「SWAN SONG」
   /Le.Chocolat meets FlyingShine


 日記の内容を抜粋。


2005-07-31.

・で、プレー開始いたしました『SWAN SONG』

 クリスマス・イヴ、もうすぐ日付が25日へ変わろうとしている深夜に発生した大地震。強烈な揺れによって街の建造物はあらかた破壊し尽くされた。折りしも雪の降りが強く、自宅から必要な物資を鞄に詰めて指定避難場所へ向かっていた尼子司は、一夜を凌ぐために途中で見つけたまだ崩れていない廃教会に入り込む。瓦礫に押し潰されて死を間近にした女性から託された、自閉症の少女・あろえ。事態の割に明るい調子を崩さない不思議な男、田能村。揃って同じ大学に通っていたという三人の男女、柚香・雲雀・拓馬。彼ら五人とともに、壊滅的な状況に陥った街で生き抜こうとするが……。

 はじまってしばらくは淡々とした調子で進行し、テキスト量も多いので正直言って少しだるい。「、」や「。」など句読点で文章が一瞬止まる方式も馴染みがないせいで気持悪かったです。そのだるさや気持ち悪さが抜けてくるのは1時間ちょい後あたり。以降、次第に話へと引き込まれていくことを自覚しました。雰囲気はなんとなくですが映画に近い。テキスト量が多い割に描写や動作が淡々としていてクセがないため、頭の中に映る情景が鮮明でかなり映像的です。『CARNIVAL』とはまた違ったノリですけれど、面白くなってまいりました。

 あらすじからして『ドラゴンヘッド』『死都日本』みたいなパニック・サスペンスを連想するものの、サスペンス要素は主眼となっていません。主人公の司がやや無感動というか、一見しておとなしいように見えてどうも特殊なところのある人物になっているせいで、語り口にもあまり緊迫感を覚えない。理解を超える災害に手こまねき、一応はそれなりの均衡と平和を保っているコミュニティで力を合わせて生活する──ただそれだけの話といえます。今のところ。

 視点がミクロであり、国家的なレベルで災害の規模を見ていく気配がないのは喩えで出した二作でいうと『ドラゴンヘッド』のノリ。あれもあれで好きですが、マクロ視点の『死都日本』とか『復活の地』が好物の当方としては「俯瞰的に見た『SWAN SONG』の世界」みたいな展開も期待したいところだけど……どうやら群像劇としてのストーリーに力点を置く気配があるため、それは叶えられそうにない。残念。差し当たって「その時、人は絶望に試される」というキャッチコピーが虚仮威しではないことを一心に祈って続けるとします。


2005-08-04.

『SWAN SONG』、プレー中。

 まったりとした共同生活がそれなりに楽しくなってきた頃、ようやくこの手のパニック・サスペンスらしい展開があって、ある意味安心するとともにドキドキハラハラしました。生存者が少ない代わりにひたすら被災による死者が描写され、エロスよりもタナトスとかそっち方面の香りが漂ってくるストーリーとなりつつありますが、それを悪趣味とも劇的とも感じさせずにサラリと読ませるムードが却って怖い。まだまだ今後の展開は予測できません。

 特定キャラのみを深く造型していかず、それぞれの登場人物たちが個性を発露させすぎないよう抑えながらちょこちょこと関係させ合うことによって集団やコミュニティそのものの魅力を生み出す手法自体はなんら珍しくないものの、やっぱりエロゲーのお約束からは外れているかな。「このキャラが好き」と思うようなことはあまりなく、一つ一つの遣り取りとかイベントがキャラ抜きで直接気に入ってしまうんです。たとえば尼子司と佐々木柚香、個々で見ていけばさして魅力を感じるキャラではないのに、ふたりが深夜に会話するシーンを眺めていると不思議に染み入ってくるものがある。この感覚の積み重ねによって当方は『SWAN SONG』という世界に没入しつつあります。

 雰囲気の構築という点に関してはゲームデザインから演出からと何から何まで凝っており、熱意のほどは窺い知れますがコンフィグの字が読みにくかったりするのは行き過ぎかな、と。ちょっと設定をいじろうと思っただけでもいちいち目を凝らさなくちゃいけなかった。前回の更新ではあまり進行していなくて報告をサボったりもしましたけど、今のところ手応えはちゃんとある感じですね。


2005-08-06.

『SWAN SONG』、プレー中。

 温泉に浸かりながらの猥談が妙にツボだったり、病院の跡地を舞台にちょっと人間ドラマっぽい展開を見せたりと、大筋で意表を衝くところこそないものの、地道に着実に物語が進行していっています。道具立てからだいたい今後どういった方向へ行くのか路線が読めてきましたが、あの瀬戸口廉也だから綺麗なだけの終わり方はしないだろうなぁ、ってな予感がビシバシ襲ってくる。

 それにしてもここまで恋愛要素や青春要素が希薄で、なのに人間模様の面白いシナリオっても珍しい。慣れるまではだるいけれど一度慣れたらそれこそ温泉気分。あんまし時間が取れなくてプレーが進まない割に、適度な満足感を覚えます。ただ厄介なのは、展開に緩急があるせいで「そろそろセーブして中断しよう」と思った矢先に突然先の気になるムードが醸し出されたりと、うっかりしていればついついやり込んでしまいそうになるところか。そんなにサスペンス尽くめって内容じゃないにせよ、まったりした話が続いた後にゆっくりと緊迫感が立ち上ってこられると飢えていた好奇心が食いついてしまって余計にやめにくい。小憎らしい構成ですな。


2005-08-08.

