「漫画やアニメに出てくる『戦うメイド』の系譜」(2025年5月30日の記事)


 そもそも日本では90年代頃になるまで「メイド」という概念そのものにあまり馴染みがなく、70年代や80年代だと「家政婦」や「お手伝いさん」のイメージが強かった。『はいからさんが通る』で女形(おやま)の「藤枝蘭丸」がメイド服姿になるような展開はあったものの、「メイド=英国式のお手伝いさん」という認識が強固で「メイド」そのものが記号として機能する段階には達していない。和田慎二の『超少女明日香』に登場する「砂姫明日香」も和服姿のお手伝いさんである。余談だけど変身前の明日香(チンクシャ形態)可愛いよね……「特殊な能力を持った家政婦」というと筒井康隆の『家族八景』に登場する「火田七瀬」あたりも該当するだろうか。「一つの家庭に留まらず、様々な家庭の内情を覗き見るヘルパー的存在」として「流しの家政婦・お手伝いさん」という設定が受け入れられ、『家政婦は見た!』というドラマも80年代からスタートしたが、「流しのメイド」は奇異に映るのか少なくとも目立つ範囲には出没していません。

 80年代はエロアニメの名作『黒猫館』に登場するメイド「あや」が一部で人気を博すが、あくまでキャラ単独の人気でありブームには結びつかなかった。メイドが「属性の一つ」としてフィクション方面に普及していくのは90年代以降である。1995年頃に倉田英之がP天こと“PC Angel”に「あくまで“メイドさん”なのである。“お手伝いさん”ではいけないのだ!!」という文章を寄せており、逆に言えばその時点では「メイド」という用語がそこまで市民権を得ていなかった、という証明になっています。大きな転機は『殻の中の小鳥』が発売された1996年。これ以前にも「メイドキャラ」自体はポツポツと存在していた(『河原崎家の一族』や『夢幻泡影』など)が、「属性としてのメイド」を前面に押し出してヒットしたことにより様相が一変する。

 今や完全に「埋もれた作品」扱いとなっている『殻の中の小鳥』(および続編『雛鳥の囀』)だが、当時の人気は凄まじく、1991年から始まったガイナックスの育成ゲーム『プリンセスメーカー』シリーズに「メイド」というアルバイトが加わったのも『殻の中の小鳥』発売より後、1997年発売の『プリンセスメーカー〜ゆめみる妖精〜』からである。『殻の中の小鳥』以前は「メイドの出てくるエロゲ」はあっても「タイトルにメイドと冠したエロゲ」は存在しなかったが、『殻の中の小鳥』以降はどんどんリリースされ、エロゲ界が「メイド特化のソフト」で溢れ返る事態になっていく。ヒロインの着る衣装を選択できる『Piaキャロットへようこそ!!2』は開発中に制服デザインの雑誌投票を行い、「メイドタイプ」が1位になって採用されました。1998年、イベントでブロッコリー主催のPiaキャロ2のコスプレショップが開かれ、これがアーキタイプとなっていわゆる「コスプレ喫茶」や「メイド喫茶」、今でいう「コンカフェ」という業態に結びついていく。つまり『殻の中の小鳥』はメイド喫茶の間接的な祖でもあるのだ。肝心の中身が「メイドという名目で集めた女性たちを調教して高級娼婦に作り変える」というもので、ヒロインたちは専業メイドではなく「メイド服を着た高級娼婦」だから外聞が悪すぎてエロゲ以外の分野では語りにくい、という致命的な欠点を有しているが……今はそうでもないが、昔のエロゲにおいて「メイド」とは概ね調教や開発の対象であり、現代的な感覚からすると剛速球のセクハラを受けているものが多い。

