夢日記2


 古城を見に行くためヨーロッパに渡った当方、ある城(名前からして架空)に入ったところ、なぜか城の一室でトム・クルーズ似の髭面男が酔い潰れていた。異常に酒臭かったが、いざ起きてみると結構まともで、しかも片言ながら日本語ができるらしく意思疎通は可能。聞けば彼、この城の持ち主で、息子をテロリストに誘拐されたのだそうな。身代金の要求は来ているが、当のテロリスト・グループは物凄く悪評高いところで、今まで何人も同じようなことをしては身代金だけ奪って人質を殺している。「あんただって、奴らの遣り口は分かってるだろう」と男に告げる当方。いや、初対面でそれっつーか、何様なんだ自分。

 打ちひしがれるトム・クルーズ似。「くそ、俺にもっと金があれば私兵を雇って奪い返しているのに……!」と呟く。城持ちなのにスッカラカンらしい。挙句の果てには当方にまで金をせびってくる。だが、当方には日本円にして5000円しかなかった。「いや、金は当方にとっても生命線だ。そう易々と貸すことはできない」と突っ撥ねる。5000円の割にはやけに強気で偉そうだ。しかし当方はそれだけの費用で帰国するつもりだったらしい。

 悄然とする男に「だったらこの城を売れよ」と提案する当方だが、髭面男は「そんなことできるか」とだだをこねる。そもそも城を売らなきゃ身代金もどうやって調達する予定だったんだ、トム・クルーズ似。散々話し合った末、遂に男も城を売り払って私兵を募る決心を立てる。かくしてやってきたのはアイン似の少女暗殺者だった。トム・クルーズ似とアイン似が同居するのはなかなか違和感のある光景だが、両者の話し合いは着々と進行する。

 話を聞き終えるや早速用意に取り掛かるアイン。銃でも選ぶのか、と見ていたら、やけに大きな木箱を引き摺ってくる。中を覗けば、何やら得体の知れない軟体じみた内臓色の着ぐるみが詰まっていた。「これが作戦の実行にもっとも適した装備」と主張するアイン似は赤褐色のジェルを流し込み、非常にヌルヌルするそれを着込み始める。頭部がタコっぽかったり、身体に腸と思しき付属物を巻きつけたり、ちょっと『ヴェドゴニア』のクリーチャーに似ていて、当方の見た文字通り悪夢的光景は多くのニトロプレーヤーにとって何となく察しがつくものと考えられるが、どうだろう。

 そして粘液っぽいジェルを垂らしながら街に繰り出す着ぐるみ少女暗殺者。夜のうら寂しい裏通りを歩いていると一般人が向かいからやってきて、暗闇に浮かび上がるぬらぬらした化け物の姿に悲鳴を挙げる。すかさず少女は身体に巻きつけた腸状のアクセサリーを一般人の首に回し、あっという間に絞殺。もはや当方の常識ではこちらが悪役としか思えない展開に差し掛かってきた。

 しかもそのまま人通りの多い街道へ繰り出す。いくらなんでも目立ちすぎ。こいつは本当に暗殺者なのか、と夢の中の当方でさえ疑わしくなる始末。ほとんど「くすくすと歌ってゴーゴー」のノリ。当然の如く民衆は逃げ惑い、収拾がつかなくなるが、突然ビルの屋上から「待った!」と制止の叫びが。見れば複数の日本人男性が固まって、大音響・大画面でゲームのデモを流している。「──これも『あいかぎ』プロモーションの一部っスから」。この言葉にどんな魔力があったのか分からないが、「なんだ、『あいかぎ』か」と急速に混乱が鎮まっていく。おとなしくなった人々の間を委細構わずスタスタ通り抜けるグロい着ぐるみ。示し合わせたような笑顔でニカッと笑う屋上の日本人男性どもに向け、粘液撒き散らしながら手を振る。

 遂に辿り着いたテロリストのアジト。気がつけばいつの間にか元の5倍くらいに巨大化していたグロ着ぐるみがうねうねとナマコのように這いながら侵入し、電光石火の手際で見張りや見回りの下っ端どもを残らず瞬殺。孔濤羅もびっくりだ。異状を察知したテロリストたちはストーブを蹴飛ばして、その下にあった秘密の地下通路へ逃げ込む。ほんの少しの差で間に合わなかった当方たち一行。悔しさのあまりクルーズ似は地団駄を踏む。

 長い長いトンネルを抜け、夜明け頃に地上へ出たテロリスト・グループ。眩しい朝の光が目を射る。「ああ、このまばゆい輝きのために俺たちは戦って──」とセリフの途中で爆散。跡形もなく消し飛ぶ。出口に待ち構えていたアイン似が着ぐるみを脱ぎ捨て、RPGを射出したのだった。まだ幼い顔立ちをしたテロリストたちは「くそ、こんなところで死ねるかっ!」と雄叫びを挙げながら突進。死ねるか、というより真っ直ぐ死にに来てないか?

 クラシック曲がゆったりと悲しげに流れるなかスローモーションが掛かり、RPGからガトリング砲に持ち替えたアイン似の銃撃によって独楽のように舞いつつ泥水へ倒れ伏していく少年テロリストたち。その光景に、心配のあまり当方が漏らした一言。

「おい、今あの中に人質が混じっていなかったか?」

 案の定というか、隣で「ジョン、ジョーン! オーマイガッ!」という悲痛な叫び。昨日はマリみてを見てから眠ったせいか、クルーズ似がロサ・カニーナ似に変貌していた。もはや髭面でも男でもなくなったそいつがショックから立ち直ると、「雪の降る国の城を見に行け」とバスのチケットを手渡す。で、急にシーンが変わり、やたらとでかくて赤いバスに乗り込んだ当方をロサ・カニーナ似はじっと黙って見送る。一緒に乗ったタコの着ぐるみ──グロではなくむしろ可愛らしい──が天井に引っ掛かっていた京極夏彦の『豆腐小僧』の新作を引っぺがし、中をパラパラ読んで失笑。タコ口を尖らせ「こいつは豆腐小僧の恐ろしさを10分の1も理解していない」と嘯いたところで幕。


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