「いたいけな彼女」
   /ZERO


 日記の内容を抜粋。


2003-10-28.

・FJ(『FOLKLORE JAM』)も無事終了したので次なるソフトに着手。ZEROの『いたいけな彼女』。FJと同日発売です。10月24日。ちなみに『アキバ系彼女』もその日。……いえ、単に「彼女」の部分が一緒というだけで、持ち出したことに深い意味はなく。滑ると分かってて書かずにはいられませんでした。どうでもいいですけど、「イタカノ」という略称は呼びやすいが「アキカノ」は微妙に語呂が悪い。

 主人公が罰ゲームで告白し、付き合い出したクラスメート──七瀬ほのか。彼女はいじめられっ子だった。おどおどした態度、消極的な性格、主体性に欠ける行動と、見る者を苛々させる彼女はクラスの女子たちにとって格好の的となっていた。どうでもいい気分でほのかとの交際を続けていく主人公は、やがて彼女に特別な興味を感じ始めて……。

 黒い感情を吐き出すのがこんなに気持ちいいだなんて、久しく実感しておりませんでした。普通の恋愛ゲーなら確実にダメっぽい選択肢を取ることで大っぴらにヒロインを蔑ろにすることのできる設定はゾクゾクもの。少しもダークな雰囲気を匂わせないCGが却って美味しい背徳感を生み出してくれます。当方が鬼畜モノを苦手としているのは、黒っぽいパッケージといかにも毒々しく攻撃的なタイトルによって鬼畜と太字でアピールし、「人道的にひどい展開がたっぷりありますよ、でも鬼畜モノなんだから当り前ですよね」と余裕ぶってる態度に萎えてしまうからです、大抵。「鬼畜モノなんだから当り前」という意識が背徳感を激しく削ぐ。

 そこのところ、『いたいけな彼女』はパッケージからして鬼畜臭が薄い。タイトルはちょっと微妙ですが、絵を見ただけなら普通の和姦モノのように映る。いざゲームを始めてみれば、サウンドもグラフィックも変に暗いムードは漂っておらず、僅かに物憂げで不安めいているくらい。このまま純愛展開に雪崩れ込んで行ったところで違和感はまったくない。だから、いつ、どう裏切られるかも読めない。こっちがのんびりほのかたんに萌えているところへ、「あ、ごめんごめ〜ん、手が滑っちゃった☆」程度の気軽さで地獄を見せに来るかもしれず、常に嫌な汗が出るハラハラ感を楽しむことができます。『カイジ』を読んでいるときの気分と遜色ない黒さ。個人的に鬼畜モノは「いかにキャラをひどい目に遭わせるか」ではなく、「いかに読み手の甘っちょろい気持ちを裏切るか」という視点に立ったものが好きです。

 なんだか怖いくらいに波長が合うことからして、どうやら現在のバイオリズムは「物語をまったり楽しむ」タイプにではなく「黒い感情を弄ぶ」タイプに適合する様子ですね。当方はそのときどきの気分によって嗜好が変化しますから、FJは時期が悪く、イタカノは逆に時期がドンピシャだった、と。やはり主観的な評価となると「その時の気分」って要素はどうしても絡んできますね……こればかりはさすがに関数化させにくいですけど。


2003-10-29.

『いたいけな彼女』、プレー中。たぶん鬼畜ルート。

 今ばかりは自分の壊れた嗜好に歓びを禁じえない。「好きな子をいじめたくなる」なんて次元を超えた展開に一歩も退かず順応し楽しむことのできる感性に自らささやかな祝福を捧げたい。

 さあ、何も迷わず心の赴くまま悪趣味の果てまで突き進んでいけ。そしてそのまま帰ってくるな。

 やはり、どうしても、人間的に壊れている主人公やヒロインが愛しくてしょうがない。C†Cで痛烈に感じた想いを再確認してしまった。段取りも何もかもが都合良すぎてイージー極まりないシナリオと言えるが、そんなことを気にしている暇がないくらい当方の感心はホノカタン(*´Д`)ハァハァの方面へと割かれています。鬼畜というには幸せすぎて純愛というには瑕だらけの関係。イタカノの醍醐味はジャンルの境界に存在しており、ちなみに醍醐味というのは今の言葉に翻訳するとクリーム味であって、舌先を滑るまろやかな「萌え」に当方はただ溺れるのみ。

