2006年12月分


・本
 『薔薇密室』/皆川博子(講談社)
 『ウロボロスの偽書』/竹本健治(講談社)
 『伯林蝋人形館』/皆川博子(文藝春秋)
 『君に届け(1〜2)』/椎名軽穂(集英社)
 『さよならを告げた夜』/マイクル・コリータ(早川書房)
 『ひぐらしのなく頃に 語咄し編』/アンソロジー(スクウェア・エニックス)
 『ウロボロスの基礎論』/竹本健治(講談社)
 『ジュリエットXプレス』/上甲宣之(角川書店)
 『超鋼女セーラ』/寺田とものり(ホビージャパン)
 『ウロボロスの純正音律』/竹本健治(講談社)
 『天涯の砦』/小川一水(早川書房)
 『摩天楼の怪人』/島田荘司(東京創元社)
 『○本の住人(1)』/kashmir(芳文社)
 『チーム・バチスタの栄光』/海堂尊(宝島社)
 『百合星人オナコサン(1)』/kashmir(メディアワークス)
 『ハチワンダイバー(1)』/柴田ヨクサル(白泉社)
 『七王国の玉座(上・下)』/ジョージ・R・R・マーティン(早川書房)

・ゲーム
 『アノニマス』体験版(mirage)
 『雛見沢怪奇ナビゲーター 罪穢』(焼肉万歳)
 『いつか、届く、あの空に。』体験版(Lump of Sugar)

・映画
 『時をかける少女』

・特集
 2006年振り返り(漫画、ゲーム)
 2006年振り返り(SS)
 2006年振り返り(小説)


2006-12-31.

・よし、振り返りもこれで最後。小説部門です。若干長い……一日では書き切れませんでした。

[小説]

第一位 『終戦のローレライ(上・下)』
第二位 『剣豪将軍義輝(上・中・下)』
第三位 『傭兵ピエール』

 総合は以上。毎年大長編モノが来ますな。

[小説−ジャンル:ミステリ、サスペンス]

第一位 『コフィン・ダンサー(上・下)』
第二位 『犬はどこだ』
第三位 『第三の時効』
第四位 『ボーン・コレクター(上・下)』
第五位 『魔術師』
第六位 『静寂の叫び(上・下)』
第七位 『夏期限定トロピカルパフェ事件』
第八位 『トーキョー・プリズン』
第九位 『怪盗グリフィン、絶体絶命』
第十位 『漂泊の牙』

 十作中四作がジェフリー・ディーヴァー作品。だいぶ偏ったランキングになってしまいました。今年の新刊は七位から九位の三冊だけ。平台を丹念にチェックして買い込むことは買い込んだんですが、ほとんど崩せなかったという情けない状態に陥ってしまいました。『コフィン・ダンサー』は“リンカーン・ライム”シリーズ第2弾、肢体不自由の天才鑑識官が職業殺人者(ヒットマン)と対決する話で、シリーズ通して見ても際立ってアクションが派手。盛り上がってくるまで少しかかりましたが、クライマックスの興奮は随一です。出来というより好みで一位に推しました。ヒットマンの凶悪で強そうな感じがイイ。『犬はどこだ』はタイトルに反して犬探しではなく人探しの探偵ストーリー。「犬探し専門の探偵なのに、なんで人を探さなくちゃいけないんだ……」と不満げに仕事をこなす主人公が面白くてのめり込んでしまう。独特の米澤節も今回は極まってました。なんと表現すればいいのだろうこの読後感。『第三の時効』は連作形式の刑事小説。ある理由から決して笑わなくなった刑事が、ハートマン軍曹よろしく悪人どもを泣いたり笑ったりできなくする話、「時効が成立した……」と思った途端「いや、まだ時効じゃない」と言い出す話など、一つ一つのレベルが異様に高い。そして強烈に男臭い。刑事たちの内面まで掘り下げる心理描写にも手に汗握った。

 『ボーン・コレクター』は“リンカーン・ライム”シリーズ第1弾。次回の犯行を予告し、攫った人間をすぐには殺さないシリアル・キラーと対決するのはベッドから起き上がれない天才鑑識官。反抗的な女性巡査を手足の代わりにして犯行を未然に防ごうと奮起する。「頑張ればギリギリで被害者を救えるかもしれない」というデッドラインが常に設定されているという絶妙なシチュエーションにより最後までノンストップで読ませるサスペンス。なるほどこれはブレイクするわけです。ディーヴァー作品未読の方はこれから手につけてみるが吉。『魔術師』は“リンカーン・ライム”シリーズ第5弾。イリュージョンを悪用して奇抜な連続殺人を巻き起こす怪人がいかにも江戸川乱歩チックでミステリ・ファンの心をくすぐる。サプライズの多い展開は普通だと無茶に見えかねないが、「まあ犯人がほら、怪人だし」という理由で納得できるのもうまい。『静寂の叫び』はノンシリーズ作品。人質を取って立て篭もった強盗犯たちとネゴシエーターとの息詰まる交渉戦を描く。これも一度読み出したら止まらない。読んでて「こんなネゴシエーション、自分なら絶対にやりたくないなぁ」と思うこと請け合いだ。

 『夏期限定トロピカルパフェ事件』は小市民シリーズ第2弾。主人公コンビが可愛らしくてほのぼの。しかしながら「ほのぼの」だけでは終わらないのが米澤穂信の作風です。スイーツがタイトルなのに、なぜか苦い。『トーキョー・プリズン』は終戦直後の巣鴨プリズンで起こった事件と、記憶をなくした戦犯の過去を巡る物語。「民主主義というやつはなにも、それをつくる人たち以上によいものではないのだよ」という言葉が印象的でした。『怪盗グリフィン、絶体絶命』は建前上「子供向け」ながら大人も熱中できる怪盗活劇。作者が遅筆で有名な人じゃなけりゃ、シリーズ化を希望したい作品ではあります。『漂泊の牙』は妻を「野犬のような獣」に食い殺された男が復讐の追跡行に打って出る。やや荒削りながら骨太な読み応えです。

 ランキングの枠に入れられなかった奴では『弥勒の掌』『旧宮殿にて』『灰色の北壁』『骸の爪』『七姫幻想』『摩天楼の怪人』『悪魔の涙』『エンプティー・チェア』『愚行録』『死の泉』なども良かったです。

[小説−ジャンル:ライトノベル]

第一位 『鉄コミュニケイション(1〜2)』
第二位 『狼と香辛料(1〜3)』
第三位 『Assault』
第四位 『とらドラ!(1〜3)』
第五位 『紅〜ギロチン〜』
第六位 『奏(騒)楽都市 OSAKA(上・下)』
第七位 『ゼロの使い魔(7〜10)』
第八位 『閉鎖都市 巴里(上・下)』
第九位 『猫泥棒と木曜日のキッチン』
第十位 『矛盾都市 TOKYO』

 これも偏ってるなぁ。都市シリーズが3つも。『鉄コミュニケイション』は大事に取っておいた秋山瑞人作品。その甲斐あって中身は最高な味わいを誇ってましたが、これで「新刊はまだか〜」と呻く日々に直行。人間がほぼ滅亡してしまったせいで逆に平和になった世界、一人の少女がロボットに囲まれて暮らしていたら、そこに彼女とよく似た子が現れて……というSFです。極端な状況のくせにやたらとノスタルジーを誘う筆致で、ロボットたちも活き活きとしてる。割と容赦ない展開もあって最後まで油断できず、息詰まるほど惹き込まれました。『狼と香辛料』は新人作品の中で一番の収穫。異世界ファンタジーながら「行商人と人外ヒロイン」という珍しい組み合わせで、商取引をメインに据えて進むところが新鮮でした。ラブコメ要素もきっちりと仕込まれていて「あ゛ー、もうお前らこれ以上イチャイチャすんな!」とムズ痒さをしっかり堪能できる。ホロかわいいよホロ。借金地獄で人生の暗黒期に突入する2巻は「剣より魔法よりモンスターより借金の方が身近で恐ろしい」と実感させてくれました。『Assault』は“されど罪人は竜と踊る”の過去編。ヘタレ眼鏡ことガユスの黄金に満ちた青春を綴る。輝かしい過去ってのは眩しすぎて目に痛いですねぇ……こっから後は転落するだけですし。アクションはややおとなしめながら結構ページ数があってたっぷり濃密に味わえます。

 『とらドラ!』『わたしたちの田村くん』で好評を博した竹宮ゆゆこの新シリーズ。ちっちゃいながら虎のように苛烈な気性をしたヒロインが「はかってくれた喃、竜児!」と逆恨みして木刀でカチコんであわや主人公をSATSUGAIしそうになる過激な序盤から、だんだんとまったりした学園青春コメディに移行していく。今回は無事長期化するみたいでレギュラーキャラもぐっと増えて賑やかになり、学園モノとしての楽しさは前作以上。ただ恋愛方面は亀どころかナメクジの歩みなんで、人によってはもどかしすぎるかも。『紅〜ギロチン〜』『紅』の続編。トラブルシューターの少年が「襲撃してくる職業殺人者たちから少女を守る」という超難関ミッションに挑むハメに陥る。脇役ながらキモ姉の夕乃さんが相変わらず可愛かった。しかし今年はこれと『円環少女』『SHI-NO』、「魅惑のロリ」三連星が活躍した年でした。『奏(騒)楽都市 OSAKA』は都市シリーズ第4弾。都市シリーズは相互に話の繋がりがほとんどないので、設定さえ理解できればどこから読んでもOKです。ノリとしては「超能力を持った高校生たちが番を張りつつバトル」って感じで、不可侵条約を交わしていた関東が関西に攻め込んできてふたたび抗争に発展しそうなキナ臭い雰囲気をつくり始める。都市シリーズにしてはあまり複雑なプロットじゃない分、ストレートに楽しめます。個人的に関東方の中村・久秀が好き。

 『ゼロの使い魔』は「ヒロインのルイズがツンデレ」という件ですっかり有名になってアニメ化も果たしちゃいましたが、7巻では「単騎で大軍勢の進攻を止める」という男の子が興奮せずにはいられないシチュエーションをドーンとぶつけてきます。そして8巻の「胸革命(バストレボリューション)」は誰しも噴き出すこと確実。もちろんルイズの可愛さも健在ですが、こう、ちょっと空回りしているところのある痛々しさ……痛可愛さ? が、えも言われぬ風情を醸しています。外伝として『タバサの冒険』も出ており、こっちは読み切り連作形式でより気軽に楽しめた。『閉鎖都市 巴里』は都市シリーズ第5弾。あえて従来のやり方を捨てた冒険作ながら、ある意味、もっとも都市シリーズらしい複雑な一作でもあります。複雑なプロットを脇においても、占領下のパリを舞台に重騎(感覚的にはでっかい人型ロボ)がガッツンガッツンぶつかり合う展開が楽しい。『猫泥棒と木曜日のキッチン』は一言でまとめると「少年と少女が仔猫を拾う話」。決して「心温まる〜」などの美辞麗句だけで飾れる話ではありませんが、するっと読めて胸の奥まで効いてくる。『矛盾都市 TOKYO』は書店売りされておらず、イベントでの販売を除けば通販で手に入れるしかない一冊。都市シリーズ作品で、同じ日本が舞台なだけにOSAKAと共通する箇所もありますが、複雑さでは『巴里』と並ぶかそれ以上。ギャグのノリが『終わりのクロニクル』と似た傾向なので、終わクロから入ってきた読者なら必見だ。ランク外作品では『ヤングガン・カルナバル』『海の底』『超妹大戦シスマゲドン』『逆襲の魔王』『電蜂』『ソラにウサギがのぼるころ』『聖者の異端書』『覚醒少年』『火目の巫女』も良かったです。

[小説−ジャンル:冒険小説、時代小説]

第一位 『終戦のローレライ(上・下)』
第二位 『剣豪将軍義輝(上・中・下)』
第三位 『山猫の夏』
第四位 『火怨(上・下)』
第五位 『獅子の門(群狼編〜雲竜編)』
第六位 『虎の城(上・下)』
第七位 『黒と青』
第八位 『サウンドトラック』
第九位 『安徳天皇漂海記』
第十位 『ベルリン飛行指令』

 さすがにそろそろ読むのがダルくなってきましたか? 当方も書くのがダルくなってきたので、ここから巻いていきましょう。『終戦のローレライ』、くどい、硬い、なのにすっげぇ面白い冒険小説。あそこまで濃密なピンチと逆転の連続はなかなか拝めません。魔女に魅入られるとは正にこのようなものか。『剣豪将軍義輝』はちょっと砕けた文体だけど、中身はすっげぇ面白い時代小説。戦国時代に夭折した足利義輝が主人公で、彼の成長を丹念に綴っている点、斎藤道三や織田信長、武田信玄といった有名どころがたくさん出てくる点、塚原卜伝の教えを受けて剣の境地を啓く点、あらゆるポイントが凝縮されたエンターテインメントに仕上がっている。これに出会うために時代小説にハマったようなものだ。『山猫の夏』は船戸与一初期の傑作。群を抜く迫力に熱中した。強くて悪くて茶目っ気のある「山猫(オセロット)」がカッコ良くて仕方がない。『火怨』は蝦夷の英雄アテルイを主人公にした東北時代小説。下巻で繰り広げられる怒涛の展開とそこに篭もった覚悟でほとんど泣きそうになりました。『獅子の門』は主人公のいない格闘小説。だから誰が勝つのか分からない。そこがたまらなく熱い。

 『虎の城』は藤堂高虎が主人公。『センゴク』の最新刊にも出てきましたね。カッコ悪かったけど。とはいえ彼の人生遍歴がそのまま戦国時代と直結しているというのもなかなか凄いなぁ。『黒と青』はスコットランドの刑事ジョン・リーバスを主人公とするシリーズの代表作。リーバスいいわぁ。おっさんなのに迷ってて、掴み合いの喧嘩したり、泣き喚いたり。情けないんだけど魅力がある。絞殺魔が模倣犯を刑事に先駆けて見つけようとする『ハサミ男』的な展開もあって興味をそそられました。『サウンドトラック』、「音楽は死んでいた」の一文が何よりも雄弁な長編。近未来、ヒートアイランドで桜が枯れた東京をサバイヴする少年少女たち。『コインロッカー・ベイビーズ』とも通じるところはありますが、とにかく説明のしにくい作品です。というか古川って説明しにくい作品しか書きませんね。『安徳天皇漂海記』は『平家物語』で聞き手を一番泣かせる「安徳天皇入水」のシーンで実のところ幼帝は死なずに生き延びていた……という設定で送る伝奇小説。しっとりとした第一部、ダイナミックな第二部という対比が活きていてイイ。『ベルリン飛行指令』は「ゼロ戦に乗り込み、日本からドイツまで、英国空軍の目を盗んで飛べ」という無茶な指令を実行する、壮大だけど歴史の闇に消えちゃう冒険ストーリー。ローレライみたいなハリウッド系の面白さじゃなく、プロジェクトX的な面白さです。

 ランク外では『Op.ローズダスト(上・下)』『あなたに不利な証拠として』『射G英雄伝(1〜5)』『空の剣』『甦る男』『早春賦』『無頼の掟』『B・D・T 掟の街』『果てしなき渇き』『少女は踊る暗い腹の中踊る』『地を這う虫』『ゆりかごで眠れ』『暗礁』なんかも面白かった。

[小説−ジャンル:SF、ファンタジー、その他]

第一位 『傭兵ピエール』
第二位 『双頭の鷲』
第三位 『ばいばい、アース(上・下)』
第四位 『王妃の離婚』
第五位 『クライマーズ・ハイ』
第六位 『わたしを離さないで』
第七位 『告白』
第八位 『ロックンロール七部作』
第九位 『マルドゥック・ヴェロシティ(1〜3)』
第十位 『冬の旅人(上・下)』

