「Fate/stay night」
   /TYPE-MOON


(ネタバレ全開につき未プレーの方は御注意を)

 さて。プレーしていて思ったことをつらつら雑記的に書いていきます。取り留めのない内容になることは必至ですので、前後の繋がりとかは気にしないでください。

・聖杯戦争について

 「ありとあらゆる願いを叶える聖杯、それを手にするのは最後に残ったひと組だけ」という設定で繰り広げられるバトルロイヤル。コンセプトとしては込み入ったところがなく、単純明快で敷居が低くて、それだけにストレートに書き手の度量が試される題材でもあります。なるべく捨て石めいたキャラは出さず、敵も味方も等分に尊重して描き込んで戦わせなければ物語そのものに も魅力は生まれてこない。故に、主人公やヒロインさえ良ければ盛り上がるって形式ではありません。

 その点で言えばこのFate、1周目ではごく真っ当にバトルロイヤルを展開し、2周目では目先を変えつつもなおバトルロイヤルを続け、3周目でバトルロイヤルから外れて「聖杯」そのものを主題にする……と、各ルートごとに異なる筋立てを用意して「聖杯戦争」というバトルロイヤルを多角的に扱ったのは成功。1周目から2周目、2周目から3周目に移る際、いちいち重複した展開が起こらないのでスムーズに興味が持続します。圧倒的な分量が控えていながら最後まで投げずにプレーできたのは、シナリオの牽引力が大きい。

 しかし、結局のところ、話を凝り過ぎたせいで「聖杯戦争」の「何でも願いを叶える聖杯」という部分が弱くなってしまったのは痛かった。『ドラゴンボール』におけるシェンロン並みに願望機としての扱いが軽くなっていく。そもそもからして主人公が聖杯を欲しておらず、他の参加者にも興味抱いてない連中が多くて、いまいち「争奪戦」という印象が希薄でした。願いを叶えるために戦い、騙し、裏切るというより、戦いたいから戦う、騙したいから騙す、裏切りたいから裏切るなど、欲望よりも感情をメインとして行動しているキャラもいますし。もっとこう、主人公には不治の病で苦しんでいる妹がいるからとか、ベタベタでもいいから明確に戦う理由があって他の参加者たちと激戦する「分かり易さ」があれば、バトルロイヤルそのものは盛り上がったはず。「正義の味方」という動機や信念も、物語を面白くする材料にはなっていますが、それだとバトルロイヤル自体はトーンダウンしてしまう気が。

 戦いに関しては序盤が一番わくわくしましたね。アーチャーVSランサー、セイバーVSランサー、セイバーVSバーサーカー、セイバーVSアサシンと。後々のセイバーVSライダーみたいな宝具のぶつかり合い、ドラゴンボールを嚆矢とした少年マンガライクのインフレバトルも、演出の妙があって派手に盛り上げてくれますが、どうあれ、地味に武芸者やっていた時点が楽しかったのは確か。後半は逆転に次ぐ逆転の連続だし、士郎は瀕死になりまくっても回復するしで、糸を張り詰めたような緊張感・殺伐感は薄かった。

 そんな中でベストバウトを選ぶとしたら「Heavens feel」での言峰神父VS臓硯&真アサシン。ろくにCGや演出がなく、かなり地味なバトルでしたが、地味加減が却って燃えます。シエル先輩に惚れて『月姫』を始めた身としては、「黒鍵キタ━━(゚∀゚)━━!!」と歓ぶのなんて予定調和。真アサシン相手に苦戦しながら、最後の最後で「妄想心音」を凌ぎ、逆襲する言峰神父については勃○もん。黒鍵で吹っ飛ばされ、串刺しにされた真アサシンが「なにィッ!?」と叫ぶの、いかにもヤラレ役っぽくて萌え。更に油断する臓硯へ飛び込んで「洗礼詠唱」をかますとこなんざ、○起どころか射○もん。ザリザリと壁に削られて小さくなっていく臓硯を想像するだに夢心地です。

 次点を挙げるなら、同じく「Heavens feel」ラストの士郎VSダーク・セイバー。一騎打ちの奴です。バッド・ルートですけど、正規ルートに負けず劣らず熱い内容であり、見ないのは損。敏捷性が落ちたとは言え、無限に近い魔力を背景に押してくるダーク・セイバーを、開眼した絶技で以って迎え撃つ壮絶なラストが最高。一矢報いたものの精根果てて力尽きる士郎に、冷徹な視線を飛ばすダーク・セイバー──というよりセイバー本人──のクールさも切なくてたまらない。

