「君はスーパーダッシュ文庫を知っているか?」(2014年1月19日の記事)


 スーパーダッシュ文庫とは、2000年7月に創刊された文庫系ライトノベルのレーベルである。略称「SD」。版元は集英社。言わずと知れた「ジャンプ」の会社であり、ライトノベルの分野では40年近い歴史を誇る少女向けレーベル「コバルト文庫」で有名なところです。SDは同じ集英社で1991年から2001年までの10年間に渡って存在していた「スーパーファンタジー文庫」の後継に当たるレーベルながら、少女向けと少年向けの中間に位置して「どっちつかず」の印象が強かったスーパーファンタジーに対し、ハッキリと少年向けの色合いを濃く打ち出している。集英社は他に自社漫画のノベライズを中心にした新書系ライトノベルのレーベル「JUMP j-BOOKS」を持っていますが、不思議なことにSDと連動することはほとんどない。j-BOOKSで出した本を数年後にSDで出し直す、というようなことも滅多にしません。その場かぎりのノベライズ作品が多いことも理由の一つにせよ、たとえ人気作であってもSDをスルーして集英社文庫から発売されてしまうことが多い。思い出せる範囲でj-BOOKS→SDのフローを辿った作品は田中芳樹の『KLAN』くらいだ。ああ、それと『新きまぐれオレンジ・ロード』があったか。(追記:『バスタード!!』のノベライズも、ベニー松山版は文庫書き下ろしだったが岸間信明版はJブックスからの文庫落ちだった)

 そんなスーパーダッシュ文庫の特徴は、「地味で目立たない」「毎月の刊行点数が少ない」「アニメ化が不遇」の3つ。ネガティブ一色だけど、本当のことなんだから仕方ない。今年(2014年)で14周年を迎えるくせして、ライトノベルファンの間で話題に上がることが後発のMF文庫J(2002年創刊)よりも圧倒的に少ない。下手するとGA文庫やHJ文庫(両方とも2006年創刊)よりマイナーかもしれません。かつてはファミ通文庫もどっこいどっこいの扱いでしたが、あっちは『バカとテストと召喚獣』が当たって一気に知名度が上がりましたからね……バカテスの本編が終わってしまった現在、ファミ通文庫もファミ通文庫で今後が危ぶまれるレーベルではありますが。

 さておき、スーパーダッシュ文庫がなんでこんなにマイナーな存在となってしまったのか? っていう理由の一つとして、上記した「毎月の刊行点数が少ない」ことが挙げられます。2013年12月までに刊行した文庫の総数は757冊(限定版と通常版がある場合はまとめて1冊と計算した)、今月(2014年1月)に出る3冊を足しても760冊です。平均して1月あたり4.66冊、刊行点数が落ち込んだ去年1年間に限れば3.83冊と4冊を切る有様。これは毎月の刊行冊数が10冊を超える電撃文庫やMF文庫J、ファンタジア文庫と比べれば半分以下。とっくに全盛期を過ぎたスニーカー文庫すら毎月5、6冊は出しています。ガガガや一迅と比較してもまだ下かもしれず、このライトノベルがすごい!文庫にはさすがに勝ってるかな……という程度。そりゃ話題にならないわけです。

 そしてもう一つの理由として挙げられるのが、これまた上記した通り「アニメ化が不遇」だからです。ライトノベルは身も蓋もない言い方をすれば「アニメが成功するかどうかでブレイクするか否かが決まってくる」ような業界なので、アニメの出来は各レーベルにとって死活問題となる。然るに、スーパーダッシュ文庫はノベライズ作品を別にして勘定するとアニメ化を果たした作品はOVA含めて13本、このうちもっとも「成功した」と言えるのは『R.O.D』でしょう。『R.O.D』が一番最初に映像化した作品なので、要するにそれを更新するような後続が出てきていないわけです。たとえば『紅』はアニメ単体で観れば悪くない出来だと称揚されますけど、明らかに原作とは別物になってしまっているため「あれは認めない」というファンも多い。『戦う司書』は「萌え」という概念を片手で粉砕するが如き独特の雰囲気に溢れていて評価も悪くなかったにも関わらず、さっぱり話題にならなかった。『迷い猫オーバーラン!』はOP曲が電波ソングで話題にはなったものの、「毎回監督が変わる」という異例すぎる試みがさっぱり効を奏さなかった。「アニメ化が決まった」と聞くとファンが暗い顔をする、それがSDクオリティだ。

 アニメの話はこれくらいにして、ライトノベルの話に戻そう。刊行点数が少ないのだから、長期展開しているシリーズ作品も数える程度しかありません。5冊以上続いていた(続いている)シリーズは約40個。更に10冊以上と限定すれば、たった14個しかない。列挙すると、『R.O.D』(2000〜)『KLAN』(2001〜2008)『オーパーツ・ラブ』(2001〜2008)『はっぴぃセブン』(2001〜2009)『初恋マジカルブリッツ』(2005〜)『戦う司書』(2005〜2010)『円卓生徒会』(2006〜2009)『ドラゴンクライシス!』(2007〜2011)『アキカン!』(2007〜)『パーフェクト・ブラッド』(2008〜2010)『ベン・トー』(2008〜)『カンピオーネ!』(2008〜)『迷い猫オーバーラン!』(2008〜2012)『パパのいうことを聞きなさい!』(2009〜)。この場合、「シリーズ作品」というのは「タイトルおよびストーリーが連続していること」で判断します。設定の共有だけではシリーズと見做さない。たとえば、テイルズ・オブ〜のノベライズは複数刊行されていますけど、ファンタジアはファンタジア、エターニアはエターニアとして別々にカウントする。影の長期シリーズとして2008年ぐらいまで続いたテイルズノベライズは総計してざっと25冊に昇りますが、一番長かった『テイルズ オブ ジ アビス』でも6冊しかないので10冊の壁は破れません。1年に1本のペースでしか10冊超えレベルのシリーズ作品が出ず、ほとんどは1冊か2冊、行ってせいぜい3冊か4冊程度の短命で終わってしまう。何も単発作品やショートシリーズ全般を否定するつもりはないし、実際のところ私が愛好している完結済シリーズは10巻未満で終了している物も多く、10巻を超えるとどうしてもストーリーに軋みというか歪みというか「こんなに続けるつもりはなかった」みたいな無理が出てきてネタの枯渇による露骨な引き延ばしや複雑化した設定の齟齬・矛盾など、作品としての整合に乱れが生じ、まとめ切れなくなった末に苦し紛れで乱暴に話を畳む(あるいは畳めなくなって投げ出す)事態へ発展しがちだから「10巻以上も続けない方が無難」ではあるのだが、商業的な観点に立つと「基本的にシリーズ作品しか売れない」ライトノベル市場でコレはちょっとキツいかもしれません。上記14シリーズのうち、まだ完結していないのは『R.O.D』と『初恋マジカルブリッツ』と『アキカン!』と『ベン・トー』と『カンピオーネ!』と『パパのいうことを聞きなさい!』の6本。『ベン・トー』は次(12巻、2014年2月発売予定)が最終巻らしいし『R.O.D』と『初恋マジカルブリッツ』と『アキカン!』に関してはほぼ休止状態だから、シリーズとして「生きている」のはカンピとパパ聞きのみ。早急に3本目の柱を育てていただきたいものです。

 では、スーパーダッシュ文庫の歩んできた13年半の歴史を年別に振り返ってみる。「その時代」に触れるためSD以外のレーベルや作品についても言及しているが、取り扱うのは少年向けレーベルに限った。これは私が単純に少女向けレーベルに関して詳しくない、もっと言えば無知だからです。どうか悪しからずご了承くださいませ。

(2000年−総数18冊)

 ミニレアムとなるこの年の7月にスーパーダッシュ文庫は創刊した。創刊ラインナップは5冊で、ちょっと少ない。4冊はオリジナル作品だが、1冊だけ『雲海のエルドラド』という『星方武侠アウトロースター』のノベライズが混ざっている。オリジナルを手掛けた4人の作家は嬉野秋彦、倉田英之、霜越かほる、高橋良輔といった面子。嬉野と霜越はスーパーファンタジー文庫出身の作家ですから、その流れ? 高橋良輔(ダグラムやボトムズの監督を務めた人)がちょっと浮いているかな。彼の『DEAD POINT』はアニメ化するって噂も一時期あったが、実現しなかった。そもそも原作自体がたった2巻で投げっぱなしになっている。高橋良輔のインタビュー記事は公式サイトにまだ残っているので、興味がある方はそちらをどうぞ(追記:残念ながら2014年1月20日のサイトリニューアルによってインタビュー記事はなくなりました)。「2巻で投げっぱなし」と言えば霜越かほるの『双色の瞳』もそうだ。ヒロインが戦車に乗って活躍するっつー時代を先取りしすぎた内容で、2005年頃に3巻を発売して再開するという話もあったが……結果はお察しください。倉田英之の『R.O.D』は創刊ラインナップの1つでありながら、まだシリーズとして続いているというのだから驚きである。現在の最新刊である11巻が発行されたのは8年近く前だし、「まだ続いている」よりも「まだ完結していない」と書いた方が正しいか。12巻は2013年内に出す予定だったが、大方の予想通り延期。「2014年2月に改めて発売する」とアナウンスされているが、本当に出るかどうかは紙のみぞ知る(追記:案の定、2月の予定からも消えました)。原作が10冊を超える長期シリーズとなり、OVA化およびTVアニメ化を果たし、SDの知名度を底上げするヒット作となった功労者。逆の言い方をすれば、コレに匹敵するシリーズがその後十数年に渡って出現していない。SDは『R.O.D』に始まり『R.O.D』に終わるレーベルとなるかもしれない。冗談抜きで。

 さて、そんなこんなで始まったSD文庫、8月以降はどうかと申しますと……困ったことに、特筆すべきことがない。まだ新人賞も始まってないので「この人がSD文庫からデビューした!」みたいなトピックもないし、これといって目立つ作品もありません。『G‐SAVIOUR』という日米共同製作ガンダムドラマのノベライズなんかもあるけど、そんなドラマが存在すること自体さっき初めて知った。個人的には『司星者セイン』でちょっと涙目になってしまうが……ベニ松、今は何をしてるんだろうかな。創刊したこの年、刊行されたライトノベルは合計で18冊、電撃文庫1ヶ月分です。いや、ジョークじゃなくて、2013年の10月にはマジで新刊を18冊出しましたよ。狂気じみた格差である。電撃文庫と言えば、SDの創刊された7月には時雨沢恵一が『キノの旅』によって文庫デビューを果たしていた(『キノの旅』は一度雑誌に全文掲載されている)。新人賞を獲り逃した最終候補止まりの作品でしたけど、拾い上げられるや否や幅広い年齢層の人気を獲得するに至りました。ついでに書いておくと、2000年は『デモン・スレイヤーズ!』で“スレイヤーズ!”の本編が完結した年でもある。つっても、番外編が延々と続いたせいで「ああ、そうか、この年に終わったのか……」みたいな感慨は全然ない。本編15冊に対し、番外編は「すぺしゃる」30冊と「すまっしゅ。」5冊の35冊、合計50巻……もはや番外編の方が本編だ。現在「すまっしゅ。」の休止に伴い“スレイヤーズ!”全体の展開は凍結されているが、そのうち解凍されるかもしれません。

