2005年1月分


・本
 『ケルベロス第五の首』/ジーン・ウルフ(国書刊行会)
 『ラブやん(3・4)』/田丸浩史(講談社)
 『地獄のババぬき』/上甲宣之(宝島社)
 『ホーンテッド!2』/平坂読(メディアファクトリー)
 『ラス・マンチャス通信』/平山瑞穂(新潮社)
 『ボーナス・トラック』/越谷オサム(新潮社)
 『ヴァンパイア十字界(1〜3)』/城平京:原作、木村有里:漫画(スクェア・エニックス)
 『エマージング(1)』/外薗昌也(講談社)
 『超・大魔法峠』/大和田秀樹(角川書店)
 『ゼロの使い魔3』/ヤマグチノボル(メディアファクトリー)
 『おおきく振りかぶって(1〜3)』/ひぐちアサ(講談社)


2005-01-31.

・実家に帰ります。こんばんは、焼津です。今日が東京生活にピリオドを打つ、最後の日。すなわちエンド・オブ・デイズ。違う。仕込み十字架しか記憶に残らなかったアクション映画じゃあるまいし。実家でのネット環境がどうなるかまだ未定ですが、このサイトを閉じるつもりはないので、まあ、なんとかやっていくとします。

 しかし今日から明日にかけては寒気が凄いらしく、飛行機の便が出るかどうか心配。念のために陸路の案も用意しておくか……。

・土曜日に出席してきた小城マサヒロさん主催の新年界、「ネットでの付き合いが浅い」と自他共に認める当方にとっては初めてオフでの集いに参加する機会となりました。特に目印とかも訊かずに「ま、なんとかなるでしょ」と楽観して待ち合わせ場所へ向かい、着くなり周りの空気とは一線を画した集団が視界に入って予想以上にパツイチでした。そこだけ光の屈折率が違う……ってレベルの明瞭さ。いえ、20人を超えるほどの集まりとは思ってなかったので素でビビりました。声を掛けるときの心境はさながら虎口に飛び込むよう。

 緊張したうえにもともと会話のキャッチボールが下手っぴな当方は内心ドキバクしてましたが、まったり混沌とした賑わいの中で過ごす5時間(19時から入って0時に抜けました)はすごく楽しかったです。「ヒーローは遅れてやってくる」を体現して開始後に姿を見せた犬江さん、彼と生で対面できて感激することしきり。爽やかイケメンでありつつ非常におもろい方で、「おもろ爽やか」とでも言えばいいのか。いくないか。すみません。「『異界錬金』の続きは……?」とタブー中のタブーに触れて沈黙を強いてしまいました。小城さんの愉快な話術も堪能できて時間いっぱい退屈しなかったです。とにかく笑かされっぱなし。圧巻は山武さん。腹筋を捻じ切るが如き魔的にステキなイラストを軽々と描き出し、酒を飲まぬ当方も笑いに酔い痴れた次第。まだ脳裏に染み付いて離れない。

 帰宅後は推定会議に出席して「カオスの極致、至高の無秩序に挑戦せよ」という目的を課せられたリレー小説に加わりました。主人公が目を覚ます割と普通のシーンから始まりつつも、いつの間にか全裸で父を殺し母を犯すオイディプス伝奇アクションに発展するキワいリレー小説が仕上がる(終わる前に脱落しましたが)。飛鳥さんのサイトにアップされている「NobodyKnows−或いは、理由亡き親子喧嘩−」がそれ。自信を持って「読まない方がヒトとして幸福」と請け合える内容です。さすが「カオス」の名を冠されたチャット。初参加の螺旋さんにまで狂ったノリを押し付け、留まるところを知らなかった始末。

 そんなこんなと濃厚な10時間を体験したせいで昨日の昼は眠りを貪っているうちに過ぎ去った次第。いい思い出が出来ました。

・外薗昌也の『エマージング(2)』読了。

 あれ? これって2巻で終わり? てっきり5巻くらい続くものと思ってました。感染が拡大していくまでの流れが非常に怖くて手に冷や汗を握る前半に対し、終盤は足早で、やや急いだ感じの結末という印象を受けました。少し残念。5巻は長すぎだとしても、あと一冊分はストーリーが欲しかった。とはいえバイオホラーの醍醐味が詰まった警鐘サスペンス。作画の迫力もさることながら、やはりシチュエーションがキます。

・ところで『処女はお姉様に恋してる』、物凄い勢いで売れたらしく秋葉原では壊滅状態。メーカーもショップもファンもここまで売れまくるとは予想してなかったんじゃないだろうか。これと『天使ノ二挺拳銃』を一緒に買うビジョンが半ば確定事項としてすっかり頭の中を駆逐していたせいで、片方が買えないとなるともう片方も購入する気が湧かず、なぜか『To Heart2』を買っていました。実家に帰ったら大画面のテレビでプレーするか……家族が寝静まった頃合に。


2005-01-29.

・「ちんちんかもかも」は知ってましたが「ちんちんもがもが」なんて言葉もあるんですか。こんばんは。なにげなく国語辞典を引いて暇潰しする癖の保有者、焼津です。

月面基地前がブランドとして独立。『ロケットの夏』のフルボイスバージョンを出すみたいです……って、あれFVじゃなかったの? どうしよう。旧版まだ積んでいるけど、処分してFV版に買い替えるべきか。いや、とりあえずは崩して触ってみることにします。それから判断。

『ホーンテッド!3』は3月発売予定とのこと。順調に3ヶ月ペースで来ているみたいです。

・3巻が出たことだしそろそろ崩し頃か、と『おおきく振りかぶって』に着手。

 1巻が乱丁でした……orz。本来より18ページも多い。つまり重複している箇所があるわけです。同じ場面が繰り返されるものだから「このマンガ、ループ・システムでも採用しているのかッ!?」って一瞬焦りましたよ。乱丁本に遭遇するのは小学生のときに買った『ドラえもん』以来。あれはページ群の前後がおかしくて話が繋がっていない状態でした。しかし、欠けたり順番がおかしかったりするならともかく、「少々過多」ではさして実害がないので取り替えてもらうのも面倒臭いなぁ。記念にこのまま取っておくか。聞き及んだところでは2巻のセンターカラーページが巻頭に来ているという乱丁のパターンもあるようですが、そっちは大丈夫でした。

