2013年2月分


2013-02-27.

・同人誌を扱っている中古ショップで『AstralBout(アストラルバウト)』を見かけ、ちょっと高かったけど、「ままよ」と数冊購入した焼津です、こんばんは。

 アストラルバウトとは何か? それは1992年に発売されたスーパーファミコン用異種格闘技ゲームである……というありきたりなボケはさておき、今回話題としているアストラルバウトはエロゲーの原画家・むとうけいじのサークル「STUDIO TRIUMPH」が発行している成人向け同人誌のシリーズです。いわゆる「薄い本」。タイトルを「アストラルバウト」で固定していて、新しい本を出すたびにナンバーが増えていく……って形式。描く内容は巻ごとにまちまちです。初期はラブひなとかをチョイスしていたようですが、昨年末の冬コミで販売された最新刊(Ver.24)は境ホラのオリオトライだったりする。で、なぜ「ままよ」とばかりに購入したのかと申しますと、このアストラルバウトの何冊かには「餓弄伝」という読み物が寄稿されているから、です。作者はシナリオライターY。もったいぶらずに言っちゃえば、山田一=田中ロミオです。収録されている巻はVer.6、7、9、10の4冊。2003年から2005年にかけて発行された分です。時期的には『CROSS†CHANNEL』から『ユメミルクスリ』までのあたり。筆者である「Y」がエロゲーメーカーに入社するまでを描く第1章、現況について雑談形式で語る外伝、入社してマスターアップ前の修羅場に巻き込まれながら『加奈〜いもうと〜』の構想を抱く第2章、『加奈〜いもうと〜』のシナリオ・ライティングに励む第3章、といった構成で、ストーリーとしてはまだ続く予定だったらしいが第4章以降は発表されていません。そのため話はすごく中途半端なところで切れてしまうけれど、自伝的要素が混じったフィクションということで「ロミオファンなら必読」とされている読み物です。当方も名前くらいは聞き及んでいましたが、発行当時は同人誌を買う習慣があまりなかったこと、「連載形式なら最終回を迎えたところで掲載分をまとめた完全版が発行されるかも」と予想していたことから見送ってしまった。しかしロミオが多忙になったのか、赤裸々な内容が物議を醸したのか、続きは書かれることなく7年もの歳月が経過。存在自体を忘却しかけていたものの、「ロミオがみなとそふとで松竜と一緒に新作エロゲーをつくる」との報せが入り、「このコンビ……さてはオクルトゥムか!」と早合点して「いや、どうも違うらしい」と判明するなり勝手にガッカリして落ち込み世を嘆いていた最中、ふと「餓弄伝」のことを思い出して掲載情報を調べるなどした。そして中古ショップでアストラルバウトを見かけ、以下略である。

 タイトルは言うまでもなく夢枕獏の小説『餓狼伝』のパロディです。板垣恵介の漫画版『餓狼伝』を連想する方もおられるでしょうが、あれは結構ストーリーを弄っているから「漫画版しか読んだことない」って人は機会があれば原作にも目を通してみることをオススメします。題名パロをやっている以上、文章もところどころで夢枕文体を模倣していますが、思ったほど徹底的に似せているわけでもなかった。なので夢枕獏を知らない人でも差し支えなく読めるかと。一読して得た感想は、「ロミオに関する逸話の出典はここだったのか」というもので、つまり内容に関しては既にロミオスレ等で聞き及んでいたエピソードがほとんどだった。オカルト系の書籍を渉猟することに耽溺し、百万円以上を投入している、とか。『星空☆ぷらねっと』の企画書が決め手になって入社した、とか。そういう意味ではさして新鮮味のない読み物ではあったけど、聞き及んでいた逸話はあくまで大筋だけであって、詳細が分かるという体験はまた格別な味わいのあるものでした。ロミオファンが長年に渡って実現を待ち望んでいる企画『霊長流離オクルトゥム(仮)』、略称「オクル」はこの「餓弄伝」第一章で触れられている『魔術大戦』という企画と同一なのでは……って噂は既に知っていました。入社前から温めていた企画で、没にされてしまったけど、魂を削って書いたぶん愛着のある企画なのだと。文中では『To Heat』発売からそんなに時間が経ってない頃だと推測されますので、恐らく1997年中。今から16年近くも前ってことになります。当時は伝奇モノの波が来ていなかったせいで没を食らったみたいですが、2005年あたりで一旦オクルの企画が通ったのは、やはり『Fate/stay night』の影響があったからでしょうか。今でこそ大ヒット作のFateですが、発売前は「伝奇活劇ビジュアルノベル」というジャンル名に「今更伝奇って……」という反応がなくもなかった。「伝奇」と称されるジャンルは90年代くらいに衰退を始め、日陰に追いやられていった経緯がありましたので。ちなみに、Fateとほぼ同時期(ほんの2週間前)に発売された『PARADISE LOST』も「伝奇」を謳ったエロゲーでした。

 閑話休題、「Y」がエロゲライターを志したのは、『To Heart』の記録的なヒットで後々語り草となる1997年。「『To Heart』的な企画を」と暗に求められ、屈折した心境に陥る様をドロドロと描いています。『To Heart』は現在に至っても廃れない「学園物エロゲー」のフォーマットを完成させた金字塔ソフトであり、様々なクリエーターたちが自発的に、あるいは上からの要請を受ける形で「『To Heart』的な企画」に挑むこととなりました。今となっては「『魔法少女リリカルなのは』の大元になったエロゲー」と語られることの方が多い『とらいあんぐるハート』(とらハ)シリーズはタイトルからして『To Heart』を意識しているし、未だにカルト的な人気を誇る『さよならを教えて』のスタッフも「『To Heart』的な企画」を求められて『flowers〜ココロノハナ〜』をつくりました。虚淵玄が『To Heart』を目指してシナリオ書いているうちになぜか『吸血殲鬼ヴェドゴニア』が出来上がったりもした。田中ロミオ(山田一)も、かくして『星空☆ぷらねっと』を書くこととなる。歴史にifはありません。でも、もし「『To Heart』的な企画」を求められず、魔術大戦という企画が成就していたならば……と考えずにはいられない。その頃にニトロプラスが存在していたら「やれば?」とゴーサインが出ていたかもしれない。『To Heart』は当方がエロゲー界に足を踏み入れるキッカケとなった作品ですし、思い入れも相応に深いのですけれど、業界へ与えた影響が「呪縛」に等しいレベルであったことを勘案すると複雑な気持ちになります。『To Heart』以前にも『同級生』という学園物の先駆は存在しておりますし、「こちらこそが真の金字塔」と主張する意見にも異を唱えるつもりはない。ただ、「模倣のしやすさ」と「細かいアレンジの余地」に関しては『To Heart』に軍配が上がる。「『同級生』的な企画」を目指したエロゲーもあった、というか「Y」が入社した頃に関わった『キミにSteady』がまさにソレだったわけですが、フォーマットとして広まったのは結局「複数のライターで執筆パートを分担させやすい」『To Heart』方式だったのです。『同級生』と『To Heart』の方法論を比較する試みは割とあちこちで行われているので、興味がある方はいろいろ調べてみてください。知ったかぶってますが、当方は『同級生』やったことありません。

