『ノーゲーム・ノーライフ』の十六種族(イクシード)超おおざっぱに解説(2014年6月15日の記事→2021年12月19日に更新→2023年8月14日に再更新)


(はじめに)

 『ノーゲーム・ノーライフ』とは「おい、デュエルしろよ」なノリですべての揉め事を片付ける、そんな異世界「ディスボード」に降り立った廃人ゲーマー兄妹が「現実なんかをゲームと一緒にするな」ってばかりにリアル人生を擲って大活躍する話です。スターウォーズ一歩手前の「大戦」を経た結果すべての知的生命体を「十の盟約」というルールで縛るようになった盤上の世界(ディスボード)において、殺したり奪ったりなどの直接的な暴力は一切禁じられている。破ったら罰せられる、とかではなく「脳内リアルタイム検閲」によってそういう行動が取れないように制限されているのです。道徳や法律といった規範を超えたルールであって、誰も構造的に逸脱することができない。なので皆ルールに従って間接的な殴り合いを繰り広げていたわけですが、主人公兄妹は目先の争いに囚われず「本当に達成すべき目標」を見据えて動き出すことになります。彼らの前に立ちはだかる連中が、十六種族(イクシード)と呼ばれる「種を越えた交配が不可能な」16の知的生命体グループ。主人公兄妹は異世界人たちとゲームを通じて交流し、最終的な「ゲームクリア」を果たすための協力を取り付けていく。「16」という数はチェスの駒の数から来ている説が有力です。

 既存の作品で言うと『終わりのクロニクル』の全竜交渉みたいなイメージです。ハッタリも辞さない勢い任せの作風(もっと良く言えば「自分の勢いを信じている」作風)は、『戦闘城塞マスラヲ』『ミスマルカ興国物語』などの林トモアキ作品に通ずるものがあります。逆に言うと『ノーゲーム・ノーライフ』が好きな人には川上稔作品や林トモアキ作品がオススメであり、ここぞとばかりにぐいぐいプッシュしていきたいところですがそれは次の機会に譲る。

 今回は十六種族(イクシード)について超おおざっぱに語っていきたい。精密・正確なデータはもっと真面目なファンが他所でまとめてくれていると思うので、うちは力を抜いて好き勝手にダラダラと駄弁らせてもらいます。


・ネタバレ多し。また原作12巻目の時点における情報であり、正確さに欠ける部分はあります)


・神霊種(オールドデウス) … 序列一位。いわゆる「神々」。各種概念が「神髄」を得て自我とともに顕現した存在である。「意思を持った法則」とも形容される。こいつらが唯一神の座「星杯(スーニアスター)」を巡って争ったことから、数万年に及ぶ神義なき戦い「大戦」が勃発した(「大戦」に相当するレベルの争い自体は数億年前から何度も繰り返されている)。星杯戦争の発端にして元凶、言うなれば勝手に歩ける神輿たちである。天翼種(フリューゲル)を創造した戦神「アルトシュ」や森精種(エルフ)を創造した森神「カイナース」などがいる。人類種を除くほとんどのイクシードはこいつらの被造物。最強神と目されていたアルトシュが討たれ、新たに活性化した遊戯の神「テト」が星杯を収めて唯一神の座に就いたことで大戦は終結した。本編から遡ること6000年の昔である。「史上三度目の“神殺し”」という文言があるので、大戦中アルトシュ以外にも二柱討たれているはず。小さき者たちの願いや祈り、信じる心が神髄を生むなどとされているが、まだいろいろと謎の多い種族である。7・8巻の対神霊種戦で「帆楼」という神霊種が登場、彼女こそが「遥か昔に不活性化した機凱種の創造主」である。10巻には地精種の創造主、鍛神「オーケイン」も登場する。全権代理者は帆楼。

