「MF文庫Jの長期シリーズをまとめてみた その2」(2015年11月30日の記事)


 前回の記事から2年近く経って、「最近のMF文庫Jはどうなってるんだろう?」と気になり、改めて調べてみることにした。

 前回の時点で10巻越えを果たしていたシリーズ作品のその後について。まず、未完結だった『あそびにいくヨ!』が遂に完結。全20巻であり、完結済作品としてはMF文庫J史上最長となった。が、本編だけでもう20巻へ達している『ゼロの使い魔』再開する見通しが立ったことからそう遠くないうちにこの記録は破られるであろう。作者の死去により中断したゼロ魔は別の執筆者を迎えることで再始動したが、執筆者の名前は現時点で明らかにされていない。待望の21巻は2016年2月25日刊行予定。元の計画通りに進めば、恐らくその次の22巻で完結でしょう。『かのこん』は相変わらず休止したまま、16巻が出る気配はない。『えむえむっ!』も、ゼロ魔みたいな形で再開する可能性はゼロではない……のですが今のところは未完。

 『緋弾のアリア』は10巻どころか20巻を越えてなおも継続中。現在の最新刊は21巻。スピンオフ漫画のノベライズというややこしい位置づけの『緋弾のアリアAA』、それに同一世界を舞台にした関連作『やがて魔剱のアリスベル』も含めると、アリアワールドの小説は優に30冊を越える勘定となります。既に開始から7年以上、今や立派な古株シリーズと化しつつある。部数的な意味でMF最大のヒット作となった『僕は友達が少ない』は完結。公称ながら「シリーズ累計700万部突破」、ゼロ魔が450万部くらいだということを考えると凄まじい数字である。『緋弾のアリア』が「600万部突破」だそうだから、累計部数はいずれ追い抜かれるかもしれません。でも単巻部数では今後ずっとトップに居座り続けるでしょう。

 『機巧少女は傷つかない』は依然継続中、現在の最新刊は15巻ですが、次あたりで完結? あとDVD/BDの特典小説を600ページ以上書いているので、それも含めると+2冊分くらいありますね。『星刻の竜騎士』はつい先日出た最新刊で完結、全20巻。『あそびにいくヨ!』とタイ記録です。『おれと一乃のゲーム同好会活動日誌』は、ハッキリ「完結」とは謳っていないがたぶん終わり。全11巻。何食わぬ顔でしれっと12巻を出すかもしれない、ってしばらく警戒していたが1年半経っても音沙汰ナシなので完結と判断しました。『つきツキ!』はあれからずっと続き(13巻)が出ず、休止状態に陥ってしまった……機械如く正確に3ヶ月周期で新刊を出していた後藤祐迅の身に何があったのか。

 『精霊使いの剣舞』はアニメの放送期間中(2014年7月〜9月)に新刊が1冊も出ないという大きな機会損失を発生させたうえ、当時の最新刊(13巻)発行から1年が経過しても次の新刊が出ないという事態に陥り、「これってもう休止してしまう流れでは?」と危ぶまれたが、イラストレーター変更(桜はんぺん→仁村有志)の発表とともに再開。まだ刊行ペースは回復していないものの、ひとまずファンは胸を撫で下ろした。『お兄ちゃんだけど愛さえあれば関係ないよねっ』は11巻を最後に続刊が途絶え、休止状態。作者の鈴木大輔は現在『文句の付けようがないラブコメ』という他レーベルのシリーズに注力しており、MF文庫Jではもう1年以上も仕事をしていない。12巻が出る望みは日に日に希薄になっていく。

 まとめますと、

『あそびにいくヨ!』 → 完結済
『ゼロの使い魔』 → 再開(執筆者変更)
『かのこん』 → 休止したまま
『えむえむっ!』 → 未完のまま
『緋弾のアリア』 → 継続中
『僕は友達が少ない』 → 完結済
『機巧少女は傷つかない』 → 継続中
『星刻の竜騎士』 → 完結済
『おれと一乃のゲーム同好会活動日誌』 → 完結済
『つきツキ!』 → 休止状態に
『精霊使いの剣舞』 → 継続中
『お兄ちゃんだけど愛さえあれば関係ないよねっ』 → 休止状態に

 こうなる。作者が故人のゼロ魔とえむえむを例外として考えれば、10シリーズ中4つが完結、3つが継続、3つが休止。すっかり様変わり、というほどではないにしろ、2年も経つとさすがに変化は少なくないですね。

 次に、「長期化しそうなシリーズ十撰」として挙げた作品のその後を見ていく。

(長期化しそうなシリーズ十撰)

