「触手天使『ダン十字九セイニ』」−次回予告集


「ほし・みちた。かみさま・おりる。あまくだり」
「にゃははははは〜☆ くろう、付け焼き刃の触手が意気がんない方がいいよぉ。エンネアが、た〜ぷりと教えてあげる☆ ……ホンマモンの格って奴をね」
 九セイニを待っていたのは怪異にして妖艶なる地獄だった。
 元祖にして本家。正真正銘の触手コンビが九セイニに襲い掛かる。
「おおおおおおおお!! てめぇら、ぶっ貫いてやるっ!」
「てけり・り」
 その肉、正に無双。
 その液、まさしくジューシー。
 貫くか、貫かれるか。穴と穴を賭けて戦いは白熱する。
「いあ・いあ・かみさま……」
 青と黄のオッドアイに喜悦が浮かぶ。
 すべすべほっぺもほんのり桜色。
 その歪んだ「よろこび」を、触手が蹂躙する。
 次回、「触手のしたたり」。
「あ、あっ! いやん☆ くろう、そこはぁ〜、あふぅぅ」
 九セイニ、渦中にクリを拾うか。


「あたしだって負けないわよ〜ん」
 最凶の魔術師。最狂の触手師。
 腐れる臓腑が地を這い空を滑る。
「てめぇは墓場の下で土の温もりを味わってこい!」
 触手が唸りを上げ、絡まり合う。
 だがティベリウス。正攻法が似合わぬ外道。小憎らしい面で平然と反則を打つ。
「蛆(ワマス)! 妖虫(ウォルミス)! 蟲(ヴェルミ)! 妖蛆(ワーム)!」
 もはや触手ではない。蛆と蠅、一○一匹ではきかぬ大行進。
 あまりの卑怯ぶりに惚れ惚れ。
 九セイニは叫ぶ。
「お○ぎの出来損ないがぁぁぁぁぁ!」
「あ〜ら、それ、一応誉め言葉と受け取っておくわ☆」
 次回、「仁義なきオカマ」。
「ひぎぃ! イヤ、そこはイヤよ、やめてぇぇぇ! いっそ殺してぇ……きゃうぅぅぅん!」
 九セイニ、フロンティア・スピリッツを炸裂さす。


 一方、戦線から棄てられたアル・アジフは大激怒。覇道の総力をもってしても手がつけられぬ。
 最強のダダっ子。最悪の頑是無さ。
「汝等ぁぁぁぁぁぁぁぁ!! 覚悟するがよい、妾の本気を見せてくれるわ!」
 叫んで発動したるは蜘蛛。すなわちアトラック=ナチャ。紡いだ糸を束ねて触手の代わりとせん。
「アル、やめろ、俺はお前とは戦いたくない!」
「ああ聞かぬさ耳を貸さぬさ傾注せぬさ! 戯れ言は帰ってから言え!」
 あたかも嫉妬深き女房。
 釜の蓋が開けばそこは嬶天下。
 ショゴスの「柔」とアトラック=ナチャの「剛」。
 柔よく剛を制す、ただしそれは柔に剛を制する意志があればこそ。
(俺は、どうすればいいんだ……)
(てけり・り……)
 絶望の淵に立つふたり。深淵は何を覗かせるか。
 次回、「触手遣いに大切なこと。」
「安心しろ、我が主よ。骨の二、三本で済ませるとしよう」
 九セイニ、このまま尻に敷かれるか。


「てけりりりりりりりりり──お前を倒す、ショゴ」
「って、もしかして……エルザ!?」
 往来の激しい街道の最中、白昼堂々に現れたる襲撃者。
 聞き覚えのある声、違和を誘う語尾。
 つまりは。
「HAHAHA! ダン十字九セイニィィ! よもや我輩の存在を忘れたとは言わせないのであーる!」
「ドクター・ウェスト……? てめぇ、まだ生きてたのか!」
 触手に屠られたはずの狂気の科学者が、ピックを振るいギターを掻き鳴らす。
 繋がりのないカオスな旋律。胡乱な光を浮かべる瞳。こぼれる涎。
 また一歩、彼岸へと近づいたのか。
「我輩は触手に汚(けが)され触手に陵辱(よご)され『いやぁ、おうちにかえしてぇ……!』と泣き叫んだことによりいろいろ知りたくなかった真実を喝破した! この世の一切は空! 空即是色 色即是空! 空とはQ○○であり、色とはショゴス! つまり『あのジュース飲んでるキショい廃水色の生物はショゴスであり、逆もまた真なり』と! これなる真理に基づき、我輩はQ○○をしこたま買い込むこと三日、エルザにひたすら飲み干させること三日、エルザがおなか壊して怪異なる悪夢に魘されつつ寝込むこと三日、ショゴスとして目覚め新たな知性に適応すること三日! 合計十二日で人工ショゴスの開発に成功せり!」
「徹頭徹尾に間違いだらけでどこから訂正すればいいのか見当もつかねぇ!」
 漢たちの叫びをよそに、カクカクと初期のポリゴンみたいな粗い動きでエルザが駆ける。
「ダーリン、行くショゴ」
 開き切った瞳孔、生みの親同様に垂れ流しの涎。
 危なすぎる顔をした彼女の両手が握るのはトンファーではない。
 銀の触手。
 裾より伸びるソレを鞭の如く振り回し、戦場に嵐を呼ぶ。
「しゅーぶしゅぶしゅぶしゅぶしゅぶしゅぶしゅぶしゅぶしゅぶしゅぶしゅぶしゅぶしゅぶしゅぶしゅぶしゅぶしゅぶしゅぶしゅぶしゅぶしゅぶしゅぶしゅぶしゅぶしゅぶしゅぶしゅぶしゅぶしゅぶしゅぶしゅぶしゅぶしゅぶしゅぶしゅぶしゅぶしゅぶしゅぶしゅぶしゅぶしゅぶしゅぶしゅぶしゅぶしゅぶしゅぶしゅぶしゅぶしゅぶしゅぶしゅぶしゅぶしゅぶしゅぶしゅぶしゅぶしゅぶしゅぶしゅぶしゅぶしゅぶしゅぶしゅぶしゅぶしゅぶしゅぶしゅぶにぐらーす!」
 血肉なき機体。人工ショゴスはどんな夢を見るのか。
 次回、「案山子の本気汁」。
「絡まった……これがホントの自縄自縛ショゴ」
 九セイニ、腐れ縁に泣く。

