2014年7月〜8月分


2014-08-23.

イラストレーター鵜飼沙樹先生、ラノベ2作品の挿絵を同時降板(わなびニュース)

 「この調子だとグラウスタンディアもイラストレーターが変更になっちゃうのかな……」と書いたが本当に変更とは。『グラウスタンディア皇国物語』は去年始まったHJの新シリーズの中でも特に調子が良い部類に入っていたものの、イラストがネックになっていたのか発売の延期傾向が目立っていました。仕事の受け過ぎでキャパシティを超えてしまったとか、そういうパターンかしら。変更を残念がる気持ちと「3巻が年内に読めるみたいでよかった」と安堵する気持ちが半々です。

エロゲーのセリフとCGって結構矛盾してることが多いよな?(2次元に捉われない)

 プロット段階、つまり「このシーンは大まかに言ってどんな場面であるか」だけを決めた段階でCGが発注されるのか、いざシナリオが上がってみると描写に食い違う部分が……ということはちょくちょくありますね。記憶に残っているのは『恋する乙女と守護の楯』。スプーンで食事しているはずなのにCGでは箸を使っていたり、被弾して左手が動かなくなったと言いつつCGでは右腕の怪我を左手で押さえていたり、スカートじゃなくてズボンを履いているのに「スカートの裾をつまんで見せる」とあったり。そもそもこのゲーム、「壁を粉砕する威力の麻酔銃」が出てくるようなアレっぷりなので、細かいことを気にしていたら楽しめません。考証を脇に措いてプレーすれば充分にエキサイトできる一本です。一時はアニメ化の噂もあったくらいだけど、結局実現しなかったな……正直アニメ化しなかったこと自体はどうでもいいけど、もしアニメ化するくらい人気が出ていれば続編も発売されていたかもしれない。その点に関しては残念である。

『インシディアス 第2章』を観ました。(11月5日に半額程度の廉価版が出ます)

 BGMでジワジワと不安を盛り上げた末に大音響でドーン! みたいな、神経に障るタイプのホラー映画。レンタル屋でBDを見かけ、前作『インシディアス』が私にとって素晴らしく怖い出来だったこともあり手を伸ばしてみた。こういう続編モノは大抵ダメになっちゃうのがほとんどで、実際『インシディアス 第2章』も「ホラー映画としては」完全に蛇足である。新居で多発する怪現象の原因を探っていくうちに「元凶」とも言うべき存在にブチ当たるのが『インシディアス』の大まかなストーリーでしたけど、結局この「元凶」の正体が何であるのか最後まで不明のままだった。投げっぱなしというわけではなく、「人知を超えた正体不明の何か」というイメージが無制限に恐怖を呼び込んでいたわけです。しかし、今回は「元凶の正体」を巡ってストーリーが進行していくため、ホラー要素はかなり減退してしまった。人は化け物自体よりも、「化け物の影」により強く怯える習性があります。恐怖心とは本来「内なるもの」で、対象が顔を見せない間は際限なく膨らんでいきますが、いざ対面すると「あ、こんなもんか」と見切って冷静になってしまう。前半こそちょっとハラハラしたものの、謎解きに掛かる後半はハッキリ言ってあまり怖くありません。お化け屋敷めいた魅力に関しては明らかに一作目の方が上です。

 なので、この手の映画を観て単純にワーキャー叫びたい人にとっては不満の残る一本でしょう。けれど、「前作の未消化だった部分にケリをつける」という点では興味深い内容で引き込まれました。観て即座に悲鳴を上げたくなる痙攣的恐怖は失せたものの、怪現象の背景がいくらか見えてきたおかげでジワッと肌に忍び寄る薄ら寒い恐怖は却って増した感がある。何と言うんですかね、前作は「ベッドの下から刃物を持った男が這い出してきた!」路線の割合ストレートな怖さがウリでしたけど、今回は「ベッドの下に刃物を持った男がいる……気づかないフリをして逃げよう、と思った矢先に目が合った!」みたいな、若干ラグのある怖さなんですよ。絶叫系ではない、絶句系のホラー。単なる不意打ちよりも「気づいたことに気づかれた」瞬間の方が怖い、って人には第2章がオススメです。前作観てないと基本設定が飲み込めず何が何だか、ってなりますから一作目も併せて視聴するとモアベター。

 ただし、やっぱり「ホラー映画は『未知の恐怖』があってナンボ」という方はスルーした方が良さげです。正体が判明して「コワイというよりキモイ」っつー気分になりましたし。「元凶」の倒し方も予想以上に直球と申しますか豪快な力技で笑っちゃいましたし。カンフーを使う神父が出てくる『ブレインデッド』ほどのブッ飛んだ爆笑ぶりではないので、笑いを期待して観ると肩透かしでしょうが……にしても、あれの監督が『ロード・オブ・ザ・リング』を撮ることになるなんて、世の中ホントにわからないもんですね。ラストシーンはちょっと思わせぶりな一言で締め括っていますが、これは第3章をやる気満々ってことなのか? さすがにまだ続けるとなるとホラー映画としてではなく純粋に映画として蛇足になりかねない気がしますが、さてはて。ちなみにこの映画、「パーカー」という名前の重要人物が登場します。直前に『PARKER/パーカー』を観ていたせいか「マイネームイズパーカー」と囁きながら「元凶」どもを容赦なく薙ぎ倒すステイサムの姿を幻視してしまった。

・拍手レス。

 ダッシュエックス文庫の宣伝小冊子見る限りでは紅は完全新作みたいですね。でも同レーベルで既刊の再刊行とかするんだろうか。もしそうだとしたら星海社のしずるさんみたいに書き下ろしのおまけ追加とかは止めて欲しいところです…。3〜4ページの書き下ろしのために買い直すのはなあ……。
 たぶん新作の反響次第で新装版を出すかどうか考える、ってところじゃないでしょうかね。アニメどころか漫画版すら終わって間が空いてしまったし、集英社としても慎重に様子見したいところなのでは。


2014-08-16.

・連休を利用して『ロード・オブ・ザ・リング』3部作(と『ホビット』2作)を一気観した焼津です、こんばんは。

 ただでさえ長い映画の、しかも今回観たのはスペシャル・エクステンデッド・エディション(SEE)ですからね……観れども観れども終わらず、正直途中で何度か寝てしまった。『ロード・オブ・ザ・リング』は言うまでもなく大作であり、あまりにも長すぎることから劇場版では多数のシーンがカットされました。それでも各3時間くらいあるので、きっと映画館で鑑賞した人はケツが爆発しそうになったことでしょう。劇場公開版に相当するコレクターズ・エディション(CE)へ新規映像を追加した(正確に述べると削除していたシーンを戻した)、いわゆる「ディレクターズ・カット」に当たるのがSEEというわけです。CEは178分と179分と201分の合計558分で、9時間ちょっと。SEEは大幅に映像が増量されており、208分と214分と250分の合計672分。なんと11時間を超えます。エロゲーの時間感覚(コンプするのに20時間とか30時間とか)に慣れていた頃だったら「短いな」と思ったでしょうが、今では連休という機会でもないと観通せない長さですよ。感想は長くなるので省略しますが、端的に言うとすげぇ面白かったです。今まで食わず嫌いしていたことを悔やむぐらい。第一部「旅の仲間」は説明が多くストーリーの進行も遅くてちょっとかったるかったけれど、第二部「二つの塔」で一気に話のスケールが拡大して興奮度が倍増しになり、完結編「王の帰還」では溜め込んだ熱量が盛大に炸裂する。合戦シーンのスペクタクルは実に見物でした。

 ストーリーは「なんか世界を滅ぼしかねないくらいヤバい冥王が再臨しそうなので、復活の鍵となる指輪を捨てに行く」と大雑把に要約することもできる。指輪は非常に頑丈で魔法や武器によって破壊することはできず、ただ一つ敵陣にある火山へ潜入して火口に投げ込む以外処分の方法がない。全面戦争を避けるために潜入任務は少数精鋭で行うしかなく、人間よりも背の低い小人族(ホビット)の少年がそのへんのスネークよりも遥かに苛酷なミッションへ従事することになる。指輪は持つ者の精神をボロボロにするので、完結編あたりになると主人公フロードー(訳によってはフロド)はさながら幽鬼の様相を示す。「この旅に帰路はない」と呟いたり、悲壮な表情を見せるシーンもあって予想よりも重たかった。

 小ネタ的なところでは、スメアゴル(通称ゴラム)の「ゴラムゴラム」という変な咳で伊丹伽楼羅の「うぉんむうぉんむ」を思い出した。あと『らくえん』というエロゲーに指輪のBL同人ネタがあったせいで「サルマン、お前の杖は折れた!」「クソッ、白濁のガンダルフめ……!」とか想像してしまった。そして「フフ、お前の杖も折れたぞ……」とナズグルが参戦してくんずほぐれつ。戦闘シーンではレゴラスの盾サーフィンや戦象撃破が鮮やか過ぎて目が点になった。あいつのパラメータ、2周目とかじゃね?

 続編としてフロードーの養父ビルボを主人公にした『ホビット』も3部作で映画化されている最中だが、原作だと発表はこちらの方が先。子供向けの小説として書いた『ホビット』『ホビットの冒険』で馴染んでいる人も多いかもしれない)が人気を博し、続編として『指輪物語』も世に出ることになったのです。ゆえにいきなり『指輪物語』から読み出そうとすると、ホビットに関する説明が延々と続いて肝心の旅がなかなか始まらないことに焦れてしまい、挫折する恐れがあります。原作から入る場合はホビット→指輪の順で読むのがベター。『ホビット』は『指輪物語』のスタート地点から60年も遡った、映画としては前日譚(プリクエル)になるわけだが、原作が文庫本で2冊程度しかないため設定資料集に当たる追補編からもネタを引っ張ってきているらしい。曲がりなりにも大長編映画として成立していた『ロード・オブ・ザ・リング』に比べると、『ホビット』はやや間延びした印象を受けます。テレビドラマ4話分をまとめて劇場で上映したかのようであり、「無理してこんな大作映画にしなくても……」と思わないでもない。反面、部分的とはいえ指輪ワールドをじっくり描いてくれるので、ファンムービーとして観れば上出来過ぎるほど上出来である。あまりの壮大さに疲れるところもある『ロード・オブ・ザ・リング』と違って、長いことを除けば(エクステンデッド・エディションは3時間もある)肩の力を抜いて鑑賞できる程好い娯楽ファンタジーに仕上がっています。「『ホビット』はイマイチ」と聞いていたのであまり期待していなかったけれど、充分楽しめました。完結編『決戦のゆくえ』は今年の12月13日、アメリカよりも早く先行公開されるそうな。劇場で観たい映画が増えちゃいました。果たして私のケツが保つかどうか……。

集英社の新ラノベ文庫、矢吹健太朗らイラスト(コミックナタリー)

 というわけでだいぶ前から情報が漏れていたダッシュエックス文庫の創刊が遂に公表されたわけですが、こ、これは果たして幻覚なのだろうか。「創刊3カ月のラインナップ」の中に「片山憲太郎×山本ヤマト「紅 kure-nai」」とあるんですが……。

 復ッ活! カタケン復ッ活! この日をどれほど待ち侘びたか。ただ、『六花の勇者』にはちゃんと「5」って巻数が書いているのに『紅 kure-nai』の方は何も書いてないところを見ると、新作なのかリメイクなのか、はたまた単なる新装版なのか現状では判断付きかねるところです。コミックスの限定版に付けていたOVAをBD化する(予想であって具体的にそういう話があるわけではない)ので、それに合わせて新装版も発売……という程度のことかもしれない。言わずもがなの解説をしておきますと、『紅 kure-nai』の小説版はナンバリングがなく、一話完結方式で進む体裁になっています。1冊目が無印の『紅 kure-nai』、2冊目が『ギロチン』、3冊目と4冊目が『醜悪祭(上・下)』。5冊目……というより4.5冊目に相当する『紅 kure-nai 公式ファンブック』を最後に続刊が出なくなり、以来6年に渡る沈黙が続いていました。その間に漫画版が完結した(連載期間は2007年から2012年まで)ため『紅 kure-nai』の企画そのものが終わったような印象を周囲に与えたが、原作に当たる小説版は全然終わってなどいなかったのです。ファンはみな再開を待ち望んでいました。なので、一番喜ばしい可能性は「純然たる新作、5冊目の小説版」だけど、「新作を出すために布石として打たれたリメイク版」であっても構わない。怒りの庭事件と醜悪祭事件でドン底に叩き落された2008年当時と比べて、私も気長になりました。もっともガッカリするパターンとして考えられるのは、既刊4冊を単なる新装版として出して終わり、って奴ですね。カバーイラストや本文イラストは描き直されるでしょうが、小説としての書き下ろし要素が何もナシだったらカタケン信者の心は報われぬ。『醜悪祭』が合本して1冊になったりしてもそんなに分厚くなるわけでもないし、さほど嬉しくない。お義理で買い直しはしますが、漏れ出る溜息は消せないはず。新作を。何が何でも新作を希求したい。欲を言うなら、カタケンのもうひとつの代表シリーズである『電波的な彼女』(時代は異なるが舞台となる世界は『紅 kure-nai』と一種)も……期待しすぎてはならない、と己を戒めたいが、期待せずにはいられない。望みは高く持ちたい。見上げれば銀河、眼下には奈落。

 カタケン以外に目を向けると、「王雀孫×えれっと」なる記述もある。刊行予定に一回だけ掲載された『始まらない終末戦争と終わっている私らの青春活劇〜おわらいぶ〜』のことなのか。これが本当の「王の帰還」なのか。マイプレシャス! もし刊行取り下げとかいう事態になったらゴラム並みのキレ顔で掴み掛かる自信がありますわ。あとの面子は、SDの流れを汲む顔触れ(アサウラ、丈月城、松智洋)と複数のレーベルで活躍している傭兵(マーセナリ)な方々(榊一郎、新木伸、春日みかげ、神野オキナ、十文字青、杉井光、鈴木大輔、築地俊彦)、そして引き抜きとおぼしき野村美月で構成されている。野村美月はほぼファミ通文庫の専属状態で、『羊くんならキスしてあげる☆』のビジュアルファンブックアンソロジー『寮の七日間』などの例外を除けば他社から本を出したことはない。それにしてもダッシュエックスって、ぶっちゃけパッとしない響きだな……まんたんウェブの記事によると「「スーパーダッシュ文庫」が創刊から14年たち、読者の年齢層が上がったことを受け、若い読者を取り込むことが目的。想定している読者は中、高、大学生。「スーパーダッシュ文庫」は存続するが、「ダッシュエックス文庫」がメインのラノベレーベルとなる」とあり、恐らくスーパーファンタジーからスーパーダッシュに移行したときと同じ流れになるのではないかと推測されます。来年か再来年あたりを目処に既存のシリーズを終了ないし移籍させてスーパーダッシュの方は畳むんじゃないでしょうか。「看板の付け替え」という印象は拭えないが、「出版社は大手なのに場末感が漂うレーベル」から脱却して安定的にシリーズを続けられる環境になるならそれでいい。面白くなってきたな、ってところで打ち切りになるのはもう沢山なんですよ。

まんがタイムジャンボ連載『レーカン!』TVアニメ化決定!(萌えオタニュース速報)

