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リレー小説「魔法少女忌譚修」(第13話−10/12)
2026-02-28.・延期していた『劇場版 魔法少女まどか☆マギカ〈ワルプルギスの廻天〉』、公開日が8月28日に決まって「やっとか……」と嘆息する焼津です、おはようございます(今日の更新分の推敲に時間が掛かり過ぎて朝になっちゃった)。もう延期だけはせんでくださいよ! ホンマ、勘弁してほしいわ。
延期に次ぐ延期の末、やっと具体的な日程が明らかになりました。シャフト、信じていいんだよな……? この発表で「半年も延期する」と捉える人がいる一方、「半年程度で済むのか?」とまだ懐疑的な人もいて、このへんに新旧シャフトファンの信頼度の差が表れていると思います。古いオタクは総監督「新房昭之」の「マスターテープ放送5分前納品」という伝説を覚えているというか忘れられませんからね。昔のシャフトは制作スケジュールがボロボロで、本放送でヒドかった作画をDVDやBD発売時に修正するのが常だったんですけど、その修正も間に合わなくて頻繁にDVDやBDを延期していました。具体的なタイトルを挙げると『化物語』とか『夏のあらし!』、『ダンス イン ザ ヴァンパイアバンド』です。劇場公開作品だった『傷物語』も、当初は「2012年公開予定」だったのが延びに延びて、結局2016年に第1部と第2部が封切り。翌2017年に第3部が公開されてようやく完結しました。なので、スケジュールの進行が遅れまくっていると「俺たちのシャフトが帰ってきた!」と皮肉を言いたくなる気持ちも湧いてきます。仕方ない。
公開日を決めた以上、さすがに映画本編はもう完成しているものだと思いたい。いえ、シャフトなら「まだ〇割未完成」とか全然ありえますが……この体たらくなので「初日鑑賞は避ける」って人が出てきてもしゃーないと思います。私は最悪『ガンドレス』みたいなのが出てくるかもしれない、と覚悟をキメて初日に観に行くつもりです。
・『うたわれるもの ロストフラグ』、4月23日にサービス終了。約6年半の歴史に幕を引く。
遂にこの日が来たか……という感じ。サービス開始日(2019年11月26日)からやっていて、「キャラが魅力的」「ストーリーが面白い」「デイリーミッションが軽くて3分もあれば終わる」から続けていたけど、ひたすらインフレしていくゲーム部分は本当につまらなかった。エンジョイ勢の私はエンドコンテンツから目を背けてテキトーに流していたけど、課金も辞さず真面目にガチろうとする人ほど失望して去っていく感じでした。
『うたわれるもの』という2002年にエロゲーとして発売されたソフトを皮切りにして始まったシリーズのソシャゲで、「四方が謎の霧によって閉ざされた土地」(バラしてしまうと正史の世界から消滅して異次元に飛ばされた九州地方)を舞台に、様々なうたわれキャラが時空を超えて集結するという……有体に言ってしまえば「FGOライクな話をプリコネっぽいオートバトルでやったゲーム」です。キャラは多彩だけどバトルがあっさりインフレし、「とにかく最新のキャラを編成しておけば何とかなる、昔のキャラは周年限定のユニットだろうと一部を除き使い物にならない」という、よくあるダメなソシャゲになってしまった。あと人気キャラが偏っているので、イケメンか巨乳かロリの衣装違いばかりが実装される。ゲンジマルみたいな渋いキャラはノーマル版のみで衣装違いは存在しない。個人的に好きなロスフラオリジナルキャラは「ナトリイトリ」と「スズリ」で、両方とも全種類のユニットを引けていたおかげでモチベを保てたけど、ガチャは普通にシブいから怒ってやめる人が後を絶たなかった。ガチャの当たり演出がどんどん増える謎のゲームでもあったな……ブルアカは当たり演出が地味すぎるのでこういうところはロスフラを見習ってほしいな、と思ったりするほど凝っていました。
メインストーリーは面白いけど遅々として進まないせいで焦れた人も多い。去年の4月にやっと第一部が完結しましたけど、サービス開始から5年半近く経っていたので感動というより「やっと終わったか」という虚脱感の方が強かった。そう考えるとサービス開始から1年半程度で第一部を終わらせたFGOは優秀だったな(なお第二部開幕から完結までに要した時間は約8年)。「第一部完結」と謳っておきながら第二部がいつまで経っても始まらないので、この時点でもう「そう長くないな」と察していましたが……去年の6周年イベント「見えるは夜明けの兆し」がこう、いかにも「第二部ではこんな話をやる予定でした」ってムードがぷんぷん漂うダイジェスト感溢れるシナリオで……「ああ、このままサ終に向かうんだろうな」と覚悟するしかありませんでした。
サ終後は使い切れなかった有償石の払戻しが始まります。4月23日(木)午後2時から、7月13日(月)午後2時までの12週間。払戻し申請をするためにはアプリから手続きする必要がありますので、アプリを削除しないよう注意する必要がある。私も何年か前に課金したな……と確認してみたら、あったあった。使い切れなかった余りが。240円分です。うーん、この額なら申請する手間を考えると使い切っちゃった方がいいかな。ファンの中には「オフライン版を出してくれ」と要望する人もいますが、『メギド72』の時のバタバタを見ればわかるようにオフライン版を出すのも結構手間が掛かるので、サ終告知時点でオフライン対応に関する言及がない場合は望み薄と思った方が良いかな。下川社長は「できる限り前向きに検討していきたい」と語っていますが……とりあえず、期限までに溜まっているキャラストを読み切らないとな。
いろいろ投げっぱなしになってしまった要素もあるが、そのへんは諦めるしかない。私にとって一番大きな心残りは「悪漢ラクシャイン」の真相が陽の目を見ないまま終わりそう、ってことですね……ラクシャインとは一番最初の『うたわれるもの』に名前だけ出てきたキャラで、「悪漢ラクシャイン!」と罵られているけど本当に悪い事をしたのかどうかは不明な野郎です。ロスフラで初めてビジュアルが公開され、ストーリーにもチラッと出てきましたが、ユニットとしては実装されなかった。何かしら彼について掘り下げるようなイベントが来るのではないか、と期待していたが、結局端役のままで真に「悪漢」だったのかどうか明らかにならず、モヤモヤした気分でサ終の日を迎えることになる。菅宗光(む〜む〜)、せめて設定だけでも教えてくれ……ラクシャインはいったいどんな奴だったんだ?
シリーズ第2作『うたわれるもの 偽りの仮面』(2015年発売)の時に「ゲームをスマホからとりもどす。」と挑発的な広告を打ってから10年以上の月日が流れた。取り戻すどころか自らスマホゲーに与して呆れられ、そのスマホゲーすらも不振でサ終の刻を迎えようとしているのだから時代の変化に遠い目を禁じえない。なお『うたわれるもの』シリーズ自体は今年5月発売予定の最新作『うたわれるもの 白への道標』で完結するとのことです。少なくとも菅宗光(む〜む〜)がシナリオを書くのは『白への道標』が最後になりそう。詳しいことはこちらのインタビュー記事をお読みください。下川社長が「水面下で動いている『うたわれるもの』関連のプロジェクトはありません」と言い切っている。
「遂に完結か〜、でもうたわれって昔やってたアニメしか知らないんだよな」という人向けに軽く解説しますと、2006年にやっていたアニメはPS移植版『うたわれるもの 散りゆく者への子守唄』をベースにしたもので、剥がすことのできない白い仮面を付けた記憶喪失の男「ハクオロ」が主人公を務めていました。シリーズ第2作『偽りの仮面』は1作目の十数年後、ハクオロたちが作った國「トゥスクル」とは別の國「ヤマト」を主な舞台にして、仮面を付けていない記憶喪失の男「ハク」が旅の薬師「クオン」と冒険を繰り広げる。ネタバレですがうたわれの世界は旧人類(オンヴィタイカヤン)が滅んだ後の地球でして、地理的にトゥスクルは山形県のあたり、ヤマトはロシア東部に位置します。名前のせいで混乱するけど『偽りの仮面』以降の舞台はだいたいロシアなんですよね。あと辻褄合わせが面倒なのか作中に具体的な年表が出て来ないので正確な時間経過がわかりにくい。「無印の十数年後」とわかるのも、クオンがハクオロの娘だからです。エロゲー版ではいろんなヒロインに種を撒いていたハクオロさんながら、彼の子供として確認されている存在はクオンともう一人「ヒミカ」のみ。ヒミカはハクオロさんの最初の妻「ミコト」が産んだ娘で、トゥスクル婆さんやエルルゥ・アルルゥ姉妹の遠い祖先に当たります。つまりトゥスクル婆さんやエルルゥ・アルルゥ姉妹にも、かなり薄くなったとはいえハクオロさんの血が流れているわけで……「遠い子孫とはいえ、さすがに直系の娘がハクオロさんの子を産むのはマズい」という理由でエルルゥはメインヒロインなのにハクオロさんの子を産んだかどうかに関してはボカされている。
あ、「直系」の部分について一応補足しますと、うたわれの新人類(デコイ)は子供が必ず母方の形質を受け継ぐので、民族的には男子よりも女子が優先される。たとえばゲンジマルという超強い戦士がいまして、彼はメチャクチャ強い戦士ばかり生まれる「エヴェンクルガ族」に属するんですが、ここで伴侶もエヴェンクルガの女性を選ばないと「エヴェンクルガ族特有の『猛烈な強さ』という形質」は継承されません。しかしゲンジマルは「シャクコポル族」という「見た目は美しいけど肉体的には物凄く弱いせいで愛玩奴隷にされたりと被差別的な扱いを受けている民族」の女性を愛した結果、敵に寝返るような真似までしている。その女性とは添い遂げて、ヒエンとサクヤっていう孫の兄妹がいるんですけど、妻がシャクコポル族だったためエヴェンクルガ族の形質は一切受け継がれず、二人ともひ弱。戦う能力がないせいもあってサクヤは割と悲惨な目に遭っています。ロスフラではそのへんをフォローするシナリオもあった。
シリーズ3作目『二人の白皇』は『偽りの仮面』の続きで、作中の時系列だけ見ればこれがシリーズの完結編と見做して構わないでしょう。ロスフラでは『二人の白皇』の後日談に当たるエピソードもチラホラあったが、本格的に「『二人の白皇』の続き」をやろうとする気配はない。『うたわれるもの斬』や『ドカポンUP! 夢幻のルーレット』、『義賊探偵ノスリ』(これはDL販売限定でパッケージ版が出てないから意外と知らない人が多い)といったスピンオフ作品やソシャゲのロスフラを除いた、「本編」とも言うべきうたわれCSゲームの第4弾が『モノクロームメビウス 刻ノ代贖』で、シリーズ最終作『白への道標』はこの続編に当たります。
モノメビはタイトルに「うたわれるもの」が入ってないせいでファン以外は混乱しますが、れっきとした正統シリーズ作品である。『偽りの仮面』に登場したキャラ「オシュトル」が主人公で、彼の若き日を綴る――平たく言えば過去編です。妹であるネコネの年頃からして数年前、多くてもせいぜい10年前かな? 無印よりは後の話です。ムネチカやミカヅチも登場するが、まだ「ヤマト八柱将」に選ばれる前。ライコウとかヴライは既に八柱将になっています。先代の八柱将も出てくるのでヤマト好きには嬉しいが、言い換えるとトゥスクル好きにとっては見所が少ない。ストーリーが『偽りの仮面』に繋がる前に終わったので『白への道標』はその続きを描き、物語が『偽りの仮面』と連結したところで終わる。ぶっちゃけモノメビが「ヤマト/Zero(前編)」で『白への道標』が「ヤマト/Zero(後編)」って感じです。もう「うたわれるもの」に「古いIP」というイメージが染みついてしまったので、新しいプレーヤー層を引き込むためタイトルを変えて心機一転、起死回生の仕切り直しを図ったのですが……ハッキリ言って売れませんでした。過去最高額の開発費を投じ、宣伝も兼ねて『二人の白皇』のアニメ版も放送する背水の陣を敷いていたのに。これが2022年11月のこと、ロスフラは3周年を迎えていた頃です。このあたりからうたわれ全体が手仕舞いの方向へ舵を切ることになったんでしょうね。モノメビはこれまでのイメージを刷新すべく甘露樹でもみつみ美里でもない第三の原画家を起用しましたが、これも旧来のファンには不評だった。「甘露もみつみもいないモノメビは本編じゃなくてスピンオフ」と主張する過激派もいます。こういった事情も関係して、『白への道標』をシリーズ最終作として受け入れられない古参も結構いる。そういう古参たちの気持ちを慰撫する場の一つがロスフラだっただけに、サ終の喪失感がいっそう深まるわけだ。
