「CARNIVAL」
   /S.M.L


 日記の内容を抜粋。


2005-07-19.

S.M.Lの『CARNIVAL』、プレー開始。

 『SWAN SONG』の発売も近づいてきたことだし、瀬戸口廉也&川原誠のコンビが手掛けたこっちの方もそろそろ崩し頃かと悟って着手。ストーリーとか前情報は特に仕入れてませんが、どうもサスペンスっぽい雰囲気。文体は、あー、あれです。饒舌。改行ナシでみっちり三、四行表示することなんてザラ。画面が字で埋め尽くされてしまうので、デフォルトのメッセージスピードだと目が追いきれない。仕方なくスピードを一段階下げてちょうど良くなりました。メッセージスピードを上げることはあっても下げることは滅多にない当方としても、さすがにアレは読みにくい。

 んー、まだそんなに進んでいませんのであれこれ語ることもないですが、とりあえず町田康とか佐藤友哉あたりの作品が楽しめる人ならグッと来るだろうなー、とつらつら思わされるノリ。思春期の虚無感がむんむん漂っていたり。さりげない言い回しにも負のセンスが発揮されていて愉快だ。饒舌なれど冗長という印象は受けていません、今のところ。うん、この語り口は好きかも。


2005-07-20.

S.M.Lの『CARNIVAL』、シナリオ1終了。

 まあ、順当な落としどころか。にしてもなんだろう、この切迫している割にほのぼのとした雰囲気。作中で主人公も述懐していることだが、サスペンスのくせしてまことに緊張感がない。人死にが出たり陵辱したりとそれなりに凄惨な要素はあるのに、結構あっさり流しているし。うーん、見た目は殺伐、中身は爽やか。桑島由一が監修したというのも頷けるケイオティックでバッドテイストな味わいでした。

 このエピソード1を単体で見れば「なんでこのキャラ出てきたの?」みたいなトコが多々見受けられる。冗長性ありすぎ。捌き切れなかったネタに関してはシナリオ2以降で回収するのか。さてはて。ともあれ瀬戸口の饒舌な文体は大したものだ。何が本筋だったか見失うくらいの勢いに溢れたテキストの奔流で、どうにも破綻しているとしか思えないストーリーを押し流していく。水洗便所並みの力技。力技すぎてキャラクターに魅力をあまり感じなかったのが難と言えば難。いえ、渡会さんはツボでしたが。喋りといい容姿といい性格といい。こう、強引にえぐりこまれるような感じでググッと来ました。特にあのエンド、オチらしいオチこそなかったものの、幸福とも不幸とも言い切れない空虚な絆が胸に響いてきたり。現時点で一番楽しめたのはアレですね。


2005-07-22.

S.M.Lの『CARNIVAL』、シナリオ2終了。

 ……なるほど、こう来るのか。章タイトル「MONTE-CRISTO」(巌窟王)が表示された時点でゾクッと肌が粟立ちました。やばい、この一瞬で『CARNIVAL』というソフトに惚れてしまったのかもしれない。正直言って1話目は「いいところもあるけれど」な内容でなんとも評価に困りましたが、いやはや俄然面白くなってまいりましたよ、ってな具合に盛り上げつつシナリオ1の空白を埋めて、さあこれから物語はどうなるのか、とシナリオ3へ移行したところ──更に惚れ直しました。

 少しネタバレになりますがこのゲーム、多視点構造になっていてシナリオごとに視点人物が変わる仕組みなんです。シナリオ1ではよく分からないままに逮捕され、成り行きで脱走して逃亡者となった少年が「そもそも自分が捕まった事件は何だったのか」を探ることになります。大まかな謎に関しては一応このシナリオ内で明かされて決着しますが、いくつか不可解な空白が残るので、それを埋めていくように次のシナリオ、そのまた次のシナリオをプレーしていく塩梅。

 今のところ、そんなにサプライズ要素はなく、別視点に移行することで事件に秘められた真相が見えてくるといったことはない。そもそも事件自体が浅いので、掘り下げるものがこれといってありません。事件に至るまでの経緯、少年や少女を取り巻く環境といった「事件の要因」を描くのが主眼であり、事件そのものを解きほぐすミステリ的な楽しみは欠く。真相を暴くというよりもむしろ、補完を重ねることで物語に厚みを与えるという狙いで新しいシナリオが展開していきます。つまり本編はシナリオ1の時点で完結しており、シナリオ2以降はその続きじゃなくて、外伝・番外編・補足に当たるわけです。『CARNIVAL』の本編そのものが、あらかじめ外伝によって補完されることを前提としてつくられている。必要なことを一気に語り尽くそうとせず、語るべきことを分散させることで少しずつ読み手に『CARNIVAL』の世界を馴染ませていく。ケレン味こそないものの構成としては過不足がなく、優れています。

 厚みが増していくおかげでシナリオ1よりもシナリオ2、シナリオ2よりもシナリオ3の方が面白く感じられます。当たり前といえば当たり前。しかし、シナリオが進むごとに作風もアクが抜けてサラリとした読み口になり、素直に楽しめる味わいが深まっていくので、「最初からこの面白さで攻めてくれればなぁ」と思わないでもない。改めて読み返してみると話の取っ掛かりとなるシナリオ1が、なんとも取っ付きにくい。もうちょっと間口を広くしても良かったのでは。

 とまれかくまれ、このライター(瀬戸口廉也)のテキストセンスには首ったけ。ノベライズ版の『CARNIVAL』も近所の書店で発見済ですから、今度寄った際に確保しておこうと思います。


2005-07-25.

