「Clover Heart's」
   /ALcot


 バカップル……人目構わずイチャイチャとじゃれ合っては周囲の揶揄と憎悪を生み出す二人一組の戦闘単位。互いの精神をはんだ付けし、暇さえあれば抱き合ってキスする濃密なラブラブペア。彼・彼女らが発散する「むず痒さのエキス」を美酒として飲み干せる嗜好の持ち主ならば、この『Clover Heart's』はまさしく天恵。「エッチがラストに一回だけなんてイヤだ」「くっつく前よりも、くっついてから描き出される恋人たちの日常シーンこそ有意義」「もっと羨望と嫉妬をください」「そこだ、そこでえぐりこむようなちゅーをしろ!」といった叫びは残らず拾われ、叶えられる。そんな青春学園恋愛モノです。

 主人公が双子の兄弟でヒロインが双子の姉妹という、昔どこかで見たような設定。マルチサイト構成になっており、最初のシーンで出てくるいくつかの選択肢によって兄か弟か、どちらかの視点で話を始めることになります。『Ricotte』のプロローグと同じ仕様ですが、あまり深く考えなくてもいいです。タイトル画面に戻ったら好きな視点を選び直すことができますから初回はテキトーにやってください。

 南雲白兎と南雲夷月。一卵性双生児のふたりは、とても兄弟仲が悪い。普段は会話もなく、兄の白兎は弟である夷月を腫れ物扱いしていて、夷月は夷月で不甲斐ない兄を軽蔑している。そんな、実の兄弟が他人のように暮らしている屋敷へ父の知人の娘たちがやって来た。日本人とロシア人のハーフである御子柴莉織と御子柴玲亜──兄弟と同じく一卵性双生児の姉妹。大人しい莉織と活発な玲亜はあっという間に南雲邸に溶け込み、少年少女4人(+執事とメイド)の同居生活は波乱の予感を抱きつつも順調に過ぎていった……。

 「知らない女の子(たち)が家に転がり込んでくる」というのはエロゲーにおいて基本的な型の一つであり、「運命的な出会いなんて面倒臭い」とライターの嘯きが聞こえてきそうな気もしたりしなかったり。「一緒の家に住む」って状況はラブコメを紡ぐうえでとても都合がイイ。本作のように学園モノであれば、朝は家、昼は学園、夜はふたたび家と、隙間なくみっしり絡ませることができ、違和感なく親密度を上げることができる。このクローバーハーツ、サブヒロインもふたりほどいるのですが、あくまでメインヒロインは莉織と玲亜の姉妹です。ゲーム期間の数ヶ月は離れる暇もないくらい、ふたりと接触することになります。金髪碧眼ツインテールで性格は真っ二つの双子姉妹に魅力を感じる人にはたまらないでしょう。

 逆に、魅力を感じないと辛い。他に食えるヒロインは両視点あわせてふたりしかおらず、しかも一方は出てくるまでかなり時間が掛かりますので、否応なく姉妹との遣り取りに付き合わなければならない。その、出番の遅いサブヒロインが「駒宮ちまり」。体験版やデモなど、前情報で彼女に魅せられた人はそれなりの覚悟を要します。何せ、出番が遅いせいもあってヒロインの中では一番扱いが軽いですから……ぶっちゃけエロも少ないしイチャイチャ度も低め。「榊円華」の方は登場が早く、エロの回数も多い。ただシナリオの都合上どうしてもイチャつきは薄くならざるを得ず。サブヒロイン狙いはちょっとリスキィ。

 シナリオは白兎と夷月、それぞれで4章構成になっています。つまり、本編をクリアするまで全部で8つの章があるわけです。どちらも前半の1章と2章が長く、後半の3章と4章は短め。比で表すとだいたい2:1です。白兎は1章のラストで早くも玲亜と結ばれ、あとの残り3章はひたすら恋人同士として甘い生活を送ることになる。バカップル節炸裂。朝、ベッドで同衾しているところを発見されて大いに恥ずかしがるなど、「関係を他人に知られる」シチュが盛り沢山。到底コンシューマーには移植できないくらいの下ネタも仕込まれており、艶笑テイストのコメディが好みの御仁は頬が緩みっぱなしとなること必至。もし仮に「クロハがPS2に移植」とかなったら、サブキャラの飛鳥凛は『デモンベイン』のティベリウスばりにアイデンティティのクライシス。

