2008年6月分


・本
 『ふおんコネクト!(2)』/ざら(芳文社)
 『されど罪人は竜と踊る1』/浅井ラボ(小学館)
 『僕がなめたいのは、君っ!』/桜こう(小学館)
 『指し手の顔(上・下)』/首藤瓜於(講談社)
 『ハバナの男たち(上・下)』/スティーヴン・ハンター(扶桑社)
 『鼻』/曽根圭介(角川書店)
 『殺人者の顔』/ヘニング・マンケル(東京創元社)
 『されど罪人は竜と踊る2』/浅井ラボ(小学館)
 『道化の町』/ジェイムズ・パウエル(河出書房新社)
 『RIGHT×LIGHT(1〜3)』/ツカサ(小学館)
 『ナツメグの味』/ジョン・コリア(河出書房新社)

・ゲーム
 『さくらさくら』体験版(ハイクオソフト)


2008-06-30.

・溜まり気味だった『RIGHT×LIGHT』の1巻から3巻までをガッと一気読みした焼津です、こんばんは。

 ガガガの新人賞からデビューした作者による、現在そこそこの人気を獲得している(らしい)シリーズ。略称は「右光」「R×L」あたりが流通しているかな。ラ板のガガガスレじゃなぜか作者名ではなく絵師の名前を取って「近衛」とも呼ばれている。3年前の事故で妹を喪った少年が「右手で握ったものは何でも消せる」という呪いじみた能力を武器に、空飛ぶ半透明の少女と手を組んで悪の魔術師に立ち向かう……といったストーリーで、「指で覆い隠せる範囲」って条件こそ付くものの、掌に収められるものならばたとえ魔術であっても打ち消せる。設定が某幻想殺しと被っているような気もしますが、そこは軽く流しましょう。

 1巻の時点では「見所もあるけど物足りないところもある」といった感想で、面白いともつまらないとも言いかねる「可もなく不可もなく」な塩梅でしたけれど、続く2巻でだいぶ面白くなりました。事態が一旦落ち着いたおかげで日常描写が増量、ラブコメムードも強まって実に当方好みの展開を迎えます。ってか、1巻を読んだ後に2巻のカラー口絵を見るとたまらず噴き出してしまう。「あんたナニ格好いいポーズ決めてんスか!?」とツッコミを入れたくなる気持ちが止まりません。参ったぁ! 俺は参ったぁっ! 反面、メインヒロインであったはずのアリッサはすっかり影が薄くなっていました。そんなところまで禁書目録と似なくてもいいのに……。

 ただ、そんなアリッサも3巻で復権して爆弾発言をかましたりします。このRIGHT×LIGHT、はっきり言ってしまえばアクションやバトルといった部分、それにシリアスなシーンの描写はそんなに……ですけれど、ユルめのドタバタラブコメとしては割と好みかもしれない。騒ぎすぎず、それでいてちゃんと波乱あり。程好い加減でチラつく嫉妬が目に心地良い。また、主人公が「自分はあの事故で妹を救うことができなかった」と良心の呵責に苛まれて煩悶する場面が度々挿入され、故人であるにも関わらず「妹」の存在が結構なウェイトを占めており、それが本筋の進行とも絡んでいるところは興味深い。出来次第では購入を打ち切ろうかとも勘案しましたが、この分なら継続してOKと判断。1巻だけでは魅力が伝わりにくいので、2冊か3冊まとめて取り掛かることをオススメします。さあ、たまにはイラストに釣られてみましょう。2、3巻には全裸絵とかありますよ。

・ジョン・コリアの『ナツメグの味』読了。

 中学生の頃、阿刀田高の短編群に熱中し、いわゆる「奇妙な味」と呼ばれるジャンルに傾倒した時期がありました。ロアルド・ダールやサキ、アンブローズ・ビアスといった有名どころは古本屋を漁り回ってなんとか入手しましたけれど、このジョン・コリアに関しては見かけることさえなく、「奇妙な味」への熱意が冷めるとともに名前ごと忘れ去ってしまった次第です。それから十年が経過し、たまたま棚に置かれていた本書を見掛けて唐突に存在を思い出した。個人的に短編強化週間を始めていることもあって「すわ天の配剤か」と迷わず手を伸ばして現在に至る。

 表題作含む17編を収録しており、1編あたり長くとも30ページくらい、短ければ10ページを切るほどのショートサイズ揃い。やけに神経質で追い詰められたような顔をしている男が、実は親友殺しの容疑で裁判に掛けられた過去があると判明する「ナツメグの味」など、全体的にブラックな空気が濃厚です。しかし「ナツメグの味」で男の過去が明らかになるのは半ばくらい、あくまで展開の一部であってオチは別にある。そのオチがあっと驚く予想外の代物かと申せばそうでもなくて、正確な予測は出来ずともだいたいの人が「こんなんじゃないかな?」ってあらかじめ輪郭を掴んでしまうことでしょう。凝った仕掛けとか、意表を突くヒネリとか、そういう明快な面白さを期待してページをめくると力が余って転んじゃうかもしれません。ジョン・コリアの魅力はサプライズではなく、コミカルでキレの良い語り口にあります。訳のおかげもあると思いますが、とにかく軽妙でサクサクと読める。「だから、ビールジーなんていないんだ」における父親の鼻に付く喋り方とか、こまごました説明を抜きにして登場人物の性格を端的に伝えるのが巧く、ほんの10ページやそこらでも活き活きとキャラクターの個性を表現してくれる。悪魔が現れたり死人が出たり、前述した通りブラックなストーリーが多いものの不思議と陰惨なムードはなく、たとえバッドエンドを迎えても何故か後味は悪くなかったりします。常に何かしら滑稽な雰囲気が流れていて、結末を迎える段でも異常に爽やか。その爽やかさが却って怖かったりするくらいです。「猛禽」あたりは純粋にゾッとしますけれど、「特別配達」や「異説アメリカの悲劇」などの無惨極まりないラストに反して漂う変な明るさを味わうにつけ、ひたひたと「肌の粟立たない怖さ」が忍び寄ってきます。

 当方自身の好みで述べれば「宵待草」と「夜だ! 青春だ! パリだ! 見ろ、月も出てる!」の2編が白眉。「宵待草」は夜の百貨店で警備員の目を盗みながら暮らしている人々の話で、各百貨店ごとにそうした集団が必ずいて社会を構成しており、時に交流することもあるという妄想めいた設定が読む者の腋をくすぐります。怪異があり、ロマンスがあり、冒険の予兆を残して終わる快作です。結末が明示されていないから想像次第でハッピーエンドともバッドエンドとも好きなように受け取れる仕組みも心憎い。「夜だ! 青春だ! パリだ! 見ろ、月も出てる!」は青年アーティストが金に困って自分のアトリエを間貸しするところから幕開けし、間貸しした後で行き場がないからと部屋に置いていたトランクに隠れ潜んでしまう。すると部屋にやってきた新しい住人はうら若き美人で……といった調子でトランクの空気穴から彼女の生活を覗き見るわけで、乱歩チックな窃視趣味が満開です。しかし語り口の軽妙さも助けてジメついた風情はないし、急展開な後半もうまく勢いに乗せて清々しい気持ちにさせてくれる。他にも壜詰め魔神というありきたりの題材を用い、至って予想通りのベタベタな話運びをするにも関わらず、ついオチで噴き出してしまう「壜詰めパーティ」や、自殺した後、地獄へ連れて行こうとやってきた悪魔をおちょくり返す「地獄行き途中下車」も捨てがたい。「葦毛の馬の美女」なんかオチがバレバレなのに、いやバレバレだからこそニヤニヤしながら読んでしまう。

 要約してしまえば「なーんだ」と拍子抜けする作品も多い。しかし、そのくせいざ完成品の仕上がりを見れば活字中毒者として引き込まれずにはいられない小粋な重力を感じます。残酷な色合いを湛える湖の黒々とした水面にぷかぷか浮いている薄氷じみたユーモア、くれぐれも踏み割らぬようそっと足を乗せてご堪能あれ。

・拍手レス。

 恋盾で優×妙子さえあればエロがなくてもいい!
 優の可愛さが異常すぎて、やすら声を聞くたび優を思い出してしまう。

 少し古い話題だけど、アメリカの妊娠協定の町、何か気がつきませんでしたか?一部で話題になってますよ。
 インスマスのモデルになった場所じゃないかと言われていますね。

 「明日君」のFD出るみたいですねー
 七海が攻略できない時点で発売は決まったも同然。


2008-06-27.

webラジオ「さよなら絶望放送」の第43回がゲームネタ多すぎてウケまくった焼津です、こんばんは。

 この番組初めて聴きましたが、最初から最後までゲーム関連のネタが嵐のように吹き荒れていて噴いた。『痛快GANGAN行進曲』とか『サイバーボッツ』とか『ゾンビリベンジ』とか、マイナーではないがメジャーでもないあやふやチョイスに「このゲスト(杉田智和)とは同世代に違いない」と確信。ファミマガに連載されていたストU漫画(作者は神崎将臣)で春麗が乳首ポロリした話とか、なまら懐かしいべ。単行本では修正されたんだっけ。ファミマガと言えば内藤泰弘の描いていたサムスピ漫画が異様なグロさで地味にトラウマ。

ザク「ガンダムのビームサーベル…すごくいやらしい色してる…」(SLPY)

ザク「おやおや…ちょっと触っただけでジャベリンになったよ?とんだ淫乱MSだな…」

 このくだらなさは病みつきになる。

Lillianの『ティンクル☆くるせいだーす』、発売延期(7月25日→9月26日)

 おぎょぎょ。5月→7月と来て、更に7月→9月とは。挙動が怪しくなってきたと言わざるを得ない。

『恋する乙女と守護の楯-The shield of AIGIS-』はシナリオを約50パーセント加筆

 攻略ヒロイン2名追加、妙子をくぎみーでフルボイス化、シナリオ1.5倍増量でCGも40枚追加と……全年齢verでいいですから、もうそのままPCに逆移植してくれませんか?

