「車輪の国、悠久の少年少女」
   /あかべぇそふとつぅ


 日記の内容を抜粋。


2008-03-25.

あかべぇそふとつぅの『車輪の国、悠久の少年少女』、プレー開始。

 ひとまず阿久津将臣シナリオ、つまりとっつぁん視点の過去編を完了。やべえ、限度を越えてとっつぁんが格好良すぎるものだから新手のバグかと思った。『車輪の国、悠久の少年少女』はあかべぇにおいて累計6本目となるソフトであり、『車輪の国、向日葵の少女』のFD(ファンディスク)。FDなのにメーカー希望小売価格が7140円(税込)とやや高めですが、初回生産分には2枚組のサントラCDが特典として同梱されていたこともあり、別段ボッタクリというほどでもない。ただ、「値段高めなのだからボリュームもたっぷりだろう」と期待したファンがいざ蓋を開けてみるとそれほどでもなく落胆した、という報告を小耳に挟み、「分量は短い」と思い込んでいた次第。とっつぁんの昔語りも2時間くらいで中途半端に終わるんとちゃうかな、って半信半疑のままプレーしました。

 結論から言えば、思っていたよりはずっと多かった。正確な時間は計っていませんが、一本道ながら4、5時間は要する長さで短編じゃなく中編程度の読み応えがあります。内容はもちろん回想形式のストーリーで、舞台は『向日葵の少女』と同じ町ですが、場面がほとんど固定されていることもあって町中を歩き回るような「広がり」はありません。あの町は内乱で軍の介入があって一度荒廃し、それから復興して現在に至る――という事情があるだけに、「復興後」の背景CGを使い回すわけにも行かず、キャラたちの行動半径を狭くしたのも已むなきことではあります。ともあれ、そういったわけで「町を移動する」感覚が乏しかったものの、とっつぁん、それに今回初の顔見せとなる樋口三郎、加えてみぃなやアリィといった新キャラたちと、興味深い面々が揃うおかげもあって楽しく没頭できました。思っていたよりも長かったせいで途中コンセントレーションが切れてダレる箇所もあった(具体的にはHシーンの挿入されるあたり)にせよ、その後の盛り上がりで易々と挽回してくれたから万事遺漏なし。前日譚の性格上、どうしても話の展開や結末が読めてしまう難点はあるものの、だからと言って半端に投げ出すことなくキッチリと捻りの利いたエンターテインメント作品に仕上げてくれたことには惜しまず拍手を送りたい。とっつぁんの内面が随分と明確になって、益々好きになってしまった。でも、最高潮の場面で「Fin」と幕が下りてしまうエピローグはちょい勿体なかった気もする。蛇足でもいいからあの続きが見たかった、と如何にもファンらしいワガママを言ってみる。

 しかし、あれか。車輪の国じゃ「法月」の姓は悪役を任ずるという掟でもあるのか。新キャラのひとり、法月アリィは中の人(折笠愛)に相応しい見事な悪々しさを見せつける。ちなみに三郎がアリィのことを何度も「てんてぇ」と呼ぶのでつい「天帝」が頭に浮かんでしまった。「くらい、くらぁぁぁい……天帝様がお怒りだぁ」 あるいは古野まほろ。最近厚さに負けて“天帝”三部作をまとめて衝動買いしちゃいました。ともあれ、『向日葵の少女』で腑に落ちなかった点はあらかた決着し、あとは心置きなくアフターストーリーを堪能するばかり。ほんじゃ早速賞味してきますわー。


2008-03-27.

あかべぇそふとつぅの『車輪の国、悠久の少年少女』、コンプリート。

 各ヒロインのアフターシナリオ、南雲えりシナリオ、番外編とひと通りクリアしてコンプ。とっつぁんシナリオがメインで他はオマケかと思ったが、アフターも結構盛りがありました。1個につき2、3時間で4本入りだから、合計して10時間。南雲えりのシナリオは実際にオマケで30分程度しかなく、番外編に至っては10分少々のスナック感覚な代物でしたが、『悠久の少年少女』全体で十数時間も遊べたわけですから「ボリュームが足りない」ということはなかった。FDなんて、最小の労力でファンから利益を吸い上げる定番のボッタクリ商品――という認識が当たり前だった頃のエロゲーを知っている身としては、これで量的な不満を覚えるってのは贅沢としか言いようがない。

 量的には、と申しましたが内容的にはちっと微妙だったかもしれません。確かにとっつぁんの過去編は気合いが篭もった一品で熱中できましたし、サブキャラとして登場した樋口三郎もかなりイイ味を出していましたが、アフターの4本はプレーする人によって肩透かしとなる可能性は否めない。あまり詳しく書くとネタバレになるのでなるべく抽象的に述べますが、本編で持ち上がった問題がひと通り解決して平和を取り戻した町が舞台となっており、義務だの何だのといった厄介な要素は「ああ、そんなこともあったよね」くらいの割合でしか語られない、非常にのどかな話ばかりとなっています。とにかく全編に渡ってひたすら穏やかな空気が流れる、とことん平和なストーリーであり、ともすればこれが「車輪の国」であることも忘れてしまいそうになる。良くも悪くもぬるま湯エピソードの詰め合わせ。本当に「よくある普通の学園モノ」みたいな調子で小ネタを寄せ集めています。

 当方自身はこういう光景が見たかったので問題ありませんが、日本とは異なる法律で動くパラレルな「車輪の国」に魅了されたクチの人は著しい緊張感の欠如に裏切られた想いを抱いて幻滅するやもしれませぬ。張り詰めたムードが一切なく、心底ビックリするくらいゆるゆるなのですよ、これが。終始雰囲気が甘ったるしい。主人公がかつて特別高等人を目指していただなんて、まるで嘘のように思えてくる。熱が抜け、ヒューマンドラマとしての温度は確実に下がってますね。その代わりにヒロインたちとのラブラブイチャイチャバカップルっぷりは胸焼けがするほどたっぷり堪能できるって寸法。特に夏咲は本編の「鬱咲」状態が幻だったと錯覚するまでに天真爛漫な元気っ娘ぶりを見せ付けます。でも、個人的に一番楽しかったのはさちでも灯花でも夏咲でもない、あの人のアフター。中の人の凄絶な演技も相乗して、物凄い存在感を発揮します。ネタのキレもこのシナリオがもっとも際立っていた。ところで夏咲アフターで「カレーはひと晩寝かせないと食べない」って嗜好を「絶対」と言ってまで強調していた夏咲が灯花アフターだと出来立てのカレーを事も無げに食っている件はギャグだろうか?

 総じて見るに、「お遊び」の様相が濃厚なFDでした。あくまでおちゃらけ抜きのシナリオ重視、というタイプのプレーヤーだったら法月ビフォー以外は不満を覚えるかもしれない。ヒロインズのアフターシナリオにまったくシリアスを混入させない遣り口は、大多数のファンが出した要望を叶えるために必要な処方だったのでしょうし、FDの理念からすれば決して間違っていないと思います。ま、深く考え込まないで楽しみましょうや、ってことで一つ。番外編に『こんな娘がいたら僕はもう…!!』ネタがほんのりと混ぜられているのには笑った。難航しているらしい『G線上の魔王』に期待を寄せつつ、次は『A Profile』あたりでも崩すべぇか……ここ最近るーす尽くめなんで、ちょっと休憩入れてから取り掛かることにします。『暁の護衛』もありますし。


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