「るいは智を呼ぶ」
   /暁WORKS


 わざわざ解説する必要もないような気がしますが、他に書き出しのネタが思いつかないので言及致しますと、「類は友を呼ぶ」という諺をパロった題名であります。「るい」も「智」も作中に登場するキャラクターの名前。諺の意味は「気の合った者たちや似た者同士は、特に示し合わせることもなく自然と集まってしまう」――つまり「スタンド使いとスタンド使いは引かれあう」とか、だいたいそれで合ってる。この作品にもスタンド使いじみた能力者が何人か存在し、彼らは「力」の代償として「呪い」を負っていて、あたかもその「呪い」に導かれたかのように一同に会すところから『るいは智を呼ぶ』っつータイトルが来ているわけです。ああホントわざわざ解説するまでもない書き出しになってしまった。イケてない言動を繰り返すイヨ子の呪いが伝播したのかしら。

 暁WORKSはあかべぇそふとつぅの姉妹ブランドで2007年に設立され、翌年2008年に制作2本目となるこの『るいは智を呼ぶ』をリリースしました。生え抜きの人材ではなく外注スタッフで回すことを旨としているブランドなので、制作1本目に当たるデビュー作『僕がサダメ 君には翼を。』とはラインからしてまったく違い、作風に共通点を見出すのは難しい。3本目の『DEVILS DEVEL CONCEPT』も同様。現在4本目となる『コミュ−黒い竜と優しい王国−』が発売されており、こちらはるい智スタッフが中心になって制作を進めたため雰囲気などで似通った部分はいくつかありますが、まあ『コミュ』の話をするのはまた別の機会に譲るとします。話を戻してるい智、情報公開当時は「ちょっとクセがあるけど、この原画は結構いいかも」「でも文章の方はちょっとどころじゃないクセの強さというかアクの強さというか……」といった具合で、主にシナリオ(テキスト)を危ぶむ声が多かったように記憶している。実際にこちらのサンプルを読んでみてもらいたい。「原付強調しすぎだろ」とツッコミたくなること請け合いです。個別ルートに入る後半はもう少し整理されて読みやすいテキストになるんですが、共通ルートである前半は斯様に味付けの濃い表現が目立ち、テンポもかなり独特ですから非常にこう……くどい。胃もたれします。告白しますと、体験版をプレーしたときは途中で投げ出したくなりました。何箇所かスキップすることにより辛うじてモチベーションを維持したものの、自分自身よく根気が続いたと感心したくなるくらいで、いつ「もう駄目だ、ギバーップ!」って挫けてもおかしくない状況ではあった。そんな当方の心を支えた要因の一つは、主人公・和久津智が放つ無窮の可愛さでした。

 こちらをごらんいただきたい。可憐でいて飾り気の少ない、ごくオーソドックスな美少女キャラでしょう。「智タン、智タァン。はぁはぁ。オレたまらないよぉ。もうぎゅってしてちゅーってしてずっとずっと一緒にいたいよぉ」と口走りたくなるのもむべなるかな。しかし残念、いやむしろおめでとう、智ちんは純然たる「男の子」です。呪いの関係で女装して性別を偽っていますが、れっきとした野郎っ子であり、エロシーンともなれば股間のマシーネンピストーレが火を噴くぜ。ここ数年に限っても『処女はお姉さまに恋してる』や『恋する乙女と守護の楯』といった先例があり、趣味ではなく事情があって女装しているエロゲー主人公など珍しくなくなりましたが、それでも供給量の少ない特殊属性であることに変わりはない。「嫌々ながら女装をする(不本意にも似合ってしまう)」というシチュエーションを大好物とする当方が、これほど美味しい設定を座視することなんかできません。アクの強いテキストも「却って免疫がつくだろう」とポジティブに頭悪い思考して突っ込んだ次第。フライングゲット、つまり発売日の前日に入手するという迅速さを見せつけながら、すべての内容を終えてコンプリートするまでに掛かった日数は500日弱。実プレー時間は恐らく30〜40時間程度なので、集中的にやり込めば10日以内にクリアできたはずなのに……この体たらく。『コミュ』の発売に合わせてラストスパートを掛けた経緯もあり、仮に『コミュ』がなければ丸2年は要していたやもしれませぬ。

