臓器たんといっしょ!


2006-10-13.(発端)

・臓物を擬人化した「臓器たんといっしょ!」みたいなタイトルの腐れネタを妄想。甲斐甲斐しくて頑張り屋でピンク髪の心臓たん、艶やかな黒髪を持った双子の腎臓たん姉妹、いつもは取り澄ましているがアルコールが入るとアセトアルデヒド級の毒舌を撒き散らして乱れる肝臓たん、地味ながら癒し系の雰囲気を放つ膵臓たん、存在や必要性が薄くて「どーせ、どーせわたしは要らない子ですよぅ……」と部屋の片隅でいじけている脾臓たんetc。考えているうちにだんだん気持ち悪くなってきたので途中でネタを廃棄した焼津です、こんばんは。隠しキャラは三焦姉妹とか。類似企画として骨やら筋肉やら人体ネタでいくつも出せることは出せるけれど、やっぱり臓物がいっちゃんインパクトあると思います。


2006-10-27.(戯れに書いた一回目)

 朝起きたら、心臓がなかった。
 ……えっとね、もっと具体的に言うとですね?
 こう、胸の筋肉とか胸郭がザベル=ザロックさんのようにガバーッと開いてて。
 首を攣るほど曲げてみても、肺や脊椎が見えるばかりで。
 本来ならドックンドックン二十四時間休まず不随意で動いてるはずの器官が、どこにもない。
 代わりに、なぜか傍らに見知らぬ女の子の姿があって。
 端然と正座の姿勢を取り、三つ指をついて深々と土下座……じゃなくてお辞儀をしているところだった。
 こっちが布団に寝転がっているので、ちょうど顔を覗き込まれる形になる。
 柔らかく整った顔立ちは純和風ながら、ぱっちりと大きな目のド真ん中(デッドセンター)に位置する瞳と、ふんわりウェーブを描いて輪郭を取り巻くセミロングの髪は――まるでアニメ配色のごとき桃色。
 ブロンドとか光の加減とかそういったものではない。
 染めてるとは思えないほど自然な、けれど……紛れもないドピンクだ。
「誰じゃ!?」
 脱獄した心臓のことでショック状態だった俺は勢い良く上体を起こすこともできず、寝たままの格好で桃瞳桃髪の謎少女を誰何する。
「はじめまして――」
 と、言ってる途中でクスッと笑いを噛み殺した。
「ごめんなさい、間違えました……正確には、この姿でははじめまして、ですね」
 三つ指と正座を解き、俺の胸に覆いかぶさってくる。
 淡紅の唇に手を添えているのは、空っぽの胸腔に息を吹き込まないようにとの配慮か?
「今朝方、ここ――」
 かつて俺の熱く滾るハートがあったポイントを指差す。
「――から出てまいりました、心臓と申します。故あって貴方と同じヒトの姿を取ることになりました。ふつつかな臓器ですが、どうぞ今後ともよろしくお願いします」
「はあ?」
 まったくもって意味不明。
「と。自己紹介はこの程度にしまして」
 身を引き戻し、ガサゴソと足元にある何かを探った。
「まずは――縫ってしまいませんとね?」
 言うなり彼女が手にしたのは、針と糸――今や家庭科の時間くらいしか女の子が手にしている場面を目撃する機会のない、いわゆる裁縫道具だった。
「えっ、ちょっ、きみ待っ――」
 制止しようにも、身動きするのが怖くて。
 朝っぱらから無麻酔の縫合手術を敢行され、俺は「アッー!」と泣き叫ぶハメになった。

