「俺たちに翼はない」
   /Navel


 長いとても長い6年半に渡って待ち侘びた想いがようやく報われました。めでたしめでたし。

 と、この一文で済ませても充分な気がしてやみませんが、それだと感想にならないのでもそっと詳しく綴ります。ネタバレ全開で参りますゆえ皆々様存分に注意されたし。

(はじめに)

 さて、いきなり本筋に入るのも何ですから、外縁より説明を重ねて徐々に中心部へ切り込んでいくとしましょう。まず、『俺たちに翼はない』とは何か? Navelというエロゲーブランドによる7本目のソフトであり、大人の事情で「半分くらいが体験版」っつー鬼仕様でリリースされた前日譚『俺たちに翼はない〜Prelude〜』(以下「Prelude」)から遅れること7ヶ月、2009年の正月気分が抜け切って久しい時期に発売されました。こう書くと実にあっさりしていますが、背後にはファンやメーカーの長い長い苦闘が……あまりにも長いので端折ります。最初に情報が持ち上がったのは2005年春、実際に世に出たのが2009年初頭――って事実から艱難に満ちた道のりを察してください。並みのエロゲーならば初情報から1年以内に発売されるってのが通例であり常識です。

 4年近くも待たされたらよほど熱心な信者以外は離れていきそうなものですが、俺翼のシナリオを手掛ける王雀孫には『それは舞い散る桜のように』という実績があったせいか「よほど熱心な信者」が大量に伏していたらしく、間にPreludeを挟んだとはいえ2chのエロゲー作品別板では発売前までに軽く30スレを突破していたほどです。そして発売後は1日に1000レス稼ぐくらいのヒートアップを見せた次第。必ずしもファンの書き込みばかりではないにしろ、勢いがあったこと自体は確かです。

 えっと、そろそろ内容の紹介に移りましょう。『俺たちに翼はない』は「柳木原(やなぎはら)」という架空の街を舞台にした四章構成の物語。章ごとに主人公が変わるという、前例はあるにしてもエロゲーとしては比較的珍しいスタイルを取っている。聞くところによれば「複数主人公モノはコケる」ってなジンクスがあるようで、多くの制作者から鬼門とされてきたそうな。考えてもみりゃ「主人公=個性の薄いキャラ」がパターン化しているエロゲーで複数主人公制を取ったって大して益はなく、ただ混乱を招くだけに終わりそうな予感はあります。主人公がふたりいれば面白さが2倍になるのではなく、むしろ面白さが1/2に分散する危惧を抱くと申しましょうか。なかなかデリケートな問題です。

 そういった経緯から「複数の主人公による群像劇」って要素を打ち出した俺翼に心配を寄せる人がいて、いや「人がいて」っつーかぶっちゃけ当方自身だったんですが、「大丈夫かなー」とこわごわ窺っていた時期がありました。しかし、いざ羽田鷹志・千歳鷲介・成田隼人といった陣容を目にすれば、胸に差した懸念もたちまち淡雪の如く溶け去っていきました。それぞれの個性がしっかり書き分けられていて、各々違うタイプ、違う環境、違う人間関係に身を置きながら、「すべてのシナリオをやってみたい」と願うほど魅力が拮抗していたのです。心の広さが取り柄の鷹志、弄られキャラの道化として振る舞う鷲介、チンピラめいた言動の割に意外とナイーブな面がある隼人。甲乙付けがたい主人公ズ。彼らが揃っている時点で、俺翼の成功は半分くらい約束されたも同然でした。

 では、章ごとに感想を連ねていきましょう。

(羽田鷹志編)

 便宜上、「一章」と呼びます。妹同然に育った従妹の羽田小鳩と二人暮らしを送っている(正確には違いますが、ゲーム期間中は叔父叔母が旅行に出ているので「二人暮らし」でまとめても構わない感じ)少年、羽田鷹志が主人公を務める。気が弱くてお人よし、「誰かの役に立ちたい」という想いが根底にあるせいで、体よくパシリに使われたり厄介事を押し付けられたりと幸薄い日々を送っています。メインヒロインの渡来明日香とは仮面恋人の関係、つまり対外的には「付き合っている」ということになっているけれど実際はろくな会話も交わさず、一緒に下校することすらない「それ恋人以前に友達ですらないよね?」な距離を保っている。クラスメイトたちの悪巧みで明日香に「告白ごっこ」を強いられるハメとなった鷹志と、言い寄ってくる男子たちがウザったくて虫除けとなる「一応の彼氏」を欲していたパーフェクトプリンセス(略せばパープリン)明日香との利害が一致して、そういう何とも奥歯に物が挟まったような関係に落ち着いた、という経緯です。顔の区別がつきにくい西又絵なので分かりづらいですけれど、明日香は「学園のプリンセス」とまで崇められる超絶美人って設定になっており、仮初とはいえ恋人関係にある鷹志をやっかむクラスメイトたち、つーお約束のシーンもたまーに挿入されます。

