「Fate/hollow ataraxia」
   /TYPE-MOON


 日記の内容を抜粋。


2005-10-29.

『Fate/hollow ataraxia』、プレー開始。

 パソコン本体のドライブでは何度やってもディスクチェックで弾かれてしまうため、仕方なく予備の外付型ドライブを引っ張り出してきてようやく起動に成功しました。プロテクトに跳ねられるのはこれが初めてですが、誤爆の切なさが痛いほど実感できた次第。

 公式では「ファンディスク」を謳っていますが、一年半以上の月日を費やして開発したとなるともはやFDの標準的なスケール(だいたい半年程度でリリース)を軽く突破しており、ファンを始めとした周りからの位置付けはFDというよりむしろ続編に近い模様です。当方はせいぜい番外編くらいにしか捉えてなくてさほど熱狂していませんでしたが、どうやら巷での人気は凄まじいらしく、初動の勢いも前作を凌駕するとか。発注が20万本って噂もありましたね。

 内容は「繰り返される四日間」をテーマにしたループものであり、言わば『月姫』における「黄昏草月」。状況がよく呑み込めないままひたすら四日間をリピートしているうちに少しずつ物語を覆うベールが剥がれていく仕組みになっています。ゆるゆると時間が流れるばかりでなかなか本筋に切り込んでいかないもどかしさが最高。常々ループ形式はノベルゲームとの相性が良いと思っておりますけど、改めてその念を強めた次第。できるだけこのもどかしさを引き伸ばして楽しみたいので、ひたすらフラグを避けて回り道をしています。「黄昏草月」は攻略法を間違えた(セーブ&ロードを多用してしまいフラグが立たなかった)せいで結果的に全シナリオを見た当方、今回は意図的に全シナリオを制覇するつもりでやってみる所存です。

 断章として語られる準主役級コンビが結構ツボ。前作に抱いた不満の一つが無事解消されているので単純に喜ばしかった。


2005-10-31.

『Fate/hollow ataraxia』、第2幕へ移行。

 ループものとはいえ長編枠でつくるとなれば展開にも段階が必要となるもので、ライアーソフトの『腐り姫』ではそのステップを「殻」に見立てていたのが印象的でした。というか書いてて思い出しましたが、『腐り姫』も一周が「四日間」でしたね。

 「エピソードがバラバラでほとんど繋がりがない」というノベル形式としては破綻した構成をより上位の視点で理由づけるために用意された謎。第1幕の終了に際してもなおそれはまだ見えてきません。いったい何が何なのか。もどかしくてたまらないのに敢えて本筋を避けて進む当方は尿を我慢している幼児みたいなスリルを味わっております。やはり物事はもったいぶった方がワクワクする。

 さて、本筋とは関係ないエピソードばかり楽しんでいますが、ちょっと集中力の持続が難しいところもあります。いくらファンディスクに最適な方式を取り入れたとはいえ、さすがに相互関連の薄いイベントが発生する様を漫然と見続けるのは疲れる。マップ移動形式なので「その場所でイベントが発生するよう選んだ」って自覚があるから前後の落差は気にならないにしても、常に選び続け選択の自覚を保って進行させなくちゃならないことを考えると、脈絡がハッキリした一本道のストーリーがどれだけ親切なものか痛感させられました。

 でもホロウはまだ見てないイベントや本筋を進めるために必要なイベントを「NEW」「!」といった表示で知らせてくれるうえ、特定のフラグが立った場合はそのことを告げてヒントも与えてくれるので、かなりユーザーフレンドリーなシステム設計になっていますね。だから真実痺れを切らしたときはサクサクと本題に切り込んでいくことができる。ぶっちゃけこれ、外部の攻略情報が要らないんじゃないかしら。何度も無駄足を踏まされ終いには虱潰しプレーを余儀なくされた昔気質のADVなんかと比べると信じられないくらいの気楽さ加減。「詰まる」という事態をまったく想定できないので、いささかプレーヤーを甘やかしすぎているのではないかと思ってしまう。世の中随分と便利になりました。もはやこの業界までもがヌルゲーマーの天下なのでしょうか。

 ファンディスクだけに本編では書けなかったコメディ、ありえなかったシチュがてんこ盛りで微笑ましい一方、シリアスに関しても「本編では成立しなかった」という実に美味しい状況が組まれていて口角がニヤリング。うん、これはいろんな意味で「ファン」にとっての「ディスク」になっていますよ。やり口は『歌月十夜』と一緒でその拡大版に過ぎませんが、拡大である以上、『歌月十夜』よりもハードルが高くなってファンの期待に応える難易度もアップしている。今はまだ途中なので確言はできませんけど、用意したハードルをぽーんと飛んでくれそうな頼もしさがあって現時点でもなかなか楽しい。

 にしても、今更ながら声なしって事実がときたま寂しくなります。きのこ節が迸ってるシーンとかは別に気にならないものの、ほのぼのとしたりしんみりとしたりのんびりとしてる日常の場面でボイス恋しくなる。これは「声が付いて当たり前」という昨今の風潮を刷り込まれたせいなのか。エロゲー脳の恐怖なのか。そのうちファントム・ボイスが勝手に再生されてしまうのか。密かに業の深さを測る秋の宵。


2005-11-03.

