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リレー小説「魔法少女忌譚修」(第13話−10/12)


2025-05-14.

・定期的に余り気味になる「チャンピオンクロス」と「ヤンチャンWeb」のすぐ無料チケット、期限切れで消滅するのも勿体ないしちょうどいい使い先ないかな……と探して発見した『アイドルミーツアイドル!』『スカベンジャーズアナザースカイ』が面白かったのでオススメしたい焼津です、こんばんは。

 『アイドルミーツアイドル!』は令和の地下アイドル「愛ヶ沢なも」がタイムスリップし、憧れの昭和アイドル「四方井琴乃」に出逢う――というタイトルそのまんまなストーリー。琴乃は「謎の引退」によって消息不明になっており、「なぜ人気の絶頂にあった琴ちゃんが芸能界から去っていったのか?」を巡るミステリでもあります。令和の世において「会いに行けるアイドル」は珍しくないが、昭和だとアイドルというのは「テレビで観るモノ」であって生身のアイドルと顔を合わせる機会はそうそうない。これがブレイク後なら「詰んだ」としか言いようがないけれど、幸いなことに琴ちゃんはまだ駆け出しで人気もあまり出ておらず、なもは多少不審がられながらも近づくことができた。「自分もアイドル志望」と打ち明け、流れで琴ちゃんの後輩になることに……てな感じで、今のところ「未来を知っているアドバンテージ」はあまり活かされていないが、「天束朝美」という別のアイドルの未来に関して何か知っているみたいで、次回あたり「この物語が歴史改変モノなのか否か」がハッキリすることになりそうだ。

 『スカベンジャーズアナザースカイ』は「第一種猟銃免許」を所持しているという漫画家「古部亮」によるガンアクション。タイトルで「『スカベンジャーズ』という漫画かゲームがあって、それのスピンオフなのかな?」と思ってしまったがそんなことはなく、あくまで『スカベンジャーズアナザースカイ』という題名のオリジナル作品です。略称は「スカスカ」。分類上は「異世界探索モノ」になるのかな。「ブラックパレード」と呼ばれる異界に送り込まれ、様々な「お宝」を持ち帰ってくる収集隊(スカベンジャー、世界中から集められた身寄りのない少女たちによって構成される部隊)の活躍を描く。『リコリス・リコイル』と『アサルト・リリィ』を混ぜたような話で、ノリとしては「現代ダンジョン攻略」に近い。固有の用語が多くて読み出した直後は混乱するかもだが、細かい部分を無視して「ブラックパレード=一種のダンジョン」と解釈してもらえればグンと読みやすくなる。

 童顔の女の子たちが重傷を負いながら激しいバトルを繰り広げるという、非常にチャンピオンらしいテイストの作品で、血腥いのが平気な人であれば引き込まれるだろう。モシンナガンを「モ神様」と讃えるキャラが出てきたりと、個性的な面子が多くて読み飽きないし、進むにつれて異能バトルめいた側面も強化されていく。「ブラックパレードから帰還すればあらゆる負傷は治る」が、負傷したこと自体が「なかったこと」にはならないので深刻な後遺症に悩まされる……と、設定がややシビアなのでバトルにも緊張感が生まれている。そしてもし、帰還できなかった場合は……いや、言うまい。過酷な環境の割に女の子たちの関係がギスギスしてないのは「いい子」以外は訓練課程で間引かれるから――などといった闇の深い設定もあり、クソみてえな組織に叛旗を翻す造反者たちも蠢いていて勢力図は混沌としている。深見真とかアサウラが好きそうだな、と考えながら読んでいたら3巻の帯で推薦文を書いていたのがまさにアサウラで噴いた。「殺伐としたブルアカ」という形容に笑いつつ納得してしまう、「いま個性的な漫画が読みたい」アナタにイチ推しの力作です。

『魔剣少女の星探し』、「カクヨム」で書き下ろし短編シリーズ「魔剣少女の星探し特別編」開始

 宣伝目的で書き下ろされた番外編で、時間軸としては本編より前だから本編未読でも大丈夫です。1巻の冒頭で主人公の一人(『魔剣少女の星探し』はファンタジー版『三匹が斬る!』なので主人公が三人いる)「リット」が年齢を聞かれて「先月、十五に」と答えていましたが、特別編の1編目「魔剣少女と旅の酒場」では「再来月には十五に」と発言しているので約3ヶ月前ですね。彼女は故郷である南方王国(オースト)から大陸中央の「セントラル」に向けて移動しており、徒歩だったため出発から到着まで1年くらい掛かっているのですが、本編はこの「リットちゃんの一人旅」に関してはバッサリとカットしていて詳細が綴られていなかった。だから既読者にとっては嬉しい内容である。

 内容としては「旅人である主人公が旅先でならず者たちに遭遇して懲らしめる」というシンプルなもので、ごく単純に痛快さを堪能できる仕上がりになっています。2編目、「魔剣少女と迷い猫」は二人目の主人公「クララ」のエピソード。「十二頭のゴーレム馬が曳く鉄道馬車」という劇場アニメでもないかぎり映像化されないだろうな……という代物がいきなり出てきて笑ってしまう。こちらも本編より前の出来事で、クララが迷い猫とおぼしき黒猫を拾ったことがキッカケで街をゆるがす騒動に巻き込まれる、といったもの。クララのムチャクチャな強さが伝わってくる活劇譚です。3編目の「魔剣少女と大演劇」は「ソフィア」が主人公、やはりキャラ紹介の色合いが強い。成り行きで演劇の女優をするハメになったソフィアは、舞台の上でアドリブを演じることになり……「悪役を成敗する」話が続いたので、少し趣向を変えた感じ。明日も4編目を更新予定とのことで、楽しみに待っています。

TVアニメ「対ありでした。」ティザーPV公開、作中で「ストリートファイター6」とコラボ(コミックナタリー)

 PVの最後にキャストが表示されるのですが、「長谷川育美」「市ノ瀬加那」「下地紫野」と「月姫リメイクじゃないか!」って面子で噴いた。月リメでは長谷川育美がアルクェイド、市ノ瀬加那が翡翠、下地紫野が秋葉を演じています。さておき『対ありでした。』はお嬢様学校で周囲の目から隠れて格ゲーに熱中する少女たちを描いた漫画で、かなり早い段階(単行本の2巻が出た頃)にアニメ化が決定したのですが、発表が早すぎたのか放送まで4年以上も掛かる状態になってしまった。あまりにも音沙汰がないので「話がポシャったのか?」と疑った時期もありました(2023年にドラマ版が放送されたときもアニメ版の進捗はまったく明かされなかった)けど、やっと今年中に放送することが決まったようです。

 で、『対ありでした。』の作中には『ストリートファイター』シリーズをモデルにしたとおぼしき架空の対戦格闘ゲーム『Iron Senpai』シリーズが登場するんです。主人公たちがプレーしているのは『Iron Senpai4』、通称「π4」です。ただし作中の設定では「現在女子高生の主人公が小学生の頃にπ2が大流行していた」ということになっているので、『ストリートファイター』シリーズの年代と『Iron Senpai』シリーズの年代が完全に一致しているわけではありません。とはいえ誰がどう見ても「元ネタはストリートファイターだな」と分かる内容だっただけにカプコンの許可とかどうなるのか不安な部分だったが、ドラマ版同様「コラボ」という形で凌ぐようだ。ストXだったドラマ版に対し、アニメ版では最新のスト6が採用される模様。アニメで『Iron Senpai』が観れないのはちょっとショックというか、「谺ァ!」が幻になりそうな事態に動揺している。

 『Iron Senpai』には「鋼先輩」という「リュウ」に相当するキャラが登場するのですが、ストーリーの途中でアップデートにより「谺」という新たな必殺技が追加される。一種の当て身技で、多くのプレーヤーからは「使いにくい」と判断されて評価を得られないのですが、鋼先輩使いの「夜絵美緒」は何とか使いこなそうと試行錯誤する……という展開があるんです。しかし、スト6のリュウには当て身技が存在しないんですよね。そもそもスト6は2023年発売なので、2020年に連載を開始した『対ありでした。』に取り入れられるわけがない。このへんの擦り合わせに時間が掛かってアニメ放送の時期が遅れたのかな。対戦時の駆け引きが肝ですから、格ゲーパートに関してはアニメでだいぶ変わる可能性もある。原作者「江島絵理」の前作『柚子森さん』にも、内容は違うが「谺」という名称の奥義が存在しており「よっぽど気に入ってるんだな」というネーミングだし、「あんなに使いにくい技をうまく使いこなしている!」という感動に結び付く要素なので、何とか残してほしいが……「対ありコラボ」としてスト6に谺相当の技が追加されでもしないかぎり厳しいだろうな。