 佐藤賢一作品が三つ、冲方丁作品が二つで割合偏ってますね、ここも。『傭兵ピエール』『双頭の鷲』は百年戦争のフランスを舞台にした中世小説。時期的には『双頭の鷲』が先で『傭兵ピエール』が後を継ぐ。「シェフ殺し」として恐れられるピエールと人懐っこいデュ・ゲクラン、主人公の性格は違っているが、なんだか憎めなくて魅力を感じてしまう点では一緒。『双頭の鷲』が一国の再興を描く壮大なロマンであるのに対し、『傭兵ピエール』は傭兵団や主人公とヒロインのロマンスに的を絞ったミクロ視点のストーリーで、ただ単に後者の方が好みだったというだけです。『ばいばい、アース』は「いくらなんでも詰め込みすぎだろう……常識的に考えて……」なゴリゴリの異世界ファンタジー。「アース」というくらいですから厳密には異世界じゃありませんが、そう受け取った方が却って理解しやすい。上巻が物凄ぇ面白く、下巻がやや微妙なので三位としました。『王妃の離婚』は佐藤賢一作品の中では短めの小説ながら、クオリティの点で一、二を争う秀作。あまりにも一方的で絶望的な離婚裁判に立たされた王妃を救うのは、夢を断たれてなお再起する弁護士、かつて「喧嘩議論の王者」と呼ばれた男フランソワ・ベトゥーラスだった――佐藤賢一版の『逆転裁判』、見逃す手はありません。『クライマーズ・ハイ』は記者だった横山秀夫自身の経験を活かした報道小説。日航ジャンボ機墜落事故に直面した記者たちの、言葉には尽くせない狂乱が、胸に迫るものを投げかけてきます。

 『わたしを離さないで』は詳細を説明するとどうしてもネタバレになってしまうのが泣き所の小説。インタビュー形式で丹念に織り紡がれる少女の回想は、決して「甘く切ないノスタルジー」などという次元に収まらず、心の柔らかいところを刺し貫く刃となるでしょう。『告白』は爆笑必至のリズミカルな文体で或る阿呆の一生を綴った時代小説。ギャグっぽいのになぜこうまで深く「他人と分かり合えない男」の痛みを抉り取れるのか。作者の腕に畏怖します。『ロックンロール七部作』はひたすら物語が流転(ロール)する連作小説。人喰いワニが出てこようとロックンロール、ピロシキが出てこようとロックンロール、ムエタイを極めようがロックンロール。基本的に語り手の好みで物事が判断されてしまうのが痛快だ。『マルドゥック・ヴェロシティ』は「エルロイ文体で山田風太郎の忍法帖シリーズばりの異能者アクションを描く壮絶なノワール」とか、確かそういう紹介をされたSF。一人の男が虚無に疾走する過程を細大漏らさず書いてます。できれば一冊ずつ買って読んで、迫り来る暗黒の灼熱感に焦れろ。『冬の旅人』は美しき「悪魔(ディアーヴァル)」の引力に抗えず、維新後の日本から帝政ロシアへ渡ってしまった少女の半生を描く激動の西洋ロマン。歳を取ってなお方向音痴であり続けるその生き様に号泣しそうになった。

 ランク外では『ららら科學の子』『夜更けのエントロピー』『遮断』『ベルカ、吠えないのか』『総統の子ら』『黒い悪魔』『RUN RUN RUN』あたりかな。

[小説−ジャンル:短編]

第一位 「江利子と絶対」/本谷有希子−『江利子と絶対』
第二位 「第三の時効」/横山秀夫−『第三の時効』
第三位 「最後のクラス写真」/ダン・シモンズ−『夜更けのエントロピー』
第四位 「動いているハーバート」/イアン・ランキン−『貧者の晩餐会』
第五位 「眺めのいい静かな部屋」/アヴラム・デイヴィッドスン−『どんがらがん』
 次点 「二つの鍵」/三雲岳斗−『旧宮殿にて』、「殺人哲学者」/ジャック・リッチー−『クライム・マシン』、「地を這う虫」/高村薫−『地を這う虫』

 短編集はあまり読まなかったんで十作も選び切らなかった。なので中途半端だけど、五位までと次点を三つ挙げる。「江利子と絶対」は江利子が可愛かった。可愛すぎた。思わずサイト名も「Method of Entry」を「Method of Eriko」と変えてしまった。いい加減そろそろ戻すつもりだが。ダメ人間がダメな方向に頑張ろうとしてる様に「んなことしたってダメに決まってるだろ」と冷ややかに言いたくなりつつも結局生ぬるい目で見守ってしまう、何とも言えない微温感が最高。「第三の時効」は限界まで研ぎ澄まされ、練り上げられた極上の刑事ミステリ。ああ早くこのシリーズの第二弾が読みたい。「最後のクラス写真」は世界全体がゾンビ化してしまったにも関らず、「自分の生徒たち」を教導しようと虚しいにもほどがある努力を淡々と重ねる先生の話。リビングデッドものでは、こういう叙情味を漂わせるものが大好物です。「動いているハーバート」は「事前に自殺すべきか、事後に自殺すべきか、それが問題だ」と言わんばかりの冒頭で読者の心を掴む短編。プロットがどうこうというより、登場人物の機微を印象的に伝えてくる濃やかな気配りが心憎い。「眺めのいい静かな部屋」は養老院が舞台。パズルのようにカチッとハマる一編。最後の一行にゾッとしますね。

 中途半端に残ってしまった次点作品、「二つの鍵」はパズラーチックな本格ミステリ。自分の日記を引用すると「金の鍵と銀の鍵、二種類の鍵があって、金の鍵で施錠すれば銀の鍵でしか開錠できず、銀の鍵で施錠すれば金の鍵でしか開錠できない。そんな仕掛けが施された箱の話」。ちょっとややこしいけれどトリックを弄さず論理展開だけで進行させるストイックさにめろめろです。「めろめろ」って「めがっさにょろにょろ」と少し似てますね。「殺人哲学者」はすごく短いのであらすじを紹介できません。が、タイトル通りの内容です。無駄がなくてスマート。「地を這う虫」は刑事時代の癖が抜けない男が町内の不審な事件を解き明かそうとする話。煤け感、燻り感がマックスでいと美味し。

 それと宮本昌孝の「紅蓮の狼」(『青嵐の馬』所収)も挙げようかどうか迷いましたが、これは少し長いので、結局取りやめに。内容自体は上位クラス。荒んだ姫君が妹や狼を得たことで和やかになっていく前半と、敵討ちのために老上泉信綱に教えを乞う後半、満遍なく興味深いストーリーに仕上がっております。

・しかし、このやり方は疲れるなぁ……来年からは方式を変えることにしようっと。

完結作をイッキ読み!

 正月は『トランスルーセント』『ダーク・タワー』をまとめ読みするつもり。まず読み切れないだろうとは思いますが。特に後者。

・2006年ラスト拍手レス。

 なんつうか。修羅場SS呼んでみました。実妹の話。ラストの展開でがっかりではあるのですが。
 どうして主人公はあんなクズなのか。主人公が魅力的な(ダークな魅力でもいいです)修羅場SSのオススメは
 ないでしょうか?

 「優柔」のゆう君。ダークというよりクズの極地に達してていっそ清々しい。

 修羅場は面白くありません
 蓼食う虫も好き好きってことで。

 修羅場SSはやばいですね。携帯でチェックしてますが、3日も間をおくと置いていかれますw
 未だに勢いが衰えてませんからねー。お気に入りのSSを追うだけでもひと苦労。

・ではよいお年を。あいつの新年に茜と山査子の棘がありますように。


2006-12-29.

・恒例ではあるが好評でも不評でも何でもない年末振り返り企画の二回目ー。今回ピックアップするのは「SS」です。自分トコのSSコーナーはほったらかしだけどそこはそれ、目を瞑ってサクサク行きますよー。

[SS]

 今年は熱かった。何がって、そりゃ修羅場SSがですよ。ご存知でない方はこちらの修羅場系総合SSスレまとめ(成人向け)をどうぞ。ズラリと並んだタイトルの数に眩暈がすること請け合いです。ざっと150超。これが一年で投下されたSSだというのだから少し信じがたいものがあります。

 大雑把な経緯について触れますと、まずエロゲー板に「嫉妬・三角関係・修羅場統合スレ」という本スレに当たるものがあり、こちらは去年まで比較的のんびり進行のスレでしたが『School Days』の発売で激変。一気にブーストが入り、11月末にはアニメ版『シャッフル!』の黒楓降臨により更に加速しました。しかしながら『School Days』のインパクトが強すぎて匹敵しうる嫉妬ゲー・修羅場ゲーがなかなか出てこないという事態に住人は直面します。飢えを凌ごうとマッチ売りの少女さながら妄想(ドリーム)に耽る住人たち。その妄想が力を帯び始めたとき「エロパロ板にSSスレが欲しいな」という望みが高まり、今年の1月22日に「嫉妬・三角関係・修羅場系総合SSスレ」が設立する運びと相成りました。

 「浅いものはツンツンしたり、みたいな可愛いラブコメチックなヤキモチから深いものは好きな人を独占して寵愛する為に周囲の邪魔者を抹殺する、みたいなハードな修羅場まで、醜くも美しい嫉妬を描いた修羅場のあるSS及び、他様々な展開の修羅場プロット・妄想を扱うスレです。」という序文がそのまま趣旨。最初のうちは断片的・単発的なSSおよびプロットを発表し合って同好の士の間でひっそりと楽しむ隠れ家的な性質の濃いスレでしたが、「姉貴と恋人」を皮切りにやがて連載回数が優に十回を越える長編SSの先触れたちが陸続と馳せ参じます。「合鍵」「優柔」「妹(わたし)は実兄(あなた)を愛してる」「鏡」「不義理チョコ」……僅かひと月の間にこれだけの陣容が整い、鯨波の声とともに一ヶ月経たずして一スレ目が消費し尽くされる。当方も2月の日記(16日付)で「凄まじく神懸かっていて毎日目の離せない」と触れているくらいで、当時の興奮が容易に察せられますな。

 アクセス数の増加甚だしく旧まとめサイトが転送量オーバーでアカウント抹消の憂き目に遭うほどの勢いを見せながら、しかし留まることを知らぬ修羅場SSスレ。三スレ目では初の絵師さんが登場(行き着けのサイトの方でビックリしました)。七スレ目から投下量の絶頂期を迎え、十日で一スレを食い潰す40〜50KB/日の怪物じみた爆撃が連日連夜に渡って繰り広げられました。いやはや凄かったのなんの。

 一言で表すと「おお、炸裂よ(エクスプロード)――!」

 ここまで修羅場SSが加熱した背景には上記した『School Days』やアニメ版『シャッフル!』の他に、「我妻由乃(がさい・ゆの)」の強烈さで有名になった『未来日記』の壮絶な修羅場っぷりもあります……というか、嫉妬心を原動力に複数の少女が合い争う「修羅場」よりも、ひたすら病的に恋焦がれて精神に変調を来たしていく(あるいはハナっから来たしている)ヒロインを描いた「ヤンデレ」として挙げる方が通りはいいのかもしれませんね。『School Days』の桂言葉も、アニメ版『シャッフル!』の芙蓉楓も、『未来日記』の我妻由乃も、みんなヤンデレの範疇に含められていますし。修羅場に出てくるヒロインは必ずしもヤンデレではなく、またヤンデレのヒロインも絶対に修羅場をつくるというわけではありません。しかしながらこの二つの属性は親和性が高い。修羅場を活写するにはヒロインに闇と病みを刻印するのが効果的だし、ヤンデレのヤミ加減が最大限に発揮されるのもやはり対抗馬が現れて醜い嫉妬を剥き出しにさせられる修羅場においてです。修羅場の裏にヤンデレあり。ヤンデレの赴くところに修羅場あり。光と影というより、陰と影な両者ですが、そう容易には切っても切れない縁にあると存じます。

 まあそんな御託はどうでもよろしくて、個人的にはSSスレの幾多ある傑作の中で「優柔」「妹(わたし)は実兄(あなた)を愛してる」「山本くんとお姉さん」「Bloody Mary」「血塗れ竜と食人姫」の五作を特にオススメしたい。「優柔」「妹(わたし)は実兄(あなた)を愛してる」「山本くんとお姉さん」は現代を舞台にした修羅場モノで、それぞれ元カノ、実妹、実姉がメインヒロインとなって主人公へのキモ苦しい執着を見せつける。

ゆう君、メス犬とそれ以上セックスしないでね。
いくらゆう君でも獣姦なんてしてほしくないから。

 ↑が「優柔」の椿。ライバルを「メス犬」呼ばわりし、すかさずセックスを「獣姦」と読み替えるその思考回路には背筋が凍る。彼女の言動は無造作な毒に満ちています。いつか「椿ちゃん語録」をつくりたいものだ。

 兄さんは、わたしの作った料理を食べて命を繋いでいるのだ。
  まいにち、まいにち、ずっと、ずっと、ずっと、これまでも、これからも……
  背筋がぞくぞくする。
  それだけで、いってしまいそうになる。

 ↑は「妹(わたし)は実兄(あなた)を愛してる」の楓。主人公の実妹なので近親相姦属性も保有しております。「兄の顔を散々おかずにしてきた」など、そのキモウトぶりは某「あの女の匂いがする」にも匹敵。が、キモいばかりではなく健気な性格を晒すシーンもいくつかあり、兄への愛情が巨大すぎて根本的に歪んじゃったんだなぁと痛感させられます。

 『2006/05/20 15:36 From 亜由美 To 秋人 ――秋くん、今日のお夕飯何がいいかな――』
メール、送信。

――うん、完璧だっ。

我々にはどうしようもなく平凡な一文に見える。しかし姉にとっては細部まで吟味されつくした文面なのだ。
少年の食欲を刺激して家を恋しくさせるキーワードに加え、お姉ちゃんらしい家庭的な側面をアピール。
これらをバランスよく配合したメールなのだ。これならば、お姉ちゃんとして恥ずかしくないメールである。

 ↑は「山本くんとお姉さん」(正確には「山本くんとお姉さん2 〜教えてくれたモノ〜」)の亜由美。実姉なので彼女も近親相姦属性持ちと言えなくはありませんが「山姉」自体がまだ途中なので、今後はともかく現時点ではそこまで進んでないって状況。「山姉」は非常にユーモラスでコミカルな筆致を基調としつつも、時折ぽっかりと穴の開いたような暗黒が覗くあたり緩急を心得ている。

 当初はごく日常的な学園モノを主体としていた修羅場SSスレでしたが、現在は何でもありになっています。時代モノもありますよ、「螢火」とか。詳しくはこちらのジャンル別インデックスを参照に。そうした広い括りでの「ファンタジー作品」において双璧を成すのが「Bloody Mary」と「血塗れ竜と食人姫」の二つだと、個人的に思っています。「架空の世界を舞台にしたファンタジー」というジャンルを選んだことによって身近さが減じたとはいえ、それを埋め合わせるだけの熱意は充分にあり、空想的であるがゆえに却って生々しく身に迫るという逆説を体現しています。「Bloody Mary」では最強クラスの戦力を誇る団長がヤンデレ化して誰も手がつけられないアンチェインな存在に変貌していく過程に、「血塗れ竜と食人姫」では囚人闘技場の中でただ相手を殺戮することでしか自己の存在価値を示すことのできない少女が付き人の青年だけを頼りに過ごす日々に、その片鱗が窺える。

 「Bloody Mary」は全三部構想で、現在第二部まで終了。「団長のヤンデレ化」が第一部に当たり、バッドエンドルートを回避して第二部に突入すればまた新たな展開が始まります。その内容は伏せるとしますが、このSSは「ファンタジー」と聞いてパッと脳裏に浮かぶような「剣と矢と槍と斧と槌が飛び交う戦場」を地で行っていて、魔法こそ出てこないもののライトノベルを読み慣れている人には馴染みやすいノリ。主人公たちは旅をして各地を転々とするので部が進むごとにスケールが広がり、世界地図がだんだん欲しくなってきますね。また「ぶらっでぃ☆まりぃ」というSSがありますが、こちらは番外編というより別作品の扱い。シリアス要素が少ない、原則として「息抜きのコメディ」になっています。本編の重さにぐったり来たときはこちらで箸休めするが吉です。コメディとはいえ自己パロとかではなく、ちゃんと本編に繋がってる(時系列としては過去のエピソード)からご安心を。

 「血塗れ竜と食人姫」は当方のお気に入り。そして厳密な意味で完結しているのは五作の中でこれだけ。「優柔」は前日譚の「優柔 previous」があと少しというところで止まってるし、「妹兄」は作者が続編なり番外編なり別ルートなりを執筆する素振りを見せつつ音沙汰なし、「山姉」ははっきりと再開待ち、「Bloody Mary」は完結編の第三部に向けて充電中。「血塗れ竜〜」は番外編も終わり、作者も完結を表明して今は別の新作に取り掛かってます。まあ「優柔」と「妹兄」は本編自体は完結してて「山姉」と「Bloody Mary」は第一部や第二部といった部ごとの単位では一段落していますから、オススメには足るであろうと判断しました。で、「血塗れ竜〜」は以前に思う存分書いたから今更付け足すこともありませんが、作者の新作「九十九の想い」も最近ますます好調。淑やかなようでいて嫉妬深いポン刀娘が、年増でロリな包丁娘が、もうこれでもかと大暴れ。まこと天晴れです。ああ今年はまさしく修羅場SSの年ぢゃ喃。

 ……あ、ちなみに修羅場SSは陰湿な精神攻撃や激しい流血沙汰も珍しくはないんで、殺伐とした展開(広義の鬱展開)が苦手な方は避けられた方が無難です。などとこの期に及んでアテンション。すみません、こと修羅場ネタに関しては好きすぎて語り出すと歯止めが利かなくなるんですよねー。密かに同志募集中。

『空の境界』映画化

 「アニメになる」という噂は聞いていたけど、まさか劇場版とは。『空の境界』って腑分けして要素別に見ればキャッチャーですけれど、構成面で言えばかなりの難物ですし……どうやるつもりなのやら。アニメへの関心が薄れたきた当方でもこれはさすがに気になりますな。続報待ちです。


2006-12-27.