 あとアレですね、興味深かったのは、『加奈〜いもうと〜』の企画の発端が伊藤乃絵美だったと明かしているところ。今は話題に昇ることも少なくなった乃絵美ですが、改めて存在感のすごさを実感しました。当時は「なぜ攻略できないんだ、なぜHシーンがないんだ」と大いに嘆かれていたけど、それでもなお凄まじい人気を保てたことに少しばかり畏怖の念が湧いてくる。エロゲーマーはなぜ「攻略できない実妹」に焦がれ続けるのだろう……かく言う当方も未だ浅生恵理栖に焦がれているわけですが。恵理栖はその後聖堂恵理栖というそっくりさんが攻略できるようになりまして、こっちはこっちで可愛いんだけど、それでも「攻略できない実妹」としての浅生恵理栖がより印象深いんですよね。不思議。それにしてもロミオの文章は目に心地良いな。P天に連載していたコラム「世相を斬らない!」は是非とも書籍化してほしいところだが、分量が足りないかな……いっそ大槻涼樹のコラム「北の国から」と合本する手も。書名は『北の国から世相を斬らない!』で一つ。

 「餓弄伝」何度か読み返しているうちにふと荒川工の『やましいゲームの作り方』を買った日からずっと積んだままにしてること思い出して慌てて発掘作業に従事、無事なんとか掘り出すことに成功しました。たくみん(工は「たくみ」と読む)はむとうけいじと一緒に『クレイジーナックル2』というゲームを作った過去があるので、それ繋がりで連想したこともある。本文を読み出す前に軽い気持ちで帯を外してみるや、泣いた。ヒロインの股間を隠しているパッケージは紛れもなく『Lien〜終わらない君の唄〜』……13年前に発売されたエロゲーであり、当方が荒川工の名を知るキッカケになった一本です。「Lien」は「リアン」と発音するフランス語で、意味は確か「絆」だったかな。ドリームキャスト版も発売されるって話があったけど、結局は移植中止になったみたいです。そういえば『加奈〜いもうと〜』もXbox版が発売中止になってたっけ。懐かしがりながら本文を読み出し、更に泣く。主人公たちの通う先が「桃夭高校」……開発中止になった(継続するとの報はあったが、その後音沙汰がないことから察するに中止したままかと思われる)『はるはろ!』の舞台、「桃夭学園」を想起しない荒川ファンがいるものだろうか。いや、いない。「藤枝」という女教師も出てきて、もう本編どころじゃねぇ。涙腺刺激しすぎですよこれ。

『氷と炎の歌』の表紙絵はどうにかならんのか?(ぶく速)

 あの濃ゆい絵柄に加えてハードカバー刊行時の推薦者は栗本薫でしたから、てっきりソッチ系のファンタジーだと勘違いしてしばらく敬遠していたんですよね。でもちょうどハリーポッターにハマって海外ファンタジーに対する関心が強まっていた時期なので、「ダメモトでいっちょ試してみるか」と読んでみたらドスゴい面白さで失禁しそうになりました。『氷と炎の歌』は洋書版が非常に安い(翻訳版だと文庫本で揃えても13000円くらいするが洋書版なら3000円ちょっと)ので、英語に自信のある方だったらこちらに手を伸ばすのもアリです。比較的平易な英語で綴られているため、かなり読みやすいと評判だったりする。ちなみに『氷と炎の歌』(A Song of Ice and Fire)は当初3部作の予定だったものの構想が膨らみ、「第7部で完結」と予定変更になりました。原書では現在第5部まで刊行されていて、邦訳版も今年第5部がハードカバーで出版される予定です。「ゲーム・オブ・スローンズ」(第1部『七王国の玉座』の原題)というタイトルでドラマ化もされており、日本でもそろそろ人気に火が点く頃じゃないかなぁ、と勝手に期待しています。

西尾維新<伝説>シリーズ 悲惨伝、悲報伝、非業伝がそれぞれ6月9月12月発売予定(ひまねっと)

 『刀語』12ヶ月連続刊行やってた頃のペースを今になって再現するつもりか。相変わらず西尾、筆の勢いが衰えないな。合間に“物語”シリーズを続けることも考えに含めると、つくづく凄まじい執筆ペースではある。だが一方で投げっぱなしにされてる放置企画もいくつかあるんですよね。雑誌掲載した分とか、なかなか本にまとまらなかったりするし……そのへんはのんびり待つしかないか。というか『悲痛伝』もう発売か。依然として『悲鳴伝』は読み始めてすらいない。

【画像あり】パナソニックBDレコーダのカタログにアニメネタwwww(ひまねっと)

 『創生のファスナー』がくだらなくて笑った。フェストゥムが来たら股間のヴァッフェラーデンを起動させるのか。

・拍手レス。

 『君は淫らな僕の女王』は、一般誌の限界に挑戦することかのみかにハラスメントに匹敵せんばかりでしたな。壊れたのではなく、最初から基本設計としてブレーキが存在していないかのごとき大暴走。これがヤングジャンプに読み切りとして掲載されて一般書棚に並んだとしう事実に今さらながら戦慄を禁じ得ない。
 そしてそれが大人気になって即日品薄、速攻で増刷が決まる現実。しかし、岡本倫の紡ぎ出すヒロイン像はどうしてここまでバ可愛い(おバカで可愛い)んだろう。


2013-02-22.