 あとはセイバーVSライダー(「Fate」「Heavens feel」両方)、セイバーVSバーサーカー、セイバーVSギルガメッシュ、アーチャーVSキャスター、ランサーVSアーチャー(ゲイ・ボルグVSロー・アイアス)あたりも見ていて派手で良かったです、はい。演出でやってることは単純なのに、それでも段違いの迫力。映画の殺陣って目が回るようにスピーディな展開を見せるから、動体視力の乏しい当方には追い切れないんですが、「テキスト+演出」という方式だと適度に展開速度をコントロールできて取り残されることがなく、とても安心。

 危うくセイバーを殺しかけた葛木宗一郎については、ただびっくりしただけで「燃え」を感じるところまで行かず。肉弾戦としてはキャスターに血を吐かせた遠坂凛の方が燃え。

 あ、もちろん「Unlimited Blade Works」の士郎VSアーチャーも好き。剣戟と同時に信念の衝突も繰り広げられて、濃厚に漂い出す必死で泥臭いムードが却って心を燃え上がらせる始末。言葉が武器で剣も武器。「Unlimited Blade Works」というタイトルからして熱いこのルートの中でも、やはりあれが最燃えだったかと。

・サーヴァントについて

 結局、セイバー(アルトリア)、アーチャー(エミヤ)、ランサー(クーフーリン)、キャスター(メディア)、ライダー(メドゥーサ)、アサシン(佐々木小次郎)、バーサーカー(ヘラクレス)、それにアーチャー(ギルガメッシュ)、アサシン(ハサン)、アヴェンジャー(アンリマユ)と、ちょうど10人が出てきたことになりますか。ダーク・セイバーやダーク・バーサーカーも含めると12人ですが。

 キャラクターで言えば議論の余地なくセイバーが一番ですけど、あえて「サーヴァント」としての性質だけに限定すればアサシン(ハサン)がもっとも好きだったりします。最初に出てきたアサシンが佐々木小次郎ってのは意外性が高くて「そう来るか!」と膝を打っちゃいましたけど、モノホンのアサシンじゃなかったことはやっぱり寂しかったですし、「Heavens feel」でようやくアサシンの正統スタイルを地で行くハサンが出てきて大喜び。投擲系のナイフも好きなので、得物がダークというところも嬉しかった。何より、サーヴァントとしての性質が直接戦闘ではなく不意討ちや闇討ち、それも「相手マスターの殺害」に特化しているあたりがツボ。当方、「最弱が最強を弑逆する」、いわゆる下克上属性があります。他のサーヴァントとはまともに戦えず、敵対するマスターのすぐそばまで忍び寄って殺すことでしか意義を果たせないなんて、卑怯すぎて萌え。バトルロイヤルなんて卑怯でナンボですよ。

 しかし、10人のサーヴァントすべてにちゃんとした個性を与え、かつ魅力を発揮させている点は凄いなぁ。そもそもキャラクターと言えるかどうかすら怪しいアヴェンジャーは微妙だけど、あんまり活躍していなくて見せ場の少ないアサシンや真アサシン、中途半端に悪役張っていたキャスターまでしっかり印象付けるところは素直にイイと思える。真アサシンやキャスターはキャラの性質的にああした扱いで充分ですけど、アサシンの小次郎はちょっと残念だったかな。剣技については全サーヴァント中最強なんだから、柳洞寺に訪れる他のサーヴァントたちを撃退する場面はセイバー以外にも見たかった。キャラとしてもいろいろ美味しい性格してますし。

 アーチャーに関してはエミヤにしろギルガメッシュにしろ、ふたりとも全然弓兵じゃないだろ、とお約束のツッコミ入れたり。スナイパー大好きっ子ゆえ、数百メートル離れた地点からの狙撃ってシーンは欲しかった。なくて無念。ちなみにエミヤ、体験版をやったときは「どうせなら凛は士郎じゃなくてこいつとカップリングさせてほしい」と願いましたが、まさかそれが奈須の掌の上で踊っていたとは露知らず。

