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リレー小説「魔法少女忌譚修」(第13話−10/12)


2025-10-10.

・評判に釣られて『チェンソーマン レゼ篇』を観に行った焼津です、こんばんは。鬼滅といい、戦闘シーンのノリがBlasterheadの曲を流していた頃のケロQっぽいので「時代が『モエかん』に追いついてきたな……」と感じ入ってしまった。

 原作は読んでるけどアニメ版は途中で観るのやめた――くらいのヌルい層で、ぶっちゃけレゼ篇の内容もあまり覚えておらず、割と新鮮な気持ちで楽しめた。「レゼ役の上田麗奈の演技が凄まじい」と聞いて配信まで我慢できずに映画館へ駆けこんでしまったけど、評判に釣られて「正解! 正解! 正解!」でした。というかビーム、声が付いたことで愛嬌が3倍増しくらいになってない? 無限城編の上映もまだまだ続くだろうし、花江夏樹の声が全国の劇場でずっと響き渡るんだな……なお上田麗奈もカナヲ役で出演しています。

 「夜の学校に忍び込んでプールに飛び込む」という『イリヤの空、UFOの夏』で脳を焼かれた世代にとっては防御不能な前半で観客の心を掴み、レゼが正体を現す後半で掴んだ観客の心を引きずり回す悪魔的な構成。とにかく映像と音響の演出がハイスピードで観ていて(聴いていて)気持ちイイ。「面白い」というより「快楽に浸る」一本です。レゼのバイトしてる喫茶店に向かったデンジがレゼから程好く馴れ馴れしい言葉を掛けられるあたり、上田麗奈の魔性演技に磨きが掛かっていて「これがあじみ先生やみゃー姉と同じ声帯から生み出されているのか」と畏怖せずにはいられなかった。映画館から帰ってたまらず原作を読み返したが、想像以上に演出が盛られていてビックリしたな。りんご飴が踏まれるところとか、タツキ絵で見たような気がしたけど存在しない記憶で慄いた。1期目のエピソードは総集編として3時間半程度にまとめられて各種動画サイトで配信されているし、「もっかいアニメ版にチャレンジしてみようかな」って機運も高まってきました。

 ちなみにレゼ篇は単行本で言うと5巻の途中から6巻にかけてのエピソードです。レゼ篇のクライマックスで繰り広げられた市街戦によってチェンソーマンの存在が世界中に知れ渡り、7巻から「心臓争奪戦」が始まる……という流れ。『チェンソーマン』の第一部は11巻までなんで、ちょうど「第一部の折り返し」に相当するエピソードなんですよね。あと映画3本くらいやれば第一部完結まで進められるし、『チェンソーマン クァンシ篇』『チェンソーマン アキ篇』『チェンソーマン マキマ篇』と怒濤の勢いで上映してほしい。レゼ篇の興収は既に45億円を超えていて50億突破は確実だし、この数字なら少なくとも第一部完結までは映像化されると見ていいでしょう。TVシリーズでやる可能性もなくはないが、クァンシのあたりは性的な描写もあって地上波で流すの難しそうだし……ネットではクァンシが出てくる劇場版第二弾を「レズ篇」と呼ぶ風潮があって少し笑ってしまった。

『精霊幻想記』、商業化10周年を記念して超特大セール、既刊27冊全部買っても3000円弱! 10月1日から10日間限定なのでお早めに

 私の更新が遅くてギリギリでのお知らせになってしまったが、あまりの安さに笑っちゃったよね。Amazon以外のサイト、たとえばブックウォーカーやeBookJapanでも開催されています。私はAmazonで買ったけど、ブックウォーカーなら特典が付いてくる巻もあるのでそれ目当てで買うのもアリかな。さすがに20巻越えると嵩張ってくるし、紙版の方はそろそろ処分しようか迷っています。置き場の問題からどんどん電子版への移行を進めていますが、読むのが楽しいのはやっぱり「電子<紙」なんですよね……古い人間なので「やっぱり読書は紙めくってナンボ」という感覚が強い。ただ、一方でエロゲにハマっていた時期もあるから電子媒体にそこまで激しく抵抗があるわけでもない。何ならマンガはタブレットの方が発色いいし、大判サイズ以外はわざわざ紙で買う必要もないかな……と思い始めている。何でもいいから、まずは積読をどんどん崩さなきゃな。

【追記・更新】【期間限定】「幕末チャンバラ神話 ぐだぐだ新選組・ジ・エンド REVENGE OF MAKOTO」開幕!

 交換がまだ残っているけど全ミッション終了し、とりあえずイベントシナリオは完了しました。いやぁ、「黒の剣士=足利義輝」説とか「江戸幕府じゃなくて室町幕府」説とかは大ハズレで恥ずかしかったが、イベントそのものは面白くて大盛り上がりでした。「ここに――旗を立てる」からの流れはぐだイベ10年の集大成ってアツさで沁み入ってしまった。そりゃ近藤勇ピックアップ召喚も回さずにはいられないよね……終章開幕に向けて石を貯めたかったところだけど、ここで果てるかもしれない。そんな危惧を抱きながら臨んだが、彦斎よりもあっさり引けた。引けたのはいいが、ドすごい量の「英雄の証」を要求されて泣いた。今は毎日林檎かじってダラスを周回している有様です。もう2ヶ月ちょっとで第二部も終わるというのに未だに北米のケルト兵を狩りまくることになるとは思わなんだ。ドロップ率UP礼装があるだけ昔よりはマシなんだが……。

 さておき「黒の剣士」こと☆5セイバーの「近藤勇」、シンプルに強い全体Artsアタッカーといった趣で、宝具のNP回収率が異様に高いから「宝具の連射」が基本的な立ち回りとなる。体感的に「水着ジャンヌ並み」だと思っていたが、検証勢によるとイサミンのNP回収率は水着ジャンヌをも上回るらしい。「新選組サーヴァントが総出で敵を3回袋叩きにする」というややシュールな状況になってしまうが、周回向けの性能であることは確かです。

 松永弾正のCVも公開されています。「若山詩音」、リコリコのたきな役で有名な声優ですね。リコリコ以外だとダイナゼノンの「南夢芽」役とか『負けヒロインが多すぎる!』の「焼塩檸檬」役とか。個人的にはマギレコの「ヘルカ」役で印象に残っている。モンゴル軍と戦ったチベットの魔法少女(ラクシャーシー)。どちらかと言えば穏やかな喋り方をする子なのだが、「なんてこった! もうやめです!」と叫ぶホーム画面のボイスが好きだった。今回はNPCだったが、いずれ高杉晋作みたいに専用イベントが開催されてプレイアブルになる……のかなぁ?

 あとはやっぱり「ちびノブ隊長」、ぐだぐだ明治維新のときにしれっと出てきたノブ選組の隊士がまさかここまで立派になるなんて……あの胡乱な存在を隊士として採用したのが箱館まで戦い抜いて「俺が新選組だ」と言い張り続けた土方さんだと思うと、余計にクるものがある。「誠」のリレーがようやくここに結実したんだな、って。「ここに旗を立てる」自体『コハエースGO 帝都聖杯奇譚』からの流れを汲んでいるわけですし、本当に経験値プロデュースの新選組イベントとしては総決算な内容だった。

 それにしても彦斎は謎が多いまま去っていったな。登場した時がドリフ頭だったからイベント本編クリア後のオマケシナリオで弾正の自爆に巻き込まれてタイムスリップ、みたいな感じかと思ったら全然違うみたいだし。「彦斎をヒロインに据えた別プロジェクトが動いている」という説や「第三部の伏線」説など、様々な予想が囁かれているが今のところ決め手になる情報はない。彦斎ヒロインの別プロジェクト、というと幕末版サムレムみたいなゲームだろうか? 本来のクラスはセイバーっぽい(召喚時のセリフ、あとアサシンならほぼ標準装備のクラススキル「気配遮断」がない)しな。年末のFate特番(放送されるとは確定していないが)で何かしら発表があるかも。ないかも。

 あと、これまで「該当がマシュしかいない」せいもあってか用意されていなかった「シールダーのクラスカード」が急遽実装されました。たぶんギャラハッドの実装が近いんだろうな……公式で「シールダー適性がある」と明言されているサーヴァントは「アキレウス」と「レオニダス」の2騎。神話上で盾の逸話がある存在というと大アイアス(アーチャーが使う「ロー・アイアス」の元ネタ、ヘクトールの槍を防いだという逸話がある)、アテナ(父ゼウスから「アイギス」という盾を贈られている)、ヘルヴォル(ヴァイキングの女戦士、魔剣ティルフィングの持ち主でスキャルドメール――「盾の乙女」――の代表格)あたりがパッと思いつくかな。アーサー王も「プリドゥエン」という盾を持ってるけど、モーさんがサーフィンボードにしちゃっている。古代では「敵を滅ぼす剣や槍や弓」よりも「味方を護る盾」の方が英雄の装備として相応しい、という風潮だったらしいが、だんだん戦闘に盾が用いられなくなっていった結果、地位が下がっていきました。FGOも「耐えて勝つ」という持久戦タイプよりも「やられる前にやる」という先手必勝の速攻戦タイプが人気あるから、仮に今後シールダークラスのサーヴァントが増えたとしても活用される機会はそんなになさそう?