 ここまでが前フリで、ここからが本題です。こうして「お手伝いさんではなくメイドさん」が属性の一つとして定着していく中、「戦うメイド」が新たなヒロイン像として勃興してくる。個人的に「元祖戦うメイド」は『わくわく7』の「ティセ・ロンブローゾ」だと思っている。「戦うメイドさん」で「目隠れヒロイン」で「自動人形(オートマータ)」で「変形機構」があって「気弱なドジっ娘」という、1996年に突然現れたことが今でも信じられないマスターピース的な存在だ。ティセたんを見ると「メイドは後ろではなく前、股のあたりで手を組む」という様式美が90年代にはもう確立していたんだな、と実感する(このポーズ、一説によると「雇い主の物をこっそり盗んでいるんじゃないか」という疑惑を持たれないために手を見えるところへ置く習慣から来ているらしい)。しかし、『わくわく7』本体がそこまで大きくヒットしなかったため、ブームに繋がるほどの影響力は持たなかった。おかげでティセたんも今やすっかりオーパーツ化している。1998年には「西野つぐみ」によって『戦うメイドさん!』という、メイドロボットがエッチな騒動を引き起こすコメディ漫画が描かれているが、これに関してはさっき「戦うメイド」で検索したらヒットした……というだけで、私は全然知らない作品だった。こんなんあったんだ。今はKindle Unlimitedで全巻読めるみたいなので興味のある方は読んで感想を教えてください。

 「ブームの走り」に当たるのは「柴田昌弘」の『サライ』と「介錯」の『鋼鉄天使くるみ』だろう。生体兵器の護衛メイド「神薙サライ」が活躍する『サライ』はアニメ化していないため知名度はやや低いが、後述するように“東方Project”に影響を与えて「十六夜咲夜」という「戦うメイド」を生み出す一因となっています。「鋼鉄天使」と呼ばれるメイドロイド「くるみ」がドタバタ騒動を繰り広げる『鋼鉄天使くるみ』は1999年にアニメ版が放送されており、「メイドキャラがメインのTVアニメ作品」としては業界初となる。ただしWOWOWでの放送、つまり地上波ではやっていなかったから同時代のアニメ作品と比べたらややマイナーな存在だ。

 1999年というと川上稔の『閉鎖都市・巴里』の上巻が刊行された年(下巻は翌年2000年の刊行)で、そこに「ロゼッタ・バルロワ」という自動人形のメイドが出てくる。彼女は人為的に最強を創造する「アティゾール計画」によって生み出された兵器なのですが、「自動人形を無理に兵器化しようとすると耐え切れず自殺してしまう」ため、「人を殺すために生まれた」にも関わらず「己が兵器であることを物語終盤になるまで気付かない」というキャラクターになっています。戦う覚悟さえ決めれば最強間違いナシだが、本人は争い事を嫌う性格であり「兵器にならなければ、という義務感」と「他者の命を奪う兵器に対する忌避感」が鬩ぎ合って葛藤をもたらす。「戦うために作られたけど戦ったことはないし戦いが好きでもない、そもそも自分が兵器であることすら知らない」という複雑な最終兵器型「戦うメイド」だ。2000年には同人エロゲ『月姫』が頒布され、後に商業化するサークル「TYPE-MOON」が世に出ます。エプロンドレスの「翡翠」とエプロン割烹着の「琥珀」、双子メイド姉妹が人気を博した。設定上は戦闘力を有さないのだが、『月姫』の格ゲーである『MELTY BLOOD』ではそのへんを無視して戦っています。琥珀さんの仕込み箒がイカれていて好き。TYPE-MOON的に本式の「戦うメイド」は『Fate/stay night』に登場した「イリヤスフィール・フォン・アインツベルン」のメイド「セラ」と「リーゼリット」、いわゆる「セラリズ」なのだけどサーヴァントほどの戦闘力はないから地味なんですよね。

