「Dies irae Also sprach Zarathustra -die Wiederkunft-」
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2007年12月に発売された『Dies irae Also sprach Zarathustra』の「新装版」であり、過去の経緯を不問とするならかなりの高得点が狙える出来ながら、過去の経緯を勘案すれば「採点不能」と述べるしかないソフトです。
まず本作に至るまでの経緯を大雑把にまとめてみましょう。
2004年 12月 「Project+G」の仮称で企画発表、当初の原画家はhide18 2005年 4月 ジャンルが「学園伝奇バトルオペラ」と発覚する 2006年 5月 雑誌に『Dies irae Also sprach Zarathustra』として情報公開、原画はGユウスケに 6月 lightのOHPにて速報ページ開設、発売は冬予定 11月 発売予定が「来春」に変更 2007年 1月 ドラマCD第1弾『Wehrwolf』発売 2月 web体験版ver1公開 6月 発売予定が「秋」に変更、のち「9月28日」と具体的な日付が出る 9月 発売予定が「10月26日」に変更、のち更に「11月16日」に延期、web体験版ver2公開 11月 発売予定が「12月21日」に変更、結果的にこれが最後の延期となる 12月 『Dies irae Also sprach Zarathustra』発売、完成度の低さにファンが激怒&号泣 発売から1週間ほどして「追加ルートも制作する」という告知が出る(これ) 2008年 8月 ドラマCD第2弾『Die Morgendammerung』発売 2009年 1月 約1年の沈黙を破り、「新装版」の制作状況が告知される(これ) 4月 「新装版=『Dies irae Also sprach Zarathustra -die Wiederkunft-』」情報公開 7月 『die Wiederkunft』の発売に先駆けて旧ユーザーに追加修正パッチの配布を開始 『Dies irae Also sprach Zarathustra -die Wiederkunft-』発売(←今ここ) 旧装版との違いや今後の予定についてはこちらを参照 こうして眺めると、2008年の動きのなさは異常だな。ドラマCDの他にサントラなんかも出ていますが、肝心の本編に関してはほとんど触れられることがないまま終わってしまった。まあ、恨み言は別の場所で散々垂れ流してまいりましたから、ここで滔々と述べて綴るのはやめにしておきます。あくまでゲーム内容にまつわる感想のみに留めておきましょう。あと、『Dies irae Also sprach Zarathustra -die Wiederkunft-』だと長すぎて面倒なので以下「クンフト」と略します。2007年に発売された『Dies irae Also sprach Zarathustra』も以降の表記は「旧版」、両方ひっくるめて語る際は「Dies」で統一させていただきます。
さて、「Dies」は平たく言ってしまえば伝奇バトル要素を主眼においたエロゲーです。「学園伝奇バトルオペラ」と謳ってますが、2ルート全20章中、ちゃんと学園が舞台になっている章はせいぜい5つくらいであり、ちょっと羊頭狗肉気味のジャンル名になっている。恐らく構想が膨らみすぎて学園の比重が下がってしまったのでしょう。主人公は割と平凡な暮らしを送っている普通の少年(ではない、とやがて判明しますが……)、彼が根暗魔術師の策略に嵌まり、戦後60年の時を超えて来日してきたナチの亡霊たち「聖槍十三騎士団」と血で血を洗う闘争を繰り広げるハメになる。主人公は「藤井蓮」という名前なのに「ツァラトゥストラ」という二つ名で呼ばれたり、根暗魔術師の呼び名が「カール・クラフト」や「メルクリウス」、「副首領閣下」に「アレッサンドロ・ディ・カリオストロ」、果てには「パラケルスス」や「ニート」(これは一部のファンによる愛称or蔑称)など複数あったりして、非常に多種多様。先に設定を飲み込んでおかないと誰が誰の話をしているのかさえ、なかなか把握できません。そもそも、吸血鬼っぽい白貌の男を「カズィクル・ベイ(串刺し公)」と呼んだりなど、全体的に中学生か高校生が考案したようなレベルの「俺様的スゲェ伝奇設定」をこれでもかとばかりに恥ずかしげもなく開陳しまくるので、馴染めない人はとことん馴染めない。逆に、まだそうしたセンスが心のどこかに蟠っている頭おかしい人ならば「ほう……ここでこう来るとは……」「くくく……やるではないか……!」とノリノリで楽しむこと必至です。ハマりすぎてもっと頭おかしくなること請け合いです。なぜなら、設定の作り込みが異常に細かく、「単なる思いつき」なんて域を易々と突破して「偏執的」と形容するしかない境地に達していますから。
登場するキャラクターは主要人物だけでも20人近くにのぼり、だいたい6人とか7人とか、それぐらいの敵を斃さないと主人公サイドに勝利が訪れない仕組みとなっています。打倒すべきラスト・バタリオン、「聖槍十三騎士団」はその名の通り13名の団員によって構成されていますが、全員が全員「斃さないといけない奴」ではなく、中には戦闘要員じゃないキャラがいたり、展開次第で騎士団を裏切って主人公と共闘する人もいたりする。また、ルートによっては出番がないまま終わるキャラもいるため、「数時間かけてやっと1人斃せるようなペースなのに、13人そこらも斃し切れるのか……?」と心配する必要はありません。が、それでも1人1人が結構しぶとく、何度も戦闘を重ねてやっと斃せるようになったりするわけで、ぶっ通しでやり込むとスタッフロールが流れる頃には夜が明けている――ってこともしばしばです。声を飛ばさず真面目にプレーしていけば、コンプリートするまでに30時間は軽く掛かるでしょう。攻略可能なルートは、たった二つだけだというのに。
