「うそ×モテ 〜うそんこモテモテーション〜」
   /STUDIOねこぱんち


 発売される3日前になって初めて存在を知り、何の気負いもなく体験版をプレーした。十数メガ程度のショボい容量。いかにもイケてないタイトル。期待する要因はなかった。

 3日後──発売日当日、ショップの片隅。ろくろく他人の報告も待たず、新作ソフトの山にひっそりと埋もれるように佇んでいたこのゲームを、愛しげに掴み取ってレジへ直行している人影があった、とさ。

 「体験版プレー→即購入決定」というコンボを踏んだゲームは実のところほとんどない。というか、これが初めてで、今のところこれ一本のみである。あらかじめなんらかの興味を抱いていて、体験版をプレーしたことで購入の意志が強まった、なんてことは何度かあったけれども。

 言ってしまうが、うそモテの見た目はかなりヘボい。タイトルもアレだが、インパクトの薄いパッケージ、時代を逆行したような安っぽい立ち絵、「萌え」などといった訴求力が低いキャラクター、あったりなかったりする声、微妙に使い辛いシステムと、マイナス要素だけ拾っていけば、ひと山いくらのワゴン品と区別がつかないところがある。

 しかしこのゲーム、ひと度ツボにハマればかなり面白い。体験版で何か感じるものがあった当方だが、いざやってみたところ、横隔膜が破裂するくらい笑うハメになった。ツッコミ重視のハイ・テンションなコメディ・ギャグ系のゲームだが、王道を歩んでいるのではなく、むしろメタ王道的な気配がある。「王道ならこう来る、ならば俺はこう崩す」と言わんばかりのノリ。「幼馴染みが美少女」、なんて生温い攻め方はせず、「幼馴染みが地味」、それもただの地味ではなく「死ぬほど地味」という凶手を突いてくる。くだらないことを言う主人公に「もう、ふざけないでよ」とぷんすか可愛らしく怒ってみせたりはせず、「『お笑い』を無礼めるな!」と怒髪天を突く勢いでマジギレする。まるでトワイライト・ゾーンに紛れ込んでしまったかのような気分になること請け合い。「こんなふざけた幼馴染み、俺は認めない!」。

 えー、ストーリーの方はというと、の○太みたいなダメ主人公が鯖缶の中から出てきた妖精と契約して「女の子にモッテモテのウッハウハァ!」な状況に……とここまでならありがちな話(鯖缶除く)だが、アルケミーな等価交換の法則に従って、主人公はモテモテになる代わり嘘しかつかない体になってしまう、つーあたりがやや面白いところだろう。「の○太みたいなダメ主人公」というと創美研究所の『ぱちもそ』が思い浮かぶが、あれと似たところはあるな。周りから迫害されていた主人公が、うそモテではモテモテパワーを、ぱちもそでは秘密道具を手にすることで周りを支配し、全能感を噛み締めるといった「弱者の復讐」がポイントになっているあたりとか。

 モテモテパワーを駆使して欲望のままにヒロインたちを食いまくるような展開もあり、それはそれで楽しいが、やはり話として面白くなるのはメインヒロインひとりひとりを対象にした個別シナリオ。嘘しかつかない体でどうやって恋愛をしていくのか……滑稽でもあり、少し哀しくもあるシチュエーション。「モテモテだけど嘘しかつけない」という設定がギャグのみならずシリアスな方面ともうまく結び付いており、「コメディだけでは物足らない」、締めるところではちゃんと締めて欲しいといった人も安心してプレーできる仕組みとなっている。なんでも切れる包丁に檜のまた板が付いてくるくらいの抜かりのなさ。もちろんまた板もバッサバッサと切れるわけで。

 ヒロインはメインが3人、サブも同数の3人で、つまりは合計6人が「喰える」手筈になっている。イタリア帰りのクラスのアイドル、地味眼鏡な幼馴染み、心底悲しくなるほどおバカな令嬢、花屋の陰気な娘、女教師、○○○と、あー、コメントのし辛い面子が揃っておりマス。「花屋の陰気な娘」あたりのシナリオはちょっと人を選ぶと思うが、個人的には結構好き。「お約束」に通じていればいるほど面白みと後味の悪さが増していく(結末はサッパリしているが)感じである。あ、そうそう、鯖缶の匂いを漂わせる根性悪妖精・モモは喰えません。「てのひらサイズの妖精に文房具であんなことやこんなことを……ハァハァ」と黒い期待を抱いていると泣きを見マス。……いや、自分の話ではないですよ? この両頬に残るのは涙が乾いた跡ではありませんよ? なあに、なめくじが這っていっただけさね、ハハハ(虚)。

 ああ、それとこのゲーム、立ち絵はやたらとチープな仕上がりだけど、イベントCGはなかなかに良い出来だったりする。立ち絵にしたって最初はヒいても、しばらくプレーしていれば気にならなくなる(どころか気に入ってしまうことさえもある)から、見た目に騙されず「ものは試し」と手につけて欲しい一本デス。


>>back