 主人公が根暗、メインヒロインもプリンセスだ何だと持て囃されながらも一枚皮を剥けば実は根暗、そしてサブヒロイン役の山科京も躁鬱が激しくて心療内科に通いトランキライザーを処方されて服用しているメンヘラさん。なんかこう、俯いて体育座りする姿勢が似合う面子目白押し。しかも主人公の鷹志はクラスの委員長で、本来なら相棒であるべき副委員長の高内昌子からほとんどイジメに近い仕打ちを受けているのですから、プレーしていてキリキリと胃が痛みます。人間嫌いで腹黒だけど観察力に富んで案外可愛い性格をしている明日香様の存在が清涼剤として機能するからこそどうにか凌げるのであって、そうじゃなきゃこんな『てのひらを、たいように』の序盤みたいな展開にはスッカリ気が滅入ってしまうところだった。明日香はまず声優からしていいですね。エロゲーのヒロインにしては媚びが少ないボイスなんですけれど、これが彼女のやる気ない性格と絶妙にマッチしていて唸ります。「なんだと」「そういう日もある」「世界は金色に包まれているのだー」と、やけに耳に残るセリフが多かった。

 んで。この章をプレーしてまず面食らうのは、やはりグレタガルドでしょうね。本当に異世界召喚ネタなのか? それとも単なる妄想なのか? と判別がつかないせいで戸惑うこと必至。だんだん内容がいい加減になってくるんで「ああ、妄想か」とすぐに見当がつくものの、突然触手エロが始まったときはさすがに笑った。カウントダウンで森里が言っていたセリフはこの伏線? 心に掛かる負荷が限界へ達するとグレタガルドに逃避してしまう鷹志、という構図はすんなりと受け容れられるわけですが、後々考えるとこれがミスディレクションというかレッドヘリングになっていたんですね。「グレタガルド」という異世界にのみ注意を向けさせることで、「グレタガルドに行っている間、現実世界の鷹志が取っている行動」に対する意識を有耶無耶にしてしまう。あれは巧い引っ掛けだと思いました。

 鷹志は明日香と仮面恋人の契約を結んだ時点で初恋に落ちていて、生来の気の弱さから想いを実行に移すことができなかったわけですが、では明日香様が鷹志を仮面恋人ではない異性として意識し始めたのはいつ頃なのか? 詳しいことは不明にせよ、Preludeの時点(本編の一年前、つまり二年生の冬)で既に憎からず想っていることが判明しています。極端なことを言ってしまえば、鷹志が積極性を発揮してグレダガルド云々を含む問題の解決に走っていれば一年生の頃に明日香と本物のカップルになれていたのではないか? と勘繰ったりしますが、しかし偽装交際を始めて早々に高い積極性を発揮するような奴に明日香が惚れるだろうか? ということを考えると、若干無理のある推定と言わざるをえない。明日香は人間嫌いの癖にプライドが高く、好意を寄せている相手に大した用もなく自ら話し掛けることを良しとしない、ややヒネくれた心理を有しているっぽい。だからフラグ立ちかけの状態であっても鷹志が行動を起こさない限りは絶対に進展がない。そして明日香は鷹志の消極性すらも込みで気に入っている(でなきゃ2年半越しの再告白を受けるとかありえない)んで、どう転んだにしろ一定の年数は必要だったんだろうなぁ、と。いやはやなんとも面倒くさいカップルがあったもんですね。

 それと初体験シーン、いくら童貞だからって処女のヒロインを上にしてリードさせるとか、マジ半端ないな鷹志。すげぇじゃん羽田、マグロ羽田じゃん。破瓜した翌朝早々に相手のアヌスへ指突っ込んで前立腺弄るヒロインも大概ですが。渡来Ass Fucker。シーツをぎゅっと掴んで悶えたり口に握り拳を当てて震えたり、いちいち鷹志のリアクションが乙女じみていて、少しキュンとしてしまった。無性に悔しい。

 前編は高内にイジメ抜かれて、明日香との初デートも潰れたまま終わるから救いがありませんが、後編は京や針生蔵人といったサブキャラのサポートを得ることでちょっとずつ上向きになっていく。それでも高内のイジメは相変わらずプレッシャーで胃に来る。いやホント、高内は本編をプレーして一番イメージの悪化したキャラですね。Preludeではまだ蔵人程度の愛嬌は残っていたのに、一年間で何があったのか、恐ろしく粘着質なクレイジークレーマーになってしまった。本編では高内に敵意を燃やしている明日香が、Preludeの頃は「苦手だけどそんなに嫌いでもない相手」と認識していたので、本当にここ一年であんな調子になってしまったんでしょうね。高内は公式サイトの自己紹介で「彼氏の条件=顔」と言うほど面食いで、「一年生の頃に高内が色目を遣っていた」という明日香の証言もあり、鷹志の容姿がよほど彼女のツボを突いているのだと見受けられる。なまじ顔が好みなだけに、性格の不一致がいつしか無尽の憎悪へと直結してしまったのか。だとすれば逆恨みもいいところだ。高内自身は好きになれないキャラですけれど、声優さんの演技に関しては褒め称えたい。マジで聞いてて敬遠したくなるオーラが滲み出ていますよ。京も京でそういう系統のオーラ出してますけども。