『SWAN SONG』、今日も今日とてプレー中。

 出だしのかったるさはもはや少しも感じることがなく、この世界にハマり込んだという確信を得ています。廃教会を舞台にした少人数生活もそれはそれで面白かったですけれど、やはりそれなりの規模の人数が集まるコミュニティと合流してからの展開が良い。多視点形式の使用というシナリオ構造も違和感を覚えさせることないし、極限状況におけるほのぼのした暮らしとサスペンスの緩急がこちらの興味を飽きさせない。日を増すごとに熱中の度合いが深くなっていきます。

 災害モノという珍しいジャンルなれど、飛び道具もナシにここまで頑張ってくれるとは。CGも美麗でサウンドも綺麗ですが、なにぶんテキストの印象が強烈で、シナリオライターに対する熱視線が自制できません。S.M.Lの『CARNIVAL』のライターということで期待するとともに不安がる心も抱いていたものの、なんか今では『CARNIVAL』云々を持ち出すまでもなく賞賛したい気分。儲と化すまでの過程をリアルタイムで実感しております。

 時間経過のおかげで個々のキャラクターにも魅力を感じ始めているにせよ、でも突き詰めていけば個々のキャラが好きというよりキャラ同士の遣り取り、関係の在り様をとっくりと眺める方が楽しくて好きだなぁ。寄り集まった人々のコミュニティをどう運営していくかなど、サスペンスとかに比べて地味な要素でさえ関心を持ってしまう。舞台の状況そのものは大きな視点から見れば閉鎖的なのに、ゲームとしての世界はあまり閉じていない。その妙が巧く活かされているように思えます。

 なんか誉め殺しのノリに近くなってきたので反面部分として気になるところも挙げておくと、グラフィックの自己主張が少ないという一点。このスワソンは立ち絵を使用しておらず、フェイスウィンドウみたいなものと一枚絵だけで画面構成を行っています。先々月に出たニトロプラスの『塵骸魔京』、あれの形式に似ていないこともない。似ているとまでははっきり言えませんが。ともあれ、そういった具合で画面を占めるCGの割合が少なく、またCG一切なしに文章と音だけで進む箇所もときたまあり、ここぞって場面で効果的にCGが出てきてもあまり印象に残りません。CGそのものの出来映えは素晴らしいのに、シナリオ・テキストを補佐するための添え物という性格が出すぎているきらいがあり。長ゼリフ、長描写が多いせいもあって、どうしても文章の方に主役の座を奪われがちな事態が惜しいかな、と。


2005-08-10.

『SWAN SONG』、相も変わらずプレー中。

 なんなんだろうな、このゲーム。見た目は地味なくせして強烈に惹き付けられる。一つ一つのシーンがやけに濃密に感じられ、ふと時計を覗いたら十数分しか経っていなくて驚いたり、そのくせ気づけば何時間もやり込んでいたり。今年プレーしたゲームはどれも面白くて、中には寝食忘れてのめり込んだものもあるけど、それらとはまた質を異にする手応え。熱中すると同時に戸惑います。なんなんだろ、本当にこのゲームは。

 外部からの救助がアテにできない、内部にも確固たる秩序維持のシステムがない──という極限状況下の集団社会にメスを入れつつ適度にサスペンスの要素を仕込む手つきは異色なれどエンターテインメント精神に溢れています。ちょっとテキストが過剰気味というか、一度にドバッと大量の文章を読ませたり長ゼリフを聞かせたりでテンポを危うくしている部分もあるし、難点もあるにはありますが一度慣れたらその時点で病みつきになりますね。一気にやり終えてしまうのがもったいないという気持ちの一方で早くこの作品の何もかもを知ってしまいたいと逸る心もあって悩ましい。

 今回進めた範囲では「迸る電波キタ━━(゚∀゚)━━!!」なところもあったりして良くも悪くもスリリング。まさかそう来るとは。そしてこのまま進めていくつもりなのか。悩ましく続きが気になります。


2005-08-12.