旧版をプレー済の方ならば、そのうち1/3近くをスキップすることができますけれど、それでも遊び尽くすのに20時間くらいは要する。旧版から19ヶ月、いささか待たせすぎな気はしますが、その甲斐あってボリュームはバッチリです。シナリオライターである正田崇の特色が容赦なし、手加減抜きで山盛りされています。Gユウスケの原画はところどころ絵柄の違いが目立って安定感に欠きますし、声優の演技や声質も収録時期に応じて落差が生じていますし、そもそもテキストに誤字がやたら多いのですが、そんなもの、年単位で待望してきたファンには屁でもない。「既知感からの脱却」をテーマにしたストーリーだけあって、旧版からクンフトに移行してきたユーザーは「未知を見せてくれ」と嘯くシナリオに対し危険なくらい同調すること間違いなしだ。
シナリオはプロローグ、1章〜5章、6章の前半までは共通ルートとなっていて、それまでの選択肢によって6章後半から「香純ルート」ないし「マリィルート」に分岐する構成となっています。プロローグと1章〜5章は書き直し箇所が少なく、ちょろっと追加シーンがある程度ながら、分岐点たる6章はバトル開幕のあたりから大幅にシナリオが変わり、旧版とは別物に化している。聖遺物(主人公と聖槍十三騎士団が使うマジックウェポン、要するに武器)をチャンバラよろしく何十合もガッツンガッツンと単純にぶつけ合うだけだった旧版に比べ、クンフトはハッタリの利いた描写でユーザーのコドモ・ハートをがっしりと掴んでくれます。「水蒸気爆発」という単語を見るだけでゾクゾクするような人種にとっては喜悦を禁じえない代物であり、しかし一方で「すっげぇ、あいつら落ちながら戦ってる……」と茶化したくなるデタラメっぷりでもあり。少なくとも退屈はさせられません。
改めてプレーするにつけ感じたのは、「スワスチカ」という設定の秀逸さですね。スワスチカとは数多くの魂(概算で数百、数千規模)が散華した跡に出来上がる魔術的な方陣であり、「戦場跡の再現」であって、黒円卓(聖槍十三騎士団の別称)はこれを8つ開くことを目的としている。このスワスチカが存在するおかげで「曖昧な理由で敵が変な場所を襲撃する」という安手の伝奇ものにおいてありがちな根拠薄弱バトル展開は除去され、敵の動きをいくらか推測することが可能になり、主人公サイドがそれにどう対応すれば良いかがハッキリしてきて、物語に没入しやすくなります。また、やっぱり安手の伝奇ものでよくある疑問の一つ、「なんで律儀に一人ずつ掛かってくるの? 主人公を脅威と認識したらメンバー総動員して袋叩きにすればいいんじゃないの?」を排する役にも立っている。黒円卓にとってスワスチカはスタンプラリーのチェックポイントみたいなもので、ここを外して巡回しても目的は達成されない。然るに、彼らはこれまで大量の魂を殺戮により掻き集めて己と聖遺物を強化してきたのだから、最悪現場となるスワスチカ予定地に手頃な犠牲者たちがいなくても、テキトーな理由でっち上げてメンバーの誰かをゲバっちゃえば、そいつが集めた魂の群れが一斉に散華して無事スワスチカ開き完了となる。で、一つの予定地で団員から2名以上の死者を出すと「無駄死に」になってしまうことから、誰かが死んだときはすぐ撤退するよう指示が通達されており、連戦が発生しにくい。もし誰も死なずにスワスチカ開きに成功しても、他の団員の手を借りてしまえば自分の功績にならないわけで、みんな極力一人だけで開こうと算段を立てることになる。そして何より、黒円卓にとって団員の死は「仲間の死」である以上に「競争相手の死」であり、別段主人公を恨む必要がなく、まるでバトルロイヤルのような構図が成立しているわけです。以上の事柄より、「律儀に一人ずつ掛かってくる」や「仲間割れして勝手に数を減らしてくれる」という主人公にとって有利な展開が起こる状況をある程度受け容れやすくしています。
じゃ、まず香純ルートの感想からいきましょう。端的に述べますと、「思ったより書き直し箇所が少なくてガッカリ」ですね。「ストーリーの大まかな流れと、最後の着地点は一緒」とあらかじめ明言されていたので、話の展開がデジャヴることそのものはまだ譲歩できたが、肝心要のバトルシーンで大きく手を入れられている箇所と、ほとんど変化のない箇所、2つのパートに色分けされ、交互に入り混じって斑状の模様を編み出していると申しますか、とにかく非常に据わりの悪いリメイクになってしまっていて落胆した。察するに、スケジュールが厳しくて再執筆箇所を必要最低限に絞ったのではないかと思われます。9章は前半こそしっかりリメイクされているのに後半はあんまり変わってなくて、実に残念。このまま失速していくのかと諦めたところで10章あたりから盛り返し、13章で一気に挽回してくれました。
このルート、主人公である蓮やヒロインである香純は旧版よりもずっとマシになったことは確かだけど、あくまで「マシ」というだけで劇的に魅力が上がったわけではない。株を上げたのは、むしろラスボスたる「あの人」や、クンフトでは非攻略な螢や先輩ですね。本当のラスボス「獣殿」ことラインハルト卿には到底及ばない、相当に小者な「あの人」。旧版でもクンフトでも「小者」という点では共通していますが、哀しみに狂いつつ狡猾な謀略を練るという陰険かつ臆病な気質がより一層引き立てられていて、存在感アップに成功しています。螢や先輩はこちらの心臓をキュンキュンさせるような言動で心情を吐露し、プレーヤーに「今すぐ彼女たちを攻略されてくれッ! 早く、一刻も早くッ!」と悲鳴を上げさせる。ベタなお約束に従って「囚われの姫君」と化している香純をいともたやすく忘却させ、胸を苦しくさせてアペンドへの欲求を高めるとは、なんて罪深いヒロインたちだろう。結果、最終章の盛り上がりに満足しつつ「ああ、螢と先輩が可愛すぎて困る……え? 香純? あー、うん、まあ……悪くはないよね」というヒドい感想に落ち着いてしまった。