 主人公はふたりいますが、それぞれ食えるヒロインが指定されているので、ひとりの女を巡って奪い合いに発展することはありません。無論、「双子姉妹と3P」とか「2組の双子で乱交」とかいったシチュエーションは望むべくもなく。ごくごくシンプルな関係で話は直線的に進んでいく。

 で、このゲームは4章構成です。前述した通り。その大半が主人公とヒロインのイチャイチャラブラブする日常シーンに割かれていますが、一方でシリアスな展開も重視されています。転がり込んできた少女を「家族」として認識すべきか「異性」として意識すべきか迷うこともあれば、付き合い始めた後で他の子に心が動いてしまったり。見た目も中身も幼いキャラたちが衝突を経て少しずつ成長していく過程は綺麗事と生臭さのブレンドで、ひたすらに「萌え」だけを楽しみたい向きには煩わしいかもしれません。

 バカップル濃度はかなりのモノだし、絵柄に相応しい萌え要素も目一杯装填されている。シリアスと言っても「鬱」ってほどじゃない。しかしこのゲームは「萌エロゲー」より「青春恋愛群像」という垢抜けない言い回しの方がよく似合う。青臭い青春スメルがなんとも香ばしい。良くも悪くも「ガキ」。「若さってヤツは……」と苦笑しながら楽しむもよし、「若いってイイな……」と遠い目をしながら楽しむもよし。友達との真っ直ぐな遣り取りとか、気恥ずかしくも心地良い要素が満載です。

 ただ、「惜しい」と思うことが2点。それは最終章がいまひとつなのと、マルチサイトが「目的」ではなく「手段」に過ぎないこと。

 最終章、特に夷月の方に関しては嫌な予感が的中してしまい、少し脱力しました。体験版をプレーしたときに半ば冗談で「おいおい、まさか○○とか××が出てきたりはしないだろうな」と笑っていましたが、本当に出てきました。さすがに面食らうしか他なく。なぜ「青春恋愛群像」の路線を貫かず、別の方面に色気を出してしまったのか……疑問であり、残念。

 マルチサイト。これはタランティーノやガイ・リッチーの作品みたいに、「複数の視点が絡み合い、交差し、単一視点では不可能な盛り上がりを演出する」のではなく、ただ単に物語を効率的に組み立てる方法として取られています。「兄弟仲の悪い双子が仲の良い双子姉妹と出会い、交流することで変容していき、互いに和解への道のりを歩む」という筋立てを兄弟どちらかの視点だけで描くのは無理があるから、それぞれの視点を用意した──っていう雰囲気が濃厚。例えば「A」という出来事に関して、一方の視点では片面しか見えないが両方の視点をあわせて初めて両面が見えてくるとか、そういう凝ったイベントはありません。そもそも両視点で被るシーンが少なく、夷月視点で語られた共通のイベントが、白兎視点では語られないこともある。とりわけ、榊円華の存在が白兎視点でまったく触れられていないのはかなり違和感を覚えました。『街』とか、そういったザッピングの妙味を期待すると肩透かしですね。

 総じて見れば、バカップルぶりが熱く、絵柄も素晴らしい(若干バラついていてアタリとハズレの差もありましたけど)青春学園恋愛モノ。ラストで頑張り切れなかった点、マルチサイトにザッピング要素を巧く組み込めなかった点が不満ではありますが、メイン・サブ問わずキャラのすべてに魅力を感じた当方としては「買って良かったソフト」です。なんだかんだと書き散らしましたが、結局のところお気に入り。深い意味があって双子という設定になっているわけじゃなく、「フツーの兄弟と姉妹でええやん」とツッコミを入れる余地もありますから、「双子」に特別な思い入れがある人は期待の掛け所を間違えぬよう注意されたし。

 ちなみに当方が気に入ったのは玲亜です。凛や久遠もイイですが、行き着くところは彼女。好む要素はいろいろありますけれど、とにかく声の破壊力がデカすぎ。あんな声で、あんな口調で囁かれ続けちゃ理性が保たない。「白兎」って何度も呼ぶもんだから、当方の名前はすっかり白兎ですよ?

 頬が歪むくらいニヤニヤと堪能させていただきました。ごちそうさま。


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