・年末はランキングのシーズン。と勝手に決め付ける焼津です、こんばんは。今回から三回に渡って各種個人ランキングを掲載して2006年を振り返っちゃおうと思います。今年はいろいろありましたね。石川賢が死去してしまったりとか……ああ、ひときわ訃報の目立つ年でした……。

 などとしんみりするのも何なので、早速行きましょう。今回は「漫画」と「ゲーム」です。

[漫画]

第一位 『特ダネ三面キャプターズ(1)』
第二位 『PLUTO(1〜3)』
第三位 『ブリザードアクセル(1〜6)』
第四位 『少女ファイト(1)』
第五位 『へうげもの(1〜3)』
第六位 『アンリミテッド・ウィングス(1〜2)』
第七位 『棺担ぎのクロ。(1)』
第八位 『ブロッケンブラッド』
第九位 『君に届け(1〜2)』
第十位 『デトロイト・メタル・シティ(1〜2)』

 シリーズものに関しては今年から読み出した作品のみを対象としています。『特ダネ三面キャプターズ』は絵に癖があって馴染むまで少し掛かったが、馴染んでからはメチャクチャ面白い。四コマ漫画としての水準はバリ高で、各ネタの題名までもが切れ味鋭かった。本の装丁も凝っててかなりイカしていると存じます。『PLUTO』は浦沢直樹が描く鉄腕アトム。まだ謎が転がっている段階で事態の全容は見えてきませんが、その卓抜したストーリーテリング能力についてはわざわざ解説するのがアホらしいくらい。最新刊もそろそろ発売だけど買いに行く暇が……。『ブリザードアクセル』はフィギュア漫画。一種のスポ根でひたすら王道展開の連続ではありますが、「こんなスポ根が読みたかった!」と言い張りたくなる出来栄えです。良い意味で少年漫画らしい作品。『少女ファイト』もスポ根と言えばスポ根だけど、各々の抱えるドラマに焦点を当てて群像劇っぽい仕上がりになっています。絵にしてもパースの取り方とか、断然巧い。日本橋ヨヲコの新境地といった感がありますね。『へうげもの』は「君は物のために死ねるか!」という異色の戦国漫画。かの古田織部を主人公に、戦国時代の「常識」を大胆に改変しつつ展開する数寄者ワールドは実にダイナミック。まさか山田芳裕の作風がここまで戦国時代とマッチするとは思いも拠りませんでした。

 『アンリミテッド・ウィングス』はレシプロ機に乗って低空を高速でカッ飛ぶ気狂いじみたレースを短期集中的に描いた作品。ヒロインを萌え系にしたあたりは正直浮いているが、男たち/女たちの空に懸ける情熱は火傷しそうなほどアツくて、たまらない。『棺担ぎのクロ。』はロードムービー調の四コマ漫画。爆笑ギャグ、という路線ではなくしみじみと染み渡ってきてほんのり笑えるタイプ。成り行きで旅の道連れとすることになったロリ双子の心が少しずつ成長していく過程を丹念に綴ったイイ話です。ロリ好きには。いえ変な意味じゃなくて。『ブロッケンブラッド』は可愛い顔をした男の子が有無を言う暇もなく「魔法少女」にされてしまう連作形式のナンセンスギャグ。毎回のテキトーぶりは『大魔法峠』さながらだが、漫画としてのレベルは妙に高い。素で感心する箇所がいくつもありました。勢いやネタのキレ味は充分、ギャグのクオリティも問題ナシだ。『君に届け(1〜2)』は最近ハマった少女漫画。見た目が陰気で中身はピュアというヒロインがすっげぇ可愛いですよ。2巻の友情を巡るすれ違いストーリーもベタながら胸にクる内容。『デトロイト・メタル・シティ(1〜2)』は今年異常に話題になった漫画ですね。バンドやってるときはノリノリで魔王を演じながら、メイクを落とすと地味で小心な目立たない若者。「本当はこんなことしたくない……」と思いつつも魔王をやめられない、この二面性が読者の心をくすぐるのではなかろうか。「東京タワーをレイプして六本木ヒルズを孕ませた」とか、ネタそのものも一般のセンスを超越しておりますけど。インパクトで言えば先日読んだ柴田ヨクサル将棋マンガ『ハチワンダイバー(1)』も異常なテンションを保っており、できればランキングに加えたいところでしたけど、同率十位とかにするとややこしくなりそうなので結局外しました。でも面白さの点ではガチ。

 通年で読んでいるものとしては『シグルイ(6〜7)』『宵闇眩燈草紙(6〜7)』『戦線スパイクヒルズ(2〜4)』『ニードレス(4〜5)』『ナポレオン(2〜6)』『センゴク(7〜11)』『パンプキン・シザーズ(5〜6)』らへんかなぁ。特にシグルイはことあるごとにネタにしなくては気が済まなかった。うちのサイト、シグルイネタ使いすぎ。反省はしておりません。来年もガンガン使っていこうと思います。

[ゲーム]

『機神飛翔デモンベイン』
『ひぐらしのなく頃に』
『ひぐらしのなく頃に解』
『サバト鍋』
『雛見沢怪奇ナビゲーター 罪穢』

 えーと。今年最後までやりきったのはこの五本だけでした。他にも数本手を付けましたけど途中で止まってます。数本っていうかぶっちゃけ五本。同数だ。我ながらこれはひどい。まとまった時間が取れないとか、どうしても興味が読書に移ってしまうとか、言い訳はいろいろ並び立てられますが……なんにしろランキングのていを成していないことは明らかなので、順位を付けるのは省きます。単にやった順で配置しました。

 『機神飛翔デモンベイン』は『斬魔大聖デモンベイン』から3年ぶりに発売された、半ば続編に近いお祭り的一作。3Dアクションの合間にシナリオが進行する形式ですが、当時ロースペックPCでキツいプレーをしてた当方にとってはアクションパートを楽しむ余裕などなく、ただシナリオ目当てに無理矢理遊んでた次第です。このサイトを設立するキッカケにもなったデモンベインの新作だけにいろいろと感慨深いところも多く、あくまでシナリオパートだけが目的だとやや割高感はありましたが、儲なのでそんなこと気にしない。18禁から全年齢対象に移行したので当然エロシーンもバッサリでしたが、儲なのでそんなこと気に……するわ! チクショウ……ラブラブな雰囲気やインモラルな背徳感を味わわせて期待を大いに盛り上げさせておきながら寸止めで生殺しにしやがって……! しかしこの生殺しな感触も気持ちイイとは思うので結果オーライ。にしー絵と鋼屋テキストが織り成す神谷徹ばりの絶妙な寸止めに当方も「いい勉強させていただきました」と熱泣することしきり。お色気は別としても研ぎ澄まされた濃密なシナリオにヒートアップする箇所もあちこちあって、劇場版のアニメを見ているような爽快さを堪能しました。

 『ひぐらしのなく頃に』と『ひぐらしのなく頃に解』、両方まとめて一気にやり通すためにあえて溜め込んでいたソフトでしたが、「その甲斐があった」と喜ぶ気持ちが半分、「解じゃない方だけでも先に早くやっていれば……」と悔いる気持ちが半分。複雑な感想が残りました。『ひぐらし』は基本的に昭和58年の雛見沢村というド田舎を舞台に繰り広げられるホラー&サスペンタッチのADV。エピソードによって話の展開が異なるものの、「惨劇」が発生する点では毎回一緒――という一定のルールに貫かれたマルチシナリオ形式のストーリーです。「マルチ」とはいっても擬似的なもので、体裁上は「選択肢なんて飾りですよ!」と言わんばかりの一本道ですけれど。『ひぐらしのなく頃に』で問題を出し、『ひぐらしのなく頃に解』で解くという構成になっている以上、二つを通してプレーしてしまうと「ストレスなく答えに辿り着ける」って利点が得られる反面、「解答に辿り着くまでの試行錯誤を充分に楽しむことができない」という仇を抱え込むことになります。おかげで「祭囃し編」が終わった後は燃焼し尽くしたような満足感が残るばかりで、巷ほど熱狂できなかった。ディ・モールト残念。けど、内容的にはバラエティに富んでいたし、商業ではめっきり少なくなった「ホラー&サスペンス」の要素をふんだんに盛り込んでいる点でも嬉しかった。『ひぐらしのなく頃に礼』も今から届くのが楽しみだ。ちなみに『雛見沢怪奇ナビゲーター 罪穢』ははこの『ひぐらしのなく頃に』の同人ゲームです。ちょっと前(12/19)に感想書いたばかりなので詳しい説明は割愛。

 『サバト鍋』はニトロプラスのアミューズメントディスクで、「竜†恋」「戒厳聖都」「ニトロウォーズ」の三つのミニゲームに加え、壁紙などのギャラリーがコンテンツに組み込まれております。実は「ニトロウォーズ」、STGが苦手で一面すらクリアしておらず、実際にプレーしたのは「竜†恋」と「戒厳聖都」だけ。厳密にはコンプしてないんですが、ご寛恕を。「竜†恋」は鋼屋ジンがシナリオを手掛けた短編ADVで、本当に短い(しかも声が付いてない)んですけど、デモンベインのクドさとは訣別したスッキリ文体で短くキレ良く魅せる手法を確立していて、作品としての面白さは折り紙つき。ボーイ・ミーツ・ガールに竜殺しの英雄譚を交えて展開される破竹のラブストーリーはさながら『フリクリ』級の勢いの良さ。痺れた。「戒厳聖都」は『刃鳴散らす』のオマケゲーム「戒厳の野望」の続編で、『刃鳴散らす』そのものの続編という性質も兼ねている。なぜか煩雑なRPG仕様だったり街がゾンビだらけだったり他のゲームのCGが使い回されていたり、やりたい放題な仕様のくせして最後までプレーすれば『刃鳴散らす』ファンも納得してしまう不思議な一本です。操作性が最悪でゲームバランスにも疑問がありますけど、「『刃鳴散らす』の続編」というよく考えるまでもなく無茶苦茶と分かるネタを実行した点では感心させられます。ただ一つ惜しまれるのはハナチラの売りであった剣戟描写が素っ気ないRPGテキスト(「○○の攻撃、××に68のダメージ」みたいな)に置き換えられてしまったことですね。『ヴェドゴニア』の戦闘並みに残念。

 こんな調子だから来年もあんまりゲームやれそうにないなぁ。というか投げっぱなしにしてるの片付けないとなぁ。差し当たって来年の期待作はlightの『Dies irae』。ナチスの騎士が現代日本で超常バトルを繰り広げるっつー時代を逆行するような伝奇バイオレンスの香りに辛抱たまらん。『はるはろ!』は無期延期しちゃったし、『俺たちに翼はない』や『陰と影』や『クルイザキ(仮)』や『霊長流離オクルトゥム(仮)』は来年になってもまだ目処が立ちそうにないし、こりゃ下手すると2007年は『Dies irae』を買うだけに終わってしまうかも。『Dies irae』にしても「来春」ってだけで明確に目処は立ってないから、本当に下手するとゼロになりかねないわけでゾッとしますな。

テスト? ボコボコにしてやんよ(AAなにっき....〆ミ・д・,,ミ)

 最近知ったこの「ボコボコにしてやんよ」のAAが若干ツボに入ってます。虚勢と粗暴の中間地点に位置するニュアンスと言いますか、とにかく妙に可愛くて憎めない。あー、エロゲーのヒロインでいうとアレです。『つよきす』の蟹沢きぬみたいな感じ。

 ちなみにWikipediaで『つよきす』の解説をだらだら見ていたら近衛素奈緒の項目で「誰じゃ!?」と牛股状態になりました。PS2の追加ヒロインですか。そういえばそんなキャラがいるらしいとは風の便りに聞いた覚えがあります。「ピーナッツバターが大好物で、パン以外にもおにぎりなどにかけて食べる事も」……これを読んで思わずかの怪作『メルキオールの惨劇』を連想してしまった。主人公が異様なピーナッツバター好きで、ピーナッツバターを食べるためならいかなる手段を採ることも辞さない、というキャラだったような。しかし、まさか『メルキオール』の作者が日本推理作家協会賞を受賞したり「このミス」で1位を獲得する日が来ようとは、毛先ほども予想してなかったなぁ……。

・ところで、本屋にて『あなたに不利な証拠として』の新装版を発見せり。こんな装丁になってました。「え? これがポケミス!?」と仰天。ポケミスというのはこう、何十年もずっと見分けがつかないモヤモヤと抽象的な表紙を続けてきた印象が濃厚な分、思わず狼狽えてしまいましたよ。関係ありませんけど、スタージョンの『人間以上』もいつの間にか表紙が変わってるし……。


2006-12-25.

『Fate/Zero』の公式通販が重いっていうレベルじゃない件について。こんばんは、ログインすらできない焼津です。もう今日は諦めようか……。

・柴田ヨクサルの『ハチワンダイバー(1)』読んだー。

 プロではないが将棋で金を稼いで生きる、いわゆる「真剣師」のマンガです。「将棋盤を前に座る巨乳メイド」という表紙絵の異色さが良くも悪くも目立ちまくり。あくまで「真剣師」がメインであって将棋そのものは特に解説されず、将棋に苦手意識を感じている自分にも読みやすかった。芽が出なくてプロへの道は断たれてしまったが、かと言って将棋がそれなりに強いこと以外に何の取り得もなく、気づけば消去法的に真剣師となっていた主人公。そんな彼が「本当に強い」真剣師と出会ったことで、自らも「それなりに強い」じゃなくて「本当に強い」打ち手となることを望む。

 「伝説がはじまった」の一文で締めている通り、まんま序章としての位置づけにある本書ですが、主人公の抱える悩みや迷いといったものの根幹をズバッと簡潔に抉り出してしまうあたりなど、痛快なシーンが多くて引き込まれます。とにかく勢いが凄まじいばかりで、読み出すなりあっという間に作品世界にダイブさせられる。「ハチワン」を「一か八か」のような意味合いだと思い込んでいたせいもあってタイトルの由来が明かされる場面では背筋に電流が走りました。

 『谷仮面』は途中から肌が合わなくなって、『エアマスター』はかなり早い段階で見切りをつけてしまったこともあり、この作者に対してはあまり好意を寄せていなかったものの、方々でオススメされているのを目にして我慢できずに手を伸ばしましたが、我慢しなくて正解でした。あと、表紙のメイドより裏表紙の何かに飢えているみたいな顔をした主人公の方が購買欲をそそりました。負けたら泣く、というストレートな感情表現も含めて没入しやすいキャラではあります、主人公。

・ジョージ・R・R・マーティンの『七王国の玉座(上・下)』再読(リンクは文庫版の1巻)。

 中世のイギリスみたいな異世界を舞台にした大河ファンタジー“氷と炎の歌”の第一部。ハードカバー時は上下二分冊でしたけど、文庫版は全五冊で刊行中。このシリーズ、日本では第三部『剣嵐の大地』2巻まで出版されており、来月発売予定の3巻で第三部終了となります。第二部『王狼たちの戦旗(上・下)』を読むときは朧げながらもまだ記憶が残っていたので読み返しをしなかったのですが、もう初読から4年以上も経ってさすがに頼りなくなってきましたので『剣嵐の大地』を一旦置いてこれに取り掛かった次第。ホームページを開設する前だったので感想文も残ってませんし、ついでだから再読の感想をこうして載っけることにしました。