・今野敏の『任侠梵鐘』読了。

 “阿岐本組”シリーズ第7弾。タイトルに必ず「任侠」と入るので“任侠”シリーズと呼ぶ向きもある。今野敏の作品は多くが共通の世界を舞台にしており、「阿岐本組」というのも他のシリーズでちょくちょく登場します。ヤクザなのだが構成員はほんの数名という小所帯で、あまりにも規模が小さいため指定暴力団にはなっていない。組長の「阿岐本雄蔵」も若い頃はいろいろ悪事を働いたらしいが、今は高齢ということもあって大人しくしている。小さなシノギでほそぼそと稼ぎつつ警察から睨まれている、どこにでもいるような「ケチなヤクザ」そのものの阿岐本組だが、昔気質で義理人情が大好きな阿岐本はことあるごとに厄介事に首を突っ込んでしまう……という、今となっては珍しくなりつつある任侠コメディです。話の展開はパターン化しており、「阿岐本のところに『潰れかけの〇〇があって何とかしたい』という相談が持ち込まれる」→「『時代の流れには逆らえないが、何とかしてやりてぇ』と立て直しに乗り出す」→「何とかなる」、これをひたすら繰り返します。これまでのシリーズ作品は『任侠書房』『任侠学園』『任侠病院』『任侠浴場』『任侠シネマ』『任侠楽団』と、タイトルだけ見ればだいたいの内容がわかる仕組みとなっている。

 淡々とした調子で読みやすく、ユーモアもあって面白いのだが、「ヤクザを美化している」と受け取られかねないためかシリーズ2作目の『任侠学園』以外は映像化しておらず、今野作品としては「有名じゃないけどマイナーというほどでもない」微妙な位置づけに収まっている。シリーズ累計で95万部と、あと少しのところで100万部に届かないあたりも絶妙だ。阿岐本組、みかじめ料とか取っているわけでもないみたいだし、普段何をして生計を立てているのかよくわからない不気味な集団と化していて得体の知れないところはありますが、少なくとも『忍者と極道』みたいに派手な真似はしていないのであまり細かいことを気にしなければエンジョイできる小説です。平たく言ってしまえば「ヤクザ版の『水戸黄門』」なんですよね。

 『任侠梵鐘』はまた例によって「潰れかけの寺を立て直す」みたいな話なんだろう……と思って読み出したが、今回は少しバターンから外してきています。まず、阿岐本のところに来る相談が寺じゃなくて神社絡みなんですよ。毎年神社の境内でお祭りがあって、神農系、いわゆる「テキヤ」が屋台を出していたのですが、暴対法の絡みもあって「今年はテキヤを入れない」と断られてしまった。神社の神主はテキヤに対して割と好意的な人だったので、急に掌を返してきたことに戸惑っている。今更「出店させろ」と迫るつもりもなく屋台に関しては諦めているが、せめて事情が知りたい……兄弟分から相談された阿岐本は舎弟に命じて神主のところへ話を聞きに行かせる。こんな感じの導入で、今までのシリーズ作品と違って「明確なトラブル」がなく曖昧模糊とした雰囲気でストーリーが進行していく。神主から事情を窺うと、「住民団体の方で『テキヤを排除すべき』という活動が盛んになっていたため逆らえなかった、最近はお寺の方にも住民からの抗議が来ているらしい」というような話を漏らす。流れで寺にも話を聞きに行ったところ、「鐘を撞く音がうるさい」と騒音問題に発展していて……。

 寂れた寺ではあるが別に潰れかけというわけではなく、今回は「立て直しに尽力する」という「いつものアレ」ではないんです。なので「ビジネスとしてのお寺」にスポットを当てるような内容を期待していた人にはガッカリかもしれませんが、話がどこに向かって転がっていくのかなかなかわからなくてワクワクします。寺の和尚もことあるごとに「国が滅ぶよ」と大袈裟なことを言い出すオッサンでキャラが立っていて面白い。ちなみに今野敏とは関係ないが「ビジネスとしての神社」にスポットを当てた『氏神さまのコンサルタント』という完結済み漫画があるので、興味がある方は読んでみてください。

 パターンを外してきているけど、仕上がりとしては「安定の今野敏」で満足度が高い。若い読者からすると「あまりにも淡々とし過ぎている」って不満が生じるかもしれませんが、歳とってくるとこれぐらいサラッとしている方がちょうどいいんですよ。『マル暴甘糟』の「甘糟達夫」も登場するので、“マル暴”シリーズと合わせて読めば面白さが増す……んだけど、問題は“マル暴”シリーズってそんなに面白くないんですよね。マル暴(組織犯罪対策係)の刑事なのに気弱な青年で、ハッキリ言って弱腰。だけど憎めないキャラクターのおかげでヤクザも気を許してしまう……というコメディながら、あまり設定を活かし切れていなくて盛り上がりに欠ける。“任侠”シリーズ以外の今野敏コメディでオススメなのは『膠着』、「くっつかない糊」という失敗作を「くっつかないからこそ売れる!」と営業マンが奮闘するお仕事小説です。


2025-05-06.

・ようつべで配信している『うまゆる ぷりてぃ〜ぐれい』、アニメ版シンデレラグレイに合わせての配信みたいだからシングレキャラをメインに展開していくのかな……と思ったら2話目の「八つ橋村〜名探偵セイちゃんの事件簿〜」で早くもシングレ要素が消失していて笑ってしまった焼津です、こんばんは。単なる『うまゆる』の2期やんけ。

 「セイちゃん」こと「セイウンスカイ」は芦毛なので、「最低でも1人は芦毛が出ていればOK」というゆるゆる判定みたいです。ウマ娘のセイウンスカイは「普段ボンヤリしているのにここぞという場面で鋭い観察眼を見せる」というキャラだから探偵役に抜擢されたのだろう。ちなみに中の人(鬼頭明里)は『虚構推理』のおひいさま(岩永琴子)を演じている。「八つ橋村」の元ネタはもちろん『八つ墓村』なのだが、『八つ墓村』は何度も繰り返し映像化されているため複数のバージョンが存在します。探偵役の「金田一耕助」を演じた俳優も何人もいるし、何なら金田一が出てこないバージョンの『八つ墓村』すらある。金田一役に関しては数多くの映画に出演した「石坂浩二」が印象に残っている人も多いというか、現在流通している「金田一耕助のビジュアルイメージ」を確立させたのが石坂浩二である。ボサボサ頭にチューリップハット、羽織袴に下駄という格好。「高倉健」の金田一耕助とか、ボサボサ頭じゃないしジャケット姿でサングラスを掛けている。「中尾彬」の金田一耕助は予算の都合で現代劇ということもあってジーンズ姿、なんと「ヒッピー」のイメージを強調しています。

 本編以前の出来事だからあまり知られていない設定だが、金田一耕助は若い頃に渡米して阿片に溺れながらフラフラしていた時期があり、「ヒッピーの先駆け」と言えなくもないからそのへんのイメージを拾ったのだろう。サンフランシスコにいた頃に殺人事件を解決し、その際知り合った「久保銀蔵」というパトロン的な存在の働きかけもあって自堕落な生活をやめて日本に戻り私立探偵になった……という流れです。「サンフランシスコの殺人事件」は設定のみで具体的にどんな事件だったかは触れられていないが、山田正紀によるパスティーシュとして『僧正の積木唄』が書かれている。「アメリカ帰り」ということもあってか、実は石坂以前だと「実写版の金田一は洋装」というイメージが強く、原作準拠の和装な金田一像が定着したのは70年代以降、「市川崑」監督の映画版がヒットしてからである。ちなみに石坂版の金田一はトランク片手に移動するシーンが目立つけど、あれは映画オリジナルのキャラ立てで原作にはない要素だ。