・鹿角フェフの『異世界黙示録マイノグーラ(1〜3)』読んだ。

 少し前にアニメが終わった作品の原作です。副題は「破滅の文明で始める世界征服」。「小説家になろう」で連載されていた作品を書籍化したもので、連載開始は2017年、書籍化スタートが2019年と、割合時間が経っている。作者の「鹿角フェフ」は10年以上前に書籍デビューを果たしており、小説家としての年季は結構長い。この作品でようやくブレイクに至ったので、昔から知っている読者からすると感慨深いです。

 さておきマイノグーラ、どんな作品かと申しますと、端的に言えば『オーバーロード』系の異世界転生ファンタジーです。生前やり込んでいたゲームの知識を駆使して転生先で俺TUEEEEE!!!する話。『オーバーロード』がヒットしたおかげで「『オーバーロード』系」というだけで伝わるの、便利というか楽ですね……明確な定義は難しいが、大雑把に言えば「現代日本から異世界に転生する」「異世界は『生前やり込んだゲーム』とそっくりのことが多い」「主人公はその世界における魔王のような存在に生まれ変わる」「主人公には忠実な部下がたくさんいるが、主人公が魔王ムーブをやめたら叛逆されるかもしれないので、イヤイヤ『魔王としての振る舞い』を続ける」「結果として周辺諸国を蹂躙していくことになる」、こんな具合でしょうか。

 『オーバーロード』は「Arcadia」というサイトで2010年に連載を開始し、2012年からなろう版を開始。同じ2012年に書籍化しています。書籍版やコミック版、アニメ版しか触れていない方はご存知ないかもしれませんが、Web版には「アルベド」というキャラが存在していません。実は商業版で追加されたオリジナルキャラクターだったんです。『オーバーロード』系にはアルベドっぽい盲目的なヒロインが付き物なので、そういう意味では「2012年刊行の書籍版が始点」と言えます。その後、2015年にTVアニメ化。露骨に低予算アニメだったがアイデアの面白さもあって予想外のヒット作となり、ここから『オーバーロード』系のWeb小説が爆増していくことになる。

 かなり初期の『オーバーロード』フォロワー作品としてよく名前が挙がるのは『エステルドバロニア』。書籍化は2019年ですが、連載開始は2012年。7月にオバロの書籍版1巻が出て、その翌月にエスドバの連載がスタートした感じです。VRMMOの戦略SLGをプレー中に意識を失い、気が付けば異世界にいた……「エステルドバロニア」は主人公がゲーム内で作った国の名前で、国ごと異世界に飛ばされて現地に混乱をもたらす。厳密に言うとマイノグーラはオバロというよりこっちのエスドバに影響を受けている作品じゃないかと思います。なろうではそこそこ有名な作品なんですけど、アニメ化しなかったので一般的な知名度は低いんですよね……書籍版も5巻で止まっており、なろうでの最新章(6巻)は1年以上更新されておらずエタりそうな雰囲気が漂っている。

 エスドバの次くらいに古いのが『吸血姫は薔薇色の夢をみる』。2013年になろうでの連載を開始し、翌年2014年に書籍化。2015年に全4巻でサクッと完結した。事故で亡くなった少年が生前やり込んでいたMMORPGの自キャラ(美少女吸血姫)に転生し、人類を滅ぼそうとする凶悪な部下たちに囲まれながらビクビクする、というオバロ系の中では比較的珍しいTS転生モノ。コミカライズもされています。同作者の大長編シリーズ『リビティウム皇国のブタクサ姫』と同じ世界を舞台にしているが、時代は100年くらいズレている。リビティウム〜の方は書籍化が止まっているものの連載はまだ続いており、ファンたちはペースの鈍化にやきもきしつつ追っている。

 最近アニメが始まった『野生のラスボスが現れた!』も割と古い作品で、なろうでの連載開始は2015年。2年後の2017年に完結し、以降はポツポツと後日談を載せていた。2016年に書籍化して、3年後の2019年にはもう全9巻で完結している。ただ、2017年にスタートしたコミック版の連載はまだ続いています。MMORPG『エクスゲートオンライン』の世界に入り込んでしまった主人公「俺」。公式ラスボスである「魔神王」以外の人間勢力すべてを支配して「覇王」と呼ばれた自作キャラ「ルファス・マファール」(♀)になってしまった彼は、勝手気ままに「野生のラスボス」としてゲーム世界を旅して回ることに……というTS転生的なファンタジー。正確には「憑依」というか「融合」? 「俺」は『エクスゲートオンライン』のトッププレーヤーで、本来は複数の国家に分かれて複雑な綱引きを繰り広げるはずだったゲーム内世界をうっかり統一してしまい、「一強すぎてつまんね」状態になったのでそのへんを解消するために魔神王そっちのけでルファス派vs反ルファス派の大戦争を引き起こし、その結果としてルファスが封印されたんです。封印から200年経った作中世界、未だに魔神王との戦いが終わらない人類は異世界から勇者を召喚しようと試みるが、うっかりルファスの封印を解いて復活させちゃった――という流れ。「覇道十二星天」なる部下たちも散り散りになっており、「組織のボス」として重責を負わされる他の『オーバーロード』系に比べて呑気度が高く、「スローライフと言いつつ冒険に耽る」タイプのなろう小説に近い読み口となっています。そういう点ではフォロワーというよりオマージュかな? 面白さの割に知名度が低く、アニメも独占配信っぽいからあんまり話題にならなそう。

 知名度という点においてもっとも有名な『オーバーロード』系作品は『魔王様、リトライ!』だろう。何せ2回もアニメ化していますから。2016年、オバロのアニメ1期目が放送された翌年に連載開始。2017年には早くも書籍化を果たしたが、イラストを担当した「緒方剛志」が「マフィアみたい」と形容されている主人公の容姿を無視してキャラデザしたことが問題視され、一旦書籍化が停止。翌年2018年にイラストレーターを「飯野まこと」へ変更して書籍化を再開します。この『魔王様、リトライ!』は最初の書籍版でイラストを手掛けた緒方剛志、再書籍化で交代した飯野まこと、そしてコミカライズを任されている「身ノ丈あまる」と、キャラクターデザインに関与している絵師が3人もいるせいで非常にややこしいことになっている。コミカライズの『魔王様、リトライ!』は「キャラクター原案:緒方剛志」とクレジットされているが、原作の記述に合わせるため主人公の見た目が緒方剛志版とは全然違う。でもそれ以外のキャラに関しては比較的緒方版に寄せている。しかし、いつまでも外されたイラストレーターのデザインに準拠し続けるのはなんだからと、アニメが放送された2019年の翌年である2020年に『魔王様、リトライ!R』のタイトルで仕切り直しています。「キャラクター原案:飯野まこと」とクレジットされ、一部のキャラデザは変更になったもののストーリーはそのまま引き継いでいる。

 と、ここまでなら「ややこしい」で済むのですが、2024年に『魔王様、リトライ!R』のタイトルで再アニメ化されたことにより事態は混迷を極めてしまう。「単なる2期目だろう」と思ってRを視聴したファンは愕然としました。アニメの1期目(無印)は「EKACHI EPILKA」というスタジオが制作していましたが、Rは「月虹」に変更。「1期の声優はスケジュールが合わなかった」という理由で主役の「津田健次郎」以外ほぼ総とっかえとなっており、キャラデザも権利上の問題か大幅に変更されている登場人物がいて、無印から続けて観ると「声も見た目も変わっているせいで別人にしか見えない」怪現象に苦しめられる。暇があったら確認してほしいんですけど、特に「ミンク」というキャラは無印とRとで似ている部分を探す方が難しい。更に作画とシナリオ構成も惨憺たる有様で、「5年も待った結果がコレか……」とファンは天を仰いだ。さておき、主要な部下が最初からひと通り揃っているオバロに対し、まおリトは順次部下を召喚していく方式になっていて、そのへんを考慮するとマイノグーラはまおリトの影響も受けていると見て構わないかも。まおリトの主人公「九内伯斗」には8人の側近がいる……という設定なんですが、無印に出てきたのは「桐野悠」と「田原勇」だけ、Rでやっと「藤崎茜」が召喚された。原作では更に「近藤友哉」と「宮王子蓮」が召喚されています。蓮は屈指の人気を誇るキャラで、簡単に言うとアルベド枠です。悠も割とアルベド寄りだったけど、あれ以上。あまりに人気過ぎて今年の3月に出たコミカライズ版の10巻と11月に出るコミカライズ版の11巻、2冊続けて表紙を飾っています。アニメも蓮の活躍するところまでやってほしかったな……もちろん、まともな作画とシナリオ構成で。

 まおリトの解説が長くなり過ぎた。気を取り直し、次なる『オーバーロード』系は『魔王軍最強の魔術師は人間だった』。まおリト同様2016年に連載開始、同年早速書籍化し、2018年に全5巻で割とあっさり完結。でもコミカライズは結構長く続いて、今年ようやく完結しました。2024年にアニメ化していますが、あまり話題にならなかったので知らない人もいるでしょう。主人公は魔王ではなく魔王軍の幹部で、「魔族のフリをしている人間」という設定。「最強」と謳っているが上司に当たる存在が複数いるため、オバロ度はやや低いか。

 『異世界国家アルキマイラ』は2017年、マイノグーラと同じ頃に連載を開始し、2019年、やはり同じ頃に書籍化した。コミカライズもして一時はそれなりの勢いがあったものの、2020年に連載が停止し、既に5年以上更新されていない。もはや「エタった」と見做されている作品です。VRMMOの国家運営系戦略SLGをやり込んでいた主人公はある日、国ごと異世界に転移していまう――といった具合で、オバロというよりエスドバのフォロワーみたいな作品です。

 『陰の実力者になりたくて!』はアレンジしまくってほとんど別ジャンルの作品になっていますが、「広義の『オーバーロード』系」に属すると個人的に認識しています。異世界に転生し、「陰の実力者」になるべく努力を重ねてきた主人公は「シャドウガーデン」という架空の組織のボスになりきって悦に入っていたが、いつの間にか本当にシャドウガーデンという秘密組織が出来上がっていた……数百人の部下とともに! というスラップスティック(ドタバタ)でブラックジョークまみれの作品。2018年に連載を開始し、半年と経たずに書籍化。2022年と2023年の2度に渡ってアニメ化し、劇場版となる『残響編』の公開も告知されている。ただ、残響編の続報はなきに等しく「本当に作ってんのか?」と疑ってしまう。書籍版も2年近く新刊が出てないしな……2022年から『陰の実力者になりたくて!マスターオブガーデン』(カゲマス)というソシャゲをやってるんで、その絡みもあって忙しいのかもしれない。そもそもジャンルの大元である『オーバーロード』も3年以上新刊が出てないから「KADOKAWAはそんなもん」の一言で終わる問題か。

 『オーバーロード』系について語りたかっただけなので概ね満足してしまったが、せっかくだしマイノグーラについてもう少し語ろうか。マイノグの主人公「イラ・タクト」が生前にやり込んでいたゲームは『シヴィライゼーション』をモデルにした4X(探検、拡張、開発、殲滅)系のストラテジーゲームです。死んだと思ったら突然異世界で目を覚ましたタクトは、側近である「汚泥のアトゥ」とともに邪悪な国家「マイノグーラ」の建国を目指す。当面の目標は「ただ平和に過ごす」ことだったんですが、周囲がそれを許すはずもなく……といった感じで事態が激動していく。1冊1冊は割と薄くて300ページもないくらいなのだが、上下2段組なので厚み以上の読み応えがあります。アニメでやったのは原作3巻あたりまでなのですが、この3巻目でやっとマイノグーラの置かれた状況がわかってくる。そう、異世界に転生してきたのはタクトだけではなかった! まるでクロスオーバーのような要領で繰り広げられるバイルロイヤル、最後に大地に立っているのはいったい誰なのか? 物語の本番は4巻からです。


2025-09-27.