 この流れに乗って『どろんきゅー』もアニメ化しよう。さておき『レーカン』は霊感体質が強くて幽霊を「そこにいて当たり前のモノ」と認識している少女・天海響がホンワカとゴーストライフを送る学園物で、幽霊は苦手なんだけど響のことを気に掛けている「ツンデレ」こと井上成美が可愛い4コマ漫画です。邪推気味に見れば百合として楽しめなくもない。芳文社ということで「またきらら系のアニメか」と思われそうですが、『レーカン』、それに『どろんきゅー』はノットきらら系です。かつて「萌え4コマ」はきらら系の専売特許みたいな空気があったものの、最近は各誌でもそういう作風が根付いて「きらら系とそうでないもの」の区別が付きにくくなってきました。あと数年もすれば「きらら系」なる用語そのものが形骸化するかもしれません。普遍化、というよりは浸透と拡散か。

・羊太郎の『ロクでなし魔術講師と禁忌教典(アカシックレコード)』読んだ。

 第26回ファンタジア大賞「大賞」受賞作。作者名は「ひつじ・たろう」と読む。大谷羊太郎が念頭にあったので、ずっと「ようたろう」だと思っていました。ファンタジア大賞はかつて「ファンタジア長編小説大賞」と銘打ち年に一回のペースで運営していたが、第24回から名称を改めたうえで毎年2回、前期と後期に分けて募集を行っている。なんかここ最近賞持ちの新人が多くなったな、と感じたのは気のせいじゃなかったのです。たとえば、2009年から2011年までの3年間に何らかの賞を獲った新人は12人いましたが、2012年から2014年までの3年間には20人もの賞ホルダーが生まれている。獲っただけでデビューを果たしていない人もいますし、少し前に「富士見ラノベ文芸大賞」という新しい枠組みができたので、実際にファンタジア文庫から出た(及び出る予定の)新人は15人くらいですけどね。

 ともあれ『ロクでなし魔術講師と禁忌教典』、本書のストーリーを要約すると「ニートの青年が社会復帰のために魔術学院へ非常勤講師として送られ、美少女たちと仲良くしているうちに厄介事へ巻き込まれて大活躍!」といったふうになる。なんか前回紹介した『監獄学校にて門番を』と重なる設定だが、「ニート生活はもうイヤだ! お祈りメールはもう欲しくない!」とそれなりに勤労意欲を燃やして就職活動に励んでいたあちらと違って、こっちは親代わりの女性に縋ってスネを齧る気満々、筋金入りの「働きたくないでござる!」さん。「穀潰しはいらん」と追い出され、渋々非常勤講師をやることになった主人公は勤労意欲や遣り甲斐とは無縁。辞められるものだったらさっさと辞めたい、と無気力に自習連発の授業を繰り広げて真面目な生徒から怒りを買う。この「真面目な生徒」がヒロインのシスティーナ=フィーベル。輝く銀髪がトレードマークであり、主人公からは「白猫」と呼ばれている。極白のシスティーナ。間接キスなんて全然まったく何も気にしなさそうだ。いい加減すぎる主人公を毛嫌いしながらも生来の真面目さから無視できず突っかかるシスティーナを、「生意気」と弄り返す主人公。ふたりの遣り取りを面白いと思えるかどうかで本書を楽しめるか否かがほぼ決まってきます。なんというかこの掛け合い、相良宗介と千鳥かなめを彷彿とさせるな……と思っていたら案の定、あとがきで作者がフルパニファンだと判明した。ライトノベルにハマるキッカケとなったらしい。

 態度は不真面目でも実は有能で本気出せばスゴイ的な、よくあるパターンだろ? と勘繰ったアナタ、正解(ピンポン)です。途中からやる気を出した主人公はそれまでとは一転、生徒たちが瞠目するような画期的授業をやってのける。この授業シーンがちゃんと後々のストーリーに関わってくるので、「魔術学院」が単なる舞台設定に留まっておらず、なかなかキメ細かい造りと言えます。しかし、主人公は決して才能に恵まれた魔術師ではない。たとえば早撃ち(クイックドロー)の如く即座に魔術を放つ「一節詠唱」が彼には出来ない。そのためキレたヒロインの持ちかけた決闘に臨んだ際、詠唱が間に合わずボロ負けしてしまう。適性がないにも関わらず、血の滲む努力を礎にしてどうにか人並み以上のレベルまで達した。けれど、過去の出来事が原因で挫折してやる気を失った……そういうクチです。あくまで主人公を中心にして読むと、これは一種の再生ストーリーなんですよ。「未来ある若者たち」が紡ぐ希望によって彼自身が前向きになっていくという。

 後半は「学園に侵入してきたテロリストが(以下略)」とお定まりの展開に突入し、「またこのパターンかよ」と辟易してしまったが、主人公の能力が「チート」という域には達していないこと、日常シーンのコメディチックな会話がちゃんと軽妙に仕上がっているおかげで個々のキャラが立っていることなどから、ベッタベタでもなんとか乗り切ることができている。やはり前半の面白さに比べると後半がビミョーだと感じるが、このへんに関してはシリーズが進んで物語の枠が広がっていくにつれだんだんと良くなっていく部分だろうと予想する。トータルバランス型で突出した部分はないにせよ、まだまだ成長の余地はあるしもこれからに期待が持てる新人だ。2巻の発売は11月を予定しているとのこと。ここから更に学園要素を高めて盛り上げていってほしい。

 しかし女子の制服、ぜかましコスに見えてしょうがねぇな……こんなんが街歩いてたら娼婦かと思うわ。

・拍手レス。

 あかん…ついつい懐かしくなってクロスチャンネルのPS3移植版をポチった翌週にPC版コンプ版発表。。。いい加減にしてくれと思いつつ、押入れから発掘した設定資料集のトモダチの塔を再読してしまう。
 私は無印版しか買っていませんので、トモダチの塔に関しては概要を聞き及んだだけなんですよね。最近ロミオの話題が多くて、おたまも再プレーしたくなってきた……そしてついクロアプが心入れ替えておたまの完全版を出した世界線とか夢想してしまう。

 片山憲太郎先生の紅が復活されるそうですね!電波的な彼女も復活希望。
 ただの新装版ではないのか? など、半信半疑の部分があって喜び切れないですが、とりあえず一歩前進……かな。


2014-08-11.

るーすぼーいの新作が出ると聞き、「で、『太陽の子』は?」と真っ先に訊きたくなった焼津です、こんばんは。

 スタッフの豪華さで話題になった一本だが最後の更新からもう2年以上、全然音沙汰ナシ。情報が出たのは2009年頃だという話だから、そろそろ5年経ちます。ぐぐって思い出したけど、そういえばLeafも『ジャスミン(仮)』やらいう新作を告知してたっけなぁ……まったく続報が来ないのでスッカリ忘れていた。こっちは公式ページすら見つかりません。昔はあったらしいけど消したのかな? 当時のニュースが辛うじてヒットする程度。シナリオは涼元悠一が手掛けるとのことだったが、彼がまだLeafに残っているのかどうかもあやふやな状況である。リンク先の記事読んで連鎖的に思い出したけど、Leaf(AQUAPLUS)は『うたわれるもの2』の続報もねぇな。代表取締役の下川直哉は去年の末にツイッターで「めっちゃ社内はうたわれ2の開発が本格的になってる」と発言していますが、さて。脱線したので話を戻すと、るーすの新作。タイトルは『ぼくの一人戦争』だそうです。『ひとりぼっちの宇宙戦争』を彷彿とさせる。有葉原画の新作としても結構久々だ。FDや複数原画タイトルを除けば2010年の『置き場がない!』以来である。

 ひょっとすると「るーすぼーい? 誰それ?」な方もおられるやもしれませぬのでザッと解説。「るーずぼーい」とたまに間違われるシナリオライターであるところの「るーすぼーい」は同人ゲーム界出身であり、この名義を使い始めたのは2004年の『夏の燈火』からです。2本目となる同人ソフト『A Profile』(2005年)が小規模ながら話題になってマニア間に名前が広まった。余談だが同人時代のサイトが消滅してしまったため『A Profile』で検索すると上から2番目か3番目くらいにうちのサイトの感想文が引っ掛かる。ページそのものは「有葉と愉快な仲間たち」に移転しているので詳しい情報はそちらを参考に。2005年11月、3本目にして商業デビュー作となる『車輪の国、向日葵の少女』をリリース。これがキッカケでるーすは一躍有名人となります。今では名作との呼び声も高く、「アダルトゲーム初心者にオススメのソフト10本」とかの企画をやると高確率でラインナップに加わりますが、実のところ発売当初はあまり売れなくて初回版がダブつきそうになった。体験版に三ツ廣さちのエピソードを丸々収録するという大胆な広報展開まで行ったが、あかべぇの前作『魂響』がユーザーたちにとって期待ハズレな出来であったため敬遠されたみたいです。加えて、題名でどんな内容かイメージし辛かったことがネックになった。『魂響』がどれだけ不評だったかというのは、「移植に際してライターが変更されシナリオも全文書き直しになった」という事実から察していただきたい。『凌辱side』という本編の内容を一切無視したスピンアウト(公式二次創作?)まで発売されて、あかべぇはしょっぱなから迷走感を漂わせていました。しかし、『車輪の国、向日葵の少女』は「刑罰の代わりに『義務』が課せられる架空の国」を舞台にしたヒューマンドラマであり、主人公が最初から「平凡な少年」ではない点がよくある学園モノと一線を画している。口コミで評判が広がるにつれダブつきも解消され、むしろ初回版が高騰する事態に。個人的にはヒロインたちよりも、主人公の前に立ちはだかる存在、「とっつぁん」こと法月将臣が印象的です。「いわれたことしかできない人間を三流」「いわれたことを上手にできてる人間で、ようやく二流」「森田はいつになったら一流になるんだ?」などのセリフは方々で引用されていますね。実際に聴かないとニュアンスがわかりにくいけど「リラックスしていいぞ」も物真似したくなる一言だ。

 「車輪のシナリオは4ヶ月で書き上げた」と豪語するほど速筆だった(過去形)るーすぼーいは翌年2006年に『A Profile』のリメイク完全版である『その横顔を見つめてしまう』、更にその翌年2007年に車輪のFD『車輪の国、悠久の少年少女』と、本格的な新作こそないが精力的に執筆活動を続けた。『車輪の国、悠久の少年少女』は「法月編」「ヒロイン編」「番外編」と3つのシナリオを収めたFDで、とりわけ法月編は人気があり、移植版の『車輪の国、向日葵の少女』にも併録されている。各ルートの後日談に相当するヒロイン編は移植版に収録されていないみたいだが、それも仕方ないか……という内容です。あくまで後日談なので「『義務』か……そんなのもあったな、懐かしい」と言わんばかりのストーリーになっていて、もうこれ車輪の国である必要がないな、という。『車輪の国、向日葵の少女』以来となる(そして現時点での最新作である)完全新作、『G線上の魔王』が発売されたのは2008年5月だったが、だいぶ制作に難航したのか何度も延期が繰り返されました。当初は2007年11月くらいの予定だったので、結局半年くらい延びたことになる。その間にいわゆる「怒りの庭事件」が勃発し、「『G線上の魔王』も同じ惨状(未完成)になるのでは……?」と危惧されたものでした。結果としては杞憂に終わり、無事完成品として世に出ました。

 が、ここからるーすぼーいの長い沈黙が始まる。2009年に声優として『真剣で私に恋しなさい!』に出演(下北沢君役)したり、前述した『太陽の子』という企画を立ち上げたりしましたが、こちらはなかなか形にならず。雑誌付録のオマケシナリオなどを除けば目に見える活動がほとんどない状態に陥った。2010年発売の『光輪の町、ラベンダーの少女』が「車輪の続編」と喧伝されたものの、るーす本人はこれに関わっていない。「もうるーすはライター業から足を洗った」という噂の信憑性が高まっていく中で『ぼくの一人戦争』なる新作の発表が来たわけですから、ファンは「で、『太陽の子』は?」と思いながらも欣喜雀躍したのであります。今年、2014年はるーすぼーいにとってもライター業10周年を迎える節目の年であり、「実際にライターとして活動していたのはその半分程度だよね」と揶揄されつつも注目を浴びている。

WHITESOFTが「ギャングスタ・アルカディア」に関するお詫びを掲載(【2ch】ニュー速VIPブログ(`・ω・´))

 銃騎士のときほど話題になってないし、このまま有耶無耶になるのかしら……とボンヤリ眺めていたところへこのニュース。「一部カットでミヤスリサ様にご承諾を得ずご本人以外の方に作業をお願い致しましたカットもあり」と、ユーザー間で囁かれていた「一部のCGはゴーストドロワーの手によるものではないか?」という疑惑も肯定されています。この期に及んで製品ページにゃ発売前の「理想郷は鋭意制作中!」という告知が掲げられたまま(ただしトップページなどではちゃんと「Now On Sale」)になっており、もうどうにもならない雰囲気を発している。大丈夫かWHITESOFTが、と言いたいところだが到底大丈夫じゃなさそう。

電撃文庫『天鏡のアルデラミン』イラストレーターが変更になった模様(わなびニュース)

 アルデラミンの5巻、海戦ということもあって船の位置を記した図なんかは載っていたんですが、キャラの挿絵はゼロだったんですよね……口絵も使い回しのイラストばかりで、「ああ、これも魔弾やグラウスタンディアみたいにヤバくなってきたな」と感じただけに、納得のニュースである。魔弾や人衰もそうだったけど、上手いとか下手とかより、画風に慣れてしまったイラストが変わること自体すごく寂しい。昔からイラストレーターの交代劇はちょくちょくありましたが、最近また目立つようになってきた気がします。この調子だとグラウスタンディアもイラストレーターが変更になっちゃうのかな……。

・古宮九時の『監獄学校にて門番を』読んだ。

 第20回電撃小説大賞最終選考作、つまり受賞は逃したんだけど見込みがあるということで拾い上げられた無冠の新人によるデビュー作です。古宮九時というのは「小説家になろう」で活躍している藤村由紀の別ペンネーム。さて、内容を要約すると「長い期間引き篭もっていたニートが社会復帰のために問題児ばかりを集めた通称『監獄学校』の門番として働くことになる」ってふうになります。タイトルで『監獄学園』を連想する方もおられるだろうが、路線はまったく違う。何せこの作品、「ニート」なんて単語が出てくるせいで現代モノみたいな印象を受けるが、実は異世界ファンタジーだ。生徒たちもバンバン魔法をブッ放す。問題児と言ってもスクールウォーズレベルではなく、全員が帯銃しているようなものと受け取って欲しい。気を抜けば即死である。

 「大戦」と呼ばれる争いが70年前に終結し、表面上は平和を取り戻した世界。5つの種族はひとつの国にまとまったが、そう簡単に遺恨を拭い去ることはできず水面下で火種が燻っていた。反乱分子の芽を摘むべく、各種族の力を削ごうと立案されたのが「監獄学校」、五種族それぞれの優れた若者たち――次代を担う可能性がある連中――を一ヶ所に集め、素行や思想に問題のない者だけが卒業できる……つまり、「問題あり」と判断された生徒は何年経っても外に出ることができない仕組み。極端なくらいの閉鎖性を誇る全寮制教育機関であった。門番とは本来内側の存在を外側の脅威から守るのが役目であるが、ここでは逆。常に内側からの脅威に怯えることを宿命づけられた、門番とは名ばかりの死番、命懸けの看守業である。主人公クレトは物資の運び入れといった雑務をこなしつつ、学校の生徒たちが門の外に脱出しないよう見張ることになります。

 獣人族などのいわゆる亜人種がわんさか溢れ返っている学園――というエロゲーやライトノベルでたまに見かける設定(「きしめん」で有名な『Nursery Rhyme』も実は魔法や多種族が出てくる異世界ファンタジーチックな学園モノである)を踏襲しつつ、「主人公が門番」であるため学園要素のほとんどをスポイルしている、珍しいというか変梃な作品だ。学園モノを期待して読み出した人はガッカリするかもしれない。本当にストーリーの大半が門の周辺で進行してしまう。学園内の描写はごく限定的だし、全寮制ならではの集団生活といったハリポタ的な読み所もない。そういう意味ではかなり勿体無い。ひたすら門番特化シフトである。