 内容は、仲間たちに嫌われて暗澹たる気持ちとともに過ごした中学時代が元となって「高校に行ったら野球はやめよう」と思いつつも、結局野球部に入る運びとなった少年(投手)を中心としたスポーツマンガ。「スポ根」というほど熱くはないけど、寄り集まった選手たちが次第に結束していく流れが読んでいて心地よい。主人公がうじうじした性格で恐ろしく自信がないあたりは最初イライラさせられたものの、話が進むにつれてそのへんにも慣れてくる。あまり野球のない当方ゆえに試合そのものは大して興味をそそられなかったのに、読んでいるうちにじわじわと染み込んでくる面白さがあって、なんとなく「続きも読みたい」という気持ちに駆られた次第。自分でもよく理由が分からない。こういうのは「普通に面白い」ではなく、「変に面白い」とでも形容すべきなのか。別に変な内容ではないんですけれども。


2005-01-27.

・15万ヒット。ぼんやり運営している間にここまで来ました。なんだか縁のない数字に思えて仕方なく、とても自分事とは感じられません。しかし事実は事実。漕ぎ着けることができたのは温かい目というか生温い目というか、とにかく当サイトを見守ってきてくれた方々のおかげです。他方面的に感謝。

・というわけで記念に「ガールズ・ドント・クライ」第五話をアップロード。いえ、単に時期がかぶっただけで、合わせる意図はなかったんですけれど。五話目にしてようやくキャストが揃いました。六話目を急ぎます。

雫井脩介、『犯人に告ぐ』で第7回大藪春彦賞受賞

 そういえばこれの感想って書いてなかった。幼児誘拐の捜査を描く第一章が非常に印象深く、読んでいてとてもハラハラと息詰まるような気持ちを体験させられたサスペンス小説。後半でちょっと勢いが失速してしまったことは残念でしたが、緊迫感溢れる前半の面白さを考えれば双葉社が熱意を篭めて大々的に売り出したのも頷ける。帯で横山秀夫、福井晴敏、伊坂幸太郎の三氏が推薦文を寄せており、それぞれの作風が窺えるコピーで二重に興味深かった記憶があります。大藪春彦賞、歴史はまだ浅いですが、だんだんイイ陣容が整ってきているかと。

・ヤマグチノボルの『ゼロの使い魔3』読了。

 魅惑の異世界ツンデレラブコメ魔法ファンタジー、最新作。よもや3冊目にしてここまで伸びようとは思いもせず、「こいつぁいいもん読んじまった」と余韻に耽ることしきり。2巻のときも「前巻より更に面白くなった」と思って感激しましたが、今回も同じくらい「前巻より面白くなった」と認めざるをえません。飛躍に次ぐ飛躍。どこまで目指すんだ、このシリーズ。

 生まれは高貴だし可愛いけど魔法の才能がサッパリで周りからは「ゼロ」と侮辱的なあだ名で呼ばれているヒロインのルイズ。そして彼女の召喚魔法によって遙々日本から呼び出された少年・才人。人間なのに、「使い魔」として暮らすことを強いられてしまった彼を主人公にした物語は、いわゆるハリポタ系の学園ファンタジー……かと思わせて国レベルの問題に発展していく、非常にヒロイックな代物です。とにかくこのシリーズは「おいしいトコ取り」に成功している。最初は才人を「使い魔」として軽んじていたルイズが徐々に才人を「男の子」と認識していきながらもそれを素直に認めることができず、無意味に怒ったり突き放したり、でもしばらくすると後悔して寂しくなったり切なくなったりと、まさしく「ツンデレ」という言葉を体現しているかの如きラブコメのパート、加えて「どんな武器でも使いこなせる」能力を与えられた才人が、戦いの中でバカでスケベな少年から「守りたいものを守る」意志に目覚めていく過程を描く成長模様、他いろいろの脇役による視点の多面化と、ライトノベルに求められる娯楽の要素がぎっしり詰め込まれ、「欲張っている」という印象を強く受けます。萌えの燃えもドンと来い、な感じ。

 ただ、文章は読んでいて「巧い」と楽しめるタイプではないし、キャラクターやストーリーは至って王道だし、世界や魔法の設定もあまり詳細ではなくかなり大雑把です。と、こんなふうに予防線を張っておく必要があり、ベタなライトノベルが嫌いな人にはオススメできない。しかし、言い換えれば「巧い」とは言いがたいが明快で実に分かりやすい文章、王道たるツボをしっかり押さえているため安心して満悦できる筋立て、薀蓄や説明を削ぎ落として設定ではなく展開で魅せるスタイルの物語なので、ベタなライトノベルが嫌いじゃない人には是非とも推したいシリーズです。


2005-01-25.

・久々に時間が空いて、まとまった量の活字を貪り読んだ焼津です、こんばんは。現在『ゼロの使い魔3』『三月、七日。〜その後のハナシ〜』『ワイオミングの惨劇』の3冊を並行読書中。どれも面白い。これだから読書はやめられないなァ。

・ネタがないのでストックとして取っていた感想を。

・大和田秀樹の『超・大魔法峠』読了。

 あ…あれは魔法核兵器(マジカルA-ウェポン)!!!
 よせ ぷにえ!! それを爆発させたら半径1天文単位の範囲の物すべてが原子核崩壊するんだぞ!!!
 キサマ テストができないくらいで…死を選ぶというのか!!!?