暁WORKSの『るいは智を呼ぶ』、プレー中。

 奇妙な痣と奇妙な力を持った生まれも育ちもバラバラな少年少女が運命に引き寄せられるかの如く集って同盟を組み、自分たちを蝕む「呪い」を克服すべく共闘する。あたかも『八犬伝』と『家族計画』を混ぜ合わせたようなストーリーの新感覚アドベンチャーです。それにしても「新感覚」と書けば何でも許されるんだろうか。説明になっていないんじゃないだろうか。駄洒落チックなタイトルと「主人公が女装少年」という際どくてあざとい設定、そして控え目に表現しても「アクの強い」としか言いようがないテキストが重なって発表当初はいろいろと危惧されるところが多かったものの、体験版の配布開始を契機にして徐々に支持票を集めていったソフトです。暁WORKSにとって第2弾となる。しかし第2弾と言っても暁WORKSは「あかべぇの姉妹ブランド」というだけで今のところ特にカラーがないと申しますか、ぶっちゃけ前作とはシナリオも原画もディレクターも違う「メインが全員別スタッフ」な状態であり、『魂響』と『車輪の国、向日葵の少女』、『僕と極姉と海のYear!!』と『暁の護衛』よりも更に関係が薄く、1作目の『僕がサダメ 君には翼を。』とは分けて考えた方が話は早いと思われます。

 さて、タイトルからして万人向けではなさそうな匂いを放っている本作、出だしもちょいと不親切です。主人公の和久津智(女装少年)がヒロインの皆元るいに手を引かれてビルの中を逃げ惑うシーンから始まりますが、「追い詰められた!」というところで場面が転換し、同盟を組み終わった5人のヒロインとペチャクチャくっちゃべっているシーンにいきなり飛びます。そして彼女たちが駄弁り尽くしたところで一斉に「何か」に向けて繰り出す。「何か」が何であるか分からないまま時間が巻き戻り、ビルの逃走劇よりも更に前、智とるいの出逢いにまで遡ってリスタート。冒頭30分におけるこのゴチャゴチャした流れに屈して投げ出さぬよう心を強く持たれたし。一応、進めて行けば主人公たちが何に向けて繰り出したのかはちゃんと判明しますから。

 やけに凝っているのは構成のみならず本文もであり、ヒネリを利かせようとしすぎてやや滑っている印象があります。有体に書けば、鼻に付く。そして何より独特のテンポを刻んでいて読みづらい。システムやスクリプトを手掛けた人にまで「癖がある」と評されるくらいです。ヒロインの個性が強いことも相俟って取っ付きにくさは上がる一方。しかし、我慢の子を貫いてひたすらクリッククリックとマウスを叩いていけば、いつしか苦痛も快感に変わってくる。そう、放尿の誘惑に耐えてモゾモゾと内股ディフェンスを取る、まさにあの瞬間のように。やがてストーリーの山場にて、トノイケダイスケ&☆画野朗タッグが駆けつけんばかりの安らぎに満ちた解放タイムが訪れます。尿意と戦う歓び(ジョイ)はここで排尿の悦楽(プレジャー)に変わり、あまりの気持ち良さに誰もがブルブルッと打ち震えるって寸法。考えてもみれば、智のセリフには「にょ」が頻出する。これも偶然ではあるまい。間違いなく、プレーヤーに尿意を催させるためのサブリミナル口癖だ。つまり、端的に述べれば「尿道を犯すテキスト」を備えているンですよ、るい智は。正真正銘のカテーテル、いやカタルシスです。

 そんなこんなで体験版をやってるときは「いつ見切りをつけようか」と割合真剣に思い悩んだ当方も、すっかり雰囲気に慣れた後で再プレーすると大した苦痛を覚えないどころか、楽しみ方がハッキリと分かってニヤついてしまう。なかなかクセになりますわ、これ。おかげで体験版の範囲も飛ばせなくて時間が掛かっちゃいました。なんとか体験版以降のシナリオに差し掛かりましたけど、正直あんま進んでません。この調子ではクリアはいつになることやら。

 今のところ気に入っているキャラは花鶏。テンション低そうで実は高い喋りといい、ここぞという場面で獰猛になる表情といい、レズっ娘なのに智を男と見抜けず夢中になってしまう皮肉加減といい、いちいちツボに入る。他で好きな奴は……智は言うに及ばず、るいとこよりの溌剌コンビも案外。るいの単純で威勢が良くて真っ直ぐな態度は見ていて気持ちいい。あと巨乳。こよりは明るく楽しく微笑ましく。声優がベテランだけあって演技も群を抜いています。茜子や伊代も嫌いじゃないっつうか好きだけど、このふたりはまだ本筋に絡んでこないからインパクト弱くて気に入るキッカケがないんですよねー。今後に期待。にしても、つくづく智のボイスが付いてないことが悔やまれるぜ……もっとも欲情をそそる登場人物だってのに。


2008-06-25.

クリオネクオリアを瞬時に判別することができない焼津です、こんばんは。おかげで『神狩り2』に「神のクオリア」云々という説明が出てきたとき、巨大なクリオネが神々しくうねる様をつい想像してしまったぜ……。

『SWAN SONG』廉価版、7月31日発売

 公式発表が来ましたね。でも5800円(税込6090円)ってあんまり「廉価」じゃないような……万超えのプレミア価格よりかはずっとマシですけど。

渋谷は見てくれだけ 本当にヤバイのは新宿駅です「独り言以外の何か」経由)

 東京に住んでいた頃で一番よく利用した駅ですけれど、それでも把握し切れませんでした。あと京王新線の乗り場は離れすぎ。初台に用事があったら直接徒歩で行った方がいいくらいだったなぁ。

も う 飽 き 飽 き し た 設 定「GF団」経由)

 ことあるごとに疼いて思い出せない記憶。「あれ? 俺、この子と会ったことがあるような……/『うっ!』/そう考えた途端、ズキリと頭に鋭い痛みが走った。/なんだ、今のは……?/『どうかしましたか?』/『いや……なんでもない』」みたいな奴。これを頻繁に繰り返す。

 もうええから最初の瞬間にさっさか思い出せっちゅうねん。

・ジェイムズ・パウエルの『道化の町』読了。

 今年は短編小説、それも海外作家によるものをあんまり読んでないなぁ。よし、もっと短編集を読もう。と一念発起して着手したのがこの本です。某所で話題に上がっていたことが手に取るキッカケとなりました。表題作含む12編を収録した日本オリジナルの選集。冒頭一発目の「最近のニュース」が妻のバカげた推理(というより妄想)を笑い飛ばすところから始まり、やがて笑えなくなる展開のストーリーで、いわゆる「奇妙な味」系統の作家かと思いましたが、読み進めるにつれて考えを改めました。確かに「奇妙な味」に属する作品もいくつかあるけれど、それだけでは括れない多面的な魅力に満ちています。

 正直、最初の3編くらいは出来こそ悪くないもののそんなに飛び抜けて面白い内容とは思えず、評判になるほどの本だろうか……と軽く疑いました。けど、4編目の「オランウータンの王」から徐々に風向きが変わってきます。話の根底を支える「オランウータンが世界を掌握している」という奇想もさることながら、二転三転する物語に酩酊しました。つづく「詩人とロバ」も鮮やかな語り口でシンプルかつ小粋な結末に辿り着かせ、ようやく当方もパウエルの筆先が放つ輝きに気づき始める。そして「魔法の国の住人」でブレイク。「魔法の国の住人」は「ジャックと豆の木」のジャックや蛙の王子様が混在する統一的な西洋童話世界を舞台に、「ガラスの塔から如何にして金の卵を産むめんどりを盗み出したのか?」という謎を解き明かすファンタジー系ミステリです。あまりの面白さに我を忘れて読み耽ってしまった。ジャックが「巨人殺し」とか呼ばれている滑稽味にプラスして、ちゃんと童話の世界で謎解きをすることに意味がある設定なんだから、まことに秀逸。プロットも緻密で無駄な要素がほとんどありません。何より脱帽なのは、これを20ページ足らずの分量に圧縮しちゃっていることですよ。密度が半端ねぇです。

 ユーモア濃厚なセンスはほとんどの作品において発揮されており、20ページや30ページそこらの枚数で連続殺人事件を扱うなんていう無茶な真似をやらかしてくれる。普通なら「詰め込みすぎ。もっと被害者を減らすかページ数を増やすかしましょう」と苦言を呈するところですが、「このやりすぎな雰囲気がむしろグッド」とあっさり許してしまえるあたりに作者の際立った個性を感じます。「アルトドルフ症候群」なんか200年以上も彷徨っている亡霊じみた男に「昔わたしが直面した謎を解け、さもなくば死ね」と脅されるわけで、相当に無茶なシチュエーションなのに試行錯誤する推理劇が楽しくてつい引き込まれました。ギャネロンやブロックといったシリーズ探偵の短編も面白かったけれど、解説の紹介を読むと未収録分まで読みたくなってしまうのが困りものです。タイトルを飾る「道化の町」はその名の通りあらゆる住人がピエロの扮装をしている道化町(クラウンタウン)で道化刑事がピエロらしくズッコケたり頭をぶつけたり、わざと間抜けな仕草をしながら殺人事件の捜査を行うこれまた突き抜けた一編。ピエロのデカ――そんなものはジョークでも思いついたことがありません。ピエロの他には物静かな(というより喋らない)パントマイマーたちも出てきます。ピエロがマイムに対してアンバビレントを抱いているとか、無駄に話が細かい。実にバカバカしい設定であるにも関わらず、最初から最後まで大真面目な筆致を貫いて、深みがあるようなないような何とも形容しがたいクライマックスを迎えます。相手はピエロなんだし、口を開けて笑うべきところなのかもしれませんが……不思議なほど切ない読後感でした。

 奇妙な味とユーモアと冒険精神とパズラー魂が渾然一体となっている瞠目の短編集。バカバカしいからってバカにしないで、是非とも腰を据えて取り掛かっていただきたい一冊です。なるほど、こりゃ話題にもなるわけだ。


2008-06-22.

・もっとダラダラと消化するはずが、ずっぽり話に引き込まれてしまって『されど罪人は竜と踊る2 Ash to Wish』を予定よりも早く閉じ終えた焼津です、こんばんは。『灰よ、竜に告げよ』の改稿版なんですけど、帯で推薦しているケンドーコバヤシという人が誰なのか全然分かりません。ぐぐってみたけどやっぱり見覚えがなかった。うーん、最近のテレビはニュースかギアスくらいしか見てないからなぁ。

 さておき、今回は1巻に比べてあんまり内容が変わってなかったですね。しかし旧版を読んだのがもう5年も前(……改めて数えるや「そんなに経ったのか!」と愕然)だから、細かい部分は忘れていて結構新鮮に楽しめました。500ページを超える長さのくせして苦痛を覚えさせないというか、読み出したら止まりません。驀進あるのみ。さすがシリーズで一、二を争う人気巻、伊達じゃない。最高潮の盛り上がりを示すクライマックスもさることながら、ラスト2章における捌き方も端倪すべからざる鮮やかさ。文句なしの面白さでした。

 いや、文句はありました。大きく分けて三つ。まず誤植が依然目立つこと。シヴって誰よ。そして葬儀のシーン、棺が五つあるのに「四人の魂」ってどういう計算? 一人だけ宗派か何か違って別葬するのかな、と一瞬考えたりもしたが、同一セリフ内でちゃんと五人の名前を読み上げているし……その他、カッコの最後に「。」が付いたままになっている箇所、行頭の空白が抜けている箇所なんかもあって校正は甘々です。二つ目は、説明調のセリフがやたらくたら多かったこと。「なにっ、あれは○○じゃないか!」「知っているのか、ガユス!」「ああ、何たらかんたらをうんたらどーたらする恐るべき威力、それはかの××をも軽々と凌駕し、地上最悪の名をほしいままにしているという!」みたいなノリの。たぶん地の文で書いていたことをセリフに変換しただけなのでしょうけれど、ギギナが言っていた「貴様は画面の端で、驚きながら泡吹いて解説をする担当だ」を地で行く勢いに笑ってしまう場面がいくつか。最後がやっぱりアレです、例の演出があっさり流されているところ。旧版では単純ながらも「おっ」と唸らせる仕掛けがあっただけに、残念。

 まあ、文句を垂れつつも目を輝かせ胸を高鳴らせているのがファンというものです。8月に出るとされている完全新作な長編が待ち遠しくて待ち遠しくて、あまりの待ち遠しさから期待と妄想で脳味噌が膨れ上がって夜も布団の中で興奮しっぱなし、まこと眠りにくいことこの上なし。来月は来月でロミオと虚淵の新刊があるし、ガガガもなにげに魅惑溢れるレーベルへと変貌してきましたなぁ。

瀬戸なんとかさん&川原誠の『SWAN SONG』が7月31日に廉価版として再販されるとか(リンク先はLiLiM)

