2009年3月分


・本
 『されど罪人は竜と踊る5』/浅井ラボ(小学館)
 『俺たちに翼はない〜Prelude〜』/日下皓(角川書店)
 『BLOODLINK〜雪花(上・下)〜』/山下卓(エンターブレイン)
 『鬼の跫音』/道尾秀介(角川書店)
 『天使たちの探偵』/原ォ(早川書房)
 『屋上ミサイル』/山下貴光(宝島社)
 『臨床真理』/柚月裕子(宝島社)
 『毒殺魔の教室』/塔山郁(宝島社)
 『霊眼』/中村啓(宝島社)
 『儚い羊たちの祝宴』/米澤穂信(新潮社)

・ゲーム
 『スズノネセブン!』(Clochette)

・ドラマCD
 『俺たちに翼はないドラマシリーズ 第4章 鳳鳴』(ランティス)
 『俺たちに翼はないドラマシリーズ 第5章 羽田小鳩』(ランティス)


2009-03-29.

『よくわかる現代魔法6』の薄さに戦慄したのも束の間、“護樹騎士団物語”シリーズ最新刊『燃える蹂躙鬼』の厚みなき姿に絶句させられている焼津です、こんばんは。

 おいおい、このページ数(191ページ)で税込900円はさすがにヒドイでしょ……帯に「完結!」って文字が躍っている分、打ち切られたのかと勘繰ってしまったじゃないですか。一応、「第1期『出立篇』が完結」ということで、第2期の『冒険篇』(本文には『幼年学校篇』と書かれている)もちゃんと予定されているらしいですし、胸を撫で下ろすことは撫で下ろしましたが……分厚い本スキーにとっては複雑な気分だわ。ネタバレになりますが、肝心の「蹂躙鬼(エノルムベート)」だって最後の1ページにチラッと出てきただけやん。

・米澤穂信の『儚い羊たちの祝宴』読了。

 雑誌掲載作4つと書き下ろし1つ、計5編を収録した連作集です。毎回必ず「バベルの会」という読書サークルが出てきますが、だからって別に『青年のための読書クラブ』みたいな話になるわけじゃなく、本当にただ「出てくる」というだけで各エピソードはほぼ独立した内容になっています。ラストの「儚い羊たちの祝宴」は各編で撒いた伏線を地味に拾っているため、これだけは最後に回した方が宜しいでしょうが、それ以外はどういう順番で読んでも構いません。5編とも謎解きよりオチにこだわった内容となっており、「ミステリ」や「サスペンス」というよりも「奇妙な味」の呼び名が似つかわしい。何とも形容しがたい読後感が特徴です。

 収録されているのは、先にも述べた通り5編。正確な時期はよく分かりませんが全体的に古めかしい雰囲気が漂っていて、少なくとも「平成」じゃなく「昭和」であることは間違いないと思います。一編目の「身内に不幸がありまして」は文中に横溝正史の金田一耕助作品が出てくるところからして戦後であることは間違いないだろうけど、ハッキリしたことは言えません。事件や謎が発生する編もあれば、事件らしい事件が起こらず謎らしい謎も提示されない編もあり、まちまち。読者を驚かせるような仕掛けもいくつか施されていますが、仕掛け自体はそんなに滅茶苦茶ビックリするほどでもないというか、むしろ驚きが過ぎ去ってから中身を反芻し、じっくりと噛み締めることによって「奇妙な味」が込み上げてくる寸法となっています。単純にオチだけで語るなら、いくつかの編は事前に見抜ける。見抜けるがしかし、看破してなお心に忍び寄ってくる得体の知れない不気味さが潜んでいます。サプライズなど前菜に過ぎず、驚きを平らげた後に見えてくるものこそがメインディッシュなのです。

 各編の感想も軽く付しておきます。一編目、「身内に不幸がありまして」。お嬢様を物凄い勢いで慕っている使用人の少女が書いた手記、という形で幕上げして彼女の「不安」について綴る。事件が起こり、謎もあり、比較的ミステリとしての体裁を保っているエピソードです。開幕の初弾としてはなかなかの仕上がりで、鮮やかなインパクトを与える。二編目、「北の館の罪人」。妾腹の娘として厄介者扱いされる覚悟で赴いた屋敷には、先客たる厄介者が既にいた……という、やや珍妙なシチュエーション。「先客」が主人公に告げる「不思議な注文」、その数々が強いて言えば「謎」か。淡々とした筆致で特に大きな波も立てず進行するが、最後の一行できっちりオチをつけることは忘れていない。三編目、「山荘秘聞」。別荘の管理人として雇われたまでは良かったが、いつまで経っても雇い主は現れない――戸惑いながらも山荘の管理だけは怠りなく続けている主人公、彼女はある日、外で思わぬ「客人」を見つけて……断言して構いませんが、このオチはまず読めない。「んなわけあるか」と思う人は是非ともチャレンジしてみてください。四編目、「玉野五十鈴の誉れ」。これは『Story Seller』で読んだ分でしたが、もう一度改めて目を通しました。使用人の少女を物凄い勢いで慕っているお嬢様の回想、という、ちょうど「身内に不幸がありまして」の裏返しみたいな話です。二度目だと細かい伏線に気づけて楽しいというかゾッとするというか。でも肝心な場面で「ジーヴス」って単語が出てくるものだから「よしきた、ホー」と叫ぶ間抜けなお嬢様を想像してしまった。「弱い」と自認するお嬢様ですが、さすがにバートラム・ウースター級のたわけではないです。ちなみにタイトルはチェスタトンのブラウン神父シリーズ、「イズレイル・ガウの誉れ」が元ネタです。そのままに取れば「愚直」の意味ですが、真意は果たして。五編目にしてラスト、「儚い羊たちの晩餐」は書き下ろしです。「バベルの会」から除名されたお嬢様が残した日記、という形式で綴られる「バベルの会」崩壊の顛末。もっとも「奇妙な味」らしいテイストを有した一作です。というか「奇妙な味」好きの読者なら呻くこと間違いなし。なんとも徹底しています。

 というわけで、語り口こそ柔らかいものの全体的に後味が良いとは言い難く、読んだ人の嗜好に応じてアリかナシか、意見が真っ二つに割れそうな一冊です。帯には「暗黒連作ミステリ」という文句が踊っていますが、やはりここは「奇妙な味」と謳っておきたい。あくまで古典部シリーズや小市民シリーズのノリが好きな人にはアウトかもしれませんが、これもまた米澤穂信の持ち味であり、今後も同路線の作品が刊行されるはず。楽しみだ。ちなみに一番好きな収録作はやっぱり「玉野五十鈴の誉れ」。次が「儚い羊たちの晩餐」ですね。

・拍手レス。

 「スター・ウォーズ画集」に我らが西又御大が日本代表で描くとのこと。>スター・ウォーズの監督であるジョージ・ルーカス監督にも恐れ多くもイラストを見ていただき 吹いた
 すげえじゃん西又、ジェダイ西又じゃん。


2009-03-26.

5巻から約4年ぶり、待ちに待って刊行された『よくわかる現代魔法』の6巻が不吉なほど薄いことを知った瞬間、背筋を冷たい汗が駆け下りていった焼津です、こんばんは。またしてもワンコイン文庫かっ……!

 いえ、目次を見るかぎり変な水増しコーナーはないし、もともとこのシリーズは200ページちょいの短めエピソードが多いので、そんなに大騒ぎすることのほどでもない……はずです、たぶん。4年も待ってこの薄さかよ、みたいなガッカリ感はあるにせよ、ひとまずシリーズが再開したことを素直に喜びたい。内容が面白いことを期待したい。迅速なる続刊を望みたい。弓子のおっぱい超でかい。

第7回『このミステリー』がすごい!大賞の受賞作4冊を全部読み終えたのでザッと感想を述べてみます。

 山下貴光の『屋上ミサイル』。「大賞」受賞作です。

 轟然と屋上が割れてミイサルサイロが露出し、噴煙とともにICBMが発射される――みたいなイメージを喚起させるものの、内容はオフビート系の青春ミステリです。厳密に書けば『屋上とミサイル』が正しい。テロリストのグループがアメリカ大統領を拉致したうえで軍事基地を占拠し、いつでも全世界に向けてミサイルを射出できるようになった……という未曾有の危機的状況を背景に、それとは関係なく高校生たちが身近な事件に挑む様子を描いています。屋上に集まったから「屋上部」。投げやりなネーミングのもとで主人公たちは都市伝説の真偽を確かめたり、ストーカーを撃退したり、殺し屋と攻防を繰り広げたりと、多岐に渡る活動を行う。選考委員が口を揃えて「伊坂幸太郎」と言い出すくらいで、なるほど、次々と事件が発生するくせにどこか緊迫感を欠いていて読めば読むほど脱力させられる筆致は伊坂そのものだ。さすがに似過ぎじゃないか、という気もするにせよ、逆に考えれば「伊坂幸太郎の作風が好みなら楽しめる」ってことであり、実際伊坂好きの当方もそこそこ楽しめた。奇人変人の登場が相次ぐせいもあって出だしがややとっつきづらく、100ページくらいから徐々に勢いが出てきます。前半で大量に伏線を撒いて後半で一気に回収する、というスタイルを取っており、ネタの使い方と繋げ方は巧くて感心させられる。反面、偶然が連鎖しすぎで御都合と感じる場面も多く、巻末の講評でもそのへんを重点的に叩かれている。会話のテンポが独特(セリフが頻繁に本文の中へ紛れ込むため、誰が何を喋ったか把握しづらい)で、慣れなきゃイラッと来ますが、慣れればこの惚けた味わいが心地良く思える次第。少しばかり盛り上がりの欠けるクライマックスが残念でしたけど、伊坂とか、あるいはライトノベルだと成田良悟みたいなノリを「話繋がりすぎだろ、10連コンボかよ」とツッコまずに楽しめる方にはオススメしておきたい。癖はあるけど読み口爽やかで読後感も良いです。

