「最果てのイマ」
   /XUSE【純米】


 このゲームは地雷。そんなふうに思っていた時期が、当方にもありました。

 プレー開始当初の第一印象はイマイチだったのに終わった頃になるとベタ惚れと言って良いくらいハマっている、みたいなゲームに当たることがままあります。具体的には『Forest』とか。ホームページを開設した理由の筆頭たる『斬魔大聖デモンベイン』も、途中までは本気でやめようかどうか迷ったものです。最後までやり抜こうとする意欲。吉と出るか凶と出るか判然としない段階においてそれを持続させるのはなかなか難しい。所詮ゲームは娯楽なんですから、苦痛を感じてまでプレーする意味があるのかと疑問に思ってしまうわけです。

 とりあえず、そうした疑問を浮かべることもなくやや惰性気味にイマをプレーし続けた当時の気分というかバイオリズムというか偶然は僥倖でした。もし挫折していれば、あの「一線」を越える感覚を味わうこともなかったのですから。

 越える前と後では、見えてくるものが明確に異なっています。

 声なし、独特の文体、目的が分からない物語といったハンデを強制されてモチベーションが削られっぱなしだった当方の頭にふと「ひょっとして○○は××じゃないのか?」と囁かれた思いがしてハッとなって身を入れ直すと、そこには違った世界が待ち受けていました。以降はもはやパライソと評しても過言ではなく、誰が何をやっても面白くてしょうがなかった次第。後半に位置する「戦争編」も、前半との接合がチト不自然な点に目をつむれば脳味噌を直接掻き回されるような神経的刺激が壮絶であり、夢中になりました。時期的にちょうど『神狩り』『弥勒戦争』『神々の埋葬』と、山田正紀の初期作にあたる「神」三部作を読んでいたことも幸いしたか。「うざったい」と評判の各種リンクさえも飢えに任せて読み耽っていました。己が活字とそれに類するモノの中毒患者であることをまざまざと思い知らされる。こんな興奮、『紙葉の家』を読んだとき以来です。

 巷でぶち上げられている不評や批判の語るところにも頷けるところがあり、気軽にオススメすることが躊躇われる一本ではあります。ボイスレスも話の持つ疾走感のおかげでいつしか気にならなくなっていましたが、それでも改めて鑑みるに、個性的で魅力的なキャラたちが一言も無音にして喋らないというのは悔やまれてなりません。狙いがあるにしても声はちゃんと付けてほしかった。そして、物語に「category1」と「category2」と「category5」があるのに「category3」と「category4」がないのはどう考えてもおかしい。いかな事情があるのか知りませんが、これでは「未完成」と謗られても仕方ないのでは。

 あくまで個人的な面白さで言ったら今年のみならず今までやってきたゲームの中で上位の一つとして数えられる出来。アベレージはともかく最大瞬間風速に関しては、恐らく今年一でしょう。決して高いとは言えない完成度を目にした上で、なおも「ブラボー」と賞賛を送りたい。

 好きなキャラ、女ではあずさと沙也加と葉子とジーン。男では章二と斎と南。つまり主要陣はだいたい好きです。それぞれ際立った個性を持ちながら競合することなく相乗して場の雰囲気を形成していく流れが良好。ジーンや南レイは「聖域」メンバーとの接触がなかったのが残念極まりない。あと、変わったテンポと語彙で繰り広げられる遣り取りも、慣れてくるとヤバいくらい微笑ましい。C†Cみたいな黒笑ネタはあまりなかったけれど、抱腹するシーンは多かった。それにしてもタイトルにも冠されているイマ、実はほとんど出番がないってのはどうしたもんだろう。不遇すぎ。フランシスともども何らかの救済策が欲しいキャラですね。


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