「つよきす」
   /きゃんでぃそふと


 日記の内容を抜粋。


2005-08-28.

『つよきす』、プレー中。

 属性特化モノの割に不安定感が一切ない、バランス重視型の一本となっております。広範に渡る層を想定したとおぼしきネタの数々は単純な爆発力こそ少なかれ、軽快なテンポによって継続的に蓄積されていく「心地良さ」は鉄壁の呼吸を見せ付ける。入りやすく馴染みやすい、正に間口が広くて中まで広々といった仕様。

 最初は面白幼馴染みキャラである蟹あたりをターゲットにしようと目論んでいましたが、アイアン・メイデンこと乙女姉さんの放つ過保護スレスレな年上スメルにたまらず屈服。くそ、お姉ちゃんぶりやがって。くそ、くそ。お姉ちゃんは最高だ。もはや退路は封じ、徹甲狙いで攻略するとしようではありませんか。このポン刀携えた「もののふ姫」が水飴のようにデレつく様を想像しただけで心は城塞破壊者(ブランダラ)と化しまする。

 っと、ヒロインたちが素晴らしい陰で野郎キャラどもも小憎らしく光ってますね。「男キャラが頑張っているゲームは面白い」というジンクスがありますが、その伝で行けば前半のみならず後半までも期待が持てそう。


2005-08-31.

『つよきす』、鉄乙女ルートで一周目終了。

 ぶっちゃけ、強気とかツンデレってのはそれほど重要なポイントと違うのではないか、という気がしてきました。「色とりどりバラエティ豊かなツンデレキャラ」を揃えようとしたせいで結果的に各個が希釈化し、当方の抱く「ツンデレ」像から離れてしまっている。ツンデレは定義上では絶対的な属性に見えますが、案外複数のキャラ間の関係が影響してきて「ツン」や「デレ」が目立つ傾向にあるので、こう一つ所にまとめてしまうと意味が変わってくるような。ベタ甘な妹キャラがいるからこそつれないクラスメートのツンデレたる輪郭が顕在する。「ツン」は言わば冷然と突出した態度ですから。なごみんの硬い反応さえも、明確には映りづらい環境。

 だから、このゲームは普通に学園モノとしての側面へアプローチしていった方が楽しむ近道ではないかと。脇役もちゃんとうまく利用してなにごともない日常から学園を上げての行事に至るまで楽しいムードを醸造している。テンポは軽快な割に展開が結構スローで、全身感覚を学園生活の繰り返しに漬け込んでいけはいくほど心地良くなってきますよ。スローとはいえ無駄が多いわけじゃありませんし、これはかなり優れたオートバランサーでも埋設しているのではないか。

 ともあれ乙女姉さん(*´Д`)ハァハァ。すずねえに骨抜きにされて以来目覚めてしまった姉属性が再燃してまいりました。主人公、その年になって「おねーちゃん、おしっこー」なイベントをかますとはとんだグッド度胸してますね。そこを寛容に応じる乙女姉さんも大した器。こんな調子では実弟である琢磨も相当なシスコンに陥っているのではないか、と登場しないキャラにまで心配の域を広げてしまう。シナリオに関しては、ちょこちょこと騒動があっても特に話が変に拡大することはなく、適度にイチャついて甘々しい雰囲気をつくったまま終わるので、一言でまとめるなら「無難」でしょう。やることはキッチリやった後での「無難」ですから大筋での文句はありません。けど、進行するごとにイベント密度が徐々に薄くなってくるので相対的な不満はちょっと残ったり。次は蟹あたりを攻めたく存じます。


2005-09-01.

『つよきす』、蟹攻略中。

 蟹沢きぬ──なに、この根性が腐った菜乃みたいな生物。ごっつ面白可愛いんでないの。キレたときに白目で吼える立ち絵が最高。さながら「舐めンじゃねェ!!! 空手屋ァァッッッ!!!」と叫ぶ渋川剛気のよう。正に剛気す。

 さて、いろんな意味で前代未聞のヒロインにつき笑わせてくれます。ネタはもちろんのこと、声優さんの演技が素晴らしい。声を張り上げるようなボイスがほぼ標準になっているためボリュームの摘みを下げてしまいましたが、あの声なくしてこのキャラは立たないかと。そうやって笑って、笑って、笑っているうちにいつの間にか愛着が湧いていてびっくり。最初は「アホでおもろい子」としか思わなかったのに……まったく……不意打ちで魅了してくるとは。この緊張感……久しいぜ……。


2005-09-03.