 発売当初は恐ろしいほど注目されず、タイトルを挙げても素で「マキャモン?」と聞き返されていたものの、奈須きのこの紹介(真ん中よりちょっと下あたり)がキッカケとなったのかジワジワと認知されていって『キラ☆キラ』が発売される頃にはすっかりプレミア化していた一品。スロースターターな物語ゆえ出だしが若干タルいのですけれど、一旦エンジンが掛かると今度はブレーキが利かなくなり、果てしなく下り坂をランナウェイしていきます。ボリュームはそれほどでもないくせして密度が桁外れであり、プレーすればたちまち時間感覚を喪失すること請け合い、「エロゲー界に竜が潜みおるとは……」と蝙也斎めいた呟きを漏らすこと必定な怪物です。2005年はこれの他にも『あやかしびと』『最果てのイマ』『車輪の国、向日葵の少女』といった弩級のソフトが名を連ねているんだから心底パねぇ年でしたわ。

田中久仁彦画集『龍骨』、11月に発売予定

 『ブルー・マズルカ』に折り込み広告が入っていましたけど、本当に出るのか……まだ半信半疑。かれこれ6年以上は延びているので、俄には信じがたい。作者のホームページに「作画的なものはなんとか去年に終わりましたので、現在は色々な部分に関しての打ち合わせと調整が続いております」とあるから大丈夫そうな気もするけれど。

みなとそふとの新作『真剣で私に恋しなさい!』、公式サイトオープン

 遂に来ましたよ。今回は「ヒロインすべてがもののふ」というタービュラントなコンセプトで邁進する模様です。あちこちでタカヒロ版『リトルバスターズ!』と形容されているのを見つつも『奏(騒)楽都市OSAKA』を連想してしまう当方は川上儲。中村・久秀が好きです。ともあれ、格ゲーや学園バトルを大好物とする人間がこの設定を前にしてワクワクせずにおられようか。

 それから原画が変わると聞いてちょっぴり不安だったけれど、実物を目にして安心。塗りが物足りないかな、という気はするにせよ、雰囲気とマッチしているしビジュアル面での不満はありません。ヒロインの表情がたまらないっつーか、ほぼ理想の域。エイプリルフールネタの『愛羅武勇』も案外まったくの嘘ではなかったんだな……今回は大作路線で発売も来年以降になるとのこと。楽しみに焦がれるとします。

・拍手レス。

 ユメミルクスリってやったことあります?
 体験版だけ。デモと曲は好きです。


2008-06-19.

・冬川基の『とある科学の超電磁砲(2)』が相変わらずハイクオリティで読みながら笑み崩れている焼津です、こんばんは。

 ひとコマひとコマがいちいちツボに突き刺さるんだからたまりません。綺麗な描線でヒロインたちの可愛らしさを余すところなく引き出すあたりもさることながら、アクションシーンにおける描画も迫力あって息を呑むばかり。話もスッキリまとまっていて分かり易く、それでいてなおグイグイと引き込まれるスピード感に満ちていて文句なし。木山さんはオマケの4コマも組み合わせると実に味わい深い人になる。スピンオフ系のコミカライズとしてはほぼ理想的な出来じゃないの、これ。コミカライズと言えば『紅 kure-nai(1)』も宜しゅうございました。こっちは原作の間隙を埋めるショート・ストーリー詰め合わせで、小説版の本編を読んでいないと話が飲み込みづらいものの、全頁が山本ヤマトの絵で埋まっているだなんて、なんて贅沢な一冊だろうか。原作はあんな具合になってしまって残念なことこの上ないにせよ、やっぱ『紅』自体は好きなんだよなぁ、と再確認させられました。夕乃さんのキモ姉ぶりは漫画版でも健在で嬉しい悲鳴。なんだかんだ言ったって彼女も裏十三家に連なる一人、結構トチ狂ったメンタリティしてますね。シンクローに示すヤキモチなどその片鱗に過ぎない気配でオラ今後の暴走活躍にワクワクすっぞ。しかしギアスのシンクーといい、名前に「シンク」が入る野郎は漏れなくロリコンという大法則でもあるのかしら。ギアスの最新話、思わずゼロの仮面がバックベアード様の御姿に変化するシーンを想像してしまった。

Lump of Sugarの新作『タユタマ』、まさかの延期(6/27→7/11)

 スタッフが「マスターアップまで後もう少し」と書いているくらいだからギリギリで間に合うのかと思いきや、間に合わなかった様子。呻吟と煩悶を重ねて『るいは智を呼ぶ』『さくらさくら』『タユタマ』の中からるい智一本を選び抜いたつもりだったが、詰まるところ今月は一択問題でしかなかったのか……そしてぷらてぃあ放送局の本日配信分を聞いていたら『タユタマ』と『さくらさくら』の両方が「6月27日発売」とアナウンスされていて複雑な面持ちに。

・ヘニング・マンケルの『殺人者の顔』読了。

 腹が痛んだ。
 おれは腹の中になにもかも抱え込んでいる。時間がなくてできないことも。死んだ人間のために犯人を捕まえようと懸命に働いているが、生きている人間には時間がなくてなにもしてやれていない。
 一瞬、ほんの短い瞬間だったが、たった一つの願いが彼の心を占めた。
 なにもかも捨てて逃げ出したい。消えてしまいたい。まったく別の人生を始めたい。
 しかし、次の瞬間、彼は壇上に立ち、押しかけた報道陣に対し歓迎の言葉を述べていた。

 スウェーデンの作家による警察小説です。クルト・ヴァランダー・シリーズ第1弾。このシリーズは原書だと99年に出た9作目で既に完結していますが、邦訳はまだ5作目までしか出ていません。冷え込みが激しい最近の海外ミステリ市場を思うにつけ、完結までちゃんと翻訳されるのかなぁ……といった一抹の不安が漂います。時間は掛かったけどフロスト警部の新作も来月に刊行される予定だし、とりあえずは東京創元社を信じることにしよう。

 スウェーデン南部、バルト海に面するイースタ付近の鄙びた村、レンナルプで強盗犯によるものとおぼしき残虐な事件が発生した。狙われた住人はふたりの老夫婦。夫は苛酷な拷問の末に殺されており、顔が原形を留めていなかった。妻は発見時こそまだ生きていたが、運び込まれた先の病院で息を引き取った。いまわの際に「外国の」という言葉を残して。彼女の首を絞めていた縄は非常に特殊な結び目をしており、外国の船乗りが似たような結び方を使っていることから捜査会議で「外国人の犯行ではないか」という疑いが持ち上がる。「早計な判断は禁物」として外国人犯行説を保留にするヴァランダーだったが、会議の情報が漏れ、テレビ各局および新聞各紙は「犯人は外国人との疑いが濃厚」と大々的に報じ出した。やがて報道はスウェーデンの移民受け入れ問題と絡み合い、移民逗留所が襲撃されるという事態にまで発展するが……。

 とっくに全盛期を過ぎた刑事主導で送る、ひたすら聞き込み聞き込みな「足で稼ぐ」タイプの警察小説。ひたすら地道な捜査の描写に費やされ、快刀乱麻を断つ名推理とか、アッと驚くトリックとか、そういういわゆる本格ミステリ方面の要素は鳴りを潜めています。身も蓋もない言い方をしてしまえば泥臭い、そしてオッサン臭い話です。主人公のヴァランダー刑事は例によってバツイチで、妻はもちろん一人娘のリンダともうまく行っていない孤独な中年男。作中に「この前読んだ推理小説でも、警察官はやはり離婚している」と書かれているくらいで、ホント、ミステリに登場する刑事の離婚率は異常ですね。そして妻への未練を断ち切れず「よりを戻せないか」と縋りつき、涙を流すヴァランダーの姿はお世辞にもカッコ良くありません。飲酒運転しているところを取り締まりの部下に捕まったりするもんだから尚更。酔った勢いで女性検察官に言い寄って平手打ち喰らったりもします。挙句の果てには火事の現場で「建物の中にまだ誰かいるかもしれない」と窓を覗き込み、人影を見つけて大慌てでガラス割って入って「大丈夫か!」と抱き起こしたら丸めたマットレスだったという……一応断っておきますが、この作品のジャンルはユーモア・ミステリではありません。行動が裏目裏目に出るあたりに独身中年の悲哀が滲むというだけで。

 カッコ悪さで言えばイアン・ランキンのリーバス刑事に匹敵するヴァランダー警部、42歳とまだそんなに老けてはいませんが、加齢のせいで肉体に弛みと衰えが出てきているうえ、自分が社会の変化に対応できない「古い刑事」であると痛感しています。更に近頃は認知症が始まった父親の介護にも頭を悩ませており、仕事の合間に病院へ見舞いに行って面倒を診たりなど、事件捜査と私生活が地続きになっているあたりは読んでいて面白かった。事件よりもヴァランダーという刑事、ヴァランダーという人間を描くことに精力を傾けていますね。ミステリとしてはそんなに盛り上がるクライマックスじゃなく、散々ほのめかして最後まで引っ張った「誰が何のために馬に餌をやったのか?」という謎の答えが「え? そんなこと?」と拍子抜けする程度のものだったりします。無関係に見えたいくつもの事柄が一つに繋がって思わぬ真相を浮き彫りにする……ってな有機的接続要素も乏しくて、ほとんどの事柄は直接の関係を結ばないまま終わる。モジュール型と呼ばれるスタイルに近いか。単一の事件に専心して取り掛かるのではなく複数の事件を抱え持って同時進行させる、現実的な「刑事の日常」に沿った物語形式です。迎える結末も本気で地味。緊迫感に満ちたストーリーを求めて読めば肩透かしを食らうこと確実ながら、惨死体を発見するプロローグに比べて本編がそれほど陰惨な内容でもなかったから読後感はそれなりに良いです。

 派手さは一切ないけれど、じっくりと丁寧に書き込まれた渋い警察小説。主人公はハッキリ言って情けないが、完璧超人ではない裏目人間だからこそ愛着が持てるという面もある。文章のテンポが非常に整っていて目に心地良いあたりは収穫でした。スウェーデンということもあって馴染みのない地名や人名が多く、そのへんはちょっと苦労したものの、慣れてくれば落ち着いて新鮮さを味わうことができます。「これはもしかすると、フィンランド人のやったことかもしれないです」「犯人の見当がつかないときに、フィンランド人だと言うのは昔からの警察内の冗談だよ」には笑った。スウェーデン・ジョークか。シリーズものなんだしこれからドンドン面白くなるだろう、と期待しています。

・拍手レス。

 FORTUNE ARTERIALでお母様に異常に萌える。もう、人外ロリなら何でも良いのかもしれません
 人外ロリは中毒性が高いですからねー。ハマると抜け出さない。「抜け出せない」のではなく、自らの意志で。


2008-06-17.

・ここんところ蜂の巣みたいなタイトルのマンガが巷で評判になっているみたいですけれど、そういつもいつも流行に踊らされる当方じゃありませんよ → ファミレスを舞台にしたコメディだったら『WORKING!!』が既にありますし → 軽率な消費行動を慎み、時間を掛けてじっくり吟味してから手を伸ばすことにさせてもらいます → んー、でも作者名くらいは調べておこうか → ……え? 桂明日香? なんだか妙に見覚えが…… → って、『螺子とランタン』の人かよ!

