2007年1月分


・本
 『血の流れるままに』/イアン・ランキン(早川書房)
 『ナイトホークス(上・下)』/マイクル・コナリー(扶桑社)
 『連射王(上・下)』/川上稔(メディアワークス)
 『首吊りの庭』/イアン・ランキン(早川書房)
 『ブラック・アイス』/マイクル・コナリー(扶桑社)
 『とある魔術の禁書目録12』/鎌池和馬(メディアワークス)
 『ブラック・ハート(上・下)』/マイクル・コナリー(扶桑社)
 『ツンデレっ娘大集合!』/アンソロジー(二見書房)
 『化物語(上・下)』/西尾維新(講談社)
 『絞首人の一ダース』/デイヴィッド・アリグザンダー(論創社)
 『Fate/Zero Vol.1』/虚淵玄(TYPE-MOON)
 『イヴは夜明けに微笑んで』/細音啓(富士見ファンタジア文庫)
 『DDD1』/奈須きのこ(講談社)
 『雷の季節の終わりに』/恒川光太郎(角川書店)

・ゲーム
 『narcissu(ナルキッソス)』(ステージなな)
 『みにきす』(きゃんでぃそふと)
 『潮風の消える海に』体験版(light)


2007-01-31.

・一発で『ふぃぎゅ@メイト』のOPムービーに陥落した焼津です、こんばんは。

 エスクードがこんな新作出してたとはまったく知らなかった……しかしなんて中毒性の高いムービーだこれは。クオリティがどうこうというより、この妙に落ち着いたユルさが途轍もない居心地の良さを与えてくれる。気づけば繰り返し見ていた罠。さっきまで聞き惚れていたせいでHPの更新も忘れてました。

 ここ最近のヘビーローテは『ネコっかわいがり!』『いただきじゃんがりあんR』『ユメミルクスリ』でしたが、こいつが加わって四天王状態に。しかしエロゲデモ以外にヘビロテするものがないのか自分。

lightの『潮風の消える海に』、体験版をプレー。

 なんと体験版なのに600MB超えてますよ! ……30分くらいで終わるけど。

 これにはワケがありまして、本作はダウンロード販売の方式を取り入れており、メーカーのサイトに行ってIDを購入して打ち込むと体験版がそのまま製品版に変わる仕組みとなっています。他ジャンルのソフトならともかく、エロゲーではあまり類を見ない販売方法ですね。一応パッケージ版も発売されていますが、そっちを買ってもネットを通じてのアクティベーションが必要で、確か3回くらいしかインストールできないはず。

 沈んでいたヨットを引き上げて、水平線の彼方へ向けて航海する――その日出会ったばかりで見ず知らずの少年に持ちかけられた突拍子もない提案を、「突拍子もない」からこそ受け容れた主人公。ヨットの修理をしながら、面識のなかった三人の少年少女と絆を深めていく……という感じのストーリーになるはず。なにせもともとがそんなにボリュームのあるソフトじゃなく、体験版もすぐに終わってしまうので、主要キャラが出揃うところまでは行ったけど「絆を深めていく」ところまでは進まなかった。ライターは『僕と、僕らの夏』や『群青の空を越えて』の早狩武志、原画はぽよよんろっく。珍しい組み合わせですが、案外ハマっていて悪くなかったです。ケレン味は一切ないながらあっさりとして無駄なく読みやすい文章、可愛くてツン系なヒロインと、割かし魅力のある内容。一言でまとめれば「地味な良作になりそう」って印象でした。ただ、青春ストーリーとしては恐ろしく変哲のない代物になりそうでもあって、「続きが気になる」という段階までは行かなかった。

 続きはやってみてもいいし、やらなくてもいいし……と微妙な意欲。ダウンロード版が2940円というのはちょっと高いかなぁ。でもパケ版買ってアクチというのも萎えるしなぁ。どうだろうなぁ。急がなきゃ売り切れるという性質のものでもなし、本編がやりたくなる直前まで放っておくのも一つの手かな。しばらく泳がせてみようと思います。

・恒川光太郎の『雷の季節の終わりに』読了。

 やがて私は走り出した。
 墓町の闇が私を見ている。
 不思議に今はもう墓町の闇は恐くはない。今までは帰る場所があったから、帰れなくなることが恐かったのだと気づく。

 書き下ろし長編。日本ホラー小説大賞の「大賞」を受賞してデビューし、初の単行本が直木賞の候補になるなど、新人としては割合注目されている作者が書いた初長編にして2冊目の著書です。同じく初の単行本が直木賞候補になった朱川湊人みたくちょいとノスタルジーをまぶした感じの、切ない色合いがあるホラーを得手としている模様。朱川に比べればまだマイナーで、ブレイクするかどうかは今後次第といったところですが、個人的には作風が好みで大いに期待&注目しております。

 地図に載らない町――穏(おん)。それは世界から隠れ潜むように存在する、小さな異界だった。地図に載る世界を「下界」と呼んでいる住人たちは、しかし下界との交渉をまったく断っているわけでもなく、交易によって物品を交換するなど一応の経済活動は営んでいた。穏から下界へ、下界から穏へ。人の行き来こそあったが、それは厳重に制限されており、許可もなしに出入りすることは禁止事項となっていた。春夏秋冬の他に第五の季節として「雷季」を持つ穏。雷季のさなかに姉を失った少年が、とある理由から穏を抜け出して下界へ向かおうと試みたが……。

 「地図に載らない町」という設定はたまに見かけますけれど、そこに住んでいる人々までもが「地図」を知っていても自分たちがどこに位置するのか全然分からない、ってのは倒錯していて面白かったです。異界要素よりもノスタルジーが重視されており、ノリとしては「夜市」よりも「風の古道」に近いか。構成は多視点形式。複数の人物の視点によって物語が紡がれています。強いて言えば「姉を失った少年」賢也が主人公。恐らく十歳前後と思われる彼はひょんなことから罪を犯してしまって穏にはいられなくなり、逃げ延びるために下界への旅路に就く。「風わいわい」と呼ばれる謎の憑き物をナビゲーターにして。

 我々から見れば一種の異界に相当する穏は名前通りに穏やかで風光明媚な土地ですが、「風葬の森」「墓町」「獅子野」「闇番」「鬼衆」と、剣呑で殺伐とした場所やら集団やらが存在し、亡霊が彷徨い出てきたりもして、ちょっと伝奇ホラーチックな雰囲気を漂わせている。序盤は「懐かしい少年期の思い出」をのんびりと綴る調子でやや退屈したものの、賢也が罪を犯したあたりから一気に緊張感が滲んできて白熱します。「風わいわい」を始めとして、語呂が滑らかでイメージの湧きやすいネーミングセンスに惚れ惚れ。文章もあっさりとして歯切れやテンポが良く、癖になる心地良さを有している。アクション主体というわけでもないのに、「風わいわい」が憑依して戦うシーンの印象はとても鮮烈でした。

 シチュエーションの組み方というか、感情移入がしやすい状況をセッティングするのがうまい。主人公が切羽詰った感情に追い込まれるシーンではこちらもハラハラと手に汗握った。伝奇ホラーってことで特殊な設定もいろいろ出てくるけれど、はっきり言ってしまえばそういったものはすべてオマケみたいなもの。肝心なのはこの「感情移入のしやすさ」だと思います。視点切り替えのタイミングが絶妙で、キャラの精神と同調する描写にもキレがあり、スルリと引き込まれる。他の視点で見たときは「嫌な奴」だと思ったのに、当の人物の視点では切なさが込み上げてきたりする。「ストーリーが面白い」というより、「読むのが楽しい」って感じです。進むにつれてどんどん続きを読みたくなる魅力が増大していく。それとなく工夫が凝らされているあたりも心憎かった。

 決して怖くはない、むしろ切なさが胸を浸すタイプのストーリー。そういう意味では「伝奇ホラー」と呼ぶのは不適切かもしれません。あと、まとまりはいいけど、全体として見ると小粒な感触があって少し物足らないところはあります。地味だし、突き抜けるものがない。しかし、独自の面白さを抽出している部分は確かにあるから、作者への期待は膨れ上がった次第。この調子で行けばいずれ凄い傑作を物しそうな気がします。

 ……まあ当方の勘はアテになった試しがほとんどないんですが。ともあれハマる人はハマる作風だと思う。


2007-01-29.

・冲方丁の『スプライトシュピーゲル』『オイレンシュピーゲル』、書影公開

 イラストは灰村キヨタカと白亜右月……って、あれ? どっちか片方が島田フミカネじゃなかったですっけ? と調べてみたら、読切版『オイレンシュピーゲル』の挿絵を担当したのが島田フミカネで、連載版から白亜右月に変わったみたい。都心ではもうそろそろ早売りが始まる頃でしょうか。

自作自演と言い張るレビュー

 噴いた。こういうパターンのamazonレビューは初めて見ます。

2006年下半期の2chライトノベル板大賞、決定

 10位以内で読んだことあるのは4冊だけでした。今回は期間内の新刊をほとんど読んでいなかったせいもあって投票は控えましたが、他の人の投票コメントを参考にしていくつか気になる作品をリストアップすることができたので、それなりの充実感はあり。

きゃんでぃそふとの『みにきす』、コンプリート。

 近衛素奈緒シナリオ、本編の共通シナリオと個別シナリオが半々といった分量で、新たに楽しめたのはせいぜい4、5時間程度。素奈緒というヒロインに魅力を感じることができたから中身は楽しめたけど、やっぱこれじゃコストパフォーマンスは低いかなぁ。『つよきす』未プレーの方は、どうしてもエロシーンが見たい、PCにインストールして遊びたい、というのでなければこれと本編をセットで買うよりコンシューマーの廉価版に手を伸ばした方がぐっと安上がりになるでしょう。

 それはともかく素奈緒は良かったです。『つよきす』ヒロインの中で、彼女ほど主人公の隣にいて落ち着きがいいキャラはいないかもしれない。乙女さんとか蟹とかなごみとか、キャラの魅力で言えば素奈緒を上回るヒロインもいますけれど、彼女たちはピンでも充分にキャラ立ちするスタンドアローンな存在であって、素奈緒みたいに「レオがいないとキャラ立ちすら危うい」って意味でのヒロイン感覚は希薄だ。レオあってこその素奈緒、素奈緒あってこそのレオ、みたいな。見方次第では素奈緒シナリオが『つよきす』における王道なのかもしれませんね。

 ネタは劇中歌(?)の「小粋なマジシャン」が一番ウケました。

 ♪悲しみにくれた僕に街で声をかけてくれた彼女〜
 ♪僕の部屋で悲しみを温め消してくれました
 ♪不思議だな〜♪彼女はきっと小粋なマジシャン

 ♪僕が、目を覚ましたら〜♪彼女が〜消えてました
 ♪通帳も〜消えてました♪生きる希望も消えました
 ♪不思議だな〜♪彼女はきっと小粋なマジシャン

 『ピューと吹く!ジャガー』が元ネタらしいのですが、あのマンガはほとんど読んでないのでよく分かりませぬ。

・『みにきす』も終わったことだし、『月光のカルネヴァーレ』の購入を再検討。

 評判もいいみたいだし、まいっか、と注文しました。到着するまでに他のを崩しとこう。

・奈須きのこの『DDD1』読了。

 弱者を理解できるのは弱者だけ。だが――弱者は弱者であるが故に、他人を助ける余裕なんてないのである。

 フォントとして“ファウスト”掲載時のオサレな隷書体を引き続き採用したことにより「高い・ダサい・安っぽい」の三拍子に「読みづらい」を加え、もはや死角なしのイヤガラセぶりを発揮するスーパーデザインKこと講談社BOX。店員の手書きPOPを模倣した編集長の太鼓判といい、「おちょくられている」と憤りを覚える以前になんだかもう、怖い。それこそ太田克史の方が何かに憑かれているじゃないかと邪推したくなる本書はゲームのシナリオライターを本職とする著者が久々に刊行する小説本です。講談社ノベルス版『空の境界』から2年半以上、同人版は01年12月刊行なので、そこから数えると既に5年が経過したことになる。相変わらず内容の説明しにくい話ですけど、要約すれば「左腕をなくした白髪の主人公が引きこもりの美少年(両手両足が義手義足)やメチャ強い美女(ドS)にこき使われたり妹(怪物)に狙われていたりする話」でしょうか。他の奈須作品に比べて正義感や覇気が少ない主人公となっております。それから雑誌掲載時は挿絵があったものの、残念ながら収録はされていません。代わりに描き下ろしの扉絵が付いてますね。雑誌掲載時の分は“ファウスト”のページに行って立ち読みすればちょこっと見れます。

