「漆黒のシャルノス」
   /ライアーソフト


 日記の内容を抜粋。


2008-11-19.

『コンチェルトノート』の体験版と『漆黒のシャルノス』の体験版を立て続けにプレー。

 つ…か、これ両方ともメインヒロインの声優が「かわしまりの」じゃないですか! あれか、当方を凛々しいかわしまボイスでウォッシュウォッシュと洗脳しようって魂胆なのか。隈取塗ったキンカンが「ようこそ、かわし間へ」って微笑む寸法か、これは。ならば大成功といったところですよコンチクショウ。最近「いいな」と思い始めていた声優だけに一気に傾斜、目も当てられぬほどドドハマりの惨状を呈した次第であります。メアリも莉都もどっちもイメージばっちりでエラいこっちゃ。彼女の声聞くとどうしても櫻井螢を連想して胸が苦しく……なりますけど泣いてませんよ、泣いてませんからねっ。「明日からは決して風にはためくことのない旗であった。空を泳ぐことのない旗であった」という『だいにっほん、おんたこめいわく史』の一節を掘り返しっ、「夜空を泳ぐことのない螢であった」に置き換えっ、「うっうっうっうっ(涙)」と泣き崩れたりなど断じてしておりませんからねっ。

 さて、いささか錯乱気味のテンションになってしまいましたが、軽くトラウマをほじられつつもKawashimaの威力はキチンと発揮されて胸に染み入りました。『コンチェルトノート』の方は話が動き出す前にあっさり体験版終了となってしまったのでどういう内容なんだかいまいち分からず、結局ヒロインたる莉都の素晴らしさしか頭に残らなかった。さすが「莉都ゲー」と言われるだけのことはある。逆に『漆黒のシャルノス』は予想以上に体験版の範囲が長く、区切りの良いところで一旦「つづく」って出たにも関わらず、平気ですぐ再開しやがります。「まだ終わらないの!?」と叫んでしまったのもむべなるかな。たっぷり味わえるのはありがたいことながら、さすがにちと疲れた。ただ、ちゃんと冒頭から丹念に見せてくれることもあり、話の途中から始まる『赫炎のインガノック』の体験版と違って入っていきやすかった。インガノックは雰囲気に馴染めないまま体験版が終わってしまったのでスルーしましたが、シャルノスはうまく皮膚に浸透する感じ。メアリかわいいよメアリ。「桜井光のシナリオは自分に合わない」という考えを、少しとはいえ改めさせてくれました。終わり近くに使われたセリフ、「 残 念 だ っ た な ! 」が非常に印象的で、作品スレ覗いたら案の定流行っていて笑った。

 どちらもなかなか魅力的で、続きがやりたいかと言えば頷くところながら、現状からして購入したら積むことは目に見えているし、ここのところ浪費が激しいというかヒドいのでまずは判断保留。来年になるのを待って結論を下したい。それからかわしまりのに白旗を上げても、遅くはないだろう。陥落の日を震えて望むばかり。


2008-12-19.

・年明けまで待てなかった。評判に釣られ、『漆黒のシャルノス』を手に取る仔猫(キティ)と化した焼津です、こんばんは。いや評判に釣られるよりもメアリ(CV:かわしまりの)の度外れた可愛さに負けた。あとモラン大佐の忠臣ぶりも利いた。それにしても、第3幕に入った途端ボイスがほとんどなくなるとか、相変わらずの嘘屋クオリティですね。最近は評判も上向いてきたように思っていたけれど、未だにフルボイスでやれるだけの開発費が賄えないのか……。

 シナリオはまだ大して進めないないので、ゲームパートについて。体験版ではあそこをすっ飛ばしてプレーしましたから、攻略するのは製品版が初めてとなります。パッと見でユニットを動かすだけの単純なゲームかと思っていたら、案外とめんどい。こちらのユニットには攻撃力とか一切ないんで直接敵ユニットを倒すことができず、ただ捕まらないよう迂回したり敵ユニットを罠に誘い込んだり、要するに「逃げ」の一手しか選ぶことがません。爽快感がなく、フラストレーションが溜まります。一幕に前半戦と後半戦が用意されており、後半戦は特定されたゴールを目指すだけなので比較的楽(敵ユニットを一定数罠に掛けないとボーナスCGが見れないけど)ながら、前半戦はマップに隠された「クリア条件となるマス目」を「あと○歩」というヒントだけで探し出さないといけない。しかもその踏まないといけないマス目は4つもあって、敵ユニットの動きを気にしながら探すなんてヌルゲーマーにはお手上げです。苦労して3つ踏んであと1個もほとんど場所が分かったのに、うっかり囲まれて退路を塞がれたときの絶望感と言ったら、まさに「 残  念 だ っ た な ! 」。サポートユニットでも出てきてくれれば少しは息がつけるのですが……。