 「じゃあこの八つ橋村は石坂浩二版のパロディなのか?」といえばさにあらず。なぜなら「石坂浩二が金田一耕助を演じた実写版の『八つ墓村』」は存在しないからです。CMの「たたりじゃ〜」が流行語になった映画版『八つ墓村』の主演は「渥美清」。原作者の「横溝正史」は興行上の理由とはいえ金田一役の俳優がイケメンばかりであることに不満を感じ、金田一役に渥美清を推した……という経緯がある。ならなぜ同時期にやっていた金田一映画では石坂が出演していたのかというと、配給が違うからです。「野村芳太郎」が監督した『八つ墓村』は「松竹」で、市川崑監督の石坂金田一シリーズは「東宝」。先に映画化が決まったのは『八つ墓村』の方なんですが、製作を巡って角川と松竹が揉めたため「他の作品は松竹以外で映画化しよう」と角川が金田一シリーズの企画を東宝に持ち込み、東宝とはあまり揉めなかったおかげで話がスムーズに進んで『八つ墓村』よりも先に『犬神家の一族』が完成して上映されることになった。遅れて公開された『八つ墓村』も大ヒットしましたけど、角川と松竹の対立は根深く、その後松竹配給の金田一映画が作られることはなかったので麦藁帽を被った渥美清版金田一は一作こっきりとなってしまった。そして当時は映画化権を松竹が握っていたこともあり、石坂浩二版『八つ墓村』も幻となりました。

 要所要所にアイキャッチが入る演出から察するに「古谷一行」のドラマ版『八つ墓村』が元ネタでしょう。映画の公開後に「横溝正史シリーズ」と銘打った連続ドラマが放送されており、2期目の第1作として放送されたのが『八つ墓村』です。古谷版の金田一も石坂版のイメージを踏襲しているので、パロディだとどっち由来なのか区別が付きにくい。なお頭掻いてフケを飛ばす癖は耳をいじる仕草に緩和されている。ぷりてぃ〜ぐれいの前期に当たる無印の『うまゆる』には「謎解きは朝食の前に」という『謎解きはディナーのあとで』のタイトルパロディ回があって、各ウマ娘が著名な探偵のパロディをするシーンが混入していた(トウカイテイオーが江戸川コナン、メジロマックイーンが杉下右京、アグネスタキオンがガリレオこと湯川学、マチカネフクキタルが古畑任三郎)んですが、なぜか金田一パロはなかった。まさか続編で直球の金田一パロをやるつもりだったからあえて出さなかった……? どっちにしろ『うまゆる』の制作陣にはミステリオタクが潜んでいると考えられる。

 最後に「あれ? 『うまゆる』? 『うまよん』じゃなかったっけ?」と首を傾げた方向けに解説しておきますと、ウマ娘のショートアニメは『うまよん』と『うまゆる』の2種類あってそれぞれ別シリーズです。私もたまにどっちがどっちだったかわからなくなって混乱する。整理しますと、『うまよん』は「サイコミ」に連載されていた「熊ジェット」の作画による4コマ漫画が原作で、2020年にアニメ化されました。「原作」と書いたものの「絵柄を熊ジェットに寄せている」程度の意味合いで、エピソードはすべてアニメオリジナル。全12話。円盤特典として更に12話制作されたらしいが、私はBlu-ray BOX買ってないので観たことありません。翌年2021年に熊ジェットがCygamesを退社し、『うまよん』の原作が連載終了。更に翌年の2022年に始まったショートアニメシリーズが『うまゆる』です。絵柄が熊ジェット寄りではなくなっているが、ノリは概ね『うまよん』と一緒なので「『うまよん』の続編」と受け取っているファンが多い。全24話。TVアニメとして放送された『うまよん』と違い、ようつべでの配信主体ですので今でも公式サイトの「EPISODES」から視聴することができます。『うまゆる ぷりてぃ〜ぐれい』はその2期目に当たるが、「ゴールデンウィーク中の施策」という扱いなので全4話と非常に短く、ファンは3期目の到来を待ち望んでいる。

ALcotの新作『Clover Memory's』、2025年末に発売予定

 今頃知って驚いた。ファンディスクを除くと7、8年ぶりの新作ですね。「ALcot(アルコット)」は2003年に設立されたエロゲブランドで、20年以上の歴史を誇っているがアニメ化した作品とかはないのでエロゲ好き以外にはそれほど知られていない。ネタ的な意味では『幼なじみは大統領』というソフトで「イリーナ・ウラジーミロヴナ・プチナ」、あだ名「プーちん」のヒロインを出したことでごく一部に知られている。あと姉妹ブランドが出した『死神の接吻は別離の味』に「なんで? 普通、兄って妹で童貞を捨てるものじゃないの?」という迷言があり、いっときミーム化していたこともあった。

 ブランドデビュー作が「双子の少年と双子の少女が二組のカップルを作る」という異色のゲーム『Clover Heart's』、ブランド10周年を記念して制作したソフトが『Clover Day's』、そしてこの『Clover Memory's』がブランド20周年記念作品であり、ALcot最終作という位置付けになるみたいです。クローバーに始まりクローバーに終わる、ALcotらしい締め括りと言えよう。『Clover Heart's』はちゃんとクリアした(主題歌のサビは今でもたまに口ずさむ)けど『Clover Day's』は10年以上積んだままで、いい加減インストールしないとな……と思ってはいるが、仮にインストールを済ませてもクリアするまでの時間と集中力を捻出するのは難しいだろう。積んでいた『Summer Pockets REFLECTION BLUE』をアニメ化がキッカケでこないだようやくインストールしたけど、30分くらいプレーしたところで放置しちゃっているし。むしろ昔はなぜゲームにあそこまで集中力を発揮することができたんだろうな……。

 発売までに『Clover Day's』をクリアすることができたら『Clover Memory's』の購入も検討したいと思っているが、恐らく難しいでしょう。「低価格ゲーだからすぐにクリアできるはず」と慢心して購入した『終のステラ』すらクリアできず、話が思い出せなくなってきたのでまた最初からプレーし直しているレベルですよ、こっちは。う〜ん、やっぱロミオの文章は心地良いな……。

 ちなみにALcot本体は『Clover Memory's』で解散ですが、姉妹ブランドの「ALcotハニカム」は解散せず継続の方針とのこと。今年のエイプリルフール企画として発表された『なぜ、うちの妹はかわいくないのか?』もハニカムの方で制作中らしいが、本当に完成するかどうかは未知数のようだ。見守るしかない。

百合ダークファンタジー「お前ごときが魔王に勝てると思うな」TVアニメ化(コミックナタリー)

 えっ!? 原作小説の書籍版がもう5年以上刊行止まってるからてっきり打ち切りかと……調べたら今月末に電子版で最新刊(5巻)を出すみたいですね。書籍版の正式タイトルは『「お前ごときが魔王に勝てると思うな」と勇者パーティを追放されたので、王都で気ままに暮らしたい』(Web版は『「お前ごときが魔王に勝てると思うな」とガチ勢に勇者パーティを追放されたので、王都で気ままに暮らしたい』と更に長い)、一種の追放モノです。追放された主人公が女の子で、追放後に出会うヒロインも女の子、というのが若干変わっているところか。「反転」と呼ばれる「使えない」能力のせいで蔑まれ追放された主人公が通常は装備不能な呪いのアイテムを「反転」させたことで一転して無双の存在に……っていう出だしの展開そのものはありふれているが、途中から思いも寄らぬ「モノ」が出てきて物語は更に「反転」します。要するに、人気を取るために当時流行っていた(今ではさすがに下火になりつつある)追放モノのフォーマットに則って書き出しただけで、「作者のやりたいこと」は別にあったと判明する小説です。少なくとも「気ままに暮らしたい」というタイトルから連想されるようなざまぁ系スローライフではない。

 コンセプトが個性的なこともあってなろう系にしてはやや読みにくい部類に属し、マニアックな人気に留まっていたからアニメ化するとはさすがに想像していなかった。電子版は1巻が0円で購入できるし、2巻以降も安いので「個性的な作品、上等!」とガッツのある方はアニメ化前に目を通してみるのも一興です。カクヨムだと「グロテスクな描写多め」というタグが付くくらいグロが目立つ内容だし、正直アニメ化してもメチャクチャ人気が出るとは思えないが、コアな人気は獲得できるかもしれないな。

要チェックですわ〜! コミックシーモア×「BanG Dream!」シリーズコラボCMの制作秘話に迫る(コミックナタリー)

 『BanG Dream! Ave Mujica』テレビ放送時に流れたコミックシーモアのふざけたCMに関するインタビューという、ある意味で物凄く貴重な記事だ。とても公式とは思えない、昔のニコニコユーザーがネタで作った雑MADみたいなCMを3本も制作しているのだが、あの「雑な感じ」はわざと出しているとのこと。あまり完成度が高いと本編のイメージが毀損されかねないので、あえて「1.5次創作」的なクオリティに留めているらしい。「い、今すぐ要チェックですわ〜!」が若干音割れしているのも狙ってのもの。「手の込んだ雑MAD」と判明したからといって「だから何?」な部分もあるが、マイムジの新作アニメでもあんなCMが流れるかもしれないので今のうちに警戒しとこう。