 あと、後編では「年上の同級生」たる針生蔵人の活躍(ってほどでもない?)が見られたのは意外だった。というか、まさか鷹志が蔵人と打ち解けるとは予想だにしなかった。そうなったら面白いな、って考えはよぎったにせよ。ともあれ親友でも悪友でも敵でもライバルでもない、一種形容しがたい距離感を保っているのが楽しいです。中学時代は彼が明日香の仮面彼氏を演じていた、というのも興味深い。その経緯を巡ってポロッと「蛎崎」という名前が出てくるが、もしかして他の章でもたびたび話題に上がるアイドル「蛎崎うに」のことか? すげー気になるんだけど……。

 まとめますと、王道的な学園モノの衣を纏ったこの章、学園モノらしいベタなイベントが少ないことと明日香と付き合い出してからイチャイチャする描写がほとんどなかったことが悔やまれるものの、キレイに話を畳んで「それはきっと何処にでもある、ありふれた物語」っていうキャッチフレーズもきっちり組み込んでいる点は評価したい。何より、デレデレした明日香があまりにも可愛すぎると思うんだ。「おはよう小鳥さんたち!」はPreludeに収録されている「ある日の明日香」冒頭を踏まえてのセリフなんで、余計にジーンとしてしまった次第。「私がしてるのは、恋愛じゃなくて羽田愛」とか訳の分からない主張まで飛び出すあたりも愉快でした。「恋愛すると頭が悪くなる」という林田美咲の理論、図らずも恋敵によって立証される形となりましたね。

(千歳鷲介編)

 便宜上、「二章」と呼びます。様々なバイトを経験していろんな人々と出会ってきた若きフリーター、千歳鷲介が行き着けのレストランでバイトし始めるって内容の章です。羽田鷹志編から一転、学園描写が出てこなくなり、ガラリと雰囲気が変わります。変わりますってか、激変します。やたらとテンションが高く、レストラン「アレキサンダー」の店長・軽部狩男やウェイトレスの日野英里子&望月紀奈子、そしてメインヒロインの玉泉日和子と繰り広げるボケとツッコミ、ギャグと叱責の応酬が非常にコミカルに描かれています。とにかくネタの密度が凄くて、これでもかと無尽蔵に投下されるのですから豪華絢爛。『それ散る』の賑々しいノリが好きな人にはたまらない章でしょう。俺翼中、もっともコミカルでもっとも平和なストーリーとなっています。また「笑わない女」こと感情表現や対人関係が苦手で周りから誤解されやすい日和子が次第に次第に豊かな表情を晒していく流れも素晴らしい。融通の利かない頑固一徹娘と見せかけて、結構私情に衝き動かされるところのある依怙贔屓ガールであると判明するんですから微笑ましいの何の。瞳のハイライトが消える、所謂「レイプ目」(作中では「死んだ魚の眼」みたいに表現されていたっけ)まで駆使して「表情変化の面白さ」を体感させてくれます。

 不幸な偶然(というよりラッキースケベ)が重なり合って日和子とは険悪なムードを築いた状態でのスタートとなりますけど、なんだかんだ言って押しに弱い日和子が遮二無二努力を惜しまず頑張る主人公に引き寄せられていく……ってな過程が美味しくてニヤニヤしちゃいますね。最初のうちは無愛想で可愛げがない、憎らしい、とネガティブな印象を抱いたユーザーも、いつしか頬が緩み始め、気がついた頃には顔面が崩壊しているほどの破壊力。ラブラブっぷりに関しては一章の明日香に勝るとも劣りません。頑なな態度を解いて一気に軟化する様子は正直ちょっと調子が良い――高内語で言うところの「チョヅキすぎじゃね?」――感じはしましたが、調子こいてる日ょ子さんもそれはそれでメガトン級に可愛いのであっさり許してしまえる。ツンデレとかギャップとかいう論点を持ち出すまでもなく、普段の鉄面皮モード入ってる玉泉さんも充分可愛いんですよね。あと引き攣った笑顔とともにのたまう「いいええ」が好き。何より、トイレ行きたいと告げて「その辺でしてきなさい!」と叱責される愉悦と来たらもう。年下の女の子にそんなことを言われてしまう背徳感がたまりません。