 必殺技はサブミッション。「リリカル トカレフ キルゼムオール」の呪文で有名な田中ぷにえが帰ってきた。というわけで『大魔法峠』の続編です。タイトルに「超」が付いているのは伊達じゃなく、前作以上にハジけた内容となっている。双子の妹・ぴゅん&ぽたるが新登場したことが勢いの増した要因だろうか。「ダボハゼ」「売女」「メスブタ」といったセリフを平気で口にする魔法の国のプリンセスたち。それが自然な風景として溶け込んでいる作風はイヤすぎる。

 武力を一切保有せず、小動物系のマスコットと一緒にひっそりこっそり魔法を使ってあらゆるトラブルを解決する「正統派」。流血を厭わず、化け物という化け物に魔力と武力を叩き込んで殲滅する「武闘派」。少年レーベルのマンガやアニメ、ゲームにおいてはいつの間にか後者の魔法少女が主流になってきていますが、この二つからちょっと距離を取って「魔法少女」というジャンルそのものをおちょくる「パロディ派」も第三勢力と化しつつある予感。中にはそもそも魔法が使えなかったりとか、そもそも少女じゃなかったりとか、やりたい放題のネタが目立つけれど、『大魔法峠』はかったるい迂回路を通うことなく真正面から「スゲェ!」と唸らせる荒業をかましてくる。とにかく、ここまで無闇矢鱈に漢らしくカッコいいネームやカットに満ちた魔法少女マンガがあっただろうか。ギャップが腹部に直撃してひたすら笑えます。

 あくまで可愛らしく、獣の瞳を秘めながら唯我独尊の覇道を突き進むこと。精神の在り様が既に梟雄とサイコパスの狭間に浮かぶモノと成り果てたぷにえの更なる活躍を、今後とも期待したいところです。


2005-01-23.

・土日も用事がいっぱいでへこたれかけている焼津です、こんばんは。一昼夜を布団で過ごしたい。

『Tears to Tiara』の発売予定日が3月25日に決まった模様。正直、感心はだいぶ薄れてきていますが、3月の状況次第では行ってみるかも。

propeller、新作『あやかしびと』情報公開

 遂にこの日が来たか、といった気分を誘われる一作。別名義による大作SS「吸血大殲」で有名な東出祐一郎、そしてフリーになった中央東口。ストーリーを読むだけではいまひとつピンと来ないですが、今後とも要チェック。

・外薗昌也の『エマージング』読みました。書店で見かけて気になっていましたが、犬江さんの感想を目にして踏み切った次第。

 バイオサスペンスなんて、いまどき手垢の付いたジャンルなんじゃあ……と侮っていた当方に「いや! 違うね!」とばかりに強烈なアピールを見せ付けてくれました。展開はそんなに早いわけではなく、ゆったりとしたスピードで話が進むんですが、サスペンスの呼吸を完全に掴んだ作風ゆえに読んでいて一気に引き込まれます。第一の犠牲者が出るまでの勿体ぶりも、くどすぎずあっさりしすぎずで丁度いい塩梅にドキドキさせられっ放し。犠牲者が「破裂」する前に眼球が異常に充血したり、身体が膨張したりといった前兆を設けているあたりがしっかり絵になっていて迫力大。

 遺体にメスを入れようとした主人公が制止される場面など、細かいところにまで演出の気配りが利いているおかげで弛みなく目を通すことが出来ました。「破裂」の絵自体も見ていてビビりますが、「医療に携わる者として未知の感染症に立ち向かわねばならない」という崖っ淵に立たされているような緊迫感も胸に突き刺さってくる。手探りで進もうとしても、手を伸ばすことそのものが致命的であるかもしれないギリギリの状況が、重い。一方で、新興(エマージング)ウィルスに遭遇する事態にある種の楽しさを感じてしまう心理が、登場キャラのひとりを通じて晒されてしまう。

 もちろん読んでいて気持ちいい話ではなく、当方も読み終わった後で食べたパンが螺旋状にイチゴジャムの掛かっているもので、否応なく「破裂」した犠牲者のビジョンを思い起こされて食欲を失ってしまったほど。それでもなお「読ませる」パワーが、技術的にもテーマ的にも充分にあり、なんとしても続きを読まねば、という気にさせられました。キスシーンでゾッとする、そんなストーリー。


2005-01-21.

・床屋に行くのが面倒だから発作的に自分で髪を切ってしまった。今は反省している。こんばんは、焼津です。

・城平京:原作、木村有里:漫画の『ヴァンパイア十字界』、1巻から3巻まで読了。

 最初は「十字軍」かと思ってました。さておき、目にした感想サイトのどこもが「3巻の展開に驚愕」とあったので気になって手をつけた本作、1巻の序盤は正直そんなにそんなにでいまいち引き込まれなかったのですが、半ばを過ぎて新展開を迎えたあたりからググッと面白くなった。1巻の後半だけでもいくつか驚かされる要素があってスリリングに読めたので、「これで3巻に入ったらどうなってしまうんだ……ッ」とワクワクドキドキし、2巻を読み終えた頃にはすっかりこのマンガが気に入っていました。最初は「派手な割に見辛い」と思っていたアクションシーンも、慣れのせいか、はたまた木村有里の作画技術がメキメキ上達しているのか、2巻では普通に楽しめた次第。

 そして問題の3巻、心して読み進めましたが……なるほど、こりゃ話題になるわけだ。1巻や2巻で充分にビックリしていたから驚きが分散してしまってガツーンと来るほどの衝撃はなかったけど、ますます今後が気になる展開ではある。ガンガン系統の伝奇アクション・ファンタジーとはひと匙違った味わい。4巻以降も買おうっと。

 改めて読み比べてみると1巻冒頭と3巻ラストのアクションシーンには雲泥の差があるなぁ。というより、1巻と3巻の表紙絵を比較すれば木村有里の画力変化がひと目で分かる。城平京がマンガ方面にフィールドを移したのを実は内心残念に思っていたけど、こういう原作作品を出してくれたことを考えると思い直すべきか。章題にクリスピンの『愛は血を流して横たわる』があったりするのも少し楽しい。


2005-01-19.