 ひどく静かでそのくせ騒がしい、地獄じみた夜――石杖所在(イシヅエ・アリカ)は妹の凶行に遭って左腕を失い、“悪魔憑き”の世界に関ることとなった。精神病の一種ではあるが、進行すると肉体にまで影響を及ぼし、「人間以外」もしくは「人間以上」の何かに変貌してしまうことから“悪魔憑き”と称されるA異常症。悪魔のようで決して悪魔そのものではない、良きにつけ悪しきにつけ「偽物」止まりの厄介な者ども。アリカは四肢を持たぬ美少年の迦遼海江(カリョウ・カイエ)、美女にして達人級の強さを誇る戸馬的(トウマ・マト)、このふたりと付き合っている兼ね合いで、今日も今日とて危ない悪魔モドキたちと否応もなしに戯れることになるが……。

 件の読みにくいフォントは途中でなんとか慣れましたが、いかなる理由でこんな苦行を強いられねばならないのか最後までサッパリ分かりませんでした。それはともかくとして、「意識」と書いて「じぶん」と読ませたり、滔々と薀蓄や弁舌が垂れ流されたりと、今回も例によって奈須テイスト/きのこ節が全編に渡り猛威を振るっている。まあそれでも以前の荒削りな雰囲気は鳴りを潜めてだいぶ読みやすくなったと思いますし、いつの間にかクセになってしまう不思議な魅力を細部に宿してもいます。

 「精神の病気が肉体に異常……どころか超常的な影響を及ぼす」という“悪魔憑き”の設定はひと昔前の伝奇バイオレンスみたいで、正直に言って少々古めかしい印象が漂う。とはいえ焦点となるのが「能力の強さ」云々といった部分ではなく、「心の弱さ」になってるところが特徴でしょうか。インフレに陥ることなく「弱さ」を追及する方針が主流から外れていてなかなか興味深い。「体の一部を欠損することで精神もどこか欠け落ちてしまうのではないか」など、呑み込むには抵抗がある箇所も若干見受けられましたが。

 基本的に一話完結方式なので、設定さえ飲み込めば別にどこから読んでも差し支えない構成となっています。「H and S.(R)」と「H and S.(L)」は表裏一体をなす前後編のエピソードだから、必ず「R」→「L」の順で読まないといけませんけれど。第一話の「J the E.」は物語の舞台となる世界の背景を延々と説明する傾向があって、まるきり導入編といった感じ。主人公の抱える事情を明かしたりほのめかしたりで、この時点では感触を掴む程度、まだまだ全容は見えてきません。「H and S.(R)」と「H and S.(L)」、そして書き下ろしの「formal hunt.」を読んでようやく朧げながら主人公の位置づけらしきものが見えてくる。面白いんだけど、結構凝った仕組みになっているせいもあって迂闊に説明してしまうとネタバレになりかねないのが辛いところです。「いかにも奈須」な作品でいて『Fate』や『月姫』、それどころか『空の境界』とも趣を異にする。地味に新境地。伝奇のみならず○○○(一応隠してみる)の妙味までミックスした、歯応えのある一品に仕上がっています。

 アクション要素ではなく、心理的・内面的な「強弱」を掘り下げることに主眼を据えた連作式メンタル系伝奇ストーリー。巻末の年譜(ネタバレを多大に含む)にて語られざるエピソードのタイトルと見られる奴がいくつか掲載されており、そこから推測するとこのシリーズは少なくとも3巻以上になるはず。『DDD2』については「Coming Soon...」とありますが具体的な日時は何も示されていないので、今年中に来ればいい方かなぁ……来るといいなぁ……と祈るばかりです。あと好きなキャラは言うまでもなくカイエ。最初は「女の子じゃなくて残念」とほぞを噛みましたが、次第に「むしろそれがいい」と思えるようになりました。節操なしです、はい。あと妹も素敵に狂っていてツボ。

・拍手レス。

 富士見で準入選だった「太陽戦士サンササン」には年下の姉貴がでてきます。オススメなのです。
 てっきりカンフーファイターみたいなのと思ってたら結構シリアス路線らしいですね。

 ショゴス話、夜中に爆笑して読んでしまいました!続編すごく楽しみにしていますwww
 あれの続編を書くのは……かなりのSAN値が必要になりそうw


2007-01-27.

・昨日はエロゲーの新作が集中して発売しました。個人的に気になっていたのは『月光のカルネヴァーレ』『いつか、届く、あの空に。』の二本ですが、結局決めかねて両方買わずに済ませた焼津です、こんばんは。

 強いて選ぶとすれば月カルかなぁ。ペルラが攻略できないと聞いて意気阻喪しておりますが。でも評判は良さげ。『みにきす』終わったら購入を検討してみます。

ファミ通文庫、サイトリニューアル

 なんだかwebマガジンっぽい見た目に。狂乱家族とか“文学少女”とかのSSがありますね。賑やかなのはいいけどレーベルサイトとしては使いづらそう。

そして『超妹大戦シスマゲドン2』、2月28日発売予定

 またえらく唐突な復帰ですな……そして2巻でもう完結とは。古橋の新刊は実際に出るまで信用できないから現時点では喜べませんが、とりあえずリストに記入っと。

 シスマゲとは関係ないけど、3月に竹岡葉月の新刊が入っているのが気になりますね。この人がコバルト以外で仕事をするのって初めてのような。というか、調べてみたら2年半ぶりの新刊らしい。イラストが『棺担ぎのクロ。』『GA』のきゆづきさとこということもあって余計に気になる。これもチェックっと。

“氷と炎の歌”第一部『七王国の玉座』、海外でドラマ化

 見たいー。

きゃんでぃそふとの『みにきす』、プレー中。

 メルキオールの素奈緒。と呼んでも差し支えなさそうなほどピーナッツバターへの執着を見せるヒロインに慄然とすることしきりです。ラーメンにピーナッツバターはありえねぇ。

 本編だとほのめかすだけに終わっていた「レオの中学時代」が明らかになるシナリオだけあって興味深い内容ですが、やはり最初は近衛素奈緒の存在に違和感を覚えてしまった。本編には出てこないキャラなので、企画段階から構想があったとはいえどうしても後付けみたいに思えちゃうというか。やっぱり浮いて見える。でも体育武道祭の前にひと波乱あって、そこでようやく素奈緒のキャラと『つよきす』の世界が馴染んだ気がして、以降はフツーに「素奈緒かわいいよ素奈緒」と楽しめるようになりました。原画が違う人だから他の絵と比べると差異が目立つけれど、ピンで見る限りはあまり気にならないし、キャラ的には美味しいから問題なし。なにげに『つよきす』の本編って主人公と因縁のあるヒロインがいない(蟹は幼馴染みだけど、因縁ってほどでは)ので、素奈緒の存在は目新しくて面白い。仲が険悪なだけにだんだん関係がほぐれていくのが楽しいと言いますか。周りから「ラブコメ」と揶揄されて赤くなる二人に頬が緩みました。

 「素直になれない」「強情」「意地っ張り」という点では位置づけとして蟹と被るところもある素奈緒ですけれど、主人公との生温い関係を壊すのが本意ではなく踏み出しかねている蟹に対し、既に主人公との関係は終わったも同然なのにどこか未練がましい気持ちを引きずっている素奈緒は全体から見て特殊な立ち位置のヒロインだと思います。キャラ的には地味なんですけどね……怒りんぼのツインテール、というのが特徴で、それ以外の部分でのキャラ立てがしにくい。「正論」「トサカ来る」の口癖もわざとらしくて無理に言わせてる感じしますし。がしかし、「有能で熱意はあるけど人望が薄い」という微妙なラインを漂っててキャラ立てがしにくいところは素奈緒の魅力でもあります。この空気が読めなくて突っ走ってしまう不器用な危なっかしさは「テンションに流されない」を金科玉条とする主人公との対比になって初めて活きてくるものであり、どの道レオ抜きの単体で素奈緒が輝くことは計算されていないっぽい。そういう意味ではレオと素奈緒、一番お似合いのカップルだよなぁ。

 強力な破壊力こそないものの、地味〜に浸透してくる可愛らしさが侮れません。中学生のときに呼び出された回想シーン、空気が読めないせいで「これっていいムードなんじゃないの」と勘違いしてはにかんでいる姿は心のどこかがエレクトしました。そりゃ根に持つわな……あの流れじゃ。空気読めてない時点で自業自得というか自爆な気もしますが、可愛いから許したい。まだクリアしていませんが、本編やったときの記憶からしてもうちょっとで終わるはず。あと一歩。


2007-01-25.

きゃんでぃそふとの『みにきす』、プレー開始。

 発売当時はスルーしたのに、wikipediaの『つよきす』項目に載っている近衛素奈緒の説明を見て、こう、ムラムラしちゃって……つい勢いで買ってしまった一本。先月の15日が発売日なので一ヶ月ちょっと経ってますか。この『みにきす』、『つよきす』のファンディスクという位置づけでリリースされているものの、ブランド内でゴタゴタがあってメインを張っていたライターと原画家が離脱してしまったらしく、新規書き下ろし/描き下ろしの要素がほとんどありません。目玉コンテンツはPS2移植版で追加された「近衛素奈緒シナリオ」。雑誌のオマケに付いていた「姉しよ!VSつよきす」にボイスを加えて収録したり、クイズやタイピングのミニゲームも入れたりしていますが、内実はファンディスクというよりアペンドディスクに近いかも。ただ、『つよきす』本体がなくても単体で動作します。ソフトを引っ張り出してきて再インストするのは面倒なのでそこはありがたかった。

 とりあえず「みにきす」本編を2時間ほどプレー。律儀にもプロローグのところから始まるので素奈緒の出番は一、二度というか、まだ主人公たちとは全然絡んで来ない。実質再プレーとはいえ『つよきす』をやったのがもう一年半くらい前だから、細かいところをいろいろ忘れていてそれなりに楽しんでいます。近衛素奈緒は主人公レオの人格形成に関与したキャラとあって、『つよきす』の根幹をなすシナリオ――という触れ込みも伊達ではなさそう。現時点では予感の段階に過ぎませんが、期待で胸がワクワクと高鳴ります。

・細音啓の『イヴは夜明けに微笑んで』読了。

 世界中の誰もがその眩しさにまぶたを閉じる。ただ光々(こうごう)しいからではない。誰もがその輝きを見て自然と悟ったからだ。この輝きは自分たちを祝福するものではない、と。
 この光が真に照らすのは唯一人。
 かつて一度として陽を浴びることの無かった少女のため。

 以前は「新人スキー」を自称するくらい新人作家が好物で毎月毎月丹念にチェックしていた当方ですが、最近は「評判が固まってから」「何作か出して安定するまで」とすっかり鈍重なリアクション態勢を取るようになってしまい、どこの新人賞でどんな受賞作が出たのかさえろくに把握できない体たらく。本書は第18回ファンタジア長編小説大賞「佳作」受賞作です。確か18回の作品は本書も含めて5冊ほど出ているはず。その中ではこの作品がもっとも良さげな感触でしたので、「せめて一冊くらいはチェックしよう」と重い腰を上げてみました。

 名詠式――それは赤・青・緑・黄・白、五色のカラーに対応した召喚を行う技術。触媒(カタリスト)を用いて讃来歌(オラトリオ)を唱えれば、赤なら炎、青なら水、緑なら蛙といった具合に、属性とイメージに沿ったモノを詠び出すことができる。名詠は一つ一つが専門化されているため、子供たちはどれか一つを選んで専攻するのだが、イヴマリーはそれらに属さない六色目の「夜色名詠」を編み出そうと励んでいた。まだ存在しない六色目を、だなんて、そんな……教師さえも呆れる試みにクラス中から小馬鹿にされる少女。しかし、たった一人だけ、彼女と真剣に向き合う少年がいた。「ボクは『虹色名詠』をつくりだす。君の『夜色名詠』とどっちが先になるか、勝負しないか?」――後に五色すべての名詠をマスターし、「虹色名詠士」として賞賛を浴びるカインツ。彼が本当に誉めて欲しい相手の姿は、そこにはなかった。時は流れ、かつての学び舎で競演会(コンクール)が開催される頃、カインツは「少女」の想いを受け継ぐ存在と出会うが……。

