「SEVEN BRIDGE」
   /ライアーソフト


 日記の内容を抜粋。


2005-02-19.

『SEVEN BRIDGE』、プレー開始。

 ライアーソフトは『ちょーイタ』でハマりながらも、新撰組に興味がないからと『行殺☆新選組』(リンク先はふれっしゅ)を見送り、ブルマーに興味がないからと『ぶるまー2000』を見送り、ネタが好みじゃないからと『サフィズムの舷窓』『ラブ・ネゴシエイター』を見送り……と見送ってばかりで本当にハマっていたのかどうか自身でも怪しみたくなりますが、OHPにはちょくちょく足を運んで新作をチェックしていました。ようやく興味が一致する新作『腐り姫』が出て久しぶりに購入に至りますが、崩すまでに時間がかかり、その間に発売された作品は軒並みスルー。『腐り姫』がプレーし終わってからリリースされたのが『Forest』で、これがかなりクセの強い作品でしたけど面白くてディープに惹きつけられひどく熱中した次第。そんなこんなで「気になるブランド」のくせして3本しかプレーしていない(『Forest』の後、修正版『CANNON BALL』『サフィズムの舷窓〜an epic〜』を買いましたがどっちも積み中)ため、ファンと名乗るのもどうかと思われるものの、今回の新作『セブンブリッジ』は並々ならぬ期待を寄せておりました。

 黒死病の流行とイスラム勢力の侵攻によって没落し、時代の暗黒へ沈んでいったヨーロッパ。大陸を東に渡り難を逃れた人々。そのひとりクゥ・クランは人の心を読む特殊能力を見込まれ北京で幇会に飼われ、「狗」と蔑まれながらチンピラ稼業で口に糊していた。だが、彼自身の心はいつも故郷を求めていた。疫病が蔓延り朽ちたドイツの村。いくつも掘った穴といくつも放り込んだ死体。すべてを埋め尽くす雪。口の利けない少女と、彼女がもたらした黒い切符を元手に「黒い列車」プレステ・ジョアンに乗り込んだクゥ・クランは、流されるままにユーラシアの黒点たるヨーロッパ、彼の死に場所に相応しい空白地帯へと向かう……。

 「神さえ滅ぼした魔法大戦」なんていう、割と凄いバックストーリーを掲げている架空歴史旅情ファンタジー。大陸横断列車と言えばアメリカ大陸を渡るフライング・プッシーフット(『バッカーノ!1931』)やトランスコンチネンタル号(『鉄路のオベリスト』)を連想する当方はつまり鉄道に対する関心が薄く、蒸気機関車がどうこうっていう部分には興味がないし反応しておらず……『腐り姫』や『Forest』をやっていなかったら確実に避けてましたね。

 クゥ・クランの一人称を主として進行するストーリーはまだ第一章の途中なのでよく分かりませんが、とにかく文章が読みやすくて且つ面白く、襟を掴まれたみたいにぐいぐいと引き込まれる。去年の同じ2月に出た『Forest』では「ウィンドウに表示されない文章を音声で流す」という演出を頻発し、プレーヤーを幻惑しましたが、今回はその演出を「主人公のリーディング能力によって読み取られた心の声」などといった分かりやすい方面へ割り振っており、大きな混乱は起きない仕組みになっています。「『Forest』はやりすぎた。今は反省している」と自供するかの如く、広範な層にアピールせんとする必死さがヒシヒシと伝わる冒頭。良くも悪くも同じ徹は踏まないブランド、ライアーソフト。かつて恒例となっていた巨大バグもないらしく、ようやく「嘘と蟲の会社」というイメージからも脱却しつつあるようだ。

 「橋」の話題すら触れていない今のところ、「一人十字軍」グリエルが気になるキャラです。片目瞑りの狂信者。実際真似してみようとすると瞼が引き攣りそうになる。


2005-02-20.

『SEVEN BRIDGE』、プレー中。

 一つの橋を越えるまでが結構長い……現在、7時間を割き、やっと二つ目の橋を越えて三つ目に向うところ。このペースだと「七つの橋」ってのは多すぎないですかね? 後半が駆け足になりそうな予感がヒシヒシと。

 エルロイ調の文体から段々フツーのノリに変わってきているのは流れのせいなのかライターが違うせいなのか、ともあれ序盤の狂騒的な雰囲気が薄れてまったりしてきています。それでも緊張感は損なわれず、現実の歴史を変奏していくストーリーにはワクワクさせられること已むなし。ボリシェビキとか馬賊が出てくるエロゲーなんて初めてだ。

 「そのときエマが動いた」が脳内でNHKの番組と被って仕方ないものの、飲んだくれな読心術師が自分の乗ってる列車とまで心を通わせて奮起する「橋の試練」に差し掛かったシーンは熱い。立ち上がったエマや膝乗りエマのCGではヒロインの眉の太さが決然と引き締まった表情をより一層強く印象づけていてグッド。声の出せないエマが伝声管に縋り付いて掠れた呼吸音を送り込むなど、非言語的な表現も体感していてゾクゾクと背筋に這うものを覚えます。

 ろくでなしのチンピラで、ノワール小説に出てきたら絶対に死にそうなキャラの主人公が、「エマを笑わせてやる」と密かに必死になるあたりも微笑ましく、そうやってヒロインと打ち解けていく過程も肌に心地良い。ちょっと性急に思える場面もいくつかありましたが、これ以上尺を長くするのもアレですし、現状を妥協点と見做すのがいいのかな……。

 徐々に群像劇の様相が濃くなっていくことに関しては「第一部・完」なテイストで終わった『リアライズ』が想起されて内心穏やかではありませんけれど、うまく締めてほしい。プレーを続行します。

・電撃の新刊を崩していた関係でここのところ毎日更新になってなすが、明日以降は隔日の通常ダイヤに戻りそうです。もはや溜め置いたネタ壺も枯れて底を晒しとりますし。


2004-03-20.