 エポックメイキングとなったのは2001年にアニメ化された『まほろまてぃっく』だと個人的に睨んでいる。かつては秘密組織に所属する戦闘員であったが活動限界が近いことから引退し、メイドとしての余生を送ることになった女性型アンドロイド「まほろ」をメインにストーリーが展開していく作品。これも『鋼鉄天使くるみ』同様当時の地上波では流れなかったが、制作が「GAINAX」と「シャフト」、監督が『王立宇宙軍 オネアミスの翼』の「山賀博之」なのでアニメファンの間ではかなり話題になった。私もレンタルビデオ屋で借りて観たものです。オープニングを観てもらえばわかりますが、「可愛いメイドさんが派手なアクションを繰り広げる」ギャップが衝撃的である。同時期にアニメ化された『花右京メイド隊』は、初期こそ「お色気モノ」の印象が強いけど途中から戦闘シーンが目立つタイプの作品に。メイド服&ポン刀の「剣コノヱ」は今見てもカッコええな……「可愛い系」戦うメイドのエポックメイキングが『まほろまてぃっく』の「まほろ」だとすれば、「カッコいい系」のエポックメイキングは『BLACK LAGOON』の「ロベルタ」だろう。眼鏡でお下げ髪という大人しそうな見た目に反し、作中のキャラから「狂犬」呼ばわりされる元ゲリラ。「では皆様、御機嫌よう。」とカーテシーしつつ手榴弾をスカートの中からゴロゴロ転がすシーンのインパクトは未だに忘れがたい。ロベルタが出てくる単行本1巻が発行されたのは2002年――つまり、2001年から2002年にかけて「戦うメイド」の下地は敷き終えられた……と言っても過言ではないだろう。2003年にアニメ化された『まぶらほ』には「MMM(もっともっとメイドさん)」というメイドによって構成される軍隊みたいな武装集団が登場し、「ミリタリー系の戦うメイド」、要するに「メイド服を着た女性兵士」のイメージも固まっていきます。

 ここから先は数が増え過ぎて網羅的に把握するのは困難になる。作品単位で見ると2003年発売のエロゲ『モエかん』が「戦闘メイド」という要素を取り入れて「萌え&燃え」な路線を切り開こうとしたっぽいが、ハッキリ申し上げて「グランドフィナーレがない物語」というか「広げ過ぎて畳めなくなった風呂敷」である。「萌えっ娘カンパニー」というふざけた通称を持つ超国家級企業の社員で、元は特殊部隊所属の凄腕だったのに現在は失脚し、南海に浮かぶ孤島「萌えっ娘島」――「護衛メイド最終訓練工程試験連絡洋上訓練所」と御大層な名称を付けられているが、実態としては成績下位の落ちこぼれメイドが送られてくる僻地――へ左遷されてしまった主人公が、様々な訳有りメイドとともに恋ありバトルありエッチありの熱い日々を過ごす。こういう内容なのに、メイド以外の要素にも筆を割き過ぎたせいでメイドたちの印象が薄くなっている(かつての上司である主人公に対しクソデカ感情を抱いている強面の男「飯島」とか、個人的には好きなんだけど「こんなやつにまで熱意を注いでいたら話がまとまらなくなるのは当然だろ!」ってキャラがゴロゴロいる)し、「ナーサリークライム」という頂点的な存在を設定しておきながらメンバー全員が出てこない(特に「火気のナーサリークライム」は出番どころか設定さえろくに明かされておらず、何かの雑誌にキャラデザがちょろっと載った程度である)し、エロシーンを増やすためか陵辱ルートまで用意されていて雰囲気ブチ壊しになるし……ある種の歪んだ情熱が篭もっていて他には出せない味を醸していることは確かだが、とにかくバランスが悪いのです。

 萌えっ娘カンパニーの抱える特殊部隊、かつて主人公が所属していたものの現在は(表向き)解散しているヒューミント系情報課「PIXIES(ピクシーズ)」、名称だけでキャラとかは出てこないシギント系情報課「FAIRIES(フェアリーズ)」、血の逆十字をエンブレムに掲げて不出来なメイドを粛清する「ALICE IN CHAINS(アリス・イン・チェインズ)」、本部(LAB)直属ながら「誰も見たことがない、そのエンブレムを目にした者は必ず死ぬから」と怪談みたいな扱いを受けている「NIN(NINE INCH NAILS)」、12億人いるメイドの頂点に立つ12人によって構成される社長直属の精鋭「N GIRL(ナンバーガール)」と、ざっくり5つも存在するんで「設定が! 設定が多すぎる!」と頭を掻き毟りたくなる。5人いるヒロイン(移植版だと1人追加されて6人)のうち、ストーリーの根幹に関わってくるのはメインの「リニア」と秘書の「霧島香織」くらいで、香織は明らかに掘り下げ不足だったし、何なら他に掘り下げるべき子がいる(ALICE IN CHAINSの頂点、Alice Firstとか……過去に暴走したため本編では封印中)ので本当『モエかん』について語り出すとキリがなくなります。