『つよきす』、蟹エンド確認。エリカルートへ移行。

 蟹とのバカップルは どこまで昇る…

 見ていて砂どころか塩さえ吐く勢いでイチャつきやがる主人公とヒロインの姿に脱帽。「このヘタレが!」「なんだとテメー!」って悪友ライクなノリでアホなボケツッコミしていた二人が「もう、おばかさん☆」「ふふ、こいつめぇー☆」と素で言い合いかねんほど甘々しいコミュニケーションを図るあたりなど、心底背筋が寒くなったり肌がムズ痒くなったりした。そりゃサタナイルでなくとも「堕落した」と言いたくなるわ。是非とも『秋桜の空に』『Clover Heart's』に並ぶバカップル存在ゲーと認定いたしたく。

 ともあれ、やっていて楽しいゲームであります。ちょっとパロディがやりすぎと申しますか、匙加減が狂って過剰になっている場面もままあれど、基本的にはキャラ同士の遣り取りに面白さを集約させているので概ね問題なし。豪華な声優陣を無駄にすることもなく、男キャラの一人一人までもがキッチリと独自の味出してますよ。凄く王道的だし、小ネタはともかく大筋で奇を衒ったところもないからシナリオは「クサい」「安っぽい」の形容が似合う方面へ分類されるにせよ、そのクサさや安っぽさを蔑ろにすることなくトコトン突き詰めたスタイルは清々しい。B級はB級でも、よく訓練されたB級と言えるでしょう。

 さて次なる標的はエリカ。キャラ単体として見ればそれほど心をくすぐられるヒロインでもありませんが、奇しくも蟹ルート後半で「バカップルになる奴らの気が知れん」といった趣旨のことをのたまっており、それがこれからどう覆されるのだろうかと思うと楽しくて仕方ない。キャラの魅力が個性のみならず関係からも浮き彫りにされていくパターンが好きな当方、胸を高鳴らせつつ邁進いたす。


2005-09-05.

『つよきす』、エリカエンド到達。

 逆境の中でこそ恋は燃え上がれ、と。恐らくこのルートが本作における真骨頂だと思います。いえ、まだ攻略してないキャラもいますし確定的なことは申せませんが。

 霧夜エリカ。金髪ポニーテールでいかにもハーフめいた外見と、傲岸不遜を具現した性格でもって難攻不落のトーチカってなイメージを形成します。お嬢様キャラとして見るといささか砕けすぎで定型を外しているものの、唯我独尊マインド溢るる言動の数々はまさしく超傲慢。「パンがなければゴミを食べればいいじゃない」より数歩だけマシという程度ですよ。メガロマニアすれすれ。決めゼリフは「オレ爛漫」でお願いします。

 最近の学園モノは主人公に対するヒロインの好意が初期値からして高いというのがもはや一つのパターンで、ぶっちゃけ朝起こしに来た妹とか幼馴染みに「好きだ付き合ってくれ」と告白すればその時点で速攻終了してもおかしくない寸法。本質的に始まる以前に終わっているのです。でもそれじゃつまらない。だから終わっているにも関わらず無理矢理「バカ、まだ始まってもいねぇよ」とごまかして波乱アリアリの涙ぐましい青春劇場を展開するわけでして……それもそれでいいんですが、やっぱり恋愛モノは始めるところから始めたいじゃないですか。「よーいドン、だぜ」って頭に皿乗せられたいじゃないですか。そうやってほとんど気紛れに等しい地点からスタートし、理不尽極まりない艱難辛苦を経てカナンへと辿り着く主人公の姿には喝采の一つでも送りたくなります。そしてBADルートで待ち受ける黒と黒と黒の修羅場。ああ美しい。やっぱりバッドエンドはいいものですね。

 これまでの内容を省みるに、ライターのタカヒロはシチュエーションの組み立て方が巧いかと。文章は平易、ネタも有名どころで、センスには光るところがあってもエッジの利いた部分がない。インパクトに欠ける作風なれど、「お約束」をちゃんと咀嚼し更に再構成してシナリオに敷衍する努力は怠らず、ロスの少ない形で成果を上げている。なんというか、効率的です。おかげでダレる場面もなく熱中しました。


2005-09-07.