さよなら、ロスフラ。オフライン版も出るといいね。でも「ゆゆゆい」みたいにCS移植で全部合わせて8万円とかだったらさすがに購入を躊躇うよ。差し当たってシリーズ最終作という触れ込みの『白への道標』は買うつもりです。
・図書館お仕事コメディ「税金で買った本」ドラマ化&TVアニメ化、ドラマは今夏NHK総合で(コミックナタリー)
私がヤンマガWebを利用するキッカケになった漫画です。今月出た最新刊が18巻なのでストックはだいぶある。「題材的にアニメよりもドラマ向きかな〜」と思っていたけど、まさか両方とは。ヤンキーながら本好きで好奇心旺盛の少年「石平紀一」が、図書館でバイトしながら「図書館にまつわるアレコレ」を追及していく。たまにちょっと長めのエピソードもあるけど、基本的に一話完結方式でサクッと読めるのが嬉しい。概ね「図書館あるある」みたいなノリなので気軽に堪能できます。図書館のシステム面についてとか、今抱えている課題など、社会派めいたエピソードがある一方で「たまに訪れるクソ利用者にどう対応すべきか」というある意味でバトル物みたいな展開があってワクワクする。だいぶ長くやってるからクソ利用者だけでTier表が作れそうなんだよな……キャラクターの豊富さも魅力の一つなので、読めば読むほどハマっていきます。私が好きなのは「早瀬丸小夜香」と「朝野亜沙子」、「小池芹菜」と「卯木小春」あたり。話の性質上、登場が一回こっきりの図書館利用者も多いからそこまで語り出すとキリがない。「図書館」、ひいては「本」に興味のある方にオススメしたい。置き場に困って紙の単行本は途中で買うのやめたけど、そろそろ再開しようか、電子に移行しようか迷う。私も最近は電子書籍がメインになってるけど、「やっぱりこれは紙で読みたいな」って本も沢山あるんですよね……。
終わるゲームあれば始まるゲームあり……って、グリザイア、またソシャゲやんの!? 懲りないというか何というか。
グリザイアは今年で15周年、記念特番でこれまでの歩みを振り返っているので時間がある方は見て貰いたいが、「1時間半もある動画はちょっと……」という方に掻い摘んで説明します。“グリザイア”シリーズはフロントウィング設立10周年企画として2010年に発表され、翌年2011年にシリーズ第1弾となる『グリザイアの果実』がリリースされました。訳アリの少年少女たちが集う特殊な学園を舞台にした、まるでアクション映画のような話です。2014年に放送されたTVアニメの方で記憶に残っている方が多いのかもしれない。第2弾『グリザイアの迷宮』および第3弾『グリザイアの楽園』、この3部作は「風見雄二」という少年を主人公にした物語であり、『楽園』で一旦話を区切りました。
2017年、新たなプロジェクト『グリザイア:ファントムトリガー』がスタート。舞台は前作と同じ「美浜学園」だが、数年の月日が経過しており、学園もいろいろと様変わりしている。こちらは去年(2025年)にアニメが放送されていましたね。ゲームは分割形式の9部作で、2022年に完結。2020年にソシャゲ企画として『グリザイア クロノスリベリオン』が始まっていましたが、あまりにも時代遅れな出来だったため、1年も経たずサービス終了に追い込まれた。未完に終わったストーリーはパッケージ版で畳まれています。クロノスリベリオンは時系列的にファントムトリガーの途中。PTのキャラも出てくる。そして、『楽園』以降消息不明だった初期3部作のキャラたちが実はコールドスリープしていました! という強引な設定で当時の姿のまま再登場する。今回の新作『集結の百果』ではコールドスリープ設定がなかったことになるのか、それとも引き継ぐことになるのか?
PVでは「風見雄二の娘」と名乗るヒロインが次々と登場する。「榊 由真」「周防 優羽姫」「松嶋 いちる」「入巣 星莉菜」「小嶺 幸穂」「風見 一二三」……いや、ヒロイン全員と子供作ったんかい! サラッと実の姉が混ざってるんですけど!? スルーされるJBの気持ちも考えろ! とツッコミを入れたくなりますが、グリザイアの世界は微妙に科学技術が進歩しているから雄二とヒロインズの遺伝子を勝手に掛け合わせた試験管ベイビーの可能性もあります。子供を急速成長させる技術も確立してるんで、見た目の割に全員ひと桁年齢だったりするかもしれない。まぁだとしても風見一二三に関しては超インブリードなわけですが……あらすじによると「自称・風見雄二の娘」たちは20年後の未来からやってきたと主張し、天音たちを「母」と呼ぶ。産んだ覚えのないクソデカい「娘」に戸惑う面々だったが……みたいなストーリーの模様。初期3部作の時点ではまだ存在しなかった「SORD」(雄二は「CIRS」という秘匿組織に所属していたが『楽園』での大騒ぎの末、組織の存在が世界中に露見したため刷新。新たに「SORD」という組織が発足した、という流れ)があるらしく、やっぱりコールドスリープ設定が引き継がれるのか?
DMM GAMESでやってた『グリザイア 戦場のバルカローレ』もあっさりサ終してしまった(確かこちらも1年保たなかった)し、「今度は長続きするといいですね」って感じです。それにしても「ヒース・オスロ」と名乗る人物が登場するようでウンザリしました。ヒースは風見雄二を過酷な世界に突き落とした男であり、初期三部作ではラスボスに当たる存在だった。「海上油田基地爆発事件」で死亡し、もう二度と出て来ない……はずなのに、クロノスリベリオンではシミュレーターによって再現され、『集結の百果』では復活? するみたいで「どんだけ擦り倒すねん」と言いたくなる。姿は風見雄二そっくりらしいので、ヒースの記憶を移植された雄二のクローンか何かですかね。
好きな作家だけにショックだ。SFやスリラーを得意とする作家で、日本だと『ハイペリオン』4部作(『ハイペリオン』→『ハイペリオンの没落』→『エンディミオン』→『エンディミオンの覚醒』)が有名。遙か未来の火星で「神々」がトロイ戦争を再現すべくアキレウスやヘクトルなどの英雄を蘇らせる、というギリシャ神話SF『イリアム』(および続編にして完結編の『オリュンポス』)は「アキレウスが神々の叛旗を翻し、ヘクトルと共闘する」アツい展開を見せるのでオススメ。ぶっちゃけFGOの第二部第五章をやったときはコレを思い出しましたね。
SF以外だと『殺戮のチェス・ゲーム』という「血の代わりに精神を啜るマインド・ヴァンパイア」が人間を操って殺し合わせる大長編ホラーがあり、出たのがもう30年以上前なので今見ると価格の安さにビックリする。この当時は円高(1ドル100円前後)だったとはいえ、560ページくらいある海外翻訳の文庫本が本体価格700円弱で売られていたんだよな……今や300ページ弱のローダン・シリーズ新刊が本体価格1520円ですよ。今この厚さの本を買おうとしたら2000円超えるのは当たり前、下手すると3000円近いというか去年出た同じくらいの厚さの本が本体価格2500円ですよ。ハードカバーの本と間違えたかと思ったわ。「ダン・シモンズって大長編作品が多くて尻込みしてしまう」という人にオススメなのが『鋼』。刑務所帰りの元私立探偵「ジョー・クルツ」が激しいアクションを繰り広げるスリラーで、『雪嵐』という続編も出ています。俗っぽすぎてあまり売れなかったのか両作とも文庫化していませんが、今は電子版が安く売られているので買いやすい。原書だと3作目として "Hard as Nails " というのも出ているが、未翻訳です。正直、マニア人気は高いけど日本で売れるタイプの作家ではなく、翻訳されていない作品も結構あります。そのうち再評価の波が来るかな、と期待していましたが、まさか訃報の方が先に届くとは……R.I.P。
・アニメ映画『超かぐや姫!』1週間限定上映を撤廃。連日即売・満席の大反響を受け、期間延長と劇場拡大が決定。2週目より『ray』MVを同時上映(ファミ通.com)
「着席率96%」というイカれた数字を叩き出し、連日満席にして動員ランキングの5位まで食い込んだ(公開館数30館以下の映画を対象にしたミニシアターランキングでは1位になってる)んだから、これで上映期間が延長されなければ非難囂々だっただろう。『超かぐや姫!』はネットフリックスが全部お金を出して作ったアニメなのでネトフリ側が「うん」と頷かなければ本当に一週間で終わっていたかもしれないが、「繰り返し視聴したくなるような作品」なので劇場で観る人が増えても問題はない、と判断したのかな。ファンからすれば「判断が遅い!」と頬を張り飛ばしたくなるかもしれないし、「最初から全国300館くらいの規模で公開しろよ」と愚痴りたくなるかもしれない(正直私も「さっさと地元の映画館でやってくれよ」とぶーたれている)。世間では「着席率は高ければ高いほどスゴい」という風潮があり、確かにスゴいっちゃスゴいんだけど、だいたい50%を超えると混雑が甚だしくなってチケットの購入を諦める人が出てくる(「地方の映画館=空いているのが常態」ゆえ都市部だと平均化した数字以上の混み具合になる)からプロデューサー的にはともかくプロモーター的には「公開規模を見誤った」ということで、どちらかと言えば不手際の類です。が、そもそもこの作品は「キャリアはあってもネームバリューがない監督のオリジナルアニメ映画」で、上映時間が142分もあるんです。これをハナっから300館公開は無理があるっつーかバクチが過ぎます。
比較的ネームバリューがあると考えられていた「細田守」監督は『竜とそばかすの姫』の121分、興収100億超えを三連続で達成したレジェンド「新海誠」監督でも『すずめの戸締まり』の122分が最長で、130分を超えるアニメ映画なんてジブリや鬼滅クラスでなきゃそうそう大規模公開なんて出来ません。上映時間が長ければ長いほど「1回の上映でシアターを占有する割合」が大きくなるため、劇場が嫌がるんです。あれだけ人気が安定しているコナン映画でも120分以上の作品なんてありません。日本最高の興収を誇る鬼滅の無限列車編も、公開前はそこまで期待されていなかった(事前に興収400億超えを期待する人がいたら「頭おかしい」と思われる)から117分と2時間未満に収めていました。しかし、400億以上という「前代未聞の実績」を叩き出したことで劇場も文句を言えなくなり、無限城編の第一章は155分、2時間半を超える大規模公開映画としては異例のボリュームに膨らんだ。アニメじゃないが『国宝』も174分と3時間近くで、映画館サイドとしてはあまり歓迎しておらず「まぁ文化事業の一環として受け入れましょう」くらいの態度だったけど、途轍もないロングランヒットで200億円以上という実写邦画史上最高の興収を打ち出したため「長尺映画もアリだよね」と掌を返した。とにかく、何らかの実績がないと「142分のオリジナルアニメ映画」を大規模公開するだなんて土台無理なんです。以前も書いたが、ネトフリの作品は『バブル』の大規模公開でコケたという「負の実績」がありますから尚更。
『超かぐや姫!』がネトフリで配信される前に受けた監督のインタビューという貴重な記事があるので是非読んでもらいたいのですが、この中で監督は当初プロデューサーから「90分でエンディング込みにして」と要請されて、コンテの段階では「まあ見てろって」と90分以内に収めるつもりだったが、花火のシーンを描いてるあたりで「ああ、無理ですね」となって142分まで増やしてもらえるように上と掛け合った――と語っています。これが普通の企画なら「ふざけるな」と一蹴されて終わり(私見ながら、細田監督の『果てしなきスカーレット』は上映時間が111分で、「もっと時間を増やしてほしい」と上に掛け合ったけれど断られたんだと推測している)ですが、ネトフリ単独出資だから融通が利いたのか、交渉は成功しました。「長いと怒られることもありました(笑)」とコメントしているから、快諾されたって雰囲気でもないですが。そりゃ90分が142分になったら、単純に考えても制作費は1.5倍以上になるだろうしな……劇場公開路線を捨てたからこそあの長さが実現でき、「あの長さ」ゆえに『超かぐや姫!』を好きになった視聴者たちが捨てられたはずの劇場公開路線を復活させるという奇跡が起こった。