 さて、そろそろ本編の紹介に移りましょう。「本来の性別がバレると死ぬ」という奇怪な呪いに悩まされ、決して本意ではないのにスカートを履いて「女の子」としての日々を送っている少年・和久津智のもとに、一通の手紙が舞い込む。差出人は母親。とっくに死んだはずの故人から、時を超えて胡散臭いメッセージをいただいたのだ。怪しみつつも、手紙の指示に従って「皆元」なる男性を探しに行く智。彼はその途上、鉄パイプを軽々と振り回す謎の怪力少女に襲われる。皆元るい――探していた男性の、一人娘だった。彼女によれば、父親はもう既に亡くなっているという。るいは手紙の内容に関して心当たりはないと言い切り、ふたりの縁もそこであえなく切れるかと思いきや、燃え盛るビルの中を逃げ惑ったり覆面ライダーに追われたりしているうちに、なんだか仲良くなってしまった。類は友を呼び続け、ロシア系クォーターのレズビアン・花城花鶏、ローラーブレードで軽快に駆け回るチビっ子・鳴滝こより、空気が読めずイケてない言動を繰り返す眼鏡巨乳・白鞘伊代、常に毒舌と不思議ジョークを撒き散らす腹黒無表情・茅場茜子といった特徴多き個性的な面々を招き寄せる。やがて智は彼女たちすべてが自分と同じ呪いを負った人間であることを知り、「呪われた世界に対抗するための同盟」を組むが……と、大雑把なストーリーはこんなところ。

 るい智の世界を語るうえで欠かせない要素の一つ、「呪い」。それは「○○してはならない」といった形で規定される禁止行為であり、たとえば主人公の智は「本来の性別がバレてはならない」、ヒロインのるいは「将来のことを約束してはならない」という禁忌の枷を嵌められている。これを破る(作中では「呪いを踏む」と表現している)と、「ノロイ」と名づけられた髑髏面の黒い影がやってきて罰を執行する。うまくやればノロイの襲撃を凌ぐこともできるが、一歩でも対処法を間違えると命を落とすことになりかねない。ノロイの下す罰は大抵「偶発的な事故」を装っており、運転席に誰も乗っていない車が急に突っ込んできたり、あるいは乗っているバイクのブレーキが突如利かなくなったりする。踏めば、死ぬリスクを負う。一種の地雷みたいな感覚ですね。呪いを持っている者はその証として体のどこに烙印めいた痣がある。これによって主人公たちは互いに相手が呪い持ちであることを知るのです。なんか『八犬伝』みたいだな。更に、痣を持つ者は呪いばかりではなく超常的な「力」も保有していて……このへんの詳しいことは後回しにしよう。

 シナリオはマルチエンディング形式で複数のルートが存在しますが、初周はるいルート固定で、一切選択肢が出てきません。一本道のストーリーを直線的に読み進めるのみ。るいルートをクリアすると選択肢が追加され、他のルートに移行できる仕組みとなっています。個別ルートに分岐するまでの共通シナリオがとても長く、だいたい6、7時間程度の分量が詰まっている。体験版はこの共通シナリオと、るいルートの途中までを収録しています。体験させすぎ、という気がしないでもないけれど、るい智の山場「パルクールレース」がちゃんと入っていることを考えれば適切か。パルクールとは街中を駆け回ってあらゆる障害物を乗り越えていくフランス発祥のスポーツで、『YAMAKASHI』『アルティメット』など映画にも取り入れられています。花城家に代々伝わる書物「ラトゥイリの星」を奪回するため、そして借金取りに追われる茜子を救い出すため、吸血鬼ハンターみたいな格好をしている尹央輝(ユン・イェンフェイ)主催のパルクールレースに参加することとなった「同盟」チーム。負ければ漏れなく智ちんが肉奴隷化する運びとなっています。複合的な意味でヤバい賭けです。体験版では一番の盛り上がりを見せるイベントで、これがキッカケとなってるい智に惹かれ始めた人も少なくないはず。かく言う当方もその一人である。共通シナリオは「呪い」や「力」に関する言及が少なめで、個別のるいルートに入ってからようやく「ノロイ」が現れる仕様となっており、ちょうど「これからどうなるんだっ!?」とすごく心配になる箇所で体験版の範囲は終了になります。あざとい。実にあざといが、おかげで購入に踏み切ることができました。