マリィルートはクンフトの肝であり柱であり売りであり、とにかくこっちをプレーしないでクンフトは語れません。単純明快に熱い展開の目白押しで燃える、というのもありますが、旧版で投げっぱなしにされていた伏線の数々が掃除機みたいな勢いであっという間に回収され、「そ、そんな意味があったのか……!」と驚愕させられるシーンがいちいちピックアップし切れないほど押し寄せてきます。たとえば、赤毛のロリババアでファン人気が高い魔女「ルサルカ」は本名が「アンナ」で、仲間内の二つ名は「マレウス」なのに、なぜルサルカなんて通称を持ってるのか? という、別段疑問にも思ってなかった事柄がポロッと明かされたりする。ベイに比べてショボく見える彼女の“創造”がいったい何を渇望して辿り着いた不条理(ルール)なのか、知った瞬間に膝を打ちました。ルサルカ……あんた、つくづく小者の星に産まれついた女だな。香純ルート同様、少ない書き直しで使い回されているシナリオが何箇所かありましたが、変更されている箇所の方がずっと多く、不満はほとんどない。皆無に等しい。11章以降の盛り上がりは神懸り的と評しても差し支えなく、理想に追いつき理想を追い越した面白さに思わず涙が滲みました。何が面白いって、バトル描写の迫力もさることながら、キャラクターたちの切る啖呵一つ一つが見事で彼・彼女らが終始ブレることのないクッキリとした輪郭を得ていることですよ。キャラが崩壊しないでちゃんと立っていることが、嬉しくてたまりません。香純ルートでラスボスを演じていた「あの人」はこっちでも大奮闘していて、株が上がりすぎてストップ高ですよ。螢と先輩も見せ場を最大限に活用して頑張ってくれますから、無論ストップ高。マリィもマリィで魅力が割り増しされているものの、あのふたりには叶わない。非攻略なのに。ああ非攻略なのに。正直、旧版ではそこまで熱心に希求してなかったんですよね、螢ルートと先輩ルート。クライマックスで鬼のような追い上げを見せるヒロインたちだと再認識しました。
そして、旧版では「強そうな雑魚」扱いされていた三騎士たちも順当に強化され、獣殿の近衛、軍団大隊長の面目躍如といった趣です。むしろ、強化されすぎで「斃せるわけねぇ!」と呻きたくなります。実際、本気を出されたら勝てるわけないので、「真価を発揮する前に不意を衝いて決着」という形が多くなっている。これを不満に思う向きもありましょうが、パワーインフレを避けるためにも仕方ない結論だと個人的には納得しています。つか、「不意を衝いて」と言っても勝ちフラグを3つ重ねてようやく相討ちってなレベルのわけで、下手なゴリ押しよりも説得力はあるんじゃなかろうか。うーん、詰まるところ「個人の趣味嗜好」に行き着くか。獣殿とのラストバトルは「死者の軍勢(レギオン)が、俺たちの絆(レギオン)に勝てるものか!」みたいなこっぱずかしいセリフ頻出の熱血アニメ状態で、苦笑しながらも童心に還って燃えまくった次第。旧版ではダサかった獣殿が一気にまがっこよく(禍々しくて格好良いの意)なっていて、まさしく「相手にとって不足ない」。獣殿の魔王度が青天井で上がっていって、「愛すべからざる光(メフィストフェレス)」という二つ名の真意も暴露され、「星々の果てまで進軍する」という伝奇どころかもはやSFファンタジーじみているセリフも飛び出したりして、うは、脳から妙な汁がドバドバ溢れるー。
そんなこんなで、過去の経緯を考えに含めるとどうしても「採点不能」にする以外の選択肢を思い浮かべることができないが、過去の経緯さえ振り切ってしまえば大いに評価するに値する。待ち望んだ甲斐のある一本ですわ(嬢)。こんなものをエロゲーで出そうと考えて本気で実行したlightはマジでイカレてやがる。方向性は違えど、Navelの『俺たちに翼はない』とも通じる頭のおかしさ。徹底したネジの外れっぷりを見るにつけ、拍手喝采とともに賞賛したくなる。引き続きアペンド(螢ルートと先輩ルートが収録される予定、螢ルートは既に完成しているらしい)の方も渇望させていただきたい、花よ。
最後に、主要キャラ一人一人についてコメントしていこう。以下ネタバレとか、そんなの全然気にしないで書いていきますので注意。
藤井蓮。二つ名は「ツァラトゥストラ」、「戦争するためには敵が必要だ」という理屈に基づきメルクリウスが用意した代替団員であり、主人公。旧版では進めば進むほど成長するどころか頭が悪くなっていくことから、「練炭」の蔑称を賜りました。クンフトでは頭の悪さを払拭し、なんとか主人公の座に返り咲いた。ヘタレじゃないエロゲー主人公は稀少であり、実にありがたい。とはいえ、敵組織が強大すぎて被害を食い止められないこと、聖遺物が厳密には武器でなく処刑具(ギロチン)なので取り回しに難があり、頭脳プレーめいた戦い方ができず雄叫び上げて吶喊するのがデフォになってしまっていること、主人公の割にあんまり敵を斃していないこと(他の奴が斃したり、組織内での粛清や仲間割れによって勝手に敵が死ぬ展開が目立った)から期待したほどには男が上がらなかったか。戦力が全然釣り合っていないし、いつも後手後手に回るのは仕方ないけど、どんどん話のスケールが大きくなっていくせいで「平和(にちじょう)を取り戻すために闘争(せんじょう)へ飛び込む」というジレンマが表現し切れなかった憾みあり。今回、蓮の出自はだいぶ明らかにされましたが、メルクリウスが仄めかした「真実」に関しては蓮自身が「興味ない」と一蹴したため結局不明のまま。マリィに触れても首が飛ばないことにはちゃんと理由があるらしいが……。
綾瀬香純。旧版にてプレーヤーから「バカスミ」と罵られ、冷遇されてきた不人気ヒロイン。幼馴染みで、日常の象徴、失いたくない「陽だまり」――位置づけは重要なのに、終始やかましく騒ぐバカっ娘であり、なんだかヒロインっぽい気がしなくて可愛さを感じにくいのが敗因か。「あそこは危ないから近づくな」と厳重注意したのに「そこにいる人たちにも危険を報せたいから」とのこのこ出かけていってあっさり敵に捕まるなど、「基本的に余計なことしかしないキャラ」として疎まれた旧版時代に比べ、クンフトの香純は「ここぞという窮地で微力ながらもアシストする」というサポート役をこなして復権に成功しました。それでもなお3章が最大の見せ場ということは変わらず、日常から逸脱する6章以降はサブキャラ並みの扱い。レーベンスボルン関連が補強されたおかげもあり、唐突感が否めなかった「実は聖櫃」という設定もうまくシナリオに組み込まれている感じ。4章でシュピーネが本物の香純を殺さず芝居を打ったこと、神父がリザを殺したことも説明がつくようになりました。そして「剣道強いんだぜ」という設定も最後でなにげに活きてきて、ホッとした次第。ただ、旧版で語られていた「クローゼットの骸骨」がクンフトでは軽く仄めかす程度に終わっていて、「蓮が香純の父親を殺した(正確には司狼が殺して蓮が死体遺棄)」が半ば死に設定となっているのはなぜだろう……全体的に香純ルートは突貫作業の感触が否めんな。