 こういう流れで結局『ハニカム』を買いに走った焼津です、こんばんは。眼鏡着用して恥らう湧水萌の姿に陥落せり。彼女は無類のガンダムオタク(それもシャアマニア)だそうで、きっとジオン注(痔の注射剤)の名前を耳にしても過敏に反応することでしょう。

ハイクオソフトの新作『さくらさくら』、発売延期(6/27→8/29)

 やっぱりか……これで今月はるい智一本に絞られました。『タユタマ』もまだちょいと気になっていますが、こちらは発売後の評判を参考にしたいと思います。

雑誌を変えて漫画の連載を続けることを「渡り鳥連載」というらしい「厳選!駆け流し」経由)

 当方は『のら』(名は体を表すのか、実際にあっちこっちと掲載誌を変えて渡り歩いた作品)に因んで「のら漫画」とか単に「のら」とか呼んだりします。『超人ロック』まで行くともはや「掲載誌キラー」ですが。

女騎士「カッパ寿司行こうよ。」「独り言以外の何か」経由)

 スレタイを目にした時点で早くも半笑いとなってしまい、頬の筋肉に力を入れてなんとか耐笑撃態勢を組んだけれど、王女が出てきた中盤あたりで顔面神経壊滅。抗いたい――抗えるわけがない。腹を抱えて大笑した次第です。

・曽根圭介の『鼻』読了。

 第14回日本ホラー小説大賞「短編賞」受賞作を収録。著者は同年に『沈底魚』で江戸川乱歩賞を獲得し、デビュー早々二冠達成という快挙を成し遂げたが、その割にあまり話題になっていない様子である。どうも『沈底魚』の評判が芳しくなかったらしい。本書は表題作含む3編が収められており、全体で300ページ足らずとちょっと薄めのボリュームながら、ハズレなしの内容で手堅く楽しませてくれる。

 「暴落」 ―― 個人の評判を株式化し、市場で遣り取りする世界。そこでは人間の価値が株価で決められる。人々は己の株価を上げるために仕事に励み、あるいはコツコツと善行を積む。順風満帆にエリート街道を突き進んでいたはずの男は、自分の株価が妙に下がり始めていることに気づくが……。自分の株価を毎日ケータイやパソコンでチェックして一喜一憂する、というあたりになんだか笑えない生々しさが滲むSFチックな近未来ホラー。サイト運営者ならアクセス数やコメント数、アフィリエイトなんかの額に置き換えられるところか。ある日急にアクセス数が落ちたりすると「なんで?」って感じで不安になりますよね。減ったこと自体よりも減った理由が分からないのがイヤっつーか薄気味悪い。うちの場合は大抵エロゲーの発売日に下がりますから分かりやすいけど。ともあれタイトル通り自分の株価が暴落していく有り様を綴っており、設定の細かさとそこから来る厭らしさが絶品です。

 「受難」 ―― 気がつくとビルの谷間、薄汚れたゴミ溜めの中にいた。全身がボロボロに傷ついていて記憶は不明瞭。なぜこんなとこにいるのか、まったくわからない。さっさと出て行きたいのだが、腕とビル壁のパイプが手錠で繋がれていて身動きが取れない。この手錠を嵌めたのはいったい誰だ? 俺は監禁されているのか? やがて俺のもとに訪れる影が……。不条理で、絶えず不安が付きまとう。神経にジリジリとダメージを与えるタイプのホラーです。誰が、何のために主人公を監禁しているのかという謎はストーリーの進行に合わせて解かれていきますが、すぐそこを車が通るような町のド真ん中にいて、なのにどんなに助けを求めても一切聞き届けられない……っていうシチュエーションが怖すぎる。オチとか、そういう観点からすれば大した話じゃないかもしれませんが、終始付きまとうネガティブな空気が強烈。雰囲気で読ませる一編でした。

 「鼻」 ―― 「テング」は、その名が表す通り、鼻に外見的な特徴を持った人々だ。彼らはただテングの鼻を持っているというだけで謂れなき差別を受け、迫害される。診療所を営む「私」はテングではなかったが、かつてテングの妻と娘を養っていたことから、同情に近い念を抱いている。テングが一般人と異なるのは鼻だけ。ならば手術して一般人と分からなくすればいい。「転換手術」と呼ばれるそれは明らかな違法行為だったが、残酷さを増す一方の弾圧を座視するに耐えず、私は禁断のメソッドに手を伸ばす……。テング云々のパートとは別に、異常なほど自分の体臭を気にする刑事が誘拐事件を捜査する太字のパートがあって、一見すると関係なさそうに見える両サイドがあるポイントを起点にして絡み合う構成となっています。ありがちと言えばありがちな遣り口なんですけれど、これは素直に「うめぇ」と感心しました。太字パートの文体が馳星周(つまりエルロイ)っぽいのも笑える。詳しいオチを書かないまま終わっていますが、大森望が解説で懇切丁寧にネタバレしてくれるからひと安心。

 一読し、「器用な作家だなぁ」という印象を抱きました。設定の面白さと文章の読みやすさがぴったり融合したハイブリッドなホラーで、ちょっと軽いというかパンチの欠くところはあるけれども、あれだけ叩かれた『沈底魚』の作者とは思えない整った出来映えに驚かされる。地味なタイトルのせいで目を引きにくいかもしれませんが、割とオススメ。食わず嫌いして積んでいた『沈底魚』もそろそろ崩してみようかな……。

・拍手レス。

 魔王は積んじゃったん……?
 低速ですが進めてますよー。今3章の途中。ゴンゾの出番が多くて嬉しい。


2008-06-14.

『小学星のプリンセス☆』に不思議な胸のトキメキを覚える焼津です、こんばんは。

 しかし足長ぇーな……ライトノベルにまで頭身規制の波が及んでいるのかしら?

やる夫で学ぶ戦国の女性武将

 甲斐姫と言えばやはり宮本昌孝の「紅蓮の狼」(『青嵐の馬』所収)。狼を飼い慣らしていたり上泉信綱直伝の剣術で風魔小太郎を撃退したりと更に凄いことになっています。

ゲーム帝国で笑ったネタを書くスレ「好き好き大好きっ」経由)

 懐かしすぎて死にそう。小学生の頃にメチャクチャはまって、毎日毎日スクラップした記事を読み返していました。投稿したハガキも確か一回だけ採用されたはず。書籍版も全7巻中4巻まで買っています。語り部の切り返しもさることながら、お便りを送る読者たちの水準も並大抵ではなかった。中学に上がったあたりでファミ通自体の購読を止めましたが、紛れもなくゲー帝は当方の精神に影響を及ぼしまくっている。「力こそパワー」とか、未だに忘れられませんし。ファミ通は読者コーナーにあった掲示板も大好きで、「○○する罠」という罠シリーズの言い回しは現役で使ってしまう罠。

・スティーヴン・ハンターの『ハバナの男たち(上・下)』読了。

 “スワガー・サーガ”の7作目。ボブ・リー・スワガーの父親アール・スワガーを主人公とする長編の3作目でもある。原題はただ単に "Havana" 。編集者の「アール・イン・ハバナ」という一言から出発したそうな。ハバナはもちろん、カリブ海に浮かぶ国キューバの首都。本書『ハバナの男たち』は1953年、革命が起こる前のキューバを舞台にしており、キューバ史を語る上で欠かせないフィデル・カストロも一キャラクターとして登場します。時期が時期だけにチェ・ゲバラとかは出てきませんが。

 アメリカの威信、ソビエトの策謀――両者に挟まれ、不安定に揺れている島国キューバへとアール・スワガーは降り立った。表向きはキューバを訪問する下院議員の身辺警護としてだったが、事前に嗅ぎ取ったキナ臭さが証明する通り、じきにCIAの描いた謀略の図面へ引き込まれることになる。アメリカの利権を保つため、一人の青年弁護士であり、指導者としてのカリスマを帯びつつある男、フィデル・カストロを暗殺せよ。狙撃の腕を買われて起用されたアールは気が進まないながらも入念な準備を行う。立ちはだかる敵勢力は様々だった。ソビエトの放った刺客、シベリアからやってきた工作員「囚人4715」ことスペスネフ。「馬殺し」として忌み嫌われハバナに飛ばされてきたギャング、フランキー。オホス・ベリョス(美しい目)の異名を取る拷問将校ラスピターダ。あらゆる障害を振り払い、ただ一発の銃弾を革命に燃えるカストロへ叩き込もうと試みるアール。果たして歴史はいったい誰を赦すのか……。

 7月26日のカーニバルにモンカダ兵営襲撃事件が発生した1953年のキューバを題材に採った冒険小説。言うまでもなくキューバの歴史や情勢に関してはサッパリな当方ですが、たまたま事前に『冒険者カストロ』を読んでいてちょうど予習する形になっていたのは助かった。もうこの時点でロシアがカストロを支援しようと暗躍していたとか、フィクションとはいえ大胆なアングルで切り込むものだなぁ。一応中心人物となっていて出番もそこそこ多いカストロですが、まだ革命家として目覚める以前だけあって物語上の役割で言えば主役よりも脇役に近い。無鉄砲で浅慮、空気の読めない甘ったれな青年というイメージで、つまり「なんだかマヌケな奴」という位置付け。しかも裁判で発した有名な決めゼリフ「歴史は私に無罪を宣告するだろう」まで他人の入れ知恵ということになっています。少なくとも悪役として描かれているわけではありませんが、うーん、なんとも締まりのないキャラクター。

 今回はCIAの陰謀にアールが巻き込まれるというストーリーになっていますけど、はて、アーカンソーの警官に過ぎないアールがなんでまたそんなハメに? とあらすじに首を傾げるシリーズ読者も多かったはず。アールが進んで立候補するわけないから当然、CIA側で誰かが推挙するっつー運びになる。けど、その「誰か」っていったい誰なのか。腑に落ちない疑問点は冒頭50ページくらいで早々と明かされます。お……お前かーッ! “スワガー・サーガ”ファンなら思わず叫び出すこと請け合い。のみならず『魔弾』に登場した若造ロジャーまで顔を見せるもんだから笑ってしまう。更に『真夜中のデッドリミット』からもゲスト出演が。今回はファンサービス目白押しの内容と申しますか、既刊を読んでいないと面白さは半減しそう。

 襲撃シーンの迫力や銃撃戦の激しさは相変わらずで、読者をハラハラさせるアクション描写に衰えは見られなかったが、シチュエーションのお膳立てにやや無理が感じられる場面はいくつかありました。全体的に粗いし散漫。『極大射程』『狩りのとき』みたいな代表作と比べるのは酷かもしれませんけれど、単純に燃えるか燃えないかで論じれば今回は少々苦しかった。痛快さという点では同じアール・シリーズの『悪徳の都』『最も危険な場所』にも劣る。しかし、読者の心すら震わせぬ「燃えない使命」にアール・スワガーがどう処するか、そしてその結果としてどう遇されるか、といった部分が興味を誘うポイントになっていて後半は静かな盛り上がりを示す。「ロシアのスパイ」ということで普通なら徹頭徹尾悪役を演ずることになるスペスネフも、アールを殺す直前まで行って「やっぱやーめた」と任務を放棄し、後々になって「やっぱあんとき殺しときゃよかったか」と悔やんだりする頭のおかしい剽げた野郎で憎めない。オホス・ベリョスはちょいとショボかった気がするものの、多彩なキャラクターを素早く的確に捌く腕は衰えていませんね。ハンター小説はしっかりエンターテインメントしていて好きです。ただ、今回に限った話じゃないけれど、依然としてハンターの小説に出てくる女性キャラは魅力が乏しいなぁ……。

 余談。上巻でロジャーが「きみはシラノ・ド・ベルジュラックを気どってろ。わたしがクリスチャンになってやるさ」というセリフを放つシーンがあります。これまた直前に桜庭一樹の『青年のための読書クラブ』を読んでいたから元ネタの「シラノ・ド・ベルジュラック」が分かってニヤついた次第。ぐぐれば詳細はいくらでも出てきますが軽く解説しますと、醜男のシラノが美男子だけど文才が皆無なクリスチャンの恋文を代筆することでシラノの従妹であるロクサーヌとクリスチャンの仲を取り持ってやるが、最終的にロクサーヌは手紙の主が従兄のシラノであることに気づく……といった筋立ての戯曲が元ネタ。シラノ・ド・ベルジュラックは実在の人物らしく、Wikipediaに記された肩書きも「剣豪、作家、哲学者、理学者」と華々しい。

 要するに、顔を出したがらずコソコソしている「きみ」を揶揄する文章ですね。古典にはまったく疎い当方のこと、事前に『青年のための読書クラブ』に目を通していなかったら意味を図りかねて読み流しているところでした。こういう繋がりが唐突に発生したりするんだから読書は面白い。

・拍手レス。

 『二代目は☆魔法少女』・・・『二代目はクリスチャン』「瀬戸の花嫁」の混合にしか見えません・・・
 ああ、そういやそれがありましたか。<『二代目はクリスチャン』

 マジカル・エンコ、ヘクセン・カミカゼ、プレジデンティカ・マグナム……すいません、負けました。そのセン
 スに。

 それらを大真面目にカッコイイと思っていた過去の自分を抹消したい。

 忠臣かと思ったら、ガチにロリだった・・・orz>シンクー
 中の人繋がりで「どうやら余はロリコンだったようでな……」と言い放つマステリを想像。


2008-06-12.