『つよきす』、よっぴールートと祈ルートをクリア。

 「こいつァもう蹂躙戦じゃないッスかッ!?」──リチャード・ザ・ライオンハートも震撼。レオが狩るのではない。レオが狩られるのだ。

 ってな具合で前半はひたすらガクブルさせられたものの、後半では主人公の意地を見せてドカッと熱い展開を繰り広げてくれたので満悦しました、よっぴールート。やっぱアレです、地雷女を踏んだくらいでピーピー泣き喚いて逃げ出そうとする敗北主義者はいらんのです。「そういうお前をワシャ喰った」とばかりに図太く行ってこそ獅子の心臓を持つ男。ただオマケシナリオのせいか、後半の展開があっさりしていて残念でした。虎は傷ついてからが本物であるのと同様に、よっぴーもまた傷ついてからが本物でしょうに……。

 そして祈ルート、こっちは更に短い気が。欲を言えば波乱万丈の展開がほしかったです。しかし現状でも悪くはない。まきいづみはなかなかの適役かと。祈先生の過去にはなんとなく『ブラック・ダリア』のリー・ブランチャートを連想したり。

 次は椰子なごみ。プレーが遅いせいで結構長引きましたが、そろそろ完了と相成りそうです。


2005-09-09.

『つよきす』、なごみルートをクリアしてコンプリート。

 エリカとよっぴーの視線が一瞬絡んだ。互いの目が告げた。
 椰子なごみは「完落ち」──

 椰子家の核弾頭、なごみんが当方へ直撃(脳髄と股間あたり)。後半のデレ期に差し掛かって以降、当方の精神破損率はアベレージで80%行っていたと思います。ななななに、この『つよきす』でもっとも真っ当にツンデレやってる子。プレーしていて平静が保てませんよ、到底。まるでこちらの弱いところがみんな筒抜けになっているかのようなピンポイントぶりに畏怖しました。脅威度はMIND ASSASSINクラス。かずいー、ちょいと当方の記憶を消してこのルートもっぺんやらせてくれー。

 と、いうわけですべてのルートを終了したところで総ざらいしてみると、どこか特定の部分だけが面白い「一点突破」な型ではなく、どこを切り取っても満遍なく面白い「完全均衡」のソフトでしたね。強気とかツンデレとかを脇に措いても、ごく普通に学園エロゲーとして力強く推せる。ブランドの視点からは属性特化的な面を強調した方が広報しやすく耳目を集めるに最適だったかもしれませんが、夢中になって楽しんだ一プレーヤーとしては単純に「ラブコメが好きならオススメ」と言いたいところ。何かと派手な波乱を仕込んで話を盛り上げようとしたあげく失敗することの多い「前半まったり、後半殺伐」系統ではなく、ラブコメの文法に則ったギャグ描写を除けば一切超展開ナシの手堅い構成で安心感は抜群です。手堅すぎて物足りないと感じてしまうのは贅沢かしら。

 気に入ったヒロインは乙女、蟹、椰子の3人。奇遇にもパッケージの表を飾る面子全員にハマりました。姫は……シナリオの展開こそ面白かったものの、作中で言われているほどの魅力を実感できず温度差が発生したことが敗因。よっぴー、祈先生は逆にシナリオが薄かったせいで伸び悩み。でも好きか嫌いかで言えば全員好きな方です。男キャラも含めて。スバルは言わずもがな、フカヒレ、イガグリ、村田といった面々も独自の彩を付加してゲームの味わいを深めている。やはり「男キャラが光っているゲームは面白い」のジンクスはあながち間違いでもない様子。

 日数は掛かった割にサクサクやってた印象があるのでそんなにボリュームを感じませんでしたが、総プレー時間を見ると悠に30時間を超えているのだから驚愕。思った以上に長かった。それでもなお「食い足りない」と物欲しい気持ちになるのだからほとんど阿片窟だ。『つよきす winter version』とか結構マジで期待したい。姉しょに2が出たことを考えると案外無駄にならない期待かも、とさりげなくフカヒレ的浅ましい打算。


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