2004年11月分


・本
 『復活の地3』/小川一水(早川書房)
 『海のオベリスト』/C・デイリー・キング(原書房)
 『カレとカノジョと召喚魔法』/上月司(メディアワークス)
 『生首に聞いてみろ』/法月綸太郎(角川書店)
 『源にふれろ』/ケム・ナン(早川書房)
 『密室の鎮魂歌』/岸田るり子(東京創元社)
 『鬼に捧げる夜想曲』/神津慶次朗(東京創元社)

・ゲーム
 『魔法はあめいろ?』体験版(Sirius)
 『処女はお姉さまに恋してる』体験版(キャラメルBOX)

・映画
 『雲のむこう、約束の場所』


2004-11-29.

・オッス、オラ焼津! 急な出費があって残金が底を尽いてるけどなんだかワクワクすっぞ! と空元気を出しつつこんばんは。

『ファウスト 第4号』を購入。

 例の合宿企画(乙一、北山猛邦、佐藤友哉、滝本竜彦、西尾維新の5人が沖縄へ3泊4日する間に競作とリレー小説の原稿を書く)をひと通り読み終えました。今までの企画の中では一番面白かったかも。作品がどうこうというより、個人的に注目している5人が揃って合宿すること自体が。とりあえず競作の奴は滝本、西尾、佐藤、乙、北山の順で気に入りました。

『処女はお姉さまに恋してる』、体験版プレー。

 部屋に入った瞬間に、男にしかわからない強く生臭い匂いが僕を襲った。
 ドキドキが最高潮に達していた筈の、僕の緊張すら一発で吹き飛ばしてしまう匂いだ……。
 (中略)
 そうかぁ…たくさんの女の子が集まるとこんな匂いなんだ……

 うっかり偶然の悪戯で女子たちが着替え中の更衣室に入ってしまったことのある当方のトラウマをいたく刺激するテキストを綴った本作は、美少年である主人公が女の子に変装して女学院に入り込むというアンダーカバーでリリィでドタバタ調の学園青春エロゲーです。発表当初から「マリ○ての微妙なパクリ」と生ぬるい反響が湧き上がったり湧き上がらなかったり。

 「本編の15%相当を収録」といういまいちピンと来ない尺度で示される分量は、当方がやったところでは最初から最後までだいたい4時間くらいでした。これを6.6倍した数が本編に当たるわけですから、ザッと26時間を超えることに。結構な分量だ。主人公本人には女装癖がなく不本意ながら通うこととなるため、序盤は気苦労の連続。そこが普通の学園モノと違ったノリで面白いわけですが、だんだん慣れてくるとノリも「普通の学園モノ」と大差なくなっていく。なんと言いますか、物凄くウケる面白テキストはそんなになかったですね。あとイベント絵も、正面はともかく横顔がちょっと……なの多かったです。

 第2話から出てくる一子は順にゃんこと草柳順子、つまりあのマシンガントーカーとして有名な声優さんが務めるだけあってキャラ立ちまくっています。立たないはずがない。加えて疑問符や感嘆符が浮かんだり顔が真っ赤になったりなど、立ち絵における演出もなかなか凝っていてGoodでした。メインヒロインのみならずサブキャラもイイ味出してる。サブの立ち絵もそれなりに多く、声まで付いているのでなかなか賑やか。全体的に見れば「ご都合主義」「ベタ」「お約束」と言われる類のストーリーですけど、その分、コメディとしては手堅くまとまっているのではないかと。十条紫苑の空条承太郎ばりな誘導尋問には笑った。

 一番残念なのは濡れ場かなぁ……一人称なのにほとんど状況描写に徹しているため主人公のエモーションが伝わってこないというか、どうもよそよそしい。せっかく「女装しながらH」というマニアックなコンセプトを立ててるんですから、もっとシチュやテキストにはこだわってほしかった。

 よほど一月の予定が切羽詰っていない限りは突っ込みたいと思います。なんだかんだ言って特殊な設定で、しかも絵柄が好みのゲームなんて、その手の嗜好の持ち主には見逃せないわけですよ。基本が学園モノとはいえやっぱ特殊ですし、広くオススメする気はしませんが、ノリを掴むには充分な内容なので「女装潜入」に興味がある方はプレーしても損ではありません。

 そしてちょうどいいタイミングで書きあがったのがこれ↓

・デモンベイン/ウィンフィールドSS「ガールズ・ドント・クライ」第四話アップ。

 うん、これだけはやりたかった。

 ひとまずここまで来れば差し当たって思い残すこともないので、あとはいつ打ち切ってしまってもいい気分です。というのは冗談で、余力がある限りはまだまだ続けたいです。

 それにしても、現時点で当方が手掛けたデモベSSとしては最長になりました。たぶん次回の更新でSS全体における最長作となります。尚更「初の未完モノ」にはしたくない。


2004-11-27.

・(゚∀゚)<乳酸菌とってる?

・本屋の店頭で見かけた『愚か者死すべし』の平積みが感慨深い焼津です、こんばんは。10年ぶりの新刊。「新・沢崎シリーズ、第1弾」ということは第2弾や第3弾も期待していいのか? ともあれこの勢いで来月の星界新刊もちゃんと出してくださいよ、ハヤカワ。

 それにしても“廃園の天使”第2部『空の園丁』はまだー?

『処女はお姉さまに恋してる』、体験版公開

 来たね、来ましたね。「主人公が女装ってなんだよ、なに考えてんだよ('A`)」と嘆く人々の傍らで一部の特殊趣味保有者(当方含む)が快哉を叫んでいたオトボクが。ちなみに「オボコ」と略すと「未通女」になるのでエロいです。

 まだプレーしてませんが、週末には片付けてしまいたい。

切嗣と言峰「STparusu DIGITAL HOME」経由)

 ふてぶてしい切嗣が最高です。若々しい言峰もイイ。


2004-11-25.

