「PARADISE LOST」
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 かつての大戦によって滅び去った街、ソドム。復興後も負の遺産が障壁となって一帯を覆い尽くし、人々は街からの脱出を阻まれた。外界との行き来が限定されたことによって半ば見捨てられ、廃絶の魔都と化したその空間はやがて「隔離街」と呼ばれるまでに至る。閉鎖環境の中で悪は純粋化し、サイボーグ、ミュータント、サイキッカーといった異形の者どもが跋扈。ひたすら力を求める住人たちにとって、「弱肉強食」が唯一のルールとなった。そんな荒廃都市の深奥、D4地区。マフィア集団「蛇」さえも退け、不可侵を実現させた死神(デスサイズ)──ライル。彼は自らの裡に潜む別存在・ナハトによって瘴気溢れるM区の地下へと導かれ、水晶に封印された少女との出会いを果たす。途端、運命は動き出した。世界をも巻き込む一大計画。ふたりを待ち受けるものは楽園か、それとも地獄か……。

 宗教音楽を思わせるタイトル曲、ロック調のOP曲。BGMからしてダーク系シリアス・アクションの王道を突っ走る響きが横溢している本作、原画は峰岡ユウキでシナリオは正田崇。峰岡の方はよく知りませんが、正田の方はこれがデビュー作となる模様です。発売前に公開されたデモムービーは曲、絵ともに高レベルな仕上がりでしたが、

「人間は共食いをするべきだ」

「この街に神などいない。故に祈るなら悪魔に祈ろう」

「罪の苦さ。罰の愉悦。
 それらを甘美と思える私もまた、貴方と同じなのかもしれないから。
 存分に、その憎悪を注いでください」

 など、興味を惹くと同時に「大丈夫かな?」と危ぶむテキストが踊っており、ひと通り見た結果、期待と不安が半々になった次第。OHPの専用ページで掲載された文章(こちら)を目にして秤が大きく「不安」の方へ揺れましたが、その後体験版をプレーしてみたところ割と良さげだったので「期待」も増し、発売する頃にはちょうど良く両者の釣り合いが取れていました。

 で、魔界都市テイストの近未来アクション。マンガやアニメ、ライトノベルといった分野では割とポピュラーなジャンルですが、さすがにエロゲーとして見かけるのは少し珍しい。エロよりもストーリーを重視しているタイプともなれば尚更です。見た目はダークなのに陵辱色が薄く、実のところエロ度は低め。ストーリーの進行を阻害しない程度に盛り付けられていて、「燃え」目当ての当方には適量でしたが、「魔界都市で陵辱三昧!」と見込んでいた人にとっては辛い結果となったでしょう。エロだけは期待しない方が得策。

 主人公がふたりいて、基本的にそれぞれの視点から紡がれていくのですが、話のスケールがそこそこ大きく、また凝っているため、ところどころで三人称の記述が挟まれます。要は多視点構造。あちこち視点が飛ぶ割には筋立てがキッチリと整理されていて分かり易く、混乱することはありません。それどころか、よくもまあこれだけ絡め合わせておいて解きほぐすことができるものだ、と関心してしまいます。テキストは前述の通り、硬い部分や冗長な部分が目につきましたが、話運びに関しては「巧い」の一言に尽きます。物語を展開していくテンポが絶妙で、プレーしていて心地良い。テキストの方も進行に合わせてイイ具合の柔らかさに落ち着いていき、第2話のあたりからサクサク読めるようになります。

 主人公を一方はバリバリ最強、一方はズタボロ最弱と、対比的に描いている点も効果を上げている。強者の視点、弱者の視点が混ざり合うことで隔離街という舞台に一層の存在感が付加された。強者が余裕で障害物を叩き潰す展開にはあまり「燃え」の気持ちが湧かなかったものの、弱者がテンパりながら足掻くシチュエーションには(*´Д`)ハァハァしてしまいました。本作のストーリーは善悪二項の対立構図に流れていくわけではなく、それぞれが罪や理想を背負って戦い、信念をぶつけ合わせるところが当方の好みに合致しました。勧善懲悪のノリも嫌いじゃないですが、「弱さこそ悪徳」という意識を下敷きにしたこのノリもまた魅力的。

 「ノウ・クライスト」とか「ジューダス・ストライフ」とか、キャラ名を見ただけでもありありとモチーフが浮かび上がってくるかのよう。ええ、実際、その手のネタがオンパレードです。当方は断片的な知識しかないのですが、たまに思い当たりのあるネタを見つけてニヤニヤしてしまったり。手垢まみれとも言える素材だけに新鮮味は欠くけれど、その分理解するのは容易でもあります。何より、素材の調理が素晴らしかった。全体の構図が精緻──というよりも、巧みなストーリーテリングで部分部分の出来を高めたらキレイにまとまったって感じですかね。可能ならば徹夜したかったくらいハマり込みましたよ。黒幕のもたらす作為的試練を乗り越えることが要となっているのは単調だけど、挑みかかるキャラたちそれぞれの意志が個性を発揮しているおかげで大いに盛り上がった。

