「ロクでなし魔術講師と禁忌教典(アカシックレコード)」
   /羊太郎


・羊太郎の『ロクでなし魔術講師と禁忌教典(アカシックレコード)』読んだ。

 第26回ファンタジア大賞「大賞」受賞作。作者名は「ひつじ・たろう」と読む。大谷羊太郎が念頭にあったので、ずっと「ようたろう」だと思っていました。ファンタジア大賞はかつて「ファンタジア長編小説大賞」と銘打ち年に一回のペースで運営していたが、第24回から名称を改めたうえで毎年2回、前期と後期に分けて募集を行っている。なんかここ最近賞持ちの新人が多くなったな、と感じたのは気のせいじゃなかったのです。たとえば、2009年から2011年までの3年間に何らかの賞を獲った新人は12人いましたが、2012年から2014年までの3年間には20人もの賞ホルダーが生まれている。獲っただけでデビューを果たしていない人もいますし、少し前に「富士見ラノベ文芸大賞」という新しい枠組みができたので、実際にファンタジア文庫から出た(及び出る予定の)新人は15人くらいですけどね。

 ともあれ『ロクでなし魔術講師と禁忌教典』、本書のストーリーを要約すると「ニートの青年が社会復帰のために魔術学院へ非常勤講師として送られ、美少女たちと仲良くしているうちに厄介事へ巻き込まれて大活躍!」といったふうになる。なんか前回紹介した『監獄学校にて門番を』と重なる設定だが、「ニート生活はもうイヤだ! お祈りメールはもう欲しくない!」とそれなりに勤労意欲を燃やして就職活動に励んでいたあちらと違って、こっちは親代わりの女性に縋ってスネを齧る気満々、筋金入りの「働きたくないでござる!」さん。「穀潰しはいらん」と追い出され、渋々非常勤講師をやることになった主人公は勤労意欲や遣り甲斐とは無縁。辞められるものだったらさっさと辞めたい、と無気力に自習連発の授業を繰り広げて真面目な生徒から怒りを買う。この「真面目な生徒」がヒロインのシスティーナ=フィーベル。輝く銀髪がトレードマークであり、主人公からは「白猫」と呼ばれている。極白のシスティーナ。間接キスなんて全然まったく何も気にしなさそうだ。いい加減すぎる主人公を毛嫌いしながらも生来の真面目さから無視できず突っかかるシスティーナを、「生意気」と弄り返す主人公。ふたりの遣り取りを面白いと思えるかどうかで本書を楽しめるか否かがほぼ決まってきます。なんというかこの掛け合い、相良宗介と千鳥かなめを彷彿とさせるな……と思っていたら案の定、あとがきで作者がフルパニファンだと判明した。ライトノベルにハマるキッカケとなったらしい。

 態度は不真面目でも実は有能で本気出せばスゴイ的な、よくあるパターンだろ? と勘繰ったアナタ、正解(ピンポン)です。途中からやる気を出した主人公はそれまでとは一転、生徒たちが瞠目するような画期的授業をやってのける。この授業シーンがちゃんと後々のストーリーに関わってくるので、「魔術学院」が単なる舞台設定に留まっておらず、なかなかキメ細かい造りと言えます。しかし、主人公は決して才能に恵まれた魔術師ではない。たとえば早撃ち(クイックドロー)の如く即座に魔術を放つ「一節詠唱」が彼には出来ない。そのためキレたヒロインの持ちかけた決闘に臨んだ際、詠唱が間に合わずボロ負けしてしまう。適性がないにも関わらず、血の滲む努力を礎にしてどうにか人並み以上のレベルまで達した。けれど、過去の出来事が原因で挫折してやる気を失った……そういうクチです。あくまで主人公を中心にして読むと、これは一種の再生ストーリーなんですよ。「未来ある若者たち」が紡ぐ希望によって彼自身が前向きになっていくという。

 後半は「学園に侵入してきたテロリストが(以下略)」とお定まりの展開に突入し、「またこのパターンかよ」と辟易してしまったが、主人公の能力が「チート」という域には達していないこと、日常シーンのコメディチックな会話がちゃんと軽妙に仕上がっているおかげで個々のキャラが立っていることなどから、ベッタベタでもなんとか乗り切ることができている。やはり前半の面白さに比べると後半がビミョーだと感じるが、このへんに関してはシリーズが進んで物語の枠が広がっていくにつれだんだんと良くなっていく部分だろうと予想する。トータルバランス型で突出した部分はないにせよ、まだまだ成長の余地はあるしもこれからに期待が持てる新人だ。2巻の発売は11月を予定しているとのこと。ここから更に学園要素を高めて盛り上げていってほしい。

 しかし女子の制服、ぜかましコスに見えてしょうがねぇな……こんなんが街歩いてたら娼婦かと思うわ。


>>back