『もえぶたに告ぐ』というタイトルのヒドさに噴き出してしまった焼津です、こんばんは。

 作者名で検索してみるに、どうも新人のデビュー作みたいですね。新人賞に応募した頃のタイトルは『もえさん〜ぶたのえさの香ばしさ〜』、この時点でも結構ヒドいけど、同時期に『せんせいは何故女子中学生にちんちんをぶちこみ続けるのか』という凄まじくヒドいタイトルの受賞作があったせいで存在が霞んでいました。『せんせい〜』の方は『インテリぶる推理少女とハメたいせんせい』と改題されて若干マイルドになったこともあり、逆転してこちらの方が目立ちそうな勢いである。このタイトル、どうしても『血だるま剣法』を連想しちゃいますね。「もえぶたに告ぐ おれはおのれらを皆殺しにしてやるのだ」。あるいは『アドルフに告ぐ』。ストーリーは、幼馴染みの少年に復讐するため敢えて「男の娘」を演じている主人公の前に「萌えの妖精」を名乗る奴が現れて……といったものらしい。書店で見かけたら買ってみようかな。

フロントウイング新作『グリザイアの楽園』、発売延期(03/29→05/24)

 「グリザイアが延期するかもしれないし」というようなこと書いてたらホンマに延期しよった。エロゲーの発売予定はつくづくアテにならない。

【訃報】「Dの食卓」などを発表したゲームクリエーター・飯野賢治さん死去(萌えオタニュース速報)

 ええっ!? あの人、まだ若いのに……信じられない気持ちでいっぱいです。白状しますと、この人が手掛けたゲームはプレーしたことがない(小説は読んだことがある)んですけれど、その特異なキャラクターは方々でネタにされていたため、「イノケン」というニックネームに馴染みを覚えていました。『編集王』にも彼をモデルにした「猪頭賢伍」(略すとまんまイノケン)が出てきたし、彼のパロディである「ワープ番長」というキャラを出したエロゲーもあった(『Rumble 〜バンカラ夜叉姫〜』)。『編集王』を描いた土田世紀も去年に亡くなっており、そのことを考えるとますます寂しい気持ちが湧いてくる。どうか安らかに。

・原作:岡本倫、作画:横槍メンゴの『君は淫らな僕の女王』を読んだ。

 雑誌掲載当時から話題になっていたアレが遂に単行本化しました。同日に岡本倫の『極黒のブリュンヒルデ(4)』と横槍メンゴの『クズの本懐(1)』も発売されており、「極黒の君は淫らなクズ」なる合同フェアも開催されている。ここまでヒドい企画名はそうそうない。さておき、『君は淫らな僕の女王』は読切短編として掲載され、人気を博して連載になった作品です。原作の岡本倫は連載も視野に含め、キッチリ完結させず「シリーズの第1話」と受け取れるような構成にしたらしいが、経緯のせいもあってか、出だしはかなり一発ネタ臭いストーリーとなっています。「完璧なお嬢様」といった風貌のヒロイン、川奈昴。彼女は1日に半時(約1時間)だけ自制心を失って本能のまま行動するようになってしまう……そんな特殊設定のエロコメである。路線としては催眠モノに近いかもしれません。様々な事情から「完璧なお嬢様」を演じないといけないヒロイン、でも1時間だけ身に纏った装甲が剥ぎ取られてケダモノじみた本性を晒してしまう。特殊設定ならではの素晴らしいエロさがバシバシ滲み出る逸品です。ちなみに「『半時』なのになぜ1時間?」かと申しますと、半時とは江戸時代に使われていた時間単位「一刻」の半分、つまり「半刻」の意味で、一刻がだいたい2時間だから割って1時間になるんです。江戸時代は1日24時間を12の刻に分けていた(そしてそれぞれに十二支を振り分けていた、よく言う「丑の刻」もその一つ)けれど、「昼(日の出から日没まで)」と「夜(日没から日の出まで)」をそれぞれ6つの刻に分けて数えていたため、一刻あたりが正確に2時間となるわけではありません。夏と冬とでは日の長さも変わりますから、同じ「丑三つ時」であっても季節によってズレが生じます。当時の時刻を現在の時刻に当てはめようとするといろいろややこしい計算が必要になってくる。

 いや、そんなエロスとは無関係な豆知識などこの際どうでもいい。本書の魅力は何といっても自制心という名の鎖から解き放たれたヒロインの赤裸々すぎる姿。「箍が外れた」程度では伝わらない超疾駆、人倫感覚を置き去りにする大暴走がたまらない。普段は主人公を「気持ち悪い」と罵って距離置いているくせして、本心はベタ惚れ。頬を上気させ「精子入れて欲しいよおぉ… 受精したいよおぉ…」と涙浮かべながらプルプル震えます。これなんてエロゲだよ、最初からクライマックスじゃねぇか。本当にこれがエロゲだったら即ハメ間違いナシですが、さすがにこんな泥酔モドキの状態でヤるのはマズい、と主人公側が自制して本番回避。ヤれるんだけどヤらない、いわゆる「寸止めパターン」を基調にして展開することになります。うん、でも2話目でヒロインが主人公のナニをしゃぶりながらオナニーして「フェラチオナニー」という趣味に目覚める漫画は「寸止めパターン」とは何か違う気がするんだ。「寸止めよりも恐ろしい何か」ですよこれは。本番を回避したせいでより変態的なエロエロしさが増している、この躊躇わない突き抜けっぷりというか吹き抜けっぷりは岡本倫特有のモノです。岡本倫とは即ち虎のことよ。満ち足りることない飢虎のことよ。作画担当が横槍メンゴであるにも関わらず、読めば読むほど「あー、りんりんの漫画だ」と納得せずにはいられない。「うわぁあぁぁぁぁぁぁぁ!!」「うわぁあぁぁぁぁぁぁん!!」「死にたい死にたい死にたい!!」「死にたいよー!!」のテンポとか、完全に岡本倫。紡ぎ出すノリを端的にまとめると、「無礼講」の一語に尽きる。

