「こなたよりかなたまで」
   /F&C


 日記の内容を抜粋。


2004-04-20.

F&C『こなたよりかなたまで』プレー開始。

 FC01作品。『水月』を出したのもこのライン。今週は割と時間に余裕があるので積みゲーの消化に、と手を伸ばしました。低価格帯(6800円)のソフトだからそれほど分量もないはず。『Quartett!』までの繋ぎになってくれるとありがたい。

 主人公は学園生ですが、末期癌患者でもあります。のっけから重たい設定。「なんで僕だけがこんな目に」と世を恨んだ時期も過ぎ去り、ゲーム開始時点ではある種前向きな諦念を抱いて穏やかな性格をしています。そこへ現れるのが金髪碧眼の少女吸血鬼。ふたりが心通わせていく一方、街では事件が……といったストーリーになる模様です。

 ウィンドウではなく画面一杯に文章を表示するノベル形式で、横書き表示か縦書き表示かを選ぶことができる。『水月』のときに縦書き表示をやってみたら、最初は違和感があったもののすぐに馴染んで「こいつはなかなか」と感心した記憶があるので、今回も縦書きを選択。んー、このゲーム、結構文章量が多い。他のゲームなら二、三行で片付けそうな説明も二倍、三倍の量で書いてくる。ちょっとくどいきらいもありますけど、活中の当方としては委細問題なし。まったりじっくり読み進めます。

 病弱少年とパツキン吸血鬼、という組み合わせはぶっちゃけ『月姫』を連想してしまいますけれど、今のところ2時間程度しかやっておらず伝奇要素がどの程度の濃さなのか分かりませんゆえ、類似性を云々することは無理です。ただ、「病弱」の部分、虚弱体質どころか末期癌なので重さが半端ではない。主人公を始めとしたキャラクターたちがみな明るい人々なので雰囲気は暗くなりませんが、ことあるごとに、寿命に切符切られてしまった状態を意識せざるをえず、どうにも重いことは確か。低温感覚。

 始めてみた手触りとしてはなかなかイイ具合でした。強烈に心を惹かれるモノこそまだ見当たらないんですが、プレーしていて先が気になってくる面白さはあります。余命幾許もない主人公、不老不死の吸血鬼、街で起こる怪事件。掴みは良好。これで各要素がうまく絡み合ってまとまるようなら高く評価したいところ。


2004-04-22.

F&C『こなたよりかなたまで』、プレー中。

 予想通り、あまり話の尺は長くなかった。1周目が4時間くらいだったかな? 2周目は1時間。現在3周目の途中。主人公以外フルボイスでこれですから、スケールとしては長編というより中短編の領域ですね。うーんと、前回も書いたと思いますが、いちいち丹念に文章を綴っていくスタイルなので読んでいて少しくどい。キャラクター間の会話を見ても若干軽快さを欠く遣り取りでテンポは微妙。読み易い部類ではありますけど、このテキストは肌に合う人と合わない人に分かれてもおかしくないかと。

 余命幾許もない主人公が、周りを置いて先に逝ってしまうことを苦悩しているところに、長命ゆえ今まで何度も周りに先立たれた経験のある吸血鬼が現れる──というシチュエーションのセッティングがやや極端で、極端だからこそ面白いんですが、「吸血鬼」という伝奇要素の比重はそれほどでもなく、やはり「余命幾許もない主人公」が物語の焦点になります。んー、変にバトル方面へ色気を出さないのは潔いと思いますけど、どうせならこの企画はもっと大きな枠を用意するべきだったのでは……と感じているところです。前述したようにくどめのテキストなんですから、尺を短くしてしまうとどうにもストーリーが無理矢理小さな枠へ押し込れてしまったような窮屈さを覚える。基本線が気に入っているだけに残念。

 ただ短い分、ダレないことはダレない。今現在、プレーしていて退屈を感じた場面はありません。消極的な見方をすれば小型な作品スケールが効を奏しているようでもあり、ちょっと複雑な心境。それでもこれはもっとロングレンジで放つべき一作なのではないかなぁ。

 キャラについて。わがままで高圧的なパツキン吸血鬼のクリスは王道的で安定した魅力を供給しています。個人的には前半のノリより後半のアレが好みでドッキドキです。一方でクラスメイトの佐倉佳苗のツボ。なんといってもあの地味さ加減が。放っておくとモブに紛れかねない薄存在感。外見的には片三つ編みがグッド。なんとなく『灼眼のシャナ』吉沢さん(「吉田」でした、すみません)を彷彿とさせる子です。だが彼女が吉沢さん(だから「吉田」)とすれば、シャナの役所はクリスではなく九重二十重の方だろうか。野暮ったい暗色制服といい、見ていてうっかり無意識に「フレイムヘイズ」と口走りそうな雰囲気に満ちてます。

 幼馴染みの男友達を交えて三角関係を描いているあたりなど、美味しい要素もあってワクワクしますが、このゲームで唯一残念なのは優。主人公と同じく癌を患う病弱少女ですけれど、「小学生」と銘記されています。つまり完膚なく攻略対象外。双子どころか「わはー」すら攻略可能で多くのプレーヤーを震撼させた『水月』の作り手たるFC01がなぜこんな真似を。信じられん。裏切られた気分です。

 ヒロインとじゃれ合っていても周りの反応があったりなかったりでバラつきがあるものの、結構冷やかしが入るシーンが多いので、バカップル属性のうち特に冷やかし属性が強い当方としては大いに満喫しました。うん、好きか嫌いかで言えば「好き」に票を投じるでしょう、このゲーム。


2004-04-24.