 それとギルガメッシュ、軽薄で軽率なキャラだから最初は好きになれませんでしたが、クリアした後に某所を覗いていろいろイジられているのを目撃し、「これはこれで」と好ましく思えるようになった次第。「Unlimited Blade Works」のラストがあのまま続いていたら、目当ての道具が取り出せなくて惑乱するドラ○もんのようになっていたかと考えれば可愛いじゃないですか。もしこいつをサーヴァントにしていたら飯の好みはセイバーよりも厳しかったかも。「我(オレ)が一番偉い」という思想に凝り固まったギルガメッシュが士郎の正義感を鼻で笑い、士郎は士郎でギルガメッシュの王様発言に文句を言い、互いに衝突しながら徐々に仲間意識が芽生えていくかと妄想するや、それはそれで楽しい気が。もちろん最後は遠坂凛&セイバーの最強コンビと対決。魔力不足でエアが使えないギルガメッシュはセイバーに圧倒されていき、凛は「死にたくなかったら令呪を捨てて降伏しなさい」と警告する。だが、ボロボロになりながら己の信念に命を懸けて生き足掻くギルガメッシュの姿に、士郎は闘志を注ぎ込まれ……みたいな展開。

「その程度の覚悟しか持たぬから貴様は雑種なのだ! 何が『正義の味方』だ、我意を持たぬ者が正義など語るな! ふざけるなら消えろ! 我(オレ)は王として戦い、王として君臨し、王として支配し、王として蹂躙する! 我(オレ)は我(オレ)であるように、我(オレ)は王で在り続ける! 我(オレ)に正義などない! 我(オレ)は正義などではない! 正義を凌駕する我意であり、何ものにも捉われぬ覚悟を抱く者こそ我(オレ)だ! 我(オレ)の覚悟に劣るならば──貴様にマスターの資格はない」

「我(オレ)は奪うしか能がない。貴様は与えるしか能がない。ならば答えはひとつ。我(オレ)がすべてを奪い、貴様がすべてを与えよ」

 ……少し見たい。

 バーサーカーは単純に力押しで、しかも概念武装とか11個の生命ストックとか、強すぎるくらいに強すぎてメロメロ。3日目の晩における接近遭遇で士郎が「見てるだけで死にそう」とビビりまくるシーンとか、迫力を出し惜しみしない点で分かり易くて好き。マスターであるイリヤとの思い出が甦る場面ではついホロリと来た。が、カリバーンに7回殺されたり、ギルガメッシュ戦で一方的に虐殺されたり、イリヤを守るために犠牲となって黒い影に飲み込まれたり、なかなかガチンコらしいガチンコがなかったことについては溜め息もの。

・ヒロインについて

 気に入っている順で書けばセイバー≧凛>イリヤ>桜。藤ねえも面白くて好きだし、出番は少なかったけど美綴にもホの字だし、レディース「眼怒宇砂」を率いて「冬木の最凶最悪3-10-1(座頭市)ガール」とかいった『TWO突風』みたいな二つ名とともに例の鎖で敵対する族どもをカウボーイよろしく引き摺りながら深夜の街道を仏契に爆走していても違和感のないライダーもカッコイイし、ダーティに見えて素顔は清純派という某キャラの逆を行くキャスターも可愛いけど、同一線上で語るのは難しい。無理矢理入れたら、セイバー≧凛>美綴>ライダー=キャスター>イリヤ>桜>藤ねえの順になるかな。ちなみに例の三人娘やメイドコンビはいくらなんでも出番なさすぎなので考慮外。

 やはり、セイバーと凛が強かった。正ヒロインで重要性が高く、「金髪+甲冑」の組み合わせが絵的に美味しいうえ、和やかな性格をしているセイバーには順当に萌える。一方、ツインテールで強気で自信家で、魔術も格闘もこなせるオールマイティなキャラでありながら、異性関係に多大な弱点を抱いている凛はいちいち言動の一つ一つが破壊力デカくて参った。強いて言えばセイバーを選びますけど、凛も凛でどうにも捨てがたく、たまに迷って「凛≧セイバー」とランキング変動を起こす可能性も大。