 チクチクチクチクとすっげぇ痛い人体針仕事がどうにか終了し、涙目を拭いながら訊いた。
「んで。会うなり俺をブラックジャックみたいにしてくれた君はどこのどなた様ですかね?」
「ですから貴方の心臓ですってば……さっき言いましたでしょうに」
 頬を手で押さえ、はあ、と溜息。
 いや待て。なぜお前の方が溜息ついてんの? おかしくね?
 普通逆だろ、俺の方だろ。泣くぞコラ。
「もう、この程度の肉縫いで泣かないでくださいよ。あのですね、昔はですね、怪我した腕を放っておいて化膿するどころか腐ってしまい、刀でギコギコとノコギリみたいにして壊疽した部分を切り落とさなくちゃいけなかった……という方々もおられたらしいですけれど、泣き叫ぶどころか平然としていて、あまつさえ切り落とすのも自分でやった方さえいるそうですよ?」
「知るか!」
 叫ぶ。未だに消えない痛みが殊更に怒りを煽った。
 ――だというのに。
 頭にカッと血が昇ったり、鼓動が激しくなったりはしない。
 何せ心臓がないんだから。
「まあ、そうですね……『心臓』だけでは名前としての識別性が低いですから……」
 ぱああっ、とスマイルをシャイニング。
「――私のことはどうか、『心臓たん』とお呼びください!」


2006-10-31.(出来心で続けた二回目)

「で、おまえが抜け出したおかげで俺の血流が滞って朝っぱらからローテンションに陥ってるわけだな?」
「はい」
 心臓たんと名乗った少女は緋鯉ならぬ桃鯉が泳ぎ回るピンク色の着物に細い指を滑らせ、裾の皺を伸ばしている。
「なあ、それって、ひょっとしてヤバくね? このままだと俺死なね?」
「ええ、ヤバいですね。死んでしまいますね」
 表情一つ変えずに首肯した。平然として、微塵の屈託もなかった。
「他人事みたいに言ってんじゃねーよ……おいおい、俺が死んだらおまえも困るんじゃないか? 心臓なんだし」
「いえ別にそうでもないですよ?」
 肯定が来ると思ったのに、返ってきたのはやけに薄情な答え。
「は?」
「もともと心臓って独立して動く器官なんです」
 なんてことをのたまい出した。
「ほら、ホラー映画とかスプラッター映画なんかで生きたまま心臓を抉り出すシーンがあるじゃないですか? あれ、体外に出てからもドックンドックン収縮を繰り返してますよね?」
「ああ、確かに……」
「体内にいるうちはあの収縮で以って血液ポンプたる役割を果たすわけですけれど、だからって互助的なパーツの一つってことにはなりません。体がなくたって心臓は自分で動いていられます。器官としては一個で完結してるんです」
 ポカンと口を開け広げる俺に向かって、滔々と捲し立てた。
「ですから、あなたはわたしがいないと困りますけど……わたしはあなたがいなくても生きていけるのですよ?」
「いや待て、なんで俺がおまえのヒモみたいな扱いになってるんだ? それも女に愛想を尽かされてもうすぐ離縁される奴っぽく」
「実際、愛想が尽きたからです」
 はあ、と片頬に手を当てて溜息。憂愁の色合いを帯びた目でじっと見詰めてくる。
「はっきり言ってあなた、不健康すぎます。運動しないし、酒タバコは飲み放題吸い放題だし、なんでもかんでも料理にお塩やお醤油掛けまくるし、油っこいものや甘いものが好きでバクバク食べてコレステロールが多すぎになるし、くだらないことで腹を立ててストレス溜め込むし……!」