S.M.Lの『CARNIVAL』、コンプリート。

 あらら、思ったよりあっさり終わっちゃった。これ、企画としては失敗作なんじゃないかなぁ。凄く面白かったソフトだけど、正直言って「出てくる必要がないんじゃ?」とさえ思えるほど絡め方の弱いキャラがいるし、それなりに筋へ絡んでくるキャラの扱いにしても中途半端な印象を受ける。主人公とメインヒロインの関係を掘り下げ丹念に描いている点は申し分ないにしても、その他のキャラクターの魅力についてはかなりダメっぽい。あくまで物語重視の路線を選んでいるシナリオなんで、極論すれば主人公とメインヒロイン以外のグラフィックやボイスはなくても良かったくらい。

 また、物語重視とは言ってもサスペンスやミステリみたいなサプライズの要素は重視されておらず、俗に「カタルシス」と形容される類の意匠も施されていないから、ガツンとハンマーで殴られるみたいな衝撃も味わえない。冗長性に満ちた世界の中であるべきものがあるべきところへ向かうという納得のいく「流れ」が用意されており、その「流れ」の緩やかで滑らかな肌触りを堪能するのが本作の醍醐味であって、「読んでビックリ」的な面白さとは対角の存在となっています。尖った雰囲気なのは表面だけ。3部構成になっている割に視点が変わるだけで物語の大まかな「流れ」は変わらないものの、読み進めるごとに『CARNIVAL』の世界──登場人物の内面に抱えられている世界観が展開されていき、最初はうまく飲み込むことのできなかったところが次第に咀嚼できるようになる気持ちよさはあります。それにしてもエロゲーをやっていて『永遠の仔』『疾走』を彷彿するとは思わなかったなぁ。テーマが重い。

 どうしても話に謎を求めてしまいがちな当方ですが、視点人物が変わるごとに新しい色が上塗りされていくような感覚が鮮やかで、やっててだんだん謎とかそういうのはどうでも良くなってきました。作劇法の観点すらすれば多視点構造を活かしたシナリオとも言えず、出てくるだけ出てきて大して見せ場のなかったサブヒロインに関しては疑問に思うし、結局小さなスケールでまとまってしまってボリューム不足になっていることも意に染まない。けれど、やり始めた当初はあまり好感の持てなかった主人公と、掴み所が乏しくて魅力を感じなかったヒロインに、ゆっくりとした足取りでしかし確かな手応えを与えていくテキストには惚れた。お互いが惹かれ合っていくことをここまで実感できたエロゲーは稀有かもしれない。グラフィックやサウンドも、適切な雰囲気を醸成する役をキチンと担っている。ボイスは、まあ、少し演技力の不足を嘆かされるトコがありましたが。

 うん、これならノベライズ版の方も確保しておいて正解だったかな。後日談ということで、まだちょっとモヤモヤした気分が残っている当方にはうってつけのようです。発売の迫る『SWAN SONG』にも期待が持ててきました。ただ今度はもっとボリュームがあるといいんですけどね。

 ちなみに──このゲーム、シナリオ3が終わった後にシナリオ1をやり直すと、終盤付近でちょっとした隠しシナリオが明かされる仕組みになっています。量は大したことないですが、ようやくこれで本編が「閉じた」と思える内容なので必見。


2005-07-27.

・瀬戸口廉也の『CARNIVAL』読了。

 『CARNIVAL』のノベライズであり、後日談。本編ではあまり出番のなかった「ある人物」を主人公に据え、事件から7年後の世界を綴っていく。原作を手掛けたシナリオライターがノベライズも担当するというのはままあることですが、それでもノベライズ業界全体で見ると希少種。更に後日談ともなれば正統の「続編」としても読めるわけで、ゲーム本編に惚れた当方としては見逃す手は皆無。

 驚くことに、というか何というか、元のゲームをやっていれば想像はつくことですけど、18禁ゲームのノベライズ作品のくせしてエロ要素はほとんどない。もっと言えば、まともな濡れ場なんて一つもありません。「まともな濡れ場」の定義をするのは面倒なのでしませんが、とりあえず射精シーンがこっそりオナニーしたときだけという本作に当てはまらないのは確かかと。あくまで原作の雰囲気そのまんま、暗いけれど変に爽やかなノリで送る青春文学めいたストーリーがキモとなっている。本編の内容を再検証する形式ですから未プレーの人でもそれなりに楽しめるでしょうけれど、やはりあの終わり方に満足し切れずモヤモヤした気分の残留する原作ファンが読んでナンボの話。主人公は交代しているものの、主要キャラは軒並み出てきますのでいろいろと楽しいです。

 表面的なところでは「ぬきぬき毛沢東」というネタに激しく笑ったりしつつ、どうにも気になっていた「あれからのこと」を目撃し、わだかまっていたモヤモヤ感が晴れていくのを覚えました。「幸せと苦しみ」という、かなり普遍的なテーマをいささか捻りを利かせた変化球で投げつけていますが、最終的にはごく真っ当な青春ストーリーに仕上がっています。良くも悪くも、重たい18禁ゲーの後日談とは思えない清々しい読後感。言い方は陳腐にせよ、まさしく「真のエンディング」といった趣です。尺が短いせいか少し御都合的なところもありましたが、それでも原作に惚れた身としては「読んで良かった」と率直に思える一冊でした。


2005-07-29.

『CARNIVAL』、終わった直後は平穏な余韻が漂いましたが、終わってしばらくしてからジワジワと利いてきました。ふと時間があるときにポツポツ本編をやり直してみたり、小説版を読み返してみたり。時間差で衝撃が染み渡ってくる感じです。コンプ直後は「ボリューム不足」と思ったものの、テーマをブレさせないためにはあれくらいのサイズがちょうど良かったのかも、と思い直す次第。ゲームの方で主人公が最後に放った一文、あの意志が小説版でも貫かれていることにようやく気づきましたし。なんだかこの作品、妙に引きずるなぁ。


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