すみっこソフトが送る新作『二代目は☆魔法少女』のデモムービーが微妙にツボ入ってる焼津です、こんばんは。初見のインパクトもさることながら、繰り返し眺めてるとジワジワ来るものがあるわ、これ。体験版もちょろっとやりましたが高倉すなおが可愛い。「ヤクザの娘が魔法少女」というと林トモアキの『ばいおれんす☆まじかる』を彷彿とするが、それとは別にかつて邪気眼臭溢れる蠱惑のノートへ綴った「魔法少女にして広島ヤクザ」なヒロインが大暴れする自作小説『任侠ゲマトリア』が頭蓋の奥より甦りそうに……くっ、鎮まれ……っ!

 さあ、今こそ紐解く青春の黒歴史――時は戦前、ヒロインは13歳、幼い頃に事故で小指を失って普段は義指を填めているが、いざ抗争という際にはカバラ系魔術師だった父親が遺したマジカル・エンコと交換することで変身。背中にセフィロトの樹を模した刺青が浮かび、「腐れ魔道」と呼ばれる敵(ACTやSTGのステージボスに相当)を斃すたびにセフィラーを駆け上がっていく。使用するセフィラーによって匕首の能力も切り換わる。マルクトならヒートブレード、イェソドなら超振動ブレード、ホドなら分解して鋼糸といった具合に。匕首か? それは本当に匕首なのか? 開戦後、南方戦地で砲弾の直撃を喰らって肉体が土くれと混ぜこぜになっても気合いとカバラの秘法で半人半泥のデミ・ゴーレムとして復活したり、広島に投下された原爆を仲間(機甲箒に横座りしたロリでナチなドイツの魔女)とともに流体結界「ヘクセン・カミカゼ」敷いて根性で跳ね返したりとか、細かいことを何も考えていない筋立てがステキすぎて思い出すだに気が遠くなります。トドメのラスボスはブードゥー系ボクサーにして合衆国大統領、人呼んで「トゥルーマン」。神業的な体術とハイチの秘術を融合させて繰り出す拳「プレジデンティカ・マグナム」は核爆弾3個分に匹敵する威力だそうな。発動すると空から降ってきた天使が喇叭を吹き鳴らすエフェクトがカットインし、太平洋に浮かぶ島を丸ごと消し飛ばしたりします。ノートはもう処分したはずですが、仮に見つかったら羞恥死は確実だな。

 で、それとは関係ないんですが、今更『Garden』のデモムービーを視聴して痺れました。発売前は「製品版で見れるからいいや」とスルーしており、いざ買った製品版にはデモムービーが入ってなかった(少なくとも当方がプレーした範囲では流れなかった)ため、見るのがこんなに遅れてしまった次第。やはりサビの「いらっしゃい アイの庭」で震えますね。本編の内容がフラッシュバックして違う意味で震えたりもしますが。ああ瑠璃よ瑠璃……こんなに可愛い子が攻略不可だなんて……現実を想うにつけキマイラ吼え(るぅ〜〜〜〜いいい)したくなる夏の夜更け。

左右の目取り違え手術

 即座に「痴人の復讐」を連想する人は探偵小説マニア。

「振り込め」の被害金を横取り

 まさに『クロサギ』。そういや『この指とまれ』にワンクリック詐欺か何かの被害金を横取りする話があったような。

終わったけど続きが気になってしょうがない漫画「厳選!駆け流し」経由)

 『シャカリキ!』はツール・ド・フランス編も見たかったなぁ。これを読むかぎり望みはなさそうでしょんぼり。未完作品では『大同人物語』の続きが気になってしょうがない。それと海藍マンガのあれこれも……『トリコロ』が生きているだけでも御の字ですけれど。

・首藤瓜於の『指し手の顔(上・下)』読了。

 サブタイに「脳男U」とあるように、第46回江戸川乱歩賞受賞作『脳男』の続編です。46回というと2000年だから、8年ぶりですか。当方が文庫版で読んだのは5年くらい前で、そのとき感想をちょっとだけ書いたはず……と探してみたところ、ありました。ありましたが、これはひどい。確かに『脳男』は『ゴーディーサンディー』と並ぶ少女爆弾小説でしたけど、中身のない感想にもほどがある。なので補足的に説明しておきますと、「脳男」はストーリーの焦点となる男・鈴木一郎を指していて、彼は感情らしいものを持たず、ただ超人的な能力を駆使して何らかの目的を遂行することにだけ専心する、まるでロボットのような人間なんです。「脳男」の目的が何だったのかは読んだのが5年前ということもあって記憶に残ってない(というより、そもそも触れられていたっけ?)けれど、続けようと思えば続けられる結末だったからいずれ新作は出るだろうと思ってました。刊行は昨年末。ギンギラギンに輝く装丁と帯に羅列された幾多の文句、そして「すべてを疑え、すべてだ!」というキャッチコピーが実に印象的で、だいぶ前から楽しみにしていた次第です。

 愛宕市で発生した凶悪事件の犯人は、精神病患者だった――鷲谷真梨子をはじめとする精神科の医師たちに吹き荒れる市民からのバッシング。事件の経緯に疑念を抱いた真梨子は、調べを進めるうち「何者かが意図的に精神病患者を犯罪者に仕立て上げているのではないか」と推測するに至った。知り合いの刑事である茶屋を通し、捜査の糸を更に深く垂らそうと試みるなか、鈴木一郎もまた事件の背後で怪しく動き回っていた……。

 上下併せて750ページ近く、かなり読み応えのあるサスペンス小説です。これだけ長いと少しはダレる場面も出てくるものですが、そうした疲れを覚えることはほとんどなくスイスイと読んでいけました。とにかく文章のリズムが整っていて目に心地良い。それだけで手に取った甲斐はありました。ただ、あまりにもいろんな要素をぶち込んだせいか、この分量でもなお消化しきれていない雰囲気が漂う。市で「ゲームとおもちゃの博覧会」なる大きな催し物が行われているだとか、そういった思わせぶりな要素を説明しておきながら終盤では言及すらなくあっさり忘れ去られるなど、放り込んだ材料がうまく混ざり合っていないもどかしさを覚えます。鈴木一郎とはまた別に人間離れした怪物的なキャラクターも新登場してアクション映画さながらの見せ場を演じますけれど、「アマゾンのジャングルで全裸のまま過ごして猛獣たちと渡り合った時期がある」というターザンばりの設定を用意している割にあまり凄みが伝わってこないですし……むしろ「それはギャグで言っているのか」と。ハッタリを利かすにしても、もう少し練ってほしいところだった。

 「脳男」こと鈴木一郎自体の出番もそんなになくて残念でしたが、とにかく文章の勢いで最後のページまで連れて行ってくれるぐらいの時間泥棒ではありました。今回は「続けようと思えば続けられる」どころではない、明らかに続編を意識した終わり方だったので、「脳男V」の刊行時期がいつ頃になるか気になるところ。ちなみに作中「昇太」「刑事の墓場」など、『脳男』以外の著作を連想させるキーワードがあったことから察するに、首藤作品の世界は共通しているのかしら?

・拍手レス。

 複数主人公っつーか、群像劇的なものだと上手くいきやすいですね。
 古くは『終末の過ごし方』とか…最近だと『ef』とか。

 群像劇と言えば俺翼……どうなることやら。

 かぐやが失禁ですね、わかります。かぐやの死ねばいい発言でウザクがさらにうざく。
 ウザクさんの狂る義っぷりは第2期でも留まるところを知らない。


2008-06-09.

・コードギアスR2の最新話タイトルが「失禁城の花嫁」に見えてしまい物凄く破廉恥な内容を想像した焼津です、こんばんは。検索に掛けてみると結構ヒットしますね。どうやらご同類も少なくなかった模様。「しきんじょう→しゅきんじょう」なのでしょうが、「しきんじょう→しっきんじょう」でも通じるからなー。天使様(敢えて誤字)の御姿を☆画野朗絵で妄想してしまったのもむべなるかな。

・最近は『円環少女4』『とある魔術の禁書目録16』を読み終えました。

 円環少女4巻、副題「よるべなき鉄槌」は日常シーン大増量&明かされる主人公の過去でなかなか楽しめましたけど、ヒドい誤字に悩まされる場面もあったり。グレンは知ってますが、「ダレン」って誰ん? 『ダレン・シャン』? 最後は「次巻につづく」な幕切れで一冊の本としての満足度はやや低めながら、シリーズにおける重要なパーツを吐き出した感触があって今後に期待が持てる。そして仁の少女愛傾向もどんどん深化しているようで今後に超期待。展開次第ではこう、「うわぁ……」なニュアンスで“沈黙”することになりそう。

 禁書目録は本編よりも「TVアニメ化決定」の報に話題を掻っ攫われた印象が濃いものの、今回も良い意味でマンネリというか、いつも通りの安定した出来映えで面白がらせてくれる。「強大無比な敵に立ち向かう」という王道極まりないストーリーを衒いもなく描く熱さが心地良い。そしてチョイ役程度とはいえ出番があったり巻末のイラストで2連発立て続けに描かれている■神は次あたりでドデカい皺寄せが来ないか地味に心配なんだ。

スタンダール『赤と黒』 新訳めぐり対立

「もし野崎先生の訳に異論がおありなら、ご自分で新訳をなさったらいかがかというのが、正直な気持ちです」

 予想を超える喧嘩腰なコメントにビビった。相手も相手で「駄本」とか言ってますし。DA BOMB? 海外小説は翻訳というクッションを挟む以上「誤訳か否か」を巡って論争に発展することが度々ありますが、ここまで率直に鬱陶しがっているパターンは初めて見るかも。日本スタンダール研究会(というものが存在することにも驚きですが)の「いったん絶版にしたうえで全面的に改訳すべき」という要求も行き過ぎな気がしますので、むしろレーベル名を「古典跳訳文庫」や「古典だっぽん文庫」に直す方向で折衝するとか……余計にこじれるか。