・定期を忘れてちょっと凹んだ焼津です、こんばんは。こう、余計な電車賃以上にあるべきところへ手を遣って空を掴むばかりという間抜けな瞬間が、心に痛いというかなんというか。

直木賞、初候補で健闘した古処誠二の『七月七日』

 「一時は2作受賞もあり得る雰囲気だった」らしいので惜しいような、「これからが期待できる」と希望が湧くような。メフィ賞出身者たちの中でも地味に伸びてきた作家なので、そろそろ評価されてもいい頃合かと思われます。

・平山瑞穂の『ラス・マンチャス通信』と越谷オサムの『ボーナス・トラック』読了。

 第16回日本ファンタジーノベル大賞受賞作。ラス・マンチャスが大賞で、ボーナス・トラックが優秀賞。ここのところはこういう大賞・優秀賞の2冊を出すというのがパターンになっているみたい。でも、一発こっきりで終わってる作家が多いなぁ。森見登美彦は受賞後第一作を出したけど出版社違うし。

 ラス・マンチャス〜は細かい事柄について詳しく説明しようとせず、フィーリングで理解させようとする書き方を全編に渡って貫いているあたり、幻想文学的という意味合いでのファンタジーな作品。脳との波長が合うかどうかで受ける面白みが変わってくると思います。良く言えば先が読めなくてスリリングな展開だし、分析視点もうざったくない程度にまとまっていて適量。しかし、エンターテインメントの基準でいけばストーリーが散漫に見えてしまう。有言不実行気味で言い訳をこねくるのが生活の一部となっているあたりなど、主人公が徹底してヘタレなあたりも好みが分かれるかと。当方個人は「次の奴」云々のところまでは割と楽しく読めましたが、その先はちょっとだるかった。

 ボーナス・トラックはすんげぇありふれたストーリー。表紙イラストを見るだけでジャンルが分かってしまうし、タイトルの意味も自ずと読めてくる。要は轢き逃げされて幽霊になってしまった青年が第一発見者の男に付きまとってあれやこれや、なポジティヴ・ゴースト話。キャラたちの遣り取りが軽快でサクサク読めますし、第二の主人公に当たる亮太も幽霊になったくせに能力をあんまり悪用しなくてなにげに憎めない感じの奴だし、読んでいてストレートに面白いことは面白い。本筋とはあまり関係ないようなところでもテンポが途切れず、全体的にノリが安定しています。その代わり独創性は著しいまでに乏しく、幕引きにおけるパンチも弱い。面白いのに、読み終わってみると地味な印象しか残りません。

 去年の『太陽の塔』『象の棲む街』に比べると、ピンと来なかったりインパクトに欠いたりで、期待度を考えると少し残念な結果でした。前期待を度外視すると、どっちも面白いことは確かだったのでそこそこは良い気分。


2005-01-17.

・ハンバーグ捏ねるときはビニール袋を使う焼津です、こんばんは。脂が手の皺に入るヌラヌラな不快感が大っ嫌いなんですよね。でもこうして捏ねてると自分がとてもエロくて寂しいことをしているような気分になるのはどうしてでしょう。

魔法の海兵隊員 ぴくせる☆まりたん

 二言目には「ケツ」と口走る魔法少女が遂に降臨するのカー。錨の用途はやはり撲殺?

股を開く天使「DAIさん帝国」経由)

 虚ろ気味の瞳とだらけたスカートとちょっとだけ見えているアレがステキです。翼もちょうどいいアクセント。

・平坂読の『ホーンテッド!2』読了。

 作風がまんま西尾維新だぞゴルァ、と非難の弾雨に見舞われながらも刊行された続編。今回西尾テイスト(戯言とか、そんな感じの)は若干控え目でしたけど、とにかく全編に渡って狂ったセンスが炸裂しており、やたら個性の濃いキャラとも相俟って刺激的な味わいを醸しております。「自分は今、毒物を口に含んでしまったのではないか……ッ」と直感し、思わず飲むのをためらわれるほど刺激的。一応修学旅行がテーマになっていて、学園モノとしては定番のはずなんですが、あまりにも独自色を強く打ち出されているせいで他の学園モノにおける修学旅行ネタと比べる気すら起こらない。バスに乗った時点で既にムチャクチャな展開が待ち受けているし、いざ目的地に着けばやりたい放題。そんな擬似センス・オブ・ワンダー世界で、前巻でも披露してみせた平坂流の割とあざといラブコメ節を思う存分所狭しと発揮してくれる。『神様家族』『ゼロの使い魔』と、MF文庫Jはなにげにラブコメが熱い。

 新人かどうかは別にしても作風が作風なんでいろいろ粗いところも多いですが、去年デビューした新人ライトノベル作家の中では一、二を争うセンスの持ち主だと思います、個人的に。ギャグのキレとかそういうのより、ブレーキを一切踏まないで運転してみせるような、レシピを見ず材料だけで知らない料理にチャレンジしてみせるような、度胸試しに似た「匙加減」感覚が優れている。場面場面で「ここまでしていいのか! うん、いいな! いいね!」とミニマムな感動を覚えることしきり。「単にネタとして面白いから」というだけですごいことを平気でヤッちゃうその神経が恐ろしくてステキ。かなり勢い任せなので本筋はあってなきに等しく、途中のシリアスなシーンも「取って付けた」っぽさが濃厚ですが、そもそも大してシリアスな雰囲気を出そうともしておらず、ほとんどの事柄をネタとして消化してしまっているのでさしたる引っ掛かりも感じませんでした。勢いはあります、というか、いろいろ計算があっても最終的に勢いしか生存していないサバイバル精神溢るる作風。残りページがぐんぐん少なくなっていくことが惜しまれるスピード感に満ちていました。

 ハマる人は元気よくハマるし、嫌う人はフルパワーで壁に投げつけるし、ヒく人は全力でズザッとヒく。なんにしろテンションの高さが読者の気分に干渉してくるシリーズ。自殺教云々はあくまでネタとして、狭い範囲でのラブコメめいた陽気幽霊譚(ブラック無糖)の路線を貫いてほしいところです。ちなみにこの巻の副タイトルは「コトコトクライシス」(奈良・京都と古都が二つでコトコト、だろうか)ですが、没になった案が「背徳炎上デカダンス」なんだそうな。『暗闇の中で子供』の元タイトルが『四肢切断カタルシス』だったことを思い出した。

 絵師の片瀬優を経由して作者本人のサイトを発見。作品に負けず劣らずのはっちゃけぶり。それでいてマジメに語っているところもある。なんだろう、この混在感。


2005-01-15.