 ドラゴンの血を引くターガリエン家が一つにまとめ上げ、その玉座に就いていたウェスタロスの「七つの王国」――狂王と化したエリス2世を弑殺し、代わりに叛乱軍の首領たるバラシオン家の跡取りロバートが王位を継いでから十数年が経過した。北の広大な大地を所領とするスターク家の長エダードは、急死した補佐役「王の手」の後釜に選ばれて南の王都キングズランディングへ赴くことになる。エダードの長男ロブはウィンターウェルに留まり、長女サンサと次女アリアは父に従って南下の旅に出、私生児のジョンは「壁」に向かう北上の旅路を歩み出した。島国である「七つの王国」の北には大地を二分する長い「壁」があり、そこには夜警団(ナイツウォッチ)が絶えず目を光らせて野生人や異形人が侵入するのを阻んでいるのだ。王都にて先代「王の手」の不審な死を調べていくうち、エダードはある秘密を探り出す。一方、ジョンは「壁」で甦る死者を目撃する。王国の支配を懸けて権謀術数を張り巡らせる諸侯、人間同士の醜い権力争いを超越して不気味に蠢動する魔の気配、そして海の彼方から故郷へ帰還を果たそうとする亡国のドラゴン。神々は今、多くの血を欲しているかに見えたが……。

 「大河」というのは伊達じゃありません。シリーズの開幕に当たるこの第一部だけでも、文庫版で1000ページ超。第二部、第三部と進むにつれてどんどんボリュームが増えていくので、「七部作」という全体像を思い描くことすら難しい。既に第十一部に到達し、日本での冊数が60冊を超えている“時の車輪”シリーズや、「100巻超え」という、もはや内容の評価はともかくとして凄まじいばかりの“グイン・サーガ”シリーズに比べればまだ可愛いものですが、当初は三部作の予定でとっくに完結しているはずだったのに、書けば書くほど構想の規模が膨らんでスケールアップする一方ということですから……作者さえ把握し切れているのかどうか。当方自身が“時の車輪”や“グイン・サーガ”に怯んで手を付けていないように、“氷と炎の歌”も手を伸ばしかねている方がおられるでしょう。それ以前に知名度が低いので、存在自体を知らない人がほとんどだと思いますが。

 しかし、ボリューム云々を脇においても滅法面白いんですよ、これが。メイン級のキャラだけでも数十人は登場してくるので全部覚えきれないにしても、必ず十人以上は印象深くて記憶に残る連中が出てくるはずです。際立っているのがスターク家の私生児ジョン・スノウ、スターク家の次女アリア、ラニスター家の次男ティリオンあたりでしょうか。

 私生児であるがゆえに「スターク」の姓を名乗ることが許されず、「スノウ」という北部の私生児特有の姓を名乗らねばならない彼は生まれ育った城を離れ、夜警団(ナイツウォッチ)を象徴する服装「黒衣」をまとって「壁」の警備に就くことになります。夜警団の黒衣は終生に渡る義務そのものであり、それを着て宣誓した後は勝手に「壁」を離れることはできない。たとえ生家が戦争に巻き込まれたとしても。「君はかつて、彼らの兄弟だった――」「しかし、今は我らの兄弟(ブラザー)だ」 戦乱が激しくなるさなかにおいてその身を局外に置かねばならぬ懊悩。権力闘争の渦を躱しているせいもあって彼の視点は支流に逸れた感もありますが、「私生児という生い立ち」「連れ合いはゴーストという名の白狼だけ」「父親や腹違いの兄弟に対する複雑な想い」と、コテコテの主人公属性を兼ね揃えているおかげで存在感は薄れません。彼の視点一本に絞っても長編が一つ出来そうな勢いだ。

 アリアは痩せっぽっちで馬面な九歳の少女。姉のサンサが「可愛い」「美しい」という賛辞を独占していることも影響して、お転婆で気性の荒さが目立ちます。腹違いの兄であるジョンから贈られた細身の刀「ニードル」を大切にしており、「ダンスの師匠」という名目で付けられた剣の師匠から教えを受けている。この師匠がまたいい。「そうだ。これから、ダンスを始める。いいかね、ちびさん、われわれが習っているのは、ウェスタロスの鉄のダンスではない。叩き切ったり、殴ったりする騎士のダンスではない。ちがうんだ。これは刺客のダンス。水のダンス。素早く不意に動く。すべての人は水でできている。知っているかい? 人を刺すと、水が洩れて、死ぬ」 かくして「刺客のダンス」を体得したアリアは、やがてそれを頼りに生き抜いていくことになる。ひたすら苛酷な変転。“氷と炎の歌”の視点人物の中でも特にハードラックな展開で読者の目を惹く。

 ティリオンはもっともアクが強く、多少主人公補正が掛かっていて描写が美化されているところもありますが、好きな人と嫌いな人とで反応が分かれることでしょう。生まれつき片足が不自由で、しかも発育が悪く体の大きさは子供並み、名門の生まれなのに「小鬼(インプ)」と嘲られて成長してきたおかげでひねくれており、自虐的で、つい余計な皮肉を叩く癖がある。ともすれば悪役になりかねないキャラクターですが、ジョン・スノウに対して奇妙な親近感を湧かせたりと、「いい人」面を押し出しているところもあって善悪の位置づけは定かではありません。人を利用するのが好きで人に利用されるのが嫌い、一度覚えた恨みは決して忘れない執念深さも持っている。峻険な山岳部に位置するアイリーの城主アリン家に辛酸を舐めさせられた後、命と金品を狙ってきた山賊ども相手に交渉するシーンが振るっています。

 だが、グンターが片手を上げた。「待て。おれはこいつの話を聞きたい。母親どもは飢えている。そして、鉄は金よりも口の足しになる。身代金として、何をよこすか、タイウィンの息子、ティリオン? 剣か? 槍か? 鎖帷子か?」
「全部やるぞ、グルンの息子、グンター。それだけじゃない」ティリオン・ラニスターはにっこり笑って答えた。
「アリンの谷間(ヴェイル)をくれてやる」

 かっこええ。ティリオンには小鬼(インプ)の他に半人前(ハーフマン)という蔑称があり、第二部ではこれを受け、情勢が悪いなか突撃命令を下す場面で「おれが半人前なら、おまえらはいったい何人前なんだろうなあ?」と挑発的に言い放って自ら真っ先に突撃してみせる。そうなるとみんな付いていかないわけにもいかず、「半人前(ハーフマン)! 半人前(ハーフマン)! 半人前(ハーフマン)!」と叫びながら馬に鞭くれて爆走。惚れますね。

 「壁」の向こうからやってくるものは何なのか。難攻不落の高巣城(アイリー)をティリオンはどうやって陥落させるつもりなのか。そして亡国のドラゴンは獰猛な騎馬民族を引き連れて「七つの王国」に上陸してくるのか。ボードゲーム化されるほど作り込まれた細部は巻頭の地図や、各家の人々に触れている巻末の付録からも充分に読み取れます。本当、いろんな要素が徹底的に混ぜ込まれていて、ハマればハマるほど深くて面白い。シリーズのタイトルになっている「氷と炎の歌」はまだ解題されておりませんが、第一部の時点では「寒冷な北部」と「温暖な南部」との対比を暗示しています。再読なので新鮮味はありませんでしたが、結構失念していた箇所もあって記憶が補填され、得るものは大きかったです。さあてこの調子で『王狼たちの戦旗』も再読するとしましょう。読み終わる頃には『剣嵐の大地』の3巻も出ているはずだ。

・拍手レス。

 このミスにそんな規定があったなんて、今日まで知りませんでした。でもどうせ殆ど意味無(以下略)
 確か楡周平がデビューしたあたりで目にしたような記憶が。

 某国で、クリスマスは家族で団欒したり、プレゼント交換したり、教会でミサや合唱を聞きに行くものと知った
 何で日本はエッチをする日になったのだろう・・・ 恋愛産業のおかげだろうね。

 宗教要素の代わりとして一番絡め易かったのがナニだったのかも。


2006-12-23.

・「カップルはイルミネーションに輝きて殺さるべし」と黒死館風の呪いを振り撒きたくなる今日この頃、いかがお過ごしですか。クリスマス・ファシズムの圧政に耐える焼津です、こんばんは。

『マルドゥック・スクランブル』アニメ、製作中止のお報せ

 まさに虚無の申し子。本当に殻の中で死んでどうするんだー。アアー。

・kashmirの『百合星人ナオコサン(1)』読んだー。

 初回版は特典として主題歌を収録したCD付き……なんか高いなー、と思ったけどそういうわけなのか。できれば通常版が良かったんだけど、まあいいか。

 というわけでヲタネタとシモネタを満載したナンセンスギャグ漫画です。1回につき6P、凝縮した濃いネタで独自の世界を作り出しています。「百合星人」とは何なのか、なぜ主人公の家にいるのか、なぜ「百合」と言いつつ異様に幼女好きなのか、なぜ百合なのにお○んちん絡みの下ネタをやたらと飛ばすのか、疑問点は多いが説明らしい説明はほとんどない。概ね勢いとフィーリングだけで話が構成されている。なんなんだこの世界ー!? と惑乱しつつも気づけば爆笑しているほんわかケミカルなノリ。ラブリィなのにカオス。カオスであるがゆえに楽しい。

 ストーリーはあるようでなく、ないようである……と実にテキトーな代物です。ぶっちゃけ百合とかあんま関係ないし。弟のクラスメイトがツンデレとか、夏の風物詩「水浴びする幼女」をプロとしてやってる幼女集団がいたりとか、あざといことはあざといが、こう、斜め上の方向にあざといので不思議と媚びた感じがしません。読者におもねっている雰囲気は良くも悪くも希薄。最初はホント「なんじゃこりゃー」でしたが次第にハマってきました。主人公はおとなしくて控え目なツッコミキャラですが、ポニーテールで少し凛とした印象もあり、弟がけしからん言動をしたときはちゃんと制裁かましてお姉ちゃんぶりを見せ付ける。ええ子や。そしてショタ顔の弟はかなりアレ。

「お姉ちゃんのスカートはいて遊んでたら急にちんちんが!! ちんちんが!!
 ギューンて」

 これは将来が思いやられますな。

Lump of Sugarの『いつか、届く、あの空に。』、体験版をプレー。

「……嫌……か?」
「え?」
「私がヨメでは……嫌……か?」
 え。ちょっと。
 何その表情。
 そんな顔されたら、え、ちょっ……。
 ……ズルくね?
「い、いや。別に嫌じゃない。嫌とかそういう意味では決してない。ただ、俺が言いたいのは――」
「そうか。嫌でないのならいいんだ。
これから一生懸命、ヨメを頑張らせてもらう。何か不満に感じることがあったら、すぐに言ってくれ。
殴るから」

 既に前作を発売してから1年が経つブランド「Lump of Sugar」が来月に放つ予定の新作。シナリオはあの朱門優です。と書いても通じる人はひと握りな気がするので一応解説しますと、朱門優とは『黒と黒と黒の祭壇』のライター。黒黒黒は処女の巫女姫を拉致監禁して調教する鬼畜ゲーと見せかけて、「殺戮の王子」と恐れられる主人公が空を埋め尽くす天使の軍勢をHELLSINGばりのイカレ台詞とともにバッサバッサとやっつけ、「この、簒奪者め」とか口走ったりするヒロインのチッセ・ペペモルが小悪魔のようでいてやたらと献身的でいじらしくて可愛く、気丈な女騎士のベアトリーチェも個別ルートではキモウト化し、最終的には神を殺すとか殺さないとかいうレベルにまで発展する燃えファンタジーでした。なんてふうに書くと「何そのカオス」と言われそうな内容ですが、概要だけを取り出すとトンデモ気味でも、実際にやってみるとバランス良く構成させているため違和感を覚えることなく楽しめる一本になっていました。朱門優のシナリオは他に『蜜柑』(複数ライターの一人として)や『めぐり、ひとひら。』があるものの当方はどっちもまだやってません。積み中。

 『めぐり〜』以降なかなか新作を手掛けるという話が出てこなくて、このまま「消えたライター」になるのかとハラハラしていたところで「Lump of Sugarに所属した」という報が入り、更に「一作目のシナリオはノータッチだが二作目でメインを務める」と知って待望し続け、タイトルや詳細が発表され、体験版も出て、現在へ至るわけです。いやー、長かった。『めぐり〜』から優に3年以上、遂に新作へ辿り着きました。その前に『めぐり〜』や『蜜柑』を崩しておくべきでしたが、ともあれこれをキッカケに朱門熱が戻ってくることを期待して体験版に着手した次第。

 二部構成のうちの第一部すべてをブチ込んだとかいうだけあって、かなりのボリュームです。体験版なのに一日じゃ終わらなくて二日掛かりました。出だしの文章はややかったるい調子で、このまま何十分もだらだら続くのかなー、と思っていたところでいきなり押しかけヒロインが登場。「私はオマエのヨメだ」「そんな話聞いてないよ!」とお約束の遣り取りを交わし、しおらしい素振りを示したかと思えば、付けるオチが「殴るから」。これはツンデレとかクーデレとかではない。もっとアルティメットな生き物だ。

 終始こんな感じで続いていくドタバタラブコメ……かと思えばさにあらず、「夜になると必ず曇ってしまう街に、星空を取り戻す」という目的を持った天文委員会に主人公が所属することになって、ヒロインと一緒に雲を払おうと奮闘するストーリーにゆるゆると入り込んでいく。なんかやたらと話が飛ぶせいもあって設定の全容が掴みづらいが、大筋では「努力・愛情・勝利」という青春モノの王道を進む気配がある。体験版の終わりで伝奇テイストが漂い出し、「空明市」の由来を解き明かしたりとか、プロット面で言えば結構面白そう。しかしながら日常シーンの繋がりが「あれ? なんでこう来てこうなるの?」と首を傾げるほどチグハグな箇所もあって、特に中頃はなんだかテンポが悪いというか、エピソードを整理し切れていない印象が濃厚です。体験版だからイベントがいくつか省かれているのでしょうか……いや、それにしたって噛み合っていないような……うーん。

 たとえばヒロインの性格にしても、上に引用した「殴るから」が漂わせる凶暴さはその後のシナリオにおいて微塵もなく、ただその場の勢いでそう言っただけみたいな雰囲気がある。全体的に「その場の勢い」によってシナリオが動いている感触もあり、細かいところでの説明不足やフォロー不足が重なってしまっている消化不良感は否めない。しかしながら、一旦波長さえ合えばこの「勢い」は強力な武器となります。ヒロインの一人である此芽が、故あって主人公に嫌われようとわざと「ひどいこと」を言おうとするシーン、あそこは見事にハマっておりました。「ば、ば、ばか……」や「あ、あ、あほぅ……」と物凄く小声で言って結局聞き取れなかったりとか、もうたまらん(*´Д`)ハァハァ。姫様かわいいよ姫様。あと、お誕生会のあたりも面白かったですね。背景に出ていた頬傷持ちのオレンジジュースって、もしや「やっちゃん」とかいうネーミングか。

 「巽」だの「未寅」だの「午卯」だの、キャラの名前が十二宮というより十二支を連想させるのは何か意図があってのことだろうかな? 朱門優がシナリオをやるからには天体観測モノであれ「星を見る→感動したヒロインが股を開く→ロマンティック」な展開はやらないだろうと思ったし、実際一筋縄では行かないストーリーの模様。良くも悪くも人を選びそうですが、久々に伝奇ゲーとして期待できるソフトかもしれない。しかしこれといい『Dies Irae』といい、来年は十二宮ブーム?


2006-12-21.