 穏やかだった口調がだんだん荒れて声高になってきた。終いにはバンバンッと畳を平手で叩き始める。
 なあ、自分で言っときながら、こいつも結構ストレス溜め込んでんじゃねぇのか? それが俺の責任なのかどうか、ちょっと判断つかないが。
「もう、その歳でわたしに負担かけすぎです! 今から既に動脈硬化が心配ですよ、わたしは! いくらなんでも我慢しかねますってば!」
 柳眉をほんのり逆立て、ぷんすかぷんとドピンク頭から湯気を噴き出す勢いで説教した。右手の人差し指がピンと立っていて、語気を強めるたびにそれを振る。いわゆる「ダメだぞ!」のポーズ。
「あなたが生活習慣を改善すると誓って、それで計画を立てて実行して、きちーんと健康体に戻るまではわたし、帰りませんからね!」
 なんてこった、臓器に「不健康だから」という理由で謀叛を起こされるなんて……きっと俺は後々日本史に登場して「平成の世において、己が心臓に叛逆されし暗君」と紹介されるに違いあるめえ。
「分かった、誓う、誓うから。さすがに俺も自堕落な生活を送るためだけに命まで懸けたくねぇ。生活習慣を改善する」
 片手を上げて宣誓。こんなカッコ、小中高生の頃すらしたことなかった。まるっきりダメ生徒だったし。
「……けどさ、今の状態だと、健康になる前に死ぬんじゃないか?」
 何せ心臓が空っぽのままだぜ。洒落になんねーよ。せめて和解案を呑んで一時的にでも戻ってもらわないと。
 ……ってあれ?
 いつの間にか、心臓たんが俯いていた。顔はよく見えないが、頬を赤らめてもじもじと左手と右手の指を絡めている。
「あ、はい、かしこまりました……あなたの宣誓を信じることにします。で、でもですね、一旦体内へ戻ってしまうと、また出てくるのが難しいので、その……体外に留まったままで機能を回復して差し上げることに、しますね?」
「なに? そんなことできんの?」
 ならさっさとやってくれ。気のせいか、体が重くて億劫になってきてるぞ。足とか冷たいし、全身に血液が行き渡ってないんじゃねーか?
 焦れる俺だったが心臓たんは依然もじもじを繰り返し、一向に行動しようとしない。
 が、やがて決心したのか、ガバッと顔を上げた。
 真っ赤っかだった。すべすべの肌と合わさってまるでよく磨かれた林檎のようだ。
「あ、あの……その……わ、わたしとえっち……い、いえ、肌を重ねれば……ほんのいっときだけ、あなたの機能が回復するんです……っ!」
 爆弾発言だった。エロ・テロルだった。
 おい、誰か機動隊のEOD(爆発物処理班)連れてこい!
「それなんてエロゲ?」
「言われると思った……! あなたの趣味からして言われると思ってました……! でも仕方ないんです! 他に方法なんてないんですよう! あまりツッコまないでください!」
「でもそれって要するにツッコめ、ってことだよな? 口に出して言いにくいところに。口に出して言いにくいものを」
「シモネタはいいですってば! と、とにかく……こうなった以上はDo or Dieなんです!」
「ヤらなければ“死ぬ”と。
 君は!」
「だからいいんですってばシモネタはぁ!!」