・あー、『BECK』面白かった、さあ寝よ……というところで更新してないことに気づいた焼津です、こんばんは。でも今日は特にネタがないです。

『FOLKLORE JAM』廉価版

 ぬ、またしても丸戸史明の過去作が。彼を推そうとする潮流でもできているのかしらん。FJ、当方自身はあまり高く評価していませんけど、つくりが丁寧で安心して遊べる内容だと思いますし、『ままらぶ』『ショコラ 〜maid cafe ”curio”〜”Re-order”〜』に注目されている方は「ついで」として視野に入れてみてはいかがでしょう。年上の幼馴染み(ノッポ)に弄られ、生意気な下級生(ちっこい)に軽んじられる主人公の立場はなかなかに美味しい。

榊一郎シナリオの『神曲奏界ポリフォニカ』

 今年は既に8冊も出したのにこんな仕事までしているとは……。


2004-11-23.

・うわ、タイトルまで侵蝕されてる。いつの間に。

『雲のむこう、約束の場所』観に行ってきました。

 今年の映画に関してはこれが観れただけで満足です。『ほしのこえ』の方は結局劇場で見れなかった分、こればかりは何としてもスクリーンで鑑賞したかった。その願いが叶って感無量。

 北海道が占領されて「蝦夷」に戻ってしまった世界。青森に住む中学生の少年ふたりが飛行機をつくり、国境を越えて蝦夷に聳える「天を衝く塔」まで飛んで行こうと計画していた。彼らはひとりの少女と、「君も連れて行く」と約束する。けれどそれは守ることのできない約束だった……な、とにかく全編に渡ってこれ、胸の奥のノスタルジーが掻き立てられる内容です。言ってしまえば物語そのものは歪。郷愁や切なさ、憧れといった鮮やかな感覚に奉仕する部分以外はあらかた削られてしまっており、すごく不安定に見えます。中学時代を「過去」、高校時代を「現在」として対比する構成も、ヒロインの陥る状況や少年それぞれの立場も、ある意味で前作を拡大しただけのような相似形で目新しさはなく、全体的にもっさりした流れで緩急も乏しい。シチュエーション特化型と言いますか……あくまでストーリーのみを取り出せば「面白かった」とは肯定できません。

 しかし、映像作品としてはこれ以上ないほどの美しさを有していて、そうした不満も最終的にはさして気に掛からない。あらゆる歪さを帳消ししてなお余りある細部へのこだわり。風景ではなく情景としての描画が一つの境地に達しています。光の溢れ具合なんかが最高ですね。畳んだ傘の先から地面に広がる雫とか、靴のつま先で水面を叩いたときにできる波紋とか、公式サイトのTOP絵にある線路の上をバランス取りながら歩くヒロインとか、それ自体は大したことないのに、そうした「細かさ」の積み重ねが在りし日の「日常」を想起させ、チクチクと懐かしくももどかしい気持ちを刺激する。ささやかな視点のズレが、ひどく心地良い。音響も凝っていましたね。「流れ」ではなく「細部」で魅せます。だからきっと、この映画は何度も重ねて観るごとに厚みが増して心のどこかにしっかりした層を成す類の作品だと思う。ちりばめられた要素の一つ一つを拾い、それをどう組み立てていくかがこの作品を観る上でのポイントではないかと。「ポイント」という言い方はいやらしいかもしれませんが、空を仰いで移ろいゆく雲をぼんやりと眺めたときに湧き上がる、あの時間と空間が攪拌されて希釈していく遥かさ、「視界の景色が一瞬遠くなる感じ」を追想することができれば、スクリーン越しの世界を頭上にある空と同じくらい親しい場所に変えられる。映像の向こうに存在する滑らかな質感の「空気」を手繰り寄せてください。本当のスクリーンは胸の奥にあります。

 それにしても戦闘シーンの華やかさは一際のものでした。重点がそこに置かれているわけではないけれど、あのシーンの淡々とした戦火が、直前におけるバイオリン演奏と比較される形になっていて非常に印象深い。無防備な感情のすぐそばにまで迫られた気がします。待ち焦がれた甲斐のある一本でした。


2004-11-21.

・幼い頃に遭遇した事件がきっかけとなり、「人を笑わせなくてはならない」という呪いのような衝動に後押しされて漫才師を目指すことに決めた衛宮士郎。彼は運命の夜、「問おう。貴方が私の相方か──」とハリセンを静かに垂らすセイバーに出会い、未曾有の規模を誇る「笑杯戦争」に巻き込まれていく。回避不能なランサーの高速ツッコミや、彼方からやってくるアーチャーの長距離ツッコミ、ボケたことを自覚する間もなく入れられるアサシンの急襲ツッコミに、ライダーが繰り出すマウント・ポジションの騎乗ツッコミ、年齢を無視したキャスターによるリリカルでマジカルなツッコミ、観客を巻き込むバーサーカーの暴れツッコミといったサーヴァントたちによる多彩なツッコミ、そしてマスターたちのあらゆるボケを潜り抜け、芸の頂点を極めんとする士郎&セイバー。最弱のボケと最強のツッコミが織り成す異色のコンビ、彼らは理想とする「お笑い」を貫けるのか。

「その体は、きっとネタで出来ていた」

 そんな『Fate/warai night』はイヤだ。こんばんは、焼津です。

ローゼンメイデン絵(ジンガイマキョウ)

 真紅様(*´Д`)ハァハァ

 のばら(『妖幻の血』)といいネム(『ブラックランド・ファンタジア』)といい、「両手で抱えられるサイズの高飛車娘」には何か不思議な脳内物質を分泌させる能力があると信じて疑わない深秋の宵。

『魔法はあめいろ?』の体験版?をプレー。

 なぜ「体験版?」なのかというと本編が一切収録されていないからです、たぶん。3人のメインヒロインたちによるゲーム紹介・キャラ紹介が主柱になっている、体験版の類としてはあまり面白みのない構成。しかし、ヒロインそれぞれの個性がキッチリ出ているせいか、テンポも良くてサクサク楽しめました。だいたい30分くらいかな。結構長かったです。