 イリヤと桜は上記のふたりに比べていまひとつ弱かった。イリヤは専用シナリオがなくなったせいでどうにも描写不足になったしまったし、桜は桜で「Heavens feel」における変貌が極端すぎて付いていけなかった。桜、サブキャラとしてなら相応の魅力を発揮していたでしょうが、あそこまでの優遇に耐えるヒロイン的強度はなかったのでは。いくら悲惨な背景があって、それを堪えながら生きる健気さがあれども、士郎との関係に「運命」を感じさせるほどの何かがなかった。結果的に彼女の存在は凛と士郎の「運命」を浮き彫りにしてしまう役目を担ってますし……どう見ても姉の踏み台になっているとしか。

・シナリオについて

 「Fate」「Unlimited Blade Works」「Heavens feel」、この3つのうちもっとも当方の琴線に触れたのは「Fate」でした。セイバーの正体がアーサー王と判明する件では素で「ええーっ!?」と驚きましたし。最初はジャンヌ・ダルクあたりと考えたものの、それではあまりにバレバレすぎて士郎に隠す意味がないし、違うだろうな……と思った矢先にアレが来たときは心底ビビった。自分はアーサー王に萌えていたのか、と空恐ろしくなるのもやむをえない。中村うさぎの極道くんシリーズに『アーサガ王妃と電卓の騎士』という外伝がありましたけど、よもやこれを超えてもっとストレートにアーサー王を少女にしてしまう話があるとは。当方も遠いところまで来たもんです。

 佐々木小次郎の扱いが有耶無耶になってしまったところや、アーチャーの正体が不明なままになったところ、キャスターの出番が非常に遅かったところについては「2周目以降で補足してくれるだろう」と大して気にならなかったけど、いきなり金ピカのギルガメッシュが出てきたときは「なんじゃそりゃ」と正直複雑な気分でした。そろそろ決着も近い、と思ったところに不意打ちを喰らって心地良くもあるのですが、あまりに唐突すぎて喜べなかったというのが実状。最後はセイバーとの一騎打ちで盛り上げてくれましたから、「ま、いいや」って受け容れました。

 王としての義務を果たし、民に報いたいという少女の気持ちと、それを素直に受け止めてくれなかった人々との衝突が、あの死屍累々たる丘で剣に寄りかかる光景へ結び付いたのだと思うと、体内を駆け巡るロマン・サーキットが暴走寸前に追い込まれる。「終わってしまったこと」を悔いるセイバーの姿勢は後ろ向きで、その英雄らしくないネガティヴ思考が愛着を掻き立てる寸法。士郎がやたらと「女の子なんだから」という理由で物事を要求していた点はどうもピンボケと言うか、押し付けがましくて萎えましたが、小さな身体と端麗な美貌で戦う彼女の姿が華奢で痛々しく映るのは確かです。男の子意識が強い士郎でなくとも「この子を守れない」って事実は苦痛でしょう。

 だから彼女とともに協力し、それぞれがそれぞれの役割を負って最終決戦に出陣するラストはいちいち説明を要さないほど爽快で清々しい。暁とともにセイバーが消え、曙光に染まる地平を目にして、彼女が駆け抜けた金色の野を夢想する幕切れは綺麗すぎるくらいに綺麗。その後のエピローグも蛇足になっていなくて更に綺麗になってしまうのだから、ここまで輝かせてどうするんだ、って問い詰めたくなる。同じ「金」で言えば西澤保彦の『黄金色の祈り』と同等かそれ以上の鮮烈さでした。

 唯一気にかかるのは、教会地下の「生き残り」について。潜入シーンは伝奇ホラーっぽくてドキドキしましたが、彼らに関して最後の最後まで放置状態で言及されていなかったのは座りが悪い。他のルートでも語られないし、いったいどうなっているのか。

 「Unlimited Blade Works」は10時間以上にも昇るプレーでかなりの情報を得ていたにも関わらず、それでもなお先の読めない展開で楽しませてくれたことは買いたい。1周目では「別に倒してしまっても構わんのだろう?」など、気負いのないセリフや主人公に向けた背中で多大な存在感を滲ませつつ途中退場になってしまったアーチャーが大活躍するんですが、やっていることはかなりダーティ。憎しみに目が曇り、セイバーや凛を見殺しにしかねないほど暴走する始末。彼のさっぱりした性格に魅せられていた当方は「え〜?」と困惑することしきり。