・01.『疾走れ、撃て!(1〜8)』(2008年6月〜)
・02.『変態王子と笑わない猫。(1〜7)』(2010年10月〜)
・03.『しゅらばら!(1〜9)』(2011年4月〜)
・04.『魔弾の王と戦姫(1〜8)』(2011年4月〜)
・05.『魔法戦争(1〜7)』(2011年11月〜)
・06.『ノーゲーム・ノーライフ(1〜5)』(2012年4月〜)
・07.『剣神の継承者(1〜7)』(2012年5月〜)
・08.『小悪魔ティーリと救世主!?(1〜5)』(2012年7月〜)
・09.『落ちてきた龍王と滅びゆく魔女の国(1〜5)』(2012年7月〜)
・10.『蒼柩のラピスラズリ(1〜6)』(2012年9月〜)

 ↑はコピペなので巻数に関しては2014年2月当時のままです。

 01.『疾走れ、撃て!』はコツコツと巻数を重ね、無事に10冊突破。最新刊は11巻。場合によっては次の巻まで1年以上掛かるスローペースながら、それでも続いているあたりに強固なファン層の存在を窺わせる。巻数が半分くらいだけど、実はアリアよりも古株。

 02.『変態王子と笑わない猫。』も無事に10巻越え。しかし、相変わらず筆は早くない。現在「クオリディア・コード」なる企画に労力を割いているみたいで、次の新刊(11巻)がいつになるか見通しは不透明。

 03.『しゅらばら!』は10巻で完結と見せかけて11巻で完結しました。一応10巻越え達成。

 04.『魔弾の王と戦姫』はアニメの出来が微妙だった(良いとも悪いとも言い切れない)が、原作は順調で13巻まで進みました。アニメの2期目は……なさそうだな。ちなみにアニメが消化したエピソードは第1部まで、巻数で言うと5巻までです。

 05.『魔法戦争』はハッキリ言ってアニメの出来が悪かったが、原作の方は意に介さず12巻で完結。作者がもともとアニメには興味なかったみたいで淡々としていました。

 06.『ノーゲーム・ノーライフ』はアニメも原作も内容的には好調だったが、作者の体力的な問題と、私生活(そろそろ子供が生まれる)でバタバタしているのが重なってか、刊行は滞り気味。12月に8巻発売予定だが、延びるかもしれない。延びなくても10巻突破は来年以降の話ですね。

 07.『剣神の継承者』は12巻で完結。特に書くことないな……。

 08.『小悪魔ティーリと救世主!?』はあの後すぐに出た6巻であっさり終了。ドラマCDも出ていたくらいなのに……同じ作者&イラストレーターの新作『ようこそ実力至上主義の教室へ』は販促としてアニメPVが作られるなど出版社側がかなり力を入れていて、発売直後に重版が掛かるなど売上も好調。こっちでアニメ化&10巻突破を果たすかも。ただ刊行ペースがそんなに早くないから、この調子で続いても10巻越すのは3年後くらいになりそう。

 09.『落ちてきた龍王(ナーガ)と滅びゆく魔女の国』はまだ8巻。作者が他にシリーズを抱えているせいもあって、ややゆっくり目の伸び具合です。これでアニメ化でも決まれば作業が集中して一気に巻数増えそうな予感がしますけど、キャラの多さがネックになるだろうし難しいか。

 10.『蒼柩のラピスラズリ』は……7巻で完結したのか。ついさっき初めて知りました。

 10シリーズ中、6作は予想的中で2作はハズレ。残り2作に関しては持ち越しという結果に。「5巻以上出てる」というだけで判断したから、こんなもんでしょう。

 

 それと、当時はまだ4冊しか出ていなかったシリーズ。

・01.『学戦都市アスタリスク』
・02.『盟約のリヴァイアサン』
・03.『魔技科の剣士と召喚魔王』
・04.『アブソリュート・デュオ』
・05.『フレースヴェルグ・イクシード』

 アスタリスクはアニメ化(分割2クール)が決まり、刊行ペースもそこそこ保たれて現在9巻。10巻へリーチを掛けています。『盟約のリヴァイアサン』は今月の新刊で7巻目、作者が他に2シリーズ抱えているのでややゆっくりペース。魔技科の剣士は先月10巻に到達しました。アニメ化するとしたらそろそろ発表か? 『アブソリュート・デュオ』はあの後電撃的にアニメ化が決まって放送も既に終了した。OPのスケート風ダンスと「ヤー」くらいしか覚えていない人もいそうだけど。原作最新刊は9巻、もうちょいで10巻です。フレースヴェルグは「そろそろ終わりそう」と思っていたが、実際に5巻で完結しました。