 この年には他に2つの文庫レーベルがライトノベルに参戦しています。まず一つは8月に創刊した「徳間デュアル文庫」、目玉が『銀河英雄伝説』の再刊(および初の正式短編集『黄金の翼』発行)で、SF寄りのレーベルだった。2002年の『微睡みのセフィロト』は冲方丁の文庫デビュー作である。半ば忘れ去られた存在であった北野勇作にブレイクの契機を与えた功績は小さくないが、2005年4月に新書系レーベル「トクマ・ノベルズEdge」が立ち上がった影響もあって存在感は徐々に薄まり、2010年12月に休刊。個人的には『おおきくなりません』の続編『やっぱりおおきくなりません』を出してくれたことがありがたかった。欲を言えば『ペロー・ザ・キャット全仕事』も文庫化してほしかった。11月には「富士見ミステリー文庫」が創刊、ファンタジアの姉妹レーベルに当たる存在で、「新本格ブーム」に当て込んだのかどうかは知らないが「ナゾ・解ク・愉シミ」をキャッチフレーズに「ライトノベルとミステリの融合」を目指した。ただ、この頃にはもう新本格ブームって終わりかけていましたし、本職のミステリ作家をあまり呼び込めなかった(見かけたのは太田忠司と霞流一くらい)せいもあってライトノベル読者からもミステリ読者からも生温かい目で観察されていました。創刊3年後の2003年12月に突如キャッチフレーズを「L・O・V・E」に変更、「ミステリーの枠に囚われない」とか「愛こそがミステリーである」とか何とか言い出して急にラブコメ路線へ転向した。俗に言う「LOVE寄せ」である。そんな感じで迷走した末、2009年3月に休刊。狙いがあまりにも不透明だったため物笑いの種にされたレーベルですが、同時に「他にはない魅力がある」と好事家たちから深く愛されたレーベルでもあった。水城正太郎、深見真、葉山透、時海結以、師走トオル、田代裕彦、海冬レイジ、瑞智士記(木ノ歌詠)はここの出身である。ヤク中がドラッグ飲んで悪魔を召喚して戦う『Dクラッカーズ』と金髪翠眼の合法ロリが鮮やかな推理を見せつけつつラブコメする『GOSICK』を世に問い、あざの耕平と桜庭一樹の資質を大きく伸ばすことに貢献しただけでも充分意義はあった。あと12月にガンガンノベルズの前身であるスクウェア・エニックス・ノベルズの更に前身であるEXノベルズが創刊しているが、文庫系レーベルではないからオミットします。とにかく新規参入が相次いだ年でした。

(2001年−総数47冊)

 9.11のショックに世界が揺れた2001年。創刊の翌年だが、テイルズやデジモン、電童などノベライズ作品が目立つ。スピンオフやメディアミックス作品も含めれば19冊あり、約40パーセントが非オリジナルという割合だった。この時期は「集英社ノベライズ文庫」という趣。7月には上記した田中芳樹の『KLAN』が刊行される。これも他の田中芳樹のシリーズ作品同様、書くだけ書いて続かなかった奴だが、2巻から作者を変更して継続。4巻まで霜越かほるが担当し、5巻と6巻を浅野智哉が引き継いだ後、白川晶にバトンが渡され、最終的に岡崎裕信が引き取って完結させた。もはや完全なリレー小説である。イラストだけは一貫していのまたむつみが描き続けた。内容の評価はともかく、終わっただけマシか。リニューアル前の公式サイトにあった「壮大な物語がここから始まる! アニメ化も近い?」の一文に苦笑いしたものでした。アニメと言えば、『R.O.D』のOVAが発売を開始したのもこの年。原作も刊行ペース良好で、なんと1年間に3冊も新刊が出ています。今となっては考えることもできない早さだ。グーテンベルク・ペーパー編が10年以上経っても終わらないなど、当時の自分は想像だにしなかったな。

 2001年の後半には『R.O.D』の陰で初期SD文庫を支えた2大シリーズ、『オーパーツ・ラブ』『はっぴぃセブン』がスタート。『オーパーツ・ラブ』は主人公の父が届けた棺から古代エジプトの王女が復活する、世にも珍しい褐色肌でドレッドヘアなヒロインのシリーズ。メディアミックスこそしなかったが、続編の『ぶろうあっぷ』も含めて24冊に及ぶロングノベルとなりました。SDのシリーズ作品としては最多冊数です。はぴセブは『はっぴぃセブン〜ざ・テレビまんが〜』のタイトルで2005年にアニメ化したが、覚えておられるだろうか? 作者の川崎ヒロユキはアニメ脚本家として有名な人で、『機動戦艦ナデシコ』のいろいろと物議を醸した第17話「それは『遅すぎた再会』」(ムネタケがおかしくなって自爆する回)を手掛けたのも彼。

 ほか、長期シリーズではないが、『Kishin―姫神―』も個人的に強く印象に残っている。記紀神話をベースにした古代ファンタジーであり、伊藤真美のイラストは何度眺め返してもカッコイイ。「ツンデレ」という言葉が普及する前の作品ながら、ヒロインの台与(トヤ)は後世に残したい良きツンデレであった。文章の切れ味が鋭く、「神にこころはないわ。ただ、つとめがあるだけ」というセリフに胸を打たれた記憶があります。是非とも復刊してほしい。

(2002年−総数42冊)

 刊行ペースがスローダウンし、前年から5冊減った。10月で累計100冊に到達したものの、依然パッとせず、特筆すべき要素が乏しい。『KLAN』の3巻は「迷走編」というサブタイトルだったが、まさしくこの時期のSDは迷走の極みにあった。『おくさまは女子高生』を館山緑がノベライズしていたり、『双色の瞳』の続きではなく『高天原なリアル』の新装版が出たり、『キン肉マン2世』のノベライズに「1」と銘打っておきながら2巻目が出なかったり……結局『R.O.D』以外はすべて絶版している。いい加減そろそろ有望な新人を育てなきゃヤバいと悟ったのか、9月にスーパーダッシュ小説新人賞「大賞」受賞作の『世界征服物語』を、10月に「佳作」の『D.I.Speed!!』を刊行。遂にここから新人賞が本格的に始動する。10月には淺沼広太も『魔王、始めました』でデビューしているが、これは新人賞経由ではなく、公募を始める前の編集部に電話してアポ取ってから原稿を持ち込んだらしい。また受賞するのはかなり後になるが、『超人間・岩村』の滝川廉治も第1回の新人賞に応募している。応募作のタイトルは『ボルヴェルグ』、北欧神話の主神オーディンが巨人に化けた際に名乗った異名(偽名?)、「悪を為す者」の意味がある。検索してみたら、今は亡き日本SF新人賞にも同名タイトルの作品を送っていたようだと判明した。二重投稿ではなく、SF新人賞に落ちたのをSDに回したっぽい。ファンタジーみたいな題名だけどSFだったのか?

 『世界征服物語』は「女子高生がRPGチックな『本の世界』に召喚される」という、今も流行っている異世界召喚モノと同路線の作品。「文体がライトノベルというよりジュヴナイルで、読者層に合っていないのでは?」という疑念があったものの、ストーリーそのものは割と面白かった。もう10年以上も前の作品だが、タイトルを『現代に戻りたいから魔神を復活させよう、異論は認めない』とかに変えてソフトカバーで出し直せばそこそこ売れる内容ではないかと思う。ちなみに作者の神代明は5年くらいSDで活躍した後、本格的にジュヴナイル方面へ移って『プリズム☆ハーツ!!』というシリーズを手掛けた。

 話が少しSDから離れるが、この年の7月にはMF文庫Jが創刊した。創刊ランイナップは『KaNa〜哀〜 1』『ホーリーメイデン〜碧の瞳の少女〜』『ほしのこえ The voices of a distant star』『ラーゼフォン(1) 神人、目覚める』の4冊で、ほとんどノベライズ。SD以上に目指す先が見えない迷走感満載のレーベルだったが、今や電撃に次ぐ文庫系ライトノベルの大手である。発行作品数も去年で1000冊を超えた。SDとMF、いったいどこで差がついたのか……年の終わりも近づいた11月には、電撃文庫からも『灼眼のシャナ』というビッグタイトルが放たれる。シャナはいとうのいぢが初めてイラストを手掛けたライトノベルでもありました。正確に述べればシャナ以前に『忘レナ草』のノベライズがあるんだけど、少なくともオリジナルではシャナが初。翌年にハルヒの出現を控えた「ラノベブーム前夜」の時代であり、講談社ノベルスからは西尾維新もデビューしていて、様々な熱が高まりつつあった。

(2003年−総数52冊)

 迷走期を脱して復調しつつあるSD、遂に年間冊数が50の大台に乗った。『R.O.D』のTVアニメが始まった影響もあって攻めの姿勢に出たのだろうか。うち1冊は『はっぴぃセブン』のいろはカルタなので除外しようかどうか迷ったけど、一応スーパーダッシュ文庫から出ているのでカウントしておきました。1年以上刊行が止まっていた『Kishin―姫神―』も再開され、この年に完結を迎えた。ラストはちょっと駆け足気味だったけど、最終巻に到達できただけでも儲け物です。あと、読んだ者を落ち込ませるようなシナリオを書くのが上手い桑島由一の『トゥー・ザ・キャッスル』も2003年の密かな収穫。ドラゴンに攫われたお姫様があべこべにドラゴンを捕らえてお城への帰宅を目指す話で、一発ネタとしか言いようがない代物なのに続編が出るという驚愕の展開を見せた。

 2003年の新人賞作品は「大賞」を受賞した『銀盤カレイドスコープ』、「佳作」の『ネザーワールド』、最終候補作の『よくわかる現代魔法』も「拾い上げ」(賞は獲ってないけど見込みがあるのでデビューさせる、というパターン。三上康明がブログで詳しく語っている)されているから3つ。このうち2つがアニメ化されています。されていないのが『ネザーワールド』――って書くとdisっているように見えるかもしれませんが、実は結構好きだった作品です。応募時のタイトル『地下鉄クイーン』はダサすぎると思ったけど、「地下世界」と「音楽」で物語を編み上げようとする情熱は感じた。ほとんどの面子を刷新した2巻は、いまひとつだったけど。唖采弦二のイラストも素敵だった……この方は「枝篇刃鳴散らす」の挿絵も手掛けていたらしいですね。奈良原が雑記に書いてた。『銀盤カレイドスコープ』は1巻と2巻を同時刊行するという気合の入れっぷりで、相当編集部の期待が掛かっていたのではないかと思われる。SDの新人賞は規定枚数にかなり幅がある(原稿用紙200〜700枚)ため、他に出したら受け付け自体断られてしまうような大ボリュームでもOKというのが特徴でした。つっても、受賞作が分冊形式で発売されたのは後にも先にも銀カレのみだ。フィギュアスケートというライトノベルにしては非常に珍しい題材を「スポ根テイスト」で成立させた意欲作であり、新人賞作品としては初めてアニメ化まで漕ぎ着けた。アニメそのものの評判は芳しくありませんでしたが……『よくわかる現代魔法』は魔法をプログラミングのように学習して使用する、『魔法科高校の劣等生』の先駆け的な現代ファンタジー。応募時のタイトルは『魔法使いのネット』。1巻目は淡々と盛り上がりの欠ける文章が最後まで続き、「設定は面白いけど物語がちょっと……」って感想だったが、2巻目、3巻目と巻を重ねるごとに面白さがグレードアップしていった。「拾い上げ」からの成功という、見事な立身出世を遂げたケース。ただ開始から5年も経った後にアニメ化したときはさすがにビックリした。なんせこのシリーズ、ほんの1年半くらいで刊行が止まっちゃっていたのである。「原作は面白いけど、あれを今更?」という気がしないでもなかった。現在無印1巻は絶版状態だが、アニメ化決定に合わせて刊行された改訂版『よくわかる現代魔法1 new edition』は入手可能である。