 監獄学校は三重構造の壁に覆われており、主人公は一番内側の壁に付いている門を持ち場として看守も兼ねた門番をやる運びとなる。ちょうど『進撃の巨人』をさかさまにしたような要領だ。前述した通り全寮制で、寮も壁の内側にあるから原則として生徒たちは門を出入りしない。自由な外出や里帰りは一切認められない。ゆえに「人の出入りを管理すること」ではなく「物資の搬入」および「生徒の魔法によって荒らされた周辺の整地」が主人公の普段こなす主な仕事となります。しかし、閉鎖的な環境で鬱憤が溜まっている生徒たちは面白半分で門番たる主人公に攻撃を仕掛けてくる。明確な殺意を持った奴はさすがに少ないが、「死んじゃってもいいかな」と未必の故意を窺わせる連中はゴロゴロいます。前任者は首から下がまだ見つかってないらしく、ガチで物騒な学校である。書き方次第では「……嫌な事件だったね」と『ひぐらしのなく頃に』ばりのホラーになっただろうが、割と軽いノリでサクサク展開していきますからあまり暗い雰囲気にはならない。丸っきり明るい調子というわけでもないのだが、比較的サラッとしています。

 非常に限定的なシチュエーションにこだわったストーリーなので地味と言えば地味だが、読者を飽きさせぬよう二重三重の仕掛けを用意しており、実際私も読んでいて飽きなかった。たまにはこういう変則的なファンタジーも悪くない。ただこれ、クライマックスで気持ちイイくらいガンガンと伏線を回収して話を畳んでしまうので、「続き出せるのか?」と不安になります。大半の謎は消化されてしまったし、下手な続編出すと蛇足になりかねません。「一冊完結だ」と言い切られても納得しちゃうほどスッキリ終わっています。一応、3人いるってことになっている「指輪生」が1人しか出てこなかったことや、「マジでヤバいから遭遇したら関わりを持たずにすぐ逃げろ」と忠告されていた「腕輪生」が話だけで実物の登場がなかったことなど、次回に繋がりそうな未使用ネタもチラホラあるんですけどね。

 作者が活き活きと執筆し、物語の細かいところまで作り込んでいるのが伝わってくる一冊。新人(少なくとも商業では)らしい創作の喜びに満ちていて眩しい。正直、バカ売れしてランキングの上位に食い込んだり、口コミでぶわーっと人気が広がったり、アニメ化が発表されたりする作品にはならないでしょう。「ライトノベルのトレンド」を追いかけたい人は目もくれずに猛ダッシュで傍らを通り過ぎて行くかもしれない。しかし、私個人の感想としては「読んで良かった」の一言に尽きる。傑作というより、単に「気に入った」と申し上げたくなる心地良い一冊です。

・拍手レス。

 今月のメガストアにカタハネ収録とは、ここで初めて知りました。ありがとう焼津さんと名前のわからぬ誰かさん。こうして積みゲーがまた増えていくのか・・・
 『カタハネ』、一時は投げ売りされていたのに気がついたら高騰していて吃驚しましたね。DL版も安かったけど、ディスクからインストールする方が好きなのでメガストアを買いました。

 作風的な意味合いで、ロミオはもう山田一をやるつもりはないのかなぁ。鍵で仕事したときに、山田一をやっておけばクラナドが好きな層をごっそりゲットできた気はします。いまはなんだかSFの人ってイメージがつきすぎてて、CCもメッセージ性よりはループとかあっちのギミックにばかりスポットライトが当たってるように思えますし。
 山田一時代の路線は、企画があっても通らないのかもしれませんね。おたまもそれとなく山田一っぽい雰囲気が漂っている箇所はありましたが……。


2014-08-07.

『世相を斬らない[烈]』が発売延期と知らされて「うううう……」と上遠野呻きを漏らす焼津です、こんばんは。

 こ、これはアレですよ。人衰も終わって、きっとロミオがオクル再開に向けて忙しくなって、世相の方に時間が割けなくなったんですよ。そうだ、そうに決まっている! むしろ我々はオクルに逢える日が近づいたと喜ばねばならない! ……痛々しい現実逃避はともかく、今夏は既刊の再販のみってことになるわけですか。テンションは若干下がってしまったが、粛々と待つより他ない。それにしても人衰って略すとまるで『天人五衰』みたいですね(盛んな現実逃避)。

PC版『CROSS†CHANNEL -FINAL COMPLETE-』、9月26日発売予定

 お前は次に「またC†Cかよ」と言う。てなわけで何度目だ、なC†C新バージョンです。C†CのPC版はこれまでだと無印版と復刻版の2種類あった。復刻版の方が価格は安く、メディアがCDからDVDになっており、解像度や対応OSが変わる……などこまごまとした違いはありましたが、内容は概ね一緒でした。C†Cでややこしいのは、コンシューマー移植版が3種類もあることです。『To all people』と『In memory of all people』と『For all people』、この3つはそれぞれで収録内容が異なります。18禁要素が削られて危険なネタも減った『To all people』は特典のドラマCDを除けばファンが喜ぶ要素は少ない。『In memory of all people』はテキスト量1.5倍という大幅な加筆が行われ、「ANOTHER STORY」と「AFTER STORY」、2種類のシナリオが新規に収録されたもののAFTERの評判がいまひとつだった。『For all people』は『To all people』をベースにしつつ新エピソード「FORGOTTEN STORY」を追加している、田中ロミオが「監修」という役職になっているところを見ると本人が執筆したものではないのだろう。『In memory of all people』の「AFTER STORY」は収録されていないが、「ANOTHER STORY」は「FORGOTTEN STORY」の中に組み込まれています。「ANOTHER STORY」、古参のファンには「トモダチの塔」と書いた方がわかりやすいか。PC版への収録を見送られた没シナリオであり、設定資料集に掲載されたことからファンの目に触れた番外編です。

 まとめると、移植版には「ANOTHER STORY」「AFTER STORY」「FORGOTTEN STORY」と3つの追加シナリオが用意されたわけです。このうち「ANOTHER STORY」は「FORGOTTEN STORY」の一部として処理されたため、実質的には「AFTER STORY」と「FORGOTTEN STORY」の2種類。今回の『FINAL COMPLETE』は「今までにコンシューマー版で追加されたエピソード、新規CGを完全移植」と謳っているので両方とも収録されそうな気がしますが、amazonの商品紹介には「2014年6月26日に発売をされた「CROSS†CHANNEL〜For all people〜」で追加された新エピソード、新規CGを完全移植」とあり、「FORGOTTEN STORY」は確実としても「AFTER STORY」が入るかどうかは怪しい。コレクター的には、たとえ不評であっても「完全移植」を謳う以上ぶっ込んでおいてほしいんですけどね。そういえば『For all people』発売時のロミオインタビュー記事があることをつい先日知りました。山田一名義のことやオクルについてもチラッと言及している。

 ライターには自分の生み出したキャラクターを溺愛するタイプと、距離を置くタイプがいると思うんですが、私は完全に後者なんでしょう。ですのでキャラクターに対しては信賞必罰的な厳しい扱いをすることもあります。
 その集大成として主人公の置かれた状況をハードを超えたインフェルノモードに設定した『霊長流離オクルトゥム(仮)』という企画がありましたが、ほうぼうで熱くコンセプトを語ったのですが一様に反応が薄く落ち込みました。

 泣いた。インフェルノ級に苛酷な現実へ立ち向かう主人公を描いた『霊長流離オクルトゥム(仮)』……クソッ、改めてプレーしたくなるじゃないですか! 生殺しだよコレじゃ。エロゲーだとDiesの藤井蓮や装甲悪鬼村正の湊斗景明が割とインフェルノ級でしたけど、あるいはオクルはそれらさえ上回る地獄だったかもしれない……?

漂う生命保険金 受取人他界・認知症…請求なく未払い

 海外小説の『エア・ハンター』を思い出した。身寄りのない富豪が死んだとき、宙に浮いてしまった遺産を受け取る資格のある人間(すっごい遠縁の親戚など)を探し出して遺産から何割かの報酬を貰う、そういう私立探偵が主人公。面白い設定だと思ったが続編は出ず、文庫化もされなかったので既に忘れ去られてしまった感がある。「エア」は空気(Air)のことではなく、「相続人」を意味する単語の「Heir」。だから普通に「相続人ハンター」ってことですね。買ったはずだけど、冒頭だけ読んだところで紛失して行方知れずに。いざ相続人を見つけても、詐欺の類ではないかと警戒されてなかなかサインしてもらえない……という書き出しだったから記事文中の「振り込め詐欺と間違えられ、なかなか信じてもらえなかった」に既視感を覚えました。

・すえばしけんの『ラエティティア覇竜戦記―神王のゲーム―』読んだ。

 HJ文庫出身の作家、すえばしけんの最新作です。すえばしは富士見や一迅でも本を出していますが、やっぱりHJがホームグラウンドという感じですね。派手さはないけど堅実な作風で一定以上の人気を維持しています。さて、この『ラエティティア覇竜戦記』はタイトル通りの戦記モノですが、最近よく見かける「戦記っぽいファンタジー」に比べると戦記色は少なく、ファンタジー要素推しになっています。具体的に書けば「世界の仕組み」とか「神々の存在」とか、そのへんが単なる舞台設定という域を超えてストーリーに干渉してくる。宇野朴人の作品で言うと『天鏡のアルデラミン』より『神と奴隷の誕生構文』にやや近い。同じHJだと『グラウスタンディア皇国物語』も似たような匂いを発している部分がある。

 結論から申し上げますと、なかなか面白い一冊でした。「ラエティティア」は舞台となる大陸の名前であり、ここで五つの国々が覇を競っている。各国はそれぞれ違う神を奉じており、紅・黒・白・紫・蒼と五色に塗り分けられた神々であることから、国々も「紅国」や「黒国」などと呼ばれている。横文字名称も存在していて、たとえば紅国は「ラウルス」、黒国は「マグノリア」というのだが、覚えやすい方で覚えればいいと思う。私はもう「紅」とか「黒」とか色で記憶しています。それじゃ風情がない、という方はカタカナネームを使うといい。神々は下々の争いに直接関わることはないが、時折示し合わせたかの如く超常の力を身に宿した「神王(しんおう)」という遣いを一斉に差し向け、戦乱が終結へ向かうように図らせる。なので民衆にとっては神王こそが直接的な崇拝の対象であった。紅国「ラウルス」も神王の降臨に沸き立ったが、肝心の神王がなかなか姿を現さない事態に国民は困惑する。高まる不安の中、神王に次ぐ指導者の地位「祭司長」を務める少女・ラシェルは苦悩する。「私たちを、お見捨てになったのですか?」 そう、紅の神王は降臨して間もなく出奔してしまったのだ。行方は杳として知れない。神王の不在という致命的な危機を、いつまでも隠す通すことはできない。そんなとき、「俺様がラウルスの神王だ、ガハハ」と主張する通りすがりのランス怪しげな男がラシェルの前に現れる。彼は救国の英雄か、それとも稀代のペテン師か? 胡散臭いと思いながらも、「神王の身代わり」を欲するラシェルは彼と接するうち徐々に心惹かれていく……。

 というわけで、掻い摘んで申し上げますと「神々が一つの大陸を丸ごとゲーム盤にしていたところ、腕は立たないが弁の立つ、それでいて下半身に慎みのあるランスが上陸してきた」ってなファンタジーです。導入に当たるこの巻から早くも読者を引き込まなきゃいけないからと、これでもかこれでもか、と過積載スレスレになるまでいろんな要素を盛り込んでいる。ボリュームもライトノベルにしてはやや厚めで、370ページ近くある。さすがに川上稔とか浅井ラボとかとは比較にならないが……あれこれ圧縮して詰め込んでいるにも関わらず、なおこれだけの分量を必要とするくらいなのだから、作者の気合や意気込みはビンビンに伝わってきます。主人公のトウヤは読者から見ても胡散臭い野郎で、口達者でニヤニヤしつつも真意を覗かせないのですが、「きっと舌先三寸で敵を丸め込んでくれるだろう」という確かな信頼感が生じる。彼はギャンブル、「賭け」という行為に固執しており、のるかそるかの大バクチを打ちたがるのですが、意外と好戦的ではなくて「戦わずして勝つ」ことを尊ぶ。本質としてはバトルジャンキーでなく、むしろ平和主義者と申しても過言ではない。そこがちょっとした魅力に繋がっている。

 戦記色が薄いとはいえ死人も多少は出るのだが、血腥い描写は軒並みカットされているためバイオレンスが苦手な人でも読みやすいだろう。反面、獣人や巨人などの異種族が参戦して大暴れしているにも関わらず、そうした場面の描写を控え目にしたせいで迫力が伝わりにくくなってしまったのがマイナスか。尺の問題があるとはいえ、『ロード・オブ・ザ・リング』のスペクタクルシーンを編集して縮めてしまったようなものである。個人的にはちょい残念だった。

 主要人物を10人程度に絞るっつー読者への配慮を示しつつ、「ここで打ち切られたら後がないんじゃあ! まだまだ書きたいことがあるんじゃあ! うおおおおおっ!」とばかりにラスト60ページ、怒涛の勢いで畳み掛けてきます。元がスカスカだったというわけでもないのに、冗談抜きで密度が倍加する。前半と後半のテンションは別物である、と断じても差し支えないでしょう。結局、この巻では主人公の出自が明らかにされなかったりと、気になるポイントはいくつかあるのだけども、「全体が壮大なストーリーであり、且つ個々の巻が見所たっぷりであること」というサーガ系ライトノベルに要求される条件をキッチリこなしています。また、主人公はヒカリという従順な少女(バラしてしまうと人外ロリです)を連れていて、彼女は元々奴隷のような身分だったんですけど、ほとんど幽閉に近い状況で奉仕させられていた苦境から連れ出し、「散り散りになった他の姉妹も見つけてやる」と約束を交わしているのです。国奪り物語と並行して「ヒカリの姉妹捜し」も進行する、人外ロリコンには嬉しい仕様だ。「大切なのは国の行く末よりロリの行く末だよ!」という方にもオススメしたい。本格的に盛り上がるのはまだまだこれからといったところだが、お世辞抜きで続きを楽しみにしています。

・拍手レス。

 焼津さんに影響を受け、ロミオコラムを探すため押入れを物色する日々。P天・パソパラ・テクノポリス・カラフルピュアガール・E Login…廃刊した雑誌が大量に出てきて泣きたくなった。本当にもうエロは雑誌の時代じゃないんだなぁ
 完全収録の『カタハネ』目当てで久々にメガストア買ったら大槻涼樹のコラム「エロゲブランド勃興記」が載っていて嬉しい誤算でした。amazonの「アダルトゲーム情報雑誌」というカテゴリを覗くと、現状残っているのはメガストア・バグバグ・テックジャイアン・電撃姫・プッシュの五誌だけみたいですね。パソパラも復活号とやらを出しましたがアレは季刊?


2014-08-03.