・早くもミカンの消費戦に入りつつある焼津です、こんばんは。剥いても剥いてもまだミカンがあります。腐らせる前に食べ切ることができるかしらー。

・kashmirの『○本の住人(1)』読んだー。

 四コマギャグ。某所のオススメを見て気になり購入。発売が10月で、買った奴が2刷だったから売れてるみたい。変な絵本作家でヲタ趣味による浪費が激しい兄に振り回されている眼鏡っ子の妹がメインキャラクター。ドタバタとおかしな、けれど平和で楽しい日常を綴る。あっさりした絵柄で『苺ましまろ』のばらスィーを彷彿とさせる。「小学生はモット無修正じゃなきゃイケマセーン」「違いマシタ無邪気です無邪気」など笑えるネタも割合あったが、思ったよりヌルめで少し物足りなさが残ります。

 本当は同作者の『百合星人ナオコサン』の方を買いたかったんだけれど、地方ゆえかどこの書店にも置いてなくて、代わりにこれに手を伸ばした次第。可愛い絵とシュールなギャグとのギャップを活かすのが得意な感じの人ですね。ナオコサンはネットで注文しからすぐに届くはず。楽しみだ。

 しかし、昔はいくつも本屋を駆けずり回って目当ての本を探しては「どこにもない……」と悲愴な気持ちに陥ることがしばしばでしたが、今は「あ、ないのか。だったらオンラインで探そ」と気軽に切り替えられるのが時代の変化を痛感させられますねー。着くのも早いし。このへんだと新刊の発売が二日ほど遅れるので、予約注文しても店頭に並ぶか並ばないかの頃に届きますよ。「実際に手に取ってみないと判断できない」って本もありますから全部をオンライン書店で買ってるわけじゃありませんが、今後どんどん使用頻度は上がって地元書店から移っていくことになりそう。

・海堂尊の『チーム・バチスタの栄光』読了。

 第4回『このミステリーがすごい!』大賞受賞作。もし『このミス』に「自社刊行作品への投票は除外とする」って規定がなければ今年のランキングでも上位を狙えただろうと専らのウワサである。少なくとも、今年デビューしたミステリ系新人の作品としてはもっとも話題になった一冊でしょう。医療現場にスポットを当てているためやたらと『ER』が引き合いに出される本書、だからと言って本当に『ER』を期待すると路線の違いっぷりに「あれ?」となること請け合い。極端に戯画化されたキャラクターたち(特に主人公の田口と白鳥のコンビ)が繰り広げる遣り取りはほとんどスラップスティックの領域に達しており、堅苦しいメディカル・ミステリという先入観を抱いて読み出せばイメージを粉々に砕かれる。かと言って終始オチャラケたノリが続くわけでもなく、締めるところはキチンと締めてあって腰の据わった印象を与えますね。

 チーム・バチスタ――肥大した心臓を一旦停止させてから余分な部位を切り取り、小さくつくり直して機能回復させる「バチスタ手術」を手掛ける七人のメンバー。招聘を受けてアメリカから帰国してきた執刀医・桐生恭一を筆頭とする彼らは、東城大学医学部付属病院が掴んだ「栄光」そのものだった。しかし、連戦連勝を重ねてきたチーム・バチスタの手術が、ここのところ停止させた心臓を再鼓動させようとしても果たせず術中死させてしまうケースを生じさせていた。もともとバチスタ手術の成功率は六割程度、それほど高くもないので特別不自然というわけでもなかったが、次の患者が紛争地域より送られてきたゲリラの少年兵ということもあり、各種メディアからの注目度も高く、もし失敗が続くようならば国際問題にも発展しかねない。事を荒立てずひっそりと原因を追究すべく白羽の矢が立てられたのは、「窓際」だの「万年講師」だの「愚痴外来」だのと呼ばれている昼行灯・田口。お門違いと思いつつ調査を進める彼だったが、やがて限界を感じるようになった頃、「ロジカル・モンスター(論理怪獣)」と恐れられる破天荒な役人・白鳥が援軍として加わって事態をいっそうしっちゃかめっちゃかにしていく……。

 疑惑の手術。果たして医療ミスなのか、事故なのか、はたまた人為――つまりは殺人なのか。「完璧だったはずのオペがなぜ急激に成功率を落として行っているのか?」という謎を巡って展開する医学推理長編です。殺人が起こって、それに病院や医師や医学知識が絡んでくるレベルのミステリならそう珍しくはありませんけれど、「手術室」という密室を舞台に、殺人かそうでないのかもあやふやな「連続術中死」の真相を本一冊分のボリュームを費やして追及する小説ってのは新鮮でした。キャラクターの個性が強烈であり、スラップスティックの様相が濃いとはいえ、骨格の段階で言えばかなりストイックというかいっそ「地味」と断じても差し支えありません。しかし「地味」だから面白くないかと申せばさにあらず。キャラやドタバタの魅力を脇に措いてなおワクワクするだけの結構を有しております。故意の殺人にしろ不注意による手術ミスにしろ、隠蔽する気になればいくらでも隠蔽可能な、一種の異界に位置する医療現場。それを毒々しく扇情的に描くのではなく、あえて淡々とした調子でサラッと触れるところが肌寒かった。コメディ要素で幾分か希釈しておかないと、止め処もなく暗くて重い話になりますね、これ。

 「真相」そのものにはさして感興をそそるところがなくて謎解きモノとしてのパンチは弱かったものの、「真相」が発覚してハイ終わり、とならない構成が心憎い。むしろ「真相」が明かされてからが本番なんじゃなかろうか。グッと白熱して、最後の最後まで退屈を覚えることなく読み通すことができました。変な比喩や体言止めを連発して曰く言いがたいテンポを刻む文章にはちょっと抵抗もあったけれど、総じて見れば新人らしいパワーと独自性に溢れた物語でキッチリ堪能させてくれた次第。是非とも二作目以降も読みたいところです。思わせぶりに言及された「氷姫」こと姫宮の出番が待ち遠しい。

・拍手レス。

 番長学園>川上さんの大賞に送る予定だった作品のことですね。OSAKAの元とか
 ググってみたら作者のページに詳細が載ってました。

 天涯の砦感想>小川さんのはホント当たり外れが激しいので、感想がありがたいです
 当たると大きいけど外すと別の意味で大きい、そんなバクチ感覚も割合楽しいですが、やはり的中率は高い方がいいなぁ。


2006-12-19.

・年末が迫ってきたせいか忙しくて外出する機会がなかなか取れず、ネットショッピングへの依存度が高まりつつある今日この頃の焼津です、こんばんは。これが本屋なら目当ての本を一冊だけ、とかが可能なんですが、つい送料が無料になるまで買い込もうとあれこれカートにブチ込んでしまう貧乏根性。結果として積みが加速するだけなのに……ボイルドの虚無並みに。もうとっくに限界値(クリティカル)を突破して爆心地(グランド・ゼロ)に至った感があります、当方の部屋。新刊が届くとまずどこに置くかで迷う。

焼肉万歳の『雛見沢怪奇ナビゲーター 罪穢』、コンプリート。

 初売りが今年の夏コミですから原作の『祭囃し編』が出たのと同時期ですね。『ひぐらしのなく頃に』を原作とする、あくまで公式ではない同人の二次創作ゲーム。ひぐらしネタの小説やコミックはアンソロ本もガンガン出まくってるくらいでたくさんありますが、ゲーム形式のものとなると少ないどころか数えるほどしかありません。そして直球のノベルゲーム作品として仕上げられたものとなれば本作くらいしかないと思います。いや、最近ハマり出したのでひぐらし周辺のことはよく知らないんですが。

 平成の現代に暮らす「私」が主人公。「私」はある日、コックリさんによく似た「オヤシロさま」というゲームが流行っているのを知って、ついつい興味本位から手を出してしまう。用意するものは五十音と「はい/いいえ」と鳥居を書いた紙、それに十円玉。硬貨に指を置いて「オヤシロサマ、オヤシロサマ、おいでくださいませ」と唱えて質問すれば、紙の上を勝手に動き回ってメッセージをつくる。この「オヤシロさま」によって雛見沢村という場所の存在を知り、昭和58年にそこで何が起こったのか、断片的な情報を「前原圭一」という少年の視点を通じて獲得する「私」。惨劇。祟り。全容を掴みたくてのめりこんでいった「私」が目にしたものとは……。

 「雛見沢村にダムができてしまった」というパラレルな世界を舞台に広げられる怪奇ストーリー。もちろん惨劇の現場もダムのあたりになるわけです。プレー時間は3〜4時間程度。一応選択肢っぽいものもありますが、基本的に本家『ひぐらし』と同じ一本道のノベルゲームと考えてOK。攻略に詰まることはありません。内容としては平成の「私」と昭和の「前原圭一」、両者を往復することで「あの雛見沢村で何が起こったのか」、真相を突き止めていくことになります。平和なシーンはほんのひと握り、大部分が不安を誘う段階と恐ろしい場面とで占められている。ノイズ、水音、足音、打撲音等の効果音を多用することで神経的な恐怖感を煽るタイプのホラーゲームで、ちょっとやりすぎなところもあり、人によっては不快なだけでまったく怖くないかもしれませんが、個人的にはかなり苦手です。心の中でヒィヒィと悲鳴を挙げたものでした。あまりにもビビってしまったせいで連続してプレーすることができず、結局コンプするまで原作『ひぐらし』の無印と『解』を含めた全話をやり通すのに要した日数の倍も掛かるハメとなった仕儀。神経に訴えてくるようなホラーってホント、心臓に悪くてなかなか進められません。ああ、あの頭が割れそうなまでに響くひぐらしの斉唱が……。

 やればやるほどにどんどん辻褄が合わなくなっていく物語にも最終的にはオチがつくのですが、「謎→解明」の流れに期待しすぎると肩透かしを食うかもしれません。まとまってはいるんですが、ちょっと強引で腑に落ちないところもある。『語咄し編』もあることだし、「これも一つの『ひぐらし』」ではあるのでしょうが、この設定ならこういう方向で話を組んだ方が……とかいろいろ思うところも。怖がらせようという目的ありきで話が紡がれており、実際「怖がらせる」という点では成功しているものの、終わった後までずーっと尾を曳くような怖さかと言えばそうでもなく。うーん、単なる「ビックリさせてビビらせるだけのゲーム」ではないんですけれど……『ひぐらし』ファンならやるべき、って推すに足るかどうかは微妙。とりあえず出題編の頃の「怖い『ひぐらし』」が好きだという方にはオススメしておきたい反面、「個々のキャラクターが好きで、激しい思い入れがある」って方にはオススメしかねます。内容が内容とはいえ、どいつもこいつも負の面ばっかり晒してイイトコなしですから。あと原作知らないと内容が把握できないので最低限「罪滅し編」までやっている必要あり。

・島田荘司の『摩天楼の怪人』読了。

 摩天楼の頂上部とは地上から遠く離れて空に座し、世間とは隔たった領域に位置している。首が痛くなるほど仰いでも見切ることはできず、白昼堂々に凶事が発生したとしても、道を行く人々は気づくことなくその下を通り過ぎていく。「時計塔の長針をギロチン代わりにして人間の首を切断する」というゴシック的な殺人法自体が怖いものの、現場付近にいた人たちのうち、たった一人しか惨劇の進行を知覚することができなかった……ってシーンに鳥肌が立つ、著者お得意の不可能犯罪ミステリ。「幻想と論理の融合」とか何とかを謳って実作を続けてきた作家なだけに、今回もクラクラするようでワクワクする場面に満ち溢れた一冊となっています。位置づけとしては御手洗潔シリーズなんですけれど、舞台となるのが1969年のニューヨークなのでグッと時代を遡り、若かりし頃の御手洗が登場するという寸法。変人っぽいのは据え置きにしても、まだ若いせいか、なんか初々しい印象がありましたね。

 1969年、ニューヨークはセントラルパーク・タワー。世紀の大女優ジョディ・サリナスが臨終の間際に告白したこと、それは、彼女が50年ほど前にこのビルで殺人を行ったということだった――被害者はフレデリック・ジーグフリード。当時ブロードウェイで有名な興業家だった彼は、あくまで芸術路線を志すジョディに対し一般受けを狙った通俗的で扇情的な演し物を強要していた。面と向かって反対できない力関係が働いていた以上、ジョディが野蛮な選択肢を取る動機は充分にある。だが、事件の夜、ニューヨークは大停電に襲われていてエレベーターは停まっていた。34階の部屋にいた彼女が、同室者の目を盗んで1階まで行き、ジーグフリードを殺してまた帰ってくる……という工程を、10分少々でどうこなしたというのか? ジョディは具体的なトリックを示さず、「ファントム」という謎の人物がもたらした加護が不可能を可能にしたのだと言い張る。この謎が解けるものなら解いてみなさい、と挑戦された御手洗潔は早速調査に乗り出すが……。

 異界と化した摩天楼、実在するかどうかも不明な怪人。ともすれば江戸川乱歩作品にも似た雰囲気が漂い出す長編です。タイトルが『オペラ座の怪人』を意識した代物のようでいて、最初は全然違う題名にするつもりだったとあとがきでも語っている通り、別にオマージュというわけでもないみたいです。作中でも触れられていませんでしたし。さて、結構な分厚さと結構なお値段を誇る本だけに読み応えは充分です。「摩天楼」って言葉は今からすると古めかしく聞こえますが、「事件現場」となるビルは1910年完成なので近代建築物としては立派に古いわけです。「時代の最先端」や「未来」の象徴であった摩天楼が老朽化し、魔の巣窟に変貌していくイメージが何とも妖しくて興味をそそります。摩天楼史ひいてはニューヨーク史を紐解いていく試みも面白く、1910年代や20年代を語る捜査官サミュエル・ミューラー視点の章は滅法楽しかった。

 ただ、いろんなアイデアを寄せ集めたせいかちょっとゴチャゴチャした感じになっており、綺麗な仕上がりとは言いにくい面もあります。連載小説だったから仕方ないとはいえ説明の重複する箇所もあり、全体的にくどくどしい印象を受けました。なので若干読むペースが鈍るところもありましたけれど、いざクライマックスに差し掛かると冒険心をそそる展開が待ち構えていて素直に没入させられました。こういうのが書けるから、「島荘はまだまだイケる」って思っちゃうんですよねー。

 イラスト代わりに摩天楼のCGがちょこちょこと挟まれていて、これは使う場所がまた絶妙で効果的でした。「文章の力で勝負していない」と言えばそうなんですが、どう描写されても建物の外観は細部までくっきりとイメージを結ばせるのは難しいので、やっぱり多少はこういう補助輪みたいな工夫もあっていいのではないかと思います。本格ミステリだって見取り図なんかはよく使いますし。

 あまりの高層建築ぶりに人為であることすら時に失念してしまう摩天楼とはいえ、やはり人間が造って人間が住む場所である以上はそこに何かしらの情念が宿るのでしょう。怪人の影は無人の島や誰も分け入らない森の奥なんかにはない。人がいる世界、寄り添う文明のすぐそば、なのに行けそうで行けない「裏側」に存在する。その息吹を窺わせる一作でした。


2006-12-17.

『月光のカルネヴァーレ』特設ページの見難さは異常。こんばんは、遅まきながら月カル情報をチェックし始めた焼津です。最初はどこにキャラ紹介があるのか(パオロ刑事の手帳)も分からなくてバックナンバーを漁ったりと苦労しましたが、さておき、やはりチェス指し人形のコルナリーナが気になるところだ。あと虚淵玄が原作を担当するとかいうコミックのトピック、当方も「お子様ボディに妖婦の魅力」を「お子様ボディに妊婦の魅力」と間違えそうになったクチ。

mirageの『アノニマス』、体験版をプレー。

 失礼ですけどまさか今年中にマスターアップするとは思ってなかった一本。田舎町に住む主人公が義妹とか都会からやってきた女の子たちとかと親密に付き合いながら平和な日常を過ごし、やがて女の子たちが都会に帰っていくことになってしんみりとするんだけど、そのあたりで不穏な事件に巻き込まれてしまう……という典型的なストーリーっぽい。雰囲気から言って『螺旋回廊』の系譜に連なるサスペンスゲーのようで、以前「携帯モノ(仮)」と称されていた奴かな。

 背景が実写加工だったり名無しキャラがシルエットだったり、つくりは若干チープ。それでいて演出には妙に凝ってるから、なんかアンバランス……テキストがやや冗長ながらしっかり読ませるところはさすが鬼畜人タムーといったところか。主人公が君望の孝之ばりにアレな空気を漂わせているのもさすが鬼畜人タムーといったところか。

 プロローグしか収録されてないんで、実際事件に巻き込まれるところまでは行かなかった。そもそもどんな「事件」なのかも体験版の範囲では不明。げっちゅ屋のあらすじを見てもよく分からない。それをはっきりさせていく流れが物語の興味となるのでしょうが、「サイコスリラー」と謳ってるからには「主人公の記憶がどうの」「別人格がどうの」「マインドコントロールがどうの」ってお約束のネタが絡みそうな懸念はあり。

 ともあれ途中、廃墟が出てきます。そこへ探索に行くって展開には素直にワクワクしました。「この廃墟、何かおかしいぞ……」と不安と謎を煽る描写にも胸の鼓動が高鳴る一方。『螺旋回廊』のハラハラゾクゾクを彷彿とさせるノリに、懐かしさを感じるとともに当時の興奮が甦ってくる。先日『ひぐらしのなく頃に』をコンプしたばっかりだけど、やはりこの手のサスペンスに飢えていたのか、食傷する気配は一向になし。