 部外者からすれば双方ともツノを立てずに協力し合えばいいのになぁ、って思うところです。

ハイクオソフトの『さくらさくら』、体験版をプレー。

 のの商法――『よつのは』に登場するヒロインの一人、「猫宮のの」の人気に当て込んで関連商品を出しまくる商法に依存していたハイクオソフトが、ようやく脱ののを敢行して送る完全新作。『さくらさくら』というタイトルが象徴するように、桜菜々子(CV.まきいづみ)と桐島さくら(CV.青山ゆかり)、「ふたりのさくら」が主人公・稲葉徹を巡って三角関係を繰り広げるストーリーになっています。「攻略対象がふたり? 少ないなぁ、低価格ソフトか?」と思われそうですが、実はもうふたり攻略対象がいる。しかし、肝心なことを申しますと、その残りふたりを攻略するのは稲葉徹ではありません。徹に情報を供給する一方で事態を引っ掻き回し、慌てふためく彼の姿を傍から眺めてニヤニヤ笑う、いわゆる「悪友キャラ」のポジションに位置する男友達・布施直樹――彼がもう一人の主人公を務めるのです。

 要するに、ダブル主人公制のゲーム。ふたりの主人公+四人のヒロイン=二重修羅場。「ふたりのさくら」による徹の取り合いを面白おかしくウォッチングしている直樹が、次の章では自分が取り合いの対象に選ばれて狼狽し、「いい気味だ」と徹にほくそ笑まれる。バカテスの明久と雄二みたいな関係、と書けば一部には伝わるだろうか。ともあれ、「主人公」と「悪友キャラ」がスイッチする世にも珍しいエロゲーです。ダブル主人公というか、複数の主人公を用いたエロゲーやギャルゲーは何も前例がないわけじゃなく、探せばいくつか同タイプは見つかります。しかし、感情移入の対象が分散するせいか、はたまた話の構成が崩れやすいせいか、ユーザーに歓迎されるケースは少ない。

 具体的な例を挙げればlightの『イミテーション・ラバー』、発売後になって「主人公は二人いたッ!」と発覚して揉めました。同じlightの『PARADISE LOST』は章ごとに主人公が入れ替わる形式ながら、バトル系であることが幸いしてか割合好意的に受け止められました。が、やはり恋愛モノのエロゲーにとって複数主人公制は鬼門みたいです。やるとしても周知徹底が必要。『Clover Heart's』はダブル主人公ゲーにしては比較的成功した部類と個人的に見ていますが、あれはコンセプトが「双子兄弟と双子姉妹のカップリング」と非常にシンプルかつ明確であり、またスワッピングや寝取り・寝取られが発生しないキチンと線引きのなされた内容であったため批判が生じにくかったのではなかろうかと。あれが単なる「兄弟×姉妹」でドロドロしてたらもうちょっと紛糾していたかもしれない。

 パッと見で「面白そう」と思うより先に「大丈夫なのか?」と不安が湧く「複数主人公」の要素。もちろんこれにもデメリットばかりでなくメリットもあります。それは何より、人間関係が興味深く描かれるという点。たった一人の主人公(ハブ)に何人ものヒロイン(スポークス)が集中する車輪じみた関係図では自ずと紡ぎ出せる物語の枠にも限界が生じ、「またこの手のハーレムゲーかよ」と言われる状況に陥りかねないが、「もう一人の主人公」をノードとして追加することで人間模様は複雑に絡み合い、ストーリーもグッと面白くなる。体験版の範囲では徹だけで、直樹を巡る三角関係についてはまったく触れられないけれど、公式HPであらかじめ情報を仕入れておけば「なるほど、この娘が……」ってな具合に思わずニンマリとするはず。それぞれの主人公が攻略対象外のヒロインとも何らかの接点を持っていることがスパイスになります。徹は若干ヘタレというか言いたいことがハッキリしなくて周囲に流されまくり、「なにこの現代版リジュー」っていうところがあるし、直樹も幼馴染みの晶ともども「これが初対面の人間に臨む態度か」と思うような冗談抜きでヒドい言動を取るけれど、そこを許容して乗り越えれば綾なす人間関係に自然と引き込まれる。

 地の文に当たるテキストを一切使わず、セリフや心の声だけで話運びを行うあたりはダレなくて良かった。でも間を置くために「………。」みたいな沈黙を表すセリフを連発するのは却ってテンポが悪くなるというか、主人公(徹)が何を考えているのか分からなくて戸惑ってしまいますね。このへんは視点を切り換えやすくするための配慮だったりするのかしら。主人公以外のキャラに関してはそんなに過不足なかった気がします。目パチや口パクもウザくない程度に留まっていて、キャラクターたちのヤバすぎる牙をほどよく包み込んでくれる。というか、イベント絵にまで目パチ口パクがあるのは地味にすごいなぁ。相変わらずマップ移動にこだわりがあるのか、主人公たちが住む月見荘の内部はMAP探索形式で行き来することになるけど、月見荘自体が小さな建物なので操作もそんなに煩雑じゃなさそうだ。

 プレーする前から睨んでいた通り、もっともツボに直撃したヒロインは菜々子先生。これはとてもいいまきいづみだ……次いで気になったのは後輩のくるみか。くるみたん可愛いよくるみたん。唐突なぺー姉さんの降板は残念だったけれど、榊原ゆいの演技もピンチヒッターにしちゃ充分うまい。そういえば『君に届け』のくるみが最近出番ないけどまた再登場するのかな……と脱線しつつ、直樹や正志といった野郎キャラにも少しばかり心を惹かれています。正志はある意味もっともエロゲーの主人公らしい奴だけに、サブキャラの位置でどういった役割を果たすのか気に掛かる。そして、まったくのノーチェックだった須賀萌が意外に胸キュンな娘でビックリ。声がいいですね、叫び声が板に付いていると申しますか。CVは……かわしまりの。別ソフトで「エレオノーレェェェ!」とか「魔王!」とか吼えている人ですか。なるほど、道理で。

・拍手レス。

 「スーパーライトノベル大戦」とかじゃない分まだまともだと思います。
 電撃のクロスオーバーが成功すればそれも遠い話じゃないかも。


2008-06-07.

・ダラダラと読み進めていた浅井ラボの『されど罪人は竜と踊る1』をようやくフィニッシュした焼津です、こんばんは。

 「大幅加筆完全真説版となって新生!!」という仰々しい帯文に違わず、本当に一から書き直していて驚き。プロット自体は変わらないからストーリーの流れも一緒で、「高村薫よりはおとなしめかな」という程度なんですけれど、旧版では異様に読みづらかった部分へ徹底的に手を加えていてかなり咀嚼しやすい文章になっています。分量も100ページくらい膨張していて、伏線を張り直したり、新キャラを投入したりと、シリーズ再開にかける意気込みは確かなようだ。今後はこうした梃入れ的な改稿商法(?)がライトノベルでも増えるのかなぁ。少し前には桜坂洋の『よくわかる現代魔法1』も全面改稿された(あっちはボリューム増ではなくむしろシェイプアップですが)ことだし、そう、いずれ『紅〜醜悪祭〜』だって……いえ、なんでもありません。

 そんなこんなで贅沢な「再読」に耽らせていただきました。ただ、読みづらかったとはいえ旧verに満ち溢れていたワケ分からんほど荒削りで無闇矢鱈に暗くて熱いノリも結構好きなので、スニーカー文庫の方も処分せず手元に残しておこうと決意した次第。今回の真作は筆致が落ち着いて読みやすくなった分、多少疾走感が減じた印象は否めない。終盤で繰り広げられる戦闘シーンにしたって心なしか迫力落ちた気がしないでもないが、記憶が美化されている危険性もあるので確言しない方向にてお茶を濁しておく。うーん、何にしろ、読みやすさも一長一短ですな。あと校正が甘いのか、誤植が散見されるのもちょっと……「定数(ていすい)」や「権謀(けいぼう)」はルビとしてあんまりだと思うんだ。

・同時に購入した桜こうの『僕がなめたいのは、君っ!』も読み終わり。

「洋さんはバカじゃないし、莉花さんは強い人じゃありませんよ」
「え?」
 帆鳥ちゃんは幼い子を諭すような口ぶりで、
「洋さん、強いフリができるかっこいい女の子はいっぱいいますけど、強い女の子なんていないんですよ」
 そう言って、僕の鼻の頭をツンッと指で突っついて、笑った。

 勢いはあるけど直球すぎ(つーか、大暴投?)なタイトルを冠した第2回小学館ライトノベル大賞・ガガガ賞受賞作。一番上が「ガガガ大賞」なので席次としては2番目であり、他の賞なら「準入選」や「金賞」に当たる位置付けと思われる。ほとんどエロ小説みたいな題名に怯み、最初はスルーするつもりV-MAXだったんですけれど、公開されたイラストに釣られてつい買っちゃいました。「ロングの赤毛+傲岸そうな顔つき」が個人的なツボなので逃げようがない。され竜で一番好きなヒロインも緋のパンハイマです。……ヒロイン?

 ともあれそういった経緯でほぼ絵買い(ないしジャケ買い)に近かったわけですが、内容にまったくこれっぽっちも関心を払ってなかったわけでもなく、「植物系ライトノベル」という奇妙で珍しい路線に惹かれる気持ちも僅かながらありました。植物を効果的に使ったライトノベルといえば『ネペンテス』の表題作、そして何より冲方丁の『ばいばい、アース』が思い浮かぶ。ばいアスは水媒花(サカナ)、風媒花(トリ)といった具合に動植物が混ぜこぜになった世界で、鉱物すら花の範疇というんだから物凄い。「剣は苗から育てる」という発想が根底にあるから花盗人ならぬ「剣盗人」なんて言葉が出てくる次第で、慣れるまでは大変ですが一度ハマったらもう抜け出せません。そのばいアスを書いた冲方丁本人が選考委員を務める回の受賞作とあっては、当然期待せざるを得ない。

 個々人によって異なる身体の特定部位(指とか)を舐めることで、心に秘められた花を視ることができる――そんな能力を持った少年が主人公の青春ファンタジーです。細かい説明は省きますが、舐められることで花は輝きを増してパワーアップします。だから強気っ娘なヒロインも出逢って早々に「君、あたしをなめなさい!」と命令してきます。一度は逃げますが、二度目で観念して赤毛少女の特定部位をチュパチュパピチャピチャします。チュパピチャです。すわエロコメか! と気が逸ったけれど、いざ読んでみればお色気要素が大して濃くなかったものだからしょんぼり。設定が設定なんだから、やり方によっちゃあ『キミキス』さえ凌駕するフェティシズムで「唇と舌の奏でる妙やかなハーモニー」、「皮膚と粘膜のめくるめくコラボレーション」を描けただろうに、勿体ない。メインはどちらかと言えばバトルで、「心に秘められた花」を狙う鬼どもをヒロインと一緒に力を合わせて退治する話となっています。

 バトルに至るまでの展開であれこれいろんなネタを詰め込んだことで全体的に慌しくなっていますが、おかげでダレずに読み切ることができたからそう悪くもない。植物ということで武器を「萌芽」させて文字通り花開かせるあたりは想像しやすく、脳裏に滑らかなアニメーションが流れるくらいです。ただ正直言って戦闘シーン自体は『かのこん』のアクションパートと同じくらいインパクト希薄。クライマックスを含めて「ありがち」という感触が濃厚で、ハッと目が冴えるような鮮烈さは乏しかった。ストーリーそのものは平凡と断じても構わないでしょう。しかし、最後の最後で主人公やヒロインのキャラが活きてくると申しますか、印象的なセリフを発して場の雰囲気を引き締め、テンポ良くまとめに掛かってくれるところは良かったです。やや薄味で物足りない文章だけど、言い回しのセンスに若干光るところあり。