・さるエロゲーをインストールしている間、暇だったので時間を潰すためにずっと放置していた『既知街』を起動したところ、あまりの面白さにインストールしてたエロゲーそっちのけで熱中してしまった焼津です、こんばんは。

 『既知街』は『To Heart』のパロディ同人ゲーム。私がやったのは『KICHIGAI T&U Best Collection』っていう続編『既知街2〜大虐殺〜』とカップリングしたバーションの奴です。元の『既知街』がいつ頃出たソフトなのか正確なことはわかりませんが、作中に「2000年問題」なんて語句が出てくることからして恐らく1999年頃だろう。当然ながら7や8など現行OSはサポート対象外であり、動くことは動いたがムービーは再生されなかった。それと懐かしのCD-DA方式だからドライブにCDが入ってないと音楽が流れません。

 夏休みの最中、突然中国に支配されて「日本省」となってしまったパラレルワールドを舞台に、住処を失って精神的にも肉体的にもボロボロになった少年・藤田浩之(てんでん・はおじぃ)がケツに火のついた危険な状況でとにかく生き抜こうと足掻く。概要を説明するだけでイカレていることが丸分かりなゲームである。ゲームと言ったが選択肢は最初の方にチョロチョロ出てくる程度で、ほとんど一本道のシナリオとなっています。制作期間がギリギリだったため選択肢まで工夫を凝らすことができなかったそうだ。今の水準からするとシステムは劣悪極まりなく、バックログすら付いていない。セーブデータも1つのしおりにつき1個しか作成できず、セーブ&ロードが少々面倒。各章の冒頭からリプレイできるようショートカットが用意されているから投げ出したくなるほど不便ではないのですが……。

 シナリオは全13章構成。東鳩の主要キャラを各章一人ずつ紹介しながら進行していく。中国に支配されているので全員中国名を名乗ることになります。あかりやレミィは当て字で元の音を再現している。そのふたりはまだマシですが、マルチがヒドかった。なんと馬鹿痴(まぁるぅちぃ)である。両親不在で自宅を没収されたため貧民街で暮らさざるをえなくなった浩之と、幼馴染みでありながら両親が共産党に取り入ってうまいことやったおかげで恵まれた生活を保障された阿珈梨(あかり)、ふたりの関係はおかしくなってしまう。ある朝、遂に浩之は阿珈梨を縊り殺してしまう。その後罪悪感から阿珈梨の亡霊は何度か登場するが、警察に追われたりとかそういう展開はない。校門付近で芹香先輩とぶつかってモノホンの呪いを掛けられた浩之は、それを解くために芹香を殺そうと目論む。黒道(マフィア)とも付き合いが深い来栖川の警備を潜り抜けるためにヤクザの娘で韓国人の保科智子(韓国名もあったけど忘れた)、芹香の妹で姉から権力の座を奪おうと画策している来栖川綾香、ふたりと手を組み、芹香暗殺計画へ加担する浩之だったが……。

 中国による支配云々以前にキャラ設定がおかしく、漂うムードは完全にノワールである。中国人とおぼしき謎の老人がカタコトの日本語を使って伝聞形式で語る、という奇妙な叙述スタイルのため飄々としてあまり緊迫感のない雰囲気になっていますが、ライター自ら『不夜城』『夜光虫』のパロディであることを明かしている通り、全体的にそこはかとなく馳っぽい調子が滲み出している。党の犬に成り下がって周囲の秘密を嗅ぎ回っている密告屋・長岡志保のド汚い笑顔には笑ってしまったし、雅史に放水(八百長)を強要するため姉を人質にとって黒星(ヘイシン、トカレフのコピー拳銃)突きつける浩之にも苦笑したが、脳の手術を受けて感情が喪失した代わりに超能力を強化された姫川琴音など、「もう中国がどうとか関係ないな……」って魔改造キャラも散見されます。後半は執筆の時間がなかったせいか混沌としていて、やや投げっぱなしの空気とともに強引に幕を下ろす。予定ではあと3章くらい書くつもりだったらしいが、間に合わなかったようだ。

 前半は中国に統治された日本、つまりチャイナタウンめいた「日本省」のムードを醸し出そうと頑張った痕跡がある(食事についての細かい説明が入る)ものの、後半はさっき書いた通り中国そっちのけでカオスな展開を連打します。そこがちょっと残念ではあったが、「あ、このライター頭おかしいな」と伝わってくる素敵なテキストが満載で、楽しかったことは超楽しかった。特に葵のところ、ずばりネタバレしてしまうが、芹香を暗殺するために一旦開腹して死なない程度に臓器を摘出し、拳銃を文字通り腹の中に仕舞いこむのです。んで、芹香に近づいた場面で腹を引き裂き、銃(デザートイーグル)を掴み出して発砲。ヤクがキマっているので痛みは感じていません。こんなのは序の口で、以降は更に常軌を逸していきます。

 原稿用紙にして130枚か150枚、プレー時間は人にもよるがせいぜい1、2時間程度か。決して長くはないし、設定を活かし切れているとは言いにくい部分もあるが、一方で病み付きになる魔性の面白さも潜んでいる。まるで暗黒のジェットコースターだ。コースアウトして空中に飛び出してからが本番である。地面に叩きつけられるまでの短い時間を存分に堪能されたし。時間を置いていずれまた再プレーしたい、そう願う濃い出来でした。そして『既知街』を終えた後、『ムダヅモ無き改革』を読み、毛沢東(けさわ・ひがし)とソックリの毛沢東(マオ・ツォートン)と出会う類稀なる偶然にしばし感じ入った。ちなみにシナリオ担当の菊地研一郎はCLOCKUPの『REQUIEM』に複数ライターの一人として参加したが、その後の消息は不明。検索すると「げいむ乱舞界」の武内崇や奈須きのこをゲストに迎えた回のチャットログが引っ掛かりますね、懐かしい。奈須が『月姫』のシナリオを約4ヶ月で書き上げたとか、改めて見てもスゲェ話だよな……毎月1MB。目にしただけで失禁しそうなペースである。「萌えは萌えで難しいですよ(笑)。いまさら何言ってるんだ、と言われそうなんですけど、自分は萌えって感情が乏しい人間なんです。月姫を作るにあたって、一番不安だったのは「自分の芸風って今のエロゲー界で認められるのかな」でしたから」という奈須の発言もあって隔世の感がある。CGとサウンドとムービーを手掛けた閂夜明(かんぬき・よあけ)は元Leafのグラフィッカー。近年は『Omegaの視界』という長編同人ゲームで話題になった。ついこないだ『さわれぬ神にたたりなし』で漫画家としても単行本デビューを果たす。『既知街』はプレミアが付いているわけじゃなく、店によっては数百円どころか数十円の値札が付いており、実際安い。見掛けたら是非拾い上げてみてください。

・夏アニメをひと通りザーッと観ましたが、気に入ったのは『人生』『さばげぶっ!』『ばらかもん』『月刊少女野崎くん』『アルドノア・ゼロ』の5本です。順番はテキトー、タイトルを思い出した順に並べました。短いタイトルの方が思い出しやすい傾向にあるな(『月刊少女野崎くん』は長いけどまず「野崎くん」で思い出した)。

 『人生』は『やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。』の渡航が嫉妬した“邪神大沼”シリーズの作者である川岸殴魚のライトノベルが原作。人生相談として寄せられたお便りにそれぞれの立場からアドバイスを行う、それによってうまい具合になったかどうかは知らん、そういう投げっぱなしの緩い雰囲気を積極的に楽しむダラダラ系青春コメディです。殴魚たんの作品にしてはキチ度が乏しく、1話目は退屈だったけど2話目からだんだんイイ塩梅に。キャラの可愛さ、たまに挟まれる程良いお色気が嬉しいです。『さばげぶっ!』は“なかよし”連載作なのにサバイバルゲームが題材という、それこそ既知街じみたコンセプトの少女漫画が原作。『ほんとにあった!霊媒先生』の作者ということで、実は単行本1巻発売当時に読んでいたのだが、正直笑いの波長が合わなかった。なのでアニメも最初は観ないつもりだったけど、たまたま第2話を目にする機会があって、そこからドップリとハマった。予想を遥かに上回る勢いでアニメ向きの素材である。主人公・園川モモカの「やられたらやり返す」「やられる前にやる」「やられていなくてもとりあえずやる」という徹底した溝鼠精神に清々しさを覚えた。C3部の修羅公こと大和ゆらが梧桐学園高校サバゲ部にやってくる展開を妄想して楽しんでいます。『ばらかもん』は漫画原作で、長崎県の五島列島が舞台。タイトルは「元気者」を意味する方言。若く未熟な書道家が、ズケズケと平気で家に入ってくる近隣の子供たちや他の大人たちと交流するうちに成長していく様子をコメディタッチで描く。「雰囲気の良さ」をウリとする漫画だけにアニメはどうなるか若干不安だったが、杞憂でした。面白い。『月刊少女野崎くん』は無表情で背が高く朴念仁な同級生「野崎くん」が、実は少女漫画家だった! という話。原作はWEB連載漫画。野崎くんに片想いしているヒロインが気持ちの伝わらない状況にやきもきしつつも彼のそばに居られて若干幸せという、だいたいそんなノリ。ヒロイン・佐倉千代の声と演技が独特でクセになる。ちなみに原作者の椿いづみは普段少女漫画を主戦場とする漫画家なので、作中作の少女漫画も板についています。『アルドノア・ゼロ』は虚淵玄がストーリー原案を務めたということで注目したオリジナル企画のロボットアニメ。火星から降ってくる騎士たちは、さながら黙示録のホースメンの如くに地球へ災いと滅びを齎す。絶望的な状況下で立ち向かおうとする少年少女の勇気、そして様々な思惑が交錯する人間ドラマが見所になりそうです。3話目までは虚淵が脚本を執筆していたが、以降は書かないのかな? 監督はあおいえい、虚淵とは『Fate/Zero』の縁がある。キャラ原案の志村貴子は『放浪息子』のアニメ版を通じてあおいえいとの繋がりがあります。『放浪息子』のアニメはまどかマギカと同時期に放送されていて、虚淵と志村はそれぞれの作品についてツイッターで互いに言及していました。少しばかり数奇な運命である。

 あと、『ハナヤマタ』『ヤマノススメ セカンドシーズン』『ペルソナ4 ザ・ゴールデン』『普通の女子校生が【ろこどる】やってみた。』『六畳間の侵略者!?』あたりも最終回まで観る……かもしれない。積読と積ゲーの解消に尽力したいので、アニメ視聴はなるべく縮小したい気持ちがあります。いっそ逐次視聴をやめて、放送終了してからまとめて一気観した方が効率イイんだろうけど、アニメはもはや生活の一部なので縮小はできても断つことはできませぬ。脳血管の隅々まで動画が流れているのだ。

“小説推理”9月号から『犯人に告ぐ2 闇の蜃気楼』連載開始

 『犯人に告ぐ』から10年、遂に続編の登場です。マスコミを利用して捜査を進める「劇場型捜査」がストーリーの特徴となっており、2007年には豊川悦司主演の劇場版も公開された作品です。個人的には雫井脩介のマスターピースだと認識している。文庫版だと上下巻併せて650ページ以上の大長編ですが、苦もなく一気読みしました。『闇の蜃気楼』がどの程度の長さに収まるかわかりませんが、前作と一緒くらいなら来年の末頃に単行本が発売されるのではないだろうか。楽しみにしています。一方、9月に発売される馳星周の新刊『復活祭』『生誕祭』の続編で、こっちもだいたい10年ぶり。『生誕祭』は80年代後半のバブル期を舞台にした馳版『流星たちの宴』で、文体も変えて新境地を目指したため賛否両論だったが、個人的には好きだった(但し後半の展開など物足りない部分も少しあった)から期待している。前作の10年後、バブルはバブルでもITバブルの時代が舞台となるらしい。『ウォール街』に対する『ウォール・ストリート』みたいなものだろうか。90年代後半というとちょうど『既知街』の頃かな? 馳にも「中国によって支配された苛酷な『日本省』を生き抜く男たち」とかいったパラレル物を書いて欲しいわ。

『田中ロミオが世相を斬らない[烈]』、コミックマーケットで先行発売。一般販売は9月19日から。前作も再販される模様。

 うおおおおおおどうせこんなオチがつくと思っていたよチクショオオオオオオオオッ! オラショオオオオオっ! タイトルが『田中ロミオ「の」世相を斬らない』から『田中ロミオ「が」世相を斬らない』に変わっているあたりは気になるけど、それはさておき続編&再販です。私同様に買い逃していた方々はこの機会に是非買うといい。私も新品が欲しいのでもう一冊買うつもりです。待ってればそのうち再販されるはずとは思っていましたが、まさかこんなに早かったとは不覚。もうちょっとだけ我慢していればン千円と泣き別れすることもなかったのに。「くやしい……でも、あの後すぐに『世相を斬らない』が読めてうれしい!」という感じで、実はそんなに後悔していなかったりします。今手元にある分は暇なときにパラパラめくってロミオ分を補給するためのサプリメントにしよう。私はロミオ分を補給するためにわざわざ「餓弄伝」のテキストを写経した男だ。

 物書きは不滅である。
 書いている間は時が止まるからだ。
 そして気がつけば死んでいる。
 それで良い。
 それが良いのだ。

 ――「餓弄伝 エロゲライターへの道」第一章『誇りなき転進』「一、黒い炎」より引用

 ロミオのテキストは書き写すことすら楽しいのだから麻薬である。

・八薙玉造の『オレのリベンジがヒロインを全員倒す!2』読んだ。

 いつ打ち切られるか分からない(下手するとこの巻でジ・エンドかもしれない)と別の意味でハラハラしながら読み進めたオレリベ2冊目。公式略称は「オリジン」だが、個人的には「オレリベ」の方が響きが面白くて好きだ、ネオリベみたいで。さておき、かつて最強の能力を保有していた主人公が「全能に等しい」とされたその能力を失って、最弱の地位に転じるところから始まったこのシリーズ。2冊目ではいよいよ《凶剣》布津乃と《異形》曲辻が登場し、主要キャラがだいたい出揃います。作中の世界では特殊能力を「オリジン」、能力を保有する人を「オリジンズ」と呼ぶ。たとえば、主人公が以前持っていた最強の能力は「【星】のオリジン」で、それを持っていた頃の主人公は「【星】のオリジンズ」と称されていたわけです。今もその頃の名残りで【星】のオリジンズと呼ばれていますけど、【星】のオリジンは(ごく一部を除いて)もう持っていない。JOJO等の「一人一能力」をベースとするバトル物ながら、オレリベの特徴は「オリジンズは別のオリジンズから力を奪うことができる」という設定になっていることです。主人公が力を失ったのも、恐らくこの「収奪」によるものと見られる。なので復讐すべく、【星】のオリジンを掠め取った容疑者である旧来の仲間たち、つまりヒロインたち一人一人に当たっていく……というのが大まかな流れとなります。

 既に特殊能力を持たぬ身となってしまった主人公は「幼馴染みの少女を盾にする」などなりふり構わないゲスな行動を駆使して能力的には格上の相手を下してきましたが、目的が奪還も兼ねた復讐なので話が進むにつれて力もだんだん取り戻してくる……ってのが普通なんでしょうけれども、実は1巻が終わった時点で主人公は大して強くなっていない。確かに力を取り戻したことは取り戻したが、搾りカスのように辛うじて残っていた【マッサージ】のオリジンただ一つだけである。状況によってはヒロインを揉みしだいて無力化することも可能な力だが、まず近づかないと無意味だし、激しい暴力が渦巻くバトルの最中にあっては揉み揉み野郎など単なる足手まといでしかない。実際、為す術なく逃げ回るシーンが多い。主人公が俺TUEEEEE!とばかりに暴れて無双する展開が好きな人にとっては大いに物足りないだろう。機転で凌ぐと言っても、今回は「いくら何でも……」なバカっぽい作戦が目立つ。結果としてギャグ色の強い巻となりました。バトルジャンキーの女子中学生はただの欲求不満だった、性的な意味で! みたいな。