 魔法学園モノ、と言っても差し支えはないでしょう。舞台は学園に終始して、片時も離れることがありません。あらすじを読むとなんだかカインツが主人公みたいに見えますが、実際はクルーエル(クルル)という少女の視点をメインに据えて進行していきます。クルーエルとカインツの接点はほとんどないに等しいけれど、両者の間に「『少女』の想いを受け継ぐ存在」が入ることで物語は繋がる、って寸法。触媒(カタリスト)だの讃来歌(オラトリオ)だのといったオリジナル用語が連打されるせいで少々とっつきづらい印象を与えますが、「名詠」そのものの設定は属性魔法に召喚魔法をくっつけたような感じでイメージとしては捉えやすい。反面、あまり厳密に決め込んでいるふうでもなく、ざっくりと説明する程度に留めているので、「凝りに凝った設定」を期待すると物足りないかもしれない。設定面はあくまで「よくある魔法モノ」と受け取った方がよろしい塩梅です。

 オリジナル用語の他にも全編に渡って独特のルビを多用しており、特に詠唱シーンはポエミーに気張っています。「凍(いと)しい夜の一滴(うた)」とか。新人らしい初々しい文体、とも言えますけど、ちょっと硬さのある文章。読みにくくはないし新人としてはこなれている方ですが、それでもまだテンポはぎこちない。疾走感のあるシーンを書こうとしている割にスローだったり、ゆったりとした雰囲気を紡ごうとしている割に駆け足だったり。ただ、丁寧に書いているという感触はあり、独自のセンスも伝わってきますので、何作か重ねているうちにだんだんほぐれていく部分でしょう、きっと。そういう意味では今後に期待できる作家です。むしろ不安が残るのはキャラクターの扱いか。どちらかと言えば地味な造型のキャラばかりで目立つ個性に乏しく、心理的な掘り下げも足りない気がして、強烈な魅力を覚える人物はいなかった。好感が持てるキャラは何人かいましたけど、やはりインパクトが弱い。サブキャラに至っては見分けるのさえ困難。あと、ストーリーを駆動させるためにDQNな野郎を出して、話を動かすだけ動かしてからは一切フォローなしなあたりなど、いまひとつ捌き方に安直さが窺えてしまう点はマイナス。イラストを手掛けている竹岡美穂は作風とマッチした絵柄なので、更にうまくキャラの魅力を引き出せるようになったら良質なシリーズへと成長しそうではあります。ちなみに「竹岡」というとコバルト文庫の竹岡葉月を連想しますが、ぐぐってみたらどうも姉妹らしくてビックリしました。知らなかった……。

 大まかに言ってしまえば、よくある魔法学園モノ。斬新さはないけれど濃やかで丁寧な気配りの感じられる作風をしています。「あの日に交わした約束」がキーとなるタイプ、つまり「感動のラストシーン」とかって謳われるノリの話なんで、そういう感動路線はクサくて苦手、肌に合わない、という方にはオススメしにくいです。逆に、感動路線が嫌いでない人なら、怒涛の展開を迎えるクライマックスで大いに盛り上がれるでしょう。若干の粗さはあるにしても、「綺麗」の一言に集約できる作品。読み返すにつけ味がいっそう染みてくる。とりあえず続きに期待して待機。

・拍手レス。

 『そのケータイはXXで』ほんとに荒木飛呂彦でノンストップで読み終えました。
 いつも面白い本に出会うきっかけをありがとうございます、これからも楽しみにしてます

 上甲宣之はあのノンストップ感がたまりませんねー。楽しんでいただけたみたいで幸いです。

 Fateゼロ、オリジナル分強めなら本編未プレイの者でも楽しめますでしょうか。通販は立読不能なのが難。
 問題ないかと。ただ、本編のネタバレを多大に孕んでいますので注意。本編も0のネタバレがあるのでその点はあいこかもしれませんが。


2007-01-23.

いただきものコーナーに犬江しんすけさんの年賀絵を格納

 なぜ今更になって年賀絵をかと申しますと……ぶっちゃけ自分のサイトに「いただきものコーナー」なんてあったことすっかり忘れておりましたから……2月になる前に思い出せてよかった。

 そして犬江さんのHP「ジンガイマキョウ」のTOP絵にアルが。なんか久々な気もしますが、相変わらず素晴らしー。指の刀印がツボです。

Lost Script、新作『長靴をはいたデコ』を予告

 なんとも見事なデコをさらしたヒロイン。けど名前が……大丈夫なのかこれ。路線としては「ほのぼの」みたいですが、日記に「ほのぼのとゲームブック、そして萌えと燃え両立するのか?」とある以上、一筋縄では行かないゲームになりそうです。普通に考えれば元ネタはこれだけど、真っ先にこっちを連想した当方は山田正紀スキー。

 ……ところで今思い出したけど、『蠅声の王』が途中で放置したままになってました。パソコン変えたせいですっかり忘れていた次第。今から再開したとして内容に付いていけるかしら。

・虚淵玄の『Fate/Zero Vol.1』読了。

 人差し指で用心鉄の下のスプールを引くと、薬室(チャンバー)のロックが解除され銃身がガクリと前に倒れ込む。解放された薬室に、同じくケースから取り出した魔弾の一発を滑り込ませ、手首のスナップで銃身を跳ね上げて薬室を閉鎖する。これで銃本体に弾薬を加えた総重量は二○六○グラム。切嗣の右手が何よりも慣れ親しんだ手応えだ。
 久しい手触りとは思えない、あまりにも馴染んだ凶器の感触に、切嗣の胸に苦いものが湧き上がる。
 果たして自分の手は、ここまで完璧に、妻と娘の感触を思い出すことができるのだろうか?
 彼女たちの頬の柔らかさ、指の細さを、どれだけ切嗣は憶えているというのか?

 虚淵玄――ひょっとするともう、名前を見聞きしてもピンと来ない人がおられるのでは? と危惧するほど長いあいだ一線から退いている、ニトロプラスの主力ライターです。思わず「かつての主力ライター」と書きそうになって当方の胸にも苦いものが込み上げてきました。ゲームのシナリオを手掛けたのは03年が最後、翌年の冬にはコミケで長編小説を出しましたが、それ以降は「仕事してますよ」的なアピールをちょこちょこ発しながらも肝心の新作の話題は全然なし。04年が終わって春が来て、夏が来て、秋が来て、冬が来て、05年が終わり――06年が始まって春が来て夏が来て秋が来て、冬が来る直前にようやく飛び込んできたのがこの『Fate/Zero』の報せでした。ファンがどれだけ驚いたことか。その複雑な心境は筆舌に尽くしがたいものがあります。だって、ニトロを代表するシナリオライターが他社製品の二次創作にがっぷりと全力で取り組むわけですよ? TYPE-MOONのファンでもある人間には夢のような……というより夢にも思わなかった企画ですけど、手放しには喜べず。更に驚いたのは、「Vol.1」が付くこと。つまり、一冊きりじゃ終わらない、まだまだ続くよと意思表示されたんです。なんでも『Fate/Zero』は全4巻構想で3巻までは脱稿済み、4巻は鋭意執筆中で、2巻は早くも3月に刊行予定とのこと。全4巻って、たとえライトノベルの尺度で以ってしても生半な分量じゃない。あまりの本気っぷりに、こうなったらもう笑うか熱狂するしかありません。

 さて、内容は一言で申せば「第四次聖杯戦争」です。副題が「第四次聖杯戦争秘話」なんだから、当然と言えば当然。Fate本編で行われたのが第五次聖杯戦争なので、一つ手前。時間は10年ほど遡る。切嗣や言峰、セイバーといった面々は本編で「前回の聖杯戦争に参加した」と明言している以上、当たり前の如く登場してきて、激しいバトルロイヤルの渦中に身を投じていくことになります。彼らが結果的に生存するってことはどうにも変えられない事実であるにせよ、詳細については断片的な情報しか提示されていない(サーヴァントとして征服王イスカンダルが登場する、とか)こともあり、多くの謎は手付かずのまま残っています。Fate本編とも密接に絡んだエピソードで、原点を成す意味もあることから「Zero」と名づけられたんでしょうが……虚淵玄、物凄い勢いで好きにやってます。原作キャラはいろいろと制約が課せられているうえ、奈須きのこの書いたイメージとぶつかるところがあって少々違和感を覚える部分もありましたが、オリキャラに関しては目を瞠るくらい活き活きとしている。冒頭のキャラ紹介に出てくるウェイバー君とか、冒頭のキャラ紹介には出てこないあの人とか、本当にイイ味出してます。特にウェイバー君は「情けない系」と申しますか、ぶっちゃけヘタレなのにオマヌケなところが愛らしくて憎めない。さりげなく童○であることをカミングアウトしてしまってる箇所なんて、微笑ましさのあまり読んでいて顔面が崩れた。どうも辛気臭い連中が多いせいか、彼とそのサーヴァントの遣り取りは一服の清涼剤として機能している感覚がありますね。第四次は相当に壮絶なバトルが繰り広げられた……っていう設定になっているだけに事前のイメージは殺伐としたものでしたけれど、案外と肩の力が抜けるシーンもあったりしてメリハリついてる。ストーリーテリングの手捌きが冴え渡っていて、実に楽しい限り。

 文体は極力Fateに似せた、とは仄めかされているものの、すっきりとシャープで無駄や癖のない直線的なテキストはいかにも虚淵玄といった簡素さ。最初はやや地味に映るとしても、徐々に引き込まれていってページをめくる手が止まらなくなります。「1巻だからとりあえずキャラ紹介と顔見せだけ」みたいな露骨に動きの少ない序章チックな展開にはせず、ちゃーんと読みどころを用意している配慮は心憎いばかりだ。ただ、誤字脱字が結構混ざっていたことは残念というか、見つけると気が抜けてしまった。「そういう」が「そいう」とか。2年前の冬には既に脱稿していた、というんですから、もうちょっとそのへんはしっかりしてほしかったです。

 原作:奈須きのこ、著作:虚淵玄、イラスト:武内崇。よもやこの面子で刊行される本が出てこようとは想像だにしなかった。本編では触れられなかったマスターやサーヴァントが登場するたびワクワクし、既存のキャラであっても「こいつは、このとき、こんなことを考えていたんだな」といった類の理解が胸に染み入っていく。まことに理想的な外伝に仕上がっています。1巻ずつ読むか、それとも全巻揃ってから読み出すか、ちょいと迷うところもありましたけど……この密度が保てるなら、一冊ずつ読んでいくのもアリかな。もちろん、言うまでもなく2巻が物狂おしく楽しみにつき、存分に待望するとします。いや、それにしてもクライマックスが良かったです。大盛り上がり。虚淵、複数のキャラを捌くのも結構得手なんだなぁ。


2007-01-21.

propellerの新作『Bullet Butlers(バレット・バトラーズ)』情報公開開始

 『あやかしびと』と同じく東出祐一郎&中央東口のコンビですが、まさかこういう路線で来るとは想像していなかった。じゃあどんな路線を想像してたんだと聞かれると別に何も考えてなかったわけですが。しかし最近はやたらと執事がクローズアップされていて、これはもうちょっとしたブーム?

