2006年3月分


・本
 『私立!三十三間堂学院』/佐藤ケイ(メディアワークス)
 『クライマーズ・ハイ』/横山秀夫(文藝春秋)
 『聖者の異端書』/内田響子(中央公論新社)
 『山猫の夏』/船戸与一(講談社)
 『アストロ!乙女塾!』/本田透(集英社)
 『火怨(上・下)』/高橋克彦(講談社)
 『とらドラ!』/竹宮ゆゆこ(メディアワークス)
 『ベルリン飛行指令』/佐々木譲(新潮社)
 『獅子の門(群狼編〜白虎編)』/夢枕獏(光文社)
 『第三の時効』/横山秀夫(集英社)
 『Op.ローズダスト(上・下)』/福井晴敏(文藝春秋)
 『黒い悪魔』/佐藤賢一(文藝春秋)


2006-03-30.

・最近、気絶するように寝入る焼津です、こんばんは。フッと意識が消えて、起きると電気つけたまま眠ってたことに気づくことが二度ほど。これが「春眠暁を覚えず」ですか。なんつーか語感に伴う微笑ましさが微塵もなくて少し怖いんですが。

古橋秀之の『冬の巨人(仮)』、6月に延期の模様

 オルタも出た。ロスチャも出た。しかし彼らの延期SPIRITSを受け継ぐ『冬の巨人(仮)』は今日もまた延び続ける──

 これなんて生殺し?

・佐藤賢一の『黒い悪魔』読了。

 『三銃士』『モンテ・クリスト伯』で知られる文豪アレクサンドル・デュマの父親を描く長編。父も父でアレクサンドル・デュマ、更には文豪の息子もアレクサンドル・デュマだから実にややこしい。

 コーヒー農園の黒人奴隷──詰まるところ、少年期のデュマはそれに過ぎなかった。農園主である白人貴族が父なため正確には混血(ムラート)であったが、その身が奴隷であることに変わりはなく、裡に鬱屈を抱えながら成長した。花の都パリで学問と武芸と遊興を嗜んだ彼は、私生児ながらも引く貴族の血に一滴たりとも恃まず、一兵卒として軍に入隊。持ち前の大柄な体と不退転の意志で「黒い悪魔」と恐れられるようになる。革命と動乱に揺れるフランスが放った人権宣言で差別からの解放を夢見て戦い続けながらも、心が報われぬ日々。やがてデュマはかの将軍ナポレオンとの出会いを果たし……。

 「黒い悪魔」というくらいだからおどろおどろしく、いっそ破天荒で荒唐無稽な活劇ストーリーが拝めるのかと思いきや、割と丁寧にまとまっている生涯録です。もっとこう、寡黙で精強なイメージのあったデュマパパだけれども、かなり明け透けに内面をさらけ出している。自意識が強く、名誉欲を満たして権勢を誇示しなければ気が済まず、そんな浅ましい心理に自己嫌悪を拭えないところもあって常に機嫌が悪く気難しげで捨て鉢な性格。主人公としては生々しい造型であり、佐藤賢一の小説としては割合類型でもあります。ヒーローと呼ぶにはあまりに卑近で、しかしいざという場面では滅法活躍する、親しみが湧くのか湧かないのか曖昧なラインで己なりの歩調を貫く。なべて佐藤作品の主人公は性格的欠陥が目立ち、必ずしも好感が持てるとは限らないが、ざっくばらんな心理描写が癖になる。

 たとえば戦場シーン。奴隷から一兵卒、一兵卒から指揮官、遂には将軍へと上り詰めていくデュマは猪突猛進に先陣を切って敵軍へ攻め込んでいきます。よくいる熱血野郎かと言えば、そうでもない。敵に囲まれながら彼が考えることは「死んでやる」という投げ槍な怨嗟です。思うままに人生を楽しめないせいもあって戦場で我を忘れて奮起するのが一番気楽だ、どうせなら忘我の境地で死にたいと願うわけで、それはそれでよくいるタイプの戦闘馬鹿ですけれど、あくまで内心で叫ぶのは「死んでやる」なのです。当てつけがましく、何より恨みがましい。なのに唱えれば唱えるほど、反面で「死んでやるものか、死にたくない、生き残ってやる」という渇望が芽生えてくる。こうした相克を踏み越え、単に「出世する」「武功を立てる」みたいな目先のこと以上の何事かを達成しようと足掻く姿が終始赤裸々に綴られています。そこで暴かれる本音は「黒い悪魔」の異名が悲しいほど似合いません。「死んでやる」の向こう側に目的を見出すことこそが彼の戦いであって、「黒い悪魔」とはデュマの葛藤が表出した一つの状態であると言えるのかもしれません。

 単体で見れば地味で、代表作として数え上げるのは躊躇される一冊です。しかし、ここから文豪アレクサンドル・デュマの人生へと物語が連なっていくことを思えばサーガの序章と捉えることも可能であり、その雄大さに期待で胸が膨らむ。大デュマを描いた『褐色の文豪』も既に刊行されているので、あとは小デュマの話も出るのかな。


2006-03-28.

『ラブやん』は毎回やってることが大差ないのに時間ばかりが確実に過ぎて行くナァ、と新刊を読むや概ね去年と同じ感想を得た焼津です、こんばんは。なんだろう、この変わらずゲラゲラ笑っていられる安心感に対して湧く不安感は。「おぼれっ子」とかほざくカズフサの言語感覚も無性に心地良くて不気味。

・福井晴敏の『OP.ローズダスト(上・下)』読了。

 『終戦のローレライ』から3年。今年1月に読んだので当方にとってのブランクは2ヶ月ちょっとでしかありませんが、いっぺん発売延期されたこともあって結構待たされた感のある新作です。手に取れば分かりますけど、実に厚い。一段組とはいえ字もみっしり詰まっています。原稿用紙にして2000枚を超えることは確実につき、それなりの覚悟で臨まないとかなり疲弊させられる。

 作戦名「ローズダスト」──朝鮮半島から海を渡ってふたたび日本の土を踏んだ5人の工作員。彼らは、粛々と状況を開始した。アクトグループの幹部を狙った爆破事件。セムテックスを使った手口は10年前の神泉教事件を否応なく彷彿させたが、並河の直観は「違う」と告げていた。防衛庁から派遣された、まだ少年と言っていい風貌の丹原朋希と一緒に捜査を行ううち、事件の裏には二重三重の秘密が隠されていることを嗅ぎ取り、深みに嵌まっていく並河。かつて考案され打ち捨てられた「オペレーションLP」、「ローズダスト」と名乗るテロリストたち、「敵」との浅からぬ因縁を覗かせる朋希。やがて真実が明らかになるとき、臨海副都心は戦場と化す……。