美談ではあるが、右往左往するハメになった配給や劇場の関係者からすれば「こんなん事前に予測できるか!」というのが本音でしょう。ネットフリックスは「劇場公開って面倒臭いな……」と思っている節があり、広報にもあまり力を入れていない。Netflix JapanのXアカウントの投稿でも『超かぐや姫!』劇場公開に関してまったく触れておらず公式告知のリポストすらしていない、「ネトフリはマーケティングの一環としてあえて小規模公開を選んだ」と分析している人もいますが、それならもっと宣伝しているはずだし単に興味がないんだろう。今回特に頑張っているのは配給の「ツインエンジン」だと思います。前回書いた通り、ツインエンジンの代表はかつてフジテレビのアニメプロデューサーだった「山本幸治」。『超かぐや姫!』の企画自体、山下監督が「こういうアニメやりたいんですよね〜」みたいな希望を山本社長に話して「オリジナルをやってみますか」とオファーされたことから出発しています。「開発中に『ONE PIECE FILM RED』が公開されたり、『NEEDY GIRL OVERDOSE』が話題になったりして、これらの作品に影響を受けた部分もありました」とインタビューで言及されているから、最低でも2021年にはもう企画に取り掛かっていたようですね。
期限を撤廃しているので、上映がいつまで続くかは観客の入り具合&劇場側の事情によります。ただ、用意が間に合わないのか入場者特典は復活しません。追加された劇場は8つ、ほとんど「Tジョイ」とか「イオシネマ」の系列。映画館は、たとえば東宝だと「TOHOシネマズ」、松竹だと「MOVIX」や「ピカデリー」があって、Tジョイは東映の陣営に属します(Tは東映のT)。系列劇場とて別に他の会社の映画を上映しないわけではないが、当然ながら自社および親会社が配給する作品を優先するので、TOHOシネマズやMOVIXなどは既にスケジュールがギチギチに詰まっている。だから急に話題作が生えてきても対応しづらい。一方、イオンシネマを運営する「イオンエンターテイメント」は頭を押さえる映画会社が存在しないから身軽に動けるという利点がある。歴史的な経緯を辿っていくとワーナーがある(旧名が「ワーナー・マイカル」)のですが、ワーナーはもう劇場配給から撤退するし無視していいでしょう。Tジョイも東映の子会社ながら自身も小規模の配給業務を行うことがあり、他の系列劇場に比べれば独立性が高い。去年「わたなれ」のネクストシャインを配給したのもTジョイです。だからこういう、「ネットで話題になっている小規模公開映画」は小回りの利くTジョイとかイオンシネマの系列で公開されることが多いわけだ。2月27日にはドラえもんの新作、3月6日にはウィキッドの続編、そして4月10日にはコナンの新作が来るので、入れられるとしたら3月の中旬か下旬くらいしかもうタイミングがないんですよね。とりわけ4月になると各劇場はコナン・シフトを敷くことで手一杯になりますゆえ。地方民としてはただただ歯噛みしながら地元での公開を祈るしかない。たった2館でのスタートだった『カメラを止めるな!』や『侍タイムスリッパー』も拡大公開の際に地元でやってくれたんだ、きっとかぐやも来てくれるはず。
なお、2018年公開の『カメラを止めるな!』は最終的に31.2億円、2024年公開の『侍タイムスリッパー』は最終的な興収こそ不明だが10億円を突破していることは公式が喧伝しているので確実。アニメで「公開規模は小さかったけど興行収入がスゴかった映画」として特記されているのは『ヒプノシスマイク -Division Rap Battle-』、通称「ヒプマイの映画」です。2025年2月21日に全国85館で公開され、4月に10億円、10月に25億円を突破し、「100館以下の公開館数で25億円を突破した日本初の作品」となった(カメ止めは拡大公開で全国200館以上になったのでこの定義に該当しない)。観客がスマホで投票し、多数決で勝利チームが選ばれてエンディングも変わるという「ただ観るだけではなく参加する双方向(インタラクティブ)映画」で、周回が前提のかなり特殊な作品であったが、快挙であることに変わりはない。興行収入を語るうえで「公開規模」というファクターは外せず、どんなにネットで話題になっていたり熱狂的なファンが付いていても公開規模が小さければ数字は伸びません。私が「地元でやってないから」という理由で隣県まで遠征した(しかも2回も)アニメ映画『劇場版 少女☆歌劇 レヴュースタァライト』も興行収入は3億円超。しかもこれ、2021年6月4日に公開して、何度かリバイバル上映を挟んだ2022年12月9日にやっと到達した数字です。公開当時はコロナ禍の真っ最中で、上映館数を増やすのも難しい時期でしたからね……正確な上映館数は忘れてしまったが、100館行ってなかったと思う。同日公開の『映画大好きポンポさん』も59館という小規模公開(後に100館以上へ拡大)で、ネット上で話題になった割に興行収入は1.7億円程度でした。細田守の名前が売れるキッカケになった『時をかける少女』(2006年)も僅か6館の公開から100館以上に拡大したシンデレラ映画ながら、最終的な興収は2.6億円で3億にも届かなかった。10億を超えたのは次回作『サマーウォーズ』です。
脳を焼かれたファンが劇中のセリフを真似て「こんな素敵な映画ないよ!」と叫んで布教した『トラペジウム』は上映館数200以上となかなかの規模だったが、週末映画動員ランキング初登場10位で、ヒットの規模が小さいため正確な数字もわからず興行収入は1億前後と予想されています。正直コケているんですよね……根強い人気があるせいでたまにリバイバルされてますが。アニメ映画は大きくわけて「1.オリジナル」「2.小説や漫画、ゲームなどの原作付きで非TVシリーズ」「3.TVシリーズからの劇場化」の3種類あり、トラペは2.に該当します。原作の知名度によりけりですが、興味持った人を映画館まで導くのが難しく、なかなかデカいアタリは出ない。ヒット作が多いのはTVシリーズを先に放送しておくことで劇場への動線を築く3.です。コナンや鬼滅など、100億以上を狙える層はほとんどここに属する。1.は、ジブリとかディズニーとかピクサーとかの超有名スタジオ、あるいは細田守や新海誠など「準ジブリ級」と言われるぐらい有名監督が手掛けた作品でもなきゃそうそう当たることはない。『AKIRA』で有名な大友克洋の『スチームボーイ』は10億超えてるが、制作が遅延しまくった影響もあって費用が嵩んであり、20億円以上の製作費が掛かっているため普通に赤字でした。海外のマニアが高く評価する今敏監督作品も興収はそこまで多くなく、2006年公開の『パプリカ』が8週かけてやっと1億円突破、海外の興収を合わせても3億前後に留まる。
超有名スタジオが制作したわけでも「準ジブリ級」の知名度を有する監督が手掛けたわけでも膨大な信者を抱える宗教法人が作ったわけでもないオリジナルアニメ映画で、日本国内の興行のみで10億円突破した作品は先述した『スチームボーイ』以外だと今のところ『心が叫びたがってるんだ。』(最終11億)と『プロメア』(最終15億)だけです。「ここさけ」は『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』を手掛けた「超平和バスターズ」(長井龍雪・岡田麿里・田中将賀のトリオ)のオリジナル作品で、「あの花」の劇場版が10億円突破していたこともあり、事前の期待が高かった。そのため上映館数も多く大台に乗ることができたが、超平和バスターズの人気はここがピークで次回作『空の青さを知る人よ』は最終6億ちょっととほぼ半減しました。『プロメア』はグレンラガンやキルラキルを制作した「TRIGGER」のオリジナルアニメ映画で、元「ガイナックス」の今石洋之が監督をしている。マニアたちの注目度は高かったが一般層における知名度は低く、興行的に苦戦するかと思 われたが口コミで伸び続けていった。ちなみにトリガー制作のアニメ映画は、オリジナルではないけど『グリッドマン ユニバース』が7億くらい行ってます。
こうして見ると、『君の名は。』で大規模公開デビューしていきなり250億円という記録を叩き出した新海誠監督がいかに異常だったかわかってもらえると思います。2016年に『君の名は。』が公開されて以降、二匹目のドジョウを狙って「『君の名は。』っぽいプロモーションを実施したアニメ映画」が雨後の筍の如く矢継ぎ早に公開されたが、比較的ヒットしたと言えるのは岩井俊二の同題実写作品をアニメ化した『打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?』(最終15.9億)くらいで、他は軒並みパッとしなかった。ベストセラー小説を原作にした『君の膵臓を食べたい』のアニメ版も5億円程度、35億超えた実写版に比べたら正直見劣りする。というか『君の名は。』以降、『きみの声を届けたい』とか『きみと、波にのれたら』とかやたらタイトルに「君」ないし「きみ」というワードを入れた映画が散見されるようになったんですよね。中でも「ヤバい」と語り草なのは2020年公開の『君は彼方』。
この映画、「瀬名快伸」というクリエイターが中心になって制作されており、監督・原作・脚本・製作すべてが瀬名快伸――最近で言うと『銀河特急ミルキー☆サブウェイ』みたいな作品なんです。瀬名は『君は彼方』を制作・公開するために「2億円弱くらい借りました」とインタビューで語っており、崖っぷちの環境にありながらその自信満々な振る舞いに「最低でも興行収入5億は行かないと完済できないじゃん……」って戸惑いと畏怖の念を抱いたのも束の間、いざ蓋を開けると着席率は5%前後、全国89館というそこそこの公開規模ながら動員ランキングはTOP10圏外。鬼滅の無限列車編が公開された翌月で、業界の話題が鬼滅一色だったこともあって「時期が悪かった」というのもあるが、それを加味してもこれは……そもそも「2億円弱」って、全部が純粋な制作費として使えたわけじゃないだろうから、劇場用アニメ映画としてはかなりギリギリの予算である。今敏の『パーフェクトブルー』は「制作費が9000万円だった」という「伝説」が残っているものの、『君の名は。』以降のアニメ映画の「製作費」に関しては5〜10億円が相場だと言われています。動員がミニマムなため細かく推計するのも困難であり、興行収入は恐らく1000〜2000万円の間と思われる。仮に2000万円だったとしても劇場の取り分が半分で、残った1000万円のうち配給が10〜20%持って行くので多く見積もったとしても入金額は900万円……2億円弱の借金がほぼそのまま残るという恐ろしい事態になった。その後監督は消息不明に陥っており、今どこで何をしているのか、杳として知れません。いえ、原作を手掛けた漫画が去年公開されたりしてるんで、別に亡くなったとかじゃなくただ単に目立つところへ出て来なくなったってだけなんですけども。たぶん借金返済で忙しいんじゃないでしょうか。
なんか筆が滑って最後はホラーになっちゃったが、そんなわけでネームバリューのない監督が手掛けたオリジナルアニメ映画、それもミニシアターランキングに載るような規模で公開された作品としては異例のヒット作となっているわけです、『超かぐや姫!』。そもそも「ミニシアターランキングに載るような規模」だと数字出ないことがほとんど。全国400館弱の規模で公開した『果てしなきスカーレット』が公開4日間で2.7億だったのに対し2.9億だから、上映規模が全然違うのに果てスカを凌駕したことになる。いえ、『超かぐや姫!』は特別興行扱いで劇場側の値引きがペア割以外適用されず、ほとんどの観客が2200円で鑑賞したという事情があるから客単価も上がっていて、純粋な動員数で言えば果てスカの方が上なんですよ。果てスカの公開4日間の動員数が約17万人であるのに対し、超かぐは約15万人。公開規模に20倍以上の差があることに目を瞑れば「接戦を繰り広げている」といっていい。果てスカは2025年11月21日公開、超かぐは2026年2月20日公開と3ヶ月程度しか空いておらず時期的には近い作品同士だから、映画関係者、特にプロモーターはこの2つの興行を真剣かつ徹底的に比較・分析することになるでしょう。
ちなみに27日以降の公開分では現在Youtubeで公開されている「ray」のPVが本編終了後に上映されるとのこと。あのPVは実質的なエピローグに相当するんで、本編視聴後に観ることをオススメします。公開から時間が経って過密状態も少しずつ解消されつつあるようですし。現在の興収累計は5億円超といったところ。普通なら上映規模が全国100館くらいの作品でも「健闘している」と言われる数字だ。今年公開される映画はいろんな意味で『超かぐや姫!』と比較されることになるだろうから、広報担当は大変だな……いや、むしろチャンスなのか? 逆境にこそ好機は廻る、の精神でGOだ。
・映画『魔法使いの夜』2026年に公開決定。ufotableプロモーションリールにて明らかに。4月に『テイルズ オブ』シリーズ30周年関連の情報公開(ファミ通.com)