 異世界ファンタジーをベースにガンアクションばりばりのストーリーを紡ぐという、なんだか「うまくいくのかこれ」的配合で不安もあるっちゃあるものの、ひとまずは熱視線で注目したい。Flashに出てくる要素では「八人の英雄」の件に興味をそそられますねー。

・デイヴィッド・アリグザンダーの『絞首人の一ダース』読了。

 原題 "Hangmas's Dozen" 。短編集です。「スタンリー・エリン絶賛」ということで気になっていましたが、まったく聞いたことのない作家(後で略歴を読んで『血のなかのペンギン』の作者ということを知りましたが)でしたし、もともと短編集は手が伸びにくいこともあってつい敬遠しておりました。年末に出た「このミス」で第9位にランクインしているのを見てようやく踏ん切りが着いた次第。『絞首人の一ダース』は本自体のタイトルで、こういう短編が入っているわけじゃありません。一ダースというから収録作は12編……かと思いきや、オマケの1編を加えて計13編になっています。なんでも昔のイギリスにはパンの目方が基準よりも低いと罰せられるという法律があって、それを恐れたパン屋が用心のために一ダースあたり12個ではなく13個のパンを入れたことから、英語では「13個」を「ベーカーズ・ダズン(パン屋の一ダース)」と言うんだそうな。当然その慣用句に由来しているわけだけれど、しかし「絞首人」だとあれですね、一人余計に吊るすってことになりますか? ヤなオマケだなぁ。

 どの編も犯罪を意識した内容になっており、サスペンスたっぷりに登場人物を追い詰めたりとか、全体が緊張感に溢れていて実に退屈しない。そもそも平均20ページ程度、一番長い奴でも30ページを切る分量だから、ダレることなくサクサクと読めます。短いながらも切れ味の良い文体で無駄なく、それでいて余韻を残しつつ話をまとめるあたりは職人芸の領域だ。分類すればいわゆる「奇妙な味」に属するタイプの短編集です。でも「奇妙な味」ってもう死語かな……いまどき使ってる人ってあんまり見ないし。とにかく、「謎は解けた、犯人は捕まった、めでたしめでたし」で終わる話は一編としてありません(近いのはあったかも)。独特の苦みを伴って結末を迎える作品が多い。

 たとえば一発目の「タルタヴァルに行った男」、少年期によく赴いた酒場で、誰とも打ち解けることなく泣きながら酒を飲み続け、「かつて自分は償えぬ罪を犯した」とほのめかす男がいた……っていうのを回想するストーリーで、この「償えぬ罪」とは何か? っていうのが読み手の興味となりますが、人によっては結末の一文を読んでも「?」な感じでしょう。一応作者自身による解説で懇切丁寧に真相が明かされるものの、ここで「なんだそういうことか」と納得するだけなら実にそれっきりの話です。しかし、真相を知ったうえでもう一度「タルタヴァルに行った男」というタイトルを振り返って、「男」の心情に思いを馳せれば、そのときようやく本当の物語が幕を上げると言っても過言ではない。切れ味鋭い文章により冒頭の一、二ページで読者を作品世界に引きずり込み、更に話が終わった後も登場人物への思いを断ち切ることができず馳せ続けてしまう。あまり派手なインパクトはないんですが、ジワジワに利いてきて気づけば夢中になっている、なんとも中毒性の高い魅力を保有しています。

 身も心もボロボロにされて自殺した妹の復讐を誓う「優しい修道士」は原題が "The Gentlest of the Brothers" で、たぶん修道士(ブラザー)と兄(ブラザー)を掛けているものと思われる。復讐に意味などない、仇を取ったところで妹は帰ってこない――そんなことは百も承知であろうに、あえて神学校を去って俗世に帰還する修道士/兄。すべてが手遅れになったからこそ試される「優しさ」とは、修道士としての優しさだったのか兄としての優しさだったのか。他にも、「黒人と白人が同じ学校で席を並べて勉強するべし」という判決が出て間もなくの頃のアメリカ南部を舞台にした「アンクル・トム」や、新人弁護士が初仕事として受け持った「幼い我が子を殺してしまった母親」の裁判を傍聴する「デビュー戦」、アルコール依存症を克服しようと懸命になっている浮浪者が思わぬ冒険にするハメとなる「蛇どもがやってくる」など、幕が降りた後も自分の中で消化するのに時間が掛かる作品が満載されています。特に「蛇どもがやってくる」、落魄した男の中で「面倒事はごめんだ、投げ出してしまえ」っていう囁きと、もう一度立ち上がろうとする矜持とが鬩ぎ合う描写で目頭が熱くなり、運命にツークツワンクを仕掛けられたかのような展開には涙が出そうになりました。

 敬遠していたことを悔やみたくなる一冊。短編集というものは大なり小なり収録作にアタリハズレがあって「気に入る作品が一個あっただけでもめっけもの」というのが普通だけど、これは「全部アタリ」とまで言わなくとも高水準で、ハズレらしいハズレはほとんどなかった。「向こうの奴ら」や「愛に不可能はない」がちょっと雑だな、とは思いましたが。「向こうの奴ら」は設定が面白かったし、「愛に〜」は「雪崩が轟音をたてて山肌を滑り落ちるのを目の当たりにすれば、誰しも神の存在を信じずにはいられない」という書き出しが良かっただけに残念です。

 最近は短編集のチェックが疎かになっているので、新旧問わずもっとあれこれ手を付けてみたいものだ。

・拍手レス。

 タイトルが「Entry」に戻ってる、と今更ながらに気付いてみます。
 やはりこの方が落ち着きます。

 「女子大生がトイレで殺人鬼と荒木飛呂彦チックな攻防を繰り広げる」なんて言われたら
 買ってしまうじゃないですか! (『地獄のババ抜き』が気になってたので買ってきます)

 あのシーンは荒木絵で想像すると怖いくらいハマります、マジで。


2007-01-19.

『そのケータイはXXで』が映画化すると聞いて普通に驚いてる焼津です、こんばんは。まさかあの横溝ばりの閉鎖的山村スリラーと並行して女子大生がトイレで殺人鬼と荒木飛呂彦チックな攻防を繰り広げるサスペンスが実写化するだなんて……そんな無茶な。どうせなら『地獄のババぬき』あたりにすればいいのに。いや、あれ『そのケータイはXXで』の続編だから、ひょっとすると「映像化第二弾!」とかいう運びになる可能性もありやなしや。

・蓮海もぐらの短編目当てに買った『ツンデレっ娘大集合!』を今更読む。蓮海もぐらは蓮海才太名義でエロゲーのシナリオを手掛けていたライター。1作目の『奪われた夕暮れ』については何も知りませんが、2作目の『蒼色輪廻』はおよそ形容する言葉が見当たらない類の傑作でした。ネタのために人体実験までしたというからその気迫は測りがたい。続編だか姉妹編だかに当たる『緋色梵鐘(仮)』は企画が暗礁に乗り上げている様子であり、今はひたすら待つばかり。

 で、この本。なんか全体的にツンデレとあまり関係ないと言うか、そもそも短編枠でツンデレを表現すること自体が向いてないんじゃないかなぁ、と思うアンソロジーでした。エロ付きとなれば尚更。一つ目と二つ目に関しては特に感想なし。三つ目の「素直にならない/なれないふたり」は地の文が丁寧で引き込まれたものの、話を凝縮させたせいもあってか、ちょっと説明的すぎる印象を受けました。長編にしてストーリー期間をもっと多めに取ってくれたら……と思わなくもない。

 トリを飾る蓮海もぐら作品「猫になりたい」は一読震撼。もっともツンデレと関係がない。なんか好き放題にやってませんか、これ。濡れ場の詳細を一切書かないあたりなんて正に暴挙。「童貞のキモオタがビルの屋上から飛び降りて死のうとする」というあたりは『蒼色輪廻』を彷彿とさせ、実際に『蒼色輪廻』と関連したネタもある。ファンには嬉しいが、初見の読者は辟易しそう。イケメンとそれになびく女への呪詛をリズミカルに連綿と綴った内容は変に明るくて、気づけばスッキリと爽やかな読後感を抱えたまま本を閉じていました。面白い。が、それにしても浮きまくってる。『流行り神』のアンソロジーに『BLOODLINK』の外伝を書いた山下卓や、青春モノのアンソロジー京都ファンタジー小説を載せた森見登美彦にも匹敵する浮き具合。叶うことなら浮かずに済むよう蓮海もぐらの作品だけを集めた本が欲しいところですが、仮に出るとしてもあと何年掛かるか予想も付かないので、地道に一つ一つ追っていくことにします。次は『ファントム』か。

・西尾維新の『化物語(上・下)』読了。

 「高い・ダサい・安っぽい」の三拍子が揃った、新規にして不人気のレーベル「講談社BOX」に属する二冊です。「怪異」をテーマに連作形式で綴っており、上巻に「ひたぎクラブ」「まよいマイマイ」「するがモンキー」の3編、下巻に「なでこスネイク」「つばさキャット」の2編、計5編から構成されています。ちなみに「キャラの名前+出てくる怪異」という法則で付いてるタイトルですから、「ひたぎクラブ」の「クラブ」は「club」ではなく「crab」。化物や怪異とは縁のある主人公が、何らかの化物や怪異によって困っているヒロインの事情に首を突っ込み、トラブルを解決しようと努力する……という、パターン化されたトラブルバスター的なストーリー展開が基調となっている一話完結モノであり、全編を通して壮大な目的が据えられているわけではない。「おひとよし」と揶揄されながらも毎度の如く尽力して、ちゃっかりフラグを立てていく主人公は『とある魔術の禁書目録』さながら。「これなんてエロゲ?」と訊ねられても不思議ではないハーレムぶりです。とはいえヒロインとの関係は割合早くに進展して、既に上巻の時点でラブコメを楽しめるあたり心憎い仕上がり。「私は、どうせ最後は二人がくっつくことが見え見えなのに、友達以上恋人未満な生温い展開をだらだらと続けて話数を稼ぐようなラブコメは、大嫌いなのよ」と頼もしいことまで言ってくれる。ツンデレなのに。……いやしかし、自分で自分のことをはっきり「ツンデレ」と言い放つキャラは初めて見た気がする。

 階段で、足を滑らせたのか――踊り場にいた僕のところまで、戦場ヶ原ひたぎはまっすぐ後ろ向きに降ってきた。咄嗟に受け止めようとして、二人もろとも転倒する……そんな予想はあっさり外れた。彼女には、ほとんど体重と呼べるものがなかったのだ。高校三年生にして五キログラムという数字は常軌を逸していて、もはや「怪異」以外の何物でもない。「優しささえも敵対行為と看做す」と言い張るほど頑なに手助けを拒む戦場ヶ原。幸か不幸か怪異とは縁のある人生を送っている僕は何とか協力を申し出ることができたが、彼女の失った「重み」を実際取り戻すとなると、専門家に援助を要請するしか道はないのだった……。

 ↑が第一話の「ひたぎクラブ」。ヒロインの名前と怪異の詳細を変えれば、二話目もだいたいこういう粗筋で通用します。その気になれば、というかその気にならなければ、いくらでも怪異との接触は防げるだろうに、むしろ望んで厄介事に臨む主人公・阿良々木暦は「巻き込まれ型」ならぬ「首突っ込み型」。困っている人を見捨てられない、万事八方丸く収めたい、本当に絵に描いたようなおひとよしキャラです。それでいて執拗なまでのツッコミキャラ。ヒロインたちの言動に対し「○○かよ!」「いやそれ○○じゃないから!」とひたすらツッコミを入れています。ほら何せヒロインがツッコミどころの多い人たちばかりだから。特に戦場ヶ原ひたぎは暴虐の限りを尽くしており、身体的な暴力こそあまり振るわないものの、挨拶代わりに毒舌を披露してはしょっちゅう主人公を凹ませる。わざとらしく「それで、ゴミ……いえ阿良々木くん」と言い直すなど、細かい芸を駆使して徹頭徹尾おちょくってきます。恐ろしいのは付き合いだしてもそのへんの対応が変わらないところ。もう、毒舌というより、なんだ。イビり? ただ、ヒドいことは言ってもだいたいがネタとして昇華されている面や、非常に淡白で冷淡に受け答えするせいで却ってあまり悪意を感じさせない面もあり、不思議と腹は立ちません。ムカつくのを通り越して笑えてくる。恐ろしいのはむしろ悪口雑言が魅力的に思えてくるところで、軽くM属性を開発されてしまうと言うか、終いには「ああいう性格も含めて戦場ヶ原ひたぎが好きなのだ」という主人公の心情に心底うんうんと頷いてしまう始末。ツンデレ属性もなくはないんですが、こりゃもうS系のキャラとして認識すべきではなかろうか。萌えるサディスト。彼氏に向かって平然と「皮を剥ぐ」とか言えるその度胸によろめきました。