 「さすがにローレライ級を望むのは酷かなぁ」と思いつつ、割合のほほんとした気分で読み始めましたが、くどいくらい連打される福井節の奔流に圧倒され、襟を正すことを余儀なくされました。位置付けとしては『Twelve Y.O.』『亡国のイージス』『川の深さは』から成る“国防三部作”の延長線上にある作品で、テーマも重なるところが多い。上巻では説明的な部分が目立ち、ちょっと胃もたれしそうになりました。謎に包まれている「ローズダスト」の正体がジワジワ見えてくる展開とスリリングな事件の推移は読んでいて面白いのですが、いかんせん文章量が膨大で疲れます。改行も少なく、上から下までびっしりと文字で埋め尽くされている紙面は気力がないときに挑むと息切れしそうになる始末。いつも通りと言えばいつも通りなんですが。

 下巻に入ると加速が掛かりまくって福井晴敏のくどさが本領発揮。帯にある「もはや映画化不可能」という煽り文句を嘘にはしまいとばかりに筆が暴れています。「臨海副都心は戦場と化す……」なので今回は市街戦の様相を示しておりますけど、この「戦場」のセッティングに関わる情熱はほとんどフェチの領域に達していまして。単純に「トンデモ」という言葉で片付けられるのは憚られる。今回はキャラクターの魅力が微妙だったせいで危惧も抱いたりしましたが、後半の盛り上がりが尋常じゃないことにかけては過去の作品と比べても劣りません。くどいはくどいものの、ここぞという場面での灼熱感は彼ならではのくどさがあってナンボかと。「因縁の対決」というより「過去の清算」という視点に重きをおいて紡がれる物語は「新しい言葉」というテーマを消化しきったかどうか少し疑問もありますが、ラストシーンにもたらされる共鳴の響きは有体に言って清々しく美しい。

 作者の最高傑作、とまで褒めちぎる気はしないけれど、現時点での最新作としてはイイ筋行ってるんじゃないでしょうか。仄めかし方が丁寧すぎて先の展開が読めてしまったり、テロリスト側が必ずしも「悪」として描かれていなかったり、大枠がパターン化していてマンネリっぽいところもあったりで不満は少々ありますが、「マンネリ化してからが腹切り場」だと思いますんで今後にも注目いたしたく。仮に新境地を開いたとしてもいずれこうした国防モノをふたたび書いてほしいものです。


2006-03-25.

・積んだっきり所在の知れない本を探す手間と新しく買い直す出費、二つを秤にかけてどちらを取るべきか葛藤する焼津です、こんばんは。積読の害毒を実感中。

いつの間にか復活していた月道

 404のURLであることを知っていてわざわざアクセスしてみる「跡地参り」のつもりが、意に反して蘇生していました。これは瑞兆ですか。それとも当方にとっての死兆星ですか。なんであれ巡回先が甦るのは嬉しいかぎり。

・横山秀夫の『第三の時効』読了。

 F県警捜査第一課強行犯係の活躍を連作形式で描く刑事小説。強行は大きく一班、二班、三班と分かれており、それぞれで手柄を競い合っている。一編ごとに語り手を変えることでそのへんの雰囲気がちゃんと伝わってくる練達ぶりが目に心地良い。マンガ『強行』の原作であり、発刊年はこのミスでも上位にランクしていて、帯に叫ばれている「これが、横山秀夫の最高傑作だ!」という謳い文句もあながち誇大広告ではない一冊です。

 これまで警察小説をいくつも手掛けておりながら、正面切って「刑事」を描いた作品はほとんどなく、全編匂い立つほどの刑事臭で噎せ返っている本書は作者にとって異例。むしろこれが異例になっちゃう作者が異例なのかもしれませんが。若き日のトラウマから少しも笑わなくなった一係の班長・朽木、公安畑の出身で同業者から嫌われ抜いている酷薄な二係の班長・楠見、インスピレーションの力で即座に事件の本質を直観する三係の班長・村瀬と、強行を率いる面々からして個性バリバリですが、下に付く刑事も、朽木とは逆に幼き日のトラウマから偽りの笑顔を貼り付けて道化を演じるようになった矢代など、ひと癖もふた癖もある面子で構成されています。

 本書の読みどころは事件の真相を探り当てようとする謎解き部分もさることながら、読み進めるにつれ明らかになってくる捜査第一課の人間模様にあり。毎回語り手の内面に深く踏み込んでいく方式で描かれているために個人ドラマとしても濃厚な側面を持っていて、あるエピソードで主役を務めていた刑事が別のエピソードで脇役として登場すると、こう、思わずニヤリとしたくなるんですよ。「ペルソナの微笑」に出てくる矢代なんかは特にそう。ペルソナの終盤に見られるファルスめいた攻防がやけに印象的なだけに、チョイ役で出てきても嬉しくなります。同時に三つの殺人事件の捜査が進行する意欲作「囚人のジレンマ」は捜査第一課長が全体を俯瞰する構成になっており、この強行シリーズそのものを見詰め直すような雰囲気が漂っていて面白い。

 白眉はやはり、表題作「第三の時効」。1週間の渡航期間を勘案し、事件発生15年の「第一時効」より7日後に「第二時効」を設定したところ、二班の長・楠見は「第三時効」の存在をほのめかす。時効成立間際の殺人犯を燻り出そうとするのに加え、楠見という人物を「得体の知れない男」として描いているために、二重三重のサスペンスが繰り広げられます。少なくともこれまで読んだ横山短編の中ではベストと言って差し支えない一品かと。

 幾度となく噴出する「奴らを野放しにできるか」という、執念を越えた情念。切り詰められた心理描写。地味ながら緊張感に満ちた読み応え。「燻し銀」のイメージが似合う作家・横山秀夫の面目躍如って趣がありました。横山作品に初挑戦するならコレ、と自信を持ってオススメいたしたく。是非とも続編を願いたいところですが、どうやら新期の連載が始まったみたいだし、遠からぬうちに本にまとまるのではないかとワクテカしながら待っております。

・拍手レス。

 六ツ星きらりは預かった!返して欲しくばSSを更新s(ry
 くっふふふ… SSというものは ひとたび ひとたび放置すれば 二度とは 二度とは

 今日始めて来ますた。エロゲ楽しいですよね!黒須チャン大好きです。
 なんか面白いので自分のサイト。http://www.geocities.jp/awahoehoe/

 CCお好きなら『最果てのイマ』をオススメ。とイマ派の当方が書いてみる。

 ツンぬふぅ!
 ぬふぅデレ

 仮にデレようと痣をつけることに変わりなし。それがぬふぅクオリティ。

 アヤコマでまた角屋が出てますね。……お前、輝いてるぜ!W
 使ってるアヤカシは隠身系統なのに。輝きすぎ。


2006-03-23.

