「銀の蛇 黒の月」
   /Project-μ


 日記の内容を抜粋。


2003-12-20.

『銀の蛇 黒の月』購入。ダーク燃えゲーとはいえ、パッケージは裸のおにゃのこです。この絵に期待して買った人は予想を裏切られる可能性、大。ところで『そこに海があって』も予想を反してアレな内容だったということで、逆に興味が湧いております。が、まずは銀蛇を終了させてから考えようってことで。

 まだ序盤を2時間ほどしかやっていませんが、実にイイ感じです。戦闘シーンなど、殺伐とした場面で演出に工夫を凝らしており、なかなか楽しい。エロもおざなりにされてはいなくて、時折思い出したように濡れ場が挿まれます。濡れ場と言いつつ、結構グロい展開が多いんですけどね……「エロ!グロ!ヴァイオレンス!」の掛け声に違わぬ内容ではある。

 んー、まだあれこれ言えるほど雰囲気を掴んでいないんですが、今のところ抱いている雑感をいくつか。

 1) テキストは粗い。体験版でもなんとなく見えてましたが、読んでいて引っ掛かりを覚える箇所が多いです。「ように」「ような」といった直喩を頻発しているし、センテンスを長くしすぎて意味が取りにくくなっていることもままある。三人称・作者の視点であることを前提とした書きぶりとなっていることも含め、読む人によって好悪が分かれそうだ。「美文じゃないと読めない」という方には薦めにくい。『デモンベイン』のテキストに耐え切った当方としてはそんなにキツくもないのですけど。粗いとはいえ、冗長ではありませんし。

 2) 演出はたまにうざったくなる。確かに緊迫感のある場面や、動的なアクションシーンでは凝った演出が話を盛り上げてくれるのですけれど、演出のそれぞれに所要時間が決められており、スキップすることができない。進行のペースを一定のモノとして押し付けられるため、たまに苛々することがあります。先が気になって、早く次の場面に行きたいのに、演出の都合上ゆっくりと読み進めなければならない……といった事態が発生してしまう。なまじ凝っているだけにこの点は残念。

 3) ストーリーは面白そう。章分けが細かく、現在十章を過ぎていますが、それでもまだ全体像が見えてきません。「お約束としてこう来るだろうな」と予測していたことも、実際の展開では微妙に意表を衝く形でその予測を裏切りに掛かる。こっちの注意を引き付け、適度に眠気を払って覚醒状態に促してくれる。物凄く斬新なことをやっているわけではないけれど、それなりの刺激があって退屈しません。「先が気になる」「全体像を捉えたい」という気持ちが湧いてくる分、続きも期待できそうな塩梅です。これだけ期待させといてあっさり話を終わらせてしまったら恨みますよ。

 4) 脇役が活きている。OHPのキャラ紹介に出てくる人数が少ないので「ひょっとすると話のスケールが小さいのでは?」と不安がっていましたが、サブキャラがバンバンと投入され、この点については安心できました。何せ荒廃した世界を描くダーク・ファンタジーとあって、ゴロツキ、ろくでなし、世紀末悪党といった風味満々のゲス野郎どもがたくさん出てくる。そしてたくさん死ぬ。素晴らしい。エロゲーは野郎絵となると極端に手を抜かれる傾向がありますが、この作品は野郎絵もキチンと濃く魅力的に仕上げられています。下手するとヒロイン勢よりもステキなくらいに。というか、当方は吸血伯爵(ドラクル)の魁偉な凶相にめろめろです。女性キャラはなにぶん序盤だと出番が少ないので、まだどうとも言えない。

 といった感じで、文句を垂れつつも割と楽しんでいます。断言はしかねるものの、たぶん燃えゲーとしてはアタリです、このソフト。グロがイケる人、テキストの粗さを許容できる人にはオススメできそう。


2003-12-21.