『Fate/hollow ataraxia』、プレー中。

 ファンディスクとはいえ本編の半分にまで達するシナリオ量は伊達じゃなく、まだ終わりません。主筋だけを選んでいけばもっと早く終わっているんでしょうけれど、あちこちに転がっている脇エピソードについふらふらと興味を惹かれてなかなか進まない。はっきり言ってしまうと一つ一つのエピソードは他愛もないものが多く、一部の強烈なネタを除けばさして記憶に残りませんし、個々の繋がりが弱いせいで実際覚え留めておくのが難しい。イベントが自由に選択できる分、ストーリーとしては一貫していないんです。だから時間をかけてやり込んでも、振り返ってみると頭の中に残留している事柄は思ったよりも少なかったりします。

 必ずしもそれが悪いわけではなく、むしろ個人的には肯定したいポイントです。ほとんど物量作戦といっていい態勢ですが、雑多なエピソードが入り混じっているおかげで「どこがどう繋がっていて何から何が飛び出すのか分からない」といった迷路感覚というかダンジョンでミミックに襲われるようなスリルとサスペンスが味わえる。そう、要は闇鍋とかそっち系のノリです、これ。混濁すればするほどえも言われぬ魅力が増していく世界。正にカオス・イズ・ビューティフル。記憶に残るものばかりが素晴らしいとは限りません。

 とにかく予想外のイベント、本編では挿入する余地もなかったエピソードが巧妙に仕掛けられていて、それとは知らぬうちについつい引き込まれてしまう。ギャグとシリアスがたまにシームレス化しているあたりはおふざけが過ぎると思う一方、「いいぞ、もっとやれ」と野次を飛ばしたくなる気持ちもあり。前作は至って王道路線でしたけど、今回のホロウでは素敵なくらい「頭がおかしい」と確信できる場面が多々あって素面ではいられませぬ。そろそろシナリオの攻略率も9割超えてきたみたいだし、次回更新時にはコンプできるかな。


2005-11-05.

『Fate/hollow ataraxia』、コンプリート。

 お祭り騒ぎのような一本でした。賑やかで楽しくて、終わった後が寂しくなることすら見越してそれでもなお騒いでいる。タイトルとなっている「hollow ataraxia」の他にも楽しめる番外編があったりと、ファンディスクとしては一種理想の形態でしょう。ただ全体的にごちゃ混ぜ感が強く、また奈須きのこ以外のライターが加わったことも影響してか雰囲気が二次創作っぽくなってる面もあり、純粋に「Fateの続編」を期待すれば肩透かしな部分もあるかもしれない。「いるのがおかしいキャラ」が平然と出てくる仕様といい、敵対していた者同士が馴れ合っている関係といい。そこさえ抵抗を覚えなけりゃ後は楽しむ一方って寸法。

 シナリオの方は充分堪能して満悦しましたが、収録されているミニゲームのうち花札はヤバかったです。いろんな意味で。当方は今回初めて花札のルールを知ったド素人であり、しかもこの手のゲームは感覚に頼ってプレーする癖があるからなかなか勝てず、ムキになってやり込んでいたら5時間も経過していたという恐ろしい体験をしてしまった仕儀。熱くなりすぎました。花札って結構中毒性が高い代物だったんですね。札の違いがはっきり分かってくる頃になると中断するタイミングの難しさに悩まされました。プレー時間は累計すると既に10時間近く。まだノーマルモードでクリアできてないキャラがいますけど、この調子じゃ下手すると本編以上に時間を費やしてしまいかねないので封印することにします。

 花札にオマケで付いているストーリーは肩の力が抜けた若干緩めのギャグ調で、しかし微妙に燃えるところもあったりする。前作では人気投票10位以内に食い込むほどの人気を見せたランサーが、例の二人に弄ばれてすっかりいじられキャラになってる姿は笑った。出番が少なく人気もいまいち不振で、「ワカメ」という呼称がしっくり馴染んでしまう慎二は男のくせにパンチラ方面へ走って色物ザコ属性が強まっている。壊れるとこまで壊れてしまったせいで逆に親しみを覚えるくらいだ。桜戦での幕間劇を見た瞬間、「あれ、Fateって実はこいつが主人公になっても結構面白くないか?」という気の迷いまで生じてきました。

 ともあれコストパフォーマンスの高さに満足。基本的な構成は『歌月十夜』の「黄昏草月」(平和な日々+コア・シナリオ)と「夢十夜」(サブキャラ等の番外編詰め合わせ)を適度に混ぜ合わした感じで、本来なら本編と分けて語られるはずのサーヴァント過去エピソードが本編の中に潜んでいるあたりは個人的にツボでした。何せ「こんなところでこのエピソードが読めるのか」と嬉しいサプライズが味わえますから。話の面白さには切り出し方の巧拙も関わってくると思います。本編自体は『Fate/stay night』のシナリオと比べてやや見劣りするところがあるものの、「前作の補完」という視点では文句がなかった。コメディムード濃厚になったせいでキャラクターが満遍なく面白さん化しており、殺伐とした雰囲気は薄め。けれど盛り上がるところはちゃんと押さえてるって印象です。

 この調子でFateシリーズを引き続き出してほしい気もしますが、これからまた1年以上待たされるかと思うと心中やや複雑。そろそろ新しい切り口を見たい欲もあります。今後のTYPE-MOONはあくまでFateを中心とした奈須ワールド一本槍で行くのか、それとも新規採用のライターを使って複数ラインを敷きまったく違う冒険に踏み出してみるのか。予想を試みるだけでドキワクします。


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