・なぜか最近「ピスケンサンバ」という言葉が頭から離れない焼津です、こんばんは。『きんぴか』を読めというお告げなのか。

・夢枕獏の『獅子の門(群狼編〜白虎編)』読了。

 最新刊の「雲竜編」が出ることもあって5冊一気読み。総計して1100ページくらい。改行の多い夢枕文章とはいえさすがにこれだけあると読み応えもたっぷりです。さて、このシリーズは84年に雑誌連載を開始し、2年後の86年に第1巻を刊行、87年、88年と年一冊ペースで続きましたが3巻目でプッツリ途切れ、4巻が出たのは02年。14年もブランクが空いたわけです。再開後は2年に1冊のやや遅いペースが続いてますが、また急に途切れてしまわないかとヒヤヒヤしながら見守っています。

 芥菊千代、竹智完、加倉文平、志村礼二、室戸武志──バラバラに生きていた男たちが、羽柴彦六と久我重明、破格の二雄を軸にして合流していく。素手と素手、肉体以外の武器を帯びぬ男たちの格闘。彼らが激闘の果てに見るものとは……ってストーリー。伝奇要素やSF要素が絡まず、ケレン味の少ない内容です。あくまでアクション描写と濃厚な人間ドラマで魅せる。複数の主要キャラを配し、特定の人物だけ主人公として優遇しないよう配慮した群像劇めいた構成がハマっており、1巻の時点ではまだ路線が見えてこなかったものの、3巻あたりから一気に面白くなります。「青竜編」の志村礼二VS芥菊千代は『獅子の門』全体で見てもベストバウト。どちらか一方だけを主人公扱いしていたらこうも盛り上がりはしかなっただろうというくらい、燃えます。久我重明が活躍(暗躍?)する「朱雀編」、トーナメント形式の大会が描かれる「白虎編」も面白い。そもそも「白虎編」が読みたくてシリーズを買い集めたのがキッカケなんですが。

 キャラは芥菊千代、志村礼二、室戸武志の3人が好き。菊千代の切羽詰った感じといい、志村礼二の「こわい」ところといい、室戸武志の単純明快な肉体賛歌といい、ぶったぎったような短文の連発でありながら急所をピンポンイトで押さえています。夢枕作品はテキトーにあれこれつまみ食いした程度で代表作はほとんど手をつけておりませんが、どうもこの人は「面白いシリーズを途中で止まらせる」、ザ・ワールドみたいなスタンドを持っているみたいで、熱くなればなるほど反動として不安も鎌首をもたげてくる。せめて一定のペースで続いてほしいなぁ。ともあれ今は「雲竜編」を読むのが楽しみです。


2006-03-21.

・うちのサイトは半分がシグルイネタで出来てるんじゃないかという気のしてきた焼津です、こんばんは。

・そんなわけで拍手レス。

 シグルイラ!シグルイラ! しぐるいら むぐるうなふ ふたぐん
 義姉… あなたは脱げ わたしは履く

 《和風残酷ステキ剣術ドタバタ道場ハッピー無惨ぬふぬふぬふぬふぬふぬふぅコメディ「六ッ星みしり」》
GF団にて「六つ星きらり」を元とするかような書き込みを発見。
「狂ほしく 血のごとき月はのぼれり」云々を口にする部長を思い描き、
拙者の睾丸は赤子の如く縮み上がり、瞳孔は大きく見開かれ申した。

 積みおしき「六ツ星きらり」 いずこぞや。……ほんと、どこいったんだろう。

・佐々木譲の『ベルリン飛行指令』読了。

 デビュー後の数年間、ずっとマイナー作家だった佐々木譲が一躍有名になるキッカケとなった一冊。ジャンルで言えば冒険小説。戦前に密かに行われ、歴史に残ることなく忘れられていった作戦を紐解くって形式で綴られています。血沸き肉躍る、みたいな作風ではないので活劇調の内容を想像して読むとかなり地味に見えてしまうかもしれません。あまり何冊も読んでいませんが、作者はどちらかと言えば重厚な筆致と細かなディティールでしっかりと読ませるタイプであり、入念に描き込まれた文章をじっくり噛み締めるほどに味わいが増してくるものを書く傾向にあります。本書も無論そう。

 英国空軍の目を掻い潜り、タイプ・ゼロ──零式艦上戦闘機をベルリンまで飛ばせ。無理難題と言っていいドイツの要求に、日本海軍は応じざるをえなかった。三国同盟締結を背景にゴリ押しされた作戦。実行を委ねられたのは、腕はいいのに周りと反りが合わずはぐれ者扱いを受けているパイロット・安藤と乾。ふたりは二機の零戦に乗り込み、空前の極秘飛行指令を成功させるべく飛び立つが……。

 「ヒトラーが零戦を参考に戦闘機を量産したいとほざいたから」と、作戦の発端は割合締まらない。こういう、「歴史の闇に葬られた秘密作戦」系のストーリーってもっと目的が壮大だったり派手だったりいっそ馬鹿馬鹿しかったりするのが常ですが、本書に限ってはなんとも地味です。しかし作戦自体は「横須賀→ベルリン」間をイギリスの包囲網の目を盗んで飛び続けるといったもので大掛かり。「じゃあ、いっちょ飛びますか」「オッケ!」ってな具合に気楽な遣り取りで一気に翔け抜けるわけにもいきません。それじゃコメディです。むしろ飛行そのものより計画や準備に費やされる部分が多く、全体中2/3は決行以前の描写が続く。補給や整備をするためのポイントを確保したり、零戦の性能をチェックしたり、ささやかな人間ドラマが繰り広げられたり。試合シーンよりも練習シーンの方が多いほど説得力の出るスポーツ映画みたいなものでしょうか。目的自体はパイロットが「くだらない」と切って捨てるほどなので別にワクワクしませんけど、それでも作戦を放棄しないパイロットの姿には胸が高鳴る。歴史ロマンの要素を出そうとして分量が膨らんでるところもあり、ちょっと中だるみは感じましたが、地味ながら読み応えのある傑作でした。

 プロローグの時点から引き込まれる作品です。当方も何の気なしにパラパラと冒頭を読んだらやめられなくなってしまいました。プロジェクトX(もう放送は終了しているかな)を更に濃密にしたような迫力が全編に満ちている。他の佐々木譲本も読みたくなってきた。


2006-03-19.

・最近、本を読むのが楽しい代わりにゲームを起動する気が湧かない焼津です、こんばんは。この調子だと何を買っても積むだけになるだろうし、月末の新作ソフトは見送りー。代わりに本をドカ買い。

 ……畜生、結局積むのは同じじゃないか。金額も大して変わんないし。

・毎度の拍手レス。

 『炎立つ』からエンタツアチャコに思考を繋いでしまう私は駄目でしょうか?
 エンタツアチャコを邪神の名前と思った当方がもっと駄目です。

 プリンセスうぃっちぃず EXCELLENTなる物が出るそうです。
 シナリオ追加(Hシーン有り)、難易度調整追加、アレンジバトルミュージックの追加、
 アバンタイトル鑑賞の追加が新規要素だそうです。
 追加されたシナリオはスーパーアペンドCDと内容が同じそうです。
 金額を考えるとこっちの方が得だった気が……

 金額は廉価版だからいいにしても、発表するタイミングが微妙のような。

・竹宮ゆゆこの『とらドラ!』読了。

 虎VSドラゴン。「竜虎相搏つ」をえらくコミカルにしてしまったタイトルです。内容は『エンジェル伝説』の北野誠一郎をマイルドしたような主人公・高須竜児と、「手乗りタイガー」の異名をほしいままにするヒューマノイドタイフーンなヒロイン・逢坂大河の凶悪コンビが織り成す熱血ラブコメ。いえ、基本的にまったりしていますが芯は熱血なんです。疾走感もありテンポが良い。ヒロインの名前に某「藤」を連想する方も多いと思われますが、当方はそれより「剛」の人が脳裡をチラついて仕方なかった。虎と竜と禿鷹……ダメだ、全然ストーリーが浮かびません。