 鉄壁の素っ気なさを誇る日ょ子さんに加え、アレキサンダーの同僚である「浪人」こと望月紀奈子と「えーりん」こと日野英里子も姦しく華を添えてくれます。癒し担当の紀奈子さんと噛ませ犬担当の英里子さんってところでしょうか。方言交じりの甘いボイスで年甲斐もなくキャピる紀奈子さんは激しく下半身へ訴えるものがあります。なんつーか、「女の子」と呼ぶのも微妙になってきた年代の女性が必要以上に若さをアピールする姿はこう、逆説的なエロさを漂わせるわ。中んずくアオ女(蒼穹女学院)制服着用時のタバス子(偽名)verが股間に直撃。あからさまに無理してるんじゃなくてむしろナチュラルに似合ってしまう罪深さが最高。『恋する乙女と守護の楯』の穂村有里にも同じタイプの劣情を抱いたものです。常に場の空気を弛緩させるスキルを持ち、猫口フェイスどころか怒った時の顔さえも愛らしい彼女はまさしくアレキサンダーに降臨した女神。受験勉強のため鷲介と入れ替わる形で辞めていきますが、客としてほぼ毎日顔を出すのだから実質的な役割はあまり変わりません。彼女がいなけりゃ、日和子と英里子の対立ばかりがクローズアップされるギスギスした職場になっていたかも。その英里子は「言葉がきっつい」のと「睫毛頑張りすぎ」で定評のある人。ただ、言葉自体はきつくても言葉の意味するところはそんなに理不尽でなく、高内みたくユーザーのムカつきと苛立ちを喚起するキャラにはなっていない。一見するとちゃっかりしていて要領の良さそうなタイプに映るものの、感情表現の分野においては案外と不器用なところ(基本何事にもノれる性格のくせして、OPムービーで紀奈子さんや店長がノリノリで横ピースポーズしているのに対し一人だけ恥ずかしそうにしてる場面とか、ああいう照れがたまーに出てしまう)もあって憎めないんですよ。結構シャイな人なんですよね、えーりん。残念ながらこのふたりとは恋愛フラグが立ちませんが、揃ってサブキャラの立場をフル活用し十全に雰囲気を盛り上げてくれたことは素直に賞賛したい。三人娘のユニット「アレックス3」が作中のアイドルソング「微笑みジェノサイド」をカラオケで熱唱するエンディングも意表を衝いていて楽しかったです。それとはまったく関係ないけれど、歴史上に「望月玉泉」という名前の人が実在するそうな。幕末から明治に掛けて活躍した画家だそうです。

 アレキサンダーと言えば外せないのがマスター軽部狩男と常連客の鳳翔。空気を吸うたびにシモネタを吐くエロ中年の狩男はシモ系のネタが嫌いな方にはウザったいやもしれませんが、シモネタ大好きっ子からすれば二章最大のムードメーカーとして歓呼の声を挙げずにはいられません。年甲斐のなさでは黄な粉さんをも上回るぜ。ジョークの中身こそオッサン臭いものの、ありとあらゆるエロスに全力で取り組む姿勢および情熱は完全に中学生レベル。たぶんまったく成長していない。「アニメ化されたら存在ごと抹消されそうなキャラ」の筆頭です。たまに真剣モード入るけれど普段がヒドすぎなので、常識と法に照らし合わせれば、アレキサンダー花水木通り店はセクハラを主とする訴訟の嵐でソッコー営業停止でしょう。あれを許容できる常連は器が大きいか器そのものが壊れてるに違いないべ。もう一人の男キャラ、鳳翔は「鳳凰寺カケル」名義でイラストレーターを営んでいる青年。物憂げというか気怠げで、ウェイトレスたちにはしょっちゅう暴言を撒き散らすのに、なぜか鷲介には懐いている。先バラしすると三章のヒロイン「鳳鳴」の兄で、三章の主人公・成田隼人とも付き合いがあるんですよね。英里子とは違う方向に言葉がきつい(放送禁止用語が頻出する)ので、存在抹消まで行かなくとも別メディアでは表現がソフトに直されてしまいそうなキャラとなっています。てか、俺翼自体が別メディアだといろいろ規定に引っ掛かりそうな要素多いよな……「移植前提でポルノがつくれるか」の叫びが嘘になってないわ。

 後編の展開はごく無難な感じ。翔くんとも特に揉めないし、ひょこたんとのデートも割合すんなりとうまく行くし、あれこれ日和子を責める英里子も実はそんなに日和子を嫌ってない(むしろ大好きだろアレは)し、シナリオ的に見てこれといって問題らしい問題や障害らしい障害がない。英里子との諍いも、「まっすぐ人の目を見て話せない」っつー隠蔽された日和子の内気さをどうにかすれば後は自動的に解決しちゃいます。クライマックスは本来のタマイズム全開。融通の利かなさや厳しさから「鉄の女」視されている日和子も、結局のところ内面的には女生徒A(林田美咲)と共通する未成年特有の瑞々しさを抱えていたんだなぁ、と感慨に耽っちゃいます。パッと見ではまるきりタイプが違うあのふたりが親友同士になるまで意気投合した理由、この後編でよーっく分かりました。「『千歳さん』は言いにくいです」「だから『鷲介さん』と呼びます」と事務的な口調で宣言→「制服が見たい」と軽口叩いた鷲介に制服姿を見てもらうためわざわざ着て待機→「私の……私だけの王子様です」――流れの凄まじさに「こやつめ、到底『ツンデレ』なんて言葉には収まらぬわ……!」と戦慄が走った次第です。年少だてらに小説家を目指すだけあって、内より湧き出す牝臭い妄念乙女オーラはみさきちをも凌駕する勢いがあります。しかし初エッチを試みるシーンでダサい下着を着用していたり携帯サイトを参考に手コキしたりと、必要以上にコミカルな状態となっているのは如何なものだろうか。「俺のいつだってプリズムを日和子さんの米寿にほほえみインサイドします」はなんぼなんでも遊びすぎだよ。とにかくストーリーよりもふたりの高密度イチャイチャ遊戯が記憶に残る章でした。

(成田隼人編)