 で、真相に気づいたのはかなり後になってから。「もしかして……」とうっすら予期していた部分はありますが、確信していなかったので真相解明時はやっぱり驚きました。「英雄の座」は並行世界をも超えた位置にあるのだろうか。あの、信念と信念が火花を散らして鎬を削る剣戟バトルは、「正義の味方」という達成困難どころか達成不可能な幻想を懸けてぶつかり合うものゆえ、士郎だけが甘っちょろいのではなく、アーチャーも充分青臭い。どちらか一方が正しいか否かは別として、各自が己の正義を確信しながら、「目の前にいるこいつを殺さなければならない」と敵意を募らせる構図は悲惨。3周目で展開される姉妹喧嘩とは比べ物にならないくらい、どうしようもない。その「どうしようもない」泥臭さから「燃え」という感覚を引き摺り出す当方たちプレーヤーも因果な存在ですが。

 はっきり言って「Unlimited Blade Works」の最たる見せ場はあそこなので、以降のギルガメッシュ戦はパワーダウンの感が否めない。「──行くぞ英雄王、武器の貯蔵は十分か」という燃えゼリフが繰り出されるにも関わらず、ラストはなんか自滅っぽいですし……結局、一番美味しいところはアーチャーが持っていくし。ヒロインたる凛も「Fate」で覗かせた可愛らしさに磨きをかけ、一層輝かしく存在感を放っていますが、それでもやはり目立っていたのはアーチャー。「俺が主役だ! 故に裁くのは俺だ!」とマイク・ハマーばりの強烈さで印象に焼きついてしまう。お前は本当に「サーヴァント」か。ギルガメッシュ以上に自意識が強い気もする。

 最後のシナリオにして公認のグランド・フィナーレ、「Heavens feel」。巷での人気は絶不調です。目線を変えたのは良かったとしても、ほとんどのプレーヤーが抱いていた期待の斜め上を行ってしまった様子。強烈無比であるはずのサーヴァントたちがえらくあっさりバタバタとやられていく展開や、セイバーがダークサイドに取り込まれてしまう展開、ヒロインたる桜が止め処なく邪悪になっていく展開など、まるで「オバケのQ太郎」を読んだ後に「劇画 オバケのQ太郎」を読んでしまったような生々しいギャップが不人気の原因と見られます。

 特に、「正義の味方」を貫くはずだった主人公が「桜の味方」──つまり、桜の優先順位を最高ランクに設定し、桜を救うためなら見知らぬ他人を多少犠牲にしても構わないという考え方へシフトする展開が、最前の「Unlimited Blade Works」での激闘を否定するようで、熱気に冷や水をぶっかけられた気分になるあたりがブーイングの嵐。日和った、篭絡された、と罵倒する声も多い。何より、士郎が守ろうとする対象が「他人すべての幸福」から「間桐桜を中心とした幸福」にすり替わっただけで、相変らず「自分」が頭数に入っていないのでは、衛宮士郎本人にとって何の解決にもなっておらず、未消化のテイストが激しく漂う。

 当方の好みで言えば、サーヴァントがバタバタやられていく展開は無常観があって面白いし、臓硯や真アサシンといった新キャラを交えて広がっていくストーリーは先が読めなくてワクワクした。黒幕でありながら必要最低限の説明しかされていなかった言峰綺礼も詳細な説明に併せて大活躍しますし、ダークな伝奇を偏愛する向きとしては甘露なシナリオかと。ただ、中盤における士郎や桜の記憶が混濁するサイコ・ホラー的展開は描写が長引くせいでダルい。あそこが間延びしてしまったから、セイバーの相対的な出番が減ってしまい、「君を忘れる」での衝撃が薄らいだことは当方にとって痛恨。