マリィ。金髪巨乳、おっぱお! という美味しい容姿の割に香純ルートで空気化したりなど、案外不遇な人外ヒロインです。ポール・フェバールの怪奇小説「罰あたりっ子」が元ネタであり、本名は「マルグリット・ブルイユ」。革命真っ盛りのフランスに生まれ、「触った相手の首を飛ばす」というギロチンの呪いにより疎まれ恐れられ、ギロチンで処刑された。あまりにも異質な魂であったため永劫回帰の環に加わらず、永遠に夕焼けが続く異界へ幽閉されている。聖遺物であるギロチンを介してのみ、こちらの世界――永劫回帰の世界に干渉できる、って寸法です。一見すると「自分を殺したギロチンに憑依している」かのように映りますが、正しくは「彼女の魂は生まれてから死ぬまでずっとギロチンにあった」のであり、ギロチンに憑依されたマリィがギロチンに憑依しているという、ウロボロスじみた様相を呈しているのです。このへんがかなりややこしい。さておき、旧版では自身のルートにおいてさえ存在感が薄かったマリィですけれど、今回は獣殿の聖槍(ロンギヌス)に突かれたことで心に穴が開き、そこから蓮の感情が流れ込んできて人間らしさを獲得していく運びになり、ぐっとヒロインらしさが増します。蓮が気絶している最中に彼を守ろうと体を張ったり、「わたしの男ボコってんじゃないわよ、誰にも渡さないんだから」と啖呵切ったり、なんとも人間臭い。逆に言えば神秘性が薄れてしまっているので、不満を覚える方もおられましょうが、個人的にこの変化は賛成。蓮が他の女の子と仲良くするのを見て嫉妬する姿が美しい。Also sprach Zarathustraなだけに彼女も没落(ウンターガング)を経て新生(ヴィーダークンフト)したのかもしれない。とテキトーなことを言ってみる。渇望は「抱きしめたい」、能力面での詳しい説明はなかったが、にしてもまさかあんなオチに行くとは。余談ながらフランス語で「未亡人」という単語は「ギロチン」の隠語であり、「epouser la veuve(未亡人と結婚する)」は「ギロチンにかけられる」を意味する慣用句でもあったとか。
氷室玲愛。二つ名は「太陽の御子(ゾーネンキント)」、ナチスはヒトラーを太陽になぞらえたので、「総統の子」とも受け取れる。旧版じゃ香純ルートでもマリィルートでも結局助からず死んでしまう非業の人気ヒロイン。「すみません、先輩。俺はまた間に合いませんでした」で怒り心頭に発した方も少なくないはず。クンフトでは助かるのか、と誰もが気に掛かるでしょうが、結論を言えば助かりません。しかし、少なくとも「すみません、先(ry」よりはマシな結末であり、非攻略対象であるにも関わらず見せ場は結構増えていますね。旧版だと7章以降は急激にキャラクターが希薄化して、個人的にどうでもよい存在になってしまいましたが、さすがに今回はキャラ崩壊を起こさず最後まで魅力が持続します。ローテンションでジョークを飛ばす性格ゆえ真意が見えにくいところはあるものの、ぶっちゃけ蓮に対しては心底デレデレなのだと判明。Bカップも本気を出せばすごい。バストの性能の違いがヒロインの決定的差ではないということを教えてくれました。ゾーネンキント設定もだいぶ詳密になり、例の「テレジア・ヒムラー」はお蔵入りになった(ルサルカのセリフは残っていましたけど)みたい。彼女のルートは「ヴァレリア・トリファは俺が殺す」なんでしょうが、神父が香純ルートのラスボスになってしまった以上、先輩ルートでもラスボスを演じるのは二度ネタっつーか、考えにくいんじゃないかなって気がします。クンフトの追加設定に「すべてのスワスチカが開き切る前に三騎士を誰か一人でも斃せば、獣殿の降臨は防げる」がありますゆえ、三騎士の中からラスボスが選ばれるのでは、と予想していたり。それにつけても屋上集合CGの乾杯ポーズはかわええな。
櫻井螢。二つ名は「獅子心剣(レオンハルト・アウグスト)」。アウグストは「尊厳」を意味し、「レオンハルト」は英語で書けば「ライオンハート」。つけてる香水も「ライオンハート」です。黒円卓一番の若手にして蓮たちと同年代。喪った大切な人たちを取り戻すため、黒円卓に従っています。数知れぬ修羅場を潜ってきたせいか実年齢以上のクールさと酷薄さを身につけていますが、クンフトではそれが完全に崩壊。「頑張ったもん」と見た目にそぐわぬセリフを口走ってしまったり、アホだのバカだの無能だの頭の足りないお嬢さんだのと敵からも味方からもこき下ろされ、テンパって支離滅裂な言動を繰り返したりする。2chのDiesスレからは「あほたる」の愛称が贈られるほどです。怜悧でクールで蠱惑的な美剣士キャラを期待した人はひどい落胆を覚えるかもしれません。しかし、旧版で螢ノーチェック、今回もあまり注目してなかった当方はこの剥き出し純情ガラス・ハート少女が振りまく愛嬌にあっさり射落とされましたよ? \ すげえ / 何がすごいって、かわしまりのの演技ですよ。支離滅裂に喚き散らすシーンの迫力には圧倒されました。まりのキャラの最萌えはメアリ・クラリッサ・クリスティと決め込んでいましたが、それを改めなくてはならぬやもしれません。香純ルート、マリィルートの両方で絶好の見せ場が用意されるなど、先輩同様非攻略ヒロインとは思えない高待遇です。弥が上にも専用ルートへの期待が高まる。シナリオ自体は既に完成済とのことだし、楽しみで仕方ねぇ。個人的に気に入っているシーンは、やっぱりマリィルートのエレオノーレ戦。「その歳で心まで処女なんて、終わってるのよ!」などえげつない啖呵目白押し。処女が処女を罵るとはえらい時代が来たものだな。一番ヒドいのはアレですね、「大切な人たちの命をゴミで購おうとした」って泣くシーン。自分がこれまで殺してきた悪人たちの魂を素でゴミ扱いする神経に笑った。