 「怪異にまつわるトラブルを解決する」って物語形式は京極堂の憑き物落としなんかにも似ていて、薀蓄を垂れ流したりするあたりもいかにも「それらしい」んですが、率直に言って作者が気合を入れて書いているのはいわゆるそうした「本筋」じゃなくて、「脇道」に当たる登場人物間の遣り取りでしょう。この『化物語』は日常シーンの比率が大きく、印象としても大半の紙幅がキャラクターたちのコメディライクな掛け合いに費やされている感じがします。これがもう――実にくだらない。くだらなくて、くだらなくて、いっそ形容しがたいくらいの楽しさです。「気まずいオレンジロード」みたいなパロネタの他にも、ふんだんな言葉遊びとか、結構ギリギリなシモネタやエロネタなんかがコッテリ混じっていてすごく当方好み。こういう「くだらないバカ会話」が嫌いな人は読んでてサムいうえに苦痛かもしれませんが、なんとも肩の力が抜けた塩梅で寛ぎやすい雰囲気ではあります。作者の言を信用するならば「仕事ではなく趣味として書いた小説」であり、脱線が多いしアンバランスな箇所もチラホラ目につくのですけれど、んな細かいことが気にならないほど耽溺して上下巻一気に貪り堪能いたしました。出来がどうこうってより単純に読んでいる時間が心地良かった。

 個人的には講談社BOXというレーベルについてあまり良い印象を持ってない、いやぶっちゃけ悪い印象しかないんで、最初はこの作品もスルーするつもりでいました。が、やたら評判がイイのでつい誘惑に負けて買ってみたところ、本当に面白かったもだから心中複雑です。作品そのものは素晴らしいものの、箱から出し入れするのがなにげに面倒臭いし、分離して放っておくとどっちか(あるいは両方)紛失しちゃいそうだし、「気軽に読み返す」という行為を阻害してないですか、これ。あと、値段の問題もあります。上下で3255円(税込)。量も割かしあって、笑いまくったから内容的な満足感も大だけど……もう少し安かったら、尚の事オススメしやすかったなー。

 一部詳細が語られず、断片的な情報をバラ撒くだけで終わっているエピソードがあったりするのはやっぱり西尾維新だなぁ、と思いつつ、戯言シリーズでも平穏な日常シーンが好きだったこともあって存分に「くだらないゆえの楽しさ」を味わえました。真相を明かして簡単にハイ終わり、とならなかったり、「あのとき○○だったら……」とたらればで語るような苦い結末もあったり、本筋も本筋で味わい深いところがあったり。でも、やっぱり忘れがたいのは戦場ヶ原ひたぎか。あと、神原のキャラ変容ぶり、いやいっそキャラ崩壊ぶりと言っても差し支えない暴走も印象的。叶うことなら彼女らと主人公の関係を追った続編が読みたいところです。タイトルはもう『化物語U』とか、何食わぬ顔をした代物でも一向に構わない。毒食えば皿まで。毒と言うか毒舌を食らうわけですが。

 ……と書いた後で調べたら、なんでも過去編に当たる「詳細が語られず、断片的な情報をバラ撒くだけで終わっているエピソード」を来年に執筆するつもりだそうで。発売は2008年初頭予定とのことだから、仮に『化物語U』が来るとしてもそれ以降になりますか。まあ期待して待つことには変わりありません。


2007-01-17.

『連射王(上・下)』が増版

 amazonでは新品が在庫切れしているし、結構あちこちで売れているみたいですね。とはいえ一ヶ月も経たずに増版決定とは、さすがに予想してなかったのでビックリだ。オールドゲーマーたちの間で話題になっているのか、それとも終わクロファンが単発作品であるにも関らず果敢に手を伸ばしているのか。

・マイクル・コナリーの『ブラック・ハート(上・下)』読了。

「ボッシュ、あんた、何年警官をやってるんだ?」ベルクはボッシュのほうを見ずにいった。「二十年か?」
 それに近かった。が、ボッシュは答えなかった。どんなセリフがやってくるのかわかっていた。
「それなのにここに座って、おれに真実のことをとやかくいうわけか?(中略)おれに真実のことを話してくれるな。真実がほしけりゃ、坊主かだれかに会いにいけよ。どこにいけばいいのかおれにはわからんが、ここにはくるな。二十年もこの仕事をやっていれば知っているはずだ、真実は、ここでおこなわれていることとなんの関係もないことを。正義も同様だ。そういうのは、おれが前世で読んだ法律書に載っているただのことばに過ぎん」

 “ハリー・ボッシュ”シリーズ第3弾。てっきり原題も "The Black Heart" と思いきや、 "The Concrete Blonde" でした。コンクリート詰めされたブロンド女性の死体が発見されるところから来ています。今回の中心となるのは、ロス市警の強盗殺人課でバリバリ活躍していたボッシュがハリウッド署へ左遷させられる切欠となった「ドールメイカー事件」。前作や前々作でも触れられていた奴ですね。「警官が押し入った瞬間、禿げ男の犯人が咄嗟に枕の下に手を突っ込んだため『武器を取ろうとしている!』と判断して撃ち殺してしまったが、枕をどけると出てきたのはカツラだった」という、まるで笑い話みたいなエピソードながら、当の「警官」がボッシュ自身である以上、笑うに笑えない。

 人形造り師(ドールメイカー)――娼婦やそれに類する女性たちを次々とレイプして絞殺し、死体の顔にべったりと厚化粧を施していくシリアル・キラー。さっきそいつのところから逃げてきた、と告げる娼婦の通報を胡散臭いと思いながらも確認のために赴いたボッシュは、現場にいた男が「動くな!」という指示に従わず、不審な挙動を取ったせいでつい射殺してしまう。「不審な挙動」の正体は「カツラを取ろうとした」という間抜けな代物だったが、現場に残されていた証拠品から死亡した男ノーマン・チャーチがドールメイカーであることは間違いない、と決定された。ボッシュは免職されず、ただ左遷を受け入れることで事件は一件落着した……かに見えた。チャーチの妻が「夫は無実だった」と主張してボッシュを民事訴訟のまな板に上げたことから事件は掘り起こされる。原告側の弁護士ハニー・チャンドラーは「ノーマン・チャーチが本当にドールメイカーだったのか」「仮にそうだったとしてボッシュの射殺は正当な行いであったか」と二段構えで攻めてきて、彼を追い詰める。また、ドールメイカーの手口を彷彿とさせる他殺死体がコンクリート詰めで見つかり、その死亡がどう考えてもチャーチの射殺された後であることから、ボッシュすらも懐疑の迷路を彷徨うことになって……。

 過去の事件を巡る裁判と、「コンクリート・ブロンド」を巡る捜査。二つを同時進行させ、法廷小説としての面白さと刑事小説としての味わいを兼ね揃えてみせる。序盤は比較的ゆったりと進行し、徐々にスピードが上がってクライマックスで一気に加速する、という従来の作風とは打って変わって終始高まったテンションが衰えることのないノンストップ・サスペンスに仕上がっています。あっという間に引き込まれ、夢中で読み耽ってしまいました。これまでの作品も充分に面白かったですけれど、なんと言いますかこれで「化けた」印象がありますね。裁判に出席しながら事件の捜査もする、というギリギリの状況で進展するストーリーには没入しない方が難しい。実にスリリング。敵となる弁護士が「金には汚いが腕は確か」というタイプのキャラで、裁判の外でも怯むことなくボッシュと会話してくる一方、いつもはボッシュの捜査を妨害しようとするアーヴィングが今回は味方に近い役割となって支援を寄越す。シリーズとしての累積が錯綜する人間関係に深い妙味を与え、単にリーガル・サスペンスと刑事小説をくっつけただけ、という程度には終わらないハイブリッドさを誇示してくれました。

 少しずつベールが剥ぎ取られて朧げに見え始める真相。裁判を通じて過去と向き合うことを余儀なくされるボッシュ。『ナイトホークス』『ブラック・アイス』と関連した細かい描写も散在しており、そうした繋がりが分かるという面での楽しさもあります。これまでは自分にとって「気になる」という扱いのボッシュシリーズでしたが、本作で急速に「ハマった」という感触を得た次第。これが3作目で、現在10作目まで翻訳されていますから、コンプするにはまだまだ先が長いです。加えて単独作品でもボッシュシリーズと共通の世界を有しているものがあるとのことで、本格的にコナリー制覇しようと思ったらあと20冊は読まなきゃいけない。そのことがとても嬉しくあります。ワクワクしますねぇ、あと20冊も待ち構えているなんて。今年は正月からイイ出会いに恵まれました。

・拍手レス。

 非攻略の美学ってのは、二次創作を作る原動力のそれに近い気がする。
 「満たされぬ者だけが煌きを見る」ですね(引用元うろ覚え)。


2007-01-15.

・なぜか今更『ネコっかわいがり!』のデモムービーを見て、しかもやけに気に入っている焼津です、こんばんは。初見のインパクトはそんなに大きくなかったのですが、なんだか繰り返し見ているうちに馴染んでしまいました。くるくるとよく動く画面を目で追うのが楽しくて、妙に中毒性のあるムービーですね。

・鎌池和馬の『とある魔術の禁書目録12』読んだー。

 気がつけば1ダースにもなっていたシリーズの最新刊。鎌池和馬も既に新人と呼ぶには相応しくないところまで来ましたな。それはさておき、今回から学園ラブコメ描写を重視した「罰ゲーム編」が始まります。『とある〜』のコメディパートが大好きな当方には正に朗報。「学園」が中心ではあるけれど、幕間で他の地域にいるキャラクターたちの「いま彼・彼女はどうしているか」を面白可笑しく綴ってくれており、かなりファンサービスの行き届いた内容です。堪能しました。なんだかんだでテンポの良さには磨きが掛かってきているし、いっときは「アタリハズレの差が大きくて不安定」と睨んでいたこのシリーズもすっかり安定感が出てきましたー。

 とはいえ場当たり的というか荒削りというかこじ付け臭いというか、万事フレキシブルなところも相変わらずで、決して良い意味ばかりでの「安定感」ではありませんが。特にあの「攻略法」はいくらなんでも……。物事の説明にいちいちハッタリを利かせ、無理矢理にでも理屈づけようとして却って説得力や信憑性を怪しくしているところは、もう「鎌池の作風」と割り切った方が良さげ。説得力があって信憑性も高い描写ばかりで埋め尽くされた『とある〜』なんてもう『とある〜』じゃありませんよ。胡散臭さも味。儲化慣れてきたせいもあって断言できます。

 表紙は主人公とビリビリ(1巻から登場していて人気もあるのに出番が少ない不憫な子)のツーショットなだけにこの二人がメインと思いきや、やっぱりビリビリはビリビリ、微妙な不遇具合で逆にむしろ安心しました。一方、メインヒロインだったはずのインデックスはもう『餓狼伝』における丹波文七並みの扱い……単なる大食いキャラでしかなくなりつつある予感。まあ今回名前しか出てないヒロインもいますから贅沢は言えないでしょう。

 ラブコメ重視とはいえ次巻へ向けての「ヒキ」が小憎らしいくらい見事で、素直に続きが楽しみになってまいりました。解釈のし方によってはこれまでの12冊が丸ごと前フリに過ぎなかった、と受け取れるのだから鎌池和馬のスケール感覚は恐ろしい。13巻は4月以降になるみたいだけど、かなり待ち遠しいなぁ。

・拍手レス。

 いいね、非攻略の美学。語ってプリーズ。
 決してゴールしない想いというのも、それはそれで運命的かと。叶わないからこそ、余計に妄想が膨らむと言いますか。


2007-01-13.

・やっと『斬魔大聖デモンベイン ド・マリニーの時計』を読んだ焼津です、こんばんは。

 なにこの「古橋ウェスト祭」。表紙イラストが九郎と博士と教授とハヅキで、なんか妙な組み合わせだなぁ、と思っていたら正にその通りの内容だったとは。古橋秀之の手によるドクター・ウェストや大十字九郎が拝めたことには素直に感激したし、書き下ろしの「遺跡破壊者(トゥーム・バスター)」に登場するラバン・シュリュズベリイもすっげぇイイ味出してましたけど、やはり本としては薄く、ちょっと物足りない。アンチクロス関連のエピソードとかも読みたかったです。しかし「鍋奉行」には笑った。ついで「闇鍋奉行」が参上することを期待してしまった当方は『アマチャ・ズルチャ』スキー。

サムライ男

 これなんて映画?