 柚月裕子の『臨床真理』。上と同じく「大賞」作品。

 弟の死が原因で臨床心理士を目指すことになった主人公が、心を閉ざした少年のカウンセリングを行う。最初は頑なに会話を拒否し、主人公の語りかける言葉一切を無視していた少年だったが、やがて「自分は人の声から正確に感情を読み取ることができる」と告白して……。「共感覚」をモチーフにして紡ぐサイコサスペンスです。音声を色付きで認識し、その色から「嘘をついている」などと看破する能力(というより体質)を持った少年が「同じ施設に入居していた少女の不審死をちゃんと調べてほしい」と主人公に訴え、彼の言葉を信じた主人公が捜査に乗り出す。非常に文章がこなれており、今回読んだ4冊の中で一番読みやすかった。単純に小説家としての基礎体力を問うならば、随一と言えるかもしれない。しかし、肝心の内容は「安っぽい」の一語に尽きます。半分くらい読んだところで「あー、つまりそういう話か」と大まかな構図が読めてしまう。迎えるクライマックスも意外性が乏しく、衝撃とは無縁。犯人が勝手にベラベラ喋って得意げに真相を明かすあたり、すごく萎えます。いまどき「冥土の土産」はないでしょう。「声から感情を読み取る」という要素自体はしっかり描けていたのに、使い方がごくありきたりで、上手く物語に組み込めていなかったのも残念です。作者が有するポテンシャルの高さで言ったら「大賞」も頷ける話ながら、作品の出来で言えばあまり評価できない。うーん、実に惜しい。次回作での挽回を希望したい。

 塔山郁の『毒殺魔の教室』。これは「優秀賞」受賞作です。

 30年前に発生した小学生毒殺事件――給食の時間中に児童が死亡するというショックな出来事の「真相」を、関係者の証言を積み重ねることで紐解いていく。「30年も前なのにみんな記憶良すぎだろ」というツッコミはさて措くとして、なかなか魅惑的で美味しい構成をしたサスペンスです。先例のある形式ということで選考委員の評価は振るいませんでしたが、個人的な感想で申せば今回もっとも面白かったかもしれません。一応、事件の大まかな経緯というか、「どういう具合に決着したのか」については早くも一人目の証言でだいたい明かされるのですけれど、二人目、三人目と増えるにつれて異なる角度の見方や細かい謎が湧き出してくるって寸法であり、限定的なシチュエーション下でネチネチと推論をこね回す偏執的な興味を堪能することができる。『毒入りチョコレート事件』みたいな、ああいうちょっとフェチの入ったマルチプル・ストーリーが好物の人間にはたまりませんね。試行錯誤を繰り返し、ゆっくりと炙り出すように全体像を浮かび上がらせていく過程がもどかしくも楽しい。毒チョコ同様タイトルがダサい(おまけに表紙の装丁もちょっと……)せいでいまひとつ注目を浴びにくいかもしれないが、このままスルーされてしまうには惜しい出来だから是非とも推しておきたい。物凄く面白いってほどではなくて、もうちょい何か突き抜けるものが欲しかったところにせよ、素直にこの作者の次回作を読んでみたいと思いました。

 中村啓の『霊眼』。これも「優秀賞」。ちなみに、このミス大賞では同ランクの受賞作が複数出ると賞金は頭数で山分けされるシステムとなっており、今年は4つも受賞作が出た割に支払われる賞金額自体は例年通りとなる模様です。微妙にセコい。

 タイトルが「れいがん」なので咄嗟に『幽☆遊☆白書』を連想したが、それはともかく本作品、冒頭がかなりエグい。グロ耐性があるはずの当方も正直「うへえ」となった。残虐無惨系統が苦手な読者ならば数ページでギブアップすることは間違いなしであり、あらかじめ注意しておきます。ただ勘違いのないように補足しておきますと、極端にキツいのは冒頭のみで、以降の本編は特にグロ描写とか出てきません。あくまで「掴み」としてのスプラッタであり、作品の路線そのものはグロとかバイオレンスじゃない。霊眼、それは第三の眼――夫の死を皮切りに次々と不幸に襲われる主人公。失踪した友人を捜索するうち、彼女は「前世」や「霊視」の世界に巻き込まれていく……要するにホラーです。オカルトとかスピリチュアルとか、そういうのはどうしても受け付けない、って人にはグロと違う意味でキツいかもしれない。あちこちで話運びに強引な箇所が目立ち、ところどころ「ああ、こっちの流れに持っていきたかったんだな」と作者の思惑が透けて見えてしまうものの、読者をラストまで引っ張る勢いや、「無理があるけど、まあ、いいか」と思わず意見を引っ込めさせる異様な迫力が備わっています。前世云々のエピソードが蛇足に感じられるが、全体的にハッタリの利かせ方が巧いせいもあり、文句を言う前に終わってしまう。妙に印象に残る一作でした。

 一番気に入ったのは『毒殺魔の教室』で、次点が『屋上ミサイル』かな。『臨床真理』と『霊眼』はやや評価しかねる部分もあるが、作者に関しては「次回作で化けるかも」という期待を捨て切れない。というわけで第7回は大アタリがない代わり、大ハズレもない、まずまずの結果となりました。このミス大賞、歴史が浅い割には結構イイ新人出してきてるんで、来年も引き続き注目していきたい。あと、ハードカバーにしては価格設定が若干安い(すべて税込1470円)というのも地味に嬉しい。


2009-03-23.

・最近は万城目学の『プリンセス・トヨトミ』を読んだ焼津です、こんばんは。

 気が抜けること夥しいタイトルと申しますか、知らない作者の本だったらまず買っていなかった。500ページと結構なボリュームがあり、面白いことは面白かったが、本格的に盛り上がるのは300ページくらいからで山場に差し掛かるまでが長く、万城目学の作風に馴染んでいない読者には少しオススメしづらい、かも。正直に言って「期待した割には……」な部分がないでもない。やっぱあれですね、推すとしたら文庫化したおかげで安価で入手することが可能になった『鴨川ホルモー』、こっちの方を差し出したい。ドラマで有名になった『鹿男あをによし』はもうちょっと待てば文庫化すると思いますので、今更急いで買いに走る必要はないでしょう。

軟水厨 VS 硬水厨(アルファルファモザイク)

 硬水だ軟水だと聞くたびロアルド・ダールの「猛犬に注意」を思い出す人は当方以外にもいるはず。いたらいいな。

Ricottaの新作『ワルキューレ ロマンツェ[少女騎士物語]』

 なんと、エロゲーで馬上槍試合とな。対向線上の相手とすれ違う一瞬に槍を突き出して争う、割と荒っぽい中世の競技です。『宇宙のステルヴィア』でもこれを元にした「ライトニング・ジョースト」という模擬訓練がありましたね。ソフトの出来がどうなるかはまだまだ分かりませんが、とりあえずプレーした人が『ロック・ユー!』を観たくなるような内容に仕上がることを期待。

めろめろキュ〜トの『吸血奇譚ドラクリウス』、コンプリート。

 去年にコンプ目前ってところでHDDごとデータが吹っ飛び、長らくやる気をなくしていましたが、唐突に一念発起して今更クリア致しました。女顔で体も細く、一見するとなよやかだけどキレると容赦ないハーフヴァンパイアの少年・荻島潤を主人公にした伝奇バイオレンス系のエロゲーです。「ムーンタイズ」と呼ばれる特殊能力を駆使して戦う(ちょっとJOJOテイスト入った頭脳戦もあり)少年マンガやライトノベルみたいなバトルが多く、吸血シーン自体はそんなにないです。「体液ならOK」という解釈でSEXに挿げ替えられているくらいです。エロゲーではよくあること。対吸血鬼組織でありながら何か怪しげな陰謀を巡らせている「ダイラス・リーン」が主な敵で、少数精鋭グループ VS. 秘密組織という構図はやや古臭いか。

 ヒロインは5人ほど登場しますが、攻略ルートはたった2つしかなく、未完成と騒ぐほどじゃないにしろ少し物足りないです。特にサブルートに当たる「リアンルート」はメインライターの藤崎竜太ではなく別のライターが書いていることもあり、本編とノリが違っていていまひとつ楽しめなかった。そもそも短いし。トゥルールートの方はさすがに力が入っていて面白かったです。「結末が中途半端」という話はあらかじめ聞いていたので、尻すぼみなラストを迎えてもそんなにガッカリしなかったと申しますか、むしろ想像していたよりはずっとマシだった。ただ、まあ、ボス戦がそれまでの刺客戦よりも燃えない代物になっていたのは残念でしたが……ボス弱すぎだよボス。

 ルート数の少なさや全体的な作りの安っぽさ、システムの微妙な使い辛さも相俟って「傑作」と呼ぶには躊躇う出来であるものの、このソフトならではって魅力が随所に仕込まれていたこともあり、あえて結論を述べるなら「絶賛はできないけど、プレーして良かったと思える一本」です。移植版は追加シナリオが多いらしいので、機会があればそっちもやってみたい。余談。終盤は敵の本拠を主人公たちが襲撃する展開なんですが、シナリオや演出からして主人公側の方がバッドなサイドに見えてしまうのが愉快でした。特にベルチェが「死霊の手」を繰り出して一般兵どもを殺戮するシーンと来たら……あそこはこのゲームで一番怖かった場面ですね。

・新人SF作家の伊藤計劃が亡くなったという話を聞き及んで非常にショックを受けました。まだ30代で若いというのに……合掌。

・拍手レス。

 ワンコイン、あたいテトリスなら誰にも負けないわ
 焦ってブロックの回転を間違える手際にかけては誰にも引けを取りません。


2009-03-20.