遊佐司狼。「シロー」や「ユサシロー」などと呼ばれるものの、特にこれといった二つ名なし。香純と同じく蓮の幼馴染みで、切っても切れない腐れ縁……のはずが、2ヶ月間の入院を要するほどの大喧嘩繰り広げて絶交。冒頭の回想シーン以降はしばらく出番がなく、ドラマCD第1弾『Wehrwolf』に出演したくらいで、本編への本格的参加は6章から。以降、「普通の人間でありながら超人たちの戦争に紛れ込む」という、ある意味主人公っぽい役割を負うことに。過去のバイク事故で頭を打ち、痛覚・味覚・嗅覚が衰えた反面、24時間ほぼずっと興奮が続く体質になり、集中力が途切れるということがなくなった。それゆえ黒円卓の化け物たちとも張り合える、ってシチュエーションに身を置くわけですが、運良すぎというか優遇されすぎというか、御都合的な活躍が目立っていまひとつ応援する気の起きない厄介なキャラになっています。香純ルートの13章ベイ戦はまだなんとかギリギリで許容範囲内だが、マリィルートであっさり聖遺物を奪取して、誰に習ったというわけでもなく「復ッ活!」と早々に形成を済ませてしまうなど、正直興醒めな部分がいくつかあった。結局デジャヴ云々も真相がハッキリしないまま幕となり、モヤモヤした気分にさせられる。どいつもこいつも超人ばっかり、というのでは味気ないから「普通の人間」代表として出してみたのかもしれないが、効を奏しているとは言いにくい。シュライバー戦の勝利も「相手が本気を出す前に倒せた」という解釈であり、これなら後方支援役に徹するか、もっと手続きを踏んで成長してほしいものだった。
本城恵梨依。司狼のツレ。「本城」という苗字を嫌っていて、「エリー」と呼ばないと許さない。いいとこのお嬢様学園に通いながらスパーハッカーの腕前を持ち情報を収集するという、一種の情報屋みたいな位置づけ。脚線に自信があり、尻がやべえ柔らか。スーパーハッカー以外はこれといってチートな設定もなく、司狼に並ぶ「普通の人間」代表選手と言えましょう。旧版じゃルサルカに呑まれてそのまま終わりだったが、クンフトで期待通り形成されて司狼と一緒に銃撃するシーンもちゃんと収録された。あまり印象は変わらないが、コメディ的な掛け合いはテンポが良くなってより楽しさが増したように思える。ちなみに司狼がインポなので、肉体関係はない模様。かと言ってどう転がっても蓮とまぐわうことはなさそうだ。
ヴィルヘルム・エーレンブルグ。二つ名は「串刺し公(カズィクル・ベイ)」、吸血鬼ドラキュラのモデルにもなったルーマニアのヴラド公ですね。聖遺物もヴラド公の血液とされる「闇の賜物」。アルビノで直射日光に弱く、まだ人間だった時代はまともに昼日中を歩くことができなかったが、「日の光は要らねえ」と言い張ることで「昼が俺を否定しているのではなく、俺が昼を否定しているのだ」とロジックを逆転させ、「まともに日を浴びることもできない自分」を肯定するために「吸血鬼になりたい」という強い渇望を抱えています。ベイの“創造”は本質的に自己肯定の手段として選ばれた「吸血鬼」であって、もはやアイデンティティに等しく、本来なら再現しなくていい「吸血鬼の弱点」までキッチリ備えてしまう。おかげで活動位階や形成位階には存在しなかった弱点が創造位階で出現するなんていう、傍から見れば欠陥とか思えない捩れた事態が発生する。確かに「デイウォーカー、十字架が通じない吸血鬼」ってな都合の良い設定で渇望していればまったく無敵の“創造”となったでしょうけれど、ベイにとってそれは反則、すなわち「自己肯定の手段足りえないクソ吸血鬼」ゆえ無意味なんです。こだわらなくていいところに執拗にこだわったり、個人主義の俺様野郎と見せかけて獣殿には絶対服従だったりと、分かりやすいチンピラのようでいて案外屈折しているのが面白い。詠唱が「ばらの騎士」というのも、「杭」を「荊」に見立てているからだと分かった。旧版だと前半の見せ場をほとんど占めている美味しいキャラであり、声優の演技も相俟って後半でも比較的魅力の薄れなかった「Diesの良心」と呼ぶべき存在だった。以前行われた人気投票の男キャラ部門で堂々たる1位を獲得したが、今回他のキャラが軒並み株を上げてしまったせいで若干その座が危うくなったかな。あと旧版で死の間際に流れた姉(母)のセリフがクンフトで丸ごと削除になったが、姉(母)周りの話は作り直すのか、それともなかったことにされるのか……あと、シュライバーと仲が悪いのは出会いが最悪だったこともあるけれど、「なぜ自分が白騎士に選ばれなかったのだ」という思いもあるからだろうか。シュライバーとは是非アペンドで雌雄を決してほしいが、ぶっちゃけシュライバー斃すと獣殿が降臨できなくなるので、持っていき方が難しそうだ。相手が問答無用で襲い掛かってきたら殺さない程度に迎撃せざるを得ないだろうけど、それじゃシチュとして燃えないしなー。
ルサルカ・シュヴェーゲリン。二つ名は「魔女の鉄槌(マレウス・マレフィカルム)」、元ネタは『魔女への鉄槌』という有名な魔女狩りのハンドブックです。本名は「アンナ・マリーア・シュヴェーゲリン」、ドイツ最後の魔女と呼ばれた農婦がモデルで、御年200歳超。黒円卓の中で唯一メルクリウスに会う前から魔術を研究していた人物であり、彼女が自在に繰る捕食の影「ナハツェーラー」は聖遺物やエイヴィヒカイトとは別枠にある技となっています。メルを除外すれば最古老の団員に当たり、黒円卓入りする前は妙齢の女性の姿をしていましたが、やがて「魂の老化を防ぐために」と苦し紛れで外見をロリ化させたそうな。たぶん、このアンチエイジングも彼女自身の魔術によるものじゃないかな。明言されてないのでよく分かんね。過去の光景を描いたとおぼしきクンフトのパケ絵を見るに、ベルリンでスワスチカを開いたときにはもうロリ魔女になっていたはずだ。年長者でありながら実力は下から数えた方が早く、シュピーネに次ぐ小者として早々に退場します。旧版とクンフトでほとんど扱いが変わらなかった不遇な人。むしろ、独擅場だった「ルサルカBADエンド」がなくなってしまったため、待遇が悪くなったかもしれない。声優の木村あやかがスケジュール的に参加できないのでシナリオをあまり弄れなかったのではないか、と噂されています。実際、彼女のバトルシーンは他と比べて驚くほど変化が乏しかった……敵キャラでありながら上位を争う人気キャラでもあり、地位向上を訴える声も少なくありませんが、たぶんlightは赤毛淫乱ロリババアがここまで人気出るとは思わなかったんじゃないかな。ちなみに「最終魔女シュヴェーゲリン」は魔女っ子アニメのタイトルみたいで、二度聞きだというのに苦笑してしまった。