 そしてSDではないが、この年の6月に谷川流がデビュー。『涼宮ハルヒの憂鬱』『学校を出よう!』の2冊同時刊行で話題になった(本来スニーカー文庫と電撃文庫の発売日は異なるのだが、これだけ特例で合わせた)。もちろんブレイクしたのは皆様ご存知の通りハルヒの方である。『学校を出よう!』も面白いことは面白かった。特に2巻は読み出した直後のイマイチな評価が読み終わる頃には逆転しているという鮮やかな出来だった。ハルヒが止まっているように学出もずっと止まってるけど、こっちは再開の望み薄いな。それと、富士見ファンタジア文庫で10年近くに渡って続いた“魔術士オーフェンはぐれ旅”シリーズが9月に最終巻『我が聖域に開け扉(下)』を送り出して完結。全20巻、短編集の“無謀編”やmini文庫の“まわり道”も含めると35冊。『スレイヤーズ!』と並んでファンタジアを支えた偉大なシリーズであるが、アニメには恵まれなかった(したことはしたんだけど内容が……)し、完結後の扱いも「冷遇」に等しかった。現在はTOブックスに移って新シリーズを展開しています。

(2004年−総数58冊)

 前年比+6冊と微増ながらまだまだ増える刊行点数。各種シリーズ作品が軌道に乗り、ほぼ面子が固定されつつあった頃である。言わばSDの安定期。7月には、それまでの上限刊行数だった5冊を超える6冊の新刊が発売された。『R.O.D』の新刊も2冊刊行されていました。「SD文庫最大の収穫」と信じて疑わなかったカタケンこと片山憲太郎がデビューした年でもある。ああ、カタケン……彼は今どこで何をしているんだ……年末に発売された桜坂洋の単巻SF『All You Need Is Kill』は神林長平を始めとする作家および評論家に激賞され、なんとハリウッドでトム・クルーズ主演の実写映画にまでなってしまった。シリーズ物以外は脚光を浴びにくいライトノベル界において、これだけ注目を集めた単巻作品は、少なくともSD文庫においては他にありません。

 新人賞は、カタケンの『電波的な彼女』と福田政雄の『殿がくる!』。どちらも「佳作」で、大賞作品はなかった。『電波的な彼女』は『猟奇的な彼女』のもじりみたいなタイトルだが、応募時が『電波日和』だったことを考えると編集部の判断で変えられたパターンか? 「前世」だの「生まれ変わり」だのと電波じみた言動で忠誠を誓ってくる少女・堕花雨に振り回される不良少年・柔沢ジュウの受難を描く。こういう風にあらすじを書くと中二病ラブコメ(つまり『中二病でも恋がしたい!』みたいなの)を連想するかもしれませんが、ジャンルとしてはサイコホラーとかサスペンスとかそっち系のダークノベルです。プロローグに登場した無垢な幼女が殺されこそしないものの両眼を抉られて入院する『愚か者の選択』はトラウマになった人も少なくないという。ヒロインはもちろん、主人公のジュウも読者人気が高く、続編が待望されたシリーズ……でした。作者は再開したい気持ちがあったそうだけど、もう5年以上も音沙汰がないことを冷静に振り返ればリスタートは絶望的。一応、OVA化まではされた作品であり、何かの機会に復活する可能性もゼロではないがゼロに等しい。ちなみに『電波的な彼女』が出る以前にも同人誌で『僕の彼女はサイコさん』という作品が既にあったのだが、その作者である砂浦俊一が後日SDからデビューを果たしたもんで驚いた。『殿がくる!』は「本能寺で死んだはずの織田信長、しかし彼は森蘭丸ともども現代にタイムスリップしていた!」という設定のポリティカル・ライトノベル。今も昔も信長ネタが多かったのです、はい。信長が現代の日本に順応して政治家たちとやり合う、というアイデアが『内閣総理大臣織田信長』を彷彿とさせるが、あれに比べればコメディ色が薄めで政治色が強め。「政治」に取り組んだライトノベル、という意味では貴重かもしれません。後に福田政雄は白石かおる(第5回スニーカー大賞「奨励賞」受賞者、『僕と『彼女』の首なし死体』で第29回横溝正史ミステリ大賞の「優秀賞」を受賞して再デビューした)の別ペンネームであることが判明した。噂や憶測じゃなく、公式のプロフィールにも書かれている事実です。

 この頃の他レーベル。電撃文庫では『とある魔術の禁書目録』がスタート。瞬く間に人気を爆発させ、ラノベ界のスターダムにのし上がる。MF文庫Jは迷走から抜け出しつつあった。『神様家族』『陰からマモル!』『あそびにいくヨ!』『銃姫』『ゼロの使い魔』『イコノクラスト!』とレーベルを支えるクラスのシリーズが6つも稼動していた時期であり、SDとの差がつき始めたのもこのあたりからか。特にゼロ魔の存在は大きい、アレで一気に潮目が変わりました。やがて『僕は友達が少ない』で場外ホームランをカッ飛ばすことになる平坂読も9月に『ホーンテッド!』という、顔を真っ赤にして「好き」と告白した幼なじみのヒロインが冒頭でミンチになって主人公がテロリストとロシアンルーレットする作品によりヒッソリとデビューしています。12月には学研のレーベル「メガミ文庫」が創刊。当初はアニメのノベライズが目玉で、都築真紀自らの筆による『魔法少女リリカルなのは』ノベライズなどがあった。途中からオリジナル作品に力を入れ始めるも、売れ行きが伸びなかったのか2011年の『成金』を最後に刊行が途絶える。『成金』、面白かったのになぁ……美少女なのに獰猛なヒロイン・日下部雪が好きだった。病的に強い、病強ヒロイン。

(2005年−総数56冊)

 ほんの2冊とはいえ、総刊行点数が前年より減ってしまった。SDにとっては足踏みの年だが、カタケンにとっては「絶頂期」と呼んでもいい年でありました。1年に出した新刊、なんと3冊。あまり筆が早くない方のカタケンにしては驚異的な数字。特に、年末に刊行された『紅』はソッチ趣味の人(要するにロリコン)から賞賛され、一時は「三大ロリノベル」のひとつとして磐石の座を築いたとか何とか。あ、私が好きなのは崩月夕乃ですので私は全然ロリコンじゃないです、はい。と空々しい言い訳はともかく、やがてTVアニメ化されることとなる『紅』ですが、キャラデザといいキャラの性格といい、ほとんど原作とは別物に……山本ヤマトの漫画版はアニメ版に比べれば原作寄りでしたが、原作よりも殺伐とした要素が減り、死ぬはずだったキャラが生存するなど相違点も多い。ただ、後述(2008年)の理由によって原作の展開が止まってしまったため、「アニメが本編」「漫画が本編」と断じられても言い返せない状態になってしまった。でもやっぱり小説版が一番好きなんや……ちなみに『紅』は『電波的な彼女』の関連作でもあり、柔沢ジュウの母親・柔沢紅香が重要キャラとして登場する。『電波的な彼女』よりも10年くらい前の時代が舞台。話が前後してしまったが、5月に刊行された『初恋マジカルブリッツ』は「寸止め」なしで主人公とヒロインが一線を越えてしまう、ラブコメのライトノベルではあまりない展開で賛否が割れた。10冊を超える長期シリーズになったものの、2010年の通算15冊目となる『あなた、ときめき、恋、もっと!』を最後に刊行停止。全16巻構想らしいから、あと1冊で完結するはずだったのですが……作者は『総理大臣のえる!』などを手掛けたあすか正太。この人の小説デビュー作である『大魔王アリス』は極端なフォント弄りを多用した悪ノリと滅茶苦茶長いキャラ名でページ稼ぎをするような悪ふざけがてんこ盛りなので、「『のうりん』はフォント弄りがヒドくて唖然とした! まったく最近のライトノベルは……」と愚痴を垂れる人には「そんなもん、10年以上も前にあすか正太がやってんだよ」とドヤ顔で言い返してやりましょう。

 新人賞作品についてですが、これまではバラバラの月に刊行していた受賞作をまとめて刊行する方式に切り換えました。なので9月には『戦う司書』『滅びのマヤウェル』『影≒光』、一気に3冊も発売される事態に。「大賞」受賞作にして荒木飛呂彦推薦の『戦う司書』は4年後にアニメ化されます。どちらかと言えばライトなテイストの作品が目立つSDにおいて「設定がゴチャゴチャした重厚路線」のシリーズとして異色の存在感を放ちました。ヒロイン(?)が大きく胸をはだけるイラストでさえも、「色っぽい」というより「獰猛」な雰囲気が漂う。投石器(スリング)をギャグ抜きで大真面目に武器として使うライトノベルもコレくらいでしょう。『滅びのマヤウェル』は2冊で打ち切られたシリーズなので、アニメ化作品にしてはマイナーな『戦う司書』よりも更にマイナーな存在であると思われる。うん、でもこれ『戦う司書』と同じく「大賞」受賞作なんですよ……2巻のあらすじが1巻のオチを盛大にバラしているので、ネタバレを喰らいたくない人は注意。『影≒光』は陰陽師の家系に連なる双子姉弟を中心とする現代伝奇。姉の御影は優秀な陰陽師なのに弟の光輝は才能ゼロ、という設定で『魔法科高校の劣等生』を連想するかもしれないが、刊行当時は『風の聖痕』が引き合いに出されたものでした。5冊目の「暴走編」までは程好いペースで巻を重ねていたが、そこで急にブツッと途切れ、6巻「突破編」が刊行されたのは3年後の2010年12月。そしてついこないだの2013年11月に7巻「駆動編」が出版され、完結。最終巻は過去エピソードに当たる中編2つをカップリングしたものらしい。

 2005年は日日日がデビューした年です。「ひひひ」ではなく「あきら」と読む。私はこの人のPNを見るたびに「日昌晶」を思い出す。5つの新人賞を射止め、1年間で10冊の著書を出すという異常なラッシュで「脅威の新人」として恐れられる。様々なレーベルに顔を出している作家だが、SDでは一冊も出したことがない。

(2006年−総数59冊)

 過去最大冊数をマーク。SDとは直接関係ないが、『涼宮ハルヒの憂鬱』のアニメが放送されてライトノベルブームおよびラノベアニメブームが最高潮に過熱していく転換期でもあります。三上康明の証言によれば「当時スーパーダッシュ文庫は『新人プロジェクト』という、新人作品を数多く世に送り出すプロジェクトを始めようとして」いたそうだ。私は見たことありませんが「スーパーダッシュ文庫 新人プロジェクトガイドブック」なるパンフレットも配布されていたらしい。ただ、59冊中5冊は別出版社の既存シリーズをリライトして出し直したものであり、純粋な新刊という意味ではもっと少ない。年明け早々の1月、ストーリーが皆無に等しく、最初から最後までひたすら陰陽道にまつわる薀蓄のみを垂れ流す怪作『陰陽師は式神を使わない』が発売され一部で話題になりました。また『電波男』で一世を風靡した本田透が10月に『アストロ! 乙女塾!』で殴り込み。これが非エロ系レーベルでの小説デビュー作となります。本田透はSDでの著作が20冊を超える「SD五大将」のひとり。2014年1月現在、20作超えを達成した作家はたった5人しかいません。