・マイクル・コナリーの『ブラック・アイス』読了。

「では、おしまいにするとしよう、刑事。わたしは本部長に合流しなければならんし、市長が到着したようだ。きみの望みはなんだ、わたしの権限のおよぶ範囲で?」
「あなたからなにかをもらうつもりはないですよ」ボッシュはとてもおだやかに答えた。「そこのところが、あなたがわかろうとしないところですね」
 アーヴィングはやっとふりむいて、ボッシュを見た。
「そのとおりだ、ボッシュ。わたしにはおまえが理解できない。なんにもならないことになぜすべてを賭ける? わかるか? これでまたおまえにたいするわたしの懸念が生じたんだ。おまえはチームのために動いていない。自分のために動いている」

 “ハリー・ボッシュ”シリーズ第2弾。原題が "The Black Ice"なのでそのまんまです。「上層部に煙たがられる一匹狼」という姿勢が一向に変わらないボッシュ、今回は「真相を探り当ててもスキャンダルになるだけだから」という理由で市警が曖昧なまま決着させようとしている事件に首を突っ込み、「なにがそこまでおまえを駆り立てるんだ」と訊きたくなるような冒険を繰り広げる。それなりに世間ずれした刑事であるにも関らず、一度行こうと決めたらどうやっても引き戻すことのできない頑なさはあたかも発射された銃弾。真実へ一直線。もっとも問題は、トリガーを引いているのが「法と秩序」なのか「正義」なのか「信念」なのか、本人にもよく分かっていない節があるところですね。一匹狼の刑事って手柄に興味のない人が多いけれど、ボッシュもその例に漏れません。本当、従軍経験でトラウマ貰ってきたくせして、なんで好んで虎口へ飛び込む性格が変わらないのかなぁ。

 おれは自分がなにものかわかった――ショットガンで顔を吹き飛ばした死体から発見されたメッセージ。遺書とも受け取れたが、意味するところは誰にも分からなかった。行方不明になっていた麻薬課の刑事ムーアには「汚職」の黒い噂があり、内部監査を受けて家庭も崩壊寸前とあったから、自殺する理由は充分だった。が、やがて検屍報告で殺人の疑いが持ち上がり、事件は急転……しなかった。スキャンダルを嫌うロス市警はあえて真相を探ろうともせず、「死人に口なし」とばかりにムーアを殉死に仕立て上げ、それですべてを決着させようとする。ハリー・ボッシュは捜査妨害にもめげず、ただひとり事件の背後に隠されたものを暴こうと動き続け、真相を解く鍵がメキシコにあると知るや、早速現地に飛んだが……。

 タイトルの「ブラック・アイス」は作中に出てくる麻薬の名称であり、また凍った路面のことも指しています。地面に張った氷は透明で気づきにくく、うかうか乗っかるとスリップしてしまう。「ブラック・アイスに気をつけろ」というのは向こうで運転技術を習う際に父親なんかに教えられる基本中の基本らしいものの、父親を知らぬまま育ったボッシュはその言葉を掛けてもらったことがない。大人になってようやく忠告を受け取ったボッシュ。黒い氷の張っている道へ踏み出すことを止められないのが彼の性格である以上、ただ「気をつける」ことだけが命綱となるわけです。

 さて、今回は前半がロス、後半がメキシコという構成になっていて若干の旅情色が漂っています。事件の方も関係なさそうに思えたいくつかの死が同一線上にあるものと分かっていって、徐々に全体像が見えてくる仕掛けになっており、刑事小説的な面白さは抜かりありません。大量発生した外来種の実蠅に対処すべく、不妊治療を施した実蠅を放つ――というあたりは“新宿鮫”の『炎蛹』を連想してなんとなく楽しかったです。

 一匹狼メキシコ旅行編。事件を通じて自分自身の過去に向き合い、自分自身の過去を通じて事件に取り組む、という「刑事」と「事件」が分かちがたい関係になっているのは前作と一緒です。メキシコに行くまで結構掛かるのでやや間延びしましたが、現地に到着してからの展開はスピーディで盛り上がりました。クライマックスは特に。まさかあんなことになるなんて。ボッシュへの愛着もだんだん積もってきたことだし、次作にワクテカしてます。


2007-01-11.

『とらドラ4!』を読みつつ「もうメインヒロインはみのりんで確定じゃね?」と思っている焼津です、こんばんは。

 いや割合真剣に。本来メインヒロインであるはずの大河を毎回少しずつ食ってきた実乃梨でしたけれど、どちらかと言えばギャグキャラのイメージが強かった彼女に関し、今回は異なる側面を提示する試みになっています。それがまた――たまらない。可愛すぎてむしろ竜児を応援したくなくなってきました。言わば彼女は「非攻略のメインヒロイン」であってほしいという心情。「非攻略の美学」はいっぺん語ってみたいテーマでありますが、長くて支離滅裂になること請け合いなので割愛します。要するに言いたいのは「みのりん可愛いよみのりん」ってこと。

 ……しかしながら、この4巻にはみのりんを超えてもっと名状しがたい気持ちを誘発するヒロイン(?)がいました。何を隠そう2年C組の担任教師・恋ヶ窪ゆり(29歳独身)。夏休み編なので恐らく本編には出番がないと思いますが、口絵に描かれし凄愴と鬼哭啾々たる顔つき、添付テキストから匂い立つギリギリ崖っ淵転落寸前テイスト、総身より溢るる鬼気――さながら抜き放たれて鞘を失った妖刀の如し。「警告夢」云々以上にアレが一番怖い……。

『Dies irae』、ドラマCDに未収録のボーナストラック公開

 CD未収録なのに「トラック」というのも変な気がしますが、さておき4月30日のベルリンを舞台にした20分ちょっとのミニドラマです。陥落する都市を尻目に黒幕っぽい方々が延々と思わせぶりな会話をする。作業しながら聴いたせいもあって内容はあまり把握できなかったものの、これでとりあえず声優に対する不安は拭えました。ドラマCD聴いた後か本編やった後にでも聴き返そう。

・イアン・ランキンの『首吊りの庭』読了。

 リーバスは彼女がテーブルに戻ってくる頃合を見計らって、ドアを開け、外へ出た。自分のものとは思えない足で、なんとか歩いて自分の車まで戻った。
 家まで車を走らせる間、泣いていたわけではない。
 泣いていなかったわけでもない。

 スコットランドはエジンバラを舞台に、刑事ジョン・リーバスが活躍するシリーズ第9弾。原題 "The Hanging Garden" 。解説によればザ・キュアというロックグループの曲名から来ているそうで、ほぼ直訳。ちなみにあの有名な「バビロンの空中庭園」も「ハンギング・ガーデン」と言う模様。原作の刊行順では『黒と青』の次に当たる本作、内容としてはシリーズのかなり重要な位置を占めています。いきなりこれから読み始めたり、これを読み飛ばして後の作品に手を付けたりといったことは正直オススメしません。うっかり読み飛ばしてしまって今更読んだ当方が保証します。

 ……できれば保証しかたなかった orz

 1944年、ナチスの武装親衛隊がフランスの村で大量虐殺を行った――村の男たちの首にロープを掛けて木に吊るし、住民たちを押し込んだ教会を爆破し、機関銃を掃射して生み出した死者数は、あまりにも多すぎて厳密な数字が出せなかった。生存者は幼い少女を含む僅か四名。虐殺の指揮者とされるヨウセフ・リンツテク中尉は終戦後に姿をくらましたが、事件から50年も経った今、スコットランドに住むジョゼフ・リンツなる老人がその中尉と同一人物ではないかという疑惑が持ち上がる。大戦期の戦犯を調査する仕事を回されたリーバスは老人と顔を合わせ、会話を重ねるが、彼が虐殺を指揮したという確証はどうしても得られない。決して告白せず、しかしはっきりと意見を述べて(自分自身かもしれない)リンツテク中尉を擁護するリンツ。一方、リーバスが歴史の闇を洗っている頃、現代のエジンバラではギャングどもの抗争が過熱し始めていた。見え隠れするチェチェン・マフィアや日本ヤクザの影。麻薬と娼婦。戦犯調査とギャング捜査、二束のわらじを履いて忙しく駆け回るリーバスを襲う悲劇とは……。

 戦犯、ギャング、悲劇。更には自傷癖のある娼婦を救おうと尽力する展開など、今回も盛り沢山のストーリーラインが用意されています。毎回毎回複雑なプロットを組むのが好きなんですねイアン・ランキン。さて、先に以降の作品に目を通してしまっているせいで「悲劇」が具体的にどんなもので、どういう決着をしたか既に分かってしまっているだけに個人的な衝撃が薄らいでしまったものの、それでもやっぱり読んでてズーンと来ました。来ると分かっていても重い。シリーズ読者にとっては読み逃せない代物ながら、これを「好き」と言い張れるファンがいるのでしょうか。ギャングの若々しいボス、トミー・テルフォードの存在感をはじめとして目を惹く箇所は多く、話に熱中しやすいことは確かですが。

 重いながら、今回良かったところはリーバスの娘サミー(サマンサ)が幼い頃の姿が断章形式で挟まれて若き日のリーバスがついでに拝めること、それとあまり触れられてこなかったリーバスの従軍時代のエピソードが明かされることですね。リーバスが英国陸軍の空挺部隊に所属していてSASに志願したことや、その試験に落ちたことは他の作品でも書かれていましたけれど、「そもそもなぜSASに志願したのか?」という経緯が綴られていて興味深かった。一匹狼として悪名を轟かせつつも内面は繊細なリーバス、今回あるシーンで非常に動揺し、支離滅裂な言動を取って錯乱します。普通の刑事小説なら省くか、ボカすかするこうした場面をきっちり描いちゃうあたり、作者も容赦がない。

 複数の軸が交錯して入り乱れる構成で、ちょっとまとまりの欠く印象もあり、いまひとつ腑に落ちないところのある結末でしたが、本作を通してより鮮明にジョン・リーバスが持つ輪郭を浮かび上がらせることは成功していると思います。「刑事小説」というより「ジョン・リーバス小説」って感じ。なのでシリーズ未読、「刑事小説をお求め」な方には薦めかねます。本書以前のシリーズ作品を先に読まれたし。

・拍手レス。

 鬼哭街ドラマCD、そんな男塾テイストなことやってるのか……
 アクションをドラマCDで表現するのはやはり難しそうですね。


2007-01-09.

・一応誘導。修羅場SSスレまとめ特集はこちらからどうぞ

『鬼哭街』のドラマCD『反魂剣鬼』を聴いて濤羅大哥(CV.井上和彦)の怨嗟篭もりまくった「ホォォォォジュンンンンッ!」という叫びが耳にこびり付いて離れなくなった焼津です、こんばんは。

 しかしその叫ばれた相手である豪軍(CV.鈴置洋孝)はもう……(ノД`)

 さて、ストーリー自体は『鬼哭街』とほぼ一緒(大きく異なるのは斌偉信の扱いくらい)なので途中で内容が分からなくなることもなかったです。「受けてみろ、我が奥義・○○○○! 左右どちらかを躱しても残りが当たる! これを逃れられるものはいない!」「げぇっ、×××の奴、とんでもねぇ技を繰り出しやがった! あんなの避けられるわけがねぇぜ!」「確かに○○○○は凄い技だ、普通なら避けられない……だが相手が悪かったな、×××!」(かなりうろ覚え)みたいな「お前らそんだけ喋ってる間に何秒経過してると思ってるんだよ!」とツッコミたくなるシーンもあったけど……世の中には銃弾を射出してから三人くらい会話した後に着弾する小説もありますし、それはご愛嬌ということで豪華声優陣を2時間たっぷりゆったり堪能できた次第。個人的には左道鉗子(CV.家弓家正)の演技がハマってて好きです。

 あ、ドラマCDで思い出しましたけど『Dies Irae』のアレ、今月発売ですっけ。忘れずに予約しとこっと。

・川上稔の『連射王(上・下)』読了。

 数あるゲームのジャンルにおいて、「やり込み」の点ではもっとも求道的で苦行僧めいた印象のあるシューティングゲーム。一対多の状況で自機を操り敵弾を避けつつ自弾を撃って敵機を破壊しステージクリアする、煎じ詰めれば「それだけ」に終始する内容を、2段組ハードカバー2冊という分量で描いた長編です。ゲーム小説、というよりゲーマー小説でしょうか。『ソリッドファイター』『スラムオンライン』など格闘ゲームを扱った小説はあっても、「シューター」を題材とする作品は類例といったものがまったく思いつかないだけに、黙々とSTGに耽るストーリーは「いつか誰かが切り拓いてほしい未知の領域」でありました。