・澤村伊智の『頭の大きな毛のないコウモリ』読了。

 「澤村伊智異形短編集」と銘打たれている通り、あちこち(主に『異形コレクション』)に掲載されたホラー短編をまとめた本です。巻末には「自作解説」も収録されている。「一見バラバラのようでいて、最後にひと繋がりの話だと判明する」タイプの小説ではありませんから、自作解説以外は好きな順番で読んでも構いません。では収録されている作品の紹介と感想を書いていきましょう。

 「禍 または2010年代の恐怖映画」 … 関係者から「呪われた映画」と噂される『禍』の撮影中、次々と現場で怪現象が巻き起こる。作品をPRするSNSのアカウントには「みんな死ぬよ 誰も帰れない」と謎の短文が投稿され、恐怖のボルテージが高まっていく中、それでも撮影は止められない……「8月9日公開予定なのにストーリーの開始時点が6月30日で、まだ撮影が終わってない」と、もうその段階で充分ホラーである。映画は撮影したら終わりではなく、ポスプロ(ポストプロダクション)と呼ばれる編集やCGの追加などを行う後作業が必要なんですけど、撮影終了まで待っていたら間に合わないから撮影と並行して編集等を行う……という、全然「ポスト」じゃない状況で笑ってしまうしかない。作中作の『禍』自体が「『呪われた映画』を撮影中に怪現象が起こる」という話なので、これはフィクションなのか、それともフィクション内フィクションなのか……と読んでいてクラクラします。異常に気付きながら誰も止められない、破滅の谷底へ向かっていくようなホラー映画ホラーだ。

 「ゾンビと間違える」 … 「本物のゾンビ」が発生するようになった近未来、疑心暗鬼に陥った人々の間で「ゾンビと間違えて」ただの人間を殺してしまうアクシデントが続発する。ゾンビの脅威があまりにも凄まじかったため、倫理と道徳はすぐに崩壊した。「ゾンビと間違えたんなら、しょうがない」「むしろ、ゾンビに間違われるような振る舞いをする奴が悪い」 そんな空気が醸成され、邪魔な人間は「誤殺」しても構わないムードが出来上がっていった。家に引きこもって暴力を振るうニートの兄を「ゾンビと間違えたい」と相談しに来た幼なじみに対し、僕は……という末法めいた世界を描く一編。凝った内容の多い本書の中で、もっともストレートでわかりやすい話に仕上がっています。非常に密度が高く、読み終わって40ページもないことに驚く。本書のベストを選ぶとしたらコレかな。

 「縊 または或るバスツアーにまつわる五つの怪談」 … 数年前に開催された、落ち目のアイドルを目玉に据えたバスツアー。そこで発生した怪現象について5つの視点で掘り下げていく、証言形式のホラー。「藪の中」みたいに証言の内容が食い違い、「誰が信用のできる語り手で、誰が信用してはならない語り手なのか」を考えながら読み進める必要がある。と言ってもそんなに複雑な内容ではなく、一人の言っていることを鵜呑みしないでおくだけでいい。最後まで読んでも謎は残るが、ゾッとするような仕掛けがあって背筋が冷たくなります。

 「頭の大きな毛のないコウモリ」 … 2018年、とある認可保育園において乳児の母親と保育士たちとの間でトラブルが発生した。保護者と保育士が遣り取りした交換日記から、トラブルの詳細について掘り下げていく……という、いわゆる「往復書簡形式」で送る怪異譚。最初は冷静な文章を綴っていた保護者が徐々に常軌を逸した記述をするようになり、かと思えば急に正気に戻ったかのように振る舞う、緩急のついた内容です。表題作であるがページ数は少なく、30ページもせずに終わる。試しにどれか一つ読んでみよう、ぐらいの感覚ならコレから読み始めることをオススメします。

 「貍 または怪談という名の作り話」 … タイトルは「やまねこ」と読む。ホラー作家が知人から聞いた怪談について語る内容で、登場人物をイニシャルで表記しているのだが、読み進めるにつれて「これ、人間関係からいっても『〇〇〇〇〇』のことじゃないか?」と気づく仕組みになっています。『〇〇〇〇〇』知らない人ってまずいないですからね。でもそれとストーリーに何の関係があるんだ、と困惑する中、淡々とオチに向かっていく。悪趣味と言えば悪趣味で、人によっては面白さがまったくわからないタイプの話かもしれない。

 「くるまのうた」 … 明確な繋がりを示唆しているわけではないが、一人称が「ぼく」のホラー作家なので「貍」と同じシリーズの作品だと受け取っていいかもしれない。古いHDDをチェックしていたときに見つけた原稿、それは「移動販売車」にまつわる都市伝説について言及したものだったが……という、ただ「不思議な出来事があった」と語るタイプの話ではなく、都市伝説のルーツを辿ろうとするタイプの話で若干謎解き要素もあります。こういう都市伝説ハンターみたいなの、もっと読みたいですね。

 「鬼 または終わりの始まりの物語」 … 「わたし」が「あなた」に向けて語るパートと雑誌編集者の「昌」を主人公に据えたパート、ふたつの視点が交互に進行していって最後に真相が明らかになる、という形式。つまりホラー版「あなたの人生の物語」。物語のスケールが大きく膨らむのを楽しむ小説となっています。

 「自作解説」 … これに関しては一番最後に読みましょう。

 まとめ。気を抜いたところで襲い掛かってくる、この意地の悪さがたまんねぇな、って一冊。短編としての仕上がりがもっとも良いのは「ゾンビと間違える」だが、路線として好きなのは「くるまのうた」。「都市伝説の謎を追う」系のストーリーはやっぱりワクワクするものがある。澤村伊智の作品を読んだことがない、という人も気軽にチャレンジしてみてほしい。


2025-04-19.

・完全新作TVアニメーション『魔法少女リリカルなのは EXCEEDS Gun Blaze Vengeance』放送に先駆けてコミカライズの『魔法少女リリカルなのは EXCEEDS』が始まったから早速読みに行った焼津です、こんばんは。

 まず「魔法少女リリカルなのはって何? タイトルくらいは聞いたことがあるんだけど実は全然知らないんだよね」という人向けにシリーズの発端から解説します。すべての発端は1998年に発売された成年向けゲーム、いわゆる「エロゲー」の『とらいあんぐるハート』である。略称は「とらハ」。「三角関係を題材にした学園青春ラブコメ」……と見せかけて忍者や吸血鬼が出てくるという、かなり何でもありなソフトです。バッドエンドがえげつないことでも有名。ヒットしたため『とらいあんぐるハート2』、『とらいあんぐるハート3』と続編も発売されたが、すべて同一の街(海鳴市)を舞台にしているだけで主人公やヒロインの面子は入れ替わっている。2000年に発売されたとらハ3の主人公が「高町恭也」。で、2003年に本編終了から4年後の未来を描くOVAシリーズ『とらいあんぐるハート〜Sweet Songs Forever〜』が始まった。エロゲーの後日談OVAながらエッチよりもアクション要素を主眼に据えている。このとき監督を担当したのが後に『化物語』や『魔法少女まどか☆マギカ』を手掛ける「新房昭之」。今となっては覚えている人も少なくなったが、この頃の新房は『The Soul Taker〜魂狩〜』(2001年放送)というTVアニメで「5分前納品」なる放送事故スレスレの伝説的な不祥事を起こし、業界から干されていました。そのため変名を使って18禁OVAとかを作っていたんです。とらハ3のOVAは18禁じゃないから変名ではなく新房昭之名義でクレジットされており、このOVAが好評だったため続編ないしスピンオフをTVシリーズでやろうという話になって、引き続き新房昭之が登用されることになります。

 TVシリーズの主人公として抜擢されたのが恭也の妹である「高町なのは」。なのはちゃんはいわゆる「妹キャラ」なのだが、ファンディスク『とらいあんぐるハート3 リリカルおもちゃ箱』に「魔法少女リリカルなのは」という番外編シナリオが収録されていました。これをTVアニメ向けに作り直したのが2004年に放送された『魔法少女リリカルなのは』、ファンの間で「無印」や「1期目」と呼ばれる作品です。サブキャラとして恭也も登場するが、もはや「一部の設定が共通しているだけのパラレルワールド」になっており、とらハとの直接的な繋がりはなくなっています。『リリカルおもちゃ箱』に収録された方の「魔法少女リリカルなのは」も、原作というよりはプロトタイプみたいな位置づけだ。こうしてアニメのリリカルなのはは「とらハから始まった企画ではあるが、パラレルワールドなのでとらハからは独立しているプロジェクト」になっていきます。「魔法少女アニメだけど演出とバトル描写はガチ」ということもあって大ヒット。翌年2005年に続編『魔法少女リリカルなのはA's』が放送され、人気はますます加熱していくが、2007年に放送された3作目『魔法少女リリカルなのはStrikerS』あたりからシリーズが複雑化し始める。