 20世紀初頭のロンドンをベースにした世界設定といい、ヒロインをホームズとではなくモリアーティとカップリングさせる意外性といい、金髪の麗しさを十二分に伝えてくれるグラフィックといい、ソフトの雰囲気に関してはばっちりツボに入るというかめり込んでます。ライアーソフトのエロゲーは決まって癖が強いので反りが合わないこともままあるけれど、今回は久々の収穫となりそうな気配だわ。示されるトーンは物憂げでいて、しかし「諦めない」ことが主柱となっているあたり、実に当方好み。追い詰められて震えながらも怯えながらも抗うメアリの姿にゾクゾクする、と書いたらSっぽいでしょうか。まだ幕間にしか出てこないけれどバロン・ミュンヒハウゼンも気になるキャラ。ミュンヒハウゼン男爵と言ったらやっぱり『ほらふき男爵の冒険』を想起するわけで、期待が湧く。顔に付けた仮面はバリ島の聖獣「バロン」を模してるとか。当方がバロンと聞いて思い出すのは『バロン・ゴング・バトル』ですけど、発行年数を見るにアレってもう十年前の漫画なんですね。時の流れを感じずにはいられません。


2009-08-11.

・るい智とかと一緒にのんびり進めていた『漆黒のシャルノス』、やっと第7幕に到達。

 開始当初はいまいちストーリーが分からなかった(ヒロインであるメアリを様々な形で狙う様々な勢力があることは嗅ぎ取れるものの、具体的にどういう理由で狙っているのかいまひとつ呑み込めなかった)が、さすがにこのあたりまで来ると大まかな枠組みが見えてきますね。直接的な説明が少ないので「たぶんこうじゃないかなー」と予想を積み重ねている要素が多く、見えそうで見えない箇所があったりしてもどかしいが、もどかしい反面、意味の読み取れなかった部分が徐々に咀嚼できるようになってくると妙な快感が湧き上がってくる。見た目は煌びやかなくせして何気にスルメゲーというか、ジワジワ盛り上がってくるタイプの物語だ。体験版は第2幕まで収録していましたが、もし収録箇所が第1幕のみだったら、製品版にたぶん手を伸ばしてはいなかったでしょう。そして何より、ヒロインのメアリがこんなに可愛くなければ、第1幕の途中で投げ出していたかもしれない。正直に申し上げますと、第4幕くらいまでは「メアリかわいいよメアリ」の一点張りで本筋にあまり注意を払っていなかったが、第5幕あたりでようやく遅まきながら興味を示し始めた次第。演出とはいえ「繰り返し」が多いシナリオ(バンクめいたテキストやテンプレに近い文章もてんこ盛り)だけになかなか馴染めなかったし、短く、且つきれぎれなセンテンスを乱発する桜井光の作風にも辟易していた(一つ一つのテキストを絞り過ぎていて、味気ないというか物足りないというか)ものだが、気づけば慣れていました。すべては順応力の御心のままに。ポイントとしては足りない箇所を妄想で満たす、いわゆる「脳内補完」をほぼ随時発動させることが重要であり、パズルの穴を埋め続けるが如く常に考えを巡らせていればフワァッと気持ち良くトリップできる。そういう観点に立てば、シャルノスはなかなか脳内補完のし甲斐があるゲームだと言えます。

 話の雰囲気から察するに、そろそろ折り返しを過ぎてクライマックスに向かっていくところかな? メアリの可愛さ据え置きのままストーリーが好調になってきてくれているんでありがたい、実にありがたい。「メアリに悪い虫が付いている」と睨んでお冠になるアーシェも愉快であり、程好くテンション上がった。というかあそこ、表情変化のパターンがやけに豊富で笑った。


2009-09-04.