「富豪刑事」にはやはり筒井康隆が出てきたらしい。「らしい」と言うからには見ておりません、ええ。そういえば山村美紗サスペンスに山村紅葉がよく出てくることを母が何かの折に言及していましたが、未だにそうなんだろうか。というより山村美紗原作のサスペンスドラマってまだ放映されているのかどうかも知らんです。

ちびセイバーTOP絵(ジンガイマキョウ)

 ライオンの不敵なツラがたまらない。にしてもこの連作好きです。4コマのほんわか感が最高。そして遅くなりましたが80万ヒットおめでとうございます。

・サイト名変更。「ふぁいあぼーる」から「暁-AKATSUKI-」

 HNも同様に「高昂」から「暁」に変更されたようです。FFは5が一番好きな人間としては「暁の四戦士」を思い出さずにいられない。ただサイト名が一文字だと、文中リンクした際にクリックしづらいのでは、という懸念がありますが。

傷っ子連作

 可愛ええのぅ。顔傷は視界の端に収めて見えるか見えないかぐらいになった時がとても萌える。


2005-01-13.

・え? 『ミナミノミナミノ』って続き物だったの? まったく知らずに読んで驚かされた焼津です、こんばんは。秋山瑞人の既刊って、シリーズならシリーズとハッキリ分かるタイトルになっていた分、すっかり単発作品と思い込んでました。確かに展開が遅いから変な気はしましたが。うーん、この段階ではなんとも言えないので感想は保留。ただ、心なしか文章はこれまでに比べて幾分かマイルドになっている印象でしたね。あまりクセが感じられなかった。

『魔界天使ジブリール -episode2-』発売延期

 飛びやがった。春の空へ向けて。扉絵の翼が小憎らしく映る冬の夜。

・忙しいとはいえ読書がなかなかはかどらない。どうにか時間つくって積読崩していかないと……それにしても積んでいる本をカウントしなくなってからもうどのくらい経ったんだろう。一応データはあるからその気になればまとめられるけれど、それを眺めたときの「うへえ」な気分を想像すると少し怖いのでパス。

 あれですね、買ったまま読んでいない本の冊数が三桁を超えると危機感は逆に鈍くなっていきますね。高校生の頃に買ってまだ手をつけてないのもかなりありますけど、全然気にならないというか。まあ、さすがに中学生のときに買った分はない……って待てよ、あの時期に渉猟したエラリイ・クイーンとかジョン・ディクスン・カーとかの黄金期本格ミステリ、全部読み切っていなかったような。いや、それどころか……と記憶を掘り返し、改めて業の深さを思った。実家に帰ったら何冊かサルベージしてこよう。

・ああ、今日はジンキの日だった。録画しておこっと。


2005-01-11.

・三が日が明けてからこっち、ずっと忙しい状態が進んでいる焼津です、こんばんは。おかげで小説を読み耽る暇がなかなか確保できず、サクッと読めるマンガの消費が多い傾向になってきています。ここ2日は『ハツカレ』とか『NHKにようこそ!』とか。ハツカレはまったりした雰囲気が心地よい。イブシが少し煙ったいけれど。NHKは、やはり主人公がロリコン落ちするところで泣けた。

・上甲宣之の『地獄のババぬき』読了。

 自爆覚悟のバスジャック犯が出した要求は、「命を懸けてババぬきをしろ」。かくして霊媒師、マジシャン、怪盗、賭博王、殺人鬼、心理学専攻の女子大生、それに阿鹿里村事件から生還したしよりと愛子を加えた計8人の面子が本気でトランプゲームをプレーすることを強いられる。各々の持てる武器すべてを駆使するなか、前代未聞の「バスジャック犯主催・ババぬき最強決定戦」はライブ中継されていく。

 ジョジョ口調の女子大生がトイレで死闘を繰り広げる『そのケータイはXXで』から1年半、異常サスペンスの書き手が遂に第2長編を物しました。装丁からしてチープであり、決して文章の巧みさで話題になる作風ではなく、キャラクターの喋りもご都合的だったり不自然だったりすることが多い。それでもなお、「読ませる」だけのストーリーテリングは事欠かず、「荒木飛呂彦が描いた『カイジ』」とでも言うべき摩訶不思議な世界が繰り広げられます。いい意味で狂っている。

 しよりと愛子が登場する以上、もちろん『そのケータイはXXで』とも関係があると言いますか、要は続編です。前作絡みのネタもいくつかあります。「お気楽な女性コンビが旅先で事件に巻き込まれる」というパターン的展開は夜9時頃の2時間枠サスペンスドラマでもよく見られる設定ですが、このシリーズは巻き込まれっぷりが尋常じゃなく、思い切り渦中に放り込まれるものだからそうしたドラマを連想することもありません。いつも常に崖っぷちでサバイバル。つくづく変なシリーズだ。

 安っぽい、けれど引き込まれる。何とも曰く言いがたい魅力に溢れた一品。ゲーム感覚というよりまんまゲームを小説媒体に移植しています。ババぬきの論理(偶数枚とそれより少ない奇数枚、例えば4枚と3枚の場合、偶数枚である4枚の方が有利とか)を解説するあたりなどを含め、単に奇を衒っただけではない構成を見せてくれます。むしろ安っぽい雰囲気が漂っているからこそ、こうした異常なテンションが享受できるのかもしれない。


2005-01-09.