 設定年代はおおよそ1995年前後。ゲーム業界では「ひと昔」どころか「ふた昔」で、時代遅れも甚だしいけれど、当時の空気を辛うじて記憶に残している人間にはノスタルジーが刺激されるところもあって万感尽きません。コアなマニア向けとか、あまりそういう内容じゃない。STGがヘタっぴな当方でも実際にプレーしているようなハラハラ感が疑似体験できたし、「マニアにしか解読不能」な箇所はたぶんないと思います。しかし、ネット公開されている冒頭部分を一読すれば瞭然、川上稔らしい特徴は文体のあちこちに散見されるものの非常にケレン味がなく、朴訥と言っても差し支えないほどおとなしい。過激でイカレたギャグ、サービス的なお色気要素はほぼゼロです。『終わりのクロニクル』のノリを望むと厳しい。テーマでは重なっている部分もありますが。

 野球は好きだけど、他人を押しのけてまでレギュラーになりたいとか、そこまで思うほど本気になれない――高校三年、最後の夏が近づきつつある頃に高村昂は悩んでいた。自分は何かに対して本気になれる人間なのか、と。「冷めている」ことをうまく受け容れられずにいた彼は、ある日、暇潰しに入ったゲームセンターで運命と遭遇する。ただでさえ「難しいから」とあまりプレーする人のいないシューティングゲームを、わざわざ店長に頼んで難易度「VERYHARD」にまで引き上げ、ワンコインでクリアしたフリーター風の男。自分もあんなプレーができるだろうか……と考えた瞬間から、少年の心は動き始めていた。最初はすぐに弾を喰らってゲームオーバーになるばかりだったのが、少しずつコツを覚えて先に進めるようになると、楽しくなってくる。それでもやはり撃墜されるたびに「悔しい」と思い、「次こそは勝ちたい」と願う。

 勝ちたい――野球ではついぞ得られなかった、渇望に等しい激した感情。それを得たことから、彼は「これが自分の本気を試すものになる」と直感する。かくして弾幕と連射の世界へ身を投じることになった少年。ようやく「生き甲斐」を見つけた彼が、シューティングゲームを通して掴んだ答えとは……。

 あくまでゲームによる闘争を「自己との戦い」という次元に位置づけ、すっぱりと対戦要素を除外しています。伝説の凄腕シューターが出てきてハイスコア争いを繰り広げたり、曲芸的なプレーでスタイルの美しさを競ったりなどの、よくある試合形式に誂えられた「目に見える勝ち負け」は存在しておりません。勝敗の結果というより、勝負に懸ける心意気が重視されている。だからと言って精神論や根性論で片付けるのでもない。説明を求められても困るような「ゲームへの熱中」を、比較的理解しやすい言葉と状況でもって解きほぐし、明確な目標を定めた上で「本気になること」の意味を考え詰めていく。題材が珍しいとはいえ、やってることはごくオーソドックスな青春モノですね。壁の突破、成長、自分なりの答え。足掻き方が少々特殊なだけか。

 図解でSTGの基礎知識を説明するためのページは割かれていますけど、挿絵はまったくありません。まあ良くも悪くも強烈な個性を持ったキャラクターは登場しないので、「挿絵なし」による弊害は特に感じませんでした。やっぱりゲームそのものが主体なんです、この本。通常のライトノベルに換算すれば3冊分くらいには相当する分量なのに、主要人物は10人を切る。主人公は人間関係の問題も抱えていたりもするが、結局やってることはほとんどゲームばっか。ストイックとも飾り気がないとも言えます。

 「ゲームの王道はRPGにあり、ゲームの本質はシューティングゲームにある」という作中の言葉が象徴するように、別段シューティングゲームに習熟したことがない人だろうと、一度でも「ゲームに対してムキになったことがある」のならいろいろと共感を覚えるのではないでしょうか。ムキになる必要なんてどこにもないのに、でもムキになってしまう。ゲームがうまくなったって実利に結びつくことなんてないのに、でもうまくなりたい。「たかがゲーム」と言うことは易く、「されどゲーム」と言い返すのは難い。でも投げ出したくはない……多大な時間と労力を費やし、時に寝食も忘れて攻略に没頭した日々。理不尽で、自己満足以外の何物でもない想いを叶える――全力を傾ける。クリアしても、形は何も残らない。なのに悔いはない。むしろ寂しくすらある。充実感と似ているようで明らかに別物の到達点。シューティングの知識だの教養だのを超え、ランナーズハイのように込み上げる「ゲームの本質」が胸に迫ってきました。

 『首領蜂』を嚆矢とする「弾幕系」のシューティングが一世を風靡する前とあり、気の狂うような弾幕を突破していく様子が延々と描かれることを期待していた身にはやや残念でしたが、ともあれ当時を懐かしみつつ読めたことは嬉しかった。決してコストパフォーマンスがいいとは言えないにしても、読んで損のない出来。与太者寸前の情熱に酔い痴れましょう。……で、「次は文庫で」ってあとがきにありますけど、新刊はなんなんでしょうね?

・拍手レス。

 まさか『炎と氷の歌』と修羅場SSのレビューが並存する夢の様なサイトに出会えるとは…
(続き)ちなみに剣嵐の大地にはヤ ン デ レ が 出 て き ま す
(更に続き)ツ ン デ レ も 出 て き ま す(JとB)

 修羅場SSスレはまったき楽土ですねぇ。『剣嵐の大地』は3巻が届き次第、1巻から一気に読む予定。ああ武者震いが。


2007-01-07.

・40万ヒットありがとうございます。もっと先になると思っていたので驚いている焼津です、こんばんは。

どうやら『天帝のはしたなき果実』は本当にもうすぐ発売されそうな気配

 推薦している宇山さんの肩書きに(故人)と付いていて涙。しかしながら作品そのものは延期のしすぎで関心が薄れてきました……「90年代初頭の日本帝国」とか「本格と幻想とSFが奇跡のように融合した青春ミステリ」みたいな惹句が放つキナ臭さに鼻が慣れてしまって刺激を感じなくなった次第。メルマガの作者コメントで挙げている作品群(『月光ゲーム』『密閉教室』『霧越邸殺人事件』『虚無への供物』『匣の中の失楽』など。ちなみに『ZG』ってなんだろう。ゼータガンダム?)を見ると新本格ファンだった頃を思い出して疼くものはありますが……とりあえず店頭でパラ見してみることにします。

・マイクル・コナリーの『ナイトホークス(上・下)』読了。

「たえず悲しみと孤独に悩んでいる人をさす六文字言葉を知らない?」窓をひきあけ、爪に傷がつかなかったかたしかめたあとで、彼女は訊いた。
「ボッシュだ」
「なに?」
「ハリー・ボッシュ刑事だ。とりついでくれ。ヘクター・Vに会いたい」

 デビューから14年、未だに人気の衰えないマイクル・コナリーの代表シリーズ、“ハリー・ボッシュ”シリーズの第1弾。作家名、刑事名ともども見聞きした覚えは大量にありますが、最近イアン・ランキンの“ジョン・リーバス”シリーズにハマって刑事小説への興味が沸騰するまで手を付ける機会が得られず、長々と放置していた次第。ボッシュは途中で警察を辞めて私立探偵になるのでシリーズ全体が刑事小説ってわけじゃありませんが、どっちにしろ評価が高いことには変わりません。

 主人公ハリー(ヒロエニムス)・ボッシュはロサンジェルス市警ハリウッド署に勤務、と書くとなんか華々しい印象を受けますが……ハリウッド署はロス市警から「下水」扱いされているみたいで、あまり名誉のある刑事が行く場所ではない模様。「ドールメイカー事件」という二桁に昇る娼婦を殺した事件の犯人を撃ち殺したことにより左遷させられてしまった彼はもう後がなく、何かヘマをすれば馘首となりかねない瀬戸際にいます。なのに一匹狼気質を押し殺すことができず、すっかり鼻摘み者になっている。事件を解くのが先か、職を解かれるのが先か。ハラハラざられます。

 トンネルネズミ――それがハリー・ボッシュの所属していた部隊だった。ベトナム戦争に従軍した経験が、十数年経った今も精神を苛んで安眠できないでいる。刑事としてロス市警ハリウッド署で働いている彼は、ある日、大きなパイプの中に横たわっていた身元不明死体が、個人的に見覚えのある人物であることに気づく。かつてベトナムで同じトンネル・ネズミだったメドーズ――薬物の過剰摂取で死んでいた。しかし現場や死体の状況から「これは殺人だ」と見做したハリーは早速捜査に取り掛かる。ベトナムの地下に縦横無尽に走るトンネルへ潜り込んで、乏しい明かりだけを頼りに敵兵を掃討し、仕上げにトンネルを爆破して塞ぐ苛酷な任務を与えられた過去は二人に共通するものだったが、メドーズはトンネルに似たパイプの中で死に、ボッシュは地上を駆けずり回ってその死の真相を暴こうとしていた。やがて彼が事件の背後に潜むもう一つの「トンネル」に行き着いたとき、歯車は動き出す……。

 原題は "Black Echo" 。ぽっかりと口を開けた穴と、そこを潜った先に待ち受ける闇を「黒いエコー」と表現するところから来ています。己の荒い息遣いが反響して生み出す音は、ほとんど闇と同質に感じられるのかもしれない。トンネルネズミ(あるいはトンネルラットとも)は比較的マイナーというかマニアックな部隊のようで、スティーヴン・ハンターの『真夜中のデッド・リミット』やロブ・ライアンの『アンダー・ドッグス』にも元トンネルラットのキャラクターが登場して非常に印象的でしたが、あまり広くは知られていないみたいです。「従軍経験がトラウマになっている」という設定そのものはありふれているけれど、そこでトンネルラットを選ぶところが良い。現在に発生する事件もトンネル絡みで、設定とストーリーが巧い具合に溶け合ってすんなり馴染むことができる。癖の少ない文体で読みやすかったのもありがたい。ただ翻訳の問題として、漢字を開きすぎてひらがなが多くなってるところは、正直ちょっと読みにくかったです。上に引用した「傷がつかなかったかたしかめたあとで」とか。ちなみに引用した遣り取りはクロスワードパズルをやってる女性がボッシュに答えを訊いて、質問を無視したボッシュがマイペースに名乗るというシーン。ボッシュのスペルも「Bosch」と五文字だから、茶目っ気でも何でもなく本当に無視しただけみたい。

 「ロス市警ハリウッド署勤務」というプロフィールとは裏腹に、ご当地産のアクション映画ほど派手な展開はありません。基本的に足で稼ぐ地道な捜査活動で、少しずつ手掛かりを集めながらゆっくりと事件の全体像を構築していく。死体もそれほど転がらない。銃撃戦も散発的でおとなしめ。解説でも言ってますが、ハリーはハリーでもダーティ・ハリーとは大違いです。まあさして協調性ありませんし、警察内外にも敵をつくってるし、独断専行型の刑事ではありますが。上司が小言を垂れる次元に収まらず、内務監査課まで動き出していて薄氷を踏むが如き立場にいる。刑事小説でお約束のファクター「捜査妨害」は下手な使い方すると単に読者をイライラさせるだけに終わりますが、この監査課の連中がまた見事なアホでコメディ分を供給してくれるんですよ。監査課担当の副警視正アーヴィン・アーヴィングもイイ感じに鼻持ちならない。やけに顎を強調するせいでイメージがアントニオ猪木で定着してしまいました。

 クライマックスに入ってからの畳み掛けは素晴らしく、直前まで少しダレがちな箇所も見当たりましたが、軽く帳消しできます。このシリーズは主人公であるハリー・ボッシュが決して事件の部外者ではなく、彼も事件を通して自分自身の過去や内面と向き合うコンセプトになっているのが特徴だそうで、本書のみではまだ掴めない部分もあるにせよ、充分「続きが読みたい」と思うに足る仕上がりでした。「メドーズがおれの命を救ってくれたとか、おれが救ったとかいうのじゃない。そんな単純なものじゃない。でも、借りがあるような気がするんだ。あいつがなにをしようと、どんなクズになろうと」と語る場面がひと際心に残った。もっとボッシュのことについて知りたい。


2007-01-05.