・地道に進めていたライアーソフトの『漆黒のシャルノス』、遂にコンプリート。

 副題「What a beautiful tomorrow」。製品版のプレーを開始したのが確か去年の12月でしたから、かれこれ9ヶ月は要したことになりますね。時間掛かりすぎ。本編そのものはそんなに長くないと申しますか、計ってないので正確な数値はよく分かりませんけれども……全10幕仕立ての一本道ゲーですから、ゲームパートにてこずらなければ1幕当たり2、3時間として、だいたい20〜30時間もあればクリアできると思います。パートボイスなのでフルボイス作品よりは若干プレー時間が短い。しかしライアー作品としては結構ボリュームがある部類かも。『SEVEN BRIDGE』なんか後半飛ばしまくりで、ほんの12時間くらいで終わった気がしますし。ともあれシャルノス、量的には文句ないっつーか、ダレないし呆気なくもないし、実に丁度イイ長さでした。

 時は1905年10月、ところは英国。霧と排煙に包まれ常時薄曇りで日の射すことがない機関都市・ロンドンを舞台に、王立碩学院へ通う優秀な女学生・メアリが、絵本から飛び出してきたような幻想生物“怪異(メタクリッター)”と命懸けの鬼ごっこを繰り広げるスチーム・パンク・ファンタジーです。とにかくこのメアリが可愛くて可愛くて、こんな素晴らしいヒロインがいなければ当方はきっと『漆黒のシャルノス』を買っていなかったと思う。“怪異”絡みで昏睡状態に陥った幼馴染みの少女・シャーロット(愛称シャーリィ)を助けるために、“怪異”を狩る謎の男・Mと契約を交わすメアリ。1904年の12月から彼女の右眼は「黄金瞳」と呼ばれる、金色で猫の目のような縦長の瞳孔を持つものに変わっており、“怪異”はこれを狙ってメアリに近づいてくる。Mは、彼女を「“怪異”をおびき寄せるための餌」として危険に晒す代わり、すべての“怪異”を狩り尽くした暁にはお前の願いを叶えてやる――と約束するわけです。かくして彼女は黒い異界、「シャルノスのはざま」で“怪異”の魔手から逃げ惑うハメになるわけです。この「逃げ惑う」ところは実際にユーザー自身がプレーするゲームパートなので、「もうイヤ! 追ってこないで!」と“怪異”を拒絶するメアリにひたすら共感すること請け合いです。決して難しくはないんですけど、ちょっとしたミスでそれまでの努力がパァになってしまうこともあり、結構非情。ライアーソフトはこういう「遊べる」要素をちょくちょくゲームシステムに仕込んで、大概途中で「もう飽きた……」とグッタリさせるものですけれど、今回は最後まで飽きずに楽しめました。むしろ、最終章にゲームパートが用意されておらず、我らが愛しのメアリを操作できないことに歯噛みさせられたほど。これまでリリースされてきたライアー作品の中でも、ノベルパートとゲームパートのバランスが極めてよく取れた部類に属するんじゃないかしら。それにつけても「あきらめない!」「仔猫(キティ)っていわないで!」と声を張り上げるメアリが可愛い。モデルがアガサ・クリスティであることをついつい忘れそうになる。