 では以下、キャラクター紹介および各個別ルートの解説を綴っていきます。ネタバレ満載モードにつき未プレーの方は注意してください。

(皆元るい及びるいルート) … 元気すぎる食欲魔人。赤毛で巨乳で直情径行、なかなか個性が立っているし、タイトルからしてもメインヒロイン待遇に見えますが……実は攻略を進めれば進めるほど影が薄くなっていく不遇な子であります。なにげにエッチシーンは最多なのに……「見せ掛けメインヒロイン」と言ったら言い過ぎか。「自分と母を捨てた父に激しい憎しみを抱いている」ことがシナリオの根幹を成しており、もちろん憎悪は報われなかった愛情の裏返しでもあるので、「亡き父に対して心の折り合いをつける」ことがるいルートの目標となっていく。「呪い」は「将来のことを約束してはならない」、要するに「明日遊びに行こうよ」と持ち掛けてはダメで、逆に誘われても「うん」と答えてはいけない。指切りげんまんすら制裁対象となり得る。約束ができない体質というのは現代社会を生きていくうえで著しい困難を伴います。現在家出中の身であり、廃墟めぐりを基本とする野良生活で日々を凌いでいる。その過程で智と出会うわけです。力は「身体能力の強化」。バイクを片手で持ち上げて投げつけたりだとか、およそ非常識としか言いようのないパワーを発揮します。ただ、力を使うとカロリー消費も激しくなり、物凄くおなかが減る。「るい=はらぺこキャラ」と認識されるのは自然な流れと言えましょう。

 ノロイの出現で死に掛けたり、るいたちに近づいてきた雑誌記者の三宅が後日怪死を遂げたり、なかなかうねりの激しい章でプレーしていて飽きることがない反面、ほとんどの謎は解かれないまま終わるため消化不良な印象が濃い。エンド自体は前向きでハッピーながら、どことなく奥歯に物が挟まったような不快感が付きまとい、スッキリしません。最大の謎は「呪いを踏んだ(=るいに男だとバレた)智がなぜノロイに襲われなかったのか?」ですね。いずれ解明するんですが、この時点で理由を推察することは難しい。謎は積み残されたままながらもルート終盤に至ればこよりの依頼を受けて組事務所へ侵入するイベントが発生し、俄然ヒートアップします。明らかにパルクールレースと肩を並べる熱さ。智を除く5人全員が力を解放して大活躍するんですから、これで燃えないわけがねぇ。伊代なんて自分のルートよりも見せ場が豊富なんじゃないか。個々の力が役立つ場面は全編通じてちょこちょこ用意されますが、一斉に駆使するイベントは珍しい。見応えありありです。スッキリしない部分が蟠るにせよ、初周としてプレーする分には悪くない仕上がりです。