うおお! まほよの映画、今年公開! いきなりビッグニュースが舞い込んできて興奮を隠せない。『魔法使いの夜』は奈須きのこが『空の境界』の前に書いた小説が大元で、TYPE-MOONの社内には製本化した状態で置かれているから「関係者にしか読めない幻の作品」とかつて言われていました。しかし、ゲーム化が決まって2012年にPC版として発売……えっ、もう14年前なの? 時が経つの早過ぎない? 山の上の洋館には、魔女が棲んでいる――そんな噂が囁かれている「久遠寺邸」を舞台に、3人の男女が共同生活を送るストーリーです。Fakeの1話でモヒカンのにーちゃんがチラッと言っていた「キッツィーランド」も出てくる。テキストはほぼ全面的に書き直しただけあって、らっきょの頃にあった硬さもなく、かなり読みやすい。月姫やFateに比べると規模はやや小さく、サクッと終わるが当時のノベルゲーの限界に挑んだような演出の数々には圧倒されました。あの演出を手掛けていたスクリプターが「つくりものじ」、現在は消息不明のスタッフです。退社したという話は聞かないが、在籍しているならTYPE-MOON作品のスタッフロールで確認できるはずなのに、まほよ以降は名前を見つけられない……「改名した」という説もありますが、まほよのフルボイス移植版が出るまで10年かかったのはつくりものじがオリジナルツールで打ったスクリプトを変換するのに手間が掛かったため、とも考えられており、結局「消息不明」としか言いようがありません。
さておき、まほよは三部作の第一部で、まだ公開されていない第二部と第三部がある――ということはかなり前から公表されていました。「つくりものじがいなくなったから第二部と第三部を出せなくなったのでは?」という噂も囁かれたけど、単に奈須の仕事が忙しくて手が回らず、制作する余裕がないだけらしい。何せまほよが出た3年後にはもうFGOがサービス開始してますからね。昔の日記読み返したけど、2014年7月に「テレビでUnlimited Blade Worksやって劇場でHeaven's Feelやるよ! 『Fate/strange Fake』を公式化してコミカライズもやるよ! 過去最大規模のボリュームを誇るスマホゲー始めるよ!」ととんでもない量のニュースが襲い掛かってきて処理落ちしてるの我が事ながら笑った。そりゃufo版UBWやHFの監修しながらFakeの打ち合わせもやってFGOの作業を進めつつ月姫リメイクの仕事してたらまほよやDDD書く暇なんてないわ。まほよの翌年の2013年は『未来福音』の劇場版公開で、特典の『終末録音』書いてたりしてたしな……いやなんであの忙しさの中で『終末録音』書いてたんだよ。
今やすっかり「『鬼滅の刃』のスタジオ」というイメージが定着したufotableだが、スタジオとして躍進するうえで重要だった作品の一つが『空の境界』であり、ufoにとってTYPE-MOON、特に奈須きのこはVIPとして厚遇されています。ufoの社内には奈須が来訪したときに備えて専用の椅子を用意している、という話があるほどだ。まほよはFateほどの大長編ではないとはいえ「長編」と言っていい長さゆえ、さすがに映画1本分ではストーリーがまとめられないだろう。恐らく二部作になると予想しています。
まほよと言えば、FGOでもコラボイベントやってましたね。映画に合わせて復刻イベントやったりするのかな? シナリオ書いたのが奈須本人だけにかなり踏み込んだ内容というか、長年型月ファンやってる古参でも知らないような情報がザクザク出てくるヤバいイベントでした。コラボ第2弾もいずれやってくれそう。ワクワクが止まらない。
プロモーションリールの方では他のプロジェクトにも言及していて、タイトルを表示して「忘れてないよ」とアピールするだけの『活撃刀剣乱舞』には「もうちょっと情報よこせよ」とファンたちからの不満が募った(『活撃刀剣乱舞』で剣戟描写を磨いたことが『鬼滅の刃』にも活きているので、ufoにとっても大切なタイトルのはずではある)が、まったく触れられなかった某タイトルに比べればずっとマシである。そう、みなさんご存知『ガールズワーク』です。
2008年4月、“TYPE-MOONエース”や今はなき“TECH GIAN”でTYPE-MOONの三大新作の一つとして発表されたタイトルです。ちなみに残りの二つはまほよ(PC版)と月姫リメイク。当初は「星空めてお」がシナリオを手掛けるPC向けゲームとして告知された。「白昼夢」によって複層的なレイヤーが展開する“新宿”を舞台にした物語という、わかるようなわからないような内容で続報を心待ちにしていたが、めておの筆が遅いせいかなかなか続報は来ず。2年以上経った2010年末、急に「『ガールズワーク』はゲームで出そうと、つい去年まで思っていました。ですが……やめました」「やめたのか」「ええ、やめました!」とアニメ化を発表する。ゲーム企画として告知されたタイトルがアニメ企画に変貌するのはなかなか前代未聞でめておファンは困惑しました。時期的にちょうどらっきょの劇場公開が終わって、翌年に『Fate/Zero』の放送を控えていた頃。TYPE-MOONとの関係を深めたいufoが提案したのではないかと推測されます。もうこの時点で「企画の迷走」を感じて「ポシャりそう」と思っためておファンも少なくないのですが、案の定、15年以上経過した今も続報はありません。
星空めておはセンスこそあるもののペース配分が苦手なライターで、プロローグや第一章のあたりは物凄く丁寧なシナリオをお出しするのに、クライマックスからエピローグにかけては慌ただしく駆け足で雑なまとめ方になってしまう、というのが通例です。FGOだと「禁忌降臨庭園セイレム」を手掛けたのがたぶんめておだろう。ノアの設定を作ったのもめておなので、去年やった「ノア・ゾーハル」の冠位戴冠戦に絡んだイベント「失われた創世 (ヴァニッシュド・ビギニング) 未来からの方舟」も十中八九めておシナリオだと思います。例によって終盤が駆け足でしたし。Fate関連の小説作品として『Fate/Requiem』というのを担当していますが、2巻が出たのは2020年で既に5年半の月日が経過しています。なので今更ガルワの続報が来なくてもイチイチ動じないし、「プロジェクトは凍結です」と言われても「だろうな」の一言で済ませられる。むしろ、「なんでガルワのHPをまだ消してないんだ?」と不思議がっているレベルです。プロモーションリールには「and more」の表記があるので、ガルワもここに含まれるんだよ! と主張するファンもいますが、生暖かい目で見守ってあげてください。
・杉井光の『羊殺しの巫女たち』読んだ。
去年書き下ろしで発刊されたホラー小説。「我が王スティーヴンに」という献辞が綴られており、スティーヴン・キングにリスペクトを捧げた作品ということで、大まかな内容は察していただけると思う。ああ、ドラマの『トリック』とか横溝正史系ではなく『呪われた町』とか、ああいうタイプの作品なんだな、と……。
早蕨部村――山の奥深い土地に位置する集落は、「鶲沼」「漆原」「千木良」の御三家に牛耳られ、もう平成の世だというのにまるで江戸時代のような家父長制が罷り通る閉鎖的な社会が温存されていた。しかし、村の本当の支配者は御三家のいずれでもない。御三家でも楯突くことのできない、真の支配者(ロード)。それは「ひつじ」と呼ばれている。12年に一度、未年に人里へ降りてきて、富と豊穣をもたらす山の神々。人々はその恩恵を被るべく、未年に生まれた満年齢12歳の少女たちを巫女にして、舞と祝詞を奉納する。「未年に生まれた女は苦労する」 そんな噂も囁かれ、出生率が下がらないように鶲沼は「子供を産んだ家に金を配る」真似までする始末だった。未年に生まれた女は、ひつじ様に奉仕する巫女となる。では、未年に生まれた男は――? 1991年、巫女に選ばれた少女たち6人は12年後にもう一度この村に集まろう、と約束する。ひつじたちと、彼女たちとの戦いを終わらせるために……。
「ひつじ」という得体の知れない存在を巡って展開するサスペンス・ホラーです。この「ひつじ」とは何なのか? ホラー映画に出てくるような化物なのか? それともいわゆる「山の民」的な存在が神格化されたモノなのか? 開始時点ではどちらとも判断し切れず、不安を抱えながら読み進めることになると思います。しかし、本書は「ホラーの帝王」スティーヴン・キングに臣下の礼を執っているわけで、民俗学でどうのこうの、みたいな話はそこまで深く掘り下げられない。ハッキリ書きましょう。本書における「ひつじ」は超常的な存在として描かれています。12年前、かつて巫女であった子たちはひつじを肉眼で目撃しているが、一様に「どんな姿だったか思い出せない」と語る。全能とか万能ではないが、少なくとも精神に作用して認識をジャミングするぐらい常識外れな代物ってわけだ。でも無敵ではないし、刃物で斬りつければ血を流す。「血が出るなら殺せるはずだ」と巫女たちは勇を鼓して立ち向かっていきます。
物語は「2003年」と「1991年」、ふたつの未年を行ったり来たりする構成になっている。下手な作家がこういう複雑なストーリー構成にすると読んでいて混乱してしまうが、本書の作者は「杉井光」、活動歴の長い作家だけあって文章に弛みはないし、混乱を来さぬよう筋立てはしっかりと整理されている。とはいえ400ページ近いボリュームなので、さすがにちょっとダレる部分はなくもないです。巫女が6人というの、正直ちょっと多いもんな……2003年の方で登場する「新しい巫女たち」は3人だけで、サブキャラみたいな扱いだからどうにかなっていますが、たまに「あれ? 誰と誰と誰だったっけ?」となるんで目次の後くらいにキャラクター表を載せておいて欲しかったです。
「二度読み必至」とか「あなたは、真実に気づくことができるのか」とか仰々しい惹句が帯に踊っており、読み始める前から「何か仕掛けのあるタイプだな」とわかるパッケージになっていて、実際に「違和感のある描写」から途中で仕掛けに気づいてしまう人も多いだろう。むしろ、気付かずにラストまで行ければ勝ち、ってくらい露骨にコーナーを攻めている。途中でわかった人よりも、最後までわからなかった人の方が自慢できます。それこそ「二度読みを楽しむ特権」が得られるわけですから……私は10代の頃から浴びるほど叙述トリックの本を読んできたのでわかりました。わかったらわかったで、「うお、なかなか際どい書き方してるな〜」という別の楽しみ方もできます。
税込みで2000円近くするからさすがに躊躇う方も少なくないでしょうが、KADOKAWAは定期的に電子版のセールを行うので、「紙じゃなくて電子書籍でもいい」というのであれば何ヶ月か待てば半額ぐらいで買うこともできます。甚だしいときは7割引だったり、「値段を半額にして、更に半額分のポイントをバック(実質25%)」なんてこともある。私も本の置き場に困るから最近はAmazonのほしいものリストに放り込んでおいて、セールが始まったらまとめて買う……みたいな感じになっています。あまりにもセールに慣れ過ぎて、「定価で買うのは業腹だな」という気持ちまで抱き始めているのが困りものである。というか、定価で買った翌日に半額セールとか始めるストアも悪いだろ! さておき『羊殺しの巫女たち』、「怖い」要素もあるけど「切ない」要素も強いので、「心に残る物語」を求めているならオススメである。ただ、異能バトルみたいな展開を期待すると肩透かしかな……ポン刀振り回したりとかサイキック・パワーで火花や雷光を散らしたりとか、そういう映像向きのアクションシーンはないので。少女たちが鳥籠を壊し、「終わらせてあげる」とばかりにひつじたちへ引導を渡す。その決意の輝きに目を焼かれる物語です。
・拍手レス。
超かぐや姫は劇場で観てきましたが、満足度の高い作品でした。ライブシーンがある作品は劇場がよいですねー
羨ましい……これだけヒットしてるんだからもっと拡大公開して地元の映画館でやってほしいです。
ワン・バトル・アフター・アナザーは公開時に観に行きましたが、鬼滅&国宝という邦画バブルの結果、大作なのに公開期間も劇場数も減っており、実際客もスカスカで洋画好きからしたら、こんなに宣伝期間長かったのに辛ぇわ...とショックでした。ディカプリオは今作で賞を大量にとって更に一皮剥けた感じ。レヴェナントの超人親父と比べると、最初から最後までなんかダメな感じだけど、一生懸命あがいてるオッサンって感じでリアリティがありましたね。爆弾技術以外は、格闘も潜入も狙撃も全てダメなヤク中アクション主人公は珍しい。