 読んでいて思ったのは、「ヤナギンって前半のキャラ紹介パートで期待を持たせて盛り上げるのが苦手なんだな」ということ。他の作家を引き合いに出すのはアレですが、分かりやすく申し上げますと例えば林トモアキ。あの人の場合は新キャラを出した時点で「おおっ、面白くなりそう」と期待させてくれる。どうなるんだ、何を見せてくれるんだ、とワクワクさせてくれる。ヤナギンは、そこんところがちょっと弱いです。顔見せの段階では「なんかパッとしないな」という印象で、キャラの背後に揺らめくオーラみたいなものを感じない。紹介の仕方が大人しいっつーか、インパクトに欠けている。彼の作品においてはそこが「損している」と思うポイントの最たるものですね。ヤナギンってばポテンシャルの高い作家なのになかなか評価が伴わない。先制攻撃に成功しにくい作風のせいではないかしら。しかし、第一印象がパッとしないだけで、キャラクターそのものに魅力がないわけではありません。むしろ、話が本格的に動き出す後半部、バトルが激化し様々な連中の思惑が交錯していくあたりから俄然面白くなる。「パッとしない」はずのキャラたちが、突然活き活きと魅力を放ち始めるのです。動き出すまでは退屈だけど、動き出してからは滅法面白い。だから、後はキャラ紹介パートや日常パートにおけるワクワク感の増幅法と持続法、読者に期待を抱かせる盛り上げ方や焦らし方を会得しさえすればヤナギンは怖いものナシとなるはずです。本番は完璧、あとは前戯だけ! みたいな。

 こんな方法で倒されるなんて、布津乃って頭が弱すぎるのでは? と呆れる気持ちは捨て切れないが、敗北した後の布津乃がバ可愛いので帳消し。正直バトル物としてはあまり評価できない巻だったが、ヒロインの魅力を前面に押し出すことには成功している。戦う前から「血みどろの殺し合いにはならないだろうな」と分かってしまうので、燃えどころが少ないのが難点か。でもこのシリアスとコメディが溶け切らないで混ざり合っていくケイオティックな雰囲気、嫌いじゃない。周囲の人間の「心の闇」を具現化させてモンスターにする敵が出てくる場面、主人公から発生したモンスターがあまりにショボくて「いや、心の闇だけが人間の価値を決めるわけじゃないって!」と慰められる展開に笑ってしまった。使い手であるオリジンズ自身のモンスターもショボく、指摘された本人が「心に闇があれば、偉いのかよ!」と涙目になるのもシリアス台無しで素晴らしい。

 事態が安定したこともあって主人公のド汚い性格が収まってきたのはいささか寂しいが、「今回はギャグ回」と割り切れば充分楽しめると思います。「魔法ならハリケーンとでも戦える。そして、勝てる♪」なプリティ・デンジャーを演じるサラ・戒奈はもう「我が主」とか言ってた初登場時点の面影がまったく残ってないな。布津乃も可愛かったけど、私が気に入ったキャラは《ブレイカー》の朝桐儚菜。見た目が好みというのもあるが、「どう考えても、これ、朝桐たちが負ける流れだし、伏線だし……」と戦う前から諦めるネガティブ思考に惚れた。「多分、これが原因で桃は裏切る。そして、朝桐は涙ながらに桃を叩き殺すしかないのね……」と仲間の裏切り→粛清コンボをあらかじめ覚悟しておくネガティブなのかポジティブなのか判じがたい精神、このまま大事にしてほしい。ちなみにこのシリーズ、割と売上が厳しいらしく3巻(完結編?)が無事に発売されるかどうか危ぶんでおりましたが、どうも9月に刊行の予定が立ったみたいです。一説によると紙書籍版の売れ行きは今ひとつながら電子書籍版が好調なんだとか。SDは告知した予定を平然と覆すのでまだ安心できないけど、とりあえずよかったよかった。しかし、巻末で告知されている獅子赤の5巻(最終巻)はまだ刊行予定が決まっていない。オレリベ1巻の巻末には「春頃刊行予定」って書いてあったのに、もはや春どころか夏にも間に合わない。スーパーダッシュ文庫というレーベルそのものがいつまで保つかわからないのに……。

・拍手レス。

 トモア記っていえばレイセンが8.1発売ですね。早売り有るかな?
 スニーカーは発売日の2日前くらいに早売りが出るっぽいですね。レイセン、5巻は崩したけど6巻はまだなので急がないと……。

 軍靴のパルツァーをアニメ化したら、見せられないよ!的な表方が多かったり、パルツァー教官の好戦的な性格も改変されそう。漫画は丁寧に描かれてるけど、女の子が少ないしアニメ化は売れ行きが悪いんじゃないかと。一方でドイツ本国では人気が出そう。
 軍事物をテレビアニメで本格的にやるのはキツすぎるし、正直ただの夢想という面が強いですね。でも妄想するだけならタダなので積極的にイメージしていきたい。


2014-07-29.

・閲覧されている方には「え? 今更?」と呆れられそうだが、本当に今更になって『田中ロミオの世相を斬らない』が去年単行本化されていたことを知った焼津です、こんばんは。

 言い訳をさせてください。この本、扱いとしては商業出版物じゃなくて同人誌に分類されるモノなんですが、販売ショップの一つであるとらのあなでは「同人誌」じゃなくて「PCゲーム」のカテゴリに分類されていたんですよ。なので、とらのあなをちょくちょくチェックしている私でも今に至るまで気づけなかった。あと単純に教えてくれる人がいなかったので……ロミオファンと没交渉でいたことが祟りました。己のアンテナの低さを呪わずにはいられない。さすがにもう各同人ショップ(とら、メロブ、ZIN)では売り切れになっていますが、中古品はオークション等で出回っているみたいです。もちろんプレミア価格であり、相場は4000円〜6000円といったところ。元の値段が500円(税抜)だから十倍近い。うっかり買い逃していたロミオファン失格の身とは申せども、それぐらいの金額ならば惜しまない。惜しまないのだが……抵抗はある。最初から新品がその価格だったら迷わずポチっていたんですけども、中古ですからね。私は基本的にプレミア価格の中古品は買わない主義で、これまで主義を曲げたことはせいぜい十回程度しかない。つまり結構多い。ロミオ関連でも過去に「餓弄伝」目当てで『AstralBout』のバックナンバーをまとめ買いしたことがあります。あのときは何千円したかな。記憶が曖昧だけど、ページ数を考慮すれば今回の方が確実に割安だ。だったらイケるぜ! と勇を鼓して注文しました。これで届いた直後に「ロミオの『世相を斬らない』が○○社から一般販売」ってなったり、とらかどこかで再販されたりしたら泣くしかないな。とはいえ、プレミア価格で売ってるだけでもまだマシな方だった。オーフェンのプレ編とか、オークションでもなかなか見かけないもんな。

 「世相は斬らない」は今は亡きエロゲー雑誌、P天こと“PC Angel”(および後継の“PC Angel neo”)に連載されていたコラムです。開始は2006年で、いつまでやってたんだっけ……前に調べた気がするけど忘れてしまった。“PC Angel neo”は2012年休刊だから、世相もそのときに終わったのかな? 虚実入り混じったショートショート風の読み物であり、『AURA〜魔竜院光牙最後の闘い〜』も「世相を斬らない」のネタから生まれました。「これだけのためにP天を買っている」と豪語する人もいたくらいの名物コラムで、私を始めとして多くの人々が書籍化を期待していましたが、まさか知らないうちに同人から出ていたとは……つくづく仰天の限りである。P天の名物コラムと言えば倉田英之もそうで、彼の書いたテキストは『倉本 倉田の蔵出し』に一部収録されています。『田中ロミオの世相を斬らない』も、実は全集じゃなくて選集で、4、50話くらいあった連載のうち28話分を収録している。なので第2弾や全話を集めた完全版が来ることを待望しているファンは少なくないだろう。

 そして「世相は斬らない」よりも長期に渡って連載され続けた大槻涼樹のコラム「北の国から」(および「新北の国から」)も書籍化を熱望しているが、こちらの方は知らないうちに同人から出ていたということはないみたいだな……ホッとするやら残念やら。あれは50話どころか100話超えているはず。無印から新に移行するまで3年くらいの休止期間があったけど、1998年開始で2012年終了だから10年以上の長期連載コラムってことになる。この手のコラムや対談記事、インタビュー記事はなかなか単行本に収録されない(だからこそ雑誌の目玉にもなるわけだが)ので歯痒いものだ。

・TYPE-MOON関連は10月開始のTVアニメ版『Fate/stay night』が「UNLIMITED BLADE WORKS」(遠坂凜ルート)と判明したり、「Heaven's Feel」(間桐桜ルート)は劇場版として公開されることが告知されたり、成田良悟の『Fate/strange fake』がコミックスと小説の両面展開を開始することになったり、「過去最大の規模」と謳うスマホゲー『Fate/Grand Order』の配信が決定したりと、ビッグニュース多すぎで捕捉しきれねぇよ、夏。

 UBWとHFをアニメ化するということは、「Fate」(セイバールート)をメインにしていたDEEN版が黒歴史になることもなさそうか……いや劇場版の『UNLIMITED BLADE WORKS』は下手すると「なかったこと」にされかねない。ブルーレイ版が発売されていない劇場版『CLANNAD』よりはマシだろうけど。さておきUBWはFateと人気を二分するファン待望のルートであり、どんな内容になるか分からなかったこれまでよりも明確にイメージできるようになりましたが、完全新規のオリジナルルートではないのが少し残念だったか。イリヤルートとか、ちょっと観てみたかった。HFはstya nightの根幹を成すルートであり、コレがないとZeroとの繋がりも不透明になってしまう重要パーツではあるが、正直ストーリーが長くてちょっとダレる部分があったから劇場版でやるというアイデアは大胆ながら英断だと思う。HFの内容を一言で表すと「衛宮士郎が『正義の味方』であることを諦める物語」であり、アニメ版しか知らない人が観るとショックを受けるかもしれません。一応、バッドエンドとして「衛宮士郎があくまで『正義の味方』で在り続ける」展開も用意されており、そちらをベースにしたSSを見かけたこともありますが、ぶっちゃけあの状況で無理に「正義の味方」を続けるとなるとZeroみたいになっちゃうんですよね。切嗣と同じ轍を踏むことになる。プレーした当時はあまり評価していなかったHFであるが、さすがに10年も経てば見方も変わるかもしれません。『Fate/strange fake』は成田良悟が自発的に始めたエイプリルフールネタで、公開が2008年だったからもう6年前か。2009年には『TYPE-MOONエース』の付録にもなった。アメリカ西部の架空都市を舞台に「偽物の聖杯戦争」が起こるといった体裁でした。参加するサーヴァントが非常に魅力的で、「これマジでやったら収拾が付くのか?」と疑問になるほど魅力的だったため、長らく実現を待ち望まれながら「難しいだろう」と言われてきたのです。コミカライズは誰が手掛けるのか、小説は成田本人が書くのか、詳しいことはまだ何もわからないが期待したい。『Fate/Grand Order』は……スマホ持ってないし様子見。これも本当に収拾が付くのか不安になりますが……。

紺野アスタが9月2日に『最後の魔王の戦記』でライトノベル作家デビュー

 紺野アスタ(こんの・あすた)はエロゲー方面で活躍しているシナリオライターのひとり。2009年の『夏ノ雨』によって業界デビューを果たしたが、物凄く際立った個性を持つクリエイターというわけではありません。手掛けたソフトも複数ライター制のものがメインであり、「良い意味で目立たない」タイプのライターです。奇抜さを排した作風、地味だけど丁寧で上手い。ひと目でそれと分かるような強烈なカラーは持っていないものの、一定以上の品質を保証して「彼の名前があるなら大丈夫だろう」とユーザーを安心させる高級ブランドめいた信頼感がある。代表作は「ころげて」こと『この大空に、翼をひろげて』。つい先月にシリーズ3本をまとめた『この大空に、翼をひろげて COMPLETE BOX』も発売されましたので、未プレーの方はこの機会にどうぞ。VITAおよびPS3移植版の『CRUISE SIGN』も10月に発売予定。ちなみにPC版3本目の『SNOW PRESENTS』は予約特典としてシリーズ3作を収納できるBOXが付いてきましたが、私が買ったのは『FLIGHT DIARY』の本編同梱パックなので隙間ができてしまい、ガバガバに……差し当たって近くにあった『願いの欠片と白銀の契約者』を突っ込んでおきました。アグリーメントは積んでいるうちに『あやかしびと2』のPDFガールズパッチの配布が終了しちゃって、その脱力感からなかなか崩す気が起こらないでいる。『Clover Day's』のスペシャルパッチとやらもDLし損ねたし、ホント最近のエロゲ界は積ゲーマーに優しくない……アグリーメントはエロゲーじゃないけど。

 さておき『最後の魔王の戦記』、発表されたばかりでどんな内容か現段階では不明ですが、タイトルから察するに異世界ファンタジー? シリアスなのかコメディなのかはタイトルだけじゃ判じ切れない。また「戦記」とあるが、戦記モノかどうかは分からないですね。戦記要素が皆無でも比喩的な意味合いで「戦記」と題している作品だってあるし。イラストのukyo_rstは『祓魔学園の背教者』を手掛けている人です。ちなみにリンク先のリストで紺野アスタの下にいる「七烏未奏(ななうみ・そう)」もエロゲーライター出身の作家で、アスタとは一緒にころげてのシナリオを手掛けた仲です。デビューは2006年の『StarTRain』ですから先輩に当たる関係でもある。『StarTRain』は「主人公が失恋し、そこから再起する」ことを前提に据えた少々珍しい構成で、当時そこそこ話題になって移植版も発売されました。でもブランドのmixed upはこれを最後に休止状態へ。『StarTRain』の前に発売された『夏空少女』が大きくコケてたからな……私も『夏空少女』のせいでmixed upを敬遠していて、評判を知りつつ『StarTRain』は長らくスルーしておりました。七烏未がノベライズではないオリジナルの作品でラノベデビューを飾ったのは2012年、作品は『だから少女はおもいでをたべる』です。2013年には『フレースヴェルグ・イクシード』という初のシリーズ作品をスタートさせるが、これはそろそろ完結しそうな雰囲気? 『リアルフォース・イグニッション』は今年始まったばかりの新シリーズです。竹井10日も依然として頑張っているし、この調子で行くと講談社ラノベ文庫はいずれ講談社エロゲ文庫と化すかもしれませんね。

【WF2014夏】コミック『みりたり!』がワンダーフェスティバル2014夏でアニメ化を発表!(アニメイトTV)

 え? 『みりたり!』ってもう完結したんじゃなかった? って首を傾げたが、今は『みりたり! 乙型』って続編やってるのか。「これはミリタリーブームの流れに乗ってぱれっと初のアニメ化作品になるかも……」とかつて予想していたが、去年出た5巻が最終巻となったため、てっきり外れたとばかり思っていました。まさか時間差で的中するとは。偏差射撃か。『みりたり!』はその名の通りミリタリー要素を主眼とした4コマ漫画で、平凡な主人公のところに女の子(と戦車)がやってきてドタバタ騒動を繰り広げるコメディとなっています。一言で表現すると「ミリタリー豆知識の寄せ集め」ってなテイストであり、軍隊や兵器に興味を持てない人が読むと少々辛いかもしれない。ガルパンや艦これ、アルペジオといったミリタリー系作品のヒットが相次いでいる影響から掘り起こされたのだろうか? 内容的に5分アニメや10分アニメならちょうど良さそうだけど、30分枠でやるとなると出来によってはしんどくなりそう。関係ないが「ミリタリーものはイケる!」と信じ込んだどっかの製作がそれなりの予算組んで『軍靴のバルツァー』をアニメ化する企画やってくんないかな……あと私はたまに『皇国の守護者』のアニメ版を妄想する趣味がありますけど、アレはまずコミカライズ版の再開から始めてほしいですね。伊藤悠が『シュトヘル』の連載を抱えていることを考慮すると難しそうですが。そしてこのままミリ系プチヒットの流れが続けば、いずれ速水螺旋人がスタッフに加わったオリジナルアニメとかも出てくるかれしないな。現時点ではただの妄想だが考えるだけでワクワクする。

 ちなみに「ぱれっと」というのは一迅社が刊行している月刊の4コマ漫画誌で、正式名称は“まんが4コマぱれっと”。2006年に創刊された“まんが4コマKINGSぱれっと”を前身としている。2014年に『未確認で進行形』がアニメ化されるまでTVアニメになった作品が0本だったという弱小誌であり、きらら系の存在感に圧倒され続けてきた歴史を持つ。未確認〜の跡を継ぐ形で『普通の女子校生が【ろこどる】やってみた。』もアニメ化され、徐々に知名度を高めてきているが、未確認〜や【ろこどる】をきらら系のアニメと混同している人も少なくないであろう。長期連載している作品も数える程度であり、看板的存在である『スターマイン』をアニメ化してしまえば、あとはもうほとんど弾がない状況。スターマインはキャラが多くて難しそうだから、意外と『くらまちゃんにグイってしたらピシャってされた!』の方がすんなりとアニメ化されるかも、ってコレ前にも書いた気がするな。

・拍手レス。

 >戦記というよりはトモア記って感じですが 上手い事言いましたね!笑
 ミスマルカ読んでると他のシリーズを読みたく(読み返したく)なりますよね。

 幼女戦記はArcadiaのオリジナル板でweb版が読めるので、そっちで様子見するのも手です
 幼女戦記と言えば、作者のカルロ・ゼンは9月に星海社FICTIONSから『約束の国』という新作を出すみたいですね。

 幼女戦記はArcadiaで投稿していたものを書籍化したものなのでまずArcadiaで見てみたらどうでしょうか?そちらは完結してますし、お勧めです
 思ったほど高くなかったし、あの後で2冊まとめて買っちゃいました。紙書籍版だと全部で何冊くらいになるのかな。


2014-07-26.