 

 総括しますと、2014年2月時点で10巻越えシリーズは24個ありましたが、あの後7つ増えて現在は31個。更に、今もなお稼働している(完結しておらず、ここ1年以内に新刊を出している、あるいは出す予定のある)シリーズは以下の8つです。

 『ゼロの使い魔』
 『緋弾のアリア』
 『機巧少女は傷つかない』
 『精霊使いの剣舞』
 『疾走れ、撃て!』
 『変態王子と笑わない猫。』
 『魔弾の王と戦姫』
 『魔技科の剣士と召喚魔王』

 前回の時点では9つありましたから、差し引き1個減りましたね。ゼロ魔が復活しなかったら2つ減っていた勘定になる。電撃文庫に次ぐ業界2番手、というイメージの強いMF文庫Jですが、こうして眺めるとそこまですごく盤石の態勢ってわけでもないな……。

 オマケのあれこれ。他レーベルに移籍した『インフィニット・ストラトス』は今年やっと10巻の大台に乗った。評価はすっかりボロボロだけど、続いていることは続いている。開始当時の執筆ペースが続いていたなら今頃10巻どころか20巻を越えていて、そろそろ終わりが見えていたかもしれないが……そんなことを言っても意味ないか。前回の記事書いた頃はまだ刊行が始まったばかりだった『Re:ゼロから始める異世界生活』は本編だけでもう7巻、番外編や短編集も含めると今年中に10冊へ辿り着く予定です。TVアニメ化も決定しており、唖然とするようなスヒードである。スピードと言えば、ボカロ小説の『ミカグラ学園組曲』も凄かったな。小説版の刊行開始から2年足らずでもうアニメが放送されていたという。原作は来月に7巻刊行予定。サイトウケンジの『99番目の吸血姫』は新シリーズみたいな扱いをされているが、あらすじに「再び開幕!」なんて書かれているくらいで、実質的には『101番目の百物語』の続編。セールス的に振るわなかったせいで完結した『101番目の百物語』だが、サイトウケンジが原作を務める『トリニティセブン』のアニメ化で少し風向きが変わったのかしら。ちなみに『101番目の百物語』は本編全8巻ながら同人で『101番目の百物語異聞』という外伝を出しており、これに『99番目の吸血姫』を足すとギリギリどうにか10冊ってことになる。異聞は現在品切れ状態ですが、ダウンロード版も販売中なので紙書籍にこだわらない方はこちらをどうぞ。

 さて、最後に「前回の記事を書いた後で出てきた新シリーズ」について。何か有望そうなシリーズはあるのか? と申しますと……正直そんなに多くない。ほとんどが短命に終わっており、今後伸びそうな奴は片手で数えても足りるほど。既に一度挙げた『ようこそ実力至上主義の教室へ』以外だと、『世界の終わりの世界録』『女騎士さん、ジャスコ行こうよ』『エイルン・ラストコード』、せいぜいこの3つか。『世界の終わりの世界録』は現時点で5巻まで、「もう残っている弾がほとんどない」とされるMFにおいて次期アニメ化候補と見做されている。作者は細音啓、例の散々ネタにされた「まさか、後罪(クライム)の触媒(カタリスト)を<讃来歌(オラトリオ)>無しで?」の人。『女騎士さん、ジャスコ行こうよ』はタイトルで話題になったシリーズ。出オチ感が物凄い。作者の伊藤ヒロはエロゲー界だと「異才のライター」という位置づけだが、ライトノベルでは比較的オーソドックスなものを手掛けている。ライトノベル版『家畜人ヤプー』をネット配信したりもしているが……『エイルン・ラストコード』はまだ3巻が出たばかりで出来立てホヤホヤの新シリーズ。始まったのは今年の1月からである。『このライトノベルがすごい!2016』新作部門1位(総合4位)に選ばれるなど、やたら注目度が高い。私は1巻だけ読んでいて、個人的に好きな作品ではあるのだが、設定がゴチャついているし人類が絶望的な状況に置かれている割と暗いムードの話なんで、そんなに人気は出ないだろう、打ち切られないといいな……くらいの認識だった。喩えるなら「ガンパレード・マーチの世界に別次元からやったきたシャア専用ザクが降り立つ話」って感じです。「伸びるかも」という予想ではなく「伸びてほしいな」という願望を込めて書いてみました。


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