・幻想種(ファンタズマ) … 序列二位。それら自体が独立した別世界となる種族であり、「現象生命」と定義される。「かつて実際に発生した現象」または「今なお続く歴史的事実」に基づく幻想(畏怖や恐怖など)、現象に対する「共同幻想」が形を帯び、その起源(もと)を再現する機構(システム)として顕現するに至った存在の総称。たとえば「台風」という現象から「テュポーン」という怪物の概念が生まれても、我々の世界にテュポーンが現実の存在として降臨することはないが、『ノーゲーム・ノーライフ』の世界では「かつて発生した巨大な台風」という災害を再現するために「本物のテュポーン」が幻想種として生まれる可能性がある。天翼種の本拠地であり空飛ぶ都市「アヴァント・ヘイム」は大戦期における神々の争いの余波により「天高く浮かび上がって空中で崩壊した陸地」という現象が生命化したもの。天高く雲のように漂うが、星を巡る精霊の流れを航路とするため、大気圏外に泳ぎ出すことはできない。アヴァント・ヘイムは戦神「アルトシュ」の使徒であったが、アルトシュが滅んだことについて今でも納得していないという。また幻想種の中には「魔王」と呼ばれる個体が存在しており、妖魔種(デモニア)を生み出した。魔王は「世界の滅亡」という共同幻想に呼応する形で生まれたので、当然世界を滅ぼすために行動する。具体的な生態は12巻にて綴られている。幻想種は森精種(エルフ)が「幻想種殺し」を造ったことから彼らを敵視し、大戦期は反森精種を掲げる「地精種(ドワーフ)同盟」に参加していたが、本編11巻でエルヴン・ガルドの主導する「対エルキア連邦戦線」に「複数の幻想種」が参加している旨が書かれており、「全個体が未だに森精種と犬猿の仲」というわけではない模様。「生命を持った現象」「別世界そのもの」というスケールのデカさのせいで実感しにくいが、個々の意思や自我を持つ存在である。すべての幻想種には「核」があり、核が破壊されないかぎりは再生し続ける。核を砕かれたら? それはもちろん―― 全権代理者は今のところ不明。

・精霊種(エレメンタル) … 序列三位。『ノーゲーム・ノーライフ』の世界を織り成す「精霊回廊」=「天に流れる星の力」の源。あらゆる種族は精霊を用いることで魔法や異能を駆使する。殺されたり壊されたりすると碧い光を放つ物質「霊骸」(「黒灰」の元)になり、一転して生物に対する毒として機能します。大きく分けて周囲に漂う「体外精霊」と身中に取り込んだ「体内精霊」の二つがあり、体外精霊を運用できない=魔法を使えない獣人種(ワービースト)がそれでも著しい運動性能を発揮できるのはひとえに体内精霊のおかげである。そういう意味では重要な存在だが、気のせいかあまりリスペクトされていないような……上位種族の割には一方的に搾取されたり霊骸にされたりで、どこか奴隷っぽい印象がある。位階序列は魔法適性値の高さに応じて決まるので、別に上に行くほど偉くなるというものではない。現段階でキャラクターとして登場した個体はいない。個体という概念があるかどうかも怪しい。「水精」が存在することを考慮すると、ベースになっているのは地・水・火・風の四大元素? その場合だと第五元素(クウィンテセンス)も出てきそう。全権代理者は今のところ不明。

・龍精種(ドラゴニア) … 序列四位。いわゆる「ドラゴン」。それ自体が魔法であり森羅万象に対して命令を下す「龍精語」の使い手、「死ね」と言われた者は死ぬし「砕けろ」と言われた物は砕ける。また鱗・身・骨はあらゆる鉱物よりも硬い。「ともすれば下等な神霊種に匹敵する存在だ」とまで形容される。「下等な神霊種」と言われてもいまいちイメージが湧かないけど……龍精種の詳しい生態は外伝「ハイカード・オール・レイズ」(『プラクティカルウォーゲーム』所収)を参照のこと。群れには上下関係があり、その身分は「王」と「従龍(フォロワー)」の二つに大別される。閉鎖的な種族だが、中には森精種と契約した個体もいる模様。大戦期において「王」は「焉龍」「終龍」「聡龍」の三体しか存在せず、「終龍」ハーティレイヴは最強と目された時期があったものの「戦神」アルトシュと戦って討たれ、「焉龍」アランレイヴは機凱種(エクスマキナ)3496機によって殲滅された。大戦後に残った王は「聡龍」レギンレイヴのみ。1巻の冒頭、異世界に来たばかりの主人公たちが「龍」を目撃しているが、その正体が「聡龍」レギンレイヴと判明するのはなんと11巻になってからである。ここに書いてなきゃ絶対忘れていたな、そんな伏線……『Landreaall』級のロングパスだ。全権代理者は「聡龍」レギンレイヴ(他の「王」はもう残っていない)。

・巨人種(ギガント) … 序列五位。詳細不明。大戦期は地精種と友好関係にあったらしいが、本編11巻では森精種側の「対エルキア連邦戦線」に就いている。全権代理者は今のところ不明。