・「暖房=毛布と布団」。炬燵という文明の利器を忘却しかけている焼津です、こんばんは。ぼおっと幸せなイメージを思い描いて脳内物質をドバドバ噴出させ、なんとか凌いでいます。ライク・ア・マッチ売り少女。寝たら死にそうな雰囲気を発してますね。

・電撃文庫の新刊を確認。それにしても川上稔のアレ、どこまでぶ厚くなれば気が済むのやら……。

八人の巫女(Allegro Mistic) ──(「DAIさん帝国」経由)

 さすがにこれは圧巻。野武士どもを討ち取れそうなムードさえ漂う。

・この頃気になっていた『新暗行御史』、さすがにドンと全巻を買い揃えるほど漢気には溢れておりませんゆえ、ジャブとして1巻だけ購入。

 感想は簡明にサクッと書けば、まさしく「面白かった」。『水戸黄門』+『カオスレギオン』(後発だけど)といった感じ。導入や決めゼリフを固定化しつつ、一話一話のストーリーにヒネリを加えているあたり、実にグッドな手際。被覆面積の小さい衣装を別にしてもヒロインが魅力的だ。うん、これなら全巻買い揃えてみてもいいかも。ただ、一気に買い込むと買ったことに満足して積んでしまいそうではある。少しずつ何かのついでとしてチョビチョビ買っていこうかと。映画化のおかげでどこも潤沢に置いてますし。

 しかし序章の母娘、なぜ尖り耳なんだろう……?


2005-01-07.

・繁忙を極めたおかげで更新を休んでしまった焼津です、こんぱんは。そのくせネギま、BECK、JINKI、ゼノサーガと立て続けに深夜アニメを視聴していたり。作業しながらなのでちゃんと観ていたわけじゃないですけど、新番組の3つの中ではジンキが力入ってる感じで楽しかった。ゼノサーガは「ながら観」だと設定やストーリーが分からなかったし。水曜深夜はジンキに期待する方針。

直木賞と芥川賞の候補決定

 選考は一週間後。芥川賞の方はすべてノーチェックですが、直木賞候補は3冊読んでいます。個人的には『七月七日』が受賞するのでは、と希望込みで予想。

・積んでいた『ラブやん』の3巻と4巻を読了。

 ロリコンでオタクでプー太郎なカズフサと、それを持て余す駄目キューピッドのストーリーはさりげに時間経過の概念が取り入れられていて、サザエさん現象を起こすことなく地道に着実に進行していく。でも地がギャグマンガな分、カズフサが成長することなんてありえない。ひたすら痛く、駄目になり、ちょっと立ち返ったりもするが、年単位で一進一退を繰り返している時点で既に救いの要素ゼロ。『げんしけん』は居たたまれなくナマぬるい空気が次第に心地よくなっていく感覚を体験させてくれるマンガだが、『ラブやん』は突き抜けた諦観の甘さと苦さで現実の憂さを無理矢理焼却するテンションを保有している。無意味さが底抜けにいとおしい。

 「ロリを囲むと書いて囲炉裏」な会とか、ロリ方面のネタがそこそこ多く、「こいつら、確実にロリコンソードが使えるに違いねぇ」と思うことしきり。あまりシモい路線に突っ込まない(突っ込めない)『天のおとしもの』と違って消しが入るシーンも多々あるこの作品、シモネタをサラリと軽妙に嫌味なしに流せるフットワークの良さが一つの武器かと。

 純粋な意味合いでの「萌え」はなきに等しく、加工され記号的にネタ化された「萌え」ばかりが紙面を占領していますが、それにしても田丸浩史の描くブチキレたキャラの表情と言動は素晴らしいの一言に尽きる。男も女も関係なしに叫ぶ殴る奇行する。やる気ない顔で鼻をほじるラブやんに「萌え」とはまた違った愛着が募っていきます。


2005-01-04.

・大方の予想通り、三が日を怠惰に過ごした焼津です、こんばんは。アルコールは元より苦手で避けていたため酒類にまつわるトラブルはなし。けれど他人が嘔吐しているのを見るとどうしてか自分も(以下略)

・西尾維新の『ネコソギラジカル(上)』は2月発売決定とのこと。当初の9月予定から5ヶ月も遅れましたね。中・下も早いうちに刊行してほしいです。

・ジーン・ウルフの『ケルベロス第五の首』読了。

「ぼくには違いがあるとは思えません。ヴェールは模倣は完璧だろうと言ってますし、もしそうならいずれにせよぼくらとまったく同じになっているはずです」一本取ったつもりだったが、叔母は微笑み、椅子をさらに強く揺すった。閉ざされ、明るく照らされた部屋はとても暖かかった。
「第五号、おまえは意味論をもてあそぶには幼すぎるし、どうやら『完璧』という言葉に幻惑されているらしい。ヴェール博士は、おまえが考えているよりもっと緩やかな意味でその言葉を使っているはず。模倣は正確と呼ぶには程遠いものでなければならない。なぜなら人類には変身の力がないのだから。完璧に模倣すればアボはその能力を失ってしまうことになる」

 今年の初読みは『ハリー・ポッターと不死鳥の騎士団(下)』でしたが長大な分量の割に爽快感の薄い内容で往生しました。という他の本についての話題はさておき、この『ケルベロス第五の首』。詳しいことは知りませんが、刊行予定月が発表されてから実際に刊行されるまで結構かかったようです。SFには疎いので作者のこともよく知りません。“新しい太陽の書”は随分前に買い揃えた気もしますが、もはやどこへやったんだか……。

 「ケルベロス第五の首」「『ある物語』ジョン・V・マーシュ作」「V・R・T」の3部から構成されている連作長編。双子星になっているサント・クロアとサント・アマヌを舞台に、原住民(アボリジニアル)という存在を焦点としつつ徐々に全体像が浮かび上がる仕掛けとなっております。惑星に移民してきた地球人類がアボを駆逐したのか。それともアボが人類を殺し尽くしてその姿を奪い、「自分たちが人類である」と思い込んでいるのか。サクリと読み応えのある文章で面白かったですが、特に気に入ったのは第二部にあたる「ある物語」。インディアンの風習を彷彿とさせるタッチで描かれており、文章センスがもっとも冴え渡っているパートだと思います。資料を読む順番が前後するため事実関係がモザイク状になっている「V・R・T」も飽きさせない造り。

 設定を明かす速度は非常にゆっくりとしており、第二部を読むに至るまで作品世界の輪郭はぼんやりと霞んでいる。作品自体の構造が判明する第三部に入ってようやく眺望が可能となるのだから、気の長い読者でないと途中で放り出してしまうかもしれない。いくつかの謎と未回収の伏線を残し、「もしかして……いや……」という疑念の余韻を波紋のように広げつつも静々と幕を閉じる。スリリングな一冊でした。


2005-01-02.