 今更新規にプレーする人も少ないだろうからバラしますけど、『モエかん』の黒幕は萌えっ娘カンパニーの支配者であり創始者、「金気のナーサリークライム」である「霧島差異」です。作中で「魔王」とも呼ばれている。彼は「木気のナーサリークライム」である「榊千尋」と恋人だったが、金気と木気は相剋関係にあり、経緯は不明ながら千尋を殺してしまう。復活不能の状態に陥った千尋を救うため、差異は木気と相生関係にある「水気のナーサリークライム」である主人公を利用しようと画策し、未成熟な幼体であった彼を覚醒させるが差異の金気は水気に対して相生関係、水気が強まり過ぎて世界中に「ノアの方舟」ばりの大洪水が起こる。混乱によって核戦争が勃発、そのドサクサに紛れて差異は萌えっ娘カンパニーという超巨大企業を立ち上げ急速に千尋再誕計画を推進しようとするも、木気の復活を恐れた「土気のナーサリークライム」である「極東日没」(土気と木気は相剋関係)が動き、主人公は敗北(相性問題で水気は土気に勝てない)。力の弱まった主人公を極東日没の目から隠すため、左遷を装って本編の舞台である島(土がほとんどない)に匿う……という、ストーリーを理解するうえで重要な情報が本編をやっただけではわからない作りになっているんですよ。つくづく惜しい一作だった。『モエカす』というファンディスクも出たけど、余計に風呂敷が広がっただけ。でも一紗(本物)vsかずさ(偽物)の一戦は好き。「勝ったら名前をくれてやる」という条件で交戦し、敗北を悟った一紗が「私の名前はやるよ……」「ただし私はあんたの命はもらう!!」「朝霧かずさっ!!!!!」「その名前!!地獄で名乗るが良い!!!!」と叫んで犠牲覚悟の特攻をかましてくるシーンは何度反芻したことか。『モエかん THE ANIMATION』というOVAは今でもあちこちで配信中。今観る価値があるのかと訊かれると、うーん。

 『モエかん』に参加した原画家の一人「2C=がろあ〜」がイラストを描いた『お・り・が・み』も一応「戦うメイド」かな。主人公の「名護屋河鈴蘭」(孤児院育ちで、あちこちの家を転々としているため姓が何度か変わっている)は借金のカタとして自らを外道集団「魔殺商会」に売り渡し、メイド服纏って様々な無理難題をこなすことになる。軍人口調(「〇〇であります」)の眼帯ポン刀斬撃ホリックメイド「白井沙穂」が好き。「斬っていいでありますか?」「斬っていいでありますか?」 眼帯メイドというと『モエカす』に出てきた「N12」も好きだなぁ。バカデカい銃器を振り回すタイプの子で、複数の一枚絵が用意されるくらい優遇されていたにも関わらず暴走したAlice 3rdに一瞬で消し飛ばされ「えっ? 今ので死んだの!?」って唖然とした。世間的に有名な眼帯メイドキャラというと『一騎当千』の「呂蒙子明」あたり? あれのアニメ化が始まったのも2003年からなので『モエかん』や『お・り・が・み』と同時期か。

 2006年には「SIMPLE2000シリーズ」の一作として『THE メイド服と機関銃』がリリースされる。メイド型ロボット「ユウキ」が過去に遡って開発者である博士を護衛する、メイド版『ターミネーター2』だ。税抜2000円の低価格ソフトなのにコンプリートワークスという攻略本と設定資料集を兼ねたブックが発売されるくらいコアな人気があった模様。プレーしたことはない。同じ2006年に始まったライトノベル『メイド刑事』がドラマ化まで行っているが、アニメ化はしていないため知名度が高いのか低いのかいまいちよくわからないポジションに位置している。『悪役令嬢転生おじさん』の「上山道郎」による『ツマヌダ格闘街』は「メイドのヒロインが主人公に格闘術をレッスンする」という異色の漫画で、全20巻とかなりのボリュームになったがアニメ化には至らなかった。