ロート・シュピーネ。ドイツ語で「紅蜘蛛」の意味。聖遺物である「ワルシャワの絞殺縄」を蜘蛛の巣状に張り巡らせる諜報担当者。収容所で人体実験を繰り返した狂科学者、終戦後はナチス軍人の逃亡機関(章題から察するにオデッサ?)に所属、「適当な偽名を使う癖」があるという経歴からしてモデルは「死の天使」ヨーゼフ・メンゲレ博士であろうと推測される。Wikipediaの記述によると敗戦後は複数の偽名を用いて逃げ続け、死ぬまで追っ手に捕まらなかったという。いかにも員数合わせというか、一般社会に浸透した雑用係といった趣であり、つまりバトルに関しちゃザコです。「私の糸に捕まったが最後、聖餐杯猊下でも逃げられないでしょう」みたいなセリフを吐いていたけれど、形成位階に達した蓮にあっさり千切られてしまった。「現在(いま)のわたしは烈海王にだって勝てる!!!」を彷彿とさせるよね。そういえばマレウスも「今の私は三騎士にだって負けない」みたいな大口叩いてたっけ。4章でさっくり退場するため、6章以降を重点的に書き直したクンフトではまったく扱いに変化なし。形成(笑)はあくまで形成(笑)。目先の欲望を満たすことしか興味がなく、焦がれんばかりの渇望を覚えるようなタイプではないんでしょう。そういう意味ではもっとも一般人に近い団員か。しかし本当、BeforeStoryの「Hinterbuhne 〜 Krebs/Steinbock」(直訳すると「舞台裏 〜 巨蟹宮/磨羯宮」)で見せたベイへの上から目線は何だったんだろう……未だに不思議。
トバルカイン。「死を喰らう者」、正体不明のリビングデッド。トバルカインとは『創世記』に登場する鍛冶の始祖で、「隕鉄でロンギヌスの槍をつくった」という伝承もあるとかないとか。幹部の5人を除いた8人の中では最強クラスの戦力を誇る。が、その割に脅威となる場面が少なく、噛ませ犬という印象が強い。バビロンの聖遺物か、マレウスのナハツェーラーを介してでないと操れない、という制約のせいで見せ場が限られているんですよね。旧版じゃ本当に「悲劇の噛ませ犬」として終わったし、聖遺物も「ロンギヌス・レプリカ」と非常に締まらないネーミングだった。クンフトでようやく噛ませ犬から脱却し、聖遺物の名称も「黒円卓の聖槍(ヴェヴェルスブルク・ロンギヌス)」と改められた。ヴェヴェルスブルク城はオカルト被れのヒムラー長官が購入した古城で、ドイツにおける黒円卓の本拠地。Diesにおける黒円卓のボスはもちろんラインハルトですが、ヴェヴェルスブルク城の城主はヒムラーであり、形式的にはヒムラーが黒円卓のトップということになる。本物の聖槍を扱えない小者(ヒムラー)でも使えるような偽槍をつくる、という目的のためエレオノーレが同盟国である日本の鍛冶師に発注し、出来上がった一品がヴェヴェルスブルク・ロンギヌスってわけです。しかし半端に作り込みが良かったせいで擬似的な聖遺物として機能するようになってしまい、その鍛冶師の家系に連なる魂を末代まで吸い続ける「呪いの槍」となったわけで……聞くところによれば、戦時中、日本人の鍛冶師がロンギヌスの槍の複製品をつくったという噂は実際にあるそうで、それをトバルカインと重ね合わせるなど背景設定は実に興味深い。が、なにぶん死んでるしまともな言葉を喋らないので、キャラが立たないというか、個性は希薄に感じられる。螢ルートでの活躍を望む。
ヴァレリア・トリファ。二つ名は「神を運ぶ者(クリストフ・ローエングリン)」、クリスフトが「キリストを運ぶ者」の意味で、ローエングリンは聖杯に仕える騎士、白鳥の曳く小舟に乗って現れる。幹部以外からは「聖餐杯猊下」と呼ばれる首領代行であり、幹部たちがシャンバラにやってくるまでの暫定指揮官役を務める。190cmの長身ながら惚けた言動で相手を脱力させる「パッと見人の良さそうな神父」だが、内面のおぞましさは黒円卓でも一、二を争う。旧版でもそれなりにイカレたキャラではあったが、クンフトに至っては尋常ならざる腐れっぷりを見せつける。ここまで来るといっそ清々しい。一度黒円卓から逃げ出して孤児を集めた教会で平穏な余生を過ごそうとしたが、追ってきた黒円卓幹部たちに「子供の命を差し出せ。10人でいい。誰かを差し出すかはお前が選べ」と強要され、突っぱねることが出来ず「命の選別」を行ったことを60年以上経った今も悔やんでいる。その後悔を消すために小賢しく謀を巡らす。とにかく逃げ癖のある人で、今の聖遺物を手に入れたのも逃げの結果であります。最後の最後で逃げずに散る、その儚さゆえに彼の狂気(せいぎ)は物悲しく、歪んだ聖道を歩み続け神になりたいと渇望した彼に憐れみの念が湧き上がる。本名は「ヴァレリアン・トリファ」、同名でユダヤ人虐殺を指揮した司祭が実在します。
リザ・ブレンナー。二つ名は「大淫婦(バビロン・マグダレーナ)」、『黙示録』に綴られる大淫婦バビロンと、娼婦マグダラのマリアを掛け合わせたもの。ナチスのレーベンスボルン機関で幹部にまで上り詰め、裏で行われていた「人工的に超人の子供をつくるサラブレッド計画」を指揮していた女性。エレオノーレとは学友であり、「女が軍人なんて……」と内心眉を顰めつつ親交を保っていたが、獣殿とメルクリウスに遭遇したことから徐々に溝ができていく。ゾーネンキントの双子イザークとヨハンを産んだ母だが、父親は誰か不明。玲愛の曾祖母に当たる。旧版は「何を思って黒円卓に所属しているのか?」も不明確なまま落命してしまったし、聖遺物が何なのかも詳しく説明されなかった記憶があります。wiki見ると「マグダラの聖骸布」とありますが、クンフトでは「青褪めた死面(パッリダ・モルス)」になっている。「パッリダ・モルス」はぐぐってみると詩人ホラティウスの言葉(ラテン語)で、「青ざめた死」とほぼそのままの意味。レーベンスボルンで死に追いやった1000人以上の赤子の皮膚を張り合わせてつくった仮面であり、直接的な武器には使えないが、形成して死人に被らせることで死体を操ることができる。トバルカインと合わせて1セットな聖遺物です。リザ自身に戦闘能力はなく、今まで殺してきたのは千単位の子供だけ――っつー他の団員とは異なる凄愴さ。「国を守る超人をつくるために、国の礎たるべき子供を火にくべる」という矛盾に悩まされながら研究を続けた、それを指して悪徳のバビロン、唯一の成果たるゾーネンキントを産むために男をとっかえひっかえしたがゆえの淫婦マグダレーナ。旧版での影の薄さが嘘だったみたいに重要キャラと化してしまった。神父と同じか、それ以上に屈折しており、「偽善者である己を肯定する」という歪んだパーソナリティを持つ。神父との舌戦で本性を曝け出してしまうシーンにはゾクゾクしました。それにしても、若き日のリザの絵がすごく可愛いというか、こんな顔をした娘が男をとっかえひっかえしたかと思うと少し興奮するね。つかよ、なぜ該当するエロシーンがないんだ……!