 ゆうきりん(25冊)、川崎ヒロユキ(24冊、ただし1冊はいろはカルタ)、淺沼広太(28冊)、本田透(28冊)、松智洋(32冊)……

 そう、五大将のトップに立つのは2008年10月にデビューすることとなる松智洋だ。たった5年ちょっとで32冊も繰り出したんだから、凄まじいSD専属作家ぶりである。パパ聞きはまだ続くし、今後も記録を更新していくことだろう。本田透は冊数でこそ松の後塵を拝するが、複数のレーベルを掛け持ちしていたこともあり、刊行ペースでは松をも凌駕する。年間刊行点数が12冊という、ほぼ「月刊・本田透」状態の年が2年くらいあった。2013年は単著を出していないし、最後にラノベを上梓したのも2年くらい前だから、もう作家業からは足を洗うつもりなのかもしれません。淺沼広太は総冊数こそ多いものの、一番長く続いたデビューシリーズ『魔王、始めました』でも全9巻であり、実は10冊以上続いたシリーズが1つもない。本田同様に掛け持ちが多く、2011年には複数のレーベルで9冊も新刊を発売しましたが、働き過ぎた反動が来たのか2013年は1冊出したきりでした。ゆうきりんは冊数でこそ四番手に甘んじていますが、代表作『オーパーツ・ラブ』は続編含めて24冊でシリーズとしては最長。松がパパ聞きをあと11冊書かないかぎり、この記録は破られない。この人も確か「月刊・ゆうきりん」状態に近かった年があるはず。『オーパーツ・ラブ』が終了して以降、SDでの活動は長らく途絶えていた(他レーベルではバリバリ書いていた、中でも今電撃でやってる『魔王なあの娘と村人A』は特に人気で、「初のアニメ化作品になるのでは」とも囁かれている)が、2013年におよそ5年ぶりとなる新作『イタカノと彼らのおかしな日常』を引っ提げ古巣にカムバック。まだまだ積み上げていく余地はあります。五大将の中だと「彼奴は一番の小者……」という扱いになってしまう川崎ヒロユキも、アニメ脚本家としての仕事をこなしながら最大で7冊も新刊を出していた年があるのだから恐ろしい。

 話を戻して2006年、『ノルマルク戦史』のタイトルで5巻まで刊行されたまま中断していた赤城毅のシリーズを『ノルマルク戦記』と改題して再版、書き下ろしの6巻と7巻を加えて完結させるという変わった企画があったことも印象に残っている。そしてこの年は『銀盤カレイドスコープ』も完結した。8巻と9巻を同時刊行という、1巻と2巻の同時刊行で始まった銀カレに相応しい終幕であった。SDは『ノルマルク戦記』といい、こういう同時刊行をちょいちょいやります。

 新人賞はアサウラの「大賞」『黄色い花の紅』と藍上陸の「佳作」『ブール・ノアゼット』、ふたりとも受賞作はパッとしなかったが、やがてヒット作を掴んで化けることになります。『黄色い花の紅』は「百合」と「ガン・アクション」のハイブリッド、アサウラは「銃と少女」の組み合わせが好きらしく、受賞後第一作の『バニラ』も銃とともに少女たちが逃避行を繰り広げるライトノベル版『テルマ&ルイーズ』だった。つまりアサウラは深見真の同類作家なんですよ。『ブール・ノアゼット』は学園内に「ブール・ノアゼット」って新興宗教が蔓延っている青春ストーリー。作中には「ますらお同盟」なる右翼組織も出てくるらしいが、よくこれを応募したな……割とカオスなところがあるSDの中でも特に異彩を放っている一冊です。ほかに『戦え! 松竹梅高等学校漫画研究部』『ストーン ヒート クレイジー』が最終候補作だったそうだけど、このふたつに関してはよく知りません。

 他レーベル。1月にGA文庫と竹書房ゼータ文庫が、7月にHJ文庫が創刊。GA文庫は初期の主力商品が『神曲奏界ポリフォニカ』という複数作家によるシェアワールド小説で、ほぼ毎月のようにポリフォニカの新作が出ることから揶揄気味に「ポリフォニカ文庫」と呼ばれていた。そのポリフォニカも2013年6月に小説版は完結(たぶん)、シェアワールドながら総計64冊という新興レーベルにしては未曾有の大長編となった。まだまだブレイクには至らないが2009年の『這いよれ!ニャル子さん』以降、伸張が著しいレーベルであり、もう既にSDの地位は追い抜いてしまった感覚があります。ゼータ文庫は翌年の2007年にあっさり休刊したからあまり書くことがない……出した本もたった11冊、一番続いた『ウェイズ事件簿』でも3冊終了。賀東招二の『ドラグネット・ミラージュ』『コップクラフト』というタイトルでリメイクされています。ゼータ文庫と言えば90年代に「ゲーメストZ文庫」なんてのもあったな、あれも速攻で撤退していた。HJ文庫は創刊後しばらく硬派路線に進むべきか軟派路線に進むべきか迷いながら手探っていた(なぜかボトムズの小説まで出していた)が、2008年の『いちばんうしろの大魔王』、2009年の『百花繚乱』、2010年の『はぐれ勇者の鬼畜美学』、2011年の『俺がヒロインを助けすぎて世界がリトル黙示録!?』、2012年の『悪に堕ちたら美少女まみれで大勝利!!』と徐々にハーレム路線を強化。俗に言う「侍らせ系」を充実させていくことになる。侍らせ系というのは要するにこんなんとかこんなんとかこんなんである。躍進の目覚しさはGA文庫に並ぶ勢いで、今にもSDを捲らんと猛追している。てか新刊の発行ペースではとっくに凌駕しています。

 新興レーベル以外の話題を探すと、4月に竹河聖の大河ノベル『風の大陸』が完結している。『風の大陸』第1巻は富士見ファンタジア文庫創刊ラインナップの1冊であり、つまりSDにとっての『R.O.D』みたいな存在だった。完結の翌年に当たる2007年、「決定版」と称して本編28冊をハードカバー全5巻にまとめた(外伝は未収録)。2010年には出版社を移して『新 風の大陸』を開始していますが、3巻まで出したところで止まっている。ちなみに角川書店から発行された“巡検使カルナー”は同じ大陸(アトランティス)を舞台にした関連シリーズです。12月には『新ロードス島戦記』の最終巻が発売され、それに伴って“ロードス島戦記”全体に対する終止符も打たれた。刊行開始は1988年、だいたい『風の大陸』と同じ頃です。90年代初めに「第一次ライトノベルブーム」なるものが存在したと仮定するなら、この2つは紛れもなくブームの直接的な祖であった。『フォーチュン・クエスト』はこれらの翌年1989年に始まっている。そしてまだ終わっていない……。

(2007年−総数61冊)

 ラノベブームの追い風を受けてか、7周年を迎えた年に60冊を突破。1月に刊行された『神舟』は新人賞の三次選考通過作であり、遂に最終選考だけでは飽き足らなくなったのか「拾い上げ」の範囲を拡大していきます。ただ、三次選考通過レベルの「拾い上げ」でデビューして活躍した作家って、判明している範囲ではゼロなんですよね……電撃文庫は三次選考止まりだった鎌池和馬を拾い上げて大ブレイクさせましたが、そういうウマい話はSDにはなかった。「○○賞受賞!」みたいな箔がつかない分、拾い上げ作家のデビュー作は世間的にスルーされることが多いんですよね。

 5月にスタートした藍上陸の新シリーズ『アキカン!』はジュース缶を擬人化したラブコメ。「ジュースの缶に口をつける=ジュース缶娘のキス」という発想はくだならすぎて素晴らしい。「すっからかんラブコメ」と自ら無内容を謳ってみせる心意気にも脱帽。個人的にはエロゲー並みに下ネタを飛ばしまくる主人公が好きだった。「アルミ缶とスチール缶、選ぶのはどっち!?」というお題目で両陣営が戦い合っているバカバカしい設定だが、必殺技を喰らうと腹に大穴が空いて中身(ジュース)をブチ撒けながらマジで死ぬ――という結構えげつない描写もあった。その死んだはずの娘は2009年のアニメ化に合わせて生き返ったりもしましたが……9巻で一度中断状態に陥って、3年半くらい経ってから最終章の序幕となる10巻が2013年3月に発売されたものの、その後音沙汰なし。『R.O.D』よりはマシという程度の放置っぷりである。

 9月にはスーパーファンタジー文庫時代から活躍していた丘野ゆうじが『ダーク・グリモワール』を最後に、ひっそりと業界から姿を消した。デビューから16年、手掛けた著書は57冊。私がライトノベルにハマった理由の一端は間違いなく丘野ゆうじにあった。今更だけど、本当にお疲れ様でした。『ハイランディア』が好きだったな……私にとって「異世界召喚系ライトノベル」の故郷はアレに他ならない。ちょっと下の世代がゼロ魔を思い出してしまうように、ハイランディアを胸に甦らせてしまうのです。10月の『ポイポイポイ』はイラスト抜き、カバーも実写という一般文芸に近い装丁の実験作だったが、同傾向の作品がその後出なかったことから成否を察していただきたい。ちなみにタイトルの「ポイ」は金魚すくいで使う、水に濡れるとすぐ破れる紙を張ったアレである。同じ10月に刊行された『ヴァンガード』でSDという荒野に降り立ったのは、あらゆるレーベルで仕事を引き受けるラノベ界の傭兵・深見真。しかしシリーズ化はせず、深見の新作もその後お披露目されることはなかった。傭兵と言えば、SDって榊一郎の作品を出したことないんですよね……あの人は来た仕事を断らない主義だから、SD側が打診しなかったってことなのかな?

 新人賞はこのへんから読んでない作品が多くなってくるので端折り気味に行く。「大賞」の『鉄球姫エミリー』は420ページ超という文庫系ラノベの新人賞作品にしては異例の分厚さで話題になった(ただしこれより厚い作品は他の新人賞でもある。雑賀礼史の『龍炎使いの牙』は1巻が430ページ超で、しかも2ヶ月連続刊行だった)。分冊しようかどうか迷った末、「分厚くなってもいいから1冊にしよう」と決断したらしい。イラストを描いているのはせのぴーこと瀬之本久史。AXLの原画家としてお馴染みで、この縁もあってか後年『恋する乙女と守護の楯』のノベライズもSDで出している。『鉄球姫エミリー』は「大甲冑」なるファンタジー版パワードスーツを纏った戦士たちがド迫力の殺し合いを繰り広げる、ギャグっぽいタイトルに反したガチのバトル・ストーリーで、戦闘シーンのスゴさに掛けてはライトノベル界全体を眺め渡しても余裕で十指に入れるクラス。つったら少し大袈裟か。術理的には無茶苦茶かもしれないが、脳内で再現される死闘映像の生々しさたるや怖気を振るうものがある。あまりの殺戮っぷりに読者がヒいてしまったのか2巻以降ガクンと売上が落ちて、(私にとっての)大傑作であるにも関わらずたったの5冊で終了となった。返す返すも残念である。なお「佳作」は『警極魔道課チルビィ先生の迷子なひび』『ガン×スクール=パラダイス!』の2作だった。

 1月にファミ通文庫で『バカとテストと召喚獣』始動。このシリーズ、始まった直後は「そこそこ」程度の反響だったが3巻くらいから注目され始め、秀吉が初めて表紙を飾った『バカとテストと召喚獣3.5』が発売されたあたりでブレイクした。そういえば、番外編に小数点を付けるナンバリングをライトノベルで流行らせたのもこの作品だった気がする。SDも『ベン・トー』で番外編に対し同様の表記を用いている。同じ1月には“吸血鬼ハンター”シリーズ18冊目となる『D―狂戦士イリヤ』を最後にソノラマ文庫が休刊。1975年に創刊し、約30年の歴史を誇ったラノベレーベルの草分け的存在が遂に看板を下ろしました。9月には版元の朝日ソノラマ自体が会社を清算。朝日新聞社の出版部門が事業を引き継ぐ形になった。前年の2006年はたった2冊しか発売していなかったし、実質的には2005年くらいから終了に向かっていました。80年代に全盛を極め、スニーカーやファンタジア、電撃の台頭によって90年代で霞んでいったものの、菊地秀行や朝松健、笹本祐一、高千穂遙など錚々たるメンバーがデビューした伝説のレーベルである。“キマイラ・吼”シリーズの夢枕獏も印象的だが、あの人の単行本デビューはコバルト文庫だ。厳密に数えたことはないけれど、総計で恐らく1000冊ちょっとは出しているはずです。ピークとなった1995年でも年間の総冊数が50冊程度だから、実はSDよりも刊行アベレージの低いレーベルでした。