・10月2日からいよいよミニアニメ『元祖!バンドリちゃん』が配信される……ということをついさっき知った焼津です、こんばんは。

 情報自体は8月くらいから出ていたみたいですが、私のアンテナが低すぎて拾えていなかった。某としたことが……! 全52話を52週、つまり1年かけて配信するとのことです。ミニアニメとはいえ通年じゃん、すごいな。それと、マイムジの続編に関しては「Ave Mujica」新作映画と「It's MyGO!!!!!」「Ave Mujica」 TVアニメ続編シリーズ、2本を制作中らしい。えっ、ムジカは単独で新作映画やるの? てっきりマイゴみたいに総集編映画をやるのかと思っていましたが……『ガールズバンドクライ』も完全新作映画製作決定と告知しているし、ガールズバンドアニメの熱はまだまだ収まりそうにない。

アニメ「わたなれ」続編制作・放送決定 最終回に続く全5話、11月から劇場公開も(コミックナタリー)

 アニメが終わるのって原作3巻ラストだよな……いや、アレで幕とかムリムリ! と思っていたので続編が来るのは願ったりなんですが、2期ではなく5話分だけ制作して劇場で先行公開と来たか。鬼滅(劇場公開した作品に新規エピソードや新規カットを追加して再編集しTVシリーズ化)やメイドインアビス(TVシリーズ→劇場版→TVシリーズ)、青ブタ(TVシリーズ→劇場シリーズ→TVシリーズ)というより、昔の『化物語』(12話までTV放送した後、3話分をネット配信)とか『咲-Saki-阿知賀編 episode of side-A』(12話までTV放送した後、4話分をネット配信)に近い方式ですね。「1クール=12話か13話」という硬直的なTVアニメの枠に反旗を翻す作品が最近は頓に多く、「6話分、つまり半クールで終了して『アンコール放送』と称し同じエピソードをもう一回放送する」『フードコートで、また明日。』、「最初からTV放送を諦めて配信オンリー、1話あたりの尺も21分〜37分と臨機応変に融通を利かせる」『タコピーの原罪』、「無理に引き伸ばさず全10話でまとめる」『うたごえはミルフィーユ』、そしてこのわたなれと、奇しくも一つのクールに変則的なアニメが集う形になりました。

 劇場版の公式サイトも出来ています。「原作小説4巻を描く続編として第13話〜第17話の制作・放送が決定!」「TV放送に先駆け、全5話を特別編集して劇場上映!」「11月21日(金)より新宿バルト9ほかにて全国公開予定!」とのこと。劇場版のタイトルは『わたしが恋人になれるわけないじゃん、ムリムリ!(※ムリじゃなかった!?)〜ネクストシャイン!〜』。原作4巻ということで、つまり「香穂編」です。アニメの12話までだとろくに出番のなかった香穂ちゃんがようやく大活躍する。コミカライズの方はまだ香穂編の途中で、終わるまでもうちょっと掛かるからアニメが先行する形になるかな。尺の都合で削っている部分が多いとはいえ、アニメはかなりコミック版準拠で映像化している(真唯が「オアアアアアー!」と叫んでビターンと倒れるところもコミック版の演出)ので追い抜くのは少し寂しい感じもするぜ。

 とにかくファーストシーズン(原作4巻までの区切り)が全部アニメ化されると確定し、ひと安心です。『ゆるゆり』という例外中の例外を除き、百合アニメの続編が作られることって滅多にないですから。原作者の「みかみてれん」曰く「3年前にアニメ化の打診をされたときは普通に1クールの予定だった」「プロデューサーが『どうしても4巻までやりたいんです!』と必死に駆けずり回って何とか全17話にしてもらった」とのこと。声優ラジオによると「(続編やることは)途中で聞いた」とのことで、アフレコが始まった時点では本決まりじゃなかったらしい。あとコミカライズ担当の漫画家が「ちょうどバタバタしてる時期で香穂ちゃん編のアフレコほぼ聴けてない」とコメントしており、アフレコ自体は既に終了しているみたいだ。そんなネクストシャインは「全国公開」と謳っているものの、具体的な公開館に関するアナウンスはまだありません。田舎あるある、「『全国公開』なのにうちの県ではやってない」。映画興行における「全国公開」は「複数の都道府県で上映される」程度の意味であって、決して「全都道府県で公開される」ということじゃないんですよ。あくまで「TV放送に先駆け」だから待っていればテレビや配信でも観られるはずですけどね。5話分と結構なボリュームだし、年末年始の特番として一挙放送する感じになるのかしら。早く続報が欲しい。

【期間限定】「幕末チャンバラ神話 ぐだぐだ新選組・ジ・エンド REVENGE OF MAKOTO」開幕!

 遂に始まった約2年ぶりのぐだぐだイベント、早くも情報過多で「整理を……整理をしなきゃ!」となっている。ストーリーは1864年、いわゆる「池田屋事件」から始まる。尊王攘夷派の志士たちが京都に火を放つ計画を立てていたところに新選組の隊士たちが踏み込んで激しい刃傷沙汰になった、という事件です(本当に火を放つ計画を立てていたかどうかは定かではない)。この事件の前後で沖田総司の病状が悪化し、以降は表舞台に出ることがなくなったこともあり、新選組を扱う物語では重要なターニングポイントとして描かれる。新選組サイドではなく志士サイドから池田屋事件を描く『池田屋乱刃』という小説もあります。隊士のひとり「藤堂平助」は池田屋事件で重傷を負ったが、局長の「近藤勇」は激闘を無傷で潜り抜けたと語られている。が、このイベントにおいて近藤勇は「討死」、史実とは異なる結果が示される。近藤さんが池田屋で死んだifが物語の起点になるのか? と動揺したところでタイトルコールが入り、視点はカルデアに移る。

 幕末の京都に現れた新たな特異点、それは「皇都神剣組」と名乗る謎の集団が人々に刀を配り、「人斬り」を奨励して回るという治安激悪ヒャッハーチャンバラランドだった! ってな感じで新選組vs神剣組の争いが綴られます。実装されたサーヴァントは、まず配布の☆4ランサー「原田左之助」。槍の名手として知られており、『るろうに剣心』のキャラ「相楽左之助」のモデルになった人物でもある。リメイク版るろ剣で剣心役を演じている声優「斉藤壮馬」がCVを当てているので、るろ剣ファンは「左之助の声帯が剣心???」と頭がバグりそうになる。しかも、ガチャで実装された限定☆5アサシンが「河上彦斎」なので混乱はより一層ひどいことに。岡田以蔵や田中新兵衛、中村半次郎と並ぶ「幕末四大人斬り」の一人であり、抜き打ち(抜刀術)の使い手として有名で、るろ剣の「人斬り抜刀斎」――つまり緋村剣心のモデルになった人物です。150cm程度の小柄な身体、色白で「女人とみまがう美貌」と語られているためFGOなら女体化させかねないな……とうっすら疑っていたが、本当にやりやがった。若く見えるけど池田屋事件の頃にはもう30歳だったから、沖田さんとは8歳ぐらい離れてるんですよね。基本的に横向きか、たまに背中を向けているキャラがいる程度のFGOにしては珍しく、バトルグラフィックが格ゲーに近い正面寄りの絵になっています。抜刀や納刀のモーションも細かく、「FGOの表現もここまで来たか」と感慨深くなる。あと、久々の限定☆5アサシンですね。限定は「テスカトリポカ」以来なので2年8ヶ月ぶり。恒常を含めても☆5アサシンは「果心居士」以来で、2年以上経っている。去年(2024年)は1騎も☆5アサシンがいなかったんだよなぁ……。

 ガチャ産の限定☆4は「藤堂平助」、クラスはアヴェンジャーです。「油小路事件」を思えばそれはそうだろうな、って……前回の「ぐだぐだ超五稜郭」でも触れられていましたが、新選組による粛清劇で「服部武雄」ともども討死している。新選組を敵視するのも当然の人物だ。危険な現場だろうと真っ先に駆けつけることから新選組時代は「魁先生」というあだ名で呼ばれ、沖田総司、永倉新八、斎藤一と並ぶ「近藤四天王」の一人に数えられていた。油小路事件は池田屋事件の3年後、亡くなったときの年齢は23歳と若い。彦斎ほどかどうかはわからないが藤堂平助も小柄な剣士として伝わっており、20歳を越えていても10代と間違われることがあったというから相当な童顔だったのではないかと考えられる。身のこなしも軽く俊敏で、「今牛若」と讃える声もあったとか。クイック単体宝具ですが、効果はなんと自身即死。バスター単体即死の草十郎、アーツ単体即死のツタンくん、クイック単体即死の魁先生と、これで単体即死宝具が揃っちゃいました。

 NPC枠のキャラクターは「勝海舟」と「松永久秀」。勝海舟は「江戸無血開城」のエピソードで有名で、西郷どんとセットで語られることが多いですね。FGOでは程好く力の抜けたイケオジとして描かれている。「わし様」こと「ドゥリーヨダナ」をちょっと柔らかくした雰囲気かな。直心影流の免許皆伝だから腕は立つはずなのだが、「刀を抜いたことはない(人を斬ったことがない)」逸話の持ち主だからサーヴァントとして実装されることはないでしょう。それより問題なのが松永久秀、戦国時代の武将ですがなんと女体化しています。「最期が爆死だったせいで肉体がバラバラになっていたから、召喚時の再構成であえて女の体に変えた」とムチャクチャなことを語っている。久秀が名物の茶器「平蜘蛛」とともに自爆したというのは後世の創作で、実際はただ自害しただけなのだが、ぐだぐだ時空では「爆死が史実」になっているらしい。要するにこのギャル永久秀、肉体は女だけど精神に関しては男のまま。「戦国の梟雄」と言われた久秀がまさかこんな姿になるとは……ただ、松永久秀って信長に謀反起こした末に自害したからボロクソに言われていた時期が長かっただけで、最近は再評価が進んでいるそうですね。昔は「足利義輝弑殺の主犯」みたいな扱いだったけど、近年の研究では「あの一件に久秀は関わっていなかった」という見方が強くなっているとか。何であれ、バトルモーションの作りが完全にNPCのそれなんで柴田勝家や服部武雄と同様プレイアブルになることはなさそうだ。