 やはり大声&ハイテンションではしゃぐ甘宮ひよこのオバカっぷりが面白かったですが、背ぇ高美人の花苗もなかなか。ボソボソした声での喋りは遣り取りのテンポを崩すことも多いけれど、声優さんの演技のおかげかあまり気にせず馴染むことができた。「背が高い(猫背気味)」「おとなしい」「ぼんやりした表情」「ロングでストレートの髪」、そして何より「貧乳」。一番背が高いのに一番乳が低い。なんとー! いや、ステキだ。翻って環はふたりの存在感に負けてやや目立ってないなぁ。「ぬるぬるした食べ物が好き」という意味深なプロフもあったりしますが。

 日常の中に不思議な「能力」が存在している、という設定は『Wind』を思い出させますが、肝心の「能力」はあれ以上にささやかです。主人公の「ぬるくなるものをぬるくする能力」はピンと来ないにもほどがある。そうした要素をどう恋愛劇と絡めてくるか、注目と言えば注目ではありますね。本編が入ってないとはいえだいたいキャラの性格は分かったし、コメディ的な掛け合いも面白かったので購入確定にしておきます、まほあめ。


2004-11-19.

・スパムメールを捨てることが趣味となりつつある焼津です、こんばんは。

・『白貌の伝道師』、読み方間違いの訂正と発売形態の詳細

 「はくめん」は当て字として読めなくもないので信じかけてました。にしても、「発売/販売 :ニトロプラス」とは。てっきり角川あたりと思ってました。更に「新書版」で「ハードカバー」。『クリス・クロス』『ブラックロッド』のような体裁でしょうか。

・岸田るり子の『密室の鎮魂歌』と神津慶次朗の『鬼に捧げる夜想曲』読了。

 第14回鮎川哲也賞受賞作。同時受賞です。どちらも刊行に際して改題されており、前者は『屍の足りない密室』、後者は『月夜が丘』がもともとのタイトルでした。「鎮魂歌」と「夜想曲」ではパッと見に混乱しそうですし、特に『鬼に捧げる夜想曲』は内容が想像しにくいので、改題するにしても他に何かなかったのかなぁ、というのが率直な思い。店頭で目にしたとき、あまり購買欲が湧きませんでした。

 揃って読み終えたので一緒に感想書いちゃいます。『密室の鎮魂歌』は現代を舞台にした本格ミステリで、ちょっとサスペンスが入っている。「服毒した痕跡を残して密室の中から消失する」という世にも奇妙な失踪を遂げた篠原鷹夫、その背中にあった刺青の図案が、新城麗子の発表した絵に載っているという。鷹夫と麗子は互いに面識がないはずで、麗子が彼の失踪に関与しているとは思えなかったが、図案は「偶然の一致」では片付けられないほど酷似している、と鷹夫の妻・由加は主張する。フランスのカタコンブを背景にした絵と、生きているのか死んでいるのかも分からないまま煙の如く密室から消え失せた男。二つの接点はいったいどこに……といったストーリー。

 これに対して『鬼に捧げる夜想曲』は昭和二十一年、終戦直後を舞台にした探偵小説チックな作品です。外観が鬼の角みたいに見えることから「鬼角島」とも呼ばれている島で、婚礼を迎えたばかりの夫婦が惨死するという怪事が発生。新郎の戦友であり、彼を祝福するために足を運んできた乙文明は事件に戦慄するとともに、ゾッとするぐらい美しい少女・門谷美咲に惹かれていく……とまあ、実にベタベタなあらすじ。

 なんとも好対照な二作品です。解説で島田荘司の書いた「成熟したおとなの女性と、十九歳の青年」の違いが如実に現れ出ている。『密室の鎮魂歌』はしっかりと落ち着いた文章で危なげなく物語を紡ぎ、ひとりひとりのキャラクターに個性を与えつつ、先の読みにくい展開で読者を翻弄する。「ワインからアーモンドの匂いがする……」「青酸カリ!?」という部分が最後まで疑問に残った(青酸カリそのものに臭いはなく、胃液と反応した際に発生する青酸ガス(HCN)がアーモンド臭を放つ。しかもこの「アーモンド臭」は食用としてよく口にする種子の方ではなく甘い香りを持った果実の方)ものの、それ以外ではソツのない堅実ぶりを見せつけ、楽しませてくれた。読み返してみると細かいところまで伏線が張っていることに気づいて面白い。ただキャラの造型がいくらか生々しく、読んでいて不快な気分になることも。また、堅実すぎて「もっと派手な冒険をかましてほしかったな」と物足りなくことも確かです。

 そして派手な冒険をかましてくれたのが『鬼に捧げる夜想曲』。グラグラしました。作者は応募時19歳、受賞時20歳と、本格の書き手にしてはとにかく若い。作風は横溝正史+京極夏彦といった感じで、特に横溝の影響がかなり強い。設定時代が接近しているだけでなく、『本陣殺人事件』『蝶々殺人事件』が「あの事件」などといった風に実在の事件としてほのめかされたりして、露骨にオマージュ精神が見て取れる。事件の起こる島の閉鎖社会っぷりといい、事件自体の凄惨さといい、ひたすら横溝道を突き進んでいった結果、一つの境地に達してますね。「19歳」という年齢を裏づけするように文章はこなれておらず、引っ掛かりを覚える部分やぎこちなく映るセリフ回しも多かった。終盤も「詰め込み過ぎ」という見方を否定できない。しかし、「解決編」へ読者の興味を引き込む手際は堂に入っており、当方もドキドキワクワクした心持ちで読み込んでしまいました。瑕疵が多数ゆえに減点法を取れば目を覆う点数になりかねないとはいえ、ギリギリで独自の魅力を掴むことに成功しており、「これはこれでありだな」と思います。優に600枚を超える分量も苦にならなかった。冷静に見れば計算の行き届いた内容で「派手な冒険」とは言えないけれど、「落ち着いた」雰囲気の『密室の鎮魂歌』とは明瞭に異なる「落ち着かなさ」を感じさせてくれた一作。

 結論。購買欲をそそられなかった割に、どちらとも良い出来でした。元来「端整より荒削り」という性分なため、個人的には『密室の鎮魂歌』よりも『鬼に捧げる夜想曲』の方が好みに適っています。しかし客観的に見ると『密室の鎮魂歌』の方がクオリティは上かも。どうだろう。何にしろ、今年の鮎川賞は当たり年か。


2004-11-17.