 そんなこんなのドタバタをひとしきり繰り広げて、落ち着いたところで心臓たんが震える手を一生懸命使って着物の帯をしゅるりと解き、「じゃあ、お願いします……あの、わたし、初めてですから……どうか……うっ……優しくして、ください……」とテンプレ台詞を口ずさんだ直後。

「エロいのダメーッ!」

 ばばーん、と寸止めお色気コミックよろしく部屋へ乱入してきた奴が!
「ちょっと! 心臓たん! あたしたちを差し置いてなぁに勝手にエロい真似仕出かしてんだこの……欲情魔が! 焦ったじゃないか!」
「まったくだよ、うん」
「あ、あなたたちは……!?」
 黒くてサラサラしたセミロングのおかっぱ髪を下げた、よく似た双子の姉妹。服装は黒のワンピース。傍らにはなんつーかこう、魔女っ子アニメに出てくる「使い魔」みたいな白猫と黒猫が「みゃー」「みょー」と鳴きつつふよふよ浮いている。造型はなんだか手抜きのヌイグルミみたいだが。
「誰だてめぇら」
 まだ心臓機能が停止した死体さながらの据え置き状態につきテンション低い俺。
「よくぞ訊いてくれた!」
 と、双子の一方が片手を腰に当ててビシィッと人差し指を突きつけた。もう片方が「付き合いだから……」と言わんばかりにおざなりな仕草で左右反対のポーズを取る。
「答えよう! あたしたちは夜のうちにこっそり大脱走した腎臓姉妹だ! 見ての通り双子! あたしが右腎たんで!」
「あたしが左腎たんだよ、うん」
「ちなみに浮いてるこいつらは右&左の副腎たん! だけどいっぺんに四つも名前出すとややこしいから今は覚えなくて宜しい!」
「宜しいんだよ、うん」
 ひどくやる気にムラがある双子姉妹だった。
「腎臓だぁ?」
 手鏡で背中のあたりを確認する。おお、確かに縫合した痕跡が二つも残っている。一つは縫い目が綺麗でもう一つは縫えてなかった。
「なんかこぼれてきてる……」
 何がこぼれてるのか、考えるのはよそう。
「ふふん! ごはん漁るだけ漁ったら眠くなっちゃってさっきまで冷蔵庫の前で熟睡してたあたしたちだけど! 双子が力を合わせれば魅力は二倍! 背中を合わせれば死角なし! ゆえに最強!」
「割と無敵臭いよ、うん」
「侮るなかれ!」
「略すと『アナルなかれ』」
 一文字省いただけじゃん。
「さあ心臓たん! ヒロイン面してるあんたに今日こそ目にもの見せてくれよう!」
「……ねえ右腎たん、そろそろ居間に行ってテレビ見てきていいかな?」
「い、いきなり何よ左腎たん!?」
 姉だか妹だか知らないが、相棒(バディ)がコンビ解消しようとする動きを見せ、右腎たんがもろに狼狽えていた。
 左腎たんはマイペース気味に嘯く。
「とく○ネのオープニングトークが始まる時間なんだよ」
「あんな毒舌キャラぶっといて昔はテレビ通販の商品を誉め殺していたキャスターがメインを務める番組なんて見に行かなくて宜しい!」
「宜しいのか。ふうん」
 周りの存在を斟酌せず、漫才芸人の如くコント時空を築き上げていくふたりを眺めて。
 俺は率直な感想を漏らした。

「うわー……うぜー」


(web拍手のお礼画面に使ってたネタ)

ある日、体の中から内臓たちが飛び出してきた
――可愛い女の子の姿になって

そんな、思いついただけでも切腹ものなネタ

「臓器たんといっしょ!」

の大雑把なキャラ設定集をここに


一番、心臓たん

言わずと知れた生命維持に欠かせない重要器官
これが止まると王大人も「死亡確認!」と言わざるを得ない
でも止まった心臓がまた動き出すことは普通にあるので王大人も確実にあらじ

左右二対の心房と心室からなり、弁とか動脈とかいろいろあるが詳しくはwikipediaとか参照
元来が二十四時間休まず運動する器官だけにヒト形態を取ってからも働き者
家事や雑事を取り仕切るその姿はまるで女将さん

外見はピンクの瞳、ピンクの膝丈まである髪、ピンクの着物(桃鯉柄)とピンク尽くし
挙措言動はたおやか且つしとやかだが、色が色だけにか18禁方面への関心は高い
また肺と並んで「胸」を象徴する臓器だけにやや巨乳……かもしれない

意外と嫉妬深く、また依存癖がある
他の臓器と仲睦まじい様子を見せたら最悪鼓動を停止させられることに
また「あなたがいなくても生きていける」と言いつつも献身する相手がいないと寂しくて無気力に
心を司ると信じられていた(orいる)「心臓」だけに昂ぶる感情を隠すのが下手

「な、なあ、心臓たんと一緒にいるとすっげー胸がドキドキするんだけど、これって……」
「はい、間違いありません、これは――恋、です……!」
「ちげーよ! おまえが勝手に心拍数上げてんだろ! やめろよな、吊り橋効果狙うの!」


二番、腎臓姉妹(+副腎ズ)

尿をつくることで有名なソラマメ状の器官、水分や塩分のバランスにはうるさい
臓器としては珍しく、予備用を含めた左右一対が存在する
バイオレンス小説では「血が黒い……腎臓を撃たれたな……」でお馴染み