 一種の三角関係モノだった『わたしたちの田村くん』に対し、今回はクロッシング。正確な名称は分かりませんがつまり「主人公はヒロインの友人が好きで、ヒロインは主人公の友人が好き」という状況。で、ヒロインは持ち前のドジっ子ぶりから「秘めおきし恋文 いずこぞや」というハプニングを起こし、主人公がうっかり巻き込まれて恋路を応援するハメに。具体例は咄嗟に浮かびませんが、ラブコメとしては割合オーソドックスな設定かと。三角関係だと一人余っちゃいますが、「四人でクロス」なら残りもののペアがつくれますし。

 動揺のあまり木刀担いでカチコミに来るヒロインとか、面罵されても「ボキャがないから言い返さない」と躱す主人公とか、極端な部分と些細な部分が混ざり合って学園ラブコメとしては非常に楽しい仕上がり。ちょっと勢い任せなところもあって一旦ノリがズレると違和感が生じてしまう面もあるけど、新シリーズの開幕編としては悪くありません。ただ恋愛と友愛の区別がはっきりついてないような時期が俎上に乗っているせいもあって、あまり……というかほぼイチャラブ描写がなく、嬉し恥ずかしな恋愛劇を期待すると肩透かしかも。根はあくまで熱血のラブコメであります。なし崩しの馴れ合いから「同じ釜の飯を食った俺ら」って関係に発展していく流れは友情ストーリーに近いか。組み合わせはどうあれ、カップルが誕生してからの展開も心待ちにしたいところですが、なんかこのシリーズって短期決戦の匂いを発しているような気がしますね。無尽蔵に新キャラを投入して引き伸ばすってタイプの構造でもないし。カップリング終了、あるいはその手前あたりで完結しちゃいそうな不安があります。さてはてどうなることやら。

 衝撃度で言えば『わたしたちの田村くん』より低かったものの、これはこれで面白いラブコメです。ヒロインがいい、主人公がいいって言うよりも、ふたりの掛け合いがイイんですよね。最高に仲悪くて最上に仲良さそうで。ひとまずは続刊を期待。2巻は確か5月ですっけ。虎の覚醒に淫夢を研ぎ澄ませて待とう。


2006-03-16.

・ガラスの靴を履こうとした灰被り姫が義姉に突かれたり、十二時の鐘がゴォォォォンと鳴ったり、魔女が曖昧だったりする昔話「シグルイラ」を夢想した焼津です、こんばんは。「やめにいたすか 舞踏会の参加 やめにいたすか灰被り姫」「魔法使いのお婆さん… この日のため私は精進して参りました」 この調子で絵本系の童話は改竄できそうな気がしてきました。

・拍手レス。

 ふんぐるい むぐるうなふ 焼津 ふぉまるはうと んがあ・ぐあ なふるたぐん いあ! 焼津 ぬふぅ
 いあ! もぐたん!

 Faith/stay knightに対してなにかお言葉をwww
 ランサーがアックス野郎になってるのは何かの間違いですか。

・高橋克彦の『火怨(上・下)』読了。

 読みは「かえん」で、「火焔」を文字ったとのこと。第34回吉川英治文学賞受賞作。副題に「北の耀星アテルイ」とある通り、古代東北を舞台に蝦夷の英雄・阿弖流為と朝廷との争いを綴っています。作者は『阿弖流為2世』の原作も手掛けている。読み出したキッカケは『AYAKASHI』にアテルイが出てきたから、とごくミーハーなもの。阿弖流為の名前は見聞きしたことがあっても詳しいことを知らなかったのでまずは試しに、と手に取ってみました。パラパラとめくってみた冒頭もなかなか面白げで、じゃあ本格的に読んでみようかと挑んだ次第。

 八世紀、陸奥──辺境の民、卑しい者どもと蔑まれていた蝦夷たちが朝廷に明確な「敵」と認定された要因。それは地中に埋もれた莫大な黄金であった。辺境と軽んじていた地にまさかの金脈を掘り当てた朝廷は東国の支配に躍起となる。幸か不幸か蝦夷は黄金を貴重視しておらず、朝廷と争うこともなく金を取らせるがままにした。飽くことなく黄金を欲する帝。蝦夷を人と思わず、獣のように扱う朝廷の態度に耐えかねた鮮麻呂は遂に陸奥按察使を討つ。「蝦夷の楽土をつくる」という理想に燃える阿弖流為は報復に訪れる朝廷の兵を退け、鮮麻呂が開いた戦端を拡大していく。蝦夷とは何であるか。それを知らしめようと、敢えて降伏の道を捨て、自ら攻めることもなく「守るための戦さ」に徹する阿弖流為。やがて彼の前に征夷大将軍・坂上田村麻呂が立ちはだかり……。

 全部で1000ページを超える分量ながら、あっという間にめくり終えてしまいました。蝦夷に関する知識など細かい事柄が言及される部分は多いけれど、退屈しないように巧く書かれています。「歴史小説」と聞くと昔読まされた日本史の教科書を思い出したりして少し怯むところのある当方でも安心して読めました。主人公の阿弖流為はとても分かりやすい熱血漢で、なんというかNHKの大河ドラマで主役を張っていてもおかしくないキャラクターです。他の仲間たちも明るく飄々とした奴らが多く、なんだか「歴史ロマン」って重々しい響きに似合わない陽気さを発散しています。おかげで楽しく読めたものの、予想と違っていたといいますか、こう、夢中になるほどの盛り上がりには欠けるなぁ……とか思ってしまいました。上巻までの時点では。

 下巻に入ってからがすごい。正に「巻を措くに能わず」って感じで圧倒されます。十万の軍勢に対し一万五千の兵で攻防を繰り広げる「血闘」、蝦夷に真の勝利をもたらすために獅子奮迅する「黙示」、二章の迫力に呑まれて一気に読みました。相手が蝦夷を人間と認めない以上、半端なところで戦さを終わらせれば皆殺しにされてしまう。蝦夷を認めさせるために振りかかる火の粉を払い、戦い続けねばならない。阿弖流為たちの決して蛮勇ではない勇気と覚悟が押し寄せてくる展開は熱いを通り越して悲壮であり、たまらず目が潤みました。元が新聞連載だったせいで同じ説明を繰り返すようなクドい部分があったりするし、いささか阿弖流為サイドを優遇しすぎで御都合主義めいている箇処も目立ちますが、火照った肌を冷ますほどではありません。「ただ勝てばいいという戦さではない」ということを痛感し、待ち受ける運命の苛酷さを知りながら恐れずに立ち向かっていく阿弖流為の姿はいつかどこかで我々が夢見たヒーローの背中と重なるはず。wikiやgoogleで調べるかぎり阿弖流為の史料はあまり残ってないようで、大部分が作者の想像によって「復元」されています。活き活きと東北の野を駆け抜ける阿弖流為もさることながら、何倍もの兵力差を策略で埋める知将・母礼の采配ぶりは瞠目に値します。母礼も母礼で目頭が熱くなることを叫ぶイイ男なんだよなぁ。

 没入すれば落涙しかねない威力を持った一作。あまりにも格好良すぎるといろいろ込み上げてきて泣けてくるものです。高橋克彦はどちらかと言えばミステリ作家と認識していたせいもあって歴史小説の類は購入しておらず、己の不覚に身悶えせんばかり。『炎立つ』『天を衝く』も急いで買い揃えねば。


2006-03-13.

