「『咲―Saki―』アニメ派は原作を何巻から読めばいいのか問題(理想は1巻からだけど、それはそれとして)」(2025年8月4日の記事)


※結論を先に書くと、2009年に放送された1期目(GONZO版)しか観ていない人は7巻あたりから、2014年放送の「全国編」まで観た人は12巻あたりから読み出すとちょうどいい感じになります。なお2012年放送の「阿知賀編」は別サイドを描いたスピンオフなので、これしか観てない人は素直に無印(本編)1巻から読み出した方がいいです。

 『咲―Saki―』は2006年に開始し、今年で連載20年目を迎えた麻雀漫画です。公式曰く「本格美少女麻雀物語(ガールズマージャンストーリー)」。スピンオフ含めて3度もアニメ化しているので「まったく知らない」という人の方が珍しいだろう。「麻雀アニメ」という括りでは過去最長のエピソード数(アカギは全26話、哲也は全20話と、アニメ自体の長さはそれほどでもない)を誇っています。ただ、「昔は読んでた」とか「GONZOの作った1期目だけ観た」とか「アニメの全国編までは観た」という感じの層が多くて、連載まで追っている人はそんなにいないのかもしれない。「えっ、まだやってるの?」と驚く人すらいるだろう。ついこないだ最新刊(26巻)も出たし、バリバリ現役連載中です。休載が多くてなかなか話が進まない、という面は確かにありますが……『咲―Saki―』は牌譜を作者の「小林立」自身が作っていて闘牌の組み立てに時間が掛かること、スピンオフがいくつもあってそちらの監修に手が掛かること、単行本を発売する際に店舗特典としていろいろ描き下ろす必要が生まれること、様々な事情が絡んで「多忙」としか言いようのない状況に陥っているんです。アニメは一番新しい『全国編』でも2014年放送でもう10年以上前、それ以降音沙汰がないから原作読まない人にとっては「まだやってるの?」という反応になってしまうのだろう。

 『咲―Saki―』は前述通り2006年に“ヤングガンガン”で連載を開始し、2009年に一番最初のアニメが放送されました。ファンの間では単に「1期目」と呼ばれることが多いが、制作会社から「GONZO版」と呼ばれることもたまにある。アニメ化が発表された時点で原作は4巻までしか出ておらず、放送が始まった頃もまだ5巻が出たばかりで、ろくにストックがない状態でした。なのに2クールもあって、途中で原作に追いついてしまったため終わり頃(具体的に書くと20話〜25話)はアニメオリジナルのエピソードで埋めています。

 『咲―Saki―』の世界では麻雀が世界中で大ブームを巻き起こしており、野球とサッカーを合わせたぐらいの人気がある。そのため麻雀の全国大会(インターハイ)は甲子園並みの熱狂とともに全国中継されている、という設定になっています。アニメの1期目で描かれたのはインターハイ出場の切符をかけた「県予選編」、原作だと7巻あたりで県予選は決着します。インハイは「団体戦」部門と「個人戦」部門に分かれており、漫画は団体戦――先鋒・次鋒・中堅・副将・大将と、まるで剣道みたいに5人1組で戦う部門――を主に描いている。なぜ剣道みたいな方式なのか? 理由は定かではありませんが、連載開始当時同じ雑誌に『BAMBOO BLADE』という剣道漫画があったので、ひょっとしたらそっちの影響があったのかもしれない。なんであれ、原作だと個人戦についてはほとんど触れていません。アニメスタッフはここに目をつけ、20話から25話にかけて「原作でほぼ触れていない県予選の個人戦」を映像化しています。そういう意味では稀少なのだが、逆に言うと「アニメで描かれたし、いいか」と小林立が漫画における個人戦描写を飛ばしてしまった面もあるので痛し痒しだ。