 このゲームを端的に説明しようとすれば、ハートマン軍曹の「気に入った! うちに来て妹をファックしていいぞ!」や、ことわざもどきの「石橋叩いて壊す」といった言葉が婉曲ながら効果的に作用するように思われます。寝取られとはちょっと違う。

 新たな属性が目覚めてくる予感に打ち震え、かなり混乱した書きぶりになっています。自分によく懐いた愛くるしい仔犬を遠くの山に捨ててきて、「早く戻ってこないかなぁ」と自宅で物思いに耽るかの如き非道ぶりに「痺れる憧れる!」という人には是非ともオススメしたい一本。可愛い仔犬は部屋に閉じ込めて延々と自分ひとりだけで愛で続ける趣味を大事にしたい人は静かにスルーしてください。


2003-10-31.

『いたいけな彼女』、プレー中。

 ほのかのたどたどしい喋りに和みつつ、のんびりやってます。いたく嗜虐心をそそられる展開が目白押しではありますが、「嗜虐」と「萌え」がぴったりウェハース状に重なり合って物凄い効果を発揮するため、その、なんですかな。

 ぶっちゃけ躯が保ちません。

 いろんな意味で堪えられない。CGのクオリティはかなりバラつきがあってアタリハズレの差が大きいですが、一度アタったら「ひ、膝が笑っ……!」なくらいの破壊力がありますよ。とにかく先に進みません。

 こりゃもう後生大事の一品となりそうな予感がビンビンします。まさしくスマッシュ・ヒット。救いなし、容赦なし、逃げ場なしの(*´Д`)ハァハァぶり。笑って地獄に堕ちる気分です。


2003-11-01.

『いたいけな彼女』、コンプリート。

 純愛ルートより鬼畜ルートが何倍も楽しかった当方は終わってますか? そうですか。

 全体的に安っぽいつくりをしており、CGもバラつきが多くて安定感がありませんけど、シナリオは結構よくまとまっていて読める。ツボにハマれば夢中になること請け合いです。健気で且ついぢめて光線を照射しまくりのヒロイン・七瀬ほのかはかなり魅力的。目一杯可愛がりたい欲望と猛烈にいぢめたい衝動とが交互に押し寄せてくる。萌えと嗜虐の波状攻撃ですな。

 純愛ルートの方が穏やかでおとなしい展開をしている分、しっとりと萌えを楽しめますが、鬼畜ルートにおける「地獄経由の関係」とも言える凄絶な壊れ具合が与える鮮烈な印象と比べればいささか霞む。いえ、純愛ルートもクライマックス、ほのかが咆えるあたりは熱くて好きなんですけどね……問題は方々でも言われているあのエンド。試行錯誤を重ねた末の落とし所がそれかい、とツッコミたくなる。

 このゲームは「純愛→鬼畜」の順でやると相当キツイので、「鬼畜→純愛」を推奨したいのですが、そもそも「ほのかをいじめるなんて無理だ」という人は鬼畜ルートに行かない方が良い。ほのかを蔑ろにする選択肢がどうしても心理的抵抗を伴って選び取ることができないなら、耐性がないのだと判断して封印するが吉。「自分のモノが誰かによって虐げられていく姿に興奮する人種」にとっては美味しいことこの上ないんですけどね……。

 ありふれた学園恋愛モノに食傷気味ならば、ちょうどいい刺激になると思います。一切超常要素のないファンタジー。過不足なく適度な分量に収まっているから、激しくダレることもない。良い意味でコンパクトなサイズ。狙いをほのか一本に絞ったコンセプトが成功している。ちょっと嗜好を選びますけど、「求め合い、傷つけ合う、不器用な偏愛」というテーマに心惹かれる人にはオススメ。


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