・天翼種(フリューゲル) … 序列六位。神殺しの種族。大戦期に戦神「アルトシュ」の手で生み出された、アルトシュ以外の神霊種を滅ぼすための兵器であり、実際に神髄を破壊した実績もある。光輪と翼を持つ外見は完全に天使のそれ。アルトシュの意のままに他種族を狩り回ったが、彼の死によって存在意義を失った。RONIN状態に耐え切れず自害する個体が続出したため、最高齢(26000歳)のアズリールは「主の敗因を暴く」という新たなレゾンデートルを設定。ゆえに大戦後は全員で「知識の収集」に血道を上げるようになった。2巻で味方に加わるジブリールは大戦末期に造られた最年少の個体だが、それでも6407歳。ババアとかいう次元ではない。全身を精霊回廊接続神経に変え、星の源潮流から汲み上げた精霊たちをブラックホール並みに凝縮して撃ち出す「天撃」によって森精種の都を滅ぼしたことがある(しかも3000人の術者による捨て身の防御を破って)、幻想種や龍精種、巨人種といった上位種族を単独で討伐したことがある(この中で一番序列が低い巨人種でも通常なら1体で天翼種5、6人に匹敵する戦力)など、最年少ながらジブリールの武勇伝は枚挙に暇がない。紛れもなく天翼種最強の悪魔である。全盛期のジブさんとかもろに妖怪首おいてけ。レア首だ!! レア首だろう!? なあレア首だろおまえ。割とドン引きだが、世の中にはギロチンがヒロインのゲームとかもありますから……龍精種単独討伐の顛末は外伝「ハイカード・オール・レイズ」(『プラクティカルウォーゲーム』所収)に書かれています。全権代理者はアズリール。

・森精種(エルフ) … 序列七位。森の中に都市を造り自然と融和する種族。森神「カイナース」によって創造された。当然耳は尖っている。魔法の取扱いに長けており、こと術式を編纂する技量にかけては十六種族でもっとも上。個体レベルだと規模や威力で天翼種に負けるが、多彩さや繊細さでは森精種が凌駕する。格ゲーで喩えると強攻撃でブッパな天翼種と小刻みなコンボ主体の森精種って感じか? 「具象化しりとり」でジブリールが使った「久遠第四加護(クー・リ・アンセ)」は森精種の織り上げた最上位封印術式で、皮肉ながらジブリールの「天撃」による首都壊滅を受けて開発されたもの。実証はされていないが理論上は天撃をも防げるはずである。天撃を束ねた「神撃」はさすがに無理っぽい。また大戦期に完成させた霊壊術式「虚空第零加護(アーカ・シ・アンセ)」は幻想種の核を自壊させて力を強制解放するというトンデモ魔法だった。虚空第零加護(ほこ)と久遠第四加護(たて)をぶつけ合ったらどっちが勝つんだろう。国の名前は「エルヴン・ガルド」、陸地の三割近くを支配し、ディスボードにおいて最大の国とされる。地精種の国家「ハーデンフェル」と国境を接しているようで、領土問題を抱えて両種は絶えず緊張した関係に置かれている。「異世界からの召喚」も森精種の魔法で可能ということだから、エルヴン・ガルド編で空白兄妹の「同郷人」と遭遇する可能性はゼロじゃないが流れ的にもう最終章に入ってるっぽいし今更そういう展開はなさそうかな。それとダークエルフがいるかどうかはまだ分かっていない。もしいるとしたら『ダークエルフ物語』みたいに地下で都市を築いているのかしら? それだと地精種と被りそうだが。ちなみにアニメ版では最初からフィー(フィール・ニルヴァレン)がクラミーの協力者として出てくるが、原作では「エルフの男」となっており、フィーが実際に登場するのは3巻から。幻惑魔法か何かで「エルフの男」に偽装していた可能性も考慮したが、偽装するメリットが特にないし、そもそも人類種に化けた方がいいよね。全権代理者はアウリ=エル・ヴィオルハートだが、いずれ変わりそう。