・夢見はいまひとつだったし風邪気味でへばっていたけれど、某所で「山本くんとお姉さん」のお正月スペシャルを読むことができて幸せ絶頂な焼津です、こんばんは。やっぱり好きだこのSS。本編再開までひたすら待つとします。

第136回芥川・直木賞候補作

 芥川賞はいつも通り知らない作品ばっかり。直木賞は……知ってることは知ってるけど、どれも読んでないです。決定する前にせめて一作でも読んでおこうかなー。

ステージななの『narcissu(ナルキッソス)』をプレー。

 同人ノベル。今はなきねこねこソフトのメインライターだった片岡ともがシナリオを手掛けています。無料配布されていますので気になる方はダウンロードされたし。「極力テキストとイラストを排する」方針でコンパクトに制作されており、ボイスあり版とボイスなし版、二種類のシナリオを用意して「声有りと声無し」の差を明確にしようと試みられています。ボイスあり版/ボイスなし版で細部がちょこちょこ変わっているらしいのですが、片方しかやってませんので未確認。画面がワイドというか横に細長く、テキストが一度に二行までしか表示されないこともあって字幕付きの映画を見ているような感じです。

 プレー時間が1時間程度と短いこともあり、ストーリーはさして込み入ってません。要約すれば「不治の病に冒された男女が病院で出会って逃避行」ってところ。決して斬新ではなく、「逃避行」という点で内容的にも『銀色』の第一章とやや被ってるし、センセーショナルに耳目を集める要素は希薄。恬淡とした筆致で「大人になることを拒まれた若者たち」の姿を綴っています。基本的に暗い。しかしながら僅かな光明が宿っている。そんな塩梅。

 確かにテキストやシナリオはかなり削ぎ落とされているものの、舌っ足らずな印象はなし。短い文章と短いストーリーで読み手にしっかりと内容を伝えてきます。語る言葉をあえて少なくすることで感情に訴えてくる面がある。何より読みやすい。冒頭だけ読むつもりが、気づけば最後までやっていました。取り立てて摘まみ上げる部分のないシナリオなのに、やたらと先が読みたくなる。しっとりと奇妙な潤いを保った世界に浸ってしまう。ある種の引力を持った「雰囲気ゲー」ですね。

 病める者が過ごす「一日」と、健やかな者が送る「一日」。ふたつを比べるとどうしても「重みが異なる」だとか「全然違う」だとか述べたくなりますが、そうした感情や意見とは関係なく一日はあくまで一日です。重み云々といった捉え方を捨てて、あくまで一日という代物が誰にとっても平等で、だからこそ不公平に思える矛盾を受け入れて臨む。切り詰められたテキストから窺えたのは限りなく透明に近い視点でした。ラストで若干ボカされているところがあり、閉じ切った世界であるのに輪が完全に閉じてないような据わりの悪さも覚えるものの、ハレーションを起こしそうなほど眩しい情景に胸を打たれなかったと言えば嘘になる。個人的に好きな映画『ノッキン・オン・ヘブンズ・ドア』をちょっぴり思い出しました。天国じゃみんなが海の話をするんだぜ。

 サイトに現在制作されている続編のデモ(実質的には体験版)があったので手を付けてみましたが、CGがごとPに変わっていたり、声優陣にあの特徴的な喋りの人(名義が違っているから伏せてみる)が加わっていたりして驚かされました。話の方は数年前に遡る過去編で、今度はヒロインのセツミが主人公を務めている。ほんの冒頭と予告編だけでメチャ短い。が、大まかな内容は分かります。言ってみれば「先代」のエピソードですか……こうして見ると、『narcissu』にはサーガっぽい側面があるのかもしれません。実際にサーガ化するのは無謀でしょうけれど。あとタイトルの綴りに「s」が一つ足りないのは意図的なものだそうな。

・うっかり忘れていた拍手レス。

 あけましておめでとうございます。レビュー楽しく読ませて頂いてます&参考になります。SSもできれば>
 >読みたいですw かばね

 すみません、遅れましたが、あけましておめでとうございます。SSは書きたくなるほど魅惑的な題材に出会えることを願うばかり。

 この時期になっても就職できない四回生です。どうやったら就職できるんでしょうか……。
 焼津さんの経験からアドバイスもらえないでしょうか。

 自分自身に頼る限界が来たと思ったら、友人や郷里といった「頼みの綱」に縋ること、かな。あまり参考にならない経験則ですみません。


2007-01-02.

・おけましておめでとうございます。旧年中はありがとうございました。今年も相変わらずのノリで続けて参ろうと思います。

 さて2007年。当方の目標はいつも通り「積読(および積みゲー)を崩す」「衝動買いを減らす」の二つですが、今年の気になること/楽しみなことをつらつら上げていきますと、

“氷と炎の歌”第三部、『剣嵐の大地』(全三巻)完結
川上稔一年ぶりの新作、『連射王(上・下)』発売
講談社BOXから奈須きのこの『DDD1』刊行&西尾維新の『刀語』十二ヶ月連続刊行開始
で、古野まほろの『天帝のはしたなき果実』は本当に出るの?
虚淵玄の『Fate/Zero Vol.1』一般販売開始、全四巻構想で『Vol.2』は3月予定だとか
talestuneの短編ノベル『収穫の十二月』はショップ売りされるかしら
そういえば『ひぐらしのなく頃に礼』を買うの忘れてた
今月は高遠るいの新刊が2冊出るみたい
来月は冲方丁の“シュピーゲル”2冊が同時刊行するようだ
2月には電撃文庫で『悪魔のミカタ』が再開したり電撃小説大賞作品が4冊出たり
そして日本橋ヨヲコの『少女ファイト(2)』と漆原友紀の『蟲師(8)』が出るよヒャッホイ
3月発送予定の川上稔&さとやす本『遭えば編するヤツら』は忘れずに予約しました
・ハヤカワのメルマガによるとダン・シモンズの『オリュンポス』と村上春樹訳の『ロング・グッドバイ』が3月に発売だそうな
lightの『Dies Irae』、最短でも4月発売とは酷な話だ……とりあえずドラマCDを査収しますか
propllerのトップ絵、東出祐一郎ラインの新作? バトル系?
・『冬の巨人』まだー? 『超妹大戦シスマゲドン2』まだー? 『BLOODLINK5』まだー? 『空の園丁』まだー?
・『霊長流離オクルトゥム』まだー? 『俺たちに翼はない』まだー? 『陰と影』まだー? 『クルイザキ』まだー?

 ――物欲の嵐。目標達成はほぼ無理な気がしてきました。

・イアン・ランキンの『血の流れるままに』読了。

 初めの問題は、警察官としての仕事だけが自分の日常生活に外枠と中身を与えていることだ。それだけが自分に働く予定をもたらし、朝起きる理由となっている。自由時間が何より嫌いだし、日曜日の休みを嫌悪している。働くために生きているのであり、ほんとうの意味で生きるために働いているのだ。

 根っからの刑事、そのくせ集団行動が苦手で足並みを揃えることができず、いっつも一匹狼として独断専行してしまうジョン・リーバス。そんな彼の登場するシリーズ第6弾です。原題は "Let It Bleed" 、例によってローリング・ストーンズの曲に由来する模様。代表作『黒と青』の前作で、大長編傾向が顕著になる寸前の作品でもあります。ポケミスとしてはそこそこ分量のある方ですが、以降のシリーズ作品と比べるとやや短い。そのため読み応えという点では若干の物足りなさが残る。とはいえ内容はスマートにまとまっており、「冗長すぎる」などの謗りもある他作品より目を通しやすい一冊であることは確か。ジョン・リーバスのシリーズを読み始めるなら本書から、と薦めてみるべきだろうか。

 市長の娘、カースティ・ケネディが失踪した。それがすべての発端だった――のかもしれない。「カースティを誘拐した」と告げる電話に色めきたった警察はハリウッド映画ばりのカーチェイスを繰り広げた末に、車から降り立った二人の若者を追い詰める。袋の鼠と化した彼らは状況を悲観してか、リーバス警部の目の前で川に身投げして自殺してしまう。車や男たちの住居から娘は発見されず、依然行方不明のまま。二人が本当に誘拐犯だったのか、単なる便乗犯だったのか、それすら定かではなかった。一方、出所したばかりの元受刑者ウィー・シュグは切り詰めたショットガンを手に小学校に押しかけ、区議員トム・ギレスピーが見てる面前で自らの頭を吹き飛ばした。何かの抗議めいているが、ギレスピーは「何も言わずにただ撃った」と証言する。二つの(あるいは三つの)自殺事件。リーバスが真相を探るうち、上層部からの圧力が掛かる。無理矢理休暇を取らされたリーバスは、それでもなお捜査を進めるうち、やがてスコットランドの黒い闇へと行き着くこととなるが……。

 ごめんなさい、さっき「スコットランド」を「ストッコランド」とタイプミスしてしまいました。「黒い闇」だけに黒ストっ娘だらけの素晴らしい国を夢想しちゃったりして本当にごめんなさい。さて、非番も何のその、「刑事」という生き方しかできない主人公が違法スレスレの捜査を展開する長編ミステリです。冒頭はいきなりカーチェイスから始まってスピーディに進行しますが、その後は派手なアクションもなく、ひたすら地道な捜査活動が続く構成となっております。しかし、一見関係がなさそうだった事柄が結びついていって徐々に複雑な全体像が浮かび上がってくる過程を含め、「激しい銃撃戦」や「襟を掴んでの殴り合い」にも負けず劣らずのダイナミックな面白さで楽しませてくれる。警察内部の人間関係もストーリーに影を落とし、二重三重の錯綜が興味をそそって退屈させません。

 今回はリーバスの一人娘、サミーの出番が多くてシリーズファンにとっても嬉しいエピソードに仕上がっています。他の作品では名前だけ出てきて実際に登場するシーンがなかったりとかで、結構やきもきさせられていましたし。反抗的な娘と常に対立する位置を取ってしまうリーバス。登場人物の一人が「リーバスは相手の反応欲しさに、喧嘩を吹っかけるのが好きだ」「合意よりも対立のほうが、あなたにとっておもしろいからよ」と言及していて、彼が執拗に皮肉げなセリフを吐いたり常に一言多かったりする性格の根幹をズバリと指摘しています。彼とて娘が可愛くないわけではなく、ことあるごとに「ここは幼い頃の娘をよく連れてきた場所だ」と追憶に耽ったりしている。帰郷するサミーを出迎えに駅まで行ったのに、声を掛けることができなくて向こうから気づいてくれることを祈ったりと、ちょっとキモい親父ではありますが一匹狼らしからぬナイーブな姿にほろりとする回想シーンもありました。

 酒を飲んでいないときは、なかなか眠れない。そんなときは暗闇を凝視し、暗闇が何らかの形になるようにと念じる。そうすれば何かがわかってくるのではないかと思うのだ。生きることの意義を考えようとするが、若いころの悲惨な陸軍の経験、失敗に終わった結婚、父親としても友人としても恋人としても失格者だった自分を思ううちに、最後は涙があふれてくる。

 ベッドではうまく寝付けないので椅子に座ったまま眠るのが習慣となっている彼の侘しさが胸を衝く。「悲惨な陸軍の経験」については、知りたい気持ちもあり、知りたくない気持ちもあり。当初抱いていた「カッコいい一匹狼の刑事」というイメージにはそぐわない、有体に言って情けないところも多いキャラですけれど、読めば読むほど愛着が深まってきます。抑制の効いた雰囲気で、あまり過激な展開がないせいもあって地味な印象のシリーズではあるものの、未訳の第3作から第6作も早く日本語版が出て全部読めるようになってほしいなぁ、と願うばかり。

・初夢の定義は「元日の夜or二日の夜に見る夢」だそうですが、それはともかく今年初めて見た夢の内容が「おせち料理に人肉疑惑が発生するけど美味しいのでとりあえず食べ続ける」というやけに猟奇的な代物……そして初夢の方は「新年早々に好きな作家の訃報を聞いて愕然とする」って内容でした。さ、幸先悪い……。


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