・冷蔵庫の中身を把握できない男、焼津です。こんばんは。己の計画性のなさを痛感させられる事実。買ったかどうか記憶があやふやなものが奥から出てきたりします。ギャー。

『ヤングガンガン』、12月3日創刊「MOON PHASE」経由)

 最近のガンガンに関しては『鋼の錬金術師』『妖幻の血』のコミックスぐらいしか買ってませんが、昔はかなり好きだったなぁ。浅野りんとか天野こずえとか。ふたりとももう移籍しましたけど。金田一蓮十郎と木下さくらにもある時期までは入れ込んでいた。そういえば昔『ギャグ王』という4コママンガを中心にした構成の、5年くらいで休刊した雑誌がありました。あれで一番好きだった『うめぼしの謎』、休刊に伴って単行本未収録の話もいくつかあったんですが、後にまさかの完全版が出て非常に嬉しかった記憶があります。『速攻生徒会』の完全版が刊行されたときと同じくらい狂喜した。

 えーと、話を戻しますと。ラインナップの中に月野定規が混ざってますね。この人は「エロ」と「笑い」のバランス取るのがうまくて注目してます。んー、隔週のマンガ誌で「定価270円」というのは安い方なんですかね。とりあえず、読んでみたいのは2、3作程度かなぁ。

『富豪刑事』がドラマ化「Mystery Laboratory」経由)

 主演は深田恭子。これの原作好きでした。湯水のように金を使って事件解決するってノリが新鮮で。元々は母の方が筒井康隆にハマっていて、これと七瀬シリーズを推薦されたという経緯だったはず。続編を望む声も多かったみたいですが、結局1冊きりでしたね。主人公の性別が変わっているところからして、「富豪な刑事」という設定だけ貰ってシナリオとかは別物にしてしまうんだろうか。原作は大して話数ないし。

 そういや以前七瀬が映像化された際、筒井康隆本人も出演していたことがありましたけど、今回はそういうことないのかしらん。

・今週の『月詠』はエンディングに島田フミカネさんの描いたイラストが出てくるから……とキッチリ予約していたのに「放映時間15分ズレ」のことを忘れていました……orz。ちゃんと録れてた知人に頼んで見ることは見れましたけど、己の迂闊さを責めたい気持ちは消えず。


2004-11-15.

・久々に夢ネタ。書店で「冲方丁:原作、板垣恵介:画」というマンガが新刊として山積みされている夢を見ました。タイトルは『バロック』。中学生時代の刃牙みたいな少年が夜中に全身黒タイツでビルの屋上から仰向けに飛び降り、地上を行き交う車のライトを背にしているのが表紙で、裏表紙は花山薫のような巨漢が重機関銃を乱射している絵。あらすじは読まなかったし中も見なかったのでどんな内容か分かりませんが、覚めた今でも「読みてぇ」と思うことしきり。

『源にふれろ』の肌を浸透してくる文章に惚れ惚れ。カリフォルニアを舞台に「失踪した姉」と「サーフィン」を軸として展開する青春小説なんですが、読むにつけ文章が目に馴染むこと馴染むこと。

 眼下にひろがる海はガラスのようになめらかで、顔をなでる風は軽くさわやかで、潮気をふくんでいた。が、もっとも心がおどるのは、小道を選んで海岸へくだって行くときだった。何列もの波のうねりを見つめながら。最初の波がふくれあがって爆発し、冷たい白い水が自分の上で砕け、その瞬間以外のすべてをさらっていくのを心に描きながら。

 海は暗くなり、海面にちらちらする陽光は、疾走する魚群のようだった。水平線に沈みはじめた太陽は、真っ赤になって紫の海を見つめていた。潮はひき、黒ずんだ波が岸へ向かってせりあがりながら進み、波頭からふきあがる霧のようなしぶきは金色のみごとな弧を描いた。空中へ舞いあがった弧は、ひろがりきってから、炎のかけらのような光をまき散らしながら海に落ちた。

 結構みっちりと字が詰まっている割に、読みにくさを感じない。邦訳が18年前とはいえ劣化を窺わせる部分はなく、今読んでも充分に面白いです。「こんな青春小説が読みたかった」と思う一冊。なんとなく買いましたが見事な「アタリ」だ。

2005年夏発売予定の『Dancing Crazies(仮)』情報(ソフトハウスキャラ)

 絵柄もさることながらバックに浮かぶ単語の数々も期待を膨らませてくれる。『南国ドミニオン』ともども楽しみナリ。


2004-11-13.

・あ……昨日更新するの忘れてました。こんばんは、健忘ガイの焼津です。

・デモンベイン/ウィンフィールドSS「ガールズ・ドント・クライ」第三話アップ。

 ニャル様がみてる。というわけでようやく本編に入りました。入ったはいいが、地味。次回でなんとか盛り上げたいものです。あと、あっちのあの時代のハイスクールはよく知りませんので、現代日本の高校みたいなノリで行こうと思います。

・法月綸太郎の『生首に聞いてみろ』読了。

 タイトルは都筑道夫の『なめくじに聞いてみろ』をもじったもの。内容は探偵・法月綸太郎シリーズの長編第7弾。エラリイ・クイーンにあやかって作者名と探偵名を同じにしている(作中の法月も推理作家なので職業まで一緒)このシリーズは長編の他に短編集も3冊出しています。短編集最新刊の『法月綸太郎の功績』は割合最近に出ましたが、長編は『二の悲劇』が94年に出たっきりでしたので実に10年ぶり。ホント、久々です。

 前衛彫刻家として有名な川島伊作が自宅のアトリエで倒れ、そのまま帰らぬ人となった。彼は娘の江知佳をモデルにした最後の作品を遺していたが、ある異変を目撃した遺族は震撼する。石膏像の首から上が切り取られ、持ち去られていたのだ。警察に通報することを控え、伊作の弟・敦志は推理作家であり探偵でもある法月綸太郎に「首」の捜査を依頼する。だが、彼が事件の真相を探り出すよりも早く、凄惨な悲劇が巻き起こり……。