 無印(1期目)とA'sでは小学3年生だったなのはがStrikerSでは19歳に成長しており、世代交代を意識してか後輩キャラが多数登場するようになっている。なのはさん少女時代(10歳〜18歳)の出来事を大胆にすっ飛ばしてしまったことにより、「過程が見たかったのに」と嘆くファンで溢れ返るハメに。「というか19歳で魔法『少女』って……」というツッコミも当時山ほどありました。そんなStrikerSは作画も荒れ気味だった(連続2クールで制作が厳しかったという事情もある)せいで賛否が割れる結果になってしまう。StrikerSの2年後、2009年にはシリーズ4作目となる『魔法戦記リリカルなのはForce』が漫画作品として連載開始。なのはさんは25歳になっており、さすがにもう厳しいからかタイトルに「少女」の二文字はない。Forceは途中で休載し、今や掲載誌も廃刊になってしまったため再開の目処が立たず、「未完作品」という扱いになっていてアニメ化もされていません。Forceと同時期に連載が始まったシリーズ5作目『魔法少女リリカルなのはViVid』は無事に完結しており、全20巻というなかなかの大長編で関連作も含めて2度TVアニメ化しているが、正直アニメはあまりヒットしなかったので扱いが難しい作品となっています。5作目であるが時系列的にはForceの2年前、StrikerSで登場した「ヴィヴィオ」をなのはが養女として引き取っており、ViVidはこの「高町ヴィヴィオ」を中心に進行していく。スポーツ感覚で大会に出場して戦う内容になっていて、魔法少女モノというよりはスポ根格闘モノに近いノリです。

 連載開始から6年近く経過した2015年に『魔法少女リリカルなのはViVid』というタイトルでアニメ化。TVシリーズとしては8年ぶり、通算4期目に当たりますが、タイトルにも入っている「なのは」がサブキャラであること、エピソードが1クール分しかなく半端なところで終わってしまうことも相俟ってあまり話題にならなかった。「分割2クールの予定だったのに、諸事情で2クール目が作られなかった」という噂もあります。そういう事情も絡んでか、BD発売までやけに時間が掛かったのも印象に残っている。翌年2016年にスピンオフアニメ『ViVid Strike!』が放送。TVシリーズとしては通算5期目で、時間軸はViVidの1年後に当たる。「フーカ・レヴェントン」と「リンネ・ベルリネッタ」という新キャラをメインにしたアニメで、ヴィヴィオはサブキャラとして登場するが、なのはは存在を仄めかされる程度で直接は登場しなかった。なので現状TVシリーズの中で唯一「リリカルなのは」を冠していない作品になります。本当はViVidアニメの2クール目ラストにフーカとリンネを登場させて「『ViVid Strike!』につづく」みたいな形でフックを作りたかったのではないか……などと勘繰っている。あと、過去回想シーンでいじめられていたリンネちゃんがいじめっ子たちにやり返すシーンがあるのだが、腕をへし折ったり顔面を蹴り飛ばしたりストンピングで追撃したりと容赦のない描写で半殺しにしていて話題になりました。ここまでの作中の時系列をまとめますと「無印→(半年後)A's→(10年後)StrikerS→(4年後)ViVid→(1年後)ViVid Strike→(1年後)Force」という感じになります。

 『ViVid Strike!』放送翌年の2017年に漫画『魔法少女リリカルなのはViVid』の連載が終了。ここで「StrikerS以降を描くなのは関連タイトル」は停止することになります。同じ2017年の夏、劇場版作品『魔法少女リリカルなのは Reflection』が公開された。1期目の総集編+αの『魔法少女リリカルなのは The MOVIE 1st』、2期目の総集編+αの『魔法少女リリカルなのは The MOVIE 2nd A's』に続く3本目の劇場作品であり、初の完全オリジナル映画でもある。A'sの2年後、小学5年生になったなのはたちが遭遇する事件を描いており、アニメ作品としては初めて「A'sより後、StrikerSより前」の時間軸に触れた内容となっている(StrikerSの回想シーン除く)。Reflectionは前後編の前編に当たり、後編に当たる『魔法少女リリカルなのは Detonation』は翌年2018年に公開されました。ReflectionとDetonationはリリカルなのはの格ゲー『THE BATTLE OF ACES』(BOA)や『THE GEARS OF DESTINY』(GOD)の設定がベースになっているらしいが、私はそこまでカバーしていないので説明は割愛する。Detonationのラスト、成層圏で敵の自爆技によって右手が吹っ飛び体のあちこちが炭化するほど重傷を負ったなのはちゃんはギリギリのところで生還し、物語が終わる。『魔法少女リリカルなのはEXCEEDS』はその2年後、中学生になったなのはたちの活躍を描く。要するにファン待望の「中学生編」がようやく始まる模様だ。長かったな……A'sから20年、まさかこんなに掛かるとは思わなかった。ちなみにA'sの最終話にも中学生になったなのはたちが出てくるが、あれは「6年後の春」なので中学3年生、EXCEEDSの2年後に当たる。

 ところで、なのはの年齢を考証するうえで厄介なのは「誕生日を跨ぐか跨がないかで変わってくる」という問題。とらハ3だとなのはの誕生日は「3月15日」に設定されており、その日にお祝いするファンも多いが、早生まれだと無印やA'sの時点では8歳ということになる(A'sは12月の出来事で、無印はその半年前だ)から公式の「9歳」という説明とは矛盾してしまう。このへん、単純に「綿密な日付考証は行っていないから満年齢に関してはやや曖昧」と受け取った方がいいでしょう。

 まとめると、現実の時系列は公式サイトの年表通りですが、作中の時系列的には「無印→(半年後)A's→(2年後)Reflection・Detonation→(2年後)EXCEEDS」なので、これからなのはワールドに入ってくる人は「StrikerS以降のなのは関連タイトル(StrikerS、Force、ViVid、ViVid Strike!)」を履修する必要はありません。興味があるなら別に観てもいいけど……という感じ。どうも設定を一部変更したみたいだから、EXCEEDSとStrikerS以降は話が繋がらないというかパラレルみたいな関係になりそうなんですよね。StrikerSで「なのはが11歳(小学5年生)のときに大怪我をした」というエピソードが出てくるのですが、その詳細がDetonationとはだいぶ異なる。EXCEEDSがDetonationの「成層圏での臨死体験」というエピソードを引き継ぐ以上、今後StrikerSに繋がることはない。なるべく短時間で「これまでのあらすじ」を知りたいのであれば、「The MOVIE 1st」「The MOVIE 2nd A's」「Reflection」「Detonation」と劇場作品4本を視聴するだけでいい。時間にして500分足らず、8時間ちょっとで追いつけます。さあ君も「モビルスーツ並みの戦闘を繰り広げる魔法少女たち」の世界に飛び込もう!