『銀の蛇 黒の月』、コンプリート。

 うーん、短い。声が付いてないことを差し引いても、ボリューム不足の観は否めない。一応マルチエンド形式になっていますが、ストーリーはほぼ一本道です。ルートによって一部のエピソードが見れたり見れなかったりすることはありますが……たとえば、敵キャラがザコを屠っているシーンが、あるルートではちゃんと出てくるのに、別のルートでは省略されていたり。何を以って「表示するか・省略するか」の判断をしているのか、基準が曖昧で、フラグ管理にはえらく苦労しました。なにせ、Aという選択肢を取ってもBという選択肢を取っても直後の展開は変わらず、少し先に進んでようやく変化が見られるようになるんです。しかも、展開を左右する選択肢が一見どうでもいいようなものだったりします。攻略に手間取っていくらか時間を食いました。

 攻略に浪費した時間を抜けば、シナリオは全体で『鬼哭街』と同じか、ちょっと超えるくらいの分量です。だいたい文庫本1冊分? 4400円の『鬼哭街』すら「コストパフォーマンスが悪い」と言われたくらいですから、倍額の銀蛇はフォローするべくもなく。CG枚数はそこそこですし、演出にも凝っていますけど、それらのポイントだけでオススメするには障壁があります。

 ボリューム不足でコストパフォーマンスが悪くても、作品としてまとまってさえいればいくらでもプッシュできますが……残念なことに、シナリオを盾にしてオススメすることも難しい。最終章手前までは、しっかりストーリーを盛り上げつつも程好くプレーヤーを焦らす見事な話運びでしたけれど、「これからどうなっていくんだろうなぁ」とワクワクしているところにいきなり「最終章」と来たもんですから「えっ!?」となってしまいました。展開が早すぎます。こちらの意識としては「起承転結」の「承」が終わって「転」に入るところだと思っていたのに、突然「結」が来たんですから、「起承結」というまことに座りの悪い構成になってしまっている。肝心の最終章にしても非常に駆け足で、なんだか打ち切りが決定した連載マンガみたいな慌しさ。折角それまで巧い具合に積み上げてきた話が台無しです。消化不良を起こしている要素が山積みで、実に惜しい。

 んー、もっと話が膨らんでいってスケールも大きくなると思っていたのになぁ……こぢんまりとまとまってしまいました。「人としての欲望が希薄で、表情を動かさず淡々と仕事をこなしていた殺し屋青年が、ひとりの少女と出会って『生きる価値』を見出し、感情を取り戻していく」という大筋はベタなものの、それ自体は悪くない。途中までは調理も巧くいっていましたが、仕上げでマズったという印象です。システムの使い辛さ、エロの薄さから言って、「パッケージの絵が好みなんだがどうしよう?」という方にはオススメし辛いです。エロよりもむしろグロの比重が高い。

 と、さっぱり誉めていませんが、実のところ当方は本作を結構気に入っています。「買った良かった」と思うくらい。TrueEndに辿り着いたときは不覚にもホロリと来るモノがありましたし。確かにこちらの期待を下回られてしまいましたけど、演出やBGMのおかげで戦闘シーンは燃えまくりましたし、「粗い」と思っていたテキストも読み進めるうちに慣れてきて最終的には気に入った。「口が利けない」というヒロインも、身振りで感情表現を行っているため、声がなくても充分に萌えられる。というより、ボイスレスってマイナス要因を巧く逆手に取っていますね──三人称なのでヒロインの感情は描き放題ですし。

 コンパクトなシナリオ・サイズに目を瞑りさえすれば、「男臭くて熱くてよく燃える、ちょっとダークでグロなファンタジー」にしては佳作。ファンタジーといっても、『黒と黒と黒の祭壇』みたく設定が「仕掛け」となってシナリオと直結しているタイプではありませんので、凝った話を期待すると肩透かし。光る部分が少なくないだけに詰めの甘さが悔まれますが、燃えゲースキーの方にはこそっと控え目にオススメしておきます。本当に惜しい出来。

 ところで、シナリオライターの越智自由はこれを最後にproject-μを退社、ひいてはシナリオライターも「ひとまず引退」するとのこと。注目しようかと思った矢先でしたのでショック。ただ当方は過去作品が未プレーですからそちらへ手を伸ばすことも可能につき、幾分かショックは和らぎましたが……うーん、それでもショックはショックです。しょんぼり。


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