・地精種(ドワーフ) … 序列八位。長らく序列不明だったが、9巻でようやく判明した。男性はヒゲモジャ短躯で「ドワーフ」というイメージそのままだが、女性はロリな容姿に加えてデフォルトでツノまで生えているため「褐色肌の幼鬼っ娘」な見た目。鍛神「オーケイン」の被造物であり「この世のすべては素材、みな鍛え上げられるために存在している」という理念がモットーのため工業技術が優れている。大戦期は鋼鉄の空中戦艦を多数建造し、神霊種さえ殺せる「髄爆」(不活性化中の神霊種の神髄を起爆させる大規模破壊兵器)まで開発していた。体毛が「真霊銀(ミスリル)」、瞳が「感応鋼(オリハルコン)」という特殊物質から成っている。真霊銀の増幅(ブースト)性質により精霊を体内で運用すると暴走しちゃうため、体外にある「触媒」に瞳(感応鋼)で同期して魔法を使う。触媒を加工した「霊装」と呼ばれる武具が特徴。霊装は可動・変形することで複数の魔術行使が可能となっており、鬼に金棒どころではない強力さである。ドワーフの国「ハーデンフェル」はエルヴン・ガルドに次ぐ世界第二位の大国だが、国力は半分以下。首都は地下にあり、地中を進む「潜陸艦」によって出入りする。このこともあってか森精種からは「モグラ」と蔑まれている。「開拓こそすべて! 自然なんて破壊してナンボ!」という過激思想を種族全体で推し進めているもんだから、自然と共生する森精種から蛇蝎の如く忌み嫌われるのもむべなるかな。ネームドキャラクターとしては外伝の『プラクティカルウォーゲーム』に登場した大戦期の天才的触媒設計師「ローニ・ドラウヴニル」、本編10巻から登場する「ティル」などがいる。10巻は「地精種編」に相当するエピソードで、巨大ロボとかも出てきて大暴れするぞ。408年前に幻想種の「魔王」と戦い、一時的にその存在を消滅させた種族でもあるが、それを為した英雄たちが魔王領から帰還することはなかった。全権代理者はヴェイグ・ドラウヴニル。

・妖精種(フェアリー) … 序列九位。花粉で繁殖し、土と水と太陽さえあれば食事も要らない究極エコロジーな「花の種族」。愛神「アルラム」の被造物であるため「愛の種族」とも。現実世界では「広大な面積の花畑」を領土とするが、そこは事実上エルヴン・ガルドの保護領となっている。妖精種が真価を発揮するのは仮想空間――自身の「魂」を併用する特殊な魔法体系で空間位相境界に干渉して構築する“洛園(スプラトゥール)”である。「魂を代価に好きなだけマインクラフトできる」うえ「他種族は精霊回廊へ接続できなくなる」洛園の内側において妖精種はほぼ無敵であり、このアウェーすぎるフィールド効果を克服して洛園内のゲームに勝利した種族は現状確認されていない。「空間位相境界=亜空間のようなもの」であり、妖精種はここに情報伝達網(リンカーネット)なる魔法版インターネットを敷設して情報を遣り取りし、魂を通貨とする独自の経済圏も築いている。なおリンカーネットは森精種にもサービスが提供されており、妖精種しか接続できないわけではない(ただし妖精種のみ接続可能な専用回線もある)。大戦期は「森精種同盟」に参加して「地精種を共通の仮想敵とした」(地精種は自然破壊上等な種族なので森精種や妖精種とは致命的に相性が悪い)そうだが、現在六割の個体がエルヴン・ガルドで奴隷となっていて高度な魔法の為に利用されている。全権代理者も不在だった。11巻まで多くの謎に包まれていた種族ながら「大戦時に天翼種を二桁消滅させた」「機凱種437機を洛園内で全滅させた」等ヤベー実績が続々と判明した。なおジブリールは大戦期に妖精種の里を三つ滅ぼした模様。ネームドキャラクターとして初めて登場したのが「フォエニクラム」、11巻の表紙を飾るパッと見あざと可愛い子だが、「底辺配信者」と評されるアレっぷりは是非とも直接あなたの目で確認してほしい。妖精種の大半がエルヴン・ガルドの奴隷になっている理由も明かされるよ。あと雄しべと雌しべの両方を持っている妖精種に性別というものは存在しないよ。全権代理者はフォエニクラム。