 ヒロインのキャラクターが加速度的に崩壊していくのも倫の為せる業か。最初は「自制心失ったんだからな……仕方ない」とヒロインの痴態を生温かい目で見ていた読者も、「自制心があるときでも授業中にオナニーしている」ことが判明したあたりで凍えた目つきに変わり始めるでしょう。そして「肩揉みオナニー」の件に至り「普段から自制心なんてないじゃねーか!」と一斉にツッコミが入ること請け合いである。主人公から「オナニーばかりしている」「ティッシュの使用量が半端ない」と評されるヒロインなんてそうそういない。自制心がなくなるシーンの演出も、だんだんエスカレートして「その場でおしっこジョバーッ」とかになります。虎は虎でも掛川の虎かよ。倫としてシグルイ。そんな具合で後半は明らかにやり過ぎと申しますか、ここまでやったらほとんどの読者はドン引きだよ倫ちゃん! 当方も途中から「エロを愉しむ」視点から「ギャグを楽しむ」スタンスに変わりました。「一発ネタ臭いストーリー」として始まった物語を、一発ネタそのものが霞むほどの勢いで高まる倫圧によって蹴散らし爆散させる。ブレーキが壊れているのではない、ブレーキ自体が付いてないんです。倫(みち)を外れてこその倫、コースアウトしてからがレースの始まりだ。今後きっと川奈昴は変態系ヒロインのメルクマール的な存在として語り継がれることになるでしょう。昴よ、永遠なれ。

 「オナニー」という単語がゲシュタルト崩壊を起こしそうなお話ゆえ、読む人によっては「エロだけのバカバカしい作品」と切って捨てることになるかもしれない。しかし、「自制心を喪失することで本心を明かせる」反面で「『自制心の喪失』を理由に拒否される」ジレンマが生じるあたりは、さりげなく切ない。「どうしてあなたがいるのに私オナニーしなくちゃいけないの?」と囁き、涙を流して主人公を求める昴には胸を衝かれた。「こうありたい自分」と「こうでしかない自分」との埋めがたい差分、理想と現実の狭間に横たわる変態性欲。「本当の私」はあまりにも疚しくて見せたくないけれど、「表面を取り繕って周りの期待に応えている私」で接したくもない。そういう割と普遍的な悩みが根底にあったりなかったり。ところでタイトルはハインラインの『月は無慈悲な夜の女王』を意識したものと思われます。なので「女王」つってもSMとか、そういう要素は別にありません。注意されたし。さあ、君も一読しよう。倫は昴を愛している。ゆえに昴を穢す。涙を流して、このイカれの日(ディエス・リン)を称えるがいい。

・拍手レス。

 田中ロミオの新作はオクルトゥムのための布石…………!ブランドクラッシャー田中を警戒するタカヒロの信頼を勝ち取り、外注なりに自由な開発環境を得るためのジャブにすぎない! こかまで妄想して自分の業の深さに戦慄。どんだけ必死なんだ俺
 オクルは……魔術大戦は必ず実る。そう信じることがロミオ儲の生きる道なれば、妄想という薪などいくらでも火に焼べてやりましょうぞ。

 脳男はいい感じに突き抜けてて大変好ましいですね。なにかしら人間性が欠如したキャラクターってなんで面白いんだろう。悪の教典(そういやこれも実写化しましたね)の蓮実とかも見てて大変楽しい
 「人間性の低さ」が却って救いなのかも。人間性が高まれば高まるほど個々の悩みも深くなっていきますし、観る側もモヤモヤさせられる。


2013-02-16.

・なんとなく気が向いて『脳男』を観に行ったところ、熱く静かな興奮に包まれながら劇場を出ることになった焼津です、こんばんは。

 恐らくこの映画を鑑賞したほとんどの人は話の展開よりも「脳男」という特異なキャラクターがどれだけスゴイか、如何に鋭く屹立した個性で観る者を慄かせるかアピールすることになるでしょう。ストーリーそのものは割と単調で平明なんですけれど、とにかく脳男の周囲に放散される不気味な迫力が圧倒的で怯まずにはいられない。卓越した記憶力、研ぎ澄まされた視聴覚、強靭な肉体、まるで図書館が歩いているのではと錯覚するくらいに豊富な知識量、精密機械の如き演算力……そのすべてを備えておきながら、「感情」と呼べるものを何一つ持ち合わせていない。ファジー性に欠き、対処できる物事は具体的な事項に限られる。そんな彼はコンピュータへインストールされたプログラムのように「胸の奥へ刷り込まれた正義感」に則ってただ黙々と悪を狩る怜悧で冷徹な処刑人、「無垢なる殺人鬼」だったのです。言うなればサイコホラー版ロボコップ。生来の無痛症ゆえに負傷を怖れず、悪を憎む気持ちもないために淡々と無表情で為すべきことを為す。ダークヒーロー扱いすることさえ躊躇われる異様な存在感、「反吐を催す悪党よりも更におぞましい撃滅の執行官」ぶりは是非とも劇場の大スクリーンで味わってほしい。最初に映画化すると聞いたときは正直「なんで今更?」と訝ったものの、いやはや、これは実写化して正解でした。生田斗真の人間臭さを排した演技は機械的過ぎてある種の悲しみすら漂わせる。「改造人間」の文脈から眺めてもエキサイティングな作品ですので、特撮好きにも足を運んでほしいところ。期待と想像を上回るインパクトでした。この調子で続編『指し手の顔』も映像化してほしい。ただ、原作で一番気に入ったシーンが削られてしまったことは残念だった。嗚呼、少女爆弾……あとは『ゴーディーサンディー』が映画化される可能性に賭けるしかないのか。

『沙耶の唄 あそBD』特典の肉塊バンダナがエグいwww (萌えオタニュース速報)

 こんな肉々しさを誰が求めた。BD-GAMEというのはアレですね、DVD-PG(DVDプレイヤーズゲーム)のBD版みたいですね。システム的にはDVD-PGよりマシになっているらしい。あと画質も綺麗だったりするのかな。フルカラー48ページのビジュアルブックが付くせいか、お値段はPC版よりも高い5800円(税別)。ちなみにPC版は2003年に出た分が4800円(税別)で、2009年に出た廉価版が2800円(税別)。ダウンロード版が2300円(税別)だそうですから、未プレーの方はビジュアルブックとか特典のポスカやバンダナが要らなければそっちでいいんじゃないでしょうか。しかしあと10ヶ月で沙耶発売から10年だなんて愕然とする。「燃えません!凍えます」なんて謳っていたよなぁ、当時。プレーした当方は「沙耶に妹がいるんだよ、それも双子! 名前は沙遊(さゆ)と沙予(さよ)!」なんてくだらない妄想もしていたらしい。全然記憶に残ってないが日記に書いてある。10年くらい前だと自分の打った文章でもさすがにうろ覚えだ。