 単に「戦うメイドが出てくる作品」はたくさんありますが、「メイドがメインの作品」に絞るとアニメ化まで行ってるのはそんなにないんですよね。せいぜい『小林さんちのメイドラゴン』、『うちのメイドがウザすぎる!』、『君は冥土様。』くらいかな。『仮面のメイドガイ』は「メイドと言い張る仮面の男」がメインキャラなので「戦うメイド」の範疇に含めていいかどうか迷うところだが、「フブキ」や「メイド小隊」、「メイド忍軍」も出てくるからアリっちゃアリか。アニメオリジナル作品だと『アキバ冥途戦争』が「メイド喫茶が任侠映画ばりの抗争を繰り広げる」という異色作で話題になったが、あまりに異色すぎたのか後には続かなかった。「戦うメイド」を前面に押し出すとギャップというよりギャグになってしまう、という根深い問題が横たわっており、コメディ方面ならともかくシリアス方面へ舵を切ろうとすると事故ってしまいがちだ。『君は冥土様。』もヒロインの「雪」が可愛いからカバーできている部分はあるけど、「幼い頃に両親を殺されたうえで拉致され、ひたすら暗殺者としての教育を叩き込まれてきた(なので情操の発育が不十分だし、殺人に対する忌避感も薄い)」という洒落にならない重さの生い立ちを知ってドン引きする人が後を絶たない。ほとんど『Phantom -PHANTOM OF INFERNO-』の「アイン(エレン)」がメイド服を着ているような存在なんです、雪さん。というかエレンがメイド服着るシーンあったな、確か。

 メイド単位、つまり「戦うメイドが話のメインというわけじゃないけど出てくることは出てくる作品」まで追うとなると多過ぎてもはや手に負えない。代表的なところや個人的に印象深いところに絞っていくと、“東方Project”の「十六夜咲夜」は外せないだろう。2002年の『東方紅魔郷』から登場したキャラで、二次創作が盛んなこともあって元のゲームをプレーしたことがない人でも咲夜の容姿や能力を知っているレベルに達している。というか私も東方は原作一つもやったことがない。買ったことはあるけど、封すら切らないまま積んでる。彼女のキャラデザは『サライ』に登場する「ナッジ」というメイドが元ネタだと思われるが、もはやネタ元より有名になってしまった。アニメだと2005年に放送が始まった『灼眼のシャナ』のサブキャラ「ヴィルヘルミナ・カルメル」も作品の知名度が高いだけに割と有名かしら。ヴィルヘルミナ単体が話題になることは少ないからいまいち測りにくい。格ゲー方面だとサムスピの「いろは」、時代設定的にはメイドじゃないかもしれないがプレーヤーからは「メイドキャラ」として認識されている。かなり露出度の高い衣装で、今見ると「時代を先取りしすぎだろ……」と絶句します。「ヘッドドレスっぽいカチューシャを付けておけば多少衣装が奇抜でもメイドキャラとして認識できる」という事実を証明したキャラでもありますね。メイドコスの格ゲーキャラというと『カオスコード』の「セリアU改」が好きだけど、衣装がメイドっぽいだけでメイドキャラでは全然ない。

 世間的にはそれほど有名じゃないけど個人的に深く刺さっているのが『終わりのクロニクル』の「Sf」や「八号」、Sfは「大城・至」というキャラに仕える自動人形のメイドで、主人の言うことをあまり聞かないタイプなのだが、至自体が相当なひねくれ者なので「割れ鍋に綴じ蓋」感がすごい。八号は当初敵として登場するが、そこから味方になるタイプのメイド。サブキャラなので活躍するシーンは少ないが、その少ないシーンでガッツリと印象を残していく。それと2005年発売のエロゲ『ひめしょ!』に出てきた「ミシマキョーコ」、元メイドであってメイドキャラではないのだが作中で「メイドとは貴人のそばに侍る者、すなわちサムライであり武芸を嗜むのは当然のことである」と「メイド=侍」理論を唱えて度肝を抜いた。「侍女」と書いて「サムライレディ」と読ませる、みたいなノリ。『ひめしょ!』は主人公「ヤガミコハル」の母親も元メイドで、功績著しかった彼女が褒美として王様の寵愛を望み、その結果主人公を身籠った……という設定だからこの「メイド=侍」理論がストーリーの根幹に関わっており、単なる与太じゃなくなっているんですよね。