(花城花鶏及び花鶏ルート) … ロシア系クォーターのプラチナブロンドお嬢様。鋭く冷ややかな視線が特徴的な美形キャラであり、また言動がもっとも下品な超変態レズビアンでもある。なんというガッカリ淑女。無類の男嫌いにつき、一応物理的な目線で見れば生娘なのだが、同性に関しては相当な数を食い散らかしているらしい。本人の言によると、智・こより・伊代が嗜好の範疇で、るいと茜子は対象外。ただし、るいルートで智の攻めによりネコ化したるいだけはツボだとか。「呪い」は「他人に助けを求めてはならない」で、そのせいか他者に何かお願いごとするのを極端に厭う。円滑な人間関係の構築を阻み、孤立を促す呪いですね。得た力は「思考の加速」、脳を活性化させて膨大な情報を瞬時に処理する。結果として周りがスローモーションに見え、身体能力はそのままなので自分自身の動きも主観的には遅くなるが、STGをプレー中ならたぶん分厚い弾幕だろうと余裕ですり抜けてしまうでしょう。代償として「大量の睡眠」が要求され、花鶏ルートの花鶏はしょっちゅう寝ているイメージがあります。

 さて、花鶏ルートで呪いの謎をはじめとする未解決問題がソリューションされていくのかと思いきや、さにあらず。依然として三宅は不審な死を遂げるし、男バレしても智の呪いは発動しないし、不発条件もアンノウンのまま。更には才野原恵という男装の麗人がさしたる出番もない状態であっさり死んでしまうなど、ますます謎は深まる一方。「ラトゥイリの星」を解読するため図書館に持っていって不注意から紛失し、なんとか取り戻そうと東奔西走するけれどその影すら踏むことができない……ってなストーリーで、なんと最後まで「ラトゥイリの星」を取り戻せないまま終わってしまう拍子抜けのシナリオでありますが、花鶏のキャラが立っているおかげか不思議と不満を覚えることなくプレーできた。萌えるか否かで申せば圧倒的に萌えない子だけど、存在感が強烈であることだけは確かだ。結末はバッドエンドに近いノーマルエンドといった趣。呪いは解けなかったし大切な本も失ってしまったが、愛する人だけはこの手に残ってるからいいじゃない、みたいな。

(鳴滝こより及びこよりルート) … ローラーブレードとゴーグルを常備しているメンバー最年少のツインテール少女。「〜であります」「〜っす」など、丁寧語というよりは後輩語って感じの口調。年上を「センパイ」と呼んで敬意を表する反面、同級の男子は無造作に呼び捨てしており、弄られ役に見えて案外と図太いのかもしれない。小動物的というか「かわいい」とチヤホヤされそうなタイプでいて、実は相当なエロ・ポテンシャルを保有している。性行為に前向き姿勢で臨み、また己の力である「運動の再現」(他人の動きをひと目見ただけで完璧にトレースすることができる)を利用してAV嬢のテクニックをサクッと吸収しちゃうんだから恐ろしい。「力」がストレートにエロへ貢献している稀有な例だ。呪いは「通過していないポイントの扉を開いてはならない」で、極端なケースだと自販機の取り出し口にある透明なプラスチック蓋を開けることさえ不可能。注意していれば防げる地味な呪いではあるが、新しい場所に出て行くことが困難となる厭らしい呪いであり、これがある限りは引っ越しして一人暮らしなんて到底できません。それと、「運動の再現」という力も肉体の限界を超えた動き、たとえばウサイン・ボルトの走行をトレースしようとすれば確実に故障します。器用と言えば器用だが、いまいち凄さが伝わりにくいな。

 こよりルートは、率直に言ってあまり楽しめなかった。こよりの姉が所属する企業が呪いに目をつけて商業利用を目論み、主人公たちと対立して「巨大組織 VS 小規模集団」を描き出す筋立てとなっておりますが、両者を「子供」と「大人」の二項に分類して「だから、分かり合えない」という主張を延々と繰り返すせいで発展性が少なく、盛り上がりそうなところでも盛り上がり切らない。最終的に敵の本拠地へ殴り込みを掛ける展開となり、サスペンスの味付けで多少盛り返すけれど、やっぱり「子供と大人」というテーマに囚われてだんだんグダグダに……このルートで智の呪いが発動しないのは「こよりが過去に智の呪いを踏んでいるから」と仮説が立てられたり(他のルートに関しては依然不明)、三宅がろくでもない屑であると判明したり、全体からすれば進展はあったが、シナリオの出来だけに絞れば「うーん」な感じ。各自が呪いを告白するシーンなんかは印象的に仕上がっていたのになぁ。「ピンク・ポッチーズ」という必殺しない仕事人集団を結成して様々な依頼を解決するあたりも他のルートとだいぶ雰囲気が異なるから戸惑ったけれど、あえて呪いを解こうとせず自分たちの力を肯定的に捉えて生きていくってのも悪くない結論であり、「こうしたルートが用意されていてもいいかな」とは思った。

