「続・殺戮のジャンゴ−地獄の賞金首−」
   /ニトロプラス


 熱砂を孕んだ乾いた風が吹き、回転草(タンブル・ウィード)流れる荒野を馬に跨り馳せる三人のワイルド・ビッチ――ニトロプラスが満を持して放った新作はスタッフが「シナリオ:虚淵玄、原画:Niθ」というありそうでなかった組み合わせ、内容が「SF的な彩色を施したマカロニ・ウェスタン」というありそうですらなかったキワモノ路線、しかもタイトルが上記の如くふざけた代物であり、渾身のギャグと受け取るべきか否か迷ったファンも少なくなかろうと察するに余りあります。虚淵作品はすべて回避不可能な純然たる虚淵儲の当方でも「トチ狂ってやがる」と思わずにいられなかった。

 で、言うまでもないことですが一応解説しておきますと、タイトルは『続・殺戮のジャンゴ』でも別に『殺戮のジャンゴ』の続編というわけではありません。そもそもそんなものは存在しない。60年代から70年代にかけてイタリアが低予算で制作し「マカロニ・ウェスタン」と呼ばれた一連の西部劇映画を輸入して日本で公開する際、原題とは似ても似つかないテキトーな題名を配給会社が勝手に付けて客寄せした……という文脈に則って命名されています。どれくらいテキトーだったかと申せば、全然関係ない作品に「続」とか「新」とか付けちゃうくらいのいい加減さ。「とりあえずシリーズってことにしときゃ売れるだろう、キャラクターが総入れ替えでも」という最近の大作RPGにも匹敵する根性。本作にはまず『Tre Donne Crudeli』(三人の残酷な女)という架空の原作があって、そいつを翻訳したら『続・殺戮のジャンゴ−地獄の賞金首−』になった――概ねそういった体裁で処理されているネタだということを理解されたし。

 機械知性体「プロトゾアン」との戦争に敗北し、協定によって一切の銀河テクノロジーを使用できなくなったため、文明が衰退の一途を辿って荒廃に傾斜していく「スウィートウォーター」――地表の大部分を砂漠に覆われ、暴力と圧政が支配するこのアウトローな辺境惑星で、天下無敵の阿婆擦れどもが壮絶な三つ巴を繰り広げる! 瞠目級のビッグマグナム「黒い鷹」を手にして暴れ回る女強盗「黒のフランコ」、黙々とフランコを追う金髪の賞金稼ぎ「名前のない女」、銃匠でありながら人狩り(マンハント)にも堪能で「禿鷹」の二つ名を有する女賞金稼ぎ「リリィ・サルバターナ」。銃が渡世の術、暴力が稼業の彼女たちに生温い情など存在しない。「黒のフランコ」の首に懸けられた賞金は50万ドル。鳴り響く銃声と漂う硝煙、罠と裏切りと策謀と爆発と歌声の果て、最後に笑うのはいったい誰なのか……。

 時にはヒロインが処女かどうかを巡って議論が喧嘩にまで発展する、ピュアなんだかなんなんだかよく分からない状況に陥っている昨今のエロゲー界において、ここまで見事に「非処女」一直線の牝犬たちを解き放ってみせるニトロプラスは蛮勇もいいところだなぁ、と感心させられました。いや、処女はちゃんと出てきますよ、冒頭あたりに。思いっきり輪姦されてますけど。フランコはそれを傍観しながら「自分の処女喪失はもっと酷かった」と述懐しますが、もはやトラウマがどうのといった域はとっくに通り越し、毎晩複数の男とまぐわなければフラストレーションが溜まってしまうほどの淫乱姐御と化しております。金髪(ブロンディ)やリリィも、まぁネタバレは避けたいから詳しいことは書かないでおきますけど、到底「清純」からはかけ離れたキャラクターに仕上がっている。おかげで普段エロゲーではお目にかかれない新鮮な箇所がいろいろと晒されて楽しかったです。……うん、女の子はちょっとビッチなくらいが可愛いと思うんだ。いえ、フランコたち三人が「ちょっと」どころじゃないことは重々承知の上で。

 さて、ストーリーはフランコが手下を引き連れて大規模な銀行強盗を企み、それを察知した金髪やリリィが臭跡を追って直近まで忍び寄り、気づいたフランコたちとの間で激しい銃撃戦の火蓋が落とされる……ってな調子で転がっていきます。それはもう二転三転と回転草の如くローリング。場合によってあるキャラとあるキャラは利害が一致して協力関係を結んだり、かと思えば御破算になって敵対関係に陥ったり、とにかく流動的で目まぐるしい。状況に応じて「仲間」だの「相棒」だのと互いに認め合っても完全に安心することは許されません。ちょっとでも隙を見せれば遠慮なく裏切ってくる。自分だけ窮地に踏み込めば易々と見殺しにされる。信頼できない仲間、油断ならない相棒――「努力、友情、勝利」の法則に背を向ける、クライム・ノヴェルさながらのパートナーシップ。合理的で緊張感があり、気が引き締まります。