 「首」にまつわる物語。原稿用紙にして1000枚近く、構想はなんと15年。途中まで書いた原稿を破棄して一からやり直したりするなど、かなりの難産だった模様です。それだけに読み応えのある一冊となっています。さすがに『ノーカット版 密閉教室』なんかと比べたら雰囲気はだいぶ違うものの、文章のクセを消し、角を削ぎ落としてマイルドにしつつも法月の持ち味は失っていない。ただ終始淡々とした筆致なため、通しで読もうとすると集中力が切れてくる箇所もあります。それでも時間をかけた作品だけあって休止を取りながら読めばちょうどいいテンションで読める。本格ミステリの基準で言えば親切な文体であり構成です。

 マイルドな法月作風の味わいが心地よく、事件が発生するまでの序盤も割と楽しく読めましたが、推理が二転三転し、論理のアクロバティックを披露する場面ともなれば一気に惹き込まれる。まだ半分もいっていないあたりで「おおっ」と虚を衝かれる展開もありました。彫刻家の死が事件の発端となっているだけに、合間合間で彫刻に関する薀蓄じみた説明が挟まりますが、これが余計な装飾にはなっていなくて面白い。彫刻でネックになってくる「目」の造型について、彩色すれば簡単に瞳を表現できるがそれでは彫刻の自立性が損なわれ、瞳を彫り込めば目の印象は強くなるけれど視線が特定方向に固定され、あえて目を空白にすれば「虚空を見ている」といった風に神秘的な表情を表現できるが逆に茫洋とした神秘性を排除するのは難しく、目を閉じさせてしまえば視線の問題を意識しなくて済むがそれだと表情が限定されてしまう……という具合に、彫刻への関心がゼロな当方でも興味を掻き立てられる主題でありページを繰る手も熱心になる。

 元よりミステリでは「首の切断」や「生首」は一つのテーマとなっていて、笠井潔の『バイバイ、エンジェル』でもそのことが論じられています。首を切るという行為は象徴云々を別にしても単純に重労働で、特に意味もなくすることではありません。そこには何らかの理由や意志が存在している。法月綸太郎はそうした「理由」や「意志」を巡って東奔西走、四苦八苦、七転八倒して推理を繰り返します。法月シリーズは「探偵=語り手」という仕様になっていますから、「優れた叡智を持つ探偵が早々と真相を予見しつつも語り手には明かさない」みたいな構図を描くことがなく、意図的に読者へ考えを晒すのを回避することはままあるにせよ、あくまで「試行錯誤」が基調。割と軽率に仮説を漏らしては「無理がある」「バカバカしい」「ちょっとね……」などと周りから諌められるのが常です。シリーズ第2弾の『誰彼』はその傾向が特に強く、ほとんどコリン・デクスターみたいになっています。今回は純粋パズラーじゃない分、『誰彼』ほど極端ではありませんけど、さながら怪物に挑む神話的英雄のごとく長く険しい道のりを踏み締めていく。

 後期クイーン問題のドツボにハマり込んで以来、素直に「名探偵」という存在を認めなくなってしまったシリーズですが、今回も今回で探偵・法月綸太郎は到底祝福されているとは言いがたい結末を迎えます。作者が苦難を経たのと同様に、作中の彼もまた苦難の中を歩み続ける。「淡々とした筆致」のおかげで重たくとも鬱の雰囲気にまで入り込んでいないのが救いか。なんであれ、待たされた甲斐のある本格ミステリでした。いや、さすがに10年は待たされ過ぎな気もしますけどね……それでも出たことを喜びたい一作ではあります。


2004-11-10.

・ダウンロードした体験版を結局やらず終いで『ままらぷ』ゲット。こんばんは、焼津です。先日も書いた通り、丸戸史明がシナリオを務めるhermitの新作。アメリカンホームコメディ調という珍しいノリでありながらなかなか好評を得ているようでプレーするのが楽しみです。

「魔法少女忌譚修」、第五話公開。

 今回は「Angel Gear ;IRC wiki」のウエ紙さん。第二部「承の章」に突入し、いよいよ本格的な魔法VS魔法のバトルが開幕。やはりリレー小説だけあって毎回ごとに書き手の味が出ていて面白いです。魔法描写とか。ストーリーそのものも盛り上がってまいりました。早く続きが読みたくなってきます。

・上月司の『カレとカノジョと召喚魔法』読了。

 ああ、あの少女マンガは最近読んでないなぁ。どうなったんだろう。

 そんな本編とはまったく関係ない掴みはともかくとして、こっちのカレカノは新人の作品です。上月司──電撃hp短編賞の最終候補ですが、受賞は逃したので無冠。同じ回で受賞した五十嵐雄策と一緒に先月デビューしました。今年に限ったことではないんですけれど、電撃は最近「下手なテッポも数撃ちゃ当たる」とばかりに新人を乱発する傾向にあります。沖田雅、柴村仁、有川浩、水瀬葉月、山科千晶、雨宮諒、鎌池和馬、マサト真希、佐伯庸介、橘早月、そして五十嵐雄策と上月司。来月にも1人出てくる予定ですので、今年は13人がデビューということになります。平均すると、だいたいひと月にひとり。しかもこの頃は3ヶ月間隔で新作とか、週刊マンガの単行本並みに刊行速度が上がってきていますから、毎月の新刊リストが大変なことに。もはや10冊オーバーは当たり前。この上月司も来月にカレカノ2が出版されるようであり、電撃はそのレーベル名に相応しい電撃進攻ぶりを見せている。

 さて、話が少しズレましたが、カレカノ。表紙イラストを見るに時代は現代で、「召喚魔法」というからきっと魔法学園が舞台で、「カレとカノジョ」というからにはボーイ・ミーツ・ガールもので、きっと内容は『ゼロの使い魔』みたいに違いない……と考えてましたが全然違いました。まずあらかじめ断っておきますと、タイトルに反して「召喚魔法」は頻出しません。幼い頃に主人公の少年が悪魔を召喚し、「ある代償」を払って願いを叶えてもらったのが物語の基点となっているということであって、異世界からバンバンと魔物や幻獣を呼び出してポケモンばりに戦い合わせたりはしない。ストーリーの大部分を占めるのは「まったく変哲のないフツーの学園」における日常生活です。