劇場で観ようかどうか迷っているうちに公開が終わってビックリしました。うちの地元だと2、3週間しかやってなかった気がする。正直、ディカプリオはブラッド・ピットとかマット・デイモンに比べてオーラの足りない俳優だと感じていて、唯一好きな出演作が『ザ・ビーチ』という状態だったんですけど『ワン・バトル・アフター・アナザー』でだいぶ見直しました。屋根の上を移動するシーンで落ちちゃうのはさすがに笑いましたね。
2026-02-20.・ガガガ文庫の刊行予定に4月分が出ていたのでチェック、「『1/nのワトソン』の2巻出るのか、買わなきゃ。女師匠の7巻が出るのも嬉しい、コミカライズも順調だしそろそろアニメ化報告来たりして。で、『勃紀』ってなんだよ、ふざけたタイトルだな!」と笑った直後に『されど罪人は竜と踊る0.6』が目に入って笑いが引っ込んだ焼津です、こんばんは。
マジか、され竜の新刊出るんだ……され竜こと『されど罪人は竜と踊る』は2003年に「角川スニーカー文庫」で刊行開始したライトノベルのシリーズです。「第7回スニーカー大賞」の「奨励賞」受賞作。ちなみにこの次の第8回スニーカー大賞「大賞」受賞作品こそが何を隠そう『涼宮ハルヒの憂鬱』です。され竜の4ヶ月後くらいにハルヒが出てるから、応募した回は異なれど「ハルヒとほぼ同期のシリーズ」と言ってもさほど間違いではないだろう。作者の執筆ペースが早く、コミカライズ(『応天の門』の「灰原薬」が描いていた)も決まったりしてシリーズの進展は順調だった。しかし作者がスニーカーの編集部と揉めたことでシリーズは中断、小学館のガガガ文庫に移籍して2008年から再スタートします。途中、イラストレーターの変更を挟んだり、アニメ化(2018年)したりしながら26冊目に当たる24巻(冊数とナンバリングがズレているのは前日譚に当たる0.5巻と公式アンソロジーのオルケストラがあるため)を出して「第二部・完」な雰囲気で終わりました。ちなみに第一部の最終巻は12巻、13巻は第一部と第二部の繋ぎ――言わば「1.5部」で、14巻から第二部スタートです。
24巻発売が2023年2月だからもう丸3年、あとがきやSNSの投稿から察するに持病の問題があって執筆が難しいらしく、これが実質的な最終巻になるかも……と悲観しかけていたところにこのニュースが舞い込んでビックリしたってわけです。タイトルが「0.6」ということは1巻よりも前、つまり前日譚(プリクエル)って意味でしょう。確かアニメの円盤特典で本編前の出来事を綴った外伝書いてたから、あれをまとめるのかな? と思って調べたが、アニメの特典は「0.91」「0.92」「0.93」だったからたぶん違う。ということは、ま、まさかファンがずっと待望していた「0.5」の続きという意味での「0.6」なのか……!?
『されど罪人は竜と踊る0.5』、スニーカー文庫時代のタイトルは『されど罪人は竜と踊る Assault』で、平たく書けば「ガユスとギギナの過去編」です。スニーカー版も450ページ程度とそこそこ厚かったが、ガガガ版は660ページとメチャ厚くなっている。され竜の主人公コンビ、ギギナとガユスはそれぞれの名字を採って「アシュレイ・ブフ&ソレル咒式士事務所」を立ち上げたのですが、独立前は「ジオルグ・ダラハイド咒式士事務所」というところに所属していました。そのジオルグ事務所時代を綴ったのが0.5です。当時ガユスは「クエロ」という同僚の女性と付き合っていて、所長であり師匠でもあるジオルグを表面上は煙たがりつつ尊敬していたものの、クエロの裏切りによってジオルグが死亡し、事務所は崩壊。ガユスの青春は苦味とともに終焉します。「クエロの裏切り」に関しては本編で仄めかしており、いよいよその詳細が明らかになるのか……と思いきや、彼女が裏切る前のところで話に幕が引かれており、従って「ジオルグ事務所崩壊」に至るまでの経緯は詳述されず、「クエロにも何か事情がある」ことだけを匂わせて終わっている。そのためファンの間でも「早く続きを読みたい」と熱望する声が挙がる不完全燃焼気味なエピソードでした。Assault から数えると20年(!)、0.5から数えても14年近く、待たされ過ぎてさすがに細部が曖昧だ。また読み直すしかないか……。
・『新劇場版 銀魂 -吉原大炎上-』、オープニング(金土日3日間)の興行収入が4億円と聞いて「まずまずの数字だけど、初週のランキングで1位獲れなかったのか……」と少し残念がっている。1位との差は200万円程度なので、僅差っちゃ僅差ですけど。
『銀魂』も完結してから日が経っているので一応解説しておきましょう。『銀魂(ぎんたま)』とは2003年から2019年にかけて、16年近くジャンプで連載された少年マンガです(奇しくも↑で触れた『されど罪人は竜と踊る』と同じ年のスタート)。当初は“週刊少年ジャンプ”で連載されていたのですが、作者である「空知英秋」がなかなか話を畳めないため“週刊少年ジャンプ”から追い出され(『銀魂』が終わった後すぐに別のマンガ家の新連載を始める手筈でスケジュール組んでいたから誌面に空きがなくなった)、季刊の“少年ジャンプGIGA”に移籍。それでも終われなくて「銀魂公式アプリ」でネット連載を続けてやっと完結に至りました。単行本は全77巻、『BLEACH』(全74巻)や『NARUTO』(全72巻)よりも長い。比較的短いギャグエピソードと複数の巻に跨るシリアスエピソードを使い分け、ネタ切れを起こさないようにしながら何とか最後まで走り切った作品です。
『銀魂』は「天人(あまんと)」と呼ばれる異星人によって支配された架空の江戸時代が舞台になっており、天人たちの支配を振り払うべく武士たちの起こした「攘夷戦争」、その生き残りが主人公「坂田銀時」という設定です。攘夷が失敗に終わった後、江戸は天人のもたらした技術によって異様なほどテクノロジーが進歩しており、時代劇のようでいて現代劇のようでもあり、たまにSFチックなところもある。何せ77巻も続いた(終わらせられなかった)マンガだけに当時の人気は高く、TVアニメは2006年開始の第1期『銀魂』から2017年開始の第4期『銀魂.』まで実に360話以上も放送された。しかし、先述した通り原作のストーリーを予定した期間内に畳めず、遅延の煽りを喰らってアニメの制作スケジュールも崩壊。最終章「銀ノ魂篇」の途中で放送が終了する事態となり、アニメ本編で「銀魂終わる終わる詐欺裁判」が開廷する始末だった。描き切れなかった不足エピソードに関しては劇場版で補填されることになりますが、そのへんは後述。
人気作品だけに映画版も複数作られています。2017年と2018年に上映された実写版の『銀魂』および『銀魂2』は私観てないからスルーするとして、アニメ版の劇場作品に関して振り返っていきます。劇場アニメの『銀魂』は4つあって、一番最初の作品が2010年の『劇場版 銀魂 新訳紅桜篇』。原作エピソードの一つ「紅桜篇」(紅桜と呼ばれる妖刀を巡る長編ストーリー)を劇場向けに作り直した、簡単に言うと新規カット有りの総集編です。手を入れている部分が多いため、「総集編」ではなく「新訳」と銘打っているわけだ。原作で言うと11〜12巻あたり、アニメの58〜61話を再構成しています。半ば総集編に近い1本のため公開規模は100館未満と小さかったが、全国のファンが劇場に詰め寄せたため拡大公開し、最終的な興行収入は10.7億円。最近は興収がインフレしているせいで「えっ、『全国のファンが劇場に詰め寄せた』のに10億円ちょっと?」と驚くかもしれませんが、「完全な新作ではない」ことを考慮すると充分な数字でした。
2013年に公開された、唯一の劇場完全オリジナル作品が『劇場版 銀魂 完結篇 万事屋よ永遠なれ』。これとは別に『銀魂 THE FINAL』(後述)があり、ファンじゃない人は混同しがちですけど銀魂の「完結篇」と「THE FINAL」はまっっったく別の作品です。注意しましょう。原作にないエピソードを描いたオリジナル作品ではあるが、空知英秋がこの映画のために305ページものネームを描き下ろしたことを考えると一応「空知作品」としてカウントしても構わないと思う。タイムマシンによって5年後の世界に飛ばされた銀時、なんと江戸の町は『北斗の拳』もかくやというほど荒廃しており、しかも「坂田銀時は既に故人」と告げられ己の墓を目撃するハメに。いったい何があって町はこんなメチャクチャになったのか? そして自分(銀時)が死んだ経緯とは? 5年経ってすっかり大人びた「新八」や「神楽」とともに真相を探るが……という、「有り得たかもしれない世界」を描くパラレル・ストーリーです。原作と繋がらない「if」を描いた作品ながらファン人気は高く、観客動員数も100万人を突破。最終的な興行収入は17億円にまで達した。私も観に行きましたが、とにかくギャグが面白くて館内の観客が過去イチ笑ってましたね。長編エピソードはどうしてもシリアスになってしまいがちですが、劇場アニメとしてはギャグとシリアスの配分がちょうど良かった。「原作は読んだけどアニメは観てない」という人も、この完結篇だけは視聴してほしいです。
2021年に公開されたのが「真の完結篇」とも言われる『銀魂 THE FINAL』。制作体制が崩壊したためTVシリーズでは放送できなかった最終章「銀ノ魂篇」のクライマックスを映像化しています。「TVシリーズでは放送できなかった」部分が多過ぎて映画の尺(104分)には収まらなかったこもとあり、『THE FINAL』に至るまでの過程をアニメ化した『銀魂 THE SEMI-FINAL』も配信されました。『THE SEMI-FINAL』は全2話で合計48分、『THE FINAL』と合わせると152分もある。それでもなお尺が足りなくてカットした箇所もあるという……「これまでのあらすじ」を8分近くかけてドラゴンボールパロディとともに流すなど好き勝手やってるが、さすがに物語も大詰めなのでギャグ要素は少なめ。ひたすら派手なアクションシーンが最後まで続く。「本当に本当の完結編」ということでファンからの期待も高く、公開3日間で4.4億円を叩き出し、当時「12週連続TOP」で動員ランキングを独走していた『劇場版 鬼滅の刃 無限列車編』のV13を阻んでランキング1位となった。鬼滅人気にあやかって「鬼魂(きんたま)の刃」というふざけた特典を配っていたこともあり、原作者直々に週末動員1位に対するお礼とお詫びのコメントを寄せて一層話題となりました。興行収入も完結篇以上に伸びたが、最終19億円と惜しくも20億の大台には届かず。意外かもしれませんが、実写版の『銀魂』は38.4億円に達しており、興収だけ見るとアニメ版>実写版なんですよ。実写版は2も37億稼いでいるので、両方合わせると75億円……アニメ版の映画4本全部を合わせた額よりも多い。不思議。
そして今年公開となった5年ぶりの劇場版が『新劇場版 銀魂 -吉原大炎上-』。またしても終わる終わる詐欺で話を続けるつもりなのか……というと答えはNO。割と初期のエピソード(原作だと25〜26巻あたり)である「吉原炎上篇」を再構成した、要は『新訳紅桜篇』に近いタイプの映画なんです。と言っても放送時期が近かった「紅桜篇」と違い、今回は時間が経ち過ぎているので作画については「全面的に描き直し」となっている。絵的には『THE FINAL』もかなりリッチだったが、アレ以上に気合が入っている。オープニングは4億円で、4.4億だった前作より1割近く下がっているから、20億の大台を狙うのは無理だろうけど10億はとりあえず越えられる……はず。内容的に新規を呼び込みにくく、初動型になりそうだから15億までは行かないかな。仮に行ったとしても「アニメ映画全部合わせたよりも実写版の方が稼いでいる」状況は変わりませんが。
気になるのは今後もこういう「過去エピソードをリメイクして劇場化」みたいなのを恒例化するのか、ってことですよね。今はアニメ業界全体が人手不足なんで、公式が乗り気だとしても次は5年後とかになりそうですけど……やってほしいかどうかで言えば、やってほしい。あれも、これも。『銀魂』の長編エピソード一覧は公式が掲載しているので参考にどうぞ。私は吉原よりも更に初期の「柳生篇」が好きです。より正確に書くと柳生篇で出てくる「柳生九兵衛」が再登場したときのミニスカ着物verが好き。フィギュア買おうかどうか真剣に悩んだほどです。あと、公式がどう言うか知らないけど私の中では銀さんと九ちゃんがくっついて夫婦になってますから(銀九過激派)。
・『スナックバス江』が全巻100円セール、更にAmazonの週末限定50%ポイント還元セールが重なって実質50円!