エレオノーレ・フォン・ヴィッテンブルグ。二つ名は「魔操砲兵(ザミエル・ツェンタウア)」、ザミエルはオペラ「魔弾の射手」に登場する「狙った場所に当てる魔弾」をつくることができる悪魔の名前、ツェンタウアは「ケンタウロス」の独語読み。体の半分が火傷で覆われていることを「半人半獣」に見立てています。活動位階で区画一つ吹き飛ばす火力を有し、旧版でも充分に強かったが、クンフトでは更に強くなっていて、その兇悪さにもはや笑うしかない。君主には絶対服従という忠臣キャラながら、余裕でラスボスを務められるだろう実力の持ち主です。冷静だけど激しやすい情熱家、という「氷と炎」、「忠義と恋情」の二律背反を裡に抱えている。「女としては劣等」「その歳で心まで処女なんて……」など、結構ズタボロに言われています。「パンを焼くこともできない」という罵りで気づいたが、ひょっとしてザミー姐さん、「料理をつくろうとして真っ黒焦げの物体を生み出してしまう」っつーラブコメ史上にしか存在しないと思われていたキャラそのものじゃね? 俯いて目を逸らしながら馬鹿娘(ブリュンヒルデ)に料理技術の伝授を乞うたりするんじゃね? そんなことして誰が喜ぶのかという話ですが。クンフトはドラマCD第2弾『Die Morgendammerung』を聴いてないとピンと来ないネタがいくつかあり、ザミー姐さんに関しても『Die Morgendammerung』聴いた後なら印象だいぶ違ってくるはず。螢ルートでのラスボス最有力候補ですから、気に入った方はアペンドを心待ちにすべし。
ゲッツ・フォン・ベルリッヒンゲン。「鋼鉄の腕」、ゲーテの戯曲にもなった実在の人物から来ています。鋼鉄の義手がトレードマークで「鉄腕ゲッツ」の異名を取ったらしい。仲間内での呼び名は「マキナ」。本名は明かされていませんが、ナチスの英雄でベルリン陥落1年前に死亡、死んだときは戦車(ティーガー)の中、という情報から察するにミハエル・ヴィットマンがモデルかと思われます。黒円卓の中でもっとも戦闘を忌んでいるが、だからと言って手を抜くことはなく、むしろ遊びを一切入れずに命を果たさんとするため厄介です。寡黙キャラ、という設定のせいか旧版ではほとんど喋らず、創造の詠唱もたった一言だったけれど、クンフトで大幅に修正され、普通に喋るキャラとなっています。蓮同様メルクリウスにつくられた存在であり、蓮とは対の関係(ゲッツとファウストでゲーテ繋がり?)。蓮が「疾走による停滞」を求めるのに対し、マキナは「極点に辿り着くことでの終焉」を目指している。聖遺物が何かはクンフトじゃ明らかにされなかったが、旧版では確か「ティーガーを加工して人体に成形した」とかいう設定だったはず。蓮と因縁の対決を果たしたので以降はもう登場することもない気がしていましたが、よく考えるまでもなく「双方退け。ここでこれ以上の流血に意味はない」が未出のままだよな。螢ルートか先輩ルート、あるいはその両方でまだ出番があるのか?
ウォルフガング・シュライバー。二つ名は「悪名高き狼(フローズヴィトニル)」。一応人としての知能はあるが、昆虫並みの本能で殺戮を繰り広げ、しかもときどき本人しか納得できない理屈で行動するため、話が通じない。旧版では幼児性の高いサイコキラーとして描かれ、「ぶーん」とか言っちゃうややアホの子になっていたけれど、クンフトは「出来ない事抜かしてんじゃねえぞ薄ら青い作りもんがァッ!」などいかにも正田らしいイカレ台詞が盛り込まれまくって普通に頭おかしいサイコキラーと化しています。狂気の深さと思い込みの強さだけで人間の限界を突破してしまった天然魔道。『Die Morgendammerung』で語られた通り、軍籍に入る前は街娼をしていた。当時の格好がDiesで一、二を争う可愛さなのはいかがしたものか。「誰にも触られたくない、犯されたくない」という渇望が捕捉不可能な超スピードを生み出し、活動位階でさえ宇宙速度を叩き出す。すげぇな、そのまま大気圏突破して月まで行ってこいよ。「触られたくない」と渇望しながらも「愛されたい」と願っている心の相克が遣る瀬無いです。旧版は聖遺物であるバイクの燃料タンクに一発ぶち込むだけで敗北したため「バカみたいに呆気ない」と責められたが、クンフトではそのへんがあまり変わっていない代わり、「捕捉不可能な速さで逃げ回るため、そもそも攻撃を受けることが想定されておらず、ぶっちゃけ紙」とまあまあ納得の行く設定が追加された。生身だった頃は銃弾ブチ込まれても耐えたのに、攻撃喰らわないことで堕落したんかなー。黒円卓の連中ってエイヴィヒカイトを手に入れたことで堕落しちゃった奴が結構いるよね。「触られてからが本領発揮」らしいが、クンフトのマリィルートは本領発揮する前に倒されてしまったので、後に持ち越しか? 螢ルートのラスボスはエレオノーレあたりだろうから、来るとしたら先輩ルートかね。ベイともちゃんと戦ってほしいが、「シュライバー! いくらお前でも、夜に夜を重ねた俺には――」「あんな月5秒でぶっ壊せるんだよォッ!」と夜空を駆け上がって偽りの赤い満月をあっさりヴァナルガンドしてしまいそうだ。フローズヴィトニルなら月ぐらい軽く平らげるだろ。
ラインハルト・ハイドリヒ。二つ名は「愛すべからざる光(メフィストフェレス)」、言わずと知れたゲーテの『ファウスト』に登場する悪魔であり、蓮の詠唱「時よ止まれ――おまえは美しい」と対応している。モデルは同名のSS大将。曰く、有能だが人望に欠き、周りから悪魔のように恐れられ忌避されたという。元となった人物自体が凄まじいので、どんなにハッタリをかましてもやりすぎ感が漂わないです。「メメント・モリ(死を想え)」が座右の銘、そういえばハーケンクロイツと並んでナチスの象徴である髑髏もメメント・モリの有名なモチーフですね。ラスボスなので他を圧倒する力を有しているのは当然ながら、旧版は非常に魅力のないテンプレ悪役ゼリフを撒き散らすばかりで興が削げること夥しかったけれど、クンフトは渇望に取り憑かれて大虐殺(ホロコースト)をも厭わず、それでいて「すべてを差別なく平等に愛している」とのたまうなど、より一層底の見えない恐ろしさが深まって「まさにラスボス、まさに悪魔」といった風情を生み出している。思わず「ラインハルト様」と呼びたくなるわ。クンフトで著しく地位が向上しましたね。メチャクチャ恐ろしい反面、「手加減せんぞ、そんなことは生涯せん」と宣告するシーンをはじめ、セリフの端々に切実さが篭もっているのを見ると敵の大将なのについ肩を持ちたくなってしまう。怖いんだけど嫌いになれない、うっかりすると萌えてしまいそうになる。いろんな意味で破格の存在に仕上がっています。「すべてを壊す、壊したことがないものを見つけるまで」と主張しながら、結局メルクリウスに手を掛けることがなかったと思うと、なんだかんだでふたりは「永劫の盟友」だったんだなぁ……としみじみしてしまいました。