みなとそふと新作は企画:タカヒロ×シナリオ:田中ロミオ×原画:松竜の豪華コンビ!(家宝は2次元)

 田中ロミオと松竜の組み合わせで「すわオクルトゥムかッ!?」と目を血走らせた人は手を挙げてください。うん、当方もです。なんだろう、嬉しいニュースのはずなのに込み上げてくるこの割り切れなさは。ロミオのコメントにある「本作は構想何年の超大作」で血圧が上昇した直後「……というほど規模は大きくありませんが」でストンと急降下。さながらフリーフォールのように激しく上下線を描いてからピーッとまっすぐなフラットラインになりました。そうさ、オクルに期待するロミオファンはどいつもこいつもフラットライナーなのさ。楽しみは楽しみだけど、オクルかと早合点してしまったぶん落胆が深く、ヒャッホウ的な気分にはなかなかなれません。詳細が出るまでまだ結構掛かりそうだし、ゆっくりテンション戻していくとしますか。

・3月の文庫新刊情報を眺めていたら浦賀和宏の名前を発見。幻冬者文庫より『彼女の血が溶けていく』。初めて目にするタイトルだから、文庫書き下ろし? 「彼女」が付いているところからして『彼女は存在しない』の関連作かしら。ちなみに作者のツイッターを覗いたらタイトルは『彼女の血が溶けてく』で正式決定したとあるが、実際の表記がどうなのかは書影を確認するまでよく分からない。

・それとlightのHappy light Cafe公開録音で正田崇シナリオ新作の情報がチラッと明かされたみたいですね。内容に関してはそのうちラジオで語る予定なんだろうけど、情報公開が始まったということは、そろそろ発売時期も決まってくるということか。エロゲーは延期が多い業界なのであくまで目安ですが、「具体的な情報公開から半年以内に発売」が一般的。ちなみに神咒は2010年12月にティザーサイトとタイトルが公表され、2011年9月に発売された。だから、今月中にティザーサイトとかが出来たら発売は早くて夏、遅ければ年末くらいになるかも。

・拍手レス。

 かんなぎの作者の病名を聞いたときもどきっとしたなあ。
 怪我や病気に関してはどうしても不測の事態になり気味でドキッとしちゃいますね。


2013-02-13.

・「ファウストとニーチェとさまよえるユダヤ人と輪廻転生とヴァルハラ宮をトピックとして挙げておいて、なんで『Dies irae』に対する言及がないのよ〜!」と『時間ループ物語論』を読んで嘆いた焼津です、こんばんは。

 時間ループ、いわゆる「意識だけ過去に戻って、肉体は当時のまま『かつて体験した出来事』へふたたび直面する」という状況を繰り返し描くタイプのフィクションに焦点を当てた一冊で、ビューティフルドリーマーやエンドレスエイト、ひぐらしやまどか☆マギカといった作品を分析・考察しています。この本自体はとても興味深い。ただ、筆者自身が「美少女アダルトもの、いわゆるエロゲー」に関しては「疎い」と認めていることもあって、そっち方面の掘り下げが手薄なあたりはエロゲーマーからすると大いに物足りないところ。無論、「時間ループはゲーム的想像力の賜物」というわけではないし、ループ・シチュエーションにおける快楽と苦痛を「ゲームジャンルならではの特権」と考えることは誤りでしょうが、やはり「周回プレーを旨とする」ゲームがループ物と効率的に親和することは確かだと思います。あとイスラムの天女「フーリー」(何度セックスをしても処女に戻る)についても言及されますが、これに対応するヒロインはエロゲーにも何名か存在しますね。『かすみ遊戯』の成瀬かすみ(ロボット娼婦で処女膜再生機能が付いている)とか、ヴェドゴニアのモーラ(ダンピール、つまり吸血鬼と人間のハーフで、その体質から破瓜すら「傷」と見做され処女膜が再生してしまう)とか。陵辱ゲーには『処女∞レイプ』なんていうド直球のループ物もあったな……特定の1日を反復する主人公が毎回レイプに走るわけで、「犯すたびに相手は処女」という状況が生まれる。究極的にゲスいコンセプトで、あまりにも明け透けな欲望にもはや「スゴイ」と感心してしまう。風当たりが厳しい今、こういうゲームはだんだん作られなくなっていくのかもしれません。さておき、エロゲーはループ物が多く、当方も「興味はあったけど結局プレーしていないソフト」が山ほどあるので、そこらへんをみっちりと語ってくれたら嬉しいなぁ……と期待していただけに残念でした。とはいえ、直線的・円環的・螺旋的時間感覚を時計や暦、浦島太郎の御伽噺や夏目漱石の作品と絡めて語る内容は非常に面白く、オススメするに足る内容ではあります。時間ループ物語というジャンルについてじっくり考えてみたい方は是非どうぞ。そして『Dies irae』未プレーの人は読み終えた後で『Dies irae』もプレーしよう。ファウストもニーチェもさまよえるユダヤ人も輪廻転生もヴァルハラ宮も全部出てきますよ。いろんなバージョンがあるけど、今からやり出すなら『Amantes amentes』が最適。PSP版PC版、2種類発売されていますゆえ都合の宜しい方をご購入ください。

CUFFS、『Garden』の本編未使用CGを追加公開

 なぜ2度に分けて公開したのか不明であるが、空欄がすべて埋まった(最初は10個あったような気のするCG欄がなぜか9個になっているが)ことを考えるとお蔵入りCG放出祭りもこれで終了か。瑠璃も当然のように尿を放出しています。絵里香との3Pシーンもお披露目となりましたが、あれ? こんなCGだったっけ……当方の脳内では二人とも着衣状態なんですけれども。ああ、そういえば、実物を眺めるのはこれが初めてだった。「雑誌にそういうCGが載っていた」という話を聞いて、「こんな感じかな?」と想像して、そのまま記憶が捏造されてしまった模様である。なにせ間に5年もの月日が流れましたからな……「想像したCG」であることを忘れてしまうくらい、別段おかしくないはず。実は昔読んだ本を読み返しているとき、「確かこの場面に挿絵があったような……ん? ない?」ってなることがしばしばあります。当方は小説を読む際に文字情報を映像へ変換して堪能するタイプなので、しばらく経つとそういう「脳内にでっちあげた映像イメージ」しか残らなかったりする。書き出しとか結びの句とか、ほとんど記憶に留まらない。ひどいと最終回の展開を「なかったこと」にして「自分が望む妄想」に差し替えていることさえ……だから、あと2、30年したら当方の脳内では「『Garden』瑠璃ルートはトノイケダイスケの感動的なシナリオによって無事完結した」ことになっているかもしれない。現段階でも「妊娠した瑠璃が大きなお腹をさすりながら微笑んでいるエンディング」がうっすらと視える。「私ね、赤ちゃんの心を読めるの」 胎児よ胎児よ何故躍る、母親の心がわかっておそろしいのか。

