「Ricotte〜アルペンブルの歌姫〜」
   /RUNE


 若きピアニストと幼き歌姫の恋。舞台は19世紀末か20世紀初頭あたりのフランス、架空の町。

 これだけ聞くとひどくかったるい話のような印象を得ますが、主人公の一人称を基調とした文章は終始口語体で軽く、読み易い。重厚な雰囲気を期待する向きには合わないでしょうけれど、メインヒロインとなる少女・リコッテの魅力に惹かれたのなら、何ら問題はない。さくさくっ、と入っていって大いに萌え転がることができます。

 原画は一目瞭然、野々原幹。2chで「御大」と呼ばれる人物は板やスレッドによってまちまちですが、この人もまたRUNEスレあたりで「御大」と称されるひとりです。かつて御大の手による『Fifth』のヒロイン・マナを目にした者(具体例:当方)はあまりにも蠱惑的なロリっぷりに心の底から震撼しました。思わず「天に御座すロリの神様もご照覧あれ!」と叫んで長々と口上を述べたくなるほどに。大袈裟な書き様ですが、当時はマジで衝撃を喰らいました。次の日にはもうショップに走っていた記憶があります。

 あれからもう4年経ちました。続編の『Fifth twin』はヒロインたちの造型が好みに合わなかったせいでスルーし、以来御大の絵とは縁遠くなりましたが、昨年の『初恋』が好評を博したおかげで当方の注目も戻ってきた次第。結局『初恋』は買わず終いでしたけど。

 で、この『Ricotte』。『初恋』から1年くらいしての新作ということで一応目は向けてみましたが、「若きピアニストと幼き歌姫の恋」ってストーリーは興味をそそるような、そそらないような、まっこと微妙な線でした。シナリオライターが千籐まさとだと聞かなければ、確実に様子見の姿勢へ走っていたハズです。

 千籐まさと……詳しい説明は省きますけど、ぶっちゃけて言えば当方は彼にゾッコンなのです。「そっと見守ろうぜ」という暗黙の規定を破ってまでHPのBBSに書き込んでしまうくらい惚れ込んでいます。あまり更新はされないのに毎日アクセスしてるあたりなど、正にストーカー的な情熱を燃やしている始末。なんとなくバラしてしまいますが、この「Method of Entry」というページを開設した理由の半分は『うそ×モテ』を布教するためでした。発売3日前にソフトの存在自体を知り、30分程度で終わる体験版にベタ惚れして、真性のロリスキーであるにも関わらず『先生だ〜いすき』を見送ってまで購入に走ったのですから……思い入れがないと書いたら嘘になります。『先生だ〜いすき』の体験版をやったことのあるロリスキーならば、当方の決断がいかに血涙モノだったか分かろうものかと。

 野々原御大と千籐氏がコンビを組む。こんな情報を目にして当方が期待せぬ道理など、現代日本には成立し得ません。設定的に『うそ×モテ』みたいな弾けぶりが出せないであろうことや、企画の大枠は御大の方が手掛けたということから、どれだけ「千籐らしさ」が感じられるか不安でしたけど、「回避する」「しばらく様子見する」などという選択肢はなく。発売前から散々購入をほのめかし、順調に後退のネジを外していきました。あれだけリコッテ、リコッテとほざいた後に「やっぱやめるわ」なんて言い出すグッド度胸は当方にありません。それと知りつつ自分を追い込んだ次第。これぞ「≪自縄自縛、ただしマゾ≫みたいなっ!」。

 そして迎えた発売日当日。十数本も積まれた他社新作の影に二本しか置かれていなかった『うそ×モテ』と違い、真ん中にドカ積みされて「オレが目玉だ!」と主張していました。口の端に草咥えて庇の割れた学生帽被った喧嘩番長並みに雄々しく、あまりの眩しさに瞼が熱くなったりならなかったりします。興味はゲーム本編だけなので初回限定版とかのこだわりはありませんでしたが、通常版が置いてなかったので初回限定版を買いました。

 CD2枚組。特典としてマキシシングルやポスカのセットが入っています。インストールは10分くらいで終わり、いざ本編へ。

 造船で有名な工業の町、クワルク──バノン・エメンタールはここで生まれ育った。ピアニストであった父から手ほどきを受け、ピアノを弾くようになった彼は、「パブ・シャンベルタン」で毎夜少ない客を相手に演奏を披露していた。いつかは父親の立った街、アルペンブルで活躍する名ピアニストとなることを夢見て。そんなある日、彼はリコッテと名乗る少女と出会う。何やらワケありで、帰る家がないという彼女と同居生活を始めたバノン。やがて彼女の素晴らしい歌声を耳にして、興味関心は深く強まっていく。小さな衝突と和解を経て進展する彼らの仲。月日は流れ、遂にリコッテは告白した。「私はアルペンブルで歌姫と呼ばれていた少女なの」と。