メルクリウス。「水銀の王」。「アレッサンドロ・ディ・カリオストロ」、「ヘルメス・トリスメギストス」、「カール・クラフト」等々、数千種に及ぶ名前を持ち合わせているので、もはや本名と呼ぶべきものがない存在。メルクリウスはローマ神話に出てくる神の名前で、英語読みすれば「マーキュリー」、「水星」や「水銀」といった意味も含んでます。カドゥケウスなんていう術式も有しているし、いちいち解説していったらキリがないほど膨大な設定に囲われているキャラです。「怒りの日(ディエス・イレ)」、「永劫破壊(エイヴィヒカイト)」を目論む黒幕であり、「既知感(ゲットー)の破壊と女神(マリィ)の救世」を目標として暗躍する永遠の放浪者(アハスヴェール)。正体を辿っていくと神話に辿り着いてしまう、えらく壮大な野郎である。性格は尊大の一言につき、高みから事態を見物してネチネチと嫌味ったらしいコメントを付すその姿勢から一部のファンの間で「ニート」とも呼ばれている。常に斜に構え、世の中のありとあらゆるものを嘗めまくっているが、愛しの姫君たるマリィと永劫の盟友たるラインハルトには例外的に敬意を払っています。すべての元凶と指弾すべき存在にして、その正体は「カインとアベル」のカインであると旧版で仄めかしていたが、クンフトではそのへん曖昧にされて正体不明になった。「永劫回帰」や「既知感」は彼のせいで生まれたらしいけれど詳しいメカニズムはよく分からない。そしてどうやらDiesの永劫回帰はニーチェの哲学とは無関係で、かと言ってエロゲーによくあるループものではないようです。Diesの永劫回帰は「生きた人間に魂が宿っているとして、死んだらその魂はどこに行くのか?」という老若男女が幾度となく抱く問いに対するアンサーの一つであり、「天国や地獄といった『あの世』に向かうわけではなく、消えてなくなるわけでもなく、輪廻転生するわけでもない。時間を遡行して、『自分が生まれた過去』に戻るだけ」と言い切ってるわけです。「魂は永劫に回帰する」と表現するよりも、「魂は不滅だが、死後の世界や輪廻は存在しない」と書いた方が伝わりやすいかも。魂は螺旋状に推進することなく、ただ同一の円環をぐるぐると回り続けるだけであり、その結果として疎ましい「既知感」が生じてしまうそうな。既知感を覚える覚えないになぜ個人差があるのか、またメルクリウス自身が永劫回帰しているならどこかの地点に「永劫破壊ならず志半ばにして落命するメルクリウス」が存在するのか、その場合メルクリウスの死は世界に影響を及ぼさないのかなど、スッキリしない点も多くてまだまだDiesの核心は謎に包まれています。包まれたまま終わるかもしれない。どうでもいいけど、ニートが軍服着て事象展開しているCGは今回も出なかったな……あれ本当に使われるのだろうか。それと獣殿が握る聖遺物、ロンギヌスの槍はアドルフ・ヒトラーに霊感を与えたという説もありますが、そこにメルクリウスの影を感じるのは穿ちすぎ?
ベアトリス。二つ名は「ヴァルキュリア」、いろんなゲームでお馴染みの戦乙女、北欧神話由来。本名「ベアトリス・ヴァルトルート・フォン・キルヒアイゼン」、軍人時代はエレオノーレの部下でした。故人であり、死亡したのは本編開始11年前(1995年)。死んだ場所が博物館で、同じ日にトバルカインが崩壊し、神父と尼僧も一枚噛んでいるらしいが、詳しい経緯は不明。神父が「大局を見誤った愚かな女」と評しているところからしてベアトリスが何か行動を起こした結果、裏目に出てしまった――という感じではなかろうか。旧版においては「ヴァルキュリア」「キルヒアイゼン卿」と呼ばれるだけで、「雷に関連した能力を持つ」ということ以外何も詳しいことは分からなかったし、螢ルートでも登場予定はなかったそうだが、過去編に当たるドラマCD第2弾『Die Morgendammerung』で初登場し、脚本を書いた正田自身がいたく気に入ったため急遽螢ルートに参戦することとなったらしい。今回は名前の出る頻度が増えたくらいで、直接的な出番はないだろう……と油断していたら驚愕の展開が訪れました。まさかこう来るとは。聖遺物が螢の緋々色金と同じく剣であると判明したものの、具体的な正体はまだ掴めず。材質系でオリハルコンとかかしら。あるいは「雷霆→インドラ」でヴァジュラとか。エレオノーレと浅からぬ因縁があり、ふたりの掛け合いが結構好きだったりします。ただ、声優が螢と一緒の人なのでボイスだけ聞くと混乱するんだよなぁ。ちなみにザミー姐さんは彼女を「ブリュンヒルデ」と呼びましたが、ブリュンヒルデとは『ニーベルングの指環』に登場する人物であり、元はヴァルキュリアの一人だったが主神に逆らって処罰され、「炎の壁」に覆われて眠っている。Wikipediaでワルキューレの項を見ると「勝利のルーンに通じる者」とありますが……Diesにおいて「勝利のルーン」を持つのは、他ならぬザミー姐さん。こんなとこまでいちいち繋がってんのかよ! 絆深すぎるだろお前ら! と感心を通り越して空恐ろしくなる。
イザークとヨハン。旧版では影も形もなかった完全新規追加キャラクターです。それぞれ「金色(ゴルト)」と「銀色(ズィルヴァ)」の二つ名を持つ双子のゾーネンキント。優秀な兄とそれに似ていない弟、と何やら確執が生じそうな関係ながら、ふたりの絡みは一切なし。というかヨハンの出番がゼロで、イザークの方にチョロっと出番がある程度。クンフトで重要度が増したレーベンスボルン設定の中核に位置する双子であり、イザークの方は「なぜ壺中天にいるのに子孫がつくれるのか?」という疑問がありますが、香純ルートの蓮みたいに肉体はこっちに残っていて魂だけグラズヘイムの壺中天に行っているのかもしれない。獣殿も自分の肉体は聖餐杯として地上に残したわけですし、「城」を行き来できるのは魂だけみたいですね。で、肉体だけあれば……というわけです。同じゾーネンキントである先輩ルートで重要な役割を果たすのではないか、と睨んでいる。しかし壺中の天と聞くと、Gユウスケがイラストレーターをやってる『ダンタリアンの書架』を思い出してしまう。