WHITESOFTの新作『運命が君の親を選ぶ 君の友人は君が選ぶ』、発売延期(02/28→03/29)

 ああ、藤木隻単独シナリオのエロゲーという超レア物がジャンプしおった……これで3月はグリザイアとレミニセンスを含めて注目ソフト3本の密集月間になってしまったな、って嘆こうとしたらレミニセンスの方も延期していた。しかもこっちは一気に2ヶ月も飛んで5月末です。てことは、来月は運君とグリザイアの2本ですか。グリザイアが延期したり、運君が再延期かましたりする可能性もあるので、まだ予約は入れないでおこう。最近はエロゲー界とすっかり縁遠くなっていますが、こっそり『恋愛0キロメートル』を開始していたりします。ASa Projectの4本目で、PSPへの移植版も発売されたソフト。マリオ(藤間理緒)の流れを汲むとおぼしき乃希亜がおもろい。当方は断然華派ですが。にしても、アサプロがこうも優秀なエロゲーを制作する日がやってくるとは想像だにしなかったな。『めいくるっ!』から実に6年近い月日が流れていることに気づいて慄然とする。体験版プレーした当時の感想を読んで思い出したが、そういえば『めいくるっ!』も『レミニセンス』同様延期して3月から5月に飛んだソフトだったんですよね。公式サイトではなぜか3月に発売されたことになっていますが……あの頃は『夏めろ』が出た時期か。AcaciaSoftは2008年に活動停止、ライターの木之本みけは2011年に事実上の引退宣言、原画を手掛けていたしろは『ヤマノススメ』が今年アニメ化。諸行無常を感じます。ちょっとしんみりしちゃいましたが、さておきASa Projectも4月に新作を出すみたいだ。タイトルは『ひとつ飛ばし恋愛』、「妹の友達」や「姉の友達」など、「身内の友達」との恋愛に特化した一品とのこと。相変わらずアサプロは何かがズレている、そこが素晴らしい。そして恵理栖は何度見ても可愛くて溜息が出る。

『アイドルマスター』完全新作劇場版アニメ制作決定! (萌えオタニュース速報)

 想定内とはいえ嬉しい。アイマスアニメは観たり観なかったりでそこまで熱心に追ってなかったけど、「ライブシーンは劇場で鑑賞したいな」と思わせる作品でした。近くの映画館でやるかどうかは分からないけど……うっとこは深夜アニメの劇場版をあまり上映しない地域なのでやや厳しいかな。今月公開の禁書劇場版も行ける範囲でやるとこないんですよね。悲しい。しかし、アイマスはこの後でモバマス(『アイドルマスターシンデレラガールズ』の通称、モバゲーで配信されているソーシャルゲーム)のアニメとか劇場版もやるつもりなのだろうか。モバマスは登場するアイドルたちが非常に多彩、というか「あまりにも多彩すぎる」せいでアニメ化は難しかろうと予想されています。なにせ「登場するアイドルは100人以上!」が売り文句だ。好評につきどんどん新キャラが増えて今や「100人というより200人に近い」って状態だそうな。その人数を活かし切るのは大河枠でも無理だろう……いっそXENOGLOSSIAみたいに別世界観で『アイドルマスターシンデレラガールズ ゲーム・オブ・スローンズ』とかやっちまうか。「きらりんの谷間(ヴェイル)をくれてやる!」 誉れのごとく高し。

『咲-Saki-』小林立先生が日帰り取材で負傷し入院して手術して退院(萌えオタニュース速報)

 「入院」「手術」の文字が目に入り思わず体が冷たくなったが、「完治までもうすぐ」とのことでホッとした。連載はもちろん休載、単行本も発売延期になってしまったが、深刻な事態に陥らなかったことを今はただ喜びたい。健康は大事ですな。

・拍手レス。

 ツイッターで美しいと思う小説のタイトルという話題をみかけて、焼津さんなら何を上げるか聞いてみたいと思いました。僕は「星を継ぐ者」や「永遠も半ばを過ぎて」を思い浮かべました。
 思い浮かぶのは『愛は血を流して横たわる』『最も遠い銀河』かな。

 swan song付きのメガストア、Amazonでは即売り切れましたね。自分は廉価版発売時にその値段に憤って買わなかった人間なので、別の通販サイトで確保しました。でも、以前の付録で買ったクロポもまだ未プレイなので、しばらくは積むことになりそうです。
 クロポはうちのPCだと全画面表示にできなくて、テキストが読みにくいからあまり進めてないです。古いソフトはOSやら何やらの相性で動作しないこともある、というのがエロゲーの難点。

 桜ノ杜ぶんこは巫女とクトゥルフに釣られて買った「かんづかさ」の二巻で痛い目にあった思い出が…。作者のくしまちみなとはそこそこの早さで出版してるここ独自の新人なので、勝手に先行きを心配しています。そして3月に三巻の文字が。さすがに買わないかなぁ…
 ここ数年あちこちのレーベルで新人が量産されまくってるせいか、作者名が全然覚えられなくなってきている……検索結果を閉じる頃にはもう忘れている始末。

 エロゲー文化研究概論、紹介ありがとうございます。アトラク・ナクアの解説が気合入りすぎでウケた訳ですが、このライター氏は黒髪ロングスキーに違いない。(妄想)
 初音姉様はエロゲ界を照らす黒い太陽であり、誰が書こうと解説に気合が入ることは至極当然。あと文中では触れられてなかったけど『アトラク=ナクア』も規制の影響で廉価版発売の際に一部の表現をボカすことになったソフトですね。

 諸説あるみたいだけどアダルトビデオも30周年だとか。エロゲもAVも同じ位の歴史があることになるのね。
 そういえば『セックスメディア30年史』って本があったな。『アダルトビデオ革命史』と併せていつか読みたいものだ。


2013-02-03.