 常にニコニコしていて物怖じせず何を考えているんだかよく分からない主人公・遊矢、ポニーテールとSF(せいちょうしないふくらみ)が特徴で端整な美貌ゆえに全校生徒を魅了している代わり何人もの男子を病院送りにしたため「荒雪姫」と御霊のように恐れ崇められているヒロイン・雪子、バイセクシャルと公言し遊矢を狙いつつ雪子と対立している少年・玲の3人を中心に、ヒロインの友人で引っ込み思案の少女やら、突撃取材を旨とする新聞部員、巨乳の演劇部部長といったサブキャラを交えて展開する学園ライフはライトノベルのみならずマンガでもよく見られる王道的なタイプ。大まかな雰囲気は絵師のBUNBUNによる巻頭カラー7Pマンガで現れ出ています。強気少女の雪子がたまに勢い任せでオバカな発言をし、他のキャラに突っ込まれて焦る姿はなかなかキュート。美人で強気で乱暴でなにげにオバカな幼馴染み。本編中における萌え描写自体は少ないものの、存在が既に「萌え」です。『Dクラッカーズ』の梓が好きな当方はとっくに敗北済み。

 学園で起こっている事件が主人公の召喚した悪魔と関係しているかもしれない、という推測のもとで行動する主人公とヒロインのふたりを描いた序盤から中盤にかけては「事件捜査および推理」、つまり学園ミステリーや学園サスペンスのノリに近い。終盤に差し掛かるまでなかなか派手な展開がなく、正直に書けばかなりの中だるみを覚えました。360ページと、結構ある分量が災いとなった次第。新人ゆえかまだ粗いところはあるものの、文章に変なクセはなく、読みやすいか否かで言えば読みやすい部類の文章です。雪子(彼女の視点が話のベースとなっているため実質的な主人公と言える)の心情もキチンと織り込まれていて、投げ出したくほどのかったるさは感じません。それでも読み手の興味を引っ張り続けるパワーが不足している印象は拭えず、いざ事件の解決編に入ってからも盛り上がりは薄かったです。そのまま終わってしまえば凡作の謗りを免れなかったでしょうが、クライマックスが始まった途端、今までのだるさが嘘みたいな猛攻を繰り出し、一気にテンション・ゲージを跳ね上げてくれる。おかげで読み終わった頃には終盤以前のだるさと終盤以降の盛り上がりで帳尻が合ってトントンといった感想。万人受け、とまでいかなくても、鎌池和馬あたりに比べればアクが少なくて、食中りを起こす可能性は低い。ただ、鎌池は「ツッコミどころも含めて面白い」という作風なので、良くも悪くも強烈さがない上月はその分地味に映る。難しいところ。

 王道的な学園モノが好きな方にはオススメ。現時点では長さと内容の釣り合いといった構成の部分がネックですけど、今後の成長次第ではお気に入りの作家になるかもしれない。個人的には物語の構造が面白かったです。詳しいことを書けばネタバレになるので抽象的に書きますと、「自分以外の人間を巻き込んでまで命懸けの冒険をする理由が主人公にあるのかどうか」の答え──つまり「目的に関する設定」が、半ばメタ的な領域に踏み込んでいるところ。続編ではこのあたりをどう処理してくれるのか、注目するとします。


2004-11-08.

・不意に「我が家のふたなりさま。」という言葉が脳裏をよぎっていった節のある焼津です、こんばんは。どうやら『ふたりはいつもいっしょなり。』の露骨さに思考中枢を狙い撃ちされた模様。

スカートを裾を摘んで微笑む雪さん「DAIさん帝国」経由)

 「ブラボー」「ブラボー」(A/B風に)

 見ていて久々に『水月』をやりたくなってきました。いえ『迷心』の方ではなく無印を。

ありえない「もしかして」

 更に発展版。今日はやたらと半陰陽ネタに直撃する日です。

・ダラダラ過ごしていたせいか特にネタがない……ああ、そういえば時雨沢恵一の『キノの旅8』読みましたが、あとがきの悪ふざけがいつも以上に極まっていて本編以上にウケてしまいました。本好きの方ならあとがきだけでも目撃しておくべき。


2004-11-06.

・昨夜は『舞−HiME』『ローゼンメイデン』がえれぇおもろくて目が冴えてしまった焼津です、こんばんは。『あなたまにあ』読んでから寝ました。小川勝己、相変わらず器用な作風だ。彼の小説は特に語り口のキレが絶妙。

『ショコラ 〜maid cafe ”curio”〜”Re-order”〜』、12月23日に

 遂に来ました。追加要素ありの廉価版。6090円(税込)は「廉価」ってほどでもないですが、中古で一時1万円を超えるプレミア価格が付いていたソフトであることを考えればさしたる問題でもなく。当方が崩した頃は既にプレミア化している最中だったのでオススメしようにもしかねる状況でした。しかしこれで大っぴらに推すことができる。最近も『ままらぶ』で注目を集めているシナリオライター・丸戸史明の代表作──萌え転がりたい人はキュベレイじみたメイド服に目を瞑ってでも吶喊すべし。

 備考欄の「香奈子のショートストーリーを加えた」が気になる……ロング黒髪スキーの当方にとって不沈空母級の泰然たる魅力を放つ香奈子さんの、ショートとはいえ追加要素があるっつーんでは、回避しようにも回避できませぬ。ロスチャあたりとかぶりそうですけど、構わず予定に割り込ませておこう。

虚淵玄初の小説『白貌の伝道師』、12月29日に

 こっちも来ましたね。「自分はシナリオライターであって、小説は書けない」といった発言をしていた氏ですが、ファンの誰もが(とまで行かないか。ファンの割と多くが、くらい?)待望していたオリジナル小説をハードカバーで刊行するとのことです。「そんなことより新作のシナリオ書けよ!」と叫ぶ人もさりげなく購入したりするんでしょう、たぶん。もちろん当方は一切の迷いなく買いますよ? でも出版社はどこなんだろう。やはり角川あたりか。