「貴公がその道を選ぶなら、余は……同じ道を辿るまで」
「イエス、マスター。すべては意のままに」
 荒ぶる獣、従順な少女。
 ふたりは望んで触手の魔道へ堕ちる。
 省みない。後ろを見ず、ただ前にのみ目を向ける。
「憎い……憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い! 貴公の見事で立派なショゴスが憎い!」
「来いよ、マスターテリオン。永劫を生きたお前でさえ、知らない境地がある。知らない触手がある。知らないショゴスがある」
「てけり・り」
 深宇宙の果ての果て。
 熱き火花が散っては、凍えた闇に呑み込まれ消えていく。
 時空を超えてふたりは戦い続ける。真空にも負けず触手どもは踊り狂う。哭き狂う。
 闇黒を染めよ、漆黒を拭え、虚無を排斥しろ──粘液。
 聖なるねばねば、邪なるどろどろが宇宙を満たす。
「余は、ショゴスなど羨んでおらぬ……!」
「安心しろ。ショゴスは怖くない。心の赴くままに、受け入れるんだ」
「黙れ……!」
 嗚呼、憎しみはひたすらに深く、和解など夢のまた夢。
 触手よ。
 世界を救う気か、滅ぼす気か。
 次回、「ストレンジ・フィーラー」。
「余は終わらせる……この汁まみれのファルスを!」
 九セイニ、永劫の輪廻を断て。


「やあやあやあ、九郎君。君は本当に面白いことをするなぁ、さすがだなぁ」
 そして、無人の舞台に現れ出る、無貌の役者。
 すべてはソレの企んだことなのか。
「予定は大幅に狂ってしまったけど、これでいいんだよ、うん。終わりよければすべてよしってやつさ。さあ、大十字九郎……いや、ダン十字九セイニかな? 早く、これを取りたまえ……この、『輝くショゴペゾヘドロン』を」
 根底から覆された劇。
 根本から書き直された脚本。
 神すら結末を図りかねた。
 だが、一度動き出した歯車は止まらない。暴走機関車の如く、未来へ特攻す。
「ダン十字九セイニ! マスターテリオン! 今度こそ取り戻すんだよ、ショゴスの世界を!」
 闇すら蝕み病ませる禍々しき声。
 少女の叫びが虚しく木霊する。
「撃つな、九セイニ! これはみんな邪ショゴスの謀略だ!」
 ショゴペゾヘドロンの衝突。
 冥い輝きが宇宙の深奥を穿つ。
 ──邪ショゴス。その正体とは何か。
 次回、「ショゴス暗黒神話大系」。
「クトゥルーも何もかも、すべて偽りの看板だったのさ」
 九セイニ、操られるがままに車輪を回すことなかれ。


「ダンセイニ……俺はお前といられて、幸せだったんだぜ」
「てけり・り……」
 大寒波。粉雪が舞う聖夜。表面の美しさとは裏腹に、容赦なく肌下の温度を奪っていく。
 冷えきった身体はもはや、指一本動かない。
「ああ、目が霞んできたな。もう何も見えねぇよ。ここで、終わりか」
「てけり・り」
 励ますように。
 手放したくないと乞うように。
 九郎の手に触手を重ねるダンセイニ。
「もしも、たった一言だけ何か残す言葉があるとすれば、そう、たった一言だけ……ダンセイニ、しっかりと聞き取ってくれよ」
「てけり・り」
 いやいやするように身体を震わせる。
 蠕動を「気持ち悪い」と思ったのも遙か過去。
 今やこの震えがどうしようもなく心地良い。
「俺は、俺は、ダンセイニ、お前のことが……」
「待ちたまえ。うむ、待つがよいさ大十字九郎。君はまだここで終わるべきではない、まだまだ終わるべきではないのだよ」
 光の乱舞。
 優しい温もり。
 何かがふたりの傍らに柔らかく降り立つ。
 「何か」とは、何か。
 救済? 希望?
 破滅? 絶望?
 九郎の瞳には何も届かない。
 次回、最終話──「果しなき祈りの果に」。
「見せてあげよう。ああ、見せてあげるとも。……見たことを後悔するショゴスを」
 これが終わりか、始まりか。
「てけり・り」


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