 便宜上、「三章」と呼びます。夜の柳木原を舞台に、自警団気取りの非行少年たちとビジュアル系の黒尽くめコスチュームに身を包んだ狂信者たちとが抗争を繰り広げる傍ら、主人公は鳳鳴という少女が紛失した「背もたれ付きの赤い自転車」を探して回る。そして当然の如く抗争に巻き込まれるわけです。語り口からしてもろに『池袋ウエストゲートパーク』で、なにげにIWGP好きの当方はとてもワクワクしながら楽しめた。とにかくこの章はひたすら登場人物が多いです。一章や二章の主要陣が5、6人程度だったのに対し、こちらは立ち絵の表示されるキャラクターが16人くらいいますよ。さすがにちょっと出すぎな感は否めなかったが、大量投入が効を奏してすこぶる賑やかな話になっている。俺翼全体の物語においても重要なターニングポイントを迎える章だけに、かなりのシナリオボリュームが用意されています。

 一章も二章もこの三章も舞台は一貫して柳木原という都市なんですが、学園やバイト先の店がメインで他の場所に寄る描写が少ない一章や二章に比べると、夜の街をあちらこちらと徘徊する三章はより具体的に「空間としての柳木原」を実感させてくれます。また、行く先々で主人公の顔見知りと出会うのも見所の一つ。一章では回想シーンしか出番のなかった森里和馬(ペガ)が幼馴染みの少女・香田亜衣(コーダイン)と一緒に絡んできたり、鳳翔(皇帝)率いる自警団YFB(柳木原フレイムバーズ)の幹部にして「三馬鹿」の響きがよく似合う左右田仙一(LR2001)、島袋浩(チケドン)、土門大輔(バニィD)が喧しく騒いだり、閉鎖的な美学に酔い痴れているR-ウィングの面々に目をつけられたり。人間関係の維持に関して苦手意識を抱いているらしく、一定以上の仲を築かないよう心がけている成田隼人ですが、ついつい相手から好かれて情にほだされてしまう。ハードボイルドらしからぬお人好しな性格が微笑ましい。愛想はないにせよ、細かいところで相手の気持ちを汲み取ったりしてるんですよね。「ブッ殺すぞコノヤロウ」が口癖なのに敬遠する奴がほとんどいないってのもなんとなく頷ける。

 あらかじめ一章か二章でフラグを立てた状態でこの三章に来ると、メインヒロインを務める鳳鳴はたった一回しか出てこず、自転車探し云々といった本来主題になるべき要素もあっさり忘却されます。しかし三章でフラグが成立すると、フラグ立たなかったときが嘘みたいにバンバン出てきてドカドカとフリーダムな発言を炸裂させる。もはや雲泥の差です。フラグ一つでここまで扱いに違いが出るヒロインは他にいやしませんよ。担当する声優はマシンガントークで御馴染みの籐野らん、『それ散る』で雪村小町を演じた方です。個人的には『ひめしょ!』のポチ役で記憶に残っています。当サイトの客層からすると『あやかしびと』のトーニャ、で通じるかもしれん。一般的には表名義でやってる朝比奈みくるが有名でしょう。で、話を戻しまして鳳鳴。類別すれば「天然」に属するヒロインながら、わざとやっている部分もあって結構イイ性格してる。喋っている途中で話題を切り替えるという異次元話法の使い手で、マイペースっつーか人の話聞かないで好き勝手するあたりすごく自由。鳴ジユー、超ジユー。最初は「あんまり似てない兄妹だな」と思いましたが、ひと通りやり終わった後に眺めたらカケルと共通する要素がいくつか見つかって「やっぱり兄妹だな」と納得してしまった。

 けど、この章は鳴の他にもう一人ヒロインが潜んでいる次第で、それが誰かと申せば――コーダインこと香田亜衣です。本人が希望する愛称は「亜衣ぽん」みたいですがまったく普及しておりません。みんなだいたい「コーダイン」で済ませている。初登場時に和馬と一緒にいたので恋人同士かと錯覚しましたが実際はフリー、本編が開始する以前に危ないところを隼人に救われていて、果敢にアプローチを仕掛けてきます。「まさかこいつが惚れてくるとは思わなかった」ってキャラの一人ですね。ほとんどヒロインに近い扱いってか、正直一章の山科京よりも密接に物語へ絡んでくるわけで、なぜ攻略できないのかと小一時間問い詰めたくなる。「ありえんてぃー」など、頭の軽い言い回しが頻出することもあり、始めのうちは主人公と同調して「うるさいうえに馴れ馴れしい女だなぁ……」とウザったがってしまいますが、香水が嫌いと言われて香水をやめ、爪が長いと言われてネイルを外し、馴れ馴れしい言葉遣いに言及されて口調を直そうと試みたりと、ビックリするほどいじらしくて徐々に惹かれていってしまう。「これなんてエロゲー?」の声が喉元まで込み上げたほどです。いじらしい女アピールが過剰すぎて鼻に付くところもあるにせよ、フラれた後も未練を引きずって慕い続けている執念深い一途さに胸がときめいて心臓が砕け散る。幼い頃から亜衣へ想いを寄せていた和馬にしてみれば地獄に等しい状況っスね。「おまえは俺から、なんもかんも持ってちゃうんだな」と呟くカズくんの寂しげな笑顔にも胸を締め付けられた。今後俺翼プレー人口が増えるにつれ、FDでの救済をもっとも希求される子になっていくでしょう。

