライトノベルは基本的にシリーズ作品しか売れませんから、無闇に刊行点数を多くしても意味はない。シリーズ作品が育たなければ、膨大な新刊群は「下手な鉄砲も数撃ちゃ当たる」程度の戦法、そして「当たって砕けろ」の精神しか持ち得ず、軒並み無惨にすり潰されることとなります。レーベルを維持するためには長期展開が可能なシリーズを揃えることが不可欠であり、それがなければ読者は(1巻)「壮大な物語が今、幕を開ける!」→(2巻)「遂に世界の秘密が明かされる!」→(3巻)「彼らの冒険はこれからも続いていく……!(第一部・完)」という歯痒い、そしてしょーもない打ち切りの連発を目の当たりにさせられるでしょう。

 「何でもかんでもアニメ化してシリーズを引き延ばす」という風潮を快く思わない読者もいるだろうし、3ヶ月か4ヶ月で新刊を書かせるハイペースも異常と言えば確かに異常だ。結局のところ「打ち切りでもなく引き延ばしでもなく、充分な期間を掛けて程好いボリュームで終わるシリーズ」が理想なんですが、それが簡単に叶うなら誰も苦労しない。「大半の読者はレーベルでも作者でもなくシリーズに付く」、そして「よほどの人気作やコアなファンが付いているシリーズ以外は一年も間が空くと忘れられてしまう」、この原理原則が派手に覆らないかぎり売れてるシリーズは引き延ばされ、ゆっくりと構想を練る暇もなく新刊の執筆を急かされるだろうし、売れないシリーズはさっさと打ち切られるでしょう。

 レーベルも時代も違うが、『丘の家のミッキー』で知られる久美沙織はコバルト時代(主に80年代)を「寡作では生き残れなかった」「ゆっくりしか書けないひとには、活躍の場があたえられなかった」と『コバルト風雲録』の中で述懐している。数をこなすには「『シリーズ化』する必要があり、『いつものキャラ』を出して、『いつものありがちな事件』をやるのが一番」だと。『丘の家のミッキー』も最初は全1巻で終わるつもりだったらしい。映画『あゝ野麦峠』を観たとき、久美沙織は号泣したそうだ。「あまりにそっくりで」。苦しみばかりではなく「スッゴイ楽しかった」とも語っているが、延々と続くシリーズにも短命で終わったシリーズにも、裏ではそれぞれの苦闘が必ずあるはずだ。

 好調なシリーズが多くなってレーベルが安定していけば、いずれ「売れないシリーズ」をじっくりと続けさせて健やかに花開くところまで待つ余裕も生まれてくるかもしれない。ただの希望的観測だろう。でもすべては「知る」ことから、そして「希望を持つ」ことから始まる。鎌池、川原、佐島の三枚看板が厚すぎて電撃を抜くのは当分(ずっと?)無理そうだけど、MFファンにとっては電撃を追い抜いて業界トップに君臨することよりも「無情な打ち切り」がなくなることの方を切に願うでしょう。

(追記) 2015年11月時点でのMF文庫J


>>back