 製品版の購入は一旦見送るつもりですが、評判次第ではやってみたい。

・小川一水の『天涯の砦』読了。

「僕は反省してる。償うなら、もっとはっきりした方法で償いたい」
「それはわがままよ。さっさと清算したいってことでしょう」

 著者の最新長編。爆発事故のせいで宇宙を漂流し始めた軌道ステーション、辛うじて気密を保ったそれぞれの区画に残された人々は通気ダクトを介してコミュニケーションを取る。差し当たって酸素や食糧の問題は深刻ではなかったが、このままだと地球の大気圏へ突っ込むことになりそうで……というシチュエーションで展開する閉鎖環境サバイバルSF。災害モノって点では『復活の地』と共通してるかな。個人的に「宇宙漂流教室」と呼んでるアニメ『無限のリヴァイアス』を小規模に直したような設定ですが、小規模であるがゆえに閉鎖性や緊迫感がより高まっています。互いに協力し合いながらも、相手のことを完全には信用できないまま過ごす時間。忍び寄る危機、打開策を思いつかない絶望感、弾けそうになるパニック。惑乱を押し殺しながら生存しようと足掻く姿が淡々とした筆致で描かれており、コレ系のサスペンスが好きな人には無類のごちそうでしょう。

 登場するキャラクターは十人程度で、ついでに犬も出てくる。宇宙に浮かぶステーションが舞台なだけに全体が無重力になってるところが閉鎖モノとしてはやや珍しいところでしょうか。扉を開けた先が常温・常圧とも限らず、気密が破れているせいで真空が待ち受けているのかもしれない。「死と隣り合わせ」というサバイバル・サスペンスには必要不可欠な条件を、ただ「宇宙空間である」ってだけで満たしてしまう。こんなに人間が馴染めない苛酷な環境は他にない。頻繁に持ち出される「深海」という比喩が、壊れたステーションにのしかかる闇の重さと恐怖の深さを引き立たせます。主人公は「生き延びた」のか、それとも単に「死ななかっただけ」なのか。予断を許さない展開でハラハラさせられる。「宇宙服が必要だ」「取りに行かなきゃ」「でもどこに?」「恐らくこの区画に」「真空を避けて通るとなると、ルートは……」と、マストアイテムを確保するまでの流れも組み込まれていて、「生存」という大目的の前に個々の小目的が転がってる構成はグッドです。

 しかしこれ、一冊の本としてはそこそこの長さですけれど、すごくボリュームがあるってほどでもないんで量的にはちょっと物足りなかったです。十人近いキャラクターそれぞれの視点を順々に映っていく形式で、群像要素が強められる利点がある一方、どうしても物語の濃度が希釈してしまう感は否めなかった。小川一水らしいポジティヴな面と、やっぱり小川一水らしいダークな面が程好く溶け合ってはいるものの、「この手のお約束」を詰め合わせにして間に合わせたようなストーリーでさして独創の匂いが嗅ぎ取れず。SF要素を織り込んだ細部の描写は巧みで分かりやすく、宇宙モノの苦手な当方でも楽しめましたが、もうひとつ何かプッシュするものが欲しかったところ。キャラクターも多少癖のある連中が多くて好感が抱きにくい部分があったし。

 割とアタリハズレの差が大きい小川作品としては「アタリ」の部類に属すると思います。あくまで舞台をステーションに絞り、月面会議(スピノール)やら国連軌道監視軍(UNSWF)やらの「月と地球の対立」って要素をメインとしてではなく背景として処理してるおかげで安心して閉鎖空間の妙味を堪能できる。「真空に怯える」というSFならではのシチュエーションに没入されたし。

・拍手レス。

 超鋼女セーラを読んで番長学園大吟醸が欲しくなって欲しくなって…出来ない環境でホイホイ変える値段じゃ…
 番長学園といえば、川上稔のOSAKAも原型がかぶっていたんで書き直したとかいう話がありましたっけ。

 物書きの人ってストーリー性のある夢をみる、、、、の???
 見た夢をキッカケに物語を書き始めたという方もいますね。


2006-12-14.

・ある地方。普段はギャグを言うことなんてない二人の少女が、何の気紛れか揃ってジョークを飛ばした。それはあまりにも壊滅的なくらい下手糞で、口さがないクラスメートは彼女たちを「ウィンター」「アイス」と揶揄した。それがすっかりあだ名として定着して、ことあるごとに「ウィンター」「アイス」「寒い」「寒い」と見知らぬ生徒にまで呼ばれるふたり。しかし、少女たちは「なにくそ」と奮起した。古今東西、関西だろうが関東だろうが北海道だろうが沖縄だろうがサイゴンだろうがモスクワだろうがエンジバラだろうがアラバマだろうんがお構いなし、世界中の「お笑い」を掻き集める。小咄、漫才、伝統的なジョーク、言葉に拠らない体任せの身を張ったギャグ。「……これ、どこが面白いの?」「……さあ」と首を捻りながら、飽くことなく蒐集を続け、「面白いとは何か」「笑いとは何か」を調べに調べた。時に協力し、時に個々で頑張り、時に口論し、時に喧嘩から仲直りして、時に涙を分かち合い、時に兄弟や両親に励まされ支えられながら歩む。一歩一歩、着実に。長い長い「冬」を乗り越えるようにして。やがて彼女らなりの「答え」を見つけ、それを漫才にするのではなく、あえて一本のソングをつくる。数年後。光溢れるステージに進む二人を熱い歓声が迎え入れる。会場を埋め尽くす大観衆の目。ふたりはもう、面と向かって「寒い」と笑われることを厭わなかった。やがてBGMが流れ始め、司会は高らかにユニット名と、その曲名を叫び上げる。

「ウィンター・ガールズ、
――『アイス・ソング』!」

 体調を崩して臥せっている最中にこんな夢を見た焼津です、こんばんは。目が覚めたとき一瞬だけ「ちょっぴりイイ話だ……」と思ってしまった自分を縊りたい。

川上稔&さとやす『遭えば編するヤツら』

 わ、こんなものが出るとは知らなかったなぁ。「通販本企画第3弾」ってことは『創雅都市S.F』『矛盾都市TOKYO』の流れを汲むってことで、以前やってたリレー小説『逢えば〜(闘う奴ら/恋する乙女ら/変するヤツら)』とは関連がないんだろうか? とりあえず予約しておきましたけど。

・竹本健治の『ウロボロスの純正音律』読了。

 “ウロボロス”三部作の第三弾。つまり完結編です。タイトルの漢字部分が一字ずつ増えているのは何か意味があるんだろうか。ともあれ91年の『偽書』、95年の『基礎論』と来て06年の本書となるわけで、前作から実に11年ぶり。うーん、だいぶブランクが空いてますね。“メフィスト”での連載も足掛け8年(1998年〜2006年、『フルーツバスケット』とだいたい一緒)と膨大な時間が費やされており、その期間において「えっ、『純正音律』ってまだ終わってないの?」とビックリした人は当方以外にもいるはず。だって高校生のときに始まった話が大学を卒業した後も完結せず、今年までずっと続いていたわけですから……むしろよく完結したものだなぁ、と感心させられます。「構想から完成まで、八年の歳月を費した比類なき巨大建築」と謳われているあの『暗黒館の殺人』すら実際の連載期間は4年ですよ。とはいえ分量も『暗黒館』級かというとそうでもない。原稿用紙換算で1500枚程度かな。それでも結構なボリュームを誇ってますか。

 元々は漫画家志望で、気づけばなぜか作家になっていたという経緯を持つだけに、南雲堂から漫画執筆――それも中短編ではなく、長編――の依頼を寄せられた竹本健治は嬉々として受けた。しかし、これまで長編規模の漫画を描いたことがないだけに、アシスタントの存在は不可欠と考え、方々に打診して無償の「お手伝い」を要請したまでは良かったが、肝心の作業場を用意しなければならなくなった。自宅では手狭すぎる。どこかいい空きスペースはないか。南雲堂の経営者である南雲一範に相談すると、なんと巨大で古めかしい洋館の一室を貸し出してくれた。その名も「玲瓏館」。黒死館を彷彿とさせるおどろおどろしさに竹本たちミステリマニアは狂喜する。が、やがてこの屋敷を舞台にして惨劇の幕が上がり、彼らはなんとかして警察の手を借りずに解決してみせようとするが……。

 意外なことに、今回ほとんどメタ・フィクション的な趣向は凝らされていません。本当にただ「実在の作家や漫画家、評論家が登場する」というだけの長編館ミステリになっています。おかげでこれまでよりも遥かに読みやすく、また『入神』のメーキング的な裏話が大量に出てきて、ファンとしては安心して読める仕様。『黒死館殺人事件』をモチーフに、囲碁や天文学や音楽に関連した知識をペダンティックにまぶし、見立て殺人や暗号といった本格ミステリの要素と絡め合わせていく手腕は手馴れたものを感じさせます。ニューカマーとして京極夏彦や西澤保彦や喜国雅彦が登場してくるのも楽しい。というか「彦」が多いな……。

 オチは相変わらずしょーもないというか、何かの間違いで本書を真面目に読んでいた人がいたら奇声を上げて壁に叩きつけ、テリー・ボガード級のパワーダンクでゴミ箱に放り込んでもおかしくない。よくもまあこんなネタで8年間も引っ張ってきたものだ。暗号とかは普通に面白かったけれども。基本的に内輪ネタ尽くしなので、綾辻行人や京極夏彦、喜国雅彦の著作を読んでいないと置いてけ堀になる可能性が高く、なんというか同人誌めいた匂いが強く漂っています。あとキャラクターの立て方もかなり露骨。特に女性陣の描写はイタいを通り越して痛々しいものがありました。

 くだらないんだけど、じっくり見てみると細かいところでよく出来ているヘンテコな一作。ひたすら連載の長引いたことが祟って作中の舞台となる期間が「1997年〜2000年」と、今年刊行された本の割に微妙に古く、実名小説にしちゃタイミングを逸していて中途半端。これが時事ネタの絡まない話だったら良かったんですけど、試みが試みだけに若干風化してしまった印象は否めない。しかしながら、ここまで壮大なバカバカしさは他の作品じゃまず拝めないでしょう。


2006-12-12.

『もえたん』のイラストで有名なPOPの挿絵による絵本が存在することをさっき初めて知った焼津です、こんばんは。現在『ふしぎの国のアリス』『赤ずきん』の二種類が出ているみたいですね。ふたつの共通項は言わずもがな。出版元がポプラ社ってのが一番のサプライズなわけでしたが。……あ、わかった、イラストレーターが「ぽっぷ」なだけにポプ;y=ー( ゚д゚)・∵. ターン

・上甲宣之の『ジュリエットXプレス』読了。

 若干ノリがチープながらもサスペンスの腕は一級品な著者が送るジェットコースター式ノベル。年明け15分前に始まり、ほんの1時間足らずで決着するストーリーは多視点形式の強みを活かしてグイグイ読者を最後まで引っ張ってくれる。今回帯に「山田悠介大絶賛!!」とあったせいで却って躊躇しましたが、いざ読んでみれば相変わらずの面白さで安心しました。

 真夕子、遥、智美――それぞれ別々の場所で別々の事件に遭遇した三人。しかし、時間の経過とともに事件と事件の繋がりが見えてきて一つの全体像が浮かび上がってくる。要は成田良悟が好んでやるタイプの構成なんですけれど、話の設定に工夫を凝らしたりとかいった脇道的装飾部分が少ないだけに、よりストレートでスピーディなサスペンスを味わえる仕組みになっています。本のつくりといい内容といいペーパーバック臭が濃厚な一冊ではあるものの、息もつかせずあっという間に通りすぎていく疾走感はホンモノだ。元よりそんなに長い話ではないとはいえ、最近とみに読書の速度が鈍ってきた当方でさえほんの1時間足らずで読み終えることができた。「ほんの1時間足らず」。そう、読み通す時間と作中で経過する時間がだいたい一緒になるように書かれているんですよね、これ。だから「リアルタイムノベル」とか何とか謳っているわけで。しかし作品の規模からいって『24』を引き合いに出すのはどんなものかと。

 1時間程度でさっと一気に目が通せるノンストップ・サスペンスをご所望の方には正にうってつけ。山田悠介に関しては食わず嫌いを貫いてる当方ですが、これと同程度の面白さが見込めるなら読んでみていいかも。

・それと寺田とものりの『超鋼女セーラ』も読了。

 ギャグかと疑いたくなるタイトルですが、内容的にはラブコメ+アクションの学園モノ。絵と帯文に釣られましたが何か? ヒロインがアンドロイドで且つ生徒会長……どちらか一つだけなら定番なのに、両方を兼ねているとなんか異色っぽいですね。入学して早々、そんな彼女に告白された主人公の運命やいかに。自身がロボットであることを気に病んだヒロインが「わたしのこの身体ってえっちなことできるの?」と父親代わりの博士に訊ねたりなど、あざといシーンも多かったものの、挿絵の魅力も相俟って楽しく読めた。というかイラストって『シンシア』(まきいづみの「わふわふ」のアレ)の人なのか。紹介見るまで気づかなかった。

 ラブコメ方面では結構盛り上がったけれど、バトルは正直微妙。ヒロインが特殊な事情を抱えているようで襲撃を受けたり身内に絡まれたりしてバトるんですが、争い事が嫌いでロボットにもさほど詳しくない主人公が後半突然やる気を出し、素早く戦況を分析して作戦を立て的確な指示を飛ばす――という変わり身の激しさには付いていけなかった。あと、登場人数が多いせいもあってキャラの判別がつきにくかったです。

 どちらかと言えばアンドロイドネタが苦手な当方にも抵抗なく読めたし、『護くんに女神の祝福を!』的なシチュエーション(上級生のヒロインが下級生の主人公に告白してバカップル化)も個人的にツボなので、続編が出るとしたら更なるLOVE寄せを期待したい。

・拍手レス仕ります。

 姉の詩集が書籍化ですってねぇ。新世紀の芭蕉になれるか?フツーにだめー。
 うお、もう今月に発売ですか。早いですねー。

 ディエス・イレがサンプルボイス追加……ぼちぼち更新が増えて嬉しい限りです。きーやん!きーやん!
 ヴィルヘルムたんの声、イイ具合にチンピラ臭醸しててらぶりぃ。


2006-12-10.