 あと、この章は重要ネタをほとんど前編に注ぎ込んでしまったこともあり、比較すると後編がやたらくたら短いアンバランスな章になっている。てっきり前編は成田隼人自身の問題を解決することに専念し、自転車探しは後編でゆっくり行って見つかった後で鳴とイチャつくものと思い込んでいたのに、なんと自転車が見つからないうちから鳴とニャンニャンしてしまって、しかもその翌日にはもう自転車を発見するっつー驚異のスピード解決をご提供。「シリアス<コメディ」が俺翼の基本スタイルとはいえ、ここまで便利屋設定がスポイルされるとは予想外でした。なんかもー自転車見つかっちゃったし四章すっ飛ばしてエンディングかなー、とボンヤリ眺めているうち普通に四章が始まったことも予想外。時系列順に並べると四章は一章よりも前のエピソードなので、そこを飛ばすと据わりの悪い構成になってしまうことは理解できますが……まあ、何であれ、引き続き隼人くんの日常を堪能できたんだからヨシとします。本編終了から一年経ってもまだ亜衣が隼人のことを諦められずにいて、仲良くなった鳴との関係も微妙になってしまった――という箇所は若干後味悪いけどね。それから鳴との濡れ場、二章における鷲介と日和子も大概ヒドかったけど、三章のそれは一歩上回るヒドさでもう爆笑するしかなかった。処女喪失直前にエコー付きの「――ひぎいっ!!」を叫ぶヒロインなんて鳴くらいでしょう。二度目のセックスでケツに突っ込まれ、隼人に内心「鳳ア鳴」と思われている様には笑いを通り越して哀れみさえ感じました。隼人くんマジ鬼畜。

 まとめ。OPムービーに鷹志とおぼしき後ろ姿はあるのに鷲ちゃんや隼人くんがまったく出てこないのはなんでだろうなぁ、と疑問に思ってましたけど、それがあっさり氷解。勘の良い人は二章の時点で見抜けたでしょうけれど、極めて勘が鈍い当方はなかなか気づけなかった。鳳翔の生い立ちは詳述されないにしろ筆舌に尽くしがたい悲惨さであることは確かで、また隼人自身も己の特殊な境遇からまともな暮らしを確立できずにいる現実に対し苛立っているなど、俺翼の暗い部分が一挙に噴出してきます。バニィDが発した「どんなシリアスだって全部オチへの仕込み」みたいな意味合いの言葉がなければ、ずっと気が滅入ったまま進めることになりそうでしたよ。どうでもいいけど、漫喫店員の声が何度耳にしてもまきいづみにしか聞こえない件について。友情出演?

(???編)

 便宜上、「四章」と呼びます。隠しキャラに相当する伊丹迦楼羅、そして羽田鷹志の基本人格「ヨージ」がやっとこさお目見えする章。なので、???に文字を当てはめるなら迦楼羅編かヨージ編のどっちか。つっても「迦楼羅編」と呼んで示すことができるのはせいぜい前編の範囲内ですが。後編はお祭り騒ぎのグランドフィナーレが待ち受けています。溜めに溜めた分、爆発力が凄いの何のって。下手するとユーザーごと吹き飛ばしかねない高威力を発揮します。

 迦楼羅編はプレーする人によって著しく好悪の分かれるパート。迦楼羅(ガルーダ)は「誰かをやっつけてやりたいという気持ち」を担当する攻撃衝動の塊だけあって、他の4人とは比べ物にならないくらいの反社会性を有している。彼が表出していては日常生活を送ることさえ困難です。ほんの一日コックピットに座っただけで人間をひとり半死半生に追い込むザマ。言動についてもグレタガルド云々と、鷹志の妄想みたいなことを口にするが内容は妄想よりも異常で支離滅裂。『それ散る』ネタはファンサービスと受け取るにしても、正直ちょっと付いていきがたいノリでヒいてしまいました。カルラ舞いすぎ。面白いキャラではあるんだけど、生まれの経緯からして常時狂気に苛まれる宿命となっている――ってことに考えを巡らせると笑えない。光が全身に降り注ぐ際の感動や「一人は嫌だ、友達が欲しい」という思いを募らせる件などには同情心が湧くものの、詰まるところが「絞兎死して後、なお煮られぬ走狗」ですもんね。とはいえ語り口に妙な愛嬌があって憎めず、結局自分はこいつが好きなんだか嫌いなんだか……思考を重ねても、判断が決しがたい。後編の「伊丹さんも!?」や「そんなのかるら以下だよ、つまりちんぽこ以下ってことだよ」というネタは不覚にも噴き出してしまいましたが。