 漫画新作『魔法少女リリカルなのはEXCEEDS』は13歳になった高町なのはが国連調査機関「エクシーズ」の調査員として機械信奉国家「ダルナヴ」に潜入し、15年前まで内戦状態だったこの国で起こる「ロボット暴走事件」を調査する――と、ひと欠片も魔法少女要素のないあらすじで笑ってしまう。しかし通算6期目に当たる新作TVシリーズのタイトル、EXCEEDSの後ろに「Gun Blaze Vengeance」と付いているってことは、恐らく漫画の内容そのままをアニメにするわけじゃないんですよね。コミカライズはアニメの前日譚に当たるのか? 放送時期さえ不明なのでまだ何とも言えないぜ……。

nonco「カナン様はあくまでチョロい」2026年にTVアニメ化、スタジオKAI制作で(コミックナタリー)

 「カナン様」こと『カナン様はあくまでチョロい』アニメ化だ! 講談社のラブコメ漫画、どんどんアニメ化されていくな。世はまさに大ラブコメ時代。カナン様は2022年から連載を開始した作品で、人間のフリをして学校に通っている悪魔の少女「カナン」が後輩の少年「供儀羊司(きょうぎ・ようじ)」から魂を奪おうとするんだけど、数千年モノの処女である彼女はいざという場面で尻込みしてしまい……という調子で寸止めシチュエーションが続くラブコメです。後輩クンはカナンへの好意をズケズケと公言しており、あとはカナンの対応次第でどうとでもなるはずなのだが、恥ずかしくて最後のひと押しができない。そういう状況をニヤニヤしながら読むタイプの賑やかラブコメである。キャラが増えてドンドン賑わいが増していくのだけど、増え過ぎて初期のキャラはあまり出番がなくなってきているのがやや残念か……「益荒男撫子」という『戦隊大失格』の「撫子益荒男」を逆にしたような名前のちょい個性的なサブヒロイン(羊司の幼なじみ)がいるのですが、最近は存在を忘れそうなレベルで目立っていない。

 魔界へ行ってカナンのパパ(ベルゼブブ)と会うような展開もありますが、主要舞台はあくまで学校であり、ジャンル的には「学園ラブコメ」と捉えてOKです。アニメ化で人気出そうなのは生徒会長の「神龍寺鉄花(しんりゅうじ・てっか)」かな。身長190cmでJカップといういろんな意味で「デカい」人ながら、登場するのが割と遅い(単行本だと6巻)から構成を変えないとあんま出番なさそうなんだよな。ちなみに私の好きなキャラはカナンのお付きのメイド「アミ」と生徒会書記「先走菖蒲」、文化祭実行副委員長「影乃リリイ」です。アミは褐色メイドギャルというシンプルにエロいキャラデザが好感触。先走菖蒲は目閉じ系むっつりドスケベという尖った個性がブッ刺さった。惜しむらくはサブキャラゆえに担当回以外ずっと影が薄い。影乃リリイは陰険ギザ歯ハイライトなし黒瞳という、あまり悪役がいないこの漫画では珍しく怪しい振る舞いをする女の子。出番は会長よりもずっと遅く、8巻になってからようやく……なので恐らくアニメには登場しないだろう。残念。

 エッチさが売りの一つだけど、乳首とかはギリギリ出さない路線の作品だから『よわよわ先生』に比べればアニメ化に対する不安は少ないかしら。カナンの家族とか友人とか、魅力的なサブキャラが多いしうまく捌き切れれば2期や3期も夢ではないほどのヒットも期待できるはず。制作は「スタジオKAI」、ウマ娘の2期と3期、『スーパーカブ』や『シャインポスト』を手掛けたところです。そこまで有名なスタジオではないが、『戦姫絶唱シンフォギア』シリーズの「サテライト」からシンフォギア終了後に移籍したスタッフが中核に収まっているらしく、クオリティは高め。現時点では素直にワクワクして良さそうだ。しかし、カナン様までアニメ化となると「生穴る」こと『生徒会にも穴はある!』(同時期に連載が始まったマガジンのコメディ漫画)のアニメ化発表は秒読みに入ったと見ていいだろうな。あれはエッチというより「下ネタ」路線のギャグで限界まで攻めてるところがあるからなかなか難しいだろうが……最新刊の表紙なんてヒロインの母親がこんな格好してるんですもの。歯医者回では「院院亭歯科」という明らかにアレを意識したネーミングが出てきて、本家に反応されるというchin事も発生した漫画だ。誉れ高い。

『テンカイチ 日本最強武芸者決定戦』、アニメ化決定!

 好きな作品なのでアニメ化してほしいな〜、とは思っていたが本当にするとは。『テンカイチ 日本最強武芸者決定戦』は『我間乱』の「中丸洋介」が原作を担当している武芸者決闘漫画。織田信長が日本を統一して「織田幕府」を開いたifの世界を舞台に、老いた信長が「優勝した者にこの国を譲る」と御前試合を開催させる。天下を欲する武将たちは各自強者を呼び寄せ、御前試合に出場させるが……という話。ストーリーは必要最低限しかなく、後はひたすら殺し合いが続く。詰まるところ『終末のワルキューレ』がヒットして以降雨後の筍の如く増えた「VSモノ」の一つです。if世界とはいえ時代劇なので『駿河城御前試合』(『シグルイ』の原作)を彷彿とさせるが、徳川家康や長宗我部元親といった武将が本多忠勝や宮本武蔵といった武芸者を後援する、という図式は『ケンガンアシュラ』っぽい。

 『テンカイチ』の魅力は「出場する武芸者が全員強キャラで捨て試合がなく、常にどっちが勝つかわからない」ことですね。参加する武芸者は16人、トーナメント形式で勝ち上がっていくので棄権や両者死亡といった事態が発生しなければ15回も試合を行うことになる(一回戦が8試合、二回戦が4試合、三回戦が2試合、決勝戦で1試合)。一般的な話をしますと、トーナメントバトルって真面目に同じペース配分で描いていくと時間が掛かり過ぎるから、どうしても割愛するシーンとか、瞬殺で終わる対戦カードが出てきてしまいがちです。この手の漫画としては珍しく丹念に描いた刃牙の地下闘技場トーナメントもトラブルでマッチメイクが実現しなかった組み合わせがあるし、一瞬で決着した試合もある。『終末のワルキューレ』も捨て試合がないタイプの漫画だけど、あれは団体戦みたいなものでトーナメント形式じゃありません。『喧嘩稼業』の陰陽トーナメントには期待していたけど、休載からもう5年以上経つので諦めムードが濃くなってきた。

 「現実問題として、飛ばし気味になる試合が出てくるのは仕方ない」という常識をブッ壊して「どっちが勝つかわからない試合をひたすらじっくりと描く」バトル好き垂涎の方針を貫いてくれた奇跡の剣戟漫画が『テンカイチ』なのだ。対戦カードは初回で明かされているのでペタッと貼っておこう。

 

 

 もうね、初戦の忠勝vs武蔵の時点で既にどっちが勝つんだかわからない有様なんですよ。戦国時代好きが妄想したかのような死闘に次ぐ死闘がひたすら紙面を埋め尽くしていく。バトル漫画ジャンキーにはたまらない一作だ。最新刊は今月出た11巻、連載開始からそろそろ4年経つが、まだ一回戦すら終わっていない。今7試合目の胤舜vs甚助をやっているところです。次の8試合目(伊藤一刀斎vs小笠原長治)で折り返しだから、同じペースで進行すると仮定しても完結まであと5年は掛かる勘定になる。全体の巻数はたぶん20〜30巻くらいになるでしょう。

 現時点での個人的ベストバウトは第2試合の「風魔小太郎vs冨田勢源」か。小太郎は「六代目」という設定で、なんとおっぱいの大きいムキムキねーちゃんである。『テンカイチ』唯一の女キャラ(性別不詳の奴もいるけど)だが獰猛さが凄まじく、色気はほとんど漂わない(ちょっとだけ感じることはある)。風魔小太郎で女というと、どうしても『装甲悪鬼村正』のアレ(見た目は色っぽいくノ一なのに声はジジイ)を思い出してしまうが、こっちは正真正銘女性なのでアニメ化で付く声もちゃんと女性声優になる……はず。やるとして、誰が声を当てるんだろうな。無難なところで沢城みゆきか? 小太郎に対する冨田勢源は小太刀の達人であり、「目の不自由な剣豪」としても知られている。「佐々木小次郎の師匠」という説もあるが、if世界ということもあってか『テンカイチ』では採用されていない。様々な忍術を駆使する小太郎と超感覚で戦う勢源、半ば人外の領域に足を踏み入れた二人の殺し合いは超絶画力も相俟って迫力満点だ。アニメは来年か再来年の放送で、一回戦の全試合を映像化できるかどうか、って感じですね。1クールだと厳しいが、2クールなら1試合あたり3話使えるから何とかなりそう? 人気が出れば2期目で残りの試合を全部やって完結させられるかもしれない。順調に進んでも2030年くらいの話になるだろうから今から気にしてもしょうがないけれど。とにかくバトルばっかりの作品なんで、作画に関しては心配だらけだ。動かすために3Dアニメになるのかな。3Dアニメって「動かしやすい」だけで費用はかなり嵩むらしいから、現実的に考えると「止め絵の多い2Dアニメ」になりそうな予感。でも楽しみ。