 5月に出版大手・小学館が新レーベル「ガガガ文庫」を創設。小学館は以前にも「スーパークエスト文庫」という少年向けレーベルを立ち上げているので初参入というわけじゃないが、あっちはノベライズが主体だったので少し趣が異なるか。SDとは同じ一ツ橋グループに当たるけど、だからと言って別に連携があるわけでもない。創刊ラインナップのひとつ、『人類は衰退しました』が売れ行き好調で滑り出しは良かったが、いまいちパッとしない状態が数年に渡って続く。劇場アニメ化し続編もTVシリーズになった『とある飛空士への追憶』や、スニーカーから移籍した『されど罪人は竜と踊る』、生え抜きの新人としては一番の出世頭となった渡航の『やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。』など、ヒット作はそれなりに生まれているがあとちょっとで突き抜けない。その点で言ったらSDと似たポジションか。あとグループが一緒のせいか、ラノベをあまり取り扱わない書店でもSDの新刊を入荷しているところはだいたいガガガの新刊も入ってくる印象がある。ちなみにガガガの新人賞からデビューした神崎紫電と山川進は過去SDの新人賞に応募しています。神崎は特徴的なペンネームだし、山川進は応募作の題名が受賞作と同じ『学園カゲキ!』だったからほぼ間違いなく同一人物でしょう。6月には入間人間が『嘘つきみーくんと壊れたまーちゃん』で電撃文庫からデビュー、最終選考からの拾い上げだったが精力的に書き続け、受賞者に劣らぬどころか勝りさえする地位を築く。

(2008年−総数68冊)

 リーマン・ショックがあった2008年は刊行点数で言えばSD文庫のピークに当たる年。毎月5冊か6冊の新刊がガシガシと発行されていた、SDマニアにとって夢のような時期である。「醜悪祭事件」が引き起こされた、私にとっては悪夢のような時期であるが……。

 事件の発端、かどうかはハッキリしませんが、『紅』のシリーズ2作目に当たる『ギロチン』がパソコンの故障により執筆データ消失。公式サイトでも「カタケンのPCが壊れたので延期です」といった趣旨の告知文が出される異例の事態に陥りました。全文書き直しによって『ギロチン』は2006年7月にどうにか発売されたものの、このトラブルで作者のモチベーションが低下したのか、刊行ペースは急激に低下。3作目となる『醜悪祭』は分冊形式となり、上巻が2007年11月に発売され、下巻は2008年以降――ということになってしまった。2008年4月にようやく下巻が店頭に並びましたが、200ページ未満の薄さに加え、アニメ版の脚本まで収録して水増し、更に話が途中で終わっているという凄まじい未完成ぶり。アニメ化に絡んでの強行発売とはいえ、あまりにもあまりな有様でした。翌5月の公式ファンブックに「祭りの後」という後日談が掲載されたけど、これも取って付けたような内容で……以降、カタケンの名前はライトノベル界から消え、漫画版やアニメ版の原作者名として表記されるだけの文字列と化す。折りしもエロゲー界で「怒りの庭」と呼ばれる未完成商法が紛糾していた頃である。「怒り」も「庭」も直撃したうえ飛来する「醜悪祭」を躱せなかった私の心はボロボロになりました。が、私の心はこの際どうでもいい。次の話をしましょう。

 刊行直後から話題を呼び、メキメキと頭角を表してSDの看板シリーズへと駆け上っていくことになる『カンピオーネ!』がスタート。口コミで評判が広がって、私もそれに釣られて買ったクチ。そして「ん? 間違って2巻を買っちゃったか?」という万人共通の戸惑いを体験した。タイトルの「カンピオーネ」は「王者」や「選ばれし戦士」を意味するイタリア語だが、単に「チャンピオン」と言った方が理解は早いだろうか。京極堂の憑き物落としみたいな要領で神々と戦う、言わば「薀蓄バトル」がシリーズの肝であり、これを映像で再現するのは難しいだろう……と思っただけにアニメ版が振るわなかったのも納得だった。正直、アニメに関しては立木文彦のナレーションしか記憶に残っておりません。アサウラの起死回生作『ベン・トー』はアニメ化でブレイクすると睨んでいたが、期待していたほど大きくはブレイクしなかった。「半額弁当の奪い合い」という題材がニッチすぎたのだろうか。『迷い猫オーバーラン!』はとにかく刊行ペースの早さに度肝を抜かれた。2ヶ月に1冊のペースで1年足らずの間に6冊も積み上げてみせた筆の速さは脅威。しかし終盤トラブルが生じたらしく、10巻と11巻と12巻、ラスト3冊はすべてイラストレーターとキャラクターデザインが異なるサイケデリックな仕様になってしまいましたね。あれはマジでいったい何だったのか……その他の注目作は一部のロリコンにウケが良かった『小学星のプリンセス☆』か。住民すべての外見が小学生相当の星、すなわち「小学星」――という頭の悪さが極限まで達した設定に衝撃を受けました。作者の餅月望は「アミューズメントメディア総合学院ノベルス学科」の出身で、長谷敏司の教え子に当たります。理想とするラノベは『紅』。当然のように『円環少女』も好きなんだろうな……と予想がつく。「実年齢は大人、見た目は子供」のヒロインをロリと見做すか否かについては議論の分かれるところだが、それはさておきイラストを描いている「bb」は『Aチャンネル』で知られる「黒田bb」の旧ペンネームである。ほら、そう言われるとルリスの絵、ちょっとだけユー子っぽく見えてくるでしょう?

 新人賞は「大賞」がなしで「佳作」が3つ出ました。『超人間・岩村』『反逆者(トリズナー)』『スイーツ!』。『超人間・岩村』は平たく言うと「助っ人部」モノ。お呼びとあらば即参上、な青春学園ストーリー。廃部寸前の演劇部を救うべく、「超人間」の岩村が立ち上がる。超人間と言っても、超能力や魔法の類は一切使えない。ただひたすら暑苦しいまでの魂を抱えて熱血しているだけの少年である。当時の感想を引用すると「松岡修造の青春時代かと錯覚しそうになるほど常に前のめりで全力疾走している」。ノリが古臭い、構成に難を感じる、といったマイナスはあるにせよ、それを打ち消して余りある魅力も篭もっていた。シリーズ化しなかったことが残念です。『スイーツ!』は甘々なラブコメ……かと思いきや、思春期の女の子だけが持つ超能力「スイーツ」を巡るバトルもの。ヒロインが顔に硫酸を浴びせられそうになるなど、さりげなくエグい。ステキなムチムチ絵を描くことで定評のある柏餅よもぎがイラストを手掛けているが、本文中で「華奢」「繊細」と描写されている子の足までムチムチだったのはちょっと……好きなイラストレーターだけど、さすがにミスキャスト感に溢れていました。『反逆者(トリズナー)』は読もうかどうか迷って結局読まなかったから語れない。噂によれば戦闘シーンの描写が結構良かったらしい。もいっこ、「作者の弥生翔太は最近になって他レーベルから別名義で再デビューした」という噂もありますが、そちらの方は裏が取れなかった。ヤスケン(安井健太郎)大好きっ子だから、もし近々「座右の書は『ラグナロク』です」と語る作家が現れたら、その人は弥生翔太かもしれません。

 ほか、三次選考通過作の『海賊彼女』『ガラクタ・パーツ』も刊行されたが、ガラパの作者については「SD史上最年少・19歳デビュー!!」と喧伝しておきながら1冊こっきりで終わってしまった。送り出したらそれっきり、「新人育成? いや、知らない概念ですね」と我が道を行くSDに隙はなかった。ちなみに最年少記録は第11回で特別賞を獲った永原十茂が更新。なんと1994年生まれの17歳でした。この人も1年以上新刊を出していないけど、学業が忙しいだけなのかな。

 5月に一迅社文庫が創刊。ここは今のところ目立って躍進しておらず、一貫して弱小レーベルの空気が漂い続けている。アニメ化した作品も2013年12月までの時点でゼロだ。しかし『パンツブレイカー』『ウは宇宙ヤバイのウ!』など通好みの作品もちょこちょこ埋伏しており、「頼むから潰れないでくれ」とヒヤヒヤしながら見守っている熱心なレーベルファン(当方は勝手に「一迅者」と呼んでいる)も多いという。そろそろ5年経つし、何かしらアニメ企画も本格始動しそうな雰囲気ではある。候補は『千の魔剣と盾の乙女』『10歳の保健体育』『俺がお嬢様学校に「庶民サンプル」として拉致られた件』の3つ。いっそ全部お茶の間に流してしまえばいい。

(2009年−総数61冊)

 前年が上がり過ぎた反動か、下がった。一昨年と同冊数だから息切れまでは起こしていません。12月には初の7冊刊行を実現。『アキカン!』、『よくわかる現代魔法』、『戦う司書』と、SD原作のアニメが次々と放送された年。ただ、この時期は目立った新シリーズがなく、語るべき事項も少ない。6月の単巻作品『魔法少女を忘れない』はなぜか実写映画化した。別段話題になっていた作品でもなかったので狐に抓まれた心境だった。あとは12月に『パパのいうことを聞きなさい!』が始まったくらいか? 同人での活動を主体にしていた漫画家「なかじまゆか」を初めて商業に引き入れたことで話題になった。主人公の姉夫婦が飛行機墜落により生死不明の状態となって、主人公は姪に当たる少女3人を引き取って育てようとする。なんと三姉妹全員が腹違いで、主人公と血縁関係があるのは一番下の幼稚園児・ひなだけ――という思い切った設定でラブコメ街道を驀進します。人情ドラマ主体のホームコメディで、続けようとすればいくらでも続けられる題材だけに現在も順調に巻数を伸ばしている。名実ともにSDの看板シリーズ。2012年のアニメ化に合わせて山のようにコミカライズ企画が立ち上がった(数えてみたら6個あった)けど、いくつかはまだ続いているのかな? パパ聞きは主人公がまず三姉妹を八王子のアパートの自室に引き取るのだけれど、さすがに手狭ということで2巻から池袋の一軒家に移り住む。アニメは八王子時代、つまりアパート住まいだった頃のエピソードで構成されており、1クールも掛けて2巻まで進まないという驚きの牛歩戦術を披露した。7巻が過去を振り返る短編集なので、原作消化度はおよそ2冊分ですが、まだまだストックは残っている。SD側としては2期、3期も狙っているだろうが、果たして……ちなみにアニメは三女ひなを演じる五十嵐裕美の「おいたん!」「ひなだお!」という舌っ足らずなセリフがインパクト大で、未だにネットミームとして見かけるくらいである。