 ヨージは三章でもチラッと呼ばれていたし、「鷹志の戸籍上の名前って『ようじ』じゃないか?」という発想はすんなり浮かびました。奈落に10年以上引き篭もっていた関係上、まったく精神的な成長がなく幼児そのものの振る舞いを見せるのは頷けることながら、守るべき妹に欲情して手コキさせるところは印象が悪すぎる。実妹じゃないとはいえ長年一緒に暮らしてきた子と肉体関係を結ぶシナリオ書くのが難しいっつー事情は察せられますが、それにしても強引だよなー。と文句を垂れつつも、それはそれとしてあどけない笑みを浮かべながら物凄い速さでチンチンシュッシュッする小鳩に興奮してしまったことは確か。彼女こそ地上に舞い降りた摩擦の天使。このシナリオ見た後だと、一章で風呂に溺れかけてた鷹志が実は妹に手コキされて射精した直後だったと分かるんだから趣深い。でも、「真実の鏡」の演出はちょっとしたホラーでした。

 んで、出番こそ一章から存在したもののなかなか舞台の中心に立てず、ヨージ編で遂にヒロインに大抜擢された羽田さん家の小鳩さん。タカシによそよそしい態度で接していた理由が明らかになったときは少し泣けました。「ちがう! その人じゃなくて、ほんとのお兄ちゃん!」は薄々感づいていてもショック。無邪気な刃でバッサリ斬りつけてくれよるわ。彼女の真意を知っちゃったらタカシくん速攻でグレタガルドに消えていたかもしれんな。攻略可能なヒロインの中で一番幼いとはいえ、すぐにテンパって変チクリンな言葉を口走るのはいくら何でもキャラ造型としてあざといのではないか、と考えていたら最後の最後で設定上の理由みたいなものが出てきましたよ? なるほど、そういう狙いか。しかし小鳩は何というか、妹キャラとしては可愛いんだけど、攻略したくなる……もっと言えば裸の睦み合いを見たくなるタイプのヒロインじゃないので、エロシーンが邪魔っ気になるんですよねー。チン○シェイクに興奮した手前あまり説得力のない言辞となってしまいますが、この子に関しては幼児ヨージではなく成長後の鷹志と結ばれて欲しかったです。それと私服のセンスがすごく……ヤバいです……。

 さて、俺翼のすべてを決着させ清算する四章後編。てっきり他の三人が消えて迦楼羅とヨージが統合する程度かと思えば、まさかの「クリスマスだヨ!全員統合」が来ちゃった。五神合体ハネダイガー。ファイナルフュージョン承認だ。滑り出しは混線状態が続いてややグダグダな気配が匂いますが、それでもテキストの端々から誰が誰だかちゃんと分かるのは見事。ある程度馴染んでくると独立した個性を発揮し始めるが、ぶっちゃけ、統合鷹志ってキャラがまんま桜井舞人の延長路線だよね。尊大に振る舞いながらも微妙にヘタレな道化で周りからしょっちゅう弄られる、でも決めるときは決める。懐かしくなって『それ散る』を再プレーしたくなりました。統合ルートの見所は一章から三章までに出て来たキャラクターが次々とクロスオーバーすることですけれど、それとは別に渡来明日香の態度が一章とは違う視点で捉え直されるところが面白かった。統合鷹志を「偽物」と面罵し、「タカシを返せ」と言い募る行動力。一章を凌駕する想いの強さが窺い知れて惚れ直しました。あと、恋する乙女である明日香さんは基本的にタカシの前だと反射的に猫を被ってしまうので、猫を被らずにトコトン素の性格をさらけ出すあたりは新鮮だった。100パーセント純粋タカシじゃ、あのファーックでビィーッチなクソ女たる悪香サイドは引き出せないもんな。思い返してみれば、外面だけはいい明日香がPreludeのアニメムービーでなぜか愛想のない挙動をしていたのも、相手がぱね田くんだったからなんでしょうね。一章のラブラブ明日香も好きだけど、ぱね田に遠慮のない言葉を次々投げつけるオラオラ明日香もバッチリ嗜好の範疇だ。そこに来ると日和子はバイト後輩の千歳鷲介が実は学園の先輩で、しかも明日香の恋人(表向きには)だってことは気づかないままなので物足りねぇ。学園内でバッタリ鉢合わせしてドタバタしてほしかったな。ただ、日和子にとって「羽田鷹志」は明日香の恋人であるだけじゃなく親友の片想い相手でもありますから、下手に遭遇すればより一層複雑な局面に立たされるわけで、そこを考えるとスルーして賢明だったかなと。鳴はこのルートだと三章で親密になっていないから、サブキャラも同然の距離感に落ち着いている。無難だね。特にコメントすることないね。

 うーん、五神合体してやりたい放題やる、という無茶苦茶なチャレンジはこちらの要望にもフィットしていてテンションもアガる一方だったが、ベースとなるシナリオが膨大ゆえに少々まとめ切れていない印象が付きまといます。そもそも統合にしたって人格間のディスカッションを経たものではなく、「お兄ちゃんパワーでいきなり統合」と甚だしく過程を端折った行為になっており、いくら何でもあっさり流しすぎです。俺翼はとにかくシリアス部分を意識的に切り詰めていますね。だから重たい気分になることは少ないけど、「抑圧からの解放」みたいな要素も希薄で、いざフィナーレを迎えても感動の絶頂に達することはありません。感動できなきゃダメ、と申すつもりはありませんが……これだけ労力を費やしたんだから最後はもっとあざとくグワァーッて盛り上げても良かったと思います。言ってみれば、せっかく各地から仲間たちが集結してくれたというのにまったく手を借りず、うしおととらの力だけで白面の者を倒してしまったかのような勿体なさがある。同じ『うしおととら』で喩えると、暴走したうしおの髪を5人の少女たちが梳って正常化させるイベント、ああいう「みんなのパワーでハネダイガーを引き止める」系の展開が欲しかった。でもさすがにそれはベタすぎるか。