・年越しナポリタン。トマトの酸味とともに新年を迎えた焼津です、こんばんは。

イージーオー、約一年ぶりの更新

 目を疑いました。新年の奇跡だ……『幼なじみな彼女』も発売日が決定している。今年は幸先良さそう。

・前回の続きで2004年の趣味生活を振り返ります。

[小説−ジャンル:短編]

第一位 「カウントダウン」/デイヴィッド・イーリイ−『ヨットクラブ』
第二位 「タイムアウト」/デイヴィッド・イーリイ−『ヨットクラブ』
第三位 「傳説」/山尾悠子−『山尾悠子作品集成』
第四位 「天使解体」/津原泰三−『綺譚集』
第五位 「六月三十日 流星」/古処誠二−『七月七日』
第六位 「ラギッド・ガール」/飛浩隆−『SFマガジン 2004年2月号』
第七位 「呪扇」/森山東−『お見世出し』
第八位 「Dead for Good」/舞城王太郎−『みんな元気。』
第九位 「畳算」/福井晴敏−『6ステイン』
第十位 「マルドゥック・スクランブル“−200”」/冲方丁−『SFマガジン 2004年2月号』

 なんか忘れてた気がしたけど、これだった。ついでに書いてみました。「カウントダウン」は短くてシンプルながら短編としては理想的な仕上がりになっていると思う。同作者による、滅亡したイギリスを一から捏造するという破天荒なスケールの「タイムアウト」も面白かった。「傳説」は小説で音楽を表現する試みらしく、喚起されるビジョンが脳の奥に迫ってくる。割とタイトルそのまんまな内容の「天使解体」は、結末の投げっ放し感が却って強い印象を残す。「六月三十日 流星」は「天皇陛下万歳」をカタカナで書くといかに物悲しく映るかを発見させる一作。「ラギッド・ガール」は“廃園の天使”の番外編で、面白いことは面白いけど早く『空の園丁』出して……と言いたくなる。「呪扇」は生娘たちを材料に呪いの扇子をつくる話。淡々とした筆致が余計に壮絶な光景を浮き立たせる。怖ぇ。「Dead for Good」はなんとなく気に入った作品。正直、舞城作品には飽きてきているけど、もうちょっと付き合う気分になった。防衛庁の工作員が人知れず活躍する連作集『6ステイン』の中で一番面白かったのは「断ち切る」だったが、あれは長いので「畳算」を挙げた。タイトルの意味が分かると、物凄く引き締まって見えてくる。「マルドゥック・スクランブル“−200”」はシリーズ2つ目の番外編で、未だに本編を読んでいない当方でも楽しめる。

[小説−ジャンル:新人]

 もう一つついで。新人スキーを自称する当方、今年は50人弱(うちライトノベルが30人くらい)をチェック。しかし「これだ!」という新人は特にいなかった。鎌池和馬はデビュー作で「ひょっとすると……」と期待させられましたが、以降はギリギリ低空飛行な雰囲気が続いて推し切れない。壱乗寺かるたは個人的に好きではあるものの、ノリが独特な文体といい、ウケる層が狭そうではある。田代裕彦も語り口の良さと「萌え」の扱いが巧いところが期待できるが、少々小粒な感は否めない。有川浩日向まさみち平坂読片山憲太郎も好感触だけどそれぞれ1冊しか読んでいないので判定は難しい。ライトノベル以外では神山裕右(24歳)神津慶次朗(20歳)の「若き二神」が、瑕疵はあるにせよ見所もあると感じました。でも化けるかどうかは読めない。こと新人に関しては微妙な年でした。「ある意味では新人」な天城一の初商業単行本が出版されたことは嬉しかったけれども。

 新人、とは違いますが、今年初めて作品を読んだ作家としては伊坂幸太郎森橋ビンゴ桜坂洋ベニー松山古川日出男吉川良太郎野尻抱介天童荒太山尾悠子森見登美彦重松清ロバート・R・マキャモンの12人がアタリでしたね。

[マンガ]

第一位 『RED』
第二位 『デスノート』
第三位 『苺ましまろ』
第四位 『スティール・ボール・ラン』
第五位 『家政婦が黙殺』

 気が付けばほとんど読まなくなっています。去年より読んでないかも。1位に選んだ村枝賢一の『RED』は今まで読んでなかったのが不思議なくらいツボにハマる作品でした。ヘイトソング、カッコ良すぎ。デスノは各所で話題になっていたため釣られる形で着手しましたけど、週刊少年誌に連載されているとは思えない心理戦重視サスペンスで度肝を抜かれました。誇張が激しいとかロジックに無理があるとかいった批判もありますが、美麗な小畑絵と相乗するインパクトの前ではそうしたことも瑣末事に思えてくる。『苺ましまろ』はある意味で「萌え」を見詰め直すキッカケになった。アナたんがたまらんのです。SBR、ジョジョでありながらジョッキーとしても楽しめるストーリー。荒木飛呂彦の面白さを再確認させてくれる。『家政婦が黙殺』はたぶん今年読んだマンガで一番笑った。篠房六郎、この手のギャグもたまにでいいから描いてくれないものか。『空談師』や『ナツノクモ』はオンラインゲームをやったことのない当方にはピンと来ない作品でした。

 上記以外では『ハネムーンサラダ』『クロサギ』『トリコロ』『ラブロマ』『ブラック・ラグーン』『犯罪交渉人 峰岸英太郎』『天のおとしもの』『年上ノ彼女』『DOGS』らへんが新規の収穫。前年からの継続では『School Rumble』『ヘルシング』、あとは『蟲師』くらいか。

[アニメ]