・ここ数日間『エロゲー文化研究概論』をじっくりと読み耽っていた焼津です、こんばんは。

 約30年に渡るエロゲーの歴史をザッとまとめた一冊で、お堅い印象の漂う題名なれど、語り口調はざっくばらんで「○○ちゃん可愛い」みたく率直な記述もあり、肩の力を抜いて堪能できる気軽な読み物となっています。黎明期に当たる80年代や、現在老舗と呼ばれているブランドが勃興し始めた90年代前半は「タイトルしか知らない」というソフトが多く、個人的な体験と照らし合わせる要素がなかったため「ふーん」といった具合であったが、90年代後半からポツポツとプレーしたことのあるソフトが出てきて俄然ページを繰る手に熱が入った。2000年代、ニトロプラスやTYPE-MOONが登場するトピック以降はリアルタイムで味わった出来事の数々ゆえ懐かしさが止まらなかった。具体的な作品名を挙げて個別に語るのみならず、関連する事象を並べて「全体の流れ」や「大きな枠組み」を意識させる構成も読む側を飽きさせない。ソフ倫の規制が厳しくなったり緩くなったり、ってのはエロゲーマーたちが肌で感じていた部分で、そのへんも実に細かく押さえている。ただ、30年間に発売されたソフト数は膨大であり、読む人によって「なんでアレがあってコレがないんじゃ!」と不安を垂れたくなる除外品が出てくることはどうしても避けられない。欲を言えばYU-NOに絡んで『蒼色輪廻』へ言及してほしかった(『蒼色輪廻』のシステムはA.D.M.S.に対するオマージュ)し、バルドやソフトキャラハウス等のやり込み系エロゲーにもっと踏み込んでほしかったし、FFDシステム(『白詰草話』『Quartett!』)やノヴェルシアター(project-μ)、『AYAKASHI』や『Fate/hollow ataraxia』、近くはE-mote(『ウィッチズガーデン』)で試みられた「紙芝居から抜け出そうとする」意欲的な演出にも触れてほしかったし、「エロゲー開発」そのものを題材に採った『らくえん』についても分析してほしかった。一番残念なのは『Dies irae』が丸きりスルーされていることか……『Garden』やアイ参にはちょろっと触れているのに。

 しかし先にも述べた通り、エロゲーは狭い業界の割にタイトルの数が半端ではなく、数えたことはないけど5000〜10000くらいあるはずで、それを一冊にまとめることは物理的に不可能です。なので「不満に思う」ことはあっても「評価を下げる」ことには直結しない。ページ数を考えればむしろ、「ちゃんとそこも押さえているのか」と嬉しくなる箇所が多々ありました。『殻の中の小鳥』とか『タナトスの恋』とか『こいびとどうしですることぜんぶ』とか。エロゲー史を書こうとすると、それぞれで見解が異なって、さながら個人史の様相を呈する……という、10年ほど前に交わされた議論をふと思い出しました。偏りが避けられない以上、バランスを保とうと腐心するより、いっそ偏りそのものを楽しんだ方が建設的だと。傑作や名作をひたすら重点的に語っていって「輝かしき路地裏」たるエロゲー史を紡ぐ人もいれば、クソゲーまみれの「修羅の国」としての18禁業界を面白おかしく切り取って語り抜く人もいる。その中間に張られた細いタイトロープを渡ろうとする人もいるだろう。ニア個人史としてのエロゲー史を語ってくれる人が今後続々と現れることを期待します。余談ながら、誤字がチラホラあって気になりました。中んずく『ギャングスタ・パプリカ』には笑った。正しくは『ギャングスタ・リパブリカ』、「悪党どもの共和国」の意だそうな。

 最近エロゲー関連の書籍に食指が動いていて、他に『超エロゲー』『超エロゲー ハードコア』も読んだ。『超エロゲー』は2006年刊行なので黎明期(80年代)から2000年代前半まで、続編に当たる『ハードコア』は2000年代後半を主な範囲としている。チョイスの基準がいまいちハッキリせず、一貫性を感じないうえ「広く浅く」といった取り上げ方でディープな読み物を期待すると肩透かしだが、名作扱いされているソフトだろうと構わず揶揄を交えた筆致で紹介するなど、やや軽薄ながらサクサクと読める口当たりになっています。『School Days』の項はタイトル表記もメーカー名も発売年も間違っているし、なぜかFateの後にデモベが発売されたような構成になっている(2003年にリリースされた『斬魔大聖デモンベイン』の発売年を2005年と誤記している)のがアレだけど、『激しくボテ腹!』なんていう今となっては話題に上がることもないタイトルが出てきたりして懐旧の念を誘う。Acmeか……そんなブランドもあったな。連鎖的に「超空間」を思い出したりした。『ハードコア』は虚淵玄やメイザースぬまきちのロングインタビューも収録されており、読み応え充分です。『超エロゲー』は6年以上も前の発行ゆえ既に絶版しており、だいぶ入手困難となっているものの、電子書籍版もあるから読むだけなら簡単。しかも安い、たったの税込420円。迷わず買いました。無料のサンプルくらいは立ち読みしたことあるけど、電子書籍を購入して読んだのはこれが初めてだ。初電子書籍が『超エロゲー』か……なんだか安さに釣られて早まった気がします。でもしょうがない。だってリンク先のストア、期間限定で「はじめて電子書籍を購入する人に500円相当のポイントプレゼント」ってキャンペーンやってるんですよ。対象が「最初の注文金額の合計が315円(税込)以上の方」ですから『超エロゲー』はガッツリ該当します(ただしポイントを使って315円未満の金額で注文するとキャンペーン対象外になる)。ポイントとはいえ都合80円分のプラス、オトク感を刺激されてしまう。さあ、興味のある方は電子書籍版『超エロゲー』を今すぐ購入しましょう。キャンペーン期間は今月8日まで。と、まるで電子書籍ストアの回し者みたいな口上を述べてしまいましたが、べ、別に「当方以外の方々にも初電子書籍が『超エロゲー』という消せない過去を刻印してやりたい」ってわけじゃないですからね! ビューアをインストールしてログインして購入した電子書籍をダウンロードして……という手順が正直言って面倒臭いし、ビューアアプリもちょっと重いうえ操作性があまり良くないけれど、安さは七難隠す。

CUFFS、『Garden』の本編未使用CGを公開

 恐らく瑠璃シナリオで使われる予定だったCGと思われる。デモムービーに出てくる分もありますね。4枚それぞれに差分が4つあるので、差分含めると一気に20枚公開だ。わぁ、豪華だなぁ……こういう公開の仕方は「本当に終わってしまった感」が半端じゃなくて沈む。瑠璃が可愛すぎて生きているのが辛い。しかし、4枚公開して6つの空欄があるということは、残りも順次公開する予定なんでしょうか? そういえば、「瑠璃と絵里香の3P」を描いたCGが雑誌に掲載されて話題になったことがあったっけ。仕様変更で削除されて完全に「なかったこと」にされたんですけれど、正式に開発凍結されたことで遂に陽の目を見る……か?