いや、これは即買い一択でしょう。アニメは残念なことになってしまったが、原作は紛れもなく傑作ですので。
・除霊エロコメディ「うしろの正面カムイさん」TVアニメ化、今夏放送開始(コミックナタリー)
ええっ、これも!? 確かに単行本は今月の新刊で12巻に達するし、分量的にも人気的にもアニメ化の視野に入っておかしくない作品ではありますが……公式で公開されている第1話を読んだだけで私の驚いた理由は察してもらえると思います。数多の悪霊や怪異を祓ってきた凄腕の霊能力者「カムイ」、彼は生きた人間には一切興味を抱かず、悪霊や怪異にしか欲情できない超特異嗜好の持ち主だった……! というお色気ホラーコメディです。性交によって「生」のエネルギーを叩き込むことであらゆる悪霊は「逝くうぅ〜」と絶叫して成仏する。このノリが延々と続きます。探せばあるのかもしれませんが、「カムイさんが脱がない回ってあったっけ?」と咄嗟に思い出せないレベルでクロスアウッ!しまくる。「男の悪霊とかどうすんだよ」と疑問に思うかもしれませんが、カムイさんは生者でなければ「男もいけるしな(ヌッ)」な人です。ただ、読者に配慮してか、悪霊や怪異はカムイさんに捕捉されるとだいたい美女化・美少女化します。アレがカムイさんの能力なのか漫画上の都合なのか、どこかで説明されたような気もするが覚えていない。
「こんな展開ひたすら続けていたら飽きるのでは?」と危惧するやもしれませんが、「原作」と「作画」に分かれているだけあってエピソードごとに様々な工夫を凝らしており、飽きさせない。一部長めのエピソードもありますが基本は短いエピソードの詰め合わせで、「ちょっと1話だけ」のつもりが気付くとどんどん読んじゃってる。時間を吸われたくない人は興味本位で読まない方がいいかもしれません。あと、制作スタジオとかスタッフに関しては今のところ告知されていない。それどころかOHPもなく、現状Xの公式アカウントのみ。もうあと5ヶ月もすれば放送が始まるというのに、まだホームページもないのか……既に「ホームページ」なるものがそこまで必要とされない時代になってきたのか? 私もすっかりオッサンなので時代の変化についていけないぜ。
・「天は赤い河のほとり」TVアニメ化、今夏放送 篠原千絵の描き下ろしイラスト公開(コミックナタリー)
問題作のアニメ化が次々と決まる一方、こちらといい『百鬼夜行抄』のショートアニメ化といい「年季の入った作品のアニメ化」も進んでいます。というか『百鬼夜行抄』、もう30巻超えてるのか……私が知ってるのは10巻が出たあたりまでで、「朝日ソノラマ」時代。2007年に朝日ソノラマがなくなって親会社の「朝日新聞社」に移って以降は全然チェックしていなかった。Kindle Unlimitedで約半分の16巻までは読めるし、また一から読み直そうかな。
話を戻して『天は赤い河のほとり』。1995年から2002年にかけて連載された少女マンガです。全28巻で、「メチャクチャ長い」というほどではないが「歴史」をテーマにした少女マンガとしては充分長い部類に属する。中学卒業を間近に控えた少女がひょんなことから古代オリエントの「ヒッタイト帝国」にタイムスリップしてしまう、今で言う「異世界転移」に近いノリの作品です。「ヒッタイト」と言われても「あの鉄器で成り上がった国の……」と教科書レベルの知識しか出て来ないゾーンを題材にしており、未だに終わらない『王家の紋章』との類似性もよく指摘されたものでした(取り上げている時代や地域が比較的接近しているため)。西暦で表すと紀元前14世紀あたりが舞台で、『ヒストリエ』の1000年程度前ですね。ギリシャ方面ではミケーネ文明が栄えていた頃、ひょっとしたらトロイア戦争もこの時代の前後で発生していたかも……くらいの感覚。中国だと『封神演義』の時代が紀元前11世紀ぐらいなのでそれよりも古い。ヒッタイト帝国は現在の地理だとトルコのあたりに位置し、周辺国としてエジプトが存在する。FGOプレイヤーには「オジマンディアス」の名でお馴染み「ラムセス2世」の祖父に当たる「ラムセス(1世)」も重要キャラとして登場。ちなみにクライマックスで描かれる「ヒッタイトとエジプトの一大決戦」を史実に残る「カデシュの戦い」と混同している人もいますが、あれは描写するうえでカデシュの戦いを参考にしている(カデシュ以前の戦争の記録が残ってないため)だけでカデシュの戦いそのものではありません。何せカデシュの戦いは何十年も時代が離れており、もうラムセス2世の治世になっていてラムセス(1世)はとっくに亡くなっていますから……検索した感じ、そもそもラムセス(1世)とラムセス2世がごっちゃになってる読者が予想外に多い印象です。名前が一緒だから仕方ない面もありますが。
制作スタジオは「タツノコプロ」、老舗ですね。60年以上の歴史があり、古くは『マッハGoGoGo』や『ハクション大魔王』、『科学忍者隊ガッチャマン』、平成以降だと『プリパラ』などのプリティーシリーズ、最近だと「戦国ボーリング」こと『Turkey!』に関わっています。個人的には「新房昭之」監督の『The Soul Taker 〜魂狩〜』で印象に残っている。制作体制が崩壊し、「放送の5分前にTV局にマスターテープが届く」という伝説的な「やらかし」も発生した。そんなボロボロの状況でグロス請け(下請け)のスタジオ「シャフト」が辛抱強く付き合ってくれた(ギャグではない)こともあり、新房監督はシャフトのことを深く信頼している。いわゆる「シャフト演出」のいくつかもこの時に使った「乏しいリソースで効果的な演出を施す」苦肉の策が元になっているとか。「5分前事件」のせいで新房監督は業界から干されて一般向けに復帰するまで3年くらい掛かったが、『The Soul Taker 〜魂狩〜』自体はぼちぼちヒットし、サブキャラの「中原小麦」をメインに据えたスピンオフ『ナースウィッチ小麦ちゃんマジカルて』というOVAが作られ、続編として『ナースウィッチ小麦ちゃんマジカルてZ』や『ナースウィッチ小麦ちゃんR』(主人公が中原小麦から「吉田小麦」に変更となっているし、ほとんど別物だけど)も制作されたため「本編より長いスピンオフ作品」になった。監督は「小林浩輔」、演出としてあちこちのアニメに参加しているが、監督作品は少な……えっ? 『百錬の覇王と聖約の戦乙女』? あの「スマホの力を過信したな」でお馴染みの? な、なんか急に不安になってきたな……。
・『超かぐや姫!』いよいよ劇場公開が“1週間限定”でスタート。初日の金曜日から全国規模でほぼ“満席”という異例の事態に(電ファミニコゲーマー)
いよいよ今日から劇場公開ですが、チケットの争奪戦は想像を絶する域に突入しており、SNSでは阿鼻叫喚が渦巻いている。開始数分で満席になった劇場もあれば、サーバーが不安定になって決済が完了するまで1時間掛かった劇場もあり、もはや「『超かぐや姫!』って今話題になってるアニメだっけ? 近くの映画館でやってんなら寄ってみようかな」くらいの感覚で出かける人が観れるような代物ではなくなっています。さすがに火曜以降は人の波が緩むと思うので、狙うならそこですね。
この混雑ぶり、わたなれのネクストシャインを思い出しますが、規模に関してはあの時以上でしょう。「単なる先行上映だし、一部の熱心なファンしか来ないだろう」とタカを括って1日1回とか2回の上映にした結果シアターがパンクした、というのがわたなれの惨事だったんですが、『超かぐや姫!』は事前に人気が伝わっていたこともあり1日10回という準コナン級のシフトを組んで対応に当たった劇場も多かった。ハコも100人や200人程度しか収容できないシアターではなく、500人を収容できるようないわゆる「大ハコ」を回した。2月に予定していたまどマギの新作が延期したこともあり、6日に公開した『ほどなく、お別れです』や13日公開の『新劇場版 銀魂 -吉原大炎上-』を除けばこれといって大作や注目作のない月になってしまったので、スケジュールの都合が付きやすかったんでしょう。が、それでもなお足りなかった……全国で19館というのは、いくら何でも少なかったと思います。
今回の配給は「ツインエンジン」という、フジテレビの深夜アニメ枠「ノイタミナ」の立ち上げに携わったプロデューサー「山本幸治」が代表取締役を務める会社で、言うまでもなく「東宝」や「東映」に比べるとかなり小規模。過去に配給した作品は『雨を告げる漂流団地』『クラユカバ』『クラメルカガリ』『好きでも嫌いなあまのじゃく』『劇場版モノノ怪』など、ハッキリ言ってマイナー路線です。比較的ヒットしている『劇場版モノノ怪』3部作(最後の3作目は5月公開予定)も全国230館前後の公開規模で1億円を上回る程度の興収に落ち着いている。今回の『超かぐや姫!』はネトフリで配信中だし、映画館で観たがるファンもいるだろうけど「殺到」というほどではないだろう……と過小評価したのではないだろうか。ネトフリは以前『バブル』という自サイトで配信中のオリジナルアニメを全国300館以上のスケールで宣伝費ガンガン使ってアピールしたうえで公開したけど、蓋を開けてみればオープニング(金土日3日間)で6600万円弱、最終的な興収も2億円に届かなかった。当時の映画系ニュースサイトでも「劇場公開前の先行配信という今回の手法、注目すべき試みではあると思うのだが、限定的な劇場公開ではなく日本全国で拡大公開をする上で一体どこに勝算があったのか? 頭の中に浮かぶのは「?」ばかりだ」と辛辣な意見が書かれている。
ネトフリはオリジナル映画を賞レースに参加させる(ほとんどの国において「配信専用の映画」は映画賞の対象にならない)ためアリバイ作りのような感覚でごく小規模に劇場で限定公開することを習わしとしてきたのだが、なぜか『バブル』の時は妙に力を入れて全国拡大公開に踏み切り、そして盛大にコケた。このときの経験がトラウマになって、「『超かぐや姫!』を全国拡大公開する」という選択肢は採れなかったのだろう。ネトフリとは関係ないけど『バブル』よりも前に公開された、今では「名作」という扱いを受けている『アイの歌声を聴かせて』も興行面ではだいぶ苦しんで、動員ランキングだと初登場12位。金額にして2000〜3000万円くらいだったと思われる。その後口コミで伸びていきますが、スタートダッシュに失敗したこともあって2億円を上回るのがやっとでした。斯様にオリジナルアニメは「当てる」のが難しく、慎重になってしまう気持ちもわからなくはない。でもやっぱり、『超かぐや姫!』に関しては『バブル』のリベンジとばかりに全国300館以上で拡大公開すべきでしたね。全国19館は過小評価というものだ。が、それでも恐らく来週発表される動員ランキングではTOP10へ食い込むでしょう。座席数の限界があるからさすがに1位は無理でしょうけど、同日公開作品に強力な対抗馬がいないから10位以内はほぼ確実と見ていい。ガラガラ過ぎて恨まれた果てスカとは逆に、「この作品はもっと力入れて配給するべきだったろ!」と全国の劇場から恨まれることになりそうだ。