・遅れ馳せながら『とらドラ10!』を読み終えた焼津です、こんばんは。1巻の刊行からちょうど3年、当時書いた感想を懐かしく読み直したりしました。3年か……改めて考えると信じがたいものがありますな。そんなに長くこのシリーズを味わい続けていたのか、と。

 「主人公とヒロインが最初から好き合うわけではなく、それぞれ別々の想い人を持っていて、互いに恋の支援を送ることになる」というラブコメにしてはやや珍しい設定といささか凶暴すぎるヒロインが特徴の『とらドラ!』、完結までは紆余曲折があったと申しますか非常に目まぐるしい恋愛模様が描かれたわけですけれど、最終巻たる10巻はそれを一気にまとめに掛かる。9巻の終わりが終わりだけにどうなるか心配でしたが、意外とそんなに波乱を迎えることもなく、順当に物事が収まっていった。完結編にしてはちょいと地味かもしれませんけれど、変な方向に逸れず、真摯にキレイに締め括ってくれているから読後感はバッチリ良いです。というか細かい両想い描写にニヤけてしまう。そうそう、これこそが『わたしたちの田村くん』の作者、タラスパ宮ゆゆぽ竹宮ゆゆこの本領発揮というものだ。とらドラはイチャラブ描写が少ないことが不満だったけど、それがようやく解消された感じ。にしても、あーみんは不遇オーラ全開で泣けた。そして実乃梨は今回影が薄かった。本編はこれで完結ながら、スピンオフはまだ続くみたいなので、もう少し付き合うとしましょうか。新シリーズの開始も楽しみであります。

とある科学の超電磁砲、アニメ化(アルファルファモザイク)

 スピンオフ作品としては出来がイイ方なので納得と言えば納得。白井黒子が主役を務めた8巻からもストーリーの流用とかあるんだろうか。

お前らワンコインでクリアできたアーケードゲームってあるの?「GF団」経由)

 思い出せるかぎり、ワンコインクリアしたアーケードゲームは『ヴァンパイアハンター』と『MELTY BLOOD Actress Again』くらい。特にメルブラは設定されている難易度が低いのか、何も考えずテキトーにやってるだけでクリアできますね。蒼崎青子でラスボスに「ブレイジング・スターマイン」とかいうパワーゲイザーみたいな必殺技をEXでブチ込んだら、体力ゲージが一気に7割くらい消失して噴いた。あとは『BLAZBLUE』とかいう格ゲー、何度かラスボスまでは行ったんだけど、あと一歩というところで倒せなかった。それにしてもこのブレイブルー、ノエル・ヴァーミリオンというキャラがリカ・ペンブルトンに見えて仕方がない。

・原ォの『天使たちの探偵』読了。

 現時点で著者唯一の短編集(『ハードボイルド』は短編の他にエッセイや対談も収録されていて雑多なため、「短編集」とは言いがたい)。原ォと言えば沢崎、沢崎と言えば原ォ。本書もご多分に洩れず、“探偵・沢崎”シリーズに属しています。“探偵・沢崎”シリーズは著者のデビュー作でもある『そして夜は甦る』や、直木賞受賞作の『私が殺した少女』、「畢生の大作」と謳われた『さらば長き眠り』、10年近いブランクを経て刊行された復帰作『愚か者死すべし』、要するに長編作品ばかりが有名で、「唯一」という肩書きを負っている短編集にも関わらず、本書はいまひとつ存在感が薄い。一応、これも日本冒険小説協会大賞の「最優秀短編賞」は受賞しているんですけれど、そもそも日本冒険小説協会自体が日本推理作家協会に比べて知名度低いからなぁ……。

 収録されている短編は5つ。「少年の見た男」「子供を失った男」「二四○号室の男」「イニシアル“M”の男」「歩道橋の男」「選ばれる男」と、すべてタイトルが「〜男」で統一されています。結論から先に述べますと、沢崎シリーズって長編よりも短編の方が面白いんじゃね? という感触を得ました。もちろん長編も長編で面白いことは確かなんですが、分量が多いせいもあって途中でダレる場面が出てくるんですよ。そこに来ると短編はスッキリとシャープにまとまっていて、ダレる前にサッと終わる。短いからと言って手抜きもなく、冒頭の時点で読者を引き込む仕掛けが施されており、おまけにプロットも凝っていて、まるで飽きさせない。巻末のボーナストラックを含めても330ページ程度で、決して多いとは言えないボリュームなのに、しっかりした満足感とともに本を閉じることができました。

 主人公の名前は沢崎(下は不明)だってのに、仕事場は「渡辺探偵事務所」。おかげで行く先々で「渡辺さん」と間違われることが恒例イベントになっている、そんな締まらない雰囲気の中で淡々と物語は進行していきます。一編目の「少年の見た男」はまだ10歳そこらの少年に「ある人物の護衛」を依頼されるエピソードで、「十二才未満の子供あてに発行した探偵料の請求書は、正当なものと見なされるだろうか……」という不安を抱きつつも捨て置けず、状況を調べるうちに事件に巻き込まれる。出だしはまだ「オーソドックス」と呼べる範囲ながら、以降の展開はサプライズの連続。それでも最後は綺麗にしんみりとしたムードで畳むんだから、ついつい作者の腕に惚れてしまう。つづく「子供を失った男」は、幼い娘を交通事故(轢き逃げ)で喪った韓国人指揮者が、その娘とは異なる「子供」にまつわる依頼を寄越してくる。この依頼人は『私が殺した少女』でもチラッと名前が出てきましたね。本当に「チラッ」と程度でしたけど。「轢き逃げされた少女」を物語のフックに使うのはややあざとい気もするが、終盤を捌く手つきが堂に入っており、強く印象に残った。本書の中でもっとも気に入った作品である。「二四○号室の男」は私立探偵業において失踪人捜しと並ぶ「お約束」の依頼、つまり「身辺調査」を題材に取った編です。オープニングはオーソドックス、と見せかけてやはり捻りが利いている。ここに来てなお密度の高さが衰えぬ筆先に少しずつ感動を覚え始めます。「イニシアル“M”の男」は深夜の間違い電話を発端にして展開する話。徐々に事態が見えてくる構成や、濃やかな張り具合の伏線に溜息が出てきます。「歩道橋の男」は冒頭でいきなりズッコケること請け合い。ちょっとネタバレになりますが、唯一死人の出てこない短編ということもあって比較的オススメしやすい。もし探偵モノのアンソロジーに沢崎シリーズの短編を収録するとしたら、是非これを選びたいところですね。「選ばれる男」は他と比べてやや長め。発端は母親の依頼を受けて行方不明の少年を捜す、ありきたりなマンサーチャー・パターンであるものの、奇妙な「相棒」を獲得して同行するあたりが読みどころです。単独行動を主体とする沢崎には珍しいケースというか、ペースを乱されまくるのが面白くて仕方がない。書き下ろしのボーナストラック「探偵志願の男」はこれの後日談に当たります。沢崎が探偵になった経緯も明かされるため、短いながらも興味深い。

 『そして夜は甦る』と『私が殺した少女』を読んで、なかなか良いハードボイルドではないか、と思いつつもいまひとつハマり切れないでいた沢崎シリーズだが、本書に目を通して「や、このシリーズ、すっげー面白いわ」というナマの実感がようやくヒシヒシと込み上げてきました。描写はとても丹念なのに、テンポが滑らかでかなり読みやすいですよ。少ないページ数を最大限に活かすため、あらゆる無駄を削ぎ落とした細身でいて強靭な構成にも舌を巻く。年単位で待つことが当たり前となっている寡作家だってのに、どれだけ経っても人気の翳る兆しがない――その理由をまざまざと思い知らされた次第です。

・拍手レス。

 高内はタカシルートでほんの少しだけ見せるデレが可愛いから僕は焼津さん羨ましいなあああああ
 「下着の色は白」と言いかけて「やっぱ自分の流儀じゃない」と打ち切るトコは好き。


2009-03-17.