 2010年代はリゼロこと『Re:ゼロから始める異世界生活』に登場した鬼の血を引く双子メイド、「ラム」と「レム」が人気キャラとして君臨している。特にレムの方は人気キャラなのに途中で寝たきりになってしまうせいで、「もしスバル(主人公)があのときレムと一緒に逃げ出していたら」というifストーリーまで書かれている始末である。「メイド=侍」理論じゃないけど、メイドという存在は基本的に「高貴な存在に仕える使用人」というポジションなので「護衛として戦闘力を備えている」って解釈が一般的で、リゼロもそこから大きく外れてはいない。戦うメイドの種類は「1.護衛目的で戦闘力を備えている」「2.護衛以外の目的で戦闘力を備えている」「3.前職が軍人や暗殺者だった(ロボの場合は兵器として作られた)のでたまたま戦闘力を備えているだけ」の3つに大別されます。ほとんどの場合は1で、たまに3がある程度、2に分類されるメイドは「戦うメイドが普遍化していて殲滅や暗殺に特化したメイドもいる」という『モエかん』みたいな世界を除くと少々珍しい。『メイド刑事』の「若槻葵」は「潜入捜査を主軸とする特命刑事で、メイドというのは表向きの顔」だからこの珍しい2に該当するが、「護衛以外の目的で戦闘力を備えているメイド」って「それはメイドの皮をかぶった別の何かでは?」という疑問が立ち上ってくる存在なんですよね。メイド同士が争う『アキバ冥途戦争』も2に該当するだろうが、アレは「メイド喫茶に勤務する店員」をメイドと呼んでいるので最初っから「メイドっぽい何か」である。

 2000年代頃は「メイドさんが戦闘力を備えている」ことにある種のギャップが生まれることでブーム化した「戦うメイド」であるが、2010年代に差し掛かると属性として一般化し、「メイド=侍」理論よろしく「メイドさんが戦うのは当たり前だよね」という倒錯した認識が浸透していって「戦うメイド」という表現が徐々に陳腐化していったように思える。「戦闘に不向き」という理由からさほど多くなかった巨乳メイドも、大陸から流入してきた『アズールレーン』の「ロイヤルメイド隊」により見慣れた景色となってしまった。属性として普及した一方、「そば付きのメイドが実はメチャクチャ強い」という本来サプライズであった事柄がサプライズではなくなり、2020年代以降は「戦うメイド」や「戦うヒロインのメイドコス」が話題に上る機会は減少していったと感じています。いないわけではないが、「珍しくない」から話題になりにくい。最近『SAKAMOTO DAYS』のソシャゲにメイド衣装の大佛が実装されて個人的にかなりグッと来たのだが、ビックリするほど話題になっていません。『アンデッドガール・マーダーファルス』の「馳井静句」も、20年くらい前ならもっと語られまくっていたのではないだろうか。プレーしていないからよく知らないが『ゼンレスゾーンゼロ』に「ヴィクトリア家政」という派閥があって「戦うメイド」がいっぱい出てくるらしく、気になっている。特にリナさんこと「アレクサンドリナ・セバスチャン」は糸使いみたいな動きでメチャクチャにカッコいい。それと、今度『ヒロイン?聖女?いいえ、オールワークスメイドです(誇)!』という作品がアニメ化されます。「乙女ゲームの世界を救う聖女ヒロインに転生する」という転生モノの一種なんですが、主人公の「メイドになりたい!」って気持ちが強すぎて世界を救うことよりもメイド道を邁進することに全力を注ぐ、戦いたくないタイプの「戦うメイド」です。一周回ってロゼッタ・バルロワの時代が来てしまったか……?