U-NEXTポイントが期限切れになる前に、と駆け込みで鑑賞した映画。原題はそのまま "One Battle After Another" 。「一戦終わったらまた一戦」というような意味で、戦いが絶え間なく続くことを匂わせている。主演はレオナルド・ディカプリオ、1億ドル以上の製作費を投じた大作(このうちディカプリオの出演料が2000万ドル)で、ちょっと書き切れないくらい数多の映画賞を受賞しており、アメリカでは「2025年に公開された映画としてはベスト級」という扱いを受けています。米アカデミー賞では12部門13ノミネート中、同年公開の『罪人たち』(16部門ノミネート)には負けるが凄まじい評価だ。しかし日本での興行はパッとせず、ほとんどの映画館で1ヶ月くらいしか上映されなかった。「162分」という3時間近い上映時間が敬遠されたというのもあるだろうが、ぶっちゃけ「翻訳を通してしまうと魅力が下がる」タイプの作品だな……と思いました。
映画のベースになっているのはトマス・ピンチョンの小説『ヴァインランド』。監督(ポール・トーマス・アンダーソン)は以前に『LAヴァイス』をもとに『インヒアレント・ヴァイス』という映画を撮ってるし、ピンチョン好きなんでしょうね。小説では80年代が舞台になっている(原書の発刊は1990年)けど、映画は舞台を現代に置き換えられており、スマホとかも出てくる。ピンチョンは比較的難解な文学路線の作家なんですが、この『ヴァインランド』はかなりエンターテインメント色が強く、映画向きと言えば映画向きです。しかし原作はメチャクチャ長いから、そのまま映像化したら162分でも全然尺が足らなくなる。『ワン・バトル・アフター・アナザー』は脚色……というより、もうほとんど「翻案」に近い。エンターテインメント色が強いとはいえピンチョン作品なので慣れない人が読み通そうとすると結構ガッツが要る『ヴァインランド』を、うまい具合に娯楽映画へ仕立て上げている。翻案してなお残る「ピンチョンみ」が映画の隠し味として効いており、そのへんが字数制限のある字幕を通して鑑賞すると相当減衰してしまう。英語聴き取り能力がザコな私でも「えっ、このセリフをそう訳すの? 意味合いとしてはそうなんだろうけど……」とモニョるシーンがいくつもあり、「英語の言い回しが面白さに繋がっている」映画なので日本国内でのウケがイマイチなのも納得でした。
あらすじ。レオナルド・ディカプリオ演じる主人公……いや、わかりやすくするため主人公のことは「ディカプリオ」と呼びます。ディカプリオは若い頃、活動家として「世界を変える」理念に熱く燃え、爆破テロなど過激な手段に訴えることも辞さない革命闘士だった。同じ活動家で、スリリングな状況に性的な興奮を覚える黒人女性「ペルフィディア・ビバリーヒルズ」と懇ろな仲になり、やがてペルフィディアは女児を出産する。「娘」が産まれたことでディカプリオの意識は変わり、「もう革命なんて夢を見るのはやめて子育てに専念しよう」とペルフィディアを説得するが、「母親」という役割を押し付けられることを嫌った彼女はムキになって活動に没頭する。苛立ちから銀行強盗の最中に警備員を射殺してしまったペルフィディアはあえなく逮捕された。このまま長期に渡る懲役刑(ナガムシ)を喰らうことを恐れ、司法取引に応じて仲間を売ってしまう。母親が「裏切り者」であることを告げられぬまま、男手一つで娘を育て上げたディカプリオ。しかし、謎の勢力の魔の手が娘に伸びてきて、もう一度戦いの渦中へ身を投じることになる……。
「昔は凄腕のテロリストだったけど酒とドラッグに溺れたせいで落ちぶれたディカプリオが、娘を救い出すために奮起する」という、大筋だけ取り出せばよくあるスリラー映画です。『96時間』あたりを連想する人もいるだろう。しかし、「謎の人身売買組織に娘を攫われた」という程度のわかりやすいストーリーではなく、また思ったよりディカプリオの活躍シーンが少ないため、「ディカプリオがリーアム・ニーソンやトム・クルーズばりに大暴れする」無双映画を期待すると肩透かしでしょう。むしろ情けないシーンの方が多い。娘のため久しぶりに地下組織へ連絡するのだが、時間が経ち過ぎているせいもあって肝心の符丁を思い出せない。「オレだよ、オレ! わかってんだろ! いいから教えてくれよ!」「本人確認のためにもちゃんと符丁を言ってくれないと……」と、地下組織の電話番相手に押し問答するシーンが延々と続く。こういう面白シーンの積み重ねで独特の味わいを生み出している映画なので、あらすじだけ読んでも「つまらなさそう」と感じてしまう。ディカプリオの娘が「ニンジャスクール」で「カラテ」を習っているという設定で、カラテマスターの師匠を「センセイ!」と呼ぶのは日本人にとっては面白ポイントかもしれない。うっかり靴を履いたまま畳の上に上がってしまったディカプリオを「畳踏むな!」と叱るセンセイが可愛い。ニンジャ道場に掲げられた「尊厳 Respect」という絶妙に誤訳ってる額とか、謎のハングル、変なお辞儀、テコンドーっぽい動きで「カラテの組手」をするシーンなど、わざとやってるのか雑なだけなのか判断に苦しむシーンの数々は『ニンジャスレイヤー』好きには刺さるかもしれない。
本作の魅力の一つは悪役を演じる「ショーン・ペン」が放つ存在感。悪役のことも以下「ペン」と呼びます。設定上は軍人らしいが字幕だと「警部」になってるし捜査活動もしているようなので、所属とか指揮系統がどうなってるのかいまいちよくわからない。「まあ、細かいことはいいよ」の精神で流しましょう。ペンはペルフィディア・ビバリーヒルズが放つ危険な匂いに惹かれ、アブないシチュエーションに興奮するペルフィディアも抵抗し切れず、ペンと関係を持ってしまう。ペンは白人至上主義の秘密クラブ「クリスマスの冒険者(Christmas Adventurers)」に入会しようとする際、「そういえば昔黒人女とヤッたことがあったな……あいつ、子供を出産していたけど、まさか……?」と思い出し、「黒人女性との間に混血児(ミックス)がいる(かもしれない)」という醜聞を消すためにディカプリオの「娘」を狙う。「娘」から「シャツがピチピチで気持ち悪い」と言われて「俺はゲイじゃない!」と怒るペンが見所です。たぶん、ネイティブの人にとってペンは「日本人から見た禪院直哉」くらい面白い存在なんだろう。
だだっ広い田舎の道路をひた走る、「カーチェイス」と呼ぶにはあまりにも長閑な(けれど緊迫感に満ちた)追いかけっこなど、あえて既存のアクション映画の「お約束」を外したような内容がいかにも「洋画マニア向け」といった感じです。映像的にも凝ったカットが多く、見応えはスゴいんだけど……やっぱり、日本人にはウケないよな、コレ。というのが率直な感想。監督が『マグノリア』や『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』のPTA(ポール・トーマス・アンダーソン)なんで、どっちか観てる人は「見応えはスゴいんだけど……」の質感が伝わると思う。凱旋上映するらしいし、アカデミー賞を獲りまくったら日本でも再評価されるかしら。日本公開時の興行収入、オープニング(初日含む3日間)が1.3億円で、累計でも4億円くらいだったそうだから、あの『果てしなきスカーレット』(6.5億円)よりも低い。たとえ凱旋上映で同額稼いでも累計10億に届かないんですよね……製作費1億ドル超えの大作にしてはやや寂しい数字だ。面白いことは確かなので、アマプラとかネトフリの見放題に来たら視聴してみることをオススメします。サブスクのいいところは長尺映画を何回かに分けて観れるところ。トイレの心配をせずにお菓子つまんでジュースやお茶を飲みながら堪能できる。
・拍手レス。
楽しいし始まったばかりにしては異様にコンテンツがあるのでお勧めですよエンドフィールド。これを機に楽しいし始まったばかりにしては異様にコンテンツがあるのでお勧めですよエンドフィールド。Ave Mujicaコラボも来るので本家も是非
さすがに手が回らないのでDLしていませんが、みんなが楽しそうにプレーしている様子をSNSで眺めて「友達がゲームやってるのを後ろで眺めてる感覚」でエンジョイしてます。あと本家アクナイのMujicaコラボでバンドリアニメ観始める人が増えて新鮮な初見感想いっぱい読めるの嬉しい。
2026-02-10.・ゲーム本体はやってないけど『アークナイツ:エンドフィールド』とか『ゼンレスゾーンゼロ』とかの動画がSNSで延々と流れてくるので「ロッシちゃん可愛いなぁ……」「タンタンちゃん可愛いなぁ……」「千夏ちゃん可愛いなぁ……」と時間を奪われ続けている焼津です、こんばんは。いえ、全然ロリコンじゃありませんよ?
とにかくやってないゲームでもムービーの出来が良くて見惚れてしまうんですよね。ロッシちゃんがクンクンと鼻を動かして匂いを嗅ぐシーンとか、千夏ちゃんが待機モーションで踊る動画をずーっと見てしまう。正気に戻って積みアニメ、積み映画、積みゲー、積読の消化に取り組むのですが、脳内では延々と千夏ちゃんが踊り続けている。もはや電子ドラッグだ。
積みゲーで思い出したけど、『パラノマサイト』が新作出すということで前作『パラノマサイト FILE23 本所七不思議』がニンテンドーストアでセール中です。1980円が75%OFFで495円、なんとワンコインだ。新作『パラノマサイト FILE38 伊勢人魚物語』が19日発売ということから、発売前日の18日までセールをやっています。要は低価格のホラー系ADVで、「死人を蘇らせる秘術」を巡って9人の男女の物語が交錯する。基本は文章を読み進めていくオーソドックスなADVだが、360°ぐるっと周囲を見渡して気になるものを発見する「探索パート」が要所要所に盛り込まれており、「能動的にプレーしている」感覚が恐怖を増幅させます。タイトルは「超常現象」を意味する「パラノーマル」と「パノラマ」を掛けているわけだ。私もセールに釣られて買ってまだちょろっとしかプレーしていませんが、なかなか面白い。『世にも奇妙な物語』めいたノリが好きな人なら刺さると思いますので、値段を理由に軽率に購入しちゃってOK。さあ君もレッツ・パラノマ!