 次巻以降、もっと際どくいやらしく淫靡かつ背徳的なムードで進んでいってくれたら確変が来そうな物語。でもたぶん続きが出たとしても主人公とヒロインに関してはくっつくんだかくっつかないんだかハッキリしない、もどかしいにもほどがあるノリで延々と引っ張るんだろうな、と容易に予想できてしまう。設定は好みだけど、しばらく様子見させてもらおうかな。もし2巻でふたりが正式に男女交際を開始して不純異性交遊すれすれのスキンシップをあられもなく繰り広げるようなら尻に火を点け全速力で買いに走る所存。これでエロコメ展開に持ち込まないのは生殺しの極地ですよ。オキュロリンクタスとか、舌先のフロンティアはいくらでも広がっているじゃないですか。是非とも全力で舐め尽くして欲しい。

 余談。主人公はヒロインの花を「背中に咲く沢山の薔薇」として視ることができるのですが、これっていわゆる古典的な少女マンガの表現技法をそのまま適用しているようなもんで、下手すればギャグと見做されかねません。「舐める」という一見して過激な要素を交えることでそのへんの違和感を吹き飛ばす――つまり読者の意識を「ヒロインの肌ってどんな味がするんだろう……?」という方向に逸らし、知らず知らずのうちに「背後の薔薇」を受け入れさせているあたりは巧いなぁ、と舌を巻きました。

・拍手レス。

 俺の妹が(ry たしかにすげータイトルですね。既にタイトルで勝ち組が決定しているようなww
 でもアリスはネット小説時代の方がキレてて好きでした。

 タイトル買いは8割方騙されるとはいえ、抗えないこともある次第。

 >電撃文庫作品が1つになってクロスオーバー! 本日このような記事を見つけました、何がどうなるんだ(゚
 ファミコンジャンプを思い出すなぁ……って、今はこんなのもあるんですか。知らなかった。


2008-06-04.

ハイクオソフトの新作『さくらさくら』、降板した北都南の後任が決定

 榊原ゆい……名前に見覚えはあるけど声のイメージがパッと浮かばないなぁ。って、ぐぐってみたら猫宮ののとか福山美月の中の人ですか。最近だと『暁の護衛』で二階堂彩の役やってますね。『Dies Irae』ではマリィ役の声優のみならず主題歌の「Einsatz」まで手掛けているとのこと。ボイス論に関しては滅法疎いのでよく分からないけど、美月あたりの演技を思い返せば割と適役なんじゃないかしら。

虫が花にとまっているかと思ったらクモに捕食されていた写真「GF団」経由)

 ちゃんとリンク文読んで飛んだのに一瞬騙された……当方は本を読む前にネタバレ喰らっても、本編に夢中になるとそれを頭の中からスポッと抜き落とし、クライマックスに差し掛かるや「な、なんだとおっ!? ……いや、そういえばコレはネタバレされていたような……」と驚きつつも既視感を甦らせる、前人未到の高等テクニックを身に付けています。もちろん、ただ単に忘れっぽいだけです。

・最近は長谷敏司の本をチマチマ消化しています。

 序盤に惹かれず長いこと放置していた『天になき星々の群れ』は、途中から緊迫した展開を迎えて夢中になって読み耽り、本を閉じた途端に「なんという殺し愛百合SF……!」と唸ってしまった。特に少女暗殺者である主人公フリーダが「次にあなたの顔を見たら殺すわ」とヒロインのアリスに告げるシーン。踵を返したアリスの背中に銃を突きつけ「ねえアリス――こっち向いて」とムー○ンばりの誘い文句を掛けるフリーダってば、まじサドい。向いたら撃つ気満々じゃねぇかよ。「あたしを信じているなら向いてくれるでしょ」って、何その恋する乙女チックな無茶注文。こんな娘と付き合えるアリスは心底大物です。

 つづく『円環少女』にもそのサドっぷりは受け継がれ、ヒロインたる鴉木メイゼル(11歳。ただし1巻の途中で誕生日を迎えて12歳になる)の放つ「あたし強くなって、せんせが心配しなくていいように屈服させたげるから。せんせは毎日、あたしが作った手料理を、あたしの手から食べて生きていくの」というセリフから「ふるーつごはんおいしい、めいぜるさまだいすき」と虚ろな目で繰り返すかとる主人公の姿が浮かんだりした。倉本きずなはこういう未来の調教図をうっかり経糸辿って覗き見てしまうんですね、分かります。円環大系の奥義「破滅の化身」とか、結構エロパロ向きのネタが多いあたりは狙ってやってるんだろうか。騎乗位で支配し「んっ……こうゆう上下運動にも、周期があるでしょ……つまり円環大系の範疇なのよ、せんせ!」とのたまって奥義「騎英の手綱(ペドレフォーン)」を炸裂させ超振動で搾り取るんですね、分かりま――ごめんなさい、下ネタはこれくらいにしておきます。でもコトの最中にそんな魔法使ってあまつさえ「消去」なんかしたら、あそこから魔炎が噴き出してえらいことになるでしょうね、見た目的に。

 読み手がアホなせいでアホな解釈を引き出してしまいますけど、長谷作品自体は緊密な文体&綿密な設定で丹念に織り成されています。惚れる人はずっぽし惚れてメロメロになること請け合い。反面、独特のテンポに慣れないと異様に読みづらく、取っ掛かりとなるイメージすらなかなか掴めません。円環は「サドデレ」というヒロインの魅力でなんとか引っ張れるでしょうし、2巻目あたりからだんだんテンポが落ち着いてグッと読みやすくなってきますが、群像劇を採択したためキャラ描写がいまひとつ弱い『天になき星々の群れ』はそのへんキツいかも。最後まで読めば「これが埋もれているとは……実に惜しい」と臍を噛む出来ではあるんですけどね。続刊ナシ、1冊きりで終わっているせいもあっていくつか不満が残るものの、細かい言い回しの鋭さ・切れ味に関しては長谷作品随一と見ています。

 さて、円環はまだ読んだ巻よりも積んでいる巻の方が多いし、いずれメイゼルたんの足元に這い蹲らされるであろう主人公の将来を思い描く作業に戻るとします。ここからが本当の地獄だ……(靴下を)はいてない少女のあられもないところ(=素足が出ている靴)は舐め甲斐がありそうだぜ、とナチュラルに発想できる業深き人は勝ち組ならぬ家畜身。

『とある魔術の禁書目録』、アニメ化(平和の温故知新@はてな)

 遅かれ早かれアニメ化するだろうと思っていただけに意外性はゼロだけど、それでも「遂にか……」とあらぬ方を見遣って感慨に耽りたくなります。そういや、今読んでる『円環少女』もそろそろアニメ化するんじゃないかという噂を耳にしますが、最新刊の帯を見るに本編はクライマックスに突入しているみたいで、うーん、どうなんだろうな……。

 話を禁書に戻しますと、やはり気になるのは膨大なキャラクターをどう捌くのか、ですね。よもやマンガ版に引き続いて■神が存在を抹消される、なんてことはあるまいな?

電撃文庫、8月の新刊情報(ラノベの杜)

 注目作はいろいろとありますが、一番インパクトのあるタイトルは伏見つかさの『俺の妹がこんなに可愛いわけがない』――ビリッと来ましたよ。『十三番目のアリス』はスルーしていたけれど、これは思わず買ってしまうかもしれない。

あかべぇそふとつぅの『G線上の魔王』、プレー中。

 『車輪の国、向日葵の少女』以来ファンに待望されていた、るーすぼーいシナリオの大作エロゲー。『車向』の後もるーす作品はちょこちょこリリースされましたが、FDだったり同人ソフトのリメイクだったりと中小規模のものばかりで、ずっしりと読み応えのある大型完全新作はなかなか出なかった。『車向』の発売が2005年11月、この『G線上の魔王』に関して初めて情報が開示されたのは2006年5月、当初の発売予定が2007年11月で、その後延期を繰り返して先月たる2008年5月にやっと店頭へ並んだ次第であります。ファンのみんなが「『G線上の魔王』ってタイトルどうよ?」と言い合った日から既に2年が経過しているわけです。長かった……とここは感慨に耽るべきところでしょうが、今年の3月になるまで『車向』を積みっ放しにしていた当方は別段それほど切実に手ぐすね引いて待ち構えていたわけでもなく、むしろるーすにハマり出してから2ヶ月程度でもう新作に出会えるなんてタイミング良くね? と喜ぶ状況にありました。結果的に半年も延びてしまったせいでいろいろ不安がるファンも多かったようだけれど、年末のアレや年始のアレみたいに派手な騒ぎを引き起こす爆弾(未完成とか何とか)が埋まっていることもなかったらしく、そこそこの評価に落ち着いている現状。スタッフが発した「未完成品を販売する予定はありません。もちろん完成してから発売します!」という必死なアナウンスもようやく真意として伝わった模様です。

 さて、うちのサイトでは話題として取り上げたことがなかった気がしますからお浚いの意味も込めてザッと解説。『G線上の魔王』は「ヒューマンドラマADV」と銘打ったあかべぇ通算8本目のソフト。メーカーにとってかなりの勝負球だったらしく、コミケカタログ級の分厚い原画集を同梱した「初回超重量特典版」なる重さ1.8kg、価格10,290円(税込)の、もはや規格外と呼ぶより他ない限定品を用意する力の入れようでした。当方は恐れをなして通常版の方を購入致しましたが。タイトルの『G線上の』は無論バッハの「G線上のアリア」、『魔王』はシューベルトの「魔王」から来ており、要は音楽ネタ。推測ではなく実際に2つの曲がBGMとして使われているから間違いありません。「魔王」と名乗る謎の犯罪者と、彼に対して浅からぬ因縁を持つヒロイン・宇佐美ハルとの対決に、主人公は否応なく参加させられる――ってなストーリーで、大枠はサスペンスや犯罪スリラーのそれです。魔王を演ずる声優が某仮面の魔人と一緒なこともあって臨場感はたっぷり。

 1章は最初の体験版で既にプレーしていたから飛ばして2章へ。確か2章も新たに出た体験版でプレーできたはずですけれど、いろいろあって結局やっておりませんでした。顔見せ程度に留まっていた1章と違い、犯罪レベルの事件が発生して本格的にストーリーがうねり始める。しかし、『車輪の国』同様あくまでヒューマンドラマがメインで、サスペンス要素を期待するとやや肩透かしか。ちょっと無理に話を引き延ばしたような感触があって章の最後までテンションが保たず、犯罪モノにしては緊迫感が足りないまま終わってしまったように思う。キャラの掛け合いで息が合っていたり、地の文もリズムが整っていて読みやすかったりと、相変わらずテキストは巧くて引き込まれますが……うーん、面白くなるのはこれから、なのかしら。

 今のところ気に入っているキャラはハル。一旦探偵モードに入るとコロンボ並みの執念深さを発揮してネチネチと絡んでくるため少々鬱陶しいものの、ダウナーで無神経で天然というメインヒロインらしからぬ配合が妙にマッチして日常シーンにおける反応がなまら可愛らしい。友人宅を辞する際、たまたま玄関先でかち合って「なに抱きついてんすか!」と素で驚くあたりがイイですね。2章は見せ場なしというかイイトコなしのままウロチョロしてただけでなんだかマヌーですけれど、髪フェチ、特には長い髪には垂涎が止まらぬ当方のこと、あのなんげぇ髪がボッサボサ蠢く立ち絵を見ていたら自動的に満足を覚えてしまうのでした。すごくぶっちゃけた話をしますと、今んところ魔王が企てる犯罪計画よりもハルの一挙手一投足に期待が釘付けされていますよ? 「『円環少女』といい、お前はおにゃのこしか眼中にないのか!」とお叱りを受けそうですが、モチその通り。何を隠そう当方は二次元娘大好きっコ。あー、『彼女×彼女×彼女』の秋奈と真冬と翠のエチーが見てー。アレの評判も上々と申しますか、新生八宝備仁絵を前にして予想に違わず枯死者が続出しているみたいですね。

・拍手レス。

 そいつを積むことは氏を意味するッ! それがッッ! それがYrrだッッッ!
 んー、秋頃には崩す予定。

 タユタマは、アメリの中の人のキャスティングに釣られましたですよ。
 つーか、キャラソンがそのまんますぎて笑った。タイトルも歌詞も。

 アレは狙いすぎ、っつー声もありますね。

 クロノベルト良いと思うけどあまり話題になってませんね…
 割と良い評判は聞こえてきますが……当方個人はまだBBが途中で開封すらならず。


2008-06-02.