・C・デイリー・キングの『海のオベリスト』読了。

 「オベリスト」……疑問を抱く人という意味。

 海外本格ミステリ、特に黄金期を語る上ではよく名前が挙がる“オベリスト”3部作の第1弾。原書が出たのは1932年、実に70年以上前なんですが、翻訳はこれが始めて。第2弾の『鉄路のオベリスト』は鮎川哲也による訳で81年に雑誌掲載されているものの、第3弾の『空のオベリスト』は97年に刊行、割と最近になってからです。本書に至っては今年ようやくといった次第。マイナーというほどマイナーではないけれど、メジャーというほどメジャーでもないこのシリーズ、当方が本格にハマっていた頃は『鉄路のオベリスト』しか出ていなかった(しかも抄訳)わけで、他2作も日本語化されることを待ち望みながら半ば諦めていました。黄金期の本格が完全に古典扱いされている昨今においては尚更。それだけに店頭でこれを見つけたときの感慨はひとしおでした、はい。

 豪華客船 <メガノート> 号の発電機が故障したことにより、船内で停電が発生した。徐々に光を失い、やがて闇に包まれるサロン。非常灯が点り、真っ暗闇から復帰した人々は、視界の中に一つの死体を見出した。ついさっきまでオークションに興じていた富豪のスミス氏が、物言わぬ体となってテーブルに突っ伏していたのだ。そばには銃を持って呆然とする男──即座に取り押さえられた。そんなパニックのさなか、ひとりの婦人が失神する。死体ともども医務室に運ばれるが、船医のペルは両者の死を確認したと宣言し、 <メガノート> 号は二重の事件現場と化した。しかし、妙なことに、サロンに居合わせた誰もが「銃声は一発だけだった」と証言したのに対し、スミス氏からは二個の銃弾が検出される。容疑者として捕らえられた男も、「スミス氏は撃っていない」と犯行を否定。早くも謎に覆われ始めた事件を迅速に解決すべく、乗客である四人の心理学者が次々と探偵役に取り立てられていくが……。

 謎に次ぐ謎、推理に次ぐ推理。遊びとなる余計な描写がほとんど省かれた、高密度の本格ミステリ。ひたすら謎の説明と推理の展開が繰り返されていく構成はちょっと冗漫だけれども、推理合戦が三度の飯よりも好きという本格ファンにはうってつけの濃さです。また全編、「四人の心理学者が次々と探偵役に取り立てられていく」だけあって、物的証拠に頼った推理よりも心理的推理法が重視されている。さすがに今読むとポリグラフ(嘘発見器)や自由連想法(乱歩の「心理試験」でも使われた、質問に対する「思いつき」の答えの内容と返答の速度を吟味する試験法)など、使っているネタが若干古臭くて刺激には欠きますが、状況が刻々と変化していって読者を飽きさせないサスペンス性に関しては大したものです。

 訳が新しいせいもあってか、読んでいて苦痛を覚えることもなく、割合スピーディに目を通すことができました。終盤も結構ハラハラさせられるシチュエーションですし、いくら古いとはいえ本格ミステリが好きな方ならこの一作を見逃す手はないかと。ン十年がかりであろうとも、「翻訳されて良かった」と率直に思えます。これで長年積んでいた『鉄路』と『空』も読める。実に楽しみ。

・そしてさりげなくリンクを追加ー。「青空とオーケストリオン。」および「推定天使−D.G.S−」「魔法少女忌譚修」繋がりです。


2004-11-04.

・もう1ヶ月近く経ったのでいい加減に移行告知は撤去。旧URLでも閲覧できることを考えれば告知する必要もなかったんですが、一応新URLもアピールしておいた方がいいか、程度の気分で載せてました。

 それにしても「neko mimi mode」を聴いても全然違和感を覚えずしっくり馴染んでくるようになったのは本気でヤバイと思います。10秒くらい耳にしてようやく「あ、ネコミミモード」と気づいたときは背筋が寒くなりました。「タカタカタ・タータ・タカタカタン」(『螢』)並みに恐ろしい。

12月の新刊予定に『星界の戦旗4』が。

 各所で話題になっております。3巻は01年3月ですから、軽く3年半は経過していますね。これだけブランクが空いたというのに、いやむしろこれだけ待たされたからこそ、「本当に出るの? 幻じゃない?」と疑いの声がやまない有り様。今年は本当に「久々の新刊」が多いなぁ。

・小川一水の『復活の地3』読了。

「家を守りなさい。街を守りなさい。家族を守りなさい。愛するものを全力で守りなさい。……また、逃げる者を助けなさい。すべての者が危険に立ち向かわなくてもかまいません。けれども、すべての者が帝都を見捨てることもないと、私は信じます」

 帝都を襲う震災に、一致団結して対処する──災害復興SF、遂に完結。今までは400ページくらいでしたが、最終巻ゆえにか100ページ近い増量を図って分厚くなっています。おかげで上旬だった発売予定が下旬に延び、店頭に並んだ直後に例の新潟県中越地震が発生するというタイムリィな作品になってしまいました。

 それはさておき、巻頭のキャラ紹介だけで26人という大人数が登場するストーリーを、優に1200ページ超える分量で一切の弛みなく描き切ってみせた技量は大したものだと思います。『第六大陸』『導きの星』も素晴らしい出来でしたけど、それと同等かそれ以上の盛り上がりを見せてくれる。震災の原因となる要素そのものはサラリと流し、あくまで「災害復興」のポイントに焦点を当てた構成は潔く、「天災とは、戦える」の簡明でいて力強い発言とともに備えて立ち向かっていく姿勢が目をひきつけて離さない。「クライマックスがデウス・エクス・マキナ臭い」とファンから不満が挙がりがちな小川の作風も今回ばかりは鳴りを潜め、ごく真っ当に、ごく地道に練り上げているところが好印象でした。