 原作だと8巻からインターハイの団体戦が始まるのですが、実を言うと最新刊の26巻に至ってもまだ「インターハイの団体戦」が続いてるんです。いえ、最新刊でようやく第四回戦(決勝)の大将戦が始まりましたから、そろそろ終わりが近いっちゃ近いんですが。この大将戦が終わればインハイ編も決着し、新しいアニメが制作されるのではないか……と思っていますが、ブランクが10年以上も空いてるとなるとどうなるかよくわかりません。麻雀アニメは海外ウケが悪い(単純に麻雀を知らない国が多く、知ってる国も日本とはルールが違ったりする)から海外配信が主流のこの御時世、いろいろと厳しいのだろうし。

 さておき、『咲―Saki―』はスピンオフ作品の多さでも有名である。全部紹介するとキリがなくなるので、本編との関わりが深い『阿知賀編』『シノハユ』『怜―Toki―』の3つに絞って紹介しよう。まず『阿知賀編』、日常スピンオフの『咲日和』と同じ頃に始まった最初期のスピンオフ作品で、2011年に“月刊少年ガンガン”での連載が始まった。正式タイトルは『咲―Saki―阿知賀編 episode of side-A』と結構長い。長野県の「清澄高校」をメインに描く本編に対し、こちらは奈良県の「阿知賀女子学院」を主軸に進行していく。タイトルの「episode of side-A」は「阿知賀のA」であるとともに、もう一つの意味が込められています。

 インターハイは52校がふたつのブロックに分けて配置され、4校ごとに卓を囲み、もっとも成績のいい1校が勝ち上がる形式になっている。清澄が配置されたのはBブロックで、本編だとAブロックについて触れる機会はあまりない。そこで「清澄とは反対側のAブロックでどんな戦いが繰り広げられていたのか」を綴るのが阿知賀編、つまり阿知賀はAブロックに配置されている。「episode of side-A」は「AブロックのA」でもあるのだ。「全国大会の反対側」を見せるという趣旨なので本編では激闘に次ぐ激闘だった県予選は速攻で終わり、あっという間に全国への切符を手にする。スピード感の違いで混乱するかもしれませんが、アニメだと阿知賀編は全国編と表裏の関係にあるんです(1期目→阿知賀編→全国編ではなく、1期目→阿知賀編&全国編)。連載開始翌年の2012年にはもうアニメが放送されているが、これは「阿知賀編がアニメ化された」と考えるよりも「漫画とアニメの企画が同時進行していた」と捉える方が適切だろう。「とても1クールでは収まらない」という理由から、12話までTVで放送した後にネットで13話〜16話をネットで配信するという『化物語』みたいな方式を採用した。Aブロックの三回戦(準決勝)まで描かれ、決勝に進む2校(一回戦と二回戦は4校のうちトップ1校しか勝ち上がれないが、準決勝のみ各ブロック上位2校が勝ち上がる)が決まったところで終わる。いくら反対側のブロックとはいえ、アニメだと清澄側は一回戦すら映像化されていないのに「もう決勝の面子が(半分だけだけど)決まるなんて……」とファンの度肝を抜きました。漫画も6巻で準決勝まで描いて完結……かと思いきや8年後に再開し、「Bブロックの準決勝を見守る阿知賀勢」から始まる番外編めいたストーリーが幕を上げた。決勝の内容を阿知賀視点で再構成しているため本編と被るところもあるんだが、アニメで人気だったあの「小走やえ」(「ニワカは相手にならんよ」「お見せしよう、王者の打ち筋を!」)が再登場するので「アニメ見たから漫画はいいや」派の人も機会があれば読んでみて欲しいですね。あっさり負けたせいで「王者の討ち死に」と散々揶揄された小走先輩であるが、奈良県大会の個人1位でインハイ個人部門にも出場する資格を得ており、強キャラの一人ではあるんですよ。漫画版は9巻まで出ていて現在は展開が止まっているけど公式側から「完結」とのアナウンスはなく、本編に区切りが付いたらまた再開する可能性もあります。