メガストア3月号の付録に瀬戸口廉也の名作『SWAN SONG』が収録されるぞ!(家宝は二次元)

 『SWAN SONG』が雑誌付録になるとは予想外だった。解説しましょう。『SWAN SONG』とは、2005年7月にLe.Chocolat(ル・ショコラ)というブランドから発売されたエロゲーです。「meets FlyingShine」と表記されている通り、製作は『CROSS†CHANNEL』で有名なフライングシャインだ。原画・川原誠、シナリオ・瀬戸口廉也。前年に発売されたエロゲー『CARNIVAL』のコンビ再結成です。ちなみに今調べたら『CARNIVAL』も開発はフライングシャインだったらしい。さておき『SWAN SONG』のストーリーは、クリスマス・イヴに大地震が発生し、街全体が壊滅状態に陥るところから始まる。辛うじて生き延びた6人の男女が、他の生存者を探そうと街からの移動を開始するが……災害によって社会が崩壊し、新たなコミュニティを作り出すことで過酷な環境を乗り越えようとするも、コミュニティの内部でどんどん人間関係が軋んでいく。キャッチコピーは「その時、人は絶望に試される」。発売直後はあまり話題にならなかったけれど、数ヵ月後に奈須きのこが個人の日記で「シナリオ、テキスト、グラフィック、音楽。全てにおいて非の打ち所がない、完成されたパッケージング。これだけの調和を保ったものは数える程度しか知らない」と絶賛に近い感想文を寄せたため、急に売れ出していつしかプレミアが付くまでに至りました。2008年に「廉価版」と称して再販されましたが、「9240円(税込)だった値段が6090円(税込)にプライスダウン」という、少々微妙な価格設定で反応に困った。メガストアは定価が1350円(税込)と、雑誌にしてはやや高価ながら、旧作エロゲー丸ごと一本を収録していることを考えればお得であります。それが『SWAN SONG』ならば尚更。これこそ本当の廉価版でしょう。興味があったけどなんとなく手が伸びなかった方、あるいは今初めて存在を知ったという方、この機会に是非どうぞ。

「桜ノ杜ぶんこ」よりPC美少女ゲーム『黄昏のシンセミア』、『るいは智を呼ぶ』ノベル化― 原作ライター&原画家が担当(家宝は二次元)

 桜ノ杜ぶんこか……今のところは「ゲーム原作のノベライズ主体」という印象が強いレーベルですね。でも健速がオリジナルのライトノベルを書いていたりもする。『恋愛0キロメートル』のノベル版が原作よりも後の話を書いていたことを考えると、シンセミアやるい智も後日談か、あるいは話を遡ったプリクエル(前日譚)みたいな調子になるんじゃないしら。少なくとも本編のストーリーそのものをなぞることはない、と期待したい。

デビュー作にもかかわらず、発売されないエロゲ(家宝は二次元)

 「発売されないエロゲー」はそれだけで一冊の本が書けるくらい大量に存在します。『はるはろ!』……『人工失楽園』……『陰と影』……『Aria』……『VANISHING TWIN』……『ドグラQ』……そして何と言っても『霊長流離オクルトゥム』。これらは雑誌やホームページ等で多少なりとも情報公開されたタイトルであり、構想だけの奴とか、本気かジョークかすら分からない奴とか、そこまで含めていったらキリがありません。『緋色梵鐘(あるいは『煉獄のノア』)』、『昆虫デスウィッシュ』、『けれど輝く夜空のような』。『ЗАРЯ(ザーリャ)』も詳しい情報は出てなかったかな、どうだっけ。一方でオデオンやロスチャやライディVのように、「発売は絶望的だ」と諦観されかけていたソフトが急に動き出してあっさりと店頭に並ぶこともある。まことエロゲー界は奇々怪々です。

 この流れでエロゲ板で販売中止になったソフトを語るスレにアクセスしていろいろ読んでいたら、一つ気になるタイトルが。『幻死狩り』――1998年に発売された『堕ちた天使が詩う歌』の続編として予定されていたそうです。川又千秋の『幻詩狩り』を意識しているのかしら?

・拍手レス。

 「さよならを教えて」は本当に懐かしいですね。当初はその狂った内容のせいで売り上げは伸びず、CRAFTWORKはこのゲームを最後に活動停止してしまいましたが、後の時代に再評価されて、プレミアの価格がつくほどの伝説のゲームとなり、2年前にはビジュアルアーツによってBD-PGにて復刻されたりと、凄い伝説を残しているよなぁと感じます。「じつは精神病院オチ」というところは「かってに改蔵」と似ていますが、改蔵の場合は救いのあるラストだったのに対し、「さよならを教えて」は救いも何もない鬱エンドであるというところが、なんとなく対比的だなと思います。
 CRAFTWORKはさよ教の前の『for elise』や『Flowers 〜ココロノハナ〜』から異様な雰囲気を放っていたなぁ……Flowersは割と普通の学園モノだったらしいけど、雑誌で見かけたCGがやけに怖かった。今調べたら『地獄SEEK』の制作にも関わっていたのか。懐かしいけど心温まらないな、CRAFTWORKは。

 ガクトゥーンは取っ付きやすく、嘘屋でここ10年最高の売上を達成したらしいからなぁ>ベストエロゲー2012 まあ不作の年だったってのも間違いなくあるだろうけど。しかし、コメントログにも残ってるけど、嘘屋信者としてはあんまりこういうとこで目立ってほしくないという心理もあるんだよな。嘘屋にはいつまでも今のままの嘘屋でいてほしい。
 ライアーソフトは今までサバイブしてきたことがつくづく不思議なブランドですね。そういえば天野佑一が同人ゲームを作ってるそうな。「神聖童貞騎士団」や「唯一神量産化計画」がどうのこうのと、相変わらずのノリ。


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