「ゆのはな」
   /PULLTOP


 日記の内容を抜粋。


2005-04-30.

PULLTOPの『ゆのはな』、プレー開始。

 もう発売から一ヶ月以上経ってしまった。が、気にせず崩しに掛かりました。PULLTOPのゲームは特価品で買った『とらかぷっ!』を積んでいて、『夏少女』『お願いお星さま』は体験版しかやっていないから、まともに製品版をプレーするのはこれが初めて。ライターが「丸谷秀人」と「J・さいろー」の二大タッグ、原画は藤原々々と、いかにも「勝ちに来た」面子なんで体験版をやらずとも不安なく製品を購入することができた次第。軽快な丸谷テキストは『奥さまは巫女?R』で保証済みでもありますし。

 ジャンル名に関しては細かい決め事がなく「付けたもん勝ち」というアバウトで無法地帯な空気が流れるこの業界ですが、『ゆのはな』は「賽銭おねだりAVG」。生々しい一方でどこか新しい「萌え」の予感を奮い立たせます。バイク事故で放っておけば死ぬくらいの重傷を負った主人公が、土地神「ゆのは姫」の力で甦るところから物語は始まる。あっさり奇跡の恩恵を得た主人公は素直に感激するが、ゆのは姫は力を使った代償として賽銭を要求。提示された金額は20万円。「奉納せよ、さもなくばバラバラ」。選ぶ余地のない二択。別に天文学的でもなし、個人にも実現可能なスケールであるにせよ、貧乏学生には辛いというのが現実だった。成り行きから仕方なく、ゆのは姫を祀るゆのはな町で仕事の口を探すことになったが……。

 現在2時間ちょい。主要キャラの紹介がだいたい終わった頃合か。ゆのはの声はやたらキンキンしているせいで最初は耳が痛かったけど、もうだいぶ慣れてきた。わかばの微妙なボイスも「持ち味」と納得できるようになってきたし。基本的にはドタバタ調のコメディなんですが、主人公がイイ意味でバカ、ひねくれたところがなく単純明快にバカなので好感が持ててスッキリ笑えます。特にゆのはとの遣り取り、掛け合いは息が合っていて見事。守銭奴な神様と浅慮なお人好しって組み合わせは美味しいなァ。霊感少女が出てきたり、戦艦オタの電器屋が聞き取れないくらいの早口で熱く語ったりと、今後も楽しくなりそうな気配がいっぱいだ。

 主人公の所持金がRPGやSLGみたくキチンと記帳されている演出にも小ウケ。別に込み入ったシステムを導入して金稼ぎをさせるわけでもなかろうに、芸が細かい。今のところ決まった職に就く兆しはなく、あっちこっちの店で半端仕事を請け負う展開になりそうです。寂れた町の商店街で。なんかトレヴェニアンの『ワイオミングの惨劇』を思い出したり。あれは「半端仕事を掛け持っているだけの奴はどんなに頑張っても、軽んじられる」というドライな見方をしていましたが、こっちはもう少し明るい展望が欲しいかな。滞在期間が一ヶ月の短さとはいえ。

 それにしても「流れよ我が涙」とか「顎十朗」とか「天国まで3マイル」とか、気づいただけでも結構小説関連の小ネタが多く、カッチュー(活字中毒者)を敏感に反応させそう。というか既に反応し放題の敏感侍もここにひとり。


2005-05-02.

PULLTOPの『ゆのはな』、プレー中。

 椿さんの立ち絵がどうしても某おフランス人プロデュースの驚愕ポーズ、通称「シェー」に見えて仕方ないんですが仕様なのか。

 労働場所を「白摘茶房」に絞り、穂波を攻略対象としてロックオン。人見知りのする物静かな少女、語尾は「です」「のです」。学園モノでいうところの後輩タイプ。霊感体質もあり、主人公がリビング・デッドであることを看破して興味本位からかストーキングを仕掛けてくる。しかしそうした「生者と死者」の差を活かしたドタバタな展開は差し当たってなく、基本的に喫茶店でバイトして帰って朝起きてまたバイトに行って……とごく日常にありふれたシーンの繰り返しで割とまったりしています。でもキレの良い丸谷テキストのおかげでダルくはないですね。

 テキスト以外の要素としても、神様のくせしてロリキャラで生意気なくせして丁寧語という微妙にズレた造型のメインヒロイン・ゆのはが、「商店街を舞台にしたまったりコメディ」である本作においてイイ感じなスパイスになっている。彼女が適度に場面場面を掻き回してくれるおかげで波ができ、眠気を催されない。まったりしていてもまったりしすぎないバランス感覚はオツ。主人公の分かりやすいオバカ加減もちょうどいい救いだ。

 あと、地味なところで良い部分を挙げるとすれば、「ゆのはな商店街」というやや狭い舞台をしっかり空間として意識したうえで物語を紡いでいる点。○○の対面は××、□□から△△へは遠い/近いなど、図を見れば一目瞭然でわざわざ説明するまでもないことを、シナリオ本編にも小分けしてさりげなく織り込んでおくことで感覚として理解させてくれる。おかげで話が進んでいくと脳内にマップが築かれて主人公たちの動きを空間的に把握できるようになってきました。ある店の二階に上ったりするイベントもあって、空間としてのゆのはな商店街に「高さ」という要素まで感じられたのは面白かったですね。


2005-05-09.