・なんだかんだで一ヶ月近くも放置していた『SEVEN BRIDGE』、ようやく再開。

 このまま放っておくと通販で予約していた来週の新作が届いてますます崩しにくくなるので連休を活かすべく一念発起。やりながらなんとなく感じていた「後半の展開は駆け足で消化不良気味になるのではないか」という曖昧な不安を肯定するかのように、巷では「未完成作品」との噂がまことしやかに流れていて「それなら投げちゃおうかな」と思う反面、自分の目で確かめもせずに信じるのはアレだとも思い、板挟みに陥ってました。

 なるほど。第四章のあたりを機に、主要女性キャラに付いていたボイスが途切れ途切れになります。いわゆるパートボイス。うちのサイトに来ている層を考えればPC版『デモンベイン』状態と表現した方が通じやすいでしょうか。エロシーンしか声が再生されず、それ以外のイベントでは軒並み無声。予算の問題か、はたまた開発期間の関係か。どちらにしろ、「あれ? 声が出てないぞ?」と気付いたときの焦りにも似た気持ちは快いものではない。この点についてはフォローする気が毛頭ゼロだ。

 加えて章ごとの展開も駆け足になる。第一章と第二章を基準として「1」にするなら、第三章は「2/3」、第四章と第五章は「1/2」といったところ。前述したパートボイス化も影響しているだろうが、ねちっこいとも言えたストーリーが徐々に淡白になっていく事実は否めなかった。けれど個人的には最初のあたりはちょっと長いと感じたし、まあそのへんは最初だからと受け入れることができたものの、ずっとあのノリが続くようではダレてしまうなぁ……と思っていただけに、ピッチが上がって丁度良くなった印象すら受けます。このへんに関しては擁護いたしたく。盛り上がるシーンはキッチリ盛り上げてくれますし。

 『腐り姫』『Forest』で培われたストーリーテリングは充分に円熟しており、熱中していることにも自覚できず気が付けばすっかり何時間もやり込んでいた次第。思わせぶりに仄めかす「神をも殺した魔法大戦」「自動人形の歌声に誘われ戦場を馳せたゴーレム」「十字架のテロリストと化した赤枝騎士団」などといった背景や、舞台調とも言えるどことなく演劇的なテキストはいかにも複雑そうな物語を想像させるが、本編そのものはごくストレートで、主人公の成長(というより人並みに後退)する過程を綴り、人の心を読む力がある彼をして「心がない」と言わしめるヒロイン・エマへ抱く恐怖心と庇護欲の入り混じったアンビバレントな感情に折り合いをつけていかせるところは恋愛モノの王道を辿っている。ヒネてスカして道化になることではなく、ただ単にカッコ悪くなることで歩幅に合った望みを見出すのはありきたりながらそう簡単には切って捨てられない魅力があるかと。

 にしてもテルツォとかカイとか、脇役に近い男キャラがなにげにイイ味出しまくってるな。陰気で情けないテルツォがぐっと背筋を伸ばしたり、お茶目を窺わせるカイの表情がすっと醒めて瞳の色が薄らいだりと、「変貌」によって生まれるギャップが立ち絵でうまいこと演出されていた。燃えるシーンも多いだけに、彼らにボイスがないことは悔やまれる。


2005-03-24.

『SEVEN BRIDGE』、コンプリート。

 進めば進むほど余裕がなくなっていったのか、終わり1時間の展開はほとんどダイジェストに近かったし、物語の核心を一人のキャラにべらべら喋らせるクライマックスも無理矢理風呂敷を畳もうとしている感じでガックリ来たが、その後のエンディングは良かったので個人的には終始トントン。「期待に見合うほどの面白さだったか?」と訊かれると微妙ではあるものの、「はかった喃 はかってくれた喃」と憤怒にまみれて仕置きしたくなるほど悪くもなかった。後半が駆け足とはいえ全体が短いわけではなく集中してやり込んだとしても十時間以上掛かっただろうし、それを最後まで投げ出さずにプレーできたからには「アタリ」の部類に属するでしょう。

 やっぱり、あのスタッフロールにヤラレましたね。個人的に弱いです、ああいうの。「冒険は終わっても、ふたりの人生はずっと続いていく」みたいな。冷静に振り返ればその「冒険」自体はところどころで消化不良になっているわけですけど、当人たちにしてみりゃもう終わった話で、「どうでもいい」とまで行かないにしても瑣末事だと。クセと魅力を兼ね揃えたキャラが多かった割にほとんど活かせなかった憾みがあり、それはやっぱり瑕疵。でもエマに(*´Д`)ハァハァした当方は他のキャラをブッチされてもさして気にならないわけで。なんだかんだ文句を述べても楽しめたことは確かなんです、はい。クゥ・クランとエマの互いを引き寄せ合う感覚が最高。

 星空めておがライアーを退社したらしく、今後はこうしたノリの嘘屋ゲーを味わうことができないかもしれないということがとても残念。とりあえず、ライアーへの注目はしばらく継続する方針ですが。


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