 新人賞はまたしても「大賞」なしで「佳作」2つ。『アンシーズ』『逆理の魔女』。ごめんなさい、2つとも読んでいません。代わりに、と言うのもなんですが、雑談的なトピックを。SDの発行したライトノベルの総冊数が約760冊であることは最初の方にも書きましたけど、作家数、つまり「SDで本を出した人はどれくらい存在するのか?」と申しますと、ざっくりカウントして150人ほどです。このうち90人くらいがSDからデビューした人で、更にスーパーファンタジー文庫やジャンプJブックスから流れてきた人も何名か存在するから、意外と「外様」が少ないレーベルだったりする。ただし、ノベライズやメディアミックスなどを除いた「オリジナルのライトノベル」でSDに降臨した新人は、90人中80人程度。うち33人が新人賞受賞者、14人前後が新人賞からの「拾い上げ」ではないかと思われる人々、持込原稿だったり編集者が知り合いだったり同人誌がキッカケになって誘われたりといくらか出版の経緯が判明しているのが7人。残りの25人くらいが「どういう事情でSDからデビューすることになったのか、ぐぐった範囲ではよくわからない作家たち」です。比率としては半分以上が新人賞由来で、やっぱり作家の供給源として新人賞の役割は大きい。デビュー後の傾向を見ると、新人賞受賞者はほとんどが続編や次回作を精力的に何冊も書いている一方で、最終選考とか三次選考通過とかで「拾い上げ」された作家はほんの1、2冊で放り出されるケースが多いです。5冊以上の著書を出した作家は桜坂洋と番棚葵と三上康明のたった3人だ。賞持ちは多少優遇されるけど、拾い上げは売れなかったら即バッサリという現実。『迷い猫オーバーラン!』も、拾い上げじゃないけど「売れたら2巻出す」って扱いから始まった。1巻発売記念のインタビューで「まだ二巻も決まってない」と松がポロリしている。それに対する編集長の受け答えも振るっています。「まあ、書き始めといてよ。売れなかったらオクラ入りかもしんないけどな」 松と編集長は知り合いで、迷い猫も松が原稿を持ち込んだことから始まった企画らしいが、いいねぇ……このサラリと容赦ないところが実にSDですねぇ。

 この頃、電撃文庫から川原礫が出陣。デビュー作『アクセル・ワールド』の反響も大きかったが、『ソードアート・オンライン』はそれを遥かに上回る話題作になった。SAOは川原が「九里史生」名義でネットに公開していたWEB小説を紙媒体向けにリライトしたものであり、原型は2002年から書き始めていたというのだから結構古い。AWとSAOを隔月で矢継ぎ早に送り出し、デビューから1年と経たないうちに早くも看板作家の風格を備えていった。また12月には「メディアワークス文庫」が創刊。「電撃文庫を読んで育った世代」、だいたいアラサーくらいの読者をターゲットにした一般文芸寄りのレーベルとして産声を上げる。イラストを使わない作品も多々あり、厳密にはライトノベルと言えないかもしれませんが、電撃文庫から移ってきた作家も多く「概ねライトノベル」と見做されています。「イラスト重視ではない」ライトノベルというのはSDにも『ポイポイポイ』があるし、似たような狙いがあったと推測されるが、MWほど本格的に取り組む余力はなかったのであろうか。ただ、MW文庫も2011年に『ビブリア古書堂の事件手帖』が劇的なヒットを飛ばしたことが影響してか、「結局イラストあった方がいいじゃん」とばかりに写真や抽象画を表紙にあしらった作品は徐々に減っていきます。今や平台に置かれるMW文庫の新刊は、一般小説というより「地味めのライトノベル」に見える。

(2010年−総数61冊)

 横這いだが、60冊台維持しただけでも大したもの。1月の『ななぱっぱ』『DADDYFACE』のアレを下回る7歳児がパッパになってしまうのか……と勝手に想像して興奮したが、「7人娘のパッパ」という意味だと判明してしょんぼりした。娘が朝起こしに行ったら父親が15歳に若返っていた、という設定だからブッ飛んでいることはブッ飛んでいるのだが。2巻のあらすじを読むと輪をかけてスゴイことになっています。2月には主人公が麻雀の玄人(バイニン)を目指す『アスカ』なんて変り種の作品も出た。表紙イラストだけ見せて「SAOの麻雀編だよ」と言ったら何人か騙せるだろうか。麻雀ライトノベルは実に希少で、私が知るかぎりでは『ナナヲ・チートイツ』と、あとは『眠り姫』収録の「カム・トゥギャザー」(探偵がヤクザ3人と麻雀を打つ)くらいしかない。7月の『テルミー』は26人の高校生のうち24人が開始時点で死亡しているにも関わらず「必ずハッピーエンドになる」と宣言する異色作。ラブコメと異能バトルが二大勢力を築き上げていく中で、そのどちらにも与しない作品として小規模ながら話題を呼ぶ。翌年2巻が刊行されたが、これを最後に滝川廉治は新刊を出していない。復活が待ち望まれるけど、ブログの更新も2012年4月を最後に止まっており、年々望みが薄くなっていく……8月の『ロイヤル☆リトルスター』はタイトルだけで「ははあ、餅月望の新作だな」ってピンと来るはず。amazonで表紙を確認すると分かるが「ロ」と「リ」が異様に目立っています。イラストレーターは千葉サドルに変更となったが、『小学星』の5年後を舞台にした関連作。続編ではない、と前置きしつつ「もしかしたら百万部ぐらい売れてくれると、小学星人のアイドルとか出させてもらえるようになるかもしれませんね」とのコメントを寄せた。残念ながら同年11月の2巻で打ち切りになりました。12月の『宅配コンバット学園』はアレな作品をピックアップし始めたら枚挙に暇がないSDの中でもひと際アレな一冊として妖しい光芒を放っている。「本当の地雷」を踏み抜きたい人にオススメともっぱらの評判だが、私にその勇気はない。許してくれ。

 一昨年、去年と続いて振るわなかった新人賞は一転して豊作。大賞2つと佳作2つ、計4つもの受賞作がリリースされた。大賞は『ニーナとうさぎと魔法の戦車』『オワ・ランデ!』、佳作は『ライトノベルの神さま』『二年四組 交換日記』。『ニーナとうさぎと魔法の戦車』の応募時タイトルは『うさパン!』、「うさぎパンツァー」の意味だろう。魔力を燃料代わりにして動く「魔法の戦車」へ、女性のみで構成された小隊「首なしラビッツ」が乗り込んで縦横無尽、獅子奮迅の大活躍! 魔法だけに砲口から水を出したりすることもできる。スゴイ。百合+戦車で、まさしく時代を先取りしていたが、波には乗れずガルパンの陰に隠れたまま完結してしまった。シリアスともコミカルとも判じがたい中間的な作風が「どっちつかず」に見えてしまったのだろうか? 『オワ・ランデ!』はセックスしたくてサキュバスを召喚したまでは良かったものの、呼び出した相手が「触れたら吸い尽くされて即死」という超高位夢魔だった……という下ネタずんどこノベル。良い意味でエロゲーのシナリオをライトノベルに変換したような作品です。高位すぎてセックスする前に相手が死んでしまうからサキュバスなのに処女、という設定がエロくてムラムラする。バジリスクの陽炎みたいだ。ストーリーの悠長さもエロゲー級で、1冊かけてやっとプロローグが終わる、というくらいノンビリした進行。ほとんど会話だけで終わるし、ホント「紙媒体のエロゲー」って印象です。4冊であえなく終了かと思いきや、まさかの番外編刊行で歓喜したっけなぁ。懐かしい。『ライトノベルの神さま』はライトノベルのような「お約束」まみれの恋愛イベントを提供してくれる神様、という意味で漫画にとっての手塚治虫みたいな存在が出てくるわけではない。というか、手塚ゴッド的な意味でのラノベ神って誰だろう? 神坂一か? エロゲーで言うと『こんな娘がいたら僕はもう…!!』のススムも「愛のエネルギー」を補給するべく主人公に「お約束」じみた出逢いを与えるとか、そんな感じだったな。『二年四組 交換日記』は「2-4の生徒たちが匿名で書いた交換日記」の体裁を取っており、無論匿名だから誰が何を書いたか署名していないが、内容をよく読めばそれぞれの氏名を特定できる……そういうパズルみたいな仕組みの作品。凝っているが、凝りすぎたのか「もう懲り懲りだよ」とばかりに作者の次回作は出なかった。

 他レーベル、3月に「スマッシュ文庫」創刊。大々的に広告を打つわけでもなく、ひっそりとした始まりだった。創刊ラインナップはたった2冊、本当は3冊の予定だったけど1冊遅れたんだっけ、確か。当初は税込500円のワンコイン文庫であることを売りにしていたが、4冊目となる『うちのメイドは不定形』で早くも500円を突破して有耶無耶に。とにかく刊行ペースが間遠で、ときたま思い出したようにポツリポツリと1冊か2冊新刊が出る。不定期なので見落とすこともしょっちゅうだ。2012年3月に突如「妹組」とか言い出して「妹」テーマの作品を一挙に4冊発行し、宣伝PVまでつくった。ご覧いただければ一発で痛感すること請け合いですが、血迷いオーラがすっごい。その後も苫米地英人による洗脳ラノベやら『学園ハンサム』のノベライズやら「高校受験に役立つ小説」やらゲームブック形式のマルチエンディングライトノベルやらグンマーネタのラノベ化やらと正気を疑う領域の実験作を繰り出す。上にも書いた『うちのメイドは不定形』は刊行物の中で一、二を争う話題作となり、同じクトゥルーネタのニャル子でもネタにされたが、2巻が出るまでに3年も掛かったような状態なので看板シリーズとして掲げるのは難しい。最近だと「クトゥルフ神話の祖・怪奇小説作家ラヴクラフトを美少女化!」した『未完少女ラヴクラフト』が密かな人気を集めているが、このシリーズ、1巻の表紙2巻の表紙が間違い探しレベルなので購入する際は注意しましょう。

 5月、電撃文庫の新刊『俺と彼女が魔王と勇者で生徒会長』が「盗作ではないか」と騒ぎになり、翌6月に文章の酷似を認めるオフィシャルな謝罪が公表され絶版・回収。この騒動の顛末を書くと長くなるので詳しいことは検索してお調べください。作者の哀川譲は2013年に業界復帰している。8月、富士見ファンタジア文庫で“フルメタル・パニック!”シリーズの本編が完結。1998年開始と、SDよりも高齢のシリーズであった。刊行ペースが遅かったようなイメージもあるけど番外編を含めれば刊行が途絶えた年はなく、ずっと何かしら発売され続けていました。13年半経っても完結しない『R.O.D』に比べれば優秀である。書いてて悲しくなってきた……9月には宝島社の「このライトノベルがすごい!文庫」創刊。何度見てもヒドい名前だ。ノベライズをやらず、外様もほとんど使わず、生え抜きの新人をメインにして切り盛りする異色のレーベルです。あまりに異色過ぎる試みのせいか、大して注目が集まらない。刊行点数も少ない。初期は刊行物のない月もちょくちょくあったが、スマッシュ文庫ほど頻繁に間隔が空くわけじゃなく、創刊の翌年2011年5月から毎月最低1冊の枠は死守している。話題作を強いて一つ挙げるとするならば『魔法少女育成計画』か。

(2011年−総数67冊)

