「Dies irae」
   /light


 日記の内容を抜粋。


2007-02-12.

lightの『Dies Irae』、WEB体験版をプレー。

 ちょっとだけのつもりだったけど、気が付いたら最後までやっていた罠。期待に違わぬ面白さでした。

 本作は『PARADISE LOST』の正田崇がシナリオを手掛ける長編ADV。パラロスが出たのは『Fate/stay night』と同時期だったから、実に3年以上も経過してることになります。その間に正田は『Dear My Friend』の一部シナリオを担当したりしていますが、メインを張るのはこれが2回目。パラロスは出だしがぎこちないとか、ラストが尻すぼみとか、いろいろと粗いところもあったけど燃える見所も豊富だっただけに、正田がふたたびピンで書くとなればワクワクしないわけがない。ナチス絡みのネタ(アインザッツグルッペン、ディルレワンガー、アーネンエルベ、レーベンスボルンetc...)を始めとして、フランス革命の時にロベスピエールが使用したという曰くつきの断頭台(ギロチン)が出てきたり、串刺し公(カズィクル・ベイ)と呼ばれているキャラやルサルカ(水妖)という名前のキャラもいたりと、かなり無節操に手を広げていて「これいつの時代の伝奇バイオレンス?」と聞きたくなること請け合い。設定の段階で読み手を辟易させるような歪んだ情熱が至るところに篭もっており、「明らかに中二病、だがそれがいい」と、イタがるのも通り越して快感を覚え始めている人も多数存在する模様です。無論当方もその一人。やるとなったら徹底的にやってくれるのが好ましい。

 さて、設定面ではコテコテの伝奇バイオレンスですが、主人公は普通のエロゲーにでも出てきそうな無気力っぽい学生くん。退屈ながらも予定調和な日常の繰り返しを愛していた彼は親友との大喧嘩をキッカケにしてどんどんと身辺の日常が壊れていって、どうにも歯止めが利かなくなってきた状況に強い不安を感じます。体験版では「平穏な日常オワタ\(^o^)/」な第二章までプレー可能。主人公は無気力ながらそれなりに主体性があって、ぐじぐじ悩むこともなく、やっててイライラさせられる局面がなかったあたりは好印象です。

 腐れ縁の幼馴染み、少しエキセントリックな先輩、その先輩の保護者である巨乳眼鏡のお姉さんに加え、夢に出てくる謎の金髪っ娘、現時点では敵か味方かも分からない連中の「見た目ロリ実年齢ババア」な赤毛や同年代っぽい黒髪少女と、ひとまずヒロイン格の女性キャラも六人ほど登場。このうち攻略できるのは三、四人かな? 今回はパラロスと違って一本道じゃなく、選んだヒロインによってルートの展開が大幅に変わるという情報を小耳に挟みましたが、真偽の程は不明。どうあれ血飛沫が嵐の如く吹き荒れる戦場へと身を投じていくこと自体は一緒みたいですが。死体もゴロゴロ転がりそう。キャラの一人がその気になれば「街を地図から消す」ことも可能らしいので、戦闘がどこまで激化してインフレ起こすかは定かじゃありません。ベルリン陥落の際も「その気」さえあれば赤軍五十万を滅ぼせたとまで豪語するから驚きです。

 真意の掴めない思わせぶりな会話が多くていささか退屈させられる場面があったり、ちょっと大仰すぎないかって表現が頻出して鼻に付いたりするところもありましたが、予想していたよりはおとなしかったので全然問題なし。ただうちのマシンだとムービーのロードに若干時間が掛かるのが難か。数秒固まるのでフリーズしたのかと心配になることしばしば。テキストもだいぶこなれてきた印象があります。日常シーンはごく順当に楽しいし、体験版のシナリオにも一応収録されている戦闘シーンも、まだまだ本領発揮とは行かないもののテンポが良くて引き込まれました。カズィクル・ベイ中尉ことヴィルヘルム・エーレンブルグのヴィルたん(*´Д`)ハァハァ。彼ってば今んところ主人公がどうやっても歯の立たない強さを誇ってるんですが、いずれすぐに「なにィッ、こ、この俺様がァッ!?」と叫ぶようになったり、新しく登場したキャラにサクッとやられて「あのヴィルヘルムが一撃で……!」と言われたりしそうな噛ませ犬臭を濃厚に漂わせているのが愛しくてたまらない。ヒロインではもちろんルサルカに魅了されています。やっぱり人外ロリ最高。

 ところでこの作品、誰が敵で誰が味方なのか……というより、そもそもこれはどういう種類の「戦争」で、何のために、何と戦っているのか、何を敵と見定めるべきなのか、結局何を倒して何を手に入れれば勝利と言えるのか、分かりやすい説明がまだなく、最終目標がぼんやりしていて先の展開を読むことができません。ドキドキハラハラする面もあれば「何が何だか?」と混乱する面もあります。ああ、続きを早くプレーしたい。良い意味で驚愕と衝撃のストーリーを紡いでほしいなー、と願う次第。とりあえずはドラマCDを聴いて体の火照りを冷ましましょう。