・「アングラー」をアングル人のことだと思ってしまった焼津です、こんばんは。

『花の名前』は地味に面白いなぁ。地味すぎて続きを買おうか迷ったこともあるけど、2巻もやはりゆったりほのぼのと面白かった。ちょっと急展開でヒキもあったりしましたけど。密かな想いをこれだけ可愛く描けるのはやはり少女マンガならではかと。

・本田透の『アストロ!乙女塾!』読了。

 タイトルが男塾のインスパイヤなのは『私立!三十三間堂学院』と同じですが、ベクトルは全然違います。「アホっぽいドタバタコメディ」という路線をこれでもかというくらいの豪速球で描いている。普通なら照れや恥じらいが入って球威を落とすところだけど、むしろこの作者はバランスを崩して前のめりに倒れ込んでしまうほどのパワーで放っており、「なぜか本文が上下二段組」「無駄な薀蓄がやたらと入る」などといささか誤った方向にまで情熱の矛先が突っ走っています。あたかも具材を詰め込みすぎた弁当箱の如き威容。

 ジャンルとしては「女装潜入モノ」。何の取り柄もない地味少年が幼馴染みの少女に嵌められて女子校に転入する、これ自体はごくありふれたストーリー。でもおとぼくみたいな雰囲気を期待すると読み出して早々に頚椎が折れます。細部に至るまでひたすら強引でアホで勢い任せ。「説得力なんてデストローイ」の世界ですよ。もしこれが標準的なライトノベルだとするなら深夜の海外通販番組でボブとジョージが宣伝目的の掛け合いをすることさえ努力と友情と勝利の熱血ストーリーになってしまう。あえて誰もがうんざりするほど味わったであろうお約束の御都合主義をブルドーザー級の精力で推し進めることによって一種突き抜けた面白さを醸しています。終盤はグダグダ状態をメタ化するほどのグダグダ。しかし一方でマニアックというか中途半端にヲタ系なネタを混ぜ込むことで非常にヌル〜い空気を漂わせてもいます。大藪春彦と豪屋大介を同列視する件とか、ウケ狙いにしてはあまりにも微妙すぎるチョイス。言ってみれば全体的に駄菓子臭いスメルの作品です。ドギツい着色料と舌が痺れるような甘味料、口に残るウマくてマズいケミカルな味わい……ある意味、郷愁を誘う。

 女子校が舞台だけに女の子だらけでハーレム展開、執拗に「おっぱいでぱふぱふ」「抱き枕にしてお尻を撫で撫で」とリビドー迸るエロコメに仕上がっています。安直な妄想と狡猾な計算、それらを凌駕してなお有り余る情熱が物語の内に収め切れずに暴発した、これはスーパーダッシュのゴモラ。基本的に勢いだけで読ませる話でしたけど、読めるだけの勢いは充分にありました。駄菓子臭い作品でもOKな人にのみ推します。


2006-03-11.

・挨拶代わりに拍手レスを試みる焼津です、こんばんは。

 延期? くっふふふ 焼津殿…
 発売日というものは ひとたび ひとたび 遅れれば 二度とは  二 度 と は
 (なんて言いつつも蝿声の王、発売が楽しみです)

 蝿声の王…まこと遠うなり申した。

 むーざん むーざん ろーすくりの でびゅーさく
 みどりのだいす ころころ とくてんに つけたら
 ふ〜りょうひんが おくられてきた むーざん むーざん
 ろくじゅうよんの しゃちょう てくてく
 そうこにだいすを みにいったら はつばいびが えんきした
 むーざん むーざん

 それはおよそ一切のゲームブッカーが見たことも聞いたこともない奇怪なダイスだった。

・今日も『シグルイ』を読み返しています。

第2回『Fate/stay night』キャラクター人気投票、結果発表

 今見ているところです。果たして当方が1位票を投じたキャラはどうなっているか。ワクワクします。

 ……でも2位票は誰に入れたっけ。うろ覚え。

・船戸与一の『山猫の夏』読了。

 一言で内容を要約すれば『FESTA!!』

 と云うのは乱暴なのでもう少し詳しく。ブラジルの架空の町「エクルウ」を舞台にした冒険小説です。“南米三部作”の第1弾であり、著者の初期代表作でもあります。

 アフリカ・ヨルバ族の言葉で「憎悪」を意味する町、エクルウでは100年に渡って2つの家系が啀み合っていた。アンドラーデ家とビーステルフェルト家。町に君臨する両家は絶えず抗争を繰り返し、互いに死人を出しては暗黙のうちに休戦して小康状態に入り、せっせと人員を補給した後でまた抗争を起こす。警察は賄賂を貰って見て見ぬふりをし、軍隊は倉庫の武器を横流しして、教会は葬儀費用をふんだくる。両家と直接関わりのない町民たちも、「店がどちらの家御用達か」といったことで二派に分かれていた。さすがに町民たちが殺し合うことはなかったが、彼らは他派の郎党が死ぬたびにどこかゲーム気分で喜んでいた。明らかにこの町は狂っている。分かっていながらも、淡々と酒場の仕事をこなすしかない日々。しかし、山猫(オセロット)と名乗る東洋人が現れた日を境に事態は急変していく。白黒まだらの髭に覆われ、深い皺を刻み込んだ、四十代半ばほどの男。彼は、手に手を取り合って駆け落ちしたアンドラーデ家の長男とビーステルフェルト家の長女のふたりを連れ戻してくるという任務を帯び、掻き集められたならず者どもと一緒に追跡を開始するが……。

 南米版『ロミオとジュリエット』。ただし、逃避行する本人たちではなく、連れ戻すために足跡を嗅ぎ回る猟犬側の視点から描き、やがて『赤い収穫』的狂騒に結びつけていく。流れ出る血もすぐさま乾くという酷暑の地で繰り広げられるストーリーは躍動と抑制の二枚重ねで、夢中になって読み耽ってしまった。なるほど、傑作と謳われるのも頷けます。いくつか読んだ最近の船戸作品と比べても、熱の篭もりようが段違い。前半の時点でビリビリと肌に伝わってくるものがあって「これがつまらないわけはない」と確信した次第。もともと文庫版では上下に分冊されていたのを新装版にする際1冊にまとめたって経緯があるだけに結構な厚さを有していますが、決して無駄に長いということはありません。常に「進むべき目標」を見定めて紡がれているおかげで一切のブレがなく、中だるみを覚えずに最後まで読み切りました。むしろもっと読みたかったと物足らなくなるほど。