双子の姉妹であり、容姿はセミロングのおかっぱ黒髪に黒のワンピース
見た目の年齢はだいたい十四歳程度(ちなみに心臓たんは十八歳前後)
容貌は瓜二つながら右腎たちはハイテンション、左腎はローと対照的

副腎はホルモン分泌の器官で、腎臓の近くにあるから付いた名前であって直接の関係はない
体外においては黒猫と白猫それぞれを模した不細工なヌイグルミ状の使い魔となる
分泌するホルモンによって形状を変化させる能力を持っている(ということにしてみる)

漫才コンビの如くやかましい遣り取りを繰り広げるため、非常にうざい
そこで互いを引き離してみるとそれぞれの個性が浮き彫りとなる

左腎たんが隣にいるうちはイケイケの強気な右腎たんは独りだとかなり顔見知りする性格
威圧的な言動が多いのは一種の虚勢であろう、たぶん
左腎たんの方は常にマイペースで、強いて言えばこっちが姉と目される
熱くなることは決してないが右腎たんをいじめるものは絶対に許さない冷徹の精神を持つ

「腎臓の『腎』は『賢い』という字に似てる! つまり、ある意味あたしたちは賢者なのだ!」
「論理が破綻する以前に始まってすらいないけど右腎が言い張るんならそれでいいよ、うん」
といったわけで基本的にふたり一緒で行動することになり、やかましさは絶えないのであった


三番、肝臓たん

人体における最大の臓器にしてかなりの多機能さん
従ってヒトの形態を取ると大柄な姉御肌のキャラになる
燃えるような赤毛の髪が滝となって流れ落ちる様は、同じく真紅のスーツと映えて目に痛いばかりだ

再生能力が強くてやたらめったらとタフ
wikipediaでは「沈黙の臓器」と微妙にカッコイイ名称まで紹介されている
普段は口数が少なく、野蛮げな見た目に反して取り澄ました所作を示す

が、酒が入ってくれば性格は豹変
アルコールを酸化させるとアセトアルデヒドという毒素が生み出されるが
モンゴロイドである日本人はこれを分解する能力が低い
なので肝臓たんはアセトアルデヒドを脱水素し切れず罵詈雑言として吐き出してしまう

「おめえのピンクはキショいんじゃ心臓ォー! 自分がいくつになったと思ってるんじゃ! 歳ィ弁えろ!」
「オイコラ腎臓のジャリガキども! おめえらウザいんじゃ! ウザすぎるんじゃ! とっとと片方間引け!」
「よーう膵臓ゥ。なんじゃ眼鏡なんぞ掛けて知的ぶりおって、おめえ自分が賢いってアピールしてるつもりか?
あんたらバカには私の名前は書きませんよねウフフって嘲りたくてわざと難しい漢字使ってんのか、ええ!?」
「脾臓ッ! オラァーッ! いつまで居座るつもりだァ! 恥を知れニートでヒッキーの穀潰しめが!」

つまり「あいつには酒を飲ますな」の代表格である


四番、膵臓たん

字が難しいこともあってか「すい臓」と表記されることもある
いわゆる「五臓六腑」の中には入っていない、比較的最近に発見された臓器
が、wikipediaによれば「五臓」の一つである「脾」って本当はこっちを指すかもしれない、とのこと

これまで挙げたものと違ってあまり馴染みのない器官ではあるが、実は結構重要
「ランゲルハンス島」という内分泌部の特徴的な名称に見覚えや聞き覚えもはなかろうか?
血糖値を調節するインスリンやグルカゴンなんかのホルモンを出すのはここだし
また外分泌部は十二指腸たんと繋がって食べ物の消化を助ける役割も果たしたりする

外見的にはゆるい外跳ねの茶髪を持ち、暖色系のブラウスとズボンを着用
眼鏡を掛けて悠揚迫らずのんびりと温かな口調でしかし理知的に喋る
地味ながらグループの和を保つムードセーバーにして陰のリーダー