『アトラク=ナクア』後日談『系譜 The next series of Atlach=Nacha』

 存在は知っていたけど、去年公開されていたのか、これ。アリスソフトが制作した18禁ゲーム(要するにエロゲー)『アトラク=ナクア』の後日談です。『アトラク=ナクア』はもともと1997年に発売された『ALICEの館4・5・6』というバラエティソフトに収録されていたコンテンツのひとつで、好評だったため3年後の2000年から単品販売されました。私が持っているのも単品版の方です。『ALICEの館4・5・6』には特典として「オフィシャルガイド」という大型本が同梱されており、そこに収録されていた後日談が「系譜 The next series of Atlach=Nacha」である。なので昔からのファンは内容を知っているけど単品版から入った層は知らない、という微妙な知名度のエピソードです。昔2chか何で概要だけ触れていた人がいたので大まかな内容は知っていましたが、実物を拝むのは初めてだから興奮してしまった。

 「『アトラク=ナクア』やったのはだいぶ昔だから、もうあんま内容覚えてないな……」という人向けに一応解説しよう。無論ネタバレ全開なので注意。後日談の主人公は「初音」、ただしゲーム本編に登場した「比良坂初音」ではなくその娘です。父親は「銀(しろがね)」、最終決戦のときに犯された比良坂初音が孕んだ子で、死の直前にヒロインの「深山奏子」へ卵の状態で託しました。卵だけど胎生なので出産したのは奏子ですね。その際に奏子は人外化しており、後日談でも歳を取っておらず若い見た目のまま。血の繋がりはないが、初音からは「お母さん」と呼ばれている。そういった経緯から、初音の戸籍上の名前は「深山初音」です。心の支えであった「姉様の初音」を喪ってからずっと奏子は正気を失っており、「娘の初音」を姉様と半ば同一視している。生理を迎えたことをキッカケに初音の蜘蛛化が始まり、「自分が人間じゃないかもしれない」事実に初音本人は衝撃を受けますが、奏子は喜びの表情を浮かべて「姉様!」と縋りついてくる。ここ、本編やってると「初音姉様は奏子に蜘蛛の姿を見られるのが嫌で最終決戦のさなかでさえ人間形態に戻ったくらいなのに、奏子は蜘蛛形態も含めて姉様を愛していたんだな……」と切なくなります。「蜘蛛の仔」である己を受け止め切れないまま、母(奏子)と離れ独りで暮らそうと決意する初音。編んでもらった「つやつや光る、月の色をしたカーディガン」を抱き締めて初音が涙をこぼすシーンで物語は幕を降ろします。

 去年、アリスソフトのソシャゲ『超昂大戦エスカレーションヒロインズ』でこの「系譜 The next series of Atlach=Nacha」をベースにしたイベント「あやかしと呼ばれた少女」が開催されたため、それに伴って公開されたみたいです。母娘どっちも「初音」なのでややこしいが、母の方が「比良坂初音」で娘の方が「深山初音」と一応区別されている模様。ただしプレイアブル化しているのは娘の初音だけで、もう一方は比良坂ハツネという「比良坂初音とは似て非なるモノ」になっているみたいです。このイベントで奏子が正気を取り戻し、プレイアブルキャラとして実装されたらしいのだが、なんか『うたわれるもの ロストフラグ』クーヤみたいだな……(元のゲームでは幼児退行したままだが、ソシャゲのイベントで正気を取り戻す)。「系譜 The next series of Atlach=Nacha」だとどう足掻いても悲惨な未来しか待ち受けていなさそうだった深山初音ちゃんが「人外なんて他にもたくさんいるし……」な『超昂大戦』の世界で前向きに生きているらしいの、少しホッコリする情報だ。ちなみに『アトラク=ナクア』は比良坂初音と銀の因縁を掘り下げた過去編に当たる小説版が存在しますが、電子化されていないため現在では入手困難。というより『アトラク=ナクア』自体が現在新品では売っていない(中古でもやや高騰気味だ)し、ダウンロード販売もしていないみたいだから新規の人がプレーしにくい状況なんですよね。エロゲーは詰まるところポルノなので、あまり気軽にアクセスできても困る……という事情もありますが、こうも名作に触れにくい状況は歯痒いものです。

・冲方丁の『十一人の賊軍』読了。

 昨年公開された映画『十一人の賊軍』の小説版に当たる時代長編。戊辰戦争の頃、つまり幕末が舞台です。様々な罪で投獄された入牢人たち10名が、「攻め寄せる薩長軍から砦を期日まで守り切れば無罪放免、褒美も取らす。断れば首を刎ねる」と迫られ、否応なく「官軍」と戦うハメになる……という和製『スーサイドスクワッド』だ。300ページ足らずなのにメインキャラが10人以上、敵サイドも含めれば合計で20人くらいに上る。さすがに一人一人の扱いは薄めになっており、冲方作品としては小粒な部類に属するだろう。だが、時代小説版「L計画」とも言うべき内容で、ラスト50ページの畳み掛けるような展開にはページをめくる手が止まらなかった。逆に言うとそこまでがちょっとタルかったですね。奥羽越列藩同盟に属している藩の中でも「徹底して官軍に抗うぞ!」派と「さっさと新政府に寝返りたいけど他の藩の目があるしなぁ……」派がいて足並みが揃っておらず、新政府軍もできるだけ消耗を避けたいから寝返り大歓迎なのだが、「和平なんぞバカバカしい! 力でねじ伏せれば宜しかろう!」と好戦的な連中が先走っていて衝突は避けられない――という複雑な事情があって、要するに「賊軍」のみんなは「時間稼ぎの捨て石」として差し出されている状態です。上層部が繰り広げる腹の探り合いは可能なかぎり省略し、あくまで話を現場(五頭山の一ノ峰砦)における局地戦に絞って綴っているが、面倒臭い背景があるぶん盛り上がってくるまで時間の掛かる構成です。映画版は現在ネトフリで独占見放題配信中。

 で、小説版を読み終わった後に映画版を視聴しましたが、大まかな要素は一緒だけど細かいところはいろいろ違う。映画には「溝口直正」という家臣でウィリアム・テルごっこをしているイカれた若き新発田藩の殿様が出てきますが、小説版にはいません。他、映画では政が処刑される直前に「待てーい!」と中止の命令が飛び込む展開になっているが、小説版ではまだ牢屋の中にいて、処刑の段取りが整う前に「賊軍」編成の話がやってくる形となっています。入牢人たち10名の個々の罪状も微妙に異なるし、死に方や死ぬタイミングも変わっている。最後に生き残る面子さえ違う。そもそもこの企画、『仁義なき戦い』とかで有名な脚本家「笠原和夫」が1964年に書いた『十一人の賊軍』という脚本のプロットが大元である。第一稿はペラ350枚くらい(ペラというのは200字詰原稿用紙のこと)、一年がかりで執筆した結構な大作(映像化するとペラ1枚あたり約30秒になるので、ざっくり175分、3時間近くの内容)だったのですが、「最後は全員討ち死に」という全滅エンドだったため撮影所の所長に「そんな負ける話なんかやってどうすんのや!」と一蹴されてしまい実現しなかった。どやされた笠原は頭に来て原稿を破り捨てたため、現存しているのは十数ページの梗概(シノプシス)のみ。その短いプロットを膨らませたのが映画版の脚本です。どういう経緯で冲方丁がノベライズを手掛けることになったのか不明だが、恐らく映画の脚本を読まずに笠原の原案を直接小説化したのではないだろうか。それぐらい細部が別物になっています。2時間半とボリューム自体は結構ある映画なのだが、やっぱり11人は多いよな……っていうのを感じてしまった。小説版を先に読んでいなかったら誰が誰だか区別が付かなかったかもしれません。正直、映画に関してはヒットしたと言いにくい。製作費10億円に対して興収が4億円くらいです。

 特にこれ以上語りたいこともないので、以下賊軍の面子についてメモしておきます。十一人もいると名前がスラスラ出てこないもんですからね。小説版だと入牢人たちは基本的に二つ名で呼び合います(映画版はそもそも呼び合わない)が、わかっているかぎり本名を記していく。

  … 本書の主人公に当たる存在。「佐吉」という相棒と駕籠かきをやっている。二つ名もそのまま「駕籠屋」。「おさだ」という口の利けない女房がおり、彼女が乱暴されたことに激昂して7人もの侍をブチ殺してしまう。小説版では輪姦だったが、映画では「仙石善右エ門」という一人の侍に役割が集約され、殺害人数もたった1人に減っています。罪状は当然「殺人」。作中随一のフィジカルモンスター。映画では「山田孝之」が演じたが、「駕籠かきなので膂力が凄まじい」という設定がなくなっているのか、小説版よりも強さがナーフされている印象がある。