『ギャングスタ・アルカディア』の新規CG枚数が銃騎士よりも少ない29枚だったと聞いて驚く焼津です、こんばんは。

 実は今月、コレところげてのSNOW PRESENTSを購入する予定だったんですけど、ちょうど予約を入れようとした直前にパソコンの調子が悪くなって急遽中止し、ゴタゴタが落ち着いたところで改めて検討して『フラテルニテ』に変更したのでした。なので期せずして回避した形になりますが、銃騎士のときと比べて発売当日になってもそこまで騒ぎにならなかったですね……延期に次ぐ延期で、ブランドファンも薄々どういう状況か察していたのだろうか。

柊★たくみ/浅葉ゆう『アブソリュート・デュオ』TVアニメ化決定!制作はエイトビット(萌えオタニュース速報)

 アブデュオ、もうアニメ化か。予想外というほどじゃないけどちょっと意外だった。始まったのが2012年8月だから、2年足らずでの発表ということになります。今月出た6巻が最新刊、発表した時点で4巻までしか出ていなかったノーゲーム・ノーライフよりは巻数が多い。ただ今のところ年2冊以上新刊を出したことがなく、ペースは若干遅めかな。去年は体調不良で原稿を落としたらしい。調子が良ければ今年中にもう1冊くらい出せる? 以前書いたMFの特集でも名前はチラッと挙げているけど、正直そんなに注目はしていなかったですね。『落ちてきた龍王と滅びゆく魔女の国』あたりの方が先かな、と思ってました。あれは戦記モノの要素があってキャラ多いし、アニメでやるのは難しいかもですけれど……それに刊行ペースも実はそんなに速くない。当初は良い調子だったけどだんだん鈍ってきて、今やアブデュオより遅いくらい。作者の舞阪洸が複数のシリーズを掛け持ちしているから仕方ない面もありますが。

 さておき『アブソリュート・デュオ』、作者名を見てピンと来た人もいるかもしれません。そう、柊★たくみはエロゲー出身の作家です。というか、ぶっちゃけ『Kanoso』のシナリオ書いた人です。パロディ同人の域を超えて話題になった『Kanoso』、フリーゲームとして配布されていた時期もありましたが、サイト消滅に伴って現在は配布中止の模様。探せばまだどこかにミラーが残ってるかも。とにかくすぐバッドエンドになるのが特徴でした。個人的には2003年の『カラフルBOX』あたりまで注目していたけど、その後はチェックの網から漏れるようになって名前そのものを忘れかけていました。アブデュオでライトノベルデビューを果たしてからも気づかず、少し前にぐぐって「ああ、柊★たくみって『いつものところ』の……!」とやっと思い出した。これまで手掛けてきたシナリオとは全然違う路線なので記憶が刺激されなかったというのもある。作者自身、「僕にとって初のバトル物」と語っています。

 柊★たくみが商業でエロゲーのシナリオを書き始めたのは2000年の『いただきじゃんがりあん』から。「バグだらけ」「宇宙麻雀」と名高いアレです。ちなみにOPムービーが絶賛されたのは2005年の『いただきじゃんがりあんR』の方。『カラフルBOX』や『Aster』、『星空へ架かる橋』などのシナリオも手掛けており、多作ではないがコツコツとエロゲー業界で仕事を続けてきました。アブデュオでラノベデビューを飾る際にも「エロゲはエロゲでまだまだ書きたいものがあるのです」とコメントしている。ピンで2MBものシナリオを書くのは難しいから、「エロゲ関連は当分サブライターとして活動していくかと」とも語っているが……アブデュオは1巻発売の翌月にもう増刷されるなど、当初から売上は好調だったみたいです。魂の焔を武器として具現化させ、それで戦う――というのがアブデュオの基本設定(具現化できる適性を持っている者は1000人に1人の割合)ながら、主人公の魂が生み出したモノは盾――武器ではなく防具という異能(イレギュラー)。護りたいモノを護れなかった後悔から力を欲した主人公が、「盾」という己の特性に戸惑いつつ成長していくアクション物です。手堅くまとまっているものの「テンプレ」という印象は拭えず、1巻目からガツンと気に入る要素は正直なかった。2巻以降も買ってるけど、崩す意欲は今のところあまり湧かない。アニメ観てから再開しようかどうか判断しよっかな。制作のエイトビットはISやワルロマ、東京レイヴンズのスタジオです。今放送している分だとヤマノススメの2期がありますね。

 ところで柊★たくみは麻雀好きでもあるようで、いたじゃんのみならず同人方面で麻雀ゲーをいくつか手掛けている。麻雀漫画も愛好し、「一番好きな麻雀漫画は、原恵一郎の『麻雀放浪記−凌ぎの哲』」だという。ライトノベルは『魔弾の王と戦姫』や『魔法少女育成計画』が好きらしい。思わず宝城芯哉タッチの戦姫を想像してしまった。リュド三ラの違和感なさが半端ない。もし仮に同人ゲーを作るとしたらタイトルは『魔弾の王と戦鬼(イクサオニ)』になりそう。主人公は〒ィグルか。

TVアニメ『魔弾の王と戦姫』10月より放送開始!監督・構成:佐藤竜雄、制作:サテライト、キャスト:石川界人、戸松遥(萌えオタニュース速報)

 原作は好きだけどアニメがどうなるか発表以来ずっと不安だった『魔弾の王と戦姫』、とりあえずキービジュアルの雰囲気は悪くなさげだ。ちょっと暗いけど、ヒロインが『キングダム』ばりに雑兵どもを粉々にするシーン満載のストーリーだから、むしろ原作よりも雰囲気としては合っている。「戦姫」は7人いるという設定でして、キービジュ見る感じ7人全員がアニメに登場する……のかな。尺が1クールだとせいぜい原作3巻あたりまでしか進めそうにないけど、3巻あたりって確かまだ戦姫が3人くらいしか出てなかった頃なんですよね。よっぽど構成を変えないと7人全員は出せない。2クールあればどうにか出せることは出せるでしょうけど、ほとんど見せ場のない子も出てくると思います。原作でもまだ目立った出番のない戦姫がいるから、そのへん仕方ないっちゃ仕方ないんですが。

 魔弾〜のストーリーを要約すると、「フランスっぽい国で辺境の領主をやっていた主人公がドイツっぽい隣国との戦争で捕虜になり、少女でありながら超人的な力を持つ『戦姫』に気に入られ、なんだかんだあって対等の関係を結ぶことになる」ってな具合です。しかし、この「なんだかんだ」の部分が長い。隣国の将と仲良くなったせいで本国からは裏切り者みたいに見られたりと、主人公の立場が安定するまで何巻も掛かります。2クール掛けてようやく主人公がそれらしい立場を確保するところまで描けるのではないかな、というペース。魔弾〜は中世ヨーロッパ風の異世界を舞台にしつつ魔法や竜が出てくる戦記ファンタジーであり、戦姫は「一騎当千」と見做され実際に特別なユニットとして活躍しますが、万単位の兵が動く戦場において一騎だけで戦局を左右するほどの力はさすがに有していません。自らも何千という部下を率いながら勝利を掴まなければならない。でもここぞという場面では劇的な絶技を放つ。戦記というよりは「戦記っぽいヒロイック・ファンタジー」で、うまく娯楽要素を取り込んでいるのが面白さの秘訣かと。複数の国が侵略やら内乱やらで混迷を極めているが、よくよく観察すると「人間社会に紛れ込んだ人間ならざるモノ」の姿があり、火種を撒き散らして戦争を無闇に長引かせている化け物たちこそが戦姫たち本来の敵……なのではないかと匂わせているものの、そのへんに関してはまだ不明点が多い。タイトルにもなっている「魔弾の王」の意味さえ未だにハッキリしない。たぶんこれキッチリ完結させようと思ったら2、30巻は要するんじゃないかな。とにかく壮大な構想のもとに練られた物語となっています。

 最近はこの類の「戦記モノ」というか「戦記っぽいファンタジー」がライトノベルのトレンドになっていて、来年あたりからそうした流れの作品がどんどんアニメ化されていきそうです。『天鏡のアルデラミン』『覇剣の皇姫アルティーナ』『落ちてきた龍王と滅びゆく魔女の国』らへんは巻数的にそろそろ来そう。アルティーナはまだ読んでないんですが、アルデラミンの方は3巻まで読み進めています。いや、これが実に面白い。有能だけどやる気がなく軍人になりたくないヤン・ウェンリー型の少年を主人公に据えており、始まってすぐに船が難破して敵地である隣国に流れ着いてしまうなど、初っ端から見せ場の連続です。1巻の時点で既に面白かったが、2巻の後半から更にグングン天井知らずで盛り上がってくる。『皇国の守護者』をライトノベル読者向けに打ち直したような、口当たりは軽いけど読み応えが充分なストーリーです。ちょっと洒落にならないくらい死人が続出するし、主人公も肉体の一部を欠損するのだけど、血腥い描写はなるべく抑えて笑劇(ファルス)めいた皮肉の念さえ催す世界を淡々と紡ぎ出している。血沸き肉躍る英雄譚ではない、タチの悪いブラックジョークみたいな戦場の中で、それでも生き抜こうとする主人公たちの足掻き。アニメ化するのは難しそうだが、難しそうだからこそ観てみたい。ほか、『百錬の覇王と聖約の戦乙女』もだんだん面白くなってきている。「現代日本から戦乱の異世界へ召喚された少年」というコテコテの設定ながら、「流行りがどうとかじゃない、自分はこれが書きたいんだ!」という作者の熱意が伝わってきます。『グラウスタンディア皇国物語』も去年始まったばかりのシリーズとしては有望ですけど、3巻が延期しちゃって発売未定の状態に……そういえば『ミスマルカ興国物語』も扱いとしては戦記ファンタジーになるのかな? 戦記というよりはトモア記って感じですが。あと、読んでないけどタイトルで気になっているのが『幼女戦記』。概要は面白そうだったが店頭で立ち読みして「うーん……」と唸り元の場所に戻してしまった。再チャレンジすべきかどうか、もうちょっと様子を見て決めたいところです。ああ、それとSDに『偽神戦記』ってのがあったか。8月に続編が出るみたいです。


2014-07-18.

第151回「芥川賞」は柴崎友香氏の『春の庭』 「直木賞」は黒川博行氏『破門』

 おっ、黒川さんが直木賞獲ったのか! これは嬉しい。今年でデビュー30周年を迎えるベテラン作家です。受賞作の『破門』は建設コンサルタントの二宮啓之とヤクザの桑原保彦が凸凹コンビとして活躍する、いわゆる“疫病神”シリーズの5作目。建設業では工事を円滑に進めるため、地元のヤクザとあらかじめ話をつけておく必要に迫られることが多々ある。話がこじれないよう、同業者――つまり別のヤクザに話を通してもらうように依頼する場面も生じます。毒をもって毒を制す、ヤクザを使ってヤクザを抑える遣り方を「前捌き」と呼び、建設コンサルタントの二宮もサバキの仲介料を収入源としている。そのためヤクザとの付き合いも浅からず(というか父親が極道だった)、桑原が持ってきた儲け話に巻き込まれて毎度ヒドい目に遭う、というのがパターンになっています。

 シリーズは『疫病神』(1997年、新潮社)『国境』(2001年、講談社)『暗礁』(2005年、幻冬舎)『螻蛄』(2009年、新潮社)と来て、最新作の『破門』(2014年、KADOKAWA)へと繋がる。約4年周期、オリンピック並みのペースです。出版社がバラバラだし、黒川博行の作品はタイトル二文字程度のシンプルなものが他にも多いので、先に調べておかないと店頭ではどれがどれだか区別が付かず、うまく探せなくなること請け合い。シリーズだけど一話完結方式なので、どこから読んでも楽しめます。あえて一つ選ぶのであれば、疫病神コンビが北朝鮮に渡って国境破りに挑む『国境』がオススメ。

 受賞の連絡を受けたときは雀荘にいた、という報道もある通り、黒川さんは麻雀好きとして有名だ。『麻雀放蕩記』なんて本も出してる。何年か前に大阪府警の腐敗を題材にして話題になった『悪果』(これも直木賞の候補になった)でも、主人公が麻雀を打つシーンから始まっている。『悪果』には『繚乱』という続編もあるが、こちらは前作の終わり方を受けたストーリーになっているので順番通りに読んだ方が宜しいです。ヤクザとかが出てこない、比較的殺伐としたムードの薄い『文福茶釜』など、古美術界をテーマにした作品も得意ジャンルの一つ。是非いろんな作品に手を伸ばしてみてください。最新刊は来月に発売される『後妻業』です。

・シリーズ作品と言えば、幻冬舎から今月24日に『雨の狩人』(大沢在昌)『そして奔流へ』(白川道)が発売されます。

 『雨の狩人』はタイトルを「○の狩人」で統一した“狩人”シリーズの第4弾。第1弾が1996年、第2弾が2002年、第3弾が2008年刊行、実に6年周期で新作が出るという“疫病神”シリーズ以上に気の長い代物になっています。“狩人”シリーズはこれまで作品ごとに主人公が変わるスタイルを貫いてきましたが、あらすじを読んだ感じ、今回は3作目と同じ主人公で行くのかな?

