マキナ・ミステリー・ルポタージュ

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「どうやら俺たちは大きな思い違いをしていたようだ……まずはこれを見てくれ。『大十字九郎』。デモンベインの主人公だ」

「はあ、巨根で有名な奴ですね」

「このキャラが何か?」

「いいか、この名前には『十』と『九』、ふたつの漢数字が入っている。抜き出すと『十九』。しかし、名の後に姓を述べるアメリカでは『九郎・大十字』で『九十』という可能性もある。『十九』と『九十』、これを見て何か思い浮かぶものはないか?」

「『十九』、『九十』……」

「え、これってもしかして、御大の?」

「そう、清涼院流水が生み出したJDC第一班のメタ探偵、『九十九十九』。彼は紙上の存在でありながら作者の意図を見抜く、メタ的な能力に恵まれている。『九』と『十』しか使わない二進法的なネーミングは非常にインパクトが大きく、また覚えやすい。暗号に使うにはうってつけの代物と言えるだろう。だが、ここで一つ疑問が湧かないか?」

「えっと」

「なんだ?」

「……そうか、『九』が一つ少ない!」

「ああ、『十九』と『九十』、これでは『九十 十九』と真ん中が欠けた不完全なキーワードしか出来ない。だが、ここで発想を逆転させるんだ。『不在はときとして、存在以上にソレを際立たせる』と。あるべきものがないという事実は人の目をひどく惹きつける。だからこそ……この暗合も『欠けた九』にこそ意味があるに違いないんだ」

「意味?」

「つまり、どういうことなんだ?」

「ギリシャ語で『九』はなんというか知ってるか?」

「いや……」

「ギリシャ語なんて全然」

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「……『エンネア』というんだ!」

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「 な ん だ っ て ー !?」

「じ、じゃあ、デモンベインは主人公の名前が『エンネア』を暗に指してたということですか!?」

「そうだ」

「しかし、なんでまた……」

「もう一度この名前を見てくれ。『大十字九郎』。『十』と『九』を除くと、後に残るのは『大字郎』だ」

「ダイジロウ……」

「まるで人名みたいだな」

「みたい、じゃない。人名なんだ。それも間違いなく和名。ただし『大』は名前の一部ではなく、『Mr』や『doc』と同じようなものと考えるべきなんだ。『大・ジロウ』、すなわち『BIG ジロウ』……大いなるジロウだ」

「いや、というかジロウって誰だよ」

「もう忘れたのか? 暗号の核心である『九十九十九』、これで連想する作家は御大……清涼院流水だけか?」

「──! そうか、『JDCトリビュート』!」

「JDC……?」

「トリビュート……?」

「御大が創造したJDC──日本探偵倶楽部の存在する世界をシェア・ワールド化し、御大以外の作家にもJDCが関連した作品を書かせるという企画だ。参加しているのは西尾維新、大塚英志、それに……」

「舞城王太郎……」

「え、三島由紀夫賞を取った人ですか?」

「そうだ。御大と同じくメフィスト賞を受賞してデビューした作家だ。詳しい経歴は一部の編集者しか知らない覆面作家で、三島賞の授賞式にも出席しなかった……。御大とのブランクは五年もあるが、実のところ彼の投稿歴は長い。御大がデビューするずっと前、メフィスト賞が創設される以前から原稿を送っていたという話だ。その作品に出てくるキャラクター名は『海王星D』『大爆笑カレー』『ルンババ12』など、御大に匹敵するほどはっちゃけていて、内容もすこぶるぶっ飛んでいた……しかし、それでも御大の後塵に帰する形で五年も遅れてのデビューになった。そのせいか、彼は御大に対して複雑な感情を抱いているようなんだ……作中で他人の本棚を見た主人公が『げ、清涼院流水まである』と胸中で呟くシーンもあるくらいだ……」

「で、その人がどうかしたんですか?」

「は? お前舞城読んだことないのか?」

「え? ああ、はい……」

「彼がJDCトリビュートで書いた作品のタイトルは『九十九十九』……」

「そ、そのまんまだ!」

「そして彼の書く連作“奈津川サーガ”には二郎というキャラクターがとても重要な位置付けにある」

「え! じゃあ、つまり……」

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「『大十字九郎』……この名前は御大を経由して『エンネア』と『大いなる二郎』の意味を込められた暗号だったんだ。俺たちはデモンベインをプレーし、書かれた通りのこと……ブラック・ロッジが企んでいたのは『C計画』、及び『Y計画』だったんだと思い込んでしまった。その裏に隠されたもう一つの真実を見逃してしまったんだ。つまり、エンネアを『Jの巫女』にして、大いなる二郎を甦らせる『J計画』こそがデモンベインの本質であり、それを企んだのはブラック・ロッジでもマスターテリオンでも邪神でも鋼屋ジンでもなく…… 舞 城 王 太 郎 であるということを!」

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「 な 、 な ん だ っ て ー !?」

「御大の命が危ない! 早く御大に知らせるんだ!」

【同時刻 清涼院邸】

「舞城王太郎! 奈津川二郎! ジャワクトラ神ーンンっ!」

(乾いた銃声が二度。静寂。何かが這う水っぽい音。悲鳴。何かが何かを咀嚼する音。ふたたび静寂……)


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