 爺っつあん … 本名不詳の牢名主。呼び名の通り老爺で、元は長州藩の侍。「禁門の戦」で朝敵となり、流浪の身に堕ちた。縄の扱いが達人クラスで政みたいな怪力野郎をあっという間に縛り上げてしまう。得意とする得物は槍。後述する「赤丹」の計画の片棒を担いだことで捕縛された。映画版での罪状は「強盗殺人」となっている。飄々としているようでいて死に場所を求めているカッコいい役どころであり、バトル面に関してはもっとも印象深いキャラ。けどクライマックスの地の文で「爺っつあんは……」と出てくるのが間抜けなんで、できれば本名を明かしてほしかった。笠原のプロットでは「小柴彦八郎」が本名ということになっている。映画で演じた俳優は「本山力」、「元長州藩槍術指南、小柴彦八郎!」と名乗りを挙げ、「義によりて御国に逆らい奉る」と痺れる啖呵を切るシーンがありますが、小説版に似たようなシーンは出てきません。あと細かいが小説版では「爺っつあん」、映画版では「爺っつぁん」と微妙に表記が異なる。

 赤丹 … 本名不詳の博徒。読みは映画だと「あかたん」だが小説版では「あかに」になっている。笠原のプロットに読みが表記されていないせいだろう。定住地を持たない風来坊だったが、世話になっていた組が開いていた賭場へ藩の家老衆が通い詰めていたことを問題視され、「家老衆を裁くわけにはいかない」という理由で組の頭と配下が全員斬首されてしまった。そのことを不当に思った赤丹は家老衆の子息たちを賭場に誘い込み、家が傾くほどの銭をイカサマで奪い取って亡くなった組員たちの未亡人や遺児に分け与えた。罪状は「賭博」。映画では「尾上右近」が演じ、狂言回しめいたポジションに収まっている。

 なつ … 旦那が「ご維新だ! 身を立てるチャンス!」と浮かれて脱藩した直後に死亡、貧窮のため女郎になった。客の子を身ごもったためしばらく休業して得意の三味線だけ弾いて過ごすつもりだったが、「腹ボテ女と犯りたい」と言い出した浪人に犯されて流産。ブチギレて浪人をブッ殺した。なので小説版の罪状は「殺人」だが、映画では直接殺害するシーンがなく男の家に放火しているだけなので罪状が「火付け」になっています。紅一点なんだけどお色気展開は特にない。戦闘要員ではなく飯の煮炊きをやらされている。二つ名は「三味線」。瀕死の体で三味線を弾くラストシーンは絵になるので映像で観たいなぁ、と思ったが映画版だと「三味線が得意」って設定自体ないし、最後まで生き延びるので「全然違うじゃん!」と叫んでしまった。映画ではモーニング娘。の元メンバー「鞘師里保」が演じました。

 ノロ … 本名不詳。花火で有名な「片貝」の出身。会話能力に乏しく数語しか喋れないが、火薬や油の取り扱いに長けており、材料と道具さえあれば花火や爆薬を作り出せる。亡くなった兄に似ているらしく、政のことを「あんにゃ」と呼んで慕う。小説版では同じ店に勤めているなつの仇討ちを手伝うため旅籠屋に花火を放り込んだ罪で捕まった。映画版では「地元の花火師の息子」に設定変更されており、罪状も「兄に似ている政を逃そうとした」という「脱獄幇助」になっている。映画では「佐久本宝」が演じた。派手な爆発シーンはだいたいノロの功績なので、キル数に関しては賊軍のMVP。ただ殺し過ぎたせいで終盤マズいことになってしまう。奥羽越列藩同盟を抜けて官軍に寝返りたい新発田藩は寝返りの準備が整うまで官軍を砦に足止めさせたい、つまり単なる時間稼ぎのために賊軍を派遣した(所属が新発田藩であることもわからないよう工作した)ので、官軍の犠牲が多すぎては困るわけですね。命懸けで務めを果たした賊軍の助命を嘆願する人物も出てきますが、ここまで大事になると生かしてはおけない……って感じで、砦を守り切った後も更なる苦難が待ち受けています。

 引導 … 女狂いの坊主。本名はおろか僧名も不明。生殖ことが男女の本懐、と唱えて檀家の娘を片っ端から手籠めにしたことで投獄された。罪状は「女犯」。まさに女犯坊。隙あらばなつを犯そうとする。賊軍の中では珍しく擁護の余地がないメンバー。キャラクターは強烈だが戦闘要員ではなく、死者が出たときに念仏を唱えるのが役目。映画では「千原せいじ」が演じた。

 おろしや … 新発田藩の元藩士。本名不詳。南蛮医学を学び、「武士ではなく医者になりたい」と願って隊を脱走し、いろいろあって「おろしや(ロシア)」行きの船で密航しようとしたが船長にバレて突き出された。本当は「おらんだ」に行きたかったが船がそれしかなかったらしい。罪状はそのまんま「密航」。ヒーラー役で、他のメンバーが怪我をしたら何とかしてくれる。とは言っても物資が乏しいから出来る治療には限界があり、死者が続出する後半になると病んでくる。血の気が多い連中の中で「戦なんてバカバカしい」というスタンスを崩さなかった人。映画では「岡山天音」が演じた。小説版と違って普通に戦おうとしていたな。

 三途 … 食い詰めた農民。本名不詳。大雨による河川氾濫によって田畑がダメになり、貧窮の末に女房、子供、母親を全員殺して自分も後を追おうと川に身を投げたが、岸に打ち上げられて死に損なった。既に正気を喪失しており、ほぼ言葉が通じない。罪状は「一家心中」。「川」に人生を狂わされたせいか、川に対する執着心が強い。冲方作品でたまに出てくる「まともな会話が成立しない枠」。映画では「松浦祐也」が演じた。普通に喋っているから小説版に比べてキャラが薄め。

 二枚目 … イケメン農民。本名不詳。庄屋の女房を寝取ったが、恥かくことを嫌った庄屋が不義密通ではなく「こいつが一揆を企てた」という理由で訴え出た。映画では「侍の女房と恋仲になった」ということになっており、罪状は「姦通」。小説版だと「実はスパイ」という設定なんだが、映画版じゃその設定がなくなっており、やたらヒロイックな死に方をするので小説版よりインパクトがあるかも。映画では「一ノ瀬颯」が演じた。

 伊藤五右衛門 … 「鷲尾道場」という剣術道場の門人。いずれ始まる戦に備えて無辜の民百姓を女子供の区別なく斬り殺しまくっていたサイコパス。二つ名は「辻斬」。捕縛しようとする兵士郎たちのもとから逃げ出すも、居合わせた政に叩きのめされお縄となった。以来、幾度となく政に勝負を挑むが悉く躱されている。罪状は「辻斬り」。ただのシリアルキラーなんだけど戦闘要員としては頼もしい奴。映画では「小柳亮太」が演じた。小説版と違って早い段階で死ぬし、政や兵士郎との因縁も割愛されているのでちょっと記憶に残りにくい。

 鷲尾兵士郎 … 「鷲尾道場」の道場主、「直心影流」の使い手。入牢人ではないので二つ名はない。佐幕派の藩士で、官軍の足止めが終わった後は「藩命を受けてではなく勝手に行動した」という名目で首を刎ねられる手筈となっている。決死隊として砦に詰めるはずだった門人たちを政とのトラブルで全員死なせてしまうという失態により、入牢人たちと組むことになった。政に非はないことがわかっているので、何としても彼を助けたいと思っている。映画版では旧知の相手から「お前は入牢人じゃないんで投降すれば生かしておいてやる、他の連中は皆殺しだけどな」という話を持ち掛けられ「儂は賊ら……十一人目のな」と呟いてタイトルを回収するシーンがあった。映画では「仲野太賀」が演じた。なお兵士郎の他に入牢人たちを監視&督戦する「入江数馬(隊長)」「荒井万之助(普請役)」「木暮総七(首切り人)」といった面々も登場しますが、こいつらは新政府に寝返って生き延びる予定なので賊軍にはカウントしない。それと数馬の妻「加奈」は巴御前に喩えられるほど肝が据わっており、サブキャラの中ではもっとも印象に残っている。

 で、映画と小説どっちが良かったの? と訊かれると、少々悩ましいところだが綜合的に判断すれば小説版の方かなぁ。政やなつ、辻斬あたりに関しては映画よりもずっとキャラが立っていますし、細部の作り込みも良いというか映画はどうしても「尺が足りない」と感じる部分がある。けど、一方で映画版の堂々と名乗りを上げる爺っつあんやタイトル回収をする兵士郎も捨てがたく、「可能なら両方味わった方がいい」って結論になります。



管理人:焼津