・『超かぐや姫!』、2月20日(金)より1週間限定で劇場公開決定!
ファン待望の劇場公開が決定です、やったー。ただし全国19館という、想像以上に小さい規模……当然、うちの地元は入っていません。これは何としても拡大上映してもらわねば……うちの地元の映画館、ネトフリ映画の『バブル』はやったんですけど、あまりにも客が入らなかったせいか『雨を告げる漂流団地』や『好きでも嫌いなあまのじゃく』はやらなかったんですよね。やっぱり、かなり力を入れて広報していた『バブル』がコケたのが痛かった。『バブル』の反省点を踏まえて新しい手法で送り出したのが『超かぐや姫!』なんですが、まだまだネトフリ映画に対する劇場側の信頼感が薄いのだろう。公開される19館に足を運べる人たちは是非ともシアターを満員にする勢いで詰め寄せてほしい。そうすれば私の地元でも観れるようになるはず。
『超かぐや姫!』というアニメ映画、正直「粗」と感じる部分はいくつかあるのですが、それを押し切るだけのパワーがある作品なのであと数年も経てば「『超かぐや姫!』がキッカケでアニメ業界を目指したくなりました」という若者たちが出現する。誇張抜きでそれぐらい影響力の強いタイトルです。ネトフリ入ってなくてまだ観てない、という方は映画館へGOだ。アレを映画館で浴びれる人は羨ましい……。
公開館の中に「立川シネマシティ」が入ってるのはちょっと笑っちゃいましたね。『超かぐや姫!』の主なロケ地は立川市で、「サンサンロード」というところが「聖地」の一つになっている。シネマシティはこのサンサンロードに面しており、劇中でもチラッと映っています(かぐやが彩葉たちを尾行して木に隠れるシーン)。「1週間限定」と謳っていますが、「ご好評につき期間延長!」となる可能性はゼロじゃありません。もしかしたら「聖地」化して今年中ずっと上映、なんてこともありえなくはない。
映画の後日談に当たるMVも公開されており、続編やスピンオフも熱望されている『超かぐや姫!』ですが、物凄く手の込んだ作品だけにそう簡単に続編の類が生えてくることはないと思います。個人的にはかぐや姫(竹取物語)以外の物語を題材にして、相互で緩く繋がっている「お伽噺ユニバース」にしてほしいかな。浦島太郎をベースにした『超乙姫!』もしくは『超竜宮城!』とか、『超鉢かづき姫!』、『超一寸法師!』、『超赤ずきん!』、『超シンデレラ!』……そこまでやるとただの『月光条例』だな。
・「チー付与」TVアニメ化!制作はP.A.WORKS ティザービジュアル&PV公開(コミックナタリー)
最近とんでもない作品のアニメ化ニュースがやたら舞い込むな……『追放されたチート付与魔術師は気ままなセカンドライフを謳歌する。 〜俺は武器だけじゃなく、あらゆるものに『強化ポイント』を付与できるし、俺の意思でいつでも効果を解除できるけど、残った人たち大丈夫?〜』、タイトル長すぎるので「チート付与」ないし「チー付与」と略されることが多い本作、もともとは「六志麻あさ」が「小説家になろう」に連載していたなろう小説です。2022年に書籍化し、書籍版は2巻まで刊行されたが、売れ行きが芳しくなかったのか2巻発売から3年以上経った今も3巻は発売されていません。
小説の書籍版が発売する前年、2021年から連載スタートしたのが「業務用餅」による漫画版で、絵柄(主人公の髪がボサボサ、かんたん作画の犬)から察するにアニメはこの漫画版の方がベースになると思われます。というのも本作、小説版と漫画版の違いが大きい……ってより、ほとんど「別物」といっていいほど乖離しています。小説版は「なろう系によく出てくる中世ヨーロッパ風の世界」、いわゆる「ナーロッパ」めいた場所を舞台にしたオーソドックスな異世界ファンタジーであるのに対し、漫画版は自動車や機関銃など「ナーロッパ」で押し切るには無理のあるアイテムがドコドコ出てくる。また、登場キャラクターに関しても「名前は一緒だけど性格がまったく違う」現象が頻繁に発生します。普通なら原作ファンが大激怒する所業ですが、チー付与、小説版はそんなにファンがいないため炎上しませんでした。むしろ「いいぞ、もっとやれ!」と喝采を浴び、どんどん独自路線を突き進んで確固たるファン層を築き上げていく。最新刊は19巻、とても「2冊で打ち切られた小説のコミカライズ作品」とは思えない巻数だ。
チー付与の魔改造っぷりを詳しく解説するとネタバレになるので、「新鮮な気持ちで楽しみたい」未読の方はこの段を飛ばしてほしいのですが……漫画版の第5話で『王獣の牙』(主人公を追放したギルド)副ギルドマスターの女性が登場し、僅か2ページほどで殺し屋の少女「ミラベル」に屠られ退場する、というシーンがあります。あまりにも呆気ないので読者のほとんどは存在を忘れてしまったのですが、漫画版7巻から始まる「半グレ編」でこの女性を慕う人物が暗躍し、王国を相手に壮大な復讐劇を開始する。そのスケールの大きさとアクションの絶妙なバランス感覚に読者の多くが舌を巻いたのですが、原作だとそもそも「『王獣の牙』副ギルドマスター」は殺されていません。主人公「レイン」を追放した後、『王獣の牙』は急速に瓦解していき、3人いる副ギルドマスター(グレンダ、コーネリアス、ゲイル)は見切りをつけて他のギルドに移籍しようとするもみんな疫病神扱いされてどこも受け入れてくれない……と路頭に迷うところで終わっている。要するに「ざまぁ」された後で猿空間ならぬ「あさ空間」に送られて消息不明となっています。それぐらいどうでもいいキャラなんです。当然、「半グレ編」なんてストーリーも原作には存在しない。あまりにも改変・捏造・オリジナル要素が多く、漫画版しか追ってない読者は「原作にはない要素」が出てくる瞬間よりも「原作にもある要素」が漫画版に出てきたときの方が驚くぐらいだ。
初期は純粋に絵柄が雑なせいもあって読みにくさを感じるが、だんだん技術が向上していき、絵的にもストーリー的にも円熟していく。『呪術廻戦』が『HUNTER×HUNTER』の影響を受けていることは周知の事実ですが、こと「ハンター要素」に関しては漫画版チー付与の方が濃厚と言っていいでしょう。最近の巻は「キメラアント編と王位継承編を同時並行でやってる」と評されるくらい濃密な内容で、本気でアニメ化するつもりなら最低でも4クールは欲しい代物なのだ。とにかく業務用餅のセンスの凄まじさ、原型を留めないほど弄くられても「漫画で面白い部分は、だいたい原作にない箇所ですw」と笑って許す六志麻あさの寛大さが光る。あまりにも鷹揚たる態度ゆえ、チー付与ファンからは「原作者陛下」と崇められています。過去には原作者が怒ったせいで連載打ち切りになった作品もありますからね……忘れもしない、漫画版『皇国の守護者』……。
制作は「P.A.WORKS」、アニメファンからは「お仕事アニメ」が得意なところとして認識されている。一番有名なのはアニメ制作そのものを題材にした『SHIROBAKO』かな? あれももう10年以上前なんですが……最近だと日常系アニメの『日々は過ぎれど飯うまし』が好評を博している。監督やシリーズ構成に関してはまだ公開されていない。漫画版をそのまんまアニメ化するとさすがに間延びするだろうし、うまくアニメに変換できる人がやってくれるといいですね。
・山口未桜の『禁忌の子』読んだ。
第34回鮎川哲也賞受賞作。個人的に鮎川賞は信頼している賞なので、「きっとこれも面白い」と思っていましたが、おどろおどろしいタイトルに食指が動かず放置していました。しかし受賞後第一作に当たる続編も刊行されたし、いい加減崩さないとな……って一念発起して読み出した次第です。そしたら冒頭数ページで引き込まれ、あっという間に読み切ってしまった。この本に関してはあらすじ等、なるべく予備知識を入れないで読む方が面白いのでこれから読むつもりの方は私の感想を読まずにさっさとチャレンジした方がいいです。まだ決めかねる、という方はもう少しお付き合いいただきたい。
「兵庫市民病院」の救急科に所属する医師「武田航」。2023年、まだコロナ禍が明け切らぬ頃、午後8時15分に救急からの着電があった。沖の海面に浮かんでいた30代くらいの男を引き受けてほしいとのこと、断る理由もなかったので承諾する。間もなく心肺停止した患者が運び込まれてきた。状況的に死亡から相当な時間が経過していると見られ、蘇生は無理そうだと思ったが、念のため看護師たちに指示を飛ばし処置を行う。予想通り、患者を蘇生させることはできなかった。ある意味、救急科の日常風景である。「予想外」で「非日常」だったのは、運び込まれた男が自分(航)と瓜二つの顔をしていたことだった……。
航は一人っ子で、「生き別れの双子の兄(もしくは弟)」がいるなんて話は聞いたことがない。念のため役所に行って戸籍謄本を取り寄せたが、やはり兄弟に関する記述などなかった。亡くなった男は頭部に打撲の痕があったが、かなりの量の酒を飲んでおり、誰かに殴られた後で海に捨てられたのか、酔っ払って足を滑らせどこかに頭をぶつけながら海に落ちたのか、判然としない状況である。できれば男の正体を突き止め、「自分や身重の妻に恐ろしい危険が迫っていないかどうか」を確認したい。航が頼ったのは中学から付き合いのある医師「城崎響介(きのさき・きょうすけ)」だった……。
城崎響介は感情が希薄で、あらゆるものに対して執着を持たない。いっそ非人間的なほどズバッと論理の刃を冷徹に振りかざす探偵役として設定されています。いかにもドラマ向けの「旬のイケメンが演じる探偵役」といった印象ですが、感情の機微に疎い「非人間性」のせいでヘマをするシーンもあるので、必ずしも設定倒れになっていない。「主人公と瓜二つの死体」という謎、「イケメンかつ冷徹な探偵」というキャラ立ちで最初の100ページぐらいはグイグイと勢いよく読ませてくれます。
この「瓜二つの死体」が「第一の事件」だと解釈すれば、100ページ過ぎたあたりで「第二の事件」が発生します。簡単に言うと「密室状況で自殺としか思えない死体が発見される」というものです。鮎川賞作品なら密室状況のミステリなんて別に珍しくないわけですが、正直この作品はかなりメロドラマ要素が強いので、「密室」という要素がかなり浮いちゃっている。この密室事件のあたりから一気にトーンダウンし、ストーリーが盛り下がってしまう。そこを耐えながら200ページあたりまで進むといよいよ「出生の秘密」が明かされ始め、盛り上がってきます。ただ、この面白さってぶっちゃけ鮎川哲也的な面白さというより横溝正史的な面白さなんですよね……なんで作者は「横溝正史ミステリ&ホラー大賞」の方に送らなかったんだろう? 横溝賞なら賞金300万円が出るけど、鮎川賞は印税しか貰えず特別な賞金が出ないのに……だから賞金目当ての「あざとい」投稿がなく、信頼できる作品が多いという面もあるが。
圧巻なのはラスト50ページ、畳み掛けるような勢いで謎を回収して一気に結末まで持って行く。ここで100〜200ページあたりのダレ具合はチャラになりました。明かされる真相に「なるほど!」となるか「えぇ〜!? そんなんアリ〜!?」となるかで評価が真っ二つになるでしょう。というか、ネタバレなしでこのへんについて掘り下げることはできないので詳細については口を噤むしかない。気になる方は実際に読んでみてください。「私はドラマ化に際して『旬のイケメン俳優』を安易に宛がわれるような小説は書きたくないんじゃ! 『うう、これは山口未桜ならではや……』と呻かれるような作品を書きたいんじゃ!」という気迫が伝わってくる。
既に城崎響介が探偵役を務める続編『白魔の檻』も刊行中であり、読むのが楽しみ。できれば1年に1冊くらいのペースで安定して出してくれるとありがたいですね……。
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管理人:焼津