 単なる思い付きですけど、2010年代から「なろう系」が台頭し、それまでメイドキャラが担当していた領分を「なろう系によく出てくる奴隷ヒロイン(ロクサーヌやラフタリアなど)」が侵犯するようになって、「戦うメイド」の存在感も薄れていったのではないでしょうか。もちろんなろう系にもメイド物はある(『MAIDes―メイデス―メイド、地獄の戦場に転送される。固有のゴミ収集魔法で、最弱クラスのまま人類最強に。』とか)し、奴隷ヒロインが主人公のメイドになる展開もままありますが、「言うことを聞いてくれそうな存在」という幻想が「包容力のあるメイドさん」のイメージから離れて「可哀想な境遇から救い出してくれた主人公を崇敬している奴隷ちゃん」にシフトしつつあるのを肌で感じている。いつか「戦うメイド」がふたたび熱い視線を向けられる日は来るのだろうか……そんなことを思いつつ、「朱雀院都子」が出てくる『-KATANA Project CompleteBox- 煌花絢爛』の箱を撫でている。この“KATANA”シリーズ、気になっていたけど放っているうちにどんどん新作が出て手を伸ばしづらくなっていたんですよね。ちょうどいいタイミングでCompleteBoxが発売されてよかった。

 ふう、書きたいことを書き散らすことができて満足した。最後にマイナーな「戦うメイド」ものを紹介して締めくくろう。2006年に「May-Be Soft」から発売された『メイドさんと大きな剣』です。どちらかと言えばエロ重視な作風のMay-Be Softにしては珍しく「大剣使いのメイド」をメインに据えたエロゲであり、開発者が『アルカナハート』の「フィオナ・メイフィールド」にハマったのか? と首を傾げたくなるが、実のところ『アルカナハート』よりもこっちの発売の方が先である。当時は『Fate/stay night』が記録的なヒットを飛ばしていて、各社が慣れない「燃えゲー」や「バトルもの」を作ろうと試行錯誤していた時期でした。「小柄な少女がデッカい武器を構える」ギャップに萌える(燃える)層は昔から存在しており、エロゲでも『吸血殲鬼ヴェドゴニア』(2001年)の「モーラ」(武骨なスレッジハンマーを振り回して戦う)という先例が存在している。発売当時の感覚からすると『魔法少女リリカルなのは』(2004年)の「フェイト・テスタロッサ」や『魔法少女リリカルなのはA's』(2005年)の「ヴィータ」あたりが代表格だろうか。『ストライクウィッチーズ』や『艦これ』も大まかに言えばこのジャンルに属しているだろう。現在もひっそり脈々と流れは続き、『アサルトリリィ』という異形の大輪を咲かせていたりします。「三枝零一」のライトノベル『魔剣少女の星探し』には「17の刃を束ねた」という大剣「十七(セプテンデキム)」が出てくるから、このジャンルの最先端と言っていい。

 閑話休題。公式自ら「このミスマッチがたまらない。」と謳った『メイドさんと大きな剣』は物珍しさもあり、「萌えと燃えとエロ全部取り」な内容を期待していたユーザーもいたのですが……蓋を開けてみると「メイド同士の模擬戦」が延々と続く、バトルものとしてはいささかしょっぱい代物でした。作中に「メイド連合協会(MAID UNION SOCIETY、略してMUS)」というメイドを育成する組織が存在しており、このMUS自体は別に武装組織ではなく普通にメイドを育てる機関で、表向きには「オールワークス」(全ての作業をこなせるメイド)が最上ということになっているが、実はオールワークスよりも上に「アナザー・ワン」なる超法規的な武力を持つ特別階級メイドが存在している。アナザー・ワンは主を守護するために大剣を所持することが許されています。なんでメイドが帯剣するの? メイドとは別にボディガードを養成すればいいのでは? って疑問も湧くが、この作品は「奉仕の心は捧士の心」と「メイド=侍」みたいな理論を取り入れているのでそこは無視しよう。銃やナイフや格闘術ではなくわざわざ大剣を所持するということは「大剣で示威する」ことが狙いなのか? それとも「大剣でないと下せないモノ(人外の化物など)」とやり合うことを想定しているのか? という根本的な疑問点に関してかなりフワフワしているのが問題なんです。つまりアナザー・ワンを「秘められた存在」であるかのように語りつつ「アナザー・ワンはシンボルとして大剣を帯びる」(当然だがメチャクチャ目立つ)、この明らかな設定的矛盾が解消されていない。あの未完の大作『モエかん』ですら粛清メイドや殲滅メイドは仮面やマントで容姿を隠しているというのに、メイ剣のメイドたちは思いっきり素顔を晒しているし。いや、冷静に考えるとマントや仮面で容姿を隠すメイドって何だ? それってメイドの必要ある?