 最後に、一番気になるのは未だにハッキリとした正体が明かされていないPU2の☆5サーヴァント。クラスはイベント通りならセイバー。「黒の剣士」と呼ばれており、沖田さん曰く「見た目は違うが、剣筋と言動は近藤さんそのもの」。どうやら中身は近藤勇だけどガワだけ別人っぽい。別の英霊に近藤勇のエッセンスが混入している状態だろうか? 邪馬台国のときの「芹沢鴨」と「クコチヒコ」みたいな。あるいは義経要素が混じっている「平景清」的な。前回のイベントがなければ「藤堂平助が従っている=伊東甲子太郎」と予想したところだけど、土方や沖田が「黒の剣士」の顔に対し「近藤さんとは違う」と評しているだけで「見たことのある顔」とは述べていないから、生前の知り合いとは思えない。「神話」だから正体は「剣術の祖」とされている「スサノオ」かな? とも思ったが、ネタが完全に『終末のワルキューレ』と被るし違うかな。池田屋で殺された「吉田稔麿」という説もあったが、彦斎が無反応なところから察するに違うだろう。沖田ちゃんのインテリジェンスソード「煉獄」みたいに近藤さんの「虎徹」を擬人化した、という説もあって面白いと思ったが、「歴史改変されてノッブがショボかった世界線になっている」ことを考慮すると江戸時代ではなく戦国時代に関連している可能性が高いかな。

 いくつか囁かれている説の中でもっとも説得力を感じたのは剣豪将軍「足利義輝」説。剣豪「塚原卜伝」の教えを受け、奥義「一之太刀」を伝授されたという逸話が残っているからイベントボスとして君臨するに不足のない腕前だろう。時代的に松永久秀と面識があってもおかしくない。また「皇都神剣組は二条城のあたりを改造して本拠地を作った」とあり、「二条御所」に住んでいた義輝との繋がりを感じさせる。そして何より「皇都神剣組は人々に『神剣』を与えている」、これは大量の名剣や名刀を所持していた義輝を強く想起させます。「追い詰められて所持している剣と刀を畳に刺し、近づく敵を斬っては次々と武器を持ち換えた」という戦国アンリミテッドブレイドワークスな逸話は講談の作り話と見做されているが、「それぐらいたくさん剣や刀を持っていた」というイメージが義輝にあったわけです。その逸話の続きとして、「義輝があまりに強いので『正面からやり合ってはとても敵わない』と、刺客たちは畳を使って動きを封じ込め、距離を取って槍で突き殺した」顛末が語られている。配布サーヴァントがランサーであることとも符合する。

 義輝をベースに、近藤勇と神霊「真瓦津日神(マガツヒノカミ)」が混じり合っている……みたいな感じかしら。マガツヒノカミはイザナギが妻のイザナミを黄泉の国から連れ戻そうとして失敗し、黄泉津比良坂を通じて逃げ出した後、まとわりついた穢れを清めるために川に入って体を洗ったときに生まれた、言うなれば「神格化した穢れ」です。弾正ちゃんが言ってたみたいに「八十禍津日(ヤソマガツヒ)」や「大禍津日(オホマガツヒ)」などの呼び名もある。この場合の八十(ヤソ)は「たくさん」という意味で、具体的な神格というよりは「神に等しい力を持った穢れの集合体」と介錯した方がいいかもしれない。ちなみにイザナミが川で体を洗ったとき、左目からアマテラス、右目からツクヨミ、鼻からスサノオが生まれているので神格としての古さはこれら三柱に匹敵する。忌まわしきモノであるかのように排除された点で義輝と勇のふたりに通ずるものはなくもない。ただ、信長は室町幕府だった頃に義輝と謁見しているので、面識はあるはずなんですよね……単に「覚えてなかった」でゴリ押せるか?

 というか、イベントで「幕府」や「佐幕」といった言葉を連呼している割に一度も「江戸幕府」や「徳川幕府」といった言葉が出て来ない(「江戸」自体は出てくるが、無血開城に触れた時の勝海舟のリアクションがなんか微妙だった)ので、これ幕末は幕末でも「室町時代」が500年くらい続いた後の幕末なのでは? 「この世界だと織田信長は裏切った松永久秀に殺されている」らしいが、史実だと「1565年、義輝が死亡(永禄の変)→1568年に信長が義輝の弟・義昭を15代将軍として担ぎ上げる、この際の上洛に久秀も協力する→1571年、久秀と義昭の関係悪化に伴い久秀と信長もギスギスする→1572年、今度は信長と義昭の関係が悪化する→1573年2月、義昭が挙兵して信長と敵対、久秀は義昭と和睦を結び信長と敵対する→同年7月、義昭が信長に敗北し京都から追放される(室町幕府滅亡)→同年12月、信長の軍に多聞山城を包囲された久秀が降伏→1577年、謀反を起こして信貴山城に籠城した久秀が進退窮まって自害する、このとき城に火を放ったという話が後年盛られまくって『大量の火薬を使って爆死した』ことになる→1582年、信長が死亡(本能寺の変)」という流れだから、義昭が将軍になってから追放されるまでの5年間で信長を討てば室町幕府は存続できることになります。

 Fateはこうやって真名とかを予想している瞬間が一番楽しいまでありますね……あ、そういえばイベント開幕に合わせて『Fate/ぐだぐだオーダー』も久々に更新されています。忘れずに要チェック。

・アマプラで『トラペジウム』観た。

 2024年の5月に劇場公開されたアニメ映画です。約1年後となる2025年5月30日にアマゾンプライム独占配信を開始。配信開始の翌日くらいに視聴したが、どうにも乗り切れず中断。先日「そろそろ向き合わないとな」と思って再開し、完走しました。先に感想をまとめてしまうと「大筋としては面白かったけど、物足りない部分が多い&『アイドルが素晴らしいとは思えない』という根本的な問題を抱えた映画だった」になります。

 原作は「乃木坂46」というアイドルグループに所属していた「高山一実」の同題小説。雑誌“ダ・ヴィンチ”に連載し、2018年に単行本化、2020年に文庫化されています。2024年には角川つばさ文庫から映画のノベライズ版も出している。作者が違うので当然中身も違う。冒頭だけ読み比べてみたが、映画にあった「何が『やさしさ』だよ!」と叫んで聖南テネリタス女学院の看板を蹴りつける(テネリタスはラテン語で「優しさ」の意味)シーン、原作の主人公は中指まで立てるオマケ付きなのに対し、ノベライズ版の主人公は「フン」と鼻を鳴らす程度に留めており、看板を蹴ってすらいない。つまり主人公の凶暴さは原作>映画>ノベライズという順になっています。

 主人公は開始時点で現役女子高生の「東ゆう」。「城州東高校」に入学したばかりの1年生。幼い頃にアイドルが歌って踊る姿をテレビで観て以来、ずっと「アイドルになりたい」と願っていた少女である。しかし、自分はピンでアイドルをやれるほどの魅力などないと、何度もオーディションに落ちたことで痛感していた。それでもめげず、ゆうはセルフブランディングして世間の注目を集めようと画策する。自分の名字が「東」で、通っている高校が城州「東」高校であることに着目し、残りの「北」「南」「西」に該当する子を集めて「東西南北」というグループを結成しようと考えたのだ。ままごとみたいな計画であったが、運に恵まれてトントン拍子で進行し、ゆうたち「東西南北」はテレビ出演を果たすことになるが……。

 子供っぽい、浅はかな計画を立ててアイドルになろうと思い上がった少女が、現実に打ちのめされて一旦挫折した後に再起して夢を叶える。『トラペジウム』のストーリーを要約するとそんな具合になるだろう。ちなみに「トラペジウム」は「不等辺四角形」の意味で、一つとして平行の辺がなく長さもバラバラという歪な形の四角形を指す。またオリオン大星雲の中心に位置する散開星団の名称でもある。グループを形成しながらも同一の目標を持たない「東西南北」のメンバーをそのまま表している。ぶっちゃけ、アイドルになりたいのはメンバーの中でゆうちゃんだけなんですよね……他の子たちは「友達(ゆう)の頼みだから」という理由が大きくて、アイドル活動にそこまで情熱を抱いていない。その結果、メンバーの一人が彼氏持ちだと発覚するシーンで「アイドル=恋愛禁止」が常識だと思い込んでいるゆうは舌打ちし、「彼氏がいるんだったら友達にならなきゃよかった」と暗い顔をして責め立てる。そんなギスギスした環境に限界を感じた別のメンバーはやがてメンタルに異常を来し、「もうやだ!」と泣き叫ぶ。「友情」にも限度がある、ということで東西南北は解散してしまいます。

 これがよくある青春ストーリーなら涙ながらの真情告白で仲直りし、グループ再結成、ラストは感動的なライブシーンで〆……となるでしょうが、あくまで東西南北は解散したまま、結局再結成されずにエンディングを迎える。一応メンバーは仲直りして「再結成はゴメンだけど、今後もずっと友達だよ」とキレイな雰囲気で幕を引きますが……この展開にはモヤモヤしたものを感じる人が多いと思います。少なくとも私はすごくモヤモヤした。そのモヤモヤを吐き出したくてこの感想を書いていると申し上げても過言ではない。まず、大前提として主人公のゆうちゃんは性格が悪いです。無自覚に不快なキャラとなってしまった、というパターンではなく、最初から「性格の悪い子」として造型されている。冒頭の看板蹴りシーンからして性格の悪さを隠そうとしないどころかむしろ露骨にアピールしているし、思い通りにいかなくて舌打ちするシーンも多い。ボランティアで登山したとき、「味噌汁の中に蟻が入っている→蟻だけ取り除いたり、単に飲むのをやめたりするのではなく、丸ごと味噌汁を捨てる」場面を見せることで彼女の頑なな潔癖さを視聴者に印象付けている。予告編にあった「わかってる、こんな奴がアイドルになるべきじゃないってことくらい」というセリフの通り、ゆう自身も己の性格の悪さは自覚しています。アイドルに理想を抱いているからこそ、己がその理想から程遠い人間だという現実に向き合って苦しむ。そのへんは「本当の自分なんて必要されていない」と徹底的にキャラを作ってアイドルを演じているシャニマスの「黛冬優子」に通じるものがあります。