2007-12-23.

lightの『Dies irae』、プレー中。現在11章。たぶん香純ルート。

シュピーネ
「これは失礼。ですがレオンハルト、彼は我々全員の花嫁だ。
あまり仲睦まじくされていると、嫉妬してしまいますよ」

 未完成発売疑惑とともに蓮たん総受疑惑を醸している『Dies irae』、このセリフ聞いてヒラヒラのウェディング・ドレスを着せられた練炭が拘束状態のまま「汚い聖遺物だなぁ」「お前初めてか形成は、力抜けよ」「時よ止まれだぁ? てめえが美しいんだよ!」と一斉にアッー!な陵辱を受けて「今宵、ツァラトゥストラの没落により菊座(ゲットー)は破壊された!」となるバッドエンドを想像し青褪めましたが、幸いにもそんなことはなく至って正常に進んでおります。とりあえず形成(笑)は(笑)に羞じぬ活躍ぶりを見せて安心させてくれました。こういう奴がいないと伝奇モノは盛り上がらない。というか、Before Storyで覗かせたヴィルヘルムへの上から目線はいったい何だったんだ。明らかにベイやんよりもダメじゃないかお前。

 体験版1をプレーしたのがだいぶ前だったのでもう一度頭からやり直しましたが、結構覚えているもので「このシーンは見たことがある」「このセリフは聞いたことがある」とバリバリに既知感が発動し、初回プレーの時ほど熱中できなかったせいもあって「同じことの繰り返しに飽き飽きする」という水星さんのボヤキに少し共感してしまった。しかし、3章はついこないだやったばかりだというのに繰り返しプレーを重ねてもなお鳥肌立つような震えが来て、僅かに湧き上がっていた眠気も吹っ飛んだ次第。3章のラストはガチで名シーンだと思うのですよ。色褪せない何かがあそこにあります。

 巷では前述した未完成発売疑惑――「メインのはずなのに攻略できないヒロインがいる」ということから騒ぎが巻き起こっており、作品スレの勢いも凄まじいものがあって正に「怒りの日」と呼ぶに相応しい惨状を呈しています。ディレクター兼ライターの正田崇が今年の8月以降スタッフ日記に書き込んでいないこともあり、そのあたりで逃げ出したんじゃないか、という噂も。今やってる香純ルートのテキストも、気のせいかだんだん正田っぽくなくなっているような……なんかこう、厨臭さや邪気眼色が抜けて単調になってきてるんですよね。共通ルートを過ぎたあたりから展開に強引さが目立ってきているし、それをフォローする説明も苦しく、辻褄が合わなくなりつつある。マリィが空気化したりと、大勢のキャラクターを徐々に捌き切れなくなってきている感じもします。Gユウスケのイラストと与猶啓至の音楽と各声優の演技でどうにか土俵際を凌いでますけど、なんともヤクい雰囲気がビンビン。とにかく、コンプするまでは望みを捨てないことにしますが、もう心は他の本やゲームに移りかけている塩梅。

 ちなみに、取扱説明書には「初回起動時には、製品付属のユーザーIDカード記載の「ID」と「PASSWORD」を入力する必要があります」と書いてあったので、いつ入力するのだろうと思いつつ手元にカードを置いて待ち構えていましたが、どうやら間違いだったみたいで製品版のプレーにIDとパスワードは必要ない模様です。発売日当日に配布された修正パッチといい、あれだけ延期したのに依然として突貫作業の印象が拭えませんね。


2007-12-25.

lightの『Dies irae』、コンプリート。

 この感覚は経験したことがある――たとえばそう、「1が面白かったんだから2も面白いに違いない」と単純な確信に基づいて劇場へ足を運び、どうしようもない続編映画を見てしまったときのあれ。あるいは、掲載誌が変わってからしばらくして作者がゴーストと入れ替わっていた某マンガ。もっと端的に書けばコレジャナイロボ

 一周しただけでCGアルバムや回想モードのほぼ半分が埋まり、スタッフロールの「シナリオ」の項にはずらずらと複数のライター名が並んでいる……香純エンドを迎えた時点で悟りました。ああ、これは本当に無理矢理な形で発売されたソフトなんだな、と。作中「死者を蘇生させることの是非」を問う箇所もありますが、この『Dies irae』自体がまるでフランケンシュタイン博士の怪物みたく継ぎ接ぎ骸に反魂の儀式を施しているかのようで、「死者を復活させようと願ってはいけない!」と主張する登場人物に同調してしまい、なんとも切ない気分を味わいました。