 ちなみに、小鳩の友人として吉川さんという可愛らしい娘っ子が何回か出てくる(うち2回くらいは電話で声のみ)のですが、小鳩の言う名前が「よしかわ」で、自らの名乗りか「キッカワ」だったのは何か意味があったんだろうか。一番簡単な答えは「小鳩が名前を間違えて覚えている」ですけれど、面と向かって「よしかわさん」と呼ぶシーンがあるしなぁ。「ゆとり」の一言では片付けられそうにない。ひょっとするとアレか、ゆとり教育をも超越する文部科学省の陰謀? 吉川さんルートのバッドエンドは「お前が文部科学省か!」。ちゅうかアレですよ、吉川さん出番少なすぎで中途半端ですよ。公式には立ち絵があるのに本編じゃ一度も表示されず終いですよ。これはコーダインともども「ファンディスクに乞うご期待」というメッセージを体現しているか? 小賢しいなさすがNavelなにもかもがこざかしい。

(おわりに)

 累計してザッと40時間くらいかな? 正確に計ったわけではないのでごく大雑把な数字となりますが、重厚長大化の進む昨今のエロゲーと比べて遜色のない見事なボリュームを誇っています。たわわに実った果実を余すところなく貪らせていただきました。全編に渡ってテキストの密度が濃く、またネタのクオリティも高いので、「面白いところ」を一つ一つ上げていったらキリがありません。量か質のどちらかが犠牲になりがちなエロゲー業界において、これほど清々しくトレードオフ(二律背反)の桎梏から解き放たれたソフトも珍しい。そん代わし時間がメッチャ犠牲になってますが。足掛け5年、よもやこうして再び王雀孫のシナリオを貪り尽くす日が来ようとは……感無量。でも、やっぱり5年は時間が掛かりすぎだし、内容に関してもここまで濃厚濃密なものは咀嚼と消化にパワーが要りますので、次回作はFDにしろ新作にしろ、もうちょっと軽めに楽しめる奴を期待したいかな。しかしながら全力投球の王を見たいという気持ちもあるし。ジレンマです。

 余談をいくつか。四章の後編でガルーダがホントに「鶴吉」と言い出したことには爆笑。解説しますと、2chエロゲー作品別板の俺翼スレで「主人公のネーミングって苗字が空港、名前が鳥で統一されているよな」という話題から「じゃあ四章の主人公は千籐レア鶴吉」というジョークが飛び出し、そのままテンプレとして定着したのです。住人の誰もが「まさか本当に出てくるわけが……」と思っていたにも関わらず、一瞬とはいえネタにされたためスレへ浅からぬ衝撃をもたらしました。あんまりにもローカルなネタなのでスルーするプレーヤーも多いんじゃないかしら。そもそも偶然の一致さえ疑われるが……真偽は奈落の底。

 そして忘れちゃならないのが、女生徒Aこと林田美咲。彼女はマジで出番なかった。イベント絵が一枚だけ、立ち絵がハッキリ表示されるシーンも一度だけ。あとはちょくちょく話題の端に上ったくらい。一応、一章後編のバッドエンドに出番らしい出番はあったが、あれ予備知識がないとイミフというバカみたいな仕様だし……Preludeの記述も参考にして美咲の相関図を確認しますと、一章のヒロインである明日香とは面識がない(しかし互いに存在は認識していてライバル視している)、二章のヒロインである玉泉日和子とは友人関係(「タマちゃん」「リンダ」と呼び合う仲)、また一章のサブキャラクターである高内昌子とは茶道部において先輩後輩の関係(ただし高内は幽霊部員なので、そう頻繁に顔を会わせるわけじゃないらしい)、アレキサンダーの店員である英里子および紀奈子とも知り合い。――この程度か。2年前の出来事がきっかけで鷹志に片想いしており、通学に使う電車が同じであることを幸いに毎朝電車内で接近している。鷹志には名前を知られていないが、毎朝見かけることもあって「可愛らしい感じの後輩」と覚えられています。他に、朝ごはんを家政婦さんにつくってもらっているとか、「母との思い出」が「実体を伴わないファイル名だけの情報」になっている(もっと直截的に「母はいません」という言葉も出てくる)とか、それなりにバックストーリーも用意されているみたいなのですが……本編じゃ一片とて明かされませぬ。境遇が少し鳳鳴と似ているってか、ひょっとして住んでいるのも同じマンション? 「ここまでプレリュード」で鷹志と顔を会わせた場所もあの付近ですよね。

 というわけで、もしFDつくるなら、メインヒロイン以外だと美咲、紀奈子、亜衣、吉川さんの四人は外せないな。しかし王雀孫にシナリオを任せていたら完成まで何年掛かるものか知れたもんじゃない。かと言って王以外の書いたテキストを金払って時間割いてまで読みたいかと申せば……嗚呼、好きって絶望だよね。


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