・今でもちょくちょく起動している『俺たちに翼はない』のキャラクターが夢に出てきまして、それ自体は割と嬉しいことなんですけれど、よりによって登場したのが高内昌子で複雑な心境に陥っている焼津です、こんばんは。

 解説しておきますと、高内昌子というのは押しが強く面食いで自己中心的な、好感は持てないが強く印象に残る個性を有したサブキャラです。一章の主人公「羽田鷹志」の同級生で、何かと鷹志に因縁つけてくる。「私」が「あっし」に聞こえるなど、声の演技が特徴的。んで、ただ出てきただけならまだ良かったのに、高内の父やら兄やら名乗る人物まで顔を見せて、「あれ? これ、高内ルートに突入してない?」という代物になっていましたから一層参る。何が参るって、高内が込み入った家庭環境を抱えていて、家族の前では学校とはまた違った一面を覗かせるため、彼女に対して興味が湧いてきちゃったことです。正直、そんなに見たくないと思っていた高内ルート(FDで描かれる、という噂もある)ですが、考えが変わってきました。くやしい……望んでもいないのに勝手にマチャコガルドへ赴かされたことも含めてモヤモヤするぜ。

 ちなみに過去『それ散る』のキャラも夢の中に出てきたことがありますが、そっちは星崎希望でした。なんだこの落差。

・道尾秀介の『鬼の跫音』読了。

 著者初の短編集。40ページ程度の作品を6つ収録している。「鬼の跫音」という作品はありませんが、内容からすると「冬の鬼」がそれに近いか。一編一編が独立した作品として機能しており、個々別々に読んでいっても差し支えありません。毎回、必ず「S」という人物が登場することと、不吉の象徴として鴉が顔を覗かせることだけが共通点となっています。

 「鈴虫」は埋められた死体が表に出てきたことをキッカケに、封印した過去が紐解かれていく話。出だし一発目ということもあってかそれほど癖は強くなく、まっすぐに進んでストンと落とします。綺麗な大外刈り、といったところ。これ一編のみで深い感銘を受けることはないでしょうけども、掴みとしてはまずまず。「ケモノ」(本当はケモノ偏を書いて「ケモノ」と読ませる)は刑務所の作業所でつくられた椅子から囚人の手によるものとおぼしきメッセージを見つける話。メッセージの意味を探ることで読者の興味を手堅く惹きつける。が、手堅すぎてやや物足りない感じもした。面白いことは面白いけど、正直、ちょっと中途半端な読後感が残る一作であった。「よいぎつね」は本書の中でもっとも異色な雰囲気を放つ。少年時代、秋祭りの夜に犯した「罪」が発端となり、主人公は奇妙な事態に巻き込まれるのですが、進めば進むほど物語は混迷の度を深め、ハッキリとした説明が付かないまま終幕を迎えてしまう。合理的な解釈も可能にせよ、読み口としてはミステリよりもホラーに近い。言うなれば「世にも奇妙な物語」のノリであり、薄ら寒い余韻を楽しめるかどうかが評価の分かれ目となりそう。

 「箱詰めの文字」も異色作。良心に苛まれて盗んだものを返しに来た――と弁明する男が差し出したものは、明らかに自分の持ち物ではない招き猫だった……という突拍子もない書き出しで始まります。話がどこに向かって転がっていくのか、なかなか読めない。そういう意味ではかなりワクワクさせられたが、落とし方は綺麗と言い難く、さすがに転がしすぎた気がしないでもない。ちなみに冒頭で「よいぎつね」の要素とリンクする箇所があったけど、特に意味はないっぽい? 「冬の鬼」もこれまた異色作。日記形式の物語で、しかも時系列に沿って進むのではなくてむしろ逆行し、一日ずつ巻き戻っていく。何かのトリックを仕込んでいることは見え見えなのに、「何か」が何なのか分からないあたりがもどかしい。一番短いエピソードなのですぐに読み終わります。ストレスが溜まらない、という点ではちょうどいい長さだった。ラストを飾る「悪意の顔」もやっぱり異色作……って、聞き飽きました? ノリとしては「よいぎつね」と同じ「世にも奇妙な物語」系。異色ながらもバランスの良い仕上がりとなっており、読みやすい。本書内で一番没入できた話です。

 うーん、どれも短いせいでそんなにズシンと来るような重い衝撃や読み応えはないし、帯に連なる「賞賛の声」も角川お得意の過剰広告にしか見えませんが、尺が短いおかげで手軽にサクッと道尾テイストを味わえることはありがたかった。気分転換にはうってつけの一冊。ところで、毎回登場する「S」、果たして同一人物なのかどうかも怪しい(というか、ほとんどマッチしない)けれど、一応情報をまとめてみました。ネタバレなので反転して書いておきます。

 (ここから)「鈴虫」 … 本編の11年前に死亡、当時大学生で文学部哲学科所属、主人公より上背がある、二股をかけていたため痴情のもつれで殺される。「ケモノ」 … 昭和22年福島県生まれ、本編の43年前(昭和40年)に家族を惨殺、昭和45年冬に獄中で自死、継母との関係が事件の原因、実母は幼い頃に死別、美少年。「よいぎつね」 … 本編の20年前に高校3年生、「度胸試し」の首謀者、いつも白い顔で無表情、死亡描写なし。「箱詰めの文字」 … 本編の2年前に交通事故で妻子が死亡、会社員から作家志望になるが、精神的に不安定な状態が続き自殺する。「冬の鬼」 … 先祖が河内の出、祖父の代から九州に移り住む、家族がぴかどんの犠牲になったことを考えると本編は戦後、眼球摘出手術を受けている、死亡描写なし。「悪意の顔」 … 小学4年生の春に母が病気で死亡、主人公曰く「クラスでたぶん一番身体が小さい」、普段は無表情な白い顔、主人公を攻撃する際に時折「悪意の顔」を見せる、死亡描写なし。

 少なくとも3回死亡しているため全員が同一人物という考えはありえない。またどれも本編の年代がハッキリしないため細かく検証できないが、「ケモノ」と「冬の鬼」は時代が古いうえ置かれている状況が特殊なので他と一致しそうにない。「白い顔」や「無表情」と、共通するキーワードの出てくる「よいぎつね」および「悪意の顔」では同一人物かもしれないが、「鈴虫」、あるいは「箱詰めの文字」まで一緒かどうかは判断を決しきれない。「鈴虫」と「悪意の顔」は背の描写で食い違うが、間に成長期を挟んでいるので確定的な違いとは言えない。結論としては、「最大で3作品まで同一人物の可能性がある」ですね。(ここまで)

・拍手レス。

 360で出てるカオスヘッドノアが想像以上に面白いです。家庭用への移植で妹の全裸CGが削除……ではなく追加されてるという現実。5pbとニトロプラスのコラボというのも、重さと軽さの釣り合いを取るのに一役買ってます。PCに逆移植されることはあるのかなぁ
 『Phantom INTEGRATION』みたいな先例もありますけど、『機神咆吼デモンベイン』は結局逆移植しなかったし、半々といったところですかね。


2009-03-14.

・メディアミックスが好きじゃないので普段はコミカライズ作品とかあまり買わないのですが、高まってやまぬ俺翼熱を少しでも宥めようと漫画版『俺たちに翼はない〜Prelude〜』を購入し即読了した焼津です、こんばんは。

 『俺たちに翼はない〜Prelude〜』収録の「ある日」連作(「ある日の明日香」「ある日の京」「ある日の美咲」「ある日の狩男」)から細部を端折ってシンプルにまとめた内容なので、「Preludeは気になるんだけど、価格がボッタクリだし、かと言って中古もイヤだしなぁ〜」と逡巡している人に「とりあえずこれを読めば?」って具合にオススメしたい一冊。MF文庫J一冊分に相当するお値段で大まかな話が分かるのですからとてもリーズナブル。前半は「ある日の明日香」「ある日の京」「ある日の美咲」を連結させて一本にまとめた話で、ベースは「ある日の美咲」となっており、明日香の人間嫌い設定には深く踏み込んでなくてやや物足りないが、必要最低限の箇所は抑えている感じ。またオチがオリジナルで、大したことないとはいえ視覚的効果を狙った代物になっています。後半は「ある日の狩男」を圧縮したもの。些細な掛け合いが省かれているせいもあって非常に慌しく、予備知識がないと「キャラ多過ぎ、誰が誰だかワケ分かんね」って事態に陥ること請け合いです。本編プレー後に読むことを推奨。

 モノクロだと美咲と明日香が若干見分けづらい、っつー難点はありましたが、デフォルメを多用して雰囲気和らげるあたりは漫画版ならではの演出であり、「大まかな内容を知る」ことが目的ならこれで充分楽しめるでしょう。ただ、原作ファンとしてはやはりPC版のPreludeそのものを体感してほしいなー、と思わなくもない。原作は明日香の内面描写も豊富ですし、プレーすればたちまちワタライズされること間違いなし。美咲も、扱いは優遇されていますが、鼻声の「良かったですね……せんぱい……」から「神様のばかああああ!」という絶叫へ繋げるシーンは必聴ってか当方はもう何十回と聴き返したくらいなので、漫画版だけで満足するのは勿体ない。京に至っては「前頭葉くもりのち虹色ブリリアントSKY!」まで削られていますから言わずもがな。