 シノハユ、正式タイトル『シノハユ the dawn of age』は2013年、阿知賀編の展開が一旦止まった頃に入れ替わる形で始まったスピンオフです。作画は阿知賀編と同じ「五十嵐あぐり」が担当している。the dawn of age(時代の夜明け)と題されている通り、本編よりも前、麻雀部の顧問やプロ雀士たちが幼き少女だった時代を描く、いわば「過去編」に当たります。公式は「旧約青春麻雀物語(バーナルマージャンストーリー)」と謳っている。主人公の「白築慕」は本編にも登場する「瑞原はやり」と同学年で、本編だと28歳のはやりが小学5年生のあたりから本格的にストーリーが始まる。つまり約17年前である。慕たちがインハイに出場して激突するまでを描く予定で、その10年後に『咲―Saki―』本編が始まるイメージとなっています。生後間もない頃から麻雀牌を握り締めるくらい麻雀好きだった白築慕、彼女が小学4年生の頃に母親「白築ナナ」は突如失踪した。「麻雀大会に出場すれば全国中継される、そしたらお母さんに見つけてもらえるかもしれない」 慕は僅かな可能性に賭けて大会への出場を目指すが……という話です。タイトルのシノハユは古語の「偲はゆ」(偲ばれる、つい思い出してしまう)と主人公の名前である「慕(しの)」を掛けたもの。咲スピンオフとしては最長の作品に当たり、最新刊は18巻。作中の時間は刻々と経過しており、慕たちも現在中学生になっています。逆に言うとまだ高校生にもなっていないので、完結はだいぶ先になりそう。ちなみに本編だと慕について直接触れている箇所はほとんどなく、僅かに匂わせる描写がある程度。このためファンは「本編時点で慕は既に故人となっている」説、「インハイ出場後にお母さんと再会して満足したので麻雀から足を洗って他業種に就いている」説、「現在プロになっているが読者を驚かせるためにあえて情報を絞っている」説と3つぐらいの派閥に分かれて議論を交わしています。

 『怜―Toki―』は比較的新しいスピンオフで2016年連載開始……って、もう来年で10周年じゃないか。時が経つのは早い。インハイのAブロックに出場した大阪の強豪校「千里山女子高校」のエース「園城寺怜」を主人公にした、これも一種の過去編です。公式は「西の本格美少女麻雀物語(ウエストサイドガールズマージャンストーリー)」と謳っている。千里山3年の怜が小学5年生の頃、つまり本編の7年前からストーリーが始まっています。親友である「清水谷竜華」との馴れ初めを描きつつ、病弱で後ろ向きな性格をしている怜の成長を描いていく。「ただ ひとつ約束して」「絶対に私の『大切な人』にはならへんって」「私たちはおままごとの『お友達』」と言い出す竜華の闇を描く物語でもある。千里山は阿知賀編のアニメでも出番が多く、人気もあったけど準決勝に敗れて決勝には上がれなかったため、それ以降は活躍の機会が限られていました。特に竜華の方は設定的にかなり強いんだけど、敗退する校だから大暴れさせるわけにもいかない……という理由で魅力を引き出し切れないまま終わった。そういう意味では救済めいた側面がある作品。現時点での最新刊は12巻、怜たちも中学生になって徐々に終わりが見えてきた。シノハユと違ってインハイ前の県予選までしか描けない(それ以上描いたら阿知賀編と被ってしまう)から、こっちの方が先に完結するかも。ちなみに私は「城阪花織」という子(強豪「桜花女子中」のエース、12巻の表紙にもなっている)が可愛くて好きだけど、登場が割と遅い(単行本だと10巻)せいもあって二次創作イラストが少ない……悲しい。

 「ところでアニメの全国編ってどこまでやったんだっけ?」と記憶があやふやになっていたので確認しましたが、インハイの二回戦が終わったところまででした。原作だと11巻あたり。全国編は1クール(全13話)しかないので、エピソードをそんなに消化できなかったんですよね。『咲―Saki―』本編の未アニメ化範囲は12巻〜26巻、なんと半分以上が映像化されていない! インハイ決着が近づいてきたとはいえ、丁寧にアニメ化しようとしたら4クールは掛かるボリュームだし、現実問題として難しいのかな……。


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