 シリーズ第1弾『北の狩人』は北朝鮮からやってきた工作員……ではなく東北からやってきた純朴だけど腕っ節が強い青年「梶雪人」を主人公に、新宿でヤクザや刑事が入り乱れる騒動を描く。秋田弁を喋り、マタギの血筋に連なる雪人が非常に良いキャラクターをしているし、サブキャラの刑事・佐江も渋くてイイ味を出しているし、ハードボイルドとしても程好い軽さで読みやすい部類に属しますけど、反面物語にこれといった特徴がなく「内容に比してちょっと長すぎる(文庫版だと700ページ弱)かな」というのが偽らざる感想だった。今でこそ『雪人 YUKITO』なるコミカライズ作品も出ていますが、刊行当時はそれほど話題になりませんでした。“狩人”シリーズが話題になるのは2作目の『砂の狩人』からですね。このミス等あちこちの年末ランキングで上位に食い込みました。前作から6年も経っているうえ、梶雪人は出てこないので続編と意識して読んだ人も少なかったかもしれません。新宿がどういうところかレクチャーした四課(マルボウ)の刑事・佐江は続投し、相変わらずの名脇役ぶりを見せる。今度の主人公はかつて「狂犬」と恐れられた元刑事の西野。未成年だった容疑者を射殺したことが原因で職を辞し、港町で漁師のような生活を送っていたが、「暴力団組長の子女が次々と殺される」凶悪事件解決のために呼び戻される。まだ若干ソフトな雰囲気が残っていた前作に対し、かなりハードでドライなムードに包まれた一作となっています。B級アクションめいた見せ場の数々は賛否両論かもしれないが、エンターテインメント作品としてはシリーズ最大の盛り上がりを示しました。

 シリーズ第3弾『黒の狩人』はこれまで脇役に徹してきた佐江が遂に主役として抜擢されるとあってファンが大喜びした一作。雪人や西野について振り返る箇所もあり、シリーズ通して読むと感慨深い。「切り札? 俺はいつだってカス札だ」「梶雪人、西野。二人の男が脳裏に浮かんだ。あいつらは切り札だった」「だが、カス札にはカス札なりの意地がある」 少しストーリーが入り組んでいて、誰がどの情報を握っているか、どの組織がどの連中と利害関係にあるか、などこまごまとした情報を整理しながら読まないと状況を把握しにくい部分もある。黒幕が相当ショボいのもアレだが、シリーズファンなら読み逃せない一作だ。『雨の狩人』はあらすじに佐江が出てくるが、今回も主人公なのかどうかはハッキリしない。重要キャラクターであることは確かみたいだが、そろそろ刑事辞めそうな予感も……。

 『そして奔流へ』は“新・病葉流れて”シリーズの第4弾。「新」が付かない方は3部作なので、全体としては7作目に当たる。“病葉流れて”シリーズは大学生の梨田雅之が麻雀や競輪などのギャンブルに耽溺して身を持ち崩していく様を綴った青春小説で、この梨田は白川道のデビュー作『流星たちの宴』の主人公でもある。病葉シリーズ全体が『流星〜』の壮大な前日譚(プリクエル)となっているわけだ。ちなみに『流星たちの宴』の梨田は37歳、病葉は19歳か20歳の頃に幕開けとなる。

 白川道は西原理恵子の漫画にも何度か登場しており、作品を読んだことがない人も「ああ、あのオッサンか」と思い当たるかもしれない。やや感傷的な、人によっては「クサい」と受け止められる湿っぽくも端整な文体が特徴です。シリーズ1作目『病葉流れて』は少し前にコミカライズされていますが、原作単行本が出たのは1998年であり、『天牌』の連載開始よりも前のことです。『天牌』の主人公・沖本瞬も開始当初は大学生だった(留年しまくって大学にも全然行ってないが)ので、微妙に重なる部分がなくもない。最新作『そして奔流へ』はやっと梨田が株の世界に身を投じる。『流星たちの宴』はバブル期における仕手戦をメインとして描いた作品だったから、そろそろ前日譚としての病葉は終了かも。気になるのは『流星〜』以降を紡ぐ後日談が来るのかどうかですね。

 ついでだからシリーズの刊行順リストも載せておきます。リンク先は基本的に文庫版、文庫がまだ出てない場合はハードカバー版です。

(関連作)
00.『流星たちの宴』(1994年 新潮社 → 1997年 新潮文庫)
(旧病葉三部作)
01.『病葉流れて』(1998年 小学館 → 2004年 幻冬舎文庫)
02.『朽ちた花びら』(2004年 小学館 → 2005年 幻冬舎文庫)
03.『崩れる日なにおもう』(2004年 小学館 → 2005年 幻冬舎文庫)※文庫版は上下2分冊
(新・病葉流れて)
04.『身を捨ててこそ』(2012年 幻冬舎 → 2013年 幻冬舎文庫)
05.『浮かぶ瀬もあれ』(2013年 幻冬舎 → 2014年 幻冬舎文庫)
06.『漂えど沈まず』(2013年 幻冬舎)
07.『そして奔流へ』(2014年 幻冬舎)

・拍手レス。

 新レーベルで醜悪祭の禊が済めば紅ワンチャン……!
 電波的な彼女や紅の続編をそのままやるのは無理そうだけど、関連作か完全新作なら可能性が……!

 修羅場とかヤンデレ系の作品で、ここまで序盤とラスト辺りで面白さ、わくわく感に落差がある作品を俺は知らない。主人公になぜ能力設定なんか付けたのか、読後本気で首を傾げた。冒頭から序盤の主人公の特異さの説明と、後半から終盤のそれらが全く活かされず一山幾らのヘタレ主人公もかくやと言った流されっぷり。これなら初めから相手の浮かべるイメージを視認できるなんて設定無い方が良かった。というかこんなありきたりな結末書くならなんで能力なんか付けたのやら。特にトラックのシーン。察知しろとは言わんが、後輩が怖がってみせるのを真に受けるとか本気で何考えてんだこいつと考えた。相手が浮かべてる表層の表情を透かして本心をイメージとして見るって散々強調してたのはなんだったのやら。まぁ、この話はラストの主人公の独白見る限りヤンデレを手玉に取る男の話だったぽいし、ここで後輩の表情をわざと見逃してたってのが真実か。
 もしかして「沃野」の感想ですか? すごく久しぶりなのでビックリしました。洋平は自分に向けられた感情をイメージとして視認するので、相手の注意が他方に逸れているときはイメージが視えない……という設定にしていました。ご期待に添えず、すみません。それでも最後まで読んでいただけたようで、ありがとうございます。

 集英社は本当にレーベル移籍しないですよね。JUMP j BOOKSなんかもレーベル自体は存続していても雑誌の休刊が決まるとオリジナルの連載作はほとんどバッサリ切っちゃいましたしね。値段設定が悪くてあんまり売れてなさそうなのはわかってましてけど、移籍して文庫としてうまく売り出していけばまだまだ売れる作品はあったはず。河出智紀(小川一水)とか霧咲 遼樹の作品は好きだったので残念でありません。(ジハードはなんとか完結してよかった)西尾維新がネタにしていたけど結局残っているのが、直木賞作家の村山由佳だけ。調べてみて未だに新人賞の募集とかしてて驚きました。
 漫画の売上に比べると微々たるものだからか、本腰を入れる気配が全然ありませんね。今やコバルト文庫さえも長期展開シリーズが次々と完結を迎えているそうで……少年向け・少女向け問わず、この調子で行くとライトノベル分野における集英社の存在感はますます薄くなりそうです。


2014-07-12.

・つり乙2の予約を済ませた(ショップ特典として「借りぐらしのブリュエッティ」や「もののけ妹」を収録したドラマCD『乙女理論とそのほんの周辺』が付いてくるげっちゅ屋で)はいいものの、乙女理論どころかつり乙自体まだやってねぇ……それどころか俺翼のアフターストーリーも途中だった! と気づいて慌てて起動し再開した焼津です、こんばんは。やろうやろうと思いつつ、ついつい忘れていた。「その後の隼人」で濡れ場が始まる直前にセーブしちゃって、それきりになっていましたよ。

 しかし俺翼AS出たのっていつだったっけ、一昨年くらい? と首を傾げながらチェックして「2010年7月30日」という文字列に出くわし卒倒しかけた。なんだと。まさかの4年前である。そんなに経っていたのかよ……まあ確かにTVアニメが始まる前の発売だったもんな、冷静に考えるとそれくらい経過してるわ。なぜか私の記憶は時空が歪んでいて、TVアニメが終わった頃にようやく発売されたような感覚になっていました。歳を取ると時間感覚が崩壊するってマジだったんだ。だいたい一昨年なんつったらもうつり乙が発売されちゃってるわけで、全然辻褄が合わなくなるわ。この調子で行くと「スカジさんや、サクラノ詩はまだかいのぅ」「おじいちゃん、サクラノ詩は40年前にリリースしたでしょ」になりかねない。

 90年代後半から2000年代前半あたりのエロゲーに関しては割合しっかりした記憶が残っているけど、2000年代後半、特に怒りの庭ショック以降は記憶が曖昧になっていて、2010年代ともなるとほとんど手付かずで時間軸そのものが成立していない。体験版程度は何本かやったし、製品版も購入してちょろちょろプレーしたけど、きっちりコンプしたのは『神咒神威神楽』だけです。『魔法使いの夜』(※リンク先、音が鳴るので注意)はエロゲーじゃないしな……さておき俺翼AS、4年ものブランクが開いた割にすんなり入っていくことができました。そしてテキストを読むことがひたすら楽しく、「ああ、やっぱ俺翼のことが好きなんだな」と再確認。Hシーンすら面白いのだから反則です。竿をバットに見立てるくらいならまだしも、玉袋の握り方について「シンカーからスライダーへ」と表現するエロゲーはたぶん初めて見た。この勢いに乗ってつり乙や乙女理論もクリアし、つり乙2の到来に備えたい。

【HP更新情報】新ライトノベルレーベルのティザーページ公開!!(集英社スーパーダッシュ文庫編集部ブログ)

 遂に集英社系の新レーベルが誕生か……ティザーページにはTo LOVEるの矢吹健太朗のイラストが来ています。恐らく創刊ラインナップの一冊でしょう。詳しいことはわかりませんが、たぶんスーパーダッシュ文庫の後継に当たるレーベルで、スーパーファンタジー文庫からスーパーダッシュ文庫に移行したときのことを考えると、SD文庫は新レーベルが立ち上がった後もしばらく続いて来年あたりを目処に休刊するのではないかと思います。以前書いたスーパーダッシュの特集記事で「新人賞の名称変更に伴ってレーベル丸ごと刷新されそうな不安を勝手に感じてしまっている」「2014年がSDのラストイヤーとなる」と書いたが、本当にそうなりそうな気配で暗澹とする。スーパーファンタジー時代の作品でSDに移籍することができたのはサイケデリック・レスキューだけだった(しかも続編とはわかりにくいようにタイトルも変更されていた)し、SDから新レーベルへ移れる作品はほとんどないでしょうね。そもそもSDは明確に「続いている」と言えるシリーズがほとんどなくて、大半のシリーズがシュレディンガーの猫みたく「継続」と「打切」の重ね合わせ状態になっています。レーベルの柱となっているカンピオーネはもう最終章に入りそうだし、パパ聞きもそろそろ話をまとめに掛かっている雰囲気なので、ひょっとすると移籍作品はゼロになるかもしれない。『六花の英雄』クラスでも、密かに映像化の企画が進んでいる……とかでもないかぎり厳しい。せめてレーベルを畳む前に『R.O.D』だけでも始末をつけてほしいところだが、どうなるんだろうな。新レーベルは創刊ラインナップに某有名シナリオライターの書き下ろしを用意している、という噂もある。それが矢吹イラストの奴なんだろうか? あるいは迷い猫コミカライズの繋がりで松智洋の新作なのか。私は差し当たって新レーベルでの片山憲太郎の復活を期待している。それがどんなに儚い望みであろうと構わない。甦れカタケン。

京アニ『AIR』『Kanon』『CLANNAD』廉価版BD、コンパクト・コレクション発売決定!(萌えオタニュース速報)

 『EIGHTH』にハマった流れで『いずみっしょん』を読んで、『Kanon』のアニメ版を観たくなったけど当時出ていたBD-BOX(2009年発売ver)が税抜59600円(その頃は消費税が5パーセントだったから税込62580円)、「とてもじゃないけど買えないよ!」と悲鳴を上げたものでした。仮に3割引で買ったとしてもまだ4万円しますもんね……それが今回の廉価版はメーカー希望小売価格でも税込で2万円を切るくらい、これは買うしかないな、と。

 せっかくだから『Kanon』の解説も軽くしておこうか。『Kanon』はもともと1999年、今から15年も前に発売されたエロゲーです。こうして改めて年数を振り返ってショックを受ける人も多いでしょう。私もちょっと愕然とした。虚淵玄がまだデビューすらしていなかった頃である。前年(1998年)発売の『ONE〜輝く季節へ〜』で高い評価を集めたスタッフが制作したソフトだけあって、発売前から注目が高かった一本です。今は亡き秋葉原のメッセサンオーが購入特典としてA0サイズ(A4用紙の16倍)等身大ポスターを配布したくらい、凄まじい事前人気でした。このポスターは「Kanon砲」と呼ばれ、古参の間では未だに語り草になっている。翌年2000年にはドリームキャストに移植された。雪の降る街を舞台に、主人公「相沢祐一」が様々な女の子と出会って奇跡を起こしハッピーエンドに辿り着いたり、どうにもならず悲しい結末を迎えたりする。そういった内容をマルチシナリオ形式で綴るアドベンチャーとなっています。「栞の寿命があまりにもピンポイントすぎる」などツッコミどころも多かったものの、これをキッカケにエロゲーの魔道へ踏み入ってきた者も少なくない。「いたる絵」と称される異様に目が大きくて立体感のない、ヒラメみたいに平面的な顔立ちをしたグラフィックが当時から物議を醸していた(間違ってもこれが当時流行の絵柄だったわけではない)が、樋上いたる(ひのうえ・いたる)原画の魅力はデッサンのアレさ加減を超越した「表情の豊かさ」にあり、ほんのちょっとした感情の揺らぎ、心の微差を表現する「演技的な部分」が非常に秀逸だったため多数の中毒者を生み出したのです。ちなみに現在のいたるさんの絵柄はこんな感じです。

 いわゆる「鍵っ子」=Keyの熱心な信者が生まれる契機となったソフトであり、人気の高まりから2002年には早くもTVアニメ化を果たします。東映アニメーションが制作したことから、「東映版」とも呼ばれるバージョンですね。私もリアルタイムで観ましたが、正直あまり感動はしなかった。原作の筋には沿っているものの全体が淡白で盛り上がりも薄く、緩やかに始まってあっさりと終わった印象がある。エロゲーが大ボリューム路線に舵を切る前の作品で、シナリオ量もそれほど多くはなかった――とはいえ文庫本に換算すると5、6冊分くらいに相当するボリュームであり、さすがに1クール(全13話)へほぼ全シナリオのネタを押し込むのは無茶だった。いたる絵をアニメ調にリファインするのが難しかったのか、「突き刺さるような顎」と揶揄される始末に陥ったキャラクターデザインもまことに残念でした。東映版を単に「アゴ」と言う人もいたくらいです。いたる絵って表情は抜群だけどダイナミズム(「動き」の要素を取り入れる)に関してはあまり適していないから、仕方ない面もありますが……DVD全巻購入特典として後日談めいたOVA「風花」も配布されたそうですが、私は観ていない。2004年のDVD-BOXにも収録されておらず、「幻の第14話」という扱いになっているそうな。