『SWAN SONG』、ガンハマリでプレー中。

 まだ終盤には入ってないっぽいけど、そろそろ助走に差し掛かった予感。これまでは一人一人の個性よりも全体の関係が印象的だったのに、いよいよ個々のキャラクター性が完全覚醒へのスタートを切ったとばかりにスタンド・アローン化し始めている。やばい、尼子も田能村も鍬形も雲雀も柚香もあろえもみんな好きになってきた。ムジカ・マキーナぶりとかラスト侍なところとか原始的侵略者性とか騎士の手を引っ張るお姫様とかふて腐れの茨姫とか出番が少ない奴とかいった特徴のみを指して惚れたというより、その個性を構築し支える要素すべてに心惹かれる。誰それの属性が何々だから、というより、たとえば尼子というキャラクターの属性が正に「尼子」そのものであると納得させてくれるからたまらないのです。

 話の方も閉鎖社会サスペンスかと思えば回想形式で音楽への偏執的とも言える情熱に触れてみたり、歴史ロマンを僅かに覗かせる微伝奇展開があったり、気がつけばいつの間にか微笑ましい変なラブコメが始まっていたりと、良くも悪くも多彩で節操のない絢爛さを見せてこちらを翻弄させてくれます。そのへんも含めてテキストの自己主張がきつすぎると腐したい気持ちもありますが、読めば読むほど酔ってきてだんだんどうでも良くなってくる面もあり、「楽しけりゃいいだろ、楽しけりゃ」とかなり頭悪い状態になって愉悦を貪っておりますね。

 しかし、「萌え」とかそっち方面でのアプローチはまずないだろうと高を括ってたのに、まさかこんな奇襲を仕掛けてくるとは。本当に何考えているんだろう。意図は推し測れぬものの素直に享受しておきますよ。なんというか、ピンポイントで攻める手際が絶妙だなぁ、このソフト。


2005-08-14.

『SWAN SONG』、コンプリート。

 絶望試しすぎ、試しすぎだよ絶望。

 と、そんなこんなでクライマックスの展開にはすっかり気圧されてしまいました。テキスト先行というか文章の主張がえらく強いソフトでしたけれど、CGや音も負けず劣らずの踏ん張りを見せる。もはや鬼気迫るものを感じるより他なかった次第です。正規ルートが凄絶すぎて、悲惨なはずのバッドエンドさえも揃って味気なく見えてきますよ。むしろ「ここで終わった方がホッとするよな」ってほど。バッドエンドが大好きな人間としてこの状況を憂慮すべきか狂喜すべきか計りかねました。なんつー話だまったく。

 途轍もない規模の災害に遭遇し、外からの援助も期待できないまさしく孤立無援の最中に置き去られた主人公たちが必死に協力し合って生き抜こうとする、というのが大まかなストーリーであっても、「その時、人は絶望に試される」なんてコピーが舞っているくらいですから無論のこと心温まる内容ばかりじゃありません。これで変哲もない性善説的物語だったりしたら詐欺ってものでしょう。ライターもそのへんのことは心得ています。容赦しないときはひたすらしない。どれくらいしないかと言うと、『地獄の黙示録』のカーツ大佐くらい。詐欺だった方が良かったかもしれません。

 多視点形式を活かした群像劇としての出来は素晴らしく、堂に入ったストーリーテリングで見事に惹き付けられ、すっかり夢中になってプレーしました。語り口がやや冗長なこと、良くも悪くも筋が錯綜気味で先が読めないことなど、素直に絶賛しかねる箇所もあるにせよ、「お約束」に頼らないで地道な独自性を積み重ね、黙々と獣も通わぬ小径を踏破していく足取りには惚れました。客観的に見て、当方は瀬戸口廉也のファンというか儲に成り果てている気がしますので話半分に聞いてもらいたいのですが、読み手から希望を奪い取って逆手に利用し絶望的コンボを叩き込んでくる彼の手際はハメ殺しの域まで達していて素敵に無敵だと思います。キャラクターの際立った個性にではなく、何度も繰り返される接触と会話──コミュニケーションの蓄積によって愛着を持たせ、キャラの進退や生死に一喜一憂させる。サスペンスとしてだけの側面、成長物語としての側面だけを切り取っていてはこうはならない。激しく動的な場面も多く印象に残った一方で、最終的に一番脳に焼き付いているのはキャラとキャラとが触れ合いぶつかり合って生み出す静かな摩擦熱なんですよね。展開そのものは「鬱」と表現しても差し支えないのに、終始明るい何かがあるので決して暗くはならない。

 終盤付近についてはいくつか不満も残りましたけど、『CARNIVAL』で感じた最大の不満「一部のキャラクターしか活かせていない」はしっかり解消されているので文句はいちいち書かなくてもいいや、という気分。コンプまで掛かった時間は十数時間ですから昨今の基準に照らせば低ボリュームであるにせよ、内容が濃密だったおかげで分量に関する不満は皆無です。『CARNIVAL』にハマりつつも、どこかで『SWAN SONG』について「そこまで凄い作品じゃないだろう」と侮る気持ちがあったことは確かでした。今はその不覚を悔いるのみ。

 キャラクターはみんな好きですが、あえて一人選ぶとしたら田能村慎。最初は得体が知れないというかキャラの掴めない不気味な奴だったのに、気づけばもっとも頼りのある人になっていた。女性キャラでは妙子か。ありゃ反則ですよ。そして一番好きなシーンは幼い司と父親との会話。他にもいろいろありますが、いちいち挙げていたらキリがなくなってしまいます。


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