 シナリオの分量はだいたい文庫本2冊程度といったところでしょうか。のんびりプレーしていてもせいぜい10時間くらいしか掛かりません。シナリオの長大化が顕著となっている最近の風潮と照らし合わせれば短い方だし、これでサントラ付きの初回限定版が9240円、通常版が7140円(両方とも税込)っていうのはちょっと割高でコストパフォーマンスも良いとは言いかねる。選択肢も用意されているものの、一分もしないうちに判定がくだる「即死バッドエンド」であり、実質的には一本道と変わらない。マルチシナリオが当然というより前提な他のエロゲーに慣れているユーザーからしてみれば、むざむざと多様性を捨ててしまったそのスタイルは自殺行為のようにも映り、「何考えてるんだ?」と戸惑いを覚えることでしょう。

 それでいい。いえ、それがいいのです。

 多様性を捨て去ったがために生まれた究極のシンプル、「ひたすらに、単純に、ただ面白い」ことを叶えてみせるのがこのジャンゴなんです。確かに10時間未満のプレータイムってのは通常と比較すれば短い。声ありのエロゲーでシナリオ重視なら普通20時間以上は持つものです。しかし、逆に考えれば、「普通なら20時間以上かかることを半分よりもっと少ないボリュームにまで圧縮し、分岐という要素も省略した」ということでもある。詭弁じみていますけれど、実際やってみると一つ一つのテキストが徹底的に絞り込まれて簡潔・明瞭・鋭利の三拍子を揃えていることに気づかされますし、展開もきっちり練り込まれています。非常にテンポが良く、また多少おちゃらけが混じっても雰囲気を壊さないだけの強靭なリズムが整えられている。巧緻にして狡知。骨格のレベルで知れる美しさ。肉付けも程好い範囲で行なわれているから、読んでいて味気なさを感じることもない。何ら難しいことは書いておらず、めっさベタベタというかお約束だらけで分かりやすいのに、とってもワクワクする。研ぎ澄まされた刃物、磨き込まれた銃器にも通ずる静かな興奮が横たわっています。虚淵儲なれば折れず曲がらずよく切れる、この繊細さに痺れてべろんべろんに酔い痴れることは請け合い。そりゃ出だしはあんまり衝撃的じゃないし、盛り上がってくるまで少し掛かるけど、一度エンジンが駆動すれば後はノンストップで終幕まで付き合わされてしまいます。

 とまあ衝動に飽かしてベタ誉めしてみましたけど、常識で考えればクソゲーにしかなりえない企画をまともに読める傑作に鍛え上げた点においてはたとえ儲でなくとも賞賛していたところであると存じます。虚淵に限らず他のスタッフも頑張っている。物語に集中してもらおうと細かい演出にまで気が配られていて、シナリオボリュームに反する素材の豊富さには驚かされるばかり。「いいのか、こんなにジャンジャカ湯水のように使いまくって……」と、プレーしてるこちらが心配になってくるほど豪華に盛り上げてくれる。陳腐な言い回しだけど、まるで映画を眺めている気分になる。「面白ければいい」、その一念だけが火傷しそうなほど熱く肌に伝わってきます。

 そして今回は虚淵にしてはエロ方面が出血大サービス。実用性という点では「?」が残るにせよ、ストーリーの流れを阻害するどころか華を添えるに充分な位置付けとしておっぱいとお尻と太腿と股間のビッグマグナムが織り成す饗宴を惜しみなく披露してくれます。ヒロインが荒くれどもの真ん中に放置されて「へっへっへっ」と舌なめずりされた次の瞬間にタイミング良く助けが来る、という負の御都合主義は気持ちいいくらい踏みにじられており、どいつもこいつもみんなちゃんと陵辱されちゃっている。なのにあれやこれやで危機を掻い潜って何事もなかったかの如く話の最前線に舞い戻ってくるんだから実にタフ。めげなさ、ふてぶてしさ、復帰して飄々と軽口を飛ばすアンチェインぶりはビッチならではの魅力に溢れています。とりわけ「胡桃割り人形(ナッツクラッカー)」の件が最高。あの禍々しい笑みは夢に見そうです。

 四文字にまとめれば「悪党跋扈」。抑制が効いていて熱すぎず、かと言って温すぎず、決して冷め切ってもない。「ニトロ=銃」の固定イメージに悩まされた時期もあっただろうに、もう迷いは吹っ切ったか、スタッフの「Gun! Gun! Gun!」と猛る雄叫びが聞こえてきそうなほど銃火器への愛が詰まっています。あー、面白かったぁ。最近の小説で言えばジェイムズ・カルロス・ブレイクを彷彿とさせる痛快さだわ。

 斬新さは欠けるし、SF方面のネタが放置気味なところはあるけども、風呂敷を広げすぎてグダグダに堕すこともなく適切な範囲に収めてみせた鮮やかな手つきには喝采したい。今改めて見返してもおバカなタイトルと判じるより他ないんですが、いやいやどうして、なかなか記憶に焼きつく傑作でした。ちなみに当方が好きなキャラはアルフィーと金髪(ブロンディ)と銀行でレイプされていたブルネットの子。あのほのぼのレイプはさりげにツボ。


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