 しかし、冬優子に比べてゆうはとにかく詰めが甘い。東西南北はゆうが計画して立ち上げたグループであり、本来ならばゆうが率先してメンバーを引っ張っていくリーダーとなるべきなのに「えっ、東西南北はたまたま出来上がったグループであって、私の作為なんか全くありませんけど?」とすっとぼけて責任を放棄する。このへんに関してはゆうの自信のなさ、「メンバーの中で『東ゆう』が一番人気がない」(他のメンバーのおこぼれに与っているだけで、ゆう単体の需要はほとんどない)という負い目に起因しているのだろう。「どのツラ下げて自分がリーダーなんて……」と思っていたのかもしれない。けど、それでも「アイドルやりたい」と最も強く望んでいるのはゆうなんだから、血反吐を吐いてでもリーダーの責務を負うべきだった。「アイドル」という夢を共有できない以上、いずれ訪れる解散は避けられなかっただろうが、せめてもう少しはソフトランディングできるはずだった。

 メンバーが精神の不調を訴えているのにメンタル管理は南ちゃん(華鳥蘭子)に任せっきりで、放置というより無視に近い態度を決め込んでいたのは完全にアウトだろう。釣った魚に餌をやらないというか、「アイドルは素晴らしい、だからアイドル活動そのものが『餌』である」と思い込んでいる節がある。そのへんのすれ違いが破綻へと繋がっていくわけですが……グループの破綻によってもたらされるダメージが、「ゆうよりもゆう以外のメンバーの方が大きく見える」のが一番モヤモヤするポイントでしょう。

 ゆうが己のワガママな振る舞いによって痛い目を見るならそれは自業自得だから仕方ない、と納得できますが……ハッキリ言ってこの映画、ゆうに巻き込まれた子たちの方が痛い目見てるんですよ。なので後半、グループ解散がショックで不登校になって部屋に引きこもるゆうの姿を眺めても「かわいそう」という気持ちが一向に湧き上がってこない。「お前が始めた物語だろうが!」と叱責したくなる。しかし、主人公が女子高生であることを考慮すると、「この年頃なら愚かなのは当たり前だよな」とも思ってしまって舌鋒が鈍る。先頭に立つリーダーとしてではなくグループを陰から操る陰謀家みたいな振る舞いをしていたのも、「この年頃なら軍師ポジションに憧れるもんな」と頷いてしまったり。幼き日に見たアイドルの輝きに目を灼かれ、「アイドルは素晴らしい。以上。議論の余地はない」と盲信してしまった少女の悲喜劇。主題歌の「なんもない」が的確にゆうの空虚さを抉っており、「何者でもない存在が何者かになろうと足掻く」青春ストーリーとしては非常に胸をざわめかせる仕上がりになっています。

 とはいえ、仲直りする過程がすんなり過ぎて物足りない(原作だと「他のメンバーたちはゆうの打算を最初から見抜いていた」というエクスキューズが入るらしいが、映画はそのへんが曖昧だ)し、この映画を観て「アイドルって素晴らしいな」とは思えない(むしろ「アイドル界ってやっぱ異常な業界だな」と思ってしまった)し、興行的にコケた(全国200館規模で最終1.5億円くらい、この規模だと5億円を突破しないとヒット扱いにならない)のも納得である。ゆうのキャラが強烈すぎるせいで、他の子たちの存在がやや霞んでしまっているのも難点です。くるみちゃん、アイドル活動にやり甲斐を感じてないのに壊れる寸前まで頑張り続けたのはきっとゆうや他のメンバーが好きだからで、「ずっと耐えていた」んだろうけど、ゆうの視点だとそのへんを掘り下げられない。「心に残る映画」であったし、「観たら語りたくなる映画」でもあったし、東ゆうは「忘れられない主人公」ではあるのだが……駅のホームで電車を待っているところに古賀さんから電話が掛かってきて、「うちは東西南北のおかげでいっぱい楽しいこと経験させてもろうたから、ホンマありがとうな」と言われて「こちらこそ、ありがとうございました」と深々と頭を下げるシーン。すぐに次の電車が来るとはいえ、乗ろうとしていた電車を見送って感謝の念を伝えることを優先するゆうちゃんの姿が好きです。

 結論。「アイドルとは星である」という確たるビジョンを持ちながら、人を導くポールスターにはなれなかった(人はそれぞれ勝手に自分で輝く散開星団なのだと見せつけられる)少女の物語。一部のオタクにとってはトゲの如く心に深く突き刺さって抜けなくなる映画であろうが、「一部」の範囲が狭すぎるせいでカルト的な扱いになるのもやむなし、といった一本。そもそもアイドル業界に何の愛憎も抱いていない人にとっては「アイドルって人を狂わせるんだな、怖〜」だけで終わってしまう。だってこの映画、ゆう以外に関しては「アイドルになることで輝けた」のではなく「輝きを秘めた子たちがたまたまアイドルをやってる期間があった」って話ですから、「アイドル」そのものを深掘りできてはいない。まず、アイドルがいかに素晴らしいか・アイドルがいかに罪深いか説得力を持たせる段階が必要だったと思いますが、どう考えても尺が足りないから仕方ないかな。受け手の中に明確な「アイドル像」が必要になる、そういう意味ではハイコンテクストな映画です。

 ちなみに主人公・東ゆうを演じた声優は「結川あさき」、逃げ若の「北条時行」役の人です。最近だとゲーセン少女の「加賀花梨」役を演っていますが、言われないとわかんないな。演技に関してはやっぱり「こんな素敵な職業ないよ!」のシーンが白眉でした。ほか、南(華鳥蘭子)は「上田麗奈」、西(大河くるみ)は「羊宮妃那」、北(亀井美嘉)は「相川遥花」が担当している。この中だと相川遥花が少しマイナーかしら。『うたごえはミルフィーユ』の「クマちゃん」(熊井弥子)を演った人だ。ロマンス要素はないけど割と美味しい役の「工藤真司」は「木全翔也」、声優ではなくアイドル枠。なんか一人だけ演技が……とは思いました。アイドル枠としては上手い方なんだけど、本職と比べるとさすがに……あと、原作者の「高山一実」と元同僚の「西野七瀬」がゲスト出演していますが、よりによって二人ともお爺ちゃん役で違和感がスゴかった。原作者権限で「ゆうに声をかける先輩アイドル役」とか捻じ込めばよかったのでは?


2025-09-21.

・プライム感謝祭(10月7日から10日にかけて開催)が近づいてきたからか、AmazonよりKindle Unlimited3ヶ月無料のオファーが届いて「遂に来たか……」と目を光らせた焼津です、こんばんは。

 「Kindle Unlimited」は定額読み放題サービス、いわゆる「サブスク」の一種で、対象商品に限って契約期間が終了するまで好きなだけ読めるというサービスです。マンガ、雑誌、小説などいろんなものが対象になっており、あまりにも多過ぎて読みたい本を探すのもひと苦労。私は気になった本がアンリミ対象だったらとりあえずリストにブチ込んでおいて、ある程度溜まったところで契約し、期間中に読み切ったら更新しないで解約する――という行為を繰り返しています。たまに解約しておかないと、上記のようなオファーが届かないですからね……。

 アンリミの月額料金は980円、丸々1年契約すると11,760円になります。アンリミ対象商品をたくさん読む人からすれば安いものでしょうが、「今月はアンリミ対象以外の本ばっかり読んでいたから1冊も利用しなかったわ」みたいにムラのある人だとやや損した気分になる。なので契約をこまめに打ち切って「利用しない月」を決めることでメリハリ付けていたわけですが、副次効果としてAmazonのカムバック施策の対象に選ばれることが多くなった。毎回必ず届くわけじゃないけど、プライムデーとかに「〇ヶ月無料」とか「〇ヶ月99円」みたくオトクなオファーが来るわけですよ。どういう基準でそのへんが決まるのかよくわからないが、とにかくずっと加入しっぱなしにするより「たまに利用する」ユーザーの方がアドみ深いんですよね。「アンリミに一年中ずっと加入している人」は「〇ヶ月分の利用料を無料にします」みたいなサービスを受ける機会はないので。

 前フリが長くなりましたけど、そんなわけで久々にアンリミ加入した私が同じタイミングでアンリミに初入会or久々に契約した人に向けてオススメの本をプッシュしていきます。先に書いておきますが、アンリミは時間経過に伴ってラインナップが変わるので「ある日までは対象だったのにある日から対象外になる」作品も多い。あくまでこの記事を書いている時点の対象作品です、あしからず。

 まず、基本として押さえておきたいのが「雑誌系」ですね。アンリミは読み放題対象の雑誌が多く、「最近発売されたもの」限定だったりしてバックナンバーが漁れないケースもありますが、「特定の記事だけ読みたい」ときに使うと便利です。ゲーム雑誌の『週刊ファミ通』は発売から3ヶ月以内の号はだいたい読むことができる。アニメ雑誌の『アニメージュ』や『アニメディア』、あと何雑誌と呼べばいいのかわからないが『ダ・ヴィンチ』も同様です。とりあえず借りてみて、ざーっと流し読みして気になるところだけ熟読すればOK。マンガ誌だと『ヤングエース』、『少年エース』、『ドラゴンエイジ』、『電撃大王』、『電撃マオウ』、『コミックキューン』、『グランドジャンプ』、『漫画アクション』などがあるので、「暇潰しになれば何でもいい」のであればこのへんをダウンロードしてみてはいかがだろう。