・機凱種(エクスマキナ) … 序列十位。遥か昔に「不活性化」し、被造物にすら忘れ去られてしまった旧い神霊種(後の帆楼)が創った種族。過去編である6巻のヒロイン「シュヴィ」、及び9巻から登場する「イミルアイン」らがこれに該当します。全身が機械によって構成されるメタル生物であり、科学の産物みたいに見えるが魔法は使える。「連結体(クラスタ)」という群を一つの単位にして行動し、原則的に自分たちから攻撃を仕掛けることはないが、やられたらクラスタ全体で反撃する仕組みになっている。端末のどれかが敵の攻撃を受けると、「相手の武装および攻撃法」を解析・模倣して同等の威力で撃ち返す。機凱種に同じ技は二度も通じぬ、今やこれは常識。某正宗の「因果応報・天罰覿面」や某覇吐の「桃花・黄泉返り」と違って喰らった個体がダメージに耐える必要はなく、破壊されても他の個体にデータが受け継がれる。この特性によって神霊種「アルトシュ」を討ったとされているが、具体的な描写はない。大戦末期(6巻の主人公「リク」が子供だった頃)の時点で約14000機の戦力を保有していたものの、アルトシュ戦などで消耗して終結時点での残存数は僅か28機、しかもほとんどが大破に近い状態。空白コンビが転移してくるまでの6000年間で更に減って、今や13機しか現存していない。「新造機構」――つまり繁殖能力に問題を抱えており、そのへんの事情が9巻の内容に繋がっていく。全権代理者はアインツィヒ。

・妖魔種(デモニア) … 序列十一位。南極点付近に位置する世界最小の大陸「ガラルム大陸」全土を魔王領≪ガラド・ゴルム≫として支配している種族。RPGで言うところの「魔物(モンスター)」に相当し、姿形において種族全体で共通する特徴を持たない。つまり固有の種族ではなく「雑多な種族の寄せ集め」を指す名称である。「オーガ」や「トロール」、「ゴブリン」、「オーク」、「スライム」、「スケルトン」、「キマイラ」などが存在する。幻想種「魔王」によって生み出された種族で、基本的に知能は低いが「上位」と呼ばれる知性を持った魔物もいる。12巻に登場する「智のシェラ・ハ」がそう。RPGなら雑魚敵扱いは必至だが、少なくとも人間が直接攻撃して倒せるような強度の相手ではなく、大戦期に遭遇したときはただ逃げ回るしかなかったという。「オーク」とか出てきたら絶対エルフが餌食になるだろうな……と思っていたらエルフの方がオークを餌食にしていた件について。なお魔王領≪ガラド・ゴルム≫は「八時間労働の完全週休三日」を基本とするホワイト国家であり、辺鄙な場所にありながらその都はエルキアと比較しても遜色ないほど栄えている。けど魔王の忠実な下僕たちなので目指すのはあくまで「世界の滅亡」という……408年前、地精種(ドワーフ)とのゲームによって魔王が消滅し一時的に主不在となったが、12巻で魔王が復活したためふたたび活発に動き始める。魔王本人からしてあまり知能が高くないのでお間抜け集団に見えてしまうものの、放っておくと本当に世界を滅ぼしかねず、「魔王たちに挑んで帰ってきた者は一人もいない」という事実も相俟って非常に厄介な連中である。全権代理者は魔王(ただし本人は幻想種)。

・吸血種(ダンピール) … 序列十二位。ステルスやスキーニング系統の隠密幻惑を得意とする種族。平たく言えばニンジャ? 「ごまかし」にかけては随一で森精種も追随できないほどだが、日の光を浴びると死んでしまう(魔法によってある程度は防げる)、吸血するとその症状が他の種族にも伝染ってしまう、などの理由から「百害あって一利なし」と見做され、ほとんどの種族から接触を断たれて盟約後は緩やかに衰退して行った。日の光を浴びることがない海棲種とトレードして共存共栄を目論むも、提案したアイデアを理解できなかった海棲種(バカども)のせいで滅亡待ったなし。今や男性の個体が一人しか存在しておらず、人類種以上の危地に立たされている。マジでハイクを詠む五秒前。一応、血以外にも汗や唾液、精液などの体液を摂取することによってひとまず存えることは可能だが、血以外の体液では成長することができずアレを吸えどもナニを啜れども幼年体のままである。まさにペドゴニア。全権代理者はプラム。