 「漆黒の〜」なんていうバトル主体の深夜アニメみたいな厨臭いタイトルをしている割に終始一貫して平易かつ鋭利な文体で物語を綴っており、また戦闘描写も単調というかごく一方的で駆け引きの要素が皆無、実に淡々としていて「激しくて派手な血沸き肉躍るアクションの数々! 危機一髪、紙一重で凌ぐスリルの連続!」を期待するとやや肩透かしです。共通テキストを何度も執拗に繰り返す構成も、慣れないうちは単なる手抜きにしか見えない。ワケも分からずただただ戸惑ってばかりいるヒロインの姿にもイライラさせられるかもしれません。そもそも、世界観やストーリー……メアリの黄金瞳を狙う“怪異”や、その背後に見え隠れする「チャペック研究会」の影、そしてMの所属している秘密結社「西インド会社」やシャーロック・ホームズが密かに在籍している帝国統治組織「ディオゲネス・クラブ」、涙を流しながら夜のロンドンを徘徊する泣き妖精「コード・バンシー」、女王陛下の肝煎りで運用された「ゾシーク計画」及びその後継「シャルノス計画」、シャルノスの世界で待ち受ける「タタールの門」、Mが己の正体を現す際に用いる「クルーシュチャの方程式」など、思わせぶりな設定が多いくせして詳密な解説は一向に行われず、読んでいる我々までもがメアリの如くただただ戸惑って右往左往させられる。3幕と4幕の「白牙の魔犬」は元ネタである『バスカヴィル家の犬』を知らないと少々分かりづらい。「シャルノス」は造語みたいですが「ゾシーク」は恐らく『ゾティーク幻妖怪異譚』に由来するものでしょう。クトゥルー関連の用語もチラホラ盛り込まれています。とにかく非常に広範囲からネタが拾われていて、「一つ一つのガジェットが理解できないと気持ち悪い」っていうプレーヤーならば途中で投げ出してしまっても不思議ではないし、そもそも全体像がすごく掴み辛い。勘の鈍い当方など、7幕あたりに至ってようやく話の一端を掴めてきたほどです。全容は、未だに把握しているとは言いがたい。しかし、「なぜ彼らは明日を否定するのか?」という部分に想像を巡らせられるようになれば俄然面白くなってくることは確かであり、メアリが頑なに繰り返す「諦めない!」の叫びも、平板なようでいて複数の意味が篭められていることに気づく。最初の壁が少し高いけれど、そこを越えると一気にハマりますよ。9幕から終幕に掛けての展開は「圧巻」の一言に尽きました。

 結局、全編通してまともな濡れ場が一個もなかった(何せこれ、メアリが恋をするとかそういうストーリーじゃないですから……)ので、エロゲーとしては失格も甚だしい出来ながら、雰囲気づくりは徹底しており、進めれば進めるほどに魅力と味わいが増していく一種のスルメゲーではありました。たくさんのキャラクターが登場する反面、活躍の場面が少なかったり退場するのが早かったりで、個々の扱いに不満を覚えることが多い(エド・オニールに至っては噛ませ犬ですらねぇ)ものの、入れ替わりの激しさによって「閉じていない、開かれた世界」を感じさせてくれたことはありがたかった。完全にメアリ目当てで購入したからそれ以外にはまったく期待していなかったんですが、プレーし終わった後に「メアリが好き」ではなく「『漆黒のシャルノス』が好き」と断言できる程度には愛着を持ってしまった次第。メアリの健気さよりもMの「眩しそうな目つき」の方に萌えちゃったしな。「あたしの手を取りなさい、黒猫(キティ)」「……黙れ」という遣り取りすら幻視した。あとシャーリィメアリを大好き過ぎて噴いた。気持ち悪いという次元を突破したドロドロの執着心が超ステキ。バンシーのループボイスは半ばホラーじみていましたね。ふたりの衝突、そして決着が見れたのは大きな収穫でした。

 公式ページに掲載されているウェブノベル「ナイハーゴの灰葬」は後日談ゆえ、クリア後に読むことをオススメ致します。てか、むしろクリアした人間は必ず読むべき。前編・中編・後編と3つに分かれており、またそれぞれが数ページに分かれていますから、勘違いして各編の冒頭1ページずつだけ読んで「ワケが分かんねぇな」とこぼしたりしませんようご注意。こんなことを書いている時点で「自分がそうして恥ずかしい思いをした」って事実がバレバレなわけですが……ちゃんとした方法で目を通せば内容は面白く、思わず『漆黒のシャルノス2』を希求したくなった。あと、原画を担当したAKIRAのサークルKaned Foolsがシャルノスの同人誌を2冊出しています。去年の冬コミで売られた「おさるのす」と今年の夏コミで売られた「しつこくのおさるのす」。同人誌とはいえ「しつこく」の方にはシナリオライターである桜井光の寄稿もあるなど、ほとんどオフィシャルに近い内容であり、機会と資金があれば是非押さえておきましょう。当方は「しつこく」のみ確保に成功しました。「おさるのす」はまたいずれ。


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