(白鞘伊代および伊代ルート) … 眼鏡で巨乳でイケてない。設定からすれば不人気キャラ街道を驀進しそうな子でありますが、空気読めずにマイルールを振り翳して空回り自爆するどうしようもなさが却って人気を呼び寄せ、根強い固定ファン層を築いています。当方も最初はまったく関心を寄せていなかったが、るいルート後半あたりから気になり始めて、いつしか「空回りしがちだけど根は優しい子なんだなぁ」とほのぼのしみじみするように。ウザ可愛い、っていうのとは少し違うんですよね。こう、「可愛さの欠如」に安心感を催すと申しますか、プレーヤーの性欲をうまい具合に明後日へ逸らして伊代個人の魅力に目を向けさせる。飾り気のない、ありきたりな彼女の優しさにほろほろと胸を満たされた場面は数知れず。萌えないけど、実に良い眼鏡っ子です。呪いは「固有名詞を口にしてはならない」で、相手の名前や物の名前を発音できず、「あなた」「彼女」「それ」「ここ」と指示語を使って会話するしかない。オーフェン後日談の「あいつがそいつでこいつがそれで」(出版する際に『キエサルヒマの終端』と改題)みたいだな。力は「あらゆる道具を自由自在に使いこなす」で、本人が使い方を理解していなくても直感的に操作できてしまう。人に使える道具ならばすべて手足の延長にする、ある意味で際立った能力ながら、残念なことに見せ場は少なかった。さすがイケてな伊代。イケてないよ。

 さて、伊代ルートをまとめると「不遇」の一言に尽きます。いえシナリオは面白いんです。分岐直後がやや退屈であるにせよ、恵の屋敷に滞在することとなった中盤以降はどんどん呪いの核心に迫っていく。そして遂に智の呪いも発動する。これまでのルートで男バレしてもまったく発動しなかったので、「そもそも智にはもう呪いがないのでは?」と疑っていましたけれど、これで推論は白紙に戻りました。にしても包丁ぐにゃりが意表を衝いていて怖い。手掛かりを解読した結果、呪いを持った者たちは「八つ星」と称され、呪いを解くためには8人全員が揃わなくてはならないことが突き止められ、物語は大きく動き出します。孤高の吸血鬼ハンター少女・尹央輝が最後の8人目と発覚し、呪いをやっつけるまであと一歩ってところに前進する。しかしその後、更に驚愕の展開が待ち受けていて……と、なかなか盛り沢山のストーリーであります。しかし、明かされる真実ばっかりがクローズアップされて伊代に全然カメラが向かず、後半は「本当に彼女がこのルートのヒロインなの?」と疑念を抱くほど目立たなくなります。伊代の呪いも伊代の力も、伊代ルートでは特に活かされていません。つーか、自分のルートで自分の呪いを踏まなかったヒロインって伊代だけじゃね? 迎える結末も後味が苦く、もっともバッドエンドに近いシナリオと言えます。次に控えている茜子ルートの踏み台にされてしまった感がある。なんにせよ必要な情報もほぼ出揃い、クライマックスは目前です。