PULLTOPの『ゆのはな』、穂波エンド到達。

 エロシーンの最中に集中力が切れて「コリア様がみてる」とか「ドドリア様がみてる」とか「ベリア様がみてる」とか「ユリア様がみてる」とかマリみて改変ネタをぐぐったりもしましたが、やっと一周しました。

 長かった。洒落っ気なしに長かった……日記では一週間前に感想を書いたきりでしたが、裏でチマチマと進めていたのに、それでもようやくひとキャラ終わらせたところ。しっかり声聞いてプレーしていたら、軽く10時間は仏っ契りました。正味な話、『SEVEN BRIDGE』をコンプリートするよりも『ゆのはな』を一周する方が時間かかった次第。なにこのボリューム。通常版は安かったから、てっきりもっとコンパクトな仕上がりだと思い込んでいたのに。侮れん喃、PULLTOPは。

 大半は日常シーンに占められており、相対的にシリアス展開の部分は少なくなってますが、それは一種の錯覚みたいなものでシナリオの流れは割合キチンとしております。ネタを振り、伏線を引き、話を進ませてそれらを回収する。至って当たり前の仕事をちゃんとこなした模範的な内容です。予想外に多かった日常シーンについても一つ一つがスキップせず読むに足る出来だったので満足。クライマックスに差し掛かってからもなかなか盛り上がるし。BGMの効果も重なって、ちょっとじーんと来たり。バカで考えなしだけど熱く突き進む主人公の行動に感化されて穂波が強く変化していくあたりはプチ成長物語として麗しい。日常においてなにげなく発していたセリフが繰り返されるたび、違った響きを帯びて聞こえてくるあたりも良き哉。

 時間がなかなかうまく取れなかったせいもあって丁寧なシナリオが長く感じられ、クリアするのに梃子摺るという皮肉はあったけど、面白いから無問題。まだ気力は尽きぬ故、残りのシナリオにも取り掛かり申す。次は……わかばでも狙うか。


2005-05-11.

PULLTOPの『ゆのはな』、わかば狙いでプレー中。

 「鉄の淫魔を叩いてくだく。アタシがやらねば誰がやる」とか、「百億の昼と千億の夜」とか、相変わらず小ネタが多いなぁ。

 そして時間が掛かるのも相変わらずって寸法。共通イベントもそれなりにありますが、やはり個別イベントが膨大なので……穂波ルートではお情け程度に出ていた文中選択肢もわかばルートでは全然見かけないし、ひょっとして分岐関連に割く労力を全部本編に注ぎ込んだってことなんだろうか。マップ移動形式になっているとはいえ、分岐点らしい分岐点もなく、ほとんど一本道に近い構成。ある意味とてもシンプルに直球勝負をかましてきています、このゲーム。

 で、ヒロインのわかば。ゆのはに次いで早く登場する分、結構重要な位置付けかと思っていましたが、いざ本編が始まってみると実は脇役っぽい役どころ。主人公が寝泊りする先となる銭湯の娘さんということで、異性の裸に慣れていたりマイペースだったり、メインストリームからややズレた造型をしている。なんというか、具体的な「属性」がないんです。ロリで生意気で守銭奴で神様のゆのは、人見知りするが根は悪戯性の穂波、暴走超特急で妄想街道まっしぐらの由真、気さくな年上の椿といった他の面々に比べて目立った個性が見当たらない。強いて言えば「ほわほわした天然」か。そのため初見のインパクトが小さく、「萌え」に頼った展開は難しいと先行きが危惧された次第。

 しかし、「萌え」とは言わば飛び道具。あれば役に立ちますが、なくても勝負は成立します。属性らしい属性がせいぜい「天然」くらいのわかばを、ごく正統的な道筋で恋愛シナリオに乗せていく手際は正に至近戦を仕掛けるインファイターの如く。時に退屈と取られがちな「まったり感」も巧く活かして捌いている。わかばが好きで様々な計略を巡らし主人公を引き剥がそうとする由真が、浅慮のためにあえなく計略を失敗させるばかりかふたりの仲の進展を加速させてしまい、「恋のライバル」どころか「恋のキューピッド」と化す流れもシナリオに緩急を形成し、かつ微笑ましい。さすがに彼女のひとり芝居が何度も繰り返されるあたりはちょっとマンネリズムを感じましたが、ささやかな変化もあって楽しいことは確か。強烈な存在感ゆえ出オチの風格を漂わす彼女もできれば攻略したいなぁ……と、おまけの回想モードに「由真」の欄が存在しないという事実に目を瞑って夢見る当方は宇宙に眠る。


2005-05-13.