 一年半、いえ、タイトル不明でただ「学園伝奇バトルオペラ」と仄めかされていた頃も含めれば二年半、ずっと期待し続けていたソフトということもあって、可能なかぎり擁護をしようと心を尽くしてみましたが、どうにもうまく行きません。頭が混乱しています。ポリアンナがポルナレフに転生しそうです。確かに、香純ルート後半のシナリオは概ねアレですが、部分的には良いシーンもいくつかあったのですよ。明らかにキャラの性格が変わっているとか、テキストから正田節が消え失せていてライター目当てで買った自分涙目とか、練炭がバカスミ以上に頭悪い子になっていてどれだけ進んでもまったく成長しない(むしろ悪化する)とか、バトル描写は燃えるどころかダラダラと長いだけで「勘弁してください、もういっそ『赫炎のインガノック』みたいに10クリック程度で瞬殺してください」と泣きを入れたくなるとか、暗澹とする要素は大銀河に等しく到底数え切れなかったけど、たまに眠気が覚める場面とてなくもなかった。練炭が覚醒して“創造”の領域に達するシーンとか、重要キャラの散り際とか、ラスボスのテーマミュージックが掛かるところとか、あのへんは割と振るっていた。しかし、前半部分は一行一行舐めるように読んでいた当方が、個別ルートに突入したあたりから『Theガッツ!』をプレーしているかのと錯覚するぐらいクリック連打したことからお察しください、としか……。

 2chでよくやっているネタスレ、「こんな○○はイヤだ!」を地で行くかの如きノリであり、もし仮にlightが渾身のクリスマス・ジョークとして放ったのだとすれば大成功ってところです。これほどまで鮮烈極まりなく失望の威力を叩きつけてきたゲームは、過去10年間を通じて他に知りません。なまじ共通ルートの部分が面白い(悔しいことに、気持ちが冷めた後でも2章や3章をプレーすると心が震える)だけに落差は凶悪です。幹部である三騎士の登場もあってかマリィルートが香純ルートよりも面白かったことは救いでしたが、それでも物足りなさは依然として残る。三騎士の死に様は呆気ないし、蓮は発言を一つ重ねるごとに疎ましさが募るし、敵の総大将ラインハルトが放つ傲慢なセリフもいささか安っぽく、どうにか畳んでいるが全体的に矮小化した感は否めない。エンディングは割合綺麗だったので不満はないけれど、「結局デモムービーに出てきたあのCGはなんだったんだよ……」ってのが幾つかあって釈然としません。鎖で拘束されたマリィは特典冊子によればOP用の描き下ろしらしいんですが、先輩が夕暮れの展望台?から街を見下ろす奴とか、蓮と螢が背中合わせになってる奴とか、司狼とエリーが一緒に銃構えている奴とか、夜の屋上に香純と先輩が佇んでる奴とか、螢が制服姿でヒヒイロカネ振り回している奴(軍服姿は本編にあり)とか……他にもOHPのキャラ紹介で引用されているセリフも使われてないのありますし。あの「女の陰でバトルの解説なんかしてる男は、死んでいいだろ」もドラマCDで喋ったのみ。

 全体のボリュームは20〜30時間くらい。不完全なシナリオを除けば総じてクオリティが高く、また不完全とはいえストーリーもある程度はまとまっており、少なくとも「凡作」の域は越えています。だからこそ未練が断ち切れない。結論としては、ユーザーの期待が肥大化しすぎたゆえに迎えた悲劇ってところでしょうか。スタッフたちが抱いた志も初期段階では稀有壮大だったみたいですけれど、然るべく現実の壁にブチ当たった模様。正田崇が他のライターたちに「今より私の代理として、成すべきことを成し給え――」と嘯く様子さえ容易に想像できますが、あまり笑えません。詳しい事情なんか知りませんが、後から加わった(と推測される)六人のライターたちも大変だったろうとは思います。こんだけややこしくてグチャグチャと設定や小ネタの多い「ザ・俺ワールド」な物語を理解し、それに沿った内容のシナリオを書き上げる労苦は並みならず涙ぐましいものがあったでしょう。しかし、ハッキリ申し上げますと――こんな歌劇(オペラ)じゃ酔えない。CGや音楽を含め素材が悪くないことは確かですし、なるたけ美味しくしようと心を砕いた作り手の努力も認めますが、出来上がったのがワインではなくブドウジュースとあっては痴れることも難しい。ワインを試飲させてジュースを買わせるこの方式が何商法と呼ばれるようになるのか、ぼんやりと眺めておくことにします。

 最後に。酷評したかもしれませんが、実のところ、当方はそんなに怒り狂ってはおりません。最初こそ絶句し、やがて「かは、くはははははは!」とベイじみた変な笑いを漏らしてしまいましたが、今以って胸奥から激怒が込み上げてくることはなく、ただただ斯様な事態に至った『Dies irae』を哀しみ悼む気持ちで一杯です。レスト・イン・ピース。あとルサルカの拷問シーンは結構好き。


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