 逆に、原作Preludeをやった人は別に読まなくてもいいかも。削られている箇所はいくつかあっても、足されている箇所はほんの少ししかないので。強いて書くなら、「ある日」連作プレー済だとストーリーを把握しやすい、程度の利点はありますね。正直、コミカライズ作品としては可もなく不可もなく、っていう評価に収まります。原作に忠実で雰囲気を壊すところがない反面、「漫画版ならでは」と断言できるようなオリジナリティは乏しい。上で挙げた演出くらい。うーん、贅沢な要望かもしれませんが、原作の雰囲気を壊さない程度のオリジナル要素がもうちょびっとでも欲しかったところ。

『Dies Irae』の製作状況がチラッと

 新作が終わってGユウスケの手も空いたからか、未公開分のみならず追加CGもあるみたいです。ラジオも聞きましたが特に詳しいコメントは出てないですね。新ディレクターのまゆきとGユウスケが苦笑の嵐を起こしていたくらいで。

『神のみぞ知るセカイ』のノベライズ作品が5月に発売予定「気が向いたらのライトノベル週報」経由)

 神セカはサンデーだから小学館で、ノベライズを刊行するとしたらガガガ文庫か……ガガガは割とノベライズの人選が良いレーベルだから期待できるかな、と思ったら有沢まみずか。興奮するほどではないけれど悪くないチョイスであり、差し当たって期待しておきます。

たぶんその頃には桜も散っているだろうけれど、まだギリギリ春! 『さくらさくら』延期(3/27→5/29)

 予想を裏切らないというか何というか。スタッフの言を信じるならば4月末にはマスターアップが済み、これがそろそろラストの延期になるはずなんですが……話によるとこれでもう7度目の延期らしく、狼少年という次元を超えてきた感があります。いっそこのままエロゲー界における「え? まだ発売してなかったの?」筆頭ソフトの座を目指す手もありやなしや。

・山下卓の『BLOODLINK〜雪花(上・下)〜』読んだー。

 作者の新刊が今月出るということで、積んでいたこの2冊を崩しに掛かりました。BLOODLINKは「平凡な高校生として穏やかな日常を送っていたはずの少年が、まるで導かれるように血腥い闘争の渦中へ足を踏み入れることになって……」という、外枠自体はごくありふれた形式の青春伝奇ロマンであり、2001年に刊行された『BLOODLINK〜獣と神と人〜』を皮切りに7年近くもの月日を費やして展開されたシリーズです。本編6冊に外伝2冊の計8冊(あとイラストレーターであるHACCANのホームページの特設コーナーや、『流行り神』のアンソロジーにも番外編が載ってます、ってかゲームソフトのアンソロジーに自作の番外編載せんなよ)と、「速さが命」のライトノベル界では決して多くない冊数ながら、主人公の感じる「痛み」を丹念かつ克明に描く容赦なき筆致に魅了されて続きを望んでいた読者は少なくなく、誰もが「山下卓ってばホント遅筆!」と愚痴りながらも執念深く待ち侘びていた次第です。特にこの雪花は前作から3年半も間が空きましたからね……発売予定にタイトルが上がっちゃ消え、諦めかけた頃にまた上がってまた消えてと、散々延期を繰り返したことも重なってファンたちの心はえらく疲弊したものでした。ヒロインの年齢が僅か9歳ということもあって「ロリコンライトノベル」の一角に指定された時期もありますけど、開店休業状態が長く続いたせいかほとんど欠番扱いに……。

 さて、BLOODLINKは「真山和志」と「秋月カンナ」、ふたりの少年少女を軸にして進行するストーリーであると同時に、著者の過去作品『果南の地』ともリンクする内容であります。むしろ、作者にとって不満足な結果に終わった『果南の地』をふたたびやり直すために紡ぎ出した物語、と称した方が良いかもしれません。上巻のラストで唐突に「果南」の名前が出てくるくらいですし。実時間では7年も要した割に作中の時間経過はほんの3ヶ月程度、リアルタイムで新刊を追ってきた身からすれば「それだけしか時が流れていないのか……」って愕然とさせられるものの、ズルズルと長引いていた話にようやく終止符が打たれて感慨深くもあります。ただ、新たに判明して腑に落ちたりビックリしたりする情報も多いけど、いくつかの要素にハッキリした決着がもたらされないまま有耶無耶に終わっているところもあり、ぶっちゃけそんなにスッキリするエンディングではないです。上巻の後半から下巻の前半に掛けては我を忘れて没頭しましたが、以降の展開は率直に申して尻すぼみという感が拭えません。思わず「ひょっとしてこれ中巻じゃないの?」と疑ったくらいです。陰謀とか真実とかよりも「地道な生活」の方が大切で、本来はそっちを取り戻すことに全力を注ぐべきなのだ――なんていうありきたりの結論に至るまで随分と回りくどい道を辿ってくれたものだ。しかし、決してまっすぐではない道のりを七転八倒のた打ち回って進んでくれたからこそ、そんな「普通の答え」も妙に胸へ迫ってきます。

 あとがきを信じるならば、今回でBLOODLINKの第一部は完了、次に『果南の地』を再開(というかリメイク?)する模様です。既に下巻の発行から約1年が経過するにも関わらず、果南の「カ」の字もない現状に強い不安を覚えますが……もう「山下卓はそういう作家だから」という認識で気を長くして付き合うしかない。『果南の地』が終わった頃にまたBLOODLINKの第二部を始めてくれるかもしれませんし、希望は捨てずにそっと仕舞っておこう。にしても今回、カンナの出番があんまりなかったなぁ、そこが残念。


2009-03-11.

・なぜか『ノノノノ』の名台詞(迷台詞?)「そらさんは大人だからな!! このくらいじゃくじけないのだよ!!」が脳内で執拗にリフレインして止まらない焼津です、こんばんは。そういう日もある。てか、作者自身も気に入ってるんじゃないだろうか、この台詞。最新刊にも「そらさんは大人だからね!」って発言が何げにあったくらいだし。あと、最新刊と言えば表紙を飾るそらさんにとてもムラムラしてヌきたくなりました。焼津さんはヲタだからな!! このくらいじゃはじらわないのだよ!!

Navelの『俺たちに翼はない』、Standard Editionを4月24日に発売

 要するに通常版ってことですね。パケ絵とおぼしきイラストが縦方向なところを見るに、今度は普通のエロゲ箱かトールケースなのかしら。ゲーム内容に変更はなし、付属特典もなしということで、重度の儲でなければ華麗にスルーして構わないと思います。買ってもいいかな、という念がチラッと頭をよぎったりしますが、焼津さんは大人だからな!! このくらいじゃみつがないのだよ!!

・再プレー中の『それは舞い散る桜のように』、希望ルート終了。

「愛してます」
「てへへー」
 俺の背中に手を回して、かすかな体重を寄せてくる希望。
 潤んだ瞳が俺を見上げて、小さなつぶやきを漏らした。
「愛してください」

 ここここここ、こっ恥ずかしいぃ。あ、念のため解説しますと吃っているのではなく「ここ」を3回連呼し当該シーンを強調して指し示したうえで「こっ恥ずかしいぃ」と身悶えしているんですよー。って、んなこたぁどうでもいい。何度やり返しても希望ルートに潜んだ甘酸っぱさは致死的である、と数年ぶりに確認させられました。俺翼含め、王シナリオの中でもっとも「恋人臭」が濃厚かつ甘美であります。乳揉みの粘着質な描写といい、体育倉庫でたまらず襲ってしまう件といい、実にムラムラする。まさしく青春はそれを我慢できない。やるなぁ、雀孫。

 一方で小町の呟き、「嘘ですよ、そんなの……」「知ったふうなこと……言わないでください……」には腸が凍りますが。なまじ小町ルートやった後だけにズーンと来ますわ。ついでに鳴エンドのコーダインもフラッシュバックして凹みました。これだからホワルバ好きのシナリオライターは……ふう。

 さて、希望ルートがそれ散るのメインであるだけに舞人が常日頃抱いている「恐れ」の正体が明らかにされるものの、詳しい説明を行わないまま流しているんでやっぱりスッキリしません。というよりも、久々にやり返してみて解説の少なさにビックリですよ。未完成っぽいとはいえ、記憶ではもうちょっと丁寧に説明されていたような気がするんですが……あちこちで目にした考察やら何やらが頭の中で混ざり合って勝手に補完されていたのかもしれません。それにしたって、舞人と希望が幼い頃に遊んだエピソードも断片的に語られるだけで、ちゃんと一つのシーンとして描かれることがなかったとは。あまりにも盛大な記憶との食い違いに少しおののきました。当方の脳みそってば、たっぷり一時間分くらい「ふたりの思い出」を捏造していましたよ。ああ、6年半前の自分は随分と想像力が豊かだったんだな、と痛感してついしんみりしちゃいます。

・拍手レス。

 各人の休載に合わせて篠房六郎か黒柾志西辺りを代原に控えさせておけば完璧だと思います。
 代原どころか表紙でイケるレベルですね、そのふたり。

 俺翼、満足したのに不完全燃焼というよくわからない事態に。 FD待ちか…。
 面白すぎるのも罪すなぁ。時間掛かるのは確実ですが、今度こそFDまで漕ぎ着けてほしいところ。

 小説、漫画問わず新刊のチェックにはどういったサイトを使われてますか? 参考までに教えて頂ければ幸甚です。
 BOOKSITE本やタウンが主ですね。


2009-03-08.