PULLTOPの『ゆのはな』、プレー中。

 ヘンリー三世はジョルジュ・ペロー(@『ペロー・ザ・キャット全仕事』)みたいなサイボーグ憑依猫じゃないかという気がしてきた昨今。それはともかくまだ終わらぬ仕儀。とりあえず、今後の感想はコンプしてからまとめて書くとします。月末には間に合うかな。


2005-05-25.

『ゆのはな』、ようやくコンプリート。

 しまった、よりによってクライマックスでマウス操作を誤り、クイックロードして全然別のシーンに飛んでしまった!

 と不注意で水を差してしまったものの、遂にやり終えました。結局、一ヶ月近くプレーしていたことになるなぁ。発売から数えると既に二ヶ月。時間が取れなかったり他のことに興味が移ったりしたせいもありますが、それを脇に措いても長かった。このゲーム、見た目はそんなにボリュームありそうではないんですが、キチンとボイスを聞いてプレーしているとかなり時間を食います。正確に計ったわけではありませんけど、少なく見積もっても当方がクリアするのに累計30時間は要しました。選択肢らしい選択肢もなく、ほぼ一本道のルートばかりだったのに。通常版が7875円(税込)のソフトにしてはやりますね。

 ヒロインはゆのは、わかば、椿、穂波の四人で、残念ながら由真はサブキャラ。攻略できません。たとえ背中の鬼が哭いても無理という事実に変わりはない。で、ゆのは以外は好きな順番で攻略でき、わかば、椿、穂波と三人のシナリオをクリアすると最終章となるゆのはシナリオがタイトル画面に現れ出る仕組み。オーソドックスと言えばオーソドックスな構成。まともにやれば一周するのに10時間を軽く超えるので、のんびりプレーが信条の人には相当な日数がかかります。実際当方にもかかりましたし。

 穂波シナリオ、クライマックスが痺れた。そして湿っぽく粘着質なエロスには別の部分が痺れた。椿シナリオは一本のシナリオとして見るとまとまりがないように感じられますが、割と好き。不安定なところが良いといいますか。わかばとゆのははよくまとまってる分、逆に語りたいことがない。と、個々のシナリオについてはこの程度の言及で控えておきますが、大雑把に言ってどれも成長物語。何かを克服して前に進む至って王道的なストーリーばかりです。主人公が底抜けにバカでポジティヴで楽観的だからこそ拓ける突破口が清々しくも爽やか。丁寧に描かれているので盛り上がりますね。ただ全体的にほのぼの、まったり、ドタバタと概ねコメディに属するテンションが行き渡っているので、激しい面白さや尖ったセンスを求める向きには退屈かもしれず。当方はダレることなくプレーできました。ひとえにテキスレのキレが良く、声優さんの演技も良かったからではないかと。「まったり=ダレる」となりがちである難所を巧妙に迂回しつつ踏破する、その軽やかさがステキです。

 それで、長い長いとは書いていますが、この長さが無駄なものだったかというとそうは思いません。実のところ、最終章のゆのはシナリオは他のヒロインに比べて短く、下手すると1/3くらいになっている。しかし手抜きと見做すのは早計。これまでのシナリオで言及されたことを割愛し、効率的に組み立てたおかげで軽量化されているんです。矛盾を来たさぬよう、それでいて説明文が重複することもないよう、それぞれのシナリオに物語のパーツが分担配置されているおかげで飽きさせない。

 率直に言えば一部の設定が曖昧というか恣意的な感じもしましたけど、どちらかと言えば雰囲気を楽しむゲームなので特に気にする必要もないとあっさり流しました。もっと細かいことでは、わかばシナリオでは「『華の湯』は牛乳類しか置かない」とあった割に、背景を見るとどうしてもポカ○スエットやオロナ○ンCにしか思えないジュースが存在しているなど、気になる部分はありましたがさすがに重箱の隅か。あと、酒屋に若渋蔵のポスターが張ってあるのには笑った。B29撃墜のCGでは白髪なのにポスターで黒髪になっているのは染めたからだろうか?

 突き抜ける要素こそなかったものの、あらゆる面でキレイにまとまっている良作でした。コストパフォーマンスがイイことを考えると、「時間ならいくらでもあるぜ」な人や、「のんべんだらりと長ーく遊びたい」な人にはオススメしやすい一本。

 ちなみに当方が好きなキャラはゆのは。「パンがなければゴミを食べればいいじゃない」系のキャラです。二言目には「神様ですから」と超傲慢。それが賽銭を搾取し放題、おそなえ供出させ放題ですから正に「とんでもねぇ、あたしゃ神様だよ」。加えてオ○Qに匹敵する健啖家であり、更にはジャパネスク・ホラーのお約束に則って髪を自由に動かせる。あれは荒魂が髪で和魂を緊縛する伏線かと思っていましたが、全然そんなことはなく見当外れ。声がキンキンしていてうるさいところもありますが、やはりこいつの魅力にヤラレたからこそ、一ヶ月の長期間にも及ぶプレーを持続させられた。がめつく、澄ました、天然詐欺師肌の人外ロリ。萌えも笑いもエロもなんでもイケます。彼女はもう完成されている。


>>back