 あぶれにあぶれて日本からサンパウロへ、サンパウロからエクルウへと流されてきた半端者の主人公はいかにも船戸キャラって感じですけれど、話の焦点となる「山猫」──これがまた素晴らしかった。悪党ではあるけれど、豪快な真似をしでかしてはゲラゲラと笑い飛ばす胆の太さが清々しい。現状把握を怠らず、常に先を見越しているから読者の興味を引っ張り続けるだけの行動力を発揮することができる。冷ややかだけど冷めているわけじゃないし、熱いけれど暑苦しくない。「謎めいた人物」に求められる陳腐ではない魅力がギュッと凝縮されています。いささか超人じみているとはいえ、正に破格のアンチヒーロー。主人公が彼に感化されてだんだんタフガイに変貌してくるあたりも、イイ意味で「お約束」を守った筋立てにつき、非常にワクワクしました。

 とにかく楽しいんですよ。ならず者を連れて半砂漠を横断する件にしろ、山猫の正体が少しずつ明かされていく展開にしろ、アンドラーデ家とビーステルフェルト家の対立がどう転がっていくかにしろ、ひたすら「続きが読みたい」って思いが湧いてくる。終盤は予想ほどに荒れなかったというか予定調和気味にキレイにまとまっちゃったのが不満にしても、ぞくぞくするような見せ場がいくつもあって退屈しなかった。

 かれこれ20年以上も前に書かれた小説ですけれど、ほとんど古びたところがなかったし、今日の冒険小説と比べてもまったく遜色なしの出来映え。薀蓄、というほどでないにしても全編に渡って挟まれる南米豆知識の積み重ねが「山猫の掻き乱す夏」の雰囲気を絶妙に醸してくれる。渇きが満たされる一方で喉がひりつく、極上の一冊でした。


2006-03-09.

『特ダネ三面キャプターズ』が異様にツボった焼津です、こんばんは。海藍はできておる喃。最初からワッとキャラが出てくるし絵柄のクセも強いのでなかなか見分けがつかなかったけど、各々の個性が掴めるようになってきたあたりから桁上がりに面白くなります。一種様式美の世界ですが、完成度が高くヒネリも利いていて飽きません。面白すぎて毎回「え、もうこのエピソード終わりなの?」となってしまうのが不満なれど。純天然巡洋艦と真性サド子、永久に三十路手前を彷徨うゴールド・エクスペリメント・レクイエム教師の三人が好き。

・内田響子の『聖者の異端書』読了。

 Cノベルスの新人賞で「優秀賞」を取った作品。大賞の『光降る精霊の森』も以前に読んだことがあります。「半分人間で半分精霊の少女」というヒロインが魅力的で、全体にはやや粗が見えましたが、場面場面の描写が鮮明に迫ってくる出来映えで、続編が楽しみ。翻って本作はシリーズ化が望めないながら、きっちり1冊にまとまる構成となっていて巧いです。堅実なのにあざとさすら感じてしまうほど。列聖された教皇の遺骸に添えられていた明らかな「異端書」、その書き手は匿名でも無名でもない、真実「名無し」のお姫様だった──というのが大枠。

 わたしは女である。名前はない。「ファルゴの姫」、「ゲーデリクの娘」といった呼び名以外には──南に険しい山、北に荒れる海、東西に深い森、大陸の北に位置するファルゴで領主ゲーデリクの娘に収まっているわたしは、年頃だからとさる家に嫁ぐことになった。相手は母方の縁戚に当たる青年で、南の国に住み、面長の容貌といささか善良すぎて物事を単純に受け取るのが特徴であった。わたしとしては特にこれといって不満はない。向こうも同じようで、式次第はつつがなく整えられていった。そして迎えた婚礼の夜。稲光とともに、未来の夫は消えてしまった。表向きは落雷で死んだことになったが、棺は空っぽで、とても納得できる事態ではない。誓いのキスさえ済ませていないのに早くも後家となりかけているわたしは、どうにかして失踪した旦那(になる予定の男)を探し出そうとするが……。

 「女性に名前がない」という時代を描いた冒険ファンタジー。主人公が本当に名無しで、他の女性キャラも「誰それの妹・妻・娘」といった具合しか書かれていません。それが違和感を誘うかと言えばそうでもない。下手すると最後まで「女性は名無し」という事実に気づかないまま読み終えてしまう可能性がある。プロローグで触れられているにも関わらず、です。ファンタジー小説はカタカナの名前を覚えるのが難しいって向きもありますし、却って画期的なのかもしらん。

 名前のない少女による一人称って形式はなんだかハードボイルドみたいですが、形式だけじゃなく語り口までちょっと固ゆで卵調。理知的で、冷めていて、勇気があるというかやや無謀な主人公が淡々と事態を綴っている。「かくあるべし」といった美徳に反逆しつつ、反逆せざるをえない自分を申し訳なく思いながらも、結局は開き直っている様が愉快。「いくらわたしがお姫様っぽくないからって、この扱いはあんまりではないか」といった不満を滲ませる場面がいくつかあるが、「お姫様っぽくない」ことをちゃんと自覚し、「この扱い」と自らの不遇を客観視している冷静さが窺えるところなど、勢い任せな一人称とは一線を画していて面白い。情緒に乏しく低体温気味、しかし育ちが良いせいか変にズレてる部分もあってなかなか憎めません。スマイル0円。騎士になりたかった幼馴染みの修道士や、あまりにも実務的で王子としての風格がない騎士と、サブキャラの個性及びそこへ向けられる主人公の観察も読んでいて楽しかった。

 「消えた旦那の捜索」という目的の他に「神様を懐疑する」っていう大きなテーマも並走しており、ストーリーは主人公たちがあっちを出発したと思ったらこっちに来て今度はそっちに行く、とやたらバタバタして舞台が変わるものだから落ち着かない。冒険に旅要素は欠かせませんが、さすがにここまで来るとRPGライクなお使いクエストに見えてしまってどうにも。悠揚迫らぬ筆致に対して目まぐるしい展開。やはり相性が悪い。

 語り口が静かすぎるのと、後半の展開が慌しいのとで盛り上がりを削いでいる節もあり、ひたすら熱中して読めるタイプの本ではないと思います。ただ、このローテンションな語りがひとたび肌に合えば、他所では得がたい好感触を覚えること間違いなし。コメディとはまた異なった意味で脱力しているオフビート系ファンタジー。後日談も含めてスッキリと爽やかな余韻があります。


2006-03-06.