・冬雀(冬寂)が久々にライターを務めるということで注目していた『スズノネセブン』の体験版を今更ながらプレー。

 普通の学園モノかと思ったら魔法学園モノでした。「魔法と科学の融合」を目標に掲げ、学科が魔法科と魔力工学科の2種類に分かれているスズノネ魔法学園というところが舞台。この学園では毎年成績の悪い連中を7名集めて追試代わりの強制合宿、通称「スズノネトラアル」を敢行する慣わしがあり、主人公やヒロインたちは選りすぐりのワースト7として共に一つ屋根の下で暮らすことになる……ってなストーリーです。平たく書けば合宿モノ。主要陣全員が落ちこぼれ、という設定はやや珍しいかもしれないが、それ以外は割とフツーの「よくある学園モノ」みたいな感覚で楽しめる仕様になっている。

 7人中2人が主人公含む男キャラで、残りの5人がヒロインとなりますが、うち1人はOHPを見るにサブヒロインのようですね。どうも攻略できるのは4人だけっぽい? 目の大きさが特徴的な絵柄で、最初はなかなか馴染めなかったが、プレーするうちに慣れました。当方の順応力もまだまだ捨てたものじゃない。基本はコメディながらドタバタ色は希薄で、どちらかと言えばまったり系に属すのかもしれません。ハッキリ言って個性の強い作品じゃないですし、特色を打ち出すためのファンタジー要素も本当にそこまで必要なものか……とやや疑問を抱いたりはします。ただ学園モノとしての安定感は強く、大きく外さず全体的に無難な調子を貫いている。強烈にハマることはないにしても、やってるうちにジワジワと惹き込まれていきそうな雰囲気はありますね。

 というか、代官山すみれ(リンク先一番下)がカワエエっスわ。キャラデザの時点で既に7割方勝利していますが、表面は淑やか、でも内心は腹黒、けれど意外に人懐っこいところもある――という三段構えの性格で迎撃してくれる。一番最初に登場するヒロインということもあってインプリンティングが発生、一目惚れならぬ「すみれ惚れ」して彼女一直線に進めるしかなくなりました。体験版に収録されている範囲だと「一日限定で妹のフリ」というイベントが美味しかった。たまらなかった。腹黒っ子さんが演技とはいえ徹底して健気な妹キャラやってくれるんですもの。逆ギャップ萌えとでも言うべきかしら。評判は悪くないと聞いていましたけど、予想を上回る収穫でした。

女主人公(ヒロイン)が一番可愛い漫画・アニメって存在しないよな(VIPPERな俺)

 『とある科学の超電磁砲』みたいに人気が嵩じてサブキャラから昇格して主人公になってしまった……ってパターンもありますけど、メインヒロインって大抵は造型が無難すぎて物足りないんですよね。エロゲーで考えても、他をぶっちぎる勢いでメインヒロインが至高の可愛さを誇ったソフトは『てのひらを、たいように』くらいだもんなー。ああ、そうそう、最近プレーを再開した『Garden』も、絵里香と瑠璃のダブルメインヒロイン制で、他にサブヒロインたちが揃っているにも関わらず、何れ劣らぬ魅力を発していて頬が溶け崩れそうになります。まあ、メインのくせに片方が攻略できませんけども。

 ただいま、ひとりの庭。

世界一売れる漫画雑誌の連載布陣を考えるスレ(VIPPERな俺)

 「世界一売れる」を無視して、普段雑誌を買わない当方が「この面子なら購読するっきゃないだろう」と確信する布陣を敷いてみた。

 1.山口貴由
 2.きゆづきさとこ
 3.平野耕太
 4.小玉ユキ
 5.岡本倫
 6.木葉功一
 7.冬目景
 8.水上悟志
 9.古賀亮一
 10.海藍
 11.日本橋ヨヲコ
 12.長月みそか
 13.塩野干支郎次
 14.石黒正数
 15.羽海野チカ
 巻末.氏家ト全

 硬軟取り揃える――という域を通り越して、温度差の激しさのあまり水蒸気を爆発起こしかねない雑誌になりそうですね。それでいて偏りすぎな気配もある。いっそ、「コアな人気はあったけど打ち切りだなんだで消えていった漫画家」を寄せ集めた“月刊ゴースト”みたいな雑誌を出せば話題を呼ぶかしら。怨念詰まりまくってそうだけど。

・再プレー中の『それは舞い散る桜のように』、小町ルート終了。

 「失いたくないものなら、そこにはない」とか、記憶の底に埋もれていた一文が表示されて胸を衝かれました。以前の尺度でさえ後半の展開は駆け足だと思ったけど、今やると駆け足どころか縮地法みたいに見えるなぁ。詰まるところ『それ散る』のテーマは「失恋」であり、嬉しい追憶も楽しい懐旧も恥ずかしい記憶も切ない思慕も、何もかも一切合財すべてが烏有に帰す絶望感を味わうのがミソなわけですが、把握できなきゃ単にポカーンとするだけです。うーん、当時は『ONE』とか『秋桜の空に』といった先行作品が補助線になっていましたから何とかなっていた面もありましたけど、現在はそういう文脈が途絶えてきましたんで尚更ツラい気がするのかもしれません。それにしても山彦はイイ男っスねぇ……まさしく忘れがたい親友キャラだわー。

 余韻を噛み締める暇もなくエンディングを迎えてしまったので、そのまま2周目に突入。今度は希望狙い。「とりあえず、おまえの立ち位置は七人中の右から二番目だ」だとか、本当に俺翼と共通するネタが多いぜ。ちなみに俺翼では「んー、よしキミには、えーと……右から二番目あたりのポジションを任せよう」です。「七兆」と同じようなこだわりがあるんだろうか、「右から二番目」。あと「俺たち翼の折れたエンジェル」も今見ると意味深だし、「照れりこ照れりこ」もなんちゃって症候群の一種と見做せたりする。欄外めいた繋がりが面白くて仕方ないです。

・拍手レス。

 『それ散る』懐かしすぎですね。希望の夏休み前〜夏休み間の嫉妬三連発や、小町と青葉が日常の会話の中でポロッと黒い本性を見せたり・・・何年も前の作品なのにすぐ思い出せます。
 いざ再プレーしてみると覚えてる箇所でも結構受ける印象が違って新鮮。山彦とか、記憶以上にイイ奴でジーンと来ました。

 確かに『それ散る』はBGM鳴らすのに苦労しました。もう直し方忘れちまった。
 CD-DAなんて今やスッカリ忘却の彼方ですからねぇ。

 『俺翼』が予想外に面白くて泣きそう。待ってて良かった・パルさん可愛いよパルさん。
 煮込みすぎたスープみたいにグズグズになってるんじゃ……と懸念を寄せていただけに安堵することしきりです。


2009-03-05.

『俺たちに翼はない』をひと通りしゃぶり尽くしてしまったせいで心が徐々に廃墟化してきたので、気を紛らわすために『それ散る』のビジュアルファンブックを眺め返していたら、沸々と懐かしい情熱が甦ってきて発作的に『それは舞い散る桜のように』を再インストールしちゃった焼津です、こんばんは。

 リンク先は完全版ですけどインストしたのは無印です。それもDVD版ではなくCD版の方。それ散る、当時はまったくチェックしていなかったけれど、体験版をやった周りが物凄く騒いでいるんで気になって発売初日に買いに行ったんですよねー。うーん、ノスタルジー。今だから書けることですが、プレー開始からしばらくは王テキストに馴染めず、いちいち表現が回りくどい、セリフが長ったらしい、と少なからぬ不満を抱いたものでした。しかし途中から一転、完全にあのノリが急所に入り、悶え転がりながらもニヤニヤ笑み崩れて楽しみ抜いた次第。3日でクリアし、それでも満足できず更にもういっぺん最初からやり直したほどでした。当時好きだったキャラは希望(と小町)。希望が三連荘で嫉妬心を滾らせるシーンは今もなお記憶鮮明です。なのにあの子、つばさエンドでは「私と違って嫉妬深い」とか言うんだもんなぁ。どの口がほざきやがるかと。

 如何せん古いゲーム(何しろ6年半前ですよ6年半前)だけあって、快適さで言えば昨今のエロゲーには負ける、っつーか起動して早々BGMが鳴らなかったり、苦労して鳴らすことに成功すれば今度は音が大きすぎて調節に手間取ったり、プレー環境を整えるだけでグッタリしてしまった。ようやく肌に合う設定を整えることがものの、ボイス再生のタイミングなんかでちょこちょことストレスが溜まります。これに比べれば俺翼は天国、比類なき安らぎの園です。うーん、当時はこれといって不満を覚えなかった足回りが今見るとショボくて仕方ないだなんて、なにげにエロゲーも進歩しているんだなぁ。というかこれに不満を覚える当方の精神が堕落してしまったのか。便利で快適なシステムの数々に蕩けるくらい甘やかされている自覚は一応あります。現在の有様ではSFC版『かまいたちの夜』なんて絶対にプレーできないでしょうね、スキップもなければ任意の箇所でセーブ・ロードすることもできない、やった当時でさえあまりの不便さに七転八倒して結局全クリを諦めた代物ですから。