 一応、アナザー・ワンに対抗しうる存在として「ビスクドール」と呼ばれるメイド型の戦闘アンドロイドが登場するのですが……このビスクドールは対アナザー・ワン兵器として開発されたものであり、MUSを敵視する「環家」が送り込んできた刺客で、メイド型なのもMUSへの当て付け(「女中ごときが守護騎士を気取るなど烏滸がましい」というメッセージを篭めている)らしい。つまりビスクドールや環家はMUSにとって「本来の敵」ではない……と思われるのだが、環家に関しては詳述されないので争いの根本がよくわからないんですよね。「錬金術や呪術や魔剣の研究に耽っていて何か悪い事を企んでいそうな連中」という漠然とした情報しかない。これまで「大剣」としか書いていなかったからイメージしにくかったであろうが、『メイドさんと大きな剣』には「聖剣」や「魔剣」といった伝承レベルの常軌を逸したアイテムが次々と出てくる。具体名を挙げると「バルムンク」や「カラドボルグ」などだ。伝承上の剣そのものではなく、科学技術で再現したレプリカだったりするが、中には喋る魔剣――いわゆる「インテリジェンスソード」――も出てくる。「いったい何と戦うためにこんな凄まじいものを持ち出してきたんだ???」と疑問符で頭がいっぱいになってしまう。チンピラや強盗を撃退するなんてチャチなもんじゃない、明らかにドラゴンとか魔王とか華悪崇を斃す域の戦力だろ。超必殺技というか、Fateの「宝具」に相当する絶技が存在するんですけど、その名称がなんと「メイドのミヤゲ」――ギャグじゃねぇか! って叫びたくなるものの「街の一区画は軽く吹っ飛ばせる」威力なのでちっともギャグではなく、リアクションに困る。そんなブロックバスターメイドを輩出していったい何をしようとしているんだ、MUS……。

 つまるところ『モエかん』みたく話が膨らみ過ぎて収拾がつかなくなるのを防ぐためにビスクドール以外の敵を出さないようにしたけど、そのせいで「メイドさんが大剣(聖剣や魔剣)を所持する」ストーリーに説得力を持たせることができなくなってしまった悲しいゲームなのです。無理に理想を追い求めず現実的なところで妥協して発売に漕ぎつけたのは、翌年に未完成状態で売り捌いて「怒りの日」を引き起こした『Dies irae』とは対照的だ。惜しいところもあるし続編を期待した人も多かったけど、開発元であるMay-Be Softはもう10年以上新作を出しておらず、実質的に解散状態なので『メイドさんと大きな剣2』が発売される可能性も既にありません。全ては過去、終わったことだ。

 シナリオゲーを期待した人にとってはガッカリする出来に終わった『メイドさんと大きな剣』であるが、コミカルな掛け合いによってキャラクターを立てることには成功したし、一定程度の人気は獲得しました。ヒロインみんな可愛いし、エロシーンも多いので、シナリオのツッコミどころに目を瞑れば満足できないこともない。過剰な戦力を持ちながらやってることが模擬戦ばっかりで緊張感に欠けるのが難点ですが、2006年当時の水準からすれば戦闘シーンの演出もかなり頑張っている部類である。コンセプト上仕方ないこととはいえ主人公が「女の陰でバトルの解説」に終始するキャラになってしまったから、「主人公が戦わないと燃えない」人には不向きなんだけど……一応、主人公も「護られてばかりじゃダメだ」と奮起してメイドさんと肩を並べられるくらい強くなるエンディングも用意されていますが、「主人公が強くなる」ことが主題ではないからオマケみたいなものである。うーん、「戦うメイド」って先述した通り「護衛目的で戦闘力を備えている」パターンが多いからメインキャラに持ってくると「主人公がメイドに護られがち」になってしまい、見てて歯痒い感じになっちゃうので大成しにくいのかな。ロベルタみたいにサブキャラポジションの方がウケる傾向にありますね。


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