 2006年に2クール(全24話)で放送されたバージョンが通称「京アニ版」で、これが今回廉価版のBD-BOXとして発売される分です。2005年には『AIR』のTVシリーズ版が放送されており、京都アニメーションがKeyの作品を手掛けるのはこれが2度目となる。2006年はハルヒのアニメ版が放送されたこともあって京アニの名声が高まっていた頃でした。私は観てないから内容について言及することは控えますが、東映版と違ってたっぷり2クールの尺を費やすことができたおかげもあってか評判はとても宜しい。6万円のBD-BOXも、値段の割にそこそこ売れたそうです。『Kanon』は前述した通りツッコミどころの多いストーリーで、細かいことを気にすると話に集中できなくなる面もありますゆえ、初見の方はどうか構えずリラックスして御視聴ください。ストーリーなんてうっちゃって雰囲気だけ味わってもいいかと。土台、ストーリーなんてものは無理して追う必要などない、気になったときに追えばいい。まずはどこか一点でも作中の世界に興味を持ってみること、これが肝要です。『Kanon』は思い入れの深いファンが沢山いてアレコレ大仰に語られがちですが、ぶっちゃけ「いきなりメインヒロインが食い逃げかよ! しかも鳴き声が『うぐぅ』って!」というインパクトで持っていかれたところが大きい。プレーヤーの層も幅広く、ホラー作家として有名な貴志祐介も『Kanon』をやったことがあるとか。「将軍」ことライトノベル作家の三枝零一も自作のキャラクターに「黒沢祐一」という名前を付けている。

 余談だが、『Kanon』の主人公・相沢祐一は『ONE』や『AIR』、『CLANNAD』など他の鍵ゲー(厳密に言うと『ONE』はKey作品ではないが)に比べてキャラが薄く、名雪エンドのCGではのっぺらぼうになっていたぐらいなんですけど、無個性なのが逆に弄りやすかったのか二次創作の世界ではこれでもかとばかりに魔改造を施され超人化していった。書き手の理想を極度に吸収したこれらの祐一は「U-1」と呼ばれ、最低系SSを象徴する用語の一つにもなりました。しかし『Kanon』自体の二次創作はそこまで広く盛り上がったという印象はないな……『To Heart』等、葉ゲーの方がもっと凄まじかった。鋼屋ジンも東出祐一郎も奈良原一鉄も「りーふ図書館」でSSを書いていた時期があったのだ。私にとっても思い入れの深さは『To Heart』>『Kanon』なんだけど、曲に関しては『Kanon』の方が深く刺さっているかな。不意に『To Heart』のBGM聴かされても「懐かしいなぁ」ってしみじみするだけだが、『Kanon』のBGMを不意打ちで流されるとこの15年間が一気にリセットされそうな爆撃めいたショックが来る。「やっぱり15年ってウソだろ、ありゃほんの2、3年前のことだろうが!」って気持ちになっちゃう。曲そのものが一種のセーブポイントみたいなもんですわ。

お朱門ちゃんの女装主人公ゲーMEPHISTO『天使の羽根を踏まないでっ』がAmazon限定の廉価版として登場(それなんてえrg`・ω・´))

 お朱門ちゃんこと朱門優が手掛けた通算5本目の単独シナリオゲーム、それが『天使の羽根を踏まないでっ』です。彼のライターデビュー作は2001年の『蜜柑』(C's ware)なのですが、あれは複数ライターによる競作アンソロジーみたいな形式だったので、翌年ピンで書いた『黒と黒と黒の祭壇〜蠱毒〜』の方がより知名度を稼ぐ結果になった。黒黒黒をお朱門ちゃんのデビュー作と認識している人もいるはず。彼の特徴は「伝奇色が強いこと」で、これでもかとばかりに超常的な設定を細かく詰め込むため、出鼻を挫かれるユーザーや途中で付いていけなくなる人も出てくる。しかも黒黒黒の真ヒロインであるチッセ・ペペモルが転生して他の作品に再登場している、という裏設定がある(演じている声優が一緒)など、熱心に追いかけているファンにとっては嬉しいが初見のプレーヤーにとっては分かりづらい部分も新規参入を阻みがちとなっています。

 ややマイナー気味のライターながらそれでも「熱心に追いかけているファン」はいる、のですけれど……「一作出すごとにブランドを離れる放浪のシナリオライター」というのが彼のイメージというか実情であり、黒黒黒の後にC's wareからキャラメルBOXに移って『めぐり、ひとひら。』を出し、更にLump of Sugarへ移って『いつか、届く、あの空に。』をリリースし、また更にpropellerへスライドして『きっと、澄みわたる朝色よりも、』を発売まで漕ぎ着け、またまた更にWill系列でMEPHISTOという新興ブランドをつくって世に問うたのが『天使の羽根を踏まないでっ』なのですが、MEPHISTOはWill系列の縮小に伴いこれ一作こっきりで終了となってしまった。もう3年に渡って新作ゲームを出しておらず、最近は活躍の場をライトノベルにシフトしつつあります。独自の世界を紡ぎ出すシナリオに惚れ込む業界人もいて、だからこそ途切れ途切れとはいえ10年に渡ってシナリオライターを続けてこられたわけですが、とにかく独自すぎてなかなか評価に結びつかないのが難点である。「お朱門ちゃん」という愛称が生まれるキッカケになった『いつか、届く、あの空に。』も、キャラの可愛さ(特に桜守姫此芽)は評価されたものの、壮大すぎる伝奇ストーリーで賛否が真っ二つに割れた。ちなみに「お朱門ちゃん」の由来は、ヒロインの唯井ふたみが「ご主人さま」と「お兄ちゃん」を混ぜ合わせてつくった奇っ怪なる新呼称「お主人ちゃん」にあります。良くも悪くもクドさの目立つ作風であり、ハマることができたならばひたすら深いが、ハマれないと無限コンボの如く絶えざる苦痛に襲われる。ハマるか、ハメられるか。それがお朱門ちゃんワールドだ。

 実は『天使の羽根を踏まないでっ』、発売からだいぶ経って購入したんだけど、なかなかプレーする気が湧かなくてずっと積んでいました。「いい加減崩そう」と発掘した矢先にこのニュースが飛び込んで、間がいいやら悪いやら。しかし「復刻版 FFP仕様」って何でしょうね? FFPは「フラストレーション・フリー・パッケージ」の略で、梱包と包装を一体化させて「箱を開けたらすぐに商品の本体を取り出せる」ようになっているパッケージのことですけど、まさか封筒を開けたら生のDVDがそのまま入っているとか……? いやさすがにCDケースか不織布くらいは付いてるか。とにかくエロゲー特有のデカい箱は付いてこないんでしょう、たぶん。始まったばかりなんでまだよくわかんないですね。「復刻版 FFP仕様」で検索してみるとPULLTOPやインターハート、ブルーゲイルなどのソフトがヒットするけど、どういう基準で選んだラインナップなのかが謎だ。この調子でどんどん過去作の廉価版を最新OS対応で出してくれるならありがたいが……DL販売も広がっているけど、古い世代のオタクだからか物品としてのソフトがないと物足りないんですよね。書淫とかが出たら嬉しいな。

・拍手レス。

 Astral懐かしいですね。自分も好きす。文庫未収録作品があるのが惜しい。
 庶民サンプルのアニメが当たればAstralの完全版(および続編)が出る可能性もゼロではない……?

 『Astral』は今読んでもなかなか良いですね。文学少女シリーズとかが好きな人にはオススメ。不器用な主人公と、妹ちゃんの関係が気になる。
 『Astral』は今の方が高評価を浴びそうだけど、ライトノベル供給過多の状況を鑑みると単に復刊しても当時より売れないだろうな……ラノベレーベルじゃなく一般文庫の方で出し直した方がイイかも。

 作品解説、続けるなら京極夏彦作品とかやってほしいなぁ。あれ、豆腐小僧とどすこい以外の小説は、全て同じ世界上での話のはずだし。結構あちこちでリンクしてるしなぁ。というか、妖怪シリーズの新刊はそろそろ出ないだろうか。
 最近はパソコンの使用自体を控え気味にしているので、作品解説は当分中断することになりそうです。妖怪シリーズの新刊は『鵺の碑』でしたっけ。文藝春秋から出版予定と告知されましたが音沙汰ないですね。


2014-07-06.

『武器人間』を観た焼津です、こんばんは。原題は "Frankenstein's Army" 。

 1945年、「大祖国戦争」に従軍したソ連兵たちがドイツの占領地区で目撃したものとは……ショッカーの怪人並みに身体を弄くられたフリーキィ極まりないナチスモンスターだった! 偵察部隊にカメラを持った記録係が存在していた設定になっており、「実際に撮影された出来事」「歴史の闇に埋もれたフィルム」という体裁(こういうのを「ファウンド・フッテージ」と呼ぶらしい)で綴る主観視点(POV)映画です。そのため画面が頻繁に揺れる。『クローバーフィールド』とかが苦手な人は酔うかもしれません。というか私はちょっと酔った。ところどころでフィルムを交換する「間」があったりなど、芸は細かい。大山のぶ代が最後の方でナレーションを務めるPVから「白熊のようなソ連兵たちがウォトカをガブ飲みしながら押し寄せるナチスの改造人間どもとドンパチ!」っていう小学生レベルの無垢な頭脳からひり出されたB級アクションを想像していたが、どちらかと言えばホラー映画の歴史に連なる一編だった。狂科学者の棲む魔窟(ダンジョン)に潜入! 襲い来る恐怖、また恐怖! ってノリ。手加減のないグロテスク描写で人間の理性も尊厳も軒並み破壊していく。

 逃げ場のない、息苦しい緊張感はイヤになるくらい溢れているが、交戦して倒す改造人間は意外と少ない(数えてないけど確実に倒したのはせいぜい5体くらい、爆発で有耶無耶になったり銃弾が効かず決着しないままになってる奴がほとんどだ)からバトル物を期待するとガッカリかもしれません。それに、「ナチスの狂気」というより「博士の狂気」に踏み込んだ話となっていて、ナチス側も被害者みたいな扱いになっているのが物足りなかった。シュトロハイムみたいに改造を肯定的に受け止めているナチス兵が全然いないというか、そもそも知性が残っているかどうかさえ怪しい。死体と機械をゴチャ混ぜにして甦らせる狂った博士の名前は「ヴィクター・フランケンシュタイン」、あのフランケンシュタイン博士の血筋という設定になっています。恐らく最初は教会にあった死体と他国民を「素材」にしていたんだろうけど、だんだん暴走してクライアントであったナチス兵を「加工」するようになったのでしょう。死者たちを「部品化」して製造ラインまで作ってるから、ゾンビ並みに倍々で増えていくんですよね。凄まじい世界を描出している割にラストも呆気なく、「え? これで終わり?」というのが正直な感想だった。

 とはいえ、やっぱりスゴイ映画であった。若干そこかしこに低予算の気配を漂わせるものの、「俺はこの画が撮りたいんや!」という制作陣の妄執および気迫がヒシヒシと伝わってくる。地獄へようこそ、とばかりに観客をもてなしてくれます。「人間が人間でないものに変わる」点ではゾンビ映画と共通しているが、オモチャのように好き勝手弄くられた挙句、フリークスとなって復活するエグさは言葉を失うものがある。それにしても、モスキート型は何度観てもカッコイイな。惚れ惚れする。思わず「モスキート先輩」と呼びたくなるくらいだ。フィギュア出ないかな……テーマソング?のソビエト軍歌も耳に残る一曲で、ボンヤリするとつい「ら〜んからるっしゃ」と口ずさんでしまう。中毒性が高い。ただセリフは基本的に英語なので、主人公たちがソ連兵であることをたまに忘れてしまいそうになります。アニメは全編日本語でも特に引っ掛かりを覚えないけど、『ワルキューレ』『三銃士』『300(スリーハンドレッド)』などの実写映画は全編英語だとどうしても違和感が込み上げちゃいますね。

 あとアインポトフだかアイントプフだかいうあの料理は一体何だったんだろう……? 私、気になります。って検索してみたら普通のスープ料理か。てっきりBLOOD-Cのギモーヴ的なアレかと思った。

『ラブライブ!』完全新作劇場版制作決定キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!(萌えオタニュース速報)

 人気ぶりからして来ないわけがないと思ってましたが、それでも本当に来ると聞かされたら嬉しくなりますね。企画自体は前々から知っていたけどハマったのはアニメ化後で、グッズ類もほとんど買っていないヌルいファン層たる私は「ラブライバー」と名乗る資格を有していないが、それでも「彼女たちの未来が観たい」という気持ちは生半ならぬものがあります。アイドルに終わりなどない。

一迅社文庫『俺がお嬢様学校に「庶民サンプル」として拉致られた件』アニメ化決定!(萌えオタニュース速報)

 一迅社文庫の先陣切って初アニメ化を果たしたのは庶民サンプルか……千盾はもう完結するし、コレか『10歳の保健体育』のどちらかだろうな、とは思っていました。作者の七月隆文(ななつき・たかふみ)はかつて「今田隆文」名義で活動していた作家であり、ときメモのノベライズを経て「Astral」という短編からオリジナルのライトノベルを手掛けるようになります。「Astral」は幽霊が視える少年を主人公にした比較的シリアスなストーリーで、連作化されて単行本も2冊出ました。地味ながら評判も良く、「今田隆文の今後」は一部で期待されていましたが、渾身の大河SFとして構想された『フィリシエラと、わたしと、終わりゆく世界に』があまりにも売れなかったせいで2巻目が出ず打ち切りに。よほどショックだったのか、ペンネームを今の「七月隆文」に変更して再出発。今井時代はシリアス寄りの作風でしたが、七月以降はコメディ作品も多く手掛けるようになります。2006年の『ラブ★ゆう』から徐々に認知度が高まってくるものの、『ラブ★ゆう』自体は投げっぱなしに……完結したわけじゃないのに、もう6年くらい新刊が出ていない。SDじゃよくある話だ。『俺がお嬢様学校に「庶民サンプル」として拉致られた件』は2011年に開始したシリーズで、タイトルもあらすじもヒドいけれど、そこさえ割り切れれば直球のドタバタラブコメとして楽しめる。題名のせいでどうしても読む気がしない、という方はせめて『Astral』だけでも読んであげてください。2000年代の電撃文庫における埋もれた佳品です。

・拍手レス。

 ブッチー×うぶちんとか、物凄いコンビですね。個性的なライター二人でどんな化学反応が起きるのか、楽しみでもあり不安でもあります。そして、うぶちんは仕事量に押しつぶされないだろうか。来年1月にはファフナーEXODUSもあるのに。
 うぶちんもゲーム業界で働いていた時期があったそうだし、微妙に経歴が被っているのが面白いところ。それにしても彼の過労癖は歳を取っても収まる気配が全然ないですね。アノニマスもまたゲロを吐きながら書くつもりなのか……。

 オーフェンかあ……最近続編の方が完結しましたね。「魔王」オーフェンの心情だとか気苦労と周りの評価の対比を見ると案外チャイルドマンも中身はこんな感じだったのかな、なんて思ったり。いくら強くても個人では組織に勝てないって言ってたチャイルドマンの後継者はその辺の不器用なところも引き継いじゃったのかなあ。
 オーフェン、10代の頃は無心で楽しんでいたけど、今読んだらどうなんだろうな……と不安に思いつつ手を伸ばしてみたところ、読み手としての視点は変わったけど面白さはちゃんと維持されていて安心しました。西部編のあたりはまだオーフェンも「若い」って印象が強いけれど、ここからどう歳を重ねていくかが楽しみ。

 パシリム続編決定は本当にめでたい!日本では劇場公開終了後にレンタルで観て後悔した人もかなりいたみたいですから、CMをしっかりすれば多分前作より興収は伸びるんじゃないでしょうかね。
 あのズシンズシンと腹に来る重量感満点の音響は映画館じゃないとなかなか味わえないですもんね。このまま連作化して「夏だ! パシリムだ! さあ君もカイジューを八つ裂きにしよう!」な定番シリーズになってほしいです。


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