・超高密度4コママンガ『ふおんコネクト!』の2巻を気合入れて読み切った焼津です、こんばんは。

 とにかくコチャコチャした描き込みとマニアックなネタの充填具合が尋常じゃなく、「 さ あ ふ る え る が い い 」という作者の囁きを幻聴でキャッチしてしまうほど。「ひとコマにつき一ネタ」と表現しても過言ではない。いやかなり誇張が混じってますけど、元ネタ探し出したらキリがないっスよコレ。題名に「最果ての今」とか平気であったりしますし。1巻の、特に前半部分はひたすら読みづらさが目立ったけれど、さすがに2巻まで来ると完全に技術とセンスが追いついて「ZARA次元」とも言うべき魅惑の世界を悠々と紡ぎ出しております。じっくり読めば読む分だけ面白くなると申しますか、速読したら仕込まれた妙味をほとんど読み落としてしまいそう。暑苦しいくらいの根気と熱意で織り込まれた際どいネタの数々に、我々は死海文書を解読するかの如く目を眇めるしかないのです。黄金聖衣の変形ネタなんつー二十代後半から三十代を狙い撃ちするコアなネタに心血を注いだりと実にパない。凝り性!! 恐ろしいほどに凝り性!!

 「やり残したネタがあるので2年生をもう一周します」と宣言して何憚ることなく堂々とループを実行するあたりは漢気溢れすぎですが、一方で人間関係や各キャラの心情にもより深く潜行していて、えも言われぬ味わいが増強。でも心温まる話ばかりかと言えばもちろんそんなわけナッシングで、最強のお子様先生たる夕は更に野放図の限りを尽くしていてなんだかむしろ安心。個人的に現行4コママンガ作家の中で十指――いや五指には入る存在となりつつあります、ざら。相変わらずふおんの影が微妙に薄い(でも美味しいところは取っていく)が、当方は夕スキー兼交流スキーなので別に仔細なし。交流は1巻の時と比べてもキャラが立って、随分と魅力を発揮するようになってきたなぁ。通果は依然として地味な位置付けなれど、一年の偉人さんともども数少ない「ふおコネの良心」ゆえこのまま染まらないでいただきたい。あとなにげに松下華が気になります。恋?

・毎月1日はエロゲー板に来月(今月だと7月)の購入検討&感想スレが立ちますので、そこに記載されている新作すべてをチェックするのが当方の日課ならぬ月課となっております。旧作の廉価版が含まれているとはいえ50本前後にも昇る膨大な数の新作――それらの情報に逐一目を通すのはひと苦労です。しかし、「へえ、こんなのもあるのか」と感心することも多く、なかなかやめられない。『犬の花嫁(仮)』は結局タイトルを変えて発売することになるのか……とか。

 そうやって各エロゲーメーカーのOHPを泳ぎ回った中でいちばァん驚いたのがこのCG。容姿や表情が物凄くツボというか、ぶっちゃけこの子恵理栖じゃね? これはアレか、いわゆるパクリという奴なのか。おにょれ、よりによって「当方の心をときめかせたマイナー妹キャラTOP5」にランクインする一人をパクるとはッ……と色めき立ったが、調べてみれば何のことはない、メーカーも原画家も一緒でした。それどころかキャラクター名までまんま恵理栖ですよ。ギャフン。名字や設定は変更されてパラレルな存在になっていますが、ほぼ同一キャラと認定可能の状態。これはアレか、いわゆるスターシステムという奴なのか。素直に喜んでいいものかどうか複雑な心境です。

・今月の購買計画(抄)。

(本)

 『METAL GEAR SOLID GUNS OF THE PATRIOTS』/伊藤計劃(角川書店)
 『されど罪人は竜と踊る2』/浅井ラボ(小学館)
 『百舌谷さん逆上する(1)』/篠房六郎(講談社)
 『64(ロクヨン)』/横山秀夫(文藝春秋)
 『四十七人目の男(上・下)』/スティーヴン・ハンター(扶桑社)

 まずは文庫化情報から。今月の目玉は有川浩の『空の中』と古処誠二の『七月七日』、この2冊です。『空の中』は有川浩の出世作であり、「高度2万メートルの空に潜む知性体とのファーストコンタクト」を描いた意欲的なSFライトノベル。一冊の中に様々な要素が盛り込まれており、これをよくまとめ切れたな、と感心すること請け合いです。有川作品ゆえちょっと癖の強いところもありますが、比較的馴染みやすい内容でもありますので入門用に最適かと。『七月七日』は戦時中のサイパンを舞台にした連作形式の戦争小説です。サイパンにおける7月7日といえば即ち玉砕の日であり、そこから連想される通りに決して明るい内容ではありません。主人公は米軍に就いているから玉砕する側ではなく観察する側で、悲壮感を漂わせず終始淡々としているものの「大義を信じたときが騙されたときだと、日本人捕虜と日系二世語学兵は教えてくれている」という作者の言葉が重く響いてくる。直木賞の候補作にも選ばれたぐらいですから、小説としての読み応えは充分です。

 『METAL GEAR SOLID GUNS OF THE PATRIOTS』は伊藤計劃の第2長編でありMGS4の公式ノベライズ。MGSはやったことないから完全に伊藤計劃目当てですが、コジマニアを自称し「MGSオマージュしすぎ」とまで言われた彼の面目躍如となることを期待。『されど罪人は竜と踊る2』はリメイク版「され竜」の2冊目。元のタイトルは『灰よ、竜に告げよ』ですね。大まかなストーリーはたぶん一緒ですが、1巻の仕上がりから見るにほとんど一から書き直しとなるはず。楽しみと言えば楽しみですけれど、そろそろオリジナルの新作を読みたいところ。確か8月に丸っきり新規の長編作品が来るんでしたっけ……。『百舌谷さん逆上する』は篠房六郎の新連載作品。タイトルから察するに『家政婦が黙殺』みたいなナンセンスギャグ系? 篠房に関してはシリアスよりもギャグ路線の方が大好きですから、もしそうなら小躍りしたくなります。『64(ロクヨン)』はやっと発売の目処が立ったらしい久々の新刊。確か『第三の時効』と同じシリーズ、だったような。延期に次ぐ延期で記憶がおぼろげになってまいりました。『四十七人目の男』は「なにこれ? 赤穂浪士?」と首を傾げたくなるハンターの最新作。信じがたいけどスワガー・サーガの一冊です。なんか東京でヤクザとかが出てくる話らしく、しかもそいつらの名前が「新撰組の近藤勇一家」と噴飯モノのネーミングだとか。あと日本なんで凄腕スナイパーのボブも銃を持ち込むことができない(と推測される)、だから「銃を捨てて剣を取る」……いや、その理屈はおかしいだろ。といった具合で早くも「珍作」との呼び声が高く、ハンターマニアの当方もこれに関してはネタと割り切って楽しむつもり。関係ないけどイアン・ランキンのヤクザ描写も微妙だったな……背中に彫られた刺青が剣道の防具とか。

(ゲーム)

 『るいは智を呼ぶ』(暁WORKS)
 『さくらさくら』(ハイクオソフト)
 『タユタマ』(Lump of Sugar)

 注目している新作はこの3つ。実際に購入するソフトは1、2本に抑える予定です。るい智は「主人公が女装少年」という特殊属性絡みで注目しましたが、体験版やってみるとストーリーも結構面白そうだったのでほぼ確定状態になりました。まあ、主人公の智が可愛いことも依然として重要なファクターでもありますが。尻神様と見紛うばかりのまロいヒップ、そしてサドにもマゾにも化(な)れるリバーシブルな性格。ここまで来るとさすがに卑怯じゃね? 『さくらさくら』は三角関係×2の複数主人公制ゲーム。複数のライター、複数の絵師で複数のトライアングルを描く……という試みに不安がないでもないし、土壇場でキャスト変更というのも懸念材料だが、ビジュアル面・設定面ともにツボなので目を離せない。最終的な判断はweb体験版で下したい。でもぺー姉さんの後任が未だ決まらないところから察するにまた延期かなぁ。『タユタマ』は最初ノーチェックでしたけれど体験版が良かったので緊急浮上。ただ、「体験版の範囲ではヒロインたちに萌えるイベントがあまりない」という事態が祟って二の足を踏んでいます。何せ、もっとも魅力を感じたのが序盤に出てくる幼女形態のましろ、通称「ロリましろ」だったもんなぁ……「やちまたー」「きょーぞん、きょうぞん、しようね!」の愛くるしさは異常。聞いてると理性が溶けてきて困る。

・拍手レス。

 畳部屋の淫靡さは異常だと思う。
 畳が放つ藺草の香りは下手な催淫剤にも勝る。

 先日、紅の話で「馬鹿にして…!」っていう焼津さんに萌えました。どうすればいいですか?
 元ネタが『さくらむすび』なのでそちらをやっていただければ。

 嘘つきみーくんと壊れたまーちゃん読みました?デレてる言えるかヤンのラノベです。未読ならオススメ
 いつも参考にさせてもらってるからお返しなんだからねっ!!

 1巻だけ読んでます。内容は嫌いじゃないけれど、いまいち文体に馴染めない……。

 星の王子さまで月野定規を思い出した俺はもうダメポ
 月野定規はアヘ顔に懸ける執念が凄まじいという印象。

 古典部も「遠まわりする雛」で漸く動き始めたかなって感じですね。でも最後のホータローが言えなかった言葉
 あれは告白どころかどうみてもプロポーズです。本当にありがとうございました。

 ふたりの関係が動き出すことにワクワクしながらもどこか寂しい心境です。

 そういえば愛書狂同士のカップルって現実にはあまり見ないですね…男女のみならず同性でも。
 専攻ジャンル一緒だと蔵書が被りまくってえらいことになるそうですよ。

 G線上の魔王クリアしました!いろいろあったけど待っててよかった!スワチカ開かなくてホントによかった!
 ファンディスク待望です。ヒロインafterやりたい。特にハルの。なんか幸せそうでほのぼのしたやつを。
 ユキのもあれば最高。

 当方はまだ2章。評価は様々みたいですが、とりあえずスワスチカは回避されたようでホッとひと安心。

・なんだか昨日あたりにゆずソフトのOHPがクラッキングされてURL踏むとトロイを送り込まれるようになっていたとか。当方は夏カナ中断状態でここのところ行ってなかったんですけれど、心当たりのある方は念のためウィルススキャンを。


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