・月詠種(ルナマナ) … 序列十三位。天上に浮かぶ朱い月を棲家とする種族。創造主である神霊種「月神」ゼナススと一緒に暮らしているらしいが、詳しい生態などは不明。作者が作者(東方シリーズの優曇華院が好きで同人誌も出している)だけに、たぶんウサギ耳なんだろうな……と想像している。むしろ違っていたら驚く。9巻で明かされた情報によると月詠種の都は月の裏側に広がっており、そこには大気も精霊も緑さえもある――とのこと。対して表側は真空が支配する死の世界であり、ここに暮らす生命体は存在しない。もともと表側にも都はあったらしいが、惑星(ディスボード)側から飛んできた「何か」によって儚く滅び去ったのだとか。シリーズ開始から10年以上に渡って「何を企んでいるのかよくわからない奴ら」であったが、12巻のラストでようやく動きを見せる。長かった……イラストでウサギ耳とおぼしきシルエットが確認できるので、月詠種全体がウサギ耳種族なのだろうという確信が深まった。全権代理者は不明だが、創造主のゼナススがまだ存命であれば妖魔種のようなパターンで神霊種たる彼が全権代理者を担っている可能性があります。

・獣人種(ワービースト) … 序列十四位。獣の耳と獣の尻尾、そして非常に発達した五感と身体能力を持つ種族。天然の嘘発見器であり、心音、サーモ、匂いの変化など相手の肉体的な反応から発言の真偽を探ることが習いとなっている。魔法は使えないながら素でエンチャントが掛かっているような状態であり、フルダイブゲーム内などで相手の魔法を封じれば『筋肉番付』に出演した室伏広治の如く無双することが可能。大戦期は人類種を捕食していたが、「あまり美味しくはない動物」とのことで食料としては好んでなかったらしい。盟約後、複数の部族に分かれて小競り合いを繰り広げていたところ「巫女」と呼ばれる指導者が擡頭、やがて無数の島々から成る海洋国家「東部連合」として糾合されることに。東部連合の規模は世界第三位。体内精霊の暴走によって引き起こされる、毛細血管が破裂して血を噴き出すくらいの超過駆動、通称「血壊」が可能な個体がごく僅かながら存在する。血の花火が咲いたみたいになるので「服の洗濯が大変そう」と心配になるビジュアルだ。全権代理者は巫女(本名不詳、本人も既に覚えていないらしい)。

・海棲種(セーレーン) … 序列十五位。海中に生息する種族。水精のみ操る。いわゆる「人魚」で、上半身が人間、下半身が魚。間違っても深きものども(ディープワン)の類ではない。女性体のみ存在し、盟約前は他種族のオスを引きずり込んで搾り尽くすことで生殖していた。遺伝子を取り込むわけではなく性交を通じて相手の魂を奪い、それを原料にして己のクローンをつくるという方式。盟約によって相手の同意なしに危害を加えることが禁じられたため、吸血種ともども滅亡の道をひた走っていた。しかし十六種族においてぶっちぎりの脳天気、「ハゲザル未満」とまで称される痴愚蒙昧さゆえ、まったく悲壮感はなく享楽的に生きている。他種族のオスを殺さないレベルの軽い搾取で繁殖することが可能な個体を「女王」とするシステムを採用したが、女王となるべき個体が「王子様の迎え」を期待して眠りに就き800年も目覚めなかったなど、運用はガバガバである。「実は海棲種全体のことを案じてあえて眠りに就いた」とか、そういう深遠な意図は本当にまったく何もなく、ただの独断専行だったというのだから白目が止まらない。全権代理者はライラ。

・人類種(イマニティ) … 序列十六位。適性がないため魔法を使うどころか感知することさえできない、最弱の種。「目の前で堂々とイカサマ魔法を使われてもわからない」というのだから致命的。他種族から「ハゲザル」や「言葉を喋る猿」と見下されており、ことあるごとに滅びかけることで定評がある。記録に残されていないためテトくらいしか覚えていないが、大戦を終結させるべく尽力し、見事その念願を叶えた種族でもあった。詳しくは原作6巻を参照。大戦の間は種族名すら持っていなかったが、終結後にテトから敬意を込めて「免疫(イマニティ)」の名を贈られた。地球人類と同じく猿から進化した種族であって、神霊種によって創られた存在ではない。そのため精霊回廊接続神経を持たず「獣と同等」と見做されている。かつてはルーシア大陸の多くを領土としていたものの「十の盟約」制定後の6000年間でゲームに負け続け、1巻の時点では首都「エルキア」を残すのみとなっていた。追い詰められてからが本番だが、追い詰められないと本気を出さない点では厄介。まるで締切がギリギリまで迫らないとペンが吼えたり燃えたりしない作家のようである。全権代理者は空白兄妹。


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