 言うまでもなく、震災の年。ジャンプのコミックスは新刊の配本が滞るなど影響を受けていたが、SDは特にそういうこともなかったような気がする。むしろ刊行点数をほぼピーク時並みの水準にまで引き上げた。中でも8月は凄まじく、なんと8冊も新刊を出しています。アニメは1月から『ドラゴンクライシス!』を放送開始。ヒロイン役の声優が売れっ子の釘宮理恵で、堀江由衣が歌ったOPテーマ「インモラリスト」はクイズ番組にも出題されるほどだったが、アニメ本編はキレイサッパリ話題になりませんでした。同クールにまどかマギカやISといった大型の話題作があったのだから仕方ない。ISで思い出したが、この年は冬にIS、春にアリア、夏にまよチキ、秋にはがない(1期目)と毎クールMFアニメが放送されていました。もはや完全に差が付いている……さておき、8月には『戦う司書』の作者・山形石雄が新シリーズ『六花の勇者』をスタートさせた。勇者は6人、なのに集まったのは7人。そう、勇者ならざる者が紛れ込んでいる。誰かが敵だ……しかし、いったい誰が? 疑心暗鬼に陥っていく「勇者」たちの姿を描く、サスペンスタッチのファンタジー。SDでここ3年以内に始まったシリーズとしてはもっとも高評価の作品ながら、シチュエーションが限定的すぎるため、新たな看板作品にするのは難しいのでは……と危惧されつつも今後に期待を寄せられています。11月の『ある朝、ヒーローの妹ができまして。』は餅月望と黒田bbのロリコンビ……いえ、ゴールデンコンビが再結成されたシリーズ。ロリコン読者からふたたび熱い視線が送られるも、翌年6月に2巻を出したきり音沙汰がない。もう1年半経つし、続刊は諦めた方が吉か。とりあえず黒田bbが好き、って人はイラスト目当てでもいいから買ってみてください。餅月望による特別番外編「ある朝、ヒーローの妹ができまして。〜most precious days 〜」も公開されているので興味がある方はそちらをどうぞ。この人がロリコンのツワモノどもから「真性」と呼ばれている理由の一端が窺い知れるかもしれません。

 新人賞はこの年から「佳作」が消え、代わりに「優秀賞」や「特別賞」という枠が新設された。扱いとしては大賞>優秀賞>特別賞らしい。2011年は大賞2つ、優秀賞1つ、特別賞1つの大盤振る舞い。中でも八針来夏の『覇道鋼鉄テッカイオー』は「童貞のみが使える武術」によって巨大ロボットを動かす奇天烈さで「大賞」の座をもぎ取ったが、なんと同月に別レーベルから刊行された『神童機操DT-O』とネタが丸被りするという珍事態に発展した。ついでに書くとパイロットがエロいことしないと動かない『健全ロボ ダイミダラー』というロボ漫画もある。今度アニメ化しますよ、世も末だ。

 追記:コミカライズを中心にしてSDと連動する新雑誌“スーパーダッシュ&ゴー!”が10月に創刊。2013年4月までの1年半に渡って発行を続け、第10号で以って休刊した。同年6月にSD&GOのサイトをリニューアルし、無料WEBコミック雑誌として再出発。SD&GOのコミックスはなぜか「愛蔵版」という扱いにされています(例:『ベン・トー zero road to witch』)が、2014年1月現在までに刊行された単行本は24冊。ほとんどコミカライズで、ベン・トー/パパ聞き/カンピオーネが各3冊、ニーナとうさぎと魔法の戦車/(『3月のジェルミナル』の本編に当たる)『1月のプリュヴィオーズ』/六花が各2冊、ドラクラ/オワ・ランデ/飛火夏虫/嘘つき天使は死にました!/ボイス坂/R.O.D REHABILITATION/百合×薔薇が各1冊、そして珍しくコミカライズではない高畠エナガの短編集が2冊、といった内訳です。1月10日に「各連載作品の完結、および更新時期の都合により、今回の更新はございません」とのアナウンスがあるけど、パッと見どれが完結してどれが続いているのかよくわかりません。「完結」って表記のない奴も完結してるみたいだし。けど、エナガの『Latin』『100─HANDRED─』がSD&GOのコミックスだとは知らなかった……単行本派だと掲載誌に無頓着になってしまいがちです。「初の本格長編連載!!」と謳われている『人魚の花籠(マーメイドのはなかご)』も単行本にまとまるのが楽しみだ……って書きたいところだが、どうも連載が止まってるっぽいですね。どこかで再開する予定らしいけど、人魚とは別に完全新作の連載も始めるそうだから時間が掛かるかもしれません。

 電撃文庫は『魔法科高校の劣等生』を刊行開始。新人なのにいきなり上下巻の二ヶ月連続刊行という大胆なチャレンジに踏み切った。なぜ大胆かと申しますと、刊行間隔が狭いと「1巻目が売れなかったから2巻目は予定より少なめに刷ろう」みたいな調節ができず、ダダ余りになってしまうこともあるからです。しかし、余るどころか品切が続出するという逆向きの計算違いが発生するほどの人気作となった。年末には「講談社ラノベ文庫」が創刊。遂に天下の講談社がラノベ界へ侵攻。ほんの2年で『アウトブレイク・カンパニー 萌える侵略者』『彼女がフラグをおられたら』、2本のアニメ企画を成立させる。まだまだ層は薄いが、SDにとっては油断ならぬ相手である。他にフェザー文庫とかいうのも出来たが、存在感がスマッシュ文庫並みで、さっき検索して『脇役の分際』続刊がいつの間にか出てることを知って驚いた。公式サイトの「今後の刊行予定」が空欄になっているし、稼動しているかどうかわからないレーベルのひとつであります。2011年はMF文庫Jの版元であるメディアファクトリーが角川グループ傘下に入った年でもあり、電撃・MF・富士見・スニーカー・ファミ通のすべてが角川系列となって、ライトノベル界はまさしく「カドカワ一強体制」に突入しました。その一方で“ザ・スニーカー”は休刊。1993年から18年に渡って続いたライトノベル雑誌であり、少年向けにおける三強「ドラマガ・ザスニ・電マガ」の一角が崩れることとなった。

(2012年−総数61冊)

 パパ聞きのアニメが始まって、声優繋がりでニャル子に「おいたん」ネタを使われたりしていた頃。松智洋の忙しさは絶頂を極め、この年に7冊も新刊を出すという異常な過重労働を強いられていた。2月に『迷い猫オーバーラン!』を完結させ、7月から新シリーズ『オトメ3原則!』を立ち上げ。タイトルの元ネタはもちろん「ロボット3原則」です。「ロボットになりたい少女と、人間になりたいロボットがひとりの少年に恋をした」三角関係ラブコメみたいで、「おっ、これもアニメ化すんのか?」と見守っていたが、アニメ化を待たずして6巻で完結となった。夏には『カンピオーネ!』もアニメをやっていたが印象薄いな……業界全体で見ると、電撃のSAOに全部持ってかれたような年だった。8月の『ボイス坂』は漫画家・高遠るいが初めて執筆したライトノベルであり、挿絵も自ら描いている。コミカライズまで自分でやった。「挿絵も自分で描く」パターンはたまにある(『ノーゲーム・ノーライフ』など)にせよ、コミカライズまでやっちゃうのは単純に労力面での問題もあるし、なかなか見掛けません。女子高生が承認欲求を満たすために声優の道を志す、そんなストーリーだが、このタイトルだと「あたしはようやくのぼりはじめたばかりだからな このはてしなく遠いボイス坂をよ…」エンドしか思い浮かばない。2巻発売から10ヶ月が経過したけど、果たして3巻は出るのか?(追記:どうも打ち切り臭い

 新人賞の「大賞」を射止めた『暗号少女が解読できない』は『沢渡さんは暗号少女』のタイトルで「小説家になろう」に掲載されていた作品。つまり作者はWEB出身の小説家です。これがSDにとってのSAOになるのか、といろんな意味で期待が集まったものの、2巻のプロットが通らなかったそうで……「星になりました」と作者がコメントしている。大賞受賞作品がまさかの1冊打ち切り。『滅びのマヤウェル』でも2冊打ち切りだったのに……スーパーダッシュ文庫、本格的にヤバくなってきてるんじゃ? と囁かれるのも納得の経緯である。結局、4人いた受賞者のうち現在(2014年1月)までに2冊目の本を出せたのは『エンド・アステリズム』の下村智恵理だけ。生存率25パーセントという修羅のレーベル。SDの退潮が著しくなった年でもあり、12巻に及ぶ迷い猫が完結したことを始めとして、都合17個ものシリーズが終了ないし続刊ナシの状態となった。打ち切りを思わせるものがほとんどである。1冊こっきりで終わった本(ノベライズ等を除くオリジナル小説)も9冊あり、翌年に新刊を出せたシリーズは14個、そのうち4つは現在既に完結している(ニーナ、黒猫、とわいすあっぷ、オトメ3原則)。残り10個のうち、4個はベン・トー、パパ聞き、カンピ、六花で、あとの6つに関しては……ハッキリ「完結」とは謳ってないけど、たぶん打ち切りなんじゃないかな。どれも半年以上、新刊が出てません。

 新興レーベルが乱立した年であり、1月に創芸社クリア文庫と桜ノ杜ぶんこ、3月にNMG文庫、9月にヒーロー文庫が創刊している。創芸社クリア文庫は『RAIL WARS!』のアニメ化が決まったが、ここ数ヶ月はRWの新刊しか出しておらず、実質「創芸社RAIL WARS!文庫」である。桜ノ杜ぶんこはオリジナルとノベライズが半々……いや、ハッキリとノベライズの方が多い。恋0やるい智、シンセミアなど、微妙にマイナーなエロゲーのノベライズがちょこちょこあって嬉しい。桜を意識したピンク色の装丁がやけにエロいムードを漂わせるが、成人向けではない。最近は『いっき』『スペランカー』『アイドル八犬伝』と、なぜかレゲーのノベライズに力を入れている。NMG文庫は創刊した年に2冊、翌年に3冊、翌々年に当たる今年(2014年)にとりあえず2冊と、ほとんど止まっているようにしか見えない刊行ペースのおかげでレーベルと認識することすら難しい。面子の中に戸梶圭太が混ざっているのも「ライト……ノベル……?」という感じである。(追記:指摘があって調べましたところ、NMG文庫の創刊は正しくは2013年3月でした。『紅ヴァンパ ようこそ紅浪漫社へ』『おじいちゃんもう一度最期の戦い』がamazonではなぜか「発売日: 2012/3/19」で登録されているため誤認しました、申し訳ありません。説明し直しますと、2013年3月に3冊、4月に2冊を刊行し、そして2014年2月に2冊刊行する予定となっています) ヒーロー文庫は毎月何かしら出しているし、ノベライズもやってないし、この中では一番ラノベレーベルっぽい体裁を整えています。ただ「小説家になろう」掲載のWEB小説を文庫化するのが主な業務で、30冊近い刊行物のうち1/3を『竜殺しの過ごす日々』が占めている。

(2013年−総数46冊)

 ん? 数え間違いか? と一瞬目を疑うような刊行点数ダウン。まさかの前年比-15。水準としては創刊翌年並み。ラノベブームが高まる中、レーベル間におけるシェアの奪い合いも激化して過当競争の様相を呈し、いよいよ洒落抜きでSDが差し迫った状況に直面しつつある事実を嫌でも思い知る年になった。

 そういえば王雀孫の『始まらない終末戦争と終わっている私らの青春活劇〜おわらいぶ〜』が刊行される予定だ、と報じられ「すわSDの時代来たか」と逸ったものの、何事もなかったようにタイトルが消え、続報もまったく来なかった。「王雀孫のラノベデビュー」は幻の彼方に去った。出ないと思ってたけど、本当に出なかったよ! 惨憺たる失望、それがSDの現状だった。新人は育たないし、シリーズ作品もなかなか続かない。完全に悪循環モードへ突入し、5月にはかつてなかった「ひと月の刊行点数が2冊」という最低記録をマーク。こんなのが続くようだと、一切の揶揄ナシでもう長くないかも……と考えざるを得ない。この年に放送されたSD原作アニメも0本。2008年以降ずっと途切れなかった波が、遂に途切れてしまった。他方、MF文庫Jは一挙に5タイトルのアニメ化を発表していた。アニメ化がすべてではない、のだが……「アニメを放送していないレーベルの知名度は沈む」(書店のラノベコーナーはアニメ化作品を主力に据えて売り場作りする)という摂理にSDも抗えないのであった。