ただし

「何度教えれば覚えるのです? 『月(にくづき)』に『卒』と書くなんて……
なんで草冠が抜けているでしょうか、この……ド低能がァーッ!」

字を間違われるとキレるのが玉に瑕


五番、脾臓たん

うっかり存在を忘れられそうになる器官
実は自分が「五臓」の一つじゃない可能性が高くなってきて立場なし

一応臓器として働いていることは働いているが、「摘出しても問題ない」と言われてしまう罠
わざわざ摘出することもないので放置されているという、正に「要らん子」状態
加えて体表から離れた部分、胃や腎臓、横隔膜、肋骨に覆われていて、さながら引きこもり
「そんな……わたしちゃんと働いてるのに……ニートのヒッキーのパラサイト扱いなんて……ぅぅ」

容姿は十歳前後でちっちゃくて可愛らしいが
「どーせ、どーせわたしなんて……」とイジけて誉め言葉を受け付けない
部屋の片隅に体育座りしてどんよりした空気を醸し出すのが日課
加えて押入れに収納された布団群の間へ潜り込むのが趣味
負の座敷童子みたいになりつつある存在である

でもごはんの時間になるとちゃんと「はぁーい……」って返事をして食卓にやってくる脾臓たんなのだった


六番、胃たん

食道を通じて食べ物や飲み物がここに収められて消化される
「食」の要素において必ず言及される器官である

ほっそりと優美な体つきをしていて見事な柳腰だが、やっぱり大食いキャラ
あの体にどんだけ入るんだよ、と周りを驚愕させるのもお約束
またアルコールを最初に吸収する臓器もここなので、割と酒乱だ

けれどストレスにはかなり弱く、失敗して叱責されるとすごく凹む
身を縮こまらせて食も細くなる一方
放っておくと吐くところまで行きかねない
なのでこまめに「衛生兵(メーディック)! 胃薬持ってこい!」をやっておきましょう


七番、膀胱たん

尿道と腎臓の間にある袋状の器官
ここに尿が溜め込まれることは言うまでもない

見た目の年齢は六歳前後で、向日葵を思わせる黄色のショートカットと褐色肌、服装は水玉のパジャマ
忍耐強い性格で、我慢すればするほど「……気持ちイイ!」と身を震わせるマゾすれすれの業を持つ

以前「トノイケダイスケと☆画野朗がコンビを組むような子」とか言ったが、まあそんな感じ
知らない人は『水月』や『さくらむすび』のことを調べてみよう
しかしながら本人は「もうそんな歳じゃない!」と頑強に言い張っておむつを履こうとはしない

でも中途半端に我慢強いせいで週に一度は布団が惨状
始末は心臓たんがしてくれるが羞恥心が胸いっぱいでなかなかお礼を言えないでいる
役割が役割だけに腎臓姉妹と仲が良い
扱いはちょっぴり子分臭いが、それでも満足している膀胱たんなのであった


八番、三焦姉妹

「五臓六腑」の一つとして数え上げられているものの、西洋医学の知識では存在しない器官
中国医学においてのみ存在する幻の臓器というか概念というか解釈はいろいろ
上焦、中焦、下焦の三つからなるため当然のように三姉妹キャラである

一応隠しキャラなので詳しい情報はすべてシークレット
細部を詰めるのが面倒臭いからパスとか、決してそういうわけではない

決して


その他にも様々な臓器が擬人化され、主人公にまとわりつく
果たして主人公は無事に健康体への道のりを踏破することができるか?

大河ハーレム式オーガニック・ラブコメ超篇「臓器たんといっしょ!」

――汝、己が臓物を愛しなさい

現代人の不健康ぶりに警鐘を鳴らすとか何とか
もっともらしい理由まで付けられる万全抜かりなしの企画ではある

……けど当方が書くのは勘弁な?


>>back