F&C『こなたよりかなたまで』、コンプリート。

 佐倉佳苗、なんといじめ甲斐のある娘か──!

 片三つ編みに茶系統の髪という容姿から密かに『いたいけな彼女』の七瀬ほのかを彷彿としていたのですが、いじめたときの反応が良いところまで似ているとは予想外。さすがにいたかのほど激しく嬲るわけじゃないけれど、捨てられた子犬が傷つきながら必死に家へ帰ろうと走り続けるような痛々しいまでの健気さが鳩尾にズドン。キましたね。

 総合的に見ればやはり扱いが別格なクリスこそ好きなキャラクターの最上位に来ますが、佳苗も佳苗で捨てがたい。「幼馴染みは執念深くあるべし」という鉄の掟に従ってしつこく食いついてくる彼女はもはやハウンド・ドッグの域に達しています。それとなく隔意を示しても「バカだからわからない」と理解を拒否し、他の男がお似合いだと言われても「あなたしかいない」と視野狭窄の極限に挑む。ストーカーギリギリの偏愛闘争心。それでこそ幼馴染みの鑑だ!

 えー、当方は途中攻略に詰まったせいで結局10時間くらい掛かってしまいましたけど、もっと要領よくサクサク進めていれば8、9時間で済んだと思います。ただこのゲームはフラグの立て方次第で些細な部分が変わってくる仕組みになっており、無駄足を踏んだ分、楽しめたことは楽しめた。でもスキップはもうちょっと速いと嬉しかった。

 ストーリーに関しては、遠からぬ死を宣告された主人公が限られた期間の中で最善と思える行動をするべく努力する、「始まった時点で既に袋小路」といった代物です。「桜はもう見られない」を合言葉に、いろいろ頑張ってみる。人生の閉幕を目前にして、他愛のない日々が美しく輝いて見えてくる……その感覚が心地良かった。ただ、当方は「そんなに桜が見たければ沖縄に(ry」と思ってしまうほどの散文詩野郎ゆえ、迸るライターのセンスに置いてけぼりを食らう箇所が多々ありました。それでも過ぎ行く毎日を余さず味わっていこうとする主人公のノリが肌に合い、感性の違和にも折り合いが付けられ最終的には無問題と化した。

 絵、話、ともに気に入り、「崩して良かった」と思う次第です。物事を逐一綴っていくため大いにモッサリ感を発揮する文章もすぐに慣れました。低価格なのに主人公以外フルボイスだったこともナイスな誤算。一部主人公の考えに付いていけなかった箇所もありましたけど、どうしようもない状況に折り合いをつけようとするところなど、自己憐憫に走り過ぎず、かと言ってまったく自己憐憫していないわけでもないスタンスが個人的に好ましかった。モテモテなのに喜ばない──喜べない皮肉が面白いですし。大抵のシナリオは盛り上がり最高潮、正にクライマックス、ってところでカーテンが降りてしまうが、どうせなら最期まで彼の人生と付き合いたかった。湿っぽさを排除しようとしているのが却って不自然に映る。

 何度も書いているのでいい加減くどいようですが、それでもあえて書くと、やはり作品スケールの小ささが最大のネックとなっています。手厚い扱いを受けているクリスはまだしも、佳苗、二十重あたりはもっとたくさん活躍させて魅力を引き出してくれなければプレーしているこちらとしては到底満足できない。好意的に見れば極力無駄を省き、短い中にぎゅっと物語のエッセンスを詰め込んだ濃密な内容に仕上げていると見れないこともないですが、あくまで一プレーヤーのわがままとしては「もっと長くやりたかった」の一言に尽きます。是非とも『こなかべ』を希望したい。いや、おまけシナリオとか後日談とかすごく作りづらいソフトなんですけども。

 タイトルがキッカケで注目した本作ですが、やり終わってみると改めて「やっぱイイな」と思います。意味も響きも字面も略称も全部巧くハマっている。回避しなくて正解だった。でも、シナリオがシンプル過ぎるくせしてテキストがしつこく、人にオススメするのは若干ためらいを覚えます。CGも点数が少ないし、濡れ場に関してもちょっと……個人的には適量と思うけど。んー、とりあえず「伝奇」「アクション」「燃え」には期待しないでおくべき。伝奇っぽい要素はあくまでスパイスとしての役割。「末期癌を患う主人公の死生観と向き合う」ことに興味を覚える人にはオススメ、かな?

 それから聞いた話ですが、いつの間にか品薄になっていたらしく新品は入手困難で、中古も現在は相場がメーカー希望小売価格の6800円を超えているとのこと。低価格であることがあまり意味を成しておらず、余計にススメ辛い。


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