「らくえん」
   /TerraLunar


 日記の内容を抜粋。


2005-09-11.

・派手な延期を経て去年の夏に発売された、今は亡きTerraLunarの『らくえん』

 製作チーム「月面基地前」の現時点における最新作であり、第1作『しすたぁエンジェル』と同じスタッフによってつくられたソフトです。発売当初はあまり反響がなかった代わりにネットの口コミでじわじわと人気を拡げていったしすエン──2003年に入ってからどうも評判芳しからぬ状況に陥ってしまったTerraLunarを複雑な思いで見守るファンにとって、その面影は福音と表現しても差し支えなかった模様。当時の記憶を探るに。

 はっきり言って情報を漁る限りそんなに売れたソフトってわけじゃありませんし、「知る人ぞ知る」な雰囲気が明確に漂っております。内容についても「双子の妹たち(ひとりは健気でひとりは生意気)を持った浪人生が受験勉強を放り出して新興エロゲーブランドの原画を務めることに」と、言わば業界ネタであってもうジャンルとして成立しないくらい少数派で実に珍しい路線。しすエンで見せた実力を知らなかったら当方も跨いで通っていたことでしょう。そういう意味で、しすエンをプレー済だったことは個人的に僥倖でした。

 シナリオライターに逃げられ、本社が通達した発売予定日はあと一ヶ月ちょっと、なのにシナリオどころかCGも音楽もプログラムも素材として成立するほど出来上がってはいない絶望のシチュエーションから本編は開始し、ひとまずそこに至るまでの過程が回想形式で綴られていきます。同一メディアにおける内情暴露系の話というのは漫画家を主人公にした漫画、小説家を主人公にした小説、映画制作チームを焦点に据えた映画など、あらゆる媒体で語られた前例がある一方で、エロゲーに関しては思いつきません。あったとしても少なくとも当方はやったことがない。試みの手法そのものはありきたりでも、「ありそでなかった」代物だけに新鮮な感触があって単純にワクワクしました。

 というか、設定云々以前にキャラの遣り取りが活きているからこそ話にのめり込めるんですよね。個性的な面子、と言ってしまえば簡単ですが、記号とかカタログとかあれこれ言われがちな典型的で類型的なキャラたちを引っ張ってきながらも、相互の関係が巧く馴染むようそれぞれの容姿やら性格やらをカスタマイズして折衷する、ごく当たり前とも言える一方でうっかり実行されず終いになることも多い配慮がキチンとこなされていたおかげでスッと滑らかに没入できた次第。ひとりひとりが魅力的でも一堂に会するとなんか不自然というか、いまいちマッチングしていなくてギクシャクしてる──みたいな悲劇は起こっていません。こいつら全員がちゃんと同じ世界にいるんだなぁ、としみじみ納得できる連中です。掛け合いが面白い。差し当たってはそれだけで充分。

 ほぼテキトーな判断で着手しましたけど、どうやらばっちりアタリだった様子です。がっつりやり込むとします。


2005-09-13.

『らくえん』、いくつかのエンドを確認。

 このゲーム、プレーヤーがダメ人間であればあるほど染み渡ってくるものがあると思います。少なくとも当方にはありまくりでした。

 エロゲー制作にまつわるエピソードをプロジェクトXの調子でやったらただのギャグにしかなりませんから、展開は結構気の抜けた感じです。修羅場はあったりするけど主人公を始めとしてほとんどのキャラがのらりくらりな性格ゆえ、「鬱」というほどヘヴィなシーンはない。まあ、それでも血ヘド吐いたりとかしてますが。エロゲーをつくるって行為を美化するのはどう考えても無茶だし、当然の成り行きとして締まらない雰囲気が漂ってしまいます。ですが、変に無理してバカゲーすれすれのアホみたいに熱くて勢いだけでごまかすノリにせず、「必死だな、僕ら」と充分サムさを了解した上で努力を怠らない姿はストレートなサクセスストーリーよりもズシビシ突き刺さってくるものがある。成功も栄光もありえないのに突き進んでしまう業の深さがマッドでマックス。このソフトを「隠れた名作」「埋もれた傑作」扱いしたくなる気持ちに痛いくらい得心。ディープな面白さはヲタクの聖域で囲い込んでしまいたいものです。

 演出の派手派手しさ、テンポの良さは『しすたぁエンジェル』に軍配を上げたいものの、地味〜な威力に関してはこっちも負けていない。「少女たちは現実と戦っていた」のあたりが特に好き。というかあのあたりもっと描いて欲しいところなんだけど。


2005-09-15.