 次の狙い目は「ちょっと古めの作品やマイナー出版社の本」。少年ジャンプで連載中のマンガとかはわざわざアンリミ対象にしなくても売れるのでアンリミのラインナップに連なることはまずない(その代わり出版社の施策で初期の巻が無料公開されたりする)けど、もう完全に旬(売り時)を逃した作品はアンリミ対象になってることが多い。たとえば「高田慎一郎」の『神さまのつくりかた。』は新装版全14巻がすべて無料。このタイトルを見て「うおおおお! 懐かしい!」ってなる人も多いのでは。アニメ化しなかったので知名度はそんなに高くないが、90年代後半に結構人気があった日本神話ベースの現代ファンタジーです。アンリミは一度に借りられる冊数が20冊という制限がある(あくまで「一度に」なので、読み終わった本を都度返却すれば何冊でも借りられる)んですが、『神さまのつくりかた。』には「スーパー大合本」という14冊を2冊にまとめた合本があるので、こちらを利用すれば消費する枠が少なくて済みます。ただ、『神つく。』はいくつかバージョンがあって、『神さまのつくりかた。新装版』は現在セール中で「1巻と2巻が無料、3〜14巻は33円で全巻まとめて買っても396円」だから、この価格ならアンリミで読むより買った方がいいかもですね。ちなみに過去のセールでは「全巻11円」でまとめて買っても200円しないこともあったんで、無料の1巻と2巻だけ確保して3巻以降は更なるセールを待つという手もあります。

 「因習村を舞台に特殊なルールの麻雀を打つマンガ」である『マジャン〜畏村奇聞〜』(全11巻)もマイナー作品ながらオススメ。「ゲーム開発」を題材にしたお仕事マンガの『東京トイボックス』(全2巻)および『大東京トイボックス』(全10巻)も「クソッ、これが無料で読めるなんて羨ましい」と嫉んでしまう。『MOONLIGHT MILE【完全版】』は紙版の続きである24巻も配信されています。事情があってネーム状態ですが、未完を覚悟していた作品だけに続きが読めるだけで感涙してしまう。ほか、あの『将太の寿司』も全巻アンリミ対象。ただ、『将太の寿司』の電子版はいくつかバージョンがあり、バージョンによっては全国大会編や2(World Stage)がアンリミ対象じゃありません。電子書籍は同じ作品でもたまに複数のバージョンがある(販売元が別だったりする)ので、あるバージョンはアンリミ対象だけど別のバージョンはアンリミ対象外ってケースもちょくちょくある。注意しましょう。

 比較的最近の作品だと、ドラマにもなった『チェイサーゲーム』。7巻で一旦完結しましたが、実はちょっと前に再開しており、最新刊の13巻以外はアンリミで読める。竹書房のマンガもアンリミ対象が多く、『めんつゆひとり飯』、『うちの会社の小さい先輩の話』、『クラス召喚に巻き込まれた教師、外れスキルで機械少女を修理する』など最新刊以外はだいたい無料で読める(最新刊が出たばかりだと準新刊も対象外だったりする)。「最新刊を売るために既刊をアンリミ対象にする」という販促は結構あるので、普段からチェックしておくとアンリミに加入した後の行動がスムーズになります。出版社によって「アンリミ対象になっている期間が長い/短い」って特徴もあるから、長く利用するつもりであれば意識しておいて損はない。個人的に講談社とKADOKAWAは期間が短い印象がありますね……リストに放り込んでおいたのに気が付いたら対象じゃなくなっている、ってことが何度かありました。なのでそのへんの商品は見掛け次第すぐに借りた方が宜しいです。アンリミは一旦借りたらその後対象じゃなくなっても返却処理や退会処理が済むまでは読めますので。

 ライトノベルも対象作品が多めです。私の好きな『我が驍勇にふるえよ天地』は全11巻が対象なので、読みたい本が見つからない人にまずプッシュしておきたい。『剣と炎のディアスフェルド』(全3巻)も好きだけど、あれは打ち切りなのでオススメしにくい。アニメ化した作品だと『聖剣の刀鍛冶』や『天使の3P!』や『問題児たちが異世界から来るそうですよ?』や『ゴールデンタイム』や『RDG レッドデータガール』(スニーカー文庫版)や『ハイスクールD×D』や『神様のメモ帳』、割と最近の『神は遊戯に飢えている。』も全巻対象。『七つの魔剣が支配する』と『安達としまむら』と『真の仲間じゃないと勇者のパーティーを追い出されたので、辺境でスローライフすることにしました』は最近出た2冊以外は対象です。『幼なじみが絶対に負けないラブコメ』は最終巻以外対象。ハルヒシリーズも去年出たばかりの『涼宮ハルヒの劇場』以外は対象。アニメ化していない名作だと『円環少女』(全13巻)や『空ノ鐘の響く惑星で』(全13巻)や『火の国、風の国物語』(全13巻)も対象。『ウィザーズ・ブレイン』は本編全20巻と後日談含む短編集『ウィザーズ・ブレイン アンコール』のすべてが対象だ。長年の沈黙を破って去年遂に完結した『9S<ナインエス>』も去年出た2冊以外は対象となっている。同じ作者の『0能者ミナト』も最終巻以外対象なので併せて読むのもいい。

 「10巻以上の大長編とかは疲れるのでちょっと……」という方には短めのところで「高畑京一郎」作品を。デビュー作の『クリス・クロス』は電子化していないが、代表作である『タイム・リープ あしたはきのう』は新装版の方が対象(旧装版は対象外)。『ダブル・キャスト』とか『Hyper Hybrid Organization』も対象ですね。H2Oは打ち切りというか続きを書けなくなって未完になっていますが、「仮面ライダー的な変身ヒーローの物語を敵役の戦闘員視点でシリアスに綴る」異色作で面白いことは確かである。ほか、『戦略拠点32098 楽園』や『天になき星々の群れ フリーダの世界』といった「長谷敏司」の初期作も要チェック。「ラノベ史上に残る怪作」として名高い『東京忍者』を怖いもの見たさで読んでみるのも一興。変わったところだと『嘘つきみーくんと壊れたまーちゃん』、通常版は対象外なのになぜか加筆修正した『嘘つきみーくんと壊れたまーちゃん 完全版』の方は対象になっています。入間人間作品だと『やがて君になる』のスピンオフ作品『佐伯沙弥香について』(全3巻)の対象です。「ベニー松山」のウィザードリィ作品、『隣り合わせの灰と青春』「不死王」『風よ。龍に届いているか』も是非押さえておきたい。

 新しめのところでチョイスすると、『デート・ア・ライブ』のスピンオフ『魔術探偵・時崎狂三の事件簿』および『魔術探偵・時崎狂三の回顧録』。『ひきこまり吸血姫の悶々』の作者による「男装して科挙に臨む少女たち」を描いた『経学少女伝』。『ウィザーズ・ブレイン』の作者による新作『魔剣少女の星探し』(2巻まで出ていて対象は1巻だけ、現状の売上から3巻出すのは厳しいらしいので、読んで気に入ったら2巻を買ってあげてください)。今年の5月に電撃小説大賞獲ってデビューしたばかりなのにもう1巻が対象になっていて「2巻の販促目当てとはいえ早過ぎだろ!?」と叫びたくなった『サンバカ!!!』。このへんは少し経ったら対象外になるかもしれないので気になる人は早めに借りた方がいいです。

 ライトノベル以外の一般文芸は変動が激しく、「後で読もう」と思ってリストに入れといたら対象外になってることが多いです。未だと「池井戸潤」や「椎名誠」が狙い目かしら。推理小説好きには「鮎川哲也」の作品がオススメ、「鬼貫警部事件簿」や「星影龍三シリーズ」がほとんど対象になっている。大藪春彦の『蘇る金狼』も、大藪作品を読んだことがないのであれば一度チャレンジしてみてはどうだろう。個人的には空自パイロットを主人公に据えた「夏目正隆」の「スクランブル」シリーズ(全14巻)がオススメ。昔『僕はイーグル』というタイトルで「鬼頭莫宏」がイラスト描いていた作品です。あとは……もうすぐ第四部の刊行が始まるからか、『ニンジャスレイヤー』の既刊(21冊)も対象になってますね。SF作品だと『神狩り』、『幻詩狩り』、『不確定世界の探偵物語』、『神は沈黙せず』あたりがアツい。海外SFは『彷徨える艦隊』が13巻中11巻まで読めるのでオススメ、外伝3巻とジェネシス1巻も対象です。海外ミステリは『特捜部Q』シリーズや「シグマフォース」シリーズあたりがいっぱい読めるので時間があるときにはちょうどいい。ただAmazonはリスト化に失敗してシリーズ順がグチャグチャになってるから、外部のサイトでシリーズ順を確認しながら借りると吉。

 長くなってきたのでそろそろ締め括ろう。Kindle Unlimitedには「電子限定の作品」や「同人出版の電子化」も含まれていて、このへんも外せない。今アニメ化で話題が沸騰している「わたなれ」こと『わたしが恋人になれるわけないじゃん、ムリムリ!(※ムリじゃなかった!?)』の作者「みかみてれん」の同人作品はほとんどがアンリミ対象なので、原作読もうかどうか迷っている人はこちらで文体とかを確認するのもアリです。今は亡き「Novel 0」の『父さんな、デスゲーム運営で食っているんだ』まで対象になってるのは笑った。「榊一郎」の同人作品『英雄衍義』、「荒川工」がツイッターに投稿した140字SSをまとめた『こいにねがいし』、水上悟志の同人誌『ありがとうブラックドラゴン』や『おかえり仮面ブレイク』、「時田」の『身内の死比較漫画』や『神と使い捨てカイロ』、「小島アジコ」の『はてな村奇譚』などなど。アニメ化されてコミカライズも絶賛連載中である『私の推しは悪役令嬢。』の原作(小説)は「なろうで連載→『GL文庫』という電子書籍専門レーベルで刊行→一迅社から『私の推しは悪役令嬢。-Revolution-』というタイトルで紙書籍化」という変則的なルートを辿ってきており、売上の問題か紙書籍版は第一部が完結したところで刊行が止まりました。電子版の3巻からが第二部なので、紙書籍版で追っていた人はそろそろ見切りを付けて電子版で結末を見届けるべきかもしれません。

【予告】期間限定イベント「幕末チャンバラ神話 ぐだぐだ新選組・ジ・エンド REVENGE OF MAKOTO」開幕予定!