(茅場茜子および茜子ルート) … 最終ルートにして統括シナリオ、すべての謎を一掃するファイナル局面です。茅場茜子は前髪パッツンの無表情キャラ。見た目は大人しそうですが、ひとたび口を開けばハイセンスなジョークと相手をおちょくる言辞が次々飛び出してくる。「陰険姑息貧乳」や「お人よしブルマ」など、各人に即興で嫌なあだ名を付けるのが得意。暑かろうが寒かろうがまるで頓着せず常に白手袋と裾の長い制服を着用しているのは、「素肌で他人に触れてはならない」という呪いがあるため。シンプルで分かりやすい反面、エロゲーにとっては致命的と呼べる呪いです。触れずにエッチってどんな無理ゲーだ。力は「相手の心を読む」ですが、火田七瀬みたいにハッキリと言語化して聞いているわけではなく、抽象的な映像として心を視認し、言葉の真偽を判断したり感情を読み取ったりする模様。相手の隠している秘密を一切合財見抜けるほど精度は高くないにしても、接する側からすれば充分に脅威である。ちなみに「相手を見る」ことで心を読むため、視界の外にいる人間や遠くにいる人間の心は読めないらしい。能力を任意でオンオフすることは不可能であり、ただ目を逸らしたり目を瞑ったりすることでしか読心を遮断できない。呪いと力の両方が日常生活を阻む枷となる、二重苦のヒロインであります。それゆえに、呪いを破棄した後の解放感は智をも上回るであろうと容易に推測される。

 さすがオーラスのシナリオだけあって読み応えバッチリ、山積していた謎を浚って片付けていく豪快な奔流が心地いい。三宅を殺した犯人が判明し、「円窓」というなんかデカすぎて正体不明というガクソみたいな機関が智たちの呪いを監視している(央輝がその下っ端として雇われている)ことが分かり、更には真耶との対面を経て、呪いに関する疑問点は軒並み解消されていく。見るからに黒幕で「あなたが――蜘蛛だったのですね」な真耶が実は心を砕かれた哀れな供犠に過ぎなかった、と分かったときは愕然としました。ショックも覚めやらぬまま恵の呪いと力が明かされ、「誰を死なせて誰を生かすか」という究極のトレードオフ、命の選択へと突き進んでいきます。正直、るい智はキャラの良さで評価していて、これまでシナリオ面ではあまり感銘を受けなかった(ルートごとに明かされる情報が少なかったせいもある)けれど、ここに来て壮絶な追い上げをしてくるものだから唖然としました。力がなければ恵は死ぬんだろうと感付いてはいましたが、まさか力があんなものだったとは……真耶の働きもあって恵は呪いを解くことに合意し、8人全員で契約――呪いと力――を破棄する最後の見せ場へ赴きます。「呪いの本質」がいったい何なのかだとか、「円窓」はどんなことを企んでいるのかだとか、「八つ星」は何のために契約を結んだのかだとか、根本的な謎はいくつか残りますが『るいは智を呼ぶ』という物語からすれば些細なこと。むしろ下手に突っ込まず華麗に放り投げたことを英断として寿ぎたい。気になることは気になりますが、無理にこじつけられても興醒めですんで。茜子とのエッチはたった一回しかありませんでしたが、恵と交渉を進めるうえで彼女の力が役立ったり、呪いがなくなった後は晴れてベタベタと密着するダダ甘えネコに豹変したりと、しっかりヒロインアピールしていて目尻が下がる。紛うことなく、彼女がるい智の真ヒロインと言えましょう。るいには気の毒ですが。

 

 前半は文章がくどいし馴染むまで結構辛いけれど、慣れれば苦行が一転して法悦に変わるステキなソフト。結局真耶の救われるルートがなかったことは大きな心残りですね。現在ファンディスク作成中とのことで、なんとかそちらの方でうまいこと救済措置を取ってほしいです。一度は投げ出そうとしたけれど、なんだかんだで500日かけてコンプリートしたゲームであり、却って深い愛着を抱いたりしています。るい智スタッフの制作する新作『コミュ』ならびにるい智FDが今から楽しみでなりませぬ。あ、ちなみに好きなキャラは真耶一択な。当方の嗜好からいってまったく回避不能です。


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