 そんなこんなで一旦途中離脱。俺翼やり直して癒されてから、またそれ散るに復帰。快適ではないけど不便というほどでもないので、慣れればプレーすることも楽になってきます。しかし、穏やかな日常シーンの中にさりげなく「もしかしたら人生って、テレビみたいにチャンネルひとつで変えられるものなのかもしれませんね」なんて言葉が織り込まれていたのにはギョッとした。俺翼の「世界なんて、おまえらみんなたちの心の中にあるチャンネルをひねれば、いくらでも変わってしまうものなんだぜ」はこんなところにも根を張っていたのか。この頃の王テキストはまだ幾分かこなれていない部分が残っているけれど、若々しい勢いに溢れていて、これはこれで好き。でも当方自身が年を食ったせいか、それ散るの瑞々しさよりも俺翼の練熟っぷりの方がしっくり来る次第。プレーを進めるにつれてそれ散るの面白さを再確認するとともに、6年半待たされた(情報公開からは4年も満たない程度ですが)俺翼というソフトの凄さをも改めて見詰め直さずにいられません。

 ああ、でも俺翼とか関係なく純粋に面白くて没頭してしまうわ、それ散る。まずいな……エロゲーは近々卒業しようと考えていた(Diesの完全版あたりを目処に)のに、これじゃ「何年でも王雀孫の新作を待ち続けるフラグ」が立ってしまう。というか、もう立った。フラグ・イスト・アウフゲスタンデン。まだまだ足抜けできそうにありませんわ、この業界。

・浅井ラボの『されど罪人は竜と踊る5』読んだー。

 副題「Hard Days & Night」。ガガガ版され竜初の短編集で、スニーカー版され竜の『災厄の一日』に当たります。もちろん全面改稿バージョン。『災厄の一日』に収録されていた5編(「翅の残照」「道化の予言」「黒衣の福音」「禁じられた数字」「始まりのはばたき」)に加え、書き下ろしの新作短編「幸運と不運と」および「刃の宿業」、巻末おまけパロディ「されど極道は仁義と踊る」をブチ込んでいる。おかげで元は300ページ足らずだったのに、全体で500ページを超える大ボリュームへと変じた次第。つっても既存の短編も増量されているので、純粋な書き下ろし部分は160ページ程度であり、コスパ的な満足感はあくまで「そこそこ」の範囲かな。

 おさらいの意味も含めて各編の簡単な紹介。「翅の残照」は本編開始前のエピソードで、ガユスがまだ十二階梯だった頃です。黒社会の依頼を受け、「裏切り者」の追跡をすることになったガユスとギギナ、っていうオーソドックスなストーリー展開。手抜きというわけじゃないがシンプルな内容で、もっとも分かりやすくシリーズの雰囲気が伝わってくる。「道化の予言」はいわゆる「嵐の山荘」めいた状況で事件が起こり、現場に居合わせた連中が「この中に人狼が紛れ込んでいる!」と互いに疑心暗鬼の目を向け合う運びになる。無邪気なノリでフーダニットに淫するのではなく、むしろ苦い後味を残すところが特徴か。され竜のひねくれ具合を知るにはうってつけの一作。「黒衣の福音」は死体の首から上をヌイグルミの頭部と挿げ替える、という奇怪で悪趣味な連続殺人事件に興味を示した少女が事件に巻き込まれ、少女と縁のあったガユスが犯人の呼び出しに応じて駆けつける話。サイコがかった悪趣味なエピソードながら、筋立てはもっとも単純。「ザッハドの使徒」という集団の影がチラつくが、これは今後本編に絡んでるのかな……「禁じられた数字」はギャグ回。前後不覚の状態から目を覚ましたガユスが記憶を辿っていく体裁を取るなど、やや凝った構成をしている。でも内容はあくまでバカバカしい。初読では噎せるほど笑ったが、さすがに二回目となるとそんなにそんなに。「始まりのはばたき」はラキ家の兄弟イェスパーとベルドリトをメインに据えた番外編。つまりモルディーン卿サイドのエピソードです。戦闘シーンは端折り気味にして、イェスパーたち個人の心情を焦点としている。個人的には龍皇国中枢で渦巻く策謀の描写が楽しかった。細かいところでさりげなく戦力インフレかましているのもご愛嬌です。

 そして書き下ろし一弾目の「幸運と不運と」は、ぶっちゃけギャグ回です。分類するなら明らかに「禁じられた数字」と同じジャンル。不幸がよく似合う男ガユスが、見るからに胡散臭い詐欺師から執拗にパワーストーンを押し付けられ、対応に難渋するが……っていう話。肝心のパワーストーンの名前が「ウッソクサ石」で、産地が「ソコラヘーン」だの「ココラヘーン」だの、もう本当にやる気が感じられないネーミングで脱力することしきりなんですけど、あまりに脱力してしまった結果とんでもない事態になってしまう。良くも悪くもくだらないエピソードであり、たぶんこれが本筋に影響を与えることはないでしょう。二弾目の「刃の宿業」は80ページと今回もっとも長い作品であり、「5巻の目玉」と評しても差し支えない一編となっています。ギギナが主人公を務め、「技芸を高めに高めた末、確たる理由もなく殺し合う」ってな境地に至ってしまった剣士たちの業を壮絶なるソードアクションとともに描く。「トリニトロトルエンを鞘の内部で炸裂させ、秒速六九○○メルトルという高速の爆風を放つ。鞘の内部で圧縮された爆風の力を刃に乗せて放つと、気温十五度下では秒速約三四○メルトルという音の速度すら遥かに超える一刀となる」――名づけて「爆炸刀」、といった調子で繰り広げられるイカレチャンバラの数々にワクワクすること請け合いです。「されど極道は仁義と踊る」はエリダナを「襟棚」、アシュレイを「阿修礼」といった感じで変換して攻性咒式士を広島ヤクザに置き換える、控え目に申してもアイタタタなショートパロです。この薄ら寒さ、狙ってやっているとしか思えない。

 結論としては、「刃の宿業」だけでも購入した価値があったと頷ける一冊、ってトコです。なにぶん5年ぶりに読み返すんで他の短編もおぼろげな懐かしさとともに楽しめましたが、もともと『災厄の一日』は「禁じられた数字」を除けば印象の薄い短編集だったこともあり、読み終わってみると「刃の宿業」における鮮烈さ以外は大して残っているものがない。あと相変わらずスニーカー版に比べて文章の勢いや熱さが落ちているが、なんかもうこの低温だらり感にも慣れてきましたわ。で、4月に早くも6巻が発売される予定となっていますが、また短編集だろうか? それともいよいよアナピア編スタート?

・拍手レス。

 俺つば、ドラマCDまで手を出すと(Navle商法に)負けたような気がするので躊躇していたのですが、レビューを読んで鳳鳴編だけでも買おうかなぁとぐらつき中。やったね!
 ええ、鳴編はちょうどいいですよ。LR2001なんか本編より輝いている気がしますし。

 ディエス完全版とか出たら買ってしまいそうな自分が嫌い。
 むしろ完全版を夢想することが心の支えとなっており、従って買う気満々です。

 ライアーソフトが相変わらず頭悪くて素敵です。あそこ製品紹介見てるだけですげえ楽しい。
 天才級のバカをかましてくれるところに痺れる憧れる。


2009-03-02.

・意識が朦朧とするあまり「キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン」と「キャッチ・アズ・キャッチ・キャン」の区別がつかなくなった焼津です、こんばんは。わかってんねん、片方がプロレスで片方が映画だってことは……ホンマわかってんねんで、な?

『魔法少女アイ参』、追加パッチのダウンロードを開始

 またしても「ごらんの有様だよ」という言葉に相応しい惨状を呈しています。容量が100MB満たない時点で「お察しください」としか……(ちなみに『Garden』の修正パッチは現時点で600MB超)。発売から数えて2ヶ月ちょっとしか期間がない現実を考えれば妥当なところかもしれませんが、「追加シナリオなし(むしろパッチを当てることで削られるシーンがあるとか)」「公称『65枚』のCGを追加(しかしほとんど差分、実質的には20枚程度)」といった塩梅で、つまり「今まで暗転していたシーンで普通に絵が出るようになった」くらいの進歩しかない。根本的なボリューム不足や、シナリオの中途半端さを解決するには至っていない模様です。

 こんな短期間でミラクルが起こせるとは考えられなかったし想定の範囲内ではありますけど、追加パッチをただ配布するに留まらず、なおもテレカ&アペンドディスク付バージョンを希望小売価格1万円オーバー(税込)で売ろうとするその根性には脱帽させられる。amazonでは発売前からいきなり半値以下になっているが、一体いくらで卸したんだろう? そして「ごらんの有様」の先駆たるDiesやGardenは大丈夫なのか……両方とも既に発売から一年以上が経過し、『Dies irae』の方は現時点で香澄ルートとマリィルートのみ作り直した修正版、螢ルートと玲愛ルートのみを収録した追加版、全ヒロインのシナリオをまとめた完全版と、3つの新たな『Dies irae』を予定しており、すべてパッケージ販売するつもり(だから最初の分も含めて都合4つの『Dies irae』が存在することになります、うわーややこしい)らしいが、ユーザー登録を済ませていればどれも無料でダウンロード可能とのこと。一方『Garden』は愛シナリオのみ完成して修正パッチを配布中、メインヒロインたる瑠璃シナリオは今年7月の公開を予定していて、絵里香シナリオの調整やその他ヒロインの救済策は未定であり、今後新たなパッケージ販売が実現するかどうかも不明。叶うならば、どっちも今年中になんとか目処をつけてほしいところです。