 去年はなかったけど、ほぼ毎年開催されているぐだイベが遂に来た! これまでの歴史は公式がまとめているのでそちらをご参照ください。例外もあるけど、だいたい9月〜11月、秋ぐらいに開催されることが多いので「秋はぐだイベの季節」というのがFGOユーザーの持っている印象でした。今でこそ「手の込んだシナリオをお出しするイベント」「魅力的なNPCがたくさん出てくるせいで『どォして実装しないのよォ〜!』と歯噛みする人が多いイベント」とされているぐだイベですが、一番最初にやった「ぐだぐだ本能寺」は完全にギャグイベントで、既存のキャラを無理矢理戦国武将に当てはめていたから「上杉アルトリア」「武田ダレイオス」「豊臣ギル吉」といった面子が珍妙な掛け合いを繰り広げる、今とは大違いの内容(いえ、今でも本編クリア後のおまけシナリオに名残りはあるけど)です。まだサービス開始から間もない頃で、そんなに凝ったイベントはできなかったんですよね……私はリアルタイムではなく2017年の復刻イベントでやりましたが、「こんなしょーもないイベントだったのか!」と驚きましたわ。ちなみにガチャから出てきた☆5イベント礼装「ぐだぐだ看板娘」はサービス開始初期ならではの隔絶した性能で、高難度クエストの攻略では何度もお世話になりました。

 2017年開催の「ぐだぐだ明治維新」も、今の感覚からすると割合小規模なイベントでしたが第一部完結後ということもあって結構踏み込んだ内容になっており、読み応えがあった。このイベントで立ち絵のみ登場した「カッツ」こと「織田信勝」はもともとイラストレーターの「pako」が「男版ノッブ(織田信長)」として描いた落書きを流用したもので、当初は活躍の予定がまったくなかったというのだから仰天する。後にサーヴァントとして実装されることになるんだもんな……おかげで「他のキャラも実装してくれ!」と望むプレーヤーが後を絶たなくなってしまった。2018年の「ぐだぐだ帝都聖杯奇譚」はぐだイベのシナリオに深く関わっている「経験値」のマンガ『コハエースGO 帝都聖杯奇譚』をベースにしたイベントで、コラボとは謳っていないが実質的にはコラボイベントみたいなもんです。初のマップ形式となり、シナリオのスケールも向上。巷間でイメージされる「ぐだイベ」の姿はこのときに概ね完成したと言っていい。30秒に渡る豪華なアニメCM(新曲付き)は今見てもスゴい。沖田オルタ、坂本龍馬、岡田以蔵が実装され『帝都聖杯奇譚』のメンバーはほぼ出揃った(扱いの難しいキャスターは未だに実装される気配ないけど)。黒幕として「南光坊天海」を名乗る「ミッチー」こと「明智光秀」が登場、天海は自称100歳を超える高齢で、「表向き死んだことになっている光秀が正体」というのは伝奇作品だとよくある設定です。ミッチー実装を期待する声もありましたが、現在の雰囲気だと叶いそうもない。コハエースGOの方では小悪党に近い扱いだった以蔵さんが大活躍し、一転して人気キャラに変ずるというまさかの事態も発生しました。

 2019年の「ぐだぐだファイナル本能寺2019」はタイトルで「ファイナル」と銘打っているせいで「最後のぐだイベなのでは?」とも囁かれたが、あくまで本能寺絡みのイベントはこれがファイナルというだけのこと。2016年開催の「ぐだぐだ本能寺」がイベントとしてはかなりショボかったので、やり直しの意味も込めたのではないかと思われる。信長自ら「敵は本能寺にあり」と宣言するアニメCMがカッコいい。☆5ノッブや長尾景虎、そして『帝都聖杯奇譚』勢の森長可がやっと実装された。長尾景虎は、単行本にはまとまっていないが『帝都聖杯奇譚』の前日譚『帝都聖杯奇譚回顧録 昭和戦国絵巻』に登場したキャラの一人。『帝都聖杯奇譚』は戦時中に執り行われた第三次聖杯戦争(冬木の第三次聖杯戦争とは異なる、パラレルワールドの第三次聖杯戦争)で勝った織田信長が、失われたはずの聖杯を使って何か怪しげなことを目論んでいる……というところからストーリーが始まるのですけど、その「描かれざる第三次聖杯戦争」について掘り下げたのが『昭和戦国絵巻』です。情報が断片的にしか明かされておらず、セイバーが「豊臣秀吉」、ランサーが「長尾景虎」、アーチャーが「織田信長」、ライダーが「武田晴信」と、ここまでしか面子が確定していない。「戦国絵巻」というから戦国時代の武将で固めているかと予想されるが……構想はあっても実体がなきに等しい『昭和戦国絵巻』ゆえ、ほとんどのFGOプレーヤーは「長尾景虎はFGO出身」と認識している模様。平野稜二が『帝都聖杯奇譚 Fate/type Redline』(『コハエースGO 帝都聖杯奇譚』のリメイク作)を描き切ったら『昭和戦国絵巻』やってくれるかもしんないですね。

 2020年は「ぐだぐだ邪馬台国」。サブタイトルの「超古代新選組列伝」があまりに謎過ぎて話題になった。みんなの課金のおかげで相変わらず超豪華なアニメCMも作られて度肝抜かれた次第。かつては立ち絵だけだった織田信勝が☆1アーチャーとしてフレポガチャに実装されるというまさかの展開には沸きました。ぐだイベ初の配布サーヴァントがいないイベントとなりましたが、まぁカッツが配布みたいなもんでしたね。悪役として「もう一人の新選組局長」こと「芹沢鴨」が登場、悪役ながら存在感があってこれまた実装を望む声多数でした。「もうやめましょう芹沢さん」構文が一世を風靡したっけ。

 2021年は「ぐだぐだ龍馬危機一髪!」、ある意味もっともカオスなぐだイベでした。「ノッブの首が消失して『首なし信長』になる」という過去イチ意味不明な幕開け。森長可の弟であり本能寺の変で信長のそばにいたとされる「森蘭丸」が「謎の蘭丸X」として配布サーヴァントになったが、「蘭丸星からやってきた」というこれまた訳の分からないプロフィールになっている。その胡乱さから「サーヴァント・ユニヴァース」(奈須きのこたちが思う存分与太話ができるように作られた世界)の出身ではないかと目されるが、結局ユニヴァースとの関わりもハッキリしないままイベントが終わる。蘭丸Xって、つまり何なの? と訊かれても答えられない、ってのが正直なところだ。今度は「戊辰聖杯戦争」という幕末の聖杯戦争が行われたことになっており、そこでサーヴァントとして召喚された森蘭丸(クラス不明)は死亡。蘭丸の持っていた「信長の首」が坂本龍馬(ランサー)に奪われた……というのがストーリーの背景となっています。「高杉晋作」が黒幕的なキャラとして登場しつつ美味しいところを持って行った。個人的には「武市瑞山」のイケメンぶりがツボ。「田中君なら眉ひとつ動かさん」発言が一時ミーム化したりしましたね……その後、2023年のCBC(カルデア・ボーイズ・コレクション、毎年ホワイトデーに開催される)イベント「カルデア重工物語」で高杉晋作が実装される掟破りな事態も発生。ぐだイベ発のキャラがぐだイベ以外で実装されるなんて、水着イベという例外を除けば初めてだったので「もはや何でもありだな」と呻いてしまった。

 2022年は「ぐだぐだ新邪馬台国」。まさかの邪馬台国続編。二代目女王「壱与(イヨ)」が配布されて歓喜しました。私は『Kishin-姫神-』という小説が好きだから「台与(トヤ)」派ですが……台与の旧字が「臺與」で、「臺」の部分を「壹(いち)」と書き間違えて壱与になってしまったんじゃないか、って説があります。さておき、「千利休」が少女の姿で実装されて「また偉人を性転換させたのか」と内外から呆れの声が出ましたが、再臨することでその正体が明らかになるという仕掛けにゾッとしました。今はもうカルデアライフを満喫している一員ですが、登場時点ではホラー系の扱いだったんだよなぁ。シナリオとしてはぐだイベ随一の盛り上がりで、集大成といっていい内容でした。☆4として実装された「山南敬助」は「ぐだぐだ邪馬台国」からの実装待機組だったのでやっと……という感じ。このイベントで更に「石田三成」が待機列に並んじゃったけど。

 2023年、最後に開催されたぐだイベが「ぐだぐだ超五稜郭」。ちょうど『名探偵コナン 100万ドルの五稜星』の情報公開が始まった頃でタイムリーすぎて笑ってしまった。配布が「雑賀孫一」、ガチャ産☆4が「永倉新八」、ガチャ産☆5が「武田信玄」と「上杉謙信」、4騎が新規実装という過去最大のイベントになりました。NPCも「今川義元」「伊東甲子太郎」「服部武雄」と3名も登場。いわゆる「油小路事件」と呼ばれる新選組の暗黒面に触れる形となった。『ABURA』という油小路事件だけを描いた全3巻のマンガがありますので、「油小路事件って何?」という方はこちらをお読みください。「ぐだぐだ超五稜郭」、全キャラを魅力的に描こうとした結果、ちょっと散漫になっちゃった印象はあるかな。ぐだイベ、昔に比べて非常に手の込んだ多層的なシナリオになっているせいで、味わい尽くすのが年々難しくなってきていますね。

 で、2024年はぐだイベがなく、今年約2年ぶりの開催となります。「幕末チャンバラ神話 ぐだぐだ新選組・ジ・エンド REVENGE OF MAKOTO」。「幕末」とハッキリ書いているので、舞台は恐らく戊辰戦争の頃でしょう。ぐだイベ、実は幕末のイベントってコレが初です。「ぐだぐだ明治維新」も幕末っちゃ幕末だけど「徳川幕府が倒れて、代わりに織田幕府が誕生している」という設定なので正規の幕末ではない。「ぐだぐだ龍馬危機一髪!」は「戊辰聖杯戦争」が起きた結果、明治も大正もなくなって「昭和維新」の嵐が吹き荒れている、という設定だから割と幕末に近いけど幕末じゃありません。続編の「カルデア重工物語」も同様。「ぐだぐだ超五稜郭」は幕末っぽいタイトルの割にやってることは川中島の戦いですし。正面から……かどうかはまだ確定じゃないが、とにかく「本当に幕末が舞台」なのは今回が初めてのはずです。