 タイトルが「Ricotte」ですから、当然の如くリコッテがメインヒロン。他にもあと何人か女性キャラは出てくるけれど、その誰もが限りなくオマケに近い扱いとなっています。「たべられません」とシリカゲルみたいな子も混じっています。リコッテにあまり興味がなく、サブキャラの誰かがお目当てという方には是非再考を促したい。このへんは同月発売の『アリステル』と似た設計。いえ、当方は未プレーですが。リコッテ買うために順延したのですよ。

 エッチは複数回──具体的に書けば、回想枠が29個あります。いくつか直接的なエッチじゃないイベントも混じってますけど、「多すぎず少なすぎず」といった量です。エッチに重点を置いた『アリステル』と比べるとさすがに薄い気はしますが、恋愛やシナリオを重視したタイプとしてはそれなりに頑張っているのでは、と。ちなみにシナリオ監修は『アリステル』のライターでもある猫舌あちが手掛けていますから、エッチシーンも何らかの形で関与したのではないかと予測されます。焼肉を食べながら千籐氏にエロテキストのなんたるかを懇々と諭す猫舌氏の姿を妄想したり。「『おち○ちん』だけは不可欠ですよ、『おち○ちん』だけは! ……あ、そのへんもう焼けてます?」

 さて、ストーリーはひと口で言ってしまえば「主人公がリコッテとくっつく」となりますが、くっつくまでやくっついた後に問題が発生して、それを解決するために努力したりしなかったりする。大筋で言えば「お約束」を地でいくノリ。クワルクが造船所として有名とか、人攫いが横行しているといった設定は話に絡んで来ないし、いろんなネタをほとんど使い捨ての形式で積み重ねていくため、凝ったプロットも大掛かりなトリックもなく、意表を衝く展開はゼロ。あくまで読み手の「次はこう来るだろうな」という予想が逐次的中するシナリオで、ホント、良くも悪くも「お約束」。まったりとした空気の中で和やかな遣り取りを交わし、萌えイベントにじっくり心を安らげることができるのはひとつの長所と言えますが、裏を返せば起伏の乏しさが否めないシナリオでもあります。「ハウス名作劇場」を彷彿とさせるベタなストーリーを、ベタと知りつつ、あるいはベタであることを気にせずに楽しめるのなら何ひとつ問題はない。

 ただ、このゲームにはAllegro編とLargo編というふたつのルートがありまして、それぞれでかなりストーリーが違います。あまり細かく説明するのはよしておきますが、Allegro編は「ドタバタ」の色彩が強いシナリオでエッチが多め、Largo編は「まったり」が色濃いシナリオでエッチのお預け期間はかなり長い。Allegro編は30分もすればリコッテのエッチに突入しますが、Largo編ともなれば待望のシーンまで5〜7時間くらいかかります。リコッテへの熱い想いがいろいろ昂ぶっている人は下手にLargo編を選ぶと「まだか、まだか!」と身体のどこかが悲鳴をあげますので注意。脇役の活躍ぶり、分量などからしてメインと目されるのはAllegro編の方みたいです。Largo編ではちょっと触れられるかほのめかされるか程度だった事柄を追及していくので、「Largo編→Allegro編」が制作者の意図した攻略順ではないかと察せられます。回想の位置からしても。まあ、ふたつのルートは一番最初の回想シーンで分岐するようになっていますから、ここで気の赴くままに選択を行ってどちらのルートを先に攻略するか決めるのも悪くないと思います。

 話は両ルートとも一本道で、バッドエンドを除いた正規のエンドはそれぞれ一つずつしかない。パブの3人娘とか、他のキャラとの個別エンドは一切なし。ある意味、清々しくシンプルな構成ですね。タイトルが「リコッテ」なのに他のキャラと恋愛を繰り広げるってのも何ですし。当方はバッドエンドスキーなのでわざとまずい選択肢を取ってプレーしてみたりもしましたが、確認できた限りで4つ。両ルートの前半と後半に仕込まれています。素っ気ない終わり方といいますか、特に力が入ってるわけでもないので、当方みたいなバッドエンドスキーでもない限りわざわざ確認することはないと思います。Allegro編の後半バッドエンドは別として。回想を埋めるために必要ですし、リコッテの切なく痛いセリフが聞けるので鬱展開に(*´Д`)ハァハァする人なら見逃せない。

 ふたつのルートが相互補完する形でストーリー展開していく構成がちょっと珍しいものの、別段何も難しいことはなく、気軽にプレーしてもOK。主人公の二重性について抵抗を感じる方とておられるかもしれませんが、「なんだかんだ言っても根は同じ」と処理することを推奨します。当方はLargo編に12時間、Allegro編に17時間と、計30時間近く要しましたが、プレー速度によって15時間とか20時間とか個人差があるみたいです。