ニトロプラスのコミケ情報に虚淵玄著「Fate/Zero 第1巻」の販売についてという表記ありますが、おいおい「第1巻」って……いったい何冊『Fate/Zero』出すつもりなんだよ! とファンの例に漏れずツッコみたくなった焼津です、こんばんは。もしかして『詩織』ばりのライフワークにするつもりなのでしょうか、御大は。

『ひぐらしのなく頃に 語咄し編』読みました。

 『罪穢』が怖くてなかなか進まないので、こちらを先に読むことに。公募した500超のSSから10編を選んで収録したアンソロジーです。個人的には『あなただけのかまいたちの夜』を思い出しました。さて、全体は400ページ強とそこそこの分量がありますけど、全10編なので平均して40ページということになり、エピソードによっては少々物足りなさが残るのもチラホラと。そんな中で一番スッキリまとまっていて「これだ!」と思わされたのが「リトル・デーモン」。戦時中の雛見沢村(鬼ヶ淵村)を舞台にするという異色作。ストーリーの出発点が「米軍機撃墜」というあたり、古処誠二の『ルール』を彷彿とさせる。背景といい道具立てといい話の流れといい、いちいちツボにハマる内容。丁寧なつくりのおかげで展開が読めてしまうけれど、読めてなお面白い。この作品と出会えたのが大きな収穫でしたね。全体的に読みやすくてバラエティに富んでおり、アンソロジーとしては上々の仕上がりです。

・竹本健治の『ウロボロスの基礎論』読了。

 “ウロボロス”三部作の第二弾。『匣の中の失楽』『ウロボロスの偽書』も厚かったが、今回はそれ以上です。メタ・ミステリっぽい趣向は相変わらずですが、現実と虚構のせめぎ合いがいささかドタバタしていた前作に対し、どこか背後霊みたいな薄気味悪さを湛えつつ忍び寄ってくるムードが強化されている。キャストはより豪華になっていて、前作に登場した綾辻行人や小野不由美、新保博久といった面々に加え、山口雅也や笠井潔、宇山日出臣、法月綸太郎、麻耶雄嵩、中井英夫など錚々たる人たちが新規参入。チラッと名前が触れられる程度の中にも服部正・まゆみ夫妻や藤田宜永・小池真理子夫妻、菅浩江なんかがいたりして、とにかく内輪ネタのオンパレード状態となっております。ぶっちゃけ本筋よりも内輪ネタ満載な無駄話の方が面白かった……というのは禁句でしょうか。まあ、無駄話が面白く感じられるのも一応の本筋を据えて小説仕立てにしているからこそ、とも考えられますけれど。たとえばこれが『竹本健治日記集』として刊行されていたら、たぶん手に取る気は湧かなかったでしょう。有名なミステリ作家の名前がたくさん出てきて彼・彼女らの交友関係が分かるからといって、特段感激するでもなく「ふーん、そう」と流していたはず。あくまで「小説なのに実在の作家がバンバン出てくる」という倒錯ぶりが興味を刺激してやまないのですよ。

 さて、「試みは面白いが、ぶっちゃけ話がつまらない」と酷評され、当方としてもいささか頷くところのあった前作を踏まえてか、今回の『基礎論』では確固として物語の中心に来る一つの事件があります。これを巡って、ときに脱線しながらも一五○○枚は下らない量の原稿を費やしていく。聞きかじった話によればどうやら実際の事件がモチーフになっているらしく、それも関係者であるミステリ作家たちが戦慄を禁じえなかった代物だとか。名づけて、

 うんこ事件

 でございます。

 ……ジョークではありません。この本自体が壮大な冗談、という見方を除くかぎり。「書庫の中に人糞とおぼしき排泄物が残されていた」という犯罪(一応)をテーマに、幾多ものミステリ作家たちが侃々諤々の議論を交わします。飛び出す珍推理、繰り広げられるうんこ論。そして「証拠物件」を検査センターで鑑定した結果明らかになったこととは。短編程度ならまだしも長編、それもこの破格の分量で「うんこ」を題材にした大伽藍を築くとは……竹本、恐ろしい子っ。作中で笠井潔が滔々と垂れ流すウン蓄には素で感心させられたし、ケレン味だけで勝負しているわけでもありません。しかしながら始終うんこうんこと他のミステリでは目にすることすら希な単語を有名な作家たちが口にする様は滑稽を通り越して異様だ。「なんですぐ人が死んでしまうん?」という疑問が出てくるくらいミステリは殺人事件との親和性が高いくせしてその明確な理由付けは為されないまま現在に至っているジャンルですが、だったらこれみたいにうんこ事件をメインとして扱っていいのかと訊かれたら、「……やっぱり殺人事件主体でお願いします」と申したいところ。探偵のセリフとして「死体はまだ温かかった」とか「彼は一瞬で殺人を完遂したのです」っていう感じならまだ格好が付きますが、「うんこはまだ温かかった」だの「彼は一瞬で排便を済ませたのです」だのでは、その、あまりにも……。

 うんこ云々以外にも趣向は凝らされておりまして、その最たるものが「小説ジャック」でしょう。山口雅也や綾辻行人など、作中にも登場した作家に無報酬の割り込み原稿を書いてもらって途中で掲載するというお遊び感覚の企画。しかしこれがマンガなら画風の違いで一目瞭然ですが、文章だと「作風を似せただけ」とも受け取れるので、竹本健治の自作自演である疑いが抜け切らないところがミソ。特定の評論家を批判するような割り込み原稿もあって「これ現実的にヤバいんじゃ……」とハラハラさせられるところも随所に仕込まれている。モノが「うんこ事件」だけにおふざけめいて映る本作ですが、内容的には結構な危険球。無知蒙昧な読者を「豚」、そうした読者が喜ぶ作品を「豚の餌」、賞味し終えた読者が垂れる感想や書評を「豚の糞」と表現する件など、全体が実に挑発的です。本格ミステリはエンターテインメントである一方、他方で求道的な側面もあり、「読者のレベルに合わせる」ことがいろいろ足枷となるケースも少なくない。「最近のゲームは難易度が低すぎる」とボヤくレトロゲーマーの気持ちと、難易度を下げざるをえない開発陣の気持ちを推し量っていけば、「読者を愛し/読者を嫌悪し/読者に期待して/読者に絶望する」本格ミステリ作家の慨嘆は察せられるのかも。

 ミステリ版『くそみそテクニック』とでも言うべき異端のメタ・フィクション小説。スカトロ趣味のない当方には若干きついところもありましたが、「いくら貰ったらうんこ食ってもいいか」「うんこ味のカレーとカレー味のうんこ、どっちがいいか」という定番のくだらない質問もあって面白かった。さて“ウロボロス”三部作も次で完結。粛々と読み進めております。


2006-12-08.

・椎名軽穂の『君に届け(1〜2)』読んでサックリとハマった焼津です、こんばんは。

 少女マンガにはめっきり疎いため、この作者さんも今まで名前を存じておりませなんだ。「黒くて長いストレートの髪」「青白い肌」「陰気な美貌」を三種の神器と認定して憚らず、ジャパネスクホラー系の美妖女が大好きであるところの当方、ヒロインのあだ名が「貞子」という情報をキャッチするや光の速さで購入しに行った次第。ああいいわこの期待に違わぬ暗い容姿。どんよりと重たげな雰囲気がグッド、とてもグーッド。性格は謙虚というか「目を合わせたら呪われる」とか散々ひどいこと言われたわりに屈折したところがなく、ちょっとヌけたところのあって一人合点しがちな癖のある、逸り気味の天然っ子。そんな純真さと怖い笑みのギャップがすごい効果をバンバンと生み出して、やべえこれはドツボだ……貞子たん(本名:爽子)が可愛すぎて可愛すぎてしょうがない。そうしたトキメキは作中の少年(名前忘れた)も貞子に対して初々しく存分に表明してくれるので、男性読者もするりと話に入っていけるかと。

 一巻は「貞子のほのかな想い」がメインで微ロマンス調ですが、二巻は女友達二人(吉田&矢野)を中心に据えて展開する友情ストーリーで、互いのすれ違いが作劇的に「お約束」を固守してる感じでベタさやクサさも少々感じさせるものの、「やっぱ友情はええもんやわー」と胸に温かく浸透してくる。失うことに慣れて、「諦めればいい」と簡単に考えそうになる爽子が、「でもやっぱり諦めたくない!」と己の心に忠実に踏ん張る姿は熱い。基本的には明るいノリだし、ゆっくりゆっくり地歩を固めていく調子で進みますから安心して読めますな。さて貞子たんのライバルになるっぽい謎めいたウェーブ髪娘(名前不詳)が不穏な影を落としたところで早くも次巻以降の展開が気になるところ。路線からして貞子たんがヤンデレ化することはなさそうですが当方は一向に構わん。1月には3巻も出るらしいしちょう楽しみだー。

・マイクル・コリータの『さよならを告げた夜』読了。

 新人のデビュー作。原題 "Tonight I Said Goodbye" 。生年が書いてないのではっきりしませんが、解説に書かれていたことを計算すると作者はだいたい当方と同じ程度の歳ってことになる。ちょっとびっくり。それはさておき、元刑事の主人公がやっぱり元刑事の相棒と組んで私立探偵として事件捜査を行うハードボイルド長編です。一風変わっているのが相棒との年齢差で、主人公リンカーン・ペリーが二十代後半くらいであるのに対して相棒のジョー・プリチャードは五十代。まさしく親子ほど歳が離れているんですが、別に「父親代わり」といった感じでもなく友人に近い調子で付き合っている。リンカーンが行動的でやや軽率、ジョーが思慮深く、互いを補い合う形となってますね。

 真夜中に死んだ息子、行方不明になったその妻子――第二次世界大戦でナチと戦ったという昔話を繰り広げた老人ジョン・ウェストンは、世間が事件を息子の無理心中と見做していることを憤慨し、これが殺人事件であることを証明することと、いなくなった二人の行方を突き止めることをリンカーン・ペリーに依頼した。確かに、無理心中だとすれば妻子の死体を隠す理由はなく、自殺とも考えにくいが、これが殺人であって二人が連れ去られたのだとしたら……今も生きている見込みは薄い。死者ウェイン・ウェストンは、生前リンカーンたちと同じく私立探偵を営んでおり、その仕事に関連して何かに巻き込まれたのではないかと調べてみたところ、浮かび上がってきたのはロシアン・マフィアや大富豪といったキナ臭い連中。更には事務所にFBIの捜査官が訪れて、「事件を引っ掻き回すな」と釘を刺していった。事件の背後にはいったい何が潜んでいるのか? 危険を顧みず、渦中へ深く踏み入るリンカーンだったが……。

 読んでいる最中に連想する作品が一つあって、気になりつつも読了し、解説を見たらそれが作家を志すキッカケになった本なんだとか。「なるほど」と納得した次第。古式ゆかしいハードボイルドのパターンを踏襲しつつも適度にノワール要素を加えた、良い意味で新人らしい一作です。作者が若いせいもあってか渋さや深み、ずっしりと来るような重さには欠いているものの、鋭いキレがあってなかなか楽しめました。語り口が平易かつ軽妙。

 ハバードは言ったが、いまや声音が低く、そのしゃがれた耳障りな響きは、屑のたまりすぎた鉛筆削りを思わせた。

 とか、

 わたしがそう言うと、キンケイドは、自分の払った税金がすべて有益に使われていると思い込んでる人間に見せるような笑みをわたしに向けた。

 など、ユーモラスでいて分かりやすい。ワイズクラックにもセンスを感じます。またそうした「笑い」の面ばかりでなく、失踪した孫娘が最後に会ったときにつくっていた庭先の雪だるまを依頼人のジョン・ウェストンがじっと眺めている様子を印象的に描いてみせたりと、シリアスなシーンでの感情や光景の切り取り方もうまかった。とはいえちょっと腰が乗ってないところもあり、キャラやネタの旨味を存分に引き出せていないうらみがある。海兵隊、警察、FBI、マフィアあたりの扱いも迫真性に乏しく、少し記号めいていました。まだパンチの威力は低いんですけれど、途中の展開や結末には光る部分もあって、今後磨いていけばいずれ一発で読者をKOすることもできるようになるんじゃないか……と期待を持たせてくれます。

 本格的なハードボイルドを望む方よりむしろ、「ハードボイルド」というジャンルに対してとっつきにくさ、敷居の高さを覚える方にオススメいたしたい。決してライトな内容ではなくて若干の苦味も含まれているものの、煤ける領域にまでは達していないのでしっとりと潤いを保った読後感が得られること請け合いです。

・拍手レス。

 zeroの告知。セイバーやアーチャー以外の令呪も出て来てたみたいですが、あれは既出でしたっけ?
 どうでしょう。正直、令呪の区別はつかないです。

 鉄の国のアリス書かれませんか?
 もっとおもろく書ける人にパスー。


2006-12-06.

「鉄の国のアリス」なる鉄分補給ウエハースが実在することを知って驚きのあまり電流が走る焼津です、こんばんは。

 トランプの兵隊が「パンツァー、フォー!」と叫んでキュラキュラしたり、パワードスーツの上にジェットパックを装着したアリスが超音速飛行する戦闘機「ジャバウォック・改」と激戦を繰り広げるイメージが一種のうちに脳裏をよぎっていきました。それはともかく「鉄の国」の割にはなんとも可愛らしいパッケージデザインだこと。

焼肉万歳の『雛見沢怪奇ナビゲーター 罪穢』、プレー中。

 すっかり報告を怠っていましたが、チマチマと進めております。まだ全体で2時間程度かな。大して進行しておりません。

 だって……怖いんですもの……原作と違って「平和な日常」や「謎の分析」あたりの比率が低く、ほとんどのシーンがサスペンスやホラーに割かれているのでせいぜい10分くらい、頑張っても30分が限度です。「来るよ来るよ、ほーら来た」と脳内実況して恐怖を低減させるビビりプレーを駆使してなお辛いものがあります。効果音やBGMのタイミングが絶妙すぎ。あの神経を苛むようなひぐらしの鳴き声はホントもう勘弁して……と弱音吐きはこのくらいして、肝心のストーリーですが、似非コックリさんの「オヤシロさま」を通じて昭和58年の雛見沢にアクセスする、という構造のおかげでたびたび「現在」に復帰して話が途切れる仕様になっています。そのため「断片的なエピソードを積み上げた連作形式の物語」っていうテイストが濃厚。エピソード同士の関係やそもそもエピソード自体に矛盾を孕んでいるところがあり、わだかまる謎が合理的に解明されるかどうかは不明。あくまでホラーとサスペンスで押し切るつもりなのか。ガクブルしつつも続ける所存。とりあえず『ひぐらし』初期エピソード群の「怖さ」が恋しいという方にはオススメしたい一本です。つまり「いいから君もプレーして怖がれ!」と言いたいわけで。

・皆川博子の『伯林蝋人形館』読了。

 あんたも、蝋でできているんだね。薬のもたらす恍惚の中で、ヨハンは、うっすら笑いながら言った。(中略)あんたと僕は、空虚であるゆえに、一つの存在だ。二滴の水銀が接近して一つの塊になるように、僕らは一つだ。でも、そこに愛なんてありはしない。水銀に愛はない。冷たい同化。蝋は水銀に似ている。でも、蝋は、にせものなんだ。他者の力に依存しなくては、融合できない。
 ヨハンの言葉は支離滅裂であったが、マティアスもまた薬が脳に作用していたので、でたらめであればあるほど、深く理解できた。
 こういう存在を求めていた、とマティアスは自認した。お前は水銀かもしれない。そう、マティアスは言った。だが、私は、お前がにせものだという蝋だ。純粋な水銀は、蝋を封じ込めることはできない。その逆は可能だ。私は蝋細工の人形だが、水銀であるお前を心臓としよう。

 「蝋」は本当だと難しい旧字ですが変換できないので簡単な方を使ってます、あしからず。例によって西洋史を題材に取った小説であり、現時点で著者の最新作。長編でありながら連作形式の体裁を持っていて、章ごとに中心人物が変わる一種の群像モノめいた内容になっています。視点が違っても書かれる内容は一つの時期に集中しており、だいたい1930年前後のベルリンが主な舞台。パートによってフォントが太字になったり細字になったり、「作者略歴」という謎めいた項目があったりと、相変わらず細かいところで凝っている構成。朦朧たる霧に包まれ、夢と現の狭間を彷徨い続ける不思議な感覚を存分に味わえます。

 今回はマクロ的な歴史の流れが完全に背景と化しており、共産勢力やらナチスやらの要素も一応出てきますけれど、本筋にはあまり絡んできません。そういう意味ではナチスドイツものとしての側面を強く持っていた『死の泉』等に比べ、一線を画していると言えるかも。幻想性や耽美性の高さはそのまま据え置きです。んで、また何かリンクしてる箇所があるかなー、と思って読んでいたらありました。『薔薇密室』の寸鉄詩に用いられたヨハンネス・アイスラーが割と重要な役どころで登場してきます。上記の引用部にある「ヨハン」がつまりそれ。物語としては「蝋人形館」よりも眩惑感を激しくそそる「熱帯植物園」の方が象徴的な場所になっており、表紙の雰囲気もさして「蝋人形」っぽさを漂わせていない本書ですが、この引用部にある「水銀と蝋」のイメージが全編を支配しています。果たして「物語を必要とするのは、不幸な人間だ」という一節は今回も継続なのか?

 始まったばかりの第一章ではまだ状況が掴めず、そもそも主眼となる「事件」が何なのかすら見えにくい。しかし二章・三章と読み進めていくうちに交錯する人間関係が把握できるようになってきて、俄然面白くなります。あちらで絡まりこちらでも絡まるといった奇遇奇縁の連続は群像劇の面目躍如といったところ。冷静に考えればちょっと偶然や御都合主義が過ぎないか、って気もするんですが、そうしたありきたりの疑念を凌ぎ切るだけの力量を有した作者が手掛けているだけあって「むしろそれが楽しい」と思わせてくれます。巨大なスペクタクルや派手なサプライズはないにせよ、徐々に全体像が浮き彫りになってくる展開は入り組んだミステリみたいでワクワクしますね。

 「壮大な歴史ミステリー長篇」って謳い文句は誇張というか的外れ(壮大さを狙ってるとも考えにくいし、歴史そのものがテーマってわけでも……)だけど、一つの「事件」を関係者の生い立ちまで含めて多面的に、そして何度も執拗に再構成するという試みがそれこそ熱帯植物の如くむっと息が詰まるほど濃厚な香気を生み出している。幻夢感を好みながらもマンネリに陥らぬよう配慮した精緻さと精密さが仄かに窺えます。「物語は誰から誰へと語られるのか」を強く意識して、六人の男女の間に繋がった絆――とも言いがたい奇妙な縁をそっと切り貼りする手つきの濃やかさに酔われたし。


2006-12-04.