・花粉症持ちにはつらい季節がやってまいりました。くしゃみと鼻水と頭痛と眼痛の絶えない焼津です、こんばんは。田舎にいたときは普通だったのに、上京した途端発症したんですよねぇ……帰郷してからも一向に治らない。しばらくティッシュと目薬の手放せない日々が続きそうです。

【動画あり】気持ち悪い四足歩行ロボット(あんりみてっど)

 音といいモーションといい、確かに見ていて気持ちの良いものではありませんが、言うほど不快じゃないです。というかこの走破性とバランスは素ですごい。まさか蹴られて倒れないなんて。あとはこれにカレンデバイスを積むだけですね。

・横山秀夫の『クライマーズ・ハイ』読了。

 作家になる前は新聞記者を務めていた著者が実体験を元に書いた報道小説。1985年夏、日航ジャンボ機墜落事故──群馬の新聞社・北関新聞に勤務する記者たちは「地元の事故だから」と熱意を込めて取材し記事をつくるが、幹部には「たまたまうちの県に落ちただけの『もらい事故』」という冷めた意識が窺えた。両者の相違が温度差を生み、全権デスクを任された悠木は何度となく上の意見と衝突することになる。複雑な人間関係。夜毎に刻々と迫るデッドライン。記者としての意地を懸け、前代未聞の大事故を切り捌いていくが……。

 題名や装丁からするとまるで登山小説のようですけれど、「明日の一面はどうするか」「このネタは使うか、使わないか」といった新聞の紙面づくりにまつわる遣り取りをひたすら描き、合間に登山パートを入れる構成になっていて、つまり「山登り」は作品を象徴する要素であってもメインの題材にはなっていません。記事一つの処遇を巡って睨み合い怒鳴り合い、時には掴み合いにも発展することもあって「燻し銀」のイメージがある横山小説にしてはえらく熱血しています。それでも文章は弛まず引き締まっており、渋くて読み応えのある内容に仕上がっていることは変わりない。事故そのものではなく、事故を報道する新聞社に焦点を絞ったストーリーは地味と言えば地味です。しかし熱いし、興奮もする。山場に差し掛かってくるとまず先触れにガツンと一発鋭いのが来て、しばらく間を置いて焦らしてから立て続けに二発、三発と突き上げるようなテンションで盛り上げてきます。臨場感、緊迫感、ともに限界まで高めているがゆえに激しい圧力を持っている。読み出したら止まらなくなりました。

 何らトリッキイな仕掛けはなく、飛び道具じみた要素もありませんから、目を惹く宣伝が難しい作品だと思います。いざ読んでみれば実は見た目や序盤の穏やかさに反するハイテンションが全編を占めていることに気づかされ、心が沸き立ってしまう。ただ主人公の言動はまとまりを欠いてちょっと賛同しかねるところがあり、プライドがどうのと吠えている割には彼自身が信念を貫徹していない節も。とはいえ「一気に読める」という点で上質なエンターテインメントだと思います。今まで読んだ横山作品の中では一番かも。短編集がほとんどなので、あまり比較対象がないんですが。


2006-03-04.

これを見て咄嗟に「からくりの君?」と思った藤田和日郎スキーの焼津です、こんばんは。音夢姫がさくら丸、ことり丸、うたまるの三体を操って壮絶な伝奇アクションと極限のアレンジ商法を繰り広げる『曲芸ダ・カー法帖』の開幕にワクテカ……え? そもそも画像の子って音夢じゃない?

『蠅声の王』、三度目の延期(3/24→4/21)

 今、ようやくタイトルの意味が分かりました……「さばえ」は「五月蠅」、つまり最終的な発売日が5月になるという予言が込められていたんですよ。恐らく、あと一回延期するはず。

 などと駄ネタを飛ばしたくなるような発表に気持ちがどんより。古橋の『冬の巨人』もいつの間にか延期していますし、なんだか逃げ水な日々。

まきいづみの公式サイトオープン

 というか今までなかったんですか。いえ、声優のHPとかブログって普段見てないもんですから疎くて。はじめてまきいづみの存在を知った『てのひらを、たいように』に関するコメントもあって感慨深いです。

『プリンセスうぃっちぃず スーパーアペンドCD』の情報公開

 すっかり忘れていました。まだ間に合うみたいだしハガキ出さなきゃ……って、うわっ、久々にパッケージ引っ張り出したらおもっくそ歪んでた仕儀。上に他のソフトを無造作に積みまくったのがいけなかったのか。

・佐藤ケイの『私立!三十三間堂学院』読了。

 タイトルは男塾パロですが、設定的には『ネギま!』、内実は戦記モノ。共学化が決まった女学院に、初の男子生徒として転校してきた主人公。彼は複数のヒロインからターゲット認定されることに。ヒロインたちは主人公を巡って派閥を組み、時に権力、時に策略、特に扇動の力で以って彼を獲んとする。様相は自然と泥沼化し、やがて乙女の園は仮借なき戦乱地獄絵図を描き出す……。

 作者は三十三間堂の仏像をもとに31人のヒロインをつくったという。1巻だから全員が登場する余裕はなく、出てくるのは一部のみ。とはいえ擬人化(?)ネタもここまで来たかと感心させられることしきり。単なる見立てであって、元ネタが仏像である意味とかは特にないんですが。あと、絵師さんが頑張って描き分けている割に萌える娘が一人としていない。なんとなれば、作者が佐藤ケイだからです。

 ヒロインたちによる「主人公の争奪戦」が眼目となっている分、ハーレムものというよりは恋の鞘当てものといったところでしょうか。「ポリティカル・ラブコメ」という呼称がしっくり来る謀略要素たっぷりな政治的駆け引きが見所。一応ドタバタっぽいシーンもありますが、「だったらテメェは『死ね』って言われたら死ぬのかよォォッッ!」と叫びながら鉄パイプで殴りかかってくる意味合いでの「ドタバタ」であって、色気もクソもありません。本当に女子高生ですか、彼女たちは。「簒奪者」「敗北主義」といった言葉をちりばめノリノリでヒットラーのアジ真似をする子なんかもいますし、なるほど佐藤ケイらしい発想に満ちている。普通のラブコメとしても読めますが、妄想の介入を拒否するドライなやりすぎ感が心地良い。丹念に読んでいけば小技の利いてる場面も多く見つかり、なかなか続きが楽しみになってきた次第であります。

 それにしてもここまで存在感のない主人公&メインヒロインも珍しい。特に主人公は心情描写がほとんどなく、ヒロインすべてに対してあまり関心を持っていない節が。こうやってシチュエーションだけ立てといて好き勝手やるノリは、最近目にしたものだと『シスマゲドン』に通じるものがあるかと。ちなみに当方は真奈スキー。あやとの遣り取りらへんが気に入っている場面です。

・拍手レス。

 しまいまのポイントは絢音さんじゃ!と断固主張する所存でありますby館7買った奴
 絢音さんまだ出てきたばかりですが、一戦交えるのを楽しみにしております。

 『しまいま。』が電撃姫来月号の付録DVDにまるっと収録されるそうです。
 アリスの本気ぶりが伝わってくるなぁ。

 冬の巨人は四月に延期だとか。セツナイ……
 もう冬でもなんでもない……

 当方も百合苦手故、お気持ちは良くわかります。…といっても生理的嫌悪方向なので青春系も駄目なのですが…
 別に肩身が狭いというわけではないですが、なんとなく告白したくなりますね、こゆこと。


2006-03-02.