第一位 『灰羽連盟』
第二位 『雲のむこう、約束の場所』
第三位 『宇宙のステルヴィア』
第四位 『ギャラクシーエンジェル』
第五位 『ローゼンメイデン』

 ロゼメと雲むこ以外はビデオで観た分。いや、ギャラエンはテレビでも第四期をやってたか。灰羽は途中で眠気を誘われて「ハズレか……」と落胆しかけましたけど、最終巻でいっぺんに引っくり返りました。呆気に取られて最初から見直した次第。雲のむこう〜は、んー、ストーリーが足を引っ張ったか。映像美の極地に立つ作品とはいえ。ステルヴィアはありきたりだけど、変にスケールが膨らんで全面戦争とかに突入しないあたりが良い。ギャラエンは「アニメ界のモンティ・パイソン」とまで言われるメチャクチャぶりが良くも悪くも脳天気で爽快。ロゼメは5話目で一気に面白くなりましたね。さっくり終わってしまったのが残念。某ネコミミモードについては本編がそんなに(略)。そういや年末に見たラピュタも面白かったなぁ。

[映画]

第一位 『ショーシャンクの空に』
第二位 『座頭市』
第三位 『インファナル・アフェア』
第四位 『スズメバチ』
第五位 『HERO』
第六位 『ソードフィッシュ』
第七位 『ブレイド2』
第八位 『アイ』
第九位 『シカゴ』
第十位 『シックス・ストリング・サムライ』

 劇場に足を運んだのは『雲のむこう、約束の場所』だけで、これはアニメの方に分類してしまったから、実写モノについては正真正銘ゼロ。映画館離れが進んでいます。ランキングは全部ビデオで借りたものですが、『座頭市』と『HERO』はテレビでも再視聴した。あと『リベリオン』のDVDを借りてしつこく何度も繰り返し観たりとか。いつ観てもガン=カタは最高。

[ゲーム]

第一位 『Fate/stay night』
第二位 『Forest』
第三位 『PARADISE LOST』
第四位 『ショコラ』
第五位 『蒼色輪廻』
第六位 『こなたよりかなたまで』
第七位 『Quartett!』
第八位 『リアライズ』
第九位 『月陽炎DVD』
第十位 『奥さまは巫女?R』

 一般ゲーは一つとしてやらず、すべてエロゲー。しかしそのエロゲーも7月までは旺盛にプレーしていましたが、8月からペースが落ち始め、11月でパッタリやみ、結局コンプしたのは20本足らず。途中で投げてるソフトも10本くらいあります。『おしかけプリンセス』『大番長』『MinDeaD BlooD』『巣作りドラゴン』『姉、ちゃんとしようよっ!2』『家族計画』『はるのあしおと』『瀬里奈』『ゆきうた』。面白いと思っても、短期間に集中してプレーしないと起動する気がなくなってしまうんですよね……。

 『Fate/stay night』は書くまでもない気がするので割愛。50時間たっぷり満喫しました。『Forest』は中堅メーカー・ライアーソフトの割に3000本も捌けなかったとか言われていますが、投げ売りされたという話を聞かないところからしてそもそも売ろうとした痕跡がないような。去年のソフトでは一番強烈でした。人にとっては名作、人にとっては地雷。「物語を愛し、物語を憎む、すべての人々へ」な一本です。『PARADISE LOST』は、去年ニトロプラスの完全新作が出なかった分、Fateともども持て余す「燃え」方面の欲求をカバーしてくれました。文章のおかしさで叩かれたりもしましたけど、ストーリーテリングの手際は見事であり、個人的にはベスト3に推して然るべき熱量の塊なソフト。『ショコラ』は去年最萌の一本。6人+αのヒロイン中、4人にズキュゥゥゥゥンとやられた次第。先日再販されたのでオススメしやすくなりました。『蒼色輪廻』は発売前は完全に眼中になかったダークホース。評判がよろしくて手を出してみたところスマッシュヒット。一種の「ループもの」で、何度も生き死にを繰り返しシリアスとギャグが混濁する内容をカオスに陥ることなく描き抜いたライターの手腕には脱帽です。堂浦は去年やったゲームの中でもっとも印象に残った主人公。

 と、文句なく面白かったのは5位までで、6位からは条件付き。『こなたよりかなたまで』、ボリューム不足。特に九重二十重は登場する意味がほとんどない状態になっている気がしました。しかし、末期癌という「逃れる術のない病」に冒された主人公が、「不死」の象徴たる吸血鬼と出会う設定は一見闘病モノと伝奇モノを混ぜ合わせたゲテモノのようでいて意外にハマっており、基本線は面白かった。『Quartett!』はFFDというシステムの都合上、尺が取れないことは分かり切っており、それは別に良かったんですが、「短い枠で魅せる」というシナリオの対応が追いつかなかった感じ。某ルートの結末は「うーん」でした。大槍絵好きなので概ね満足ではありますけど。『リアライズ』はオチがついていない……まんまジャンプの「第一部・完」。広がっていくストーリーが面白かっただけに残念。『月陽炎DVD』はボリュームの点で不満はなく、大いに萌え転がりましたし、当時はまだ少なかった「萌エロ」をキッチリこなす手際には感激しましたが、後半の無理な伝奇展開がやはり「うーん」。普通に恋愛モノであってほしかった。『奥さまは巫女?R』、これ、パロディだらけ。コメディ的な遣り取りは面白いが、細かいネタが分からないと笑えない箇所も多かった。「認めたくないものだな、若さゆえの過ちというものは……」ならまだともかく、「がんばれキン君!!」や「あぶらすましのすまちゃん」ってどれだけ通じているんだろう。

[執筆作業]

 去年書いたのは「アップル・オブ・ソドム」「焼点」「それは、宇宙を侵す愛」「魔法少女忌譚修」の第3話、「ガールズ・ドント・クライ」の1話から4話まで。SSサイトを標榜していないとはいえ、あんまり書いてませんね。今は「魔法少女忌譚修」の第7話の担当パートと、GDCの5話に掛かっているところ。魔法少女〜の方がまとまり次第、一ヶ月以上休んでいるGDCも再開するつもりです。

・あと「キモウト」が「キモい妹」なのか「キショい妹」なのか「キ○ガイ妹」なのかハッキリしないままでした。心残りと言えば心残り。


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