『俺たちに翼はないドラマシリーズ 第4章 鳳鳴』『俺たちに翼はないドラマシリーズ 第5章 羽田小鳩』を聴く。

 ホーメイこと鳳鳴の話は本編第三章で探している自転車との出会いから始まる。自転車を買ったのが「9月の終わり」で、ドラマ本編は「柳木原の秋祭り」、だいたい11月くらいでしょうね。開始早々にマシンガントーク炸裂でいきなりテンション高ぇ。そしてLR2001のマイカーは「ヴァージニアビッチ号」という名前だったのか。初知り。鳴の自転車は「なんとかサイクロン号」って言うらしいがよく聞き取れん。ぐぐってみたけど「セクシーサイクロン号」が正解? 本編では既に顔見知りだった鳴とフレイムバーズとの出会いが語られています。ついでに小鳩とフレイムバーズとの出会いまで語られている。てか面識あったのか、こいつら……「コンバット」や「コバッティー」なんてあだ名まで送られているぜ。バニィDにも妹がいると判明したり、なにげに新情報たくさん紛れているな。

 ドラマCDは声だけで話を紡ぐ関係上、どうしても情報密度が低くなりがちですが、後藤邑子のテンポ速い喋りやLR2001の特徴的なセリフ回しでガリゴリ押し込んでくれてます。「ナルッと一発」や「トんでるけどトンデモない人」みたいな小ネタも仰山混入されていて、もう楽しいこと楽しいこと。俺翼ドラマシリーズの中でも一、二を争う賑やかさでした。「ずっと手を繋いでくれた兄」で意気投合する鳴と小鳩が地味に感動的。本編の隙間を埋める意味でもオススメしておきたい一枚ですね。

 小鳩は最終巻。はい、長かったようで短かったドラマCD鑑賞もこの巻にて終了。ゲーム本編以前のことを語っていた他のドラマCDと違い、これだけは本編中の出来事を取り扱っています。アリスと既に知り合っているってことは12月中旬あたりだろうか。「本編中の出来事」とはいえドラマCDに回されたくらいですからそれほど重要な内容ではないし、致命的なネタバレも入ってませんが……先に本編やっておいた方がより楽しめるはず。亜衣と仲良く遣り合っている鳴の姿も本編コンプ後ならばニヤニヤできるに違いない。

 ストーリーは一言で要約すれば「わらしべ長者」。兄へのクリスマスプレゼント求めて街に出てきた小鳩が様々な人々と出会い、持ち物の交換を繰り返して最終的に何とかプレゼントを入手する。その合間に和気藹々とした会話を交わすわけですが、「テンパると心にもないことを言ってしまう」という小鳩の特性がフォローされていて、何となく掴み所のなかった小鳩というキャラが少しばかり掴めてくる。そして「パーティーゲームのソフトはたくさん持っているけどコントローラーを一個しか所持していない紀奈子さん」には深く暗い孤独の淵を覗かされました。さすがプロの浪人、CPU相手に黙々と腕を磨いても平気だぜ。楽屋裏の特別コーナーで「反響によっては続編が出るかも」とほのめかしていますが、正直申してドラマCDはボリュームに対して単価が高く、コストパフォーマンスの低いジャンルですから、どうせならFDの方を希望したいですね。あと、亜衣の特徴的なイントネーションは声優さんも苦労した、と聞いて少しビックリ。本編といいドラマCDといい、苦労した素振りもなく見事にスラッと演じ切っているもんなー。

 第1章から第5章までひと通り聴いてみましたけど、内容が良かったと思う順に並べると「第4章(鳳鳴)>第2章(渡来明日香)>第3章(玉泉日和子)>第5章(羽田小鳩)>第1章(林田美咲)」ってな具合になります。紛れもなくゴトゥーザ様はボイスエンターテインメントという点において群を抜いてます、グンバツです。聴いていて退屈しないどころか、下手するとゲーム本編よりも余計に想像を刺激されてありありとイメージ浮かばね? 明日香の章は人間嫌いでやる気のない明日香&針生コンビが珍しく活躍する内容ゆえレア物。玉泉と小鳩はごく平均的な仕上がりで、単に当方が日和子スキーなのでこういう順序になっただけ。あくまで内容だけに絞れば第5章が逆転する余地はあります。しかし、第1章は美咲好きの当方でも疑いなくビリッケツに据える出来であり、キャラ愛補正の限界を感じました。美咲が「口先だけの片想い娘」でなかなか行動を起こさない臆病者であることと、明日香がまだ「鷹志からは敬遠されている」と思い込んでいる時期であることとが重なって、驚くほど動きのない話になってしまっている。諸設定による制約上、浜辺で鷹志とキャッキャッウフフする明日香に嫉妬の炎を燃やすとか、そういう本来あるべき美味しいシーンがまったくないんですよね。せいぜい明日香の整ったプロポーションに劣等感を募らせたりタマちゃんや高内のきょぬーを敵視したりでお茶を濁すのみ。なまじ気に入っているキャラだけに尚の事残念でした。

 結論。無理して全巻揃えようとしないで、財布と相談しながら好きなキャラのCDを買えばいいと思います。美咲は第1章から第3章にかけて、京と高内は第1章と第2章に、紀奈子は第3章と第5章に、英里子は第3章のみに、優とパルと亜衣は第4章と第5章、アリスは第5章のみに出演。メインヒロインは、明日香が第1章と第2章、日和子が第1章から第3章にかけて(つまり美咲とセットで出てくる)、鳴と小鳩は第4章と第5章に出演です。男キャラは第1章に蔵人、第2章に蔵人と和馬と翔、第3章に狩男と翔、第4章に和馬とYFBの三馬鹿が出てます。第5章は女キャラオンリー。うーん、全体を眺めると美咲&日和子のコンビが優遇されていますね。当方もこのふたりの掛け合いは大好きなんで嬉しいことは嬉しいです。「ある日の美咲」はもう何遍やり返したのか分からなくなってきました。

・今月の購入予定だよ。やったね!

(本)

 『イグドラジル−界梯樹−2』/水月郁見(ソフトバンククリエイティブ)
 『たたかう!図書委員』/水月郁見(朝日新聞社)
 『燃える蹂躙鬼』/水月郁見(徳間書店)
 『大聖堂 果てしなき世界(上・中・下)』/ケン・フォレット(ソフトバンククリエイティブ)
 『ノーサイドじゃ終わらない』/山下卓(エンターブレイン)
 『HELLSING(10)』/平野耕太(少年画報社)

 なんという水月郁見フィーバー……まさかの3冊同月刊行です。『イグドラジル−界梯樹−2』はシリーズ2冊目。絶体絶命の危機に陥り、危機を脱し切れないまま「つづく」となってしまった1巻、多くの読者が気を揉みました。これでひと区切りつくことを願いたいが、作者的に無理か。『たたかう!図書委員』は題名からして『たたかう!ニュースキャスター』のスピンオフか何か? あのシリーズは結構なかなか涙腺に来るヒーローものなので期待せずにはいられません。『燃える蹂躙鬼』は“護樹騎士団物語”の最新刊。名前だけ囁かれていて未だに詳細不明な徴税軍の戦略兵器「蹂躙鬼」が遂に降り立つ、のか? どんなすげぇことになるんだろうって、ワクワク高鳴る胸を止められません。『大聖堂 果てしなき世界』は『大聖堂』の続編。やっと翻訳されるのか……長かった。原題は「World Without End」ゆえほぼ直訳ながら、ぶっちゃけ地味なタイトルなので「大聖堂」って入ってなければ気づかずにスルーしているところでした。危ない危ない。『ノーサイドじゃ終わらない』はBLOODLINKシリーズを手掛けた著者によるハードカバー作品。こういうのを出すって話自体は前々からありました(確か、まだ雪花も出てなかった頃から)が、なかなか発売されないのでスッカリ忘れていました。公式サイトによると561ページもあるらしいので読み応えはたぶん充分のはず。『HELLSING(10)』は吸血鬼とナチス残党とキリスト教特殊部隊が三つ巴の闘争を繰り広げるバイオレンスコミックの最終巻。かれこれ10年以上も掛かっての完結だけに感慨もひとしお。平野耕太は既に新連載も決まっているみたいですが、そういえばHELLSING外伝の「THE DAWN」はどーなった? ヒラコーって単行本にまとまらない仕事が多くて参るわ。あと今月、『少女七竈と七人の可愛そうな大人』が文庫化します。麗しき黒髪と美しきかんばせを持つ鉄道マニアで男嫌いの少女、川村七竈――どこかの九女を激しく連想させる造型。頑なな美少女をお好みの方には是非とも推したい一冊です。

(ゲーム)

 なし

 『水スペ 川野口ノブ探検隊 〜これが秘境だ!人跡未踏!立ちふさがる商店街!八鏡大学に隠された地球最大の謎を追え!!』は若干気になりますが様子見で。とりあえず体験版はやってみるつもり。


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