 戦闘シーンは全編に渡って多く盛り込まれており、「燃え」目当てで買った当方にも満足の行く内容でした。刃と銃弾を交える白兵戦あり、派手な魔法をぶちかます詠唱合戦あり、背景に「ドドドドドドドドドド」と描き文字が現れそうな頭脳戦もちょっぴりだけあり。戦闘関連のCGは際立った仕上がりにつき、興奮を誘うBGMとも相俟って、ボルテージは高まる一方。第3話に至っては圧巻の一言に尽きます。モノの喩えに「バオバブの大樹」を持ってくるあたりのセンスは大好き。惜しむらくは、CGの点数が少なくて使い回しや非表示が頻繁にあったこと、特にこれといって凝った演出がないことの2点。ここらを強化していれば隙のない燃えゲーとなっていただろうに。至極残念。

 キャラクターはジューダス・ストライフがもっともインパクト強烈でした。真っ赤なコート、白い襟飾り、パツキンに白皙の美貌で道化めいた軽口を飛ばす典型的造型ではあるものの、声優(ルネッサンス山田)の熱演がこれ以上ないほどキャラ立てに貢献している。やや早口で喋って喋って喋りまくる。叫んで咆えて高笑い。嘘臭さを漂わさず、これだけキャラに嵌まってると感激の念を禁じ得ません。

「主よ、主よ、なぜ我を見捨て給う(エロイ・エロイ・ラマ・サバクタニ)か?
 笑わせるな、あの人を自分の尺度で量るのはやめた方がいい」

「真意を聞きたきゃ、生き残らないと駄目だろう」

 の件なんて胸キュンもの。同じ声優の熱演で言えばアストことアスタロスも最高レベル。最初は無表情キャラとして冷静にぼそぼそ喋っていたのが、ある場面を契機にして感情が剥き出しになります。顔を真っ赤にしながら「黙れと──言っているッ」と叫ぶ変貌ぶりにはもう、当方の逸る萌え心が抑え切れない。あれだけお澄まししていた優等生少女が逆ギレまで起こすんですよ? からかわれてムキになるんですよ? 無表情キャラにあまり愛着のない当方でさえ可愛いと思わずにはいられませんでした、はい。

 他のキャラたちもなかなかナイスで、特に女性陣の頑張りが目立っていました。直接的な戦闘力を持たない面々でさえちゃんと見せ場が用意されている。女医のリリスなんてOPムービーでは一回しか出てこないものだからてっきり脇役と決め付けていたのに、予想以上に活躍して、いつの間にかお気に入りのキャラになっていました。地味っぽい妹キャラのソフィアも地味なままでは終わらない。誰もが自分の意志で以って行動を決定する場面があり、否応なく印象は強まる。しかし、肝心のリル──パッケージを飾るメインヒロインである彼女が他の面子に食われてしまったのは問題。「水晶から出てくる美少女=口数の少ない清純派」というお約束を破壊するような脳天気かつ口うるさいぶーたれヒロインってとこはイイ意味で裏切られて爽快だったけど、だんだん出番が少なくなって相対的に見せ場が減っていき、気がつけば「本当にメインなのか?」と疑わしくなるほど存在感が希薄に……。うーん、キャラとしては悪くないのですよ。口数が多く、微妙にひねくれていて、「萌えるか否か」で言えば萌える。第1話の対エニス戦は修羅場スキーの当方にとって美味しかった。見た目の割に偏屈でズボラでガキっぽい主人公・ライルとの遣り取りも楽しく、傍から見ていて「良いコンビ」と思えるだけに、もっと出番が欲しかったところです。

 細かい不満が噴出するのは大筋として気に入っている証拠、ですっけ。「ちょっとヌルくない?」ってツッコミをかましたくなる箇所はいくつかありますが、それでも当初の予想を軽く凌駕する実態には喜色満面。新年のエロゲー第1弾がいきなりこれとは実に僥倖。近未来荒廃都市アクションや黙示録的ストーリーが好物の方にはオススメ。中華料理店でターンテーブルを回して渡したいくらいの良作です。いまいちパッとしないパケ絵ですけど、あれで怯むのは勿体ない。

 ちなみに当方、こっそりとアズラーン萌え。好きなんです、ファイアスターター。彼を含め、「三竦み」の惑乱公やクレメンスにも声が付いていればなぁ……。


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