 シナリオとしては好きですけど、それでもこの「Heavens feel」における士郎や桜に感情移入するのは難しい。「春になったら一緒に桜を見に行こう」という約束がセンチメンタリズムを刺激するものの、そこに至るまでの経緯で踏みにじったきた無辜の市民が省みられないのはどうにも。前回の戦争で聖杯を割ってしまった結果多くの犠牲が出た件に対する反応の薄さといい、どうも士郎は変に鈍いところがある。桜の「弱さゆえ、彼女は破滅への道を辿る」といった部分も、いじめられっ子が超常的なパワーを手に入れていじめっ子に復讐する、『ドラ○もん』やサイキック・サスペンス、スプラッター・ホラーでよく見られる展開に付きまとう、攻守逆転に際しての責任転嫁──やられたからやり返すんだ、自分はあくまで被害者だ──が単純明快に憎悪を癒す一方、加害者となったからには同じロジックで復讐される義務も生じてくるわけで、そうした憎しみの連鎖を断ち切るための物語的魔法が「アンリマユに責任を全部押し付ける」という形に近くて、むしろアヴェンジャーが可哀想になりました。

 ラストで言峰神父のぶちかました「どんなものにも誕生する権利はある」という考え方に心動かされた身としては、議論の余地を認めず生理的嫌悪感にも似た決めつけで頭から否定する士郎には余計に乖離感を覚えてしまった。あれは「正義の味方」になりたいがゆえに単純な悪を欲する士郎へ警句を投げ掛けているとも取れるのに、「あんな奴とは分かり合えない」と不理解を剥き出しにするのでは、それこそアーチャーの言った「掃除屋」と変わらない。せめて議論で言峰を打ち負かすなりなんなりしてほしかった。当方も作中に存在したとすればアンリマユなんて代物は生まれてきても困るし、倒してほしいことは倒してほしいんですが、せめて「正義の味方」が悪を悪と断定し、処断する理由や論理を明確に開示してくれないと、ただ「化け物め!」の一言だけでクリーチャーをぶち殺すハリウッド映画との違いがない。ここが「Heavens feel」における一番の不満でしょうか。

 ゼルレッチ翁、アオサキ、「魔法」、「稀代の人形師」がちょこっと出てくるあたりは『月姫』や『空の境界』のファンとしては単純に嬉しかったです。次回以降もこうした遊びの要素は歓迎。

・『Fate/stay night』全体について

 ボリュームは満点。テキストも柔らかくなって読み易くなってきたし、グラフィックは武内崇の「味」を守りつつゴージャスな塗りや背景で目を楽しませてくれたし、単純ながら凝った演出、二転三転するシナリオもよろしかった。サウンドもまあまあ。圧倒的に描き込みが足らなかった慎二や三人娘、メイドコンビといった脇キャラを除けば、20人以上にも昇るキャラクターのほとんどに個性があって同時に魅力を感じた。初回特典の「Fate/side material」で触れられているランサーの本当のマスター、バゼット嬢も短い説明文ながら萌える。出番がなくて残念。

 遊び込んだ期間は一週間を超え、休日を丸々潰したこともあり、コストパフォーマンスはかなり高い。ルート数が少ないせいか、コンプリートしてからも「まだ読みたい」という気持ちが止まらず、満足とは断言しがたくありますが……さすがにワガママが過ぎるきらいもあり。とはいえイリヤルートや、美綴の活躍がもっと欲しかったところだ。

 細かい不満はいちいち挙げていたらキリがないし、誉めたい箇所でいちいち熱くなっていたら身体が保たない。あまりにハマり込みすぎたせいで、プレー期間中に1月から2月へ移行した事実も希薄化し、「あ、そういえば今は2月だっけ」と素で驚くことも度々。毎日日付を見ているにも関わらず、それでも実感が湧かないなんて、恐ろしすぎる……。

 ネタバレ全開ゆえ、未プレーの方が読んでいるとは思えませんし、わざわざ「オススメ!」と叫ぶ必要もないでしょう。当方の感覚で採点すれば、100点満点はあげられないけど、90点台に食い込むことは間違いなし。と言っても普段当方は得点制を導入していませんので、比較対象がないんですが。『月姫』なら100点満点──と書いても誉めてる感じにはなりませんし。うーん、強いて書けば、この3年間で「90点以上あげてもいいな」と思えるソフトはFate以外だと3本くらいしか思い当たらない。年に1本のペース。当方の年間消化率は20本前後ですから、3/60、つまり5パーセント。いまいち目安になるのかどうか分からない数字ですね。

 2004年のベストゲームはこれで決まり、と書くと気が早くてアレですけど、このFate以上に当方を面白がらせてくれるソフトが今後出てくるものか、素直に疑問です。んー、ニトロあたりが頑張るかもしれないし、まだ分かりませんね。


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