 Largo編の前半を除けば退屈することなくプレーできましたが、欲を言えば両ルートを制覇した後にオマケシナリオなり何なりがほしかったですね。Largo編→Allegro編の順にやるとコンプ後もいまいち達成感が湧かず、「もう終わりなの?」とタイトル画面をうろうろしてしまいます。「正真正銘、これにて閉幕!」と断言する総括的エンドがより一層キレイに締まったのでは、と惜しがる気持ちでいっぱい。

 細々した不安は転がっていますけど、結論を言えば良作だと思います、これ。突き抜けるような面白さがないぶん傑作とは言いかねますけど、あらゆる要素が無難に高いレベルでまとまっていて、安心して楽しめる出来に仕上がっている。一にも二にも、とにかくリコッテ。シェヴリッタというやたら発音しにくい本名の彼女に魅力を感じさえすれば、ややダルめの日常も色鮮やかに光り輝いて映ってくるでしょう。

 素直だけど意地っ張りで生意気で怒りんぼ。感情が昂ぶりすぎて泣き出すこともしばしば。子供扱いされることを何よりも嫌う彼女は相当なヤキモチ焼きで、他の子とエッチした帰りにはフライパンを両手で握り締めつつ暗闇の中に潜み、何時間も主人公を待ち伏せすることも。実に執念深い。「一生うらんじゃうから」と言うのに「一生なんて、一緒にいないんじゃないかな?」と返せば、「いなくてもうらむっ!!」とムキになって食いついてくる。なんですかね、抵抗の匙加減が絶妙なのですよ。猫口のしたり顔で得意げに「ふふーん、って感じだもん」とか余裕ぶられると、単純に「可愛い」と思いと同時に「この余裕を奪いたい」って黒い欲望が湧いてきます。特にLargo編はリコッテに振り回されるシーンが多く、「どうにかしてやりてぇ」と劣情を掻き立てられる機会がたっぷり。この憂さを晴らすのがAllegro編という寸法。こっちは逆にリコッテを振り回す場面が多く、好き放題しています。(Largo)「ユー・ハヴ・コントロール!」 (Allegro)「アイ・ハヴ・コントロール!」

 脇役も脇役で結構イイ味出しています。パブの3人娘、フィオーレ、フェタ、クーロミエは主人公の姉を気取っている面があり、年上に弄られるのが好きという属性があればなかなかに楽しい。この3人にとって「弟」な存在である主人公が、リコッテを相手に「お兄ちゃん」を演じるシチュエーションが当方としてはたまらんのですよ。Largo編ではチラッと出てくるだけの謎めいたトゥーシーさんも、Allegro編ではしっかり出番を与えられている。恐らく個別エンドがないことを嘆かれているキャラは彼女が最たるものでしょうな。明るくちょっと抜けた性格が美味しい。他にも「男は二日酔いの女性に優しくしてあげてはいけません」と言い放つマスターや、嫌味ったらしい口調の影にプロとしての自負が覗くストラッキーノなど、男キャラに至るまで良い造型をしている。また、Allegro編にはLargo編の主人公を複写したような情けなさ男のルイが、Largo編にはAllegro編の主人公を連想させる自信家のヴァランセが出張ってくるところも特殊な構成を意識した配置で面白い。Allegro編では完全に存在が霞んでいるけど、Largo編におけるシャウルスはちょうど良いくらいの目立ち方してるし、「脇役を脇役として動かす」のが巧いね。

 当方が一番好きな脇キャラはヴァランセ。Largo編主人公のあまりにあまりなヘタレっぷりを愛しくも鬱陶しく感じていたところへあの一点の曇りもない自信家が出てきたときには眩しさすら覚えました。嫌味を垂れるでもなく、自分の信念を端的かつ簡潔に述べる姿勢も燃え。「音楽を愛し、それ以外を愛さない」といったスタンスに当方はメロメロです。惜しむらくは出番が少ないことか。あんまり目立つ必要もないから、ちょうどいいっちゃちょうどいいのだけど。

 期待を遙かに超える──とまでは行かなかったものの、プレーする前に抱いていた僅かな不安を払拭するに足る良い出来ではありました。システム面では設定で右クリック一発ウィンドウ消去が可能なことや、履歴を読み返すときに立ち絵も巻き戻る仕組みになってることなど、細かいところで好感触。リコッテに強烈な魅力を抱くことができた以上、「買って得した」と断言できます。もうちょっと頑張れば「お約束」の殻を破って更なる高みを目指せたのではないか、という思いとてなきにしもあらずですが。これはファンの欲目かな?

 なんにしろ千籐氏を信じて良かったです。今後も当サイトは密かに同氏を応援し、地味に宣伝活動を励むつもり。いっそページタイトルを「Method of Sentry」に変えたいほどですが、冷静に考えて宣伝効果ゼロなのでやめておきます。

 ともあれ、リコッテの姿を見て胸騒ぎを覚えた方には、そりゃあもう当方が自信を持ってオススメします。「アヘッド、アヘッド、アヘッド! ゴー・アヘッド!」

 是非、愛らしい少女のお口歌声をご堪能ください。


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