 斜陽を迎えたSDに12月、ファミ通文庫出身の「個性が全身から噴出している作家」石川博品が襲来。「女装少年が後宮(ハレム)で美少女たちと野球をする」『後宮楽園球場(ハレムリーグ・ベースボール)』の開幕であった。作者が意欲的すぎて評価が追いつかないこの雰囲気、定金の『制覇するフィロソフィア』が脳裏をよぎる。同月、ポテンシャルは高いけどブレイクに至らないことで定評のある八薙玉造は新シリーズ『オレのリベンジがヒロインを全員倒す!』開始。『鉄球姫エミリー』『神剣アオイ』『獅子は働かず 聖女は赤く』と、作を重ねるごとになりふり構わなくなっていく。かつて最強レベルの力を己が身に宿し、世界も救ったことのある主人公……だが最終決戦の後、疲労困憊してボロボロになっているところでヒロインたちの叛逆に遭い、すべての権能を失った。両手の隙間から砂のように零れ落ちていったユニバーサル極まりない力(オリジン)を、彼は忘れることができない。あの全能感に満たされ「世界とか救っちゃうヒーローな俺」に酔い痴れていた、乳と蜜の流れる日々。みな諸共奪った連中――奴らを赦してなるものか! かくして仲間でありながら自分を手ひどく裏切った四人の少女たちに然るべき復讐を加えてやらんと立ち上がるが……ってな話。言わば逆カンピオーネである。「地球圏内であればどんなことでもできる」権能をロストした少年が手段選ばずリベンジに赴くわけで、普通なら悪役(あるいは陵辱系エロゲーの主人公)の位置付けだけど、力を失った少年の扱いが哀れなのでつい肩入れしてしまう。うまくやれば川村ヒデオみたいな「ダメなのに愛せる」ポジションに持っていけそう。でも、肝心の「リベンジ」が割と直球のエロス(奪った力を取り返すためには「マーク」と呼ばれる光る痣に一定時間触れねばならない、マークが体のどういう部位に浮かぶかは……もうご理解いただけたと思う)なので不快感が生じるかどうかギリギリの淡いに佇んでいます。でも期待したい。とりあえず打ち切りだけはやめてくれ。真価を発揮するまでもう1、2冊掛かるだろう、これは。

 新人賞も不振で「大賞」なし、「優秀賞」2本のみ。代償を支払うことによって特殊な能力を発揮する巨大人型ロボット『代償のギルタオン』はちょっと面白そうな感じがして買ってみたが、まだ読んでいない。審査員だった丈月城、松智洋、山形石雄の3人が激賞したとあるが、審査員全員に激賞されてなぜ「大賞」ではなく「優秀賞」止まりだったのだろう。謎だ。何にしろ、これがシリーズとして育つには最低もう1、2年掛かる。その間に繋ぎとして時間を稼げそうなのは、カンピやパパ聞き以外だともう『六花の勇者』くらいしかありません。ひょっとしてレーベルそのものを手仕舞いの方向に持っていくつもりなのでは……? と邪推したくなるほどシリーズがまるきり育っていない。

 「1年以上新刊が出ておらず刊行予定もないのは打ち切りないし完結と見做す」という基準で眺めていくと、2008年以降に刊行された作品(ノベライズ以外)のうち、続かなかったのかもともと続けるつもりがなかったのか単巻で終わった物がだいたい30冊あります。少なくとも2冊以上続いた、という新規シリーズ物は60個ちょっと。そのうち40個は2〜4冊程度で終わった打ち切り疑惑の濃いシリーズです。5冊以上続いて公式的に完結が宣言されたシリーズは8つ、次で完結するベン・トーも入れたら9つ。残りの10個前後が「続いているかもしれないシリーズ」です。カンピ、パパ聞き、六花、この3つは確実として、刊行予定に載っていた『クライシス・ギア』『8番目のカフェテリアガール』『代償のギルタオン』の3つも差し当たっては大丈夫か(追記:『8番目のカフェテリアガール』はサイトリニューアルのドサクサに紛れて消えたけど、大丈夫……だよな?)。『百合×薔薇』『獅子は働かず 聖女は赤く』『ボイス坂』『エンド・アステリズム』『ドッグライヴ』『俺の目を見てボクと言え!』の6つはちょっと怪しい? 『百合×薔薇』は2巻と3巻の間が2年近く離れていて、「てっきり打ち切られたと思っていたのに続編が出た」ケースだから本格的に再開するのかどうかよくわからない。『獅子は働かず 聖女は赤く』はただでさえ刊行ペースが遅かったのに、作者が先月新シリーズを始めちゃった。獅子聖の5巻については「作業進行中」と述べているが、このままフェードアウトしそうな雰囲気もある。『ボイス坂』の作者は本業が漫画家で、榎宮祐みたいに本腰を入れてラノベ執筆に取り組むつもりなのかどうかまだハッキリしない(追記:完結編は出したいみたいだが、SDで出すのは難しそうなムード)。『エンド・アステリズム』は2巻が2013年3月刊なので、予定表に載ってないことを鑑みれば諦めた方がイイ感じではある。『ドッグライヴ』は作者曰く「現在はまだ三巻は予定が未定」「電子書籍化されますので、それがセールス好調だったらまた予定も変わるかもしれませんし、変わらないかもしれません」(ともに2014年1月14日時点の発言)だそうで若干望みが薄い。『俺の目を見てボクと言え!』はなかなか3巻が出ず、情報求めて作者のツイッターを覗いたが、艦これの話ばかりでよくわからん……〆切がどうの、ってツイートあったから何らかの企画は抱えているみたいだが。あと、2013年中に1巻目しか出てない、「種を植えたばかりで芽が出るかどうかまだ予想しにくい作品」が11冊あります。これに休止状態のR.O.Dと初恋マジカルブリッツとアキカンを加えたのが、SDの現状……薄氷の上に佇むが如き心許なさである。

 「3冊打ち切り」という言葉がありまして、これは「人気がなければ3冊で打ち切られる」という娯楽小説界におけるシリーズ物の厳しさを表す言葉ですけれど、SDはそれにも満たず2冊くらいで放り出すパターンがやたらと多く、2008年1月から2014年1月までのここ6年間に絞っても20個以上のシリーズが2巻止まりで、3巻目を陽光の下に晒せぬまま消えていった。新人賞を受賞してデビューした作家の戦績も厳しく、「拾い上げ」ではない受賞者33名のうち、デビューしたばかりの2名(神高槍矢と慶野由志)を除外した31名中「現役」と呼べる作家(この場合の「現役」は「2013年にSDで新刊を出した作家」と定義する。他レーベルでの活躍は考慮しない)は10名だけ。生存率1/3以下の苛烈さです。残り21名のうち「受賞後第一作を出していない作家」が4名、2、3冊出して1年くらいでいなくなっちゃった人が5名、3年くらいを目処に去った人が4名、4年以上頑張ったけど最近名前を見かけない人が4名、受賞作だけで消えたと思ったら5年くらい経って急に復活した人が1名、今年(2014年)にSDへ復帰する見込みのある人が1名、他レーベルで頑張ってる人が2名。トリビア的なことを言うと、SD新人賞出身で一番多く著書を刊行しているのは第1回「大賞」の受賞者・神代明で、27冊です。SDでの著書が17冊、他レーベルでの著書が10冊。これが年季の力だ。2位以下はアサウラ、海原零、岡崎裕信、山形石雄、八薙玉造、藍上陸の順。「もっとも長期に及んだシリーズ」はアサウラのベン・トーで、既刊14冊。最終巻を含めれば15冊という堂々たる大長編です。なのに内容が半額弁当の奪い合い……シュールだ。

 そして、そんなスーパーダッシュ小説新人賞は現在選考中の第13回が最後となります。次回からリニューアルして名称が「第1回集英社ライトノベル新人賞」になるそうな。賞金増、年2回に枠を拡大し、Web応募も受付して、最終選考候補作はすべて電子出版を確約する。時代の変化に合わせようとしてのパワーアップであり、言い換えれば「これまでの形式はもう古い」ということになります。「スーパーダッシュ」の名は、既にその役目を終えつつある……ちなみに、SDの公式では一次選考を通過した応募作のタイトルと作者名をすべて公開しているので、リスト眺めると面白いですよ(追記:残念ながらサイトリニューアルで旧新人賞のデータはなくなりました)。見覚えのある名前があちこちに散らばっています。戒能靖十郎、山川進、神矢陽、友桐夏、川口士、赤松中学、夏寿司、伏見つかさ、神崎紫電、篠山半太、岩波零、若桜拓海、斉藤真也、望公太、三河ごーすと、本田壱成、藍上ゆう、七条剛……たらればを言っても仕方ないが、「もしもこれらの作家を拾い上げていたら、SDは今頃どうなっていたんだろう」と益体もない妄想を逞しくせずにはいられません。リストでは見かけなかった(見落としていた? あるいは別ペンネームだった?)が、電撃のインタビューによると支倉凍砂もSDに応募していたらしい。

 2013年に創刊したレーベルは4月のオーバーラップ文庫と12月のぽにきゃんBOOKS。オーバーラップは『IS(インフィニット・ストラトス)』の移籍で話題になった。移籍ではないが『ベン・トー』のアサウニも『デスニードラウンド』なる新作を手掛けている。ぽにきゃんはポニーキャニオンが版元だけあって、「朗読したあらすじを音声ファイルとして公開する」という奇態な試みをしています……まだ創刊して1ヶ月だから語るネタを見つけるのも困難だ。(追記:2012年の項でも訂正しましたが、オークラ出版のNMG文庫は2013年3月創刊です)

 

 こうして13年半の歴史を振り返ってみると、歯痒いほど突き抜ける部分がなく、他のレーベルの攻勢に埋もれてきたSDの姿が浮かび上がってくる。ひたすら助走してばかりで、目指すべきゴールと踏み切るべきタイミングを見つけられなかった。ただただダッシュ、ダッシュ。ホップもステップもジャンプもなく、飛躍の機会を見失ったまま「集英社」というスタミナを使い果たしてバテバテになっていった。前身めいたレーベル、スーパーファンタジー文庫の頃から追うでもなく漫然とチェックしてきた身には、最近の有様がいろいろと不安でならない。「スーパーダッシュ、お前……消えるのか?」と心細くなってきます。別にハッキリ潰れるという話があるわけじゃないが、新人賞の名称変更に伴ってレーベル丸ごと刷新されそうな不安を勝手に感じてしまっている。2014年がSDのラストイヤーとなる。そんな予想、ただの杞憂だといいのだが……もし杞憂でないとすれば、せめて『R.O.D』と『双色の瞳』と『司星者セイン』と『BASTARD!! 黒い虹』と『電波的な彼女』と『紅』を終わらせてからにしてくれ。有為転変は世の習いとはいえ、物悲しい結末はよしにしてほしい。

 と、暗い結び方をするのもなんだから、最後に書き漏らしたオススメ作品を一個だけ挙げておこう。定金伸治の『ブラックランド・ファンタジア』、19世紀のロンドンが舞台。チェスの真剣師をやっている少年スィンには、全身を矯正されて育ったため人形のように小さく、手足が萎縮して動かない「姉」のネムがいた。彼女はスィンに抱きかかえてもらう以外に移動の方法はない。そのくせして態度は傲慢、「弟は乗り物」と断言して憚らない。ときには「クク……」と悪魔的な嘲笑を漏らす。でも寂しくなると火がついたみたいに泣きじゃくる。最高の姉キャラではないか! 1冊読み切りでサクッと終わるし、要素が多い割にはシンプルにまとまった内容で繰り返し読み直すのにも向いています。見掛けたらどうか優しく「拾い上げ」てやってくださいませ。


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