・先週『時をかける少女』を見てきた焼津です、こんばんは。

 そういえば昔、勾配のきつい坂道で調子こいてスピード出して終わりのカーブを曲がれなくて本当にあんな感じで自転車ごと飛んだ奴がいたっけなぁ、としみじみしたり。

 地方なんでこの作品を劇場で見るのは絶望的かと思っていましたが、なんとかこの時期になって鑑賞が可能となりました。明らかに小学生と思われる女児たちやカップルに紛れて一人で見るのは精神的にいろいろとプレッシャーが掛かったものの、内容そのものは非常に面白くて満足。途中から夢中になって周りのことも気にならなくなった。原作の時かけやこれまでの映画版を見たことがなかった分、まったく予備知識なしで臨むことと相成りましたけれど、「タイムリープ」というネタの割にはそれほど込み入った構成じゃなくて安心して楽しめた次第。それこそ『タイム・リープ』みたいに内容を整理しながら見なきゃいけない話なのでは……と構えていたため、程好く肩の力が抜けました。

 「時間を跳躍する力を手に入れた少女が、調子こいてバンバン時をかけまくっていたら、いつの間にかえらいことになってしまう」というのが大筋。「跳躍」と言っても過去ばかりで、テーマとしては「やり直し」に当たる。主人公とその友人二人を交えた仲良し三人組の関係、及び彼女らに接触してくる生徒たちも含めて描かれる学園生活がどことはなしに懐かしさを誘う青春SFです。原作知らんのでよく分からんのですが、有名な「ラベンダーの香り」云々が絡まなかったところからしてストーリーは結構変わってるのかしらん。ひょっとして「あの人」が原作の関係者だったりして……? って公式見たらあっさりバラしてるし。ともあれ、主人公の真琴が元気良くて少々オマヌケな女の子で、このバカっぷりが可愛くてしょうがない。あんまし頭使ってないから過度に能力を悪用しないってのもイイですね。「見る前に跳ぶ」って感じで清々しいです。しかし、時間SFおよび能力モノのお約束として「タイムリープを甘く見ていると火傷するよ?」的警告が仄めかされたりお灸を据える展開もあったりして、見た目ほど明るさ一色でもありません。時間を弄んだ酬いはブーメランのように返ってくるのです。

 あと、タイムパラドックスとかカオス理論とかを持ち出したりして晦渋な説明を垂れ流すこともなく、あくまで「見せ方」に凝ることで物語の世界を感覚的に把握させる丁寧なつくりには舌を巻きました。さりげないように見せて細かい部分まで練り込まれてます。「四時」という時間そのものを覚えさせず、定時になると音楽とともに出てくる小人で「その時間」を記憶させるところとか、あらゆる年齢層に配慮して噛み砕き、且つ印象的に映るよう心掛けている。あと単純に小ネタの数々が笑えます。カラオケボックスの突入シーンとか、驚きおおのく剣道部員たちとか。そして何より跳ぶ姿がかっちょええ。

 オチのところでちょっと納得しかねる箇所もありましたけど、総じて見ればノスタルジーを絶妙にくすぐる青春アニメであり、ここ最近アニメから遠ざかりつつある当方も「やっぱアニメってええわ」と確信。タイトルに「かける」とあるせいかやたら走るシーンが多かったけど、その我武者羅な疾走と平和でのんびりした日常とのコントラストが活きていて胸が熱くなる。気づけばなぜか川上稔の諸作を連想していたり。「やり直し」という言葉にはやはり後ろ向きなイメージが付きまとうし、それを望むことは決して誉められたことじゃないだろうけれど、彼女の重ねた試行錯誤は「モラトリアム」というなんかねばねばして正体不明な薄気味悪い代物をブチ壊す過程として無駄じゃなかったと心密かに誇ることは許されるでしょう。やり直すこと以上に大切なものを見つけるってのは素晴らしくて羨ましいことだ。あと妹(*´Д`)ハァハァ。この娘も真琴同様ヌけてるところがあるっぽいですね。

・竹本健治の『ウロボロスの偽書』読了。

 ウロボロスとは「己の尾を飲む蛇」という図案であり、無限の循環を意味する。本書は『匣の中の失楽』でミステリ界に衝撃を与えた著者が手掛ける怪作“ウロボロス”三部作の第一弾です。作者本人である竹本健治を始めとして綾辻行人や小野不由美、島田荘司、友成純一、新保博久、巽昌章といった実在の作家や評論家を登場させた壮大な内輪ネタである一方、『匣』同様に現実と虚構が錯綜するメタ・ミステリでもある。あんまりにも錯綜するもので次第に訳が分からなくなってきますから「メタ・ミステリならぬメタメタミステリ」という評も出ましたが、むべなるかな。たぶん内輪ネタが分からないと壮絶につまらない一冊でしょう。

 同じ『幻影城』出身の作家・連城三紀彦と交わしたバカ話が発端となった書き始めたアホミステリ「トリック芸者」を作中作という位置づけにして、本編では自身と妻、友人の作家・批評家を交えた日常を綴る半エッセイ的な連載小説『ウロボロスの偽書』――その中に紛れ込んだ異質な章は手記という体裁を取り、書き手が「吾輩ハ殺人鬼デアル」と宣言していた。竹本健治は「こんなもの、書いた覚えがない」と主張し続けるが、次第に手記の内容は物語の垣根を壊して現実と虚構の区別を曖昧にしていく。フィクションだったはずの作中作からキャラクターたちが「実在の人物」として作者の日常パートに現れて、現実に連続する殺人事件とも関連付けられる。いったい何が正しくて、何が間違っているのか。深まる混迷。溶け出す謎。崩壊する現実感。迷妄の霧に踏み入り、当て処なく彷徨い出した物語が行き着く先とは……。

 大別すれば「殺人鬼の手記」パート、「竹本健治」パート、「トリック芸者」パートと三つに分かれ、このうち「トリック芸者」が作中作、「竹本健治」が本編、「殺人鬼の手記」が不明――という扱いになっています。最初のうちは。あるパートで書かれたことがあるパートで否定された場合、たとえば「トリック芸者」で無茶苦茶なオチがついたとして、本編に出てくる竹本健治の友人が「ありえねぇだろ、これ」と笑い飛ばして片付けることができるのは、ひとえに「トリック芸者」より「竹本健治」の階層が高い、いわゆるメタ・レベルに存在していると認定されているからです。しかし、「殺人鬼の手記」は「竹本健治」より階層が低いのか高いのかそれとも同じ階層なのか、判断する材料が乏しいため、否定的な描写をされると混乱が生じます。「竹本健治」に書かれていることは嘘だ、本当はこうだ――と「殺人鬼の手記」が主張し、「殺人鬼の手記」に書かれていることは嘘だ、本当はこうだ――と「竹本健治」がやり返す。こんな真似を何度もやられると、読者はどっちを信用していいのか分からなくなってしまう。更に話が進んでいくと「トリック芸者」も作中作ではなくなっていくし、「竹本健治」のパートにすら「書いた記憶がない」っていう部分が混ざってくるしで、ひたすら混乱に拍車が掛かる。

 『匣』もややこしいメタ・ミステリではありましたが、あれには厳然としたルールが据えられていたため翻弄されながらもどうにか付いていけました。今回は「そもそも誰が物語のルールを決める権利を持っているのか」という命題を孕んでおり、これは普通なら「作者」となるんですけど、「この物語は改竄されている」という疑惑が絡んでくるせいもあって一筋縄では行きません。かなりパラドキシカルです。「この物語は改竄されている」って疑惑自体が改竄の結果なのかもしれず、読者は真とも偽とも判別しかねる解不能の事態に直面して一切のテキストを信じることができなくなります。ルールが存在しない自由なミステリとはかくも奔放で取り留めのない無法地帯に陥るものなのでしょうか。本格ミステリとは「様式美」の骨格を持ちながらも絶えずその「様式美」にさして論理的な根拠がないことに悩まされてきたジャンルですが、「様式美」というストレイト・ジャケットを脱ぎ去ってしまう恐ろしさをこうして目の当たりにしてしまうと、「やっぱり制約はあった方がいいな」と思ってしまう当方は弱腰のヘタレ野郎でしょうか。

 衒学趣味は相変わらずながら、文章表現はだいぶ平易になっていて読みやすかったです。『匣』特有の我武者羅さ、青臭さが抜けたおかげで異形感が減衰したところもあり、それが良いことかどうかは即座に判じられません。どの道、万人受けしないところは一緒なんですけれど。さすがにこの量(文庫だと上下併せて900ページ)は冗長すぎるきらいがないでもなく、やっぱり人にオススメする気は湧かないものの、結構グラグラ頭を揺さぶられる感覚もあって楽しめました。続く二作もこの調子で読んでいこうかと思います。

・拍手レス。

 ほんとに何やってんでしょうね虚淵氏(笑) ところで「遥かに仰ぎし、麗しの」はスルーでござりましたか?
 遥かに〜は思ってたよりギャグがおとなしかったのでつい。

 はるはろは製作停止の模様 orz
 ディモールト悲しい。


2006-12-02.

Gユウスケホームページ「あっちょんぶりけ」にルサルカ絵

 『Dies Irae』が遠のいた渇きも少しだけ癒えた。遠のいたといえば『はるはろ!』は無期延期でショック。ああー。ひとまず東出祐一郎ラインの新作に期待を移しますか……しばらくひきずりそうですが。

・皆川博子の『薔薇密室』読了。

 広大な薔薇園の中心に突如として美青年の全裸死体が出現した。目立った外傷はなく、発見時において死因は不明。「外傷がないって……? そんなバカな、あそこは薔薇が密集して咲きまくっているのだぞ! 茨で埋め尽くされた真ん中に、監視の目を掻い潜ってあんな格好で傷一つ負わずに現れるなんて――どういうことなんだ!?」 無数の薔薇がつくり出した密室。しかし事件はまだ、始まりの鉦を鳴らしたに過ぎなかった……。

 という本格ミステリっぽい粗筋を想像していましたが、全然違いました。ミステリ用語としての「密室」ではなく、比喩として使っているみたいです。ここのところ立て続けに読んでいる皆川西洋史の一冊に当たり、またもやナチスドイツが話に絡んできます。時期が『総統の子ら』と被っているばかりでなく、ちょこっとストーリーがリンクしている箇所も。どうやら『死の泉』、『総統の子ら』、そしてこの『薔薇密室』は物語の世界が共通している模様。そもそも『薔薇密室』というタイトル自体が既に『死の泉』の時点で触れられていましたし。本筋に関連し合っているわけではないので別に気づかなくても差し支えはありませんが、知ったら知ったで密やかな楽しみに耽られますね。

 第一次世界大戦下のドイツ、シュレージェン――外界から孤絶した「薔薇の僧院」に住み、独りで黙々と研究を続けていたラオレンツ・ホフマン博士は、逃げ込んできた脱走兵コンラートが抱きかかえる負傷した美貌の仕官を、研究材料として用いた。薔薇の若者(ローゼン・ユングリング)。それは、人間と薔薇を融合させ、互いの生命力を循環させるというもの。昏々と睡りに就いたまま、植物とも動物ともつかない新たな存在に変わっていく、名も知らぬ仕官。彼を崇拝するコンラートは、「薔薇の僧院」に留まって雑用と薔薇の世話に励む。……という、到底現実とは思えない奇妙な物語と遭遇したのは、ワルシャワの戦火から逃れてブレスラウへと辿り着いたポーランドの少女ミルカ。出現と消失を繰り返す謎の書物、それに綴られている物語は黴毒に脳を冒されたホフマン博士が紡いだ幻想譚なのか。やがて彼女はフィルムの映像を通じて「薔薇の僧院」が実在することを知り、更に行方が分からなくなっていた知人の姿を見出すが……。

 「物語を必要とするのは、不幸な人間だ」という一節がストーリー全体のテーマとなっている幻想味豊かなサスペンス・ミステリ。これ、ヨハンネス・アイスラーという詩人の言葉ってことになってますけど、ぐぐってみた感じ架空の人物っぽい? 物語の中だけでなく外の部分まで現実と虚構が曖昧になっているのが皆川博子の持ち味かもしれない。さて、「曖昧」と書いただけあって今回のヒロインも精神が終始揺らぎっぱなしです。進めば進むほど、夢と現実の境が朧になってくる不思議な感覚は、「薔薇密室」というより「薔薇迷宮」のイメージが濃厚。同じ西洋史モノとはいえ、『冬の旅人』や『総統の子ら』は比較的ミステリやサスペンスといった要素が希薄だっただけに、よりいっそう強く『死の泉』の後継といった印象を与えます。怪しげな博士、怪しげな研究、フリークショーといった数々のガジェットや眩惑臭漂う作品の気配も通底するものを感じさせる。それでいて焼き直しの雰囲気は希薄であり、新たな路線へ挑戦しようという心意気も窺えます。戦前生まれというもう結構なお歳(失礼)の作家ながら旺盛かつ貪欲な創作姿勢で圧倒されますな。

 よもや、ここまでとはと思っていた製パン中隊の屯所を、敵の砲弾が直撃した。野外にしつらえた窯を撃ち抜き、小麦粉の袋の山を黒こげの灰にした。大量の卵は全部つぶれ、砲弾の破片を食らった中隊兵士の血と肉といっしょに土にまじり、なんだか旨そうな匂いをただよわせた。

 耽美色の強い作風なんですけれど、こういうトボけているようでいてどことなく凄味のある文章が書けるセンスには惚れ惚れ。侵略され誇りを踏みにじられる国民の思いを連綿と綴り、戦火に引き裂かれる若き二人のロマンスなんていうお約束だけど鉄壁の読み応えを持つ展開も盛り込んで、抜かりないエンターテインメントに仕上げています。やっぱり長いせいもあって中盤がダレる(これ、皆川作品の感想を書くとき毎回言ってる気が……)ところもあるし、今回は長さの割にちょっと小さくまとまってしまったようなどことない小粒感があって、大作レベルを期待するとややガッカリかもしれません。が、「小さく」とはいえ話自体はうまくまとまっています。こんだけグラグラと現実感を揺さぶっておいて着地させられただけでもお美事。

・今月の予定。

(本)

 『剣嵐の大地2』/ジョージ・R・R・マーティン(早川書房)
 『白砂村(1)』/今井神(一迅社)
 『Pumpkin Scissors(6)』/岩永亮太郎(講談社)
 『ユーフォリ・テクニカ 王立技術院物語』/定金伸治(中央公論新社)
 『赤朽葉家の伝説』/桜庭一樹(東京創元社)

 『剣嵐の大地』はまだ1巻目を読んでないことに気づきました。こうなったら3冊全巻揃うまで寝かせておくべきか。そもそも『七王国の玉座』から読み直すべきか。思案どころです。『白砂村』は『NEEDLESS』の今井神の新作。同人誌として出した同題マンガをリメイクしたっぽい。雰囲気的にはミステリだけどいろんな要素をブチ込んでジャンルミックスした内容だとか。『NEEDLESS』の新刊をこないだ読んだばかりでもう新作が拝めるとは嬉しい話だ。パンプキンシザーズは10月発売予定だったのが今月に延びたんですよね。最初知らなくて本屋で必死になって探してました。『ユーフォリ・テクニカ』は徐々に寡作家となりつつある定金伸治の新作。作者のHPに書影が出てますね。『ブラックランド・ファンタジア』に近いってことでBLF好きの当方にはうってつけ。同日に刊行される花田一三六の『曙光の誓い』もちょっと気になっていたり。『赤朽葉家の伝説』は桜庭一樹の新作で、今月は『GOSICK』の最新作も出ます。女三代の物語という、サーガのテイストを漂わせる代物で結構期待大。他に気になってるのはチャールズ・ストロスの『アイアン・サンライズ』。ハヤカワのSFですけど、あらすじが「鉄爆弾により超新星化したモスコウ星系。犯人の手がかりを知った少女を暗殺者が追う!」とまとめすぎで却ってよく分からない。『シンギュラリティ・スカイ』の続編? ストロスと言えばアッチェレランドもそろそろ邦訳でまとめてほしい……。まとめると言えば沙村広明の『人でなしの恋』が遂に出版されるとか。画集の類には関心の薄い当方でも気になる一冊です。

(ゲーム)

 『アノニマス』(mirage)

 『螺旋回廊』が好きな当方には待望の一作ですが、「どうせ延期するんじゃないのー?」と半信半疑。公式で予約を受付してるから出そうな雰囲気もあるけど、なにせageだしなぁ。予約して土壇場で延期されてはかないませんので、発売後に購入を検討するつもり。


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