・どうでもいいうえに何の脈絡もない話ですが、当方は百合モノが苦手です。ガチレズに走ったり♀×♀のエロに突入したりといったものについては特に。嗜好は割合貪欲という自負があり、保有する属性は挙げていくのが面倒なくらいというかわざわざ属性と言い張る必要があるのかってくらい無節操なんですけれど、そっち方面ばかりは身体も心もほとんど反応しません。理屈の上では「可愛い女の子が当社比二、三倍でウハウハ」と分かるものの、それなら両手に花やハーレムで行ってくれという思いがあります。出てくるキャラがおにゃのこばっかりで、更に耽美色を強調されたりすると、もうどうにもキツい。考えるに、視点の置きどころがないんです。対立項の欠如によって「少女」という輪郭を捉えるための視点を失い、作品世界やキャラクターとの一体感が覚えられなくなる。百合ズムが理解できないというよりも、ガラス越しに見るような疎外感があって、没入ではなく観察に近い態度になってします。

 マリみてはソフト百合とかライト百合の代表格とされているにせよ、そういうことを意識せずに読んでも学園モノとして楽しめるから一時はハマっていましたが、よそで百合性を重視する見方に触れるうちにだんだん苦手感がぶり返してきて距離感を覚えるようになり、気がつけば読まなくなっていました。百合的な見方や百合意識さえ抱かなければ読めたと思いますが、一度気にし出すとどうにもダメです。

 とはいえたまーに百合方面でも肌にしっくりと来る作品があり、決して嫌いというわけではなく。たとえばやや旧作気味ですが橋本紡の『毛布おばけと金曜日の階段』、あれの一話目は同級生の女の子に恋をしている少女が主人公で、相手は友達としか見ていないっぽいから言い出せずにいる、でも……というシチュエーション。これがやけにハマりました。この掴みが良かったからこそ『毛布おばけと金曜日の階段』にもハマり、ひいては橋本紡を気に入ることになった次第。思えば同性愛の♂×♂モノでも一方だけが淡い恋心を抱いていて、どう考えても報われる可能性がまずないって状況のストーリーを好む傾向にあります。基本的に801ネタも苦手なのに。

 要は当方の百合に対する苦手意識も、「報われぬ恋」という装備があれば克服できるのではないかと愚考したわけでして。単に少女(きれいなもの)と少女(かわいいもの)が戯れるだけでなく、そこに「同性を想う」ことへの葛藤や不安、諦めようとして湧いてくる虚しさや抗いの念があり、なおも想い続けようとする儚いとは言いがたい確信があってこそ、初めて視点が固定化し、当方の鈍感な鼻でも百合のロマンが嗅ぎ分けられるようになるのでは……!

 夜中にキモい長文を発信してみた焼津です、こんばんは。結論としては耽美系の百合よりも青春系の百合が好きみたいです自分。

・今月の大まかな購買予定。

(本)

 『花の名前(2)』/斎藤けん(白泉社)
 『とらドラ!』/竹宮ゆゆこ(メディアワークス)
 『Op. ローズダスト(上・下)』/福井晴敏(文藝春秋)
 『イン・ザ・プール』/奥田英朗(文藝春秋)
 『脳髄工場』/小林泰三(角川書店)
 『第三の時効』/横山秀夫(集英社)
 『NEEDLESS(4)』/今井神(集英社)
 『ソラにウサギがのぼるころ』/平坂読(メディアファクトリー)
 『わたしたちが孤児だったころ』/カズオ・イシグロ(早川書房)
 『冬の巨人』/古橋秀之(徳間書店)

 とりあえず買ってみようと思う本を毎月ズラズラ並べていましたが、今までは少々並べすぎだった気もするので今回から数を絞ってみようかと。だいたい10冊程度が目安。『花の名前(2)』は評判に釣られて読んでみた1巻が面白かったから買うつもり。両親の死がショックで一時は失声症に陥っていた少女が、遠縁に当たる作家に引き取られて回復し、淡い想いを抱きながら日々を過ごすというストーリー。軸となる要素がないためいつ終わってもおかしくありませんが、逆に言えばいつまでもひっそりと続いてもおかしくない味わいです。『とらドラ!』は『わたしたちの田村くん』の作者が放つ新シリーズ。やはりまたラブコメということで、田村くんの続きが来ないのが残念だけど楽しみにしたいところ。『Op. ローズダスト』は発売が先月から伸びました。今月は出るといいなぁ。『イン・ザ・プール』は直木賞を取った『空中ブランコ』の前作に当たる一冊。これ自体評判がいいし、いずれ『空中ブランコ』も読みたいので押さえておこうかと。『脳髄工場』は著者の最新短編集。SFとか理屈重視のホラーを書かせると巧い人だし、短編くらいの尺に収まるとちょうどいい作風。炸裂するであろう泰三節を期待したい。

 『第三の時効』は横山秀夫の本でもとりわけ随一とされる作品集。マンガ『強行』の原作もこれだったはず。『NEEDLESS(4)』はギャグとバトルの混合比率が心地良い能力アクションコミック。変態神父が「判決死刑」と大暴れ。これで刊行ペースが週刊マンガ並みなら文句ナシなんですけれど。『ソラにウサギがのぼるころ』は平坂の新シリーズ。いえ、本当にシリーズ化するかどうかは不明ですが、単発狙いというのも考えにくいので。単なるラブコメではないだろうけれど、ラブコメの面白さは押さえてくれるといいな。『わたしたちが孤児だったころ』は文学路線の日系作家が手掛けたミステリっぽい長編の文庫版。「魔都」と呼ばれた頃の上海が舞台となる模様。最初に存在を知ったのは新聞書評でだったかな。何年も気にかけていた作品なので、この機会に購入します。予習として『日の名残り』あたりを崩したいけど、どこにやったっけ……。

(ゲーム)

 『蠅声の王』(LOST SCRIPT)
 『この青空に約束を─』(戯画)
 『その横顔を見つめてしまう』(あかべぇそふとつぅ)

 『蠅声の王』は確実に買います。本当に発売されたなら。二度も延期されたせいで少しダレ気味。『この青空に約束を─』、丸戸好きの当方には手堅い一作……のはずですが、戯画はバルフォ以降目ぼしいソフトにちょいちょいと手を加えて発売し直す傾向が強くなっており、「どうせすぐに完全版が出るだろ」みたいな空気もある。よって買い控えの選択肢も視野に含めています。『その横顔を見つめてしまう』は『A profile』のリメイク。画像が全面的に描き直され、ボイスも収録、書き下ろしシナリオもありとまずまずの布陣ではあります。ただ『A profile』を開封すらせず積んでいる身としてはいささか侘しい思いも。いっそこのまま儲になってしまえば心も楽ですが、迷いどころ。といった具合でまだ予定は明確に決まっていません。蠅声が出なければ0本、蠅声が出れば3本まとめて買うってな可能性もあり。

『シグルイ』の新刊は4月みたいですが早くも今から待ち遠しくてぬふぅ。


>>back