 名シーン、名ゼリフも数多く、上に掲げた奴の他にも胸に響いてくる文章がわんさとありました。「この街を、皆に渡します。……生かすか殺すか、おまえたち次第です」とか。主人公のセイオとヒロインのスミルの身分と立場を越えたロマンスを始め、星外列強との外交など、「災害復興」以外の部分でも読ませる箇所が沢山。沢山すぎて3冊では収まりきらなかったきらいもありますが、まとめておくべき要点はまとめていますし、物足りないとはいえ致命的な欠陥にはなっていません。にしてもセイオとスミルのくっつき過ぎない関係は実にツボです。後半のイラスト付きなあのシーンはまさしく「キタ━━(゚∀゚)━━!!」ですね。

 これでようやく3冊全部揃って読めるようになってわけですし、心置きなくオススメすることができます。全体的に善良かつ有能なキャラが多いので、勢いのある猥雑な群像劇を期待すると肩透かしですが。それと災害復興という話の関係上、震災が絡んでくるのはどうしようもありませんから、そこに抵抗を覚える人を除けば満遍なくオススメ。小川一水未体験の方も、この作品を機に手を伸ばしてみてはいかがか。3冊一気に読めるのはこの上もない贅沢ですよ。


2004-11-02.

・11月になりました。特にネタがないので今月の予定だけ書いておきます。

本の購入予定

 『漆黒の王子』/初野晴(角川書店)
 『6ステイン』/福井晴敏(講談社)
 『デスノート(4)』/小畑健、大場つぐみ(集英社)
 『スティール・ボール・ラン(3・4)』/荒木飛呂彦(集英社)
 『バッカーノ!1933(下)』/成田良悟(メディアワークス)
 『空ノ鐘の響く惑星で5』/渡瀬草一郎(メディアワークス)
 『王狼たちの戦旗(上・下)』/ジョージ・R・R・マーティン(早川書房)
 『鋼の錬金術師(9)』/荒川弘(スクウェア・エニックス)
 『無限の住人(17)』/沙村広明(講談社)
 『文車館来訪記』/冬目景(講談社)
 『よつばと!(3)』/あずまきよひこ(メディアワークス)
 『刹那〜そのとき彼女が願ったこと〜』/山下卓(エンターブレイン)
 『長恨歌』/馳星周(角川書店)
 『BG、あるいは死せるカイニス』/石持浅海(東京創元社)

 うーん、実に手堅い陣営。個人的に見てガッチガチです。これ以上は絞りようがない。挙げた16冊はまず確実に買うでしょうね。

 『漆黒の王子』は『水の時計』を書いた人の約2年半ぶりとなる受賞後第一作。って、これは先月も書いたような。乙一や本多孝好を彷彿とさせる作風で割と好きです、初野晴。『6ステイン』は『亡国のイージス』『終戦のローレライ』の映画化ですっかり有名になった作者の短編集。国防モノらしい。『デスノート』と『スティール・ボール・ラン』は最近注目する作品が減ってきたジャンプの中で未だ買い続けている2シリーズ。SBRは単行本化までの期間が長いだけに心底待望の新刊です。電撃文庫の新刊、今月は2冊だけ。『バッカーノ!』も『空ノ鐘の響く惑星で』も、どっちも当方内部で加熱中のシリーズです。特に『バッカーノ!』、去年の『1932(鈍行編・特急編)』以降は番外編やら別シリーズやらで本編が止まっていた状態でしたから、下巻の購入に合わせて上下2冊一気読みを敢行するのが今から楽しみ。

 『王狼たちの戦旗(上・下)』は大長編ファンタジー“氷と炎の歌”第2弾。第1弾の『七王国の玉座』から2年待たされました。メチャメチャ人物関係が入り組んでいる代わりに、メチャメチャ内容がおもろいのですっかり渇いていた次第。2年前、海外ファンタジーにハマってあれこれ読み耽りましたが、その中でもこれが際立って印象的でした。『七王国の玉座』を再読しないと付いていけそうにないですし、買ってもしばらく積む予定。『鋼の錬金術師』は……いかん、8巻が買ったまま放置になってる。これはすぐに読めるし崩しておかないと。『無限の住人』は既に崩し済み。『文車館来訪記』、当方は基本的に画集を買わないので『百景』はノーチェック。文車だけ気になっていたので渡りに舟です。『よつばと!』は『あずまんが大王』が好きだから、という理由で買い続けてますが、1巻すら未読。もはや完結するまで積もうかと。『刹那〜そのとき彼女が願ったこと〜』は“BLOODLINK”の番外編第2弾。本編の新刊も先月出ましたし、ようやくシリーズ再開の兆し? 『長恨歌』は“不夜城”3部作の完結編。読まいでか。『BG、あるいは死せるカイニス』、日本推理作家協会賞の受賞は逃しましたが、着実に注目されつつある石持浅海の新作。ほんの10日前に『水の迷宮』を出したばかりですから好調ですね。

 『このライトノベルがすごい!』は店頭でパラパラ読んでみて、良さそうだったら買ってみます。あと、『鬼哭街』が文庫化するみたいなんですが、さすがに選択肢ゼロの話を小説にするのはちょっとどうかなー、と思わないでもない。でもあのテキストが文庫サイズの紙媒体で読めるというのは魅力的でもある。検討しておきます。

ゲームの購入予定

 『Fifth Aile』(RUNE)
 『空帝戦騎』(エウシュリー)
 『魔法とHのカンケイ。』(ういんどみる)

 今月は注目作が少ないので楽。先月は丸々1ヶ月『DUEL SAVIOR』で遊び倒したことを考えると、この本数でも対処し切れるかどうか疑問だったりしますが。『Fifth』は当方を炉の魔道に叩き落とした諸因の一つであり、原理的に回避不可能。『空帝戦騎』、エウシュリーのソフトはまだやったことないんですが、四字ですっきりしたタイトルと、ゲームとして遊べそうな内容に惹かれました。『魔法とHのカンケイ。』は一目瞭然。発射音より先に衝撃が来るラッチェ・バム。無論の如く回避不能につき、身体の一部分が吶喊を御所望です。

SSの予定

 見切り発車以外の何者でもない方式で連載を開始してしまった「ガールズ・ドント・クライ」は最低限第3話だけでも今月中に公開します。できれば来週あたり。


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