 「MAKOTO」というからには「三田誠」……ではなく「誠の旗」、つまり新選組がテーマになるはずで、局長「近藤勇」が実装される線が濃厚になってきました。「チャンバラ神話」の部分は明瞭なイメージが描きにくいが、新選組がチャンバラを繰り広げた相手となるとやっぱり薩長かしら。桐野利秋(中村半次郎)が来るか? 西郷隆盛の側近として有名な人です。西郷(せご)どんはさすがに出ないだろうな……出てくるとインパクト強すぎて他のキャラが霞みかねない。以蔵さんが後世「人斬り以蔵」と呼ばれたように半次郎さんも「人斬り半次郎」と後の世で称されており、人斬り勢の中では比較的長生きした方(といっても享年38歳だから今の感覚からすると若い)なので池波正太郎が『人斬り半次郎』という全2冊の小説も書いてます。個人的には『九重の雲』の方で印象に残っているかな。あとは緋村抜刀斎のモデルになった「河上彦斎」が来れば俗に「幕末四大人斬り」と呼ばれた面子がFGOに揃うことになる。限定☆5セイバー「近藤勇」、配布☆4アサシン「田中新兵衛」、限定☆4アサシン「河上彦斎」、限定☆3アサシン「中村半次郎」――いやメチャクチャ偏った面子だな! FGO全体で見れば新宿PUという例外があるとはいえ、ぐだイベのPUでここまで男だらけになったことはない。彦斎や半次郎が女体化する可能性とてゼロではないが、最近の傾向からして普通に女性サーヴァント枠が割り当てられるんじゃないかな。幕末の女性ということで☆4アーチャー「山本八重(結婚後は新島八重)」を予想しておこう。槍の名手として知られる「原田左之助」を☆4ランサーで、とかもありそう。あと、そろそろ帝都聖杯奇譚のキャスターが実装されてほしいな。☆0(実際のコストは☆2相当)という扱いでフレポに来てくれると助かります。

「ご時世的にかなり厳しいです」“美少女ゲーム界の歌姫”KOTOKOが相次ぐメーカーの倒産に思うこと(集英社オンライン)

 少し前に『忍者と極道』でネタにされた「さくらんぼキッス〜爆発だも〜ん〜」の歌手「KOTOKO」のインタビュー記事です。彼女がよく歌っていた「戯画」のブランドも既になくなっており、今やDL販売ですら手に入らない状況だ。デビューした時点でエロゲソングどころかアニソンやゲームソングにも興味なかったというのは意外でした。エロゲ業界ってアニメや一般ゲームの仕事にあぶれた人が流れ着く業界というイメージが強かったですから……。

 「エロゲー(18禁アダルトゲーム)」自体は80年代頃から存在しているジャンルですが、当初は容量が少なかったこと、「あくまでポルノ」という意識が強かったことから「ソフトに主題歌を付ける」のは珍しかったんです。90年代後半あたりに記憶媒体(メディア)がFDからCDに変わり、容量の問題が解決したことでボイスやBGMなどサウンド方面に力を入れようという機運が高まっていった。影響が大きかったのは、エロゲーじゃないけど近接したジャンルであるギャルゲーの名作『ときめきメモリアル』。「好きとか嫌いとか最初に言い出したのは誰なのかしら」という歌い出しで一世を風靡した「もっと!モット!ときめき」、あれがエロゲソングの源流と申しても過言ではないだろう。「もっと!モット!ときめき」が94年、『To Heart』の「Brand-New Heart」が97年、KOTOKOの所属していた「I've」の曲「Last regrets」が99年(『Kanon』の主題歌)。そして知名度的な意味ではマスターピースとなる「鳥の詩」(『AIR』の主題歌)が2000年に発表されました。KOTOKOが歌手デビューしたのはその頃です。

 名前が売れ出したのは2001年の「恋愛CHU!」あたりからか。秋葉原のショップでデモムービーを延々と流していたから、当時を思い出して懐かしくなる人もいるだろう。ゲーム曲は今だと「ゲームをやってるときにBGMとして聞く曲」とか「配信サイトで作業用BGMとして流す曲」というイメージが強いでしょうが、2000年代だと「秋葉原で流れている曲」、つまり「街のBGM」という印象も強いんですよ。私が『うたわれるもの』を購入したのも店内で流していたムービーから聞こえてきた「采配をふるう者」のあまりのカッコ良さに痺れたからですし。話をKOTOKOに戻すと、「400曲くらいは歌っている」とだけあってチェックするだけでも大変です。『私立レイプ女学院』という陵辱ゲーの主題歌を担当した翌月には『こなたよりかなたまで』の「Imaginary affair」を歌っているとか、振れ幅が大きすぎる。個人的に好きなのは『DUEL SAVIOR』の「Fatally」です。「この道に誓う 宿命の灯を絶やさない 想いという名の 宝石があるから」という歌い出しから始まる、勇壮な調べの中で必死に藻掻くような歌詞。何度聞いても色褪せない。

・ひろしたよだかの『滅亡国家のやり直し(1〜2)』読んだ。

 副題は「今日から始める軍師生活」。元は「小説家になろう」に連載されていた戦記寄りの異世界ファンタジーで、来月に4巻が発売予定。コミカライズもありますが、始まったのが割と最近なのでこちらはまだあまり進んでいない。コミカライズの単行本も来月に4巻と同時発売の予定です。Kindleのセール作品をチェック中に「この商品を買った人はこんな商品も買っています」の欄で見掛け、「どんな作品だろう」と気になってサンプルを読んだところ、「これは面白そうだ!」とセール作品そっちのけでハマってしまった。

 ジャンルとしては「やり直し物」+「成り上がり物」です。主人公「ロア」は「ルデク王国」の文官として倹しくも充実した日々を送っていましたが、10個ある王国騎士団のひとつがある日突然敵国に寝返り、奇襲を仕掛けたことによって王都が壊滅。好機とばかりに3つの敵国が三方向から攻め寄せ、すり潰されるように王国は滅亡してしまった。たまたま難を逃れたロアは流民として各地を渡り歩き、日雇いの仕事で糊口を凌ぐ。そして気付けば40年の月日が流れていた。祖国への想いに心を囚われたまま、どこにも腰を落ち着けることができなかった人生。込み上げてくる気持ちはただひとつ、「平和だったあの頃に戻りたい」――目を覚ますと、望み通りロアは42年前のまだ滅亡していないルデク王国に戻っていた。今度こそ、滅びの運命を回避してやろう。まだ権力も何もない一人の文官が決意とともに立ち上がった……。

 こんな感じで、「未来を知っている」主人公がそのアドバンテージを利用して活躍する物語です。分類上は「戦記&内政」で「知識チート」に属するかな。滅亡前の時代には開発されていなかった「瓶詰」の技術をもたらすなど、未来知識を元にした主人公の無双ぶりは如何にもなろう系といったムードが漂いますが、ロアくんはもともと本好きで様々な情報を頭に叩き込んでいたので普通に博覧強記なんですよね。このへんの「本好きが軍師として大活躍する」ノリは『覇剣の皇姫アルティーナ』を思い出す。好きなシリーズだったけど、途中で続きが出なくなっちゃった……戦記物は進めば進むほど状況が複雑になって執筆の難易度がどんどん上がっていくから、盛り上がってきたところで続刊が出なくなってしまうのは割とよくあることです。アニメ化した『天才王子の赤字国家再生術〜そうだ、売国しよう〜』も最新刊が出てから既に3年が経つけど、続きが出る気配はない。

 この作品の特徴としては「明確なヒロインが存在しない」ことが挙げられる。ライトノベルは無理矢理にでも主人公とヒロインのロマンスを捻じ込もうとする作品が多いけど、少なくとも私が読んだ範囲(3巻の途中まで)ではロアくんに関して色恋の要素はありません。「戦姫」の異名をとる女性騎士「ラピリア」とか、出自に秘密がある異国少女「ルファ」、ロアくんの仕事をサポートしてくれる「ネルフィア」、奇人発明家「ドリュー」、2巻から登場する双子の「ユイメイ(ユイゼスト&メイゼスト)」など、女性キャラはポツポツと出てきますけど「王国の滅亡を回避する」という目標で頭がいっぱいのロアくんは色恋に現を抜かす余裕などない。正直、ラピリアとはもっと接近するようなイベントがあると思っていたのでここまで何もないのは予想外だった。3巻の表紙で一緒に踊っているから、もうちょっと仲が深まると思うんですけれど……とにかくラブコメチックな要素はゼロに近いので、「恋愛要素で本筋の流れを阻害されるのがイヤ」という方にはうってつけです。あと、冒頭で「ファンタジー」と書きましたが、これは異世界が舞台で「時間遡行」要素が入っているからそう形容しただけで、魔法とかスキルとかステータス、モンスターとか亜人とかダンジョンといった「なろう系ファンタジーによくある要素」は入っていません。複雑な設定がないぶん、普段なろう系を嗜まない人にもとっつきやすい。ただ、本筋にはまだ絡んでこないがいわゆる「邪教集団」が存在しているみたいだし、主人公の星(運命)が奇妙だと見抜く占い師も出てくるので、今後超常要素がメインになる可能性はあります。

 「やり直し」が始まるのは滅亡の契機となった王都襲撃事件よりちょうど2年前。第10騎士団の副団長「レイズ」(第10騎士団は国王直属の遊撃部隊で、名目上の団長は国王ということになっているが、実際の差配はレイズが行っているため「副団長」と呼ばれつつも実質的なポジションは「団長」に近い)が「理解のある上司」ということもあってロアくんの進言を柔軟に受け入れてくれて、それに伴ってロアくんも手柄を立ててどんどん出世していきます。2巻ではなんと彼がトップの「ロア中隊」まで編成される。何なら功績著しいロアくんを団長に据えた「第11騎士団」を……という話もあったりなかったりしますが、滅亡までの猶予がそんなにないし「今から新たな騎士団を創設しても間に合わないよな」と頭の中で一蹴する。「王国が滅亡した」という結果は骨身に沁みるほど理解していますが、滅亡に至るまでの具体的な経緯については「戦争による混乱」が生じたせいで不明点も多く、ロアくんはちょっとずつ推理を重ねながら滅亡回避の企てを積み重ねていくことになる。そう、本シリーズは戦記物の皮をかぶって「ルデク殺国事件」の真相に迫っていくミステリ小説でもあるのだ。いったい誰が、何のためにこの国を滅ぼしたのか?

 読みやすいし面白いけど展開がゆったりとしていることもあり、恐らくアニメ化はしないでしょうが、「久々に腰を据えてラノベを読みたい」という方にイチ推しのシリーズです。なろうでの連載は2年ほど前に完結しており、よほど書籍版の売上が下がったりしないかぎりは最後まで刊行されるはず。果たしてロアくんは歴史を変えられるのか。是非その目で確かめてみてほしい。



管理人:焼津