『らくえん』、プレー中。

 光陰矢の如し
 陰茎槍の如し

 くだらない下ネタがストライクフリーダムなドタバタ日常コメディ、えろぅ楽しゅうございます。18禁ゲームはシモいギャグを好き放題かましてくれるところがたまらないなぁ。

 というか、シモいシモくない以前にテキストのセンスが洒脱で宜しゅうございます。「百年の恋がいま形を変えて憎悪に」あたりの言い回しはツボ。パロネタも多いですけど、「殺意の波動に目覚めたサイキョー流当主」という比喩は効果範囲の狭さに笑いました。超我道。

 ただこのゲーム、選択肢が多い割に話の展開ってあんまり変わんないんですよね。どのルートを進んでもちょくちょく共通パートが出てきますし、大まかな流れはだいたい一緒。おかげで攻略は難しくないにしても少し面倒だったりします。辛うじて攻略ページに頼らないで済むかな、程度。当方自身、ヌルゲーマー化がだいぶ深行しているせいもありますけど。

 にしても、そろそろプレミアボックスの第一弾が出ようというタイミングで月面基地前にハマり始めたのはタイミングがいいのか悪いのか。このまま儲となってしまいそうだ。


2005-09-17.

『らくえん』、暫定クリア。

 ダメ人間賛歌ばんざーい。

 まだ「ぼくのたいせつなもの」が残ってますが、来週のプレミアボックスにフルボイスverが入っていますので、そっちをやるまでは棚上げ。とりあえずやり終わったということにします。

 なんと言いますか詰まるところ、地味〜なソフトですね、これ。あんまりどころか全然と言っていいくらいキャッチャーな要素がない。「性格の違う双子妹」とか「大阪(あずまんが)系のんびり巨乳」とかキャラは結構あざとい設定をしていても舞台がなにぶんエロゲー制作会社であり、エロスや下ネタ方面はかなりぶっちゃけてるんで、ひたすら「萌え」のベクトルが掻き消されていきます。生々しいってほど生々しくはないにしても、夢・浪漫に類するものは一刀のもとにバッサリ切り捨てられています。ロケットは夢や浪漫を噴出して飛ぶものではありません。当然エロゲーも友情とか努力なんかで勝利を掴めるジャンルではなく、そのへんの姿勢はきっちりシビア。

 栄光なき道程はアンチプロジェクトXの趣があり、開き直り、破れかぶれ、ヤケクソといった次元を通り過ぎてあくまで冷静に前向きに「どうにもならない」企画を推進させていくノリはもうカッコいいと述べるより他ない。日本橋ヨヲコのマンガに溢れる青臭くて泥臭い情熱にも引けを取らぬクライマックスが待ち受けている可憐ルート、痺れました。「キャラが立っている」ということが、こんなに地味な作品においても強力な武器になりうるのだと実感。いさましいチビの雄々しさに惚れ惚れとするのは自然な経緯でしょう。

 やっぱり、各ルートで起こるイベントは違っていても、ほとんどのストーリーが一緒というのは幅の広がりを感じないし、残念ではあります。状況を鑑みるとそう大きな変化も付けられないってのも分かりますけど。その代わり、キャラ間の遣り取りは凄く活き活きしている。ムーナス社内での止め処なくだらしない会話は自然に面白い。普段健気な妹をやってる杏が主人公が外泊した途端に噴火口開放、嫉妬心マグマだだ漏れの鬼妹と化すなど、ドタバタラブコメの勘所を押さえた日常シーンも最高です。「朝帰りは許さないって言ったよね? マジ言ったよね?」と押し殺した声で確認してくるキレ目姿にときめく胸は果たして恋か心不全か。杏・杏・杏、とっても大好きだけど一旦敵に回すと生意気な方よりも怖ェ。

 のんべんだらりとしたゲル状空気の漂う中で、最初から間違った方向に進んでいてどう足掻いてもどうもがいても本質的にはどうにもならないんだけど、そのまま強引に進んでいって無理矢理「間違い」を間違いじゃないことにしてしまう無茶苦茶なテンポの良さ。「終わらない仕事はないよ、間に合わない仕事はあるけどさ」と悲哀の篭もった皮肉さえも心地良い。遣り取りの面白さでは双子姉妹、ピンでの面白さならみかみが上を行きますが、やっぱりこのゲームを象徴しているのは「ファッキン糞チビ」にして主人公の相棒(バディ)三柴可憐だなぁ。逆に狙っている気がするくらい萌え要素のないキャラデザなのに、存在感は抜群。可憐、みかみ、田中、カントクの学生時代のエピソードはもっと見たかったです。

 ちなみに。タイトルのせいか、うっかり『蒼穹のファフナー』のOPソング(シャングリラだっけ)を思い出してしまいました。空想にまみれまくり。


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